説明

イオン吸着装置により駆動される吸収式熱発生装置

【課題】電気二重層電極を用いる吸収式空調装置とそれに用いるイオン吸着装置が提供される。
【解決手段】この電気二重層電極を用いる吸収式空調装置は、熱スイング方式又は圧力スイング方式により吸収液の再生を行う従来の吸収式空調装置あるいは吸収式熱発生装置に比べて、エネルギー効率が高く、構造が簡単である。複数の電気二重層電極がイオンの吸着とイオンの放出とを交互に行う。このイオンの吸着及び放出により発生するイオン含有液の沸点変化を利用して冷熱が発生される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン含有液体、特に電解液中のイオンを移動させるイオン吸着装置により駆動される吸収式熱発生装置に関する。熱発生装置が発生する熱は冷熱を含む。
【背景技術】
【0002】
本出願人の出願になる特許文献1は、イオン吸着装置により駆動される吸収式熱発生装置を開示している。しかしながら、その構成は複雑であり、かつ、駆動回路の損失が大きいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−82606
【発明の概要】
【0004】
本発明は、イオン吸着装置により駆動される熱発生装置の構成の簡素化をその第1の目的としている。本発明は、イオン吸着装置により駆動される熱発生装置の電力消費の低減をその第2の目的としている。
【0005】
上記文献に記載されるイオン吸着装置駆動型吸収式熱発生装置は、低イオン濃度の電解液を収容するとともに外部から熱を吸収して蒸気を発生する蒸発部と、高イオン濃度の電解液を収容するとともに蒸発部が発生する蒸気を吸収して熱を外部へ発生する凝縮部と、凝縮部のイオン濃度を蒸発部のイオン濃度より増大させるイオン吸着装置とを備える。イオン吸着装置は、電解液内に配置された複数の電気二重層電極と、周期的に変化する電圧を複数の電気二重層電極に印加する駆動回路とを備える。
【0006】
運転により蒸発部の液量の減少及び凝縮部のイオン濃度低下を招く吸収式熱発生装置たとえば吸収式クーラーは、運転により凝縮部と蒸発部との間の蒸気圧差が減少する。イオン吸着装置は、EDLCとして一般に知られている複数の電気二重層電極によるイオン吸着とイオン放出とを交互に繰り替えすことにより、凝縮部と蒸発部との間のイオン濃度差(蒸気圧差)を維持する。
【0007】
第1発明のイオン吸着装置は、それぞれ電気二重層電極のペア及び電解液を収容するとともに、互いに隣接しつつ列状に配置される複数のセルを有する。N(Nは整数)番目のセル及びN+1番目のセルは熱絶縁され、かつ、相互の蒸気流通が可能とされる。N+1番目のセル及びN+2番目のセルは良好な熱伝達性能を有して相互の蒸気流通が不能とされる。列の両端に配置された2つのセルは、凝縮部と蒸発部とを交互に構成する。駆動回路は、奇数番目のセル内の電気二重層電極対に印加される第1電圧が大きく、偶数番目のセル内の電気二重層電極対に印加される第2電圧が小さい第1運転モードと、第1電圧が小さく、第2電圧が大きい第2運転モードとを交互に繰り返すことを特徴としている。
【0008】
すなわち、このイオン吸着装置を有する吸収式熱発生装置は、電気二重層電極(いわゆるEDLC)のイオン吸着及びイオン放出動作を利用することにより、電解液のイオン濃度を変更する。イオン濃度の変更により、電解液の沸点を変化させることができる。従来の熱スイングタイプ又は圧力スイングタイプの吸収式熱発生装置と比べて、本発明のイオン吸着装置駆動型吸収式熱発生装置は、簡素な構造をもつにもかかわらず、エネルギー損失の低減と、大きな熱落差を実現する。
【0009】
好適な態様において、列の両端に配置された2つのセルの一つは、第1の外部流体通路を流れる外部流体と熱交換する。列の両端に配置された2つのセルの他の一つは、第2の外部流体通路を流れる外部流体と熱交換する。第1、第2外部流体通路に流れる外部流体は、第1運転モード及び第2運転モードの切換と同期して流路切換装置により切り替えられる。これにより、装置の構成を一層簡素とすることができる。
