説明

イオン交換反応及び微生物閉じ込め手段を利用して試料から微生物を分離する方法、微生物試料の前処理用容器、及び微生物分離装置

【課題】イオン交換反応及び微生物閉じ込め手段を利用して試料から微生物を分離する方法、微生物試料の前処理用容器、及び微生物分離装置を提供する。
【解決手段】微生物を含む試料を無機イオン交換物質と接触させて、前記試料と無機イオン交換物質とを反応させる段階と、前記反応された試料を微生物閉じ込め手段と接触させる段階とを含む試料から微生物を分離する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換反応及び微生物閉じ込め手段を利用して試料から微生物を分離する方法、微生物分離のための前処理用容器、及び微生物分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物を分離する方法には、遠心分離及びろ過の過程が一般的に使われていた。また、特定の細胞を濃縮または分離するためには、前記特定の細胞に特異的に結合する受容体またはリガンドが結合されている支持体に、前記細胞を特異的に結合させて、これを濃縮または分離する方法が使われていた。例えば、前記細胞に特異的な蛋白質に結合する抗体が結合されている支持体に、前記細胞が含まれている試料を流し、前記細胞を前記抗体に結合させ、結合していない細胞は洗浄する段階を含む親和性クロマトグラフィー方法が含まれる。
【0003】
また、特許文献1には、上部ガラス基板の両端に連結されており、外部からの電気的入力を機械的振動に変換して、前記上部ガラス基板に加える圧電変換器と、前記上部ガラス基板と平行な下部基板上に配列されたN個の電極とを備えるが、前記上部ガラス基板と下部基板との間には、細胞が混合された流体で充填され、前記各電極は、前記圧電変換器の長手方向と垂直に置かれ、前記N個の電極は、前記圧電変換器の長手方向に沿って一定間隔で配列されている細胞分離装置を備えることを特徴とする超音波場及び進行波誘電泳動を利用した細胞分離システムが開示されている。
【0004】
しかし、前記のような従来技術は、いずれも固体基板上にリガンドまたは受容体を固定化したり、外部動力を提供して特定の細胞を選択的に濃縮または分離するものである。したがって、固体支持体自体の特性及び液体培地の条件を利用して細胞を分離する方法及び装置は知られていない。
【0005】
また、固体支持体自体の特性及び液体培地の条件を利用して細胞を分離する方法において、細胞が固体支持体に結合することを妨害する試料中に存在する物質を、イオン交換反応によって除去する方法も知られていない。
【特許文献1】韓国特許公開第2006−0068979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、イオン交換反応及び微生物閉じ込め手段を利用して試料から微生物を分離する方法を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、微生物分離のための前処理用容器を提供することである。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、イオン交換反応及び微生物閉じ込め手段を利用して試料から微生物を分離する装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、微生物を含む試料を無機イオン交換物質と接触させて、前記試料と前記無機イオン交換物質とを反応させる段階と、前記反応された試料を微生物閉じ込め手段と接触させる段階とを含む試料から微生物を分離する方法を提供する。
【0010】
本発明の他の目的は、無機イオン交換物質が含まれている微生物を含む試料前処理用の容器を提供する。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、無機イオン交換物質が含まれている微生物を含む試料前処理用の第1容器と、前記第1容器と流体移動可能に連結されている微生物閉じ込め手段が含まれている第2容器とを備える微生物を含む試料から微生物を分離する装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の微生物の分離方法によれば、試料中に存在する細菌細胞、真菌細胞、またはウイルスを含む微生物細胞を効率的に分離できる。
【0013】
本発明の微生物を含む試料前処理用の容器によれば、試料中の微生物が固体支持体に付着する効率を高めるのに使われうる。
【0014】
本発明の微生物を分離する装置によれば、細菌細胞、真菌細胞、またはウイルスを含む微生物細胞を効率的に分離できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の試料から微生物を分離する方法は、微生物を含む試料を無機イオン交換物質と接触させて、前記試料と前記無機イオン交換物質とを反応させる段階を含む。
【0016】
本接触段階によって、微生物を含む試料と無機イオン交換物質とのイオン交換反応及び吸着反応などが起こる。前記反応によって、前記試料中のイオン物質及び有機物などが除去されて、前記試料中の微生物が固体支持体に付着することを妨害する物質らが除去されると推測されるが、本発明が特定のメカニズムに限定されるものではない。
【0017】
前記試料と無機イオン物質との接触段階において、前記微生物を含む試料は、生物学的試料、望ましくは、血液、尿、または唾液、さらに望ましくは、尿である。本発明の方法において、’’生物学的試料’’とは、個体から分離された細胞または生物学的液体のような細胞または組織物を含むか、またはこれらによって構成された試料を意味する。前記個体は、人間を含む動物でありうる。生物学的試料の例として、唾液、痰、血液、血液細胞(例えば、白血球、赤血球)、羊水、血清、精液、骨髄、組織または微細針状の生検試料、尿、腹膜液、肋膜液及び細胞培養物が含まれる。生物学的試料には、組織学的目的のために取られた冷凍切片のような組織切片が含まれる。
【0018】
前記試料と無機イオン物質との接触段階において、前記微生物は、細菌、真菌、またはウイルスであるが、これらの例に限定されるものではない。
【0019】
前記試料と無機イオン物質との接触段階において、前記無機イオン交換物質は、イオン交換特性を有する無機物質であれば、いずれも含まれる。前記無機イオン交換物質の例には、ゼオライト、砂、金属酸化物(例えば、SiO、Al、NaO)が含まれるが、これらの例に限定されるものではない。前記ゼオライトは、望ましくは、H型ゼオライトである。
【0020】
