説明

イオン化装置、質量分析器、イオン移動度計、電子捕獲検出器およびクロマトグラフ用荷電粒子計測装置

【課題】軟X線を用いて試料分子をイオン化する際のイオン密度を高めることができるイオン化装置を提供する。
【解決手段】イオン化装置1は、本体部21、軟X線管3、及び電極4,5を備える。本体部21は、所定の軸方向に延びており試料分子をイオン化するイオン化室2と、イオン化室2に試料分子を導入する導入口22と、試料分子イオンを排出する排出口23とを有する。軟X線管3は、電子源31と、電子源31からの電子を受けて軟X線を発生するターゲット部32とを有する。電極4,5はイオン化室2の一端側、他端側にそれぞれ設けられている。軟X線管3の軟X線出射軸方向は、上記所定の軸方向と交差している。ターゲット部32に設けられた電極32bと電極5とは、互いに短絡されている。導入口22の中心軸方向は、軟X線出射軸方向と交差している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化装置、質量分析器、イオン移動度計、電子捕獲検出器およびクロマトグラフ用荷電粒子計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気圧環境下で用いられるイオン化装置としては、例えば放射性同位元素から放射される放射線を利用したものや、コロナ放電を利用したもの等が一般的に用いられている。しかし、放射線を利用する装置は、管理が容易ではない。また、コロナ放電を利用する装置は、放電の際の電極欠損に伴う汚染やイオン化効率の劣化、或いは試料の分解といった問題がある。
【0003】
これらの問題点を回避できるイオン化装置として、現在、軟X線を用いて試料分子をイオン化する装置が開発されつつある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−68053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の先行技術に記載の構造においては以下のような問題がある。例えば、図31(a)に示すように、イオン化室201のイオン排出口202とは逆側の端部に設けられた電極203と、イオン化室201の延びる軸Cとの成す角度が鋭角である場合、電極203とX線管204の電極205とで挟まれた空間には電界Eが入り込みにくく、形成されたイオンが搬出され難い。またX線管204の電極205の近傍で形成されたイオンも、電界の形状からイオン導入グリッド206に到達せず、大多数がイオン化室201の壁面に吸収され、一部のみがグリッド206に到る軌道(図中の軌道I)をとりやすい。
【0005】
また、図31(b)に示すように、イオン化室211のイオン排出口212とは逆側の端部にルーバー状電極213を設けた場合、電界Eはルーバー状電極213同士の間の空間には形成され難く、そこで形成されるイオンが搬出され難い。またX線管204の電極205の近傍で形成されるイオンにおいても、ルーバー状電極213と重ならない部分でのイオンのみが電界に沿って移動するが、これも形成される電界の形状からイオン化室211の壁面に衝突し中和され易い(図中の軌道I)。つまり、形成されたイオンをイオン化室から取り出す効率が悪く、そのイオン密度は低くなってしまう場合があった。
【0006】
本発明は、上記した問題点を鑑みてなされたものであり、軟X線を用いて試料分子をイオン化する際にイオン化室から取り出すイオン密度を高めることができるイオン化装置、並びに該イオン化装置を備える質量分析器、イオン移動度計、電子捕獲検出器およびクロマトグラフ用荷電粒子計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、本発明によるイオン化装置は、所定の軸方向に延びており試料分子をイオン化するイオン化室、イオン化室内に試料分子を導入する導入口、及び、所定の軸方向におけるイオン化室の一端側に形成され、イオン化室においてイオン化された試料分子を排出する排出口を有する本体部と、電子源、該電子源からの電子を受けて軟X線を発生するターゲット部、電子源及びターゲット部を収容する真空容器、並びにターゲット部から放出された軟X線を透過して真空容器の外部へ出射するための窓部を有し、イオン化室内へ軟X線を照射する軟X線源と、イオン化された試料分子を通過させる開口を有し、排出口に設けられた第1の電極と、所定の軸方向におけるイオン化室の他端側に設けられた第2の電極とを備え、軟X線源の軟X線出射軸方向が所定の軸方向と交差しており、イオン化室に臨む第2の電極の表面と所定の軸とが成す角度が略垂直であることを特徴とする。
【0008】
上記したイオン化装置では、第1の電極と第2の電極との間に電位差が与えられることにより、所定の軸方向に沿った電界がイオン化室内に形成される。また、導入口からイオン化室内に試料分子が導入され、同じ導入口(或いは異なる導入口でもよい)からベースガス(窒素ガス等)が導入される。ベースガスに軟X線が照射されるとベースガスがイオン化し、このイオン化したベースガスと試料分子とのイオン分子反応(プロトン転移、イオン付加、或いは電荷転移等)や電子付加などにより、試料分子がイオン化する。こうして生成された試料分子イオンは、電界によって加速され、排出口からイオン化室の外部へ排出される。
【0009】
上記したイオン化装置では、軟X線源の軟X線出射軸方向と所定の軸方向(すなわちイオンの移動方向)とが交差しており、さらに、イオン化室に臨む第2の電極の表面と所定の軸とが成す角度が略垂直となっている。これにより、イオン化室内において、電界が効果的に形成され、イオン(以下の説明において、単に「イオン」と記す場合には、ベースガスイオン及び試料分子イオンの双方を指すものとする)を排出口へと効率よく排出することができるので、イオン化室から取り出すイオン密度を高めることができる。
【0010】
また、イオン化装置は、ターゲット部に電極が設けられ、ターゲット部の電極と第2の電極とが互いに短絡されたり、ターゲット部の電極と第2の電極とに与える電位を制御可能な制御部をさらに備え、制御部が、ターゲット部の電極と第2の電極とが互いに同電位となるように制御することが好ましい。これにより、イオン化室の中心軸付近に効果的に集束させ得るような電界が生じる。イオン化室内においては、軟X線源に近い領域ほどイオンが多く発生するが、上記したイオン化装置では、前述した電界によって、軟X線源に近い領域で発生したイオンが軟X線源から速やかに離れ、イオン化室の中心軸付近に集束する。従って、上記したイオン化装置によれば、軟X線源の近傍においてベースガス並びに試料分子のイオン化を効率よく行うことができるので、イオン密度を高めることができる。また、このイオン化装置によれば、軟X線源のターゲット部に設けられた電極等とイオンとの衝突を抑制できるので、イオンの中性分子化(中和)を低減し、イオン密度を更に高めることができる。
【0011】
また、イオン化装置は、ターゲット部の電極と第2の電極とが互いに接していることが好ましい。これにより、簡易な構成によってターゲット部の電極と第2の電極とを互いに短絡させることができる。
【0012】
また、イオン化装置は、窓部において軟X線を透過する窓材が、シリコン及び窒化シリコンのうち少なくとも一方を含むことを特徴としてもよい。これにより、更に小さなエネルギーの軟X線を軟X線源から取り出すことができる。軟X線源の窓部近傍においては、軟X線がガスと反応する際の相関係数が、軟X線のエネルギーが小さいほど高まる。従って、このイオン化装置によれば、エネルギーがより小さい軟X線を利用してイオン密度を更に高めることができる。
【0013】
また、イオン化装置は、軟X線源及び第2の電極それぞれの表面を除くイオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴としてもよい。これにより、イオン化室内において軟X線の照射により二次電子が放出されることを効果的に抑制できるので、正の試料分子イオンを発生させる場合に、試料分子イオンの中性分子化(中和)を抑え、試料分子イオンのイオン密度を更に高めることができる。この場合、イオン化装置は、第1の電極と第2の電極との間に中間電極を更に備え、中間電極のイオン化室側の端部が絶縁性部材に覆われていてもよい。これにより、第1の電極と第2の電極との間の電界をより効果的に形成できるとともに、中間電極からの二次電子の放出を効果的に抑制できる。また、第1の電極の開口の内面が、イオン化室の排出口の内面と連続しているか、或いは、排出口の中心軸を基準として排出口の内面よりも外側に位置してもよい。これにより、第1の電極からの二次電子の放出を効果的に抑制できる。
【0014】
また、イオン化装置は、第1の電極と第2の電極との間に中間電極を更に備え、軟X線源及び第2の電極及びイオン化室の内面から突出している中間電極のイオン化室側の端部のそれぞれの表面を除くイオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴としても良い。これにより、中間電極に軟X線が照射されて二次電子が多く放出されるので、負の試料分子イオンを発生させる場合にイオンの生成を助け、イオン密度を高めることができる。
【0015】
