説明

イオン導電性樹脂、および電子写真用導電性部材

【課題】低温低湿環境下でも、安定して高い導電性を示す電子写真用導電性部材の提供。
【解決手段】導電層はイオン導電性樹脂を含有し、該イオン導電性樹脂は、下記式(1)、(2)、(3)および(4)で示される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造と、下記式(5)で示される構造とを有する電子写真用導電性部材:(式(1)〜式(5)中、R、R、RおよびRは2価の有機基であり、X、X、XおよびXは各々独立にスルホン酸基または第四級アンモニウム塩基を示す。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン導電性樹脂および電子写真用導電性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置において、電子写真感光体に当接して配置され、当該電子写真感光体を帯電させる帯電ローラの導電層には、当該導電層の導電性の調整のために第四級アンモニウム塩のようなイオン導電剤が添加されている。
【0003】
しかしながら、イオン導電剤を用いて導電性を調整した導電層の電気抵抗値の環境安定性は、導電層の保水量に大きく依存する。ここで、導電層の保水量とは導電層中に含まれる水分子の量をいう。特に、低温低湿環境下、具体的には、例えば、温度15℃、湿度10%RHの環境下においては、導電層の保水量が減少し、帯電ローラの電気抵抗が高くなる。このような帯電ローラを電子写真画像の形成に使用して、高速で高精細な電子写真画像を出力した場合、得られる電子写真画像にスジ等の欠陥を生じやすくなる。
【0004】
このような課題に対して、特許文献1では、アルキレンオキサイド構造を有する、エポキシ化合物および硬化剤によって、ポリマー中のイオンキャリアを安定化させる手法を開示している。
【0005】
また、特許文献2では、水酸基を有するビニル単量体によって水酸基をポリマー中に導入することで、水和量を増加させる手法を開示している。なお、水和量とはイオン交換基周辺に保持される水分子の量を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−237359号公報
【特許文献2】特開平7−121009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の手法では、アルキレンオキサイド構造は、酸素原子が有する孤立電子対によって、イオンキャリア、あるいはイオン交換基と配位結合を形成し、イオン交換基とイオンキャリアとの再結合を抑制する効果がある。また、この孤立電子対は水分子と電気的に引き合うため、導電層中の保水量を維持することができる。ところが、配位結合は結合エネルギーが小さいため、アルキレンオキサイド構造のみでは低温低湿環境において、水分子が導電層から蒸発する。従って、アルキレンオキサイド構造を導電層の構造中に導入しただけでは、帯電ローラへの用途を考慮した場合、低温低湿環境において、十分な導電性を得ることは難しい。以上の理由から、特許文献1の構造では、低温低湿環境においても、帯電ローラに必要な中抵抗領域の電気抵抗値を得るためにイオン導電剤を添加している。しかしながら、イオン導電剤を添加すると、イオン導電剤が導電層中を移動し、ブリードやブルームによる感光体の汚染が発生する。
【0008】
また、特許文献2の手法では、ポリマー中に水酸基を導入することで、イオン交換基周辺の水和量を上昇させ、低温低湿環境における、導電層中の保水量を増加させることができる。しかし、本発明者などの検討によれば、低温低湿環境において、高速で、高精細な画像を出力する際には、水酸基周辺の水和量の不足によって、帯電ローラ全体の電気抵抗値のばらつきが生じる。その結果、帯電横スジや砂地画像といった画像不良を引き起こすことがあり、未だ改善の余地があるとの認識を得た。
【0009】
本発明はこのような技術背景に鑑みてなされたものであり、低温低湿環境においても、安定して高い導電性を示す電子写真用導電性部材を提供することを目的とする。また、本発明は、多様な環境の下で、高品位な電子写真画像を安定して形成することのできる電子写真装置およびプロセスカートリッジを提供することを目的とする。さらに、本発明は、低温低湿環境下においても高い導電性を示すイオン導電性樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、導電性の軸芯体および導電層を有する電子写真用導電性部材であって、該導電層は、イオン導電性樹脂とキャリアイオンとを含み、該イオン導電性樹脂は、下記式(1)、(2)、(3)および(4)で示される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造と、下記式(5)で示される構造と、を有する電子写真用導電性部材が提供される:
【化1】

(式(1)〜式(5)中、R、R、RおよびRは2価の有機基であり、X、X、XおよびXは各々独立にスルホン酸基または第四級アンモニウム塩基を示す。lは1以上、23以下の整数を示す。)。
【0011】