本発明において、ゼオライトとは、TO(T=AlまたはSi)で示される頂点共有四面体(corner−sharing tetrahedra)で構成される結晶性アルミノケイ酸塩である。1〜20Å未満の均質の分子サイズの細孔及びチャンネルを有し、広い表面積(約900m/g)を有する。ゼオライトは、イオン化可能な基がH、NHまたはNaであるか否かによって、それぞれH型、NH型、またはNa型という。前記H型ゼオライトは、NH型ゼオライトを550℃で2時間焼成して得られるが、この製造方法に限定されるものではない。商業的には、Aldrich社から提供されるゼオライトYがある。前記ゼオライトは、粉末形態または固体支持体に固定化されている形態であるが、特定の形態に限定されるものではない。
【0021】
前記試料と無機イオン物質との接触段階において、前記試料と無機イオン物質との接触は、溶液中で行われることが望ましい。前記無機イオン物質は、容器、例えばチューブ、マイクロチャンネルまたはマイクロチャンバに含まれているか、あるいはその壁面または底に固定化されていてもよい。前記試料と無機イオン物質との接触は、適当な温度(例えば、常温)で適当な時間、例えば10秒以上行われ、これは当業者によって容易に選択されうる。
【0022】
前記試料と無機イオン物質との接触段階によって、試料中の陽イオン性のイオン物質(Na、K等)の濃度が低くなる。それによって、微生物が固体支持体に付着することを妨害する物質の量を除去できる。また、吸着によってクレアチン及びPCR(Polymerase Chain Reaction)を阻害する物質(例えば、尿素)を除去できる。
【0023】
本発明の方法は、また、前記反応された試料を微生物閉じ込め手段と接触させる段階を含む。前記反応された試料は、イオン交換反応によってイオン物質が減少した試料である。
【0024】
前記微生物閉じ込め手段は、微生物を結合させる特性を有する物質であれば、いずれも含まれる。例えば、微生物を結合させる固体物質、半固形物質、または液体物質であるが、これらの例に限定されるものではない。前記微生物閉じ込め手段は、望ましくは、非平面状の固体支持体である。
【0025】
したがって、本発明の方法の一具体例は、微生物を含む試料を無機イオン交換物質と接触させて、前記試料と前記無機イオン交換物質とを反応させる段階と、前記反応された試料を非平面状の固体支持体とpH3.0〜6.0の範囲の液培地で接触させる段階とを含むものである。
【0026】
前記反応された試料と前記非平面状の固体支持体との接触によって、前記微生物は、前記非平面状の固体支持体に付着する。これは、固体支持体の表面積が増大すると同時に、pH3.0〜6.0の液体培地を使用することによって、微生物の細胞膜が変成し、溶液に対する溶解度が低下して、固体表面に付着する比率が相対的に高くなるためであると推測されるが、本発明の範囲がこのような特定のメカニズムに限定されるものではない。
【0027】
前記反応された試料と固体支持体との接触段階において、前記試料は、前記微生物を低いpHで緩衝可能である溶液または緩衝液によって希釈できる。望ましくは、前記緩衝液は、リン酸緩衝液(例えば、リン酸ナトリウム、pH3.0〜6.0)または酢酸緩衝液(酢酸ナトリウム、pH3.0〜6.0)で希釈されたものでありうる。前記リン酸ナトリウム緩衝液は、10mM〜500mM、望ましくは、50mM〜300mMのリン酸ナトリウム緩衝液でありうる。前記酢酸ナトリウム緩衝液は、10mM〜500mM、望ましくは、50mM〜300mMの酢酸ナトリウム緩衝液でありうる。前記希釈の程度は、特別に限定されないが、99:1〜1:1,000の倍率、望ましくは、99:1〜1:10の倍率、さらに望ましくは、99:1〜1:4で希釈されるものでありうる。
【0028】
前記反応された試料と固体支持体との接触段階において、前記試料は、10mM〜500mM、望ましくは、50mM〜300mMの塩濃度を有する。前記塩には、酢酸塩またはリン酸塩のような緩衝液溶液中に含まれた塩も含む。前記試料は、10mM〜500mM、望ましくは、50mM〜300mMのアセテート及びホスフェートから構成された群から選択されたイオン濃度を有する。
【0029】
前記反応された試料と固体支持体との接触段階において、前記固体支持体は、非平面状を有して、表面積が平面に比べて増大している表面を有するものである。前記固体支持体は、表面に凹凸構造が形成されているものであってもよい。本発明において、’’凹凸構造’’とは、表面が平らでなく凹面と凸面とがある構造をいう。このような凹凸構造には、複数個のピラーが形成されているピラー構造を有する表面、または複数個の孔隙が形成されている網状構造を有する表面が含まれるが、これらの例に限定されるものではない。
【0030】
前記反応された試料と固体支持体との接触段階において、前記非平面状の固体支持体は、任意の形状を有することができる。例えば、表面に複数個のピラーが形成されているピラー構造を有する固体支持体、ビーズ形状を有する固体支持体、及び表面に複数個の孔隙が形成されている篩構造を有する固体支持体からなる群から選択されるものでありうる。前記固体支持体は、単独でまたは複数個の前記固体支持体の組み合わせ(例えば、管または容器内に充填された集合体)で使われうる。
【0031】
前記反応された試料と固体支持体との接触段階において、前記固体支持体は、チューブまたは微細流動装置内のマイクロチャンネルまたはマイクロチャンバの内壁の形態でありうる。したがって、本発明の微生物を分離する方法は、一つ以上の入口及び出口が備えられており、前記入口及び出口がチャンネルまたはマイクロチャンネルを介して流体疎通可能に連結されている流動装置または微細流動装置内で行われうる。
【0032】
本明細書において、’’微細流動装置(microfluidic device)’’という用語は、微細流動チャンネル(また、マイクロチャンネルまたはマイクロレベルのチャンネルとも言われる)のような微細流動要素(microfluidic elements)を含む微細流動装置をいう。本明細書で使われた’’微細流動 (microfluidic)’’という用語は、約0.1μm〜1000μmの深さ、広さ、長さ、直径のような一つ以上の断面積次元を含む装置部分(component)、例えば、チャンバ、チャンネル、保存所などを示す。したがって、’’マイクロチャンバ(microchamber)’’及び’’マイクロチャンネル(microchannel)’’という用語は、それぞれ約0.1μm〜1000μmの深さ、広さ、長さ、直径のような一つ以上の断面積次元を含むチャンネル及びチャンバを示す。
【0033】
本発明の方法の一具体例は、本発明の方法において、前記反応された試料と固体支持体との接触段階において、前記固体支持体は、その表面に複数個のピラーが形成されているピラー構造を有しうる。固体支持体上にピラーを製造することは、当業界で周知である。例えば、半導体製造工程に使われるフォトリソグラフィ工程などを使用して微細ピラーを高密度で形成させることができる。前記ピラーは、アスペクト比、すなわちピラーの高さ:ピラーの断面の長さが1:1〜20:1であることが望ましいが、前記範囲に限定されるものではない。本発明において、「アスペクト比」とは、ピラーの断面の長さとピラーの高さとの比率を意味する。前記断面の長さとは、ピラーの断面形状が円の場合には断面の直径を意味し、断面形状が四方形の場合には各辺の長さの平均値を意味する。前記ピラー構造は、ピラーの高さとピラー間の距離との比率が、1:1〜25:1でありうる。前記ピラー構造は、ピラー間の距離が5μm〜100μm、望ましくは、5μm〜50μmの範囲を有するものでありうる。
