説明

イオン化装置及び方法

【課題】高効率で安定性が良く安全なイオン化を実現可能なイオン化装置及び方法を提供する。
【解決手段】X線管1と、ガス流路を流れるガスに接触する状態で設けられた金属薄膜2aとを備え、前記金属薄膜2aに前記X線管1からのX線5を照射して前記ガス流路中に光電子を放出するように構成する。金属体の金属薄膜にX線を照射したときに生じる電子をガス流路中に放出し、電界加速する構成を採用しているので、ガス流路によって形成される限定された空間(イオン化室をなす空間)内において電子とガス流路を流れる分子とを接触させることができ、ガス流路の流路断面積や断面形状等を適宜に設定することにより、安定したイオン化を容易に実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば大気圧下で用いられるイオン化装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のイオン化装置として、低エネルギーのX線を気体に照射し光イオン化によってイオン化させるように構成されたものがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のイオン化装置では、広範囲の気体をイオン化することに適しているが局所的で小さい体積部分のイオン化を行うには効率が悪い。
【0004】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、高効率で安定性が良く安全なイオン化を実現可能なイオン化装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係るイオン化装置は、X線管と、ガス流路を流れるガスに接触する状態で設けられた金属薄膜とを備え、前記金属薄膜に前記X線管からのX線を照射して前記ガス流路中に光電子を放出するように構成されている(請求項1)。
【0006】
請求項1に係る発明において、前記金属薄膜が筒状の金属管の内側面に設けられ、この金属管の内側の空間が前記ガス流路となっており、また、この金属管の側壁に、前記X線管からのX線を前記金属薄膜に照射させるためのX線透過窓部が設けられていてもよい(請求項2)。前記X線透過窓部としては、例えばマイカ(雲母)製のX線透過窓が採用される。
【0007】
この場合、前記金属管を非接触で挿通する金属線(直径が50μm程度かあるいはそれ以下の金属細線が好ましい)と、前記金属管及び前記金属線間に光電子を加速させるための電圧(数kV程度)を印加する印加手段とを備えており、電界(高電界)により前記金属薄膜で発生した光電子を加速カスケード状に増倍する手段を持つのがより望ましい(請求項3)。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るイオン化方法は、請求項1〜3の何れかに記載のイオン化装置によって前記ガスをイオン化する(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜4に係る発明では、高効率で安定性の良いイオン化を実現可能なイオン化装置及び方法が得られる。
【0010】
すなわち、請求項1に係る発明では、金属体の金属薄膜にX線を照射したときに生じる電子をガス流路中に放出し、電界加速する構成を採用しているので、ガス流路によって形成される限定された空間(イオン化室をなす空間)内において電子とガス流路を流れる分子とを接触させることができ、ガス流路の流路断面積や断面形状等を適宜に設定することにより、安定したイオン化を容易に実現することができる。
【0011】
しかも、請求項1に係る発明では、構成がシンプルであり、コンパクト化や製造コストの低減化もが達成される。
【0012】
請求項2に係る発明では、金属薄膜が内側面に設けられた金属管によってガス流路が構成されているので、構成を極めてシンプルにすることができる。この効果に加えて、請求項3に係る発明は、金属管内において生じた電子が加速電圧によって加速され、金属管を円筒状にしておけば、金属線と(円筒状の金属管からなる)円筒電極とによる集中電界(高電界)によって電子カスケードを生じ、電子衝撃によるイオン化効率を高効率化することができる。
【0013】
請求項4に係る発明では、上記の各効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は本発明の第1の実施の形態に係るイオン化装置を概略的に示す説明図であり、この図に示すように、本形態に係るイオン化装置は、X線管1と、金属管2と、金属管2を非接触で挿通する金属線(ワイヤ)3と、金属管2及び金属線3にわたって電圧を印加する印加手段4とを備えている。
【0016】
X線管1は、窓部1aを有する真空容器内に、熱電子源とターゲット部1bとが設けられた公知の構成を有するものであり、さらに、熱電子発生用電源1f、熱電子加速電源(〜6kV程度)1cを備えている。そして、本形態におけるX線管1は、真空容器内において、電子源からの電子を受けてターゲット部が軟X線(例えば2〜4keV程度またはそれ未満の量子エネルギを有するX線)5を発生し、この軟X線5は窓部1aから外部に向かうように構成されているものであり、従ってX線管1は軟X線管である。
【0017】
