説明

イオン化装置

【課題】EI及びPIの双方が可能であって、小型に構成でき、PIの際に広い範囲にわたって試料分子に対し一様に光を照射することにより検出効率及び感度の向上が可能なイオン化装置を提供する。
【解決手段】イオン化装置2は、試料分子Aをイオン化するためのイオン化空間2bを有するイオン化室2aと、イオン化空間2b内の試料分子Aに電子衝撃を与えて試料分子Aをイオン化するためのフィラメント23a,23bと、イオン化空間2b内の試料分子Aに紫外光を照射して試料分子Aをイオン化するための放電管29とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば有機物質などの試料分子をイオン化する方法に、加速電子を用いて試料分子を衝撃し、イオン化する電子衝撃イオン化法(EI:Electron impact Ionization)と、光を試料分子に照射してイオン化する光イオン化法(PI:Photo Ionization)とがある。特許文献1に記載された質量分析器は、EIのための熱電子を発生するフィラメントと、PIのためのレーザ光を発生するレーザ光源とを備える。
【0003】
【特許文献1】特開2005−93152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多くの場合、試料分子は、気体として導入されるか、或いはキャリアガスと共に導入される。そして、検出効率及び感度の向上のためには、イオン化可能な領域が広い方が好ましく、PIにおいては、広い範囲にわたって導入された気体に対し一様に光を照射することが好ましい。しかしながら、特許文献1に記載された質量分析器では、PIにレーザ光を用いているので照射範囲が狭いためにイオン化可能領域も狭く、検出効率及び感度を向上させることが難しい。また、照射範囲を拡げるためには、ビームエキスパンダ等を用いたり、レーザ光源をスキャン動作させる方法もあるが、レーザ光源自体が装置の大型化を招くうえに、ビームエキスパンダやスキャン動作機構は装置の更なる大型化を招くこととなる。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、EI及びPIの双方が可能であって、小型に構成でき、PIの際に広い範囲にわたって試料分子に対し一様に光を照射することにより検出効率及び感度を向上できるイオン化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のイオン化装置は、試料分子をイオン化するためのイオン化空間を有するイオン化室と、イオン化空間内の試料分子に電子衝撃を与えて該試料分子をイオン化するための電子源と、イオン化空間内の試料分子にレーザ光よりも指向性の低い紫外光を照射して該試料分子をイオン化するための光放出手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
上記したイオン化装置は、電子源と、レーザ光よりも指向性の低い紫外光を照射する光放出手段とを備えることにより、EI及びPIの双方が可能である。更に、レーザ光よりも指向性の低い紫外光を照射するので、より広範囲に導入された試料分子に対し一様に紫外光を照射できる。これにより、検出効率及び感度を向上することができる。
【0008】
また、イオン化装置は、光放出手段が放電管であることを特徴としてもよい。光放出手段として放電管を用いることにより、紫外レーザ光源と比較して装置を小型に構成できる。
【0009】
また、イオン化装置は、電子源とイオン化空間との間に配置され、電子源からの電子をイオン化空間へ向けて加速するための第1の加速用電極を更に備えることを特徴としてもよい。これにより、電子源から放出された電子を好適に加速し、試料分子に電子衝撃を効果的に与えることができる。
【0010】
また、イオン化装置は、イオン化空間外に配置され、イオン化室において紫外光の照射により発生した電子を捕集するための電子捕集電極を更に備えることを特徴としてもよい。イオン化室内に紫外光を照射すると、光電効果によって電極等の構成部材から二次電子が放出される。そして、この二次電子がイオン化空間内に進入すると、試料分子に電子衝撃を与えてしまう。本来、PIは、EIではイオン化エネルギーが高すぎるために試料分子が分解され、フラグメントイオン化されてしまうような試料分子の分子イオン(親イオン)を生成するための好適な方法であるが、前述のような二次電子によるEIによって、試料分子の一部がフラグメントイオンに変化してしまう。上記したイオン化装置によれば、イオン化室において紫外光の照射により発生した電子(二次電子)を捕集するための電子捕集電極をイオン化空間外に備えることにより、イオン化空間内への二次電子の進入を抑止し、PIにおけるフラグメントイオンの発生を低減できる。
【0011】
また、イオン化装置は、電子捕集電極とイオン化空間との間に配置され、イオン化室において紫外光の照射により発生した電子を電子捕集電極へ向けて加速するための第2の加速用電極を更に備えることを特徴としてもよい。これにより、イオン化空間内への二次電子の進入をより効果的に抑止できる。また、この場合、イオン化装置は、電子源とイオン化空間との間に配置され、電子源からの電子をイオン化空間へ向けて加速するための第1の加速用電極を備え、該第1の加速用電極が、第2の加速用電極を兼ねることが好ましい。これにより、より少ない部材で装置を構成できるので、装置の大型化を抑えることができる。
【0012】
また、イオン化装置は、電子源が、光放出手段からの紫外光の照射により電子を放出する電子放出電極を含むことを特徴としてもよい。EI用の電子源としては例えばフィラメント等があるが、このように紫外光を受けて電子(二次電子)を放出する電子放出電極によっても、EI用の電子を好適に放出できる。
