説明

イオンプレーティング装置

【課題】膜材に流れる電流量に応じて成膜レートを正確に制御することができるイオンプレーティング装置を提供すること。
【解決手段】真空チャンバ3と、真空チャンバ3内にプラズマビームPを発生するプラズマガン4と、タブレット21を収容する貫通孔5aが形成され、真空チャンバ3内においてプラズマビームPが照射されるハース5と、貫通孔5aにおいて、タブレット21を真空チャンバ3内に露出するように支持するタブレット支持棒25と、タブレット21に流れる電流量を測定する電流計19とを備え、タブレット支持棒25は、タブレット21を支持する支持面が形成された導電性の支持棒本体31と、支持部本体31に対するプラズマビームPの照射を遮断すると共に、支持面に支持されたタブレット21を保持する絶縁性の保持具32とを有し、電流計19を支持部本体31に電気的に接続して構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンプレーティング装置に関し、特に、プラズマビームを利用したイオンプレーティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマビームを利用したイオンプレーティング装置として、突き上げ方式のイオンプレーティング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このイオンプレーティング装置においては、ハースに形成された貫通孔に膜材としてのタブレットが収容され、このタブレットが下方から絶縁性の突き上げ棒により突き上げられることでチャンバ内に連続的に繰り出されている。そして、チャンバ内に発生したプラズマビームがステアリングコイル等によりハースに向かって誘導され、チャンバ内に繰り出されたタブレットの上面を照射することにより、照射により発生した気体がプラズマビームを通過してイオン化し、基板の表面に付着して成膜している。
【特許文献1】特開2002−30422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、このようなイオンプレーティング装置においては、成膜レートがタブレットの昇華量(蒸発量)に依存しているため、タブレットの昇華量(蒸発量)を把握するためにタブレットに流れる電流量を測定することが望まれている。この場合、突き上げ棒を導電性材料で形成し、この突き上げ棒に流れる電流量を測定することにより、タブレットに流れる電流量を測定することも考えられるが、ハースの貫通孔とタブレットとの隙間からも僅かにプラズマビームが入り込むため、タブレットを介さずに直に突き上げ棒に電流が流れ、タブレットのみに流れる電流量を正確に測定することが困難であった。このように、タブレットに流れる電流量を正確に測定できないため、タブレットの昇華量(蒸発量)を正確に把握できず、成膜レートを正確に制御することができないという問題があった。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、膜材に流れる電流量に応じて成膜レートを正確に制御することができるイオンプレーティング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のイオンプレーティング装置は、チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、成膜用の膜材を収容する収容孔が形成され、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記収容孔において、前記膜材を前記チャンバ内に露出するように支持する膜材支持部と、前記膜材に流れる電流量を測定する電流測定部とを備え、前記膜材支持部は、前記膜材を支持する支持面が形成された導電性の支持部本体と、前記支持部本体に対するプラズマビームの照射を遮断すると共に、前記支持面に支持された前記膜材を保持する絶縁性の保持具とを有し、前記電流測定部は、前記支持部本体に電気的に接続されたことを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、絶縁性の保持具により導電性の支持部本体に対するプラズマビームの照射が遮断されるため、膜材を介さずに直に支持部本体に電流を流すことが防止される。したがって、膜材に流れる電流量と支持部本体に流れる電流量とが一致するため、電流測定部により支持部本体に流れる電流量を測定することにより、膜材にのみに流れる電流量を正確に測定することができ、膜材に流れる電流に基づいて正確に成膜レートを制御することができる。
【0007】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記保持具は、前記膜材を周囲から保持する円筒部を有し、前記円筒部は、前記収容孔と前記膜材との隙間に位置していることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、収容孔と膜材との間に絶縁性の保持具の円筒部が位置しているため、収容孔と膜材との間にプラズマビームが入り込み、導電性の膜材支持部に照射されることが防止される。
【0009】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記保持具は、高耐熱性を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、プラズマビームの照射により保持具の破損および変形を防止することができる。