【0010】
好適態様によれば、奇数番目のセル内の各電気二重層電極対は、直列に接続されて第1キャパシタを構成する。偶数番目のセル内の各電気二重層電極対は、直列に接続されて第2キャパシタを構成する。駆動回路は、第1キャパシタに第1電圧とほぼ逆相の第1電圧を印加し、第2キャパシタに第2電圧を印加する。これにより、抵抗損失を低減することができる。
【0011】
好適態様によれば、駆動回路は、直流電源と第1キャパシタとの間に配置されるとともに、直流電源の電圧を降圧して第1キャパシタに印加する第1のチョッパ型DCDCコンバータと、直流電源と第2キャパシタとの間に配置されるとともに、直流電源の電圧を降圧して第2キャパシタに印加する第2のチョッパ型DCDCコンバータとを有する。第1のチョッパ型DCDCコンバータは、第1キャパシタの放電時に第1キャパシタの電圧を昇圧することにより、第1キャパシタの蓄電電力を電源に回生する。第2のチョッパ型DCDCコンバータは、第2キャパシタの放電時に第2キャパシタの電圧を昇圧することにより、第2キャパシタの蓄電電力を電源に回生する。これにより、電気二重層キャパシタ(EDLC)への突入電流を低減することができるとともに、電気二重層キャパシタ(EDLC)の蓄電エネルギーを良好に回収することができる。
【0012】
第2発明のイオン吸着装置の駆動回路は、電解液が流れる方向へ順番に配列された3種類の電気二重層電極U、V、Wに3相交流電圧の各相電圧を個別に印加することにより、電解液中の正イオン及び負イオンの両方を電解液が流れる方向と逆方向へ輸送することを特徴としている。これにより、上記特許文献1に記載された4相駆動に比べて、少ない消費電力で高いイオン輸送効率を実現することができる。
【0013】
好適な態様において、駆動回路は、3相降圧トランスと、この3相降圧トランスを通じて3種類の電気二重層電極U、V、Wに三相電圧の各相電圧を印加する三相インバータとを有する。これにより、三相インバータの抵抗損失及びスイッチング損失を低減することができる。
好適な態様において、駆動回路は、商用3相交流電圧を降圧する3相降圧トランスを有する。これにより、大電流を出力する駆動回路を簡素に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1のイオン吸着装置をもつ吸収式空調装置を示すブロック図である。
【図2】図1に示されるイオン吸着装置を示す模式断面図である。
【図3】図1に示される駆動回路を示す回路図である。
【図4】実施例2のイオン吸着装置をもつ吸収式空調装置を示すブロック図である。
【図5】図4の空調装置の変形態様を示すブロック図である。
【図6】図4に示されるイオン吸着装置を駆動する駆動回路を示すブロック回路図である。
【図7】図4に示されるイオン吸着装置の模式断面図である。
【図8】図7に示されるイオン吸着装置の動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
実施例1が図1を参照して説明される。図1は、実施例1のイオン吸着装置をもつ空調装置を示すブロック図である。この空調装置は、イオン吸着装置1、ダンパー21−24、複数のダクト25−30、駆動回路11、コントローラ12、内部ファン及び外部ファンを有する。室内空気流(R.A)を形成する内部ファン、及び外気流(R.A)を形成する外部ファンは図1に示されていない。外気流(F.A)は、入口ダクト27、中央ダクト26(又は25)及び出口ダクト28を通じて流れている。内気流(R.A)は、入口ダクト29、中央ダクト25(又は25)及び出口ダクト30を流れる。
【0016】
