説明

イオン交換膜

【課題】有機汚染を抑制し、かつ、膜抵抗やイオン選択性などの基礎特性に優れた電気透析用イオン交換膜を提供する。
【解決手段】微細な細孔2が貫通している微多孔性膜1の細孔2内にイオン交換樹脂が充填されて成るイオン交換膜であって、膜表面において、微細孔2の細孔径が5μm以下であり、且つ、微細孔2の占める面積が全面積の3〜60%であるとともに、15〜120μmの厚みを有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔性膜を母材とするイオン交換膜に関するものであり、より詳細には、厚みの薄い電気透析用のイオン交換膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品、医薬品、農薬などの分野における有機物の合成工程では、塩類などを副生する場合が多い。かかる有機物に含まれる塩類を分離するために、イオン交換膜法電気透析によって被処理液を脱塩する場合、被処理液中の有機汚染物質、特に荷電を有する巨大分子(以下、巨大有機イオンという。)がイオン交換膜に付着して膜の性能を低下させる、所謂、膜の有機汚染という問題が生じる。
【0003】
従来、有機汚染を抑制するイオン交換膜として、膜内への巨大有機イオンの侵入を膜表層部で阻止するようにしたイオン交換膜と、巨大有機イオンが容易に膜透過するようにしたイオン交換膜が提案されている。
【0004】
上記巨大有機イオンの膜内への浸入を防止するようにしたイオン交換膜は、膜表面に中性、両性あるいはイオン交換基とは反対荷電の薄層を形成したものである。このイオン交換膜は、膜構造が緻密なもの程、また、巨大有機イオンの分子量が大きい程、その効果は顕著である。上記イオン交換膜の代表的なものとして、陰イオン交換基を有する樹脂膜の表層部に反対荷電のスルホン酸基を導入し有機陰イオンの膜内への浸入を抑制した陰イオン交換膜(特許文献1)等がある。
【0005】
他方、巨大有機イオンの膜透過を容易にする方法は、膜構造をルーズにすることによって容易に達成される。
【特許文献1】特公昭51−40556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記巨大有機イオンの膜内への浸入を防止するようにしたイオン交換膜は、ある程度の耐有機汚染性を発揮することができるが、前記樹脂膜の表層部に設ける反対荷電層の形成により膜抵抗が著しく増大するという欠点を有していた。
【0007】
また、巨大有機イオンの膜透過を容易にする方法は、必然的にイオン選択性が低下し、その結果、電気透析等における効率が低下するという問題があった。
【0008】
従って、本発明の目的は、有機汚染を抑制し、かつ、膜抵抗やイオン選択性などの基礎特性に優れた電気透析用イオン交換膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、微多孔性膜の空隙内にイオン交換樹脂が充填された薄膜のイオン交換膜は、膜抵抗やイオン選択性などの基礎特性を低下させることなく、優れた耐有機汚染性を発揮する電気透析用イオン交換膜として有用であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明によれば、微細な細孔が貫通している微多孔性膜の該細孔内にイオン交換樹脂が充填されて成るイオン交換膜であって、膜表面において、微細孔の細孔径が5μm以下であり、且つ、微細孔の占める面積が全面積の3〜60%であるとともに、15〜120μmの厚みを有していることを特徴とする電気透析用イオン交換膜が提供される。
【0011】
本発明の電気透析用イオン交換膜においては、
(1)前記イオン交換樹脂がアニオン交換樹脂であること、
(2)前記微多孔性膜が、ポリオレフィンの延伸フィルムよりなること、
が好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気透析用イオン交換膜は、耐有機汚染性が高く、しかも膜厚が比較的薄いため、膜抵抗が小さく、長期間にわたって効率よく、安定に電気透析を行うことができる。特にアニオン交換膜を用いた場合には有機汚染が顕著であることが知られており、従って、本発明のイオン交換膜は、特にアニオン交換膜であることが好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明のイオン交換膜の代表的な態様を概念的に示す断面図であり、
図2は、本発明のイオン交換膜について、更に所定の処理を行って、イオン交換樹脂を、微多孔性膜表面より陥没した位置で露出させた状態を示す図である。
【0014】
本発明のイオン交換膜は、図1に示すように、イオン交換樹脂3が、微多孔性膜1を貫通している微細な細孔2内に充填されており、通常、このイオン交換樹脂3は、微多孔性膜1の全表面を覆うように存在している。一般に、このように、イオン交換樹脂が膜表面に露出しているイオン交換膜においては、該イオン交換基と反対荷電を有する巨大有機イオンとの間で静電的引力に起因する強い相互作用が発生し、膜表面に巨大有機イオンが吸着し易くなり、その結果、いわゆる有機汚染が起こって膜抵抗が急激に上昇するのであるが、本発明では、膜1に形成されている細孔が微細であり、しかも微細孔の占める面積が一定割合以下であるため、巨大有機イオンの膜内への侵入が有効に抑制され、後述する実施例に示されているように、高い耐有機汚染性を示す。
