説明

イオン交換フィルタ

【課題】極低濃度イオンを除去する能力と、高い透水性と長寿命を有するイオン交換フィルタを提供する。
【解決手段】イオン交換フィルタ1は、芯材2と、この芯材2の外周に巻回された、流路材シート4とイオン交換シート5との積層シート3とを備えている。イオン交換シート5は、イオン交換繊維の不織布6,6間にイオン交換キャスト膜7を介在させたものである。流路材シート4とイオン交換シート5との間にイオン交換樹脂が配材されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換フィルタに係り、特にロール状に巻回されたイオン交換シート及び流路材シートを有するイオン交換フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中のイオン成分等を除去するためのイオン交換フィルタとして、不織布あるいは多孔質膜といった平膜をプリーツ型にしたもの(例えば特許文献1)がある。
【0003】
イオン交換膜として、イオン交換樹脂を溶媒中に溶解または分散させてキャスト原液とし、該キャスト原液を基材フィルム上にキャストさせた後、乾燥させて、次いで該基材フィルムから剥離させたキャスト膜が公知である(例えば特許文献2,3)。この特許文献3には、相分離法を利用して製造した多孔質のイオン交換膜が記載されている。
【0004】
繊維径がナノメーターオーダーである極細のナノファイバの製造方法として電界紡糸法(静電紡糸法)が公知である(下記特許文献4,5等)。この電界紡糸法では、ノズルとターゲットとの間に電界を形成しておき、該ノズルから液状原料を細繊維状に吐出させて紡糸が行われる。細繊維は、ターゲット上に集積されて繊維体となる。なお、本発明者は、イオン交換基を有する極細の繊維(ナノファイバ)を用いたイオン交換フィルタを提案している(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−206509
【特許文献2】特開2000−327809
【特許文献3】特開2006−193709
【特許文献4】特開2007−92237
【特許文献5】特開2006−144138
【特許文献6】特開2009−219952
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プリーツ型イオン交換フィルタは、プリーツの折り込み部分に流れが偏りやすく、上述の超純水のような極低濃度域では十分な除去率を得ることはできない。また、膜厚が薄いために破過が早く寿命が短い。また、イオン除去率を向上させるため、膜厚を厚くしたり、膜の細孔を小さくすると、透水性が犠牲となる。
【0007】
イオン交換基を有するナノファイバを用いたイオン交換フィルタは、イオン除去性能に優れるが、形成される細孔が小さくなり、膜厚が厚くなると圧力損失が大きくなるという課題がある。
【0008】
本発明は、イオン交換能が高く、しかも、高い透水性と長寿命を有するイオン交換フィルタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1のイオン交換フィルタは、イオン交換シートと流路材シートとの積層シートが芯材の外周にスパイラル状に巻回されたイオン交換フィルタにおいて、該流路材シートとイオン交換シートとの間に粒状体を配材したことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2のイオン交換フィルタは、請求項1において、前記粒状体がイオン交換樹脂であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3のイオン交換フィルタは、請求項1又は2において、粒状体の容積が流路材シートの目開き部分の容積の5〜50%であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4のイオン交換フィルタは、請求項1ないし3のいずれか1項において、粒状体の平均粒径が前記流路材シートの平均厚さの50〜150%であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5のイオン交換フィルタは、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記イオン交換シートが、イオン交換繊維からなるイオン交換繊維布とイオン交換キャスト膜の一方、又は両方を重ねたものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のイオン交換フィルタは、芯材の外周に流路材シートとイオン交換シートとの積層シートをスパイラル状に巻回したものである。このイオン交換フィルタの一端面から他端面に向って被処理液が通液されるか、又は、芯材から放射方向に、もしくは逆に芯材に向って求心方向に被処理液が通液される。このように積層シートが流路材シートを有するので、圧損が小さい。また、一端面から他端面まで通液する場合には、両端面の間のイオン交換シートの全体が吸着帯となり、吸着帯長さが大きいので、イオンの破過までの時間が長くなり、イオン交換の寿命が長いものとなる。