入口ダクト27の後端部に設けられたダンパー21は、外気流(F.A)のために中央ダクト25、26のどちらか一つを選択する。ダンパー22は、中央ダクト25、26のどちらか一つから出口ダクトダクト28へ外気流(F.A)を流す。入口ダクト29の後端部に設けられたダンパー23は、内気流(R.A)のために中央ダクト25、26のどちらか一つを選択する。ダンパー24は、中央ダクト25、26のどちらか一つから出口ダクトダクト30へ内気流(R.A)を流す。中央ダクト25の空気流は、イオン吸着装置1の一表面3に接触している。中央ダクト26の空気流は、イオン吸着装置1の他表面4と接触している。すなわち、イオン吸着装置1は、イオン吸着装置1の両端面は中央のダクト25、26の空気流と熱交換する。
【0017】
例示された実線位置にダンパー21−24がある時、外気流はイオン吸着装置1の表面4と接触する。例示された実線位置にダンパー21−24がある時、内気流はイオン吸着装置1の表面3と接触する。例示された破線位置にダンパー21−24がある時、外気流はイオン吸着装置1の表面3と接触する。例示された破線位置にダンパー21−24がある時、内気流はイオン吸着装置1の表面4と接触する。
【0018】
イオン吸着装置1が、図2を参照して説明される。イオン吸着装置1は、適切に配置されたセル51−56を有する。セル51と52は蒸気ダクト61で接続されている。セル53と54は蒸気ダクト62で接続されている。セル55と56は蒸気ダクト63で接続されている。セル51の一側面はひれ30をもつ熱交換面3からなる。セル56の一側面はひれ40をもつ熱交換面4からなる。セル52の一側面はセル53の一側面と接触している。セル54の一側面はセル55の一側面と接触している。セル51、52の他側面は、絶縁体71を挟んで互いに隣接している。セル53、54の他側面は、絶縁体72を挟んで互いに隣接している。セル55、56の他側面は、絶縁体73を挟んで互いに隣接している。
【0019】
絶縁体71−73は、断熱と電気絶縁において優れた性能を有する。すべてのセル51−56はそれぞれ、一対の電極81−82と電解液Lとを収容している。電解液L内にて互いに所定ギャップを挟んで対面する一対の電極81−82は、電気二重層コンデンサ(EDLC)を構成してる。たとえば、電解液LがKOH水溶液又はLiBr水溶液又はアンモニア水溶液を好適に採用することができる。しかし、それに限定されない。多孔性カーボン材料が電極として好適である。駆動回路11は、電気二重層コンデンサ(EDLCs)13A、13B及び13Cの2つの電極81、82の間に第1電圧V1を印加する。駆動回路11は、電気二重層コンデンサ(EDLCs)14A、14Bと14Cの2つの電極81、82の間に、第2電圧V2を印加する。コントローラ12は駆動回路11を制御する。
【0020】
図1に示されるイオン吸着装置1の動作が以下に説明される。
まず、第1駆動モードが説明される。駆動回路11は、直列接続されたEDLC13A、13B及び13Cの各々に、予め定められた値の第1電圧V1を印加する。駆動回路11は、直列接続されたEDLCs14A、14B及び14Cに0Vの第2電圧V2を印加する。その結果、セル51、53及び55内の電解液Lのイオンは、EDLCs13A、13B及び13Cに吸着される。EDLCs14A、14B及び14Cに吸着されたイオンは、セル52、54及び56の電解液Lに移動する。セル51、53及び55内の電解液Lの沸点が減少する。セル52、54及び56内の電解液Lの沸点が、増加する。セル51、53及び55から蒸発した水蒸気が、セル52、54及び56内へ流入する。セル51、53及び55が冷却され、セル52、54及び56が加熱される。セル52の熱はセル53へ伝達される。セル54の熱はセル55へ伝達される。その結果、低温のセル51が更に冷却され、高温のセル56が更に加熱される。したがって、内気流(R.A)はセル51の表面3により十分に冷却され、セル56の表面4は外気流(F.A)により十分に冷却される。
【0021】