【0015】
また、一般に、微多孔性膜1は、表層にのみ緻密な微細孔2を有しているものが多く、この場合、上記微多孔性膜1の表層部における微細孔2の空間部は、通常、内部の空隙より細い空間となっている。そして、これにイオン交換樹脂が充填されている従来のイオン交換樹脂の場合は、巨大有機イオンの侵入による上記空間の部分における膜抵抗の上昇が著しいが、本発明のイオン交換膜は、かかる部分に存在するイオン交換樹脂が少ないため、上記膜抵抗の急激な上昇も、防止できるものとも推定している。
【0016】
また、本発明のイオン交換膜においては、図2に示されているように、上記の微多孔性膜1の少なくとも片面において、該微多孔性膜1の微細細孔2に充填されたイオン交換樹脂3が微多孔性膜表面4より陥没した位置において露出するように処理することもでき、このような処理により、耐有機汚染性をさらに向上させることができる。
【0017】
上記のような処理による発現機構は明らかでないが、該イオン交換樹脂3と微多孔性膜表面1の間にある、微細孔2の空間部(イオン交換樹脂3が存在していない部分)が巨大有機イオンの膜内への侵入を抑制する効果を持ち、イオン交換基と巨大有機イオン間の相互作用が弱まり巨大有機イオンが一層、膜表面に吸着しにくくなり、耐有機汚染性がさらに向上するものと推定される。
【0018】
また、図1(或いは図2)のような構造の前記特徴的構造を有する本発明のイオン交換膜は、耐有機汚染性を発現するために、イオン交換膜表面に反対荷電の層を設ける必要が無く、現在市販されているイオン交換膜に比して、極めて低抵抗のイオン交換膜となる。
【0019】
特に、図2の構造のイオン交換膜では、上記微細孔2の空間部は、塩類などの小さなイオンに対しては移動の阻害層としては働かず、低抵抗である。そのため、該部分にイオン交換樹脂が存在する、従来の多孔性膜を母材としたイオン交換膜に対しても低い膜抵抗を示す。
【0020】
更に、本発明のイオン交換膜は、巨大有機イオンの侵入を防止することで有機汚染を防いでいるため、前記したイオン交換樹脂部をルーズにする必要も無く、その結果、良好なイオン選択性を示す。
【0021】
以上のように、本発明のイオン交換膜は、膜抵抗が低く、イオン選択性にも優れた、理想的な特性を発揮する。
【0022】
本発明のイオン交換膜において、表面に存在する上記微細孔2の孔径(最大孔径)は、膜1の表面において、5μm以下、特に1μm以下であることが、上述した耐有機汚染性を確保する上で必要である。また、膜1の表面部分における微細孔2の平均孔径は、0.005〜4μm、特に、0.01〜0.8μmが好ましい。即ち、対象となる有機汚染物質の種類にも依存するが、イオン交換膜表面に存在する微細孔の最大径が5μmより大きい場合、更には、微細孔の平均孔径が4μmを超える場合、有機汚染物質が容易にイオン交換樹脂の内部に侵入し易くなり、耐有機汚染性が低下する。一方、微細孔2の平均孔径が0.005μmより小さい場合、膜抵抗が高くなり好ましくない。
【0023】
また、イオン交換膜表面における微細孔2の面積占有率は、3〜60%、特に、20〜50%である。即ち、該面積占有率が60%を超える場合には、膜の機械的強度が低下する傾向にあり、逆に3%より小さい場合には、膜抵抗の上昇を招く。
【0024】
尚、上記微細孔の面積占有率は、孔径0.003μm以上の孔を対象として測定した値である。
【0025】
更に、膜1の微細孔2の形状は、特に制限されるものではなく、任意の形状を採り得る。通常、該形状は母材である微多孔性膜の製造方法によって決定され、円状、楕円状、正方状、菱形状、その他不定形状の形状を採る。
【0026】
尚、本発明において、円状以外の前記微細孔の径は、円相当径として示したものである。
【0027】
また、本発明において、所定の陥没処理を行って図2に示すよう構造としたイオン交換膜では、微多孔性膜表面4からイオン交換樹脂3の露出面までの陥没深度Aは特に制限されない。しかし、効果的な耐有機汚染性と低い膜抵抗をイオン交換膜に付与する上で、かかる陥没深度は、その平均値(以下、単に陥没深度ともいう)が0.01μm〜10μm、特に0.03μm〜5μmの範囲であることが好ましい。即ち、上記陥没深度Aが0.01μmより浅い場合、有機汚染物質の吸着抑制効果が低下し、耐有機汚染性のさらなる向上を得ることが困難となる。また、陥没深度Aが10μmより深い場合、耐汚染防止効果が頭打ちとなる。また、イオン交換樹脂3の充填層が結果的に薄くなりイオン選択性の低下を招く場合がある。
【0028】
また、本発明のイオン交換膜の膜抵抗は、3モル/l濃度の硫酸中、25℃において測定される膜抵抗を膜厚10μm当たりに換算した値で、0.01〜0.4Ω・cmの範囲にあることが好ましい。
【0029】
上記イオン交換膜の膜抵抗は、母材である微多孔性膜に充填されるイオン交換樹脂の種類によって多少異なるが、主として、後記の微多孔性膜の空隙率、微細孔の孔径、微細孔の占める面積等によって殆ど決定されるため、これらの条件を適宜調節して任意の膜抵抗に調節することができる。
【0030】
また、本発明のイオン交換膜の厚みは、全厚みにおける膜抵抗を低下させると共に必要な機械的強度を付与するという観点から、15〜120μmの範囲とすべきであり、これにより、電気透析を効率よく、長期間にわたって安定に実行することができる。
