イオン伝導性微粒子およびその製造方法、ならびにそれを用いた電気化学デバイス
【課題】 低温でも高いイオン伝導性を示す微粒子、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 (i)有機分子を含む水溶液中で、金属イオンとヨウ化物イオンとを反応させることによって、ヨウ化金属の微粒子を複数形成する工程と、(ii)ヨウ化金属の微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相になるようにヨウ化金属の微粒子を加熱する工程とを含む。金属イオンは、銀イオンまたは銅イオンである、ヨウ化銀微粒子またはヨウ化銅微粒子が製造される。
【解決手段】 (i)有機分子を含む水溶液中で、金属イオンとヨウ化物イオンとを反応させることによって、ヨウ化金属の微粒子を複数形成する工程と、(ii)ヨウ化金属の微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相になるようにヨウ化金属の微粒子を加熱する工程とを含む。金属イオンは、銀イオンまたは銅イオンである、ヨウ化銀微粒子またはヨウ化銅微粒子が製造される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性微粒子およびその製造方法、ならびにそれを用いた電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ化銀は、高温で超イオン伝導と呼ばれる特異的に高い伝導性を示すことが知られている。たとえば、ヨウ化銀の場合、室温ではβ相とγ相の混合状態であるが、約150℃で、超イオン伝導性を示すα相に相転移する。イオン伝導性が高い材料は、全固体型電池やプログラマブル回路(FPGA)など、様々な分野への応用が期待され、注目を集めている。
【0003】
ヨウ化銀の微粒子の製造方法として、保護ポリマー中で銀イオンとヨウ化物イオンとを反応させる方法が提案されている(非特許文献1)。しかし、この文献では、イオン伝導体としてのヨウ化銀微粒子の性能は全く調べられていない。
【非特許文献1】ヘングレンら(A. Henglein et al.)の論文(「Photochemistry of Colloidal Semiconductors 30. Reactions and Fluorescence of AgI and AgI-Ag2S Colloids」、Ber. Bunsenges. Phys. Chem. 93 p593-599、1989年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超イオン伝導体は、その特異な性質から、様々な分野での応用が期待されるものの、例えば、通常のヨウ化銀は150℃よりも低い温度では高いイオン伝導性を示さない。そのため、ヨウ化銀結晶のイオン伝導性を利用できる分野は限られてしまっていた。
【0005】
本発明は、このような状況において、低温でも高いイオン伝導性を示す微粒子、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明者らは、ヨウ化銀の粒径が数十ナノメートル以下の場合、一度α相へ相転移したナノ粒子が、低温まで安定に存在し、高いイオン伝導度を示すことを見出した。本発明は、この新しい知見に基づいてなされたものである。
【0007】
すなわち、イオン伝導性微粒子を製造するための本発明の方法は、(i)有機分子を含む水溶液中で、金属イオンとヨウ化物イオンとを反応させることによって、ヨウ化金属の微粒子を複数形成する工程と、(ii)前記微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相になるように前記微粒子を加熱する工程とを含み、前記金属イオンが銀イオンまたは銅イオンである。
【0008】
超イオン伝導相とは、超イオン伝導性を示す相を意味し、具体的には、イオン伝導度が1×10-3Scm-1以上となる相を意味する。
【0009】
また、本発明のイオン伝導性微粒子は、本発明の製造方法で製造された微粒子である。
【0010】
また、本発明のヨウ化銀微粒子は、75℃で測定したときのイオン伝導度が1×10-3Scm-1以上を示すヨウ化銀微粒子である。
【0011】
また、本発明の電気化学デバイスは、上記本発明の微粒子を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、イオン伝導度が高いヨウ化銀微粒子またはヨウ化銅微粒子が得られる。本発明によれば、75℃という低い温度において超イオン伝導体(イオン伝導度が10-3Scm-1以上のイオン伝導体。「超イオン導電体」ともいう。)として機能するヨウ化銀微粒子を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0014】
<イオン伝導性微粒子の製造方法>
イオン伝導性微粒子を製造するための本発明の方法は、有機分子を含む水溶液中で、金属イオンとヨウ化物イオン(I-)とを反応させることによって、ヨウ化金属の微粒子を複数形成する工程(工程(i))を含む。金属イオンは、銀イオンまたは銅イオンである。金属イオンが銀イオンである場合には、ヨウ化銀(AgI)の微粒子が形成される。金属イオンが銅イオンである場合には、ヨウ化銅(CuI)の微粒子が形成される。
【0015】
銀イオンは、銀の塩を水に溶解させることによって得られる。銀の塩に特に限定はなく、たとえば、硝酸銀、過塩素酸銀、硫酸銀、スルホン酸銀、炭酸銀、炭酸水素銀、硫酸水素銀、テトラフルオロホウ酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀を用いることができる。ヨウ化物イオンは、ヨウ素化合物を水に溶解させることによって得られる。ヨウ素化合物に特に限定はなく、たとえば、ヨウ化水素酸、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化水素カリウムなどのヨウ化水素酸若しくはその塩;酢酸ヨーダイド、テトラブチルアンモニウムヨーダイドなどの有機ヨウ素化剤;トリヨーダイド(I3-);ヨウ素(I2)を用いることができる。
