説明

イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー

【課題】イオン性薬剤を安定して保持することが出来て、徐放システムの薬剤保持担体に好適に採用され得る、従来に無い新規な素材を提供すること。
【解決手段】架橋含水性ポリマー14にイオン交換膜12が内包されているイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10において、該イオン交換膜12にイオン性薬剤を保持させると共に、皮膚や眼球表面に装着させる際に、水性媒体による膨潤で柔軟とすることにより、安定して薬剤を放出することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性薬剤の保持担体として好適に用いられて徐放システムを構成し得る、従来に無い新規な素材としてのイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、薬剤を投与する方法として、徐放システムが知られている。徐放システムは、生体に対してある程度長時間に亘って所定の濃度で薬剤を投与することを目的とするものであり、例えば、特表平6−504051号公報(特許文献1)に記載のもの等が考案されている。特許文献1に記載の発明においては、粒径が10〜500μm程度のイオン交換樹脂製の微粒子に薬剤を担持させ、この微粒子を含んだ液体を血液中等に注射したり、皮膚に塗布することにより、血中や皮下組織に薬剤を徐々に放出することが可能とされている。なお、イオン交換樹脂としては、例えば米国特許第4931279号公報(特許文献2)に記載のもの等が知られている。
【0003】
ところで、特許文献1に記載の如き徐放システムを、眼球等に対して用いることも検討されている。しかしながら、このような微粒子を用いた徐放システムでは、微粒子が目に対して刺激や異物感を及ぼし、角膜等を傷つけてしまうおそれもあることから、適用が難しかった。また、涙液や瞬きの作用などにより、薬剤を放出する前に微粒子が眼球上から洗い流されてしまい、有効な薬液の投与ができないという問題もあった。
【0004】
そこで、特開2006−61383号公報(特許文献3)に記載の如き発明も考案されている。特許文献3に記載の発明は、薬剤とゲル材料とを架橋により結合させたインプリントゲルによりコンタクトレンズを製造して、コンタクトレンズ内に薬剤を担持させている。そして、このようなインプリントゲルからなるコンタクトレンズを角膜上に装用することにより、目に対して薬剤が徐々に放出することが可能とされている。このような発明によれば、担体であるコンタクトレンズが目に対して略固定されることから、持続性的に薬剤を放出できるものの、インプリントゲル内には充分な量の薬剤の取り込むことが難しく、有効な薬剤放出濃度を実現し難いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平6−504051号公報
【特許文献2】米国特許第4931279号公報
【特許文献3】特開2006−61383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、イオン性薬剤を安定して保持することが出来て、徐放システムの薬剤保持担体に好適に採用され得る、従来に無い新規な素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために為された本発明は、架橋含水性ポリマーにイオン交換膜が内包されており、水性媒体による膨潤で柔軟となるイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーを、特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従うイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーは、内包されたイオン交換膜を利用して、イオン性薬剤を内部に効率的に且つ安定して保持することが出来る。しかも、膨潤された含水状態下において、架橋含水性ポリマーを構成する分散質の形状保持作用のもとでの分散媒の高含水特性に基づいて、イオン交換膜に保持されたイオン性薬剤に対して外部から起電力を及ぼして外部に導出させることが可能となる。
【0009】
すなわち、かかるイオン交換膜は、イオン性薬剤を可動性のイオンとしてイオン性薬剤を吸着保持させておくことが出来ることから、起電力を及ぼさない保存状態下で薬剤を安定して保持させることが可能となる。しかも、イオン交換膜は架橋含水性ポリマーに内包されて覆われており、直接に外部に全面が晒されていない。それ故、外部環境による悪影響が軽減されて、イオン交換膜によるイオン性薬剤の保持能力が一層安定して発揮され得る。
【0010】
そして、このような本発明に従うイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーにあっては、水溶性ポリマーのみならず、内包されたイオン交換膜に多量のイオン性薬剤を保持させることが出来ると共に、表面にイオン交換膜が暴露されることがない。予め膜形状を設計準備することで、表層の架橋含水性ポリマーの厚みを管理することが可能となるため、これによって徐放性を制御可能であることから、特に徐放システムにおける保持担体に好適である。
【0011】
しかも、膨潤によって軟質状態とされることから、生体の皮膚や粘膜等に重ね合わせた際の刺激を軽減することが出来、高度な含水性を有することと相俟って、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマーを装着する際の患者負担の軽減も図られ得る。これにより、例えば眼球の強膜や角膜等の眼球表面に装着する徐放システム実用化にも資することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一の実施形態であるイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーを示す縦断面図。
【図2】図1に示したイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーの平面図。
【図3】本発明の第二の実施形態であるイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーを示す縦断面図。
【図4】図3に示したイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーの平面図。