【0015】
本発明では、この流路材シートとイオン交換シートとの間に粒状体を配材しているので、流路材シートが巻回時の圧迫力によって押し潰されたり、イオン交換シートが流路材シートの目開き部分に押し込まれたりすることが防止され、通液圧損が小さい。粒状体としてイオン交換樹脂を用いた場合には、イオン交換フィルタのイオン交換容量も増大する。
【0016】
なお、本発明においては、イオン交換シートの少なくとも一部をイオン交換繊維布で構成してもよい。このように構成した場合、被処理液とイオン交換繊維布との接触面積が大きいので、十分に脱イオン処理される。
【0017】
本発明では、イオン交換シートの少なくとも一部をイオン交換キャスト膜で構成してもよい。この場合、イオン交換フィルタのイオン交換容量が大きくなる。
【0018】
イオン交換シートを、イオン交換繊維布と、これに接するイオン交換キャスト膜とで構成した場合、イオン交換繊維布で吸着したイオンをイオン交換キャスト膜に移動させて保持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係るイオン交換フィルタを示す構成図である。
【図2】実施の形態に係るイオン交換フィルタユニットの断面図である。
【図3】イオン交換フィルタシステムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、以下の説明では被処理液として水が通水されるが、水以外の液体であってもよい。
【0021】
第1図の(a)図は実施の形態で用いられるイオン交換フィルタ1の製作方法を示す断面図、(b)図は積層シートの断面図、(c)図はイオン交換フィルタの斜視図である。
【0022】
このイオン交換フィルタ1は、芯材2と、この芯材2の外周に巻回された積層シート3とを有する。この積層シート3は、流路材シート4とイオン交換シート5とを積層したものである。芯材2は中実の棒状であってもよいが、重量軽減のために中空パイプ状であってもよい。ただし、水がパイプ内を長手方向に流れないようにパイプの端部を閉止する。また、パイプの外周面にも孔を設けない。芯材の直径は1〜50mm特に3〜20mm程度が好適である。芯材の材質はポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンのほか、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂が好適であるが、これに限定されない。
【0023】
流路材シート4は、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステル、ポリスルホンなどの合成樹脂よりなる不織布、織布、格子状ネットなど通水用空隙を有するものを用いることができるが、格子状ネット(メッシュ)が好適である。流路材シートの厚さは0.1mm〜3mm、特に0.2〜2mm程度が好適であり、細孔径は0.1〜6mm(目開き:30%〜90%)程度が好適である。
【0024】
この実施の形態では、この流路材シート4とイオン交換シート5との間に、粒状体としてイオン交換樹脂を充填し、イオン交換フィルタのイオン交換容量を大きくすると共に、巻回時の圧迫力による流路材シート4の潰れや、流路材シート4の目開き部分にイオン交換シート5が押し込まれることを防止する。このイオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂のいずれでもよく、両者を併用してもよい。
【0025】
イオン交換樹脂の平均粒径は流路材シート4の平均厚さの50〜150%特に60〜120%程度が好適である。
【0026】
このイオン交換樹脂の配材量は、流路材シートの目開き部分の体積(空隙容積)の50%以下、例えば5〜30%程度とするのが好ましい。イオン交換樹脂量が多過ぎると、イオン交換フィルタの通水圧損が大きくなる。
【0027】
イオン交換樹脂を流路材シートとイオン交換シート5との間に配材するには、イオン交換フィルタの製作時にイオン交換樹脂を流路材シート上に散布したり、イオン交換樹脂の分散水を流路材シート上に注ぎかけたり、水溶性のペーストに分散させたイオン交換樹脂を流路材シートの間隙に塗布したりすればよい。
【0028】
イオン交換シート5は、イオン交換繊維の織布、イオン交換繊維の不織布、イオン交換キャスト膜などのみからなってもよく、これらの2種以上を組み合わせたものであってもよい。また、イオン交換シート5は、第1図(b)のように、イオン交換繊維の不織布6,6間にイオン交換キャスト膜7を介在させた3層構造のものであってもよい。このイオン交換シート5の好適例については後に詳述する。
