説明

イオン伝導性硬化性組成物

【課題】イオン伝導性、耐熱性、機械的強度に優れた高分子固体電解質や電極を形成するイオン伝導性硬化性組成物及びそれらで構成されており、変形を与えた際の出力信号強度などの性能に優れる変形センサとして、又は低い電圧でも効率よく駆動することができる発生力、変位量、動作速度などの性能に優れた高分子アクチュエータとして機能することができる高分子トランスデューサを提供する。
【解決手段】イオン伝導性硬化性組成物は、重合性基を有するイオン液体と、前記重合性基に架橋反応する多官能基を有する架橋剤とを、含有しているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子トランスデューサの高分子固体電解質及び電極に有用であるイオン伝導性硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器やマイクロマシンなどの分野において、小型かつ軽量なアクチュエータやセンサのようにある種類のエネルギーを別の種類のエネルギーに変換するトランスデューサの必要性が高まっている。また産業用ロボットやパーソナルロボットなどの分野において、軽量で柔軟性に富むトランスデューサの必要性も高まっている。
【0003】
この様に多くの分野で、軽量で柔軟なアクチュエータとして高分子アクチュエータが注目されており、様々な方式の高分子アクチュエータが報告されている。例えば、動作電圧が低く、かつ空気中での安定な動作が可能な高分子アクチュエータとして、イオン液体及び高分子からなる固体電解質を用いたものが開示されている(特許文献1〜5及び非特許文献1〜4)。また、これらの高分子アクチュエータは、変形を与えた場合にはセンサとしても機能する高分子トランスデューサとなる(非特許文献4)。
【0004】
これらの高分子トランスデューサに用いられる高分子固体電解質は、常温で液状であるイオン液体を高分子に保持させて固体電解質としたものである。例えば、特許文献6及び7に、イオン液体を保持する高分子を架橋して高分子固体電解質を形成する方法が開示されている。一般的に、高分子固体電解質は、高いイオン伝導率を有するが、熱可塑性であるために耐熱性や機械的強度に劣る問題やイオン液体のブリードアウトの問題なども有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−176428号公報
【特許文献2】特開2006−288040号公報
【特許文献3】国際公開第2008/044546号
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0103706号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0266642号明細書
【特許文献6】特開2004−98199号公報
【特許文献7】特開2005−223967号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】未来材料、2005年、第5巻、第10号、p.14〜19
【非特許文献2】センサーズ アンド アクチュエーターズ A(Sensors and Actuators A)、2004年、第115巻、p.79〜90
【非特許文献3】アンゲヴァンテ ケミー インターナショナル エディション(AngewandteChemie International Edition)、2005年、第44巻、p.2410〜2413
【非特許文献4】マクロモレキュールズ(Macromolecules)、2008年、第41巻、p.7765〜7775
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、イオン伝導性、耐熱性、機械的強度に優れた高分子固体電解質や電極を形成するイオン伝導性硬化性組成物及びそれらで構成されており、変形を与えた際の出力信号強度などの性能に優れる変形センサとして、又は低い電圧でも効率よく駆動することができる発生力、変位量、動作速度などの性能に優れた高分子アクチュエータとして機能することができる高分子トランスデューサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたイオン伝導性硬化性組成物は、重合性基を有するイオン液体と、前記重合性基に架橋反応する多官能基を有する架橋剤とを、含有していることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載のイオン伝導性硬化性組成物は、請求項1に記載されたものであって、光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を含有していることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載のイオン伝導性硬化性組成物は、請求項1に記載されたものであって、(メタ)アクリレート化合物、スチレン化合物、ビニル化合物、α‐オレフィン化合物、共役ジエン化合物及び非共役ポリエン化合物から選ばれる少なくとも1種であって、前記重合性基及び/又は前記架橋剤と共重合する重合性化合物を含有していることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載のイオン伝導性硬化性組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記イオン液体が、下記化学式(I)及び/又は(II)
【化1】

【化2】

(式(I)及び(II)中、前記重合性基を構成するR〜Rは、夫々独立して水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は1〜3個の置換基を有していてもよい炭素数6〜14のアリール基であり、Rは、前記重合性基とカチオンであるY若しくはアニオンであるYとの連結基又は直接結合であり、前記連結基が炭素数1〜10のアルキレン基、1〜3個の置換基を有していてもよい炭素数6〜14のアリーレン基及び炭素数2〜50の(ポリ)アルキレングリコール基から選ばれる基である)で示されることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載のイオン伝導性硬化性組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記イオン液体が、3−エチル−1−ビニルイミダゾリウムカチオン、3−ブチル−1−ビニルイミダゾリウムカチオン及び3−エチル−2−メチル−1−ビニルイミダゾリウムカチオンから選ばれるカチオンと、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、トリフルオロ酢酸イオン及びトリフルオロメタンスルホン酸アニオンから選ばれるアニオンとの塩であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載のイオン伝導性硬化性組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記イオン液体が、下記化学式(III)
【化3】

(式中、Rは水素原子又はメチル基である)で示される前記重合性基を有しており、その(メタ)アクリレート基に、直接又は連結基を介して結合するイミダゾリウムカチオンと、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、トリフルオロ酢酸アニオン及びトリフルオロメタンスルホン酸アニオンから選ばれるアニオンとの塩であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載のイオン伝導性硬化性組成物は、請求項1に記載されたものであって、活物質を含有していることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の高分子固体電解質は、請求項1に記載のイオン伝導性硬化性組成物が硬化したものである。
【0016】
