説明

イオンプレーティング装置

【課題】作業効率を向上させることができ、安定して成膜することができるイオンプレーティング装置を提供すること。
【解決手段】ハース5は、真空チャンバ3内においてタブレット21と絶縁され、真空チャンバ3外において可変抵抗36を介して導電性のタブレット支持棒25と電気的に接続されており、第1の電流計31および第2の電流計32によりガン電流およびタブレットに流れる電流を検出し、プラズマガン4に流れる電流値とタブレットに流れる電流値と可変抵抗の抵抗値との関係が示された抵抗値制御マップを参照して、可変抵抗36の抵抗値を制御するよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンプレーティング装置に関し、特に、プラズマビームを利用したイオンプレーティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマビームを利用したイオンプレーティング装置として、突き上げ方式のイオンプレーティング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このイオンプレーティング装置においては、ハースに形成された貫通孔に蒸発源としてのタブレットが収容され、このタブレットが下方から絶縁性の突き上げ棒により突き上げられることでチャンバ内に連続的に繰り出されている。そして、プラズマガンによりチャンバ内に発生したプラズマビームがステアリングコイル等によりハースに向かって誘導され、チャンバ内に繰り出されたタブレットの上面を照射することにより、照射により発生した気体がプラズマビームを通過してイオン化し、基板の表面に付着して成膜している。
【0003】
また、このイオンプレーティング装置のハースと電源との間には、固定抵抗が付け替え可能に取り付けられており、プラズマガンの電流値の測定結果に応じて、様々な抵抗値を有する複数の固定抵抗の中から適切な抵抗値を有するものが選択されて取り付けられる。
【特許文献1】特開2002−30422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したイオンプレーティング装置においては、固定抵抗を選択するために様々な抵抗値を有する固定抵抗を付け替えてプラズマガンの電流値を測定する必要があり、付け替え作業の度にプラズマガンの立ち上げ、立ち下げ等の多くの作業が発生し、作業効率が低下するという問題があった。
【0005】
また、上記したイオンプレーティング装置においては、安定した成膜を可能にするために、タブレットに流れる電流を適切な値に調整しているが、これを調整するためには、タブレットに流れる電流がプラズマガンに流れるガン電流(ハースおよびタブレットに流れるトータル電流)に左右されるため、プラズマガンの電流条件を変更する度に固定抵抗を付け替えて電流値の測定を繰り返さなければならず、膨大な時間を必要としていた。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、作業効率を向上させることができ、安定して成膜することができるイオンプレーティング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のイオンプレーティング装置は、チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに近接配置された成膜用の蒸発源を前記チャンバ内に露出するように支持する蒸発源支持部と、前記プラズマビーム発生源に流れる電流を検出する第1の電流検出部と、前記蒸発源に流れる電流を検出する第2の電流検出部と、前記蒸発源に流れる電流を調整する可変抵抗と、前記可変抵抗の抵抗値を制御する抵抗制御部とを備え、前記蒸発源支持部は、導電性であり、前記ハースは、前記チャンバ内において前記蒸発源と絶縁され、前記チャンバ外において可変抵抗を介して前記蒸発源支持部と電気的に接続され、前記抵抗制御部は、前記プラズマビーム発生源に流れる電流値と前記蒸発源に流れる電流値と前記可変抵抗の抵抗値との関係が示された参照データを参照し、前記第1の電流検出部および前記第2の電流検出部の検出結果に応じて前記可変抵抗の抵抗値を制御することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、ハースがチャンバ内において蒸発源と絶縁され、ハースおよび蒸発源に別々に電流が流れるため、プラズマビーム発生源に流れる電流および蒸発源に流れる電流がそれぞれ第1の電流検出部および第2の電流検出部に正確に検出され、抵抗制御部により可変抵抗の抵抗値が動的に制御される。したがって、抵抗値を決定するために、固定抵抗の付け替え作業やプラズマビーム発生源の立ち上げ、立ち下げ等の作業が発生せず、作業効率を向上させることができる。