【0016】
工程(i)は、有機分子が存在する水溶液中において、金属イオン(銀イオンまたは銅イオン)とヨウ化物イオンとを反応させることによって行われる。これらのイオンは、イオンの状態、すなわち水に溶解している状態で反応系に供給されてもよい。また、これらのイオンは、有機分子が存在する水溶液に金属塩または化合物を溶解することによって反応系に供給されてもよい。
【0017】
工程(i)で用いられる有機分子(たとえば高分子)は、ヨウ化金属の微粒子の凝集を防止する保護剤として機能する。この有機分子は、疎水性基と親水性基とを備える両親媒性の有機分子であることが好ましく、高分子であることが好ましい。工程(i)で用いられる有機分子として、たとえば、ポリビニルピロリドン(ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)。以下、「PVP」という場合がある。)や、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、オクタンチオール、デカンチオール、オクタデカンチオールなどを用いることができる。PVPは、粒径が小さく粒径のばらつきが小さいヨウ化銀微粒子を形成できるという点で好ましい。
【0018】
反応溶液に含まれる有機分子がPVPである場合、その濃度は、たとえば、2×10-3重量%〜1重量%の範囲(一例では5×10-3重量%〜0.1重量%の範囲)であってもよい。有機分子がPVPであり、微粒子がヨウ化銀微粒子である場合、生成するヨウ化銀微粒子中のAgIが、PVPの構造単位(N−ビニル−2−ピロリドン単位)1モルに対して、10ミリモル〜10モル程度(一例では0.1モル〜3モルの範囲)となるように反応条件を設定してもよい。また、有機分子がPVPであり、微粒子がヨウ化銅微粒子である場合、生成するヨウ化銅微粒子中のCuIが、PVPの構造単位(N−ビニル−2−ピロリドン単位)1モルに対して、10ミリモル〜10モル程度(一例では0.1モル〜10モルの範囲)となるように反応条件を設定してもよい。
【0019】
工程(i)で形成される複数の微粒子は、粒径が20nm以下である微粒子を含んでもよい。工程(i)で形成される微粒子の平均粒径は、たとえば20nm以下であってもよく、たとえば15nm以下(一例では11.3nm以下)である。微粒子のサイズを小さく(たとえば粒径が20nm以下)することによって、超イオン伝導相から超イオン伝導相ではない相へ転移する温度を低くできる。ここで、1つの粒子の「粒径」とは、微粒子の透過型電子顕微鏡写真を加速電圧200kVで撮影し、写真から測定されたその粒子の最大径を意味する。また、「平均粒径」とは、微粒子の透過型電子顕微鏡写真を加速電圧200kVで撮影し、撮影された微粒子を任意に200個以上選択し、写真から測定された個々の最大径を平均した値である。微粒子の粒径は、たとえば、保護する有機物の種類、反応温度、反応時間、溶液中の銀イオン、ヨウ化物イオンの濃度、混合速度、混合の順序、水溶液中の無機塩の添加量を変化させることによって制御できる。
【0020】
工程(i)が行われる雰囲気および温度に特に限定はなく、たとえば、大気中、室温で行うことができる。
【0021】
工程(i)ののち、反応生成物を濾別して乾燥することによって、有機分子とヨウ化金属微粒子(ヨウ化銀微粒子またはヨウ化銅微粒子)とを主成分とする有機・無機混合物が得られる。
【0022】
次に、ヨウ化金属の微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相(例えばAgIではα相)になるようにヨウ化金属の微粒子を加熱する(工程(ii))。金属イオンが銀イオンであり、ヨウ化金属の微粒子がヨウ化銀の微粒子である場合、工程(ii)において、微粒子を150℃以上(たとえば160℃以上、170℃以上、または180℃以上であり、たとえば230℃以下である)の温度に加熱すればよい。この工程によって、ヨウ化銀の微粒子は、超イオン伝導相が主体のヨウ化銀(α−AgI)に変化する。このα−AgIは、1×10-3Scm-1以上のイオン伝導度を示す超イオン伝導体として機能する。
【0023】
また、金属イオンが銅イオンであり、ヨウ化金属の微粒子がヨウ化銅の微粒子である場合、微粒子を500℃以上の温度に加熱する工程を行うことによって、α相またはβ相(たとえばα相)が主体のヨウ化銅が得られる。α相またはβ相が主体のヨウ化銅は、超イオン伝導体として機能する。
【0024】
バルクのヨウ化銀の場合、α相からβ/γ相へ相転移する温度は約150℃程度である。一方、ヨウ化銀の粒径が20nm以下である場合、α相からβ/γ相へ相転移する温度を、130℃未満(たとえば100℃未満や、80℃未満や、55℃未満や、50℃未満や、40℃未満)にまで下げることができる。そのため、ヨウ化銀の超微粒子では、85℃〜140℃の温度、または所定の温度範囲(たとえば、40℃以上、50℃以上、55℃以上、60℃以上または75℃以上で、140℃以下、100℃以下または80℃以下の温度)においても、超イオン伝導体として使用することが可能である。なお、ヨウ化銀微粒子の粒径が100nm以下であれば、α相からβ/γ相へ相転移する温度を得ることができると考えられる。同様に、ヨウ化銅微粒子の粒径が20nm以下であれば、α相もしくはβ相からγ相へ相転移する温度を得ることができると考えられる。
【0025】
加熱の際の雰囲気に特に限定はなく、たとえば窒素気流下や、真空下でおこなってもよい。
【0026】
上記本発明の方法で製造されたヨウ化金属の微粒子は、イオン伝導性の微粒子として用いることができる。ヨウ化金属がヨウ化銀の微粒子である場合、75℃におけるイオン伝導度が1×10-3Scm-1以上である微粒子(またはヨウ化銀微粒子とPVPなどの有機分子との複合体)を得ることが可能である。
【0027】