請求項9に記載の高分子トランスデューサ用電極は、請求項7に記載のイオン伝導性硬化性組成物が硬化したものである。
【0017】
請求項10に記載の高分子トランスデューサは、少なくとも1つの高分子固体電解質が、少なくとも一対の電極に挟まれた高分子トランスデューサであって、前記高分子固体電解質と、活物質が含有している前記電極との少なくとも何れかが、重合性基を有するイオン液体と前記重合性基に架橋反応する多官能基を有する架橋剤とを含有しているイオン伝導性硬化性組成物の硬化物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のイオン伝導性硬化性組成物によれば、光照射や加熱により硬化することができ、この硬化物はカチオンのみ又はアニオンのみが伝導するイオン伝導性を示し、高分子固体電解質として機能することができる。また、活物質が含有されているイオン伝導性硬化性組成物によれば、その硬化物は導電性を示し、電極として機能することができる。
【0019】
本発明の高分子固体電解質や電極により形成された高分子トランスデューサは、その性能、とりわけ変形センサとして優れた性能を示すことができ、種々の用途に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明のイオン伝導性硬化性組成物は、必須構成要素として重合性基を有するイオン液体とその重合性基に架橋反応する多官能基を有する架橋剤とを含有しているものである。
【0022】
重合性基を有するイオン液体について、重合性基とは何らかの方法で重合、又は硬化できる官能基であれば特に制限は無く、例えばビニル基、イソプロペニル基などの炭素−炭素二重結合を含む基、環状エステル(ラクトン)、環状アミド(ラクタム)、環状エーテル(エポキシド及び/又はオキセタン)、環状シロキサンなどの開環重合可能な基を挙げることができる。これらのうちでも、イオン液体への導入の容易性の観点から炭素−炭素二重結合を含む基であることが好ましい。好ましい態様を下記化学式(I)及び(II)に示す。
【化4】

【化5】

(式(I)及び(II)中、前記重合性基を構成するR〜Rは、夫々独立して水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基であり、Rは、前記重合性基とカチオンであるY若しくはアニオンであるYとの連結基又は直接結合であり、前記連結基が炭素数1〜10の置換基を有してもよいアルキレン基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基及び置換基を有してもよい炭素数2〜50の(ポリ)アルキレングリコール基から選ばれる基である。)
【0023】
これらのうちでも好ましい重合性基は、優れた硬化性であることから、ビニル基、アクリロイル基、メタクロイル基、スチリル基、ビニルエステル基、ビニルエーテル基が挙げられる。特に好ましくは、ラジカル重合が高速に進行するビニル基、アクリロイル基、メタクロイル基、カチオン重合が高速に進行するビニルエーテル基が挙げられる。
【0024】
また重合性基を有するイオン液体について、イオン液体性を発現するイオン基が必要である。イオン基のうち、カチオンが重合性基と化学結合を介して連結していてもよく、又アニオンが重合性基と化学結合を介して連結していてもよい。例えば重合性基が炭素−炭素二重結合を含む基であった場合には、前記化学式(I)のカチオンが重合性基と化学結合を介して連結している例であり、前記化学式(II)のアニオンが重合性基と化学結合を介して連結している例である。
【0025】
カチオンが重合性基と結合している場合、好ましいカチオンの例としては、アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基などを挙げることができる。これらの中でも、高分子固体電解質のイオン伝導性の観点からはイミダゾリウム基であることがより好ましい。
【0026】
またこの時、カチオンの対イオンとして存在するアニオンの例としては、例えば含ハロゲンアニオン、鉱酸アニオン、有機酸アニオンなどを挙げることができる。含ハロゲンアニオンの具体例としては、PF、ClO、CFSO、CSO、BF、(CFSO、(CSO、(CFSO、AsF、SO2−、(CN)、NOなどを挙げることができる。また有機酸アニオンの具体例としては、RSO、RCOなどを挙げることができる。このRはアルキル基、アリール基、アルケニル基、アラルキル基、アラルケニル基、アルコキシアルキル基、アシルオキシアルキル基、スルホアルキル基又は芳香族複素環残基であり、複数の分岐鎖状又は環状構造を含んでいてもよい。
【0027】
これらのうちでも高分子固体電解質のイオン伝導率、入手容易性の観点から、PF、ClO、CFSO、CSO、BF、(CFSO、(CSO、(CN)が好ましく、特にBF、(CFSO、(CSOがより好ましい。
【0028】
アニオンが重合性基と結合している場合、好ましいアニオンの例としては、カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、ホスホン酸アニオンなどを挙げることができる。イオンの解離度を高める観点からより強い酸の共役アニオンであることが好ましく、前記のなかから選択するのであればスルホン酸アニオン、ホスホン酸アニオンであることが好ましく、製造及び高分子への導入の容易性の観点も含めるとスルホン酸アニオンであることが好ましい。
【0029】
またこの時、アニオンの対イオンとして存在するカチオンとして有機カチオン、とりわけ電荷が非局在化した有機カチオンを用いると、イオン基からのカチオンの解離(電離)が促進されてイオン伝導度が向上すると考えられる。本発明においてはカチオンとして、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、アンモニウムカチオンなどの有機カチオンを好ましい例として挙げることができる。これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。この一方で、一般的に用いられる金属カチオンは電荷が非局在化せず、マトリクスとして存在している高分子との親和性も低いためカチオンが安定化されず、結果としてイオンの解離(電離)が阻害されて十分なイオン伝導度を示さないため、有機カチオンの方が好ましい。
【0030】
前記の好ましい有機カチオンは、ヘテロ原子である窒素原子、特にカチオン中心となっている窒素原子に水素原子が結合していないことが好ましい。このような水素原子は容易にプロトンとして脱離し、安定性が乏しいためである。
【0031】
重合性基とカチオン又はアニオンとが化学結合を介して連結する場合、カチオン又はアニオンはいずれも重合性基と直接結合していてもよいし連結基を介して結合していてもよい。一般的にはイオン基の運動性が高いほど、高分子固体電解質のイオン伝導率が良好であり、連結基を介していることが好ましい。連結基の種類に特に制限はないが、導入の容易性の観点からは好ましい例として炭素数1〜10の置換基を有してもよいアルキレン基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基、置換基を有してもよい炭素数2〜50の(ポリ)アルキレングリコール基を挙げることができる。但し、連結基の種類によっては、硬化・重合時の様式にも依存するが硬化を阻害する可能性があり、その点を鑑みて選択されることが望ましい。
【0032】
これらの連結基に有していてもよい置換基とは、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、メチルエトキシ基、エチルエトキシ基などのアルコキシ基などが挙げられる。
【0033】
これらの観点から、重合性基がカチオンと化学結合を介して連結している場合の、重合性基を有するイオン液体を構成する好ましいカチオンの構造を以下に例示する。
【0034】
【化6】

