説明

イオンプレーティング装置およびプラズマビーム照射位置調整プログラム

【課題】プラズマビームの照射位置の調整精度を向上させることができると共に、調整作業の作業効率を向上させることができるイオンプレーティング装置およびプラズマビーム照射位置調整プログラムを提供すること。
【解決手段】プラズマガン4と、プラズマビームPの目標照射位置を中心として周方向に略等角度で4つの分割部17a、17b、17c、17dに分割されたハース5と、各分割部に一対一で接続されて電流を測定する4つの電流計19a、19b、19c、19dと、プラズマガン4側の磁界を形成するガン電磁石15と、ハース5側の磁界を形成するハース電磁石29と、ガン電磁石15およびハース電磁石29を制御してプラズマビームPの照射位置を調整する位置調整部8とを備え、各分割部は互いに絶縁されており、位置調整部は、各電流計の測定値に応じてプラズマビームの照射位置を目標照射位置に近づけるように調整する構成を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンプレーティング装置に関し、特に、プラズマビームを利用したイオンプレーティング装置およびプラズマビーム照射位置調整プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマビームを利用したイオンプレーティング装置として、突き上げ方式のイオンプレーティング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このイオンプレーティング装置においては、ハースの中央に形成された貫通孔に膜材としてのタブレットが収容され、このタブレットが下方から突き上げ棒により突き上げられることでチャンバ内に連続的に繰り出されている。
【0003】
また、プラズマビームの照射位置は、作業者の目視により位置調整され、この位置調整は、プラズマガンの周囲を囲うガン電磁石およびハースの周囲を囲うハース電磁石の電流値を可変することおよびハースの周囲を囲うハース電磁石の位置を可変することで行われる。そして、チャンバ内に繰り出されたタブレットは、プラズマビームとの衝突により昇華され、昇華した気体はプラズマビームを通過してイオン化し、基板の表面に付着して成膜する。
【特許文献1】特開2002−30422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したイオンプレーティング装置においては、作業者の目視により照射位置を合わせようとしても、目視ではプラズマビームがうっすらとしか見えないため、位置調整に多くの時間を要すると共に、正確な位置調整が困難であるという問題があった。特に、成膜条件を変更する場合に、プラズマビームの強度を変化させると、電磁コイルで与えられる磁界でプラズマビームの曲がり方が変化し、照射位置がずれてしまい、成膜条件を変更する度に位置調整をし直さなければならず作業効率が低下するという問題があった。また、正確な位置調整が困難なことにより、プラズマビームの照射位置がタブレットの中心から外れると、タブレットの表面が傾斜した状態で消費され、成膜レートや膜厚分布が安定しないという問題があった。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、プラズマビームの照射位置の調整精度を向上させることができると共に、調整作業の作業効率を向上させることができるイオンプレーティング装置およびプラズマビーム照射位置調整プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のイオンプレーティング装置は、陰極として機能し、プラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、プラズマビームの目標照射位置を中心として周方向に略等角度で3以上の分割部に分割されたハースと、前記各分割部に一対一で接続され、前記各分割部に流れる電流を測定する3以上の電流測定部と、前記プラズマビーム発生源側の磁界を形成する陰極側磁界形成部と、前記ハース側の磁界を形成する陽極側磁界形成部と、前記陰極側磁界形成部および前記陽極側磁界形成部を制御してプラズマビームの照射位置を調整する位置調整部とを備え、前記各分割部は互いに絶縁されており、前記位置調整部は、前記各電流測定部により測定された測定値に応じてプラズマビームの照射位置を目標照射位置に近づけるように調整することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、ハースがプラズマビームの目標照射位置を中心として周方向に略等角度で3以上の分割部に分割されているため、プラズマビームが目標照射位置に照射されると各分割部に流れる電流の大きさが略一致する。よって、各電流測定部の測定結果に応じて位置調整部によりプラズマビームの照射位置が目標照射位置に近づくように動的に調整され、調整精度を向上させることができると共に、調整作業の作業効率を向上させることができる。