【図5】本発明の第三の実施形態であるイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーを示す縦断面図。
【図6】図5に示したイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーの平面図。
【図7】本発明の第四の実施形態であるイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーを示す縦断面図。
【図8】図7に示したイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーの平面図。
【図9】本発明の第五の実施形態であるイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーを示す縦断面図。
【図10】図9に示したイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。先ず、図1〜2には、本発明の第一の実施形態として、徐放システムにおけるイオン性薬剤の保持担体として用いられるイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10が示されている。
【0014】
かかるイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10は、イオン交換膜12が、含水性ポリマーが架橋されて形成された架橋含水性ポリマー14で被覆されて構成されている。特に本実施形態では、全体として平板形状の外形を有する架橋含水性ポリマー14に対して、その略中央に位置するように、平膜形状のイオン交換膜(イオン交換樹脂膜)12が内包されて埋設配置されている。これにより、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10は、全体の外形が平板形状とされている。なお、図2には、かかるイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10の平面形状として円板形状が例示されているが、矩形板状あるいは半月状等の各種形状も採用可能である。後述するイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10の眼球表面への装着においては、角膜や強膜組織への接触による痛みを和らげる上で、平面形状の場合は比較的均一な厚みを維持できる点では、円板形状が好ましい。
【0015】
なお、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10の外形形状は、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10が装着される生体の表面形状に応じて、適宜設計されることが望ましい。本実施形態では、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10が平板形状とされており、平坦な部位の皮膚等や、眼球表面において比較的平坦な強膜上に安定的に装着されるようになっている。また、特に、イオン交換膜12の形状は、所望するイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10の形状に応じて、適切に設計されることが望ましい。具体的には、イオン交換膜12の外形形状は、例えばイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10の外形形状と相似形状になるように設計される。これにより、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10を膨潤状態として全体を柔軟化した際にも、イオン交換膜12の形状によりイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10の表面に凹凸等が生じて外形が不整となることを防止できる。また、このような形状の設計は、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10が膨潤状態とされた際における外形寸法に基づいて決定されることが望ましい。
【0016】
イオン交換膜12としては、従来から公知の各種の陽イオン交換膜や陰イオン交換膜や燃料電池用の電解質膜が適宜に選択されて採用され得る。なお、水和における加熱に対する安定性の確保の観点から、イオン交換膜12としては、その耐用温度が40℃以上のものが好ましく、より好適には60℃以上の耐用温度のものが採用される。また、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10のコンパクト化等の目的では、イオン交換容量も大きいものが望ましく、総イオン交換容量(meq/ml−R)が1.0以上が好ましく、より好適には1.3以上、更に好適には1.5以上のものが用いられる。
【0017】
特に、強酸性陽イオン交換膜は、広いpH領域で使用することが出来ると共に、高温側で100℃以上にまで至る広い温度範囲で安定した機能を発揮し得、且つ反応速度も速く、総イオン交換容量も大きいこと等から好適に採用される。強酸性陽イオン交換膜としては、例えばスルホン酸基を交換基として持つものを挙げることが出来る。また、強塩基性陰イオン交換膜も、広いpH領域で使用することが出来ると共に、高温側で60℃程度に至る温度範囲で安定した機能を発揮することから好適に採用される。強塩基性陰イオン交換膜としては、例えばトリメチルアンモニウム基を交換基として持つI型樹脂と、ジメチルエタノールアンモニウム基を交換基として持つII型樹脂を挙げることが出来る。特に、I型樹脂は、II型樹脂よりも更に化学的安定性が高く交換吸着力(イオンの選択性)も強いことから、より好適に採用される。また、これら強酸性陽イオン交換膜と強塩基性陰イオン交換膜は、例えば弱酸性陽イオン交換膜に比して、イオン交換に伴う体積変化が小さい傾向にあることからも、本発明において好適である。
【0018】
そして、このようなイオン交換膜12は、溶液による膨潤状態において、不溶性の母体が持つ交換基により、陽イオン又は陰イオンを吸着するイオン固定基(固定イオン)を有する。そして、このイオン固定基に対して可動性イオン(対立イオン)がイオン結合(イオン吸着)されて保持されることとなる。
【0019】
