説明

イオン交換装置

【課題】 再生時間を短縮して、排水量を少なくするとともに、再生効率の高いイオン交換装置を提供する。
【解決手段】 イオン交換塔1に原水W1を下向流で通して処理液を、再生剤の薬液を上向流で通して再生するイオン交換装置であり、イオン交換塔1内に塔を上下方向に三室に区画する透液性の上部仕切板2及び下部仕切板3が設けられている。下室4cには固定床を形成するように充填された第一の強イオン交換樹脂層A1を有し、中間室4bには上向流により流動床を形成するように充填された弱イオン交換樹脂層Bを有し、上室4aには上向流により流動床を形成するように充填された第二の強イオン交換樹脂層A2を有する。そして、上室4aと下室4cとは塔外において開閉弁7を介して樹脂移送管8により連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換装置に関し、特にイオン交換塔に原水を下向流で通して処理液を得る一方、再生剤を上向流で通じて再生するイオン交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、広く用いられているイオン交換装置として単床向流式再生式イオン交換装置が挙げられる。これは図5に示すようにイオン交換塔31内に、通液可能な支持板33が横断方向に設置され、イオン交換樹脂32がこの支持板33に支持されて充填され樹脂床を形成してなるものである。そして、イオン交換処理に際しては、塔頂よりイオン交換すべき原水を下向流で通して、塔底部より処理液を得る。逆洗は通常管体34aから逆洗水を導入し、集水管34から塔頂又は塔上部に排出してここから上の樹脂のみを展開させて行う。また再生に際しては、塔頂部からバランス水を導入するとともに、塔底部より再生薬剤を導入してイオン交換樹脂床を再生し、再生排液は集水管34を経て、管体34aより排出される。再生にあたってバランス水を導入するのは、再生薬液を上向流で通液するとイオン交換樹脂32が流動し再生効率が低下するので、これを防止するためである。
【0003】
この装置では、樹脂層上部に集水管34を設ける必要があり、内部構造が複雑となる。また、再生薬液を上向流で通液すると樹脂が動いたり樹脂床が膨張して再生率が低下したりするので、このような場合に再生効率が低下するのを防止するためと、原水中の懸濁固形物(SS)を捕捉するため、集水管34の上部にも樹脂32を積層している。しかしながら、集水管34よりも上方の部分では樹脂が再生されずSSの捕捉を行うのみであるので、イオン交換樹脂の利用効率が悪く、さらに塔頂部からバランス水を導入することを要するため、必要とされる再生薬液量も増大し、また操作も煩雑となる等の欠点を有していた。
【0004】
また、図6に示すようなイオン交換装置も使用されている。この装置では、再生効率を高めて高純度の処理液を得るために、上向流通液・下向流再生の処理が行われている。すなわち、この装置は、イオン交換塔31が通液可能な仕切板35で上下に仕切られ、上室及び下室にイオン交換樹脂32a及び32bが各々充填され、さらに上室では、イオン交換樹脂層32aの上側に不活性樹脂36が積層されている。この不活性樹脂36は、破砕したイオン交換樹脂により上部ストレーナ37が目詰りするのを防止するためのものである。なお、図6中38は下部ストレーナである。
【0005】
このような装置においては、イオン交換処理のための原水は塔底部から上向流で導入し、再生は塔頂部から下向流で行う。通液中はイオン交換塔31の下部に充填されたイオン交換樹脂32bは液流のため下方部分では流動床を形成するが、上方部分は押圧されて固定床を形成する。このため、流入した原水中のSSは、大部分がイオン交換樹脂32bの下部の流動床で捕捉される。したがって、逆洗は塔全体について行う必要はなく、塔下室内の樹脂層32bについて行えば十分である。このため、この装置は上部のイオン交換樹脂32aは逆洗しなくてよいため、再生剤の使用量が少なくて済むという長所があった。
【0006】
