説明

イオンプレーティングによる生地の染色方法及び染色装置

【課題】 水を全く用いないか又は用いたとして著しく少ない水を用いて、生地を染色する方法及び装置の提供。
【解決手段】 イオンプレーティング法を用いて染料を生地の表面に付着させる工程を有する生地の染色方法であって、イオンプレーティング法により発生するイオンのエネルギーを制御し、染料を蒸発させる染料蒸発領域から生じる染料分子が劣化しない程度のエネルギーをイオンが染料分子に与える工程を有する方法により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンプレーティングを用いた真空蒸着による生地の染色方法及び染色装置、並びに該方法及び/又は該装置により得られる染色生地に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維シートを染色する方法として、従来、のり、助剤などを用いて、大量の水を使用する方法が用いられている。
しかしながら、廃水処理のコストが削減でき且つ環境にも優しい、水を大量に用いずに染色できる手法が望まれている。
【0003】
一方、特許文献1は、不織布に金属をスパッタリングして遮熱層を有する遮熱シートを開示している。特許文献1記載の方法は、水の大量に用いない方法ではあるが、シートを「染色」するものではない。
【特許文献1】特開2001−115252
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、水を全く用いないか又は用いたとして著しく少ない水を用いて、種々の生地に染色する方法及び装置を提供することにある。
また、本発明の目的は、上述の方法及び/又は装置により得られる、のり及び/又は助剤がないか又はそれらの量が低減された染色生地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、イオンプレーティングを用いた真空蒸着による染色法を見出した。具体的には、本発明者らは、次の発明を見出した。
【0006】
<1> イオンプレーティング法を用いて染料を生地の表面に付着させる工程を有する生地の染色方法であって、イオンプレーティング法により発生するイオンのエネルギーを制御し、染料を蒸発させる染料蒸発領域から生じる染料分子が劣化しない程度のエネルギーをイオンが染料分子に与える工程を有する、上記方法。なお、染料分子の「劣化」には、該分子の破壊、変性、イオンプレーティング法に用いるプラズマによりスパッタリングされた装置内の金属による染料へのコンタミネーション、該金属による染料の分子のキレート化など、染料による染色特性を変化させる特性変化が含まれる。
<2> 上記<1>において、イオンプレーティング法によりイオンを発生させるイオン発生源を、該イオン発生源、前記染料蒸発領域、生地の順となるように配置するのがよい。
【0007】
<3> 上記<1>又は<2>において、生地に対して染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に電極を配置し、該電極に直流バイアスを印加し、生地が帯電するのを防止し、且つ染料分子に静電エネルギーを与えて生地への加速度を増加させる工程をさらに有するのがよい。
<4> 上記<1>〜<3>のいずれかにおいて、生地を加熱し、付着した染料分子を生地の繊維内部に浸透定着させる工程をさらに有するのがよい。
<5> 上記<4>において、生地を加熱する加熱手段が、生地に対して染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に配置されるのがよい。
【0008】
<6> 上記<5>において、加熱手段が、輻射熱放射型加熱手段であり、生地を30〜150℃、好ましくは40〜80℃にするのがよい。なお、ここでの温度は、イオンプレーティング法を行っている際の温度、即ち、真空中(例えば後述のイオンプレーティング用容器内の圧力下)での温度である。
<7> 上記<1>〜<6>のいずれかにおいて、染料が真空中で気化可能である染料であるのがよい。
<8> 上記<1>〜<7>のいずれかにおいて、染料が、アントラキノン系染料、ペリノン染料、キノフタロン染料、及びフタロシアニン染料からなる群から選ばれるのがよい。
【0009】
<9> 上記<1>〜<8>のいずれかにおいて、生地が、ポリエステル、ナイロン、カチオン可染、ポリウレタン繊維を交織あるいは交編したものであるのがよい。
<10> 上記<1>〜<9>のいずれかに記載される方法により得られる、表面近傍のみに染料による染色領域を有する染色生地。
【0010】
<11> イオンプレーティング法を用いて染料を生地の表面に付着させるイオンプレーティング装置を有する染色装置であって、イオンプレーティング法によりイオンを発生させるイオン発生源と生地との間に、染料を蒸発させる染料蒸発領域を配置する、上記装置。