それ故、生体に供与すべき薬剤として、薬理活性をもったイオン性化合物(イオン性薬剤)を採用することにより、かかるイオン性薬剤を、イオン交換膜12のイオン固定基に対してイオン結合させて吸着保持させることが出来る。なお、このイオン性薬剤の吸着保持は、例えば、予め準備したイオン交換膜12における可動性イオンを、目的とするイオン性薬剤のものに分解交換させるイオン交換現象を利用しても行なうことが出来る。また、かかる可動性イオンの交換処理は、イオンの選択性を利用したり、溶液濃度の差を利用したりすることで、目的とするイオン性薬剤を、イオン交換膜12に対して吸着保持させることが出来る。
【0020】
なお、かかるイオン交換膜12に対するイオン性薬剤の吸着保持の処理は、イオン選択性や濃度差を利用して行なうことが出来るが、電圧を利用して積極的に処理することも可能である。例えば、イオン性薬剤を収容した液槽を膜状のイオン交換膜12で仕切って、該イオン交換膜12で仕切られた両側の液室にそれぞれ収容されたイオン性薬剤を介し、該イオン交換膜12の両側に直流電圧を印加することによっても行なうことが可能である。具体的には、例えばイオン性薬剤を収容した液槽中に陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配設して多重の仕切壁を形成し、それらの仕切壁で液槽を複数の小室に分割すると共に、両端の小室間に電圧を印加することで、小室を挟んで対向配置された陽イオン交換膜と陰イオン交換膜の間で固体重合体電解質電解を行なう装置(例えば、海水の脱塩と濃縮に用いられるイオン交換膜槽と同様な構造の装置)を採用すれば、陽イオン性の薬効成分を陽イオン交換膜に吸着保持させたり、陰イオン性の薬効成分を陰イオン交換膜に吸着保持させることが可能である。
【0021】
また、かかるイオン性薬剤としては、従来から徐放システムを利用して経皮的に投与される各種の薬剤が採用され得る。そして、目的とするイオン性薬剤の極性に応じて、それがイオン吸着されるように、イオン交換膜の極性が選択されることとなる。即ち、採用薬剤が正に帯電する陽イオン性の薬剤の場合には、陽イオン交換膜が採用される一方、採用薬剤が負に帯電する陰イオン性の薬剤の場合には、陰イオン交換膜が採用される。
【0022】
特に、生体への薬物作用を及ぼす薬理活性を備えた薬剤の多くが、一般に電解質(イオン解離性)のイオン性化合物であることから、それらの中から任意に選択して採用することが出来る。具体的には、正に帯電するイオン性薬剤としては、例えば、塩酸プロカインや塩酸リドカイン等の麻酔剤、塩化カルニチン等の胃腸疾患治療剤、臭化バンクロニウム等の骨格筋弛緩剤の他、テトラサイクリン系製剤やカナマイシン系製剤,ゲンタマイシン系製剤等の抗生物質やクロルヘキシジンやポリビグアニドなどのカチオン性殺菌剤などが挙げられる。一方、負に帯電するイオン性薬剤としては、例えば、VB2,VB12,VC,VE,葉酸等のビタミン剤の他、ヒドロコルチゾン系水溶性製剤やデキサメサゾン系水溶性製剤,プレドニソロン系水溶性製剤等の副腎皮質ホルモン、ペニシリン系水溶性製剤やクロウムフェニコール系水溶性製剤等の抗生物質などが挙げられる。
【0023】
そして、このようなイオン性薬剤を吸着保持するイオン交換膜12は、目的とする徐放システムにおいて必要とされる量のイオン性薬剤を吸着保持し得るだけの量が採用され、本実施形態のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10において用いられることとなる。
【0024】
一方、このようなイオン交換膜12を被覆する前述の架橋含水性ポリマー14の重合材料としては、各種の親水性モノマーが好適に採用される。具体的には、単独重合体での含水率が30%以上の親水性モノマーが採用され、特にヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド等の親水性モノマーを主成分とする重合材料が好適に用いられる。
【0025】
かかる親水性モノマーとしては、特に親水性の向上効果が大きいという点から、水酸基含有(メタ)アクリレートや、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド若しくはそのN置換誘導体、及びビニルラクタム類からなる群より選ばれた少なくとも1種以上が、有利に用いられる。なお、上記の例えば「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の二種の化合物を示す。
【0026】
また、架橋含水性ポリマー14の重合材料には、滅菌に対する熱的安定性や形状安定性を確保するために、エチレングリコールアクリレートやエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート等の架橋性モノマーが、1種或いは2種以上を適宜に配合されて用いられる。
【0027】
かかる架橋性モノマーは、上述の親水性モノマーの重合によって形成される架橋含水性ポリマー14を架橋するために用いられるものであって、かかる親水性モノマーの重合時に、その重合系に存在せしめられるものである。この架橋性モノマーの使用量は、一般に、重合される親水性モノマーと架橋性モノマーの合計量の0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上の割合とされ、これによって、形成される架橋含水性ポリマー14ひいてはイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10の機械的強度の向上効果や耐久性及び形状安定性の付与効果が一層有利に発揮される。また、そのような架橋性モノマーの配合量の上限としては、架橋含水性ポリマー14としての特性等に悪影響をもたらしたり脆くなるのを防止するために、一般に、親水性モノマーと架橋性モノマーの合計量の15重量%以下、好ましくは10重量%以下とされる。
【0028】
そして、これら親水性モノマーと架橋性モノマーからなるモノマー混合物を重合することによって、架橋含水性ポリマー14とされる。かかるモノマー混合物を重合せしめるに際しては、従来から公知の各種の重合手法が採用され、例えばラジカル重合開始剤を、上記モノマー混合物に対して更に配合せしめた後、室温から約140℃程度に至るまでの温度範囲において徐々に加熱して重合せしめる方法や、マイクロ波、紫外線、放射線(γ線)等の電磁波を照射して重合を行なう方法、及びそれらを併用して重合を行なう方法等が採用されることとなる。なお、このように加熱重合させる場合にあっては、一般に、恒温槽や恒温室を用いて、連続的に昇温させる他、段階的に昇温させる等して温度制御することも可能である。