しかしながら、この装置は上向流通液方式であるので、流速はある程度の高流速を要するため原水の流速に制限があり、また、通液、再生を繰り返すとイオン交換樹脂32a,32bが膨張、収縮を繰り返すことになり樹脂が破砕して、上向流通液を行うと、破砕した樹脂が上部ストレーナ37に詰まりやすく、さらにこの詰まった箇所に下向流で再生剤を薬注すると、破砕樹脂が膨張しさらに目詰りが進行する、という問題点があった。このため、このような装置においては、上部ストレーナ37とイオン交換樹脂層32aとの間にイオン交換樹脂よりも比重の軽い不活性樹脂36を充填することで濾材としているが、装置が複雑となるという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような問題点を解決することを目的として、特公平4−9583号公報には、図7に示すイオン交換装置が開示されている。すなわち、このイオン交換装置は、イオン交換塔11内に液透過性の仕切板(中間仕切板)12,13が設けられており、この仕切板12,13により上室12aと中間室12bと下室12cとが形成されている。そして、上室12aには弱イオン交換樹脂14が上向流により流動床を形成するように充填されており、中間室12bには強イオン交換樹脂15aが上向流により流動床を形成するように充填されており、下室12cには強イオン交換樹脂15bが固定床を形成するように充填されている。そして、塔外には、中間室12bと下室12cとを弁16を介して連通する樹脂移送管17が設けられている。なお、図7中、18,19はそれぞれ上部ストレーナ、下部ストレーナである。
【0008】
このようなイオン交換装置において、下向流で通液するとSSは上室12a内の弱イオン交換樹脂14により捕捉されるので、差圧が上がった場合には、塔底部から上向流で逆洗水を導入すると下室12cの強イオン交換樹脂15bは固定状態を維持するが、上室12aの弱イオン交換樹脂14,中間室12bの強イオン交換樹脂15aは展開され上室12a及び中間室12bの逆洗を行う。このとき弁16は閉鎖しておく。また、イオン交換樹脂の再生は、再生剤を塔底部から上向流で導入し、塔頂部から排出されることで行う。一方、下室12cの逆洗は弁16を開成状態として、高速の上向流で移送水を導入すると樹脂移送管17を経由して下室12cの強イオン交換樹脂層15bの一部を中間室12bに移送することで下室12cに間隙ができるので、下室12cの樹脂が展開して逆洗される。このイオン交換装置により逆洗及び洗浄を効率的に行うことができるようになった。
【0009】
しかしながら、このようなイオン交換装置においては、上室12aの弱イオン交換樹脂14は原水中の濁質を捕捉する働きをするが、この弱イオン交換樹脂14は、再生剤が最後に到達するため十分に再生がなされないことがあるという問題点があった。また、再生時には再生剤を上向流で流すが、中間室12bの強イオン交換樹脂15aが流動すると再生薬品に均等に接触せずに再生効率が低下するため、再生剤の流速を低速とせざるを得ず、再生時間が長くなるばかりか、ある程度は強イオン交換樹脂15aが流動するので再生効率の低下を招きやすいという問題点があった。この対策として中間室12bにイオン交換樹脂15aを隙間なく充填することが考えられるが、そうすると逆洗ができないので、濁質を排出するための逆洗塔などの洗浄設備が必要となるという問題点があり現実的でない。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、再生時間を短縮して、排水量を少なくするとともに、再生効率の高いイオン交換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、イオン交換塔に原水を下向流で通して処理液を得、再生剤を上向流で通して再生するイオン交換装置であって、イオン交換塔内に塔を上下方向に三室に区画する透液性の上部仕切板及び下部仕切板が設けられており、下室には固定床を形成するように充填された第一の強イオン交換樹脂層を有し、中間室には上向流により流動床を形成するように充填された弱イオン交換樹脂層を有し、上室には上向流により流動床を形成するように充填された第二の強イオン交換樹脂層を有し、かつ前記上室と下室とを塔外において弁を介して連絡する樹脂移送管を具備するイオン交換装置を提供する(請求項1)。
【0012】
上記発明(請求項1)によれば、下向流で通液すると原水中の濁質はほとんど上室内の第二の強イオン交換樹脂層にて濾過作用により除去され、中間室及び下室ではイオン交換反応が進行し、処理液が塔底部から排出される。また、イオン交換樹脂の再生は、再生剤を塔底部から上向流で導入し、塔頂部から排出されることで行う。このとき下室の第一の強イオン交換樹脂層はほとんど流動しないため、薬品との接触がほぼ完全に行われ、中間室の弱イオン交換樹脂層は再生されやすい上に上部仕切板に押し付けられるので再生剤との接触が均等に行われて高い効率で再生される。さらに上室の第二の強イオン交換樹脂もある程度再生される。そして、下室の逆洗時には、弁を開成状態として、高速の上向流で逆洗水を導入すると樹脂移送管を経由して下室の強イオン交換樹脂の一部を上室に移送することで下室に間隙ができるので、下室の強イオン交換樹脂が展開して逆洗され、下室の濁室は上部から排出される。この際、上室と下室の第一のイオン交換樹脂層と第二のイオン交換樹脂層との間で強イオン交換樹脂が少しずつ交換されるので、全体としての再生効率は高く維持されることになる。しかもこれにより再生時間を短縮して、排水量を少なくできるという効果も奏する。