<ヨウ化銀微粒子>
本発明のヨウ化銀微粒子は、75℃で測定したときのイオン伝導度が1×10-3Scm-1以上である。この微粒子の粒径は、たとえば20nm以下である。
【0028】
また、別の観点では、本発明は、ヨウ化銀の微粒子を、超イオン伝導体(イオン伝導度が10-3Scm-1以上であるイオン伝導体)として使用する方法に関する。この使用方法では、まず、ヨウ化銀の微粒子を、その少なくとも一部がα相に転移する温度にまで加熱して超イオン伝導体とする。すなわち、上述した工程(ii)を行う。ヨウ化銀の微粒子には、粒径がたとえば20nm以下の微粒子が含まれ、その平均粒径はたとえば11.3nm以下である。次に、この微粒子を、α相が残存した状態で超イオン伝導体として使用する。ヨウ化銀微粒子のα相を残存させるためには、α相がβ/γ相に転移することを抑制する必要がある。したがって、工程(ii)を経たヨウ化銀微粒子を、α相が残存する温度(たとえば40℃以上の温度や、50℃以上の温度や、55℃以上の温度や、60℃以上の温度や、75℃以上の温度や、85℃以上の温度)に保ったまま超イオン伝導体として使用すればよい。
【0029】
同様に、本発明は、ヨウ化銅の微粒子を作製し、微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相になるように微粒子を加熱したのち超イオン伝導相が残存した状態で微粒子を使用する方法に関する。
【0030】
<電気化学デバイス>
本発明の電気化学デバイスは、本発明の微粒子(ヨウ化銀微粒子またはヨウ化銅微粒子)を含む。この電気化学デバイスでは、本発明の微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相の状態(ヨウ化銀の場合にはα相の状態)で使用される。
【0031】
本発明の電気化学デバイスとしては、たとえば、全固体型電池、プログラマブル回路(FPGA)が挙げられる。
【0032】
ヨウ化銀を固体電解質とする全固体型電池の構成としては、たとえば、銀電極/ヨウ化銀(固体電解質)/硫化銀電極という構成や、銀電極/ヨウ化銀(固体電解質)/炭素系電極といった構成や、銀電極/ヨウ化銀(固体電解質)/(CH3)4NI5電極といった構成が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。なお、以下の実施例では、PVPとして、和光純薬工業株式会社のポリビニルポロリドンK30を用いた。
【0034】
<実施例1>
以下に、ヨウ化銀微粒子を作製して評価した一例について説明する。
【0035】
まず、50ミリリットルのメスフラスコ中で、170mgのAgNO3と、222mgのPVPとを純水に溶解させ、AgNO3−PVP水溶液(1)を調製した。次に、3リットルのナスフラスコに2.4リットルの純水を加え、これにAgNO3−PVP水溶液(1)を加えて30分間攪拌し、AgNO3−PVP水溶液(2)を調製した。
【0036】
また、50ミリリットルのメスフラスコ中で、165mgのNaIを純水に溶解させ、50ミリリットルのNaI水溶液を調製した。
【0037】
次に、作製したNaI水溶液を、上述のAgNO3−PVP水溶液(2)に速やかに加え、2時間攪拌して反応させた。以上の工程は、大気中、室温で行った。
【0038】
次に、反応後の水溶液を、40℃、20hPaで10ミリリットル程度に減圧濃縮した。
【0039】
以上の操作を3回行い、30ミリリットルのAgI−PVP混合液を得た。得られた混合液を、孔径50nmのメンブレンフィルタで濾過し、メンブレンフィルタ上の混合物を純水で洗浄した。次に、メンブレンフィルタ上の混合物を少量の水に分散させたのち、エバポレータで減圧乾燥して乾燥物(1)を得た。この乾燥物(1)を、少量のエタノールに分散させたのち減圧乾燥し、ヨウ化銀微粒子とPVPとを含む乾燥物(2)739mgを得た。このようにして、ヨウ化銀微粒子とPVPとの複合体を得た。ヨウ化銀の収率は、元素分析から87%と算出された。また、PVPの構造単位0.43モルあたりのヨウ化銀の量は1モルであった。
【0040】
得られた乾燥物(2)をエタノールに溶かしカーボングリッド上に分散させ、電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡写真を図1に示す。また、電子顕微鏡写真を用いて評価した粒径の分布を図2に示す。図2の縦軸は、観察した粒子の数に占める、所定の粒径の粒子の数の割合を百分率で示す。
【0041】
図2に示すように、粒径は、ほとんど(90%以上)が20nm以下であり、平均粒径は11.3nmであった。
【0042】
次に、約15mgの乾燥物(2)を成形してペレット(直径2.5mm、厚さ0.77mm)を作製した。ペレットの両面に、直径50μmの金線を銀ペーストで接続し、40Hz〜5MHzの範囲で交流インピーダンス測定を行った。イオン伝導度はCole−Coleプロットから算出し、温度とイオン伝導度との関係を求めた。測定時の電流は200μAとした。なお、交流インピーダンス法を用いてイオン伝導度を測定することによって、PVPによるイオン伝導の影響は排除されていると考えられる。
【0043】
イオン伝導度の温度変化を図3に示す。図3に示すように、加熱に伴って、ペレットのイオン伝導度は増大し、約150℃で10-3Scm-1以上となる。一方、冷却によって徐々にイオン伝導度が低下するが、約75℃まではイオン伝導度が10-3Scm-1以上である。バルクのヨウ化銀の場合、図3に示すような大きなヒステリシスは見られず、150℃近傍を下回るとイオン伝導度が10-3Scm-1未満となる。図3の結果から、ヨウ化銀の微粒子では、α相からβ/γ相への転移温度が、バルクのヨウ化銀に比べて低いことがわかる。
【0044】
このことを確認するために、上記の方法で形成されたヨウ化銀の微粒子と、バルクのヨウ化銀を粉砕して得られた粉末とについて、X線回折の測定を行った。測定結果を図4に示す。
【0045】