(式中、R、R、R、Rは夫々独立して水素原子、メチル基又はエチル基、Rは炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリーレン基又は置換基を有してもよい炭素数2〜50の(ポリ)アルキレングリコール基であり、R10〜R12は夫々独立して水素原子、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜12の(ポリ)アルキレングリコール基であり、R13、R14は夫々独立して水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、1〜3個の置換基を有してもよい炭素数6〜14のアリール基又は置換基を有してもよい炭素数2〜50の(ポリ)アルキレングリコール基である。)
【0035】
これらのカチオンとの組合せにより重合性基を有するイオン液体を形成するアニオンの好ましい例としては、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエチル)スルホニル)イミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、トリフルオロ酢酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオンを挙げることができる。
【0036】
例示したカチオンとアニオンを自由に組み合わせることにより、本発明に用いる重合性基を有するイオン液体のうち、カチオンと重合性基が化学結合を介している好ましい例を得ることができる。
【0037】
またこれらの観点から、重合性基がアニオンと化学結合を介して連結している場合の、重合性基を有するイオン液体を構成する好ましいアニオンの構造を以下に例示する。
【0038】
【化7】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す)
【0039】
これらのアニオンとの組合せにより重合性基を有するイオン液体を形成するカチオンの好ましい例は、有機カチオンとして、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、アンモニウムカチオンを挙げることができる。さらに具体的には、カチオンは少なくとも1位と3位(カチオン中心)とに水素原子を有していないイミダゾリウムカチオンであることが好ましく、このような例としては、例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、3−エチル−1−メチルイミダゾリウムカチオン、3−ブチル−1−メチルイミダゾリウムカチオン、3−ヘキシル−1−メチルイミダゾリウムカチオン、3−オクチル−1−メチルイミダゾリウムカチオンなどの1,3−二置換イミダゾリウムカチオンを挙げることができる。また、安定性の更なる向上や高分子固体電解質の溶剤溶解性を高めることで、高分子トランスデューサの製造法の選択肢を広げられることから、2位の炭素上の水素原子が有機基に置換されているイミダゾリウムカチオンであってもよく、2位がメチル基、エチル基などで置換した前記イミダゾリウムカチオンを好ましい例として挙げることができる。
【0040】
また必要に応じて4位、5位の炭素上の水素原子が有機基に置換していてもよい。
【0041】
本発明で用いる架橋剤は、イオン液体の重合性基に架橋反応するものであって、多官能性を有するものである。架橋剤としては、例えば複数の重合性基を有する化合物を用いることができ、重合性基を有するイオン液体の重合性基の反応様式と同様の反応様式で硬化・重合するものであることが好ましい。重合性基を有するイオン液体の重合性基が炭素−炭素二重結合であり、ラジカル重合機構により硬化が進行する場合には、ラジカル重合性の重合性基を2つ以上有する多官能化合物を、エポキシドなどのカチオン重合機構により硬化が進行する場合には、カチオン重合性の重合性基を2つ以上有する多官能化合物を用いることが好ましい。またラジカル機構とカチオン機構のハイブリッド方式で硬化させる場合においては、前記のような架橋剤を用いてもよいし、ラジカル重合性基とカチオン重合性基を複数ずつ併せ持つ多官能化合物を用いてもよい。
【0042】
ラジカル重合性基を複数有する多官能性化合物の例としては、例えばジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール−A−ジエポキシジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールのエチレンオキサイド変性ジアクリレート、(メタ)アクリル酸亜鉛、ビス(4−(メタ)アクリルチオフェニル)スルフィドなどの二官能性化合物;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパンのトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンのテトラ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加トリメチロールプロパンのトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンのテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ペンタエリスリトールのテトラ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ペンタエリスリトールのテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールのペンタ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールのペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールのヘキサ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールのヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホルマール、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−s−ヒドラジンなどの3官能以上の多官能性化合物などを挙げることができる。
【0043】
また重合性基がエポキシドである場合に架橋剤として用いる多官能化合物の例としては、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、フェノールノボラックのグリシジルエーテル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルなどを上げることができる。
【0044】
本発明のイオン伝導性硬化性組成物は、重合反応を開始して硬化させることを目的として開始剤を含んでいることが好ましい。用いる開始剤の種類によっては異なるプロセスで硬化させることができ、例えば光重合開始剤を用いた場合には光重合プロセスにより、熱重合開始剤を用いた場合には熱重合プロセスにより硬化させることができる。また、両者を併用して光重合プロセスと熱重合プロセスを共存させて硬化させてもよい。
【0045】
ラジカル重合により硬化が進行する場合の光重合開始剤の例としては、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、キサントフルオレノン、ベンズアルデヒド、アントラキノン、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−オキサントン、カンファーキノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オンなどが挙げられる。また、分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する光重合剤も用いることができる。
【0046】
