説明

イオン分析装置

【課題】リアルタイムのイオン分析が可能であって高効率かつ安価なイオン分析装置を提供する。
【解決手段】イオン分析装置1は、イオン発生源9から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析するトムソンパラボラ型のものであって、真空容器10の内部に配置されており、コリメータ11、電磁場発生部12、金属箔13a,13b、プラスチックシンチレータ14、光フィルタ15、光検出部16、分析部17、制御部18および表示部19を備える。プラスチックシンチレータ14は、電磁場発生部12により形成された電磁場により偏向され金属箔13a,13bを通過して到達したイオンを主面に入射して、そのイオン入射位置から光を発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析するトムソンパラボラ型のイオン分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トムソンパラボラ型のイオン分析装置は、イオン発生源から発生したイオンのうち特定方向に飛行するイオンを電磁場に通過させることで該イオンを偏向させて、その偏向後のイオンの到達位置を検出することで、該イオンの比電荷および運動エネルギを分析することができる。
【0003】
非特許文献1に記載されたイオン分析装置は、電磁場により偏向された後のイオンの到達位置の分布を検出する為に固体飛跡検出素子を用いている。ここで用いられる固体飛跡検出素子は、プラスチックの平板状部材であり、高速イオンの入射により高分子の鎖が切れ、これによりイオン入射位置を記録する。この固体飛跡検出素子を数時間に亘って水酸化ナトリウム溶液中でエッチングすると、イオン入射に伴い開けられた穴が拡大する。そして、エッチング後の固体飛跡検出素子における穴の分布を顕微鏡下で観測することで、電磁場により偏向された後のイオンが固体飛跡検出素子に到達した位置の分布を検出することができ、ひいては、イオンの比電荷および運動エネルギを分析することができる。
【0004】
非特許文献2に記載されたイオン分析装置は、電磁場により偏向された後のイオンの到達位置の分布を検出する為にマイクロチャネルプレート(以下「MCP」という。)を用いている。MCPは、電磁場により偏向された後のイオンの到達位置をリアルタイムに検出することができ、ひいては、イオンの比電荷および運動エネルギをリアルタイムに分析することができる。
【非特許文献1】R. Weber, et al., "Thomson parabola time-of-flight ionspectrometer", Rev. Sci. Instrum., Vol.57, No.7, pp.1251-1253 (1986).
【非特許文献2】W. Mroz, et al., "Observation of different Ta and Pt ion groupsproduced by laser radiation with the intensities of Iλ2〜1015 Wcm-2μm2", Rev.Sci. Instrum., Vol.69, No.3, pp.1349-1352 (1998).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載されたイオン分析装置は、固体飛跡検出素子のエッチングおよび顕微鏡下の観測が必要であることから、リアルタイムのイオン分析が不可能であり、非効率である。これに対して、非特許文献2に記載されたイオン分析装置は、MCPを用いてリアルタイムのイオン分析が可能であり、この点では効率が高い。
【0006】
MCPは気圧10−5Pa以下の高真空環境下で用いられる必要がある。しかし、イオン発生源におけるイオンの発生の為にレーザショットが用いられるレーザプラズマ実験の場合には、そのレーザショットに伴って多量のガスがイオン発生源から放出されるので、MCPの使用は困難である。さらに、MCPは高価であるという問題点をも有している。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、リアルタイムのイオン分析が可能であって高効率かつ安価なイオン分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るイオン分析装置は、イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析するトムソンパラボラ型のイオン分析装置であって、(1) イオン発生源から発生したイオンのうち特定方向に飛行するイオンを選択的に出力するコリメータと、(2) 上記特定方向に対して各々垂直であって互いに平行な電場および磁場を形成し、コリメータから出力されたイオンを当該電磁場に通過させ、その電磁場によりイオンを偏向させる電磁場発生部と、(3) 上記特定方向に対して垂直な主面を有し、電磁場発生部により形成された電磁場を経て到達したイオンを主面に入射して、そのイオン入射位置から光を発生するプラスチックシンチレータと、(4) プラスチックシンチレータから発生した光を検出する光検出部と、(5) 光検出部による検出結果に基づいて、イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析する分析部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