【0031】
尚、図2に示すような構造として本発明のイオン交換膜を使用する場合には、微細孔2を除く微多孔性膜1の表面4には、実質的にイオン交換樹脂が存在しないことが好ましい。即ち、微多孔性膜表面4にイオン交換樹脂が存在する場合、該表面のイオン交換樹脂3に吸着堆積した巨大有機イオンが陥没部位の周縁部から内部に向かってせり出し、その結果、膜抵抗が上昇し、陥没による効果が低減するおそれがある。
【0032】
尚、上記のように、微多孔性膜表面4にイオン交換樹脂3が存在しない場合、イオン交換膜の厚みは、実質的に微多孔性膜1の厚みとなる。
【0033】
本発明のイオン交換膜における微多孔性膜1としては、一般に、熱可塑性樹脂よりなり、表裏を連通する微細孔2が前述した孔径及び面積比率で存在しているものが使用される。
【0034】
上記熱可塑性樹脂としては、実質的にイオン交換基を持たないものが好適であり、例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−オレフィン重合体等の塩化ビニル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルエーテル)等のフッ素系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂等からなるものが、制限無く使用される。機械的強度、化学的安定性、耐薬品性に優れていることから、ポリオレフィン樹脂を用いるのが特に好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン等のα−オレフィンの単独重合体又は共重合体が挙げられる。このうち、本発明では、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、特にポリエチレンが好ましい。
【0035】
前記イオン交換膜表面に存在する微細孔2の孔径、微細孔2の占める面積等は、母材である微多孔性膜1の性状によって殆ど決定されるので、その性状は、微細孔2の孔径、微細孔2の面積占有率が前述した範囲内となるように選択されるべきである。
【0036】
尚、上記微多孔性膜表面における特性は、通気度に主として反映されるが、かかる通気度としては、20〜1500秒/100ml、好ましい範囲で100〜1000秒/100mlとなる。
【0037】
また、微多孔性膜1は、前記好適な膜抵抗を達成するために、その空隙率が20〜90%、好適には30〜70%のものが好適に使用される。即ち、上記空隙率が20%未満の場合、膜の空隙内にイオン交換樹脂を十分充填することが容易ではなく、更に、単位容積あたりのイオン交換樹脂量が少なくなり十分なイオン交換能が発揮されず、その結果、膜抵抗が高くなる。一方90%を超えると単位容積あたりのイオン交換樹脂量が多くなり、実用に供した場合、イオン交換樹脂の膨潤収縮によって、寸法安定性を欠き機械的強度も低下するため、好ましくない。上記空隙率は、独立気泡を除いたもので、後記の延伸法による製造方法によって得られる微多孔性膜は殆ど独立気泡は存在しない。
【0038】
本発明において、上述した微多孔性膜1は、いわゆる延伸法によって製造される。具体的には、熱可塑性樹脂、好ましくは、結晶性を有する熱可塑性樹脂に対して、延伸後に除去が可能な添加剤を分散せしめ、これを一軸又は二軸に、該熱可塑性樹脂の融点以下に加熱しながら延伸した後、上記添加剤を除去することにより製造される。
【0039】
上記添加剤としては、パラフィン、無機粉体等の公知の添加剤が挙げられ、延伸後の添加剤の除去は、溶剤による抽出、酸による溶解等によって実施される。
【0040】
このような延伸法により製造される微多孔性膜1は、表層に厚み約0.01〜2μm、一般には、0.3〜1.5μmのスキン層を形成し易く、図1に概念的に示したように、表面に微細な細孔を有しながら、内部に存在する比較的大きな空洞部により適度に大きい空隙率が達成される。
【0041】
従って、上記微多孔性膜1を本発明のイオン交換膜の母材として使用することにより、表面の微細孔による耐汚染防止効果が達成される。また、該スキン層の厚みの近傍となるように、充填されたイオン交換樹脂の露出面の陥没深度を調節することによって、上記スキン層における微細孔部分の抵抗を無くし、一層低抵抗のイオン交換膜を実現することが可能である。
【0042】
本発明において、微多孔性膜1の空隙内に充填されるイオン交換樹脂3は、それ自体公知のものであり、例えば、炭化水素系又はフッ素系の材質より成り、陽イオン交換機能及び/又は陰イオン交換能を有する樹脂である。
【0043】
上記炭化水素系の材質としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂等が、また、フッ素系の材質としては、パーフロオロカーボン系樹脂等が挙げられる。
【0044】
また、イオン交換能は、イオン交換基の存在により発現するが、かかるイオン交換基としては、水溶液中で負又は正の電荷となり得る官能基なら特に制限されるものではない。
【0045】
具体的には、陽イオン交換基の場合には、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等が挙げられ、一般的に、強酸性基であるスルホン酸基が好適に用いられる。
