説明

イオン交換膜用原膜の製造方法

【課題】 巻き取りローラによる重合性シートの巻き数を多くし、多数巻かれた重合性シート中の重合性ペーストの重合を行うことにより、高い生産性でイオン交換膜用の原膜を、品質低下を発生させることなく製造する方法を提供する。
【解決手段】 重合性単量体及び重合開始剤を含む重合性ペーストからなる層の内部に基材シートが埋め込まれている重合性シートを、その一方の面に離型性フィルムを貼り付けながら巻き取りローラにより連続的に巻き取り、離型性フィルムが貼り付けられた重合性シートが巻き取りローラに巻かれた状態で前記重合性ペーストを重合することにより、イオン交換膜用原膜を製造する方法において、前記離型性フィルムとして、1m当り1.2〜5.0kJ/℃の熱容量を有するものを使用し、且つ該重合性ペーストの重合を、前記巻き取りローラ上での重合性シートのトータル厚みを10mm以上として行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換基を導入してイオン交換膜としての使用に供されるイオン交換膜用原膜の製造方法に関するものであり、より詳細には、芯膜に重合性ペーストを塗布乃至含浸することにより作製された重合性フィルムが巻き取りローラに巻かれている状態で重合を行うことによりイオン交換膜用原膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン交換膜の製造方法として、所謂ペースト法が知られている。この方法は、補強材としての機能を有する基材シートに重合性ペーストを塗布乃至含浸させ、重合性ペーストからなる層の内部に基材シートを有する重合性シートを作製し、この重合性シートの重合性ペーストを重合して、イオン交換基の導入に供せられる原膜(イオン交換膜用原膜)を製造し、この原膜に各種のイオン交換基を導入することにより、イオン交換膜を製造するというものである(特許文献1参照)。
【特許文献1】特公昭39−27861
【特許文献2】特許第3193522号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、実際の生産工程では、イオン交換基の導入に供せられる上記原膜は、多くの場合、重合性ペーストを基材シートに塗布乃至含浸させて重合性シートを形成させ、該重合性シートの一方の面にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの離型性フィルムを貼り付けながら、該重合性シートを離型性フィルムとのラミネートの形で巻き取り、このようにして巻き取りローラに巻かれた状態で重合性ペーストを重合させることにより製造されている。この方法は、連続生産に適しており、効率よく、原膜を製造することができるからでる。
【0004】
しかるに、重合性シートが巻き取りローラに巻かれた状態で重合性ペーストを重合して原膜を製造する場合、さらに生産効率を高めるためには、巻き取りローラによる重合性シートの巻き数を多くすればよいのであるが、この巻き数を多くすると、重合が均一に進行せず、原膜にシワが発生したり、或いは基材シートが部分的に劣化し、部分的に原膜の強度が低下してしまうなどの品質低下を生じることがあり、従って、重合性シートの巻き数が制限されていたのが実情である。
【0005】
従って、本発明の目的は、巻き取りローラによる重合性シートの巻き数を多くし、多数巻かれた重合性シート中の重合性ペーストの重合を行うことにより、高い生産性でイオン交換膜用の原膜を、品質低下を発生させることなく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、重合性単量体及び重合開始剤を含む重合性ペーストからなる層の内部に基材シートが埋め込まれている重合性シートを、その一方の面に離型性フィルムを貼り付けながら巻き取りローラにより連続的に巻き取り、離型性フィルムが貼り付けられた重合性シートが巻き取りローラに巻かれた状態で前記重合性ペーストを重合することにより、イオン交換膜用原膜を製造する方法において、前記離型性フィルムとして、1m当り1.2〜5.0kJ/℃の熱容量を有するものを使用し、且つ該重合性ペーストの重合を、前記巻き取りローラ上での重合性シートのトータル厚みを10mm以上として行うことを特徴とするイオン交換膜用原膜の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の製造方法においては、一般に、
(1)前記巻き取りローラの外径が0.1m以上であること、
(2)前記基材シートの厚みが10乃至500μmの範囲にあり、前記重合性シートの厚みが10乃至1000μmの範囲にあること、
が好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、重合性シートのトータル厚みが10mm以上となるまで巻き取りローラに巻き取った状態で重合を行うものであり、重合性シートの巻き数を多くすることにより生産効率を高めるのであるが、特に重要な点は、前記離型性フィルムとして、1m当り1.2〜5.0kJ/℃の熱容量を有するものを使用することにある。
【0009】