このイオン分析装置では、イオン発生源から発生してコリメータを経たイオンは、電磁場発生部により電磁場が形成された空間を飛行する間に電場および磁場それぞれにより偏向されて、プラスチックシンチレータの主面に入射する。プラスチックシンチレータへのイオン入射に伴い、そのイオン入射位置から光が発生し、その光は光検出部により検出される。そして、分析部により、この光検出部による検出結果に基づいて、イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギが分析される。
【0010】
このように、本発明に係るイオン分析装置は、イオン発生源から発生し電磁場発生部を経て到達したイオンを検出する為に、高真空を必要とし高価なMCPでは無く、高真空を必要とせず安価なプラスチックシンチレータを用いている。また、このイオン分析装置は、イオン入射に伴ってプラスチックシンチレータで発生した光を光検出部により検出し、その検出結果に基づいて分析部によりイオンの比電荷および運動エネルギを分析することができる。したがって、このイオン分析装置は、リアルタイムのイオン分析が可能であって高効率かつ安価なものとなる。
【0011】
本発明に係るイオン分析装置は、電磁場発生部とプラスチックシンチレータとの間に設けられ、プラスチックシンチレータへのノイズ光の入射を阻止し、イオンを通過させる金属箔を更に備えるのが好適である。この場合には、プラスチックシンチレータへのノイズ光(例えば、イオン発生源に照射されたレーザ光の散乱成分)の入射を金属箔(例えばアルミニウム箔)により阻止することができる。この金属箔は、1枚であってもよいが、極薄の金属箔に微小な孔が存在する可能性があって該孔をノイズ光が通過する危険があることから、2枚(または3枚以上)であるのが好ましい。
【0012】
本発明に係るイオン分析装置は、プラスチックシンチレータと光検出部との間に設けられ、プラスチックシンチレータで発生した光を選択的に光検出部へ透過させる光フィルタを更に備えるのが好適である。この場合には、光検出器へのノイズ光(例えば、イオン発生源に照射されたレーザ光の散乱成分)の入射を光フィルタにより阻止することができる。
【0013】
本発明に係るイオン分析装置は、分析部による分析結果に基づいてイオン発生源におけるイオン発生を制御する制御部を更に備えるのが好適である。この場合には、分析部による分析結果に基づいてイオン発生源におけるイオン発生が制御部により制御されるので、常にイオン発生源におけるイオン発生を最適状態に維持することができる。
【0014】
光検出部は、プラスチックシンチレータにおける光発生分布を撮像するCCDカメラを含み、分析部は、CCDカメラにより撮像された光発生分布に基づいて、イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析するのが好適である。或いは、光検出部は、プラスチックシンチレータにおける光発生分布の重心位置を検出する位置検出型素子を含み、分析部は、位置検出型素子により検出された重心位置に基づいて、イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析するのも好適である。或いは、光検出部は、プラスチックシンチレータにおける個々の位置で発生する光を検出する1個または複数個の受光素子を含み、分析部は、受光素子による検出結果に基づいて、イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析するのも好適である。また、光検出部は、イオン発生源におけるイオン発生の時刻から一定時間経過後の所定期間に限って光を検出するゲート機能を有するのが好適であり、この場合には、X線の影響を除去することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リアルタイムのイオン分析が可能であって高効率かつ安価なイオン分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本実施形態に係るイオン分析装置1を含む実験系の構成図である。イオン分析装置1は、イオン発生源9から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析するトムソンパラボラ型のものであって、コリメータ11、電磁場発生部12、金属箔13a,13b、プラスチックシンチレータ14、光フィルタ15、光検出部16、分析部17および表示部19を備える。また、図1に示される実験系は、このイオン分析装置1に加えて、更に、レーザ装置6、パルス波形調整部7、集光光学系8、イオン発生源9、真空容器10および制御部18をも含む。