【0029】
また、上記の如きラジカル重合開始剤を用いた熱重合の他、よく知られているように、光線等を用いて、前記親水性モノマーと架橋性モノマーの重合を行なう光重合も採用可能である。その場合にあっては、モノマー混合物に対して光重合開始剤や光増感剤が、更に添加されることとなる。
【0030】
なお、上記したラジカル重合開始剤としては、例えばアゾビスイソブチルニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等を挙げることが出来る。また、光重合開始剤としては、例えばベンゾイン系光重合開始剤やフェノン系光重合開始剤、チオキサンソン系光重合開始剤等を挙げることが出来、光増感剤としては、例えばn−ブチルアミンやトリエチルアミン等のアミン類、アリルチオ尿素、ジエチルアミノエチルメタクリレート等を挙げることが出来る。
【0031】
また、これらのラジカル重合開始剤、光重合開始剤、光増感剤は、必要に応じてこれらの中から1種又は2種以上が選択して採用される。これらの使用量は、一般に、親水性モノマーと架橋性モノマーからなるモノマー混合物の100重量部に対して0.002〜2部程度とされる。
【0032】
さらに、かかるモノマー混合物の重合に際しては、上記の重合開始剤や光増感剤に加えて、重合成分同士の相溶性をより向上させるために、希釈剤を用いてもよい。希釈剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどのアルコール;エチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテルなどがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。また、希釈剤を用いることにより、架橋含水性ポリマー14の膨潤率を低減させることが出来る。上記親水性希釈剤は重合に関与しないため、希釈剤の存在下で重合すると、ポリマー中に希釈剤が分散した微小な空間ができる。その状態のポリマーを水和すると、希釈剤が溶出し、その空間を水が占めることとなる。そのため、ポリマーの体積の変化率が抑えられ、例えば、本実施形態では、イオン交換膜12と架橋含水性ポリマー14の界面に隙間が発生することを防止することが可能となる。なお、このような膨潤率低減効果は、親水性モノマーに可溶なポリビニルピロリドンやポリエチレングリコールなどの親水性ポリマーを添加することでも達成できる。
【0033】
また、モノマー混合物と希釈剤との混合割合は、重合成分が希釈剤に充分に溶解するように、重合成分と希釈剤との重量比(重合成分/希釈剤)を90/10以下、好ましくは80/20以下とすることが望ましい。また、得られる重合体における白濁を防止し、光学特性や機械的強度を高度に確保するためには、かかる重量比を30/70以上、好ましくは50/50以上とすることが望ましい。
【0034】
そして、このように必要に応じて重合開始剤や光増感剤、希釈剤を加えた架橋含水性ポリマー材料であるモノマー混合物は、公知の各種製法によって、目的とする形状をもって重合成形される。特に、目的とする形状を安定して精度良く実現するためには、互いに型合わせされることによって成形キャビティを協働して形成する一対の成形型を用い、その成形キャビティに対してかかるモノマー混合物を注入充填して成形型を密閉した状態で重合反応を行なうことによって、目的とする重合体である架橋された架橋含水性ポリマー14を得るモールド重合法が好適に採用される。
【0035】
さらに、かかる重合に際しては、例えば上述の成形キャビティ内に前述のイオン交換膜12を予め位置決め配置せしめた状態下で、その周囲にモノマー混合物を注入充填してモールド重合すること等によって、架橋含水性ポリマー14の重合と同時に、該架橋含水性ポリマー14の内部にイオン交換膜12が埋設される。なお、成形キャビティ内へのイオン交換膜12の位置決めは、例えば成形型に突設した位置決めピン等を用いた公知の手法により行なうことが出来る。
【0036】
また、このような重合成形によって成形された、イオン交換膜12が内包された架橋含水性ポリマー14は、両者の境界面での剥離や隙間の発生を抑えるために、それらイオン交換膜12と架橋含水性ポリマー14の膨潤性(線膨潤率)が調整される。特に好適には、イオン交換膜12の線膨潤率と架橋含水性ポリマー14の線膨潤率との差が、30%以下となるように、イオン交換膜12と架橋含水性ポリマー14の材質等が相対的に選択される。なお、線膨潤率:αは、膨潤前の単位長さ寸法(例えば円板形状の場合の直径寸法等):LDと膨潤後の単位長さ寸法:LWとによって、下式のとおり表される。
α(%) =((LW−LD)/LD)×100
希釈剤を用いる場合のLDは希釈剤を含んだ重合後の寸法
【0037】
特に、膨潤に伴う歪みを抑えて形状寸法精度を確保すると共に、イオン交換膜12と架橋含水性ポリマー14との密着性を一層安定して維持する等の目的で、架橋含水性ポリマー14の線膨潤率を50%以下とし、且つイオン交換膜12の線膨潤率を20%以下とすることが望ましい。特に、イオン交換膜において小さな線膨潤率を実現するには、陰イオン交換膜の中では特にII型イオン交換膜が好適であり、また強酸性陽イオン交換膜は、更に小さい線膨潤率を示すため、一層好適である。
【0038】
更にまた、架橋含水性ポリマー14は、その含水率を20%〜60%とされることが望ましい。なお、含水率(β)は、乾燥状態の重量:Wsと膨潤後の重量Wwとによって、下式のとおり表される。かかる式に示されるとおり、本明細書における含水率は、水和による平衡含水状態を基準とした重量含水率を表す。
β(%) =((Ww−Ws)/Ww)×100
【0039】
特に、架橋含水性ポリマー14の水和処理の効率化だけでなく、イオン性薬剤の透過性(導出性能)を考慮すると、架橋含水性ポリマー14の含水率を20%以上とすることが望ましい。一方、架橋含水性ポリマー14からの水やイオン性薬剤の不必要な漏出を抑えつつ、架橋含水性ポリマー14を膨潤状態で保存する等の目的のためには、架橋含水性ポリマー14の含水率を60%以下とすることが望ましく、より好適には40%以下とされる。
【0040】
なお、かかる架橋含水性ポリマー14と併せて、イオン交換膜12も、その含水率が選定されることとなる。イオン交換膜12の含水率は、イオン性薬剤の吸着能力の一つとしての観点からは高い方が望ましいが、架橋含水性ポリマー14の含水率との差が大きいと境界面での密着性が低下するおそれがあることから、架橋含水性ポリマー14の含水率と同様に30%〜60%に設定されることが好適であり、より好適には架橋含水性ポリマー14の含水率との差を20%以下に設定される。