即ち、重合性シートに離型性フィルムを貼り付けて巻き取りローラで巻き取った場合、重合性シートのトータル厚み(即ち、離型性フィルムの厚みを除く)が10mm以上となるように巻き取られていると、このような重合性シート中の重合性ペーストを重合させたとき、重合性シートの内部(巻き取りローラ表面側)に位置する部分と外面側に位置する部分との間で大きな温度差が生じ、この結果として、得られる原膜の品質低下が生じるものと考えられる。即ち、外面側に位置する部分では、重合熱が容易に雰囲気中に放熱されるが、内部に位置する部分では、間に離型性フィルムが介在していることもあって、重合熱が外部に放熱されずにこもってしまい、この結果、重合性シートの内部に位置する部分では外面側に位置する部分に比して、かなり高温となってしまう。このため、特に巻き取りローラの表面側に位置する内部において、得られる原膜にはシワが発生したり、基材シートの劣化による強度低下などを生じ、また物性のバラツキなどが発生することとなる。
【0010】
しかるに、本発明では、上記のように、1m当り1.2〜5.0kJ/℃の熱容量を有する離型性フィルムを使用することにより、重合性シートに発生する重合熱が該離型性フィルムに有効に吸熱され、この結果、特に巻き取りローラ表面側に位置している重合性シート内部での著しい昇温が抑制され、このような著しい昇温による原膜の品質低下を有効に回避することができる。即ち、本発明では、重合性シートの巻き数が、そのトータル厚みが10mm以上になるように増大させて、品質低下を生じることなく、効率よく原膜を製造することが可能となるのである。
【0011】
本発明では、上記のような熱容量を有する離型性フィルムを用いることにより、例えば巻き取りローラ上に巻かれた重合性シートのトータル厚みを、10mm以上に増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を、以下、添付図面に示す具体例に基づいて説明する。
図1は、本発明で実施される重合性シートの作製及び巻き取り工程を示す図であり、
図2は、図1の工程で得られる重合性シートの層構造を離型性フィルムと共に示す図である。
【0013】
図1を参照して、重合性フィルムの作製及び巻き取り工程では、基材シート1が巻かれた基材ローラ3、重合性ペースト5が満たされている塗布槽7、巻き取りローラ9、及び離型性フィルム11が巻かれた離型材ローラ13が配置されている。
【0014】
基材シート1は、基材ローラ3から、複数のテンションローラ15を介して巻き取りローラ9により巻き取られるようになっているが、その途中で、塗布槽7の重合性ペースト5中に浸漬されており、内部に基材シート1を有する重合性ペースト5の層を形成することにより、全体として20で示す重合性シートが作製されるようになっている。
【0015】
また、離型性フィルム11は、離型材ローラ13から複数のテンションローラ21を介して、巻き取りローラ9により、芯膜1の上に重ねて巻き取られるようになっているが、巻き取りローラ9に対面する位置に配置され且つ弾性賦勢された貼り付けローラ23により、上記の重合性フィルム20の一方の面に離型性フィルム11が貼り付けられ、離型性フィルム11とのラミネートの形で重合性シート20が巻き取りローラ9に巻き取られる構造となっている。
【0016】
このようにして作製された重合性シート20は、図2に示されているように、内部に基材シート1を有する重合性ペースト5の層からなり、且つその一方の面には、離型性フィルム11が貼り付けられている。
【0017】
本発明においては、上記の巻き取りローラ9により、重合性シート20を、そのトータル厚み(離型性フィルム11を除く厚み)が10mm以上、特に20mm以上となるように巻き取ることが重要である。即ち、本発明では、巻き取りローラ9での重合性シート20の巻き数を多くすることにより、1度に長尺の重合性シート20を作製し、生産効率を高めるのである。尚、重合性シート20の巻き数が多くなり、重合性シート20の巻き取りローラ9上でのトータル厚みが10mmを越えると、それに伴い、後述する重合時に温度ムラが発生し易くなり、得られる原膜の品質低下が生じるが、このような品質低下は、後述するように、所定の熱容量を有する離型性フィルムを用いることにより回避することができる。
【0018】
<基材シート1>
本発明において、基材シート1としては、従来からイオン交換膜の補強用基材として使用されているものが何ら制限なく使用され、例えば、素材としてポリ塩化ビニルや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン或いはこれらの共重合体もしくはブレンド物などのポリオレフィン製のものが使用されるが、最終的に製造されるイオン交換膜の耐久性等の点で、特にポリオレフィン製の基材シートが好適である。
【0019】