<12> 上記<11>において、イオン発生源は、発生するイオンのエネルギーを制御し、染料蒸発領域から生じる染料分子が劣化しない程度のエネルギーをイオンが染料分子に与えるのがよい。なお、「劣化」の語の意味は上述した通りである。
【0011】
<13> 上記<11>又は<12>において、生地に対して染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に電極を配置し、該電極に直流バイアスを印加し、生地が帯電するのを防止し、且つ染料分子に静電エネルギーを与えて生地への加速度を増加させるのがよい。
<14> 上記<11>〜<13>のいずれかにおいて、生地を加熱する加熱手段を、生地に対して染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に配置し、付着した染料分子を生地の繊維内部に浸透定着させるのがよい。
<15> 上記<14>において、加熱手段が、輻射熱放射型加熱手段であり、生地を30〜150℃、好ましくは40〜80℃にするのがよい。なお、ここでの温度は、イオンプレーティング法を行っている際の温度、即ち、真空中(例えば後述のイオンプレーティング用容器内の圧力下)での温度である。
【0012】
<16> 上記<13>〜<15>のいずれかにおいて、加熱手段は、該加熱手段と生地との間に電極が配置されるように、配置されるのがよい。また、このように配置される場合、電極は、網目状など、加熱手段からの輻射熱を効率よく生地に放射する形状であるのがよい。
<17> 上記<11>〜<16>のいずれかにおいて、染料が真空中で気化可能である染料であるのがよい。
<18> 上記<11>〜<17>のいずれかにおいて、染料が、アントラキノン系染料、ペリノン染料、キノフタロン染料、及びフタロシアニン染料からなる群から選ばれるのがよい。
<19> 上記<11>〜<18>のいずれかにおいて、生地が、ポリエステル、ナイロン、カチオン可染、ポリウレタン繊維を交織あるいは交編したものであるのがよい。
【0013】
<20> 表面近傍のみに染料による染色領域を有する染色生地であって、該生地がポリエステル、ナイロン、カチオン可染、ポリウレタン繊維を交織生地又は交編生地である、上記染色生地。
【0014】
<21> 上記<20>において、染料が真空中で気化可能である染料であるのがよい。
<22> 上記<20>又は<21>において、染料が、アントラキノン系染料、ペリノン染料、キノフタロン染料、及びフタロシアニン染料からなる群から選ばれるのがよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、水を全く用いないか又は用いたとして著しく少ない水を用いて、種々の生地に染色する方法及び装置を提供することができる。
また、本発明により、上述の方法及び/又は装置により得られる、のり及び/又は助剤がないか又はそれらの量が低減された染色生地を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本願は、イオンプレーティングを用いた生地の染色方法及び染色装置、並びに該方法又は装置によって得られた染色生地を提供する。
まず、イオンプレーティングを用いた生地の染色方法について説明する。
【0017】
本発明の方法は、イオンプレーティング法を用いて染料を生地の表面に付着させる工程を有する生地の染色方法であって、イオンプレーティング法により発生するイオンのエネルギーを制御し、染料を蒸発させる染料蒸発領域から生じる染料分子が劣化しない程度のエネルギーをイオンが染料分子に与える工程を有することを特徴とする。
なお、染料分子の「劣化」には、該分子の破壊、変性、イオンプレーティング法に用いるプラズマによりスパッタリングされた装置内の金属による染料へのコンタミネーション、該金属による染料の分子のキレート化など、染料による染色特性を変化させる特性変化が含まれる。
染料を生地に付着させる工程前、及び/又は染料分子にエネルギーを与える工程前後に、種々の工程を有してもよい。
【0018】
染料分子にエネルギーを与える工程は、イオンプレーティング法によりイオンを発生させるイオン発生源、染料を蒸発させる染料蒸発領域、及び生地を、上記の順序で、即ち、(1)イオン発生源、(2)染料蒸発領域、(3)生地の順序で、配置するのがよい。このように配置することにより、イオン発生源から発生される高エネルギーのプラズマが染料分子と直接接触しなくなるため、生地を所望の色に染色することができる。なお、通常のイオンプレーティング法で用いられる配置、即ち、染料蒸発領域、イオン発生源、生地の順序で配置した場合、イオン発生源から発生される高エネルギーのプラズマが染料分子と直接接触し、染料が破壊され、ひいては生地を所望の色に染色できないという不都合が生じる。
【0019】