【0013】
また、イオン化装置は、電子放出電極が基部及び該基部を覆う被覆部を有しており、被覆部の二次電子放出効率が基部の二次電子放出効率よりも高いことを特徴としてもよい。このように、高い二次電子放出効率を有する被覆部を電子放出電極に設けることによって、EI用の電子を更に効率よく放出できる。
【0014】
また、本発明のイオン化装置は、試料分子をイオン化するためのイオン化空間を有するイオン化室と、イオン化空間内の試料分子にレーザ光よりも指向性の低い紫外光を照射して該試料分子をイオン化するための光放出手段と、イオン化空間外に配置され、光放出手段からの紫外光の照射により電子を放出してイオン化空間内の試料分子に電子衝撃を与える電子放出動作、及び紫外光の照射によりイオン化室において発生した電子を捕集する電子捕集動作を行う第1の電極と、第1の電極とイオン化空間との間に配置された第2の電極とを備え、第1の電極における電子放出動作及び電子捕集動作が、第1の電極と第2の電極との電位関係に応じて切り替わることを特徴とする。
【0015】
上記したイオン化装置は、試料分子にレーザ光よりも指向性の低い紫外光を照射する光放出手段と、光放出手段からの紫外光の照射により電子を放出する第1の電極とを備える。これにより、EI及びPIの双方が可能となる。また、より広範囲に導入された試料分子に対し、レーザ光よりも指向性の低い紫外光を照射する光放出手段によって一様に紫外光を照射できるので、検出効率及び感度を向上できる。
【0016】
更に、第1及び第2の電極を備え、上記した電子放出動作及び電子捕集動作が第1の電極と第2の電極との電位関係に応じて切り替わることによって、EIの際にイオン化空間内の試料分子へ電子衝撃を効果的に与えることができる(電子放出動作)とともに、PIの際にイオン化空間内への二次電子の進入を抑止してフラグメントイオンの発生を低減できる(電子捕集動作)。このように、第1の電極によって電子放出動作及び電子捕集動作の双方が可能となるので、PI及びEIの双方を効率的に行うことが可能なイオン化装置を更に小型化できる。
【0017】
また、イオン化装置は、光放出手段が放電管であることを特徴としてもよい。光放出手段として放電管を用いることにより、装置を小型に構成できる。
【0018】
また、イオン化装置は、第1の電極における電子放出動作と電子捕集動作とを、各動作の動作時間を制御しながら、交互に行うことを特徴としてもよい。これにより、時間変化があるような試料分子であっても、PIの際の分子イオンと、EIの際のフラグメントイオンとを時間変化の影響を考慮しながら同一の計測で得ることができる。
【0019】
また、イオン化装置は、イオン化空間へ向けて試料分子を整流する整流部材を更に備えることを特徴としてもよい。これにより、試料分子の利用効率が高まるので、より多くのイオンを生成できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、EI及びPIの双方が可能であって、小型に構成でき、PIの際に広い範囲にわたって試料分子に対し一様に光を照射することにより検出効率及び感度を向上できるイオン化装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るイオン化装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
図1は、本発明によるイオン化装置の一実施形態に係るイオン化装置2の構成と、このイオン化装置2を備える質量分析器1aの構成とを示す概略図である。本実施形態の質量分析器1aは、外部から導入される有機物などの試料分子Aを分析するための装置であり、イオン化装置2のほか、四重極4、デフレクタ5、検出器6、及び筐体7を備える。筐体7は真空雰囲気を保持可能な容器であり、イオン化装置2、四重極4、デフレクタ5、及び検出器6を収容している。
【0023】
イオン化装置2は、イオン化室2aと、電子レンズ形成電極28a及び28bと、放電管29とを備える。イオン化室2aは、試料分子Aをイオン化するためのイオン化空間2bを有しており、質量分析器1aにおける試料導入口付近に配置されている。電子レンズ形成電極28a及び28bは、イオン化空間2b内で生成されたイオンを四重極4へ導入するための部品である。レーザ光よりも指向性の低い光放出手段としての放電管29は、イオン化空間2b内に導入された試料分子Aに紫外光(真空紫外光も含む)を照射し、試料分子Aをイオン化(PI)するための部品である。この放電管29としては、比較的広範囲に紫外光を照射できるもの、例えば重水素ランプ、エキシマランプ、キャピラリ放電管、マイクロ波放電管などが好適に用いられ、本実施形態においては、紫外光量の変動が少ない点で、得られるデータの定量性に優れた重水素ランプを用いている。
【0024】
イオン化室2aは、更に、内側電極(第2の電極)21、外側電極(第1の電極)22、並びにフィラメント23a及び23bを有する。フィラメント23a及び23bは、イオン化空間2b内の試料分子Aに電子衝撃を与えて該試料分子Aをイオン化(EI)するための電子源である。フィラメント23a及び23bは、導線26a及び26bを介してイオン化装置2の外部から電力供給を受け、熱電子をイオン化空間2b内へ放出する。フィラメント23a及び23bは、イオン化空間2bの外部に配置されている。
【0025】
外側電極22は、紫外光を照射した際の電子衝撃による試料分子Aのイオン化を望まない際に、イオン化室2aにおいて紫外光の照射により発生した二次電子を捕集するための電子捕集電極である。イオン化室内に紫外光を照射すると、内側電極21やフィラメント23a,23bなどの構成部材から二次電子が放出される。外側電極22は、こうして発生した二次電子を捕集する。外側電極22は、イオン化空間2bの外部において、フィラメント23a,23bの外側に配置されている。外側電極22は、導電体27を介してイオン化装置2の外部と電気的に接続されており、捕集した二次電子をイオン化装置2の外部へ送り出す。