基材シート1は、通常、織布の形態を有しているが、不織布、網、多孔性シートなどの形態を有していてもよい。また、織布の単糸は、モノフィラメント、マルチフィラメントの何れであってもよい。さらに、基材シート1における縦糸や横糸の目付け量が小さい方が得られるイオン交換膜の電気的抵抗を小さくできるが、糸ずれによる形態保持性の低下を抑制するために、一般に、1平方インチ当たりの目数が10〜500程度の範囲に設定されていることが好ましい。尚、単糸の交点を部分融着するなどの工夫をすれば、目数が10以下の織布を基材シートとして使用することもでき、例えば芯部分をポリプロピレン、鞘部分をポリエチレンとする複合フィラメントを使用し、交点のポリエチレン部分を融着すれば、目数が小さい織布でも基材シート1として使用することができる。このような基材シート1の厚さは、特に制限されるものではないが、通常、10〜500μmの範囲にある。
【0020】
尚、ポリオレフィン製の基材シート1にカレンダー加工を施し、縦糸と横糸の交点部分を圧縮することにより基材シート1の表面平滑性を向上させたり、予め基材シート1に熱処理を施すことにより、後述する重合工程での基材シート1の寸法変化を抑制することもできる。さらに、コロナ放電処理、クロルスルホン酸処理等の公知の表面処理を行い、基材シート1と前述した重合性ペーストに由来するイオン交換樹脂部分との接着性を向上させることもできる。
【0021】
<重合性ペースト5>
上記基材シート1に塗布される重合性ペースト5は、イオン交換基を導入する樹脂を形成するものであり、少なくとも重合性単量体や重合開始剤を含み、また、粘度調整剤として、イオン交換基の導入には寄与しないマトリックス樹脂を含有し、さらに、必要により架橋剤を含有している。
【0022】
重合性単量体としては、イオン交換樹脂の形成に使用されている公知の単量体を何ら制限なく使用され、例えば、イオン交換基の導入に適した官能基を有する単量体やイオン交換基を官能基として有している単量体などが使用される。このような官能基を有する単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α−メチルスチレン、アセナフチレン、ビニルナフタリン、α−ハロゲン化スチレン、α,β,β’−トリハロゲン化スチレン、クロルスチレンなどが代表的であるが、特に原膜を陽イオン交換膜の形成に使用する場合には、α−ハロゲン化ビニルスルホン酸、α,β,β’−ハロゲン化ビニルスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、マレイン酸、イタコン酸、スチレンホスホニル酸、無水マレイン酸、ビニルリン酸、及びこれらの塩類、エステル類などが好適であり、原膜を陰イオン交換膜の形成に使用する場合には、ビニルピリジン、メチルビニルピリジン、エチルビニルピリジン、ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、アミノスチレン、アルキルアミノスチレン、ジアルキルアミノスチレン、トリアルキルアミノスチレン、メチルビニルケトン、クロルメチルスチレン、アクリル酸アミド、アクリルアミド、オキシウム、スチレン、ビニルトルエンなどが好適であり、これらの単量体は、1種単独で使用してもよいし、或いは互いに共重合可能である2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0023】
また、上記単量体としては、後述する架橋剤と共重合可能なものを含有し、或いは共単量体として含有していてもよい。このような架橋剤と共重合可能な単量体としては、スチレン、アクリロニトリル、エチルスチレン、ビニルクロライド、アクロレイン、メチルビニルケトン、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸の塩またはエステル類、イタコン酸、イタコン酸の塩またはエステル類などを例示することができる。
【0024】
上述した単量体と共に使用される重合開始剤は、基材シート1の種類に応じて適宜のものが使用される。
【0025】
例えば、ポリ塩化ビニル製の基材シート1を用いた場合には、10時間半減期温度が110℃以下のラジカル重合開始剤、具体的には、ベンゾイルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサンパーオキシド、メチルシクロヘキサンパーオキシド、イソブチルパーオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド、o−メチルベンゾイルパーオキシド、ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、1,1−ジ−tert−ブチルパーオキシ−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−tert−ブチルパーオキシ−シクロヘキサン、2,2−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)−ブタン、4,4−ジ−tert−ブチルパーオキシバレリアン酸−n−ブチルエステル、2,4,4−トリメチルペンチルパーオキシ−フェノキシアセテート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシビバレート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシ−イソブチレート、ジ−tert−ブチルパーオキシ−ヘキサハイドロテレフタレート、ジ−tert−ブチルパーオキシアゼレート、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシベンゾエートなどが使用される。