また、本発明の他の態様によれば、帯電部材および現像部材を備え、該帯電部材及び該現像部材のいずれか、または両方が、上記の電子写真用導電性部材である電子写真装置が提供される。また、本発明の他の態様によれば、電子写真感光体と、帯電部材および現像部材から選ばれる何れか一方または両方と、を備え、かつ、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジが提供される。更に、本発明の他の態様によれば、上記式(1)、(2)、(3)および(4)で示される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造と、下記式(5)で示される構造とを有するイオン導電性樹脂が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低温低湿環境においても、安定して高い導電性を示す電子写真用導電性部材が提供される。また、本発明によれば、多様な環境下での、高品位な電子写真画像の安定した形成に資する電子写真装置およびプロセスカートリッジが提供される。さらに、本発明によれば、低温低湿環境においても、十分な導電性を示すイオン導電性樹脂が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る帯電ローラの概略構成図である。
【図2】電子写真方式の画像形成装置の概略図である。
【図3】プロセスカートリッジの概略図である。
【図4】電流値測定機の概略構成図である。
【図5】本発明に係る燃料電池の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第一の実施の形態)
本発明に関する電子写真用導電性部材は、電子写真方式の画像形成装置における帯電部材、現像部材、転写部材、除電部材および、給紙ローラのような搬送部材として使用可能である。以下、電子写真用導電性部材の代表例である帯電ローラによって本発明を説明する。
【0015】
図1は本発明に係るローラ形状の帯電部材(以下、「帯電ローラ」ともいう)の概略構成図である。図1(a)に示すように、導電性の軸芯体11の外周に第1の導電層12が設けられている。この場合、第1の導電層12は、本発明のイオン導電性樹脂を含有している。図1(b)に示すように、第1の導電層12の外周上に第2の導電層13を設けてもよい。さらに、図1(c)に示すように、本発明の効果を損なわない範囲で、最外層14を設けてもよい。導電層が複数設けられている場合、いずれかの層、もしくは全ての層が本発明のイオン導電性樹脂を含有していればよい。
【0016】
[導電性の軸芯体]
導電性の軸芯体11は、軸芯体を介して帯電ローラの表面に給電するために導電性を有する。
【0017】
[イオン導電性樹脂を含有する導電層]
以下、イオン導電性樹脂を含有する導電層について詳細に説明する。
【0018】
<イオン導電性樹脂>
イオン導電性樹脂が、イオン伝導を発現するためには、まず、イオン解離、すなわち、イオン交換基がカチオンとアニオンとの電離を生じさせる必要がある。そのためには、通常、電解質を極性溶媒に溶解させ、発生するイオンキャリア(カチオンあるいはアニオン)が単独で存在できる状態にする。そして、このイオンキャリアが、再びイオン交換基と再結合せずに、安定して移動できる状態でなければならない。極性溶媒中では、溶媒分子によってイオンキャリアの安定化がなされる。
【0019】
一方で、電子写真用導電性部材の導電層の構成するイオン導電性樹脂は、イオンの解離とイオンの移動とを、固体のイオン導電性樹脂中で生じさせる必要がある。つまり、イオン導電性樹脂の構造が、極性溶媒に代わるイオン解離作用を有する構造と、イオンキャリアを安定化させる構造とを有する必要がある。
【0020】
<<イオン解離作用を有する構造>>
固体中において、イオン導電性樹脂中でイオン解離させるためには、イオン交換基と極性溶媒に代わる分子との親和性を持たせるために、イオン導電性樹脂中の水和量を大きくする必要があると考えられる。イオン交換基とは、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、第四級アンモニウム塩基が挙げられる。
【0021】
そして、本発明では、イオン解離性が高く、少ない添加量であっても低抵抗化が可能な、スルホン酸基、第四級アンモニウム塩基のいずれかであることが必要である。
【0022】
また、イオン交換基の導入量としては、イオン導電性樹脂の体積抵抗率が、中抵抗領域(体積抵抗率が1×10Ω・cm〜1×1011Ω・cm)になるような量が好ましい。さらに、スルホン酸基、または、第四級アンモニウム塩基のイオン解離によってイオン導電性を発生するイオン導電性樹脂においては、水分子が十分に存在する状態において、十分な導電性能を得られることが分かっている。
【0023】
つまり、固体中において、イオン導電性樹脂のイオン導電性を保持させるためには、イオン導電性樹脂中の保水量が重要な要素になると考えられる。しかしながら、イオン導電性樹脂中の保水量は環境依存性が大きく、低温低湿環境において、十分な導電性を得ることが難しい場合があった。
【0024】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決する手段として、イオン導電性樹脂が低湿環境に晒された場合であっても、イオン導電性樹脂中のイオン交換基周辺の水和量が維持されるような分子設計を行うことを試みた。
【0025】
すなわち、イオン交換基周辺の水和量を水酸基によって増加させるためには、イオン交換基と水酸基とができるだけ近接していることが好ましいと考えられる。ところが、イオン交換基と水酸基とが、ごく近傍に位置し、両者の間に結合エネルギーの大きな水素結合が形成されると、イオン交換基のイオン解離作用が失われ、イオン導電性が得られなくなることが予想される。
