イオンミリング装置およびイオンミリング方法
【課題】イオンビームで研磨された試料を固定した試料ホルダはSEM試料台支持部に取り付けるに際して試料ホルダとSEM試料台支持部との間に取り付けのために用いられて来た中間材を設けることなく取り付けることができ、以って両者間の距離を短くし、試料ホルダをSEM試料台支持部に近接配置できるようにする。
【解決手段】試料ホルダ23に試料3の研磨されて観察される面の裏側の面に、SEM試料台支持部に設けたおねじ部53に直接ねじ挿入されるめねじ穴52を設け、当該おねじ部を当該めねじ部に直接ねじ挿入することによって、試料を固定した前記試料ホルダをSEM試料台を介さずに直接SEM試料台支持部に固定される。
【解決手段】試料ホルダ23に試料3の研磨されて観察される面の裏側の面に、SEM試料台支持部に設けたおねじ部53に直接ねじ挿入されるめねじ穴52を設け、当該おねじ部を当該めねじ部に直接ねじ挿入することによって、試料を固定した前記試料ホルダをSEM試料台を介さずに直接SEM試料台支持部に固定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査顕微鏡(SEM)や透過型顕微鏡(TEM)などで観察される試料を作製するためのイオンミリング装置およびイオンミリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンミリング装置は、金属,ガラス,セラミックなどの表面あるいは断面を、アルゴンイオンビームを照射するなどして研磨するための装置であり、電子顕微鏡により試料の表面あるいは断面を観察するための前処理装置として好適である。
【0003】
電子顕微鏡による試料の断面観察において、従来は観察したい部位の近傍を例えばダイヤモンドカッター,糸のこぎり等を使用して切断した後、切断面を機械研磨し、電子顕微鏡用の試料台に取り付けて像を観察していた。
【0004】
機械研磨の場合、例えば高分子材料やアルミニウムのように柔らかい試料では、観察表面がつぶれる、あるいは研磨剤の粒子によって深い傷が残るといった問題があった。又、例えばガラスあるいはセラミックのように固い試料では研磨が難しく、柔らかい材料と固い材料とが積層された複合材料では、断面加工が極めて難しいという問題があった。
【0005】
これに対し、イオンミリングは、柔らかい試料でも表面の形態がつぶれることなく加工できる、固い試料および複合材料の研磨が可能である。鏡面状態の断面を容易に得ることができるという効果がある。
【0006】
特許文献1には、イオンミリング装置の試料ホルダおよびホルダ固定具に関して記載されている。
【0007】
特許文献2には、真空チャンバ内に配置され、試料にイオンビームを照射するためのイオンビーム照射手段と、前記真空チャンバ内に配置され、前記イオンビームにほぼ垂直な方向の傾斜軸をもつ傾斜ステージと、その傾斜ステージ上に配置され、前記試料を保持する試料ホルダと、前記傾斜ステージ上に位置し、前記試料を照射するイオンビームの一部を遮る遮蔽材とを具えた試料作製装置であり、前記傾斜ステージの傾斜角を変化させながら、前記イオンビームによる試料加工を行うようにし、試料の位置調整用の光学顕微鏡が試料ステージ引出し機構の上端部に取り付けられた試料作製装置が記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開平9−293475号公報
【特許文献2】特開2005−91094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のイオンミリング装置では、ミリングされた試料を固定した試料ホルダをSEM試料台支持部に取り付けるに際して、試料ホルダとSEM試料台支持部との間に取り付けのためのSEM試料台を設け、SEM試料台にミリングされた試料を固定した試料ホルダを接着固定しており、両者間の距離が長くなる、面倒な作業という問題があった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みて、試料を固定した試料ホルダをSEM試料台支持部に取り付けるに際して、試料ホルダとSEM試料台支持部との間に取り付けのために用いられて来たSEM試料台を設けることなく取り付けることができ、以って両者間の距離を短くし、試料ホルダをSEM試料台支持部に近接配置できるようにすること、ミリングされた試料を容易にSEMで観察できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、真空チャンバに取り付けられ、試料にイオンビームを照射するイオンビーム源と、試料を固定する試料ホルダを固定する試料ホルダ固定具と、前記試料ホルダ,該試料ホルダに固定された試料の一部を遮蔽するマスク,前記試料ホルダを回転する試料回転機構および前記マスクと試料との遮蔽位置関係を調整するマスク位置調整部から構成される試料マスクユニットと、および前記マスクと試料との遮蔽位置関係を観測する光学顕微鏡とを備えたイオンミリング装置において、
