説明

イオン及び荷電粒子を混合するための方法及び構成

【課題】 荷電粒子を衝突セルに導入するための装置を提供する。
【解決手段】 本発明の装置は、イオンと荷電粒子とを混合するための装置であって、イオン出口端を有する多重極装置と、イオン出口端に接続されている質量分析器と、質量分析器に接続されている荷電粒子源とを備え、荷電粒子源によって生成される荷電粒子が質量分析器を通って、イオン出口端を介して、多重極装置内に入るように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン及び荷電粒子を混合するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、化学的試料又は生物学的試料内の化合物を定性的及び定量的に測定するために利用される分析方法である。試料内の被分析物がイオン化され、その質量に応じてスペクトロメータによって分離され、検出されて、質量スペクトルが生成される。質量スペクトルは、質量、及び場合によっては、その試料を構成する種々の被分析物の量についての情報を提供する。特定の実施形態において、質量分析法を利用して、試料内の被分析物の分子量又は分子構造を特定することができる。質量分析法は高速で、特定的で、高感度であることから、質量分析装置は、生物学的な被分析物を迅速に同定し、特徴付けるために広く利用されている。
【0003】
質量分析計は数多くの異なる方法で構成することができるが、一般的には、使用されるイオン化方法及び使用されるイオン分離方法によって区別される。たとえば、被分析物親イオンを分離するある特定の装置では、親イオンが断片化されて娘イオンが生成され、娘イオンが質量分析にかけられる。被分析物親イオンの同定及び/又は構造が、娘イオンの質量から推定される。そのような装置は、一般的にタンデム質量分析計(又はMS/MS装置)と呼ばれており、液体クロマトグラフィシステム(たとえばHPLCシステム等)及び適するイオン源(たとえばエレクトロスプレーイオン源)と結合されて、液体試料内の被分析物を調べることができる。
【0004】
ある特定の事例では、最初に親イオンが選択され、その後、衝突セルにトラップされる。トラップされた親イオンの分解又はフラグメンテーションは、そのイオンを、中性気体分子又は荷電粒子(たとえば、他の正に帯電しているか又は負に帯電しているイオンもしくは電子)と衝突させて、イオン内の共有結合を破壊することによって達成される。これらの衝突法では、親イオン及び荷電粒子の衝突によって生成されるエネルギーが親イオンの中に再分配され、エネルギーが再分配されることによって、親イオンの中の共有結合が解離(すなわち破壊)される。通常、娘イオンを生成するために、最も低い活性化エネルギーを有する共有結合が破壊される。そのような方法には、衝突誘起解離(CID)及び電子捕獲解離(ECD)が含まれ、それらの方法は当該技術分野において公知である。
【0005】
衝突セルは多重極装置を含み、一般的に、互いに平行に延在し、かつ互いから離隔して配置されて、イオン通路を形成する複数の細長い電極(たとえば、双曲線形又は円形の断面を有する複数の導電性ロッド)を含む。無線周波数(RF)の電圧が電極に印加され、イオン通路内に親イオンを保持する振動電界が生成され、さらに荷電粒子又は不活性ガスがイオン通路内に導入されて、親イオンのフラグメンテーションを容易にする。親イオンが断片化され、娘イオンが生成された後に、娘イオンは、通常、質量分析のための、質量分析計、通常は飛行時間質量分析計(TOF-MS)、四重極質量分析計又はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(RTICR)中に放出される。ある特定の事例では、特定の娘イオンが質量フィルタにおいて選択され(すなわち、他の娘イオンからフィルタによって分離され)、荷電粒子と組み合わされて、質量分析前に、たとえば断片化し、又はその電荷を変更して、娘イオンをさらに変更することができる。したがって、イオンと荷電粒子との間の反応は、数多くの質量分析法において重要な役割を果たす。
【0006】