【0011】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記保持具は、弾性を有することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、保持具により膜材を強固に保持することができる。
【0013】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記保持具は、ジルコニアで形成されることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、保持具に導電性、耐熱性、弾性を備えさせることができ、破損および変形を防止すると共に、膜材を強固に保持することができる。
【0015】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記ハースと前記膜材とが絶縁されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、膜材に流れる電流がハースに乗り移るのを防止して、膜材に流れる電流量をより正確に測定することができる。
【0017】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記ハースは、前記チャンバの側面に設けられたことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、チャンバの側面に設けられたハースは、膜材を脱落させることなく保持するため、基板を立てた状態で基板表面に成膜することができる。これにより、基板を水平にした状態のように自重により撓むことがないため、チャンバの側面に複数の陽極を設けることにより大面積の大型基板に成膜することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、膜材に流れる電流量に応じて成膜レートを正確に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置は、膜材としてのタブレットとタブレットを支持する膜材支持部としてのタブレット支持棒とに流れる電流量を一致させて、タブレット支持棒に流れる電流量を測定することにより、タブレットに流れる電流量を正確に測定して、成膜レートを制御するものである。
【0021】
図1および図2を参照して、イオンプレーティング装置の全体構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の模式図である。図2は、本発明の実施の形態に係る、タブレット支持棒のタブレット支持構造を示す部分断面図である。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1は、気密性の真空チャンバ3を備えており、真空チャンバ3の一の側壁3aには陰極として機能するプラズマビーム発生源としてのプラズマガン4が設けられ、真空チャンバ3の底壁3bには陽極として機能するハース5が設けられている。また、真空チャンバ3の上壁3cには成膜対象のワークWを搬送する搬送装置6が設けられ、真空チャンバ3のプラズマガン4が設けられた側壁3aに対向する側壁3dには、酸素ガスおよびアルゴンガス等のキャリアガスを導入するガス導入口3eが形成されている。
【0023】
プラズマガン4は、ハース5に対してプラズマビームPを照射するものであり、プラズマビームPを発生させるプラズマガン本体11と、プラズマガン本体11の真空チャンバ3側においてプラズマガン本体11と同軸上に配置された第1の中間電極12および第2の中間電極13とを有して構成されている。プラズマガン本体11は、導体板14を介して直流電源16のマイナス端子に接続されており、導体板14とハース5との間で放電を生じさせることによりプラズマビームPを発生させている。第1の中間電極12および第2の中間電極13には、それぞれ永久磁石が内蔵されており、この永久磁石によりプラズマガンにより発生されたプラズマビームPが収束される。
【0024】
また、プラズマガン4の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第1のコイル15が設けられており、この第1のコイル15により第1の中間電極12および第2の中間電極13まで引き出されたプラズマビームPが真空チャンバ3の内部に誘導される。
【0025】
ハース5は、プラズマガン4から出射されたプラズマビームPを下方に吸引するものであり、導電材料で形成され、制御部8を介して直流電源16のプラス端子に接続されている。また、ハース5には、プラズマビームPが入射される中央部分に貫通孔5aが形成されており、この貫通孔5aに円柱状のタブレット21が充填されている。貫通孔5aの周囲には絶縁パイプ23が設けられており、ハース5とタブレット21とが真空チャンバ3の内部において絶縁されている。これにより、ハース5とタブレット21との間で異常放電が抑制される。なお、本実施の形態における真空チャンバ3の内部とは、絶縁パイプ23とタブレット21との対向空間等のように図示しないパッキン等により真空雰囲気が保たれている部分を含むものである。
【0026】
貫通孔5aの同軸上には、タブレット21を下方から支持するタブレット支持棒25が上下動可能に設けられており、このタブレット支持棒25によりタブレット21が突き上げられてハース5に対してタブレット21が供給される。タブレット支持棒25は、タブレット21を支持する支持面においてタブレット21と導通し、真空チャンバ3の外部において電流計19を介して直流電源16のプラス端子に接続されている。