また、イオン化装置は、イオン化室における所定の軸方向に沿った内面に対して軟X線源の窓部が後退して配置されており、窓部とイオン化室との間に設けられ、軟X線を透過するとともに、窓部と短絡された別の窓部を更に備えることを特徴としてもよい。軟X線源の窓部がイオン化室の内面に対して後退して配置されることにより、イオン化室における軟X線の照射範囲を限定し、イオン化室内での二次電子の発生を低減できる。また、軟X線源の窓部とイオン化室との間に該窓部と同電位の別の窓部を備えることにより、軟X線源の後退によって生じた空間に試料分子などが滞留することを防ぎ、且つ、イオン化室内の前述した電界を効果的に形成できる。
【0016】
また、イオン化装置は、イオン化室における所定の軸方向に沿った内面に対して軟X線源の窓部が後退して配置されており、窓部とイオン化室との間にコリメータを更に備えることを特徴としてもよい。これにより、イオン化室における軟X線の照射範囲を限定し、イオン化室内での二次電子の発生を低減できるとともに、ターゲット部の電極と第2の電極とをコリメータを介して容易に短絡させ得る。また、軟X線源の窓部を単に後退させる場合と比較して、軟X線源のターゲット部とイオン化室との距離をより短くしても軟X線の照射範囲を効果的に限定できるので、エネルギーが小さい(すなわち、ベースガスとの相関係数が高い)軟X線を効率よく利用できる。従って、イオン密度を更に高めることができる。
【0017】
また、イオン化装置は、イオン化室を気密に保つシール部材を更に備え、シール部材が、軟X線源の周囲に設けられ、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含むことを特徴としてもよい。或いは、シール部材が、X線源とイオン化室との間に設けられた金属または炭素系材料を含む環状部材であることを特徴としてもよい。これにより、例えば300℃前後といった高温環境下においても、シール部材からのガス放出が極めて少なく、シール部材の熱分解も生じないので、イオン化室の気密状態を好適に維持できる。
【0018】
また、イオン化装置は、本体部を収容して高温に保持する保温容器を更に備え、電子源が保温容器の外部に位置することを特徴としてもよい。イオン化装置においては、イオン化促進やクラスター化防止、或いは試料による汚染防止のため、イオン化室内を加熱する場合がある。このような場合、軟X線源の電子源を保温容器の外部に配置することにより、次の効果が得られる。例えば、電子源がフィラメントである場合には、フィラメントを保温容器の外部に配置することで熱による消耗や断線を抑制でき、軟X線源の寿命を長くできる。また、フィラメント以外の電子源を使用する場合においても、その動作に適した温度環境下に電子源を配置できる。
【0019】
また、イオン化装置は、軟X線源が電子源として冷陰極を有することを特徴としてもよい。これにより、電子源としてフィラメントを用いる場合と比較して電子源の温度上昇を低く抑えることができるので、イオン化室内の温度上昇を防ぎ、イオン化反応を安定して発生させることができる。また、例えばこのイオン化装置をイオン移動度計に応用する際には、イオン化室に続くドリフト室の温度上昇を抑え、計測精度を高めることができる。
【0020】
また、イオン化装置は、軟X線源が、電子源から出射された電子を偏向させる偏向部を更に有することを特徴としてもよい。この偏向部を用いて電子を走査することにより、ターゲット部において極めて短い時間幅の(時間的パルス状の)軟X線を生成できるので、時間的にパルス状となった試料分子イオンが容易に得られる。これにより、試料分子イオンを時間的パルス状に出射するためのゲートシャッタが不要になり、構造を簡素化できる。
【0021】
また、イオン化装置は、所定の軸方向に延びる管軸を有する第2の軟X線源をさらに備えることを特徴としてもよい。これにより、よりイオン化効率が向上する。
【0022】
また、本発明による質量分析器は、上記したいずれかのイオン化装置を備えることを特徴とする。この質量分析器によれば、試料分子を高密度でイオン化できるので、質量分析をより高い精度で行うことができる。
【0023】
また、本発明によるイオン移動度計は、上記したいずれかのイオン化装置を備えることを特徴とする。このイオン移動度計によれば、試料分子を高密度でイオン化できるので、試料分子の同定および定量分析をより高い精度で行うことができる。
【0024】
また、本発明による電子捕獲検出器は、上記したいずれかのイオン化装置を備えることを特徴とする。この電子捕獲検出器によれば、試料分子を高密度でイオン化できるので、試料分子の定量分析をより高い精度で行うことができる。
【0025】
また、本発明によるクロマトグラフ用荷電粒子計測装置は、上記したいずれかのイオン化装置を備えることを特徴とする。このクロマトグラフ用荷電粒子計測装置によれば、試料分子を高密度でイオン化できるので、試料分子の定量分析をより高い精度で行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によるイオン化装置、質量分析器、イオン移動度計、電子捕獲検出器およびクロマトグラフ用荷電粒子計測装置によれば、軟X線を用いて試料分子をイオン化する際にイオン化室から取り出すイオン密度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるイオン化装置、質量分析器、イオン移動度計、電子捕獲検出器およびクロマトグラフ用荷電粒子計測装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0028】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1実施形態として、イオン化装置1の構成を示す断面図である。なお、図1には、説明のためXYZ直交座標系が示されている。図1に示すように、イオン化装置1は、イオン化室2を有する本体部21と、軟X線管3と、電極4及び5と、シール機構6とを備える。
【0029】
イオン化室2は、試料分子をイオン化するために設けられた空間であり、ほぼ大気圧に保たれている。イオン化室2は、両端に開口21a,21bを有する筒状の本体部21内に形成されており、所定の軸方向(本実施形態ではX軸方向)に延びている。なお、本実施形態においては、本体部21として、YZ平面における外周断面形状が円形であり、内周断面形状が矩形である筒状部材を用いている。ただし、イオン化室2の後述する排出口23近傍は矩形に内接する円形に成っている。本体部21は、電気絶縁性材料からなる。
【0030】
本体部21には、導入口22及び排出口23が更に形成されている。導入口22は、イオン化室2の内部に試料分子及びベースガスを導入するための開口である。導入口22の中心軸方向は、軟X線管3の軟X線出射軸方向と交差するように設定されている。なお、本実施形態においては、導入口22の中心軸方向はY軸方向に設定され、軟X線管3の軟X線出射軸方向はZ軸方向に設定されている。導入口22は、その中心軸線が軟X線管3の軟X線出射軸線Bと直交する位置及び角度で形成されていることが好ましい。
【0031】
排出口23は、イオン化室2において生成された試料分子イオンを排出するための開口である。排出口23は、本体部21において、所定の軸方向(X軸方向)におけるイオン化室2の一端側に形成されており、本実施形態では、開口21aが排出口23となっている。すなわち、イオン化室2は、排出口23を通して外部空間と連通している。排出口23は、その中心軸線Aが、軟X線管3の軟X線出射軸線Bと直交し、導入口22の中心軸線とも直交する位置及び角度で形成されていることが好ましい。
【0032】
軟X線管3は、イオン化室2の内部へ軟X線を照射するための軟X線源である。本実施形態の軟X線管3は、本体部21においてイオン化室2の内面に通じる軟X線管挿入口24に取り付けられ、本体部21に固定されている。軟X線管3は、真空容器30、電子源31、ターゲット部32、及び窓部33を有する。
【0033】
真空容器30は、電子源31及びターゲット部32を収容するための容器である。本実施形態の真空容器30は、軟X線出射軸方向(Z軸方向)を長手方向とする筒状を呈しており、気密に封止され内部を真空状態に保っている。
【0034】
電子源31は、熱電子や光電子、電界放出電子といった電子を放出するための部分である。電子源31は、真空容器30の長手方向の一端側(イオン化室2から離れた側)に配置されている。本実施形態の電子源31は、フィラメント31aと、電子を集束し加速するための図示しない電極とを含んで構成される。なお、電子源31は、フィラメント31aに代えて例えば冷陰極等を備えても良い。また、電子源31は、放出される電子の量やその加速電圧が可変であることが好ましい。
【0035】
ターゲット部32は、電子源31からの電子を受けて軟X線を発生するための部分である。ターゲット部32は、真空容器30の長手方向の他端側(イオン化室2に近い側)に配置されている。ターゲット部32は、電子の衝突により軟X線を放出するタングステン等からなるターゲット32aと、該ターゲット32aに電位を与えるターゲット電極32bとを含む。ターゲット電極32bは、ターゲット32aの外周を囲むフランジ状に形成されており、真空容器30の他端に封着されて固定されている。
【0036】