荷電粒子を衝突セル内に導入するための現在の方法は、イオン通路に対して径方向に(たとえば、2つの隣接する電極間の空間を介して、又は電極内のスロットを介して)荷電粒子を導入することを含む(非特許文献1及び非特許文献2を参照)。しかしながら、荷電粒子を衝突セル内に導入するためのこれらの方法は、荷電粒子が一般的には、RF電界の中を通過しなければならないので、最適ではない。RF電界は、荷電粒子が横切る上での大きな障壁となるので、したがって、そのような方法では、荷電粒子のかなりの部分が、イオン通路に達する前に偏向される。さらに、RF電界を介して荷電粒子が通り抜ける結果として、荷電粒子のエネルギーが大きく変化する可能性がある。その場合には、荷電粒子がRF電界を介してイオン通路まで進む場合であっても、親イオンの開裂を開始するだけの十分なエネルギーを持たない可能性がある。したがって、荷電粒子を衝突セル内に導入するための現在の方法は非効率的である。ある特定の従来技術のシステムでは、電極内にスロットが構成されている。そのスロットによって、振動する多重極電界内で、望ましくないポテンシャルの歪みが生じる。多重極電界の最大の性能を達成するために、そのような歪みは望ましくない。
【非特許文献1】Schwartz他(J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2002 13:659-669)
【非特許文献2】Baba他(Anal. Chem. 2004 76:4263-4266)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、荷電粒子を衝突セルに導入するための新たな方法が依然として強く求められている。本発明はこの要求及び他の要求を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はイオン及び荷電粒子を混合し、衝突させ、作用させるための装置を提供する。概して、その装置は、a)イオン出口端を有する多重極装置と、b)質量分析器と、c)荷電粒子源とを備えている。その装置は、荷電粒子源によって生成される荷電粒子が質量分析器を通り、多重極装置のイオン出口端を介して、多重極装置内に入るように構成されている。ある特定の実施形態では、多重極装置は衝突セル内に存在し、荷電粒子は衝突セル内にあるイオン(たとえば、親イオン、又は親イオンのフラグメンテーション生成物)と反応して、たとえば、フラグメンテーションを容易にするか、又はそれらのイオンの電荷を変更する。その後、衝突セルのイオンは、質量分析器に導入され、質量分析される。本発明は、種々の分析法において用途を見い出される。たとえば、本発明は、化学、環境、法医学、食品、医薬品及び生物の研究への応用形態において用途が見い出される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明はイオン及び荷電粒子を混合するための装置を提供する。概して、その装置は、a)イオン出口端を有する多重極装置と、b)質量分析器と、c)荷電粒子源とを備えている。その装置は、荷電粒子源によって生成される荷電粒子が質量分析器を通り、多重極装置のイオン出口端を介して、多重極装置内に入るように構成されている。ある特定の実施形態では、多重極装置は衝突セル内に存在し、荷電粒子は衝突セル内にあるイオン(たとえば、親イオン、又は親イオンのフラグメンテーション生成物)と反応して、たとえば、フラグメンテーションを容易にするか、又はそれらのイオンの電荷を変更する。その後、衝突セルのイオンは、質量分析器に導入され、質量分析される。本発明は、種々の分析法において用途を見い出される。たとえば、本発明は、化学、環境、法医学、食品、医薬品及び生物の研究への応用形態において用途を見い出される。
【0010】
本明細書において列挙する方法は、任意の論理的に可能な順序で、及び列挙する事象の順番で実行することができる。さらに、数値の範囲を与える場合、その範囲の上限値と下限値との間にある全ての値が本発明の範囲に含まれるが、上限値と下限値との間の所定の範囲内にある所定の値も、本発明の範囲に含まれるものと理解されたい。
【0011】