【0026】
一方で、イオン交換基と水酸基との距離が大きくなると、水酸基の存在によって、イオン導電性樹脂全体の保水量が増加したとしても、イオン交換基周辺の水和量を増加させることはできず、イオン導電性の向上の効果は低いと予想される。
【0027】
そこで、本発明者らは、共有結合における結合距離(炭素−炭素間距離で約0.15nm、炭素−窒素間距離で約0.146nm、炭素−酸素間距離で約0.148nm、水素−酸素間距離で約0.095nm)と、水素結合における結合距離(水素−酸素間距離で約0.272nm)との関係を踏まえ、イオン交換基と水酸基との位置を最適化すべく、下記式(1)から式(4)で示される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含むイオン導電性樹脂について検討を行った。
【0028】
その結果、下記式(1)から式(4)で示される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造を分子内に有するイオン導電性樹脂は、低湿環境下においても電気抵抗値が上昇し難いことを見出した。
【0029】
すなわち、下記式(1)、(2)、(3)および(4)で示される構造からなる群から選ばれる少なくとも1つの構造を分子内に有するイオン導電性樹脂は、水酸基が、イオン導電性樹脂中の水分子と水素結合を形成するため、イオン導電性樹脂自体の保水量が増す。加えて、イオン交換基は、水酸基の近傍に配置されているため、イオン交換基周辺の水和量が相乗的に増加する。その結果として、当該イオン導電性樹脂は、低温低湿環境においてもイオン伝導を十分に得られるものと考えられる。
【化2】

上記式(1)〜式(4)中、R、R、R、Rは2価の有機基であり、X、X、X、Xは、各々独立にスルホン酸基または第四級アンモニウム塩基を示す。
【0030】
また、上記式(1)〜(4)の中でも、式(1)の構造が特に好ましい。これは、イオン導電性樹脂中の保水量の観点から、イオン導電性樹脂の構造中で、孤立電子対と水分子との間で上記式(1)〜(4)中で最も強い水素結合を形成することができるためである。
【0031】
<<イオンキャリアを安定化させる構造>>
イオン交換基と解離したイオンキャリアが、導電層のイオン導電に十分に寄与するためには、イオンキャリアが導電層中を移動する最中に、再びイオン導電性樹脂が有するイオン交換基と再結合しないことが重要である。そのためには、イオン導電性樹脂中にイオンキャリアを安定化させる構造を導入する必要がある。
【0032】
本発明では、イオンキャリアを安定化させる構造として、イオン導電性樹脂中に下記式(5)で示されるエチレンオキサイド構造を導入することが重要である。エチレンオキサイド構造は、その分子構造中に存在するエーテル結合によってイオンキャリアを安定化させることができる。さらに、エチレンオキサイド構造は、その分子構造中に、酸素原子に起因する極性帯を持つことから、カチオンと強い相互作用を有するために、イオン導電性を担うイオンキャリアとしては、アニオンよりもカチオンであるほうが、より安定化されると考えられる。
【化3】

(上記(5)式中、lは1以上、23以下の整数を示す。)
【0033】
本発明に係るイオン導電性樹脂は、低温低湿環境下においても十分な導電性が必要なため、イオンキャリアを安定化させるエチレンオキサイド構造は、イオン交換基の近傍に存在することが好ましい。また、その結合形態としては、イオンキャリアを安定化するために、イオン交換基を有する構造の両端にある、下記式(6)の構造であることが好ましい。エチレンオキサイド構造の結晶化による高抵抗化を鑑み、下記式(6)の構造中のnは1以上、23以下の整数、mは1以上、18以下の整数であることが好ましい。同じ理由で、特に、nは1以上、4以下の整数、mは1以上、4以下の整数であることが望ましい。
【化4】

上記式(6)中、Rは2価の有機基であり、Xはスルホン酸基または第四級アンモニウム塩基を示す。mは1以上、18以下の整数、nは1以上、23以下の整数を示す。
【0034】
一方で、式中X、X、X、X、Xの構造中のイオン交換基は、水酸基によるイオン交換基の安定化、イオン交換基周辺の水和量の増加を考慮すると、水素結合を生じない範囲で水酸基とより距離が近いほうが好ましいと考えられる。
【0035】
イオン交換基としては、エチレンオキサイドとの相互作用と考慮すると、カチオンがキャリアとなるスルホン酸基であることが好ましい。さらに、スルホン酸基のイオン解離性を向上させるために、電子供与性のあるアルキル基を介して結合させることがより好ましい。したがって、式(6)中で、Rがメチレン基、Xがスルホン酸基である構造を有することが好ましい。
【0036】
<イオン導電性樹脂の製造方法>
本発明に係るイオン交換基を有するイオン導電性樹脂は、例えば、主剤、硬化剤、イオン導電剤を溶媒中で混合し、硬化させる方法を挙げることができる。ただし、この組み合わせの原料を用いる方法に限るものではない。
【0037】
<<主剤>>
