説明

イオンビーム生成方法及びイオンビーム生成装置

【課題】サイクロトロンが用いられるイオンビーム生成装置を小型化する。
【解決手段】図1の右側には、中心軸方向の磁場の強度を、図1の左側に示された構成に対応させて示す。サイクロトロン50からECRイオン源(イオン源)20までの磁場の強度が連続的に一定値以上に保たれている(零とならない)点である。Wienフィルター30やECRイオン源20においては磁場が利用されるため、それぞれにはコイルが用いられているが、これらにおいて用いられる磁場は、これらのコイルによって生成された磁場とサイクロトロンの磁場が重畳した磁場となっている。すなわち、このイオンビーム生成方法においては、ECRイオン源20からサイクロトロン50に至るまでのイオンビームが通過する経路の中心軸方向において、連続的に分布する磁場を形成する。各構成要素における軸方向の磁場強度を微調整するためにもソレノイドコイル41は使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エネルギーのイオンビームを生成するイオンビーム生成方法及びイオンビーム生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の物理学実験用、癌治療等の医療用においては、MeV以上の高エネルギーのイオン(陽子、重イオン等)ビームを生成し、試料に照射する技術が必要である。こうしたイオンビームを生成するイオンビーム生成装置は、主にイオン源、イオン種フィルター、加速器で構成される。
【0003】
イオン源としては、印加された磁場を用いたECR(Electron Cycrotron Resonance)を利用して原料のイオン化効率を向上させたECRイオン源が特に好ましく用いられている。ここでは、両端で特に高強度の磁場(ミラー磁場)が形成され、この間でプラズマが閉じこめられることによってイオン化が進み、1価だけでなく多価のイオンも生成される。ただし、所望のイオン種以外にも同時に多数種のイオンが生成される。
【0004】
このため、イオン種フィルターは、この中から所望のイオン(所望の元素(質量)、価数のイオン)のみを選別して出力する。イオン種フィルターとしては、ある決まったエネルギーをもつイオンビームに対して磁場を印加した際の、イオン種による偏向度合いの違いを利用し、所望のイオン種のみを特定の方向に出力させる双極の分析電磁石が好ましく用いられている。これによって、所望のエネルギーをもつ所望のイオン種のみを次段の加速器に入射させることができる。
【0005】
加速器としては、各種のものがあるが、例えば10MeV程度以上のエネルギーをもつイオンビームの形成には、サイクロトロンが特に好ましく用いられている。
【0006】
上記の構成のイオンビーム生成装置を概念的に示したのが図7である。図7(a)はその平面構造を示し、図7(b)はその中心軸上の断面構造を示す図である。このイオンビーム発生装置110においては、ECRイオン源120、分析電磁石130、ビーム輸送装置140、サイクロトロン150が図7(b)に示されるように接続される。ここで、サイクロトロン150の中心軸上にビーム輸送装置140、分析電磁石(イオン種フィルター)130が接続され、ビーム輸送装置140から角度を90°変えた方向にECRイオン源120が設置される。
【0007】
イオンはECRイオン源120で生成されるが、この際には、単一のイオン種ではなく、多数種(異なる原子種、価数)のイオンが同時に生成される。このイオンは図7(a)(b)中で低エネルギーで右側に進行した後に、分析電磁石130に達する。分析電磁石130は、このイオンの進行方向に垂直な磁場を用いてこのイオンを図7(b)中で下側に偏向させることにより、ビーム輸送装置140を介してイオンをサイクロトロン150に導く。この際、生成された多数種のイオンのうち、所望のイオン種(所望の原子種、価数)のみをサイクロトロン150に導くように設定する。ビーム輸送装置140は、分析電磁石130で選別されて出力された低エネルギーのイオンビームをサイクロトロン150まで導くビームラインであるが、このイオンビームを集束させるために多重極磁場が印加される場合もある。
【0008】
サイクロトロン150においては、コイル151(図7(b)中では断面のみが示されている)によって、中心軸と平行な方向に例えば数T(テスラ)程度の磁場が生成される。入射したイオンはこの磁場の回りにおいて軌道面152上を周回運動をするが、その際に、ディー電極153、154間で、図7(a)中で示されるような加速電界155を受ける。図7(a)中において中心軸よりも上側で左向き、下側で右向きとなる加速電界155を形成するためには、イオンがディー電極153、154間を通過する際にこうした位相となるような高周波がディー電極153、154間に印加される。これにより、特定の入射エネルギーをもった特定のイオンは、ディー電極153、154間を通過する度に加速され、図7(a)に示される螺旋形状のイオン軌道156で出力され、高エネルギーのイオンビームが得られる。なお、図7では単純化のためにその記載を省略しているが、ビーム輸送装置140とサイクロトロン150の接続部においては、イオンビームの進行方向を垂直から水平に偏向するための偏向電極が設置されている。