窓部33は、ターゲット部32から放出された軟X線を透過して真空容器30の外部(すなわちイオン化室2の内部)へ出射するための部分である。窓部33は、その真空側にターゲット32aを保持する軟X線を透過する窓材33aと、該窓材33aに電位を与える電極(本実施形態においては、ターゲット電極32bが兼ねる)とを含む。窓材33aは、例えばアルミニウム、チタン、ベリリウム、シリコン、または窒化シリコン等の軟X線を透過する材料からなる平板状の部材である。特に、窓材33aがシリコン及び窒化シリコンのうち少なくとも一方を含むことにより、通常の軟X線管と比較して更に小さなエネルギーのSiの示性X線を放射できる。窓材33aは、ターゲット電極32bに封着される。なお、窓材33aに電位を与える電極がターゲット電極32bとは別に設けられる場合には、窓材33aの電極とターゲット電極32bとを短絡し、同電位とするとよい。
【0037】
電極4は、本実施形態における第1の電極である。電極4は、所定の軸方向(X軸方向)におけるイオン化室2の一端側に設けられている。電極4は、イオン化室2の排出口23(開口21a)を覆うように設けられており、イオン化された試料分子を通過させる開口41を有する。本実施形態の電極4は、網状(メッシュ状)に形成されたメッシュ部42を有しており、該メッシュ部42に形成された多数の隙間が、開口41を構成している。
【0038】
電極5は、本実施形態における第2の電極である。電極5は、所定の軸方向(X軸方向)におけるイオン化室2の他端側に設けられている。電極5は、所定の軸方向と垂直に交わるようにZ軸方向に延びておりイオン化室2に臨む平面部5bによってイオン化室2の開口21bを塞ぐように設けられており、終端電極として機能する。また、電極5は、軟X線管3のターゲット電極32bと接している。これにより、ターゲット電極32bと電極5とが互いに短絡し、同電位となっている。なお、電極5とターゲット電極32bとの短絡は、互いに直に接する以外にも、例えば導電性の配線やばね材などを介して実現されてもよい。電極4,5は、それぞれリード端子43,50を介してイオン化装置1の外部電源と電気的に接続される。
【0039】
シール機構6は、軟X線源3の周囲に設けられ、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間を封止することにより、イオン化室2を気密に保つための機構である。シール機構6は、軟X線源3の周囲に設けられイオン化室2を気密に保つシール部材60を有する。シール部材60としては、例えばOリングやガスケットが用いられるが、イオン化装置1を高温環境下で用いる場合を考慮し、耐熱性が高くガス放出が少ない例えばパーフロロ系のOリングを用いると尚良い。
【0040】
また、シール機構6は、本体部21に固定され、軟X線管挿入口24と連通しており、シール部材60を斜め下方から支持する筒状の支持部材61と、支持部材61に内側から螺合して上下方向(Z軸方向)に移動可能な筒状の移動部材62と、移動部材62の下方に配置され、シール部材60に斜め上方から当接する環状部材63とを有する。このシール機構6においては、移動部材62を回転させて下方(Z軸負方向)へ移動させることにより、支持部材61と環状部材63とによってシール部材60が軟X線管3の真空容器30に押し付けられる。これにより、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止される。
【0041】
以上の構成を備える本実施形態のイオン化装置1の作用および効果について説明する。イオン化装置1においては、まず、電極4,5に所定の電圧が印加され、電極4と電極5との間に電位差が与えられる。これにより、所定の軸方向(X軸方向)に沿った電界がイオン化室2の内部に形成される。なお、このとき、イオン化室2の内部において正の試料分子イオンが生成される場合には、電極4の電位が電極5の電位よりも低く設定される。逆に、負の試料分子イオンが生成される場合には、電極4の電位が電極5の電位よりも高く設定される。より詳細には、正の試料分子イオンが生成される場合には、(電極4)<(ターゲット電極32b)≦(電極5)の電位関係を満たすのが好ましく、逆に、負の試料分子イオンが生成される場合には、(電極5)≦(ターゲット電極32b)<(電極4)の電位関係を満たすのが好ましい。
【0042】
続いて、導入口22からイオン化室2の内部に試料分子が導入され、同じ導入口22(或いは異なる導入口でもよい)からベースガス(窒素ガス等)が導入される。軟X線源3からベースガスに軟X線が照射されると、ベースガスがイオン化し、このイオン化したベースガスと試料分子とのイオン分子反応(プロトン転移、イオン付加、或いは電荷転移等)や電子付加などにより、試料分子がイオン化する。このときの反応は、真空紫外光(VUV)により試料分子が直接的にイオン化される光イオン化とは異なる。また、イオン化効率を高める目的で、イオン化され易いドーバントガスをベースガスに含ませてもよい。なお、試料分子及びベースガスをそれぞれ異なる導入口から導入する場合、ベースガス導入口を試料分子導入口より上流側に設け、ベースガスを先にイオン化し、その下流で試料分子とベースガスイオンとを反応させるとよい。また、試料分子は、気体の他、ナノパーティクルやPM等の微粉末固体であってもよい。
【0043】
イオン化した試料分子は、電極4,5によって形成された電界によって加速され、排出口23に設けられた電極4のメッシュ部42の開口41を通過してイオン化室2の外部へ放出される。このとき、試料分子イオンと共に、イオン化に用いられたベースガス等も排出される。試料分子イオンを放出する際の推進力としては、メッシュ部42前後の電界を利用してもよく、或いは、イオン化室2に供給されるガスの流れを利用してもよい。また、排出口23は、本実施形態のように電極5と対向して配置されることが好ましいが、これとは別の向きに設けられても良い。なお、正イオンが生成される場合、イオン化により生じた電子は電極5に捕集される。
【0044】
本実施形態のイオン化装置1においては、軟X線源3の軟X線出射軸方向(Z軸方向)と所定の軸方向(X軸方向、すなわちイオンの移動方向)とが交差(本実施形態では、直交)しており、さらに、イオン化室2の所定の軸方向(本実施形態ではX軸方向)と、イオン化室2に臨む電極5の表面(平面部)5bとが成す角度が垂直となっている。また、ターゲット部32に設けられたターゲット電極32bと電極5とが短絡して同電位となっている。これにより、イオン化室2の実質的な終端電極は、電極5及びターゲット電極32bによって構成される。すなわち、この実質的な終端電極は、所定の軸方向(X軸方向)におけるイオン化室2の端部を構成する部分(電極5)と、所定の軸方向(X軸方向)に沿ったイオン化室2の内面の一部を構成する部分(ターゲット電極32b)とを含むことにより、イオン化室2に対してX軸負方向とZ軸正方向とに配置されている。
【0045】
この実質的な終端電極により、イオン化室2の内部における窓部33近傍の領域において、イオンをイオン化室2の中心軸付近に効果的に集束させ得るような電界が生じる。本構造を簡略化した図2を参照すると、イオン化室2では電極5から電極4に向かい、効果的な電界Eが形成され、窓部33近傍では電界Eがイオン化室2の中心軸方向を向いて形成される。イオン化室2では、窓部33に近い領域ほどイオンが多く発生するが、前述した電界の作用により、窓部33に近い領域で発生したイオンが窓部33の近傍から速やかに離れてイオン化室2の中心軸付近に集束する(図中のイオン軌道I)。従って、本実施形態のイオン化装置1によれば、窓部33の近傍においてベースガス並びに試料分子のイオン化を効率よく行うことができるので、生成されるイオンの密度を高めることができる。なお、これは、イオン化室2の所定の軸方向と電極5の平面部5bとが成す角が垂直である場合に限らず、略垂直、好ましくは80°〜120°の間でも良い。この場合、イオン化室2の所定の軸方向を変えることなく、電極5の平面部5bが傾斜するのが好ましい。また、イオン化室2に臨む電極5の表面の形状は、平面状に限られるものではない。例えば、図3(a)に示すような球面状の表面5c、図3(b)に示すように球面の中央部が平坦となっている表面5d、図3(c)に示すように表面の一部が平面で他の一部が曲面となっている表面5eなど、電極5の表面には様々な形状が可能である。
【0046】
また、本実施形態のイオン化装置1によれば、前述した電界の作用により、軟X線源3のターゲット電極32b等とイオンとの衝突を抑えることができる。従って、イオンの中性分子化(中和)を低減でき、生成される試料分子イオンの密度を更に高めることができる。
【0047】
また、本実施形態のイオン化装置1によれば、正の試料分子イオンを生成する際に、ターゲット電極32bの電位を電極5と同じ正電位(例えば+3kV)に設定できるので、このターゲット電極32bの電位の分だけフィラメント31aの電位を高く(例えば、接地電位に対して−3kVないし−7kV)できる。これにより、一般的に高圧となる軟X線管3と接地電位との電位差を低く抑えることができ、軟X線管3と接する周辺部材との耐圧性能を向上できる。
【0048】
また、本実施形態のイオン化装置1によれば、軟X線源3の軟X線出射軸方向(Z軸方向)とイオンの放出方向(X軸方向)とが交差しているので、軟X線の照射範囲が限定され、イオン化室2の外部へ軟X線が漏れることを抑制できる。従って、イオン化室2の外部における意図しないイオンや二次電子の発生を抑えることができる。
【0049】