参照される装置及び方法は、本発明の出願日より先に開示されているというだけの理由から与えられる。本明細書において、先行する発明に基づいて、本発明がそのような装置及び方法に先行する権利が無いことが認められると解釈されるべきではない。
【0012】
単数形の構成要素を参照する場合でも、複数の同じ構成要素が存在する可能性が含まれる。より具体的には、本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形の「ある」、「1つの」、「前記」、「その」等の語は、その文脈において他に明らかに指示がないかぎり、複数の指示対象を含む。さらに、特許請求の範囲は、任意の選択可能な要素を除外するように作成されている場合があることに留意されたい。したがって、この記述は、請求要素の列挙に関連して、「ただ1つ」、「のみ」のような排他的な術語を使用するための、又は「消極的な」限定を使用するための根拠としての役割を果たすことを意図している。
【0013】
発明を実施するための最良の実施形態の全体を通して複数の定義を行う。
【0014】
上記のように、本発明は、イオン及び荷電粒子を混合し、衝突させ、作用させるための方法及び装置を提供する。当該装置の一般的な特徴を図1に示す。図1を参照して、概括的に述べると、当該装置2は、イオン入口端6及びイオン出口端8を有する多重極装置4と、多重極装置4のイオン出口端8に接続されている質量分析器10と、質量分析器10に接続されている荷電粒子源12とを含む。イオンの運動方向は破線の矢印14によって示され、荷電粒子の運動方向は破線の矢印16によって示されている。図示するように、装置は、荷電粒子源12によって生成される荷電粒子が質量分析器10を通り、多重極装置のイオン出口端8を介して、多重極装置4内に入るように構成されている。
【0015】
以下にさらに詳細に説明するように、多重極装置4は一般的に、イオン及び荷電粒子が混合されるイオン通路19を画定する細長い電極18を含む。利用される質量分析器によるが、質量分析器は、イオンを検出器に誘導するためのイオンパルサ20と、検出器22(必ずしも図示する位置にある必要はない)とを含む。また質量分析器10は、質量分析器10を介して荷電粒子を誘導するための1つ又は複数のイオン光学部品24、たとえばレンズ又はコリメータを含む。対象の装置は、随意的に、図1に示す3つの主要な構成要素の間にさらに別の構成要素(たとえば、イオンガイド、イオン光学部品、中間真空チャンバ等)を含む。たとえば、当業者には明らかであるように、荷電粒子源12を、たとえばイオンガイドを含む中間真空チャンバを介して質量分析器10に接続することができる。
【0016】
荷電粒子源12を、イオン又は電子の任意の発生源とすることができ、荷電粒子源12は、正に帯電したイオン、負に帯電したイオン又は電子をもたらす。たとえば、荷電粒子源12を、グロー放電イオン源、レーザ脱離/イオン化イオン源、電界イオン化イオン源、熱イオン化イオン源、化学イオン化イオン源、光イオン化イオン源、電子放出器とすることができる。したがって、一実施形態では、荷電粒子源12を、正又は負のイオンをもたらすグロー放電デバイス、又は電子放出器(たとえば、タングステンフィラメント)とすることができる。そのような荷電粒子源は、当該技術分野において一般的によく知られており、過度の努力を要することなく、本明細書に記載する方法に合わせて容易に改変することができる。
【0017】
同様に、質量分析器10を、任意の形式の適切な質量分析器とすることができる。典型的な実施形態では、質量分析器10を、飛行時間(TOF)質量分析器(この用語は、反射飛行時間質量分析器及び他の変形形態を含む)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)質量分析器、イオントラップ、四重極質量分析器とすることができる。ある特定の実施形態では、適切な質量分析器によって、イオンが質量分析器に入る方向に対して軸外にある方向にイオンが送出される。たとえば、TOF質量分析器では、イオンが、第1の方向に進行して質量分析器に入り、第1の方向に対して概ね垂直である第2の方向に律動的に送出される。したがって、ある特定の実施形態では、本明細書において利用される質量分析器がパルサ20(すなわち、イオンの方向を変更するための電極デバイス)を含み、イオンの方向の変更を容易にすることができる。