【0026】
また、外側電極22は、紫外光を照射した際の電子衝撃による試料分子Aのイオン化を望む際には、放電管29からの紫外光の照射により二次電子を放出する電子放出電極となる。すなわち、試料分子Aに電子衝撃を与えるための電子としては、フィラメント23a,23bからの熱電子のほか、紫外光の照射によって外側電極22やフィラメント23a,23bなどの構成部材から発生する二次電子を利用することもできる。試料分子Aに対してPIのみを行う場合には、上述したようにイオン化空間2bから二次電子を排除することが好ましいが、試料分子Aに対してPI及びEIの双方を同時に行う場合には、逆にイオン化空間2bへ二次電子を供給するとよい。電子放出電極(外側電極22やフィラメント23a,23b)が二次電子を放出することにより、イオン化空間2bへ電子をより多く供給できる。なお、このような電子放出電極のうち、外側電極22は、主に導電性を確保するための基部と、基部を覆い、基部よりも二次電子放出効率が高い被覆部とを有することが好ましい。これにより、二次電子を更に効率よく放出できる。二次電子放出効率が高い被覆部の材料としては、例えば金、ニッケル、酸化マグネシウム等が好適である。
【0027】
内側電極21は、電子衝撃による試料分子Aのイオン化を望む際に、フィラメント23a,23bから放出された熱電子や紫外光の照射により発生した二次電子をイオン化空間2bへ向けて加速するための第1の加速用電極と、紫外光を照射した際の電子衝撃による試料分子Aのイオン化を望まない際に、イオン化室2aにおいて紫外光の照射により発生した二次電子を外側電極22へ向けて加速するための第2の加速用電極とを兼ねる電極である。内側電極21は、フィラメント23a,23b及び外側電極22とイオン化空間2bとの間に配置されている。内側電極21は、イオン化空間2bへ向かう試料分子A、熱電子、及び二次電子を通過させ得るように、例えば網状や開口を有する形状に形成されている。内側電極21は、イオン化装置2の外部から電圧供給を受ける。内側電極21は、フィラメント23a,23bからの熱電子や、フィラメント23a,23b及び外側電極22からの二次電子をイオン化空間2bへ加速する場合には、フィラメント23a,23b及び外側電極22よりも高電位に保たれる。また、内側電極21は、イオン化室2aにおいて発生した二次電子を外側電極22へ加速する場合には、外側電極22よりも低電位に保たれる。
【0028】
四重極4は、イオン化装置2から出射されたイオンのうち、特定の質量/電荷比を有するイオンのみを選択的に取り出すための部分である。四重極4は、並置された一対の棒状電極41a及び41bと、更に一対の棒状電極42a及び42bとが、互いの並置方向が交差するように配置されて成る。各棒状電極41a,41b,42a,及び42bに、或る条件を満たす電圧(直流電圧と交流電圧とが畳重された電圧)が印加されることにより、その電圧条件に応じた質量/電荷比を有するイオンのみが各棒状電極41a,41b,42a,及び42bの間を通過できる。
【0029】
デフレクタ5は、四重極4を通過したイオンの進行方向を検出器6へ変更するための部品であり、四重極4の後段に配置されている。また、検出器6は、四重極4を通過したイオンを検出するための部品であり、イオンの個数に応じた電流を発生する。
【0030】
図2は、本実施形態のイオン化装置2の構成を詳細に示す斜視図である。なお、図2においては、イオン化室2a及び放電管29の図示を省略している。
【0031】
本実施形態の外側電極22は、導線が網状に組まれて構成されている。外側電極22は、内側電極21を囲むように配置されており、或る中心軸に沿った円筒状(籠状)に形成されている。外側電極22の一端は導線が網状に組まれて閉じており、他端には円筒リング状の外側導電体27が固定されており、外側導電体27に連結された導線(図示せず)により、所定の電圧が印加されている。
【0032】
また、内側電極21は、導線が螺旋状に巻回されて成り、外側電極22と同じ中心軸に沿った円筒状に形成されている。そして、筒状の内側電極21の内側がイオン化空間2b(図1)となる。内側電極21の一端は、円筒リング状の内側導電体29に固定されており、内側導電体29に連結された導線(図示せず)により、所定の電圧が印加されている。内側電極21に対応する内側導電体29の部分には開口29aが形成されており、イオン化空間2b内で生成されたイオンは、開口29aを通って電子レンズ形成電極28a及び28b側へ取り出される。
【0033】
フィラメント23a及び23bは、内側電極21と外側電極22との間に配置されており、内側電極21及び外側電極22の中心軸に沿って延びている。フィラメント23a及び23bの一端は、外側電極22の外部に配置された導線26a及び26bを介してイオン化装置2の外部(例えば電源装置の電源端子)と電気的に接続される。また、フィラメント23a及び23bの他端は、内側電極21と外側電極22との間に配置された導線24の一端に電気的に接続されている。導線24の他端は、外側電極22の外部に配置された導線26cを介してイオン化装置2の外部(例えば電源装置の接地端子)と電気的に接続される。なお、導線26a〜26cと外側電極22とは、絶縁材25a〜25cによって互いに絶縁されている。
【0034】
電子レンズ形成電極28a及び28bは、円板状の導電体27の裏側(外側電極22が設けられた側とは反対側)に配置されている。電子レンズ形成電極28a及び28bは、内側電極21及び外側電極22の中心軸方向に並んで配置されており、該中心軸を中心とする円板状に形成されている。また、電子レンズ形成電極28a及び28bは、イオン化された試料分子Aを通過させるための連通する開口をそれぞれ有する。電子レンズ形成電極28a及び28bは、所定の電圧を印加することにより、イオンをイオン化空間2bから四重極4へ向けて引き出すような電界を形成する。