【0008】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記位置調整部は、前記各電流測定部により測定された測定値の相対値が所定の範囲内に収まるように前記陰極側磁界形成部および前記陽極側磁界形成部を制御することを特徴とする。
【0009】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記所定の範囲が1[A]以内であることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、各分割部に流れる電流の測定値を略同一として、調整精度をさらに向上させることができる。
【0011】
本発明のイオンプレーティング装置のプラズマビーム照射位置調整プログラムは、陰極として機能し、プラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、プラズマビームの目標照射位置を中心として周方向に略等角度で4つの分割部に分割され、前記4つの分割部が互いに絶縁されたハースと、前記各分割部に一対一で接続され、前記各分割部に流れる電流を測定する4つの電流測定部と、前記プラズマビーム発生源側の磁界を形成する陰極側磁界形成部と、前記ハース側の磁界を形成する陽極側磁界形成部とを備えたイオンプレーティング装置のコンピュータに、1の分割部を基準分割部として、前記基準分割部および前記基準分割部の一方側に隣接する分割部のそれぞれに対応する前記電流測定部に測定された測定値の相対値が所定の範囲内か否かを判定し、所定の範囲内ではない場合に前記陽極側磁界形成部を制御してプラズマビームの照射位置の一軸方向を調整する第1のステップと、前記基準分割部および前記基準分割部の他方側に隣接する分割部のそれぞれに対応する前記電流測定部に測定された測定値の相対値が所定の範囲内か否かを判定し、所定の範囲内ではない場合に前記陰極側磁界形成部を制御してプラズマビームの照射位置の一軸方向に直交する他軸方向を調整する第2のステップと、前記各分割部のそれぞれに対応する前記電流測定部に測定された測定値の全ての相対値が所定の範囲内に収まるまで前記第1のステップと前記第2のステップとを繰り返す第3のステップとを実行させることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、上記プラズマビーム照射位置調整プログラムにおいて、前記所定の範囲が1[A]以内であることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、4つの分割部のうち基準分割部と基準分割部の両側に隣接する分割部に流れる電流の測定値が、略同一の測定値になるようにプラズマビームの照射位置が調整されるため、4つの分割部に流れる電流の測定値を略同一にして、プラズマビームの照射位置が目標照射位置に略一致するように高精度に位置調整することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プラズマビームの照射位置の調整精度を向上させることができると共に、調整作業の作業効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置は、陽極としてのハースを4つの分割部に分割し、プラズマビームの照射により各分割部に流れる電流の大きさに応じて、プラズマビームの照射位置を位置調整するものである。
【0016】
図1および図2を参照して、イオンプレーティング装置の全体構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の模式図である。図2は、本発明の実施の形態に係るハースの上面模式図である。
【0017】
図1に示すように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1は、気密性の真空チャンバ3を備えており、真空チャンバ3の一の側壁3aには陰極として機能するプラズマビーム発生源としてのプラズマガン4が設けられ、真空チャンバ3の底壁3bには陽極として機能するハース5が設けられている。また、真空チャンバ3の上壁3cには成膜対象のワークWを搬送する搬送装置6が設けられ、真空チャンバ3のプラズマガン4が設けられた側壁3aに対向する側壁3dには、酸素ガスおよびアルゴンガス等のキャリアガスを導入するガス導入口3eが形成されている。
【0018】
プラズマガン4は、ハース5に対してプラズマビームPを照射するものであり、プラズマビームPを発生させるプラズマガン本体11と、プラズマガン本体11の真空チャンバ3側においてプラズマガン本体11と同軸上に配置された第1の中間電極12および第2の中間電極13とを有して構成されている。プラズマガン本体11は、導体板14を介して直流電源16のマイナス端子に接続されており、導体板14とハース5との間で放電を生じさせることによりプラズマビームPを発生させている。第1の中間電極12および第2の中間電極13には、それぞれ永久磁石が内蔵されており、この永久磁石によりプラズマガンにより発生されたプラズマビームPが収束される。
【0019】