【0046】
また、陰イオン交換基の場合には、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウム基等が挙げられ、一般的に、強塩基性基である4級アンモニウム基や4級ピリジニウム基が好適に用いられる。
【0047】
本発明のイオン交換膜の製造方法は、特に制限されないが、代表的な製造方法を例示すれば、下記の方法が挙げられる。
【0048】
即ち、微多孔性膜1の空隙内に、イオン交換基を有する単量体、架橋性単量体、および重合開始剤を含有する単量体組成物を含浸せしめた後、該単量体組成物を重合せしめてイオン交換樹脂を生成することにより、図1に示す構造の本発明のイオン交換膜を得ることができる。また、前記単量体として、イオン交換基導入可能な官能基を用いた場合には、上記と同様にして重合を行ってイオン交換樹脂前駆体を生成し、この前駆体にイオン交換基を導入することにより、図1の構造のイオン交換膜を得ることができる。
【0049】
また、上記のようにしてイオン交換樹脂或いはイオン交換樹脂前駆体を生成した後、さらに、微細孔2内の微多孔性膜表面近傍に存在するイオン交換樹脂3又はイオン交換樹脂前駆体を除去することにより図2に示す構造のイオン交換膜を得ることができる。
【0050】
上記単量体組成物は、分子量が低いため微多孔性膜の空隙に充填しやすく、また、その硬化物であるイオン交換樹脂は、空隙に隙間なく高い密度で生成することとなる。
【0051】
イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体又はイオン交換基を有する単量体としては、従来公知であるイオン交換樹脂の製造において用いられている炭化水素系単量体が特に限定されずに使用される。具体的には、陽イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−ハロゲン化スチレン類等が挙げられる。また、陽イオン交換基を有する単量体としては、α−ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸系単量体、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等のカルボン酸系単量体、ビニルリン酸等のホスホン酸系単量体、それらの塩類およびエステル類等が用いられる。
【0052】
一方、陰イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、クロロメチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。また、陰イオン交換基を有する単量体としては、ビニルベンジルトリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン等のアミン系単量体、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の含窒素複素環系単量体、それらの塩類およびエステル類等が用いられる。
【0053】
また、架橋性単量体としては、特に制限されるものではないが、例えば、ジビニルベンゼン類、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン類、ジビニルナフタリン、ジアリルアミン、ジビニルピリジン類等のジビニル化合物が用いられる。
【0054】
本発明では、上記したイオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体又はイオン交換基を有する単量体や架橋性単量体の他に、必要に応じてこれらの単量体と共重合可能な他の単量体を添加しても良い。こうした他の単量体としては、例えば、スチレン、アクリロニトリル、メチルスチレン、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等が用いられる。
【0055】
さらに、重合開始剤としては、従来公知のものが特に制限なく使用される。こうした重合開始剤の具体例としては、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物が用いられる。
【0056】
本発明において、単量体組成物を構成する各成分の配合割合は、一般には、イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体又はイオン交換基を有する単量体100重量部に対して、架橋性単量体を0.1〜50重量部、好適には1〜40重量部、これらの単量体と共重合可能な他の単量体を0〜100重量部使用するのが好適である。また、重合開始剤は、イオン交換基が導入可能な官能基を有する単量体又はイオン交換基を有する単量体100重量部対して、0.1〜20重量部、好適には0.5〜10重量部配合させるのが好ましい。
【0057】
上記単量体組成物を微多孔性膜1の空隙部に充填する方法は特に制限されないが、一般には微多孔性膜を単量体組成物に浸漬する方法や単量体組成物を微多孔性膜に塗布、スプレーする方法が採用される。この時、粘度等の性状により、単量体組成物を微多孔性膜の空隙内に充分充填することが困難な場合には、単量体組成物に微多孔性膜を減圧下で接触させ、充填する方法を採ることもできる。