【0035】
以上の構成を有するイオン化装置2の動作(フィラメント23a及び23bによるEI動作、放電管29によるPI動作、及び放電管29によるEI動作)について説明する。なお、各動作においては、まず、試料分子Aがイオン化装置2に取り込まれる。その後、試料分子Aは、外側電極22及び内側電極21を通過して、イオン化空間2bに導入される。このとき、試料分子Aとなる物質は、その物質単独で取り込まれる場合もあれば、窒素ガス等のキャリアガスと共に取り込まれる場合もある。
【0036】
[フィラメント23a及び23bによるEI動作]
図3は、イオン化装置2の動作のうち、フィラメント23a及び23bによるEI動作について説明するための図である。EI動作においては、導線26a及び26bを介してフィラメント23a及び23bが電力供給を受け、熱電子eを放出する。このとき、内側電極21の電位V1と、外側電極22の電位V2と、フィラメント23a及び23bの電位V3とは、V1>V3≧V2の関係を満たしている。従って、内側電極21とフィラメント23a及び23bとの間(内側電極21と外側電極22との間)に形成される電界により、熱電子eは、加速され、内側電極21を通過してイオン化空間2bへ到達する。
【0037】
熱電子eがイオン化空間2b内に到達すると、熱電子eは試料分子Aに衝突する。そして、この電子衝撃により試料分子Aがイオン化されるとともに、試料分子Aの分子内の結合が開裂してフラグメントイオンIが生成される。フラグメントイオンIは、電子レンズ形成電極28a及び28bによって四重極4(図1)へ向けて加速される。
【0038】
なお、EI動作における上述した電界は、熱電子eが外側電極22から外部に飛び出すことも抑制するので、熱電子eが外側電極22外部で引き起こし得る様々な問題、例えば構成部材の帯電等の問題を抑制することができる。また、この際、後述する放電管29によるPI動作も同時に行うと、生成された分子イオンIは、通常は熱電子e及び紫外光照射で生じた二次電子eによってさらにフラグメントイオンIに分解されるが、熱電子eの放出や紫外光照射による二次電子eの放出効率を調整することによって、フラグメントイオンI及び分子イオンIの同時検出やその発生比の調整をすることもできる。それにより、例えば分子量及び官能基等の定性分析に関するデータを同時に得ることが可能となる。
【0039】
[放電管29によるPI動作]
図4は、イオン化装置2の動作のうち、放電管29によるPI動作について説明するための図である。PI動作においては、放電管29がイオン化装置2の外部から電源供給を受けることにより、イオン化空間2bへ向けて紫外光を照射する。これにより、試料分子Aがイオン化されて分子イオン(親イオン)Iが生成される。分子イオンIは、電子レンズ形成電極28a及び28bによって四重極4(図1)へ導入される。
【0040】
また、放電管29から紫外光が照射されると、光電効果によって内側電極21やフィラメント23a,23bから二次電子eが放出される。二次電子eは、外側電極22によって捕集される。すなわち、このときの内側電極21の電位V1と外側電極22の電位V2との関係がV1≦V2を満たす。V1<V2の場合は、内側電極21と外側電極22との間に、EI動作の場合とは逆の電界が形成される。この電界により、二次電子eが外側電極22へ向けて加速される。こうして、二次電子eはイオン化空間2bへの進入を抑制され、外側電極22に捕集される(電子捕集動作)。二次電子eは外側電極22で捕集されるので、二次電子eがイオン化空間2b外部で引き起こし得る様々な問題、例えば構成部材の帯電等の問題を抑制することができる。一方、V1=V2の場合は、二次電子eは初速のみで飛行し、EI動作可能なエネルギーには達しない場合が多いために、やはり分子イオンIに対しての影響は少ない。ただし、二次電子eが初速でイオン化空間2bに達し、分子イオンIと反応し、分子イオンIの量が低減する可能性がある。
【0041】
[放電管29によるEI動作]
図5は、イオン化装置2の動作のうち、フィラメント23a及び23bによる熱電子放出を用いることなく、放電管29のみを用いたEI動作について説明するための図である。EI動作においては、放電管29がイオン化空間2bへ向けて紫外光を照射する。これにより、光電効果によって外側電極22、フィラメント23a,23bから二次電子eが放出される(電子放出動作)。
【0042】
本動作においては、上述したPI動作とは異なり、内側電極21の電位V1と外側電極22の電位V2との関係をV1>V2とする。また、フィラメント23a及び23bに対しての通電を電位V3で維持する場合には、V1>V3≧V2の関係を満たすようにする。なお、電位V1と電位V2(V3)との間の電位差は、例えば30V〜70Vである。これにより、内側電極21と外側電極22との間に、フィラメント23a及び23bによるEI動作の場合と同様の電界が形成される。従って、二次電子eはイオン化空間2bへ向けて加速され、試料分子Aに衝突する。そして、この電子衝撃によって試料分子AからフラグメントイオンIが生成される。こうして、イオン化空間2b内において生成されたフラグメントイオンIは、電子レンズ形成電極28a及び28bによって四重極4(図1)へ導入される。また、V1>V2の関係を満たしながら、電位差を調整し、二次電子eの加速電圧を変えることで、フラグメントイオンIのみでなく、分子イオンIを生成することもできる。すなわち、V1とV2との電位差すなわち加速電圧を大きくすればフラグメントイオンIを多く、逆に小さくすれば分子イオンIを多くすることができる。
