説明

イオン交換性基を有する重合体およびその用途

【課題】よりメタノール透過性が低く、イオン伝導性の高い高分子電解質膜の調製に用いられる重合体、高分子電解質膜およびその調製に用いられる高分子電解質ならびにそれらの用途を提供すること。
【解決手段】イオン交換性基を有する重合体であって、下式に基づき求められる分岐度Bnが10以上であり、イオン交換容量が1meq/g以上である重合体。該重合体からなる高分子電解質、該高分子電解質を用いてなる高分子電解質膜、該高分子電解質を用いて溶液キャスト法にて得られる高分子電解質膜、該高分子電解質と多孔質基材とを用いてなる高分子電解質複合膜、該高分子電解質および触媒を含有する触媒組成物、並びに、該高分子電解質を用いてなる高分子電解質型燃料電池。


(式中、IV(M)は該重合体の分子量Mにおける極限粘度であり、IVL(M)は分子量Mに
おける直鎖状重合体の極限粘度である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換性基を有する重合体、高分子電解質、高分子電解質膜、高分子電解質複合膜、触媒組成物および高分子電解質型燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の少ないエネルギー源を模索する試みが種々なされている。なかでも燃料電池、特に固体高分子電解質膜を用いる固体高分子電解質型燃料電池は、排出物質は水のみであるなどの利点から、自動車などの動力源としての応用が期待されている。
【0003】
かかる固体高分子電解質型燃料電池用の高分子電解質膜として、ナフィオン(Nafion、デュポン社登録商標)に代表されるような、パーフルオロアルカン主鎖にパーフルオロアルキルスルホン酸を導入したパーフルオロアルキルスルホン酸などの高分子電解質から得られるフッ素系膜があるが、非常に高価であり、耐熱性が低いという問題が指摘されている。
【0004】
上記高分子電解質に替わり得る安価な高分子電解質の開発が近年活発化している。なかでも耐熱性に優れフィルム強度の高い芳香族ポリエーテルにスルホン酸基を導入した高分子、すなわち側鎖にスルホン酸基を有し主鎖が、芳香環が連結された高分子である芳香族系高分子電解質が有望視されており、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン系高分子(特許文献1)や、スルホン化ポリエーテルスルホン系高分子(特許文献2、3)が提案されている。
【0005】
ところで、ノートパソコン、携帯電子機器などの電源に上記燃料電池を適用する試みも進められており、このような電源にはメタノールを燃料とする直接メタノール型燃料電池(以下、「DMFC」と呼ぶ)の適用が検討されている。しかしながら、該DMFCに該芳香族系高分子電解質からなる高分子電解質膜に用いると、DMFC運転時にメタノールが該高分子電解質膜を透過しやすく、このような場合、発電性能が低下してしまうといった問題が生じる。この問題の解決策として、該DMFCに適用される高分子電解質膜には、メタノール透過性が低いことが要求されている。
【0006】
メタノール透過性を下げる方法としては、一般的に高分子電解質自体のイオン交換容量を下げる方法があるが、これを行うと、同時にイオン伝導性が低い高分子電解質膜しか得られないため、やはりDMFCの発電性能を低下させる。このように、従来知られた芳香族高分子電解質から得られる膜では、発電性能に係るイオン伝導性と、低メタノール透過性とを高水準で達成することは困難であった。
【0007】
【特許文献1】特表平11−502249号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平10−45913号公報(特許請求の範囲、段落[0010])
【特許文献3】特開平10−21943号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、DMFC用高分子電解質膜として好適な、低メタノール透過性と、イオン伝導性とを高水準で達成する高分子電解質膜に適用できる重合体を提供することにある。また本発明の目的は、該重合体を用いた高分子電解質膜およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、安価な高分子電解質を用いて上記課題を解決できる高分子電解質について鋭意検討した結果、通常、高分子電解質を構成する構成単位とメタノールの親和性に依存すると考えられていたメタノール透過性が、該高分子電解質の分子鎖をより分岐させることによっても、著しくメタノール透過性を低下できるとの新たな知見を得、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、
[1]イオン交換性基を有する重合体であって、下式に基づき求められる分岐度Bnが10以上であり、イオン交換容量が1meq/g以上である重合体
を提供するものである。