【0058】
単量体組成物を上記したように微多孔性膜に充填させたのち重合する方法は、一般に、ポリエステル等のフィルムに挟んで加圧下で常温から昇温する方法が好ましい。こうした重合条件は、関与する重合開始剤の種類、単量体組成物の組成等によって左右されるものであり、公知の条件より適宜選択して決定すればよい。
【0059】
以上のように重合されて得られる膜状物は、必要に応じてこれを、公知の例えば、陽イオン交換膜であれば、スルホン化、クロルスルホン化、ホスホニウム化、加水分解等の処理、陰イオン交換膜であれば、アミノ化、アルキル化等の処理により所望のイオン交換基を導入して、本発明のイオン交換膜とすることができる。
【0060】
また、微細孔内の微多孔性膜表面近傍に存在するイオン交換樹脂の除去或いはイオン交換樹脂前駆体の除去(即ち、陥没処理)は、例えば、コロナ放電処理やプラズマエッチング処理等が挙げられる。
【0061】
プラズマエッチング処理の場合、例えば、酸素又は、酸素/アルゴン混合の雰囲気下でプラズマ処理することにより所望の深さまでイオン交換樹脂をエッチング除去することが可能である。
【0062】
また、過酸化水素、オゾン、濃硝酸、濃硫酸、重クロム酸カリウム、塩素、ヨウ素、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を膜表面に接触させることによっても、膜表面のイオン交換樹脂ああ類はイオン交換樹脂を除去できる。特に酸化剤を用いる方法は簡便であり、好適に用いられる。
【0063】
本発明のイオン交換膜を簡便に得るために好適な方法としては、前記単量体組成物に、更に、溶媒や平均分子量500〜10000の重合体のいずれか一方、又は両方を添加して得られた組成物を微多孔性膜の空隙内に充填した後、該組成物を硬化させ、次いで、必要に応じてイオン交換基を導入する方法を挙げることができる。
【0064】
この製造方法によれば、微細孔2内の表面近傍のイオン交換樹脂は、特殊な除去手段を採用しなくとも、イオン交換基導入工程において容易に除去される。また、イオン交換基導入工程が必要ない場合には、溶剤と接触せしめることによって、微細孔内の微多孔性膜表面近傍のイオン交換樹脂を簡単に除去することができ、微細孔部分にのみイオン交換樹脂3を存在させることができる。
【0065】
かかる製造方法において、溶媒は、単量体組成物の重合反応の進行に伴い、いわゆるミクロ相分離を引き起こすため、最表面部に当たる、微細孔内の微多孔性膜表面近傍のイオン交換樹脂は極めてポーラスな多孔体となる。そして、かかるポーラス構造に起因する機械的強度の低さ故に、イオン交換基導入工程や簡単な溶剤処理によって脱落し易く、該部分を容易に除去することができる。
【0066】
一方、平均分子量500〜10000の重合体は、単量体組成物の微多孔膜1の微細孔2内への充填工程において、分子が大きいため単量体の重合の過程において表面に押し出され、最表面部に当たる、微細孔内の微多孔性膜表面近傍に偏在する。そして、これらの重合体はイオン交換基導入工程などで使用される溶剤によって抽出除去することができ、その結果、やはり微細孔2以外の部分に存在しているイオン交換樹脂3の除去が容易となる。
【0067】
これらの作用は、溶媒および平均分子量500〜10000の重合体を併用することでより効果的となる。すなわち、溶媒のみを用いて微細孔2以外の部分や微細孔2の表面近傍のイオン交換樹脂を完全に除去するには、多量の溶媒を添加することが必要となり、その結果、膜内部に残存するイオン交換樹脂3が更にポーラスになり、イオン選択性に低下を来たす。また、平均分子量500〜10000の重合体のみを用いた場合には、該重合体の抽出除去が不完全になり易く、その結果、耐有機汚染の防止効果のさらなる向上を充分に発現できなくなる。
【0068】
従って、溶媒および平均分子量500〜10000の重合体を併用した場合には、膜表面近傍に偏在する重合体が、溶媒が抜けてポーラスになったイオン交換樹脂から簡単に抽出されるため、有機汚染防止効果の一層の向上が十分に発現され、更に、溶媒添加量を低減できるため、膜内部に残存するイオン交換樹脂が過度にポーラスとならず、イオン選択性の低下も防ぐことができる。
【0069】
このような製造方法において、前記単量体組成物に添加される溶媒としては、単量体組成物を重合させる際に、重合反応に関与しない溶媒であれば何ら制限されること無く使用可能である。具体的には、メタノール、エタノール、i−ブタノール、2−エトキシエタノール等のアルコール類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、i−オクタン等の脂肪族炭化水素類、オクタン酸等の脂肪酸類、ジメチルオクチルアミン等のアミン類、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、メチレンクロライド、クロロホルム、エチレンブロマイド等のハロゲン化炭化水素類、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジメチルイソフタレート、ジブチルアジペート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、ジブチルセバケート等の芳香族酸や脂肪族酸のアルコールエステル類やアルキルリン酸エステル等が挙げられる。これらは、単量体組成物との溶解性や重合温度等を勘案して適宜選択されるが、i−ブタノール、2−エトキシエタノール、ジベンジルエーテル、ジオクチルフタレート、アセチルトリブチルシトレート等が特に好適である。また、これら数種類を併用することも可能である。