また本発明において光重合プロセスを用いる場合、光重合を促進させるために光重合開始剤と共に光増感剤を使用してもよく、具体例としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなどを挙げることができる。
【0047】
また本発明において光重合プロセスを用いる場合、光重合を促進させるために光重合開始剤と共に光促進剤を使用してもよい。光促進剤の具体例としては、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル、安息香酸2−ジメチルアミノエチルなどを挙げることができる。
【0048】
ラジカル重合により硬化が進行する場合の熱重合開始剤の例としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチルアミド)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボン酸メチル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70)などのアゾ系開始剤;ジイソブチリルパーオキシド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボナート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジサクシニックアシッドパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジベンゾイルパーオキシド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)、2,2−ジ(4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4’−ジ−(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、p−メンタンヒドロパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシドなどの有機過酸化物開始剤を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0049】
また本発明のイオン伝導性硬化性組成物は、前記の重合性基を有するイオン液体、架橋剤及び開始剤に加えて、重合性基を有するイオン液体とは異なる重合性化合物を含有していてもよい。このような重合性化合物の例としては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ビフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ビフェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、フェニルエポキシ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、N−[2−(メタ)アクリロイルエチル]−1,2−シクロヘキサンジカルボイミド、N−[2−(メタ)アクリロイルエチル]−1,2−シクロヘキサンジカルボイミド−1−エン、N−[2−(メタ)アクリロイルエチル]−1,2−シクロヘキサンジカルボイミド−4−エン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、N−メチル−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミドなどの(メタ)アクリレート類;スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、α,p−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、1,1−ジフェニルエチレンなどのスチレン誘導体類;酢酸ビニル、酢酸アリル、プロピオン酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニル化合物;1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン類;イソプレン、1,3−シクロヘキサジエンなどの共役ジエン化合物;1,6−ヘキサジエン、1,4−シクロオクタジエンなどの非共役ポリエン化合物などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0050】
また本発明のイオン伝導性硬化性組成物は、前記以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂、ポリマー類やフェノール系安定剤、硫黄系安定剤、リン酸系安定剤、光安定剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、発泡剤、顔料、染料、増白剤を各単独で又は2種類以上組み合わせて用いてもよい。これらの物質は、一般的に知られているものを使用することができる。
【0051】
次いで、本発明の高分子固体電解質について説明する。高分子固体電解質は、前記イオン伝導性硬化性組成物を光照射や加熱処理により、当該組成物を硬化させることによって製造できる。具体的な例としては、イオン伝導性硬化性組成物を必要に応じて離型処理を施したフィルム基材に塗布し、次いで光を照射する又は加熱することによって硬化させフィルム状の高分子固体電解質膜を得る方法が挙げられるが、所望の形状の高分子固体電解質成形体を得る方法はこの方法に何ら限定されるわけではない。
【0052】
次に本発明の高分子トランスデューサ用電極について説明する。本発明のイオン伝導性硬化性組成物は、真中層の高分子固体電解質層の前駆体であり、高分子トランスデューサ用の電極を作製する前駆体でもある。高分子トランスデューサ用の電極は、活物質が高分子固体電解質中に分散している構造を有するものであり、本発明のイオン伝導性硬化性組成物中に活物質を添加することにより電極用のイオン伝導性硬化性組成物である電極用硬化性組成物として調製、製造される。
【0053】
活物質の例としては、金属や金属化合物、導電性カーボン、導電性高分子などの導電性物質が挙げられる。金属の例としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム、ニッケルなどの粉体;金属化合物の例としては酸化ルテニウム(RuO)、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、二酸化イリジウム(IrO)、酸化タンタル(Ta)、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、硫化亜鉛(ZnS)などの粉体;導電性カーボンの例としては、カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)などのカーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維(VGCF)など;導電性高分子の例としては、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン及びこれらの誘導体などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。取扱いの容易性や電気化学的安定性の観点からは導電性カーボンであることが好ましく、高分子トランスデューサの性能の観点からはカーボンブラック、カーボンナノチューブであることがより好ましい。
【0054】
前記活物質を、イオン伝導性硬化性組成物に溶解又は分散させることにより電極用硬化性組成物を得ることができる。溶解又は分散の手法に特に制限は無いが、例えばサンドミル、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、アトライター、ハイスピードミキサー、ホモジナイザー、ナノマイザー、撹拌機、自転公転式遊星型撹拌機、超音波分散器などを用いて行うことができる。
【0055】
