説明

イオンプレーティング装置

【課題】安定した成膜レートを得ることができ、電気的パスを形成するための事前作業をすることなく安定した放電を得ることができるイオンプレーティング装置を提供すること。
【解決手段】真空チャンバ3と、真空チャンバ3の内部にプラズマビームPを発生するプラズマガン4と、真空チャンバ3の内部においてプラズマビームPが照射されるハース5と、成膜用のタブレット21をハース5から真空チャンバ3の内部に露出するように支持するタブレット支持棒25とを備え、タブレット支持棒25は、導電性であり、ハース5は、真空チャンバの内部においてタブレット21と絶縁され、真空チャンバ3の外部においてハース抵抗17を介してタブレット支持棒25と電気的に接続されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンプレーティング装置に関し、特に、突き上げ方式のイオンプレーティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマビームを利用したイオンプレーティング装置として、突き上げ方式のイオンプレーティング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このイオンプレーティング装置においては、ハースに形成された貫通孔に蒸発源としてのタブレットが収容され、このタブレットが下方から絶縁性の突き上げ棒により突き上げられることでチャンバ内に連続的に繰り出されている。そして、チャンバ内に発生したプラズマビームがステアリングコイル等によりハースに向かって誘導され、チャンバ内に繰り出されたタブレットの上面を照射することにより、照射により発生した気体がプラズマビームを通過してイオン化し、基板の表面に付着して成膜している。
【0003】
このとき、プラズマビームの照射によりタブレットを移動する負電荷は、突き上げ棒が絶縁性であるため、導電性を有するハースを介して電源に戻る構成となっている。このような構成においては、チャンバ内におけるタブレットとハースとの間の異常放電を抑制するために、イオンプレーティング装置の稼働前にタブレットとハースとの間の電気的パスを形成する事前作業が実施されている。この事前作業では、タブレットとハースとの隙間にタブレットを粉状にしたものを詰めたり、予めタブレットを消費させてハースの内周面にデポ物を堆積させることにより、タブレットとハースとの間に電気的パスを形成している。
【特許文献1】特開2002−30422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したイオンプレーティング装置においては、事前作業により電気的パスを形成して異常放電を抑制しているが、タブレットの消費レートを一定することができず、成膜レートを安定させることができないという問題があった。すなわち、プラズマビームは、ハースおよびタブレットに照射されるが、タブレットに対する照射量はハースの表面状態やチャンバ内の真空雰囲気等が異なれば変化するため、異常放電を抑制しただけではタブレットの消費レートを一定にして成膜レートを安定させることができなかった。
【0005】
また、トータル電流を調整してプラズマビームの強度を可変することにより、タブレットに流れる電流量を制御することができるが、プラズマビームの強度に左右されるイオン化性能とタブレットに流れる電流量に左右されるタブレットの消費レートとを独立に制御することができないため、成膜レートを安定させることができなかった。
【0006】
また、上記したイオンプレーティング装置においては、稼働前の事前作業により電気的パスを形成しているため、量産時の連続成膜等においては安定した電気的パスを形成することができないという問題があった。このため、量産時の連続成膜等においては、タブレットとハースとの間に安定的な電気的パスが無いため、異常放電が生じ易くなり、成膜された膜の諸特性が悪化する問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、安定した成膜レートを得ることができ、電気的パスを形成するための事前作業をすることなく安定した放電を得ることができるイオンプレーティング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のイオンプレーティング装置は、チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに近接配置された成膜用の蒸発源を前記チャンバ内に露出するように支持する蒸発源支持部とを備え、前記蒸発源支持部は、導電性であり、前記ハースは、前記チャンバ内において前記蒸発源と絶縁され、前記チャンバ外において抵抗を介して前記蒸発源支持部と電気的に接続されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、陽極としてのハースが蒸発源と絶縁されているため、ハースおよび蒸発源に別々に電流が流れ、チャンバ内においてハースと蒸発源とにおける異常放電を抑制することができると共に、蒸発源に流れる電流量を一定とすることができる。また、チャンバ外においてハースが抵抗を介して蒸発源支持部と電気的に接続されているため、抵抗の抵抗値に応じて、プラズマビームの強度と蒸発源に流れる電流量を独立して調整して、イオン化性能と蒸発源の消費レートとを適切に制御することができる。このように、異常放電を防止すると共に、プラズマビームの強度および蒸発源に流れる電流量を制御できるため、蒸発源の消費レートを一定にして安定した成膜レートを得ることができる。