図4(a)は、ヨウ化銀微粒子のX線回折の結果であり、図4(a)の下から上に、温度を30℃→140℃→180℃→140℃→100℃→30℃と変化させたときの結果である。一方、図4(b)は、バルクのヨウ化銀のX線回折の結果であり、図4(b)の下から上に、温度を室温→140℃→180℃→140℃→100℃→30℃と変化させたときの結果である。35°近傍および44°近傍に現れるピークは、α相を示すピークである。また、39°近傍に現れるピークは、β/γ相を示すピークである。
【0046】
図4に示すように、微粒子およびバルクのいずれの場合も、140℃から180℃へ加熱される際にβ/γ相からα相への転移が生じている。一方、β/γ相からα相への転移は、微粒子では主に100℃から30℃へ冷却される際に生じているのに対し、バルクでは180℃から140℃へ冷却される際に生じている。ヨウ化銀微粒子およびバルクのヨウ化銀について、180℃における両者のX線回折のピークを図5に示す。両者のピーク位置はほぼ一致し、ヨウ化銀微粒子がα相に転移していることが分かった。また、ヨウ化銀微粒子の格子定数aは5.057オングストロームであり、バルクのヨウ化銀の格子定数aは5.059オングストロームであり、両者はほぼ一致していた。
【0047】
このように、X線回折の結果から、ヨウ化銀の微粒子では、β/γ相からα相へ転移する温度が、バルクのヨウ化銀よりも低くなっていることが分かった。
【0048】
相転移温度を正確に見積もるため、上記の方法で形成されたヨウ化銀の微粒子と、バルクのヨウ化銀を粉砕して得られた粉末とについて、示差走査熱量測定(DSC測定)を行った。測定結果を図6に示す。
【0049】
図6に示すとおり、昇温過程においては、微粒子及びバルクのいずれの場合も、145℃付近で吸熱反応が見られ、X線回折の結果と合わせ、145℃付近でβ/γ相からα相への相転移が開始されることが分かった。
【0050】
一方、降温過程においては、バルクでは140℃付近に発熱ピークが見られ、α相からβ/γ相への相転移が見られた。一方、ヨウ化銀の微粒子では50℃から40℃付近で発熱ピークが見られ、X線回折の結果と合わせて、40℃〜50℃においてα相からβ/γ相への相転移を示すことが分かった。
【0051】
このように、本発明者らは、50℃〜80℃とい極めて低い温度で高いイオン伝導度を示す材料を見出した。このような材料は、電池やプログラマブル回路(FPGA)といった分野に適用できるという点で、極めて有用である。また、微粒子化することによって、高イオン伝導を示す相が低温まで安定に存在する材料を初めて見出した点で、本発明は画期的である。
【0052】
なお、図3に示す加熱および冷却を行ったヨウ化銀微粒子を再度加熱した場合、約130℃でイオン伝導度が10-3Scm-1を超えた。
【0053】
<実施例2>
以下に、ヨウ化銅微粒子を製造した一例について説明する。
【0054】
まず、塩化銅(CuCl)25mgとPVP558mgとを、容量が1リットルのナスフラスコに入れ、575ミリリットルの純水を加えて30分間攪拌し、CuCl−PVP水溶液を調製した。また、ヨウ化ナトリウム(NaI)38mgを容量50ミリリットルの褐色メスフラスコに加え、純水に溶かした。次に、NaI水溶液をCuCl−PVP水溶液に加え、2時間攪拌し、ヨウ化銅微粒子−PVP混合液を得た。
【0055】
次に、得られた混合液を、孔径50nmのメンブレンフィルタで濾過し、メンブレンフィルタ上の混合物を純水で洗浄し、乾燥した。このようにして、ヨウ化銅微粒子とPVPとの混合物が得られた。
【0056】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の技術的思想に基づいて他の実施形態に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、イオン伝導性微粒子、およびその製造方法、ならびにイオン伝導性微粒子を用いた機器に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の製造方法で製造されたヨウ化銀微粒子の電子顕微鏡写真の一例である。
【図2】図1のヨウ化銀微粒子の粒径分布を示すグラフである。
【図3】本発明のヨウ化銀微粒子の一例について、温度とイオン伝導度との関係を示すグラフである。
【図4】(a)本発明のヨウ化銀微粒子および(b)比較例のヨウ化銀粉末について、X線回折ピークの温度変化を示す図である。
【図5】本発明のヨウ化銀微粒子および比較例のヨウ化銀粉末について、両者がα相であるときのピークを示す図である。
【図6】本発明のヨウ化銀微粒子および比較例のヨウ化銀粉末について、示差走査熱量測定の結果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性微粒子およびその製造方法、ならびにそれを用いた電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ化銀は、高温で超イオン伝導と呼ばれる特異的に高い伝導性を示すことが知られている。たとえば、ヨウ化銀の場合、室温ではβ相とγ相の混合状態であるが、約150℃で、超イオン伝導性を示すα相に相転移する。イオン伝導性が高い材料は、全固体型電池やプログラマブル回路(FPGA)など、様々な分野への応用が期待され、注目を集めている。
【0003】
ヨウ化銀の微粒子の製造方法として、保護ポリマー中で銀イオンとヨウ化物イオンとを反応させる方法が提案されている(非特許文献1)。しかし、この文献では、イオン伝導体としてのヨウ化銀微粒子の性能は全く調べられていない。
【非特許文献1】ヘングレンら(A. Henglein et al.)の論文(「Photochemistry of Colloidal Semiconductors 30. Reactions and Fluorescence of AgI and AgI-Ag2S Colloids」、Ber. Bunsenges. Phys. Chem. 93 p593-599、1989年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超イオン伝導体は、その特異な性質から、様々な分野での応用が期待されるものの、例えば、通常のヨウ化銀は150℃よりも低い温度では高いイオン伝導性を示さない。そのため、ヨウ化銀結晶のイオン伝導性を利用できる分野は限られてしまっていた。