【0070】
次いで、前記単量体組成物に添加される重合体としては、具体的には、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0071】
これらも、また、単量体組成物との溶解性等を勘案して、適宜選択されるが、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコールが特に好適である。
これら重合体の平均分子量は500〜10000、好ましくは500〜6000である。即ち、平均分子量が500以下の場合、膜表面近傍に偏在しにくくなり、有機汚染防止効果やイオン選択性が不十分となる。また、平均分子量が10000以上の場合には、抽出除去が困難になり、有機汚染防止効果のさらなる向上が不十分となり好ましくない。上記溶媒、平均分子量500〜10000の重合体の前記単量体組成物への配合割合は、イオン交換基導入可能な官能基又はイオン交換基を有する単量体、架橋性単量体および重合開始剤の合計100重量部に対し、溶媒は15〜150重量部、好ましくは20〜120重量部である。
即ち、溶媒の配合量が15重量部未満では、有機汚染防止向上効果が十分でなく、150重量部を超える場合には、イオン選択性が低下する。
【0072】
また、平均分子量500〜10000の重合体は、イオン交換基導入可能な官能基又はイオン交換基を有する単量体、架橋性単量体および重合開始剤の合計100重量部に対し、5〜100重量部、好ましくは10〜70重量部である。
【0073】
即ち、平均分子量500〜10000の重合体の配合量が5重量部未満では有機汚染防止効果が十分でなく、100重量部を超える場合には、単量体組成物の微多孔性膜への充填が不十分になり、さらにイオン選択性の低下を来たし好ましくない。
【0074】
以上のような、溶媒や平均分子量500〜10000の重合体を添加した単量体組成物は、前記製造方法の説明に記載された方法により微多孔性膜に充填され、次いで硬化される。得られた膜状物には、引き続き、前記したイオン交換基の導入方法によって、必要に応じてイオン交換基が導入される。
【0075】
イオン交換基の導入工程において、微細孔内の膜表面近傍のイオン交換樹脂が除去される場合には、更なる除去工程を必要とすること無く、本発明のイオン交換膜が得られ、膜表面近傍のイオン交換樹脂の除去が充分でない場合には、添加した溶剤や平均分子量500〜10000の重合体の性情に応じた抽出工程を施すことでイオン交換樹脂を除去し、本発明のイオン交換膜を得ることができる。
【0076】
また、この製造方法においても、イオン交換樹脂又はイオン交換樹脂前駆体の除去は、イオン交換基導入の前であっても、後であってもよい。
【0077】
以上の説明より理解されるように、本発明のイオン交換膜は、所定の孔径及び面積占有率で微細孔を有している微多孔質膜にイオン交換樹脂が充填されており、優れた耐有機汚染性を有しながら、低い膜抵抗や良好なイオン選択性などを有し、膜厚も比較的薄く、電気透析用のイオン交換膜として優れている。また、イオン交換樹脂が微多孔性膜表面より陥没した位置で露出した構造を有しているものでは、耐有機汚染性が一層向上しており、膜抵抗もさらに低下している。
【0078】
本発明のイオン交換膜は、特に、食品、医薬品、農薬などの合成工程における電気透析用の隔膜として極めて有用であり、特にアニオン交換膜に本発明を適用した場合には、カチオン交換膜に比して有機汚染が生じ易いというアニオン交換膜の欠点を有効に改善することができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を更に詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例、比較例に示すイオン交換膜の特性は、以下の方法により測定した。
【0080】
1)微多孔性膜表面からイオン交換樹脂の露出面までの陥没深度;
電子顕微鏡(SEM)によってイオン交換膜表面を観察し、微多孔性膜の表面全面を覆うイオン交換樹脂層がないことを確認した後、イオン交換膜の表面粗さを走査型レーザー顕微鏡(レーザーテック社製、1Lm21型)で測定した。得られた粗さ分布図において、ピーク部と隣接する最深部の高低差を測り、長さ30μmに渡って測定した高低差の平均値を陥没深度とした。
【0081】
2)イオン交換容量および含水率;
イオン交換膜を1mol/L−HClに10時間以上浸漬する。
その後、陽イオン交換膜の場合には、1mol/L−NaClで水素イオン型をナトリウムイオン型に置換させ、遊離した水素イオンを電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。一方、陰イオン交換膜の場合には、1mol/L−NaNO3で塩素イオン型を硝酸イオン型に置換させ、遊離した塩素イオンを電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。