【0009】
こうしたイオンビーム生成装置を例えば医療用として普及させるためには、装置全体を小型化して医療機関等に設置することが必要となる。上記の構成要素において最も大型となるのは、強い磁場がイオンビームの軌道全面にわたり必要とされるサイクロトロン150である。このため、例えば特許文献1に記載されるように、サイクロトロン150を小型化する努力がなされてきた。また、小型化する方法の一つとして、コイル151を超伝導コイルとした構成(超伝導サイクロトロン)とすることもなされている。この場合、最大磁場強度を3T以上にもすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−106300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
こうした技術を用いることによって、サイクロトロン150自身の小型化は可能である。しかしながら、サイクロトロン150の内部においては、前記の通りの軸方向における強い磁場が必要となる。この磁場はサイクロトロン150の内部に形成されるだけでなく、その外部に漏れる。こうした状況は、磁場強度が高い超伝導サイクロトロンでは特に著しい。
【0012】
一方で、分析電磁石130やECRイオン源120においても、磁場が使用される。前者においてはイオン種の選別のため、後者においては原料ガスをプラズマ化してイオンを生成するために磁場が用いられる。上記の漏れ磁場が分析電磁石130やECRイオン源120にまで達した場合、これらの動作に悪影響を与えることは明らかである。
【0013】
こうした影響を低減するために、従来のイオンビーム生成装置110においては、図7におけるビーム輸送装置140を充分長くして、漏れ磁場が分析電磁石130やECRイオン源120に与える影響が無視できる程度とした構成とされた。しかしながら、この構成においては、たとえサイクロトロン150を小型化した場合であっても、特にその中心軸方向においてイオンビーム生成装置110全体が大型化することは明らかである。
【0014】
すなわち、サイクロトロンが用いられるイオンビーム生成装置を小型化することは困難であった。
【0015】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明のイオンビーム生成方法は、イオン源で生成されたイオンビームをサイクロトロンの中心軸上に入射させ、当該サイクロトロンで前記イオンビームを加速して出力するイオンビーム生成方法であって、前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの前記イオンビームが通過する経路の中心軸方向において、連続的に分布する磁場を形成することを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成方法は、前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの間における前記磁場の最低強度を0.01T以上とすることを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成方法は、前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの間の前記イオンビームの経路を直線形状とすることを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成方法は、前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの間の前記イオンビームの経路にソレノイドコイルを設置することを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成方法は、前記イオン源と前記サイクロトロンの間にイオン種フィルターを設置することを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成方法において、前記イオン種フィルターはWienフィルターであることを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成方法において、前記イオン源はECRイオン源であることを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成装置は、イオンビームを生成するイオン源と、その中心軸上に前記イオンビームを入射させてから加速して出力するサイクロトロンと、を具備するイオンビーム生成装置であって、前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの前記イオンビームが通過する経路の中心軸方向において、連続的に分布する磁場が形成されたことを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成装置は、前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの間における前記磁場の最低強度が0.01T以上であることを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成装置は、前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの間の前記イオンビームの経路が直線形状であることを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成装置は、前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの低エネルギーイオンビームが通過する経路を巻回するソレノイドコイルを具備することを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成装置は、前記イオン源と前記サイクロトロンの間にイオン種フィルターを具備することを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成装置において、前記イオン種フィルターはWienフィルターであることを特徴とする。
本発明のイオンビーム生成装置において、前記イオン源はECRイオン源であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以上のように構成されているので、サイクロトロンが用いられるイオンビーム生成装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態となるイオンビーム生成装置の構成の概略を示す中心軸上の断面図(左側)、中心軸上の磁場強度の分布(右側)である。
【図2】ECRイオン源における中心軸上の磁場強度分布の一例である。
【図3】Wienフィルターの動作原理を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態となるイオンビーム生成装置の第1の変形例の構成の概略を示す中心軸上の断面図である。
【図5】本発明の実施の形態となるイオンビーム生成装置の第2、第3の変形例の構成の概略を示す中心軸上の断面図である。
【図6】本発明の実施の形態となるイオンビーム生成装置の第4の変形例の構成の概略を示す中心軸上の断面図である。
【図7】従来のイオンビーム生成装置の構成の概略を示す平面図(a)、その中心軸上の断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るイオンビーム生成方法を実現するイオンビーム生成装置の構成について説明する。図1の左側に、このイオンビーム生成装置10の中心軸上の断面構造を示す。なお、このイオンビーム生成装置10におけるサイクロトロンの平面図における構成は図7(a)と同様であるため、その記載は省略する。また、サイクロトロン50中におけるディー電極やイオンビームの軌道等は図7に記載の場合と同様であるため、その記載も省略する。
【0020】
図1の右側には、中心軸方向の磁場の強度を、図1の左側に示された構成に対応させて示す。その特徴は、サイクロトロン50からECRイオン源(イオン源)20までの磁場の強度が連続的に一定値以上に保たれている(零とならない)点である。Wienフィルター(イオン種フィルター)30やECRイオン源20においては磁場が利用されるため、それぞれにはコイルが用いられているが、これらにおいて用いられる磁場は、これらのコイルによって生成された磁場とサイクロトロンの磁場が重畳した磁場となっている。すなわち、このイオンビーム生成方法においては、ECRイオン源20からサイクロトロン50に至るまでのイオンビームが通過する経路の中心軸方向において、連続的に分布する磁場を形成する。この構成においては、ECRイオン源20からサイクロトロン50までの間で各種のコイルが同時に使用されているが、サイクロトロン50において用いられるコイル(超伝導コイル)51によって生成される磁場の強度が最も高い。
【0021】
ECRイオン源20の構成は、従来より知られるものと同様である。その原理は、図1中の黒矢印で示されるように入射した原料ガスに高周波(マイクロ波)を印加してプラズマ化する際に磁場を印加し、この磁場によるECR周波数とマイクロ波の周波数を一致させることにより、特に高いイオン化効率を得るというものである。ここで、高いイオン化効率を得るためには、プラズマを一定領域に閉じこめることが有効である。このためには、この領域の両端で特に高強度の磁場(ミラー磁場)を形成することにより、外側に広がるプラズマを反射させることが有効である。周知のように、ECRイオン源20によって原料ガスをイオン化することが可能であり、特に1価の正イオンだけでなく、多価の正イオンも生成することができる。その後、生成されたイオンは引出電極21で一定のエネルギー(低エネルギー)に加速されて出力される。
【0022】