【0005】
本発明は、このような状況において、低温でも高いイオン伝導性を示す微粒子、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明者らは、ヨウ化銀の粒径が数十ナノメートル以下の場合、一度α相へ相転移したナノ粒子が、低温まで安定に存在し、高いイオン伝導度を示すことを見出した。本発明は、この新しい知見に基づいてなされたものである。
【0007】
すなわち、イオン伝導性微粒子を製造するための本発明の方法は、(i)有機分子を含む水溶液中で、金属イオンとヨウ化物イオンとを反応させることによって、ヨウ化金属の微粒子を複数形成する工程と、(ii)前記微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相になるように前記微粒子を加熱する工程とを含み、前記金属イオンが銀イオンまたは銅イオンである。
【0008】
超イオン伝導相とは、超イオン伝導性を示す相を意味し、具体的には、イオン伝導度が1×10-3Scm-1以上となる相を意味する。
【0009】
また、本発明のイオン伝導性微粒子は、本発明の製造方法で製造された微粒子である。
【0010】
また、本発明のヨウ化銀微粒子は、75℃で測定したときのイオン伝導度が1×10-3Scm-1以上を示すヨウ化銀微粒子である。
【0011】
また、本発明の電気化学デバイスは、上記本発明の微粒子を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、イオン伝導度が高いヨウ化銀微粒子またはヨウ化銅微粒子が得られる。本発明によれば、75℃という低い温度において超イオン伝導体(イオン伝導度が10-3Scm-1以上のイオン伝導体。「超イオン導電体」ともいう。)として機能するヨウ化銀微粒子を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0014】
<イオン伝導性微粒子の製造方法>
イオン伝導性微粒子を製造するための本発明の方法は、有機分子を含む水溶液中で、金属イオンとヨウ化物イオン(I-)とを反応させることによって、ヨウ化金属の微粒子を複数形成する工程(工程(i))を含む。金属イオンは、銀イオンまたは銅イオンである。金属イオンが銀イオンである場合には、ヨウ化銀(AgI)の微粒子が形成される。金属イオンが銅イオンである場合には、ヨウ化銅(CuI)の微粒子が形成される。
【0015】
銀イオンは、銀の塩を水に溶解させることによって得られる。銀の塩に特に限定はなく、たとえば、硝酸銀、過塩素酸銀、硫酸銀、スルホン酸銀、炭酸銀、炭酸水素銀、硫酸水素銀、テトラフルオロホウ酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀を用いることができる。ヨウ化物イオンは、ヨウ素化合物を水に溶解させることによって得られる。ヨウ素化合物に特に限定はなく、たとえば、ヨウ化水素酸、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化水素カリウムなどのヨウ化水素酸若しくはその塩;酢酸ヨーダイド、テトラブチルアンモニウムヨーダイドなどの有機ヨウ素化剤;トリヨーダイド(I3-);ヨウ素(I2)を用いることができる。
【0016】
工程(i)は、有機分子が存在する水溶液中において、金属イオン(銀イオンまたは銅イオン)とヨウ化物イオンとを反応させることによって行われる。これらのイオンは、イオンの状態、すなわち水に溶解している状態で反応系に供給されてもよい。また、これらのイオンは、有機分子が存在する水溶液に金属塩または化合物を溶解することによって反応系に供給されてもよい。
【0017】
工程(i)で用いられる有機分子(たとえば高分子)は、ヨウ化金属の微粒子の凝集を防止する保護剤として機能する。この有機分子は、疎水性基と親水性基とを備える両親媒性の有機分子であることが好ましく、高分子であることが好ましい。工程(i)で用いられる有機分子として、たとえば、ポリビニルピロリドン(ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)。以下、「PVP」という場合がある。)や、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、オクタンチオール、デカンチオール、オクタデカンチオールなどを用いることができる。PVPは、粒径が小さく粒径のばらつきが小さいヨウ化銀微粒子を形成できるという点で好ましい。
【0018】
反応溶液に含まれる有機分子がPVPである場合、その濃度は、たとえば、2×10-3重量%〜1重量%の範囲(一例では5×10-3重量%〜0.1重量%の範囲)であってもよい。有機分子がPVPであり、微粒子がヨウ化銀微粒子である場合、生成するヨウ化銀微粒子中のAgIが、PVPの構造単位(N−ビニル−2−ピロリドン単位)1モルに対して、10ミリモル〜10モル程度(一例では0.1モル〜3モルの範囲)となるように反応条件を設定してもよい。また、有機分子がPVPであり、微粒子がヨウ化銅微粒子である場合、生成するヨウ化銅微粒子中のCuIが、PVPの構造単位(N−ビニル−2−ピロリドン単位)1モルに対して、10ミリモル〜10モル程度(一例では0.1モル〜10モルの範囲)となるように反応条件を設定してもよい。
【0019】
