説明

イオン伝導性材料及びその製造方法

【課題】本発明の技術的課題は、加湿しなくても、200〜500℃の中温域で良好なイオン伝導性を有し、成形性や長期安定性に優れたイオン伝導性材料、特にプロトン伝導性材料を創案することである。
【解決手段】本発明のイオン伝導性材料は、組成として、モル%表示で、P25 15〜80%、SiO2 0〜70%、R2O(Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、及びAg2Oの合量) 5〜35%を含有すると共に、R2O成分(Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、Ag2O)の内、少なくとも2種以上を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性材料(イオン伝導体)及びその製造方法に関し、特にプロトン伝導性が良好なイオン伝導性材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、発電効率の理論値が高く、また廃熱も利用可能であるため、最新鋭の火力発電等と比較して、二酸化炭素を大幅に削減できると共に、十分な電気、熱の供給が可能である。また、家庭用、車載用等の小規模発電用途としては、パーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマー(登録商標Nafion)等に代表される固体高分子燃料電池が注目されている。しかし、現在のところ、上記の固体高分子燃料電池は、動作温度が80℃前後と低いため、発電効率(〜33%程度)が低いという問題がある。
【0003】
また、リン酸形燃料電池は、実用化に至っているが、動作温度が200℃程度であり、また製造コストが高いという問題がある。更に、固体酸化物形燃料電池は、動作温度が1000℃前後と非常に高いため、燃料電池の構成部材に安価なステンレス等を使用できないという問題がある。このような事情から、図1に示すGAP部分に対応する温度域、つまり200〜500℃の中温域で良好に動作可能な燃料電池が求められている。なお、500℃程度まで燃料電池の動作温度を上昇できれば、50%を超える総合効率の達成も可能であると言われている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−097272号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.Norby、Solid State Ionics、125、1、1990
【非特許文献2】阿部良弘、NEW GLASS、Vol.12、No.3、1997、p28
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
500℃程度まで動作温度を上昇させるには、当該温度域で高いプロトン伝導性又は酸素イオン伝導性を示す電解質の開発が不可欠になる。しかし、200〜500℃の中温域において、実用的な電気伝導度を有するイオン伝導性材料は未だに報告されていないのが実情である(非特許文献1参照)。
【0007】
このような状況の下、現在、中温域で動作するイオン伝導性材料、特にプロトン伝導性材料の候補として、リン酸塩ガラスが検討されている(特許文献1、非特許文献2参照)。
【0008】
しかし、特許文献1、非特許文献2に記載のリン酸塩ガラスは、ゾル−ゲル法で作製されているため、使用時に加湿が必要であり、また耐熱性が低く、更には成形性(特に、フィルム形状への成形性)や化学的耐久性にも課題を有している。
【0009】
そこで、本発明は、加湿しなくても、200〜500℃の中温域で良好なイオン伝導性を有し、成形性や長期安定性に優れたイオン伝導性材料、特にプロトン伝導性材料を創案することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意研究した結果、P25、SiO2、アルカリ金属酸化物の含有量を所定範囲に規制すると共に、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、Ag2Oのいずれかを2種以上添加し、これをイオン伝導性材料に用いることにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のイオン伝導性材料は、組成として、モル%表示で、P25 15〜80%、SiO2 0〜70%、R2O(Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、及びAg2Oの合量) 5〜35%を含有すると共に、R2O成分(Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、Ag2O)の内、少なくとも2種以上を含むことを特徴とする。なお、「R2O成分の内、少なくとも2種以上を含む」とは、0.1モル%以上のR2O成分が組成中に2種以上存在する状態を指す。
【0011】