【0026】
また、ポリオレフィン製の基材シート1を用いた場合には、10時間半減期温度が110℃〜170℃のラジカル重合開始剤、具体的には、p−メンタンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−tert−ブチルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、ジ−tert−アミルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、クメンヒドロパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジヒドロパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジヒドロパーオキシヘキシン−3などが使用される。
【0027】
上記の重合開始剤は、通常、前記重合性単量体100重量部当り2乃至15重量部の量で使用されるが、特に重合熱を緩和するという点では、2乃至4.5重量部と、比較的少ない量で重合開始剤を使用することが最適である。即ち、重合開始剤の配合量を少なく設定しておくことにより、重合時における重合性シート20の昇温を抑制し、かかる重合性シート20から得られる原膜の品質低下を抑制するのに有利となる。
【0028】
上述した重合性単量体及び重合開始剤と必要により併用される架橋剤は、膜の強度等を高めるために必要に使用されるものであり、このような架橋剤としては、m−、p−或いはo−ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタリン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジビニルピリジンなどのジビニル系化合物を例示することができる。このような架橋剤は、一般に、前述した単量体100重量部当り5乃至20重量部の量で使用される。
【0029】
また、重合性ペースト5中には、粘度調整剤としてマトリックス樹脂が配合されていることが好ましく、このようなマトリックス樹脂を配合することにより、重合性ペースト5の作業性を高め、これを基材シート1に塗布乃至含浸させたときの垂れ等を防止し、且つ巻き取りローラ9による重合性シート20の巻き取りを有効に行うことができる。
【0030】
このようなマトリックス樹脂としては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブチレン等の飽和脂肪族炭化水素系ポリマー、スチレン−ブタジエン共重合体などのスチレン系ポリマー、ポリ塩化ビニル、或いは、これらに、ビニルトルエン、ビニルキシレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、α−ハロゲン化スチレン、α,β,β’−トリハロゲン化スチレン等のスチレン系モノマーや、エチレン、ブチレン等のモノオレフィンや、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィンなどを共重合させたものなどを使用することができる。かかるマトリックス樹脂の分子量は、通常、1,000乃至1,000,000、特に50,000乃至500,000の範囲にあり、適度な粘性を確保できる程度の量で分子量に応じて重合性ペースト5中に配合され、例えば、その量は、重合性単量体100重量部当り、2乃至30重量部程度である。
【0031】
また、重合性ペースト5中には、必要により、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、リン酸トリブチル、スチレンオキサイド、或いは脂肪酸や芳香族酸のアルコールエステル等の可塑剤や、有機溶媒などが配合されていてもよい。
【0032】
<重合性シート20>
本発明においては、上記のように重合開始剤量が所定の範囲に設定されている重合性ペースト5中に、塗布槽7で基材シート1を浸漬することにより、基材シート1が重合性ペースト5の層中に埋め込まれた重合性シート20が作製される。従って、かかる重合性シート20の厚みは、基材シート1よりも厚く、通常、10乃至500μm程度の範囲にある。
【0033】
<離型性フィルム11>
本発明において、塗布槽7で基材シート1を重合性ペースト5中に浸漬することにより形成された重合性シート20には、その一方の面に離型性フィルム11が貼り付けられ、離型性フィルムと重合性シート20とのラミネートの形で巻き取りローラ9に巻き取られる。即ち、離型性フィルム11を貼り付けておかないと、巻き取りローラ9上に重合性シート20が一体化してシート形状が損なわれてしまうからである。
【0034】