【0018】
多重極装置4を、質量分析システム内のイオンを操作(たとえば移動、例を挙げると輸送、又は断片化、蓄積、濾過、冷却等)することができる任意の形式の多重極装置とすることができる。本明細書において、用語「多重極装置」を、それらの装置を如何に使用することができるかにかかわらず、四重極、六重極、八重極及び16重極装置(又は他の数の細長い電極を含む類似の装置)を包含するために使用する。一実施形態では、多重極装置は衝突セルであり、その中でイオンが荷電粒子と衝突して、電荷還元、電荷移動、イオン-イオン反応、電子捕獲解離、衝突冷却、フラグメンテーション、又は別の物理的過程や化学的過程を容易にする。別の実施形態では、多重極装置はイオンガイドである。本発明の多くの実施形態では、衝突セルにおいてイオントラップ(2次元イオントラップ及び3次元イオントラップ、並びに線形イオントラップ及び非線形イオントラップを含む)を使用することができる。
【0019】
対象の多重極装置は、その装置の動作中に、それに沿ってイオンを保持(たとえば、トラップ)することができるか、又は一方向に(すなわち、装置のイオン入口端から装置のイオン出口端まで)移動させることのできる中心軸の周囲に、長手方向に配置されている複数のロッド(すなわち、2つ又はそれ以上のロッド、通常は、偶数のロッドであり、たとえば4、6、8、16又はそれ以上)を含む。本明細書では、用語「ロッド」は、任意の断面形状、たとえば、円形、長円形、半円形、凹形、平形、正方形、長方形、双曲線形又は多辺形である断面形状を有する構成物を記述するのに使用される。イオントラップでは、双曲線形のロッドが最も頻繁に使用されるが、任意の形式のロッドを使用することができる。
【0020】
一般的に、対象の多重極装置のロッドは導電性であり、イオンを受け入れるためのイオン入口端、イオンを放出するためのイオン出口端、及びイオン入口端からイオン出口端に延伸する中心軸を有するイオン通路を設けるように配置されている。ある特定の実施形態では、ロッドは1つ又は複数のカラーによって適切に配置されるように保持されるが、カラーに対するいつかの代替物を使用することもできる。
【0021】
一連のロッド間の間隔は、通常、装置の全てのロッド間で同じであるが、ロッド間隔を装置によって変更することもできる。使用時に、イオンをイオン通路の近くの領域に閉じ込める交流無線周波数(RF)電界、そしてある特定の実施形態では、イオンが装置の端部から出るのを防ぐ直流(DC)電界をもたらすように、ロッドが電気的に接続されている。
【0022】
対象の多重極装置を分割することも、分割せずに構成することもでき、多重極装置内にイオンを保持するための他の光学部品を含む場合がある。図2に示す一実施形態では、対象の多重極装置30は、放物線形ロッド31を含むイオントラップであり、3つの部分32、34、36に分割され、それらの部分は個別に異なる電源に接続されている。代替的な実施形態では、対象の多重極装置は、放物線形ロッドを含むイオントラップであり、分割されていない。そのような装置は、装置の中央通路からのイオンの漏出を調節する(たとえば、漏出するのを防ぐか、又は漏出できるようにする)ために、装置の端部を覆う、開口部を備えた電極「キャップ」を形成するレンズを備えている。
【0023】
ある特定の実施形態では、イオンがイオン入口端及びイオン出口端を経由して多重極装置から出るのを防ぐために、多重極装置の端部(たとえば、使用される多重極装置の形式に応じて、開口部を備えた電極キャップ、又はロッドの両端部分)にDC電圧が印加され、かつイオンを装置内に閉じ込めるRF電界を生成するために、ロッドにRF電圧が印加される。多重極装置の場合に知られているように、偶数番号のロッドに供給されるRF電圧に対して、1つおきに配置されているロッドに供給されるRF電圧は、180°位相をずらすことができる。一般的に、多重極装置内で生成される、イオンを閉じ込めるためのRFは通常、0.1MHz〜10 MHz、たとえば0.5MHz〜5MHzの周波数と、20 Vp-p〜10,000 Vp-p、たとえば400 Vp-p〜800 Vp-pの大きさを有する。