また、可変抵抗が適切な抵抗に制御されることで、プラズマビーム発生源および蒸発源に流れる電流が一定となり、プラズマ強度や蒸発源の消費レートを一定に保つことができ、膜質を向上させた状態で安定した成膜レートを得ることができる。
また、プラズマビーム発生源の電流条件を変更しても、可変抵抗の抵抗値が動的に制御されて、蒸発源に流れる電流が適切な電流値に制御される。したがって、プラズマビーム発生源の電流条件を変更する度に固定抵抗の付け替え作業等が発生せず、作業効率を向上させた状態で、安定して成膜することができる。
【0009】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記抵抗制御部は、前記蒸発源における電流密度が前記蒸発源を昇華させる温度にするための下限値と前記蒸発源を溶融させない温度にするための上限値との間に収まるように、前記可変抵抗の抵抗値を制御することを特徴とする。
【0010】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記下限値は、0.8[A/cm]であり、前記上限値は、4.4[A/cm]であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、電流密度が上限値と下限値との間に収まるため、蒸発源が昇華しない状態または蒸発源が溶融して突沸する状態を避けて、安定して成膜することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、作業効率を向上させることができ、安定して成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置は、プラズマビーム発生源としてのプラズマガンと蒸発源としてのタブレットとのそれぞれに流れる電流を検出して、各検出結果に応じて可変抵抗の抵抗値を動的に制御することで、作業効率を低下させることなく、安定して成膜することができるようにしたものである。
【0014】
図1を参照して、イオンプレーティング装置の全体構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の模式図である。
【0015】
図1に示すように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1は、気密性の真空チャンバ3を備えており、真空チャンバ3の一の側壁3aには陰極として機能するプラズマビーム発生源としてのプラズマガン4が設けられ、真空チャンバ3の底壁3bには陽極として機能するハース5が設けられている。また、真空チャンバ3の上壁3cには成膜対象のワークWを搬送する搬送装置6が設けられ、真空チャンバ3のプラズマガン4が設けられた側壁3aに対向する側壁3dには、酸素ガスおよびアルゴンガス等のキャリアガスを導入するガス導入口3eが形成されている。
【0016】
プラズマガン4は、ハース5に対してプラズマビームPを照射するものであり、プラズマビームPを発生させるプラズマガン本体11と、プラズマガン本体11の真空チャンバ3側においてプラズマガン本体11と同軸上に配置された第1の中間電極12および第2の中間電極13とを有して構成されている。プラズマガン本体11は、導体板14を介して直流電源16のマイナス端子に接続されており、導体板14とハース5との間で放電を生じさせることによりプラズマビームPを発生させている。第1の中間電極12および第2の中間電極13には、それぞれ永久磁石が内蔵されており、この永久磁石によりプラズマガンにより発生されたプラズマビームPが収束される。
【0017】
また、プラズマガン4の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第1のコイル15が設けられており、この第1のコイル15により第1の中間電極12および第2の中間電極13まで引き出されたプラズマビームPが真空チャンバ3の内部に誘導される。
【0018】