【0013】
上記発明(請求項1)において、前記イオン交換樹脂はアニオン交換樹脂であるのが好適である(請求項2)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
〔第一の実施形態〕
図1〜図4は、本発明の第一の実施形態であるイオン交換装置の一例を示しており、同図においてイオン交換装置は、イオン交換塔1内に液透過性の上部仕切板2及び下部仕切板3が設けられており、これら仕切板2,3により上室4aと中間室4bと下室4cとが形成されている。そして、上室4aには強イオン交換樹脂である強アニオン交換樹脂5aが上向流により流動床を形成するように充填されて第二の強イオン交換樹脂層である第二の強アニオン交換樹脂層A2を形成しており、中間室4bには弱イオン交換樹脂である弱アニオン交換樹脂6が上向流により流動床を形成するように充填されて弱イオン交換樹脂層である弱アニオン交換樹脂層Bを形成しており、下室4cには強アニオン交換樹脂5bが固定床を形成するように充填されて第一の強イオン交換樹脂層である第一の強アニオン交換樹脂層A1を形成している。そして、塔外には上室4aと下室4cとを開閉弁7を介して連通する樹脂移送管8が設けられている。なお、9,10はそれぞれ上部ストレーナ、下部ストレーナである。
【0016】
次にこのようなイオン交換装置の運転方法について説明する。
(1)通液工程
本実施形態の装置においてイオン交換処理のための通液は、図1に示すように開閉弁7を閉鎖した状態でイオン交換塔1の塔頂部より下向流通液で原水W1を流通する。そうすると、原水W1中の濁質はほとんど上室4aの第二のアニオン交換樹脂層A2にて濾過作用により除去され、中間室4b及び下室4cではアニオン交換反応が進行し、処理液はイオン交換塔1の底部から排出される。
【0017】
(2)薬注(再生)工程(上室逆洗工程)
イオン交換樹脂の再生は、図2に示すように開閉弁7を閉鎖した状態で再生剤(NaOHなどのアルカリ液)の薬液W2をイオン交換塔1の塔底部から上向流にて流通し、塔頂部より排出することにより行う。流量(流速)は上室4aの第二の強イオン交換樹脂層A2の強イオン交換樹脂5aが50%〜200%流動するように従来よりも早い流速に決定する。
【0018】
下室4cの第一の強アニオン交換樹脂層A1は固定床であるので、ほとんど流動しないため強アニオン交換樹脂5bは薬液W2との接触がほぼ完全に行われ、高効率で再生される。また、中間室4bの弱アニオン交換樹脂層Bは、強アニオン交換樹脂よりも再生されやすい上に薬液W2の流速を早く設定しているので、部分的に流動しながら上部仕切板2に押し付けられて固定床を形成するため薬液W2と均等に接触し、高効率で再生される。そして上室4aの第二の強アニオン交換樹脂層A2は、薬液W2により完全に流動するため逆洗され、前述した通液工程で捕捉した濁質を薬液W2とともに効率よく塔頂部より排出することができる。また、第二の強アニオン交換樹脂層A2の強アニオン交換樹脂5aは、残存アルカリ成分を含む薬液W2に接触することになるので、ある程度は再生されるので薬液W2の利用率も向上している。このように本実施形態においては、再生のための薬注工程と上室5aの逆洗工程とが同時に行えるようになっている。
【0019】
(3)押出工程
続いて図2に示すように、開閉弁7を閉鎖した状態で再生水W3を塔底部より上向流にて流し、塔頂部より排出する。この工程によりイオン交換塔1内に残留する再生剤に起因するアルカリ成分及びこの再生剤によりアニオン交換樹脂5a,5b,6より脱離したイオンが塔外に排出される。
【0020】
(4)洗浄・循環工程
押出工程の後、図1に示すように開閉弁7を閉鎖した状態で原水W4を塔頂部より下向流にて通し塔底部より排出する。
【0021】
通常は上記(1)〜(4)の工程を1サイクルとして、繰り返して運転するが、長時間運転すると徐々に濁質が下室4cの第一の強アニオン交換樹脂層A1に混入・蓄積し、「(2)上室逆洗工程」だけでは、差圧が復帰しなくなってくる。この場合には次のようにして下室4cの逆洗を行う。
なお、中間室4bの弱イオン交換樹脂層Bを構成する弱イオン交換樹脂6は、「(2)上室逆洗工程」においても部分的に流動しているので、濁質の蓄積はほとんどないため、中間室4bの洗浄工程は必要ない。
【0022】
(5)下室逆洗工程