このため、サイクロトロン50やWienフィルター30が存在せずにECRイオン源だけが独立して存在する場合には、ECイオン源20における軸方向の磁場強度分布は、図2に示すように、2つのピークをもつ構成とされる。この2つのピークの間にプラズマは閉じこめられ、この領域での磁場強度が、使用するマイクロ波の周波数(例えば18GHz)と等しいECR周波数に対応する磁場強度(0.64T)となるように設定されている。サイクロトロン50やWienフィルター30が存在せずにECRイオン源20だけが独立して存在する場合には、ECRイオン源20を軸方向に巻回するミラーコイル22のみによってこの磁場は形成される。例えば癌治療用に有効である126+を生成するために必要となる磁場強度は0.5〜2T程度である。なお、図1の構成における6極コイル23は径方向のプラズマの閉じ込めを強めるためのものである。
【0023】
上記のイオンビーム生成装置10においては、この磁場は、ミラーコイル22のみによって生成された磁場(図2)に、サイクロトロン50からの漏れ磁場等も加わったものとして、図1の右側に示されたような分布をもって生成される。この分布は、サイクロトロン50からの漏れ磁場等が存在する状況下でソレノイドコイル41の位置や電流を制御することによって実現することが可能である。この際、サイクロトロン50からの漏れ磁場を用いることによって、特にWienフィルター30側のミラーコイル22を小型化することが可能である。また、サイクロトロン50からの漏れ磁場の強度が高すぎるために図1の右側に示されるような2つのピーク(あるいは極小部)をもった磁場の強度分布が得られない場合には、例えばWienフィルター30側のミラーコイル22に逆方向の電流を流し、この箇所における磁場強度を低下させることも可能である。
【0024】
ここでイオン化されるのは所望の元素だけではなく、ガス中に含まれる他の元素も同時に区別なくイオン化される。これらのイオンは、引出電極21によって一定のエネルギーを得てから低エネルギーのビームとなって出力される。このビームの中から所望のイオン種のみを取り出すためにWienフィルター30が用いられる。
【0025】
Wienフィルター30が単体で存在する際におけるその簡略化した構成図が図3である。Wienフィルター30においては、低エネルギーイオンビーム61に対して垂直方向の電界31を印加するためのWienフィルター電極32、33が用いられる。また、低エネルギーイオンビーム61の進行方向と垂直、かつ電界31と垂直方向となる磁場34も印加される。磁場34は、図1の構成においてはWienフィルターコイル35によって生成される。この構成においては、イオンが電界31によって受ける力と磁場34によって受ける力(ローレンツ力)は逆向きとなる。この際、所望のエネルギー、質量、電荷をもったイオンに対しては、電界31によって受ける力と磁場34によって受ける力とが釣り合うように電界31の強度と磁場34の強度を設定する。これにより、所望のエネルギー、質量、電荷をもったイオンのみが直進し、他のイオンは偏向して進むことになる。そこで、Wienフィルター30の出力側にバッフル板36を設け、このバッフル板36の中心に小さな開口37を設けることにより、この開口37から所望のエネルギー、質量、電荷をもったイオンのみを取り出すことができる。
【0026】
単体で存在するWienフィルター30においては、低エネルギーイオンビーム61の進行方向及び電界31と垂直な方向に磁場34を印加するが、ここでも、サイクロトロン50からの漏れ磁場等が重畳した磁場を用いることが可能である。サイクロトロン50からの漏れ磁場は低エネルギーイオンビーム61の進行方向と等しくなる。この場合には、図1におけるWienフィルターコイル35の電流を制御し、かつWienフィルター電極32、33の電圧を制御することにより、所望のエネルギー、質量、電荷をもったイオンのみを直進させることが可能である。この場合には、Wienフィルター30が単体で存在する場合と同様に、開口37が設けられたバッフル板36を用いて所望のエネルギー、質量、電荷をもったイオンで構成される単色イオンビーム(低エネルギーイオンビーム)62のみを図1に示されるように取り出すことができる。
【0027】
この際、サイクロトロン50からの漏れ磁場は、軸上でサイクロトロン50から離れるに従って減衰するため、Wienフィルター電極32、33に挟まれた領域間において、軸方向で一定値とはならない。このため、ソレノイドコイル41の設置個所、電流を調整することにより、Wienフィルター30が単独で存在した場合と同様に、磁界34の強度を、均一化することが可能である。
【0028】
前記の126+を選択的に取り出す場合、Wienフィルター30の軸方向の長さを0.5mとし、電界31の強度を18kV/cm、磁場34の強度を1Tとした場合に、126+との間で分離が最も困難である125+の軌道は、Wienフィルター電極32、33の出口から1mの点において、直進する126+の軌道から2.4cmだけ離れる。従って、開口部37の内径(半径)をこれよりも小さくしたバッフル板36をこの点に設置することにより、126+からなる単色イオンビーム(低エネルギーイオンビーム)62を、図1に示されるように得ることができる。
【0029】