また、チャンバ内においてハースおよび蒸発源に電流を別々に流すことができるため、稼働前の事前作業を実施してチャンバ内においてハースと蒸発源との間に電気的パスを形成することなく異常放電を抑制することができ、量産時の連続成膜等が可能となる。
【0010】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記抵抗は、可変抵抗であり、前記蒸発源に流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部の検出結果に基づいて前記抵抗の抵抗値を制御する抵抗値制御部とを備えたことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、実際に蒸発源に流れる電流に基づいて抵抗の抵抗値が動的に制御されるため、蒸発源に流れる電流量を高精度に制御にすることができる。また、電流検出部により作業者に実際に蒸発源に流れる電流量を把握させることができるため、より安定した成膜レートを得ることができる。
【0012】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記電流検出部は、成膜中に前記蒸発源に流れる電流を検出し、前記抵抗値制御部は、成膜中に前記抵抗の抵抗値を制御することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、成膜中に前記抵抗の抵抗値が制御されて、蒸発源に流れる電流量が高精度に制御されるため、より安定した成膜レートを得ることができる。
【0014】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記蒸発源支持部の前記蒸発源を支持する支持面に柔軟性を有する導電シートを備えたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、柔軟性導電シートを介して蒸発源が蒸発源支持部に支持されるため、蒸発源の表面にザラツキがあっても、柔軟性導電シートを介して蒸発源と蒸発源支持部との接触面積が増加して接触抵抗が減少される。これにより、蒸発源と蒸発源支持部における電位差が小さくなり異常放電を抑制することができる。
【0016】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記蒸発源支持部は、前記蒸発源を弾性挟持する挟持部を有することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、挟持部により蒸発源が弾性挟持されるため、蒸発源支持部と蒸発源との間の接触性が向上して接触抵抗が減少される。これにより、蒸発源と蒸発源支持部における電位差が小さくなり異常放電を抑制することができる。
【0018】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記ハースは、前記チャンバの側面に設けられたことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、チャンバの側面に設けられたハースは、蒸発源を脱落させることなく弾性挟持するため、基板を立てた状態で基板表面に成膜することができる。これにより、基板を水平にした状態のように自重により撓むことがないため、チャンバの側面に複数のハースを設けることにより大面積の大型基板に成膜することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、安定した成膜レートを得ることができ、電気的パスを形成するための事前作業をすることなく安定した放電を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置は、真空チャンバ内において陽極としてのハースと蒸発源としてのタブレットとを絶縁して真空チャンバ内における異常放電を抑制すると共に、チャンバ外においてハースとタブレットとを抵抗を介して電気的に接続してタブレットを流れる電流量を制御することにより、タブレットの消費レートを一定にし、安定した成膜レートを得ることができるようにしたものである。
【0022】
図1を参照して、イオンプレーティング装置の全体構成について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の模式図である。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1は、気密性の真空チャンバ3を備えており、真空チャンバ3の一の側壁3aには陰極として機能するプラズマビーム発生源としてのプラズマガン4が設けられ、真空チャンバ3の底壁3bには陽極として機能するハース5が設けられている。また、真空チャンバ3の上壁3cには成膜対象のワークWを搬送する搬送装置6が設けられ、真空チャンバ3のプラズマガン4が設けられた側壁3aに対向する側壁3dには、酸素ガスおよびアルゴンガス等のキャリアガスを導入するガス導入口3eが形成されている。
【0024】
プラズマガン4は、ハース5に対してプラズマビームPを照射するものであり、プラズマビームPを発生させるプラズマガン本体11と、プラズマガン本体11の真空チャンバ3側においてプラズマガン本体11と同軸上に配置された第1の中間電極12および第2の中間電極13とを有して構成されている。プラズマガン本体11は、導体板14を介して直流電源16のマイナス端子に接続されており、導体板14とハース5との間で放電を生じさせることによりプラズマビームPを発生させている。第1の中間電極12および第2の中間電極13には、それぞれ永久磁石が内蔵されており、この永久磁石によりプラズマガンにより発生されたプラズマビームPが収束される。