次に、第2駆動モードが説明される。ダンパー21−24は点線で示される位置をもつ。駆動回路11は、直列接続されたEDLC13A、13B及び13Cに0Vの第1電圧V1を印加する。駆動回路11は、EDLCs14A、14B及び14Cの各々に、予め定められた価値(たとえば1.2−2V)で、第2の電圧V2を印加する。その結果、セル52、54及び56内の電解液Lに含まれるイオンは、EDLCs14A、14B及び14Cに吸着される。EDLCs13A、13B及び13Cに吸着されたイオンは、セル51、53及び55内の電解液Lに移動する。セル52、54及び56内の電解液Lの沸点が減少し、セル51、53及び55内の電解液Lの沸点が増加する。セル52、54及び56から蒸発した水蒸気がセル51、53及び55内へ流入する。セル52、54及び56が冷却され、セル51、53及び55が加熱される。セル53の熱はセル52に伝達される。セル55の熱はセル54に伝達される。その結果、低温のセル56が更に冷却され、高温のセル51が更に加熱される。したがって、内気流はセル56の表面4により十分に冷却され、セル51の表面3は外気流により十分に冷却される。
【0022】
駆動回路11が、図3を参照して説明される。駆動回路11は、互いに並列接続された一対のチョッパ型DCDCコンバータ91−92からなる。降圧型DCDCコンバータ91は、一対のトランジスタT1、T2とリアクトルL1とからなる。互いに直列接続された上アームトランジスタT1及び下アームトランジスタT2の両端は、外部直流電源の高電位端VH及び低電位端VLに別々に接続されている。上アームトランジスタT1及び下アームトランジスタT2の接続点は、リアクトルL1及び負荷キャパシタ13を通じて外部直流電源の低電位端子VLに接続されている。負荷キャパシタ13は、互いに直列接続されたEDLCs13A、13B及び13Cにより構成されている。
【0023】
降圧型DCDCコンバータ92は、一対のトランジスタT3、T4とリアクトルL2とからなる。互いに直列接続された上アームトランジスタT3及び下アームトランジスタT4の両端は、外部直流電源の高電位端VH及び低電位端VLに別々に接続されている。上アームトランジスタT3及び下アームトランジスタT4の接続点は、リアクトルL2及び負荷キャパシタ14を通じて外部直流電源の低電位端子VLに接続されている。負荷キャパシタ14は、互いに直列接続されたEDLCs14A、14B及び14Cにより構成されている。
【0024】
この駆動回路11の動作が以下に説明される。上記説明された第1運転モードにおいて、降圧動作を行う第1のDCDCコンバータ91は、互いに直列接続された複数の電気二重層コンデンサからなる負荷キャパシタ13に所定の第1電圧V1を印加する。チョッパ型DCDCコンバータの降圧動作自体は良く知られている。上アームトランジスタT1がオンされ、下アームトランジスタT2がオフされる時、電流がリアクトルL1を通じて負荷キャパシタ13に供給される。上アームトランジスタT1がオフされ、下アームトランジスタT2がオンされる時、リアクトルL1の残留磁気エネルギーは、電流を下アームトランジスタT2を通じて負荷キャパシタ13に供給する。検出した第1電圧V1の値を所定範囲内に維持するために、上アームトランジスタT1のPWMデユーティ比が調整される。
【0025】
この第1運転モードにおいて、第2のDCDCコンバータ92の下アームトランジスタT4は常時オンされ、上アームトランジスタT3は常時オフされる。これにより、下アームトランジスタT4により短絡された負荷キャパシタ14の電圧は0Vとなる。リアクトルL2は負荷キャパシタ13の短絡に伴う大きな短絡電流の発生を防止することができる。
【0026】
上記説明された第2運転モードにおいて、降圧動作を行う第2のDCDCコンバータ92は、互いに直列接続された複数の電気二重層コンデンサからなる負荷キャパシタ14に所定の第2電圧V1を印加する。この動作は、第1運転モードにおける第1のDCDCコンバータ91の降圧動作と同じである。
更に、この第2運転モードにおいて、第1のDCDCコンバータ91は、負荷キャパシタ13に蓄電された静電エネルギーを外部直流電源に戻す逆昇圧動作を行う。