【0029】
この積層シート3を芯材2の外周にロール状(渦巻状)に巻回してイオン交換フィルタ1とする。この巻き付けによる層の数(芯材2を回転させる場合は、合計の回転数)は10〜200特に30〜100程度が好適である。積層シート3を巻き付けるとロール状巻回体となる。
【0030】
第1図(c)の通り、このロール状巻回体よりなるイオン交換フィルタ1の一端面から他端面に向って被処理水が通水される。
【0031】
第2図は、第1図(c)のイオン交換フィルタ1を組み込んだイオン交換フィルタユニット10を示す平面図である。
【0032】
このイオン交換フィルタユニット10は、被処理水の流入口11と濾過水の流出口12とを有した円筒状のハウジング13内にイオン交換フィルタ1を同軸状に配置したものである。流出口12には、ノズル14aを有したエンドプレート14が取り付けられている。図示は省略するが、イオン交換フィルタ1の外周面とハウジング13の内周面との間にはリング状シール部材が設けられる。
【0033】
第3図のように、このイオン交換フィルタユニット10を耐圧容器17内に配置し、流出ノズルを容器出口部18に接続する。そして、耐圧容器17の供給口16からこの耐圧容器17内に被処理水を供給してイオン交換フィルタユニット10内に流入させ、濾過水(処理水)を出口部18から取り出す。
【0034】
なお、図示は省略するが、第2図のイオン交換フィルタユニット10において、右端面にもノズル14a付きのエンドプレート14を取り付け、一方の端面のノズル14aから被処理水をハウジング13内に供給し、他方の端面のノズル14aから処理水を取り出すようにしてもよい。
【0035】
上記説明では、イオン交換フィルタ1の一端面から他端面に通水する方式としているが、求心方向又は放射方向の通水方式としてもよい。即ち、芯材2を有孔とし、ロール状巻回体よりなるイオン交換フィルタの外周面から求心方向に通水して芯材2から処理水を取り出したり、逆に芯材2内から放射方向に通水してロール状巻回体よりなるイオン交換フィルタの外周面から処理水を取り出すようにしてもよい。このように求心方向又は放射方向の通水方式とする場合、イオン交換シート5に切れ目や小孔を設けて通水圧損を小さくするようにしてもよい。
【0036】
求心方向に通水する場合、イオン交換フィルタは、例えば第3図のように、耐圧容器17内に配置し、イオン交換フィルタ1の外周面から被処理水を流入させ、濾過水を出口部18から取り出すように用いられる。当然ながら、芯材2の出口部18と反対側の端面はブラインドプレート等によって閉鎖される。
【0037】
[イオン交換シート及びこれを芯材に巻回したイオン交換フィルタの詳細な説明]
イオン交換シートには、前述の通り、イオン交換キャスト膜や、イオン交換繊維の織布又は不織布などが用いられる。以下に、これらについて詳細に説明する。
【0038】
(1) イオン交換繊維シート
イオン交換繊維としては以下の(a)〜(d)の材料を電界紡糸法又は溶融紡糸法で紡糸したものが好適である。イオン交換繊維シートは、これらを単独又は複合で用いて不織布または織布としたものである。
【0039】
(a)荷電性高分子繊維としてパーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン(FuMA−Tech社製)
(b)非荷電性高分子繊維からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたもの
(c)荷電性高分子繊維としてパーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン)を骨格材に担持して骨格材と一体化したもの
(d)非荷電性高分子繊維からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたものを骨格材と一体化したもの
【0040】
イオン交換繊維シートの厚さは0.01〜1mm程度が好適であり、細孔径は0.1〜100μm(エアーフロー法により測定、以下同様)程度が好適であり、イオン交換容量は0.05〜3meq/g、0.03〜1.5meq/cm程度が好適である。イオン交換基のない繊維を紡糸して繊維シートを作成した後に、グラフト重合法や他の化学反応法(求電子置換反応、付加反応など)によりイオン交換基を繊維シートに付与することもできる。
【0041】
上記の非荷電性高分子としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリビニリデンフロライドなどが例示される。
【0042】