このような離型性フィルム11は、後述する重合工程で耐え得る耐熱性を有し、且つ重合後に容易に引き剥がせるものが使用され、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体等のポリオレフィン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル化合物共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフエニレンオキサイド等や、ポリ乳酸など生分解性樹脂、あるいはそれらの混合物のいずれかの樹脂からなるものを、重合性ペースト5中の単量体等の種類に応じて使用することができるが、特に耐熱性と離型性とが良好であるという点で、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルムが好ましく、勿論、かかるフィルムは、二軸延伸されていてもよい。また、離型性フィルムは、これらのフィルムが複数合わさった複合フィルムも使用できる。
【0035】
本発明においては、重合性シート20が、トータル厚みが10mm以上となるように巻き取りローラ9により巻き取られた状態で重合が行われることに関連して、上記の離型性フィルム11の1m当りの熱容量は、1.2〜5.0kJ/℃、特に1.5〜4.0kJ/℃の範囲に設定されていなければならない。即ち、上記のように重合性シート20の巻き数を多くして重合を行うと、重合熱の放熱が不十分になるため、巻き取られている重合性シート20の内部(巻き取りローラ9の表面近傍に位置する部分)の温度が、外面側に位置する部分に比して、かなり高温となってしまい、シワの発生、基材シートの劣化による強度低下、各種物性のバラツキなど、得られる原膜の品質劣化が生じる。しかるに、離型性フィルム11の熱容量が上記範囲に設定されている場合には、重合性シート20に発生する重合熱が離型性フィルム11に有効に吸熱され、重合熱による重合性シート20の昇温が抑制され、特に巻き取られている重合性シート20の内部での著しい昇温が抑制されるため、上記のような原膜の品質低下を有効に回避することができる。
【0036】
尚、離型性フィルム11の熱容量の調整は、該フィルムを形成する樹脂素材の種類に応じて、熱容量が上記範囲となるように、該フィルム11の厚みを調整すればよい。従来公知の方法では、離型性フィルム11に重合熱を吸収させる機能を全く持たせていなかったため、その厚みは極めて薄く、従って、熱容量は上記範囲に比してかなり小さい範囲となっていたが、本発明にしたがって熱容量を上記範囲に設定する場合には、離型性フィルム11の厚みは、従来使用されていたものに比してかなり厚くなる。例えば、離型性フィルム11の熱容量が上記範囲よりも小さい場合には、離型性フィルム11による重合熱の吸熱が有効に行われず、重合熱による重合性シート20の昇温(特に内部の著しい昇温)を抑制することができず、得られる原膜の品質低下を生じてしまう。また、離型性フィルム11の熱容量が上記範囲よりも大きいと、重合熱の吸熱による昇温抑制効果はさほど向上しないばかりか、離型性フィルム11の厚みが必要以上に厚くなってしまい、コストが増大するという不都合を招いてしまう。
【0037】
<巻き取りローラ9>
重合性シート20と離型性フィルム11とのラミネートの巻き取りに使用する巻き取りローラ9の大きさは、特に制限されないが、あまり小さいと、生産効率を高めるためには、重合性シート20の巻き数を著しく多くしなければならず、重合性シート20のトータル厚みが著しく厚くなってしまうため、一般には、その外径が0.1m以上であることが好ましい。また、この巻き取りローラ9は、ステンレススチール等の金属材料から形成され、且つ軽量化のため、その内部は中空となっている(図1参照)。さらに、この巻き取りローラ9は、適度な熱容量を有していることが好ましく、例えば巻き取られた重合性シート20中に存在する単量体1kg当りの熱容量が2〜15kJ/℃程度となるように、巻取りローラ9の厚みtが設定されていることが好ましい。即ち、巻き取りローラ9の熱容量がこの程度の範囲にあると、適度な熱伝達により、重合性シート20に発生する重合熱を吸収し、重合熱による重合性シート20の異常昇温を抑制することができる。
【0038】
<重合>
本発明では、上記のようにして重合性シート20がトータル厚みで10mm以上となるまで巻かれた状態で重合が行われる。即ち、離型性フィルム11が貼り付けられた重合性シート20が巻き取られた状態で、巻き取りローラ9を重合装置内に導入し、重合装置内の雰囲気を所定の重合温度まで加熱することにより、重合性ペースト5の重合が行われ、イオン交換基を導入するための原膜を得ることができる。
【0039】
重合温度は、用いる重合開始剤の種類によっても異なるが、一般に、基材シート1の融点を考慮して設定されることが好ましい。例えば基材シート1がポリ塩化ビニル製である場合には、80℃以下であることが好ましく、ポリオレフィン製である場合には、110℃以上で重合を行うことが望ましい。本発明では、前述したように重合開始剤量が所定の範囲に調整されているため、一気に重合が進行せず、徐々に重合が進行していくため、重合熱が均一に重合性シート20中に伝達され、例えば巻き取りローラ9側の内部の温度が高温になることがなく、得られる原膜の品質低下を有効に回避することができる。