イオンプレーティング法は、用いる染料、生地、イオンプレーティング用容器の容量などにより依存するが、次の条件を用いることができる。なお、イオンプレーティングの条件は、上述のように、染料分子を劣化させない条件である。また、この条件は、染色される生地及びその繊維を劣化させない条件であるのがよい。
イオンプレーティング用容器に、アルゴンガスなどの不活性ガス;窒素ガスを充填し、該ガスによる容器内の圧力を5.0×10−5〜1.5×10−3Torr、好ましくは7.0×10−4〜1.2×10−3Torrとするのがよい。
【0020】
イオンを発生させるために、プラズマ発生装置、例えばプラズマ発生コイルを用いるのがよく、該プラズマを発生させるために高周波、好ましくは13.56MHzの高周波を導入するのがよい。なお、高周波は、自動整合装置(マッチングボックス)を通じてプラズマ発生コイルに印加するのがよい。
該プラズマ発生装置の出力として20W〜100W、好ましくは20W〜50Wで印加するのがよい。
【0021】
また、本発明の方法において、生地に対して染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に電極を配置し、該電極に直流バイアスを印加し、生地が帯電するのを防止し、且つ染料分子に静電エネルギーを与えて生地への加速度を増加させる工程をさらに有するのがよい。
生地に対して染料蒸発領域が配置される位置とは反対側される電極は、用いる染料、生地などに依存し、正極又は負極とすることができる。なお、対極は、イオンプレーティング用容器とするのがよい。直流バイアスは、用いる染料、生地などに依存するが、具体的には5〜200V、好ましくは20〜100Vであるのがよい。
【0022】
本発明の方法において、生地を加熱し、付着した染料分子を生地の繊維内部に浸透定着させる工程をさらに有するのがよい。
ここで、生地を加熱する加熱手段は、生地に対して染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に配置されるのがよい。また、加熱手段は、輻射熱放射型加熱手段であるのがよく、生地を30〜150℃、好ましくは40〜80℃にするのがよい。なお、ここでの温度は、イオンプレーティング法を行っている際の温度、即ち、真空中(例えば上述のイオンプレーティング用容器内の圧力下)での温度である。
付着した染料分子を生地の繊維内部に浸透定着する際に、生地の面全体に均等・均一に浸透定着を行うため、加熱手段により加熱される箇所は、真空蒸発による染料分子が生地に付着する箇所をすべてカバーするのが好ましい。
なお、加熱手段は、いかなる形状であってもよいが、該加熱手段と生地との間に電極が配置されるように、加熱手段を配置する場合、電極は、網目状など、加熱手段からの輻射熱を効率よく生地に放射する形状であるのがよい。
【0023】
本発明に用いられる染料は、イオンプレーティングにおいて、即ち真空中で気化可能であるものがよい。具体的には、昇華性を有するものが好ましい。特に、真空中(例えば上述のイオンプレーティング用容器内の圧力下)、60〜180℃、好ましくは80〜120℃において、昇華性を有する染料であるのが好ましい。
これらの染料として、例えば、KP plast Blue R(紀和化学工業社製)、Pigment Yellow147、Pigment Blue60、Solvent Blue136、Solvent Yellow163、Disperse Red60、Solvent Violet13、Solvent Blue132、ORACET Red BG(1-アミノ-2-フェノキシ-4-ヒドロキシアントラキノン)などのアントラキノン系染料;Solvent Red135などのペリノン染料;Disperse Yellow54などのキノフタロン染料;及びPigment Blue15:3(銅フタロシアニン系染料)などのフタロシアニン系染料;などを挙げることができる。好ましくは、染料は、アントラキノン系染料;ペリノン染料;及びキノフタロン染料からなる群から選ばれる、少なくとも1種であるのがよい。
【0024】
本発明に用いられる生地は、特に限定されないが、ポリエステル、ナイロン、カチオン可染、ポリウレタン繊維(アラミド繊維)を交織あるいは交編した生地であるのがよい。
【0025】
本発明の方法は、上述の構成を有することにより、水をほとんど用いないで、生地を染色することができる。また、染料は、それが付着した面の近傍のみに浸透定着する。したがって、本発明は、生地の厚みにも依るが、染料が付着した面にのみ染色を施し、付着していない裏面には染色が施されない、染色方法を提供することができる。
【0026】
本発明は、上記染料付着工程前後、及び/又は、加熱による染料浸透定着工程前後などに、種々の工程を有してもよい。例えば、染料付着工程前に、生地を加熱して、染料付着又は染料浸透定着に不所望な油分などを洗浄する工程を有してもよい。また、生地をイオンボンバード領域に付する工程を有してもよい。イオンボンバード領域に付する工程において、イオン化した酸素の酸化力並びに衝撃及び高電圧により、生地に付着していた不所望な油脂分などを除去することができる。