本発明に係る主剤としては、例えば、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物を用いることが考えられる。エチレンオキサイドを構造中に含むエポキシ化合物は、例えば、アルカンジオールジグリシジルエーテル、ポリアルキレンジグリシジルエーテル、アルキルジグリシジルエーテル、(ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド)ブロック共重合体のジグリシジルエーテルが挙げられる。なお、上記の化合物を単独で用いても、複数用いてもよい。一方で、エチレンオキサイド構造を有さないエポキシ化合物を用いる場合には、エチレンオキサイド構造を有する硬化剤を用いる必要がある。この場合、例えばアジピン酸が挙げられる。
【0038】
特に、イオンキャリアを安定化させる効果が高いエチレンオキサイド構造を有するポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを用いることが好ましい。もっとも好ましくは、エチレンオキサイドによる結晶化による高抵抗化の影響が小さい、エチレングリコールジグリシジルエーテルである。さらに、エチレングリコールジグリシジルエーテルの沸点は110度であり、イオン導電性樹脂の熱硬化温度よりも低い。そのため、ブリードやブルームなどの原因である、イオン導電性樹脂と共有結合を介して結合していない未反応物があっても、熱硬化過程で容易に除去することができるからである。
【0039】
<<硬化剤>>
本発明に係る硬化剤としては、例えば、アミン類、酸無水物類、多価フェノール類、チオール類、アルコール類が挙げられる。本発明では、イオン導電性樹脂構造中、孤立電子対と水分子との間が電気的に引き合って樹脂中の水和量を増加させ、さらに、架橋点となり、網目状構造を形成し、より水分子をイオン導電性樹脂内に保持できるため、アミン類を用いることが好ましいと考えられる。特に、導電性を確保するため、エチレンオキサイド構造を有するアミン類を用いることが好ましい。エチレンオキサイド構造を有するアミン類は、例えば、ポリアルキレングリコールビス2−アミノエチルエーテル、(ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド)ブロック共重合体のビス2−アミノエチルエーテルが挙げられる。さらに好ましくは、十分な導電性を得るために、ポリエチレングリコールビス2−アミノエチルエーテルである。もっとも好ましくは、エチレンオキサイド構造の結晶化を鑑み、エチレングリコールビス2−アミノエチルエーテルである。上記の化合物を単独で用いても、複数用いてもよい。なお、チオール類、酸無水物類を硬化剤として用いる場合、硬化促進剤として、イミダゾールおよびアミン並びにその誘導体から成るアルカリ性化合物を少量使用することが望ましい。また、その硬化反応時において、本発明の効果を損なわない範囲で加熱して硬化反応を促進させることが好ましい。
【0040】
そして、上記硬化剤の配合量は、主剤100質量部に対して1質量部〜1000質量部の範囲に設定することが好ましい。より好ましくは、2質量部〜150質量部の範囲内である。また、硬化促進剤を用いる場合、主剤に対する硬化促進剤の配合量は、そのエポキシ化合物100質量部に対して0.01質量部〜20質量部の範囲に設定することが好ましい。より好ましくは、0.1質量部〜10質量部の範囲内である。すなわち、上記硬化剤や硬化促進剤が、上記規定の範囲未満であると、熱硬化が充分になされないからであり、逆に、上記硬化剤や硬化促進剤が、上記規定の範囲を超えると、硬化剤および硬化促進剤の未反応物がブリードしてしまうからである。
【0041】
<<イオン導電剤>>
原料としてのイオン導電剤は、主剤、あるいは硬化剤と反応する反応性官能基と、第四級アンモニウム塩基、或いはスルホン酸基のいずれかのイオン交換基と、そのカウンターイオンであるキャリア分子とからなる。なお、反応性官能基とは、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素およびヨウ素原子)、カルボキシル基、酸無水物のような酸基、水酸基、アミノ基、メルカプト基、アルコキシ基、ビニル基、グリシジル基、エポキシ基、ニトリル基、カルバモイル基のような官能基が挙げられ、主剤、あるいは硬化剤と反応する限りにおいて、いずれを用いてもかまわない。
【0042】
本発明に係るイオン導電剤の添加量は適宜設定することができ、主剤100質量部に対して、該イオン導電剤を0.5質量部以上20質量部以下の割合で配合することが好ましい。配合量が0.5質量部以上の場合には、導電剤添加による導電性の付与効果を容易に得ることができる。20質量部以下の場合には、電気抵抗の環境依存性を低減させることができる。
【0043】
<<溶媒>>
本発明に係る溶媒は、硬化剤がアミン類、アルコール類、チオール類である場合はイソプロピルアルコール(以下、「IPA」ともいう)を用いることが好ましい。一方、硬化剤として酸無水物類を用いる場合は、溶媒と硬化剤との反応を防ぐため、エーテル系の溶媒、あるいはケトン系の溶媒を用いる必要がある。例としては、トルエン、ベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルブチルケトンが挙げられる。
【0044】
本発明に係る溶媒の配合量は、発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。好ましくは、主剤、硬化剤、イオン導電剤のような原料が適切に混合できる配合量がよい。
【0045】
<<他の成分>>