【0018】
真空容器10の内部には、コリメータ11、電磁場発生部12、金属箔13a,13b、プラスチックシンチレータ14、光フィルタ15および光検出部16が配置され、これらに加えて集光光学系8およびイオン発生源9が配置される。また、真空容器10の外部には、分析部17、制御部18および表示部19が配置され、これらに加えてレーザ光源6およびパルス波形調整部7が配置される。また、真空容器10には、真空容器10の内部を排気する排気手段が接続されている。
【0019】
レーザ光源6は、イオン発生源9に照射されるべき高エネルギ(例えば数TW)のパルスレーザ光を出力する。パルス波形調整部7は、レーザ光源6から出力されたレーザ光のパルス波形を制御して出力する。なお、レーザ光のパルス波形を制御する技術としては、特許第3713350号公報に開示されたものが知られている。真空容器10内の集光光学系8は、パルス波形調整部7から出力されたレーザ光を集光してイオン発生源9へ照射する。そして、イオン発生源9は、このレーザショットに応じてイオンを発生する。
【0020】
コリメータ11は、開口を有していて、イオン発生源9から発生したイオンのうち該開口を通過するもの(すなわち、特定方向に飛行するイオン)を選択的に電磁場発生部12へ出力する。電磁場発生部12は、該特定方向(すなわち、入力されるイオンの飛行方向)に対して各々垂直であって互いに平行な電場および磁場を形成するものであり、コリメータ11から出力されたイオンを当該電磁場に通過させ、その電磁場によりイオンを偏向させる。このイオンの偏向については後に図2を用いて更に説明する。
【0021】
金属箔13a,13bは、電磁場発生部12とプラスチックシンチレータ14との間に設けられ、プラスチックシンチレータ14へのノイズ光(例えば、イオン発生源9に照射されたレーザ光の散乱成分)の入射を阻止し、イオンを通過させるものである。電磁場発生部12とプラスチックシンチレータ14との間に1枚の金属箔が設けられてもよいが、極薄の金属箔に微小な孔が存在する可能性があって該孔をノイズ光が通過する危険があることから、2枚(または3枚以上)の金属箔が設けられるのが好ましい。これら金属箔13a,13bは、例えば、厚さ0.8μmのアルミニウム箔が用いられる。アルミニウム箔の阻止能は、その膜厚に依存しており、厚さ0.8μmであるときには、陽子に対して100keV程度であり、重陽子に対して200keV程度である。
【0022】
プラスチックシンチレータ14は、上記特定方向(すなわち、電磁場発生部12に入力されるイオンの飛行方向)に対して垂直な主面を有している。プラスチックシンチレータ14は、電磁場発生部12により形成された電磁場により偏向され金属箔13a,13bを通過して到達したイオンを主面に入射して、そのイオン入射位置から光を発生する。
【0023】
一般に、無機結晶(NaI、LiI、CsI、等)からなるシンチレータの蛍光減衰時間は0.2μs以上である。これに対して、有機蛍光物質(ナフタレン、アントラセン、p-ターフェニル、PBD、等)からなるプラスチックシンチレータの蛍光減衰時間は1ns〜数十nsの程度であって短い。本実施形態に係るイオン分析装置1は、このように蛍光減衰時間が短いプラスチックシンチレータ14を用いることにより、後述するようにX線入射の影響を除去することができる。
【0024】
プラスチックシンチレータ14は、例えば、NE TECHNOLOGY社製のNE102Aであって、厚さ0.1mmである。このように厚みを薄くすることで、X線に対する感度を抑制することができる。また、荷電粒子の入射に対しては、プラスチックシンチレータ14内部での100eVのエネルギ損失毎に1個の光子が放出される。トムソンパラボラ型のイオン分析装置1において、プラスチックシンチレータ14に入射するイオンのエネルギとして100keV〜10MeV程度が想定され、したがって、千個〜百万個程度の光子の放出が期待される。
【0025】
光フィルタ15は、プラスチックシンチレータ14と光検出部16との間に設けられ、プラスチックシンチレータ14で発生した光を選択的に光検出部16へ透過させ、光検出器16へのノイズ光(例えば、イオン発生源9に照射されたレーザ光の散乱成分)の入射を阻止する。例えば、レーザ光源6から出力されイオン発生源9に集光照射されるレーザ光の波長は800nmであり、イオン入射に伴ってプラスチックシンチレータ14で発生する光の波長は410nmである。
【0026】
光検出部16は、プラスチックシンチレータ14で発生し光フィルタ15を透過した光を検出する。この光検出部16は、イオン発生源9におけるイオン発生の時刻から一定時間経過後の所定期間に限って光を検出することができるゲート機能を有しているのが好適である。分析部17は、光検出部16による検出結果に基づいて、イオン発生源9から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析する。
【0027】
