説明

イオン化式ガスセンサ

【課題】 高い動作の信頼性が得られるものでありながら、放射能の低減化が図られたイオン化式ガスセンサを提供すること。
【解決手段】 放射線による気体の電離作用によって生ずる電離電流が検知対象ガスのガス粒子の存在により減少するその電流変化量に応じて検知対象ガスの濃度を検出するイオン化式ガスセンサにおいて、被検ガスが導入される測定室を画成する導電性を有するチャンバを備え、このチャンバ内に、放射線源および集電極が配設されると共に、チャンバと集電極との間に電位差を与える電圧印加手段が設けられてなる検知部を有し、当該検知部からの検出信号を積分する積分回路が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン化式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造プロセスにおける有機金属ガスや、オフィスや工場などにおける火災の発生を示す煙粒子を検出するためのセンサとして、放射線による気体の電離作用を利用した電離箱の原理を利用したイオン化式ガスセンサが広く用いられている。
イオン化式ガスセンサのある種のものは、図4に示すように、例えば板状の集電極75によって互いに気密に区画された、被検ガスが導入される測定室73および環境条件の変化の影響を補償するための補償室74を有するチャンバ72を備え、測定室73内および補償室74内のそれぞれに例えばアメリシウム241などの放射線源76,77が配設されて構成された検知部71と、集電極75からの検出信号としての電流信号(測定室73の電離電流と補償室74の電離電流との差分に応じたもの)が、絶縁部材79を介してチャンバ72の壁を気密に貫通して外部に導出された集電極75の一端がオペアンプ83の非反転入力端子(Vin+ )に接続されると共にオペアンプ83の出力端子(Vout)が反転入力端子(Vin- )に接続されて負帰還がかけられた状態で構成された、いわゆる「高入力インピーダンス回路」により構成された増幅回路82およびCPU85を含む濃度算出部81とにより構成されている(例えば特許文献1参照)。図4における72Aはガス導入管、72Bはガス排出管である。
【0003】
このような構成のイオン化式ガスセンサ70においては、チャンバ72に適正な大きさの電圧が電圧印加手段78によって印加されることにより放射線源76,77から放射された放射線(α線)によって測定室73内および補償室74内の空気が電離されて電離電流が生じており、例えば補償室74内において流れる電離電流の方向を逆さにして測定室73内において流れる電離電流と加算することにより、これらの電離電流が相殺されて検出される電流(出力)がゼロとなる状態、すなわち、測定室73と補償室74との間で平衡状態が維持された状態とされている。
而して、測定室73内に導入される被検ガスに、例えば煙粒子やガス粒子などの微粒子が含まれている場合には、この微粒子によって放射線が吸収されて測定室73の電離電流が減少して補償室74との平衡状態が崩れるので、測定室73の電離電流の変化量を検出することにより被検ガス中に含まれる検知対象ガスの濃度が検出される。
【0004】
【特許文献1】特開2002−365264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記構成のイオン化式ガスセンサ70においては、測定室73および補償室74の各々に放射線源76,77を備えることが必須構成要件となっており、放射線源76,77の管理および取扱いに十分に注意を払うことが必要であり、放射能が低減されたものが望まれている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、高い動作の信頼性が得られるものでありながら、放射能の低減化が図られたイオン化式ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のイオン化式ガスセンサは、放射線による気体の電離作用によって生ずる電離電流が検知対象ガスのガス粒子の存在により減少するその電流変化量に応じて検知対象ガスの濃度を検出するイオン化式ガスセンサにおいて、
被検ガスが導入される測定室を画成する導電性を有するチャンバを備え、このチャンバ内に、放射線源および集電極が配設されると共に、チャンバと集電極との間に電位差を与える電圧印加手段が設けられてなる検知部を有し、当該検知部からの検出信号を積分する積分回路が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明のイオン化式ガスセンサにおいては、両端が気密に密閉された円筒型のチャンバが用いられ、当該チャンバの一方の端壁に放射線源が配設されると共に、線材よりなる集電極がチャンバの中心軸と同軸上の位置にチャンバの軸方向に伸びるよう配設された構成とされていることが好ましい。
【0009】
また、本発明のイオン化式ガスセンサにおいては、放射線源の放射能を10kBq以下であるものとして構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のイオン化式ガスセンサによれば、検知部からの検出信号としての入力電流信号が積分回路によって積分されることにより、検知対象ガスの濃度を算出することができるため、チャンバ構造を測定室のみを有する構成とすることができて単一の放射線源を備えたものとして構成することができ、測定室および補償室の電離電流の差に基づいてガス濃度を検出する構成のものと同等の動作の信頼性を有するものでありながら、放射能の低減化が図られたものとして構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明のイオン化式ガスセンサの一例における構成の概略を示す説明図である。
このイオン化式ガスセンサ(以下、単に「ガスセンサ」という。)10は、放射線による気体の電離作用を利用した電離箱の原理を利用した検知部11と、検知部11からの検出信号に基づいて検知対象ガスの濃度を算出する濃度算出部30とを備えている。
【0012】
検知部11は、内部に被検ガスが導入される測定室14を画成する、両端が気密に密閉された円筒型のチャンバ12を備え、このチャンバ12内に、放射線源(α線源)15が配設されると共に集電極21が配設され、集電極21とチャンバ12との間に電位差を与える電圧印加手段18が設けられて、構成されている。ここに、図1における12Aはガス導入管、12Bはガス排出管である。
【0013】
チャンバ12は、導電性材料例えばステンレス鋼よりなり、集電極21に対する対電極として機能する。
【0014】
集電極21は、線径が小さくて硬い金属よりなる線材により構成されており、チャンバ12の中心軸と同軸上において、例えば一端部が絶縁部材23を介してチャンバ12の壁を気密に貫通して伸びるよう配置されている。
集電極21を構成する材料としては、例えばステンレス鋼、タングステン、鉄、モリブデン等を例示することができ、また、これらの素線の表面に例えばNi−Auメッキ処理がなされたものであってもよい。
集電極21の線径は、例えばφ1.0mm以下であることが好ましく、φ0.4〜φ0.8mmであることがより好ましい。集電極21の線径が過大である場合には、所定のガス測定を行うに際して必要とされる印加電圧が高いものとなり、一方、集電極21の線径が過小である場合には、自己保形性が小さくなって振動などによる影響を受けやすくなる。
【0015】
放射線源15は、例えばアメリシウム241の塊状体よりなり、例えば、チャンバ12の端壁の内面における中央位置(チャンバ12の中心軸および集電極21と同軸上の位置)に設けられている。放射線源15がチャンバ12の端壁の内面における中央位置に配設された構成とされることにより、放射線源15からの放射線を効率よく利用することができ、高い効率を得ることができる。
放射線源15としては、放射能が10kBq(キロベクレル)以下、例えば8kBq(キロベクレル)程度のものが用いられている。
【0016】
このガスセンサ10における電圧印加手段18は、例えば直流電源により構成されていおり、例えばチャンバ12に対して負の電圧を印加する。
一方、集電極21は例えば接地電位状態に維持されており、従って、電離作用によって生ずる正イオンがチャンバ12に集められると共に易動度の高い電子が集電極21に集電されるよう、測定室14内に電場が形成される。
【0017】
濃度算出部30は、検知部11からの検出信号を積分する、例えばオペアンプOPを含む積分回路32と、ガス濃度を算出する機能を有するCPU35とを有する。
また、この積分回路32においては、コンデンサCに充電された電荷を放電するためのスイッチ(リセットスイッチ)SWがコンデンサCに対して並列に接続されている。
【0018】
以下、上記ガスセンサ10によるガス検知動作について説明する。
被検ガスが適正な大きさに調整されたガス流量でチャンバ12の測定室14に導入されると共に、電圧印加手段18によって、適正な大きさに制御された例えば負(−)の電圧がチャンバ12に印加されることにより、測定室14内の空気が放射線源15からの放射線(α線)の作用によって電離され、これにより生ずる電子および陰イオンが陽極として機能する集電極21に引き付けられることにより陰極として機能するチャンバ12の壁と集電極21との間に電離電流が流れ、当該電離電流の大きさに応じた入力電流信号が積分回路32に入力され、この積分回路32の出力信号がCPU35に入力されることにより当該出力信号に基づいて検知対象ガスの濃度が算出されるが、検知対象ガスに係るガス粒子が被検ガスに含まれている場合には、当該ガス粒子が放射線源15からの放射線(α線)がガス粒子に吸収されることに伴って電離電流が減少されることとなり、当該電離電流の変化量(減少の程度)に応じて検知対象ガスの濃度が算出される。
【0019】
而して、上記ガスセンサ10によれば、検知部11からの検出信号として入力電流(センサ電流)信号が得られるが、この入力電流信号がオペアンプOPを含む積分回路32によって積分されることより、検知対象ガスの濃度を算出することができる。具体的には、下記式(1)に基づいて出力Voutが算出され、これにより得られる出力Voutに応じた検知対象ガスの濃度が予め取得されていた検量線に基づいて算出される。
【0020】
【数1】

【0021】
従って、チャンバ構造を測定室14のみを有し、単一の放射線源15を備えたものとして構成することができるので、測定室および補償室の電離電流の差に基づいてガス濃度を検出する構成のものと同等の動作の信頼性を有するものでありながら、放射能の低減化を図ることができる。
【0022】
また、両端が気密に密閉された円筒型のチャンバ12が用いられ、当該チャンバ12の一方の端壁における中央位置に放射線源15が配設されると共に、線材よりなる集電極21がチャンバ12の中心軸と同軸上の位置においてチャンバ12の軸方向に伸びるよう配設された構成とされていることにより、測定室14内に形成される電場の強度を軸方向において均一に形成することができるので、放射線による気体の電離作用によって生ずる電離電流を確実に検出することができ、所期のガス検知を確実に行うことができる。
【0023】
さらにまた、集電極21が接地電位状態に維持されると共にチャンバ12に負の電圧が印加されることにより、正極とされる集電極21に易動度の高い電子が集電されるので、高い効率を得ることができる。
【0024】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
<実験例1>
本発明に係るガスセンサを図1に示す構成に従って作製した。このガスセンサの仕様を以下に示す。
〔ガスセンサ仕様〕
チャンバ(12):材質;ステンレス鋼,外径;φ20mm,内径;φ15mm,長さ;55mm、
集電極(21):材質;表面にNi−Auメッキが施されたタングステン,線径;φ0.3mm,測定室内における配置位置;チャンバの中心軸と同軸上の位置、
放射線源(15):材質;アメリシウム241,放射能;8kBq(キロベクレル)、
【0025】
このガスセンサを用いて図2に示すガス検知システムを構成し、チャンバに対する印加電圧を−12Vとして、シランガス(SiH4 ガス)を0.3リットル/minのガス流量で測定室内に導入することによるガス粒子検知テストを、シランガスの濃度を適宜に変更して行い、ガス濃度が10ppmであるシランガスを用いた場合における出力値に対する各ガス濃度のシランガスに係る出力値の比を算出した。結果を図3(イ)に示す。
図2におけるガス検知システム40において、41は熱分解器、42はガスセンサ、43はデータロガ、44は粒子除去フィルター、45は流量計、46はバッファ、47はガス流量調整バルブ、48は吸引ポンプ、49は排気ダクトである。熱分解器41によるシランガスの加熱温度を600℃とした。
【0026】
<参考実験例1>
参考用のガスセンサを図4に示す構成に従って作製した。この参考用ガスセンサの仕様を以下に示す。
〔参考用ガスセンサ仕様〕
チャンバ(72):材質;真鍮,測定室および補償室を画成する殻体;内径43mmの半球状、
集電極(75):材質;ステンレス鋼,形状;厚み0.5mmの板状,
放射線源(76,77):材質;アメリシウム241,放射能;37(=18.5×2)kBq(キロベクレル)、
【0027】
この参考用ガスセンサについて、上記実験例1と同様のガス粒子検知テストを行い、ガス濃度が10ppmであるシランガスを用いた場合における出力値に対する各ガス濃度のシランガスに係る出力値の比を算出した。結果を図3(ロ)に示す。
【0028】
以上の結果、本発明に係るガスセンサは、放射能が低減された構成のものでありながら、参考用ガスセンサと同様の傾向を示す出力特性が得られることが確認された。
【0029】
また、上記ガスセンサの各々について、被検ガスとしてテトラエトキシシランガス(TEOSガス)を用いて同様のガス粒子検知テストを行ったところ、当該テトラエトキシシランガスについても、参考用ガスセンサと同様の傾向を示す出力特性が得られることが確認された。なお、このガス粒子検知テストにおいては、熱分解器41によるテトラエトキシシランガスの加熱温度を800℃とした。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明においては、集電極とチャンバとの間に所定の電位差が得られるよう電圧印加手段が設けられた構成とされていればよく、例えば、集電極およびチャンバの両方に電圧が印加される構成、あるいは、集電極に正の電圧が印加される構成とされていてもよい。
また、集電極それ自体がチャンバの外部に導出された構成である必要はなく、例えば集電極の基端部分に給電用の外部リードを接続して当該外部リードがチャンバの外部に導出される構成とされていてもよい。
さらに、本発明のガスセンサは、一酸化炭素、硫化水素、炭化水素、二酸化炭素、メタン、ブタンなどを感知するための煙感知器に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のイオン化式ガスセンサの一例における構成の概略を示す説明図である。
【図2】実験例におけるガス検知システムの構成例の概略を示す説明図である。
【図3】実験例における本発明に係るガスセンサの出力特性を示すグラフである。
【図4】従来のイオン化式ガスセンサの一例における構成の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
10 イオン化式ガスセンサ(ガスセンサ)
11 検知部
12 チャンバ
12A ガス導入管
12B ガス排出管
14 測定室
15 放射線源(α線源)
18 電圧印加手段
21 集電極
23 絶縁部材
30 濃度算出部
32 積分回路
35 CPU
40 ガス検知システム
41 熱分解器
42 ガスセンサ
43 データロガ
44 粒子除去フィルター
45 流量計
46 バッファ
47 ガス流量調整バルブ
48 吸引ポンプ
49 排気ダクト
OP オペアンプ
C コンデンサ
SW スイッチ(リセットスイッチ)
70 イオン化式ガスセンサ
71 検知部
72 チャンバ
72A ガス導入管
72B ガス排出管
73 測定室
74 補償室
75 集電極
76,77 放射線源
78 電圧印加手段
79 絶縁部材
81 濃度算出部
82 増幅回路
83 オペアンプ
85 CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線による気体の電離作用によって生ずる電離電流が検知対象ガスのガス粒子の存在により減少するその電流変化量に応じて検知対象ガスの濃度を検出するイオン化式ガスセンサにおいて、
被検ガスが導入される測定室を画成する導電性を有するチャンバを備え、このチャンバ内に、放射線源および集電極が配設されると共に、チャンバと集電極との間に電位差を与える電圧印加手段が設けられてなる検知部を有し、当該検知部からの検出信号を積分する積分回路が設けられていることを特徴とするイオン化式ガスセンサ。
【請求項2】
チャンバが両端が気密に密閉された円筒型のものであって、当該チャンバの一方の端壁に放射線源が設けられており、線材よりなる集電極がチャンバの中心軸と同軸上の位置にチャンバの軸方向に伸びるよう配設されていることを特徴とする請求項1に記載のイオン化式ガスセンサ。
【請求項3】
放射線源の放射能が10kBq以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のイオン化式ガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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