また、プラズマガン4の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むようにガン電磁石15が設けられており、このガン電磁石15によって真空チャンバ3の内部に発生された磁界により、第1の中間電極12および第2の中間電極13まで引き出されたプラズマビームPが真空チャンバ3の内部に誘導されると共に、プラズマビームPの目標照射位置が調整される。
【0020】
図2に示すように、ハース5は、プラズマガン4から出射されたプラズマビームPを下方に吸引するものであり、プラズマビームPの目標照射位置であるハース5の中央を中心として周方向に略等角度で4つの上面視扇状の分割部17a、17b、17c、17dに分割されている。各分割部17a、17b、17c、17dは、導電材料で形成され、それぞれ対応する電流計19a、19b、19c、19dを介して直流電源16のプラス端子に接続されている。また、各分割部17a、17b、17c、17dは、互いに間隔を空けて絶縁されており、独立して電流が流れるようになっている。
【0021】
また、ハース5には、目標照射位置となる中央部分に貫通孔5aが形成されており、この貫通孔5aに円柱状のタブレット21が充填されている。貫通孔5aの周囲には絶縁パイプ23が設けられており、ハース5とタブレット21とが真空チャンバ3の内部において絶縁されている。これにより、ハース5とタブレット21との間で異常放電が抑制される。なお、本実施の形態における真空チャンバ3の内部とは、絶縁パイプ23とタブレット21との対向空間等のように図示しないパッキン等により真空雰囲気が保たれている部分を含むものである。
【0022】
図1に戻り、貫通孔5aの同軸上には、タブレット21を下方から支持するタブレット支持棒25が上下動可能に設けられており、このタブレット支持棒25によりタブレット21が突き上げられてハース5に対してタブレット21が供給される。タブレット支持棒25は、上下方向に延在し、上端においてタブレット21を弾性挟持し、下端において図示しない駆動機構に接続されている。そして、タブレット支持棒25は、タブレット21を弾性挟持した状態で駆動機構によりタブレット21の消費速度に合わせて上方に移動される。
【0023】
ハース5の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むようにハース電磁石29が設けられており、ハース電磁石29にはモータ27が接続されている。モータ27は、ハース電磁石29を図1の前後方向に移動し、真空チャンバ3の内部に発生する磁界の前後位置を調整している。ハース電磁石29は、モータ27の駆動量やコイルに流れる電流量に応じて、ハース5に入射されるプラズマビームPの向きやプラズマビームの目標照射位置を調整する。
【0024】
タブレット21は、成膜用の膜材であり、酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により円柱状に焼結成形されている。タブレット21の上面にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPにより加熱されて昇華し、タブレット21の上方に位置するワークWの表面にZnO膜が成膜される。
【0025】
また、本実施の形態で使用されるタブレット21は、60[mm]以上のロングサイズのタブレット21であり、20[mm]程度のスモールサイズのタブレットを縦一列に重ねた状態と異なり、タブレット間の合わせ目を少なくしている。これにより、タブレット間の合わせ目で生じる異常放電を抑制している。また、タブレットが消費されて細かい破片だけが残った場合には、破片が真空チャンバ3の内部に飛び散って汚染の原因となるが、タブレット間の合わせ目が少ないため、真空チャンバ3の内部の汚染を抑制することも可能となる。
【0026】
搬送装置6は、真空チャンバ3内においてハース5の上方にワークWを支持している。
【0027】
直流電源16は、可変直流電源であり、直流電源16のマイナス端子に接続された電源ラインはプラズマガン4に直接接続され、直流電源16のプラス端子に接続された電源ラインは4股に分岐し、分岐した電源ラインはそれぞれ電流計19a、19b、19c、19dを介して分割部17a、17b、17c、17dに接続される(図1では、電流計および分割部をそれぞれ2つずつのみ図示)。各電流計19a、19b、19c、19dは、プラズマビームがハース5を照射して各分割部17a、17b、17c、17dに流れる電流を測定し、その測定値を位置調整部8に出力している。
【0028】
位置調整部8は、プラズマビーム照射位置調整プログラムが記憶されており、各電流計19a、19b、19c、19dから出力された測定値に応じてガン電磁石15、ハース電磁石29およびモータ27を駆動制御することによりプラズマビームPの照射位置を調整している。具体的には、ガン電磁石15の電流値を制御することにより、プラズマビームPの照射位置の一軸方向を調整し、ハース電磁石29の電流値およびモータ27の駆動量を制御することにより、プラズマビームPの照射位置の一軸方向に直交する他軸方向を位置調整している。