前記試料ホルダに、前記試料の研磨されて観察される面の裏側の面に、SEM試料台支持部に設けたおねじ部に直接ねじ挿入されるめねじ穴を設け、当該おねじ部を当該めねじ部に直接ねじ挿入することによって、試料を固定した前記試料ホルダをSEM試料台を介さずに直接SEM試料台支持台に固定できるようにしたこと
を特徴とするイオンミリング装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試料を固定した試料ホルダをSEM試料台支持部に取り付けるに際して、試料ホルダとSEM試料台支持部との間に取り付けのために用いられて来たSEM試料台を設けることなく取り付けることができ、以って両者間の距離を短くし、試料ホルダをSEM試料台支持部に近接配置できるようにすること、ミリングされた試料を容易にSEMで観察できるようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明によるイオンミリング装置の構成を示したものであり、試料マスクユニットと試料ホルダ固定具が真空チャンバの内部に設置されている状態を示している。以下では、イオン源からアルゴンイオンビームを照射する場合について説明する。従って、以下でイオンビームはアルゴンイオンビームを意味するが、本実施例はアルゴンイオンビームに限定されない。
【0015】
アルゴンイオンのイオン源1におけるアルゴンイオンの電流密度は、イオン源制御部7で制御される。真空チャンバ15は真空排気系制御部9にて真空排気系6を制御して真空又は大気の状態にでき、その状態を保持できる。
【0016】
試料微動ベース5は、試料2を固定する試料ホルダ23を固定し、イオンビームの光軸に対して任意の角度に回転傾斜できるように構成されており、回転傾斜させる方向と傾斜角度は、試料微動制御部8により制御される。試料微動ベース5を回転傾斜させることにより、試料ホルダ23に固定されている試料3をイオンビームの光軸に対して所定の角度に設定することができる。また、試料マスクユニット微動機構4は、イオンビームの光軸に対して横方向の前後左右、すなわち、X方向とY方向に移動できるように構成される。
【0017】
試料微動ベース5は、真空チャンバ15の容器壁の一部を兼ねるフランジ10に回転機構を介して配置されており、フランジ10をリニアガイド11に沿って引き出して真空チャンバ15を大気状態に開放した時に、試料微動ベース5が真空チャンバの外部へ引き出されるように構成されている。このようにして、試料ステージ引出機構が構成される。
【0018】
試料マスクユニット本体の構成を図2により説明する。図2の(a)は平面図、(b)は側面図である。実施例では、少なくとも試料ホルダ23とその回転機構、マスク2とその微調整機構とを一体に構成したものを試料マスクユニット(本体)21と称する。図2では、試料ホルダ23の回転機構として試料ホルダ回転リング22と試料ホルダ回転ねじ28が備えられており、イオンビームの光軸に対して、垂直に試料ホルダを回転できるようにしている。
【0019】
試料マスクユニット21は、マスクの位置と回転角を微調整できる機構を持ち、試料マスクユニット微動機構4に取り付け、取り外しができる。
【0020】
マスク2はマスクホルダ25にマスク固定ねじ27により固定される。マスクホルダ25はマスク微調整機構(すなわちマスク位置調整部)26を操作することによってリニアガイド24に沿って移動し、これにより試料3とマスク2の位置が微調整される。試料ホルダ23は、下部側より試料ホルダ回転リング22に挿入され固定される。試料3は試料ホルダ23に接着固定される。試料ホルダ位置制御機構30により試料ホルダ23の高さ方向の位置を調整し、試料ホルダ23をマスク2に密着させる。
【0021】
試料ホルダ回転リング22は、試料ホルダ回転ねじ28を回すことによって回転するように構成されており、逆回転はばね29のばね圧で戻るようになっている。
【0022】
図3は、試料マスクユニット21の他の例を示す。この例にあっては、試料ホルダ固定金具35を使用しており、他の構成は図2に示す例と基本的に同一である。図3(a)は、試料3を固定した試料ホルダ23を試料マスクユニット21内に装着した状態を示し、図3(b)は試料3を固定した試料ホルダ23を試料マスクユニット21から取り外した状態を示す。
【0023】
図4は試料3を固定した試料ホルダ23の詳細を示す図であり、図4(a)は試料3を固定した試料ホルダ23の正面51にSEM試料台支持部への固定用ねじ穴52を設けた状態を示す図であり、図4(b)は当該試料ホルダ23をSEM試料台支持部34に取り付けた状態を示す図である。