【0034】
また、本発明に係る固体支持体の形状は、特に制限されるものではなく、例えば非平面状のものが好ましい。
【0035】
本発明の方法において、前記反応された試料と固体支持体との接触段階において、前記非平面状の固体支持体は、水接触角が70゜〜95゜である疎水性を有するものでありうる。前記水接触角が70゜〜95゜である疎水性は、固体支持体の表面をオクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウム(OTC)及びトリデカフルオロテトラヒドロオクチルトリメトキシシラン(DFS)からなる群から選択された化合物がコーティングされて、付与されるものでありうる。前記水接触角が70゜〜95゜である表面は、望ましくは、固体支持体のSiO層にOTC及びDFSからなる群から選択された化合物が自己組織化単分子(SAM)コーティングされているものでありうる。
【0036】
本願において、’’水接触角(water contact angle)’’という用語は、Kruss Drop Shape Analysis System type DSA 10 Mk2によって測定された水接触角を示す。1.5μlの蒸溜水滴を試料上に自動的に位置させた。前記水滴をCCD−カメラによって0.2秒ごとに10秒間モニターし、Drop Shape Analysis software(DSA version 1.7,Kruss)によって分析した。前記水滴の完全な形状は、タンジェント方法によって一般に円錐曲線の切片方程式(conic section equation)に適合化した(fitted)。前記角は、右側及び左側でいずれも決定された。各水滴に対する平均値を測定し、試料当たり全て5滴を測定した。前記5滴の平均を前記水接触角とした。
【0037】
本発明の方法において、前記反応された試料と固体支持体との接触段階において、前記非平面状の固体支持体は、表面にアミン系の官能基を一つ以上有するものでありうる。前記アミン系の官能基を一つ以上有する表面は、前記固体支持体の表面にポリエチレンイミントリメトキシシラン(PEIM)がコーティングされているものでありうる。前記コーティングされた表面は、望ましくは、固体支持体のSiO層にPEIMがSAMコーティングされているものでありうる。前記アミン系の官能基は、pH3.0〜6.0の範囲で正電荷を帯びる。
【0038】
本発明の方法において、前記反応された試料と固体支持体との接触段階において、前記固体支持体は、前記のような水接触角特性を有するもの、またはその表面に一つ以上のアミン系官能基を有するものであれば、いずれの材質の支持体も含まれる。例えば、ガラス、シリコンウェーハ、及びプラスチック物質などが含まれるが、これらの例に限定されるものではない。前記水接触角が70゜〜95゜である表面、またはその表面に一つ以上のアミン系官能基を有する表面は、前記表面を有する固体支持体に微生物を含む試料が接触する場合に、微生物が付着すると推測されるが、本発明が特定のメカニズムに限定されるものではない。
【0039】
本発明の微生物を分離する方法は、前記反応された試料と固体支持体との接触段階後に、前記固体支持体に付着していない目的微生物以外の物質を洗浄する段階をさらに含みうる。前記洗浄には、前記固体支持体の表面に付着した目的微生物は、前記固体支持体から離脱させることなく、後続工程に悪影響を及ぼしうる不純物を除去できる任意の溶液が使われうる。例えば、結合緩衝液として使われた酢酸緩衝液及びリン酸緩衝液などが使われうる。すなわち、前記リン酸緩衝液は、10mM〜500mM、望ましくは、50mM〜300mMのリン酸ナトリウム緩衝液でありうる。前記酢酸緩衝液は、10mM〜500mM、望ましくは、50mM〜300mMの酢酸ナトリウム緩衝液でありうる。前記洗浄溶液は、望ましくは、pH3.0〜6.0の範囲に含まれるpHを有する緩衝液である。
【0040】
本発明において、’’微生物の分離’’とは、試料中の微生物を純粋に分離することだけでなく濃縮することも含む。
【0041】
本発明の方法によって、前記固体支持体上に付着して濃縮された微生物は、前記固体支持体上に付着した状態でDNAの分離のような追加的な処理段階に使われうる。また、前記固体支持体上に付着して濃縮された微生物は、前記固体支持体から溶出して追加的な処理段階に使われうる。
【0042】
したがって、本発明の方法は、前記反応された試料と固体支持体との接触段階及び/または洗浄段階後に、前記付着した微生物を溶出する段階をさらに含んでもよい。前記溶出段階において、溶出に使われる溶液は、前記固体支持体から微生物を離脱させる性質を有するものであれば、当業界に知られた任意の溶液が使われうる。例えば、水及びトリス緩衝液、望ましくは、10mM〜1000mMのトリス緩衝液などが使われうる。前記溶出溶液は、望ましくは、pH6.0以上の溶液である。
【0043】
本発明はまた、前記の本願の方法によって分離された微生物から核酸分離、核酸増幅反応及び核酸混成化反応からなる群から選択された一つ以上の過程を前記固体支持体が含まれている同じ空間または異なる空間で行うことを特徴とする、微生物を処理する方法を提供する。前記核酸分離、核酸増幅及び核酸混成化反応は、当業界に知られた任意の方法でありうる。
【0044】
本発明はまた、無機イオン交換物質が含まれている微生物を含む試料前処理用の容器を提供する。
【0045】
本発明の容器において、前記無機イオン交換物質は、イオン交換特性を有する無機物質であれば、いずれも含まれる。前記無機イオン交換物質の例としては、ゼオライト、砂、金属酸化物(例えば、SiO、Al、NaO)が含まれるが、これらの例に限定されるものではない。前記ゼオライトは、望ましくは、H型ゼオライトである。
【0046】
本発明において、ゼオライトとは、TO(T=AlまたはSi)で示される頂点共有四面体(corner−sharing tetrahedra)で構成される結晶性アルミノケイ酸塩である。1〜20Å未満の均質の分子サイズの細孔及びチャンネルを有し、広い表面積(約900m/g)を有する。ゼオライトは、イオン化可能な基がH、NHまたはNaであるか否かによって、それぞれH型、NH型、またはNa型という。前記H型ゼオライトは、NH型ゼオライトを550℃で2時間焼成して得られるが、この製造方法に限定されるものではない。商業的には、Aldrich社から提供されるゼオライトYがある。前記ゼオライトは、粉末形態または固体支持体に固定化されている形態であるが、特定の形態に限定されるものではない。
【0047】