【0043】
なお、この放電管29によるEI動作においては、フィラメント23a,23bは紫外光照射による二次電子放出源として機能しているだけなので、外側電極22等により十分な二次電子量が得られれば、フィラメント23a,23bはなくてもよい。一方、外側電極22やフィラメント23a,23bから二次電子eを放出させると共に、フィラメント23a,23bから熱電子を放出させてもよい。また、紫外光の照射による試料分子AのPIも同時に行われており、生成された分子イオンIは、通常は二次電子eによってさらにフラグメントイオンIに分解されるが、紫外光照射による二次電子eの放出効率や、その加速電圧を調整することによって、フラグメントイオンI及び分子イオンIの同時検出(EI・PI同時動作)やその発生比の調整をすることができる。それにより、例えば分子量及び官能基等の定性分析に関するデータを同時に得ることが可能となる。
【0044】
上記は、各動作を個別で行う場合を前提としたが、所定の時間間隔でPI動作およびEI動作(フラグメントイオンI及び分子イオンIを同時に生成する場合を含む)を交互に行っても良い。例えば、試料の経時変化を測定する場合、その経時変化する時間内をPI動作(またはEI動作)で計測し、引き続き、別途用意した同じ試料を先の動作時間で同様にEI動作(またはPI動作)で計測した場合、両計測間での試料環境は異なっている可能性があり、この場合、分子イオンとフラグメントイオンにおけるそれぞれの経時変化の情報を同一条件下での変化として扱うことが難しくなる。これに対し、経時変化する時間内において、短い時間間隔で交互に繰り返し各動作の計測をした場合、その時間内での試料の変化は極めて少なく、各動作により求められた分子イオンやフラグメントイオンは同じ環境条件下での同一試料の情報として考えられる。なお、この場合、イオン化装置2は、放電管29やフィラメント23a,23bへの電源電圧、及び外側電極22(または内側電極21)への印加電圧を制御する制御部(不図示)を更に備え、この制御部によってPI動作時間およびEI動作時間を制御しつつ、これらの動作を交互に行うとよい。
【0045】
以上に説明した本実施形態に係るイオン化装置2の効果について説明する。本実施形態のイオン化装置2は、熱電子eを発するフィラメント23a,23bや二次電子eを発する電子放出電極(本実施形態では、外側電極22やフィラメント23a,23bが兼ねる)といった電子源と、レーザ光よりも指向性の低い光放出手段である放電管29とを備えることにより、EI及びPIの双方が可能である。更に、放電管29は、レーザ光よりも指向性が低いため、レーザ光源と比較してより広範囲に導入された試料分子Aに対し一様に紫外光を照射できる。これにより、検出効率及び感度を向上させることができる。また、光放出手段として放電管29を用いることにより、紫外レーザ光源と比較して装置を小型に構成できる。また、広範囲に紫外光を照射することによって、導入された試料分子の空間的な分布が偏っていても、確実なイオン化及び試料分子に対する平均的な情報を得ることが可能であり、またイオン化された試料分子が非照射領域内で中性分子等と反応してしまう可能性も低減できる。
【0046】
また、本実施形態のように、イオン化装置2は、電子源とイオン化空間2bとの間に配置された内側電極21を備え、EI動作の際に、電子源から放出された電子(熱電子e,二次電子e)をイオン化空間2bへ向けて加速することが好ましい。これにより、試料分子Aに電子衝撃を効果的に与えることができる。
【0047】
また、本実施形態のように、イオン化装置2は、イオン化空間2b外に配置された電子捕集電極としての外側電極22を備えることが好ましい。上述したように、イオン化室2a内に紫外光を照射すると、光電効果によってフィラメント23a,23bや内側電極21等の構成部材から二次電子eが放出される。そして、PI動作の際に、この二次電子eがイオン化空間2b内に進入すると、試料分子Aに電子衝撃を与えてしまう。本来、PIは、EIではイオン化エネルギーが高すぎるために試料分子Aが分解され、フラグメントイオン化されてしまうような試料分子Aの分子イオンIのみを生成するための好適な方法なので、PIにおいてはフラグメントイオンIは極力生成されないことが好ましい。しかし、前述のように二次電子eによって試料分子Aに電子衝撃が与えられると、試料分子AがフラグメントイオンIに変化してしまう。
【0048】
これに対し、本実施形態のイオン化装置2においては、紫外光の照射により発生した二次電子eを外側電極22によって捕集できる。これにより、イオン化空間2b内への二次電子eの進入を抑え、PI動作におけるフラグメントイオンIの発生を低減できる。
【0049】
また、本実施形態のように、イオン化装置2は、外側電極22とイオン化空間2bとの間に配置された内側電極21を備え、PI動作の際に、紫外光の照射により発生した二次電子eを外側電極22へ向けて加速することが好ましい。これにより、イオン化空間2b内への二次電子eの進入をより効果的に抑止できる。
【0050】
また、本実施形態のように、イオン化装置2は、電子源が、放電管29からの紫外光の照射により二次電子eを放出する電子放出電極としての外側電極22を含むことが好ましい。これにより、放電管29によるEI動作において、電子衝撃を効果的に与えることができる。
【0051】
また、本実施形態のように、イオン化装置2は、外側電極(第1の電極)22及び内側電極(第2の電極)21を備え、外側電極22における電子放出動作及び電子捕集動作が、外側電極22の電位V2と内側電極21の電位V1との関係に応じて切り替わることが好ましい。これにより、外側電極22によって電子放出動作及び電子捕集動作の双方が可能となるので、PI及びEIの双方を効率的に行うことが可能なイオン化装置2を更に小型化できる。