【0024】
これらの図に示すように、試料ホルダ23の裏面(試料3の鏡面研磨面39の反対側の面)51にSEM試料台支持部への固定用ねじ穴52が設けられる。図4(b)に示すように、SEM試料台支持部34には上述のねじ穴52に直接ねじ挿入されるねじ部53が設けてあり、ねじ部53はねじ穴52に直接ねじ挿入される。
【0025】
図6は、SEM試料台支持部34に試料ホルダ23をねじ部53およびねじ穴52によって直接ねじ挿入(ねじ螺合)し、固定した状態を示す。この状態でSEMによる試料3の研磨面の観察がなされることになる。
【0026】
図5は、本実施例との比較のために従来例の構造を示す図である。従来例にあっては、SEM試料台支持部34に設けたねじ部54は直接ねじ穴52にねじ挿入されず、中間材であるSEM試料台33を設け、SEM試料台33に設けられ、直接ねじ穴52にねじ挿入されるねじ部(図示せず)をSEM試料台33に設けて当該ねじ部をねじ穴52にねじ挿入することを行っていた。従って、試料3とSEM試料台支持部34との間の距離が長くなるという不都合があった。本実施例にあってはねじ穴52にSEM試料台支持部34に設けたねじ部53を直接ねじ挿入しているので試料3とSEM試料台支持部34との間を距離を小さくできるメリットがある。又、SEM試料台にミリングされた試料を固定した試料ホルダを接着固定する面倒な作業もしなくてよい。
【0027】
以上のように、試料ホルダ23の裏面51であって、前記マスク2の研磨されて観察される面39の反対側に面した面に、SEM試料台支持部34に設けたねじ部53が直接ねじ挿入されるねじ穴51が設けられる、当該ねじ部53を当該ねじ部51に直接ねじ挿入することによって試料3を固定した試料ホルダ23を中間材を介さずに直接SEM試料台支持部34に固定することができる。
【0028】
図7は、試料の断面とマスクを平行にする方法を示した説明図である。
試料ホルダ回転ねじ28を回してX1方向の位置調整を行い、試料3の断面とマスク2の稜線が平行になるよう後述するようにして顕微鏡下で微調整する。このとき、試料3の断面がマスクより僅かに突出、例えば50μm程度突出するようにマスク微調整機構26を回して設定する。
【0029】
図8は、試料ステージ引出機構30の構成を示す。試料ステージ引出機構30は、リニアガイド11とこれに固着されたフランジ10からなり、フランジ10に固着された試料微動ベース5は、リニアガイド10に沿って真空チャンバ15から引き出される。この操作に伴って、試料微動ベース5に設置された、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4が、すなわちマスク2,試料ホルダ23,試料3が真空チャンバ15から一体的に引き出される。
【0030】
本実施例において、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4は、試料微動ベース5に着脱自在に固定される構成を有する。従って、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4が真空チャンバ15の外部に引き出されると、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4を試料微動ベース5から着脱可能状態とされる。(試料マスクユニット21の着脱スタンバイ)
図8は、このような着脱自在の状態から、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4が着脱された状態を示す。この着脱は人手によって、もしくは適当な器具によって行う。
【0031】
一方、マスク2と試料3との遮蔽位置関係を観測する光学顕微鏡40は、図9に示すように、真空チャンバ15から別体に構成され、任意の場所に配置することが可能とされる。そして、光学顕微鏡40は、周知のループ21,ルーペ微動機構13を備える。更に、光学顕微鏡40は、観測台41上に取り外された試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4を装置するための固定台42が設けてあり、位置決め用の軸と穴によって再現性のある決まった位置に試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4は、固定台42上に設置される。
【0032】
図10は、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4を固定台42上に固定した状態を示す。
【0033】