なお、電極用硬化性組成物は活物質を含んでいるため、一般的には光透過性が低く、より効率的に硬化を行う為には、電極用硬化性組成物に含まれる開始剤は熱重合開始剤又は光重合開始剤と熱重合開始剤の併用であることが好ましい。これらの開始剤は当初からイオン伝導性硬化性組成物に含有されていてもよいが、分散による電極用硬化性組成物の調製中における異常硬化などの問題を回避すべく、重合性基を有するイオン液体と架橋剤、及び必要に応じて重合性基を有するイオン液体とは異なる重合性化合物の混合物に対して活物質を分散させたのちに、開始剤を添加して均一に混合してもよい。
【0056】
次に本発明の高分子トランスデューサについて説明する。高分子トランスデューサは、少なくとも一対の電極と、当該一対の電極の間に配設された少なくとも1つの高分子固体電解質とからなる基本構成単位を含むものである。一対の電極のうちの少なくとも一方、又は高分子固体電解質のうちの何れか一つが本発明のイオン伝導性硬化性組成物の硬化物からなっていればよい。好ましくは一対の電極の双方が電極用硬化性組成物の硬化物であること、又は高分子固体電解質がイオン伝導性硬化性組成物の硬化物であることであり、より好ましくは一対の電極の双方が電極用硬化性組成物の硬化物であり、かつ高分子固体電解質がイオン伝導性硬化性組成物の硬化物であることである。この場合のほうが、電極層と高分子固体電解質層の間の接着性、密着性が良好となり高分子トランスデューサとしての性能の面で有利であると考えられる。
【0057】
高分子固体電解質を2つ以上有し、その内の何れかに本発明のイオン伝導性硬化性組成物の硬化物以外を用いる場合は、一般に公知であるもの、例えばイオン交換樹脂であるカチオン交換樹脂やアニオン交換樹脂を用いることができる。また電極の何れかに本発明の高分子トランスデューサ用電極以外の電極を用いる場合は、例えば、金属薄膜、金属箔、金属、金属化合物、導電性カーボン、導電性高分子などの導電性物質が分散した樹脂の成形体などを用いることができる。より好ましくはこれらの導電性物質が公知の高分子固体電解質中に分散している電極を挙げることができる。
【0058】
本発明の高分子トランスデューサの形状には特に制限はなく、例えば膜状、フィルム状、シート状、板状、繊維状、円柱状、柱状、球状など種々の形が可能である。このうち、膜状、フィルム状、シート状、板状であり、一対の電極の双方が電極用硬化性組成物の硬化物であり、高分子固体電解質がイオン伝導性硬化性組成物の硬化物である場合を例にとって製造法を説明する。
【0059】
必要に応じて表面離型処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルムなどのフィルム基材上に、電極用硬化性組成物を塗工し、光照射又は加熱して硬化し電極層を得る。一回の塗工、硬化のプロセスで所望の厚みに達しない場合には、このプロセスを複数回繰り返すことで所望の厚みの第一電極層を得ることができる。
【0060】
次いで、硬化して作製した第一電極層の上にイオン伝導性硬化性組成物を塗工し、光照射又は加熱させて硬化し高分子固体電解質層を形成させる。一回の塗工、硬化のプロセスで所望の厚みに達しない場合には、このプロセスを複数回繰り返すことで所望の厚みの高分子固体電解質層を形成させることができる。このようにして、第一電極層−高分子固体電解質層の積層体を得る。
【0061】
次いで、この積層体の高分子固体電解質層の上に電極用硬化性組成物を塗工し、光照射又は加熱させて硬化して第二電極層を形成させる。一回の塗工、硬化のプロセスで所望の厚みに達しない場合には、このプロセスを複数回繰り返すことで所望の厚みの第二電極層を形成させることができる。このようにして第一電極層/高分子固体電解質層/第二電極層の基本構成単位を製造することができる。
【0062】
またこれとは異なる方法の例として、必要に応じて表面離型処理を施した樹脂フィルムなどのフィルム基材上に、電極用硬化性組成物の塗工、硬化を所望の厚みを得るまで繰り返した後、この上にイオン伝導性硬化性組成物を塗工したもの同士を、イオン伝導性硬化性組成物を塗工した面同士を合わせて貼合わせ、次いで光照射又は加熱させて硬化させることで電極層/高分子固体電解質層/電極層の基本構成単位を製造する方法が挙げられる。この場合、高分子固体電解質層の厚みを所望の厚みにするために、1回又は複数回、電極層上への塗工、硬化を繰り返した後にイオン伝導性硬化性組成物を塗工し、この面同士を合わせて貼合わせ、硬化させる方法を採用することもできる。
【0063】
製造終了後、フィルム基材は剥がして高分子トランスデューサとして使用してもよいし、剥がすことなくそのまま高分子トランスデューサとして使用してもよい。剥がすことなくそのまま使用する場合には、フィルム基材は保護層として機能する。
【0064】
本発明の高分子トランスデューサは、電極層のさらに外側又は電極層とフィルム基材の間に、その長手方向の抵抗を低減することを目的として集電体を用いてもよい。集電体としては例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウムなどの金属箔や金属薄膜;金、銀、ニッケルなどの金属粉又はカーボンパウダー、カーボンナノチューブ、炭素繊維などの炭素微粉とバインダー樹脂とからなる成形体;織物、紙、不織布などの布帛や高分子フィルムなどにスパッタやメッキなどの方法により金属薄膜を形成したものなどを挙げることができる。この場合、用いるフィルム基材に予めスパッタやメッキなどの方法により金属薄膜を形成してもよい。これらのうちでも可撓性の観点からは金属粉とバインダー樹脂とからなる膜状成形体、布帛や高分子フィルムなどに金属薄膜を形成したものであることが好ましい。集電体は本発明の高分子トランスデューサが有する一対の電極のうち、少なくとも一方の電極の外側又は電極とフィルム基材の間に配設することができる。
【0065】
前記フィルム基材としては、一般的に用いられるポリマーフィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、エラストマーフィルムなどを用途に応じて適宜用いることができる。
【0066】
前記の膜状、フィルム状、シート状又は板状の高分子トランスデューサにおいて、それを構成する電極層、高分子固体電解質層、必要に応じて配設される集電層、フィルム基材の各厚さは特に制限されず、高分子トランスデューサの用途などにより適宜調整することができるが、電極層の厚さは1μm〜10mmの範囲内であることが好ましく、5μm〜1mmの範囲内であることがより好ましく、10〜500μmの範囲内であることがさらに好ましい。また、高分子固体電解質の厚さは1μm〜10mmの範囲内であることが好ましく、5μm〜1mmの範囲内であることがより好ましく、10〜500μmの範囲内であることがさらに好ましい。集電層を設ける場合にはその厚みは1nm〜1mmの範囲内であることが好ましく、5nm〜100μmの範囲内であることがより好ましく、10nm〜50μmの範囲内であることがさらに好ましい。フィルム基材の厚みとしては、保護層としてそのまま使用するか否かに関わらず、製造時の取扱い容易性の観点や保護層としての強度の観点から1μm〜10mmの範囲内であることが好ましく、10μm〜1mmの範囲内であることがより好ましく、30μm〜500μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0067】
本発明の高分子トランスデューサは、空気中、水中、真空中、有機溶媒中で動作することができる。また使用環境に応じて、適宜封止を施してもよい。封止材量の例としては特に制限はなく、各種樹脂などを挙げることができる。
【0068】
本発明の高分子トランスデューサに外部より変位、圧力などの機械的エネルギーを加えると、相互に絶縁した電極間に電気エネルギーとして電位差(電圧)を発生させることができることから、変動、変位又は圧力を検知する変形センサ・変形センサ素子として使用することもできる。
【実施例】
【0069】
本発明の適用するイオン伝導性硬化性組成物及びその硬化物である高分子固体電解質と電極とで形成された高分子トランスデューサの製造を実施例1〜11に示す。また、本発明の適用外である組成物を比較例1〜3に示す。