本発明の容器において、前記無機イオン物質は、容器、例えば、チューブまたはマイクロチャンネルまたはマイクロチャンバに含まれているが、またはその壁面または底に固定化されているものでありうる。したがって、本発明の容器は、無機イオン物質が含まれているか、あるいは固定化されているチューブ、マイクロチャンネルまたはマイクロチャンバでありうる。また、本発明の容器は、前記マイクロチャンネル及びマイクロチャンバを含む微細流動装置またはラボオンチップでありうる。
【0048】
本発明の容器において、前記微生物を含む試料は、生物学的試料、望ましくは、血液、尿、または唾液、さらに望ましくは、尿である。本発明の方法において、’’生物学的試料’’とは、個体から分離された細胞または生物学的液体のような細胞または組織物を含むか、またはこれらによって構成された試料を意味する。前記個体は、人間を含む動物でありうる。生物学的試料の例として、唾液、痰、血液、血液細胞(例えば、白血球、赤血球)、羊水、血清、精液、骨髄、組織または微細針状の生検試料、尿、腹膜液、肋膜液及び細胞培養物が含まれる。生物学的試料には、組織学的目的のために取られた冷凍切片のような組織切片が含まれる。前記試料と無機イオン物質との接触段階において、前記微生物は、細菌、真菌、またはウイルスであるが、これらの例に限定されるものではない。
【0049】
本発明の容器は、前記容器中の無機イオン物質と微生物を含む試料とを接触させて、前記試料中の細胞が固体支持体に結合することを妨害する物質を除去する前処理を行うのに使用するためのものである。
【0050】
本発明の容器は、前記試料を注入し、排出するための入口及び出口を含みうる。
【0051】
本発明はまた、無機イオン交換物質が含まれている微生物を含む試料前処理用の第1容器と、前記第1容器と流体疎通可能に連結されている微生物閉じ込め手段が含まれている第2容器とを備える、微生物を含む試料から微生物を分離する装置を提供する。
【0052】
本発明の微生物を含む試料から微生物を分離する装置は、前記した無機イオン物質が含まれている微生物を含む試料前処理用の容器(以下、第1容器)が微生物閉じ込め手段が含まれている第2容器と流体疎通可能に連結されていることを特徴とする。
【0053】
前記第1容器において、前記無機イオン交換物質は、イオン交換特性を有する無機物質であれば、いずれも含まれる。前記無機イオン交換物質の例としては、ゼオライト、砂、金属酸化物(例えば、SiO、Al、NaO)が含まれるが、これらの例に限定されるものではない。前記ゼオライトは、望ましくは、H型ゼオライトである。
【0054】
本発明において、ゼオライトとは、TO(T=AlまたはSi)で示される頂点共有四面体(corner−sharing tetrahedra)で構成される結晶性アルミノケイ酸塩である。1〜20Å未満の均質の分子サイズの細孔及びチャンネルを有し、広い表面積(約900m/g)を有する。ゼオライトは、イオン化可能な基がH、NHまたはNaであるか否かによって、それぞれH型、NH型、またはNa型という。前記H型ゼオライトは、NH型ゼオライトを550℃で2時間焼成して得られるが、この製造方法に限定されるものではない。商業的には、Aldrich社から提供されるゼオライトYがある。前記ゼオライトは、粉末形態または固体支持体に固定化されている形態であるが、特定の形態に限定されるものではない。
【0055】
前記無機イオン物質は、第1容器、例えば、チューブまたはマイクロチャンネルまたはマイクロチャンバに含まれているか、またはその壁面または底に固定化されているものでありうる。したがって、本発明の容器は、無機イオン物質が含まれているか、あるいは固定化されているチューブ、マイクロチャンネル、またはマイクロチャンバでありうる。また、本発明の容器は、前記マイクロチャンネル及びマイクロチャンバを含む微細流動装置またはラボオンチップでありうる。
【0056】
前記第1容器において、前記微生物を含む試料は、生物学的試料、望ましくは、血液、尿、または唾液、さらに望ましくは、尿である。本発明の方法において、’’生物学的試料’’とは、個体から分離された細胞または生物学的液体のような細胞または組織物を含むか、またはこれらによって構成された試料を意味する。前記個体は、人間を含む動物でありうる。生物学的試料の例として、唾液、痰、血液、血液細胞(例えば、白血球、赤血球)、羊水、血清、精液、骨髄、組織または微細針状の生検試料、尿、腹膜液、肋膜液及び細胞培養物が含まれる。生物学的試料には、組織学的目的のために取られた冷凍切片のような組織切片が含まれる。前記試料と無機イオン物質との接触段階において、前記微生物は、細菌、真菌、またはウイルスであるが、これらの例に限定されるものではない。
【0057】
前記第1容器は、前記容器中の無機イオン物質と微生物を含む試料とを接触させて、前記試料中の細胞が固体支持体に結合することを妨害する物質を除去する前処理を行うのに使用するためのものである。
【0058】
前記第1容器は、前記試料を注入するための入口をさらに含みうる。
【0059】
本発明の微生物を含む試料から微生物を分離する装置において、前記第2容器は、前記第1容器と流体疎通可能に連結されている。また、前記装置は、第1容器と第2容器との連結部品に備えられたバルブとポンプをさらに備え、前記第1容器から第2容器への試料の移動を調節できる。
【0060】
前記第2容器に含まれている前記微生物閉じ込め手段は、その特性及び微生物を含む試料の塩濃度及びpHなどの特性によって、微生物をその表面に付着させることができる。
【0061】
前記微生物閉じ込め手段は、微生物を結合させる特性を有する物質であれば、いずれも含まれる。例えば、微生物を結合させる固体物質、半固形物質、または液体物質でありうるが、これらの例に限定されるものではない。前記微生物閉じ込め手段は、望ましくは、非平面状の固体支持体である。
【0062】
したがって、本発明の装置の一具体例は、無機イオン交換物質が含まれている微生物を含む試料前処理用の第1容器と、前記第1容器と流体疎通可能に連結されている非平面状の固体支持体が含まれている第2容器とを備える、微生物を含む試料から微生物を分離する装置である。
【0063】
前記第2容器に含まれている前記固体支持体は、非平面状を有して表面積が平面に比べて増大している表面を有するものである。前記固体支持体は、表面に凹凸構造が形成されているものであってもよい。本発明において、’’凹凸構造’’とは、表面が平らでなく凹面と凸面とがある構造をいう。このような凹凸構造には、複数個のピラーが形成されているピラー構造を有する表面、または複数個の孔隙が形成されている網状構造を有する表面が含まれるが、これらの例に限定されるものではない。
【0064】
前記第2容器に含まれている前記非平面状の固体支持体は、任意の形状を有することができる。例えば、表面に複数個のピラーが形成されているピラー構造を有する固体支持体、ビーズ形状を有する固体支持体、及び表面に複数個の孔隙が形成されている篩構造を有する固体支持体からなる群から選択されるものでありうる。前記固体支持体は、単独でまたは複数個の前記固体支持体の組み合わせ(例えば、管または容器内に充填された集合体)で使われうる。