図11は、試料3の断面研磨したい部位をイオンビーム中心に合わせる方法を示した説明図である。感光紙等を試料ホルダ23に取り付け、イオンビームを照射することによりできた痕、すなわちビーム中心とルーペの中心をルーペ微動機構13でX2,Y2を駆動して合わせておく。図3で試料3を設置した後の試料マスクユニット本体21を設置した試料マスクユニット微動機構4を固定台42に設置する。固定台42のX3,Y3方向の位置を調整してルーペ中心に合わせることで、イオンビーム中心と断面研磨したい部位を合わせることができる。
【0034】
このように、マスク2と試料3との遮蔽位置関係の調整時に、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4は、試料微動ベース5から取り外されて光学顕微鏡40の固定台42に装着され、マスク2は試料3に対する遮蔽位置関係がマスク位置調整部(マスク微調整機構)によって調整される。
【0035】
図12は、イオンビームで試料3の断面を鏡面研磨する方法を示した説明図である。アルゴンイオンビームを照射すると、マスク2で覆われていない試料3をマスク2に沿って、深さ方向に取り除くことができ、且つ、試料3の断面の表面を鏡面研磨することができる。
【0036】
このように、イオンミリング時に試料に対する遮蔽位置関係が調整されたマスク2を備えた試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4が試料微動ベース5に戻され、装着されることになる。
【0037】
以上のように、マスク2と試料3との遮蔽位置関係の調整時に、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4を試料微動ベース5から取り外して光学顕微鏡40の固定台42に装着し、マスクの試料3に対する遮蔽位置関係を調整し、イオンミリング時に、試料に対する遮蔽位置関係が調整されたマスク2を備えた試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4を真空チャンバ15内に戻し、試料微動ベース5に装着するようにしたイオンミリング方法が構成される。
【0038】
近年、特に半導体分野で、複合材料を電子顕微鏡で断面観察することが重要となってきており、複合材料の断面を鏡面研磨する重要性が増している。本実施例により、試料の断面観察したい部位にマスクを精度よく、容易に設定することが可能になった。本実施例において、複数個のマスク試料ユニット21を備えるようにすれば、あらかじめ多くの試料をマスク位置が微調整された状態で準備することが可能になり、きわめて効率的である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例によるイオンミリング装置の概略構成図である。
【図2】試料マスクユニットの概略構成図である。
【図3】試料マスクユニットの他の例を示す図である。
【図4】試料を固定した試料ホルダの構成図である。
【図5】従来の試料ホルダの構成図である。
【図6】本実施例の試料ホルダをSEM試料台支持部に取り付けた状態を示す図である。
【図7】試料の断面とマスクを平行にする方法を示した説明図である。
【図8】試料微動ベースを引き出し、試料マスクユニットを設置した試料マスクユニット微動機構を着脱した状態を示す図である。
【図9】別体と設けられた光学顕微鏡に試料マスクユニットを設置した試料マスクユニット微動機構を装着する状態を示す図である。
【図10】試料マスクユニットを設置した試料マスクユニット微動機構を光学顕微鏡に装着した状態を示す図である。
【図11】アルゴンイオンビーム中心と試料の断面研磨したい部位とを合わせる方法を示した説明図である。
【図12】イオンミリングによる試料断面研磨方法を示した説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1…イオン源、2…マスク、3…試料、4…試料マスクユニット微動機構、5…試料微動ベース、6…真空排気系、7…イオン源制御部、8…試料微動制御部、9…真空排気系制御部、10…フランジ、11…リニアガイド、12…ルーペ、13…ルーペ微動機構、15…真空チャンバ、21…試料マスクユニット、23…試料ホルダ、40…光学顕微鏡、41…観測台、42…固定台。
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査顕微鏡(SEM)や透過型顕微鏡(TEM)などで観察される試料を作製するためのイオンミリング装置およびイオンミリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンミリング装置は、金属,ガラス,セラミックなどの表面あるいは断面を、アルゴンイオンビームを照射するなどして研磨するための装置であり、電子顕微鏡により試料の表面あるいは断面を観察するための前処理装置として好適である。
【0003】