【0025】
また、プラズマガン4の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第1のコイル15が設けられており、この第1のコイル15により第1の中間電極12および第2の中間電極13まで引き出されたプラズマビームPが真空チャンバ3の内部に誘導される。
【0026】
ハース5は、プラズマガン4から出射されたプラズマビームPを下方に吸引するものであり、導電材料で形成され、ハース抵抗17を介して直流電源16のプラス端子に接続されている。また、ハース5には、プラズマビームPが入射される中央部分に貫通孔5aが形成されており、この貫通孔5aに円柱状のタブレット21が充填されている。貫通孔5aの周囲には絶縁パイプ23が設けられており、ハース5とタブレット21とが真空チャンバ3の内部において絶縁されている。なお、本実施の形態における真空チャンバ3の内部とは、絶縁パイプ23とタブレット21との対抗空間等のように図示しないパッキン等により真空雰囲気が保たれている部分を含むものである。
【0027】
貫通孔5aの同軸上には、タブレット21を下方から支持するタブレット支持棒25が上下動可能に設けられており、このタブレット支持棒25によりタブレット21が突き上げられてハース5に対してタブレット21が供給される。タブレット支持棒25は、導電材料で形成され、タブレット21を支持する支持面においてタブレット21と導通し、真空チャンバ3の外部において直流電源16のプラス端子に接続されている。
【0028】
また、図2に示すように、タブレット支持棒25は、上下方向に延在する棒状部25aと、棒状部25aの上部においてタブレット21を支持する支持部25bと、支持部25bにおいてタブレット21を弾性挟持する挟持部25cとを有している。棒状部25aは、図示しない駆動機構に接続されており、タブレット21の消費速度に合わせて上方に移動される。
【0029】
支持部25bは、タブレット21を下方から支持する支持面25dを有し、この支持面25dには導電シート27が載置されている。導電シート27は、グラファイト等により柔軟性と導電性とを有するシート状に形成されており、タブレット21の下面のザラツキを埋めて、タブレット21とタブレット支持棒25との接触面積を増加させている。
【0030】
挟持部25cは、バネ性を有しており、円柱状のタブレット21の周面を左右から挟み込み、タブレット21とタブレット支持棒25との接触性を向上させている。このように、導電シート27によりタブレット21とタブレット支持棒25との接触面積が増加し、挟持部25cによりタブレット21とタブレット支持棒25との接触性が向上するため、タブレット21とタブレット支持棒25との間の接触抵抗が減少して電位差が小さくなり、異常放電が抑制される。
【0031】
図1に戻り、ハース5の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第2のコイル29が設けられており、この第2のコイル29によりハース5に入射されるプラズマビームPの向き等が修正される。
【0032】
タブレット21は、成膜用の蒸発源であり、酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により円柱状に焼結成形されている。タブレット21の上面にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームにより加熱されて昇華し、タブレット21の上方に位置するワークWの表面にZnO膜が成膜される。
【0033】
また、本実施の形態で使用されるタブレット21は、60[mm]以上のロングサイズのタブレット21であり、20[mm]程度のスモールサイズのタブレットを縦一列に重ねた状態と異なり、タブレット間の合わせ目を少なくしている。これにより、タブレット間の合わせ目で生じる異常放電を抑制している。また、タブレットが消費されて細かい破片だけが、残った場合には、破片が真空チャンバ3の内部に飛び散って汚染の原因となるが、タブレット間の合わせ目が少ないため、真空チャンバ3の内部の汚染を抑制することも可能となる。
【0034】
搬送装置6は、真空チャンバ3内においてハース5の上方にワークWを支持している。
【0035】
直流電源16は、可変直流電源であり、マイナス端子にプラズマガン4が接続され、プラス端子にハース抵抗17を介してハース5およびタブレット支持棒25を介してタブレット21が接続されている。そして、直流電源16がハース5とプラズマガン4との間に直流電圧を印加することにより、真空チャンバ3の内部にプラズマビームPが発生し、ワークWに成膜処理が行われる。なお、プラズマビームPの強度は、直流電源16の印加電圧に左右される。
【0036】
具体的には、直流電源16によりハース5とプラズマガン4との間に直流電圧が印加されると、プラズマビームPが発生される。このプラズマビームPは、第1のコイル15および第2のコイル29等により形成される磁界に誘導されてハース5に照射される。タブレット支持棒25によりハース5に供給されたタブレット21は、プラズマビームPの照射により上面が加熱されて昇華される。タブレット21の気体は、プラズマビームPを通過中にイオン化して、ワークWの表面に付着して被膜を形成する。
【0037】