また、本実施形態のように、軟X線管3は、電子源31からの電子の量やその加速電圧が可変であることが好ましい。これにより、イオン化したい試料分子の量に応じてベースガスイオンの生成量を調節することが可能となる。従って、必要以上のベースガスイオンの発生を抑え、空間電荷効果による試料分子イオンの拡散や、イオン化室2におけるチャージアップ等の問題を解決できる。
【0050】
また、本実施形態のように、ターゲット電極32bと電極5とは互いに接していることが好ましい。これにより、簡易な構成によってターゲット電極32bと電極5とを互いに短絡させることができる。
【0051】
また、本実施形態のように、軟X線管3の窓材33aは、シリコン及び窒化シリコンのうち少なくとも一方を含むことが好ましい。これにより、例えば2keV以下といった小さなエネルギーの軟X線を軟X線管3から取り出すことができる。イオン化室2における窓部33近傍の領域においては、軟X線がベースガスと反応する際の相関係数が、軟X線のエネルギーが小さいほど高まる。従って、窓材33aがこのような構成を有することにより、エネルギーがより小さい軟X線を利用してイオン密度を更に高めることができる。
【0052】
なお、本実施形態のイオン化装置1は、放射性同位元素から放射される放射線やコロナ放電を利用した従来のイオン化装置に対しても、次の利点を有する。すなわち、軟X線を利用してイオン化を行うことにより、放射性同位元素を利用する場合と比較して安全性が高く、管理者の設置や使用空間の限定等が必要なく扱いやすい。また、コロナ放電と比較して、イオン電流の安定性が高く、イオン化装置1の後段や近傍に配置される電気系統にノイズを与えないことに加え、電極の放電破壊に伴う不純物が発生しない。また、真空紫外光(VUV)等によるベースガスのイオン化と比較して照射エネルギーを大きくできるので、ベースガス種の制限が少なく、またイオンをより多く生成できる。
【0053】
また、コロナ放電を利用する方式では、放電用電極の電圧が極めて高いので、それによる電界がイオン化反応空間内に形成されてしまい、イオンの挙動がその電界に影響され、イオンの流れを制御することが難しい。なお、この電界による影響を防ぐため、ある程度隔離された別の空間においてコロナ放電によりベースガスイオンを生成し、このベースガスイオンをイオン化室へ送り込む方法もある。しかし、この場合、イオン化室においてベースガスイオンを速やかに拡散させなければ、イオン化室内で均一に且つ速やかに試料分子をイオン化することは難しく、イオン化効率も低下してしまう。
【0054】
これに対し、軟X線を用いる本実施形態のイオン化装置1によれば、イオン化室2に形成される電界(イオンと電子とを分離するための電界)を低くでき、また、電界が形成されていなくとも動作できる。また、軟X線の放射範囲は広いので、広範囲にわたってベースガスを効率よく電離させることができる。従って、イオン化室2において速やかに均一な反応が可能となり、イオン化効率を向上できる。
【0055】
また、前述したように、軟X線管3の電子源31からの電子の量やその加速電圧を調節することによって、ベースガスイオンの生成量を容易に調節できる。従って、試料分子イオンに対しベースガスイオンが多く余った場合における試料分子イオンへの影響、例えば、ベースガスイオンとの空間電荷効果によって試料分子イオンが反発して拡散したり、或いはイオン化室2や後段に設けられる空間などにおいて試料分子イオンがチャージアップする等といった影響を低減できる。
【0056】
(変形例)
次に、上記実施形態によるイオン化装置1の様々な変形例について説明する。
【0057】
図4は、上記実施形態の第1変形例に係るイオン化装置1aの構成を示す断面図である。イオン化装置1aの本体部21は、試料分子及びベースガスを導入するための導入口として、上記実施形態の導入口22(図1参照)に代えて導入管25を備える。導入管25は、所定の軸方向(X軸方向)に延びる筒状の部材であり、電極5の平面部5bをX軸方向に貫通して設けられている。従って、導入管25の中心軸方向は、軟X線管3の軟X線出射軸方向(Z軸方向)と交差(本変形例では直交)している。なお、この変形例では、導入管25の中心軸線は、排出口23の中心軸線Aと一致しており、軟X線管3の軟X線出射軸線Bと直交している。
【0058】
また、図5は、上記実施形態の第2変形例に係るイオン化装置1bの構成を示す断面図である。イオン化装置1bは、第2の電極として、上記実施形態の電極5に代えて電極5aを備える。電極5aは、所定の軸方向(X軸方向)におけるイオン化室2の他端側に設けられ、電極4と対向している。電極5aは、イオン化室2の他端側の開口21bを覆うように設けられている。この変形例では、この開口21bがベースガス及び試料分子の導入口26となっており、電極5aは、ベースガス及び試料分子を通過させる開口51を有する。具体的には、電極5aは、網状(メッシュ状)部材が平面状に形成されたメッシュ部52を有しており、該メッシュ部52に形成された多数の隙間が、開口51を構成している。また、電極5aは、ターゲット電極32bと短絡するとともにイオン化室2の内部に効果的に電界を形成するための電極部分53を有する。
【0059】
図4,図5に示した例のように、ベースガスや試料分子の導入口を、排出口23の反対側に排出口23と同軸で設け、導入口の中心軸方向を、軟X線管3の軟X線出射軸方向と交差(本変形例では直交)させてもよい。なお、図4に示したように電極5に導入管25を通す場合、イオン化室2における電界形成や耐圧性の観点から、導入管25の一部(電極5と接触する部分とその近傍)または全部を絶縁性材料により構成することが好ましい。
【0060】
図6〜図8は、上記実施形態の第3〜第5変形例に係るイオン化装置1c〜1eの構成を示す断面図である。これらの変形例に係るイオン化装置1c〜1eは、第1の電極の形状に特徴を有する。
【0061】
図6に示すイオン化装置1cは、上記実施形態に係るイオン化装置1の構成において、電極4(図1参照)に代えて電極4bを備える。電極4bは、イオン化室2の排出口23に設けられており、試料分子イオンを通過させる開口44を有する。開口44の内面(端面)は排出口23の内面(すなわち、所定の軸方向(X軸方向)に沿ったイオン化室2の内面)と連続している。具体的には、所定の軸方向(X軸方向)から見て開口44は排出口23と同じ形状に形成されており、互いの縁が重なるようにそれぞれ配置されている。また、本変形例の電極4bは、上記実施形態の電極4(図1参照)と異なり、メッシュ部を有していない。このため、電極4bは、排出口23を全く覆っていない。
【0062】
また、図7に示すイオン化装置1dは、図4に示した第1変形例の構成において、電極4に代えて電極4bを備える。また、図8に示すイオン化装置1eは、図5に示した第2変形例の構成において、電極4に代えて電極4bを備える。これらの図7,図8に示す電極4bの形状は、図6に示したイオン化装置1cのものと同じである。
【0063】
図6〜図8に示したように、第1の電極(電極4b)がメッシュ部を有さず、その開口44の内面が排出口23の内面と連続している(すなわち、電極4bが排出口23を覆わない)ことにより、軟X線が電極4bに照射されることを防ぎ、電極4bからの二次電子の放出を効果的に抑制できる。
【0064】
図9は、上記実施形態の第6変形例に係るイオン化装置1fの構成を示す断面図である。イオン化装置1fは、電極4及び5に加え、更に中間電極71及び72を備える。中間電極71,72は、電極4と電極5との間に並んで配置されており、電極4及び5と協働してイオン化室2の内部に電界を形成する。そのため、電極4、中間電極71、中間電極72、及び電極5の順に電位が次第に高くなる(または次第に低くなる)ように、各電極に電位勾配が与えられる。例えば、図9では、電極4のリード端子43、中間電極71のリード端子73、中間電極72のリード端子74、及び電極5のリード端子50が、ブリーダ回路基板75に(着脱可能に)接続されており、電源電圧が分圧されてこれらのリード端子に供給される。なお、形成されたイオンを軟X線管3の窓部33近傍からイオン化室2の中心軸側に移動する電界を形成し易くするため、中間電極71及び72は、軟X線源3が取り付けられる側とは反対側にのみ設けられることが好ましい。また、この変形例では、中間電極71及び72のイオン化室2側の端部71a及び72aは、所定の軸方向(X軸方向)に沿ったイオン化室2の内面から突出することなく、この内面と同じ面内に位置している。これにより、二次電子の発生が抑えられている。
【0065】
この変形例のように、第1の電極4と第2の電極5との間に中間電極71,72を更に備えることにより、電極4と電極5との間の電界をより効果的に形成できる。なお、この変形例では中間電極を2つ設けているが、中間電極は一つでもよく、3つ以上並べられてもよい。
【0066】
図10(a)は、上記実施形態の第7変形例に係るイオン化装置1gの構成を示す断面図である。また、図10(b)は、図10(a)に示したイオン化装置1gのVIII−VIII線に沿った断面を示す断面図である。なお、図10(a)及び(b)は、イオン化装置1gの要部のみ示している。
【0067】
この変形例に係るイオン化装置1gは、軟X線管3及び電極5の表面を除くイオン化室2の内面が全て絶縁性部材からなっている。具体的には、イオン化装置1gは、図9に示したイオン化装置1fと同様に、中間電極71,72を備えている。但し、本変形例の中間電極71,72は、そのイオン化室2側の端部71a,72aが、絶縁性部材からなる本体部21によって完全に覆われている。