好適には、光検出部16は、プラスチックシンチレータ14における光発生分布を撮像するCCDカメラを含み、分析部17は、このCCDカメラにより撮像された光発生分布に基づいて、イオン発生源9から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析する。或いは、光検出部16は、プラスチックシンチレータ14における光発生分布の重心位置を検出する位置検出型素子(PSD)を含み、分析部17は、この位置検出型素子により検出された重心位置に基づいて、イオン発生源9から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析する。また、或いは、光検出部16は、プラスチックシンチレータ14における個々の位置で発生する光を検出する1個または複数個の受光素子(例えばPINフォトダイオード)を含み、分析部17は、この受光素子による検出結果に基づいて、イオン発生源9から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析する。
【0028】
制御部18は、分析部17による分析結果に基づいて、イオン発生源9におけるイオン発生を制御する。具体的には、制御部18は、パルス波形調整部7によるレーザ光のパルス波形の調整、集光光学系8によるイオン発生源9へのレーザ光の集光照射、および、イオン発生源9におけるレーザ光照射位置、の何れかを制御して、イオン発生源9におけるイオン発生を最適状態に維持する。また、表示部19は、分析部17による分析結果を表示する。
【0029】
図2は、本実施形態に係るイオン分析装置1に含まれるコリメータ11、電磁場発生部12およびプラスチックシンチレータ14の斜視図である。この図は、電磁場発生部12により形成される電磁場におけるイオンの偏向について説明するためのものであり、電磁場発生部12とプラスチックシンチレータ14との間に設けられる金属箔13a,13bについては図示が省略されている。また、この図には、説明の便宜の為にxyz直交座標系が示されている。z軸は、イオン発生源9から発生したイオンのうちコリメータ11の微小開口11aを通過したものの飛行方向(図中において一点鎖線で示す)に平行である。また、y軸は、電磁場発生部12により形成される電場Eおよび磁場Mの方向に平行である。
【0030】
電磁場発生部12は、電場Eを発生する手段として1対の電極121,122を含み、磁場Mを発生する手段として1対の磁石123,124を含む。1対の電極121,122それぞれは、xz平面に平行な主面を有する平板上のものであって、コリメータ11の開口11aを通過したイオンの飛行経路を互いに挟んで設けられていて、両者間に直流電圧が印加されることで、y方向の直流電場Eを形成する。1対の磁石123,124それぞれは、xz平面に平行な主面を有する平板上のものであって、コリメータ11の開口11aを通過したイオンの飛行経路を互いに挟んで設けられていて、y方向の直流磁場Mを形成する。磁石123,124それぞれは、永久磁石であってもよいし、電磁石であってもよい。なお、電場Eおよび磁場Mそれぞれは、イオンが飛行する時に印加されていればよく、パルスであってもよい。
【0031】
コリメータ11の開口11aを通過してz方向に飛行するイオンは、電磁場発生部12により電磁場が形成された空間を飛行する間に、電場Eおよび磁場Bそれぞれにより偏向されて、xy平面に平行なプラスチックシンチレータ14の主面に入射する(図中において破線で示す)。この偏向に際して、イオンは、電場Eにより比電荷(=イオン価数/イオン質量)に応じた量だけy方向の偏向を受け、また、磁場Mにより運動エネルギに応じた量だけx方向の偏向を受ける。このような偏向を受けたイオンは、プラスチックシンチレータ14の主面において、比電荷に応じて異なる放物線上の何れかの位置に到達する。また、或る比電荷に対応した放物線上におけるイオン入射位置は、イオンの運動エネルギによって異なる。したがって、プラスチックシンチレータ14の主面におけるイオン入射位置(イオン入射に応じて光が発生した位置)を検出することで、イオン発生源9から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析することができる。
【0032】
本実施形態に係るイオン分析装置1は、イオン発生源9から発生し電磁場発生部12を経て到達したイオンを検出する為に、高真空を必要とし高価なMCPでは無く、高真空を必要せず安価なプラスチックシンチレータ14を用いている。また、このイオン分析装置1は、イオン入射に伴ってプラスチックシンチレータ14で発生した光を光検出部16により検出し、その検出結果に基づいて分析部17により直ちにイオンの比電荷および運動エネルギを分析することができる。したがって、このイオン分析装置1は、リアルタイムのイオン分析が可能であって高効率かつ安価なものとなる。
【0033】