電子顕微鏡による試料の断面観察において、従来は観察したい部位の近傍を例えばダイヤモンドカッター,糸のこぎり等を使用して切断した後、切断面を機械研磨し、電子顕微鏡用の試料台に取り付けて像を観察していた。
【0004】
機械研磨の場合、例えば高分子材料やアルミニウムのように柔らかい試料では、観察表面がつぶれる、あるいは研磨剤の粒子によって深い傷が残るといった問題があった。又、例えばガラスあるいはセラミックのように固い試料では研磨が難しく、柔らかい材料と固い材料とが積層された複合材料では、断面加工が極めて難しいという問題があった。
【0005】
これに対し、イオンミリングは、柔らかい試料でも表面の形態がつぶれることなく加工できる、固い試料および複合材料の研磨が可能である。鏡面状態の断面を容易に得ることができるという効果がある。
【0006】
特許文献1には、イオンミリング装置の試料ホルダおよびホルダ固定具に関して記載されている。
【0007】
特許文献2には、真空チャンバ内に配置され、試料にイオンビームを照射するためのイオンビーム照射手段と、前記真空チャンバ内に配置され、前記イオンビームにほぼ垂直な方向の傾斜軸をもつ傾斜ステージと、その傾斜ステージ上に配置され、前記試料を保持する試料ホルダと、前記傾斜ステージ上に位置し、前記試料を照射するイオンビームの一部を遮る遮蔽材とを具えた試料作製装置であり、前記傾斜ステージの傾斜角を変化させながら、前記イオンビームによる試料加工を行うようにし、試料の位置調整用の光学顕微鏡が試料ステージ引出し機構の上端部に取り付けられた試料作製装置が記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開平9−293475号公報
【特許文献2】特開2005−91094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のイオンミリング装置では、ミリングされた試料を固定した試料ホルダをSEM試料台支持部に取り付けるに際して、試料ホルダとSEM試料台支持部との間に取り付けのためのSEM試料台を設け、SEM試料台にミリングされた試料を固定した試料ホルダを接着固定しており、両者間の距離が長くなる、面倒な作業という問題があった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みて、試料を固定した試料ホルダをSEM試料台支持部に取り付けるに際して、試料ホルダとSEM試料台支持部との間に取り付けのために用いられて来たSEM試料台を設けることなく取り付けることができ、以って両者間の距離を短くし、試料ホルダをSEM試料台支持部に近接配置できるようにすること、ミリングされた試料を容易にSEMで観察できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、真空チャンバに取り付けられ、試料にイオンビームを照射するイオンビーム源と、試料を固定する試料ホルダを固定する試料ホルダ固定具と、前記試料ホルダ,該試料ホルダに固定された試料の一部を遮蔽するマスク,前記試料ホルダを回転する試料回転機構および前記マスクと試料との遮蔽位置関係を調整するマスク位置調整部から構成される試料マスクユニットと、および前記マスクと試料との遮蔽位置関係を観測する光学顕微鏡とを備えたイオンミリング装置において、
前記試料ホルダに、前記試料の研磨されて観察される面の裏側の面に、SEM試料台支持部に設けたおねじ部に直接ねじ挿入されるめねじ穴を設け、当該おねじ部を当該めねじ部に直接ねじ挿入することによって、試料を固定した前記試料ホルダをSEM試料台を介さずに直接SEM試料台支持台に固定できるようにしたこと
を特徴とするイオンミリング装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試料を固定した試料ホルダをSEM試料台支持部に取り付けるに際して、試料ホルダとSEM試料台支持部との間に取り付けのために用いられて来たSEM試料台を設けることなく取り付けることができ、以って両者間の距離を短くし、試料ホルダをSEM試料台支持部に近接配置できるようにすること、ミリングされた試料を容易にSEMで観察できるようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明によるイオンミリング装置の構成を示したものであり、試料マスクユニットと試料ホルダ固定具が真空チャンバの内部に設置されている状態を示している。以下では、イオン源からアルゴンイオンビームを照射する場合について説明する。従って、以下でイオンビームはアルゴンイオンビームを意味するが、本実施例はアルゴンイオンビームに限定されない。
【0015】
アルゴンイオンのイオン源1におけるアルゴンイオンの電流密度は、イオン源制御部7で制御される。真空チャンバ15は真空排気系制御部9にて真空排気系6を制御して真空又は大気の状態にでき、その状態を保持できる。