次に、図3を参照して、プラズマビームの照射時における負電荷の移動経路について説明する。図3は、プラズマビームの照射時における負電荷の移動経路の説明図である。
【0038】
図3に示すように、プラズマビームPがハース5およびタブレット21に照射されると、プラズマビームPの強度に応じて負電荷がハース5およびタブレット21を移動する。このとき、ハース5の貫通孔5aの内周面に絶縁パイプ23が設けられているため、真空チャンバ3の内部においては、ハース5およびタブレット21を移動する負電荷は相互に乗り移ることがない。そして、ハース5を移動する負電荷は、ハース抵抗17を介して直流電源16に戻ると共に、タブレット21を移動する負電荷は、タブレット支持棒25を介して直流電源16に戻る。
【0039】
このように、真空チャンバ3の内部においては、絶縁パイプ23によりハース5およびタブレット21が絶縁されているため、異常放電が抑制される。また、ハース5およびタブレット21には、別々に電流が流れるため、タブレット21に流れる電流量が一定となる。さらに、ハース5と直流電源16との間には、ハース抵抗17が設けられているため、ハース5を流れる電流量およびタブレット21を流れる電流量がそれぞれ調整される。
【0040】
この場合、ハース5とプラズマガン4との間の印加電圧を調整し、プラズマビームPの強度を可変させた場合であっても、適切な抵抗値を有するハース抵抗17に交換することにより、タブレット21に流れる電流量を制御することが可能となる。例えば、プラズマビームPの強度を上げてイオン化性能を向上させつつ、タブレット21の消費レートを抑えたい場合には、ハース抵抗17の抵抗値を小さくすることにより、余分な電流をハース5に逃がすようにする。
【0041】
以上のように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1によれば、真空チャンバ3の内部においてハース5とタブレット21とが絶縁されているため、ハース5およびタブレット21に別々に電流が流れ、真空チャンバ3の内部においてハース5とタブレット21とにおける異常放電を抑制することができると共に、タブレット21に流れる電流量を一定とすることができる。
【0042】
また、真空チャンバ3の外部においてハース5がハース抵抗17を介してタブレット支持棒25と電気的に接続されているため、ハース抵抗17の抵抗値に応じて、プラズマビームPの強度とタブレット21に流れる電流量とを独立して調整することができ、イオン化性能と蒸発源の消費レートとを適切に制御することができる。このように、異常放電を防止すると共に、プラズマビームPの強度およびタブレット21に流れる電流量を制御できるため、タブレット21の消費レートを一定にして安定した成膜レートを得ることができる。
【0043】
また、真空チャンバ3の内部においてハース5およびタブレット21に電流を別々に流すことができるため、稼働前の事前作業を実施して真空チャンバ3の内部においてハース5とタブレット21との間に電気的パスを形成することなく異常放電を抑制することができ、量産時の連続成膜等が可能となる。
【0044】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本発明の第2の実施の形態に係るイオンプレーティング装置は、上述した第1の実施の形態に係るイオンプレーティング装置とハース抵抗を動的に制御可能な点においてのみ相違している。したがって、特に相違点についてのみ説明する。図4は、本発明の第2の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の模式図である。
【0045】
図4に示すように、本発明の第2の実施の形態のイオンプレーティング装置31は、本発明の第1の実施の形態のイオンプレーティング装置1と回路構成のみ異なっている。ハース35は、ハース抵抗47を介して直流電源46のプラス端子に接続され、タブレット支持棒55は、電流計48を介して直流電源46のプラス端子に接続されている。ハース抵抗47は、可変抵抗であり、抵抗値を変化させることでハース35およびタブレット51にそれぞれ流れる電流量が調整される。
【0046】
また、電流計48およびハース抵抗47は、それぞれ抵抗値制御部49に接続されており、抵抗値制御部49は、電流計48の検出値に応じてハース抵抗47の抵抗値を動的に制御している。このように、タブレット51に流れる電流量を監視しながらハース抵抗47の抵抗値を制御しているため、タブレット51に一定の電流を流すことができ、ハース35の表面状態や真空チャンバ33の内部の真空雰囲気等が異なったとしても、タブレット51の消費レートを一定に保つことが可能となる。
【0047】
以上のように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置31によれば、実際にタブレット51に流れる電流を電流計48で検出し、抵抗値制御部49により検出値に基づいてハース抵抗47の抵抗値が動的に制御されるため、タブレット51に流れる電流量を高精度に制御することができる。また、電流計48により実際にタブレット51に流れる電流量を作業者に把握させることができる。よって、より安定した成膜レートを得ることができる。
【0048】
なお、上記した各実施の形態においては、ハース5、35を真空チャンバ3、33の底壁3b、33bに設け、下方からワークWの表面に成膜する構成としたが、図5に示すように、複数のハース65を真空チャンバ63の側壁63dに設け、側方からワークWの表面に成膜する構成としてもよい。この構成により、ワークWを立てた状態でワークWの表面に成膜することができ、ワークWを水平した状態のように自重により撓むことがないため、大面積の大型ワークに成膜することが可能となる。