【0082】
次に、同じイオン交換膜を1mol/L−HClに4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分に水洗した後膜を取り出しティッシュペーパー等で表面の水分をふき取り湿潤時の重さ(Wg)を測定した。次に、膜を減圧乾燥機に入れ60℃で5時間乾燥させた。膜を取り出し乾燥時の重さ(Dg)を測定した。
【0083】
イオン交換容量と含水率は次式により算出した。
イオン交換容量=A×1000/W[mmol/g−乾燥膜]
含水率=100×(W−D)/D[%]
【0084】
3)膜抵抗の測定;
白金黒電極板を有する2室セル中にイオン交換膜を挟み、イオン交換膜の両側に3mol/L−H2SO4溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗を測定し、該電極間抵抗とイオン交換膜を設置しない場合の電極間抵抗との差により求めた。上記測定に使用する膜は、あらかじめ3mol/L−H2SO4溶液中で平衡にしたものを用いた。
【0085】
4)耐有機汚染性の測定;
陰イオン交換膜では、得られた陰イオン交換膜をコンデショニングした後、銀、塩化銀電極を有する二室セルに該イオン交換膜を挟み、その陽極室には0.05mol/L−NaCl溶液を入れ、陰極室には1000ppmのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムと0.05mol/L−NaClの混合溶液を入れた。両室の液を1500rpmの回転速度で攪拌し、0.2A/dmの電流密度で電気透析を行った。この時、両膜表面の近傍に白金線を固定し、膜間電圧を測定した。通電中に有機汚染が起こると膜間電圧が上昇してくる。通電を開始して30分後の膜間電圧を測定し、有機汚染物質を添加した場合と添加しない場合の電圧差(ΔE)をとって膜の汚染性の尺度とした。
【0086】
陽イオン交換膜では、上記方法において、有機汚染物質をドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムから分子量2000のポリエチレンイミンに変え、同様にして耐有機汚染性を測定した。
【0087】
5)酸、アルカリの透過速度;
陰イオン交換膜では、陰イオン交換膜で区切られたアクリル樹脂製の二室セルを用い、一室(原液室)に25℃の1mol/L−硫酸と0.5mol/L−硫酸マグネシウムを含む液を入れ、もう一室(透析液室)には25℃のイオン交換水を入れた。
【0088】
次いで、攪拌機により両室を攪拌し一定時間後に透析液室の液を抜き取り、電位差滴定によって硫酸の透過量を、原子吸光光度計によって硫酸マグネシウムの透過量をそれぞれ測定した。
【0089】
また、陽イオン交換膜では、上記方法において1mol/L−硫酸と0.5mol/L−硫酸マグネシウムを含む液を3mol/L−水酸化ナトリウムと0.5mol/L−水酸化アルミニウムを含む液に変えて同様な操作を行い、水酸化ナトリウムと水酸化アルミニウムの透過量を測定した。それぞれの物質の透過速度は次式により求めた。
U=A/(T・S・ΔC)
U:酸又はアルカリの透過速度[mol/Hr・m2・(mol/L)]
A:酸又はアルカリの透過量[mol]
T:攪拌時間[Hr]
S:有効膜面積[m2
ΔC:攪拌前後の両室の酸又はアルカリの対数平均濃度差[mol/L]
【0090】
<実施例1>
下記処方:
クロロメチルスチレン;90重量部
ジビニルベンゼン;10重量部
過酸化ベンゾイル;5重量部
スチレンオキサイド;3重量部
により単量体組成物を調製した。
【0091】
この単量体組成物400gを500mlのガラス容器に入れ、ここに厚み25μmの重量平均分子量10万のポリエチレンよりなり、延伸法によって得られた市販の微多孔性膜(20cm×20cm)を浸漬して、微多孔性膜の空隙に単量体組成物を充填した。
【0092】
用いた微多孔性膜は、表面の微細孔の最大径1μm、平均孔径0.04μm、空隙率45%、微細孔の面積占有率15%、通気度415秒/100mlであった。
【0093】
続いて、多孔質膜を単量体組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムを剥離材として多孔質膜の両側を被覆した後、0.4MPaの窒素加圧下、80℃で8時間加熱重合した。得られた膜状物を30%トリメチルアミン水溶液10部、水5部、アセトン5部よりなるアミノ化浴中、室温で5時間反応せしめ4級アンモニウム型陰イオン交換膜を得た。
【0094】
このイオン交換膜について、SEM観察を行った結果、膜表面に微多孔性膜特有の微細孔構造は観察されず、更に、1wt%過マンガン酸カリウム水溶液にイオン交換膜を浸漬してMnO型にイオン交換し、SEM−EDSで膜表面におけるMn元素の定状分析を行った結果、MnO型にイオン交換した膜の膜表面にMn元素の存在が確認されたことから、イオン交換樹脂が膜表面に露出していることが確認された。
【0095】
得られた陰イオン交換膜の陥没深度、イオン交換容量、含水率、膜抵抗、耐有機汚染性、硫酸と硫酸マグネシウムの透過速度を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0096】
<参考例1>