【0016】
試料微動ベース5は、試料2を固定する試料ホルダ23を固定し、イオンビームの光軸に対して任意の角度に回転傾斜できるように構成されており、回転傾斜させる方向と傾斜角度は、試料微動制御部8により制御される。試料微動ベース5を回転傾斜させることにより、試料ホルダ23に固定されている試料3をイオンビームの光軸に対して所定の角度に設定することができる。また、試料マスクユニット微動機構4は、イオンビームの光軸に対して横方向の前後左右、すなわち、X方向とY方向に移動できるように構成される。
【0017】
試料微動ベース5は、真空チャンバ15の容器壁の一部を兼ねるフランジ10に回転機構を介して配置されており、フランジ10をリニアガイド11に沿って引き出して真空チャンバ15を大気状態に開放した時に、試料微動ベース5が真空チャンバの外部へ引き出されるように構成されている。このようにして、試料ステージ引出機構が構成される。
【0018】
試料マスクユニット本体の構成を図2により説明する。図2の(a)は平面図、(b)は側面図である。実施例では、少なくとも試料ホルダ23とその回転機構、マスク2とその微調整機構とを一体に構成したものを試料マスクユニット(本体)21と称する。図2では、試料ホルダ23の回転機構として試料ホルダ回転リング22と試料ホルダ回転ねじ28が備えられており、イオンビームの光軸に対して、垂直に試料ホルダを回転できるようにしている。
【0019】
試料マスクユニット21は、マスクの位置と回転角を微調整できる機構を持ち、試料マスクユニット微動機構4に取り付け、取り外しができる。
【0020】
マスク2はマスクホルダ25にマスク固定ねじ27により固定される。マスクホルダ25はマスク微調整機構(すなわちマスク位置調整部)26を操作することによってリニアガイド24に沿って移動し、これにより試料3とマスク2の位置が微調整される。試料ホルダ23は、下部側より試料ホルダ回転リング22に挿入され固定される。試料3は試料ホルダ23に接着固定される。試料ホルダ位置制御機構30により試料ホルダ23の高さ方向の位置を調整し、試料ホルダ23をマスク2に密着させる。
【0021】
試料ホルダ回転リング22は、試料ホルダ回転ねじ28を回すことによって回転するように構成されており、逆回転はばね29のばね圧で戻るようになっている。
【0022】
図3は、試料マスクユニット21の他の例を示す。この例にあっては、試料ホルダ固定金具35を使用しており、他の構成は図2に示す例と基本的に同一である。図3(a)は、試料3を固定した試料ホルダ23を試料マスクユニット21内に装着した状態を示し、図3(b)は試料3を固定した試料ホルダ23を試料マスクユニット21から取り外した状態を示す。
【0023】
図4は試料3を固定した試料ホルダ23の詳細を示す図であり、図4(a)は試料3を固定した試料ホルダ23の正面51にSEM試料台支持部への固定用ねじ穴52を設けた状態を示す図であり、図4(b)は当該試料ホルダ23をSEM試料台支持部34に取り付けた状態を示す図である。
【0024】
これらの図に示すように、試料ホルダ23の裏面(試料3の鏡面研磨面39の反対側の面)51にSEM試料台支持部への固定用ねじ穴52が設けられる。図4(b)に示すように、SEM試料台支持部34には上述のねじ穴52に直接ねじ挿入されるねじ部53が設けてあり、ねじ部53はねじ穴52に直接ねじ挿入される。
【0025】
図6は、SEM試料台支持部34に試料ホルダ23をねじ部53およびねじ穴52によって直接ねじ挿入(ねじ螺合)し、固定した状態を示す。この状態でSEMによる試料3の研磨面の観察がなされることになる。
【0026】
図5は、本実施例との比較のために従来例の構造を示す図である。従来例にあっては、SEM試料台支持部34に設けたねじ部54は直接ねじ穴52にねじ挿入されず、中間材であるSEM試料台33を設け、SEM試料台33に設けられ、直接ねじ穴52にねじ挿入されるねじ部(図示せず)をSEM試料台33に設けて当該ねじ部をねじ穴52にねじ挿入することを行っていた。従って、試料3とSEM試料台支持部34との間の距離が長くなるという不都合があった。本実施例にあってはねじ穴52にSEM試料台支持部34に設けたねじ部53を直接ねじ挿入しているので試料3とSEM試料台支持部34との間を距離を小さくできるメリットがある。又、SEM試料台にミリングされた試料を固定した試料ホルダを接着固定する面倒な作業もしなくてよい。
【0027】
以上のように、試料ホルダ23の裏面51であって、前記マスク2の研磨されて観察される面39の反対側に面した面に、SEM試料台支持部34に設けたねじ部53が直接ねじ挿入されるねじ穴51が設けられる、当該ねじ部53を当該ねじ部51に直接ねじ挿入することによって試料3を固定した試料ホルダ23を中間材を介さずに直接SEM試料台支持部34に固定することができる。