工程(i)で形成される複数の微粒子は、粒径が20nm以下である微粒子を含んでもよい。工程(i)で形成される微粒子の平均粒径は、たとえば20nm以下であってもよく、たとえば15nm以下(一例では11.3nm以下)である。微粒子のサイズを小さく(たとえば粒径が20nm以下)することによって、超イオン伝導相から超イオン伝導相ではない相へ転移する温度を低くできる。ここで、1つの粒子の「粒径」とは、微粒子の透過型電子顕微鏡写真を加速電圧200kVで撮影し、写真から測定されたその粒子の最大径を意味する。また、「平均粒径」とは、微粒子の透過型電子顕微鏡写真を加速電圧200kVで撮影し、撮影された微粒子を任意に200個以上選択し、写真から測定された個々の最大径を平均した値である。微粒子の粒径は、たとえば、保護する有機物の種類、反応温度、反応時間、溶液中の銀イオン、ヨウ化物イオンの濃度、混合速度、混合の順序、水溶液中の無機塩の添加量を変化させることによって制御できる。
【0020】
工程(i)が行われる雰囲気および温度に特に限定はなく、たとえば、大気中、室温で行うことができる。
【0021】
工程(i)ののち、反応生成物を濾別して乾燥することによって、有機分子とヨウ化金属微粒子(ヨウ化銀微粒子またはヨウ化銅微粒子)とを主成分とする有機・無機混合物が得られる。
【0022】
次に、ヨウ化金属の微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相(例えばAgIではα相)になるようにヨウ化金属の微粒子を加熱する(工程(ii))。金属イオンが銀イオンであり、ヨウ化金属の微粒子がヨウ化銀の微粒子である場合、工程(ii)において、微粒子を150℃以上(たとえば160℃以上、170℃以上、または180℃以上であり、たとえば230℃以下である)の温度に加熱すればよい。この工程によって、ヨウ化銀の微粒子は、超イオン伝導相が主体のヨウ化銀(α−AgI)に変化する。このα−AgIは、1×10-3Scm-1以上のイオン伝導度を示す超イオン伝導体として機能する。
【0023】
また、金属イオンが銅イオンであり、ヨウ化金属の微粒子がヨウ化銅の微粒子である場合、微粒子を500℃以上の温度に加熱する工程を行うことによって、α相またはβ相(たとえばα相)が主体のヨウ化銅が得られる。α相またはβ相が主体のヨウ化銅は、超イオン伝導体として機能する。
【0024】
バルクのヨウ化銀の場合、α相からβ/γ相へ相転移する温度は約150℃程度である。一方、ヨウ化銀の粒径が20nm以下である場合、α相からβ/γ相へ相転移する温度を、130℃未満(たとえば100℃未満や、80℃未満や、55℃未満や、50℃未満や、40℃未満)にまで下げることができる。そのため、ヨウ化銀の超微粒子では、85℃〜140℃の温度、または所定の温度範囲(たとえば、40℃以上、50℃以上、55℃以上、60℃以上または75℃以上で、140℃以下、100℃以下または80℃以下の温度)においても、超イオン伝導体として使用することが可能である。なお、ヨウ化銀微粒子の粒径が100nm以下であれば、α相からβ/γ相へ相転移する温度を得ることができると考えられる。同様に、ヨウ化銅微粒子の粒径が20nm以下であれば、α相もしくはβ相からγ相へ相転移する温度を得ることができると考えられる。
【0025】
加熱の際の雰囲気に特に限定はなく、たとえば窒素気流下や、真空下でおこなってもよい。
【0026】
上記本発明の方法で製造されたヨウ化金属の微粒子は、イオン伝導性の微粒子として用いることができる。ヨウ化金属がヨウ化銀の微粒子である場合、75℃におけるイオン伝導度が1×10-3Scm-1以上である微粒子(またはヨウ化銀微粒子とPVPなどの有機分子との複合体)を得ることが可能である。
【0027】
<ヨウ化銀微粒子>
本発明のヨウ化銀微粒子は、75℃で測定したときのイオン伝導度が1×10-3Scm-1以上である。この微粒子の粒径は、たとえば20nm以下である。
【0028】
また、別の観点では、本発明は、ヨウ化銀の微粒子を、超イオン伝導体(イオン伝導度が10-3Scm-1以上であるイオン伝導体)として使用する方法に関する。この使用方法では、まず、ヨウ化銀の微粒子を、その少なくとも一部がα相に転移する温度にまで加熱して超イオン伝導体とする。すなわち、上述した工程(ii)を行う。ヨウ化銀の微粒子には、粒径がたとえば20nm以下の微粒子が含まれ、その平均粒径はたとえば11.3nm以下である。次に、この微粒子を、α相が残存した状態で超イオン伝導体として使用する。ヨウ化銀微粒子のα相を残存させるためには、α相がβ/γ相に転移することを抑制する必要がある。したがって、工程(ii)を経たヨウ化銀微粒子を、α相が残存する温度(たとえば40℃以上の温度や、50℃以上の温度や、55℃以上の温度や、60℃以上の温度や、75℃以上の温度や、85℃以上の温度)に保ったまま超イオン伝導体として使用すればよい。
【0029】
同様に、本発明は、ヨウ化銅の微粒子を作製し、微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相になるように微粒子を加熱したのち超イオン伝導相が残存した状態で微粒子を使用する方法に関する。
【0030】
<電気化学デバイス>
本発明の電気化学デバイスは、本発明の微粒子(ヨウ化銀微粒子またはヨウ化銅微粒子)を含む。この電気化学デバイスでは、本発明の微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相の状態(ヨウ化銀の場合にはα相の状態)で使用される。
【0031】
本発明の電気化学デバイスとしては、たとえば、全固体型電池、プログラマブル回路(FPGA)が挙げられる。
【0032】
ヨウ化銀を固体電解質とする全固体型電池の構成としては、たとえば、銀電極/ヨウ化銀(固体電解質)/硫化銀電極という構成や、銀電極/ヨウ化銀(固体電解質)/炭素系電極といった構成や、銀電極/ヨウ化銀(固体電解質)/(CH3)4NI5電極といった構成が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。なお、以下の実施例では、PVPとして、和光純薬工業株式会社のポリビニルポロリドンK30を用いた。
【0034】
<実施例1>
以下に、ヨウ化銀微粒子を作製して評価した一例について説明する。