ハース5は、プラズマガン4から出射されたプラズマビームPを下方に吸引するものであり、導電材料で形成され、後述する制御部35および第1の電流計31を介して直流電源16のプラス端子に接続されている。また、ハース5には、プラズマビームPが入射される中央部分に貫通孔5aが形成されており、この貫通孔5aに円柱状のタブレット21が充填されている。貫通孔5aの周囲には絶縁パイプ23が設けられており、ハース5とタブレット21とが真空チャンバ3の内部において絶縁されている。これにより、ハース5とタブレット21との間で異常放電が抑制される。なお、本実施の形態における真空チャンバ3の内部とは、絶縁パイプ23とタブレット21との対抗空間等のように図示しないパッキン等により真空雰囲気が保たれている部分を含むものである。
【0019】
貫通孔5aの同軸上には、タブレット21を下方から支持するタブレット支持棒25が上下動可能に設けられており、このタブレット支持棒25によりタブレット21が突き上げられてハース5に対してタブレット21が供給される。タブレット支持棒25は、導電材料で形成され、タブレット21を支持する支持面においてタブレット21と導通し、真空チャンバ3の外部において後述する第2の電流計32および第1の電流計31を介して直流電源16のプラス端子に接続されている。
【0020】
また、図2に示すように、タブレット支持棒25は、上下方向に延在する棒状部25aと、棒状部25aの上部においてタブレット21を支持する支持部25bと、支持部25bにおいてタブレット21を弾性挟持する挟持部25cとを有している。棒状部25aは、図示しない駆動機構に接続されており、タブレット21の消費速度に合わせて上方に移動される。
【0021】
支持部25bは、タブレット21を下方から支持する支持面25dを有し、この支持面25dには導電シート27が載置されている。導電シート27は、グラファイト等により柔軟性と導電性とを有するシート状に形成されており、タブレット21の下面のザラツキを埋めて、タブレット21とタブレット支持棒25との接触面積を増加させている。
【0022】
挟持部25cは、バネ性を有しており、円柱状のタブレット21の周面を左右から挟み込み、タブレット21とタブレット支持棒25との接触性を向上させている。このように、導電シート27によりタブレット21とタブレット支持棒25との接触面積が増加し、挟持部25cによりタブレット21とタブレット支持棒25との接触性が向上するため、タブレット21とタブレット支持棒25との間の接触抵抗が減少して電位差が小さくなり、異常放電が抑制される。
【0023】
図1に戻り、ハース5の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第2のコイル29が設けられており、この第2のコイル29によりハース5に入射されるプラズマビームPの向き等が修正される。
【0024】
タブレット21は、成膜用の蒸発源であり、酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により円柱状に焼結成形されている。タブレット21の上面にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームにより加熱されて昇華し、タブレット21の上方に位置するワークWの表面にZnO膜が成膜される。
【0025】
また、本実施の形態で使用されるタブレット21は、60[mm]以上のロングサイズのタブレット21であり、20[mm]程度のスモールサイズのタブレットを縦一列に重ねた状態と異なり、タブレット間の合わせ目を少なくしている。これにより、タブレット間の合わせ目で生じる異常放電を抑制している。また、タブレットが消費されて細かい破片だけが残った場合には、破片が真空チャンバ3の内部に飛び散って汚染の原因となるが、タブレット間の合わせ目が少ないため、真空チャンバ3の内部の汚染を抑制することも可能となる。
【0026】
搬送装置6は、真空チャンバ3内においてハース5の上方にワークWを支持している。
【0027】
直流電源16は、可変直流電源であり、直流電源16のマイナス端子に接続された電源ラインはプラズマガン4に直接接続され、直流電源16のプラス端子に接続された電源ラインは第1の電流計31の先の分岐点dにおいて2股に分岐し、一方が第2の電流計32を介してタブレット支持棒25に接続され、他方が制御部35を介してハース5に接続されている。また、第1の電流計31は、プラズマガン4に流れるガン電流、すなわち、ハース5およびタブレット21に流れるトータル電流の電流値を検出して、その検出結果を制御部35に出力し、第2の電流計32は、ガン電流が分岐点dにおいて分流されてタブレット21側に流れる電流値を検出して、その検出結果を制御部35に出力している。
【0028】
