説明

イオン化式ガスセンサおよびガス検知システム

【課題】 放射線源を使用することなく、特定の金属ガスを検出することのできるイオン化式ガスセンサおよびガス検知システムを提供すること。
【解決手段】 イオン化式ガスセンサは、加熱されて固体の酸化物が生成される金属ガスを検知対象ガスとし、被検査ガスが加熱されて導入される導電性のチャンバと、チャンバ内に存在する空気によってオゾンを発生させるオゾン発生手段と、チャンバ内において生ずるイオン電流を検出する集電極と、チャンバと集電極との間に電位差を与える電圧印加手段とを具えてなり、チャンバ内の空気によってオゾンが発生することにより生ずるイオン電流が前記検知対象ガスに係るガス粒子の存在により減少するその変化量に応じてガス濃度が検出される。ガス検知システムは、上記ガスセンサと、熱分解器と、ガス導入手段とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化式ガスセンサおよび当該イオン化式ガスセンサを具えてなるガス検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造プロセスにおける有害ガス成分を検出するためのガスセンサとして、放射線による気体の電離作用を利用したイオン化式ガスセンサが広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
イオン化式ガスセンサのある種のものは、図6に示すように、例えば板状の集電極65によって互いに気密に区画された、被検査ガスが導入される測定室63および環境条件の変化の影響を補償するための補償室64を有するチャンバ62を備え、測定室63内および補償室64内のそれぞれに例えばアメリシウム241などの放射線源66が配設されて構成された検知部61と、絶縁部材69を介してチャンバ62の壁を気密に貫通して外部に導出された集電極65の一端がオペアンプ73の非反転入力端子(Vin+ )に接続されると共にオペアンプ73の出力端子(Vout)が反転入力端子(Vin- )に接続されて負帰還がかけられた状態で構成された、いわゆる「高入力インピーダンス回路」により構成された増幅回路72およびCPU75を含む濃度算出部71とにより構成されている。図6における62Aはガス導入管、62Bはガス排出管である。
【0003】
このような構成のイオン化式ガスセンサ60においては、チャンバ62に適正な大きさの電圧が電圧印加手段68によって印加されると共に、放射線源66から放射された放射線(α線)によって測定室63内および補償室64内の空気が電離されて電離電流が生じており、例えば補償室64内において流れる電離電流の方向を逆さにして測定室63内において流れる電離電流と加算することにより、これらの電離電流が相殺されて検出される電流(出力)がゼロとなる状態、すなわち、測定室63と補償室64との間で平衡状態が維持された状態とされている。
而して、測定室63内に導入される被検査ガスに、例えば目的とする検知対象ガスについてのガス粒子が含まれている場合には、このガス粒子によって放射線が吸収されて測定室63の電離電流が減少して補償室64との平衡状態が崩れるので、測定室63の電離電流の変化量を検出することにより被検査ガス中に含まれる検知対象ガスの濃度が検出される。
【0004】
しかしながら、上記構成のイオン化式ガスセンサ60においては、測定室63および補償室64の各々に放射線源66を備えることが必須構成要件となっており、放射線源66の管理および取扱いには十分に注意を払うことが必要とされることから、放射能が低減されたもの、あるいは、放射線源を使用しない構成のものが望まれている。
【0005】
一方、検知対象ガスをイオン化することによりガス濃度検出を含む所定の分析を行うためのガスセンサとして、例えば、気体分子に紫外線を照射することによりイオン化させ、このときに発生するイオン電流から気体濃度を検出する構成のもの(光イオン化式ガスセンサ)が知られており、例えば揮発性有機化合物(VOC)などの検出に広く用いられている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
而して、光イオン化式ガスセンサにおいては、被検査ガス中の空気の主要構成成分である酸素および窒素がイオン化されるとオゾンが生成され、例えば揮発性有機化合物(VOC)の検出に際して、当該オゾンによる干渉を受けることとなるので、通常、オゾンを発生させないよう、空気をイオン化させない構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−365264号公報
【特許文献2】特開2003−215103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような事情に鑑みて、本発明者は、チャンバ内に存在する空気をイオン化させることにより生ずるイオン電流が、固体の酸化物を生成する特定の金属ガスに係るガス粒子の存在によってその濃度に応じた量で減少することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の目的は、放射線源を使用することなく、特定の金属ガスを検出することのできるイオン化式ガスセンサおよび当該イオン化式ガスセンサによるガス検知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のイオン化式ガスセンサは、加熱されて固体の酸化物が生成される金属ガスを検知対象ガスとするイオン化式ガスセンサであって、
被検査ガスが加熱されて導入される導電性のチャンバと、チャンバ内に存在する空気によりオゾンを発生させるオゾン発生手段と、チャンバ内において生ずるイオン電流を検出する集電極と、チャンバと集電極との間に電位差を与える電圧印加手段とを具えてなり、 チャンバ内に存在する空気によってオゾンが発生することにより生ずるイオン電流が、被検査ガス中の前記検知対象ガスに係る金属酸化物よりなるガス粒子の存在により減少するその変化量に応じて検知対象ガスの濃度を検出することを特徴とする。
【0011】
本発明のイオン化式ガスセンサにおいては、オゾン発生手段を、ピーク波長が185nmである紫外線を照射することにより空気をイオン化させるものにより構成することができる。
【0012】
また、本発明のイオン化式ガスセンサにおける検知対象ガスは、珪素,リン,硼素,ゲルマニウムおよび砒素のいずれか一の金属の水素化物または当該金属を含む有機金属化合物である。
【0013】
さらにまた、本発明のイオン化式ガスセンサにおいては、円筒型のチャンバが用いられた構成とされていることが好ましい。
【0014】
本発明のガス検知システムは、上記イオン化式ガスセンサと、被検査ガスを加熱することにより固体の金属酸化物よりなるガス粒子を生成する熱分解器と、当該熱分解器を介して被検査ガスをイオン化式ガスセンサにおけるチャンバ内に導入するガス導入手段とを備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のイオン化式ガスセンサによれば、チャンバ内に存在する空気(被検査ガス中の空気(周囲空気))によってオゾンが発生することによって生ずるイオン電流が、検知対象ガスに係るガス粒子(金属酸化物)の存在によって減少するその電流変化量を検出する構成とすることにより、放射線源を利用することなく、ガス濃度の差による感度差を得ることができる。
このようなイオン化式ガスセンサを具えてなる本発明のガス検知システムによれば、検知対象ガスの濃度検出を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のイオン化式ガスセンサの一例における構成の概略を示すブロック図である。
【図2】図1に示すイオン化式ガスセンサの検知部の構成を示す断面図である。
【図3】集電極の一部を拡大して示す平面図である。
【図4】ガス検知システムを構成する際に用いられる熱分解器の構成の概略を示す断面図である。
【図5】実験例における本発明に係るガス検知システムの構成例の概略を示すブロック図である。
【図6】放射線による気体の電離作用を利用したイオン化式ガスセンサの一例における構成の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のイオン化式ガスセンサは、加熱されて固体の酸化物が生成される金属ガス(以下、「特定の金属ガス」という。)などの例えば半導体製造工場で使用されるものであって、具体的には例えば、珪素,ゲルマニウム,リン,砒素,硼素,セレンおよびタンタルのいずれか一の金属の水素化物、当該金属を含む有機金属化合物である。
【0018】
このような特定の金属ガスの具体例を以下に例示する。
金属水素化物としては、例えば、モノシラン,ホスフィン,アルシン,ジボラン,セレン化水素などを例示することができる。