【0027】
次いで、イオンプレーティング法を用いた生地の染色装置について説明する。
本発明の染色装置は、上記染色方法を具現化する装置である。
具体的には、本発明の装置は、イオンプレーティング法を用いて染料を生地の表面に付着させるイオンプレーティング装置を有する染色装置であって、イオンプレーティング法によりイオンを発生させるイオン発生源と生地との間に、染料を蒸発させる染料蒸発領域を配置することを特徴とする。
なお、用いる染料、生地は、上述した通りである。
【0028】
本発明の装置において、イオン発生源は、発生するイオンのエネルギーを制御し、染料蒸発領域から生じる染料分子が劣化しない程度のエネルギーをイオンが染料分子に与えるのがよい。なお、「劣化」の語の意味は上述した通りである。
【0029】
本発明の装置は、生地に対して染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に電極を配置し、該電極に直流バイアスを印加し、生地が帯電するのを防止し、且つ染料分子に静電エネルギーを与えて生地への加速度を増加させるのがよい。
電極の正負、及び直流バイアスは、上述した通りである。
【0030】
本発明の装置は、生地を加熱する加熱手段を、生地に対して染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に配置し、付着した染料分子を生地の繊維内部に浸透定着させるのがよい。ここで、加熱手段が、輻射熱放射型加熱手段であり、前記生地を30〜150℃、好ましくは40〜80℃にするのがよい。
加熱手段は、生地に対して染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に配置されるのがよく、電極が存在する場合、該加熱手段と生地との間に電極が配置されるように、配置されるのがよい。なお、この場合の電極は、上述したような形状を有するのがよい。
【0031】
本発明の染色装置の一形態を、図を用いて説明する。図1は、本発明の染色装置1の概略図である。
生地3は、生地送出機5を有する第1室6から、第2室7、第3室8、第4室9及び第5室10を、この順序で経て、第6室11まで送出され、第4室9において、イオンプレーティングを用いた真空蒸着が行われる。
第1室6では、生地3が生地送出機5、及び駆動ロール13a、13b、13cにより、第2室7へと送出される。
第2室7では、生地乾燥ヒータ15a及び15bにより生地3を加熱乾燥する。加熱乾燥の際に、生地に付着する不要な油分などを一部又は全部除去することができる。なお、図1の第2室7においては、ローラ17〜20を用いて生地の送出方向を変更している。
【0032】
第3室8では、第2室7と同様に、生地の乾燥を行う。第3室8の真空度は、第2室7のそれよりも高めているため、生地に含まれる水分をより減少させることができる。なお、生地乾燥ヒータ22a及び22bは、第2室7の生地乾燥ヒータ15a及び15bと同じものを用いることもできる。この形態の第3室8においては、ローラ24〜27を用いて生地の送出方向を変更している。
【0033】
第4室9は、イオンプレーティングを用いた真空蒸着により、染料を生地に付着・定着させる。
第4室9は、上部に、染色を行う生地3が水平に送出されるように、ローラ30及び31が配置される。生地3の上部には、負電極33が配置され、さらにその上部に生地を加熱する加熱ヒータ34が配置される。負電極33は、加熱ヒータ34からの熱が生地に輻射されるように、網目状を有している。
生地3の下部には、生地に付着・固定する染料を載せる染料加熱ボート36及び該ボートを加熱するヒータ38が配置され、さらにその下部にプラズマ発生用RFアンテナ37が配置される。
【0034】
図2は、第4室9を拡大した概略図である。この図2を用いて、第4室9を詳述する。
染料加熱ボート36に載せられた染料(●)は、ヒータ38で加熱され昇華されて、上部に配置される生地3へと向かう。また、プラズマ発生用RFアンテナ37により、イオン化したガス(■)が、第4室9内に充満する。なお、プラズマ発生用RFアンテナ37によりイオン化したガスは、直上に染料加熱ボート36が配置されるため、高エネルギーを有するイオン化ガス又はプラズマは、該ボート36と接触するため、昇華された染料分子と直接接触することがない。このため、プラズマ発生用RFアンテナ37及び染料加熱ボート36を図1及び図2に示すように配置することにより、高エネルギーを有するプラズマなどと接触して染料分子が劣化するのを防止でき、ひいては生地3を所望の色に染色することができる。
【0035】