【0049】
また、上記した各実施の形態においては、タブレット21の周面をタブレット支持棒25の挟持部25cにより左右から挟み込むように構成したが、この構成に限定されるものではなく、タブレット21とタブレット支持棒25との接触性を向上させるような構成であれば、どのような構成でもよい。例えば、タブレット支持棒25に有底円筒状の支持部を設けて、筒内にタブレット21を差し込むことによりタブレット21とタブレット支持棒25との接触性を向上させるようにしてもよい。
【0050】
また、上記した各実施の形態においては、本発明をロングサイズのタブレット21に適用した例を挙げて説明したが、本発明をショートサイズのタブレット21に適用することも可能である。また、蒸発源として酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により焼結成形したタブレットを使用したが、ワークWを成膜するものであればこれに限定されるもではない。
【0051】
また、上記した各実施の形態においては、ハース5、35の中央にタブレット21、51を収容して、ハース5、35とタブレット21、51とを近接配置した例を示して説明したが、タブレット21、51がハース5、35に近接配置されていれば、ハース5、35の中央にタブレット21、51を収容する構成に限定されない。
【0052】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本発明は、安定した成膜レートを得ることができ、電気的パスを形成するための事前作業をすることなく安定した放電を得ることができるという効果を有し、特に突き上げ方式のイオンプレーティング装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係るイオンプレーティング装置の第1の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置の模式図である。
【図2】本発明に係るイオンプレーティング装置の第1の実施の形態を示す図であり、タブレット支持棒のタブレット支持構造を示す模式図である。
【図3】本発明に係るイオンプレーティング装置の第1の実施の形態を示す図であり、プラズマビームの照射時における負電荷の移動経路の説明図である。
【図4】本発明に係るイオンプレーティング装置の第2の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置の模式図である。
【図5】本発明に係るイオンプレーティング装置の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1、31、61 イオンプレーティング装置
3、33 真空チャンバ(チャンバ)
4、34 プラズマガン(プラズマビーム発生源)
5、35 ハース
6、36 搬送装置
16、36 直流電源
17、47 ハース抵抗(抵抗)
21、51 タブレット(蒸発源)
23、53 絶縁パイプ
25、55 タブレット支持棒(蒸発源支持部)
25a 棒状部
25b 支持部
25c 挟持部
25d 支持面
27 導電シート
48 電流計(電流検出部)
49 抵抗値制御部
W ワーク
P プラズマビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに近接配置された成膜用の蒸発源を前記チャンバ内に露出するように支持する蒸発源支持部とを備え、
前記蒸発源支持部は、導電性であり、
前記ハースは、前記チャンバ内において前記蒸発源と絶縁され、前記チャンバ外において抵抗を介して前記蒸発源支持部と電気的に接続されていることを特徴とするイオンプレーティング装置。
【請求項2】
前記抵抗は、可変抵抗であり、
前記蒸発源に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部の検出結果に基づいて前記抵抗の抵抗値を制御する抵抗値制御部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項3】
前記電流検出部は、成膜中に前記蒸発源に流れる電流を検出し、
前記抵抗値制御部は、成膜中に前記抵抗の抵抗値を制御することを特徴とする請求項2に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項4】
前記蒸発源支持部の前記蒸発源を支持する支持面に柔軟性を有する導電シートを備えたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項5】
前記蒸発源支持部は、前記蒸発源を弾性挟持する挟持部を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項6】
前記ハースは、前記チャンバの側面に設けられたことを特徴とする請求項5に記載のイオンプレーティング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−116597(P2010−116597A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290637(P2008−290637)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【出願人】(595175264)ヘンミ計算尺株式会社 (4)
【Fターム(参考)】