【0035】
まず、50ミリリットルのメスフラスコ中で、170mgのAgNO3と、222mgのPVPとを純水に溶解させ、AgNO3−PVP水溶液(1)を調製した。次に、3リットルのナスフラスコに2.4リットルの純水を加え、これにAgNO3−PVP水溶液(1)を加えて30分間攪拌し、AgNO3−PVP水溶液(2)を調製した。
【0036】
また、50ミリリットルのメスフラスコ中で、165mgのNaIを純水に溶解させ、50ミリリットルのNaI水溶液を調製した。
【0037】
次に、作製したNaI水溶液を、上述のAgNO3−PVP水溶液(2)に速やかに加え、2時間攪拌して反応させた。以上の工程は、大気中、室温で行った。
【0038】
次に、反応後の水溶液を、40℃、20hPaで10ミリリットル程度に減圧濃縮した。
【0039】
以上の操作を3回行い、30ミリリットルのAgI−PVP混合液を得た。得られた混合液を、孔径50nmのメンブレンフィルタで濾過し、メンブレンフィルタ上の混合物を純水で洗浄した。次に、メンブレンフィルタ上の混合物を少量の水に分散させたのち、エバポレータで減圧乾燥して乾燥物(1)を得た。この乾燥物(1)を、少量のエタノールに分散させたのち減圧乾燥し、ヨウ化銀微粒子とPVPとを含む乾燥物(2)739mgを得た。このようにして、ヨウ化銀微粒子とPVPとの複合体を得た。ヨウ化銀の収率は、元素分析から87%と算出された。また、PVPの構造単位0.43モルあたりのヨウ化銀の量は1モルであった。
【0040】
得られた乾燥物(2)をエタノールに溶かしカーボングリッド上に分散させ、電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡写真を図1に示す。また、電子顕微鏡写真を用いて評価した粒径の分布を図2に示す。図2の縦軸は、観察した粒子の数に占める、所定の粒径の粒子の数の割合を百分率で示す。
【0041】
図2に示すように、粒径は、ほとんど(90%以上)が20nm以下であり、平均粒径は11.3nmであった。
【0042】
次に、約15mgの乾燥物(2)を成形してペレット(直径2.5mm、厚さ0.77mm)を作製した。ペレットの両面に、直径50μmの金線を銀ペーストで接続し、40Hz〜5MHzの範囲で交流インピーダンス測定を行った。イオン伝導度はCole−Coleプロットから算出し、温度とイオン伝導度との関係を求めた。測定時の電流は200μAとした。なお、交流インピーダンス法を用いてイオン伝導度を測定することによって、PVPによるイオン伝導の影響は排除されていると考えられる。
【0043】
イオン伝導度の温度変化を図3に示す。図3に示すように、加熱に伴って、ペレットのイオン伝導度は増大し、約150℃で10-3Scm-1以上となる。一方、冷却によって徐々にイオン伝導度が低下するが、約75℃まではイオン伝導度が10-3Scm-1以上である。バルクのヨウ化銀の場合、図3に示すような大きなヒステリシスは見られず、150℃近傍を下回るとイオン伝導度が10-3Scm-1未満となる。図3の結果から、ヨウ化銀の微粒子では、α相からβ/γ相への転移温度が、バルクのヨウ化銀に比べて低いことがわかる。
【0044】
このことを確認するために、上記の方法で形成されたヨウ化銀の微粒子と、バルクのヨウ化銀を粉砕して得られた粉末とについて、X線回折の測定を行った。測定結果を図4に示す。
【0045】
図4(a)は、ヨウ化銀微粒子のX線回折の結果であり、図4(a)の下から上に、温度を30℃→140℃→180℃→140℃→100℃→30℃と変化させたときの結果である。一方、図4(b)は、バルクのヨウ化銀のX線回折の結果であり、図4(b)の下から上に、温度を室温→140℃→180℃→140℃→100℃→30℃と変化させたときの結果である。35°近傍および44°近傍に現れるピークは、α相を示すピークである。また、39°近傍に現れるピークは、β/γ相を示すピークである。
【0046】
図4に示すように、微粒子およびバルクのいずれの場合も、140℃から180℃へ加熱される際にβ/γ相からα相への転移が生じている。一方、β/γ相からα相への転移は、微粒子では主に100℃から30℃へ冷却される際に生じているのに対し、バルクでは180℃から140℃へ冷却される際に生じている。ヨウ化銀微粒子およびバルクのヨウ化銀について、180℃における両者のX線回折のピークを図5に示す。両者のピーク位置はほぼ一致し、ヨウ化銀微粒子がα相に転移していることが分かった。また、ヨウ化銀微粒子の格子定数aは5.057オングストロームであり、バルクのヨウ化銀の格子定数aは5.059オングストロームであり、両者はほぼ一致していた。
【0047】
このように、X線回折の結果から、ヨウ化銀の微粒子では、β/γ相からα相へ転移する温度が、バルクのヨウ化銀よりも低くなっていることが分かった。
【0048】
相転移温度を正確に見積もるため、上記の方法で形成されたヨウ化銀の微粒子と、バルクのヨウ化銀を粉砕して得られた粉末とについて、示差走査熱量測定(DSC測定)を行った。測定結果を図6に示す。
【0049】
図6に示すとおり、昇温過程においては、微粒子及びバルクのいずれの場合も、145℃付近で吸熱反応が見られ、X線回折の結果と合わせ、145℃付近でβ/γ相からα相への相転移が開始されることが分かった。
【0050】
一方、降温過程においては、バルクでは140℃付近に発熱ピークが見られ、α相からβ/γ相への相転移が見られた。一方、ヨウ化銀の微粒子では50℃から40℃付近で発熱ピークが見られ、X線回折の結果と合わせて、40℃〜50℃においてα相からβ/γ相への相転移を示すことが分かった。
【0051】
このように、本発明者らは、50℃〜80℃とい極めて低い温度で高いイオン伝導度を示す材料を見出した。このような材料は、電池やプログラマブル回路(FPGA)といった分野に適用できるという点で、極めて有用である。また、微粒子化することによって、高イオン伝導を示す相が低温まで安定に存在する材料を初めて見出した点で、本発明は画期的である。