【0024】
本明細書において使用することができる、イオンガイド及び線形イオントラップを含む例示的な多重極装置は、一般的に当該技術分野においてよく知られている(たとえば、米国特許第6,570,153号、第6,285,027号、及び公開特許出願第20030183759号を参照。これらの公報は全体を参照することによって、その内容を全て本願明細書に取り入れることとする)。
【0025】
使用時に、イオン源によって生成されるイオンが、イオン入口端6を介して多重極装置に導入され、それらのイオンは、閉じ込めるためのRF電界によって、多重極装置内に保持される。イオン出口端8を介して、多重極装置に荷電粒子が導入され、荷電粒子及びイオンがイオン通路19において混合されるようになる。ある特定の実施形態では、イオン及び荷電粒子が混合された後、イオン通路内に存在するイオン(そのイオンは、親イオンの複数の娘イオン、又は異なる発生源からのイオンの混合物を含む場合がある)が、イオン出口端8を介して多重極装置から出て、質量分析器10に入る。質量分析器10に入るイオンは、パルサ20によって(ある特定の実施形態では、イオン反射体を介して)、検出器22に向かって律動的に送出され、検出器によって検出される。
【0026】
荷電粒子が質量分析器10を横断し、多重極装置4のイオン出口端8に入るために、荷電粒子を、イオン源と多重極装置の出口端との間の電圧差によって進める(たとえば、加速する)ことができる。したがって、ある特定の実施形態では、荷電粒子源と多重極装置との間で荷電粒子を輸送している間に、荷電粒子源は、多重極装置のイオン出口端のDC電圧よりも一層大きな正のDC電圧(正に帯電した荷電粒子が多重極装置に輸送されることになる場合)、又は一層大きな負のDC電圧(負に帯電した荷電粒子が多重極装置に輸送されることになる場合)のどちらかに保持される。多重極装置と荷電粒子源の間の電圧差は様々であるが、約1V〜約100 V、たとえば約5V〜約50 V、又は約10 V〜約25Vの正又は負の電圧差を容易に利用することができる。
【0027】
対象の装置の使用時に、ある特定の実施形態では、対象の多重極装置のイオン出口端に印加される任意の電圧が、一定の時間(たとえば、約10 μs〜約1s、たとえば10 μs〜20 μs、20 μs〜100 μs、100 μs〜1ms、1ms〜100 ms又は100 ms〜1s)だけ低減されるか、又はオフに切り替えられ、荷電粒子が多重極装置のイオン出口端を通過して、イオン通路に入ることができるようにする電気的なゲートを設けることができる。ある特定の実施形態では、そのゲートは毎秒数回(たとえば、毎秒1〜10回、たとえば毎秒10〜1000回、毎秒1,000〜10,000回、毎秒10,000〜50,000回、毎秒50,000〜100,000回)開閉し、荷電粒子が多重極装置に入ることができるようにする。多くの場合、対象の多重極装置に導入される荷電粒子は、多重極装置内に既に存在しているイオンよりも小さく、及び/又は高いエネルギーを有しているので、そのようなゲートが利用されるならば、多重極装置のイオン通路から、それほど多くの量のイオンを失うことなく、荷電粒子は多重極装置に入ることができるようになる。
【0028】
同様に、荷電粒子が質量分析器10を通過している間は、パルサ20に電圧は印加されない。言い換えると、ある特定の実施形態では、パルサ20は、荷電粒子が質量分析器10を通過している間、「オフ」である。さらに、パルサ20に電圧が印加されると、すなわちパルサが「オン」であり、イオンが質量分析器を介して律動的に送出されると、たとえば、荷電粒子源12と質量分析器10との間にある任意の適切なゲートデバイスによって、荷電粒子は質量分析器に入ることができないようになる。
【0029】
ある特定の実施形態では、多重極装置4のイオン出口端に向かう方向に、荷電粒子源12によって荷電粒子が質量分析器10の中に放出されるように、対象の装置が構成されている。質量分析器10は、多重極装置4のイオン出口端8に向かって荷電粒子を移動させる(たとえば加速する)のを容易にするために、イオン光学部品、たとえばレンズ等のようなコリメータ光学素子、又は無線周波数多極子等のようなイオンガイドを含む。ある特定の実施形態では、荷電粒子は、平行ビームとして、質量分析器を横断する。