生地3の上部に配置した負極33は、生地が帯電することを防止し、且つ正に帯電した染料分子に対して、該分子の生地3への加速度を増加させることができる。なお、図示しないが負極33の対極は第4室の容器である。
また、生地3の上部であり且つ負極33の上部に配置した生地加熱用ヒータ34は、生地を加熱することにより、生地に付着した染料分子を生地繊維内へと浸透且つ固定させることができる。
【0036】
第4室9で染色された生地3は、第5室10へと送出される。第5室は、加熱された染色済み生地3を室温で徐冷する。図1の第5室10においては、ローラ40及び41を用いて生地送出方向を変更している。
さらに、染色済み生地3は、第6室11へと送出される。第6室11は、巻き取りロール51を有し、染色済み生地3を巻き取る。また、巻き取りを容易にするため、駆動ロール52及び53並びにローラ54を配置する。
【0037】
さらに、本発明は、イオンプレーティングにより生地の表面に染料を付着・定着させた染色生地を提供する。ここで、染料浸透定着領域が表面近傍のみに有するのがよい。換言すると、本発明は、表面近傍のみに染料による染色領域を有する染色生地を提供する。即ち、上述したように、本発明の方法又は装置により染色を施した場合、生地の厚みにも依存するが、一般的に、生地の片面のみが染色され、その裏面には染色が施されない。したがって、生地の両面のうち、片面を所望のA色で染色する一方、他の面をB色で染色することができる。
なお、ここで、「生地」、「染料」などは、上記した通りである。
【0038】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
生地として井波テキスタイル製のカチオン可染ポリエステル(LOCII)/ポリウレタン(LYCRA176B)交編地、染料としてORACET Red BG(化合物名: 1-アミノ-2-フェノキシ-4-ヒドロキシアントラキノン)を用いて、イオンプレーティングにより染色を行った。
具体的には、上述の図1と同様の装置を用い、以下のイオンプレーティン条件により染色を行った。
即ち、イオンプレーティング染色時真空度:1.1×10−3Torr;
ガス/ガス流量:Ar/100sccm;
プラズマ発生用高周波電源の出力:20W;
染色時間:30分/60分/90分;
直流バイアスの印加電圧:20〜200V;
生地加熱ヒータ設定温度:270℃。
【0040】
さらにその後、ハイドロサイファイト(Na)1g/LとラッコールSMパウダー(明成化学工業社製)1g/Lとの混合液20Lを用いて、80℃で30分間洗浄を行い、排水し、さらに60℃の水で5分間洗浄し、さらに18℃の水で5分間洗浄した。
この結果、井波テキスタイル製のポリエステル/ポリウレタン交編地は、その片面が赤色に染色された染色生地A−1を得た。
また、直流バイアスを印加しない以外、上記と同様の条件で行った場合、染色はなされたが、薄い赤色となった染色生地A−2を得た。
さらに、生地加熱ヒータを用いない以外、上記と同様の条件で行った場合、見た目には、染色生地A−1とほぼ同様の赤色で染色された染色生地A−3を得た。
このことから、本発明の方法又は装置を用いることにより、イオンプレーティング法という染色法自体には水を用いないため、排水を節減した染色方法又は染色装置を提供できることがわかった。また、直流バイアスを印加することにより、染料を効率良く使用して染色できることがわかった。
【0041】
一方、プラズマ発生用RFアンテナの配置を、染料加熱ボートと生地との間にした以外は、上述と同様の条件で染色を行った場合、染色はなされるものの、所望の色、即ち上記の赤色とはならず、それが退色した状態(赤褐色)のものを得た。これは、プラズマ発生用RFアンテナから生じた高エネルギーのプラズマが染料の一部又は全部を劣化させたことによって生じるものと考えられる。
【0042】
(実施例2〜12)
実施例1で用いた染料:ORACET Red BG(化合物名: 1-アミノ-2-フェノキシ-4-ヒドロキシアントラキノン)の代わりに、それぞれKP plast Blue R(紀和化学工業社製)(実施例2)、Pigment Yellow147(実施例3)、Pigment Blue60(実施例4)、Solvent Blue136(実施例5)、Solvent Yellow163(実施例6)、Disperse Red60(実施例7)、Solvent Violet13(実施例8)、Solvent Blue132(実施例9)、Solvent Red135(実施例10)、Disperse Yellow54(実施例11)、Pigment Blue15:3(実施例12)を用いた以外、同様の条件(直流バイアスあり、加熱ヒータによる加熱あり)で染色を行ったところ、生地を所望の色に染色できた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の染色装置1の概略図である。