【0065】
前記第2容器に含まれている前記固体支持体は、チューブ、カラムまたは微細流動装置内のマイクロチャンネルまたはマイクロチャンバの内壁の形態でありうる。したがって、前記第2容器の一形態は、一つ以上の入口及び出口が備えられており、前記入口及び出口がチャンネルまたはマイクロチャンネルを介して流体疎通可能に連結されている流動装置または微細流動装置内で行われうる。また、前記第2容器は、前記固体支持体が固定化されているか、または含まれているラボオンチップの形態でありうる。本発明の容器の一具体例は、ビーズ形状の前記固体支持体がカラム内に充填されている容器である。
【0066】
前記第2容器に含まれている、前記固体支持体は、その表面に複数個のピラーが形成されているピラー構造を有しうる。固体支持体上にピラーを製造することは、当業界で周知である。例えば、半導体製造工程に使われるフォトリソグラフィ工程などを使用して微細ピラーを高密度で形成することができる。前記ピラーは、アスペクト比、すなわちピラーの高さ:ピラーの断面の長さが1:1〜20:1であることが望ましいが、前記範囲に限定されるものではない。本発明において、「アスペクト比」とは、ピラーの断面の長さとピラーの高さとの比率を意味する。前記断面の長さとは、ピラーの断面形状が円の場合には断面の直径を意味し、断面形状が四方形の場合には各辺の長さの平均値を意味する。前記ピラー構造は、ピラーの高さとピラー間の距離との比率が、1:1〜25:1でありうる。前記ピラー構造は、ピラー間の距離が5μm〜100μm、望ましくは、5μm〜50μmの範囲を有するものでありうる。
【0067】
前記第2容器に含まれている前記非平面状の固体支持体は、 水接触角が70゜〜95゜である疎水性を有するものでありうる。前記水接触角が70゜〜95゜である疎水性は、固体支持体の表面をオクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウム(OTC)及びトリデカフルオロテトラヒドロオクチルトリメトキシシラン(DFS)からなる群から選択された化合物がコーティングされて、付与されるものでありうる。前記水接触角が70゜〜95゜である表面は、望ましくは、固体支持体のSiO層にOTC及びDFSからなる群から選択された化合物が自己組織化単分子(SAM)コーティングされているものでありうる。
【0068】
前記第2容器に含まれている前記非平面状の固体支持体は、表面にアミン系の官能基を一つ以上有するものでありうる。前記アミン系の官能基を一つ以上有する表面は、前記固体支持体の表面にポリエチレンイミントリメトキシシラン(PEIM)がコーティングされているものでありうる。前記コーティングされた表面は、望ましくは、固体支持体のSiO層にPEIMがSAMコーティングされているものでありうる。前記アミン系の官能基は、pH3.0〜6.0の範囲で正電荷を帯びる。
【0069】
前記第2容器に含まれている前記固体支持体は、 前記のような水接触角特性を有するもの、またはその表面に一つ以上のアミン系官能基を有するものであれば、いずれの材質の支持体も含まれる。例えば、ガラス、シリコンウェーハ、及びプラスチック物質などが含まれるが、これらの例に限定されるものではない。前記水接触角が70゜〜95゜である表面、またはその表面に一つ以上のアミン系官能基を有する表面は、前記表面を有する固体支持体に微生物を含む試料が接触する場合に、微生物が付着すると推測されるが、本発明が特定のメカニズムに限定されるものではない。
【0070】
以下、本発明を、実施例を通じてさらに詳細に説明する。しかし、以下の実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の技術的範囲が以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
実施例1:ピラーアレイが形成された表面を有する固体支持体を利用した尿模倣液中の大腸菌の濃縮:細胞閉じ込めを妨害する因子探索
本実施例では、入口と出口とが備えられており、サイズ10mMx23mmであるシリコンチップ上にピラーアレイが形成された表面を有するチャンバを備える流動装置に、細菌細胞を含む試料を流しながら、細胞を前記固体支持体上に付着させ、流れ出る試料中の細菌細胞の数をコロニー計数を通じて決定し、これから前記固体支持体による細菌細胞閉じ込め効率を計算した。前記ピラーアレイにおいて、ピラー間の距離は12μmであり、ピラーの高さが100μmであり、各ピラーの断面は、一辺の長さが25μmである正方形である。
【0072】
前記ピラーアレイが形成された領域の表面は、SiO層上にOTCがSAMコーティングされた表面を有する。
【0073】
前記細胞試料は、0.01 OD600の大腸菌を含む、酢酸ナトリウム緩衝液に基づいた溶液と透析された尿に基づいた溶液とを使用した。
【0074】
前記酢酸ナトリウム緩衝液に基づいた溶液(pH4.0)は、次の通りである:
緩衝液:100mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)。
【0075】
緩衝液+塩:100mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)に、塩濃度が88mM NaCl、67mM KCl、38mM NHCl、及び18mM NaSOとなるように、NaCl 0.514g、KCl 0.5g、NHCl 0.203g、NaSO 0.259gを添加して得られた溶液。
【0076】
緩衝液+塩+尿素:前記’’緩衝液+塩’’溶液に333mMの尿素を含む溶液。
【0077】
緩衝液+塩+尿素+クレアチン:前記’’緩衝液+塩’’溶液に333mMの尿素及び9.8mMのクレアチンを含む溶液。
【0078】
緩衝液+塩+尿素+クレアチン+尿酸:前記’’緩衝液+塩’’溶液に333mMの尿素、9.8mMのクレアチン、2.55mMの尿酸を含む溶液。
【0079】
緩衝液+塩+尿素+クレアチン+尿酸+グルコース:前記’’緩衝液+塩’’溶液に333mMの尿素、9.8mMのクレアチン、2.55mMの尿酸、及び0.6mMのグルコースを含む溶液。
【0080】
前記透析された尿に基づいた溶液は、透析された尿と2x前記酢酸ナトリウム緩衝液に基づいた各溶液とを1:1で混合して得られた、最終pHが3.97である。
【0081】
前記尿試料は、流速200μl/分で入口から前記チャンバを介して出口に200μlを流した。実験は、それぞれ3回繰り返した。細胞計数は、前記固体支持体に尿試料を流す前後の、出口を通じて出てきた流出液中の細胞を計算した。
【0082】
図1は、ピラーアレイが形成された表面を有する固体支持体を利用して尿中の大腸菌を分離した結果を示すものであり、尿の構成成分の影響を示すグラフである。尿内に存在する塩の濃度及びその他の物質(主にクレアチン)によって閉じ込め効率が低下することが分かる。