【0030】
ある特定の実施形態では、荷電粒子源が対象の多重極装置と同軸に位置合わせされ、荷電粒子が、対象の多重極装置のイオン通路の長手方向の軸と同軸である方向に荷電粒子源によって放出されるように、対象の装置が適合されている。したがって、イオンが対象の多重極装置を介して動く方向に対して反平行である方向に、荷電粒子をイオン源から質量分析器まで放出することができる。図1に示すように、対象の多重極装置を介して動くイオンの方向14は、荷電粒子が動く方向16に対して同軸であり、かつ逆方向である。
【0031】
したがって、上記の装置は、荷電粒子を対象の多重極装置のイオン出口端に導入するように構成されている。対象の多重極装置のRF電界の強度が、装置のロッドの周囲において概ね最も強く、装置の長手方向の軸において最も弱いので、対象の多重極装置に向かって誘導される荷電粒子の多くは、大きなRF電界に曝されることなく、装置のイオン通路に入る。したがって、本明細書に記載する発明によれば、対象の多重極装置に入る荷電粒子は、他の手段によって多重極装置に導入される荷電粒子とは異なり、多重極装置に入るときに大きく偏向しないばかりか、エネルギーも大きく変化することはない。したがって、対象の本発明は、質量分析法の技術分野への大きな寄与を示す。
【0032】
[質量分析システム]
対象の装置は、上記の装置に加えて、一般的に一次イオン源を含む種々の質量分析システムにおいて利用することができる。対象のシステムにおいて利用されるイオン源を、限定はしないが、その中でも、真空で動作するマトリックス支援レーザ脱離イオン化源(MALDI)又は大気圧で動作するAP-MALDI、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源、真空で動作する化学イオン化源(CI)又は大気圧で動作するAPCI、誘導結合プラズマ(ICP)源を含む任意の形式のイオン源とすることができる。イオン源に導入される化学的試料は、液体クロマトグラフ(LC)、ガスクロマトグラフ(GC)、イオン移動度計(IMS)のような分離装置によって事前に分離にかけることができる。
【0033】
対象の装置が利用される典型的な質量分析システムを例示するためだけに提供される一実施形態では、対象の装置は、イオン源と、イオン源に接続されている質量選択装置と、イオン入口端及びイオン出口端を有する多重極装置と、多重極装置のイオン出口端に接続されている質量分析器と、質量分析器に接続されている荷電粒子源とを含むタンデム質量分析計において利用される。そのシステムは、荷電粒子源によって生成される荷電粒子が質量分析器を通過し、そのイオン出口端を介して多重極装置に入るように構成されている。上記の例では、多重極装置は衝突セルとして利用することができる。
【0034】
対象の質量分析システムの典型的な一実施形態を図3に示す。図3を参照すると、本発明の典型的な質量分析計50が、一次イオン源52と、質量選択装置54と、衝突セル4として利用される対象の多重極装置と、質量分析器10と、荷電粒子源12とを含む。被分析物を含む化学的試料又は生物学的試料が、イオン源52においてイオン化され、親イオンが生成される。親イオンは質量選択装置54(別の態様では、質量フィルタとして公知である)に(通常、少なくとも1つの中間真空移行ステージを介して)導入され、特定の親イオン(すなわち、特定の分子量の親イオン)が選択される。その親イオンは、衝突セルのイオン入口端6を介して、衝突セル4に輸送され、衝突セル内、通常イオントラップ内に保持される。荷電粒子源12において荷電粒子が生成され、上記の方法を利用して、質量分析器12を通り、コリメーションレンズ24を介して、衝突セルのイオン出口端8を経由して、衝突セルに輸送される。荷電粒子は衝突セルにおいて親イオンと混合される。親イオン及び荷電粒子は一定の時間だけ保持され、親イオンは衝突誘起フラグメンテーションを受けて、娘イオンになる。さらに、親イオン及び娘イオンは荷電粒子との反応を受ける。そのような反応は、イオン再結合、電荷移動、電荷還元等を含む。適切な時間が経過した後、娘イオン又は反応生成物は衝突セル4から質量分析器10に放出され、パルサ20によって検出器22に向かって律動的に送出され、検出される。対象のシステムは、質量分析器10に導入する前、特定の娘イオンを他の娘イオンからフィルタリング、濾過するために、衝突セル4と質量分析器10との間に随意的な質量選択装置を含む。