【0028】
図7は、試料の断面とマスクを平行にする方法を示した説明図である。
試料ホルダ回転ねじ28を回してX1方向の位置調整を行い、試料3の断面とマスク2の稜線が平行になるよう後述するようにして顕微鏡下で微調整する。このとき、試料3の断面がマスクより僅かに突出、例えば50μm程度突出するようにマスク微調整機構26を回して設定する。
【0029】
図8は、試料ステージ引出機構30の構成を示す。試料ステージ引出機構30は、リニアガイド11とこれに固着されたフランジ10からなり、フランジ10に固着された試料微動ベース5は、リニアガイド10に沿って真空チャンバ15から引き出される。この操作に伴って、試料微動ベース5に設置された、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4が、すなわちマスク2,試料ホルダ23,試料3が真空チャンバ15から一体的に引き出される。
【0030】
本実施例において、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4は、試料微動ベース5に着脱自在に固定される構成を有する。従って、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4が真空チャンバ15の外部に引き出されると、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4を試料微動ベース5から着脱可能状態とされる。(試料マスクユニット21の着脱スタンバイ)
図8は、このような着脱自在の状態から、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4が着脱された状態を示す。この着脱は人手によって、もしくは適当な器具によって行う。
【0031】
一方、マスク2と試料3との遮蔽位置関係を観測する光学顕微鏡40は、図9に示すように、真空チャンバ15から別体に構成され、任意の場所に配置することが可能とされる。そして、光学顕微鏡40は、周知のループ21,ルーペ微動機構13を備える。更に、光学顕微鏡40は、観測台41上に取り外された試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4を装置するための固定台42が設けてあり、位置決め用の軸と穴によって再現性のある決まった位置に試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4は、固定台42上に設置される。
【0032】
図10は、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4を固定台42上に固定した状態を示す。
【0033】
図11は、試料3の断面研磨したい部位をイオンビーム中心に合わせる方法を示した説明図である。感光紙等を試料ホルダ23に取り付け、イオンビームを照射することによりできた痕、すなわちビーム中心とルーペの中心をルーペ微動機構13でX2,Y2を駆動して合わせておく。図3で試料3を設置した後の試料マスクユニット本体21を設置した試料マスクユニット微動機構4を固定台42に設置する。固定台42のX3,Y3方向の位置を調整してルーペ中心に合わせることで、イオンビーム中心と断面研磨したい部位を合わせることができる。
【0034】
このように、マスク2と試料3との遮蔽位置関係の調整時に、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4は、試料微動ベース5から取り外されて光学顕微鏡40の固定台42に装着され、マスク2は試料3に対する遮蔽位置関係がマスク位置調整部(マスク微調整機構)によって調整される。
【0035】
図12は、イオンビームで試料3の断面を鏡面研磨する方法を示した説明図である。アルゴンイオンビームを照射すると、マスク2で覆われていない試料3をマスク2に沿って、深さ方向に取り除くことができ、且つ、試料3の断面の表面を鏡面研磨することができる。
【0036】
このように、イオンミリング時に試料に対する遮蔽位置関係が調整されたマスク2を備えた試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4が試料微動ベース5に戻され、装着されることになる。
【0037】
以上のように、マスク2と試料3との遮蔽位置関係の調整時に、試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4を試料微動ベース5から取り外して光学顕微鏡40の固定台42に装着し、マスクの試料3に対する遮蔽位置関係を調整し、イオンミリング時に、試料に対する遮蔽位置関係が調整されたマスク2を備えた試料マスクユニット21を設置した試料マスクユニット微動機構4を真空チャンバ15内に戻し、試料微動ベース5に装着するようにしたイオンミリング方法が構成される。