【0083】
実施例2:ピラーアレイが形成された表面を有する固体支持体を利用した尿中の大腸菌の濃縮:尿の希釈比率及び流速による濃縮効果の測定
本実施例では、入口と出口とが備えられており、サイズ10mMx23mmであるシリコンチップ上にピラーアレイが形成された表面を有するチャンバを有する流動装置に、細菌細胞を含む試料を流しながら、細菌細胞を前記固体支持体上に付着させ、流れ出る試料中の細胞の数をコロニー計数を通じて決定し、これから前記固体支持体による細菌細胞閉じ込め効率を計算した。前記ピラーアレイにおいて、ピラー間の距離は12μmであり、ピラーの高さが100μmであり、各ピラーの断面は、一辺の長さが25μmである正方形である。
【0084】
前記ピラーアレイが形成された領域の表面は、SiO層上にPEIMがSAMコーティングされた表面を有する。
【0085】
試料は次の通り準備した。緩衝液と尿とを希釈倍率に調節しながら最終体積が1mlとなるように混合した。ここに10μmの1.0 OD大腸菌を入れた。
【0086】
前記希釈された尿試料は、流速100μl/分、300μl/分、500μl/分で入口から前記チャンバを介して出口に200μlを流した。実験はそれぞれ3回繰り返した。細菌細胞の計数は、前記固体支持体に尿試料を流す前後の、出口を通じて出てきた流出液中の細胞を計算した。
【0087】
図2は、ピラーアレイが形成された表面を有する固体支持体を利用して尿中の大腸菌を濃縮した結果を示すものであり、尿の希釈及び流速による結果を示すグラフである。図2に示すように、希釈倍数が増加するにつれて、細胞閉じ込め効率が上昇し、流速が増加するにつれて、細胞閉じ込め効率が低下した。
【0088】
実施例1と実施例2に示すように、尿試料中には微生物が固体支持体に付着することを妨害する物質、例えば、イオン物質及びクレアチンなどが存在するため、尿中の微生物を固体支持体を利用して分離しようとする場合には、これらを除去する必要がある。また、尿中の微生物は、高い希釈比率、一般的に5倍以上で希釈したときに、固体支持体に付着する効率が高かった。
【0089】
実施例3:ゼオライト処理が固体支持体に微生物を結合することに及ぼす影響
まず、ゼオライトY(Aldrich社製)(NH4−Y形態)を550℃で2時間焼成してHY(H型ゼオライト)を製造した。
【0090】
次に、尿30μmを0.3gの前記H型ゼオライトと混合した後、200mMの酢酸緩衝液(pH3.0)と混合(1:1 v/v)した。ここに大腸菌をOD 0.01となるように添加した。対照群としては、ゼオライトを添加しないことを除いては同一にした。尿試料は、2種類の試料を使用した。その結果、前記尿試料のpHは、5〜8(尿1:pH6.2、尿2:pH6.8)でゼオライトと混合した後、約pH4に低下した。これは、イオン交換反応が起こったことを示す。対照群のpHは、尿1:pH6.2、尿2:pH6.8と変化がなかった。
【0091】
前記のようにイオン交換された尿試料を希釈し、非平面状の固体支持体に接触させて微生物を前記固体支持体に結合させ、それから各試料による細胞結合効率を測定した。
【0092】
入口と出口とが備えられており、サイズ10mMx23mmであるシリコンチップ上にピラーアレイが形成された表面を有するチャンバを有する流動装置に、前記イオン交換された大腸菌細胞を含む尿試料を流しながら、細胞を前記固体支持体上に付着させ、流れ出る試料中の大腸菌細胞の数を光学密度測定を通じて決定し、これから前記固体支持体による大腸菌細胞閉じ込め効率を計算した。前記ピラーアレイにおいて、ピラー間の距離は12μmであり、ピラーの高さが100μmであり、各ピラーの断面は、一辺の長さが25μmである正方形である。
【0093】
前記ピラーアレイが形成された領域の表面は、SiO層上にPEIMがSAMコーティングされた表面を有する。
【0094】
前記尿試料は、流速200μl/分で入口から前記チャンバを介して出口に200μlを流した。実験は、それぞれ2回繰り返した。図3ないし図6において、それぞれ繰り返し実験を示すもので、C1およびC2は、chip1とchip2の略字である。図3ないし図6において、白色及び黒色バーは、同じ試料形態に対する細胞結合効率に対する繰り返し実験を示す。細胞結合効率は、単位面積当たり初期細胞数−単位面積当たり回収された細胞数を示し、前記初期細胞数は、チップに試料を流す前の細胞数であり、前記回収された細胞数は、チップに試料を流した後に流れきた試料中に存在する細胞数を示す。細胞数は、コロニー計数法によって計数され、白色及び黒色バーは、それぞれ試料を40,000倍及び80,0000倍希釈して計数した結果である。
【0095】
図3は、尿試料のゼオライト処理が、微生物が固体支持体に付着する効率に及ぼす影響を示すグラフである。図3に示すように、ゼオライト処理した場合が、そうでない場合に比べて細胞結合効率が顕著に優れていた。特に、尿1に対して細胞結合効率が低く、この場合、ゼオライト処理したことが細胞結合効率に及ぼす効果が大きかった。これは、ゼオライト処理を経ることによって、尿形態に関係なく、一定レベル以上の細胞結合効率が得られるということを示す。
【0096】
実施例4:ゼオライト処理が固体支持体に微生物を結合することに及ぼす影響:NaY及びNHY型ゼオライトの影響
まず、ナトリウム型のゼオライトであるNa−Yとアンモニウム型のゼオライトNH4−Yとを購入した(Aldrich社製)。
【0097】
次に、尿30μmを0.3gの前記ナトリウム及びアンモニウム型のゼオライトとそれぞれ混合した後、200mMの酢酸緩衝液(pH3.0)と混合(1:1 v/v)した。ここに大腸菌をOD 0.01となるように添加した。対照群としては、ゼオライトを添加しないことを除いては同一にした。尿試料は、それぞれ2種類の試料を使用した。その結果、前記尿試料のpHは、それぞれNaY:pH6.2、pH7.0、NHY:pH5.9、pH6.5と変化がなかった。
【0098】
前記のように尿試料とゼオライトの混合物とを非平面状の固体支持体に接触させて、微生物を前記固体支持体に結合させ、それから各試料による細胞結合効率を測定した。
【0099】
入口と出口とが備えられており、サイズ10mMx23mmであるシリコンチップ上にピラーアレイが形成された表面を有するチャンバを有する流動装置に、前記イオン交換された大腸菌細胞を含む尿試料を流しながら、細胞を前記固体支持体上に付着させ、流れ出る試料中の大腸菌細胞の数を光学密度測定を通じて決定し、これから前記固体支持体による大腸菌細胞閉じ込め効率を計算した。前記ピラーアレイにおいて、ピラー間の距離は12μmであり、ピラーの高さが100μmであり、各ピラーの断面は、一辺の長さが25μmである正方形である。
【0100】
前記ピラーアレイが形成された領域の表面は、SiO層上にPEIMがSAMコーティングされた表面を有する。
【0101】