【0035】
ある特定の実施形態では、質量分析システムのイオン源を、イオン源に被分析物を含む試料をもたらすための装置に接続することができる。ある特定の実施形態では、その装置を、ガスクロマトグラフ(GC)装置、又は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、マイクロ液体クロマトグラフもしくはナノ液体クロマトグラフ、超高圧液体クロマトグラフ(UHPLC)を含む液体クロマトグラフ(LC)装置、又は、キャピラリ電気泳動(CE)装置、又は、キャピラリ電気泳動クロマトグラフ(CEC)装置のような分析分離装置とすることができ、任意の手動又は自動注入又は定量供給ポンプシステムを利用することができる。特定の実施形態では、たとえば、ナノポンプ又はマイクロポンプによって試料を供給することができる。
【0036】
本発明は、試料質量分析の方法において一般的な用途を見いだし、その場合、試料は、必ずしも必要ではないが、通常は溶媒に溶解している任意の材料(可溶性の固形物もしくは溶解した固形物を含む)又は材料の混合物とすることができる。試料は対象となる1つ又は複数の被分析物を含むことができる。試料は、食物、環境物質、被検体(たとえば、植物及び動物)から分離される組織又は体液のような生物学的試料等の種々の供給源から得ることができ、被検体から得られる試料は、限定はしないが、たとえば血漿、血清、脊髄液、精液、リンパ液、皮膚、呼吸器、腸及び尿生殖器管の外側断片、涙、唾液、乳、血液細胞、腫瘍、臓器を含み、さらには生体外細胞培養成分(限定はしないが、細胞培養液、推定的にウイルス感染した細胞、組換え細胞及び細胞成分の成長から生じる条件培地を含む)、又はその任意の生化学的画分の試料も含まれる。用語「試料」には、較正標準物質又は基準質量標準物質を含む試料も含まれる。
【0037】
本明細書において、試料内の成分は「被分析物」と呼ばれる。ある特定の実施形態では、対象の方法を利用して、被分析物の少なくとも約102、5×102、103、5×103、104、5×104、105、5×105、106、5×106、107、5×107、108、109、1010、1011、1012又はそれ以上の種を含む複雑な試料を調べることができる。本明細書において、用語「被分析物」は、試料の既知又は未知の成分を指すために使用される。ある特定の実施形態では、被分析物は、検出可能なさらに小さな分子に断片化することができる生体高分子、たとえばポリペプチド又はタンパク質である。
【0038】
本明細書において引用される全ての刊行物及び特許文献は、個々の刊行物又は特許文献がそれぞれ具体的かつ個別に指摘され、参照によって援用されるかのように、それらを参照することによって、その内容を全て本明細書に取り入れることとする。いずれの刊行物が引用されるにしても、それらの刊行物が出願日以前に開示されているという理由から、本発明が、先行する発明に基づいて、そのような刊行物に先行する権利が無いことが認められると解釈されるべきではない。
【0039】
本発明を、その具体的な実施形態を参照しながら説明してきたが、本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の変更を行うことができること、及び均等物を代わりに利用することができることは、当業者であれば理解するはずである。さらに、特定の状況、材料、物質の組成、工程、工程の1つ又は複数のステップに、本発明の目的、精神及び範囲に適合させるために、数多くの変更を適用することができる。全てのそのような変更は、添付の特許請求の範囲内にあることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本明細書において詳述される第1の例示的な実施形態の概略図である。