【0027】
また、図2に示すように、タブレット支持棒25は、タブレット21を支持する支持棒本体31と、支持棒本体31に取り付けられ、タブレット21の周面を保持する保持具32とから構成されている。保持具32は、酸化ジルコニア等の絶縁性、高耐熱性、弾性を備えた材料で有底円筒状に形成されており、底壁部には支持棒本体31に取り付けるための取付孔32bが形成されている。保持具32の周壁部には、内周面から内側に環状凸部32aが突出して形成されており、この環状凸部32aにより筒内に収容された円柱状のタブレット21の周面が十分に挟持される。
【0028】
また、保持具32は、高耐熱性および弾性を有しているため、プラズマビームPによる周辺温度の上昇による破損や変形が防止され、タブレット21を強固に保持することが可能となる。
【0029】
支持棒本体31は、銅等の導電性材料で形成されており、上下方向に延在する棒状部34と、棒状部34の上端部に連なり棒状部34よりも大径に形成された基部35と、基部35と共に保持具32を固定する固定部36とを有している。棒状部34は、図示しない駆動機構に接続されており、この駆動機構によりタブレット21の消費速度に合わせて上方に移動される。
【0030】
基部35は、上部中央に固定部36を固定するための図示しない雌ねじ穴が形成されており、雌ねじ穴の周囲は保持具32を載置するための載置面となっている。固定部36は、保持具32の取付孔32bに挿通される挿通部36aと、挿通部36aの上部に形成されたフランジ部36bとにより段状に形成されている。挿通部36aは、保持具32の取付孔32bに挿通され、下部に形成された図示しない雄ねじ部分が基部35の雌ねじ穴に締結されることで、保持具32の低壁部がフランジ部36bの下面と基部35の上面とで上下から挟持される。
【0031】
また、固定部36の上面は、タブレット21を下方から支持する支持面36cとなっており、この支持面36cには導電シート27が載置されている。導電シート27は、グラファイト等により柔軟性と導電性とを有するシート状に形成されており、タブレット21の下面のザラツキを埋めて、タブレット21と支持棒本体31との接触面積を増加させている。このように、導電シート27によりタブレット21と支持棒本体31との接触面積が増加するため、タブレット21と支持棒本体31との間の接触抵抗が減少して電位差が小さくなり、異常放電が抑制される。
【0032】
図1に戻り、ハース5の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第2のコイル29が設けられており、この第2のコイル29によりハース5に入射されるプラズマビームPの向き等が修正される。
【0033】
タブレット21は、成膜用の膜材であり、酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により円柱状に焼結成形されている。タブレット21の上面にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームにより加熱されて昇華し、タブレット21の上方に位置するワークWの表面にZnO膜が成膜される。
【0034】
また、本実施の形態で使用されるタブレット21は、60[mm]以上のロングサイズのタブレット21であり、20[mm]程度のスモールサイズのタブレットを縦一列に重ねた状態と異なり、タブレット間の合わせ目を少なくしている。これにより、タブレット間の合わせ目で生じる異常放電を抑制している。また、タブレットが消費されて細かい破片だけが、残った場合には、破片が真空チャンバ3の内部に飛び散って汚染の原因となるが、タブレット間の合わせ目が少ないため、真空チャンバ3の内部の汚染を抑制することも可能となる。
【0035】
搬送装置6は、真空チャンバ3内においてハース5の上方にワークWを支持している。
【0036】
直流電源16は、可変直流電源であり、マイナス端子に接続された電源ラインはプラズマガン4が直接接続され、プラス端子に接続された電源ラインは分岐点dにおいて2股に分岐し、一方が電流計19を介してタブレット支持棒25の導電性の支持棒本体31に接続され、他方が制御部8を介してハース5に接続されている。また、電流計19は、分岐点dにおいて分流されてタブレット21側に流れる電流値を検出し、その検出結果を制御部8に出力している。
【0037】
制御部8は、可変抵抗であるハース抵抗17と、ハース抵抗17の抵抗値を可変する抵抗制御部18とを有して構成されている。ハース抵抗17は、一端がハース5に接続され、他端が分岐点dに接続されており、このハース抵抗17の抵抗値を可変させることでハース5およびタブレット21のそれぞれに流れる電流量が調整される。
【0038】
抵抗制御部18は、タブレット21に流れる電流に基づいてハース抵抗17の抵抗値を決定するためのマップデータやテーブル等を記憶しており、このマップデータやテーブルを参照して、電流計19に測定された測定結果に応じてハース抵抗17の抵抗値を制御している。このように、タブレット21に流れる電流量を監視しながらハース抵抗17の抵抗値を制御しているため、タブレット21に一定の電流を流すことができ、ハース5の表面状態や真空チャンバ3の内部の真空雰囲気等が異なったとしても、タブレット21の消費レートを一定に保つことが可能となる。
【0039】
このように構成されたイオンプレーティング装置1において、直流電源16がハース5とプラズマガン4との間に直流電圧を印加すると、真空チャンバ3の内部にプラズマビームPが発生し、ワークWに成膜処理が行われる。
【0040】