【0052】
なお、放電管29を外側電極22の内側に配置すると、外側電極22や内側電極21により形成される電界に影響を及ぼしてしまうこともあり、また紫外光照射によるEI動作の際に、二次電子放出源として外側電極22を利用可能な面積が減少するので二次電子放出量が減少してしまう。従って、本実施形態のように放電管29を外側電極22の外側に配置することが好ましい。また、紫外光の照射領域を拡げるためには、放電管29はイオン化空間2bから或る程度離れて配置されていることが好ましい。また、放電管29の放熱性を考慮した場合、放電管29の一部が筐体7から外部へ露出していることが好ましい。特に、放電管29のソケット等の給電部には樹脂製部品が用いられる場合があり、樹脂製部品を筐体7内に配置すると樹脂から放出されるガスによって分析結果に影響を及ぼすおそれがある。従って、少なくとも樹脂製の給電部は筐体7の外部に配置することが好ましい。
【0053】
また、本実施形態ではイオン化装置2が一つの放電管29を備えているが、複数の放電管29を備えても良い。その場合、同じ特性の放電管29を複数備えることにより照射強度を高めても良いし、各放電管29の照射波長域を互いに異ならせることにより、異なるイオン化エネルギーを試料分子Aに与えても良い。特に、分析対象の試料が複数種類の試料分子A(試料分子群)を含む場合、各放電管29の照射波長域が互いに異なっていれば、分析対象の各試料分子Aが有するイオン化ポテンシャルに応じて照射波長域を切り替えることにより、特定試料分子Aのイオン化を好適に行うことができる。
【0054】
(第1の変形例)
図6は、上記実施形態の第1変形例に係るイオン化装置8aの構成を示す斜視図である。本実施形態は、電子源としてフィラメント等を用いることなく、光放出手段としての放電管のみにより、EI動作、PI動作及びEI・PI同時動作の可能なイオン化装置の一例である。図6を参照すると、本変形例に係るイオン化装置8aは、内側電極81と、外側電極82と、イオン化室加熱用ヒーター83と、電子レンズ形成電極88a〜88cと、放電管89と、これらの構成要素を収容するイオン化室(不図示)とを備える。
【0055】
外側電極82は、本実施形態における電子捕集電極及び電子放出電極であり、第1実施形態の外側電極22と同様に作用する。外側電極82は、網状の導電体によって構成されており、電子レンズ形成電極88a〜88cと対向する面を除く他の面に該網状の導電体が配設された直方体の箱状に形成されている。外側電極82の内部は空洞となっており、内側電極81が外側電極82の内部に配置されている。外側電極82は、互いに対向する網状の一対の側面材82a及び82bと、それと直交するように配置された互いに対向する網状の一対の側面材82d及び82eと、網状の上面材82cとを有する。また、内側電極81は、本実施形態における第1及び第2の加速用電極であり、第1実施形態内側電極21と同様に作用する。内側電極81は、網状の導電体が電子レンズ形成電極88a〜88cと対向する面を除く他の面に配設された直方体の箱状に成形されて成り、内側電極81の内側がイオン化空間となる。
【0056】
側面材82a〜82eからは、試料分子Aが導入及び排出される。また、放電管89は、側面材82a及び82b(側面材82d及び82e)のうち少なくとも一方の側方に設置されており、本実施形態においては、放電管89から側面材82aを介して内側電極81内のイオン化空間へ紫外光が照射される。また、イオン化室加熱用ヒーター83は、上面材82cの上方に設置されており、ヒーターとしてイオン化室内の各電極を加熱する。
【0057】
電子レンズ形成電極88a〜88cは、外側電極82における上面材82cと対向する面に沿って配置されている。電子レンズ形成電極88a〜88cは、円板状に形成されており、上面材82cと交差する方向に並んで配置されている。また、電子レンズ形成電極88a〜88cは、イオン化された試料分子Aを通過させるための連通する開口(例えば電子レンズ形成電極88aの開口88d)をそれぞれ有する。電子レンズ形成電極88a〜88cは、所定の電圧が印加されることにより、イオンをイオン化空間から四重極4(図1参照)へ向けて引き出すような電界を形成する。
【0058】
本変形例のイオン化装置8aのような構成により、上記実施形態のイオン化装置2と同様の効果が好適に得られる。なお、本変形例におけるイオン化装置8aの動作(EI動作、PI動作、及びEI・PI同時動作)については、上記実施形態と同様なので詳細な説明を省略する。
【0059】
本変形例では外側電極82の全面を網状に形成しているが、試料分子A及び紫外光を導入する面を限定し、他の面を板状部材により構成してもよい。例えば側面材82aのみを網状とし、他の面を板状部材とした場合、紫外光の照射による外側電極82からの二次電子放出量を増大させ、EI動作及びEI・PI同時動作において試料分子Aに電子衝撃をより効果的に与えることができる。また、この場合、板状の面の一部を開口させて試料の排出に用いても良い。また、外側電極82を構成する一面を、試料分子A及び紫外光を導入するのに必要な領域のみを網状部材とした板状部材により形成しても良い。これにより、試料分子A及び紫外光の導入と二次電子放出の増大とをバランスよく実現することができる。
【0060】
(第2の変形例)
図7は、上記実施形態の第2変形例に係るイオン化装置8bの構成を示す斜視図である。図7を参照すると、本変形例に係るイオン化装置8bは、内側電極81と、外側電極84と、コレクタ電極85と、フィラメント86と、電子レンズ形成電極88a〜88cと、放電管89と、これらの構成要素を収容するイオン化室(不図示)とを備える。なお、これらのうち、内側電極81及び電子レンズ形成電極88a〜88の構成及び作用は、上記第1変形例と同様である。