ビーム輸送装置40は、単色イオンビーム62をサイクロトロン50まで輸送するビームラインである。図1の右側に示されるように、ここでも軸方向において一定値以上の磁場強度が保たれている。単色イオンビーム62は、この磁場中をサイクロトロン50に向かって進むが、この際に、この軸方向の磁場に対して周回運動をするため、磁場に巻き付いた形態となって進む(図1においては便宜上直進しているように記載している)。この磁場としては、サイクロトロン50の漏れ磁場をその一部として用いることも可能であるが、図1の構成のようにソレノイドコイル41を周囲に設置して磁場の強度分布の形状を最適な形状に成形し、磁場への巻き付き方を制御する方式が有用である。このように、軸方向の磁場は、単色イオンビーム62をサイクロトロン50に高効率で導くためにも用いられている。
【0030】
なお、上記の構成においては、各構成要素における軸方向の磁場強度を微調整するためにもソレノイドコイル41は使用される。この調整が可能となるように、ソレノイドコイル41の設置箇所及び電流は適宜調整される。
【0031】
サイクロトロン50の構成は、従来より知られるものと同様であり、その内部にディー電極が設置され、軸方向に強い磁場を印加するためのコイル(超伝導コイル)51がその周囲に設置されている。コイル51が生成する軸方向の磁場の強度はサイクロトロン50の内部で3T程度であり、この磁場はサイクロトロン50内部だけでなく、その外部にも漏れ出す。従来のイオンビーム生成装置においては、イオン源やフィルターに対してこの漏れ磁場の影響が無視できるような大型の構成とされたのに対し、上記の構成においては、この漏れ磁場を積極的に利用している。
【0032】
このため、サイクロトロン50とWienフィルター(イオン種フィルター)30、ECRイオン源(イオン源)20の間隔を近づけることが可能であり、ビーム輸送装置40の軸方向の長さを短くすることが可能である。従って、このイオンビーム生成装置10全体を小型化することが可能である。特に、図7に示されるように、従来は偏向電磁石を用いてその経路を曲げる必要があったことから、イオン源からサイクロトロンまでの距離が長かったのに対し、イオン源からサイクロトロンまでの経路を短く直線的な構成とすることができる。
【0033】
このように、上記の構成においては、ECRイオン源20からサイクロトロン50間での間でイオンビームの光軸方向の磁場が、連続的に形成されている。この磁場の軸方向の最低強度は、例えば0.01T以上である。
【0034】
また、上記の構成においては、ビーム輸送装置40が用いられていたが、Wienフィルター30内の磁場を均一にし、かつECRイオン源20において図1と同様の磁場を形成できる限りにおいて、図4に示されるように、ビーム輸送装置40を省略した構成とすることもできる。この場合においても、Wienフィルター30においてソレノイドコイル41を設けることにより、Wienフィルター30、ECRイオン源20における磁場の分布を調整することが可能である。
【0035】
更に、ECRイオン源20において特定のイオン種が充分に選択的に生成される場合には、図5(a)に示されるように、Wienフィルター30とビーム輸送装置40を除いた構成も可能である。この場合には、ソレノイドコイル41を使用せずに、ECRイオン源20近傍における磁場強度を図1と同様にすることが可能である。また、図5(b)に示されるように、Wienフィルター30を使用せず、ECRイオン源20とビーム輸送装置40のみを用いることも可能である。この場合においては、ビーム輸送装置40においてソレノイドコイル41を用いて、ECRイオン源20近傍における磁場強度を図1と同様にすることが可能である。
【0036】
また、上記の例では、特に多価のイオンを高効率で生成するために、強い磁場を用いるECRイオン源20をイオン源として用いていた。しかしながら、1価などの低い価数のイオンからなるイオンビームを生成する場合には、軸方向における弱い磁場(0.01〜0.1T程度)を用いる他のイオン源(デュオプラズマトロン型イオン源、PIG型イオン源)を用いることも可能である。この場合においても、上記と同様の構成を用いることが可能である。図6は、PIG型イオン源60を用いた場合における構成(左側)とその軸方向における磁場強度の分布(右側)を示す。ここで、サイクロトロン50及びその接続については図1の場合と同様であるため、その記載は省略している。
【0037】
この場合には、ECRイオン源20の場合よりも磁場の強度を低くした状態で、サイクロトロン50から連続して形成された軸方向の磁場をPIG型イオン源60中において用いることが可能である。また、ソレノイドコイル41の構成や電流を調整することにより、こうした磁場の分布を形成することができる。
【0038】
この場合においても、図4、5と同様にビーム輸送装置40やWienフィルター30を用いない構成をとることができることは明らかである。ただし、イオン源とサイクロトロン50の間の間隔が短いほどサイクロトロン50からの漏れ磁場は強くなるため、より高い磁場を必要とするECRイオン源を用いる構成が、小型化という観点からは有効である。
【0039】
なお、上記の例においては、イオン種フィルターとしてWienフィルターが用いられていたが、所望のイオン種の軌道を偏向させない構成とする他のイオン種フィルターを用いた場合であっても同様であることは明らかである。また、イオン種についても、イオン源で生成することが可能でありかつサイクロトロンで加速することのできるものであれば、任意である。