【0040】
<原膜>
上記のようにして得られた原膜は、重合熱が離型性フィルム11を引き剥がした後、イオン交換基が導入され、陽イオン交換膜或いは陰イオン交換膜としての使用に供される。
【0041】
イオン交換基の導入は、それ自体公知の手段により行われ、例えば、スルホン化、クロルスルホン化、クロロメチル化、アミノ化、第4級アンモニウム塩素化、ホスホニウム化、スルホニウム化、加水分解等の処理により行われる。イオン交換基の導入量は、特に制限されるものではないが、通常、イオン交換容量が0.1〜20meq/g・乾燥膜、特に0.5〜3meq/g・乾燥膜の範囲にあるのがよい。
【0042】
本発明では、このように離型性フィルム11の熱容量を前述した範囲に設定しておくことにより、例えば巻き取りローラ上に巻かれた重合性シートのトータル厚みを、10mm以上に増大させることができる。
【実施例】
【0043】
本発明の優れた効果を次の例で説明する。
【0044】
実施例1〜2
クロロメチルスチレン80重量部、スチレン10重量部、工業用ジビニルベンゼン5重量部、スチレン−ブタジエンゴム5重量部、ジオクチルフタレート5重量部及びラジカル重合開始剤ベンゾイルパーオキサイド(10時間半減期温度74℃)6重量部添加して、ペースト混合物を得た。
次いで塩化ビニル製の基材シート(厚さ100μm)に上記ペースト混合物を塗布し、表1に示すようなポリエステルフィルムを離型性フィルムとして巻取りローラに、重合性シートのトータル厚みが30mmになるように巻き取った。その後巻取りローラをオートクレーブに入れて、圧力0.4Mpaの窒素ガス中にて75℃で8時間保持した。得られた原膜をトリメチルアミン中に室温24時間浸漬して、第4級化反応を行った。得られたイオン交換膜の膜性能を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例3〜4
クロロメチルスチレン10重量部、スチレン80重量部、工業用ジビニルベンゼン5重量部、クエン酸トリブチル15重量部、塩化ビニル粉末40重量部及びラジカル重合開始剤ラウリルパーオキサイド(10時間半減期温度62℃)3重量部添加して、ペースト混合物を得た。
次いで塩化ビニル製の基材シート(厚さ100μm)に上記ペースト混合物を塗布し、表2に示すようなポリエステルフィルムを離型性フィルムとして巻取りローラに、重合性シートのトータル厚みが20mmになるように巻き取った。その後巻取りローラをオートクレーブに入れて、圧力0.4Mpaの窒素ガス中にて80℃で5時間保持した。得られた原膜を98%濃硫酸と90%クロロスルホン酸の1:1混合溶液中に40℃で60分間浸漬した。得られたイオン交換膜の膜性能を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
比較例1〜2
表3に示すようなポリエステルフィルムを離型性フィルムとして使用した以外は、実施例1と同様に行った。得られたイオン交換膜の膜性能を表3に示す。
【0049】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明で実施される重合性シートの作製及び巻き取り工程を示す図。
【図2】図1の工程で得られる重合性シートの層構造を離型性フィルムと共に示す図。
【符号の説明】
【0051】
1:基材シート
5:重合性ペースト
9:巻き取りローラ
11:離型性フィルム
20:重合性シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体及び重合開始剤を含む重合性ペーストからなる層の内部に基材シートが埋め込まれている重合性シートを、その一方の面に離型性フィルムを貼り付けながら巻き取りローラにより連続的に巻き取り、離型性フィルムが貼り付けられた重合性シートが巻き取りローラに巻かれた状態で前記重合性ペーストを重合することにより、イオン交換膜用原膜を製造する方法において、
前記離型性フィルムとして、1m当り1.2〜5.0kJ/℃の熱容量を有するものを使用し、且つ該重合性ペーストの重合を、前記巻き取りローラ上での重合性シートのトータル厚みを10mm以上として行うことを特徴とするイオン交換膜用原膜の製造方法。
【請求項2】
前記巻き取りローラの外径が0.1m以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記基材シートの厚みが10乃至500μmの範囲にあり、前記重合性シートの厚みが10乃至1000μmの範囲にある請求項1または2に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−290935(P2006−290935A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109777(P2005−109777)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(503361709)株式会社アストム (46)
【Fターム(参考)】