イオン導電性樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂の配合剤として一般的に用いられている充填剤、軟化剤、加工助剤、粘着付与剤、粘着防止剤、分散剤、発泡剤を添加することができる。
【0046】
[導電性ローラの構成]
本発明のイオン導電性樹脂を図1(b)に示すような、第2の導電層13として用いた場合、第1の導電層12を形成するゴム成分としては、特に限定されるものではなく、電子写真用導電性部材の分野において公知のゴムを用いることができる。具体的には、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、シリコーンゴム、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、エピクロルヒドリンホモポリマー、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル3元共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体の水素添加物、アクリロニトリル-ブタジエン-メタクリル酸共重合体のようなカルボキシル化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ジエン系ゴム、シリコーンゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。これらのゴム材料は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。帯電ローラの材料としては、イオン導電剤や電子導電剤を分散させた際に、中抵抗領域の電気抵抗値を得やすい点を考慮すると、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル3元共重合体又はアクリロニトリル−ブタジエン共重合体が好ましい。現像部材の材料としては、耐圧縮永久歪性を考慮すると、シリコーンゴム又はウレタンゴムが好ましい。
【0047】
本発明のイオン導電性樹脂を図1(b)に示すような、第1の導電層12として用いた場合、第2の導電層13は、電子写真用導電性部材の分野において公知の樹脂を用いることができる。具体的には、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンおよびシリコーン樹脂が挙げられる。上記第2の導電層13を形成する樹脂に対して、必要に応じて、カーボンブラック、グラファイト、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化チタン、酸化錫―酸化アンチモン固溶体、酸化錫―酸化インジウム固溶体等を導電化処理した導電性金属酸化物、アルミニウム、銅、錫、ステンレス鋼等の各種導電性金属または合金、これらの導電性材料で被覆された絶縁性物質の微粉末、第四級アンモニウム塩のようなイオン交換性能を有するイオン導電剤、珪藻土、石英粉末、乾式シリカ、湿式シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミノケイ酸、炭酸カルシウム等の非導電性充填剤を挙げることができる。
【0048】
なお、図1(c)のように、第2の導電層13の外周に、発明の効果を損なわない範囲内で保護層としての最外層14を設けてもよい。
【0049】
[電子写真装置]
図2は、本発明に係る電子写真装置の概略図である。電子写真感光体201を帯電する帯電ローラ202、露光を行う潜像形成装置(不図示)、トナー像に現像する現像装置203、転写材204に転写する転写装置205、電子写真感光体上の転写トナーを回収するクリーニング装置207、トナー像を定着する定着装置206のような構成部材から構成される。電子写真感光体201は、導電性基体上に感光層を有する回転ドラム型である。電子写真感光体201は矢印の方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動される。帯電ローラ202は、電子写真感光体201に所定の力で押圧されることにより接触配置される。帯電ローラ202は、電子写真感光体201の回転に従い従動回転し、帯電用電源213から所定の直流電圧を印加することにより、電子写真感光体201を所定の電位に帯電する。電子写真感光体201に潜像を形成する潜像形成装置は、例えばレーザービームスキャナーのような露光装置が用いられる。
【0050】
一様に帯電された電子写真感光体201に、画像情報に対応して変調された露光光208を照射することによって、静電潜像が形成される。現像装置203は、電子写真感光体201に接触して配設されたローラ形状の現像部材((以下、「現像ローラ」ともいう)を有する。感光帯電極性と同極性に静電処理されたトナーを反転現像により、静電潜像をトナー像に可視化現像する。転写装置205は、接触式の転写ローラを有する。電子写真感光体201からトナー像を普通紙のような転写材204に転写する。尚、転写材204は、搬送部材を有する給紙システムにより搬送される。クリーニング装置207は、ブレード型のクリーニング部材および回収容器を有し、転写した後、電子写真感光体201上に残留する転写残トナーを機械的に掻き落として回収する。ここで、現像装置203にて転写残トナーを回収する現像同時クリーニング方式を採用することにより、クリーニング装置207を取り除くことも可能である。定着装置206は、加熱されたロールのような部材で構成され、転写されたトナー像を転写材204に定着し、機外に排出する。
【0051】
そして、本発明に係る電子写真装置は、電子写真感光体に接触配置された帯電部材、および、電子写真感光体に接触配置された現像部材のいずれか一方、または、両方に、本発明に係る電子写真用導電性部材が用いられてなるものである。
【0052】
[プロセスカートリッジ]
図3はプロセスカートリッジの概略断面図である。図3に示したプロセスカートリッジは、電子写真感光体201、電子写真感光体201に接触して配置された帯電ローラ202、電子写真感光体201に接触して配置された現像ローラ203、および、クリーニング装置207等を含み、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されている。そして、本発明に係るプロセスカートリッジは、現像ローラ202および帯電ローラ203の何れか一方、または両方に、本発明に係る電子写真用導電性部材が用いられてなるものである。
【0053】
(第二の実施の形態)
本発明の第二の実施の形態は、燃料電池用電解質膜である。
【0054】
本発明に係るイオン導電性樹脂に、電極を配置することにより、膜電極接合体を作製することができる。この膜電極接合体は、本発明に係るイオン導電性樹脂と、それを挟んで対向する触媒電極(アノードおよびカソード)とから構成され、該触媒電極はガス拡散層上に触媒層が形成されている。この接合体の作製方法としては、特に制限はなく、公知の技術を用いることができる。例えば、白金、白金−ルテニウム合金、あるいはその微粒子をカーボンのような担持体上に分散担持させたものを触媒とするガス拡散電極をイオン導電性樹脂に直接形成する方法、ガス拡散電極とイオン導電性樹脂とをホットプレスする方法、あるいは、接着液により接合する方法のような方法により作製できる。
【0055】
また、本発明に係るイオン導電性樹脂や前記膜電極接合体を用いて、公知の手法により燃料電池を作製することができる。該燃料電池の構成の一例としては、前記膜電極接合体、該膜電極接合体を挟持する一対のセパレータ、セパレータに取り付けられた集電体、およびパッキンを備える構成が挙げられる。アノード極側のセパレータにはアノード極側開口部が設けられ、水素、メタノールのようなアルコール類のガス燃料または液体燃料が供給される。一方、カソード極側のセパレータにはカソード極側開口部が設けられ、酸素ガス、空気のような酸化剤ガスが供給される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0057】
1.塗工液の調製;
<塗工液No.1〜44の調製>
表1−1〜表1−3に示した主剤、硬化剤およびイオン導電剤を、表2に示したような組み合わせ、および配合量にて、表2に併せて示した量の溶剤に混合し、大気中、室温で十分に撹拌し、塗工液No.1〜44を得た。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
<塗工液No.45の調製>
2−ヒドロキシエチルアクリレート10g、メチルメタアクリレート60g、および下記式(7)に記載の第四級アンモニウム塩基重合体25gの配合量でモノマーを共重合させ、共重合体水溶液を得た。さらにこの共重合体水溶液に、グリセロールポリグリシジルエーテルを5g添加し、架橋硬化剤として2−メチルイミダゾールを0.1g加え、塗工液No.45を調製した。
【化5】

【0063】
<評価1> 樹脂薄膜の試験片の電気抵抗率の環境依存性の評価;
各塗工液から作成した樹脂薄膜の電気抵抗率の環境依存性を以下の方法により評価した。
【0064】
(1−1)試験片の作成;
各塗工液をアルミニウム製のカップに入れ、温度160℃で20分間加熱して硬化させた後、アルミカップから硬化物を取り出し、電気抵抗値の測定用の試験片を作成した。なお、試験片の膜厚は0.5mmとした。
【0065】
(1−2)試験片の電気抵抗値の測定;
上記で調製した試験片をガイドリンク付き電極に挟み、温度23℃/湿度50%R.H.環境(以降、「N/N環境」ともいう)下、および温度15℃/湿度10%R.H.環境(以降、「L/L環境」ともいう)下に置いて、直流200Vの電圧を印加し、各環境下における電気抵抗値を測定した。そして、得られた電気抵抗値から、各環境下における体積抵抗率を算出した。
【0066】
また、電気抵抗率の環境依存性を確認するため、L/L環境下における電気抵抗値と、N/N環境下における電気抵抗値との比の対数を算出する。この値を環境変動桁とする。
【0067】
結果を下記表3−1及び表3−2に示す。また、本発明に係る構造(1)〜(6)の中で、各試験片を構成している樹脂が含む構造を、表3−1及び表3−2に併せて示す。
【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
2.ゴムローラの作製;
2−1.ゴムローラNo.1の作成;
<エピクロルヒドリンゴム組成物の調製>
表4に示す種類と量の各材料をオープンロールにて混合し、A練りゴム組成物を調製した。
【0071】
【表7】

【0072】
次に、上記A練りゴム組成物176質量部に対して、表5に示す種類と量の各材料をオープンロールにて混合し、未加硫ゴム組成物を調製した。
【0073】
【表8】

【0074】
<導電性弾性層(エピクロルヒドリンゴム層)の形成>