【0041】
さらに、イオン交換膜12の表面を覆う架橋含水性ポリマー14は、イオン交換膜12において脱着されたイオン性薬剤が架橋含水性ポリマー14の導出面18(表面)にまで導出される経路を構成することとなる。それ故架橋含水性ポリマー14における当該被覆層の部分の厚さ寸法が大きすぎると、かかる経路上でのイオン性薬剤の透過抵抗が大きくなり過ぎるおそれがある。従って、架橋含水性ポリマー14における含水率や透過性能等にもよるが、一般に、かかる架橋含水性ポリマー14による被覆層の厚さ寸法:Tは、膨潤状態で0.5mm以下とされることが望ましく、より好ましくは0.2mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下である。一方、機械的強度や耐久性、信頼性の観点からは、この架橋含水性ポリマー14による被覆層の厚さ寸法:Tは、膨潤状態で0.005mm以上とされることが好ましい。なお、本実施形態のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10は、表裏区別を不要として製造や取扱いを容易とする等目的で、イオン交換膜12の表裏両面が、架橋含水性ポリマー14によって形成された同一厚さ寸法の被覆層で覆われている。また、均一な形状を達成するために、円形状のイオン交換膜12を使用する上では、その外径は6〜11mmが好ましく、これ以上の径や面積の場合は均一な形状を達成しにくく、また、これ以下の小径の場合は放出面積が小さくなるため好ましくない。
【0042】
上述の如き構造とされたイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10は、イオン交換膜12の全表面が架橋含水性ポリマー14で覆われており、イオン交換膜12に対しての保護効果が発揮される。また、イオン交換樹脂12にイオン吸着されたイオン性薬剤の吸着安定性の向上等の効果が達成される。
【0043】
更に、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10は、全体として水等の水性溶媒で膨潤されることにより、柔軟となる。そして、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10は、このような膨潤状態下で、イオン交換膜12が、前述のとおりイオン性薬剤をイオン吸着にて保持し得ると共に、軟質状態を呈する架橋含水性ポリマー14が、前述のとおりイオン性薬剤を吸着保持するイオン交換膜12の周囲を保護しつつ、イオン交換膜12からイオン性薬剤の透過、導出を許容し得る。
【0044】
しかも、イオン性薬剤が可動性のイオンとしてイオン交換膜12に吸着保持されていることから、保存状態下で薬剤を安定して保持させることができる。更に、イオン交換膜12は、軟質の架橋含水性ポリマー14に内包されて覆われており、その全面が直接に外部に晒されていないことから、外部環境による悪影響が軽減されて、イオン交換膜12によるイオン性薬剤の保持能力が一層安定して発揮され得る。
【0045】
尤も、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10を、例えば生理食塩水等のイオン化した水溶液中で長期間に亘って保存等する場合には、イオン交換膜12で吸着保持されたイオン性薬剤として、水溶液中のイオンよりもイオンの選択性順位が大きいものを採用したり、濃度を調節する等して、イオン交換膜12におけるイオンの脱着が発生しないように配慮することが望ましい。
【0046】
なお、上述のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10のイオン交換膜12に対するイオン性薬剤の吸着は、架橋含水性ポリマー14の重合後に処理することも可能であるが、架橋含水性ポリマー14の重合前に処理することが好適である。
【0047】
すなわち、前者の場合には、例えばイオン交換膜12をインサートして架橋含水性ポリマー14を、前述の如き手法に従って重合成形した後、かかる成形品を水和膨潤する工程で、イオン性薬剤を含浸させることによって行なわれ得るが、この方法では、イオン性薬剤を、架橋含水性ポリマー14を透過させてイオン交換膜12に吸着させることが必要となり、架橋含水性ポリマー14の存在によって長時間を要することとなる場合もある。
【0048】
これに対して、後者の場合には、架橋含水性ポリマー14による制限を受けることなく、イオン性薬剤をイオン交換膜12に対して速やかに吸着保持させることが可能となる。かかる後者の方法では、投与すべきイオン性薬剤をイオン吸着させたイオン交換膜12をセットした成形キャビティ内で、架橋含水性ポリマー14を重合成形することによって実施され得る。その際、イオン性薬剤を吸着させた膨潤状態(湿潤状態)のイオン交換膜12に対して架橋含水性ポリマー14を密着状態で安定して重合成形する目的で、前述の如く必要に応じて重合開始剤や光増感剤,希釈剤等が配合されたモノマー混合物に対して、更に、水溶性固体不活性物質又は水等の水性媒体を添加して、重合することが望ましい。
【0049】
かかる水溶性固体不活性物質としては、重合成形後の重合体からの水溶性固体不活性物質の除去容易性や重合体の切削等の後加工容易性等の観点から、平均分子量が、好ましくは1,000〜10,000のものが好適である。具体的には、モノマー混合物への溶解性も考慮して、例えば、前記平均分子量を有するポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリブチレングリコールが、水溶性固体不活性物質として好適に採用される。なお、水溶性固体不活性物質のモノマー混合物への配合量は、重合によって得られる架橋含水性ポリマー14の含水率相当分程度に設定されることが望ましい。
【0050】
そして、このような水溶性固体不活性物質は、モノマー混合物の重合成形後に成形体である架橋含水性ポリマー14から除去されて、代わりに水和されるが、その除去方法としては、得られた成形体を、水などの溶媒に浸漬することにより、水溶性固体不活性物質を抽出し除去することで実現され得る。なお、かかる架橋含水性ポリマー14からの水溶性固体不活性物質の除去処理に際して、イオン交換膜12に予め吸着保持されたイオン性薬剤は、イオン交換膜12に対してイオン吸着されていることから保持状態に維持され得、架橋含水性ポリマー14を通じての外部への漏出が防止される。また、かかる水溶性固体不活性物質の除去処理に際して、重合成形体が浸漬される溶媒として、水に代えてイオン性薬剤を採用し、或いはイオン性薬剤が添加された溶媒を採用することにより、架橋含水性ポリマー14にもイオン性薬剤を含浸させることも可能である。