実施例1で得られた陰イオン交換膜を、1wt%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、室温中、24時間浸漬して膜表面のイオン交換樹脂を除去した。
得られたイオン交換膜の膜表面をSEMで観察したところ、微多孔性膜表面特有の微細孔構造が観察され、更に、1wt%過マンガン酸カリウム水溶液にイオン交換膜を浸漬してMnO型にイオン交換し、SEM−EDSで膜表面におけるMn元素の定状分析を行った結果、Mnに帰属するピークが観察されなかったことから、膜表面のイオン交換樹脂が除去されていることが確認された。
このように処理された陰イオン交換膜について、実施例1と同様に特性を測定した。結果を表1に示す。この結果から、表面に存在するイオン交換樹脂の除去(即ち、陥没処理)により、耐有機汚染性がさらに向上していることが判る。
【0097】
【表1】

【0098】
<実施例2>
下記処方:
スチレン;90重量部
ジビニルベンゼン;10重量部
過酸化ベンゾイル;5重量部
アセチルクエン酸トリブチル;10重量部
により単量体組成物を調製した。
【0099】
この単量体組成物を、実施例1と同様にして、厚み30μmの重量平均分子量25万のポリエチレンよりなり、延伸法によって得られた市販の微多孔性膜(20cm×20cm)の空隙に充填した。
【0100】
用いた微多孔性膜は、表面の微細孔の最大径1μm、平均孔径0.02μm、空隙率37%、微細孔の面積占有率17%、通気度600秒/100mlであった。
【0101】
続いて、多孔質膜を単量体組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムを剥離材として多孔質膜の両側を被覆した後、0.4MPaの窒素加圧下、80℃で8時間加熱重合した。得られた膜状物を98%濃硫酸と純度90%以上のクロロスルホン酸の1:1(重量比)の混合物中に、40℃で45時間浸漬し、スルホン酸型陽イオン交換膜を得た。
【0102】
このイオン交換膜について、SEM観察を行った結果、膜表面に微多孔性膜特有の微細孔構造は観察されず、更に、Fe2+型にイオン交換し、SEM−EDSで膜表面におけるFe元素の定状分析を行った結果、膜表面にFe元素の存在が確認されたことから、イオン交換樹脂が膜表面に露出していることが確認された。
【0103】
得られた陽イオン交換膜の陥没深度、イオン交換容量、含水率、膜抵抗、耐有機汚染性、水酸化ナトリウムと水酸化アルミニウムの透過速度を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0104】
<参考例2>
実施例2で得られた陽イオン交換膜を1wt%のFeCl水溶液に、室温で24時間浸漬してFe2+型とした後、2wt%H水溶液に室温で30分間浸漬して、膜表面のイオン交換樹脂を除去した。
【0105】
このように処理された陽イオン交換膜の膜表面をSEMで観察したところ、微多孔性膜表面特有の微細孔構造が観察され、更に、SEM−EDSで膜表面におけるFe元素の定状分析を行った結果、Feに帰属するピークが観察されなかったことから、膜表面のイオン交換樹脂が除去されていることが確認された。
得られた陽イオン交換膜の陥没深度、イオン交換容量、含水率、膜抵抗、耐有機汚染性、水酸化ナトリウムと水酸化アルミニウムの透過速度を測定した。これらの結果を表2に示す。この結果から、表面にそんざいするイオン交換樹脂の除去(即ち、陥没処理)により、耐有機汚染性がさらに向上していることが判る。
【0106】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明のイオン交換樹脂を概念的に示す断面図。
【図2】本発明のイオン交換膜について、更に所定の陥没処理を行って、イオン交換樹脂を、微多孔性膜表面より陥没した位置で露出させた状態を示す図。
【符号の説明】
【0108】
1:微多孔性膜
2:微細孔
3:イオン交換樹脂
4:微多孔性膜表面
A:陥没深度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な細孔が貫通している微多孔性膜の該細孔内にイオン交換樹脂が充填されて成るイオン交換膜であって、膜表面において、微細孔の細孔径が5μm以下であり、且つ、微細孔の占める面積が全面積の3〜60%であるとともに、15〜120μmの厚みを有していることを特徴とする電気透析用イオン交換膜。
【請求項2】
前記イオン交換樹脂がアニオン交換樹脂である請求項1に記載の電気透析用イオン交換膜。
【請求項3】
前記微多孔性膜が、ポリオレフィンの延伸フィルムよりなる請求項1記載の電気透析用イオン交換膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−14958(P2007−14958A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242297(P2006−242297)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【分割の表示】特願平11−345525の分割
【原出願日】平成11年12月3日(1999.12.3)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】