本発明のイオン伝導性材料は、P25を15〜80%、SiO2を0〜70%、R2Oを5〜35%を含有する。このようにすれば、加湿しなくても、200〜500℃の中温域で良好なイオン伝導性を示すと共に、長期安定性も向上する。また、このようにすれば、溶融性が良好になるため、溶融法でイオン伝導性材料を作製し易くなり、結果として、成形性、均質性、緻密性を高めることができる。なお、フィルム形状であり、且つ均質性や緻密性が良好であれば、直接メタノール形燃料電池において、クロスオーバーを抑制し易くなる。
【0012】
更に、本発明のイオン伝導性材料は、R2O成分の内、少なくとも2種以上を含む。このようにすれば、混合アルカリ効果により、アルカリイオンのイオン伝導が抑制されるため、プロトン伝導の割合が増加し、結果として、燃料電池の電解質に適用し易くなる。
【0013】
第二に、本発明のイオン伝導性材料は、組成として、モル%表示で、P25 15〜60%、SiO2 10〜70%、R2O 5〜35%を含有すると共に、R2O成分の内、少なくとも2種以上を含むことが好ましい。
【0014】
第三に、本発明のイオン伝導性材料は、モル比(Na2O+K2O)/R2Oが0.2〜1.0であることが好ましい。このようにすれば、プロトン伝導性を高め易くなる。なお、「Na2O+K2O」は、Na2OとK2Oの合量である。
【0015】
第四に、本発明のイオン伝導性材料は、モル比Na2O/R2Oが0.2〜0.8であることが好ましい。このようにすれば、プロトン伝導性を高め易くなる。
【0016】
第五に、本発明のイオン伝導性材料は、モル比K2O/R2Oが0.2〜0.8であることが好ましい。このようにすれば、プロトン伝導性を高め易くなる。
【0017】
第六に、本発明のイオン伝導性材料は、更に、組成として、Al23を0.1モル%以上含むことが好ましい。このようにすれば、潮解性が低下するため、長期安定性を高め易くなる。
【0018】
第七に、本発明のイオン伝導性材料は、500℃におけるイオン伝導率log10σ(S/cm)が−5.5以上であり、且つ500℃におけるプロトンの輸率が0.7以上であることが好ましい。ここで、「500℃におけるイオン伝導率」は、例えば、試料(寸法:1.5cm×1.0cm×厚み1.0mm、光学研磨済み)の表面にAgペーストによりAg電極を形成した後、交流インピーダンス法で測定することができる。また、「500℃におけるプロトンの輸率」は、例えば、試料(寸法:1.5cm×1.0cm×厚み1.0mm、光学研磨済み)の表面にPtをスパッタし、Pt電極を形成した上で、試料の片面を参照側として水素1体積%の雰囲気にした状態で、他方の面の水素分圧を変えた時の起電力を測定し、次にNernstの式に基づく傾きより算出することができる。
【0019】
第八に、本発明のイオン伝導性材料は、結晶化度が50%以下の非晶質であることが好ましい。ここで、「結晶化度」は、例えば、X線回折装置(リガク製)を用い、回折角2θが10〜60°の範囲において測定した散乱強度面積と結晶ピーク面積を多重ピーク分離法を用いて算出し、散乱強度面積に対する結晶ピーク面積の比率(%)として求められる。
【0020】
第九に、本発明のイオン伝導性材料は、電気化学デバイスに用いることが好ましい。
【0021】
第十に、本発明のイオン伝導性材料は、燃料電池に用いることが好ましい。
【0022】
第十一に、本発明のイオン伝導性材料の製造方法は、上記のイオン伝導性材料の製造方法であって、原料を溶融した後、得られた溶融ガラスを成形する工程を有することを特徴とする。このようにすれば、成形性を高めることができる。
【0023】
第十二に、本発明の電気化学デバイスは、上記のイオン伝導性材料を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】種々の燃料電池の動作温度とイオン伝導率の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のイオン伝導性材料において、上記のように組成を限定した理由を以下に示す。なお、組成に関する説明において、%表示はモル%を指す。
【0026】
25は、イオン伝導率を高める成分である。P25の含有量は15〜80%、好ましくは20〜70%、より好ましくは25〜65%、更に好ましくは25〜60%、特に好ましくは25〜50%、最も好ましくは25〜45%である。P25の含有量が少なくなると、イオン伝導率が低下し易くなる。一方、P25の含有量が多くなると、潮解し易くなるため、長期安定性が低下し易くなる。
【0027】
SiO2は、ネットワークフォーマーであり、また化学的耐久性を高める成分である。SiO2の含有量は0〜70%、好ましくは0.1〜60%、より好ましくは1〜50%、更に好ましくは5〜49%、特に好ましくは10〜40%である。SiO2の含有量が少なくなると、化学的耐久性が低下し易くなる。一方、SiO2の含有量が多くなると、イオン伝導率が低下し易くなり、また溶融、成形時に失透し易く、更に粘度が不当に上昇して、溶融、成形が困難になる。更に、粘度が急激に変化する温度域が発生し易くなり、成形性が低下し易くなる。
【0028】
2Oは、イオン伝導率を高める成分であると共に、粘度を低下させて、溶融性を高める成分である。R2Oの含有量は5〜35%、好ましくは8〜30%、より好ましくは10〜25%である。R2Oの含有量が少なくなると、イオン伝導率が低下し易くなり、また粘度が不当に上昇して、溶融、成形が困難になる。一方、R2Oの含有量が多くなると、化学的耐久性が低下し易くなる。また粘度が急激に変化する温度域が発生し易くなり、成形性が低下し易くなる。