【0029】
なお、位置調整部8は内部に組み込まれたCPU(Central Processing Unit)がROM(Read Only Memory)内のプラズマビーム照射位置調整プログラム等の各種プログラムに従ってRAM(Random Access Memory)内のデータを演算し、イオンプレーティング装置1の各部と協働して位置調整処理を実行するようになっている。また、位置調整部8による位置調整処理の詳細については、後述する。
【0030】
このように構成されたイオンプレーティング装置1において、位置調整部8によりプラズマビームPの照射位置を調整し、直流電源16がハース5とプラズマガン4との間に直流電圧を印加すると、真空チャンバ3の内部にプラズマビームPが発生し、ワークWに成膜処理が行われる。
【0031】
具体的には、直流電源16によりハース5とプラズマガン4との間に直流電圧が印加されると、プラズマガン4の導体板14とハース5との間で放電が生じ、これによりプラズマビームPが発生される。このプラズマビームPは、ガン電磁石15およびハース電磁石29等により形成される磁界に誘導されてハース5に照射される。タブレット支持棒25によりハース5に供給されたタブレット21は、プラズマビームPの照射により上面が加熱されて昇華される。タブレット21の気体は、プラズマビームPを通過中にイオン化して負電圧が印加されたワークWに引き込まれ、ワークWの表面に付着して被膜を形成する。
【0032】
次に、図3を参照して、位置調整部によるプラズマビームの照射位置の位置調整処理について説明する。図3は、位置調整部によるプラズマビームの照射位置の位置調整処理のフローチャートである。なお、図3のフローチャートにおいては、図2の図示右側にガン電磁石が位置し、下側にハース電磁石が位置した状態における位置調整処理を示し、ハース電磁石およびモータによりX軸方向の位置調整が行われ、ガン電磁石によりY軸方向の位置調整が行われる。このとき、真空チャンバ3の内部には、ガン電磁石により図1で左右方向に磁界が形成され、ハース電磁石により図1で上下方向に磁界が形成されている。
【0033】
図3に示すように、イオンプレーティング装置1の電源が立ち上げられ、プラズマビームPがハース5に照射されると、電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分が計算され、この差分の絶対値が1[A]以下か否かが判定される(ステップS01)。電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分の絶対値が1[A]より大きいと判定されると(ステップS01:No)、電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分の絶対値が1[A]以下になるまで、モータ27の駆動制御によりハース電磁石29が図1の前後方向に移動される(ステップS02)。
【0034】
ステップS02において、電流計19aの測定値Aが電流計19bの測定値Bよりも大きい場合には、プラズマビームPの照射位置が分割部17a寄りに位置しているとして、ハース電磁石29が少しずつ図1の手前方向に移動される。そして、ハース電磁石29の手前方向への移動により磁界の軸が、17b寄りに移動するため、プラズマビームPの照射位置が分割部17b側に移動して電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分が1[A]以下に収まる位置でモータ27の駆動が停止される。
【0035】
一方、ステップS02において、電流計19aの測定値Aが電流計19bの測定値Bよりも小さい場合には、プラズマビームPの照射位置が分割部17b寄りに位置しているとして、ハース電磁石29が少しずつ図1の奥方向に移動される。そして、ハース電磁石29の奥方向への移動により磁界の軸が、17a寄りに移動するため、プラズマビームPの照射位置が分割部17a側に移動して電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分が1[A]以下に収まる位置でモータ27の駆動が停止される。
【0036】
次に、電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分の絶対値が1[A]以下と判定されると(ステップS01:Yes)、電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分が計算され、この差分の絶対値が1[A]以下か否かが判定される(ステップS03)。電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分の絶対値が1[A]より大きいと判定されると(ステップS03:No)、電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分の絶対値が1[A]以下になるまで、ガン電磁石15に流れる電流値が調整される(ステップS04)。