【0070】
使用した材料について以下に示す。
(1)1−ビニルイミダゾール; 東京化成工業株式会社より購入し、モレキュラーシーブ(4A)と接触させて水分を除去したものをそのまま用いた。
(2)ブロモエタン; 東京化成工業株式会社より購入し、そのまま用いた。
(3)リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド; 東京化成工業株式会社より購入し、そのまま用いた。
(4)6−ブロモヘキサノール; 東京化成工業株式会社より購入し、モレキュラーシーブ(4A)と接触させて水分を除去したものをそのまま用いた。
(5)アクリル酸クロライド; 和光純薬株式会社より購入し、そのまま用いた。
(6)トリエチルアミン; 東京化成工業株式会社より購入し、モレキュラーシーブ(4A)と接触させて水分を除去したものをそのまま用いた。
(7)1−エチルイミダゾール; 東京化成工業株式会社より購入し、モレキュラーシーブ(4A)と接触させて水分を除去したものをそのまま用いた。
その他、記載のない試薬に関しては購入した後、必要に応じて公知の方法で精製して用いた。
(8)1,6−ヘキサンジオールジアクリレート; 大阪有機化学工業株式会社より「ビスコート230(V#230)」として購入してそのまま用いた。
(9)1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン; チバスペシャリティーケミカルスより「Irgacure184」として購入してそのまま用いた。
(10)アゾビスイソブチロニトリル(AIBN); 和光純薬工業株式会社より購入してそのまま用いた。
(11)導電性カーボンブラック; ライオン株式会社より購入した「ケッチェンブラック EC600JD」を150℃で12時間、真空乾燥したものを用いた。
(12)ポリメチルメタクリレート(PMMA); 株式会社クラレより購入した「パラペット HR−L」をそのまま用いた。
(13)ポリメチルアクリレート(PMA); トルエン222g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN:和光純薬工業株式会社)6mg、ドデンカンチオール(和光純薬工業株式会社)0.299g、モレキュラーシーブ(4A)と接触させたメチルアクリレート(東京化成工業株式会社)66.7gを1Lの三口フラスコに仕込んだ。フラスコ内を十分に窒素置換したのち、撹拌を行いながら60℃で3時間重合を行った。さらに温度を70℃に上げて5時間重合を行った。重合反応液をエバポレータで濃縮したのちに、ヘキサンで再沈を行った。得られたポリメチルアクリレート(PMA)のGPC測定を行った結果、数平均分子量(Mn)が33800g/mol、分子量分布(Mw/Mn)は1.71であった。
(14)ポリエチルアクリレート(PEA); メチルアクリレート66.7gの代わりにモレキュラーシーブ(4A)と接触させたエチルアクリレート(東京化成工業株式会社)66.7gを用いた以外は同様の操作を行いポリエチルアクリレートを得た。得られたポリエチルアクリレート(PEA)のGPC測定を行った結果、数平均分子量(Mn)が32000g/mol、分子量分布(Mw/Mn)は1.85であった。
【0071】
(15)ポリメチルメタクリレート−b−ポリn−ブチルアクリレート−b−ポリメチルメタクリレート(PMMA−b−PnBA−b−PMMA);
(15−1)1Lの三口フラスコに三方コックを取り付けて内部を脱気し、乾燥窒素で置換した。そこに、水素化カルシウム上から蒸留したトルエン(キシダ化学株式会社)400gと、水素化カルシウム上から減圧蒸留したN,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン(アルドリッチ社製)0.94mLと、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム(日本アルキルアルミ社製)11mmolを含有するトルエン溶液18mLとを室温にて加え、さらにsec−ブチルリチウム(アジアリチウム社製)の1mmolを含有するシクロヘキサン溶液0.8mLを加えた。次に、モレキュラーシーブ(4A)に接触させたメタクリル酸メチル(株式会社クラレ)7.8mL(73.6mmol)を前記三口フラスコにさらに加えた。この時反応液は黄色に着色した。25℃で1時間撹拌を続けると反応液は無色に変化した。系内から反応液を少量抜き出しサンプリングを行ったところ、数平均分子量は9600g/molであった。
(15−2)続いて、反応液が入った前記三口フラスコを−30℃に調節した冷却バスに浸漬して冷却し、モレキュラーシーブ(4A)に接触させたアクリル酸n−ブチル(東京化成工業株式会社)55.2mL(385mmol)を4時間かけて滴下し反応させた。アクリル酸n−ブチルを滴下した瞬間に系は黄色に着色するが、即座に無色に変化した。滴下終了後、系内から反応液を少量抜き出しサンプリングを行ったところ、数平均分子量は69800g/molであった。
(15−3)さらにメタクリル酸メチル7.8mLを反応液に加えて室温で撹拌し、反応させた。系は当初黄色に着色していたが、室温で10時間撹拌すると無色となった。この時点で、脱気したメタノール1mLを反応液に加えて重合を停止した。反応停止後の数平均分子量は79200g/molであった。
(15−4)反応液に水を加えて分液洗浄した後、大過剰のメタノールに反応液を注ぎ込み、白色沈殿物を得た。得られた沈殿物をろ別し、50℃で一晩乾燥させてトリブロック共重合体を得た。得られたエラストマー状のトリブロック共重合体の一部を重クロロホルムに溶解させて、核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)(日本電子社製核磁気共鳴装置JNM−ECX400;溶媒は重クロロホルム)を行い、ポリメチルメタクリレート含量が23質量%である、ポリメチルメタクリレート−b−ポリn−ブチルアクリレート−b−ポリメチルメタクリレートのトリブロック共重合体であることを確認した。
【0072】
(参考製造例1)
3−エチル−1−ビニルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EVITFSI)の製造を以下に示す。
〔1〕1Lの三口フラスコにモレキュラーシーブ(4A)に接触させたシクロヘキサン(キシダ化学株式会社)375mL、及び1−ビニルイミダゾール78.8mLを加えた。この時、1−ビニルイミダゾールはシクロヘキサンとは混じりあわず2層状態であった。
〔2〕混合液を撹拌しながら、ブロモエタン195mLをゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温で24時間撹拌したのち、エバポレートしてシクロヘキサン、及び余剰のブロモエタンを留去した。ここに過剰量のアセトンを加えた後、冷凍庫(−20℃)内に静置して生成させた白色粉末をろ別し乾燥させて3−エチル−1−ビニルイミダゾリウムブロマイド(EVIBr)120gを得た。
〔3〕1Lの三口フラスコにEVIBr52.3g、蒸留水140mLを仕込み溶解させた。激しく撹拌を行いながら、ここにリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド73.7gを蒸留水370mLに溶解させた水溶液をゆっくりと滴下した。反応が進行するのに従って、系は均一から2層状態へと変化した。2層状態のまま室温で24時間撹拌を継続した。
〔4〕2層のうち、水層を除去した。残った水に不溶の層を3回水洗した後、真空乾燥してEVITFSI 75gを得た。
【0073】
(参考製造例2)
3−(1−アクリロイルオキシヘキシル)−1−エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Ac−HEITFSI)の製造を以下に示す。