【0051】
以上、本発明の第一の実施形態として平板の樹脂膜として供給されるイオン交換膜12を内包するイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10について説明したが、そこにおけるイオン交換膜12の具体的形状は限定されるものでない。例えば、かかるイオン交換膜として、複数に分割されて架橋含水性ポリマー14中に相互に独立分離して埋設配置されたものや、架橋含水性ポリマー14と異なる形状を有するものなどを、適宜に採用することも可能である。
【0052】
具体的には、図3〜4に示された本発明の第二の実施形態としてのイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー20のように、円環膜形状のイオン交換膜22を採用しても良い。なお、本実施形態を含む以下の実施形態では、何れも、他の実施形態と同様な構造とされた部材及び部位に対して、それぞれ、当該他の実施形態と同一の符合を各図中に記載することによって、それらの詳細な説明を省略する。
【0053】
本実施形態におけるイオン交換膜22には、孔(本実施形態では、イオン交換膜22の同一中心軸上に中心孔24)が形成され、イオン交換膜22は円環膜形状となっている。それにより、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー20の少なくとも一部に透明性を得ることが出来、例えば、中心孔24から薬剤放出後の患部を傷つけることなく観察することが可能となる。即ち、本実施形態では、イオン交換膜22の中心孔24の形成領域において、可視光線を透過する透明体が形成されており、それによって、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー20が光学部材とされている。
【0054】
上記のように、患部観察用に中央部の透明性を得ると共に、変形を避けるために、円環形状のイオン交換膜22を使用する場合は、その外径は6〜11mm、内径は2〜5mmが好ましい。また、後述する円環形状のイオン交換膜を複数配置する場合でも、最外径と最内径は上記範囲が好ましい。イオン交換膜がこれ以上の径や面積となると、均一な形状を達成しにくくなる。
【0055】
さらに、上述の第一〜二の実施形態としてのイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10,20では、何れも、表裏両面が平行平面とされた平板形状又はブロック形状をもって、軟質状態の架橋含水性ポリマー14が成形されたものを例示したが、かかる架橋含水性ポリマー14の形状ひいてはイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10,20の形状は、限定されるものでない。例えば、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10,20におけるイオン性薬剤の導出面18は、生体(患者)の装着面(イオン性薬剤の導入面)に対応した形状をもって形成され、それによって、装着状態下における患者の負担軽減等を図ることも可能である。
【0056】
具体的には、図5〜6に示された本発明の第三の実施形態としてのイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30のように、全体形状を略球殻ドーム形状として、外形を眼球表面に沿った湾曲形状とすることも可能である。かかるイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30は、凹形球面形状の内面32と、凸形球面形状の外面34を備えている。また、それら内面32と外面34間の厚さ方向の中間部分には、同一中心軸上で略軸直角方向に広がる状態でイオン交換膜36が埋設配置されている。このイオン交換膜36は、架橋含水性ポリマー14の外形形状と同様に、外形が略球殻ドーム形状とされている。これにより、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30は、全体が一般的なコンタクトレンズと略同様の形状とされて、角膜等の眼球表面に好適に配置されて用いられるようになっている。
【0057】
このように、イオン交換膜36の形状は、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30が用いられる対象面の形状に応じて、適宜設計されている。即ち、本実施形態におけるイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30は、角膜等の眼球表面において用いられることを想定して、略一定の曲率を持つ半球状として成型されている。なお、本実施形態のように全体が略球殻ドーム形状とされたイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30は、角膜上に限らず、角膜に比してやや弱い湾曲形状を備えた強膜上で用いることも、勿論可能である。なお、強膜上でイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30を使用する際には、強膜表面の湾曲がやや小さいことから、イオン交換膜36の外形寸法が充分に小径とされている場合には、イオン交換膜36は平板状とされていてもよい。一方、イオン交換膜36がある程度大径である場合には、眼球表面に沿った湾曲形状とされることが望ましい。なお、このようなイオン交換膜36の形状設計は、架橋含水性ポリマー14およびイオン交換膜36の膨潤による変形を見越して設計されることが好ましい。
【0058】
なお、このような全体がコンタクトレンズ形状とされたイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30は、湾曲形状とされたイオン交換膜36をコンタクトレンズ用成形型内に配置して位置決め配置せしめた状態下で、その周囲に架橋含水性ポリマー14をモールド重合すること等によって、容易に製造することができる。
【0059】
本実施形態のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30にあっては、その凹型球面形状の内面32を、生体眼球の角膜等の湾曲表面形状と略同じに設定することが出来、それによって、湾曲している角膜等の眼球表面に重ね合わされて装着することが可能である。従って、眼球表面に刺激やダメージを与えることなく、薬剤を適切に徐放することが可能となる。