【0037】
ステップS04において、電流計19aの測定値Aが電流計19dの測定値Dよりも大きい場合には、プラズマビームPの照射位置が分割部17a寄りに位置しているとして、ガン電磁石15に流れる電流値が少しずつ減少される。そして、ガン電磁石15に流れる電流の減少によりY軸向きの磁界強度が弱まり、プラズマビームPの照射位置が分割部17d側に移動して電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分が1[A]以下に収まる電流値でガン電磁石15の電流値が維持される。
【0038】
一方、ステップS04において、電流計19aの測定値Aが電流計19dの測定値Dよりも小さい場合には、プラズマビームPの照射位置が分割部17d寄りに位置しているとして、ガン電磁石15に流れる電流値が少しずつ増加される。そして、ガン電磁石15に流れる電流の増加によりY軸向きの磁界強度が強まり、プラズマビームPの照射位置が分割部17a側に移動して電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分が1[A]以下に収まる電流値でガン電磁石15の電流値が維持される。
【0039】
次に、電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分の絶対値が1[A]以下と判定されると(ステップS03:Yes)、電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分が再計算され、この差分の絶対値が1[A]以下か否かが判定される(ステップS05)。電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分の絶対値が1[A]より大きいと判定されると(ステップS05:No)、電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分の絶対値が1[A]以下になるまで、ハース電磁石29に流れる電流値が調整される(ステップS06)。
【0040】
ステップS06において、電流計19aの測定値Aが電流計19bの測定値Bよりも大きい場合には、プラズマビームPの照射位置が分割部17a寄りに位置しているとして、ハース電磁石29に流れる電流値が少しずつ増加される。そして、ハース電磁石29に流れる電流の増加によりX軸向きの磁界強度が強まり、プラズマビームPの照射位置が分割部17b側に移動して電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分が1[A]以下に収まる電流値でハース電磁石29の電流値が維持される。
【0041】
一方、ステップS06において、電流計19aの測定値Aが電流計19bの測定値Bよりも小さい場合には、プラズマビームPの照射位置が分割部17b寄りに位置しているとして、ハース電磁石29に流れる電流値が少しずつ減少される。そして、ハース電磁石29に流れる電流の減少によりX軸向きの磁界強度が弱まり、プラズマビームPの照射位置が分割部17a側に移動し、電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分が1[A]以下に収まる電流値でハース電磁石29の電流値が維持される。
【0042】
次に、電流計19aの測定値Aと電流計19bの測定値Bとの差分の絶対値が1[A]以下と判定されると(ステップS05:Yes)、電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分が再計算され、この差分の絶対値が1[A]以下か否かが判定される(ステップS07)。電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分の絶対値が1[A]より大きいと判定されると(ステップS07:No)、電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分の絶対値が1[A]以下になるまで、ガン電磁石15に流れる電流値が調整される(ステップS08)。
【0043】
ステップS08において、電流計19aの測定値Aが電流計19dの測定値Dよりも大きい場合には、プラズマビームPの照射位置が分割部17a寄りに位置しているとして、ガン電磁石15に流れる電流値が少しずつ減少される。そして、ガン電磁石15に流れる電流の減少によりY軸向きの磁界強度が弱まり、プラズマビームPの照射位置が分割部17d側に移動して電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分が1[A]以下に収まる電流値でガン電磁石15の電流値が維持される。
【0044】
一方、ステップS08において、電流計19aの測定値Aが電流計19dの測定値Dよりも小さい場合には、プラズマビームPの照射位置が分割部17d寄りに位置しているとして、ガン電磁石15に流れる電流値が少しずつ増加される。そして、ガン電磁石15に流れる電流の増加によりY軸向きの磁界強度が強まり、プラズマビームPの照射位置が分割部17a側に移動して電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分が1[A]以下に収まる電流値でガン電磁石15の電流値が維持される。