【0068】
また、イオン化装置1gは、第1の電極として電極4cを備える。電極4cは、イオン化室2の排出口23に設けられており、試料分子イオンを通過させる開口45を有する。開口45の内面(端面)は、排出口23の中心軸線Aを基準として排出口23の内面よりも外側に位置している。すなわち、所定の軸方向(X軸方向)から見て開口45は排出口23よりも広く形成されており、排出口23の縁が開口45の内側に位置するようにそれぞれ配置されている。また、本変形例の電極4cもまた、図6〜図8に示した電極4bと同様に、メッシュ部を有していない。このため、電極4cは、排出口23を全く覆っていない。
【0069】
本変形例のように、中間電極71,72の端部71a,72aが絶縁性部材(本体部21)に覆われ、開口45の内面が排出口23の内面よりも外側に位置することにより、中間電極71,72や電極4cには軟X線が殆ど照射されないので、二次電子の発生を更に効果的に抑制できる。このように、軟X線管3及び電極5の表面を除くイオン化室2の内面を全て絶縁性部材とすれば、イオン化室2において軟X線の照射により二次電子が放出されることを効果的に抑制できるので、正の試料分子イオンを発生させる場合に、試料分子イオンの中性分子化(中和)を低減し、イオン密度を更に高めることができる。
【0070】
図11(a)は、上記実施形態の第8変形例に係るイオン化装置1hの構成を示す断面図である。また、図11(b)は、図11(a)に示したイオン化装置1hのIX−IX線に沿った断面を示す断面図である。なお、図11(a)及び(b)は、イオン化装置1hの要部のみ示している。この変形例に係るイオン化装置1hは、図9に示したイオン化装置1fと同様に、中間電極71及び72を備える。但し、図9のイオン化装置1fと異なる点として、この変形例の中間電極71及び72は、そのイオン化室2側の端部71a及び72aがイオン化室2の内面から突出している。これにより、中間電極71及び72に軟X線が照射されて二次電子が多く放出されるので、負の試料分子イオンを発生させる場合にイオンの生成を助け、イオン密度を高めることができる。
【0071】
図12は、上記実施形態の第9変形例に係るイオン化装置1iの構成の要部を示す断面図である。イオン化装置1iのシール機構6aは、上記実施形態のシール部材60に代えてシール部材64を有する。シール部材64は、軟X線源3の周囲に設けられイオン化室2を気密に保つための部材である。本変形例のシール部材64は、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含んで構成されており、軟X線管3の真空容器30に巻きつけられている。そして、シール部材64は、支持部材61と環状部材63とによって上下から締め付けられることにより、真空容器30に押し付けられる。これにより、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止される。
【0072】
図13は、上記実施形態の第10変形例に係るイオン化装置1jの構成の要部を示す断面図である。イオン化装置1jは、上記実施形態のシール機構6(図1参照)に代えてシール機構6bを備える。シール機構6bは、シール部材65を有する。本変形例のシール部材65は、図12に示したシール部材64と同様、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含んで構成されている。シール部材65は、軟X線管3の真空容器30と軟X線管挿入口24との隙間に配置されている。
【0073】
また、シール機構6bは、本体部21に固定され、軟X線管挿入口24と連通する筒状の部材66と、部材66に内側から螺合して上下方向に移動可能な筒状の移動部材67と、シール部材65と部材67との間に配置された絶縁スペーサ68とを有する。シール部材65は、真空容器30のフランジ部分と絶縁スペーサ68とに挟まれており、絶縁スペーサ68によって上方から締め付けられ、真空容器30に押し付けられる。これにより、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止される。
【0074】
図14は、上記実施形態の第11変形例に係るイオン化装置1kの構成の要部を示す断面図である。イオン化装置1kは、上記実施形態のシール機構6(図1参照)に代えてシール機構6cを備える。シール機構6cは、シール部材69を有する。本変形例のシール部材69は、金属または炭素系材料を含む環状の部材、例えばポリイミドの様な耐熱性高分子で表面に導電体を塗布もしくは内部にカーボンやCNT等を混合した環状の部材であり、軟X線管3の窓部33の電極(本変形例では、ターゲット電極32bのフランジ部分)とイオン化室2との間に配置されている。
【0075】
また、シール機構6cは、上記したシール機構6b(図13参照)と同様に、部材66、移動部材67、及び絶縁スペーサ68を有する。そして、絶縁スペーサ68によって真空容器30のフランジ部分が下方へ押さえ付けられることにより、シール部材69が潰され、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止されるとともに、ターゲット電極32bと電極5とがシール部材69を介して短絡される。
【0076】
なお、図示しないが、シール部材69が接触するイオン化室2の天井部分に、金属板をロウ付け等で気密に固定し、この金属板上にシール部材69を配置するとよい。また、この金属板と電極5とを接触させ、電気的に導通させるとよい。
【0077】
第9、第10変形例(図12、図13)に示したように、シール部材は、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含んで構成されてもよい。或いは、第11変形例(図14)に示したように、シール部材は、金属または炭素系材料を含む部材であってもよい。これらのいずれかによって、例えば300℃前後といった高温環境下においても、シール部材からのガス放出を極めて少なくでき、シール部材の熱分解も生じないので、イオン化室2の気密状態を好適に維持できる。また、軟X線源3も容易に交換可能となる。
【0078】
図15は、上記実施形態の第12変形例に係るイオン化装置1mの構成の要部を示す断面図である。この変形例では、軟X線源3がイオン化室2から僅かに離れて配置されることにより、軟X線源3の窓部33が、イオン化室2における所定の軸方向(X軸方向)に沿った内面27に対して後退している。そして、窓部33とイオン化室2との間には空間28が生じており、この空間28には、導電性台座9が配置されている。導電性台座9は、軟X線照射軸方向(Z軸方向)に延びる筒状を呈しており、その内側を軟X線が通過する。導電性台座9の一端は軟X線源3のターゲット電極32bと接しており、導電性台座9の他端はイオン化室2側に配置されて電極5と接している。この導電性台座9によって、空間28が好適に維持されるとともにターゲット電極32bと電極5とが短絡する。
【0079】
このように、イオン化室2の内面27に対して軟X線源3の窓部33を後退して配置してもよい。これにより、イオン化室2における軟X線の照射範囲を限定し、イオン化室2の内部や、或いはその後段に設けられる空間での二次電子の発生を低減できる。また、導電性台座9を設けることにより、ターゲット電極32bと電極5とを容易に短絡させ得る。
【0080】
図16は、上記実施形態の第13変形例に係るイオン化装置1nの構成の要部を示す断面図である。イオン化装置1nは、図15に示したイオン化装置1mの構成に加え、更に別の窓部11を備えている。この窓部11は、軟X線管3の窓部33とイオン化室2との間に設けられ、軟X線管3からの軟X線をイオン化室2へ透過する。窓部11は、軟X線を透過する窓材11aと、窓材11aの周囲に設けられ窓材11aを支持する導電性のフランジ部11bとを有する。本変形例の窓部11は、導電性台座9の他端側を塞ぐように設けられており、フランジ部11bは導電性台座9の他端と接触している。また、フランジ部11bは電極5とも接触しており、ターゲット電極32bと電極5との短絡が図られている。なお、窓材11aには、軟X線管3の窓材33aと同じ材料(アルミニウム、チタン、ベリリウム、シリコン、窒化シリコンなど)を用いるとよい。
【0081】
図15に示したように軟X線管3を後退させて空間28を設けると、電極5及びターゲット電極32bによる電界が効果的に形成されず、窓部33の近傍にて発生したイオンを電極4へ移動させることが難しくなる。また、空間28に試料分子などが滞留し易くなってしまい、試料分子の量の時間変化がイオン密度の変化に反映されにくくなる。これに対し、図16に示したイオン化装置1nの構成によれば、軟X線管3の後退によって生じた空間28に試料分子などが滞留することを窓部11が防ぎ、且つ、フランジ部11b及び電極5によってイオン化室2の電界を効果的に形成できる。なお、空間28へ試料分子などが入り込むことを防ぐため、フランジ部11bと導電性台座9との間は気密に封じられていることが好ましい。また、図17に示すように、フランジ部11bとイオン化室2との間に、金属または炭素系材料を含む環状のシール部材69を配置してもよい。なお、シール材69を軟X線は貫通するがガスや荷電粒子は通過しない素材とし、窓材とシール材の両機能を兼ねても良い。