ここで、窓部1aは、X線の透過性に優れ十分な強度を有する材料(本形態ではベリリウム(Be))からなる薄膜によって構成された窓である。
【0018】
また、X線管1の前記熱電子源は、フィラメント1eと、このフィラメントから放出された電子を集束し加速するための電極1dとを有している。尚、このようにフィラメントを有する電子源に代えて、例えば冷陰極を有する電子源を用いることもできる。
【0019】
また、X線管1の前記ターゲット部1bは、電子の衝突により軟X線5を放出するチタン(Ti)からなるターゲットと、このターゲットに電位を付与する電極とを有している。尚、ターゲットは、軟X線領域で特性X線を発生する他の金属からなるものであってもよい。
【0020】
金属管2は、筒状(図示例では円筒状)のステンレス製であり、この金属管2の内側の空間はガス流路となっている。また、この金属管2の内側面には、ガス流路を流れるガス(例えば試料ガス)が接触し光電子放出が多くなるように例えば重金属からなる金属薄膜2aが、適宜の手段(例えば蒸着)により付与される。さらに、この金属管2の側壁には、X線管1の窓部1aが臨み、このX線管1からの軟X線5を金属薄膜2aに照射させるためのマイカ(雲母)製のX線透過窓部2bが設けられている。
【0021】
このX線透過窓部2bは、金属管2の側壁に設けられた窓でありマイカ(雲母)製で厚み数μm程度のX線減衰の少ないものである。これにより金属管2は閉塞されたガス流路となる。尚、X線透過窓部2bを窓とせずに単なる開口とし、この開口に前記窓部1aを密閉接続して、軟X線5を直接金属管2内(金属薄膜2a)に照射する態様としてもよい。
【0022】
そして、筒状の金属管2の中心軸をほぼ通るように金属線3(例えばタングステンからなる直径50μm程度の金属細線)が配置され、この金属線3と金属管2とにわたって電位差を付与するために印加手段4が設けられている。
【0023】
次に、第1の実施の形態に係るイオン化方法の説明を兼ねて、上記構成を有するイオン化装置の作動について説明する。
【0024】
まず、軟X線5が、X線管1の窓部1aから例えば150°程度の広がり角度を持って射出され、X線透過窓部2bから金属管2内に至り、金属薄膜2aに照射される。
【0025】
そして、この照射により、金属薄膜2aから光電子が金属管2内(すなわちガス流路中)に放出され、金属線3に向かって加速される。すなわち、印加手段4による金属管2と金属線3とにわたる電圧の印加は、金属管2から放出された電子が金属線3に向かって加速するようになされている。
【0026】
さらに、中心部電極たる金属線3に細線を採用しガス流路中の電界強度を十分大きくすることにより電子カスケードにより電子の増倍作用が期待できる。これにより、高効率のイオン化が達成される。
【0027】
従って、金属管2の内側のガス流路を流れるガス中のガス分子(例えば試料分子)は前記電子によってイオン化されるのであり、金属管2内という限定された空間内でガス分子と電子とを接触させることができるので、高効率で安定性の良いイオン化が達成される。
【0028】
さらに、軟X線5は金属薄膜2aに到達するまでの間にも気体ガスに衝突して光イオン化作用を及ぼすため、照射された軟X線5の利用効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態に係るイオン化装置を概略的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 X線管
2 金属管
2a 金属薄膜
3 金属線
4 印加手段
5 軟X線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管と、ガス流路を流れるガスに接触する状態で設けられた金属薄膜とを備え、前記金属薄膜に前記X線管からのX線を照射して前記ガス流路中に光電子を放出するように構成されたイオン化装置。
【請求項2】
前記金属薄膜が筒状の金属管の内側面に設けられ、この金属管の内側の空間が前記ガス流路となっており、また、この金属管の側壁に、前記X線管からのX線を前記金属薄膜に照射させるためのX線透過窓部が設けられている請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項3】
前記金属管を非接触で挿通する金属線と、前記金属管及び前記金属線にわたって光電子加速電圧を印加する印加手段を備え、電界によって前記光電子を加速し、カスケード電子を発生させるようにした請求項2に記載のイオン化装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のイオン化装置によって前記ガスをイオン化するイオン化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−96678(P2010−96678A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269019(P2008−269019)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(593031540)株式会社ソダ工業 (5)
【出願人】(501174837)株式会社エックスレイプレシジョン (7)
【Fターム(参考)】