【0045】
次に、電流計19aの測定値Aと電流計19dの測定値Dとの差分の絶対値が1[A]以下と判定されると(ステップS07:Yes)、電流計19a、19b、19c、19dの測定値A、B、C、Dの一対一の全ての組み合わせの差分が計算され、全ての差分の絶対値が1[A]以下か否かが判定される(ステップS09)。電流計19a、19b、19c、19dの測定値A、B、C、Dの一対一の全ての組み合わせの差分の絶対値のうち、少なくとも1つが1[A]より大きいと判定されると(ステップS09:No)、ステップS01からステップS08の処理が繰り返される。
【0046】
次に、電流計19a、19b、19c、19dの測定値A、B、C、Dの一対一の全ての組み合わせの差分の絶対値が1[A]以下と判定されると(ステップS09:Yes)、プラズマビームPの照射位置が目標照射位置に合わせられたとして、プラズマビームPの位置調整後からの計時が開始される(ステップS10)。
【0047】
次に、プラズマビームPの位置調整後からの計時が開始されると、指定時間が経過したか否かが判定される(ステップS11)。指定時間が経過したと判定されると(ステップS11:Yes)、ステップS01からステップS10の処理が繰り返され、再び位置調整が行われる。このように、プラズマビームPの位置調整は所定の時間間隔で繰り返されている。なお、この指定間隔は作業者の任意で設定可能となっている。
【0048】
一方、指定時間が経過していないと判定されると(ステップS11:No)、位置調整処理を終了するか否かが判定される(ステップS12)。位置調整処理を終了しない場合には(ステップS12:No)、指定時間が経過するまでステップS11およびステップS12の処理を繰り返す。なお、本実施の形態においては、ステップS01からステップS09までの処理によりプラズマビームPの照射位置の位置調整を行っているが、ステップS05からステップS08までの処理を飛ばしてステップS09に移行してもよいし、ステップS01からステップS04までの処理を飛ばしてステップS05に移行してもよい。これにより、位置調整処理の制御を容易とすることができる。
【0049】
以上のように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1によれば、ハース5がプラズマビームPの目標照射位置を中心として周方向に略等角度で4つの分割部17a、17b、17c、17dに分割されているため、プラズマビームPが目標照射位置に照射されると各分割部17a、17b、17c、17dに流れる電流の大きさが略一致する。よって、各電流計19a、19b、19c、19dの測定結果に応じて位置調整部8によりプラズマビームPの照射位置が目標照射位置に近づくように動的に調整され、調整精度を向上させることができると共に、調整作業の作業効率を向上させることが可能となる。
【0050】
なお、上記した実施の形態においては、ハース5の分割数が4分割である場合を例に挙げて説明したが、ハース5の分割数は3分割以上であれば本発明を適用可能である。この場合、分割数が増加する程、より高度な位置調整をすることが可能となる。
【0051】
また、上記した実施の形態においては、各分割部17a、17b、17c、17dが互いに間隔を空けることにより絶縁する構成としたが、各分割部17a、17b、17c、17d間に絶縁材を設けて絶縁する構成としてもよい。これにより、各分割部間において異常放電を確実に抑制することができる。
【0052】
また、上記した実施の形態においては、各電流計19a、19b、19c、19dの測定値A、B、C、Dの差分の絶対値が1[A]以下となるように制御する構成としたが、1[A]以下の範囲は作業状況に応じて任意に設定することが可能である。
【0053】
また、上記した実施の形態においては、ハース5を真空チャンバ3の底壁3bに設け、下方からワークWの表面に成膜する構成としたが、図4に示すように、複数のハース35を真空チャンバ33の側壁33dに設け、側方からワークWの表面に成膜する構成としてもよい。この構成により、ワークWを立てた状態でワークWの表面に成膜することができ、ワークWを水平した状態のように自重により撓むことがないため、大面積の大型ワークに成膜することが可能となる。
【0054】
また、上記した実施の形態においては、本発明をロングサイズのタブレット21に適用した例を挙げて説明したが、本発明をショートサイズのタブレット21に適用することも可能である。また、膜材として酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により焼結成形したタブレットを使用したが、ワークWに成膜するものであればこれに限定されるもではない。
【0055】