【0052】
なお、図3に示す加熱および冷却を行ったヨウ化銀微粒子を再度加熱した場合、約130℃でイオン伝導度が10-3Scm-1を超えた。
【0053】
<実施例2>
以下に、ヨウ化銅微粒子を製造した一例について説明する。
【0054】
まず、塩化銅(CuCl)25mgとPVP558mgとを、容量が1リットルのナスフラスコに入れ、575ミリリットルの純水を加えて30分間攪拌し、CuCl−PVP水溶液を調製した。また、ヨウ化ナトリウム(NaI)38mgを容量50ミリリットルの褐色メスフラスコに加え、純水に溶かした。次に、NaI水溶液をCuCl−PVP水溶液に加え、2時間攪拌し、ヨウ化銅微粒子−PVP混合液を得た。
【0055】
次に、得られた混合液を、孔径50nmのメンブレンフィルタで濾過し、メンブレンフィルタ上の混合物を純水で洗浄し、乾燥した。このようにして、ヨウ化銅微粒子とPVPとの混合物が得られた。
【0056】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の技術的思想に基づいて他の実施形態に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、イオン伝導性微粒子、およびその製造方法、ならびにイオン伝導性微粒子を用いた機器に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の製造方法で製造されたヨウ化銀微粒子の電子顕微鏡写真の一例である。
【図2】図1のヨウ化銀微粒子の粒径分布を示すグラフである。
【図3】本発明のヨウ化銀微粒子の一例について、温度とイオン伝導度との関係を示すグラフである。
【図4】(a)本発明のヨウ化銀微粒子および(b)比較例のヨウ化銀粉末について、X線回折ピークの温度変化を示す図である。
【図5】本発明のヨウ化銀微粒子および比較例のヨウ化銀粉末について、両者がα相であるときのピークを示す図である。
【図6】本発明のヨウ化銀微粒子および比較例のヨウ化銀粉末について、示差走査熱量測定の結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性微粒子の製造方法であって、
(i)有機分子を含む水溶液中で、金属イオンとヨウ化物イオンとを反応させることによって、ヨウ化金属の微粒子を複数形成する工程と、
(ii)前記微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相になるように前記微粒子を加熱する工程とを含み、
前記金属イオンが銀イオンまたは銅イオンであるイオン伝導性微粒子の製造方法。
【請求項2】
複数の前記微粒子は、粒径が20nm以下である微粒子を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属イオンが銀イオンであり、前記ヨウ化金属がヨウ化銀であり、
前記(ii)の工程において前記微粒子を150℃以上の温度に加熱する工程を含む請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機分子が、ポリビニルピロリドンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたイオン伝導性微粒子。
【請求項6】
75℃で測定したときのイオン伝導度が1×10-3Scm-1以上であるヨウ化銀微粒子。
【請求項7】
粒径が20nm以下である請求項6に記載のヨウ化銀微粒子。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載される微粒子を含む電気化学デバイス。
【請求項1】
イオン伝導性微粒子の製造方法であって、
(i)有機分子を含む水溶液中で、金属イオンとヨウ化物イオンとを反応させることによって、ヨウ化金属の微粒子を複数形成する工程と、
(ii)前記微粒子の少なくとも一部が超イオン伝導相になるように前記微粒子を加熱する工程とを含み、
前記金属イオンが銀イオンまたは銅イオンであるイオン伝導性微粒子の製造方法。
【請求項2】
複数の前記微粒子は、粒径が20nm以下である微粒子を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属イオンが銀イオンであり、前記ヨウ化金属がヨウ化銀であり、
前記(ii)の工程において前記微粒子を150℃以上の温度に加熱する工程を含む請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機分子が、ポリビニルピロリドンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたイオン伝導性微粒子。
【請求項6】
75℃で測定したときのイオン伝導度が1×10-3Scm-1以上であるヨウ化銀微粒子。
【請求項7】
粒径が20nm以下である請求項6に記載のヨウ化銀微粒子。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載される微粒子を含む電気化学デバイス。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1】
【公開番号】特開2007−73431(P2007−73431A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261191(P2005−261191)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第85春季年会 講演予稿集 1」に発表
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第85春季年会 講演予稿集 1」に発表
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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