導電性の軸芯体として外径φ6mm、長さ258mmのステンレス棒の芯金を用いた。クロスヘッド押し出し機に芯金の供給機構、導電性ローラの排出機構を有する装置を用意し、芯金の搬送速度を60mm/sec、クロスヘッドには内径がφ(直径)12.5mmのダイスを取り付け、押し出し機とクロスヘッドとを80℃に調整した。押し出し機から上記の未加硫ゴム組成物を熔融押し出しし、クロスヘッドに供給した芯金の周囲に未加硫ゴム組成物の層を形成した。
【0075】
次に、170℃の熱風加硫炉中に未加硫ゴム組成物の層で周面が被覆された芯金を投入し、60分間加熱して当該未加硫ゴム組成物の層を架橋させて導電層とした。その後、導電層の長さが228mmになるように端部を切断、除去した。最後に、導電層の表面を回転砥石で研磨し、中央部直径12.2mm、中央部から左右90mm端部側の平均直径12.0mmのクラウン形状に成形し導電性弾性層を備えたゴムローラNo.1を得た。
【0076】
2−2.ゴムローラNo.2の作成;
A練りゴム組成物の原料を表6に示す組成に変更し、この練りゴム組成物177質量部に対して、表7に示す種類と量の各材料をオープンロールにて混合し未加硫ゴム組成物を得た。この未加硫ゴム組成物を用いた以外は、ゴムローラNo.1と同様にしてエピクロルヒドリンゴム層を備えたゴムローラNo.2を得た。
【0077】
【表9】

【0078】
【表10】

【0079】
2−3.ゴムローラNo.3の作成;
導電性の軸芯体として外径8mm(SUM22材)、長さ258mmのステンレス棒の芯金を用いた。導電層および芯金の接着剤として、プライマーを塗布、焼付けし、この芯金を内径12mmの円筒状金型に同心となるように配置した。次に、下記表8に記載の原料を金型内に形成されたキャビティに注入し、130℃で60分加熱して硬化させた。その後室温に冷却して脱型後、200℃で4時間の2次加硫を行い、膜厚が3.0mmのシリコーンゴム層を有するゴムローラNo.3を作成した。
【0080】
【表11】

【0081】
3.帯電ローラの作成;
(実施例1)
帯電ローラNo.1の作成、および評価;
塗工液No.1を、ゴムローラNo.1の外周面上に1回ディッピング塗布し、常温で30分間以上風乾し、次いで80℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥し、更に160℃に設定した熱風循環乾燥機にて3時間乾燥した。
【0082】
ディッピング塗布浸漬時間は9秒、ディッピング塗布引き上げ速度は、初期速度が20mm/s、最終速度が2mm/sになるように調節し、20mm/sから2mm/sの間は、時間に対して直線的に速度を変化させた。以上のようにして、エピクロルヒドリンゴム導電層の外周に、イオン導電性樹脂含有層を有する帯電ローラNo.1を作製した。
【0083】
<評価2>帯電ローラの電気抵抗率の環境依存性の評価;
図4に、本発明に用いた帯電ローラの電流値測定機の概略構成図を示す。図4の様に、電子写真方式の画像形成装置に用いた場合の使用状態と同様の荷重で、感光体と同じ曲率の円柱形金属42に当接させて通電したときの電流値を測定する。図4(a)において43aと43bは重りに固定された軸受けであり、帯電ローラ41の導電性の軸芯体11の両端に鉛直下方向に押す応力を印加する。帯電ローラ41の鉛直下方向には、帯電ローラ41と平行に円柱形金属42が位置している。そして、図示しない駆動装置により円柱形金属42を回転させながら、図4(b)の様に帯電ローラ41を軸受け43aと43bとにより円柱形金属42へ押し当てる。使用状態の感光体ドラムと同様の回転速度で円柱形金属42を回転させ、帯電ローラ41を従動回転させながら、電源44によって直流電圧−200Vを印加する。電圧を印加して2秒後から、円柱形金属42から流れ出てくる電流の時間平均を電流計Aで測定し、5秒間測定した結果の時間平均から、電気抵抗値を算出する。
【0084】
このような装置を用いて、N/N環境下に48時間放置して順化させた帯電ローラNo.1、および、L/L環境に48時間放置して順化させた帯電ローラNo.1の各々に対して、直流200Vの電圧を印加して電気抵抗値を測定した。そして、測定して得られた電気抵抗値から、それぞれの環境下における体積抵抗率を算出した。また、環境変動の影響を確認するため、L/L環境下における電気抵抗値と、N/N環境下における電気抵抗値との比の対数を算出する。log(N/N環境での電気抵抗値)/(L/L環境下での電気抵抗値)。この値を環境変動桁とする。
【0085】
<評価3>ブリード評価;
帯電ローラをポリエチレンテレフタラート(PET)シート上に置き、帯電ローラの両端の軸に各々、500gの荷重をかけて、帯電ローラの表面をPETシートに押し付けた。温度40℃/湿度95%R.H.環境下にて、この状態を2週間維持した。その後、帯電ローラをPETシート上から取り除き、PETシート表面の帯電ローラ表面が押し付けられていた部分を、光学顕微鏡(10倍)で観察した。そして、帯電ローラからのブリード物の付着の有無を観察し、下記の基準に基づいて評価した。
【0086】
[ブリード評価ランク]
A:ブリードが観察されない。
B:一部に軽微なブリード物の付着が観察される。
C:当接部の全面にブリード物の付着が観察される。
【0087】
<評価4>画像評価
<<評価4−1>>