【0029】
2O成分を2種以上含み、特に3種以上含むことが好ましい。R2O成分が1種のみであると、混合アルカリ効果を享受できないため、アルカリイオンのイオン伝導を抑制し難くなり、結果として、プロトン伝導の割合(プロトンの輸率)が低下し易くなる。
【0030】
Li2Oは、イオン伝導率を高める成分であると共に、粘度を低下させて、溶融性を高める成分である。Li2Oの含有量は0〜20%、0〜15%、特に0〜10%が好ましい。Li2Oの含有量が多くなると、化学的耐久性が低下し易くなる。
【0031】
Na2Oは、イオン伝導率を高める成分であると共に、粘度を低下させて、溶融性を高める成分である。Na2Oの含有量は0〜25%、1〜20%、特に3〜15%が好ましい。Na2Oの含有量が多くなると、化学的耐久性が低下し易くなる。なお、Na2Oの含有量が少なくなると、イオン伝導率が低下し易くなり、また粘度が不当に上昇して、溶融、成形が困難になる。更に、粘度が急激に変化する温度域が発生し易くなり、成形性が低下し易くなる。
【0032】
2Oは、イオン伝導率を高める成分であると共に、粘度を低下させて、溶融性を高める成分である。K2Oの含有量は0〜25%、1〜20%、特に3〜15%が好ましい。K2Oの含有量が多くなると、化学的耐久性が低下し易くなる。なお、K2Oの含有量が少なくなると、イオン伝導率が低下し易くなり、また粘度が不当に上昇して、溶融、成形が困難になる。更に、粘度が急激に変化する温度域が発生し易くなり、成形性が低下し易くなる。
【0033】
Ag2Oは、イオン伝導率を高める成分であると共に、粘度を低下させて、溶融性を高める成分である。Ag2Oの含有量は0〜20%、0〜15%、0〜10%、特に実質的に含有しない、つまり0.1%以下が好ましい。Ag2Oの含有量が多くなると、原料コストが高騰し易くなる。
【0034】
モル比(Na2O+K2O)/R2Oは0.2〜1.0、0.25〜1.0、特に0.3〜1.0が好ましい。このようにすれば、プロトン伝導性を高め易くなると共に、安価な原料を用いて、混合アルカリ効果を享受することができる。なお、「Na2O+K2O」は、Na2OとK2Oの合量を指している。
【0035】
モル比Na2O/R2Oは0.2〜0.8、0.25〜0.7、特に0.3〜0.65が好ましい。モル比Na2O/R2Oが上記範囲外になると、混合アルカリ効果を享受し難くなるため、アルカリイオンのイオン伝導を抑制し難くなり、結果として、プロトン伝導の割合が低下し易くなる。また、モル比K2O/R2Oは0.2〜0.8、0.25〜0.7、特に0.3〜0.65が好ましい。モル比K2O/R2Oが上記範囲外になると、混合アルカリ効果を享受し難くなるため、アルカリイオンのイオン伝導を抑制し難くなり、結果として、プロトン伝導の割合が低下し易くなる。なお、モル比Li2O/R2Oは、同様の理由により、0.8以下、0.6以下、特に0.5以下が好ましい。
【0036】
Al23は、潮解性を抑制して、長期安定性を高める成分である。Al23の含有量は0〜20%、0.1〜16%、1〜12%、特に2〜10%が好ましい。Al23の含有量が多くなると、イオン伝導率が低下し易くなり、また溶融、成形時に失透し易く、更に粘度が不当に上昇して、溶融、成形が困難になる。更に、粘度が急激に変化する温度域が発生し易くなり、成形性が低下し易くなる。
【0037】
上記成分以外にも、粘度の調整、化学的耐久性の向上、清澄効果の向上を目的として、MgO、CaO、SrO、BaO、ZrO2、TiO2、La23、ZnO、Sb23、Fe23、SnO2、CeO2、SO3、Cl、As23、CuO、Gd23、Y23、Ta23、Nb25、Nd23、Tb23、WO3、V25、MoO3、Bi23、CoO、Cr23、MnO2、NiO、B23等を添加することができ、各成分の含有量はそれぞれ0〜5%が好ましい。但し、MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO、SrO、及びBaOの合量)の含有量は、イオン伝導率の低下を招くので、2%以下が好ましく、実質的に含有しないこと、つまり0.1%以下が望ましい。また、As23、CuO、Gd23、Y23、Ta23、Nb25、Nd23、Tb23、WO3、V25、MoO3、Bi23、CoO、Cr23、MnO2、NiOの含有量は、原料コストの高騰を招くので、各々1%以下が好ましく、実質的に含有しないこと、つまり0.1%以下が望ましい。B23も原料コストの高騰を招くので、2%以下が好ましく、実質的に含有しないこと、つまり0.1%以下が望ましい。
【0038】
本発明のイオン伝導性材料において、500℃におけるイオン伝導率log10σ(S/cm)は−5.5以上、−5.0以上、特に−4.8以上が好ましい。このようにすれば、200〜500℃の中温域における燃料電池として、好適となる。
【0039】
本発明のイオン伝導性材料において、500℃におけるプロトンの輸率は0.7以上、0.8以上、特に0.9以上が好ましい。このようにすれば、プロトン伝導の割合が増加するため、燃料電池に適用し易くなる。
【0040】