制御部35は、可変抵抗36と、可変抵抗36を可変する抵抗制御部37とを有して構成されている。可変抵抗36は、一端がハース5に接続され、他端が分岐点dに接続されており、この可変抵抗36の抵抗値を変化させることでハース5およびタブレット21のそれぞれに流れる電流量が調整される。抵抗制御部37は、タブレット21に流れる電流およびガン電流とから可変抵抗36の抵抗値を決定するための抵抗値制御マップを記憶しており、この抵抗値制御マップを参照して、第1の電流計31および第2の電流計32に出力された検出結果に応じて可変抵抗36の抵抗値を制御している。なお、本実施の形態においては、抵抗制御部37に抵抗値制御マップを記憶する構成にしたが、この構成に限らず、イオンプレーティング装置1内に設けられた図示しない記憶部や、外部装置に抵抗値制御マップを記憶する構成としてもよい。
【0029】
以下、図3を参照して、抵抗値制御マップについて説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る抵抗値制御マップの一例を示す図である。なお、図3においては、直径4[cm]の円柱状のタブレットを使用する場合の一例を示している。
【0030】
図3の抵抗値制御マップにおいては、縦軸がタブレットに流れる電流の電流値、横軸が可変抵抗36の抵抗値をそれぞれ示し、実線W1がガン電流70[A]、実線W2がガン電流90[A]、実線W3がガン電流110[A]をそれぞれ示している。また、抵抗値制御マップは、各種実験等により導かれたものであり、タブレット21に流れる電流、ガン電流、可変抵抗値の理想的な関係を示している。
【0031】
実線W1は、ガン電流が70[A]でタブレット21に流れる電流が約12[A]から約55[A]のときに可変抵抗36の抵抗値が約0.01[Ω]から約0.3[Ω]の間で可変されることを示している。実線W2は、ガン電流が90[A]でタブレット21に流れる電流が約20[A]から約55[A]のときに可変抵抗36の抵抗値が約0.01[Ω]から約0.2[Ω]の間で可変されることを示している。実線W3は、ガン電流が110[A]でタブレット21に流れる電流が約29[A]から約55[A]のときに可変抵抗36の抵抗値が約0.01[Ω]から約0.15[Ω]の間で可変されることを示している。
【0032】
このとき、可変抵抗36の抵抗値は、タブレット21に流れる電流の電流密度を下限値である0.8[A/cm]から上限値である4.4[A/cm]までの範囲に収めるように可変される。これは、電流密度がこの下限値よりも小さい場合にタブレット21が昇華せず、電流密度がこの上限値よりも大きい場合にタブレットが溶融して突沸するためである。例えば、ガン電流70[A]、ガン電流90[A]、ガン電流110[A]に対するタブレット21に流れる電流密度の下限値は、それぞれ1.0[A/cm]、1.6[A/cm]、2.3[A/cm]であり、上限値は、それぞれ4.4[A/cm]である。このように、可変抵抗36の抵抗値は、タブレット21に適切な電流量が流れる範囲で制御される。
【0033】
なお、この抵抗値制御マップでは、第1の電流計31および第2の電流計32からの検出結果に基づいて可変抵抗36の抵抗値を可変させる他に、成膜条件を変更した場合に、第1の電流計31の検出結果に基づいて、タブレット21に所望の電流が流れるように可変抵抗36の抵抗値を可変させることも可能である。また、本実施の形態では、上記した抵抗値制御マップにより請求項に記載の参照データを構成したが、抵抗値制御マップの代わりに、ガン電流、タブレット21に流れる電流、可変抵抗36の抵抗値を関連付けたテーブルにより参照データを構成してもよい。このようなテーブルでも、抵抗値制御マップと同様に可変抵抗36の抵抗値を制御することが可能である。
【0034】
このように構成されたイオンプレーティング装置1において、直流電源16がハース5とプラズマガン4との間に直流電圧を印加すると、真空チャンバ3の内部にプラズマビームPが発生し、ワークWに成膜処理が行われる。
【0035】
具体的には、直流電源16によりハース5とプラズマガン4との間に直流電圧が印加されると、プラズマビームPが発生される。このプラズマビームPは、第1のコイル15および第2のコイル29等により形成される磁界に誘導されてハース5に照射される。タブレット支持棒25によりハース5に供給されたタブレット21は、プラズマビームPの照射により上面が加熱されて昇華される。
【0036】