イオン交換基としては、種々のカチオン交換基又はアニオン交換基等を用いることができる。例えば、カチオン交換基としては、スルホン基などの強酸性カチオン交換基、リン酸基などの中酸性カチオン交換基、カルボキシル基などの弱酸性カチオン交換基、アニオン交換基としては、第1級〜第3級アミノ基などの弱塩基性アニオン交換基、第4級アンモニウム基などの強塩基性アニオン交換基を用いることができ、或いは、上記カチオン交換基及びアニオン交換基の両方を併有するイオン交換体を用いることもできる。
【0043】
骨格材としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリビニリデンフロライドなどからなる不織布、織布などが例示される。
【0044】
イオン交換繊維としては、相当直径が1〜1000nm、特に10〜700nm程度の著しく細い繊維が好適である。ここで「相当直径」とは、1本の繊維(ファイバ)の断面積と断面積の外周長さとから、(相当直径)=4×(断面積)/(断面の外周長さ)によって算出される値である。
【0045】
イオン交換繊維の長さは、1μm以上が好適である。なお、電解紡糸で作製した場合、数cmの長さにすることができ、また連続的に紡糸することもできるため、さらに数倍以上に長くすることができる。
【0046】
なお、イオン交換繊維を紡糸する際、荷電性高分子は、単独で紡糸することが難しい場合があり、紡糸出来ても繊維同士の荷電反発により、かさ(嵩)が高くなって収まりが悪くなり(即ち、嵩密度が低くなり)、フィルタ化に適さないことがある。一方、非電解質高分子は、単独で紡糸することが容易なものを選定することが可能で、紡糸後、繊維同士の反発がないため、フィルタ化し易い。そのため、電解質ポリマーと非電解質ポリマーを混合して紡糸することにより、両者の優れた特徴を有する繊維を得ることができる。電界紡糸においては、紡糸時の紡糸性も向上する。
【0047】
(2) イオン交換キャスト膜
イオン交換キャスト膜としては以下の(e)〜(h)の1種又は2種以上を用いて相分離法などにより製造した多孔質膜(フィルム)が好適である。このフィルムをさらに延伸してもよい。
【0048】
(e)パーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン)をガラスなどの基板上に塗布した後に基板を取り除いたフィルム状のもの
(f)非荷電性高分子からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたものをガラスなどの基板上に塗布した後に基板を取り除いたフィルム状のもの
(g)パーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン)を骨格材に塗布して骨格材と一体化したもの
(h)非荷電性高分子からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたものを骨格材に塗布して骨格材と一体化したもの
【0049】
このキャスト膜の厚さは0.01〜1mm程度が好適であり、細孔径は10μm以下が好適であり、イオン交換容量は0.2〜4meq/g、0.1〜3meq/cm程度が好適である。非荷電性の高分子を成膜してキャスト膜を作成した後にグラフト重合法や、他の化学反応法(求電子置換反応、付加反応など)によりイオン交換基をキャスト膜に付与することもできる。
【0050】
非荷電性高分子、イオン交換基、骨格材としては上記のイオン交換繊維シートの場合と同様のものを用いることができる。
【0051】
(3) イオン交換繊維シートとイオン交換キャスト膜とを積層したイオン交換シートの長所
イオン交換繊維シートの繊維表面をイオン交換の場とすることにより、繊維周辺における流体の接触効率が向上するため、イオンの吸着速度が高まる。ただし、イオン交換繊維シートのみでは、吸着したイオンの保持容量に限界がある。
【0052】
一方、イオン交換キャスト膜の場合、イオンを除去するための官能基を高密度に保持させることができ、イオン除去容量を確保することができる。そこで、イオン交換繊維シートにイオン交換キャスト膜を接触させることで、イオン交換繊維に吸着させたイオンをイオン交換キャスト膜に移動させて高密度に保持させることができる。また、イオン交換シートをロール状に巻回したイオン交換フィルタに対し一端面から他端面に向って通水した場合、該イオン交換フィルタの巻回軸心方向の長さが吸着帯の長さとなり、吸着帯長さが大きくなる。これにより、破過時間が長くなり、フィルタの寿命が長くなる。
【0053】
イオン交換繊維シートの場合は、イオン交換繊維を細くして比表面積を大きくすることにより、イオン交換容量を高めることができる。一方、イオン交換キャスト膜はイオン交換繊維シートよりも緻密であり、透過抵抗は高くなる。
【0054】