本発明のイオン伝導性材料は、結晶化度が50%以下の非晶質であることが好ましい。このようにすれば、均質性や緻密性を高め易くなる。更に、本発明のイオン伝導性材料は、分相していることが好ましく、スピノーダル分相していることがより好ましい。このようにすれば、イオン伝導パスとして、分相により得られる高極性相を利用し易くなるため、局所的に伝導キャリアの濃度を高めることができ、イオン伝導性を高め易くなる。
【0041】
本発明のイオン伝導性材料において、厚みは500μm以下、200μm以下、100μm以下、特に50μm以下が好ましい。厚みが小さい程、抵抗値が低下して、燃料電池の性能を高め易くなる。なお、厚みの下限は特に設定されないが、ハンドリング性を考慮すると、1μm以上、特に5μm以上が好ましい。
【0042】
本発明のイオン伝導性材料を作製する方法を説明する。まず上記の組成範囲となるように原料を調合する。次に、連続溶融炉内に調合した原料を投入した後、加熱溶融する。続いて、得られた溶融ガラスを成形装置に供給して、平板形状又はフィルム形状に成形した後、徐冷する。このようにして、イオン伝導性材料を作製することができる。なお、本発明のイオン伝導性材料は、ゾル−ゲル法で作製される態様を完全に排除するものではないが、上記の通り、このような態様は種々の観点から不利である。
【0043】
本発明のイオン伝導性材料の製造方法において、溶融温度は800℃以上、1000℃以上、1200℃以上、特に1400℃以上が好ましい。このようにすれば、溶融時間を短縮し易くなり、またイオン伝導性材料を均質化し易くなる。
【0044】
徐冷速度を変更することにより、分相していないガラス、分相したガラス、或いは結晶とガラスが混在した結晶化ガラスのいずれかを選択的に得ることができる。なお、分相化、結晶化は、徐冷後に再加熱することでも行うことができる。また、実生産を考慮すれば、実質的に分相していないガラスが好ましく、熱処理による分相化工程を有しないことが好ましい。
【実施例1】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0046】
表1〜4は、本発明の実施例(試料No.1〜32)及び比較例(試料No.33〜37)を示している。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
次のようにして、表中の各試料を作製した。まず表中の組成となるように、原料を調合した後、アルミナ坩堝に投入して、1400〜1600℃で2時間溶融した。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して、成形した後、600℃に保持した電気炉内で徐冷した。続いて、1.5cm×1cm×厚み1.5mmの平板形状に加工した後、研磨紙を用いて、#100、#400、#2000の順序で試料の表面を研磨して、各試料を得た。各試料につき、イオン伝導率、プロトンの輸率、潮解性、耐水性、ガラス化、成形性を評価した。その結果を表中に示す。なお、X線回折装置により、各試料は結晶化度が50%以下の非晶質(ガラス)であることが確認された。
【0052】
イオン伝導率log10σ(S/cm)は、Agペーストにより試料の表面にAg電極を形成した後、表中の各温度において、交流インピーダンス法で測定した値である。
【0053】
以下のようにして、500℃におけるプロトンの輸率を評価した。まず試料の表面にPtをスパッタし、Pt電極を形成した。次に、試料の片面を参照側として水素1体積%の雰囲気にした上で、他方の面の水素分圧を変えた時の起電力を測定した。続いて、Nernstの式に基づく傾きよりプロトンの輸率を算出した。
【0054】
純水中に試料を浸漬し、室温で24時間静置し、洗浄、乾燥した後、試料の質量変化を測定することにより、潮解性の指標とした。表中には、浸漬前の試料の質量に対する質量減少の割合(%)を記載した。
【0055】
密閉容器に入れた純水中に試料を浸漬し、60℃で24時間静置し、洗浄、乾燥した後、試料の質量変化を測定することにより、耐水性の指標とした。表中には、浸漬前の試料の質量に対する質量減少量を試料の表面積で除した値(mg/cm2)を記載した。
【0056】
段落[0052]で作製した溶融ガラスを流し出して、ガラス化の有無を確認した。ガラス化が確認されたものを「○」、ガラス化が確認されなかったものを「×」として、評価した。
【0057】
段落[0052]で作製した溶融ガラスを成形した後に、1cm×1cm×5mmの寸法に加工した。次に、この試料をバーナーで再溶融し、手引きによりファイバー状試料を作製した。ファイバー状試料の作製に際し、非常に厳密な温度コントロールが必要であったものを「△△」、厳密な温度コントロールが必要であったものを「△」、厳密な温度コントロールは不要であったが、ファイバー径にバラツキが認められたものを「○」、厳密な温度コントロールは不要であり、ファイバー径が均一であったものを「◎」として、評価した。
【0058】
表1〜4から明らかなように、試料No.1〜3は、プロトンの輸率が非常に高く、またプロトン伝導材料(プロトン伝導体)としてはイオン伝導率が高く、しかも潮解性の評価が良好である。また、試料No.4〜32は、プロトンの輸率が非常に高く、またプロトン伝導材料(プロトン伝導体)としてはイオン伝導率が高く、しかも潮解性の評価が良好であると予想される。一方、試料No.33、35、36は、イオン伝導率が高いが、Na+イオンのイオン伝導の割合が大きいため、プロトンの輸率が低かった。また、試料No.33は、組成中にAl23を含んでいないため、潮解性の評価が不良であった。なお、試料No.33は、プロトンの輸率が低いものと推定される。