前記尿試料は、流速200μl/分で入口から前記チャンバを介して出口に200μlを流した。実験はそれぞれ3回繰り返した。細胞計数は、前記固体支持体に尿試料を流す前後の、出口を通じて出てきた流出液中の細胞数を決定した。
【0102】
図4及び図5は、それぞれアンモニウム型及びナトリウム型ゼオライトと混合された尿試料中の微生物が固体支持体に付着する効率を示すグラフである。図4及び5に示すように、アンモニウム型及びナトリウム型ゼオライトを使用する場合には、ゼオライトを使用しない場合に比べて、細胞結合効率が似ているか、低かった。
【0103】
これは、水素型ゼオライトと尿試料とのイオン交換反応によって、イオン交換反応が起こると同時に交換されたHイオンによってpHが低下することが、細胞結合効率に有利な効果を及ぼすということを示す。
【0104】
実施例5:ゼオライト処理が固体支持体に微生物を結合することに及ぼす影響:希釈した試料と、希釈せずにゼオライト処理した試料との比較
まず、ゼオライトY(Aldrich社製)(NH4−Y形態)を550℃で2時間焼成してHY(H型ゼオライト)を製造した。
【0105】
次に、尿30μmを0.3gの前記H型ゼオライトと混合した(希釈されていない尿試料)。対照群としては、尿30μmを200mMの酢酸緩衝液(pH3.0)30μm(1:1 v/v)と混合した(2倍希釈された尿試料)。ここに大腸菌をそれぞれOD 0.01となるように添加した。尿試料は、1種類の試料を使用した。その結果、前記尿試料のpHは7.4から、ゼオライトと混合した後に約pH3.8に低下した。これは、イオン交換反応が起こったことを示す。対照群の緩衝液によりpH4.2に低下した。
【0106】
前記のようにイオン交換された尿試料を非平面状の固体支持体に接触させて、微生物を前記固体支持体に結合させ、それから各試料による細胞結合効率を測定した。
【0107】
入口と出口とが備えられており、サイズ10mMx23mmであるシリコンチップ上にピラーアレイが形成された表面を有するチャンバを有する流動装置に、前記イオン交換された大腸菌細胞を含む尿試料を流しながら、細胞を前記固体支持体上に付着させ、流れ出る試料中の大腸菌細胞の数を光学密度測定を通じて決定し、これから前記固体支持体による大腸菌細胞閉じ込め効率を計算した。前記ピラーアレイにおいて、ピラー間の距離は12μmであり、ピラーの高さが100μmであり、各ピラーの断面は、一辺の長さが25μmである正方形である。
【0108】
前記ピラーアレイが形成された領域の表面は、SiO層上にPEIMがSAMコーティングされた表面を有する。
【0109】
前記尿試料は、流速200μl/分で入口から前記チャンバを介して出口に200μlを流した。実験は、それぞれ3回繰り返した。細胞計数は、前記固体支持体に尿試料を流す前後の、出口を通じて出てきた流出液中の細胞数を決定した。
【0110】
図6は、尿試料を希釈せずにゼオライトを通じてイオン交換させたものが、微生物が固体支持体に付着する効率に及ぼす影響を示すグラフである。図6に示すように、希釈せずにイオン交換反応をしたものが、希釈させたものより細胞結合効率が優れていた。すなわち、希釈による試料体積の増大なしにもイオン交換反応を通じて約25%程度の細胞結合効率が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、微生物の分離関連の技術分野に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】ピラーアレイが形成された表面を有する固体支持体を利用して尿中の大腸菌を分離した結果を示すものであり、尿の構成成分の影響を示すグラフである。
【図2】ピラーアレイが形成された表面を有する固体支持体を利用して尿中の大腸菌を濃縮した結果を示すものであり、尿の希釈及び流速による結果を示すグラフである。
【図3】尿試料のゼオライト処理が、微生物が固体支持体に付着する効率に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】アンモニウム型ゼオライトと混合された尿試料中の微生物が固体支持体に付着する効率を示すグラフである。
【図5】ナトリウム型ゼオライトと混合された尿試料中の微生物が固体支持体に付着する効率を示すグラフである。
【図6】尿試料を希釈せずにゼオライト処理したことが微生物が固体支持体に付着する効率に及ぼす影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を含む試料を無機イオン交換物質と接触させて、前記試料と前記無機イオン交換物質とを反応させる段階と、
前記反応された試料を微生物閉じ込め手段と接触させる段階と、を含む試料から微生物を分離する方法。
【請求項2】
前記反応された試料を微生物閉じ込め手段と接触させる段階は、前記反応された試料を固体支持体にpH3.0〜6.0の範囲の液体中で接触させる段階を含む請求項1に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項3】
前記試料は、尿である請求項1または請求項2に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項4】
前記微生物は、細菌、真菌、およびウイルスからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1〜3のいずれか1項に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項5】
前記無機イオン交換物質は、ゼオライトである請求項1〜4のいずれか1項に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項6】
前記ゼオライトは、H型ゼオライトである請求項5に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項7】
前記固体支持体は、表面に複数個のピラーが形成されているピラー構造を有する固体支持体、ビーズ形状を有する固体支持体、及び表面に複数個の孔隙が形成されている篩構造を有する固体支持体からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項8】
前記ピラーは、アスペクト比として、ピラーの高さ:ピラーの断面の長さが1:1〜20:1である請求項7に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項9】
前記ピラーは、ピラーの高さと最隣接するピラー間の距離との比率が1:1〜25:1である請求項7または8に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項10】
前記ピラーは、最隣接するピラー間の距離が5μm〜100μmの範囲を有する請求項7〜9のいずれか1項に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項11】