図3は、本実施形態に係るイオン分析装置1において光検出部16として複数個の受光素子を用いた場合の電磁場発生部12、プラスチックシンチレータ14および光検出部16(受光素子16〜16)の斜視図である。この図では、分析部17,制御部18および表示部19がブロック図として示されている一方、電磁場発生部12とプラスチックシンチレータ14との間に設けられる金属箔13a,13bについては図示が省略されており、また、プラスチックシンチレータ14と光検出器16の間に設けられる光フィルタ15ついても図示が省略されている。また、この図にも、説明の便宜の為にxyz直交座標系が示されている。
【0034】
電磁場発生部12により偏向されたイオンがプラスチックシンチレータ14の主面に到達して描く放物線は、イオン種に応じて計算により正確に求めることができる。したがって、イオン入射に伴ってプラスチックシンチレータ14において光が発生し得る位置に受光素子16〜16を配置することができる。ここで、Nは2以上の整数である。或いは、イオン入射に伴ってプラスチックシンチレータ14において光が発生し得る位置に光ファイバの一方の端面を配置し、その光ファイバの他方の端面側に受光素子を設けてもよく、この場合には、高い位置分解能とすることが可能である。
【0035】
分析部17は、これらの受光素子16〜16による検出結果に基づいて、イオン発生源9から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析する。このとき、分析部17は、ソフトウェアによる解析によりイオンの比電荷および運動エネルギを分析してもよいが、ハードウェアによる処理によりイオンの比電荷および運動エネルギを分析してもよい。
【0036】
図4は、本実施形態に係るイオン分析装置1の分析部17のハードウェア構成例を示す図である。この図に示される分析部17は、図3に示されたように光検出部16がN個の受光素子16〜16を含む場合に用いられ得るものである。各受光素子16の出力端子と接地電位との間に、各々抵抗値Rを有するN個の抵抗器が直列的に接続されている。nは1以上N以下の整数である。各受光素子16の出力端子から出力される電流をj(n)と表す。各受光素子16の出力端子の出力電位をV(n)と表す。また、各受光素子16の出力端子と接地電位との間の抵抗器列において抵抗分割比「(N−n):n」の位置における出力電位をV(n)と表す。
【0037】
各受光素子16について、出力電位V(n)は下記(1)式で表され、出力電位V(n)は下記(2)式で表される。出力電位V(n)の総和と出力電位V(n)の総和との比は下記(3)式で表される。この(3)式は、プラスチックシンチレータ14における放物線上の電流発生分布の重心位置(すなわち、イオンの運動エネルギ分布の重心)を表している。
【0038】
【数1】

【0039】
【数2】

【0040】
【数3】

【0041】
上記のような図3および図4に示したようなハードウェア構成を採用することにより、イオンの比電荷および運動エネルギをリアルタイムで高速に分析することができ、更には、制御部18によるイオン発生の制御も高速に行うことができる。なお、イオン数、平均運動エネルギおよびイオン種の分布などの何れか又は組み合わせの情報に基づいて、制御部18によるイオン発生の制御を行うこともできるが、これらの情報もハードウェア構成により高速に取得することができる。また、光検出部16が位置検出型素子(PSD)を含む場合も同様である。
【0042】
図5は、本実施形態に係るイオン分析装置1の動作の1タイミング例を示す図である。同図(a)は、レーザ光源6から出力されたレーザ光がイオン発生源9に集光照射されるタイミングを示す。同図(b)は、レーザ光照射に伴ってイオン発生源9から発生したイオンおよびノイズ光がプラスチックシンチレータ14に到達するタイミングを示す。また、同図(c)は、イオン入射に伴ってプラスチックシンチレータ14から発生した光を光検出部16が検出するタイミングを示す。
【0043】
プラスチックシンチレータ14は、イオンが入射したときに発光するだけでなく、レーザ光源6からのノイズ光や、例えば高速電子が何らかの部材に衝突することで発生するX線が入射したときにも発光する。ノイズ光やX線の入射に伴ってプラスチックシンチレータ14で発生する光は、イオン入射に伴ってプラスチックシンチレータ14で発生する光に対して背景ノイズとなるので、以下のようにして除去することが望ましい。
【0044】
運動エネルギ10MeVの陽子の飛行速度は光速の10分の1程度であり、一般に分析対象となるイオンの飛行速度は更に遅い。一方、X線の速度は光速である。イオン発生源9とプラスチックシンチレータ14との間の距離を9cm程度とすると、イオン発生源9で発生したイオンがプラスチックシンチレータ14に到達する時刻と、イオン発生と同時に発生したX線がプラスチックシンチレータ14に到達する時刻とは、3ns程度の時間差がある(図5(b))。プラスチックシンチレータ14の蛍光減衰時間は2ns程度であるから、X線入射に伴うプラスチックシンチレータ14での発光と、イオン入射に伴うプラスチックシンチレータ14での発光とは、時間的に分離されている。
【0045】