【図2】本明細書において詳述される第2の例示的な実施形態の概略図である。
【図3】本明細書において詳述される1つの例示的な質量分析システムの概略図である。
【符号の説明】
【0041】
4、30 多重極装置
6 イオン入口端
8 イオン出口端
10 質量分析器
12 荷電粒子源
18 電極
19 イオン通路
20 イオンパルサ
22 検出器
24 イオン光学部品
31 放物線形ロッド
50 質量分析計
52 一次イオン源
54 質量選択装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンと荷電粒子とを混合するための装置であって、
イオン出口端を有する多重極装置と、
前記イオン出口端に接続されている質量分析器と、
前記質量分析器に接続されている荷電粒子源とを備え、
前記荷電粒子源によって生成される荷電粒子が前記質量分析器を通って、前記イオン出口端を介して、前記多重極装置内に入るように構成されている装置。
【請求項2】
前記荷電粒子源が、前記多重極装置の前記イオン出口端と同軸に位置合わせされている請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記質量分析器がパルサを含み、前記多重極装置及び該パルサに印加される電圧を変調することによって、荷電粒子が、前記質量分析器を通過して、前記多重極装置内に入ることができるようになる請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記質量分析器が、前記荷電粒子を前記多重極装置の前記イオン出口端に誘導するイオン光学素子をさらに備えている請求項1に記載の装置。
【請求項5】
電源が、前記多重極装置の前記イオン出口端と前記荷電粒子源との間に電圧差をもたらす請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記多重極装置に無線周波数(RF)の電圧が印加される請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記多重極装置が、四重極装置、六重極装置又は八重極装置である請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記荷電粒子源が、グロー放電イオン源、レーザ脱離/イオン化イオン源、電界イオン化イオン源、熱イオン化イオン源、化学イオン化イオン源、光イオン化イオン源又は電子放出器である請求項1に記載の装置。
【請求項9】
イオン源と、
前記イオン源に接続されている質量選択装置と、
イオン出口端を有する多重極装置と、
前記イオン出口端に接続されている質量分析器と、
前記質量分析器に接続されている荷電粒子源とを備え、
前記荷電粒子源によって生成される荷電粒子が前記質量分析器を通って、前記イオン出口端を介して、前記多重極装置内に入るように構成されている質量分析システム。
【請求項10】
前記イオン源が、レーザ脱離/イオン化イオン源、電界イオン化イオン源、熱イオン化イオン源、化学イオン化イオン源、グロー放電イオン源又は光イオン化イオン源である請求項9に記載の質量分析システム。
【請求項11】
多重極装置内でイオンと荷電粒子とを混合する方法であって、
前記多重極装置のイオン入口端を介して、該多重極装置内にイオンを導入し、
前記多重極装置のイオン出口端を介して、該多重極装置内に荷電粒子を導入し、及び
前記多重極装置内でイオン及び荷電粒子を混合することからなる方法。
【請求項12】
前記荷電粒子が、前記多重極装置内に導入される前、質量分析器を通過する請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−351532(P2006−351532A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163010(P2006−163010)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】