具体的には、直流電源16によりハース5とプラズマガン4との間に直流電圧が印加されると、プラズマガン4の導体板14とハース5との間で放電が生じ、これによりプラズマビームPが発生される。このプラズマビームPは、第1のコイル15および第2のコイル29等により形成される磁界に誘導されてハース5に照射される。タブレット支持棒25によりハース5に供給されたタブレット21は、プラズマビームPの照射により上面が加熱されて昇華される。
【0041】
昇華したタブレット21の気体は、プラズマビームPを通過中にイオン化して負電圧が印加されたワークWに引き込まれ、ワークWの表面に付着して被膜を形成する。このとき、タブレット21に流れる電流は、ハース抵抗17が動的に制御されることで、タブレット21の消費レートが一定となるように制御される。
【0042】
次に、図3を参照して、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置との対比のため、比較例に係るイオンプレーティング装置によるプラズマビームの照射状態について説明する。図3は、比較例に係るイオンプレーティング装置によるプラズマビームの照射状態の説明図である。なお、比較例に係るイオンプレーティング装置は、タブレット支持棒の構造が異なる点を除いては本実施の形態に係るイオンプレーティング装置と一致するため、同一の構成については説明を省略する。
【0043】
図3に示すように、比較例に係るタブレット支持棒37は、銅等の導電性材料で一体に形成されており、支持棒本体38と本実施の形態の保持具32に相当する保持部39とを有して構成されている。このタブレット支持棒37を用いた構成において、プラズマビームPがハース5およびタブレット21に照射されると、絶縁パイプ23とタブレット21との対向空間にプラズマビームPが入り込み、保持部39の先端にもプラズマビームPが照射される。
【0044】
プラズマビームPの照射によって、ハース5、タブレット21、保持部39を負電荷が移動し、ハース5を移動する負電荷はハース抵抗17を介して直流電源16に戻ると共に、タブレット21および保持部39を移動する負電荷は支持棒本体38で合流し、電流計19を介して直流電源16に戻る。このとき、ハース5の貫通孔5aの内周面に絶縁パイプ23が設けられているため、真空チャンバ3の内部においては、ハース5を移動する負電荷とタブレット21および保持部39を移動する負電荷は相互に乗り移ることがない。そして、電流計19により測定された測定値が抵抗制御部18に出力され、抵抗制御部18によりハース抵抗17の抵抗値が制御されて、タブレット21に流れる電流量が調整される。
【0045】
このように、ハース5の貫通孔5aとタブレット21との対向空間からもプラズマビームPが入りこみ、保持部39からタブレット21を介さずに負電荷が支持棒本体38に向かって移動するため、タブレット21に流れる電流量と支持棒本体38に流れる電流量とが一致せず、タブレット21に流れる電流量を支持棒本体38に接続された電流計19により正確に測定することが困難となる。よって、比較例に係るイオンプレーティング装置においては、成膜レートを正確に制御することができない。
【0046】
次に、図4を参照して、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置によるプラズマビームの照射状態について説明する。図4は、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置によるプラズマビームの照射状態の説明図である。
【0047】
図4に示すように、プラズマビームPがハース5およびタブレット21に照射されると、保持具32が絶縁性を有しているため、プラズマビームPが絶縁パイプ23とタブレット21との対向空間に入り込むことがなく、支持棒本体31に対するプラズマビームPの照射が遮断される。
【0048】
プラズマビームPの照射によって、ハース5、タブレット21を負電荷が移動し、ハース5を移動する負電荷はハース抵抗17を介して直流電源16に戻ると共に、タブレット21を移動する負電荷は支持棒本体31および電流計19を介して直流電源16に戻る。このとき、ハース5の貫通孔5aの内周面に絶縁パイプ23が設けられているため、真空チャンバ3の内部においては、ハース5を移動する負電荷とタブレット21および保持具32を移動する負電荷は相互に乗り移ることがない。そして、電流計19により測定された測定値が抵抗制御部18に出力され、抵抗制御部18によりハース抵抗17の抵抗値が制御されて、タブレット21に流れる電流量が調整される。
【0049】
このように、ハース5の貫通孔5aとタブレット21との対向空間からプラズマビームPが入りこむのを防止しているため、タブレット21に流れる電流量と支持棒本体31に流れる電流量とを一致させ、タブレット21に流れる電流量を支持棒本体31に接続された電流計19により正確に測定することができる。よって、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1においては、成膜レートを正確に制御することが可能となる。
【0050】
以上のように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1によれば、絶縁性の保持具32により導電性の支持棒本体31に対するプラズマビームPの照射が遮断されるため、負電荷がタブレット21を介さずに支持棒本体31に移動することが防止できる。したがって、タブレット21に流れる電流量と支持棒本体31に流れる電流量とが一致するため、電流計19により支持棒本体31に流れる電流量を測定することにより、タブレット21にのみに流れる電流量を正確に測定することができ、タブレット21に流れる電流に基づいて正確に成膜レートを制御することができる。