〔1〕300mLの三口フラスコにベンゾフェノエンケチル上から蒸留したテトラヒドロフラン(THF:和光純薬工業株式会社)100mL、6−ブロモ−1−ヘキサノール18.1mL、トリエチルアミン23.1mLを仕込んだ。反応容器を0℃に冷却し、アクリル酸クロライドのTHF溶液(アクリル酸クロライド13.5mLをTHF100mLに溶解)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、反応容器を室温に戻しさらに24時間撹拌をおこなった。
〔2〕反応系内に、飽和重曹水溶液10mLを加えて反応を停止し、次いでエバポレートによりTHFを留去した。得られた組成物をジエチルエーテルに溶解させて水で4回洗浄を行った。得られた組成物をヘキサン/酢酸エチル混合溶媒を用いてシリカゲルカラムにより精製して6−ブロモヘキシルアクリレート17gを得た。
〔3〕前記〔2〕で得た6−ブロモヘキシルアクリレート16.8g、エタノール50mLを200mLの三口フラスコに仕込み溶解させた。ここに1−エチルイミダゾール10.3gをゆっくりと滴下し、そのまま室温で24時間反応させた。24時間後に1−エチルイミダゾール3g、48時間後にさらに1−エチルイミダゾール3gを追加添加し、室温で120時間反応させた。反応液からエバポレートによりエタノールを留去した後、大過剰のジエチルエーテル中に析出させて回収して3−(1−アクリロイルオキシヘキシル)−1−エチルイミダゾリウムブロマイド(Ac−HEIBr)13gを得た。
〔4〕前記〔3〕で得たAc−HEIBr 13g、及び蒸留水10mLを100mL三口フラスコに仕込んで溶解させた。激しく撹拌を行いながら、ここにリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド11.6gを蒸留水50mLに溶解させた水溶液を滴下した。反応の進行に伴い系は均一から2層状態に変化した。このまま撹拌を48時間継続した。反応系にジクロロメタンを加えて撹拌した後、水層を除去し、さらに水で3回洗浄した。エバポレートによりジクロロメタンを留去してAc−HEITFSI 14gを得た。
【0074】
(イオン伝導率の評価)
イオン伝導率はインピーダンスアナライザ(BAS社製「IM−6」)を用い、交流4端子法を用いて行った。温度25℃、周波数5kHzにおけるインピーダンスからイオン伝導率を算出した。
【0075】
(変形センサの応答感度の測定)
変形センサの応答感度は、一定変位を与えたときに発生した電圧と定義する。15mm×5mmの大きさにカットしたサンプルについて、長さ方向に5mmを金製電極で挟み、変形センサ長で10mm分を空気中に出して測定セルとした。金製電極を電圧計(キーエンス社製「NR−ST04」)に接続した。この状態で変位を与えた時に発生した電圧をデータロガーで測定した。なおこの時、電極固定端から5mmの場所の変位量をレーザー変位計(キーエンス社製「LK−G155」)を用いて同時に測定した。センサの応答感度は、発生電圧を変位量で除して求めた。
【0076】
(実施例1)
イオン伝導性硬化性組成物(1)、及びそれを硬化して得られる高分子固体電解質(1)の製造を以下に示す。
重合性基を有するイオン液体としてEVITFSI 0.7g、架橋剤として1,6−ヘキサンジオールジアクリレート0.1g、PMMA 0.2gをガラス容器に取り、十分に溶解させた。次に、光重合開始剤として1―ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン0.05gを加えて均一に溶解させてイオン伝導性硬化性組成物(1)を得た。次いでイオン伝導性硬化性組成物(1)を厚み50μmの型枠に流し込んだ。この状態でUV照射機(東芝ライテック株式会社製「トスキュア410」)を用いて1分間紫外光を照射して硬化させて高分子固体電解質(1)を得た。
【0077】
イオン伝導性硬化性組成物(1)の原材料を表1に示す。また、高分子固体電解質(1)のイオン伝導率を表3に示す。
【0078】
(実施例2〜8)
イオン伝導性硬化性組成物(2)〜(8)、及びそれらを硬化して得られる高分子固体電解質(2)〜(8)の製造を以下に示す。
架橋剤の量、また異なる添加剤を用いた以外は、実施例1と同様にイオン伝導性硬化性組成物(2)〜(8)を得た。また、イオン伝導性硬化性組成物(2)〜(8)を夫々同様の方法で硬化させて高分子固体電解質(2)〜(8)を得た。
【0079】
イオン伝導性硬化性組成物(2)〜(8)の各原材料を表1に示す。また、高分子固体電解質(2)〜(8)のイオン伝導率を表3に示す。
【0080】
(実施例9)
イオン伝導性硬化性組成物(9)及びそれを硬化して得られる高分子固体電解質(9)の製造を以下に示す。
実施例1において、重合性基を有するイオン液体としてEVITFSIの代わりにAc−HEITFSIを用いる以外は同様の操作を行ってイオン伝導性硬化性組成物(9)を得た。また実施例1と同様の方法で硬化させることによって高分子固体電解質(9)を得た。
【0081】
イオン伝導性硬化性組成物(9)の原材料を表1に示す。また、高分子固体電解質(9)のイオン伝導率を表3に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1中、EVITFSIは3−エチル−1−ビニルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、Ac−HEITFSIは3−(1−アクリロイルオキシヘキシル)−1−エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、HDDAは1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、イルガキュア184は1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、PMMAはポリメチルメタクリレート、PMAはポリメチルアクリレート、PEAはポリエチルアクリレート、アクリル系ブロック共重合体は、ポリメチルメタクリレート−b−ポリn−ブチルアクリレート−b−ポリメチルメタクリレートである。
【0084】
(比較例1)
実施例1において、EVITFSIの代わりに、重合性基を有していない3−エチル−1−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(EMITFSI)を用いた以外は同様の操作を行い組成物を得た。その組成物について実施例1と同様の方法で硬化を行ったところ部分的な硬化が観測されたものの液状物が染み出しており、かつ脆いため高分子固体電解質として用いるのは困難であった。
【0085】
(比較例2)
実施例1において、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを用いなかった以外は同様の操作で組成物を得た。その組成物について実施例1と同様の方法で硬化を行ったが粘ちょうな液状物となり高分子固体電解質としては機能しなかった。
【0086】
比較例1及び比較例2で用いた各原材料を表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
表2中、EMITFSIは3−エチル−1−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである。
【0089】
【表3】

【0090】
表3に示されるように、本発明のイオン伝導性硬化性組成物(実施例1〜9)は紫外光照射により硬化し、また硬化物はイオン伝導性を示し、高分子固体電解質として機能することが明らかとなった。
【0091】
一方で本発明の適用外である組成物(比較例1及び2)は、紫外光を照射しても硬化せず、したがって高分子固体電解質としては使用できないことが明らかとなった。
【0092】
(実施例10)
電極用のイオン伝導性硬化性組成物及びそれを硬化して得られる高分子トランスデューサ用電極の製造を以下に示す。