【符号の説明】
【0040】
10、110 イオンビーム生成装置
20、120 ECRイオン源(イオン源)
21 引出電極
22 ミラーコイル
23 6極コイル
30 Wienフィルター(イオン種フィルター)
31 電界
32、33 Wienフィルター電極
34 磁場
35 Wienフィルターコイル
36 バッフル板
37 開口
40、140 ビーム輸送装置
41 ソレノイドコイル
50、150 サイクロトロン
51、151 コイル(超伝導コイル)
60 PIG型イオン源(イオン源)
61 低エネルギーイオンビーム
62 単色イオンビーム(低エネルギーイオンビーム)
130 分析電磁石(イオン種フィルター)
152 軌道面
153、154 ディー電極
155 加速電界
156 イオン軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源で生成されたイオンビームをサイクロトロンの中心軸上に入射させ、当該サイクロトロンで前記イオンビームを加速して出力するイオンビーム生成方法であって、
前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの前記イオンビームが通過する経路の中心軸方向において、連続的に分布する磁場を形成することを特徴とするイオンビーム生成方法。
【請求項2】
前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの間における前記磁場の最低強度を0.01T以上とすることを特徴とする請求項1に記載のイオンビーム生成方法。
【請求項3】
前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの間の前記イオンビームの経路を直線形状とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオンビーム生成方法。
【請求項4】
前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの間の前記イオンビームの経路にソレノイドコイルを設置することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のイオンビーム生成方法。
【請求項5】
前記イオン源と前記サイクロトロンの間にイオン種フィルターを設置することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のイオンビーム生成方法。
【請求項6】
前記イオン種フィルターはWienフィルターであることを特徴とする請求項5に記載のイオンビーム生成方法。
【請求項7】
前記イオン源はECRイオン源であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のイオンビーム生成方法。
【請求項8】
イオンビームを生成するイオン源と、その中心軸上に前記イオンビームを入射させてから加速して出力するサイクロトロンと、を具備するイオンビーム生成装置であって、
前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの前記イオンビームが通過する経路の中心軸方向において、連続的に分布する磁場が形成されたことを特徴とするイオンビーム生成装置。
【請求項9】
前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの間における前記磁場の最低強度が0.01T以上であることを特徴とする請求項8に記載のイオンビーム生成装置。
【請求項10】
前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの間の前記イオンビームの経路が直線形状であることを特徴とする請求項8又は9に記載のイオンビーム生成装置。
【請求項11】
前記イオン源から前記サイクロトロンに至るまでの低エネルギーイオンビームが通過する経路を巻回するソレノイドコイルを具備することを特徴とする請求項8から請求項10までのいずれか1項に記載のイオンビーム生成装置。
【請求項12】
前記イオン源と前記サイクロトロンの間にイオン種フィルターを具備することを特徴とする請求項8から請求項11までのいずれか1項に記載のイオンビーム生成装置。
【請求項13】
前記イオン種フィルターはWienフィルターであることを特徴とする請求項12に記載のイオンビーム生成装置。
【請求項14】
前記イオン源はECRイオン源であることを特徴とする請求項8から請求項13までのいずれか1項に記載のイオンビーム生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−142139(P2012−142139A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292951(P2010−292951)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】