【図2】本発明の染色装置1のうち第4室9の拡大概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンプレーティング法を用いて染料を生地の表面に付着させる工程を有する生地の染色方法であって、
前記イオンプレーティング法により発生するイオンのエネルギーを制御し、前記染料を蒸発させる染料蒸発領域から生じる染料分子が劣化しない程度のエネルギーを前記イオンが染料分子に与える工程を有する、上記方法。
【請求項2】
前記イオンプレーティング法によりイオンを発生させるイオン発生源を、該イオン発生源、前記染料蒸発領域、生地の順となるように配置する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記生地に対して前記染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に電極を配置し、該電極に直流バイアスを印加し、前記生地が帯電するのを防止し、且つ染料分子に静電エネルギーを与えて前記生地への加速度を増加させる工程をさらに有する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記生地を加熱し、付着した染料分子を生地の繊維内部に浸透定着させる工程をさらに有する請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記生地を加熱する加熱手段が、前記生地に対して前記染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に配置される請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記加熱手段が、輻射熱放射型加熱手段であり、前記生地を30〜150℃にする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記染料が真空中で気化可能である染料である請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記染料が、アントラキノン系染料、ペリノン染料、キノフタロン染料、及びフタロシアニン染料からなる群から選ばれる請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記生地が、ポリエステル、ナイロン、カチオン可染、ポリウレタン繊維を交織あるいは交編したものである請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法により得られる、表面近傍のみに染料による染色領域を有する染色生地。
【請求項11】
イオンプレーティング法を用いて染料を生地の表面に付着させるイオンプレーティング装置を有する染色装置であって、
前記イオンプレーティング法によりイオンを発生させるイオン発生源と前記生地との間に、前記染料を蒸発させる染料蒸発領域を配置する、上記装置。
【請求項12】
前記イオン発生源は、発生するイオンのエネルギーを制御し、前記染料蒸発領域から生じる染料分子が劣化しない程度のエネルギーを前記イオンが前記染料分子に与える請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記生地に対して前記染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に電極を配置し、該電極に直流バイアスを印加し、前記生地が帯電するのを防止し、且つ染料分子に静電エネルギーを与えて前記生地への加速度を増加させる請求項11又は12記載の装置。
【請求項14】
前記生地を加熱する加熱手段を、前記生地に対して前記染料蒸発領域が配置される位置とは反対側に配置し、付着した染料分子を生地の繊維内部に浸透定着させる請求項11〜13のいずれか1項記載の装置。
【請求項15】
前記加熱手段が、輻射熱放射型加熱手段であり、前記生地を30〜150℃にする請求項14記載の装置。
【請求項16】
前記加熱手段は、該加熱手段と前記生地との間に前記電極が配置されるように、配置される請求項13〜15のいずれか1項記載の装置。
【請求項17】
表面近傍のみに染料による染色領域を有する染色生地であって、該生地がポリエステル、ナイロン、カチオン可染、ポリウレタン繊維を交織生地又は交編生地である、上記染色生地。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−308847(P2007−308847A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141562(P2006−141562)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(596054467)朝倉染布株式会社 (7)
【出願人】(506172584)
【Fターム(参考)】