そこで、これら、イオン交換繊維シートとイオン交換キャスト膜とを積層させたイオン交換シートと、流路材シートとを積層すると共に、ロール状イオン交換フィルタに対し一端面から他端面に向って通水すること、即ち芯材と平行に通水することにより、圧力損失が小さくなる。
【0055】
[粒状体の材料]
粒状体の材料として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、フッ素系樹脂、ポリスチレン・ジビニルベンゼン架橋物、およびこれらから誘導されるイオン交換樹脂、キレート樹脂を挙げることができる。
【0056】
イオン交換樹脂として、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂を用いることができる。カチオン交換樹脂としては、強酸性スルホン基を有するSK1B、弱酸性カルボキシル基を有するWK20、アニオン交換樹脂としては、強塩基性トリメチルアンモニウム基を有するSA10A、強塩基性ジメチルエタノールアンモニウム基を有するSA20A、弱塩基性1、2級アンモニウム基を有するWA20などを挙げることができる(以上の商品はいずれも三菱化学株式会社製)。
【0057】
キレート樹脂としては、ホウ素選択吸着性を有するCRBO2、2価カチオン選択吸着性を有するCR10、CR11などを挙げることができる。合成吸着材として、有機物吸着性を有するSP800、SP205などを挙げることができる(以上の商品はいずれも三菱化学株式会社製)。
【0058】
粒状体の平均粒径は、流路材の厚さの50〜150%、特に60〜120%が望ましく、形状として、球形、立方体、直方体のものを用いることができる。
【0059】
[被処理水]
本発明のイオン交換フィルタは、水中に溶解しているイオン性物質、コロイド、粒子の除去に好適に使用することができ、対象としては、市水、井水、河川水、湖水、工水を始め、生物処理、凝集処理、沈殿処理、加圧浮上処理、ろ過、活性炭処理、イオン交換樹脂処理、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透処理、電気再生式脱イオン処理、脱炭酸処理、UV処理などのいずれかの処理を施した水が例示される。
【0060】
被処理水のイオン濃度が高いと、フィルタの寿命が短くなり、交換頻度も多くなるため、イオン交換樹脂処理や逆浸透処理、電気再生式脱イオン処理等による前処理を実施する方が効率的になる。本発明のフィルタは、イオン濃度が低い水や、ある程度イオンが除去された水に対して、さらにイオンを除去する場合に有効である。例えば、比抵抗1MΩ・cm以上の超純水からさらにイオンを除去するために使用する場合を挙げることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0062】
下記のイオン交換キャスト膜A、流路材シートB、芯材C、イオン交換樹脂D,E、及びイオン交換不織布Fを用いてイオン交換フィルタを製造し、ハウジングに収容し、通水した。
【0063】
<材料>
・イオン交換キャスト膜A
カチオン交換膜Fumapen F940(Fumatec社製)を使用した。
・流路材シートB
ポリプロピレン製メッシュ、厚さ0.6mm、繊維太さ0.3mm、目開き75%を使用した。
・芯材C
フッ素樹脂製、直径3mm
・イオン交換樹脂D
カチオン交換樹脂SK1B(三菱化学株式会社製、含水率40%、平均粒径0.6mm)を用いた。
・イオン交換樹脂E
アニオン交換樹脂SA10A(三菱化学株式会社製、含水率40%、平均粒径0.6mm)を用いた。
・イオン交換不織布F
シリンジ径30Gのシリンジに、非電解質ポリマーと電解質ポリマーとを含む溶液としてナフィオン14重量%、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)9重量%、DMAc(ジメチルアセトアミド)77重量%の溶液を入れ、シリンジ側をプラス、繊維を捕集するターゲット側にマイナス50kVの電圧(4kV/cmの電位勾配)をかけることにより、カチオン交換繊維を紡糸し、それを積層させて直径300nmの繊維からなる厚さ30μmのカチオン交換繊維の不織布を製造した。
【0064】
<比較例1>
幅を5.6cmに揃えたイオン交換キャスト膜Aと流路材シートBとを積層し、芯材Cに巻き回してイオン交換フィルタを製作した。これをそのまま内径2cm、長さ9cmの円筒容器(ハウジング)に挿入した。
【0065】
<実施例1>
流路材シートBの上にイオン交換樹脂Dを流路材シート1cm当り6mgの割合で散布した。この散布はイオン交換樹脂Dの分散水(体積分率として50%)を流路材シート上に注ぎかけることにより行った。
【0066】
幅5.6cmのイオン交換キャスト膜Aと、幅6.5cmのイオン交換樹脂D含有流路材シートBとを積層し、芯材Cに巻回してイオン交換フィルタとし、内径2cm、長さ9cmの円筒容器の中央部に挿入した。
【0067】