【0061】
本変形例の外側電極84は、電子レンズ形成電極88a〜88c側面のない直方体の箱状に形成されている。外側電極84の内部は空洞となっており、内側電極81が外側電極84の内部に配置されている。外側電極84は、互いに対向する一対の側面に形成された試料導入口84a及び84bを有する。また、外側電極84は、試料導入口84a及び84bが形成された一対の側面とは異なる別の一対の側面に形成された電子通過口84c及び84dを有する。なお、試料導入口84a及び84b、電子通過口84c及び84dは網状になっていても良い。
【0062】
試料導入口84a〜84dからは、試料分子Aが導入及び排出される。放電管89は、試料導入口84aの側方に設置されており、放電管89から試料導入口84aを通って内側電極81内のイオン化空間へ紫外光が照射される。フィラメント86は、電子通過口84cの側方に配置されている。コレクタ電極85は、電子通過口84dの側方に配置されている。熱電子eは、電子通過口84cを通過して内側電極81内のイオン化空間へ導入される。試料分子Aに電子衝撃を与えることなくイオン化空間を通過した熱電子eは、その後、電子通過口84dを通ってコレクタ電極85に収集される。
【0063】
本変形例のイオン化装置8bのような構成によっても、上記実施形態のイオン化装置2と同様の効果が好適に得られる。また、本変形例のイオン化装置8bによれば、上記第1変形例と比較して外側電極84の面積を大きくできるので、真空紫外光VUVの照射による外側電極84からの二次電子放出量を更に増大できる。
【0064】
(第3の変形例)
図8は、上記実施形態の第3変形例に係るイオン化装置2c、及びイオン化装置2cを備える質量分析器1bの構成を示す図である。上記実施形態と本変形例との相違点は、質量分析器1bの筐体の形状である。すなわち、本変形例の筐体9は、イオン化室9aと、試料分析室9cと、イオン化室9a及び試料分析室9cの間に設けられた調整室9bとを有する。
【0065】
イオン化室9aは、イオン化装置2cの一部を構成している。すなわち、イオン化装置2cの内側電極21、外側電極22、フィラメント23a及び23b、並びに電子レンズ形成電極28a及び28bは、イオン化室9a内に配置される。そして、イオン化室9aに設けられた試料導入口9dを介してイオン化室9a内部へ試料分子Aが導入される。試料導入口9dにより、試料導入部を制限し、かつイオン化空間2b近傍で導入させることによって、導入試料Aがイオン化空間2b内部へより集中して導入され、より効率の良いイオン化を行うことができる。イオン化装置2cがEI動作またはEI・PI同時動作を行う際には、イオン化室9a内部の圧力は真空に保たれる。また、イオン化装置2cがPI動作を行う際には、イオン化室9a、調整室9b、試料分析室9cとを差圧排気することによりイオン化室9aは大気圧または大気圧程度に解放されることが可能である。
【0066】
調整室9bには、スキマー10が設置されている。スキマー10は、イオン化装置2cの電子レンズ形成電極28a及び28bの開口に対応して配置されており、イオン化室9aと試料分析室9cとの間の差圧を保持する。また、試料分析室9c内には、四重極4、デフレクタ5、検出器6、及び電子レンズ形成電極11が配置されている。電子レンズ形成電極11は、調整室9bのスキマー10と四重極4との間に配置されており、スキマー10を通過したイオンを四重極4へ収束させる。
【0067】
EI動作またはEI・PI動作の場合、熱電子や二次電子によって試料分子Aに電子衝撃を与えるので、イオン化室9a内は真空に保たれる必要がある。他方、PI動作の場合、試料分子Aは放電管29からの紫外光によってイオン化されるので、大気圧下でも動作可能である。ただし、その場合、試料分析室9cの真空を保持するために、試料分析室9cでの排気に加え、イオン化室9aや調整室9bにおいて排気を行うのが好ましく、本変形例のように、イオン化装置2cのイオン化室9aと試料分析室9cとを隔離して両室の差圧を保持するための機構を設けることにより、試料分析室9cの真空をより好適に保持することができる。なお、イオン化室9a内の余剰試料を排気する際には、調整室9bでの排気を利用してもよく、或いは試料排気用の別の開口をイオン化室9aに設けてもよい。
【0068】
(第4の変形例)
図9は、上記実施形態の第4変形例に係るイオン化装置2d、及びイオン化装置2dを備える質量分析器1cの構成を示す図である。上記実施形態と本変形例との相違点は、整流部材の有無である。すなわち、本変形例のイオン化装置2dは、試料分子Aを効率よく導入するための整流部材12を備える。
【0069】
本変形例の整流部材12は、円錐台状且つ筒状に形成されており、その一端及び他端がそれぞれ試料導入口12a及び試料排出口12bとなっている。試料排出口12bは、試料導入口12aよりも狭くなっており、イオン化空間2bへ向けて配置される。試料導入口12aから導入された試料分子Aは、整流部材12によって整流され、イオン化空間2bへ効率よく導かれる。イオン化装置2dは、本変形例のような整流部材12を備えることが好ましい。これにより、試料分子Aの利用効率が高まるので、より多くのイオンを生成できる。
【0070】
本発明によるイオン化装置は、上記した実施形態及び変形例に限られるものではなく、他にも様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態においては、放電管からの紫外光の照射により電子を放出する電子放出電極と電子捕集電極とを外側電極が兼ねているが、電子放出電極と電子捕集電極とは別個に設けられていてもよい。また、加速用電極を複数有し、それらが電子捕集電極や電子放出電極を兼ねていても良い。また、電子源としては、冷陰極を用いても良い。また、光放出手段としては、放電管に限らず、レーザ光よりも指向性の低い紫外光を照射可能なもの、例えば電子ビーム管からの電子線をターゲットやガス体に衝突させて紫外光を放出するような紫外光源でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明によるイオン化装置の一実施形態の構成と、このイオン化装置を備える質量分析器の構成とを示す概略図である。