【0082】
図18は、上記実施形態の第14変形例に係るイオン化装置1pの構成の要部を示す断面図である。この変形例に係るイオン化装置1pは、図15に示したイオン化装置1mの構成において、導電性台座9に代えてコリメータ13を備えている。
【0083】
すなわち、この変形例では、軟X線源3の窓部33が、イオン化室2における所定の軸方向(X軸方向)に沿った内面27に対して後退している。そして、窓部33とイオン化室2との間にできた空間に、コリメータ(X線コリメータ)13が配置されている。コリメータ13は、軟X線照射軸方向(Z軸方向)に延びる複数の貫通孔13aを有しており、貫通孔13aの内側を軟X線が通過する。また、コリメータ13の一端は軟X線源3のターゲット電極32bと接しており、コリメータ13の他端はイオン化室2側に配置されて電極5と接している。このコリメータ13によって、軟X線の指向性が向上する。
【0084】
このように、窓部33とイオン化室2との間にコリメータ13を設けることにより、イオン化室2における軟X線の照射範囲を更に限定し、イオン化室2の内部や、或いはその後段に設けられる空間での二次電子の発生をより効果的に低減できる。また、図16や図17に示した構成と比較して窓部33とイオン化室2との間隔をより狭くしても同程度以上に照射範囲を限定できるので、イオン化効率が高い窓部33の近傍領域を有効に利用できる。特に、低エネルギーの軟X線を利用する場合、窓部33に近い領域ほどベースガスとの相関係数(反応係数)が高まるので、コリメータ13を用いて窓部33とイオン化室2との間隔を狭くすることが好ましい。
【0085】
なお、コリメータ13としては、X線を吸収する材質(例えばW、Ta、Mo等の金属やPbガラス等)からなる基板に貫通孔13aが厚さ方向に均一に形成された構造体を用いるとよい。貫通孔13aの断面形状は、例えば円形、三角形、四角形や六角形などの様々な形状を適用できる。また、貫通孔13aは、開口率が大きく、口径に対する深さの比(アスペクト比)が大きいことが好ましい。コリメータ13の形状は、イオンが流れる方向(X軸方向)の長さを短くした一次元のスリット状でもよい。
【0086】
コリメータ13の構成材料が導電性である場合には、窓部33とイオン化室2との間にコリメータ13をそのまま設置することによりターゲット電極32bと電極5とを短絡でき、更にイオン化室2の前述した電界を効果的に形成できる。また、コリメータ13の構成材料が絶縁性である場合には、貫通孔13aの内部や縁、或いは裏面に導電性の膜を形成することにより、導電性材料からなる場合と同様の効果を得ることができる。貫通孔13aの径が比較的大きく試料分子やベースガスが入り込むおそれがある場合には、図19に示すようにコリメータ13のイオン化室2側の端面に窓材15を設置してもよい。この窓材15には、軟X線管3の窓材33aと同じ材料(アルミニウム、チタン、ベリリウム、シリコン、窒化シリコンなど)を用いるとよい。
【0087】
図20は、上記実施形態の第15変形例に係るイオン化装置1qの構成を示す断面図である。イオン化装置1qが備える軟X線管3aは、上記実施形態の電子源31に代えて、電子源34を有する。電子源34は、真空容器30の長手方向の一端側(イオン化室2から離れた側)に配置されており、冷陰極34aと、電子を集束し加速するための図示しない電極とを含んで構成される。
【0088】
このように、電子源として冷陰極34aを用いることにより、電子源としてフィラメント31a(図1参照)を用いる場合と比較して電子源の温度上昇を低く抑えることができるので、イオン化室2内部の温度上昇を防ぎ、イオン化反応を安定して発生させることができる。また、例えばこのイオン化装置1qをイオン移動度計に応用する際には、イオン化室2に続くドリフト室の温度上昇を抑え、計測精度を高めることができる。
【0089】
図21は、上記実施形態の第16変形例に係るイオン化装置1rの構成を示す断面図である。イオン化装置1rが備える軟X線管3bは、上記実施形態の軟X線管3の構成に加え、更に偏向部35を有する。偏向部35は、電子源31から出射された電子を走査するための走査用電極であり、軟X線出射軸線Bに沿って真空容器30の内部に設けられる。ターゲット部32へ向けて出射される電子を偏向部35が走査することにより、ターゲット部32において極めて短い時間幅の(時間的パルス状の)軟X線が生成される。従って、イオン化室2において時間的パルス状の試料分子イオンが容易に得られる。これにより、試料分子イオンを時間的パルス状に出射するためのゲートシャッタが不要になり、構造を簡素化できる。なお、電子源31に加速電圧をパルス状に印加することによっても、パルス状の軟X線を得ることができる。
【0090】
(第2の実施の形態)
図22は、本発明の第2実施形態として、質量分析器(MS:MassSpectrometer)100aの構成を示す断面図である。質量分析器100aは、外部から導入される有機物などの試料分子を分析するための装置であり、イオン化装置1s、四重極101、デフレクタ103、検出器105、及び筐体107を備える。筐体107は真空雰囲気を保持可能な容器であり、試料分析室107a、調整室107b及び107cを有する。
【0091】
調整室107b及び107cには、スキマー109b及び109cがそれぞれ設置されている。スキマー109b及び109cは、イオン化装置1sのイオン化室2の中心軸線Aに沿って配置されており、試料分子イオンを通過させるとともに、イオン化室2と試料分析室107aとの間の差圧を保持する。スキマー109bの後段には電子レンズ形成電極111bが設置され、スキマー109cの後段には電子レンズ形成電極111cが設置されている。また、試料分析室107a内には、四重極101、デフレクタ103、及び検出器105が配置されている。
【0092】
四重極101は、イオン化装置1sのイオン化室2から放出された試料分子イオンのうち、特定の質量/電荷比を有する試料分子イオンのみを選択的に取り出すための部分である。四重極101は、並置された一対の棒状電極と、更に一対の棒状電極とが、互いの並置方向が交差するように配置されて成る。各棒状電極に、或る条件を満たす電圧(直流電圧と交流電圧とが畳重された電圧)が印加されることにより、その電圧条件に応じた質量/電荷比を有する試料分子イオンのみが各棒状電極の間を通過する。
【0093】
デフレクタ103は、四重極101を通過した試料分子イオンの進行方向を検出器105へ変更するための部品であり、四重極101の後段に配置されている。また、検出器105は、四重極101を通過した試料分子イオンを検出するための部品であり、試料分子イオンの個数に応じた電流を発生する。
【0094】
イオン化装置1sは、図1に示した第1実施形態のイオン化装置1の構成に加え、イオン化室2を高温に保持するための保温容器17を更に備える。保温容器17は、その壁材に断熱部材81を有し、本体部21を収容している。また、軟X線管3は、保温容器17に設けられた開口部に挿通されており、電子源31は保温容器17の外部に位置している。保温容器17の内部には、図示しない熱源が設けられる。
【0095】
本実施形態の質量分析器100aは、第1実施形態のイオン化装置1(図1参照)の構成を含むイオン化装置1sを備える。これにより、試料分子を高密度でイオン化できるので、質量分析をより高い精度で行うことができる。
【0096】
また、本実施形態のイオン化装置1sは保温容器17を備え、電子源31が保温容器17の外部に位置している。イオン化装置においては、イオン化促進やクラスター化防止、或いは試料分子による汚染防止のため、イオン化室2の内部を加熱する場合がある。このような場合、本実施形態のように軟X線管3の電子源31を保温容器17の外部に配置することが好ましい。電子源31がフィラメントを含む場合には、フィラメントを保温容器17の外部に配置することで熱による消耗や断線を抑制でき、軟X線管3の寿命を長くできる。また、フィラメント以外の電子源を使用する場合においても、その動作に適した温度環境下に電子源を配置できる。
【0097】
(第3の実施の形態)
図23は、本発明の第3実施形態として、イオン移動度計(IMS:IonMobility Spectrometer)100bの構成を示す断面図である。イオン移動度計100bは、気体成分などの試料分子をイオン化装置1でイオン化した後、試料分子イオンを電場のかかった気体中で飛行させ、その移動速度の違いにより試料分子イオンを測定する装置である。
【0098】
本実施形態のイオン移動度計100bは、イオン化装置1、ドリフト管120、及び保温容器19を備える。なお、イオン化装置1の構成については、前述した第1実施形態の構成と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0099】
ドリフト管120の内部は空洞になっており、ドリフト室121を構成している。ドリフト室121は、所定の軸方向(X軸方向)に延びており、その一端側がイオン化室2に連通し、イオン化室2内でイオン化された試料分子がその長手方向に移動する領域である。ドリフト管120は、複数のリング状の電極123と、複数のリング状の電気絶縁体125とを含んでおり、電極123と電気絶縁体125とが交互に積層された構成となっている。即ち、隣り合う電極123の間に電気絶縁体125が配置され、電極123同士は電気絶縁体125により電気的に絶縁された状態にある。複数の電極123は、イオン化された試料分子を移動させるための電界をドリフト室121内に形成する。