(式中、IV(M)は該重合体の分子量Mにおける極限粘度であり、IVL(M)は分子量Mにおける直鎖状重合体の極限粘度である。)
【0010】
さらに、本発明は上記[1]に係る好適な実施態様として、下記の[2]〜[5]を提供する。
[2]溶媒に可溶である[1]の重合体
[3]主鎖が、芳香族高分子である[1]または[2]の重合体
[4]重合体が、イオン交換性基を有するブロックとイオン交換性基を実質的に有さないブロックとを有するブロック共重合体である[1]〜[3]のいずれかの重合体
[5]イオン交換性基を有するブロックとイオン交換性基を実質的に有さないブロックとの重量組成比が、(イオン交換性基を有するブロック):(イオン交換性基を実質的に有さないブロック)で表して3:97〜70:30である[4]の重合体
【0011】
さらに、本発明は上記いずれかの重合体を用いてなる、下記の[6]〜[11]を提供する。
[6][1]〜[5]のいずれかの重合体からなる高分子電解質
[7][6]の高分子電解質を用いてなる高分子電解質膜
[8][6]の高分子電解質を用いて溶液キャスト法にて得られる高分子電解質膜
[9][6]の高分子電解質と多孔質基材とを用いてなる高分子電解質複合膜
[10][6]の高分子電解質および触媒を含有する触媒組成物
[11][6]の高分子電解質を用いてなる高分子電解質型燃料電池
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高イオン伝導性を維持したまま、低メタノール透過性に優れ、DMFC用高分子電解質膜として好適な重合体を容易に得ることができる。また、該重合体を用いると、発電性能に優れたDMFCを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の重合体が有するイオン交換性基としては、特に限定されるものではなく、例えば、−SO3H、−COOH、-PO(OH)2、-SO2NHSO2-、-Ph(OH)(Phはフェニレン基を表す)などの陽イオン交換性基、-NH2、-NHR、-NRR'、-NRR'R"+、-NH3+(R、R'、およびR"はそれぞれ独立にアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を表す)などの陰イオン交換性基などが挙げられる。中でも、陽イオン交換性基が好ましく、とりわけ−SO3H(スルホン酸基)が好ましい。これらの基は、その一部または全部が対イオンとの塩を形成していてもよいが、燃料電池のイオン伝導膜として使用する際には、実質的に、このような塩形成がなされていないイオン交換性基が好ましい。
【0014】
本発明の重合体は、上記イオン交換性基を有する繰り返し単位を有し、且つ上記式に基づき求められる分岐度Bnが10以上となる櫛型分岐高分子またはランダム型分岐高分子である。ここで、Bnとは、高分子における長鎖分岐度を示す公知の指標であり、重合体が線状(分岐を有さない)であればBnは0であり、重合体が長鎖分岐鎖を持っているとBnは正の値となり、Bnが高くなるにつれ、高分子鎖1つ当たりにある分岐点、すなわち分岐鎖が多くなることを意味する。本発明者らは、Bnが高い分岐高分子を得ると、該分岐高分子は、イオン伝導性と低メタノール透過性とを高水準で達成できることを見出し、かかるBnが10を下回ると、メタノール透過性が上昇してDMFCに適用することが困難であることを見出した。Bnは、好ましくは15以上であり、より好ましくは20以上である。このようにBnが高いほど、低メタノール透過性となりえるが、本発明の重合体を燃料電池用イオン伝導膜に適用する上で、溶液キャスト法で膜の形態へと成形できることが好ましく、Bnが大きすぎると溶媒への溶解性が低下し、製膜加工性やリサイクル性に劣る場合がある。該Bnは通常は250以下であり、好ましくは150以下、より好ましくは100以下である。なお、上記溶液キャスト法に関する詳細は後述する。
【0015】
分岐度Bnは、示差屈折率計および粘度検出器に加えて、90°光散乱検出器を使用したゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)−トリプル検出器法を使用して求めることができる。詳細はCarbohydrate Polymers、第45巻、293-303頁(2001年)に記載されている。最近では、装置に付属のコンピュータソフトウェアにより、容易に分岐度Bnを求めることができる。
本発明において、かかるコンピュータソフトウェアを用いて分岐度Bnを算出するにあたっては、下式に基づいて求めるものとする。

ここで、IV(M)は対象とする重合体の分子量Mにおける極限粘度であり、IVL(M)は分子量Mにおける直鎖状重合体の極限粘度である。なお、lnは自然対数を表す。
【0016】
本発明の重合体のようなイオン交換容量の高い重合体のGPC測定においては、イオン結合性の高い重合体のGPC測定において多用されている手法を用いる。例えば、カラムは試料がカラムの排除限界を超えず、さらには試料を吸着または反発しないカラムを使用する。移動相には、必要に応じて臭化リチウムなどの塩を溶解させて、分子量の大きい順に溶出する条件を使用する。
蛍光材料など光散乱検出器を使用できない場合においては、示差屈折率計および粘度検出器を備えたGPCを用いて、粘度―GPC法によりBnを算出してもよい。詳細は日本ゴム協会誌、第45巻、第2号、105〜118頁(1972年)に記載されている。
このように、本発明の重合体のBnを求めるには、上記のような装置を備えた市販のGPCを用いれば、容易に実施可能である。
【0017】
本発明の重合体においては、それを構成する分子鎖が、脂肪族高分子、芳香族高分子、脂肪族鎖と芳香族鎖を併せ持つ高分子のいずれでもよいが、燃料電池用高分子電解質膜として用いる場合、実用的な耐熱性を得る観点からは、少なくとも分岐高分子鎖の中で、最長の分子鎖を当該分岐高分子の主鎖としたとき、主鎖を形成する分子鎖としては、芳香環が直接連結しているか、原子あるいは原子団を連結基として連結された芳香族高分子が好ましく、上記イオン交換性基を有する繰り返し単位としては、芳香環を有するものが好ましい。
【0018】
具体的に、上記イオン交換性基を有する繰り返し単位を例示すると、下記(1)を挙げることができる。なお、例示する繰り返し単位にあるイオン交換性基は、上記の好ましいイオン交換性基であるスルホン酸基が対イオンと塩を形成していない、いわゆる遊離酸の形態である繰り返し単位を挙げるが、このスルホン酸基が、ホスホン酸基、カルボン酸基など他のイオン交換性基に置き換わった繰り返し単位でもよく、該他のイオン交換性基が対イオンとともに塩を形成していてもよい。
(1)イオン交換性基を有する繰り返し単位:

【0019】

【0020】
また、本発明の重合体は、上記に例示したイオン交換性基を有する繰り返し単位に加え、イオン交換性基を有さない繰り返し単位をともに有する共重合体であると、かかる高分子電解質から得られる高分子電解質膜が、より機械強度に優れるため好ましく、以下の(2)にイオン交換性基を有さない繰り返し単位を例示する。
(2)イオン交換性基を実質的に有さないモノマーに基づく繰り返し単位:


【0021】
本発明に重合体にある主鎖および/または該主鎖から分岐された分岐鎖を構成する繰り返し単位はそれぞれ上記に例示したイオン交換性基を有する繰り返し単位(以下、「繰り返し単位1」と呼ぶ)と、イオン交換性基を有さない繰り返し単位(以下、「繰り返し単位2」と呼ぶ)から形成されると好ましく、それぞれの共重合様式はランダム共重合、交互共重合あるいは繰り返し単位1が連結してなるブロックと繰り返し単位2が連結してなるブロックとをともに有するブロック共重合のいずれでもよく、繰り返し単位1が連結してなる主鎖(または分岐鎖)と繰り返し単位2が連結してなる分岐鎖(または主鎖)からなる共重合様式でもよい。
【0022】
ここで、本発明の重合体を得る製造方法について、好適な繰り返し単位として例示した上記の繰り返し単位1、繰り返し単位2を有する分岐高分子の製造方法を典型的な例として説明する。
上記の繰り返し単位1、繰り返し単位2は、エーテル結合を介して、すなわち酸素原子を連結基として有する2価の基であり、通常エーテル結合を介して芳香環同士を連結する際には、ハロゲン原子、メシル基またはトシル基で表される脱離基と、フェノール性水酸基または該フェノール性水酸基がアルカリ金属イオンなどで塩を形成した金属フェノラート基で表される求核基とが、縮合してエーテル結合を形成する反応を単位反応とすることで、重合を進行させることができる。具体的に、この反応の一例を下記に示す。

このように、2つの脱離基(塩素原子)を有するモノマーと、2つの求核基(フェノール性水酸基)を有するモノマーとを縮合させることで、エーテル基を有する繰り返し単位からなる線状高分子(重合度j)が得られる。
分岐高分子を得るためには、繰り返し単位1および繰り返し単位2を誘導しうる、2つの反応基(脱離基または求核基)を有するモノマーに加え、該反応基を分子内に3つ以上有するモノマー(以下、「多官能性モノマー」と呼ぶ)を用いることにより、分岐高分子を得ることができる。
【0023】
上記多官能性モノマーである、分子内に脱離基を3つ以上有する化合物としては、ヘキサフルオロベンゼン、デカフルオロビフェニルが挙げられ、分子内に求核基を3つ以上有する化合物としては、フロログルシノール、4,4’,4''−トリヒドロキシトリフェニルメタンが挙げられる。
【0024】
また、予め主鎖を構成する線状高分子を、2つの脱離基を有するモノマーと2つの求核基を有するモノマーとで製造しておき、得られた線状高分子にある芳香環に脱離基あるいは求核基を導入することで、新たに反応基を側鎖に有する線状高分子とし、かかる側鎖の反応基に新たにモノマーを反応させることによっても、分岐高分子を得ることができる。
【0025】
さらには上記と同様にして線状高分子を得た後、該線状高分子に電子線、放射線などの高エネルギー線を照射することで、線状高分子を再配列反応させるか、該高エネルギー線の照射で上記線状高分子鎖にラジカルを発生させ、かかるラジカルを反応基点とすることでも分岐高分子を得ることができる。
【0026】
工業的に煩雑な設備を必要としない利点からは、上記多官能性モノマーを用いた分岐高分子の製造方法が好ましく、より製造を簡便にする観点からは、繰り返し単位1および/または繰り返し単位2を連結してなる線状高分子を予め製造し、該線状高分子の少なくとも片末端、好ましくは両末端に上記多官能性モノマーを結合させることで、末端に、3つ以上の反応基点を有する分岐高分子前駆体を得、該分岐高分子前駆体と分岐鎖を誘導するモノマーを反応させるか、該分岐高分子前駆体を2種以上製造しておき、これら複数種の分岐高分子前駆体同士を互いに結合させることでも分岐高分子を製造することができる。
より好適には、繰り返し単位2(または繰り返し単位1)が主として連結してなる分岐高分子前駆体を得、該分岐高分子前駆体の末端に多官能性モノマーを結合させた後、かかる分岐高分子前駆体と、繰り返し単位1(または繰り返し単位2)を誘導するモノマーを主として含むモノマーとを重合させると、得られる分岐高分子は、繰り返し単位1を主として有するイオン交換性基を有するブロックと、繰り返し単位2を主として有するイオン交換性基を実質的に有さないブロックとを有するブロック重合体となり、該ブロック共重合体は、高水準の低メタノール透過性とイオン伝導性とを有し、さらに機械強度や耐熱性に優れた高分子電解質となる。
なお、上記イオン交換性基を有するブロックとは、該ブロックを構成する繰り返し単位1個当たりの平均イオン交換性基数で表して、0.5個以上有するブロックを意味し、1個以上有するブロックが好ましい。一方、上記イオン交換性基を実質的に有さないブロックとは、該ブロックを構成する繰り返し単位1個当たりの平均イオン交換性基数で表して、0.1個以下であるブロックを意味し、0.05個以下のブロックがさらに好ましい。
【0027】
上記分岐高分子前駆体を得るには公知の反応が適用される。具体的には、上記の特許文献1〜3に記載された方法を用いることができる。なお、2つの脱離基を有するモノマーと2つの求核基を有するモノマーから線状高分子を得る際、脱離基の当量数と求核基の当量数のうち、どちらかを過剰にすることにより、得られる分岐高分子前駆体の末端に残存する反応基の種類は制御できるので、所望の反応基を末端に有するものを容易に得ることができる。次いで、該末端の反応基に多官能性モノマーを反応させて、末端に3つ以上の反応基を有する分岐高分子前駆体を得、該分岐高分子前駆体の末端にある反応基を反応基点として、他のモノマーあるいは他の分岐高分子前駆体とを反応溶媒の存在下で反応させ、所定時間おきに反応溶液をサンプリングして、上記に説明したGPCによる分析からBnを求め、Bnが10以上の所望の分岐高分子が得られた段階で反応を終了させる。好ましい繰り返し単位として例示した繰り返し単位1と繰り返し単位2とからなる分岐高分子である場合、使用するモノマーにある反応基(脱離基、求核基)の種類によって反応条件は適宜最適化できるが、通常80〜180℃、好ましくは100〜150℃の反応温度であり、反応時間としては10時間以上が採用される。また、求核基であるフェノール性水酸基の反応性を向上させるため、炭酸カリウムなどのアルカリを脱酸剤として使用することが好ましく、副生する水分を共沸脱水などで除去することが好ましい。より高いBnを得るためには、反応温度をより高温にして長時間反応させるとよい。なお、Bnが高くなると、副反応として架橋反応が生じる場合もあるが、このように架橋反応が生じた高分子はゲルと呼ばれる、溶媒に対する溶解性が著しく低下した高分子となるので、公知の固液分離を用いれば、容易に除去できる。
【0028】
さらに、本発明の重合体は、そのイオン交換容量が1meq/g以上の重合体である。該イオン交換容量が小さい場合は、燃料電池用イオン伝導膜として用いた場合、イオン伝導性が低くなるので好ましくない。該イオン交換容量として好ましくは1.5meq/g以上であり、より好ましくは1.6meq/g以上である。該イオン交換容量が大きすぎると、耐水性が不良になる傾向があり、該イオン交換容量は好ましくは4meq/g以下であり、より好ましくは3meq/g以下である。
イオン交換容量は重合体単位重量あたりのイオン交換性基の当量数であり、重合体に導入するイオン交換性基の量をコントロールすることにより、イオン交換容量は制御することができる。具体的には、イオン交換性基を有する繰り返し単位とイオン交換性基を有さない繰り返し単位の共重合比を、それぞれの繰り返し単位を誘導するモノマーの量から制御すればよい。本発明の重合体が、好適な共重合様式として説明したブロック共重合である場合、イオン交換性基を有するブロックと、イオン交換性基を実質的に有さないブロックとの共重合比率によっても制御することができる。
該ブロック共重合体は、イオン交換性基を有するブロックとイオン交換性基を実質的に有さないブロックとの重量組成比を(イオン交換性基を有するブロック):(イオン交換性基を実質的に有さないブロック)で表すと、3:97〜70:30であることが好ましく、5:95〜60:40がより好ましく、10:90〜50:50が更に好ましく、20:80〜40:60が特に好ましい。該重量組成比がこの範囲において、高度のイオン伝導性を維持したまま、耐水性をより良好にすることができる。
【0029】
上記に例示した繰り返し単位1と繰り返し単位2の組合わせの中でも、より好ましいブロック共重合体としては、具体的には各ブロックを構成する繰り返し単位の組合せが以下の(I)〜(IV)のいずれかのものがより好ましい。