【図2】イオン化装置の構成を詳細に示す斜視図である。
【図3】イオン化装置の動作のうち、フィラメントによるEI動作について説明するための図である。
【図4】イオン化装置の動作のうち、放電管によるPI動作について説明するための図である。
【図5】イオン化装置の動作のうち、フィラメントによる熱電子放出を用いることなく、放電管のみを用いたEI動作について説明するための図である。
【図6】第1変形例に係るイオン化装置の構成を示す斜視図である。
【図7】第2変形例に係るイオン化装置の構成を示す斜視図である。
【図8】第3変形例に係るイオン化装置、及びこのイオン化装置を備える質量分析器の構成を示す図である。
【図9】第4変形例に係るイオン化装置、及びこのイオン化装置を備える質量分析器の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1a〜1c…質量分析器、2,2c,2d,8a,8b…イオン化装置、2a,9a…イオン化室、2b…イオン化空間、4…四重極、5…デフレクタ、6…検出器、7,9…筐体、8b…イオン化装置、10…スキマー、12…整流部材、21,81…内側電極、22,82,84…外側電極、23a,23b,86…フィラメント、29,89…放電管、85…コレクタ電極、A…試料分子、e…熱電子、e…二次電子、I…フラグメントイオン、I…分子イオン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料分子をイオン化するためのイオン化空間を有するイオン化室と、
前記イオン化空間内の前記試料分子に電子衝撃を与えて該試料分子をイオン化するための電子源と、
前記イオン化空間内の前記試料分子に、レーザ光よりも指向性の低い紫外光を照射して該試料分子をイオン化するための光放出手段と
を備えることを特徴とする、イオン化装置。
【請求項2】
前記光放出手段が放電管であることを特徴とする、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項3】
前記電子源と前記イオン化空間との間に配置され、前記電子源からの電子を前記イオン化空間へ向けて加速するための第1の加速用電極を更に備えることを特徴とする、請求項1または2に記載のイオン化装置。
【請求項4】
前記イオン化空間外に配置され、前記イオン化室において前記紫外光の照射により発生した電子を捕集するための電子捕集電極を更に備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項5】
前記電子捕集電極と前記イオン化空間との間に配置され、前記イオン化室において前記紫外光の照射により発生した電子を前記電子捕集電極へ向けて加速するための第2の加速用電極を更に備えることを特徴とする、請求項4に記載のイオン化装置。
【請求項6】
前記電子源と前記イオン化空間との間に配置され、前記電子源からの電子を前記イオン化空間へ向けて加速するための第1の加速用電極を備え、該第1の加速用電極が、前記第2の加速用電極を兼ねることを特徴とする、請求項5に記載のイオン化装置。
【請求項7】
前記電子源が、前記光放出手段からの前記紫外光の照射により電子を放出する電子放出電極を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項8】
前記電子放出電極が基部及び該基部を覆う被覆部を有しており、前記被覆部の二次電子放出効率が前記基部の二次電子放出効率よりも高いことを特徴とする、請求項7に記載のイオン化装置。
【請求項9】
試料分子をイオン化するためのイオン化空間を有するイオン化室と、
前記イオン化空間内の前記試料分子に、レーザ光よりも指向性の低い紫外光を照射して該試料分子をイオン化するための光放出手段と、
前記イオン化空間外に配置され、前記光放出手段からの前記紫外光の照射により電子を放出して前記イオン化空間内の前記試料分子に電子衝撃を与える電子放出動作、及び前記紫外光の照射により前記イオン化室において発生した電子を捕集する電子捕集動作を行う第1の電極と、
前記第1の電極と前記イオン化空間との間に配置された第2の電極と
を備え、
前記第1の電極における前記電子放出動作及び前記電子捕集動作が、前記第1の電極と前記第2の電極との電位関係に応じて切り替わることを特徴とする、イオン化装置。
【請求項10】
前記光放出手段が放電管であることを特徴とする、請求項9に記載のイオン化装置。
【請求項11】
前記第1の電極における前記電子放出動作と前記電子捕集動作とを、各動作の動作時間を制御しながら、交互に行うことを特徴とする、請求項9または10に記載のイオン化装置。
【請求項12】
前記イオン化空間へ向けて前記試料分子を整流する整流部材を更に備えることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載のイオン化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−250450(P2007−250450A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75012(P2006−75012)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】