【0060】
なお、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30の内面32と眼球表面との間に多少の隙間が発生しても、そこに涙液が侵入して涙液層が形成されることから、徐放システムに際してイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30の内面32から導出されるイオン性薬液の経膜投与が可能である。
【0061】
また、本実施形態のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー30では、イオン交換膜36を被覆した軟質の架橋含水性ポリマー14の表面(内面32)からイオン性薬剤が導出されて眼球表面に供給され投与されることから、イオン交換膜36の眼球表面への接触が完全に防止されて、かかる接触に起因する患者の苦痛や生体への悪影響が防止される。しかも、眼球表面への接触面が軟質の架橋含水性ポリマー14で構成されることから、装着時における患者の負担が一層軽減され得るのである。
【0062】
また、図7〜8に示された本発明の第四の実施形態としてのイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー40のように、全体形状を略球殻ドーム形状とすると共に、その内部に円環状のイオン交換膜42を埋設してもよい。更に、図9〜10に示された本発明の第五の実施形態としてのイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー44のように、複数の円環状のイオン交換膜42a,42bを埋設してもよい。
【0063】
かかるイオン交換膜42又は42a,42bは、第二の実施形態と同様に、中央部分に中心孔46が貫通形成された円環膜形状を有している。これにより、軟質状態の架橋含水性ポリマー14の透明性を利用して、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー40の中心軸上の中央部分において、中心孔46から患部を観察するだけでなく、例えば角膜上において、イオン交換膜42又は42aの中心孔46を通じての視野が良好に確保される透明な視野領域48を設けることが可能となる。これにより、施術中の患者の視野を妨げることなく、薬剤の徐放を行うことができる。
【0064】
また、このようなイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー40又は44によれば、イオン交換膜42又は42a,42b及び架橋含水性ポリマー14を含む全体が透明体とされており、且つ、中心に視野領域48が設けられていることにより、例えば、公知のコンタクトレンズのような眼光学系における光学部材を形成し得る。
【0065】
因みに、前記第一の実施形態に従う構造とされたイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー10の実現を確認するために成形したものを、参考のために実施例1,2として以下に記載しておく。
【0066】
[実施例1]
先ず、親水性モノマーとしてのHEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)100重量部に対して、架橋性モノマーとしてのEDMA(エチレングリコールジメタクリレート)を0.2重量部と、光重合開始剤としてのHMPPO(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンを0.2重量部、それぞれ添加して均一に混合することによって重合性配合液を得た。次いで、この重合性配合液に対して希釈剤としてのグリセリンを、重量において60:40の割合で添加することにより希釈重合性配合液を得た。
【0067】
厚さが略20μmの、多孔質ポリエチレン膜中に電解質ポリマーが充填されたイオン交換膜を、国際公開特許WO2006/004098に従って準備した。この膜に、酸素分圧1mmHgで減圧プラズマ処理を行った後、これを直径6mmの円形に打抜加工して埋設用のイオン交換膜を得た。
【0068】
また、重合用成形型として、軸方向の重ね合わせによって円形平板形状の成形キャビティを形成するポリプロピレン製の雌雄型からなる成形型を準備した。
【0069】
そして、この成形型における成形キャビティ内の中央に上記イオン交換膜を位置決めピンでセットした状態下、上記希釈重合性配合液を注入して、気泡を除去した後、波長が365nm,強度が10mWの光線を20分間照射することによってUV重合を実施した。成形型から脱型して得られた重合成形体を、蒸留水に浸漬して水和した後、60℃まで加温した後、加熱滅菌することによって、目的とするイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーを得た。
【0070】
このようにして得られたイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーは、外径が9mmで、厚さが0.1mmの円板形状であった。目視において、透明なゲル状とされた軟質の架橋含水性ポリマーの中に膜状のイオン交換膜が埋設配置されていることを確認できた。なお、使用したイオン交換膜の線膨潤率は7%、架橋含水性ポリマーの線膨潤率は10%であったが、得られたイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーにおいて、イオン交換膜の架橋含水性ポリマーとの界面に隙間の発生は認められず、密着状態であることを確認でき、表面の凹凸は観測できなかった。
【0071】
[実施例2]
実施例1と同じ陽イオン交換膜を、吸水後に曲率8.30mmとなるように球状に加工したのち、同様にプラズマ処理し、外径6mm、内径3mmの円環形状に打抜加工してイオン交換膜を得た。一方、成形型として、前記第四実施形態に示した円形ドーム形を呈する成形キャビティを、雌雄両型間に形成するポリプロピレン製の成形型(曲率8.30mm)を準備した。そして、この成形型の成形キャビティ内の略中央に上記イオン交換膜を位置決めセットして、実施例1と同じ希釈重合性配合液を注入し、実施例1と同じ処理を経て目的とする、第四実施形態に示されているイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーを得た。中央部の透過率は92%以上であり、光学性を有していた。