【0051】
なお、上記した実施の形態においては、ハース5を真空チャンバ3の底壁3bに設け、下方からワークWの表面に成膜する構成としたが、図5に示すように、複数のハース45を真空チャンバ43の側壁43dに設け、側方からワークWの表面に成膜する構成としてもよい。この構成により、ワークWを立てた状態でワークWの表面に成膜することができ、ワークWを水平した状態のように自重により撓むことがないため、大面積の大型ワークに成膜することが可能となる。
【0052】
また、上記した実施の形態においては、タブレット21の周面を有底円筒状の保持具32の筒内に挟持するように構成したが、この構成に限定されるものではなく、支持棒本体31に対するプラズマビームPを遮断すると共に、タブレット21を保持する機能を備えている構成であれば、どのような構成でもよい。例えば、支持棒本体31の周面を覆うと共に、タブレット21の周面を左右から挟み込むような構成としてもよい。
【0053】
また、上記した実施の形態においては、本発明をロングサイズのタブレット21に適用した例を挙げて説明したが、本発明をショートサイズのタブレット21に適用することも可能である。また、膜材として酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により焼結成形したタブレットを使用したが、ワークWを被膜するものであればこれに限定されるもではない。
【0054】
また、上記した実施の形態においては、タブレット21に流れる電流に応じてハース抵抗17の抵抗値を制御する構成としたが、タブレット21に流れる電流とプラズマガン4に流れるいわゆるガン電流に基づいてハース抵抗17の抵抗値を制御する構成としてもよい。この場合、直流電源16とプラズマガン4との間に電流計を追加するようにする。この構成により、より高精度に成膜レートを制御することが可能となる。
【0055】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明は、膜材に流れる電流量に応じて成膜レートを正確に制御することができるという効果を有し、特にプラズマビームを利用したイオンプレーティング装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置の模式図である。
【図2】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、タブレット支持棒のタブレット支持構造を示す部分断面図である。
【図3】本発明に係るイオンプレーティング装置の比較例を示す図であり、プラズマビームの照射状態の説明図である。
【図4】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、プラズマビームの照射状態の説明図である。
【図5】本発明に係るイオンプレーティング装置の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 イオンプレーティング装置
3 真空チャンバ(チャンバ)
4 プラズマガン(プラズマビーム発生源)
5 ハース
5a 貫通孔(収容孔)
6 搬送装置
8 制御部
16 直流電源
17 ハース抵抗
18 抵抗制御部
19 電流計(電流測定部)
21 タブレット(膜材)
23 絶縁パイプ
25 タブレット支持棒(タブレット支持部)
31 支持棒本体
32 保持具
36c 支持面
P プラズマビーム
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、成膜用の膜材を収容する収容孔が形成され、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記収容孔において、前記膜材を前記チャンバ内に露出するように支持する膜材支持部と、前記膜材に流れる電流量を測定する電流測定部とを備え、
前記膜材支持部は、前記膜材を支持する支持面が形成された導電性の支持部本体と、
前記支持部本体に対するプラズマビームの照射を遮断すると共に、前記支持面に支持された前記膜材を保持する絶縁性の保持具とを有し、
前記電流測定部は、前記支持部本体に電気的に接続されたことを特徴とするイオンプレーティング装置。
【請求項2】
前記保持具は、前記膜材を周囲から保持する円筒部を有し、
前記円筒部は、前記収容孔と前記膜材との隙間に位置していることを特徴とする請求項1に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項3】
前記保持具は、高耐熱性を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項4】
前記保持具は、弾性を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項5】
前記保持具は、ジルコニアで形成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項6】
前記ハースと前記膜材とが絶縁されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項7】
前記ハースは、前記チャンバの側面に設けられたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate