説明

イオン化気体流によって広い領域を覆うこと

イオン供給マニフォールドが、イオン化気体流を受入る気体輸送チャンネルと、複数の出口とを備える。複数の出口によって気体の流れは複数の中和気体流に分割され、複数の目標領域へ向けて方向づけられる。複数の出口から異なるイオン流量を流出させることによって、複数の目標領域を横断して少なくとも実質的に均一にイオンが分配される。複数の中和流れを目標領域に供給する方法が、イオン化気体流を受入る段階と、イオン化気体流を複数の中和流れに分割する段階と、中和流れを目標領域に方向づける段階とを含む。中和流れのイオン流量が異なるようにすることによって、複数の目標領域を横断して少なくとも実質的に均一なイオン分配が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化装置からのイオン化した気体の流れ(イオン化気体流)の広い目標領域への分配に関する。より詳細には、本発明は、不均等に分ける方法およびイオン化気体を不均等な複数の流れに分割して、広い目標領域に一層均一にイオンを供給する装置に関する。
【0002】
なお、本願は、米国特許法第119条第(e)項の規定により2009年10月26日に出願された同時係属中の米国仮出願第61/279,784号「イオン化気体流によって広い領域を覆うこと」の優先権を主張し、その開示内容は本願と一体となすものとして参照する。
【背景技術】
【0003】
従来より多くのイオン化装置が公知となっており、イオン放出器は1つの時間周期の間に正の電圧を受け、他の時間周期の間に負の電圧を受ける。従って、こうしたイオン放出器は、正イオンと負イオンの双方を含む双極電荷担体を生成し、こうした電荷担体はマニフォールド等を介して目標へ向けて放出される。
【0004】
気体イオンを分配する従来のイオン流マニフォールド(例えばIon System 4210 In - Line Ionizerおよび特開2007-486682号を参照のこと)は、通常、該マニフォールドの全長に渡って多数の孔が形成された細長い円筒管を具備しており、イオンが前記円筒管から流出できるようになっている。こうした装置では、管内に超過圧力が生成され、イオン化気体が孔から排出されるように、前記孔の直径が決定される。こうしたマニフォールドは、マニフォールドの長軸沿いにイオン化気体を均等に分配し、各孔から概ね等しい量の気体が流出するようになっている。然しながら、イオン化気体流は、3つの異なる種、つまり搬送気体、正イオン、負イオンから成る媒体の複雑な現象である。従って、マニフォールドから気体の流れを均等に分配するマニフォールドでは、イオンは帯電した大面積目標領域へ向けて均等に分布されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-486682号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの形態では、本発明は、イオン化していない気体の流れ(非イオン化気体流)をイオン化気体流に変えるイオン化装置と共に用いられるイオン供給マニフォールドを提供することによって従来技術の既述の欠点および他の欠点を解決する。このマニフォールドは、前記イオン化装置からイオン化気体流を受入れる少なくとも1つの入口を有した気体輸送チャンネルと、前記気体輸送チャンネルを流通するイオン化気体流を少なくとも大面積目標の第1と第2の領域にそれぞれ供給される第1と第2の中和気体流に分割する少なくとも第1と第2の出口とを具備する。前記第1と第2の領域に到達するイオンの分布が少なくとも実質的に等しくなるようにするために、前記第1の出口から流出するイオン流量が前記第2の出口から流出するイオン流量よりも多く、前記第1の出口と前記第1の領域の間の距離は、前記第2の出口と前記第2の領域との間の距離よりも長くなっている。
【0007】
更に、イオン化気体流目標表面の所定領域へ供給する間の再結合を提言することによって更に有利になる。再結合は、2つの反対に帯電した(有効)イオン化気体分子を消費し、2つの(中和するのに有効ではない)中性気体分子を生成するので望ましくない。帯電したイオン化分子が消費されると、目標の電荷を中和する能力が低下する。再結合を提言し、また、予測される再結合を相殺することによって、本発明では、荷電中和すべき目標全体で一層均一なイオン分布を達成する。
【0008】
本発明によるマニフォールドは、該マニフォールドから流出し、大面積目標において該マニフォールドから最も遠位にある領域へ方向づけられるイオン化気体の滞留時間を低減する。イオン分布はマニフォールド内の滞留時間に依存しているので、滞留時間が短ければそれだけイオンの再結合が少なくなる。本発明の実施形態によれば、輸送チャンネル内での滞留時間は、デッドゾーンおよび(気体の乱流によって作られる)逆流を除去することによって、短くしている。本発明のマニフォールドは、こうして、入口から出口へ一層迅速にイオンを輸送してマニフォールド内のこうした部分での滞留時間を低減するようになっている。
【0009】
本発明の1つの形態では、マニフォールドは、該マニフォールド内を流通する気体流の運動量を利用して、該マニフォールドから一層遠位へ流出する中和気体の少なくとも1つの流れを押し出すようになっている。1つの望ましい形態では、少なくとも1つの出口が、前記マニフォールドの入口からの障害物のない経路に沿って配置され、流入するイオン化気体流の運動量を用いて、前記分割されたイオン化気体の複数の流れを前記オリフィスから押出すようになっている。
【0010】
本発明では、前記輸送チャンネルの少なくとも一部が湾曲した内面を有し、複数の出口が、該湾曲した内面を有した輸送チャンネルの部分に延在している実施形態もある。更に、少なくとも1つの出口が、前記チャンネルの前記湾曲した内面に対して少なくとも実質的に接線方向に延設されている。工具やロボットへの応用で用いられる場合に、本発明のマニフォールドは設置面積が小さく、また高周波数イオン源と適合する。
【0011】
本発明の方法は、複数の中和気体流を夫々中和すべき帯電した大面積目標の複数の領域へ供給する方法を含む。該方法は、双極性イオン化気体流を受取る段階と、該イオン化気体流を複数の中和気体流に分割する段階と、前記複数の中和気体流を前記大面積目標の夫々の領域へ向けて方向づける段階とを含む。前記複数の領域へ到達イオンの分布が少なくとも実質的に等しくなるようにするために、1つの前記中和気体流のイオン流量は、他の中和気体流のイオンの流量よりも高くし、そしてイオン流量が最も高い中和気体流を前記大面積目標のうち長距離領域へ向けて方向づけるようにした。
【0012】
本発明のマニフォールド構造および/または分配方法によれば、(1)マニフォールドそれ自体の少なくとも一部を横断する圧力低下を最小化すること、(2)マニフォールドの少なくとも一部での滞留時間を最小化すること、(3)遠位にある目標部位では再結合による損失が大きくなるので、近位の目標よりも遠位の目標へ一層多量のイオンを方向づけること、および/または(4)マニフォールドの下流で空気または気体の同伴を採用することによって、イオン密度を低減することによって、中和気体の流れの供給が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の好ましいマニフォールドに取着されイオン放出器を有した直列型イオン化装置の略図である。
【図2】図1の実施形態によるマニフォールドが、マニフォールド入口と、イオン化気体流の最も大きな部分を通過させるオリフィスとの間に障害物のない経路が形成されることを示す図である。
【図3】複数のイオン案内管を備えた好ましい他の実施形態を示す図であり、該実施形態では、マニフォールド入口の近傍に配置され、マニフォールド入口の中心軸線と一直線上に配置される管は運動量を補足するために理想的に配置されており、そしてイオンを遠位の目標領域に輸送する。
【図4】イオン案内管が末広がり或いは略漏斗状の形状を有したマニフォールドと関連して用いられる好ましい実施形態を示す図である。
【図5】イオン放出器と参照電極とを備えたイオン化セルを組込んだ更に好ましい実施形態による本発明のマニフォールドを示す図であり、該マニフォールドではイオン放出器とマニフォールド出口オリフィスとの間の距離を短くすることによって、再結合を最小限に抑制し効率を改善するようにしている。
【図6】他の実施形態を示す図であり、該実施形態では、マニフォールドの出口が、分割された複数の中和気体の流れを大面積目標表面の夫々の領域へ向けて方向づける複数の管小片から成る。
【図7】複数の出口管をマニフォールドの湾曲に対して少なくとも実質的に接線方向に配設し、イオン流の運動量が短い前記出口管を通過して直線的な経路に連続するようにして運動量を効果的に補足する他の好ましい実施形態を示す図である。
【図8】1400mm×400mmの大面積目標を対象とした好ましい実施形態における放電時間とイオン分布(イオン化−中和変換)結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実績ある性能を有したマニフォールド1の例を示す。マニフォールド1の輸送チャンネル3の入口は、イオン化装置の出口8に嵌合させることによって、イオン化装置7に接続される。輸送チャンネル3の入口をイオン化装置の出口8に嵌合させる手段は、輸送チャンネル3の入口をイオン化装置の出口8に嵌合させる手段は、雌雄スリップフィット、螺合、キーを設けた表面による嵌合および/または他の周知手段とすることができよう。本例では、マニフォールド1の気体輸送チャンネル3へ向けた尖端を有したイオン放出器7Eはコロナ放電電極とすることができよう。電極7Eはイオン化していない気流中に配設され、この桐生はイオン化装置によってイオン化される。イオン化気体の流量は毎分30〜200リットル、好ましくは、毎分60〜100リットルとすることができよう。
【0015】
イオン化装置は、下流方向を規定するイオン化していない気体の流れ(流入気体)を受入れ、そしてイオン6を生成してイオン化気体の長がれを形成する。イオン化装置7によって生成されたイオン6は、イオン化気体(空気、窒素、アルゴン等)の流れによってイオン出口8からチャンネル3の入口へ輸送される。
【0016】
図示するように、マニフォールド1は外面2と、包囲された気体輸送チャンネル3とを含む。添付図面において気体輸送チャンネル3の内面が点線で示されている。輸送チャンネル3内でイオン化気体流6は、複数の出口オリフィス4へ向けて流れ、そこで複数の中和流れに不均等に分割される。複数の中和流れは、出口オリフィス4(スプレーオリフィスとすることができる)から、矢印5に沿って広い目標へ向けて放出され、該目標の複数の領域を夫々中和する。好ましい実施形態では、気体輸送チャンネル3は、その断面積が該チャンネルの終端へ向けて漸減するように形成することができる(つまり、該チャンネルは一方の側から閉じるようにできる)。これによって、チャンネル3内で気体の圧力が高くなり、イオン流は出口オリフィス4へ向けられよう。好ましい実施形態では、気体輸送チャンネルは、100秒以上の電荷緩和時間を有した誘電性ポリマーから形成することができ、該気体輸送チャンネルの内面(点線)の表面粗さRaは812μm (32×10-6inch)を超えないようにできる。この種の従来の材料には、良好な製造性(加工性)、熱的安定性、耐熱性、耐薬品性および/または耐疲労性を備えた、熱可塑性ポリマーおよび/または熱硬化性ポリマーのようなエンジニアリングプラスチックが含まれる。こうした特性の一部または全てを備えた従来のポリカーボネート樹脂にはPEEK(登録商標)、ポリカーボネート、DELRIN(登録商標)およびACRYLIC(登録商標)が含まれる。.本発明のマニフォールドは、機械加工またはモールディングによって一体的に形成したり、或いは、複数の部分に形成して組立てるような、本開示と矛盾しない従来の方法によって形成することができよう。
【0017】
図2に示すマニフォールド1は、図1に示すマニフォールドと本質的に同一であるが、最上部にある出口オリフィス4Tは、該出口オリフィス4Tとイオン化装置の出口8(およびチャンネル3の入口)との間に遮る物がない経路9上に配置されている。このように一直線上に配置することの技術的意義は、イオン化装置の出口8を通過するイオン化気体流の運動量が、そのまま出口オリフィス4Tへ持続されることである。出口オリフィス4Tから流出するイオン流は、従って、中間位置の出口オリフィス4Mおよび低位置にある出口オリフィス4Lから流出するイオン流よりも多くなる。出口オリフィス4Tは、好ましくは、中和イオン流を、中和すべき帯電した目標の最も遠位の領域へ方向づけるようになっている。と言うのは、流動気体の保存されている運動量によって、少ない損失で一層遠くまでイオンを輸送可能であるからである。
【0018】
中間位置の出口オリフィス4Mおよび低位置の出口オリフィス4Lは、経路9沿いには配置されていない。イオン化装置の出口8からの気体の運動量の大部分は、イオン流が中間位置の出口オリフィス4Mおよび低位置の出口オリフィス4L流出する前に失われる。高位置の出口オリフィス4Tと比較して、中間位置の出口オリフィス4Mおよび低位置の出口オリフィス4Lから流出するイオンは少ないが、出口オリフィス4M、4Lは夫々中間目標および近位目標へ向けられている。これは、目標表面において、イオンの均一な分布にとって望ましい。と言うのは、中間位置の出口オリフィス4Mおよび低位置の出口オリフィス4Lから流出するイオンは少量であっても、高位置の出口オリフィス4Tに関連する一掃遠位にある目標領域と比較して、距離が短く再結合によって破壊されるインオンが少ないからである。こうして、有効範囲の広いマニフォールドは、出口オリフィス4T、4M、4Lからイオン化気体を意図的に不均一に放出する。各出口オリフィスの面積は、中和すべき目標領域からの位置(距離)および中和すべき目標領域の大きさによって決定されよう。例えば、最も遠位にある目標領域にイオンのながレを供給する出口オリフィス4T(障害物のない経路9参照)は、出口オリフィス4Mよりも小さな断面積(一層高速の気体流速および一層多くの同伴を提供する)或いは出口オリフィス4Mと等しい断面積とすることができよう。出口オリフィス4Mは一層近位の、そして中和すべき領域が一層広い目標領域へのイオン流を可能とする(図2参照)。出口オリフィス4Lは出口オリフィス4Mよりも小さな断面積を有している。と言うのは、該出口オリフィス4Lは目標に最も近位に配置されており、かつ、イオン流量が最小であるからである。この構成によって、本質的に不均一なイオン再結合が実質的に相殺され、帯電した目標表面で実質的に均一なイオン電流密度となる。これによって、本発明のマニフォールドは、上昇する内圧によって均一に気体流を分配するマニフォールドよりも効果的である。
【0019】
更に、イオン密度を低減し、かつ、目標までの移動(走行)時間を短くすることによって、再結合は最小限とすることができよう。また、イオン化気体流とマニフォールドの壁面との相互作用を小さくすることによっても再結合が低減される。
【0020】
図3を参照すると、他の形態を有する中空のマニフォールドが示されている。該マニフォールドは、その出口から20inch離間した6平方フィートの領域にイオンを分配することができる。図示するように、イオン化装置17は、本発明のマニフォールド19に接続されているイオン出口18からイオン化気体流を放出する。マニフォールド19内には一連の管部材11、12が配設されている。本発明は該構成に限定されないが、明瞭に図示するために2つの管部材11、12のみが図示されている。
【0021】
管部材11はイオン化装置の出口18の近傍に、かつ、該イオン化装置の出口18の中心軸線に関して一直線上に配置されている。このように、近接配置および一直線上の配置の双方によって、マニフォールド19を流通する好ましいイオン流が形成される。管部材11は、遠位の目標位置に方向付けられている。それに対して、管部材12は、管部材11よりもイオン化装置の出口18から一層遠位に開口しており、かつ、管部材12はイオン化装置の出口18に対して一直線上には配置されていない。管部材12は、従って、一層近位の目標位置に方向付けられている。
【0022】
管部材11、12は異なる断面積を有するようにした実施形態もある。また、管部材11、12は好ましくは非導電性材料から形成することができる。更に、マニフォールド19の出口オリフィスの断面形状は、目標の形状に適合させて、楕円形や円形または他の形状とすることができよう。
【0023】
図4に示す好ましい実施形態は、図3の実施形態に関連している。マニフォールド29が末広がり或いは漏斗状の形状を有している点で異なっている。本実施の形態では、管部材21は、イオン流を遠位の目標領域へ輸送するために運動量と配置とを利用している。これに対して、管部材22は、受取る気体の運動量が少なくイオン化装置の出口からの主流に対して傾斜させて配置されている。管部材22は、こうして、目標の近位の領域に方向付けられている。
【0024】
図5にマニフォールド51とイオン放出器55およびマニフォールド51に組込まれた1または複数の参照電極58、58Aを示す。参照電極は、高電圧/高周波数電源(図示せず)を制御するためのシステムを制御するために、ケーブル57によってアース59または容量性回路56に電気的に結合されている。これによって、(本明細書で説明する種々の他の実施形態と比較して)マニフォールド内でのイオンの再結合が非常に短時間で生じ、イオンの回収が改善される。入口ポート52は、イオン化していない(そして圧縮されているであろう)気体を流入させるための管路、および、電気ケーブルおよび/または電極53のための管路として作用する。図5に示す好ましい実施形態では、イオン化装置は、マニフォールドの気体輸送チャンネルの方に向けられたイオン化先端を有したコロナ放電電極とすることができ、電極は排気ポートおよび少なくとも部分的に気体輸送チャンネル内に配設された出口とを備えたシェル内に配置される。
【0025】
図6に示すマニフォールド61では、出口オリフィスは短い管小片64T、64M、64Lによって置換されている。短い管小片64T、64M、64Lは断面積が変化するインサートである。こうして、イオン分配の角度調整調節を大きくすることが可能となる。管小片64Tを流通するイオンの速度は、管小片64M、64Lを流通するイオンの速度よりも高くなる。これによって、周囲の気体を周囲気体を広い目標へ向けて引込む同伴効果を生じ、中和プラズマ流が形成される。周囲気体を同伴することによって、イオン化気体流が希釈され再結合による損失が低減される。イオン化気体の流量は、毎分30〜200リットル、好ましくは、毎分60〜100リットルとすることができよう。
【0026】
図7に示すマニフォールド71の管小片74T、74M、74Lは、図6に示した出口とは異なり、少なくとも幾つかはマニフォールドの湾曲した内面に対して接線方向に配向されており、管小片が配置されているところの運動量線75を利用するようになっている。古典物理学で唱えられているように、運動量は向心力(内向きの力)を与えることによって円形経路に拘束される。この場合、向心力は、チャンネルの内面形状によって付与される。向心力が(出口の存在によって)解放されると、上記運動量は直線運動量76となる。この略図において、出口管小片74T、74M、74Lは、向心力を除去する作用をなし、大面積目標の各々の領域へ向けて最適な直線運動量76を輸送する。
【0027】
中和すべき帯電した円形や正方形ではなく細長い領域を荷電中和する必要のある産業応用がある。従来知られているように、半導体ウェハー製造で一般的に必要となる帯電した大面積目標のいち例は、マニフォールドからある短い距離に配置された1400mm×400mmの略矩形表面である。
【0028】
本発明は以下に限定されないが、直径4.76mm(0.188inch)〜3.175mm(0.125inch)の円形断面を有した3〜5個のオリフィスを備えた本発明のマニフォールドが、特に既述したタイプおよび/または大きさの大面積目標に実質的に均一なイオン電流密度(すなわち均一なイオン分配)を提供するのに適している。これら3〜5個のオリフィスは、最も遠位の目標領域に一致する直線に沿って大まかに配置される。ここで「大まかに」との語は、出口オリフィスが1本の直線沿いに実質的に整列する必要がないことを意味している。また、「出口」は穴、オリフィス、傾斜オリフィス、(ここで示し説明した短い出口管のような)管小片、出口シリンダーおよび/またはスプレーオリフィスを含む。更に、「イオン化装置」との語は、あらゆる種類のイオン化エネルギー源を含み、イオン化コロナ電極、原子核崩壊およびX線を含むことができよう。公知となりまた公用されているように、「イオン流量」との用語はI=U Neを意味している。ここで、Iはイオン電流密度(A/m2)であり、Uは気体の流速(m/sec)であり、Nはイオン密度(1/m3)であり、eはイオン電荷であり通常電子電荷(C)に等しくなっている。
【0029】
図8に、3つの出口を有したマニフォールドで得られた放電時間(つまり荷電中和効率の標準測定値)および電圧平衡の実験結果を示す。帯電した目標領域は、長さ1400mm幅400mmの平板グリッドである。中心線沿い性能、左200mmでの性能および右200mmでの性能で結果を示す。従来周知の標準テスト条件下で測定したデータを示す。データは、(好ましくは、アースに対して約20ピコファラドの静電容量で)電気的に浮揚したプレートを(イオンバランステストのため)帯電させ、また(好ましくは、有効性のテストのため1000Vから100Vへ)放電させたテストを含み、図8の表の各ラインに示すデータを得た。表の各ラインは、繰り返すたびに平板グリッドを20cmずらして編纂された。図8の表に示すように、本発明の好ましい実施形態は、100cm×40cmの大面積の目標のあらゆる領域を毎分約60リットルの流量の窒素によって約10Vの電圧平衡に約100秒よりも短い時間で放電させることができた。
【0030】
ここに開示する本発明のマニフォールドの構成は、これに限定されないがACコロナイオン化装置と好ましく適合する。例えば、原子力、X線、電界放出その他公知のイオン化技術を用いたイオン化源を本発明の装置および方法で用いることができよう。
【0031】
現在最も実用的で好ましいと考えられる実施形態で本発明を説明したが、本発明は、開示の実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載の範囲内で種々の修正と均等物を包含することは理解されよう。既述した説明に関連して、例えば、本発明の部品の最適な寸法、材料、形状、形態、機能および作用、組立および使用は、当業者には容易に想到されよう。そして図面および明細書に記載されたものの均等物は全て本発明の範囲に包含される。従って、既述の説明は単なる一例であり、本発明の原理を網羅しているわけではない。
【0032】
明細書および特許請求の範囲で用いた成分量、反応条件等に関する数または表現は、全ての例において「約」との語によって修正されるとリカすべきである。従って、既述した或いは特許請求の範囲に記載した数値パラメータは、本発明によって所望される望ましい属性によって変更可能な近似値である。
【0033】
また、ここに記載した数値範囲は、そこに入る全ての部分範囲を含むことを意図している。例えば、「1〜10」との範囲は、最小値1と最大値10とを含み該最小値1と最大値10の間、つまり1以上10以下の全ての部分範囲を包含する。開示の数値範囲は連続しているので、最小値と最大値との間の全ての値を包含する。その旨明確に排除してなければ、本明細書に記載の種々の数値範囲は近似値である。
【0034】
本発明の特定の好ましい実施形態に関する説明は、種々の数値および数値範囲を含んでいる。特徴の数値および数値範囲は、詳細に説明した実施形態に適用され、課題を解決するための手段および特許請求の範囲に記載の一層広い本発明の概念は、他の用途、環境、背景により適切に容易に拡大、縮小可能である。従って、特定の数値および数値範囲は、本発明の原理を網羅しているわけではない。
【0035】
以下の米国特許文献に種々のイオン化装置および技術が開示されており、本願と一体をなすものとして引用する。1995年10月4日に米国特許出願第08/539,321号として出願され1998年12月8日発行されたSuzukiの米国第5,847,917号「空気のイオン化装置および方法」、2000年5月2日に米国特許出願第09/563,776号として出願され2003年5月13日発行されたLeriの米国特許第6,563,110号「直線型気体イオン化装置および方法」、2004年8月24日に米国特許出願第10/570085号として出願され、2007年1月11日に公開されたKotsujiの米国特許出願公開第2007/0006478号「イオン化装置」。
【符号の説明】
【0036】
1 マニフォールド
3 気体輸送チャンネル
4 出口オリフィス
4L 低位置にある出口オリフィス
4M 中間位置の出口オリフィス
4T 最上部にある出口オリフィス
6 イオン化気体流
7 イオン化装置
7E イオン放出器
8 イオン化装置の出口
9 経路
11 管部材
12 管部材
17 イオン化装置
18 イオン化装置の出口
19 マニフォールド
21 管部材
22 管部材
29 マニフォールド
51 マニフォールド
52 入口ポート
55 イオン放出器
58 参照電極
58A 参照電極
61 マニフォールド
64M 管小片
64L 管小片
64T 管小片
71 マニフォールド
74M 管小片
74L 管小片
74T 管小片
75 運動量線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン化気体流をイオン化気体流に変えるイオン化装置と共に用いられるイオン供給マニフォールドにおいて、
前記イオン化装置からイオン化気体流を受入れる少なくとも1つの入口を有した気体輸送チャンネルと、
前記気体輸送チャンネルを流通するイオン化気体流を少なくとも大面積目標の第1と第2の領域にそれぞれ供給される第1と第2の中和気体流に分割する少なくとも第1と第2の出口とを具備し、
前記第1の出口から流出するイオン流量が前記第2の出口から流出するイオン流量よりも多く、前記第1の出口と前記第1の領域の間の距離は、前記第2の出口と前記第2の領域との間の距離よりも長くなっており、前記第1と第2の領域に到達するイオンの分布が実質的に等しくなるようにしたイオン供給マニフォールド。
【請求項2】
前記イオン化装置は、前記第2の出口よりも前記第1の出口の近くに配置されており、前記イオン化装置から第1の出口へイオン化気体流における再結合による損失が、前記イオン化装置から前記第2の出口へのイオン化気体流における再結合による損失よりも小さくなっている請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項3】
前記マニフォールドが、更に出口面を具備し、少なくとも該出口面がPEEK(登録商標)樹脂から成る請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項4】
前記気体輸送チャンネルを前記イオン化装置に嵌合させるための手段を更に具備し、
該手段が雌雄スリップフィット、螺合、キーを設けた表面による嵌合から選択される請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項5】
前記輸送チャンネルの少なくとも一部が湾曲した内面を含み、前記第1と第2の出口が、該湾曲した内面を有した輸送チャンネルの部分に延在しており、前記第1と第2の出口の少なくとも一方が前記チャンネルの前記湾曲した内面に対して実質的に接線方向に延設されている請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項6】
前記輸送チャンネルの断面積は変化しており、かつ、一方の端部が閉じており、前記輸送チャンネルの断面積は、前記閉じた端部へ向かって漸減し、該閉じた端部へ向かってイオン化気体の圧力が増加するようになっている請求項5に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項7】
前記第1の出口は、障害物のない経路が、前記イオン化装置と該第1の出口との間に存在するように配置された長距離出口であって、
前記第2の出口は、障害物のない経路が、前記イオン化装置と該第2の出口との間に存在しないように配置された近位目標出口であり、
第1の出口からのイオン化気体流における再結合による損失が、第2の出口からのイオン化気体流における再結合による損失よりも小さくなっている請求項5に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項8】
前記第1と第2の出口が管小片を備えており、前記イオン化気体流が陽性気体から成る請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項9】
前記第1の出口の断面積が前記第2の出口の断面積以下である請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項10】
少なくとも第3の出口を更に具備し、前記第1と第2と第3の出口が、実質的に一直線上には配置されておらず、少なくとも1つの出口の縁部が面取りされている請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項11】
前記輸送チャンネルが、100秒以上の電荷緩和時間を有した耐熱性の熱可塑性チャンネルを具備し、前記イオン化装置が、非イオン化気体流を双極性イオン化気体流に変える高周波数ACイオン化装置である請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項12】
前記気体輸送チャンネルは、表面粗さRaは812μm (32×10-6inch)を超えない内面を有しており、該輸送チャンネルを流通するイオン化気体流による滞留時間および再結合による損失を低減するようになっている請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項13】
前記イオン化装置は、少なくとも部分的に前記気体輸送チャンネル内に配置されており、非イオン化気体流のイオン化気体流への変換が、前記輸送チャンネル内で生じ、マニフォールド内での滞留時間および再結合による損失が低減されるようになっている請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項14】
イオン化装置は、マニフォールドの気体輸送チャンネルの方に向けられたイオン化先端を有したコロナ放電電極であって、該電極は排気ポートおよび少なくとも部分的に気体輸送チャンネル内に配設された出口とを備えたシェル内に配置される請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項15】
前記マニフォールドは、更に、複数の管部材を具備しており、前記第1の出口は、他の管部材よりも前記輸送チャンネルの入口に最も近い位置に基端部がある管部材に連結されている請求項1に記載のイオン供給マニフォールド。
【請求項16】
複数の中和気体流を夫々中和すべき帯電した大面積目標の複数の領域へ供給する方法において、
双極性イオン化気体流を受取り、
該イオン化気体流を複数の中和気体流に分割し、
前記複数の中和気体流を前記大面積目標の夫々の領域へ向けて方向づけ、
1つの前記中和気体流のイオン流量は、他の中和気体流のイオン流量よりも大きくなっており、
イオン流量が最も高い中和気体流が、前記大面積目標のうち長距離領域へ向けて方向づけられ、前記複数の領域へ到達イオンの分布が少なくとも実質的に等しくなるようにした方法。
【請求項17】
前記方向づける段階は、約100cm×40cmの大面積目標のあらゆる領域を約10Vの電圧平衡に約100秒よりも短い時間で1000Vから100Vに放電させることを更に含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記分割する段階は、更に、イオン化気体を第1と第2と第3の中和気体流に分割することを含み、第1の中和気体流の流量は第2の中和気体流の流量よりも大きく、第2の中和気体流の流量は第3の中和気体流の流量よりも大きく、
前記方向づける段階は、前記第1と第2と第3の中和気体流を夫々前記大面積目標の第1と第2と第3の領域へ方向づける段階を含み、前記第1の中和気体流は前記大面積目標の長距離領域へ方向づけられ、前記第2の中和気体流は前記大面積目標の中間距離目標領域へ方向づけられ、前記第3の中和気体流は前記大面積目標の近位目標領域へ方向づけられる請求項16に記載の方法。
【請求項19】
イオン化気体流を複数の中和気体流に分割する段階は、イオン化気体を双極性の高速中和気体流、中間速度中和気体流および低速中和気体流に分割することを含み、高速中和気体流は最高のイオン流量を有している請求項16に記載の方法。
【請求項20】
非イオン化気体流を受取り、大面積目標に複数の中和気体流を供給するイオン化マニフォールドにおいて、
前記非イオン化気体流内に双極性電荷担体を生成するコロナ放電電極を有し、下流方向に流れるイオン化気体流を形成するACイオン化装置と、
イオン化気体流が流通する気体輸送チャンネルであって、前記電極が少なくとも部分的に該輸送チャンネル内に配置されるようにした気体輸送チャンネルと、
少なくとも部分的に前記コロナ放電電極の下流に配設された参照電極と、
前記イオン化気体流を前記輸送チャンネルから流通する第1と第2の中和気体流に分割する少なくとも第1と第2の出口とを具備し、
前記前記第1の中和気体流のイオン流量が、前記第2の中和気体流のイオン流量と異なっているようにしたイオン化マニフォールド。
【請求項21】
前記第1と第2の中和気体流が夫々大面積目標の第1と第2の領域へ向けて方向づけられ、前記第1の出口から流出するイオン流量が前記第2の出口から流出するイオン流量よりも大きく、
前記第1の出口から前記第1の領域へは、前記第2の出口から前記第2の領域までの距離よりも遠く、
前記第1と第2の領域へ到達するイオンの分布が実質的に等しくなっている請求項20に記載のイオン化マニフォールド。
【請求項22】
前記輸送チャンネルが100秒以上の電荷緩和時間を有したポリマから少なくとも部分的に形成された外表面を更に具備しており、
前記イオン化装置が、高周波数ACイオン化装置であり、
前記参照電極がポリマーから形成された前記外表面の部分に配置されている請求項20に記載のイオン化マニフォールド。
【請求項23】
前記参照電極が前記輸送チャンネルと一体的に形成されており、前記非イオン化気体流が陽性気体から成る請求項20に記載のイオン化マニフォールド。
【請求項24】
前記輸送チャンネルの少なくとも一部が湾曲した内面を含み、前記第1と第2の出口が、該湾曲した内面を有した輸送チャンネルの部分に延在しており、前記第1と第2の出口の少なくとも一方が前記チャンネルの前記湾曲した内面に対して実質的に接線方向に延設されている請求項20に記載のイオン化マニフォールド。
【請求項25】
前記第1の出口は、障害物のない経路が、前記電極と該第1の出口との間に存在するように配置された長距離出口であって、
前記第2の出口は、障害物のない経路が、前記電極と該第2の出口との間に存在しないように配置された近位目標出口であり、
前記電極から第1の出口へのイオン化気体流における再結合による損失が、前記電極から第2の出口へのイオン化気体流における再結合による損失よりも小さくなっている請求項20に記載のイオン化マニフォールド。
【請求項26】
前記第1の出口の断面積が前記第2の出口の断面積以下である請求項20に記載のイオン化マニフォールド。
【請求項27】
前記電極は、前記第2の出口よりも前記第1の出口の近傍に配置されており、
前記イオン化装置から第1の出口へのイオン化気体流における再結合による損失が、前記イオン化装置から第2の出口へのイオン化気体流における再結合による損失よりも小さくなっている請求項20に記載のイオン化マニフォールド。
【請求項28】
前記輸送チャンネルの少なくとも一部が湾曲した内面を含み、前記第1と第2の出口が、湾曲した内面を有した輸送チャンネルの部分に延在しており、前記輸送チャンネルから流出する第1と第2の中和気体流が、前記輸送チャンネルの前記湾曲した内面によって生成された接線方向の力および向心力によって前記第1と第2の領域へ向けて流動する請求項20に記載のイオン化マニフォールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−508155(P2013−508155A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536930(P2012−536930)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/053996
【国際公開番号】WO2011/053556
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(591203428)イリノイ トゥール ワークス インコーポレイティド (309)
【Fターム(参考)】