図3に示すように開閉弁7を開成した状態で、塔底部より逆洗水W5を高速で上向流にて通す。これにより下室4cの強アニオン交換樹脂5bは一部樹脂移送管8から上室4aに移送される。これにより強アニオン交換樹脂層A1は下室4cの体積より少なくなるので流動床化するため下室4cの濁質は樹脂とともに樹脂移送管8を通って上室4aに送られ塔頂部より塔外に排出される。
【0023】
(6)樹脂戻し工程
下室4cの逆洗が終了したら、図4に示すように開閉弁7を開成した状態で塔頂部より下向流にて原水W6を流すと上室4aの強アニオン交換樹脂5aは、下室4cから移送された分だけ下室4cに移動し、再び固定床としての強アニオン交換樹脂層A1を形成する。その後、開閉弁7を閉鎖して(2)〜(4)の通常の再生を行えばよい。
【0024】
このように強アニオン交換樹脂5bを一部上室4aに移送することで下室4cのアニオン交換樹脂5bの逆洗を行うことができる。しかも、これにより再生されやすい下室4cの強アニオン交換樹脂5bと、再生されにくい上室4aの強アニオン交換樹脂5aとの間で強アニオン交換樹脂が少しずつ交換されるので、結果として強アニオン交換樹脂5a,5b全体としての再生効率が良好なものとなる。
【0025】
しかも、高速の上向流での流通が可能であることに加えて再生時に逆洗工程を行うとともに押出工程と洗浄工程とが同時に行われるので再生時間を30〜40%程度も短縮することが可能となっており、さらに排水量も少なくなるという効果も奏する。
【0026】
〔その他の実施形態〕
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない限り種々の設計変更が可能である。例えば、上記実施形態においてはアニオン樹脂によるイオン交換装置について説明してきたが、カチオン交換樹脂の場合も同様である。また、水処理装置としては、上記実施形態のものを単独で用いてもよいが、カチオン交換装置とアニオン交換装置とを直列的に接続してシステムを構築するのが一般的である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のイオン交換装置は、イオン交換樹脂の再生効率が高く、またその再生時間を短縮することができ、各種の純水製造装置などに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第一の実施形態によるイオン交換装置の通液工程及び洗浄・循環工程を示す概略図である。
【図2】第一の実施形態によるイオン交換装置の薬注(再生)工程及び押出工程を示す概略図である。
【図3】第一の実施形態によるイオン交換装置の下室逆洗工程を示す概略図である。
【図4】第一の実施形態によるイオン交換装置の樹脂戻し工程を示す概略図である。
【図5】従来のイオン交換装置を示す概略図である。
【図6】従来の他のイオン交換装置を示す概略図である。
【図7】従来のさらに他のイオン交換装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0029】
1…イオン交換塔
2…上部仕切板
3…下部仕切板
4a…上室
4b…中間室
4c…下室
7…開閉弁(弁)
8…樹脂移送管
A1…第一の強アニオン交換樹脂層(第一の強イオン交換樹脂層)
A2…第二の強アニオン交換樹脂層(第二の強イオン交換樹脂層)
B…弱アニオン交換樹脂層(弱イオン交換樹脂層)
W1,W4,W6…原水
W2…薬液(再生剤)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換塔に原水を下向流で通して処理液を得、再生剤を上向流で通して再生するイオン交換装置であって、
イオン交換塔内に塔を上下方向に三室に区画する透液性の上部仕切板及び下部仕切板が設けられており、
下室には固定床を形成するように充填された第一の強イオン交換樹脂層を有し、
中間室には上向流により流動床を形成するように充填された弱イオン交換樹脂層を有し、
上室には上向流により流動床を形成するように充填された第二の強イオン交換樹脂層を有し、かつ前記上室と下室とを塔外において弁を介して連絡する樹脂移送管を具備することを特徴とするイオン交換装置。
【請求項2】
前記イオン交換樹脂がアニオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のイオン交換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−7027(P2006−7027A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185188(P2004−185188)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】