【0100】
ドリフト管120の一端側には、ゲートシャッターとしてのゲート電極127が設けられている。ゲート電極127としては、例えばブラッドバリー−ニールセン・シャッター(Bradbury-Nielsen shutter)を用いることができる。ゲート電極127は、印加される電位が変化することにより試料分子イオンを通過させるものであり、一対の電極を含んでいる。そして、この一対の電極間の電位差が0になると、試料分子イオンの通過が許容される。また、当該電位差が0より大きい所定の値になると、試料分子イオンの通過が禁止される。従って、ゲート電極127にパルス状の信号を供給し、所定の時間、一対の電極間の電位差を0とすることにより、当該所定の時間だけ試料分子イオンがゲート電極127を通過することとなる。
【0101】
ドリフト管120の他端側には、導電性の基板129が設けられている。基板129には、試料分子イオンを収集するための集電極131と、ドリフトガスをドリフト室121内に導入するドリフトガス導入管133とが配置されている。
【0102】
イオン化装置1の電極4及び5、ゲート電極127、複数の電極123、並びに集電極131は、この順で分圧抵抗(図示せず)により電気的に接続されている。分圧抵抗は、ブリーダ回路基板135上に形成された薄膜状の抵抗体であり、リード端子を介して電極4及び5、ゲート電極127、複数の電極123、並びに集電極131に電気的に接続される。これにより、イオン化室2からドリフト室121にわたって電界が形成される。この電界により、試料分子イオンは、イオン化室2からドリフト室121へ移動し、ドリフト室121内を集電極131へ向けて移動する。
【0103】
イオン移動度計100bの測定原理は次のとおりである。イオン化室2にて生成された試料分子イオンを、ゲート電極127にパルス状の電圧を印加して電位を変化させることで、ドリフト室121内に導入する。ドリフト室121に導入されたパルス状のイオン群は、ドリフトガス導入管133より導入されたドリフトガスの分子の影響を受けることで時間的遅れを持って移動し、ドリフト室121内に形成されたほぼ均一の電界に沿って集電極131に到達する。集電極131に到達したイオン群はパルス状の電気信号として出力され、当該電気信号に基づいて、ゲート電極127から集電極131までの到達時間(飛行時間)、集電極131に到達した試料分子イオンの量などが検出される。そして、この到達時間からイオン移動度を求めることができ、試料分子の同定が可能となる。また、電気信号の応答波形の積分値もしくはピーク値から、試料分子の定量が可能となる。
【0104】
なお、保温容器19は、イオン化装置1のイオン化室2およびドリフト管120のドリフト室121を高温に保持するための容器である。保温容器19は、その壁材に断熱部材83を有し、イオン化装置1の本体部21、およびドリフト管120を収容している。イオン化装置1の軟X線管3は、保温容器19に設けられた開口部に挿通されており、電子源31は保温容器19の外部に位置している。保温容器19の内部には、図示しない熱源が設けられる。
【0105】
本実施形態のイオン移動度計100bは、第1実施形態のイオン化装置1を備える。これにより、試料分子を高密度でイオン化できるので、試料分子の同定および定量分析をより高い精度で行うことができる。
【0106】
(第4の実施の形態)
図24は、本発明の第4実施形態として、電子捕獲検出器100cの構成を示す断面図である。本実施形態の電子捕獲検出器100cは、イオン化装置1、排出管140、及び保温容器19を備える。なお、イオン化装置1の構成については、前述した第1実施形態の構成と同様なので、詳細な説明を省略する。保温容器19は、イオン化装置1のイオン化室2を覆い、排出管140はイオン化室2の排出口23と連通して、保温容器19を貫通し、ガスや試料を排出する。
【0107】
次に電子捕獲検出器100cの測定原理は次のとおりである。電子捕獲検出器100cは、イオン化装置1の電極4,5の間で、電離に伴うイオン電流をメッシュ状の電極4により計測する。まず陰イオンを形成し難い例えば窒素、アルゴン、He等のキャリアガスを流した際の電流値をベース電流として計測する。次に陰イオンになりやすい爆発物やハロゲン化合物等の試料をキャリアガスと一緒に導入すると、電離した電子を同化合物が捕らえ陰イオン化する。この陰イオンは電子と比較し移動率が低い為、イオン化装置1内での滞在時間が長くなる。その結果、同じく形成された陽イオンと衝突する確立が桁外れに大きくなり、陰イオンと陽イオンはお互いに電荷を失い、ベース電流が減少する。このベース電流の減少値が上記試料濃度に比例する。なお、図25に示す電子捕獲検出器100dのように、電極4の排出口23に対応する部分を開口とし、排出口23と対向するように設けられた捕集電極141により電流検出を行っても良い。
【0108】
本実施形態の電子捕獲検出器100cおよび100dは、第1実施形態のイオン化装置1を備える。これにより、試料分子を高密度でイオン化できるので、試料分子の定量分析をより高い精度で行うことができる。
【0109】
(第5の実施の形態)
図26は、本発明の第5実施形態として、クロマトグラフ用荷電粒子計測装置100eの構成を示す断面図である。本実施形態のクロマトグラフ用荷電粒子計測装置100eは第4実施形態の電子捕獲検出器100cとほぼ同一の構造であり、電極4bの排出口23に対応する部分が開口となっている。
【0110】
次にクロマトグラフ用荷電粒子計測装置100eの測定原理は次のとおりである。図示しないクロマトグラフィーのカラムから溶出された試料は例えば窒素ガスとともに噴霧され微小な液滴粒子となりイオン化装置1内に流入する。イオン化装置1により正荷電化した窒素イオンを粒子と衝突させ、同粒子を正荷電化する。この荷電粒子を排出管140から図示しないイオン分離器およびコレクタに搬送しその電流値を計測する事で、試料濃度に比例した信号が得られる。なお、電極4bの排出口23に対応する部分は開口に限らず、粗めのメッシュ状部材でも良い。
【0111】
本実施形態のクロマトグラフ用荷電粒子計測装置100eは、第1実施形態のイオン化装置1を備える。これにより、試料分子を高密度でイオン化できるので、試料分子の定量分析をより高い精度で行うことができる。
【0112】
本発明によるイオン化装置、質量分析器、イオン移動度計、電子捕獲検出器およびクロマトグラフ用荷電粒子計測装置は、上記した各実施形態及び変形例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態において、軟X線管3の軟X線出射軸方向はイオン化室2の所定の軸方向と直交しているが、軟X線源の軟X線出射軸方向はイオン化室の所定の軸方向に対して斜めに交差してもよい。また、導入口22の中心軸方向についても同様に、軟X線出射軸方向と直交する形態に限られるものではなく、軟X線出射軸方向と斜めに交差してもよい。
【0113】
また、図27のように、軟X線管3cの窓部33が終端電極を兼ねるように、所定の軸方向Aに延びる管軸を有する軟X線管3cを追加しても良い。または、図28のように、メッシュ状部材からなる電極5aと軟X線管3cのターゲット電極32bとの間に絶縁部材からなる台座29を設け、電極5aを透過して軟X線が照射されるように軟X線管3cが取り付けられても良い。
【0114】
また、図29に示すように、ターゲット電極32bや電極4,5の電位を制御する制御部10を有していても良い。その際、ターゲット電極32bと電極5との間に絶縁材20を有する場合には、制御部10によって、ターゲット電極32bと電極5とを同電位に制御しても良い。
【0115】
また、ターゲット電極32bと電極5は同電位に限らず、それぞれ別電位を与えても良い。この場合、図30に示すように、ターゲット電極32bと電極5との間の絶縁部材として、図18の第14変形例のコリメータ13と同様の形状を有する絶縁性のコリメータ14を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の第1実施形態として、イオン化装置の構成を示す断面図である。
【図2】第1実施形態のイオン化装置を簡略化した図である。
【図3】(a)〜(c)イオン化室に臨む電極表面の形状の様々な例を示す断面図である。
【図4】第1変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図5】第2変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図6】第3変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図7】第4変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図8】第5変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図9】第6変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図10】(a)第7変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。(b)(a)に示したイオン化装置のVIII−VIII線に沿った断面を示す断面図である。
【図11】(a)第8変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。(b)(a)に示したイオン化装置のIX−IX線に沿った断面を示す断面図である。
【図12】第9変形例に係るイオン化装置の構成の要部を示す断面図である。
【図13】第10変形例に係るイオン化装置の構成の要部を示す断面図である。
【図14】第11変形例に係るイオン化装置の構成の要部を示す断面図である。
【図15】第12変形例に係るイオン化装置の構成の要部を示す断面図である。
【図16】第13変形例に係るイオン化装置の構成の要部を示す断面図である。
【図17】第13変形例において、フランジ部とイオン化室との間にシール部材を配置した図である。
【図18】第14変形例に係るイオン化装置の構成の要部を示す断面図である。
【図19】第14変形例において、コリメータのイオン化室側の端面に窓材を設置した図である。
【図20】第15変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図21】第16変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図22】本発明の第2実施形態として、質量分析器(MS)の構成を示す断面図である。
【図23】本発明の第3実施形態として、イオン移動度計(IMS)の構成を示す断面図である。
【図24】本発明の第4実施形態として、電子捕獲検出器の構成を示す断面図である。
【図25】電子捕獲検出器の他の構成を示す断面図である。
【図26】本発明の第5実施形態として、クロマトグラフ用荷電粒子計測装置の構成を示す断面図である。
【図27】本発明の他の形態を示す断面図である。
【図28】本発明の他の形態を示す断面図である。
【図29】本発明の他の形態を示す断面図である。
【図30】本発明の他の形態を示す断面図である。
【図31】(a)、(b)先行技術に記載の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0117】
1…イオン化装置、2…イオン化室、3…軟X線管、4,5…電極、6…シール機構、9…導電性台座、11,33…窓部、11a,15,33a…窓材、11b…フランジ部、13…コリメータ、13a…貫通孔、17,19…保温容器、21…本体部、22,26…導入口、23…排出口、25…導入管、27…内面、30…真空容器、31…電子源、32…ターゲット部、41…開口、42…メッシュ部、60…シール部材、71,72…中間電極、100a…質量分析器、100b…イオン移動度計、100c…電子捕獲検出器、100d…クロマトグラフ用荷電粒子計測装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸方向に延びており試料分子をイオン化するイオン化室、前記イオン化室内に前記試料分子を導入する導入口、及び、前記所定の軸方向における前記イオン化室の一端側に形成され、前記イオン化室においてイオン化された前記試料分子を排出する排出口を有する本体部と、
電子源、該電子源からの電子を受けて軟X線を発生するターゲット部、前記電子源及び前記ターゲット部を収容する真空容器、並びに前記ターゲット部から放出された前記軟X線を透過して前記真空容器の外部へ出射するための窓部を有し、前記イオン化室内へ前記軟X線を照射する軟X線源と、
イオン化された前記試料分子を通過させる開口を有し、前記排出口に設けられた第1の電極と、
前記所定の軸方向における前記イオン化室の他端側に設けられた第2の電極と
を備え、
前記軟X線源の軟X線出射軸方向が前記所定の軸方向と交差しており、
前記イオン化室に臨む前記第2の電極の表面と前記所定の軸とが成す角度が略垂直である
ことを特徴とする、イオン化装置。
【請求項2】
前記ターゲット部に電極が設けられ、前記ターゲット部の前記電極と前記第2の電極とが互いに短絡されていることを特徴とする、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項3】
前記ターゲット部の前記電極と前記第2の電極とが互いに接していることを特徴とする、請求項2に記載のイオン化装置。
【請求項4】
前記ターゲット部の前記電極と前記第2の電極とに与える電位を制御可能な制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記ターゲット部の前記電極と前記第2の電極とが互いに同電位となるように制御することを特徴とする、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項5】
前記窓部において前記軟X線を透過する窓材が、シリコン及び窒化シリコンのうち少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項6】
前記軟X線源及び前記第2の電極それぞれの表面を除く前記イオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項7】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に中間電極を更に備え、
前記中間電極の前記イオン化室側の端部が前記絶縁性部材に覆われていることを特徴とする、請求項6に記載のイオン化装置。
【請求項8】
前記第1の電極の前記開口の内面が、前記イオン化室の前記排出口の内面と連続しているか、或いは、前記排出口の中心軸を基準として前記排出口の内面よりも外側に位置していることを特徴とする、請求項6または7に記載のイオン化装置。
【請求項9】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に中間電極を更に備え、前記軟X線源、前記第2の電極、及び前記イオン化室の内面から突出している前記中間電極の前記イオン化室側の端部のそれぞれの表面を除く前記イオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項10】
前記イオン化室における前記所定の軸方向に沿った内面に対して前記軟X線源の前記窓部が後退して配置されており、
前記窓部と前記イオン化室との間に設けられ、前記軟X線を透過するとともに、前記窓部と短絡された別の窓部を更に備えることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項11】
前記イオン化室における前記所定の軸方向に沿った内面に対して前記軟X線源の前記窓部が後退して配置されており、
前記窓部と前記イオン化室との間にコリメータを更に備えることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項12】
前記イオン化室を気密に保つシール部材を更に備え、
前記シール部材が、前記軟X線源の周囲に設けられ、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項13】
前記イオン化室を気密に保つシール部材を更に備え、
前記シール部材が、前記X線源と前記イオン化室との間に設けられた金属または炭素系材料を含む環状部材であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項14】
前記本体部を収容して高温に保持する保温容器を更に備え、
前記電子源が前記保温容器の外部に位置することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項15】
前記軟X線源が前記電子源として冷陰極を有することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項16】
前記軟X線源が、前記電子源から出射された前記電子を偏向させる偏向部を更に有することを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項17】
前記所定の軸方向に延びる管軸を有する第2の軟X線源をさらに備えることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のイオン化装置を備えることを特徴とする、質量分析器。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のイオン化装置を備えることを特徴とする、イオン移動度計。
【請求項20】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のイオン化装置を備えることを特徴とする、電子捕獲検出器。
【請求項21】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のイオン化装置を備えることを特徴とする、クロマトグラフ用荷電粒子計測装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate


【公開番号】特開2008−77981(P2008−77981A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256189(P2006−256189)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】