【0038】
近年、特に半導体分野で、複合材料を電子顕微鏡で断面観察することが重要となってきており、複合材料の断面を鏡面研磨する重要性が増している。本実施例により、試料の断面観察したい部位にマスクを精度よく、容易に設定することが可能になった。本実施例において、複数個のマスク試料ユニット21を備えるようにすれば、あらかじめ多くの試料をマスク位置が微調整された状態で準備することが可能になり、きわめて効率的である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例によるイオンミリング装置の概略構成図である。
【図2】試料マスクユニットの概略構成図である。
【図3】試料マスクユニットの他の例を示す図である。
【図4】試料を固定した試料ホルダの構成図である。
【図5】従来の試料ホルダの構成図である。
【図6】本実施例の試料ホルダをSEM試料台支持部に取り付けた状態を示す図である。
【図7】試料の断面とマスクを平行にする方法を示した説明図である。
【図8】試料微動ベースを引き出し、試料マスクユニットを設置した試料マスクユニット微動機構を着脱した状態を示す図である。
【図9】別体と設けられた光学顕微鏡に試料マスクユニットを設置した試料マスクユニット微動機構を装着する状態を示す図である。
【図10】試料マスクユニットを設置した試料マスクユニット微動機構を光学顕微鏡に装着した状態を示す図である。
【図11】アルゴンイオンビーム中心と試料の断面研磨したい部位とを合わせる方法を示した説明図である。
【図12】イオンミリングによる試料断面研磨方法を示した説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1…イオン源、2…マスク、3…試料、4…試料マスクユニット微動機構、5…試料微動ベース、6…真空排気系、7…イオン源制御部、8…試料微動制御部、9…真空排気系制御部、10…フランジ、11…リニアガイド、12…ルーペ、13…ルーペ微動機構、15…真空チャンバ、21…試料マスクユニット、23…試料ホルダ、40…光学顕微鏡、41…観測台、42…固定台。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバに取り付けられ、試料にイオンビームを照射するイオンビーム源と、試料を固定する試料ホルダを固定する試料ホルダ固定具と、前記試料ホルダ,該試料ホルダに固定された試料の一部を遮蔽するマスク,前記試料ホルダを回転する試料回転機構および前記マスクと試料との遮蔽位置関係を調整するマスク位置調整部から構成される試料マスクユニットと、および前記マスクと試料との遮蔽位置関係を観測する光学顕微鏡とを備えたイオンミリング装置において、
前記試料ホルダに、前記試料の研磨されて観察される面の裏側の面に、SEM試料台支持部に設けたおねじ部に直接ねじ挿入されるめねじ穴を設け、当該おねじ部を当該めねじ部に直接ねじ挿入することによって、試料を固定した前記試料ホルダをSEM試料台を介さずに直接SEM試料台支持台に固定できるようにしたこと
を特徴とするイオンミリング装置。
【請求項1】
真空チャンバに取り付けられ、試料にイオンビームを照射するイオンビーム源と、試料を固定する試料ホルダを固定する試料ホルダ固定具と、前記試料ホルダ,該試料ホルダに固定された試料の一部を遮蔽するマスク,前記試料ホルダを回転する試料回転機構および前記マスクと試料との遮蔽位置関係を調整するマスク位置調整部から構成される試料マスクユニットと、および前記マスクと試料との遮蔽位置関係を観測する光学顕微鏡とを備えたイオンミリング装置において、
前記試料ホルダに、前記試料の研磨されて観察される面の裏側の面に、SEM試料台支持部に設けたおねじ部に直接ねじ挿入されるめねじ穴を設け、当該おねじ部を当該めねじ部に直接ねじ挿入することによって、試料を固定した前記試料ホルダをSEM試料台を介さずに直接SEM試料台支持台に固定できるようにしたこと
を特徴とするイオンミリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−18920(P2007−18920A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200442(P2005−200442)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】
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