重合性基を有するイオン液体としてEVITFSI 0.75g、架橋剤として1,6−ヘキサンジオールジアクリレート0.15g、PEA(ポリマ)0.1gをガラス容器にとり、十分に溶解させた。次に活物質として導電性カーボンブラック0.17gをガラス容器に加え、超音波洗浄機を用いて超音波を照射して導電性カーボンブラックを分散させた。ここに熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.01gを加えて全体を均一に混合して電極用硬化性組成物を得た。次いで電極用硬化性組成物を厚み50μmの型枠に流し込んだ。この状態で100℃にセットしたホットプレート上で30分間加熱することで高分子トランスデューサ用電極を得た。
【0093】
(実施例11)
本発明を適用する高分子トランスデューサの製造を以下に示す。
〔1〕シリコーン系離型剤により離型処理が施されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、厚み100μmの型枠を設置し、そこに実施例10で作製した電極用硬化性組成物を流し込んだ。この状態で100℃にセットしたホットプレート上で30分間加熱することで第一の電極層を得た。
〔2〕前記〔1〕において型枠の高さをさらに100μm増し、そこに実施例8で得られたイオン伝導性硬化性組成物を流し込んだ。この状態でUV照射機(東芝ライテック社製「トスキュア410」)を用いて1分間紫外光を照射して硬化させ、第一の電極と高分子固体電解質の積層体を得た。
〔3〕前記〔2〕において型枠の高さをさらに100μm増し、そこに実施例10で得られた電極用硬化性組成物を流し込んだ。この状態で型枠の上部に離型処理を施したPETフィルムを密着させ、粘着テープにより型枠と養生接着し、液状の電極用硬化性組成物が漏れないようにした。スライドガラス側100℃にセットしたホットプレートに向けて設置し、30分間加熱することで第一電極−高分子固体電解質−第二電極からなる高分子トランスデューサを得た。
〔4〕当該高分子トランスデューサについて、変形センサの応答感度を測定したところ、0.56mV/mmであった。また、得られた高分子トランスデューサからの液体の滲み出しなどは見られなかった。
【0094】
(比較例3)
比較例として、ポリフッ化ビニリデン−ran−ヘキサフルオロプロピレンランダム共重合体(P(VDF/HFP))を高分子固体電解質及び電極に用いた高分子トランスデューサの製造を以下に示す。
〔1〕P(VDF/HFP)(アルケマ社製「カイナー2801」)10gを乳鉢に測りとり、ここにEMITFSI 20gを加えて、よく乳棒で混ぜ合わせてスラリー状の混合物を得た。得られた混合物を130℃/1時間加熱することにより、混合物は透明・均一の液状となった。得られた液状物を室温で冷却することにより無色透明なゲル状の高分子固体電解質を得た。
〔2〕乳鉢に導電性カーボンブラック2.23g、P(VDF/HFP)2g、EMITFSI10gを測りとり、よく乳棒で混ぜ合わせて塊状の電極材料とした。
〔3〕前記〔1〕及び〔2〕で得られた高分子固体電解質、及び電極材料を、それぞれ厚みが100μmとなるように熱プレス(130℃/10kgf/cm)で成形した。次いで、得られた電極膜2枚で高分子固体電解質1枚を挟み、この状態で、300μmのスペーサーを用いて熱プレス(同条件)を行って接着させ、第一電極−高分子固体電解質−第二電極からなる高分子トランスデューサを得た。
〔4〕当該高分子トランスデューサについて、変形センサの応答感度を測定したところ、0.07mV/mmであった。また、得られた高分子トランスデューサからの液体の滲み出しが見られた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のイオン伝導性硬化性組成物は、その硬化物を高分子固体電解質及び電極として利用することができ、それらで形成した高分子トランスデューサを医療機器、マイクロマシン、産業用ロボットなどの分野で汎用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性基を有するイオン液体と、前記重合性基に架橋反応する多官能基を有する架橋剤とを、含有していることを特徴とするイオン伝導性硬化性組成物。
【請求項2】
光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤を含有していることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性硬化性組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリレート化合物、スチレン化合物、ビニル化合物、α‐オレフィン化合物、共役ジエン化合物及び非共役ポリエン化合物から選ばれる少なくとも1種であって、前記重合性基及び/又は前記架橋剤と共重合する重合性化合物を含有していることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性硬化性組成物。
【請求項4】
前記イオン液体が、下記化学式(I)及び/又は(II)
【化1】

【化2】

(式(I)及び(II)中、前記重合性基を構成するR〜Rは、夫々独立して水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又は1〜3個の置換基を有していてもよい炭素数6〜14のアリール基であり、Rは、前記重合性基とカチオンであるY若しくはアニオンであるYとの連結基又は直接結合であり、前記連結基が炭素数1〜10のアルキレン基、1〜3個の置換基を有していてもよい炭素数6〜14のアリーレン基及び炭素数2〜50の(ポリ)アルキレングリコール基から選ばれる基である)
で示されることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性硬化性組成物。
【請求項5】
前記イオン液体が、3−エチル−1−ビニルイミダゾリウムカチオン、3−ブチル−1−ビニルイミダゾリウムカチオン及び3−エチル−2−メチル−1−ビニルイミダゾリウムカチオンから選ばれるカチオンと、
ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、トリフルオロ酢酸イオン及びトリフルオロメタンスルホン酸アニオンから選ばれるアニオンとの塩であることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性硬化性組成物。
【請求項6】
前記イオン液体が、下記化学式(III)
【化3】

(式中、Rは水素原子又はメチル基である)で示される前記重合性基を有しており、その(メタ)アクリレート基に、直接又は連結基を介して結合するイミダゾリウムカチオンと、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、トリフルオロ酢酸アニオン及びトリフルオロメタンスルホン酸アニオンから選ばれるアニオンとの塩であることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性硬化性組成物。
【請求項7】
活物質を含有していることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1に記載のイオン伝導性硬化性組成物が硬化した高分子固体電解質。
【請求項9】
請求項7に記載のイオン伝導性硬化性組成物が硬化した高分子トランスデューサ用電極。
【請求項10】
少なくとも1つの高分子固体電解質が、少なくとも一対の電極に挟まれた高分子トランスデューサであって、前記高分子固体電解質と、活物質が含有している前記電極との少なくとも何れかが、重合性基を有するイオン液体と前記重合性基に架橋反応する多官能基を有する架橋剤とを含有しているイオン伝導性硬化性組成物の硬化物であることを特徴とする高分子トランスデューサ。

【公開番号】特開2011−213862(P2011−213862A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83324(P2010−83324)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】