【0030】

【0031】

【0032】

【0033】
本発明の重合体は、上記のとおり、GPC分析に適用できる程度の溶媒溶解性を有するものであるが、1重量%の濃度で溶媒に可溶であることが好ましい。該溶媒としては、有機溶媒や水など特に限定されるものではない。さらに、単一溶媒である必要はなく、2種以上の混合溶媒に可溶な場合でもよい。なお、可溶であるとは、溶媒に該重合体を1重量%溶解させた場合に、1μmのフィルターにてろ過した時の残渣が、溶媒と混合した該重合体の総重量に対して通常10重量%以下であることを意味する。好ましくは該残渣が8重量%以下であり、5重量%以下であると特に好ましい。このような溶媒溶解性を有する重合体は、一旦膜の形態とした重合体を再度リサイクルできるという利点がある。また、該重合体は、1重量%以上で溶媒に可溶であると好ましいが、2〜30重量%程度の濃度で溶媒に可溶であると、後述する溶液キャスト法に適用する場合、その成膜加工性に優れるという利点もある。
【0034】
本発明の重合体の平均分子量としては、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して5,000〜1,000,000が好ましく、中でも10,000〜500,000のものが好ましく、とりわけ15,000〜300,000のものが特に好ましい。
また、本発明の重合体がブロック共重合体である場合のイオン交換性基を有するブロックの平均分子量としては、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して2,000〜200,000が好ましく、中でも4,000〜100,000が特に好ましく、イオン交換性基を実質的に有さないブロックの平均分子量としては、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して5,000〜400,000が好ましく、中でも10,000〜200,000が特に好ましい。かかるブロックごとの分子量の特定は、NMRなどで特定したブロック組成比と重合体全体の分子量とから求めたり、各ブロックを段階的重合により調製する、即ち上記分岐高分子前駆体を用いて、ブロック共重合体を得る場合には、各ブロックを誘導する前駆体の分子量を測定して差分処理して各ブロックごとの分子量を求めてもよい。
【0035】
なお、本発明の重合体において、上記の好適な繰り返し単位である繰り返し単位1と繰り返し単位2を有する共重合体について説明したが、脱離基や求核基の種類を変更することで、酸素原子以外の原子または原子団で芳香環が連結されてなる、種々の諸元の異なる重合体の場合も容易に実施可能である。
【0036】
次に、本発明の重合体に係る用途、特に燃料電池に適用することについて説明する。
燃料電池の高分子電解質膜は通常、燃料電池セル・スタック内でセパレータやガスケット、ガス拡散層などに挟持され、かつ高い面圧がかけられて用いられる。このような条件下で吸水率の高い膜を使用すると、膨潤が激しくて面圧に耐えられず、変形やブリードを起こしたり、一部溶け出したりする恐れがある。そこで、高分子電解質膜は吸水率が高すぎないほうがよい。本発明の重合体は耐水性に優れた高分子電解質膜に転化できるので、この用途にも好適に用いることができる。
【0037】
なお、本発明の重合体は低メタノール透過性に優れるので、メタノールを燃料として直接供給するDMFCに特に好適であるが、水素ガスを燃料とした固体高分子型燃料電池に適用することもできる。
【0038】
かかる高分子電解質膜として用いる場合、本発明の重合体は通常、フィルムの形態で使用される。フィルムへ転化する方法に特に制限はないが、溶液状態より製膜する方法(溶液キャスト法)が好ましく使用される。
具体的には、該重合体を適当な溶媒に溶解し、その溶液をガラス板上などに流延塗布し、溶媒を除去することにより成膜される。製膜に用いる溶媒は、重合体を溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの塩素化溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。環境に配慮すると非プロトン性極性溶媒、アルコールまたはアルキレングリコールモノアルキルエーテルがより好ましく用いられる。中でもN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、またはジメチルスルホキシド(DMSO)がポリマーの溶解性が高くさらに好ましい。
【0039】
フィルムの厚みは、特に制限はないが10〜300μmが好ましく、20〜100μmが特に好ましい。フィルムが薄すぎると実用的な強度が十分でない場合があり、フィルムが厚すぎると膜抵抗が大きくなり電気化学デバイスの特性が低下する傾向にある。膜厚は溶液の濃度および基板上への塗布厚により制御できる。
【0040】
またフィルムの各種物性改良を目的として、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤などを用いることができる。また、同一溶剤に混合して共キャストするなどの方法により、他のポリマーを本発明の重合体と複合化することも可能である。
燃料電池用途では他に、含水量の管理を容易にするために、無機あるいは有機の微粒子を保水剤として添加することも知られている。これら公知の方法はいずれも本発明の目的に反しない限り使用できる。
また、リサイクル性を求められない場合には、フィルムの機械的強度の向上などを目的として、電子線・放射線などを照射して架橋することもできる。