有機金属化合物としては、例えば、ジメチルシラン(DMS),トリメチルシラン(TRIMS),テトラメチルシラン(TMS),テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS),ジメチルジメチルアミノシラン(DMDMAS),トリメチルビニルシラン(TMVS),エチニルトリメチルシラン(ETRIMS),ヘキサメチルジシラン(HMS),ヘキサメチルジシラザン(HMDS),トリエチルシラノール(TRESOH),フェニルジメチルシラン(PDMS),オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS),トリメチルフェニルシラン(TRIMPS),トリメトキシシラン(TRIMOS),トリエトキシシラン(TRIES),テトラメトキシシラン(QMS),テトラエトキシシラン(TEOS),ジエトキシメチルシラン(DEMS),ジメチルジメトキシシラン(DMDMOS)などの有機珪素化合物;
トリメチルホスフィン(TRIMP),トリエチルホスフェート(TEOP),トリメチルホスフェート(TMOP),トリメチルホスファイト(TMP);トリメチルボレート(TMB),トリエチルボレート(TEB),トリストリメチルシリルボレート(SOB)などの有機ホウ素化合物;
トリエチルアルシネート(TEASAT),トリエトキシアルシン(TEOA)などの有機砒素化合物;
テトラメチルゲルマニウム(TMG)などの有機ゲルマニウム化合物,tert−ブチルイミノトリス(エチルメチルアミノ)タンタル(TBTEMT)等を例示することができる。
【0019】
図1は、本発明のイオン化式ガスセンサの一例における構成の概略を示すブロック図、図2は、図1に示すイオン化式ガスセンサの検知部の構成を示す断面図である。
このイオン化式ガスセンサ(以下、単に「ガスセンサ」という。)10は、空気をイオン化してオゾンが発生することにより生ずるイオン電流を検出する検知部11と、検知部11からの検出信号(電流信号)に基づいて検知対象ガスの濃度を算出する濃度算出部15とを備えている。
【0020】
検知部11は、内部に被検ガスが導入される測定室Sを画成する円筒型のチャンバ12と、このチャンバ12の一端側開口部に設けられた、集電極21を有する電極構造体20と、集電極21とチャンバ12との間に電位差を与える電圧印加手段14と、チャンバ12の他端側開口部に設けられたオゾン発生手段30とを具えている。図1および図2における符号12Aはガス導入部であって、被検査ガスが熱分解器41を介してチャンバ12内に導入される。12Bはガス排出部である。
【0021】
チャンバ12は、導電性材料例えばステンレス鋼よりなり、集電極21に対する対電極として機能する。
チャンバ12の形状が円筒型であることにより、集電極21付近の電場を高くすることができるため、イオンの再結合による損失を緩和することできる。
【0022】
電極構造体20は、集電極21と、この集電極21の一部が内部に挿通された状態でこれを保持する、例えばステンレス鋼よりなる円筒状の集電極ホルダー22と、この集電極ホルダー22を例えばフッ素樹脂よりなる円筒状の内側絶縁部材23Aを介して保持する、例えばステンレス鋼よりなるガードリング24と、このガードリング24における集電極ホルダー保持部分が内部に挿入された状態で装着された例えばフッ素樹脂よりなる円筒状の外側絶縁部材23Bとにより構成されている。
集電極21の先端部は、他の構成部材の他端面より軸方向外方に突出しており、電極構造体20がチャンバ12に装着された状態においては、測定室S内においてチャンバ12の中心軸と同軸上に位置された状態とされる。
【0023】
集電極21は、線径が小さくて硬い金属よりなる線材よりなり、図3に示すように、先端部が例えば輪状に形成されてなるもの(チェックピン)により構成されている。
集電極21を構成する金属材料としては、例えばステンレス鋼、タングステン、鉄、モリブデン等を例示することができ、また、これらの素線の表面に例えばNi−Auメッキ処理がなされたものであってもよい。
集電極21の線径は、例えばφ1.0mm以下であることが好ましく、φ0.4〜φ0.8mmであることがより好ましい。集電極21の線径が過大である場合には、所定のガス測定を行うに際して必要とされる印加電圧が高いものとなり、一方、集電極21の線径が過小である場合には、自己保形性が小さくなって振動などによる影響を受けやすくなる。
【0024】
このガスセンサ10における電圧印加手段14は、例えば直流電源により構成されており、チャンバ12に対して例えば負の電圧を印加する。
一方、集電極21は例えば接地電位状態に維持されており、従って、電離作用によって生ずる正イオンが陰極として機能するチャンバ12に集められると共に易動度の高い電子が陽極として機能する集電極21に集電されるよう、測定室S内に電場が形成される。また、ガードリング24は、集電極21と同電位となる状態とされており、これにより、集電極21に流れ込む漏洩電流を防ぐことができる。
【0025】
このガスセンサ10におけるオゾン発生手段30は、例えば、チャンバ12内に存在する空気(被検査ガス中の空気(周囲空気))を、紫外線を照射することによって、イオン化させてオゾンを発生させるものであって、この実施例においては、バルブ32の外面を囲うよう設けられた誘導コイル33に高電圧が印加されること(高周波電流が通電されること)により無電極放電を発生させて、放電ガスを励起、電離させて発光させる無電極放電灯31により構成されている。
この無電極放電灯31においては、放電ガスとしてキセノンガスが用いられており、中心波長が185nmである紫外線(真空紫外線)が光放射口32Aを介してチャンバ12内に出射される。
【0026】
濃度算出部15は、検知部11からの検出信号(電流信号)を積分する、例えばオペアンプ17を含む積分回路16と、ガス濃度を算出する機能を有するCPU19とを有する。
また、この積分回路16においては、コンデンサCに充電された電荷を放電するためのスイッチ(リセットスイッチ)SWがコンデンサCに対して並列に接続されている。
【0027】
以下、上記ガスセンサ10によるガス検知動作について説明する。
上記ガスセンサ10は、熱分解器や、吸引ポンプなどのガス導入手段と共にガス検知システムを構成して使用される。ガス検知システムの構成について、図5を参照して説明すると、被検査ガスを、検知対象ガスの種類に応じて設定される温度、例えば800〜900℃程度に加熱することにより固体の金属酸化物(ガス粒子)を生成する熱分解器41がガスセンサ10のチャンバ12に設けられたガス導入部12Aに接続されると共に、例えば吸引ポンプ45よりなるガス導入手段がガスセンサ10のチャンバ12に設けられたガス排出部12Bに接続されている。
熱分解器41は、図4に示すように、例えば箱型の外匣411を備え、この外匣411内を貫通して伸びるよう、例えば石英よりなる直管状のガス導入管412が設けられていると共に、加熱手段としての線状の発熱体413がガス導入管412の外周面に巻回された状態で設けられて、構成されている。そして、外匣411の内部空間には、断熱材415が充填されている。
【0028】
このガス検知システム40においては、吸引ポンプ45が駆動されることによって、被検査ガスが熱分解器41を介して適正な大きさに調整されたガス流量でチャンバ12の測定室S内に導入される一方で、点灯装置51によって無電極放電灯31の誘電コイル33に高電圧が印加されることにより無電極放電灯31が点灯されて中心波長が185nmである紫外線が照射され、これにより、チャンバ12内の空気(被検査ガス中の空気を含む)がイオン化されると共に、電圧印加手段14によって、適正な大きさに制御された負(−)の電圧がチャンバ12の壁に印加されることによりチャンバ12と集電極21との間に所定の電位差が与えられて、これにより生ずる陰イオンが陽極として機能する集電極21に引き付けられることによりチャンバ12の壁と集電極21との間にイオン電流が流れ、当該イオン電流の大きさに応じた入力電流信号が積分回路16に入力され、その出力信号がCPU19に入力されることにより当該出力信号に基づいて検知対象ガスの濃度が算出されるが、熱分解器41によって加熱された被検査ガス中に、検知対象となる金属ガスに係るガス粒子(金属酸化物)が含まれている場合には、当該ガス粒子の存在によってイオン電流が減少されることとなり、当該イオン電流の変化量(減少の程度)に応じて検知対象ガスの濃度が算出される。
ここに、検知対象ガスの濃度は、下記式(1)に基づいて出力Voutが算出され、これにより得られる出力Voutに応じた検知対象ガスの濃度が予め取得されていた検量線に基づいて算出される。
【0029】
【数1】

【0030】
而して、上記構成のガスセンサ10によれば、チャンバ12内の空気をイオン化させてオゾンを発生させることによって生ずるイオン電流が、ガス粒子の存在によって減少するその電流変化量を検出することにより、ガス濃度の検出を行うことができる。
【0031】
上記効果の得られる理由は次のように考えられる。
すなわち、紫外線が照射されることによって、下記反応式(1)に示すように、チャンバ12内に存在する空気の主要構成成分である酸素(O2 )の一部が酸素原子(O)とされると共に、下記反応式(2)に示すように、当該酸素原子(O)の一部が、酸素分子(O2 )と結合することによりオゾン(O3 )が生成される。
反応式(1) O2 +hυ(185nm)→2O 〔hυ;紫外線のエネルギー〕
反応式(2) O+O2 →O3
【0032】
このようなオゾン(O3 )の生成過程においては、酸素原子(O)は強い酸化力を有するものであるため、下記反応式(3)に示すように、酸素原子(O)の他の一部、いわば「余剰酸素原子(O)」が空気の主要構成成分である窒素(N2 )を酸化することにより、1価の酸素スーパーオキシドアニオン(O- )を生じ、当該1価の酸素スーパーオキシドアニオン(O- )が集電極21によって捕集されることによりチャンバ12内においてイオン電流が生ずるものと考えられる。
反応式(3) O+N2 →O- +N2 +
【0033】
そして、このイオン電流は、後述する実験例に示されるように、ガス粒子の存在によって減少する傾向、具体的には、ガス濃度が高くなるに従ってイオン電流の減少量(変化量)が大きくなる傾向がある。
以上のように、上記ガスセンサ10においては、チャンバ12内の空気をイオン化させることにより、例えば光イオン化式ガスセンサ(PIセンサ)であれば阻害ガスとされるオゾン(O3 )をいわば意図的に生成させ、当該オゾン(O3 )の生成過程において生じるものと考えられる1価の酸素スーパーオキシドアニオン(O- )を集電極21によって捕集することによりイオン電流を検出する、いわば「オゾントラップ型」ともいうべき構成とされており、被検査ガス中のガス粒子の存在によって減少するイオン電流の変化量を検出することにより、検知対象ガスの濃度を検出することができる。ここに、検知部11からの検出信号としての入力電流信号は微小なものであるが、当該入力電流信号が積分回路16によって処理されることにより、検知対象ガスの濃度を確実に検出することができる。
【0034】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
本発明に係るガスセンサを図1および図2に示す構成に従って作製した。このガスセンサの仕様を以下に示す。
〔ガスセンサ(10)の仕様〕
チャンバ(12):材質;ステンレス鋼,外径;φ20mm,内径;φ10mm,長さ;11mm、測定室の容積;約870mm3
集電極(21):材質;表面にNi−Auメッキが施されたタングステン,線径;φ0.3mm,測定室内における配置位置;チャンバの中心軸と同軸上の位置、
無電極放電灯(31):放電ガス;キセノンガス,中心波長185nmの紫外線を放射、
【0035】
このガスセンサ10を用いて、図5に示すガス検知システム40を構成した。図5において、41は熱分解器、42は流量計、43は粒子除去フィルター、44は活性炭フィルター、45は吸引ポンプ、50は、5Vの電源電圧を供給するスイッチング電源、14は、スイッチング電源51から供給される電源電圧を変圧するDC/DCコンバータを含む、ガスセンサ10のチャンバ12に所定の大きさの電圧を印加する電圧印加手段、18は、電源電圧5Vを+3.3Vおよび−2Vに変圧してガスセンサ10のOPアンプ17の正電源端子および負電源端子に供給するAMP電源、51は、ガスセンサ10を構成する無電極放電灯31に+2000Vの駆動電圧を供給するトランス昇圧回路を備えた点灯装置、55は、ガスセンサ10の検知部からの検出信号が出力される出力手段(シンクロ)である。
【0036】
以上のガス検知システムにおいて、試験用ガスとして、ガス濃度が6.04ppm、14.5ppmである2種類のシランガス(SiH4 )を用い、ガスセンサのチャンバに対する印加電圧を−20V、熱分解器によるシランガスの加熱温度を900℃、ガス流量を0.3リットル/minに設定し、出力手段によって測定されるセンサ出力(センサ電流In)より、上記式(1)に従って、それぞれの試験用ガスについてのイオン電流量を測定した。ここに、コンデンサ容量(C)は100pFであり、積分時間(カウント範囲;t)は800msecである。また、無電極放電灯の点灯条件は、印加電圧;2000V,印加電流;100μA,周波数(RF高周波);50kHzとした。
【0037】