【0027】
すなわち、下アームトランジスタT2がオンされ、上アームトランジスタT1がオフされる時、電流が負荷キャパシタ13からリアクトルL1を通じて下アームトランジスタT2に供給される。下アームトランジスタT2がオフされ、上アームトランジスタT1がオンされる時、リアクトルL1の残留磁気エネルギーは、負荷キャパシタ13からリアクトルL1及び上アームトランジスタT1を通じて外部直流電源に流れる電流を発生する。負荷キャパシタ13の端子電圧V1はこの回生電流により徐々に低下する。コントローラ12は、端子電圧V1の低下速度又は負荷キャパシタ13の電流値に応じて、下アームトランジスタT2のデユーティ比を制御する。下アームトランジスタT4のデユーティ比は徐々に増加し、最終的に100%となる。第1DCDCコンバータ91の発電期間は第2DCDCコンバータ92の電流消費期間の初期と重なって実施される。第2DCDCコンバータ92の発電期間は第1DCDCコンバータ91の電流消費期間の初期と重なって実施される。したがって、各DCDCコンバータ91、92の消費電流が大きい電流消費期間の初期において、外部直流電源の出力電流を低減することが可能となる。
【0028】
以下、上記した第1運転モードと第2運転モードが所定のインタバルで交互に実施される。第1運転モードにおいて、負荷キャパシタ14の静電エネルギーもDCDCコンバータ92により外部直流電源に回生される。上記実施例では、内気流を冷却する上記冷房動作の変わりに、内気流を加熱し、外気流を冷却するヒートポンプ動作も可能である。内気流及び外気流はその他の媒体に変更されることができる。EDLCの充電電圧は電気分解電圧以下とされることが好適である。
【実施例2】
【0029】
実施例2が図4を参照して説明される。図4は、吸収式空調装置を示すブロック図である。この空調装置は、イオン吸着装置70、吸収セル71、蒸発セル72、蒸気流量制御用の弁73、液体流量調整弁74〜75、85〜86、ポンプ76、放熱熱交換器77をもつ。配管78は吸収セル71と弁74とを接続する。配管79は蒸発セル72と弁75とを接続する。配管80はポンプ76とイオン吸着装置70の流入口とを連通する。配管81は弁85と吸収セル71とを連通する。配管82は弁86と蒸発セル72とを連通する。熱交換器83は吸収セル71を放熱する。熱交換器84は蒸発セル72に熱を与える。
【0030】
高いイオン濃度をもつ電界液が吸収セル71に収容されている。低いイオン濃度をもつ電界液が蒸発セル72に収容されている。電解液として、水酸化カリウム水溶液又は水酸化アンモニウム水溶液又は臭化リチウム水溶液を採用することが好適である。
ポンプ80は、吸収セル71弁74を通じて流れ込む高濃度液体をイオン吸着装置70に送る。ポンプ80は、蒸発セル72から弁75を通じて流れ込む低濃度液体をイオン吸着装置70に送る。イオン吸着装置70から出た液体は、弁85を通じて吸収セル71に戻る。イオン吸着装置70から出た液体は、弁86を通じて蒸発セル72に戻る。
【0031】
弁73を開くと、沸点差により蒸発セル72から吸収セル71に水蒸気が流れる。蒸発セル72の液体が加熱されるので、熱交換器83は外部流体により冷却される。吸収セル71の液体が冷却されるので、熱交換器84は外部流体から熱を吸収する。
溶媒である水が吸収セル71に蓄積する。したがって、水は吸収セル71から蒸発セル72へ戻されねばならない。この水移送動作が以下に説明される。まず、弁74、86が開かれ、弁75、85が閉じられる。ポンプ76が運転される。イオン吸着装置70は、液体流に含まれるイオンを上流側へ送る。その結果、イオン吸着装置70から出た低濃度液が熱交換器77により冷却された後、蒸発セル72に送られる。
【0032】
次に、弁86が閉じられ、弁85が開かれる。イオン吸着装置70の各電気二重層電極は短絡される。これにより、イオン吸着装置70内のイオンは、吸収セル71から弁74、ポンプ76、イオン吸着装置70、弁75を通じて吸収セル71に戻る。これにより、吸収セル71のイオン濃度が増大する。