また、上記した実施の形態においては、ハース5の中央にタブレット21を収容して、ハース5とタブレット21とを近接配置した例を示して説明したが、タブレット21がハース5に近接配置されていれば、ハース5の中央にタブレット21を収容する構成に限定されない。
【0056】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明は、プラズマビームの照射位置の調整精度を向上させることができると共に、調整作業の作業効率を向上させることができるという効果を有し、特にプラズマビームを利用したイオンプレーティング装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置の模式図である。
【図2】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、ハースの上面模式図である。
【図3】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、位置調整部によるプラズマビームの照射位置の位置調整処理のフローチャートである。
【図4】本発明に係るイオンプレーティング装置の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 イオンプレーティング装置
3 真空チャンバ
4 プラズマガン(プラズマビーム発生源)
5 ハース(陽極)
5a 貫通孔
6 搬送装置
8 位置調整部
15 ガン電磁石(陰極側磁界形成部)
16 直流電源
17a、17b、17c、17d 分割部
19a、19b、19c、19d 電流計(電流測定部)
21 タブレット(膜材)
23 絶縁パイプ
25 タブレット支持棒
27 モータ
29 ハース電磁石(陽極側磁界形成部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極として機能し、プラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、プラズマビームの目標照射位置を中心として周方向に略等角度で3以上の分割部に分割されたハースと、前記各分割部に一対一で接続され、前記各分割部に流れる電流を測定する3以上の電流測定部と、前記プラズマビーム発生源側の磁界を形成する陰極側磁界形成部と、前記ハース側の磁界を形成する陽極側磁界形成部と、前記陰極側磁界形成部および前記陽極側磁界形成部を制御してプラズマビームの照射位置を調整する位置調整部とを備え、
前記各分割部は互いに絶縁されており、
前記位置調整部は、前記各電流測定部により測定された測定値に応じてプラズマビームの照射位置を目標照射位置に近づけるように調整することを特徴とするイオンプレーティング装置。
【請求項2】
前記位置調整部は、前記各電流測定部により測定された測定値の相対値が所定の範囲内に収まるように前記陰極側磁界形成部および前記陽極側磁界形成部を制御することを特徴とする請求項1に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項3】
前記所定の範囲が1[A]以内であることを特徴とする請求項2に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項4】
陰極として機能し、プラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、プラズマビームの目標照射位置を中心として周方向に略等角度で4つの分割部に分割され、前記4つの分割部が互いに絶縁されたハースと、前記各分割部に一対一で接続され、前記各分割部に流れる電流を測定する4つの電流測定部と、前記プラズマビーム発生源側の磁界を形成する陰極側磁界形成部と、前記ハース側の磁界を形成する陽極側磁界形成部とを備えたイオンプレーティング装置のコンピュータに、
1の分割部を基準分割部として、前記基準分割部および前記基準分割部の一方側に隣接する分割部のそれぞれに対応する前記電流測定部に測定された測定値の相対値が所定の範囲内か否かを判定し、所定の範囲内ではない場合に前記陽極側磁界形成部を制御してプラズマビームの照射位置の一軸方向を調整する第1のステップと、
前記基準分割部および前記基準分割部の他方側に隣接する分割部のそれぞれに対応する前記電流測定部に測定された測定値の相対値が所定の範囲内か否かを判定し、所定の範囲内ではない場合に前記陰極側磁界形成部を制御してプラズマビームの照射位置の一軸方向に直交する他軸方向を調整する第2のステップと、
前記各分割部のそれぞれに対応する前記電流測定部に測定された測定値の全ての相対値が所定の範囲内に収まるまで前記第1のステップと前記第2のステップとを繰り返す第3のステップとを実行させるためのプラズマビーム照射位置調整プログラム。
【請求項5】
前記所定の範囲が1[A]以内であることを特徴とする請求項4に記載のプラズマビーム照射位置調整プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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