タブレット21の気体は、プラズマビームPを通過中にイオン化してワークWの表面に付着して被膜を形成する。このとき、プラズマガン4に流れるガン電流およびタブレット21に流れる電流は、可変抵抗36が動的に制御されることで、プラズマガン4のプラズマ強度やタブレット21の消費レートが一定となるように制御される。
【0037】
次に、図4を参照して、プラズマビームの照射時における抵抗値制御処理について説明する。図4は、プラズマビームの照射時における抵抗値制御処理の説明図である。
【0038】
図4に示すように、プラズマビームPがハース5およびタブレット21に照射されると、プラズマビームPの強度に応じて負電荷がハース5およびタブレット21を移動する。このとき、ハース5の貫通孔5aの内周面に絶縁パイプ23が設けられているため、真空チャンバ3の内部においては、ハース5およびタブレット21を移動する負電荷は相互に乗り移ることがない。そして、ハース5を移動する負電荷は、可変抵抗36を介して直流電源16に戻ると共に、タブレット21を移動する負電荷は、タブレット支持棒25を介して直流電源16に戻る。
【0039】
このとき、第1の電流計31によりハース5およびタブレット21に流れるガン電流の電流値が検出され、第2の電流計32によりタブレット21に流れる電流値が検出されて、それぞれ抵抗制御部37に出力される。抵抗制御部37では、抵抗値制御マップを参照して、入力された電流値に応じて可変抵抗36を適切な抵抗値に制御する。このように、抵抗制御部37は、ガン電流およびタブレット21に流れる電流量を監視しながら可変抵抗36の抵抗値を制御しているため、プラズマガン4およびタブレット21に流れる電流が一定となり、プラズマ強度およびタブレット21の消費レートを一定に保つことができ、膜質を向上させた状態で安定した成膜レートを得ることができる。
【0040】
また、成膜条件を変更した場合であっても、第1の電流計31の検出結果からタブレット21に所望の電流が流れるように可変抵抗36の抵抗値を可変させることで、成膜条件を瞬時に変更することが可能となる。例えば、プラズマビームPの強度を上げてイオン化性能を向上させつつ、タブレット21の消費レートを抑えたい場合には、直流電源16の印加電圧を上げると共に、可変抵抗36の抵抗値を小さくすることにより、余分な電流をハース5に逃がすようにする。
【0041】
以上のように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1によれば、ハース5が真空チャンバ3の内部においてタブレット21と絶縁され、ハース5およびタブレット21に別々に電流が流れるため、プラズマガン4に流れる電流およびタブレット21に流れる電流がそれぞれ第1の電流計31および第2の電流計32に正確に検出され、抵抗制御部37により可変抵抗36の抵抗値が動的に制御される。したがって、可変抵抗36の抵抗値を決定するために、固定抵抗の付け替え作業やプラズマガン4の立ち上げ、立ち下げ等の作業が発生せず、作業効率を向上させることができる。
【0042】
また、可変抵抗36が適切な抵抗値に制御されることで、プラズマガン4およびタブレット21に流れる電流が一定となり、プラズマ強度や蒸発源の消費レートを一定に保つことができ、膜質を向上させた状態で安定した成膜レートを得ることができる。
【0043】
また、プラズマガン4の電流条件を変更しても、可変抵抗36の抵抗値が動的に制御されて、タブレット21に流れる電流が適切な電流値に制御される。したがって、プラズマガン4の電流条件を変更する度に固定抵抗の付け替え作業等が発生せず、作業効率を向上させた状態で、安定して成膜することができる。
【0044】
なお、上記した実施の形態においては、ハース5を真空チャンバ3の底壁3bに設け、下方からワークWの表面に成膜する構成としたが、図5に示すように、複数のハース55を真空チャンバ53の側壁53dに設け、側方からワークWの表面に成膜する構成としてもよい。この構成により、ワークWを立てた状態でワークWの表面に成膜することができ、ワークWを水平した状態のように自重により撓むことがないため、大面積の大型ワークに成膜することが可能となる。
【0045】
また、上記した実施の形態においては、タブレット21の周面をタブレット支持棒25の挟持部25cにより左右から挟み込むように構成したが、この構成に限定されるものではなく、タブレット21とタブレット支持棒25との接触性を向上させるような構成であれば、どのような構成でもよい。例えば、タブレット支持棒25に有底円筒状の支持部を設けて、筒内にタブレット21を差し込むことによりタブレット21とタブレット支持棒25との接触性を向上させるようにしてもよい。