次に、蒸発セル72から吸収セル71へのイオン移送動作が説明される。イオン吸着装置70から供給される液体は低濃度のイオン濃度をもつので、蒸発セル72のイオン濃度は徐々に増加する。このため、定期的に蒸発セル72から吸収セル71へイオンが送られる。
【0033】
まず、弁74、85が閉じられ、弁75、86が開かれる。ポンプ76が運転される。イオン吸着装置70は、液体流に含まれるイオンを上流側へ送る。これにより、イオン濃度が減少した低濃度液体は、熱交換器77により冷却された後、蒸発セル72に戻る。
次に、弁75、86か閉じられ、弁74、85が開かれる。ポンプ76が運転される。イオン吸着装置70の各電気二重層電極は短絡される。これにより、イオン吸着装置70内のイオンは、吸収セル71から弁74、ポンプ76、イオン吸着装置70、弁75を通じて吸収セル71に戻る。これにより、吸収セル71のイオン濃度が増大する。
【0034】
(変形態様)
変形態様が図5を参照して説明される。この変形態様の特徴は、図4に示される実施例2の液体輸送システムを2つ有する点である。図5の吸収式空調装置は、ポンプ76A、76Bと、イオン吸着装置70A、70Bと、弁85A、85B、86A、86Bとを有している。
【0035】
吸収セル71から蒸発セル72への低濃度電解液の輸送動作が以下に説明される。まず、弁86Aが開かれ、弁85Aが閉じられる。ポンプ76Aが運転される。イオン吸着装置70A内の電気二重層電極は、流入した高濃度液のイオンを吸着する。その結果、低濃度液がイオン吸着装置70Aから弁86Aを通じて蒸発セル72に送られる。
次に、弁85Aが開かれ、弁86Aが閉じられる。イオン吸着装置70A内の各電気二重層電極を短絡して、各電気二重層電極に蓄積されたイオンがイオン吸着装置70A内の電解液に放出される。濃度が増大した電解液は弁85Aを通じて吸収セル71に戻る。弁85A、86Aを閉じ、ポンプ76Aを停止することにより、この動作は終了する。
【0036】
蒸発セル72から吸収セル71への高濃度電解液の輸送動作が以下に説明される。まず、弁86Bが開かれ、弁85Bが閉じられる。ポンプ76Bが運転される。蒸発セル72からイオン吸着装置70Bに流入した低濃度液のイオンはイオン吸着装置70B内の電気二重層電極に吸着される。低濃度となった低濃度液はイオン吸着装置70Bから弁86Bを通じて蒸発セル72に戻される。
次に、弁85Bが開かれ、弁86Bが閉じられる。イオン吸着装置70B内の各電気二重層電極を短絡して、各電気二重層電極に蓄積されたイオンがイオン吸着装置70B内の電解液に放出される。濃度が増大した電解液は弁85Bを通じて吸収セル71に戻る。弁85B、86Bを閉じ、ポンプ76Bを停止することにより、この動作は終了する。
【0037】
実施例2で説明されたイオン吸着装置70が図6を参照して説明される。このイオン吸着装置70は、正負のイオンを一方向へ移動させるイオンポンプとしての機能をもつ。駆動回路11は、3相トランス13を通じてイオン吸着装置70に3相交流電圧を印加している。駆動回路11は、3相インバータにより構成されている。降圧トランスである3相トランス13は10倍以上の降圧比率をもつ。
イオン吸着装置70は、ブロック状のケース700と、このケース700内に収容された8枚の電極アセンブリ71−78からなる(図7参照)。ケース700は、電気絶縁材料により作製されることが好ましい。ケース700の上流側の端壁に入口部80が形成されている。ケース700の下流側の端壁に出口部80Aが形成されている。イオン含有液体は入口部80からケース700内に流れ込む。ケース700内のイオン含有液体は出口部80Aからに流れ出す。
【0038】