【0041】
また、高分子電解質膜の強度や柔軟性、耐久性の更なる向上のために、本発明の重合体を多孔質基材に含浸させ複合化することにより、複合膜として高分子電解質膜に用いることも可能である。複合化方法は公知の方法を使用し得る。多孔質基材としては上述の使用目的を満たすものであれば特に制限はなく、例えば多孔質膜、織布、不織布、フィブリルなどが挙げられ、その形状や材質によらず用いることができる。
【0042】
本発明の重合体を用いた高分子電解質複合膜を高分子電解質型燃料電池の隔膜として使用する場合、多孔質基材の膜厚は通常1〜100μm、好ましくは3〜30μm、さらに好ましくは、5〜20μmであり、その孔径は通常0.01〜100μm、好ましくは0.02〜10μmであり、その空隙率は通常20〜98%、好ましくは40〜95%である。
多孔質基材の膜厚が薄すぎると複合化後の強度補強の効果あるいは柔軟性や耐久性を付与するといった補強効果が不十分となる場合がある。また膜厚が厚すぎると電気抵抗が高くなり、得られた複合膜が固体高分子型燃料電池の隔膜として不十分なものとなる。孔径が小さすぎると高分子電解質の充填が困難となり、大きすぎると高分子電解質への補強効果が弱くなる。空隙率が小さすぎると固体電解質膜としての抵抗が大きくなり、大きすぎると一般に多孔質基材自体の強度が弱くなり補強効果が低減する。
耐熱性の観点や、物理的強度の補強効果を鑑みれば、多孔質基材の材質としては、脂肪族系もしくは芳香族系高分子、または含フッ素高分子が好ましい。
【0043】
このようにして得られた、高分子電解質膜および/または高分子電解質複合膜は、その両面に、触媒層、ガス拡散層を接合することにより、膜−電極接合体、膜−電極−ガス拡散層接合体を製造することができる。ガス拡散層としては公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン織布、カーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するため好ましい。
【0044】
ここで触媒としては、水素または酸素の酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、燃料電池用触媒として公知のものが好ましく用いられ、白金の微粒子を用いることが特に好ましい。白金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されて用いられる。かかる触媒は通常、パーフルオロアルキルスルホン酸樹脂などの高分子電解質のアルコール溶液とともに混合して触媒組成物を得て、それをペースト化し、該ペーストを、ガス拡散層および/または高分子電解質膜および/または高分子電解質複合膜に塗布して乾燥させることにより触媒層を形成して、用いられる。具体的な方法としては例えば、J.Electrochem.Soc.:Electrochemical Science and Technology,1988,135(9),2209に記載されている方法などの公知の方法を用いることができる。
【0045】
本発明の重合体は、かかる触媒組成物中の高分子電解質として使用することもでき、具体的には、前述の触媒組成物を構成する高分子電解質として例示したパーフルオロアルキルスルホン酸樹脂の代わりに本発明の重合体を用いればよい。本発明の重合体を用いて触媒組成物を得る際に用いられる溶媒としては、前述の重合体の製膜に用いる溶媒として挙げたものと同じものを挙げることができる。本発明の重合体を用いた触媒組成物を使用する場合、その燃料電池における高分子電解質膜としては、本発明の重合体を用いた膜に限定されずに公知の高分子電解質膜を用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
分子量の測定
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により下記条件でポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を測定した。
カラム 東ソー製 TSKgel GMHHR-M
カラム温度 40℃
移動相溶媒 DMF(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 0.5ml/分
試料濃度 0.05%(W/V)
注入量 200μl
【0048】
Bnの算出
上述のGPC測定において検出器として示差屈折率検出器以外に、粘度検出器と90°光散乱検出器を備えた検出器(Viscotek社製 Model270)を使用して、GPC-トリプル検出器法による測定を行い、その結果より、装置付属のコンピュータソフトウェアOmnisec Ver.3.1を用いて、Bnの算出を本明細書記載の式に基づいて行った。
【0049】
メタノール透過性試験
セルAとセルBからなるH字型隔膜セルの中央に、測定する高分子電解質膜を挟持させ、セルAに10重量%濃度のメタノール水溶液を、セルBに純水を入れ、単位時間、単位膜厚当りに透過するメタノールの量を測定し、メタノール透過係数D(cm2/s)を求めた。
【0050】
イオン交換容量の測定
滴定法により求めた。
【0051】
プロトン伝導度の測定
温度80℃、相対湿度90%の条件で交流法で測定した。
【0052】
吸水率の測定
測定する高分子電解質膜(約200mg)を100℃の熱水に2時間浸漬させ、その前後の重量変化より求めた。