以上のような試験を行ったところ、ガス濃度が6.04ppmであるシランガスについてのイオン電流は8pA程度、ガス濃度が14.5ppmであるシランガスについてのイオン電流は4pA程度であり、ゼロガス(ガス濃度が0)導入時において14pA程度であったイオン電流がガス濃度に応じた変化量で減少し、ガス濃度の差による感度差が得られることが確認された。
【0038】
また、試験用ガスとして、TEOSガス、ホスフィン,アルシン,ジボランおよびゲルマンを用いて、上記と同様の試験を行ったところ、これらの金属ガスについても、シランガスと同様に、ガス濃度の差による感度差が得られることが確認された。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明のガスセンサにおけるオゾン発生手段としては、チャンバ内の空気をイオン化させる機能を有するものであればよく、無電極放電灯以外の他の紫外線源(レーザ光源など)を具えたものや、プラズマ放電(無声放電)を利用したオゾン発生装置などにより構成することができる。
また、本発明においては、集電極とチャンバとの間に所定の電位差が得られるよう電圧印加手段が設けられた構成とされていればよい。
【符号の説明】
【0040】
10 イオン化式ガスセンサ(ガスセンサ)
11 検知部
12 チャンバ
12A ガス導入部
12B ガス排出部
14 電圧印加手段
15 濃度算出部
16 積分回路
17 オペアンプ
18 AMP電源
19 CPU
20 電極構造体
21 集電極
22 集電極ホルダー
23A 内側絶縁部材
23B 外側絶縁部材
24 ガードリング
30 オゾン発生手段
31 無電極放電灯
32 バルブ
32A 光放射口
33 誘導コイル
40 ガス検知システム
41 熱分解器
411 外匣
412 ガス導入管
413 発熱体
415 断熱材
42 流量計
43 粒子除去フィルター
44 活性炭フィルター
45 吸引ポンプ
50 スイッチング電源
51 点灯装置
55 出力手段(シンクロ)
60 イオン化式ガスセンサ
61 検知部
62 チャンバ
62A ガス導入管
62B ガス排出管
63 測定室
64 補償室
65 集電極
66 放射線源
68 電圧印加手段
69 絶縁部材
71 濃度算出部
72 増幅回路
73 オペアンプ
75 CPU
S 測定室
C コンデンサ
SW スイッチ(リセットスイッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されて固体の酸化物が生成される金属ガスを検知対象ガスとするイオン化式ガスセンサであって、
被検査ガスが加熱されて導入される導電性のチャンバと、チャンバ内に存在する空気によりオゾンを発生させるオゾン発生手段と、チャンバ内において生ずるイオン電流を検出する集電極と、チャンバと集電極との間に電位差を与える電圧印加手段とを具えてなり、 チャンバ内に存在する空気によってオゾンが発生することにより生ずるイオン電流が、被検査ガス中の前記検知対象ガスに係る金属酸化物よりなるガス粒子の存在により減少するその変化量に応じて検知対象ガスの濃度を検出することを特徴とするイオン化式ガスセンサ。
【請求項2】
オゾン発生手段は、ピーク波長が185nmである紫外線を照射することにより空気をイオン化させるものであることを特徴とする請求項1に記載のイオン化式ガスセンサ。
【請求項3】
検知対象ガスが、珪素,リン,硼素,ゲルマニウムおよび砒素のいずれか一の金属の水素化物または当該金属を含む有機金属化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のイオン化式ガスセンサ。
【請求項4】
チャンバが円筒型のものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のイオン化式ガスセンサ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のイオン化式ガスセンサと、被検査ガスを加熱することにより固体の金属酸化物よりなるガス粒子を生成する熱分解器と、当該熱分解器を介して被検査ガスをイオン化式ガスセンサにおけるチャンバ内に導入するガス導入手段とを備えてなることを特徴とするガス検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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