各電極アセンブリ71−78は互いに平行に配列されている。隣接する2枚の電極アセンブリは、狭い幅をもつ流体チャンネル79を横断して対面している。電極アセンブリ71−78は、高い電気抵抗値をもつ樹脂製の平板からなる。電極アセンブリ71及び78はケース700の内面に固定されている。電極アセンブリ72−77は、電極アセンブリ71と電極アセンブリ78との間に順番に配置されている。電極アセンブリ71−78は、イオン含有液体の流れと直角に配置されている。
電極アセンブリ71−78の平坦面にはそれぞれ、3種類の電気二重層電極U、V、Wが流れ方向へ順番に配置されている。電気二重層電極U、V、Wはそれぞれ、活性炭に覆われた銅板からなる。小さいギャップが、互いに隣接する2つの電気二重層電極の間に確保されている。
【0039】
電極アセンブリ71−72の模式拡大図が図8に示される。電極アセンブリ7の電極Wは、流体チャンネル79を横断して電極アセンブリ72の電極V、Uの両方に対面している。電極アセンブリ7の電極Vは、流体チャンネル79を横断して電極アセンブリ72の電極U、Wの両方に対面している。電極アセンブリ7の電極Uは、流体チャンネル79を横断して電極アセンブリ72の電極W、Vの両方に対面している。
このイオン吸着装置70の動作が図8を参照して説明される。図8は、互いに異なる8つの電圧印加状態を示す8つの状態A−Fを図示する。このイオン吸着装置70のイオン輸送動作が図7を参照して説明される。降圧トランス111は電極Uに相電圧Vuを印加する。降圧トランス111は電極Vに相電圧Vvを印加する。
降圧トランス111は電極Wに相電圧Vwを印加する。3つの相電圧の間の位相差は電気角120度である。3つの相電圧の1周期は6つの期間に分割される。それぞれ電気角60度をもつ6つの期間は、状態A−Fに個別に相当する。
【0040】
状態Aは、相電圧Vuが0から正値に変化する60度期間である。相電圧Vwは正値から0に変化する。イオン含有液体中のイオンは、各電極U、V及びWに吸着される。状態Bは、相電圧Vwが0から負値に変化する60度期間である。相電圧Vvは負値から0に変化する。この電極電位の変化により、矢印で示されるイオン移動が生じる。状態Cは、相電圧Vvが0から正値に変化する60度期間である。相電圧Vuは正値から0に変化する。この電極電位の変化により、矢印で示されるイオン移動が生じる。
【0041】
状態Dは、相電圧Vuが0から負値に変化する60度期間である。相電圧Vwは負値から0に変化する。この電極電位の変化により、矢印で示されるイオン移動が生じる。状態Eは、相電圧Vwが0から正値に変化する60度期間である。相電圧Vvは正値から0に変化する。この電極電位の変化により、矢印で示されるイオン移動が生じる。状態Fは、相電圧Vvが0から負値に変化する60度期間である。相電圧Vuは負値から0に変化する。この電極電位の変化により、矢印で示されるイオン移動が生じる。その後、状態Aに戻る。
【0042】
図8の状態A−Fからわかるように、各電極に吸着されたイオンは、順番に流れ方向と平行に移動する。イオン移動方向をイオン含有液体が流れる方向と逆とすることにより、吸収セル71から蒸発セル72にイオン濃度が低い溶媒を移動させることができる。
(変形態様)
降圧トランス111に商業用の3相交流電圧を印加する時、三相インバータからなる駆動回路11の省略が可能となる。更に、上記説明された電気二重層電極列を用いたイオン輸送ポンプは、吸収式空調装置の他に、他の種々の用途で利用されることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低イオン濃度の電解液を収容するとともに外部から熱を吸収して蒸気を発生する蒸発部と、高イオン濃度の電解液を収容するとともに蒸発部が発生する蒸気を吸収して熱を外部へ発生する凝縮部と、凝縮部のイオン濃度を蒸発部のイオン濃度より増大させるイオン吸着装置とを備え、
イオン吸着装置は、電解液内に配置された複数の電気二重層電極と、周期的に変化する電圧を複数の電気二重層電極に印加する駆動回路とを備えるイオン吸着装置駆動型吸収式熱発生装置において、