前記固体支持体は、水接触角が70゜〜95゜である疎水性を有することを特徴とする請求項2〜10のいずれか1項に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項12】
前記疎水性は、前記固体支持体の表面をオクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウム(OTC)、またはトリデカフルオロテトラヒドロオクチルトリメトキシシラン(DFS)の化合物でコーティングして付与される性質であることを特徴とする請求項11に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項13】
前記固体支持体は、表面にアミン系の官能基を一つ以上有することを特徴とする請求項2〜12のいずれか1項に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項14】
前記アミン系の官能基を一つ以上有する表面は、ポリエチレンイミントリメトキシシラン(PEIM)でコーティングされている請求項13に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項15】
前記反応された試料を微生物閉じ込め手段と接触させる段階前に、前記反応された試料をリン酸緩衝液または酢酸緩衝液で希釈する段階をさらに含む請求項2〜14のいずれか1項に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項16】
前記希釈は、99:1〜1:4の割合でなる請求項15に記載の試料から微生物を分離する方法。
【請求項17】
無機イオン交換物質が含まれている、微生物を含む試料の前処理用の容器。
【請求項18】
前記無機イオン交換物質は、ゼオライトである、請求項17に記載の微生物を含む試料前処理用の容器。
【請求項19】
前記ゼオライトは、H型ゼオライトである、請求項18に記載の微生物を含む試料前処理用の容器。
【請求項20】
前記微生物を含む試料は、尿である、請求項17〜19のいずれか1項に記載の微生物を含む試料前処理用の容器。
【請求項21】
請求項17〜20のいずれかに記載の容器は、チューブ、マイクロチャンネル、及びマイクロチャンバである、微生物を含む試料前処理用の容器。
【請求項22】
前記無機イオン交換物質は、前記容器に固定化されている、請求項17〜21に記載の微生物を含む試料前処理用の容器。
【請求項23】
無機イオン交換物質が含まれている微生物を含む試料前処理用の第1容器と、
前記第1容器と流体移動可能に連結されている微生物閉じ込め手段を備える第2容器と、を有する微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項24】
前記微生物閉じ込め手段は、固体支持体である、請求項23に記載の微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項25】
前記無機イオン交換物質は、ゼオライトである、請求項23または請求項24に記載の微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項26】
前記ゼオライトは、H型ゼオライトである、請求項25に記載の微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項27】
前記微生物を含む試料は、尿である、請求項23または請求項24に記載の微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項28】
前記第1及び第2容器は、チューブ、マイクロチャンネル、及びマイクロチャンバからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項23または請求項24に記載の微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項29】
前記無機イオン交換物質は、前記第1容器に固定化されている、請求項23または請求項24に記載の微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項30】
前記第2容器は、緩衝液溶液保存部をさらに備える、請求項23または請求項24に記載の微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項31】
前記固体支持体は、表面に複数個のピラーが形成されているピラー構造を有する固体支持体、ビーズ形状を有する固体支持体、及び表面に複数個の孔隙が形成されている篩構造を有する固体支持体からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項24または請求項25に記載の微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項32】
前記ピラーは、アスペクト比として、ピラーの高さ:ピラーの断面の長さが1:1〜20:1である、請求項31に記載の微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項33】
前記ピラーは、ピラーの高さと最隣接ピラー間の距離との比率が1:1〜25:1である、請求項31または32に記載の微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項34】
前記ピラーは、ピラー間の距離が5μm〜100μmの範囲を有する、請求項31〜33のいずれか1項に記載の微生物を含む試料から微生物を分離する装置。
【請求項35】
前記固体支持体は、水接触角が70゜〜95゜の疎水性を有することを特徴とする、請求項24または請求項31〜34のいずれか1項に記載の試料から微生物を分離する装置。
【請求項36】
前記疎水性は、前記固体支持体の表面をOTCまたはDFSの化合物でコーティングして付与される性質であることを特徴とする、請求項35に記載の試料から微生物を分離する装置。
【請求項37】
前記固体支持体は、表面にアミン系の官能基を一つ以上有することを特徴とする、請求項24または請求項31〜36のいずれか1項に記載の試料から微生物を分離する装置。
【請求項38】
前記アミン系の官能基を一つ以上有する表面は、PEIMでコーティングされている、請求項37に記載の試料から微生物を分離する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−48737(P2008−48737A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214954(P2007−214954)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】