したがって、光検出部16は、時間的なゲート機能を有していて、図5に示されるように、イオン発生源9におけるイオン発生の時刻から一定時間経過後の所定期間(イオン入射に伴うプラスチックシンチレータ14での発光の期間)に限って光を検出することで、X線入射の影響を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態に係るイオン分析装置1を含む実験系の構成図である。
【図2】本実施形態に係るイオン分析装置1に含まれるコリメータ11、電磁場発生部12およびプラスチックシンチレータ14の斜視図である。
【図3】本実施形態に係るイオン分析装置1において光検出部16として複数個の受光素子を用いた場合の発生部12、プラスチックシンチレータ14および光検出部16の斜視図である。
【図4】本実施形態に係るイオン分析装置1の分析部17のハードウェア構成例を示す図である。
【図5】本実施形態に係るイオン分析装置1の動作の1タイミング例を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1…イオン分析装置、6…レーザ光源、7…パルス波形調整部、8…集光光学系、9…イオン発生源、10…真空容器、11…コリメータ、12…電磁場発生部、13a,13b…金属箔、14…プラスチックシンチレータ、15…光フィルタ、16…光検出部、17…分析部、18…制御部、19…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析するトムソンパラボラ型のイオン分析装置であって、
前記イオン発生源から発生したイオンのうち特定方向に飛行するイオンを選択的に出力するコリメータと、
前記特定方向に対して各々垂直であって互いに平行な電場および磁場を形成し、前記コリメータから出力されたイオンを当該電磁場に通過させ、その電磁場により前記イオンを偏向させる電磁場発生部と、
前記特定方向に対して垂直な主面を有し、前記電磁場発生部により形成された電磁場を経て到達したイオンを前記主面に入射して、そのイオン入射位置から光を発生するプラスチックシンチレータと、
前記プラスチックシンチレータから発生した光を検出する光検出部と、
前記光検出部による検出結果に基づいて、前記イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析する分析部と、
を備えることを特徴とするイオン分析装置。
【請求項2】
前記電磁場発生部と前記プラスチックシンチレータとの間に設けられ、前記プラスチックシンチレータへのノイズ光の入射を阻止し、イオンを通過させる金属箔を更に備えることを特徴とする請求項1記載のイオン分析装置。
【請求項3】
前記プラスチックシンチレータと前記光検出部との間に設けられ、前記プラスチックシンチレータで発生した光を選択的に前記光検出部へ透過させる光フィルタを更に備えることを特徴とする請求項1記載のイオン分析装置。
【請求項4】
前記分析部による分析結果に基づいて前記イオン発生源におけるイオン発生を制御する制御部を更に備えることを特徴とする請求項1記載のイオン分析装置。
【請求項5】
前記光検出部が、前記プラスチックシンチレータにおける光発生分布を撮像するCCDカメラを含み、
前記分析部が、前記CCDカメラにより撮像された光発生分布に基づいて、前記イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析する、
ことを特徴とする請求項1記載のイオン分析装置。
【請求項6】
前記光検出部が、前記プラスチックシンチレータにおける光発生分布の重心位置を検出する位置検出型素子を含み、
前記分析部が、前記位置検出型素子により検出された重心位置に基づいて、前記イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析する、
ことを特徴とする請求項1記載のイオン分析装置。
【請求項7】
前記光検出部が、前記プラスチックシンチレータにおける個々の位置で発生する光を検出する1個または複数個の受光素子を含み、
前記分析部が、前記受光素子による検出結果に基づいて、前記イオン発生源から発生したイオンの比電荷および運動エネルギを分析する、
ことを特徴とする請求項1記載のイオン分析装置。
【請求項8】
前記光検出部が、前記イオン発生源におけるイオン発生の時刻から一定時間経過後の所定期間に限って光を検出するゲート機能を有する、ことを特徴とする請求項1記載のイオン分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−157581(P2007−157581A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353493(P2005−353493)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人 科学技術振興機構、地域結集型共同研究事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503304577)財団法人光科学技術研究振興財団 (11)
【Fターム(参考)】