イオン吸着装置は、それぞれ電気二重層電極のペア及び電解液を収容するとともに、互いに隣接しつつ列状に配置される複数のセルを有し、
N(Nは整数)番目のセル及びN+1番目のセルは熱絶縁され、かつ、相互の蒸気流通が可能とされ、
N+1番目のセル及びN+2番目のセルは良好な熱伝達性能を有して相互の蒸気流通が不能とされ、
列の両端に配置された2つのセルは、凝縮部と蒸発部とを交互に構成し、
駆動回路は、奇数番目のセル内の電気二重層電極対に印加される第1電圧が大きく、偶数番目のセル内の電気二重層電極対に印加される第2電圧が小さい第1運転モードと、第1電圧が小さく、第2電圧が大きい第2運転モードとを交互に繰り返すことを特徴とするイオン吸着装置駆動型吸収式熱発生装置。
【請求項2】
列の両端に配置された2つのセルの一つは、第1の外部流体通路を流れる外部流体と熱交換し、
列の両端に配置された2つのセルの他の一つは、第2の外部流体通路を流れる外部流体と熱交換し、
第1、第2外部流体通路に流れる外部流体は、第1運転モード及び第2運転モードの切換と同期して流路切換装置により切り替えられる請求項1記載のイオン吸着装置駆動型吸収式熱発生装置。
【請求項3】
奇数番目のセル内の各電気二重層電極対は、直列に接続されて第1キャパシタを構成し、
偶数番目のセル内の各電気二重層電極対は、直列に接続されて第2キャパシタを構成し、
駆動回路は、第1キャパシタに第1電圧を印加し、第2キャパシタに第1電圧とほぼ逆相の第2電圧を印加する請求項1記載のイオン吸着装置駆動型吸収式熱発生装置。
【請求項4】
駆動回路は、直流電源と第1キャパシタとの間に配置されるとともに、直流電源の電圧を降圧して第1キャパシタに印加する第1のチョッパ型DCDCコンバータと、
直流電源と第2キャパシタとの間に配置されるとともに、直流電源の電圧を降圧して第2キャパシタに印加する第2のチョッパ型DCDCコンバータと、
を有し、
第1のチョッパ型DCDCコンバータは、第1キャパシタの放電時に第1キャパシタの電圧を昇圧することにより、第1キャパシタの蓄電電力を電源に回生し、
第2のチョッパ型DCDCコンバータは、第2キャパシタの放電時に第2キャパシタの電圧を昇圧することにより、第2キャパシタの蓄電電力を電源に回生する請求項3記載のイオン吸着装置駆動型吸収式熱発生装置。
【請求項5】
低イオン濃度の電解液を収容するとともに外部から熱を吸収して蒸気を発生する蒸発部と、高イオン濃度の電解液を収容するとともに蒸発部が発生する蒸気を吸収して熱を外部へ発生する凝縮部と、凝縮部のイオン濃度を蒸発部のイオン濃度より増大させるイオン吸着装置とを備え、
イオン吸着装置は、電解液内に配置された複数の電気二重層電極と、周期的に変化する電圧を複数の電気二重層電極に印加する駆動回路とを備えるイオン吸着装置駆動型吸収式熱発生装置において、
駆動回路は、電解液が流れる方向へ順番に配列された3種類の電気二重層電極U、V、Wに3相交流電圧の各相電圧を個別に印加することにより、電解液中の正イオン及び負イオンの両方を電解液が流れる方向と逆方向へ輸送することを特徴とするイオン吸着装置駆動型吸収式熱発生装置。
【請求項6】
駆動回路は、3相降圧トランスと、この3相降圧トランスを通じて3種類の電気二重層電極U、V、Wに三相電圧の各相電圧を印加する3相インバータとを有する請求項5記載のイオン吸着装置駆動型吸収式熱発生装置。
【請求項7】
駆動回路は、商用3相交流電圧を降圧する3相降圧トランスを有するイオン吸着装置駆動型吸収式熱発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−224524(P2011−224524A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107681(P2010−107681)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(507348676)有限会社 スリ−アイ (35)
【Fターム(参考)】