【0053】
参考例1
ポリエーテルスルホン(フッ素末端型)の製造
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、窒素雰囲気下、スミカエクセルPES4003P(住友化学製、水酸基末端型のポリエーテルスルホン)を1000g、炭酸カリウムを7.59g、DMAcを2500ml、およびトルエンを500ml加え、160℃にて加熱撹拌して共沸脱水した。室温にて放冷後、デカフルオロビフェニル53.6gを加え80℃にて3.5時間加熱撹拌した。反応液を大量の水に滴下し、得られた沈殿物をろ過回収し、メタノール/アセトン混合溶媒で洗浄後、80℃にて乾燥して、連結剤が末端に結合した下記オリゴマー(以下P1)を得た。
Mn=3.2×104

【0054】
実施例1
1)高分子電解質の製造
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、Ar雰囲気下、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム130.00g、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム278.17g、炭酸カリウム81.86gを加え、DMSO1200mLおよびトルエン240mLを添加した。その後バス温130℃でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、170℃にて4時間保温攪拌した。続いて、反応液を室温まで十分に放冷し、親水性オリゴマー溶液を得た。また、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、Ar雰囲気下、参考例1に準拠して合成したフッ素末端型ポリエーテルスルホン(P1)420.0g、DMSO2000mLおよびトルエン250mLを加えた。その後バス温130℃でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、室温まで放冷後、前記の親水性オリゴマー溶液に加えて混合した。その後、炭酸カリウム2.32gを加え150℃まで昇温させながら合計47時間保温攪拌した。反応液を放冷した後、大量の塩酸水に滴下し、生成した沈殿物を濾過回収した。さらに洗液が中性になるまで水で濾過洗浄を繰返した後、60℃にて減圧乾燥してブロック共重合体A1を得た。該A1をDMFに1重量%溶解させたのち、1μmのフィルターにてろ過した際の残渣は、0.1重量%以下であった。
Mn=4.0×104
分岐度Bn=22.3
イオン交換容量=1.68 meq/g
イオン交換容量から、イオン交換性基を有するセグメント(親水性オリゴマーに基づくセグメント)とイオン交換性基を実質的に有さないセグメント(疎水性オリゴマーに基づくセグメント)の重量組成比は32:68と算出された。
想定されるブロック共重合体A1の構造:連結基を介して、疎水性オリゴマーと親水性オリゴマーが連結していると思われ、またBnが22.3であることから分岐を有しており、特に連結基において、4,4’−位以外の位置でも疎水性オリゴマーまたは親水性オリゴマーと連結していると思われる。

【0055】
2)高分子電解質膜の製造
得られた高分子電解質A1をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶かして溶液とし、バーコーターを用いて塗工し、80℃常圧で2時間乾燥した。その後、1.5mol/Lの塩酸に浸漬し、さらにイオン交換水で洗浄することによって高分子電解質膜(膜厚=34μm)を得た。得られた高分子電解質膜のメタノール透過係数およびプロトン伝導度は以下の通りであった。
メタノール透過係数= 4.0×10-7cm2/s
プロトン伝導度= 1.3×10-1S/cm
吸水率= 97%
【0056】
実施例2
実施例1と同様にして、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム140.00g、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム300.03g、炭酸カリウム88.16gを用いて親水性オリゴマー溶液を得、フッ素末端型ポリエーテルスルホン(P1)の量を452.1gに変更して、その後、実施例1と同様に操作した。但し、150℃まで昇温させながら保温攪拌する時間を合計60時間に変更した。実施例1と同様の後処理を行い、520gの共重合体A2を得た。該A2をDMFに1重量%溶解させたのち、1μmのフィルターにてろ過した際の残渣は、0.1%以下であった。
Mn= 4.7×104
分岐度Bn= 23.6
イオン交換容量= 1.53 meq/g
イオン交換容量から、イオン交換性基を有するセグメントとイオン交換性基を実質的に有さないセグメントの重量組成比は29:71と算出された。
実施例1と同様の方法にて高分子電解質膜(膜厚=37μm)を得た。得られた高分子電解質膜のメタノール透過係数およびプロトン伝導度は以下の通りであった。
メタノール透過係数= 4.4×10-7 cm2/s
プロトン伝導度= 8.7×10-2S/cm
吸水率= 84%
【0057】
比較例1
実施例1と同様にして、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム138.34g、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム289.88g、炭酸カリウム87.95gを用いて親水性オリゴマー溶液を得た。その中に、フッ素末端型ポリエーテルスルホン(P1)500.0gを混合し、140℃まで昇温させながら合計46時間保温攪拌した。実施例1と同様の後処理を行い、550gの共重合体B1を得た。該B1をDMFに1重量%溶解させたのち、1μmのフィルターにてろ過した際の残渣は、0.1%以下であった。
Mn= 3.2×104
分岐度Bn= 8.5
イオン交換容量= 1.50 meq/g
イオン交換容量から、イオン交換性基を有するセグメントとイオン交換性基を実質的に有さないセグメントの重量組成比は28:72と算出された。
実施例1と同様の方法にて高分子電解質膜(膜厚=49μm)を得た。得られた高分子電解質膜のメタノール透過係数は以下の通りであった。
メタノール透過係数= 8.6×10-7cm2/s
プロトン伝導度= 1.2×10-1S/cm
吸水率= 74%
【0058】
比較例2
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、Ar雰囲気下、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム40.0g、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム94.2g、炭酸カリウム25.5gを加え、DMSO585mLおよびトルエン92mLを添加した。その後バス温140℃でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、150℃にて15時間保温攪拌した。続いて、反応液を室温まで十分に放冷し、親水性オリゴマー溶液を得た。また、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、Ar雰囲気下、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン81.4g、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン79.4g、炭酸カリウム49.5gを加え、DMSO706mLおよびトルエン111mLを添加した。その後バス温140℃でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水し、150℃にて6時間保温攪拌することで、疎水性オリゴマー溶液を得た。続いて、この疎水性オリゴマー溶液を室温まで放冷した後、前記親水性オリゴマー溶液を疎水性オリゴマー溶液に加え、150℃まで昇温させながら合計24時間保温攪拌した。反応液を放冷した後、大量の塩酸水に滴下し、生成した沈殿物を濾過回収した。さらに洗液が中性になるまで水で濾過洗浄を繰返した後、60℃にて減圧乾燥して、211.6gの下記ブロック共重合体B2を得た。該B2をDMFに1重量%溶解させたのち、1μmのフィルターにてろ過した際の残渣は、0.1%以下であった。