【0072】
このようにして得られたイオン交換膜内包架橋含水性ポリマーにおいても、実施例1で得られたものと同様な確認を行い、凹凸などの構造等に関して問題が無いことを確認し得た。
【0073】
[参考例1]
実施例2で、希釈剤添加及びプラズマ処理を行わずに、同一の平板状のイオン交換膜を用いて行った結果、中央部は扁平となり、周辺部は架橋含水性ポリマーから一部が突出していた。また、イオン交換膜と架橋含水性ポリマーに間隙ができ、架橋含水性ポリマー全体の形状は不均一なものとなった。
【0074】
[参考例2]
実施例1で、希釈剤添加及びプラズマ処理を行わずに、同一の平板状のイオン交換膜を用いて行った結果、中央部はイオン交換膜と架橋含水性ポリマーに間隙ができ、不均一な厚みとなり、周辺部は架橋含水性ポリマーから突出していた。また、架橋含水性ポリマー全体の形状は不均一なものとなった。
【0075】
[比較例1]
イオン交換膜に替えてイオン交換樹脂ビーズを15重量%分散させて、実施例2に従って重合したところ、架橋含水性ポリマーの周辺部が波状に変形し、透明性は確認できたが、光学性は劣っていた。また、部分的に樹脂の粒子の突出が観察された。
【0076】
以上、本発明の幾つかの実施形態について詳述してきたが、本発明は、これらの実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものではない。
【0077】
例えば、本発明において採用される架橋含水性ポリマーは、皮膚などの組織では必ずしも透明である必要はない。前記実施形態において、希釈剤を添加する目的の一つとして白濁の防止を挙げており、希釈剤の濃度を制限する一つの要因となっていたが、架橋含水性ポリマーを透明としない場合は、希釈剤濃度の制限を緩和することができ、それにより更に好適な架橋含水性ポリマーを得ることができる。
【0078】
また、必ずしもイオン交換膜の全表面が架橋含水性ポリマーで覆われている必要はなく、例えば、イオン交換膜の皮膚や眼球表面に装着する側の面のみを架橋含水性ポリマー14で覆う等しても良い。それにより、イオン交換膜内包架橋含水性ポリマーの厚みを薄くすることができ、眼球表面等に装着する際の、装用感の向上及び異物感の低減等の効果が発揮される。
【符号の説明】
【0079】
10,20,30,40,44:イオン交換膜内包架橋含水性ポリマー、12,22,36,42,42a,42b:イオン交換膜、14:架橋含水性ポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋含水性ポリマーにイオン交換膜が内包されており、水性媒体による膨潤で柔軟となることを特徴とするイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項2】
前記イオン交換膜に対してイオン性化合物がイオン吸着されている請求項1に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項3】
前記イオン性化合物が薬理活性を有するものである請求項2に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項4】
前記架橋含水性ポリマーが、親水性モノマーと架橋性モノマーとの重合体である請求項1〜3の何れか1項に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項5】
前記架橋含水性ポリマーが熱重合されている請求項1〜4の何れか1項に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項6】
前記イオン交換膜の表面を覆う前記架橋含水性ポリマーの表層被覆寸法が0.1mm以下0.005mm以上である請求項1〜5の何れか1項に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項7】
少なくとも一部が透明体とされて光学部材を形成し得る請求項1〜6の何れか1項に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項8】
前記架橋含水性ポリマーの含水率が20%以上40%以下である請求項1〜7の何れか1項に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項9】
前記架橋含水性ポリマーの線膨潤率と前記イオン交換膜の線膨潤率との差が30%以下である請求項1〜8の何れか1項に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項10】
前記架橋含水性ポリマーの線膨潤率が50%以下であると共に、前記イオン交換膜の線膨潤率が20%以下である請求項9に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項11】
外形が平板形状である請求項1〜10の何れか1項に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項12】
外形が眼球表面に沿った湾曲形状であり、該眼球表面に配置して用いられる請求項1〜10の何れか1項に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項13】
湾曲形状とされた前記イオン交換膜をコンタクトレンズ用成形型内に配置して前記架橋含水性ポリマーを重合することにより全体がコンタクトレンズ形状とされており、角膜表面に装着されて用いられる請求項12に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項14】
前記イオン交換膜が、強酸性の陽イオン交換膜である請求項1〜13の何れか1項に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。
【請求項15】
前記イオン交換膜が、陰イオン交換膜である請求項1〜13の何れか1項に記載のイオン交換膜内包架橋含水性ポリマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−67741(P2013−67741A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208237(P2011−208237)
【出願日】平成23年9月23日(2011.9.23)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】