【0046】
また、上記した実施の形態においては、本発明をロングサイズのタブレット21に適用した例を挙げて説明したが、本発明をショートサイズのタブレット21に適用することも可能である。また、蒸発源として酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により焼結成形したタブレットを使用したが、ワークWを成膜するものであればこれに限定されるもではない。
【0047】
また、上記した実施の形態においては、ハース5の中央にタブレット21を収容して、ハース5とタブレット21とを近接配置した例を示して説明したが、タブレット21がハース5に近接配置されていれば、ハース5の中央にタブレット21を収容する構成に限定されない。
【0048】
また、上記した実施の形態においては、ハース5と直流電源16との間に可変抵抗36を設ける構成としたが、タブレット支持棒25と直流電源16との間に可変抵抗36を設ける構成としてもよい。
【0049】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明したように、本発明は、作業効率を向上させることができ、安定して成膜することができるという効果を有し、特にプラズマビームを利用したイオンプレーティング装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置の模式図である。
【図2】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、タブレット支持棒のタブレット支持構造を示す模式図である。
【図3】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、抵抗値制御マップの一例を示す図である。
【図4】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、プラズマビームの照射時における抵抗値制御処理の説明図である。
【図5】本発明に係るイオンプレーティング装置の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 イオンプレーティング装置
3 真空チャンバ(チャンバ)
3a 側壁
3b 底壁
3c 上壁
3d 側壁
3e ガス導入口
4 プラズマガン(プラズマビーム発生源)
5 ハース
6 搬送装置
16 直流電源
21 タブレット(蒸発源)
23 絶縁パイプ
25 タブレット支持棒(蒸発源支持部)
31 第1の電流計(第1の電流検出部)
32 第2の電流計(第2の電流検出部)
35 制御部
36、45 可変抵抗
37 抵抗制御部
W ワーク
P プラズマビーム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに近接配置された成膜用の蒸発源を前記チャンバ内に露出するように支持する蒸発源支持部と、前記プラズマビーム発生源に流れる電流を検出する第1の電流検出部と、前記蒸発源に流れる電流を検出する第2の電流検出部と、前記蒸発源に流れる電流を調整する可変抵抗と、前記可変抵抗の抵抗値を制御する抵抗制御部とを備え、
前記蒸発源支持部は、導電性であり、
前記ハースは、前記チャンバ内において前記蒸発源と絶縁され、前記チャンバ外において可変抵抗を介して前記蒸発源支持部と電気的に接続され、
前記抵抗制御部は、前記プラズマビーム発生源に流れる電流値と前記蒸発源に流れる電流値と前記可変抵抗の抵抗値との関係が示された参照データを参照し、前記第1の電流検出部および前記第2の電流検出部の検出結果に応じて前記可変抵抗の抵抗値を制御することを特徴とするイオンプレーティング装置。
【請求項2】
前記抵抗制御部は、前記蒸発源における電流密度が前記蒸発源を昇華させる温度にするための下限値と前記蒸発源を溶融させない温度にするための上限値との間に収まるように、前記可変抵抗の抵抗値を制御することを特徴とする請求項1に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項3】
前記下限値は、0.8[A/cm]であり、前記上限値は、4.4[A/cm]であることを特徴とする請求項2に記載のイオンプレーティング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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