【0059】
試料No.37は、ガラス化しなかったが、試料No.1〜32は、ガラス化していた。また、試料No.4〜32は、成形性が良好であった。
【実施例2】
【0060】
表中の試料No.1、No.7、No.15について、電極:スパッタしたPt、アノード側:純水素、カソード側:純酸素、測定温度:500℃の条件で発電試験を行なったところ、1.1Vの電圧、0.2、0.03、0.3mW/cm2の出力値が得られた。よって、試料No.1、No.7、No.15は、燃料電池の電解質として応用可能であると考えられる。また、試料No.2〜32も燃料電池の電解質として応用可能であると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のイオン伝導性材料は、電気化学デバイスに応用可能であり、例えば燃料電池の電解質、キャパシタの電解質、ガスセンサのセンシング部材、湿度制御装置の湿度検出部材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成として、モル%表示で、P25 15〜80%、SiO2 0〜70%、R2O(Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、及びAg2Oの合量) 5〜35%を含有すると共に、R2O成分(Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、Ag2O)の内、少なくとも2種以上を含むことを特徴とするイオン伝導性材料。
【請求項2】
組成として、モル%表示で、P25 15〜60%、SiO2 10〜60%、R2O 5〜35%を含有すると共に、R2O成分の内、少なくとも2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性材料。
【請求項3】
モル比(Na2O+K2O)/R2Oが0.2〜1.0であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン伝導性材料。
【請求項4】
モル比Na2O/R2Oが0.2〜0.8であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のイオン伝導性材料。
【請求項5】
モル比K2O/R2Oが0.2〜0.8であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のイオン伝導性材料。
【請求項6】
更に、組成として、Al23を0.1モル%以上含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のイオン伝導性材料。
【請求項7】
500℃におけるイオン伝導率log10σ(S/cm)が−5.5以上であり、且つ500℃におけるプロトンの輸率が0.7以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のイオン伝導性材料。
【請求項8】
結晶化度が50%以下の非晶質であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のイオン伝導性材料。
【請求項9】
電気化学デバイスに用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のイオン伝導性材料。
【請求項10】
燃料電池に用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のイオン伝導性材料。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のイオン伝導性材料の製造方法であって、
原料を溶融した後、得られた溶融ガラスを成形する工程を有することを特徴とするイオン伝導性材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のイオン伝導性材料を含むことを特徴とする電気化学デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2012−76987(P2012−76987A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189902(P2011−189902)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 2010年年会 講演予稿集 発行所 社団法人日本セラミックス協会 発行日 平成22年3月22日 刊行物名 電気化学会第77回大会 講演要旨集 発行所 社団法人電気化学会 発行日 平成22年3月26日 刊行物名 第5回日本セラミックス協会関西支部 学術講演会 講演予稿集 発行所 社団法人日本セラミックス協会 発行日 平成22年7月16日
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】