Mn= 4.6×104
分岐度Bn= 0.0
イオン交換容量 1.63 meq/g
イオン交換容量から、イオン交換性基を有するセグメントとイオン交換性基を実質的に有さないセグメントの重量組成比は31:69と算出された。
実施例1と同様の方法にて高分子電解質膜(膜厚=44μm)を得た。得られた高分子電解質膜のメタノール透過係数は以下の通りであった。
メタノール透過係数= 6.7×10-7cm2/s
プロトン伝導度= 1.6×10-1S/cm
吸水率= 133%
【0059】
比較例3
比較例2と同様にして、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム45.1g、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム119.5g、炭酸カリウム28.80gを用いて親水性オリゴマー溶液を得た。また、比較例2と同様にして、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン118.0g、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン110.3g、炭酸カリウム75.0gを用いて疎水性オリゴマー溶液を得た。これらを比較例2と同様に混合した後、150℃まで昇温させながら合計17.5時間保温攪拌し、比較例2と同様の後処理にて292.0gのブロック共重合体B3を得た。該B3をDMFに1重量%溶解させたのち、1μmのフィルターにてろ過した際の残渣は、0.1%以下であった。
Mn= 4.7×104
分岐度Bn= 0.0
イオン交換容量= 1.72 meq/g
イオン交換容量から、イオン交換性基が導入されたセグメントとイオン交換性基が実質的に導入されていないセグメントの重量組成比は32:68と算出された。
実施例1と同様の方法にて高分子電解質膜(膜厚=35μm)を得た。得られた高分子電解質膜のメタノール透過係数は以下の通りであった。
メタノール透過係数= 8.7×10-7cm2/s
プロトン伝導度= 1.2×10-1S/cm
吸水率= 194%
【0060】
実施例1と比較例2および3、実施例2と比較例1の共重合体は同程度のイオン交換容量を有する共重合体であるが、分岐度が大きい実施例1〜2のほうがメタノール透過係数が小さくなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上詳述したように、本発明によれば、よりメタノール透過性が低く、プロトン伝導度の高い高分子電解質膜の調製に用いられる重合体が提供され、また、よりメタノール透過性が低く、プロトン伝導度の高い高分子電解質膜およびその調製に用いられる高分子電解質ならびにそれらの用途として高分子電解質膜、高分子電解質複合膜、触媒組成物および高分子電解質型燃料電池が提供される。また本発明によれば、吸水率の高すぎない高分子電解質膜を得ることもできるので、本発明の産業上の利用価値は頗る大きい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換性基を有する重合体であって、下式に基づき求められる分岐度Bnが10以上であり、イオン交換容量が1meq/g以上である重合体。

(式中、IV(M)は該重合体の分子量Mにおける極限粘度であり、IVL(M)は分子量Mにおける直鎖状重合体の極限粘度である。
【請求項2】
溶媒に可溶である請求項1記載の重合体。
【請求項3】
主鎖が、芳香族高分子である請求項1または2に記載の重合体。
【請求項4】
重合体が、イオン交換性基を有するブロックとイオン交換性基を実質的に有さないブロックとを有するブロック共重合体である請求項1〜3のいずれかに記載の重合体。
【請求項5】
イオン交換性基を有するブロックとイオン交換性基を実質的に有さないブロックとの重量組成比が、(イオン交換性基を有するブロック):(イオン交換性基を実質的に有さないブロック)で表して3:97〜70:30である請求項4記載の重合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の重合体からなる高分子電解質。
【請求項7】
請求項6記載の高分子電解質を用いてなる高分子電解質膜。
【請求項8】
請求項6記載の高分子電解質を用いて溶液キャスト法にて得られる高分子電解質膜。
【請求項9】
請求項6記載の高分子電解質と多孔質基材とを用いてなる高分子電解質複合膜。
【請求項10】
請求項6記載の高分子電解質および触媒を含有する触媒組成物。
【請求項11】
請求項6記載の高分子電解質を用いてなる高分子電解質型燃料電池。


【公開番号】特開2007−126645(P2007−126645A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272602(P2006−272602)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】