比較例1、実施例1ともに、円筒容器に5%塩酸を24時間、3回通水し、イオン交換シート及びイオン交換樹脂のH型への置換を行い、超純水洗浄を48時間行った。
【0068】
<比較例2>
幅を5.6cmに揃えた、イオン交換不織布F、イオン交換キャスト膜A、イオン交換不織布F、及び、幅6.5cmの流路材シートBをこの順に重ねた積層シートを芯材Cに巻回してイオン交換不織布とし、内径2cm、長さ9cmの円筒容器に挿入した。
【0069】
<実施例2>
流路材シートBの上にイオン交換樹脂Dを流路材シート1cm当り6mgの割合で散布した。この散布は実施例1と同様にして行った。
【0070】
幅5.6cmのイオン交換不織布F、イオン交換キャスト膜A、イオン交換不織布Fと、幅6.5cmのイオン交換樹脂D含有流路材シートBとを積層し、芯材Cに巻回してイオン交換フィルタとし、内径2cm、長さ9cmの円筒容器の中央部に挿入した。
【0071】
比較例2、実施例2ともに、円筒容器に5%塩酸を24時間、3回通水し、イオン交換シート、あるいは樹脂のH型への置換を行い、超純水洗浄を48時間行った。
【0072】
<実施例3>
流路材シートBの目開き部分に、5%NaOHによってOH型とし、純水洗浄を行ったイオン交換樹脂Eを流路材シート1cm当り6mgの割合で散布した。この散布は実施例1と同様にして行った。
【0073】
5%塩酸によってH型とし、純水洗浄を行った、幅5.6cmのイオン交換キャスト膜Aと、幅6.5cmのイオン交換樹脂E含有流路材シートBとを積層し、芯材Cに巻回してイオン交換フィルタとし、内径2cm、長さ9cmの円筒容器の中央部に挿入した。
【0074】
<評価試験>
80ppbのNaClを添加した超純水を被処理水とし、これを流量1L/minで通水し、圧力損失と処理水Na濃度及びCl濃度を測定した。Na除去率は以下の式で算出した。Cl除去率の算出式も同様である。結果を表1に示す。
【0075】
Na除去率[%]=(1−[処理水Na濃度]/[被処理水Na濃度])×100
【0076】
【表1】

【0077】
<考察>
実施例1は、比較例1と比較して、圧力損失を増大させず、しかも処理水質が向上している。
【0078】
比較例2は、複数のイオン交換シートを使用したため、比較例1よりも圧力損失が若干高くなっているが、実施例2で示される通り、イオン交換樹脂を使用したことにより、圧力損失が低下し、Na除去率が向上している。
【0079】
実施例3では、圧力損失が低下し、アニオン交換樹脂によるCl除去が行われているとともに、比較例1よりもNa除去率が向上している。これは、対となるClイオンを除去した効果と考えられる。
【0080】
いずれの実施例でも、圧力損失の増加を抑えることができており、イオン交換樹脂を流路材シートに挿入することによる流路抵抗の増加よりも、流路の両側のイオン交換シートが流路を圧迫し、流路を狭くすることを防止することによる流路抵抗増加防止効果の方が大きいことが認められる。
【符号の説明】
【0081】
1 イオン交換フィルタ
2 芯材
3 積層シート
4 流路材シート
5 イオン交換シート
6 イオン交換繊維の不織布
7 イオン交換キャスト膜
10 液濾過用フィルタ
13 ハウジング
14 エンドプレート
18 取出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換シートと流路材シートとの積層シートが芯材の外周にスパイラル状に巻回されたイオン交換フィルタにおいて、
該流路材シートとイオン交換シートとの間に粒状体を配材したことを特徴とするイオン交換フィルタ。
【請求項2】
請求項1において、前記粒状体がイオン交換樹脂であることを特徴とするイオン交換フィルタ。
【請求項3】
請求項1又は2において、粒状体の容積が流路材シートの目開き部分の容積の5〜50%であることを特徴とするイオン交換フィルタ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、粒状体の平均粒径が前記流路材シートの平均厚さの50〜150%であることを特徴とするイオン交換フィルタ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記イオン交換シートが、イオン交換繊維からなるイオン交換繊維布とイオン交換キャスト膜の一方、又は両方を重ねたものであることを特徴とするイオン交換フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−196625(P2012−196625A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62803(P2011−62803)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】