L/L環境下に48時間放置し、当該環境に順化させた帯電ローラを電子写真画像の形成に用いた。帯電ローラの帯電能力が不足した場合、ハーフトーン画像には、横スジが生じる。そこで、ハーフトーン画像への横スジの発生状況を観察することで、L/L環境における帯電ローラの帯電能力を評価した。
【0088】
ここで、ハーフトーン画像とは、全面黒画像を出力する場合に比べてレーザー光量を35%に弱め、帯電電位が全面黒画像と全面白画像との中間となる様な画像を指す。
【0089】
本評価においては、電子写真装置として、レーザープリンター(商品名:Laserjet 4700dn、HP社製)のプロセススピードを300mm/secに改造したものを用いた。また、当該レーザープリンターの印字密度は600dpiである。
【0090】
具体的な評価方法としては、まず、被評価対象物としての帯電ローラを、上記レーザープリンター用プロセスカートリッジに装着し、このプロセスカートリッジを上記レーザープリンターに装填した。そして、A4サイズの紙上に、サイズが4ポイントのアルファベット「E」の文字が、印字濃度が1%となるように印字される電子写真画像を40000枚出力した。なお、電子写真画像の形成は、電子写真画像を2枚連続して出力する度に、電子写真装置の回転を2秒間停止させる間欠モードにて行った。そして、40000枚の電子写真画像の出力後、レーザープリンターからプロセスカートリッジを取り出し、当該プロセスカートリッジから帯電ローラを取り外して、表面を水で洗浄した。洗浄した帯電ローラを、再びプロセスカートリッジに装着し、当該プロセスカートリッジを上記レーザープリンターに装填して、上記と同様にして40000枚の電子写真画像を出力し、次いで、ハーフトーン画像を1枚出力した。このハーフトーン画像を目視で観察し、帯電ローラの帯電能力の低下に起因する横スジ状の欠陥の発生の有無を下記の基準により評価した。
【0091】
A:ハーフトーン画像に横スジ状の画像欠陥が観察されない。
B:ハーフトーン画像のごく一部に軽微な横スジ状の画像欠陥が観察される。
C:ハーフトーン画像の一部に横スジ状の画像欠陥が観察されるが、目立たない。
D:ハーフトーン画像の一部に横スジ状の画像欠陥が観察され、目立つ。
【0092】
<<評価4−2>>
L/L環境下に48時間放置し、当該環境に順化させた帯電ローラを電子写真画像の形成に供した。帯電ローラの帯電能力が不足し、感光体の帯電が不均一となったときに、ハーフトーン画像には、斑点状の欠陥が生じることがある。
【0093】
本評価においては、電子写真装置として、レーザープリンター(商品名:Laserjet P4515n、HP社製)を用意した。当該レーザープリンターのプロセススピードは370mm/sec、印字密度は1200dpiである。
【0094】
具体的な評価方法としては、まず、被評価対象物としての帯電ローラを、上記レーザープリンター用プロセスカートリッジに装着した。そして、このプロセスカートリッジは、帯電ローラと電子写真感光体との間に電圧を外部から印加できるように改造した。
【0095】
このプロセスカートリッジを上記レーザープリンターに装填し、帯電ローラと電子写真感光体との間に、−600Vの直流電圧、Vpp(peak to peak)=1600V、および、周波数=3000Hzの交流電圧を印加しつつ、電子写真画像を40000枚出力した。ここで、電子写真画像は、感光体の回転方向に幅2ドット、間隔176ドットの横線を描く電子写真画像とした。
【0096】
なお、電子写真画像の形成は、電子写真画像を1枚出力する度に、電子写真装置の回転を2秒間停止させるような間欠モードにて行った。
【0097】
40000枚の電子写真画像の出力後、ハーフトーン画像を出力した。その際、帯電ローラと電子写真感光体との間に印加する交流電圧を、1枚のハーフトーン画像を出力する度に、Vpp=1200Vから上昇させ、ハーフトーン画像から、斑点状の欠陥が消失するまでハーフトーン画像の出力を続けた。なお、このときの交流電圧の周波数は2931Hzとした。そして、斑点状の欠陥がハーフトーン画像から焼失したときの交流電圧を評価4−2の結果として記載した。この電圧の値が小さい程、帯電能力が相対的に高い帯電ローラであるといえる。
【0098】
(実施例2〜40)
帯電ローラ2〜40の作成、および評価;
塗工液No.1を表9−1及び表9−2に記載の塗工液に変更した以外は、帯電ローラNo.1と同様にして帯電ローラNo.2〜40を作成し、評価した。
【0099】
(実施例41〜46)
帯電ローラ41〜46の作成、および評価;
ゴムローラ2を用い、かつ、表9−1及び表9−2に記載の塗工液に変更した以外は、帯電ローラNo.1と同様にして帯電ローラNo.41〜46を作製し、評価2〜評価4に供した。
【0100】
(実施例47)
帯電ローラ47の作成、および評価;
導電性の軸芯体として外径φ6mm、長さ258mmのステンレス棒の芯金を用意した。そして、導電層および芯金の接着剤として、芯金の左端部を基準に40mmから248mmの領域にプライマーを塗布し、焼付けた。この芯金を内径16mmの円筒状金型に同心となるように配置した。次に、塗工液No.41を金型内に形成されたキャビティに注入し、金型を加熱して80℃で1時間、160℃で3時間加硫硬化し、脱型して、芯金の周面に導電層が形成されてなる帯電ローラNo.47を作成した。
【0101】
(実施例48)
帯電ローラNo.48の作成、および評価;
帯電ローラNo.1の導電層上に、以下の方法にて、保護層を設けた。
【0102】
カプロラクトン変性アクリルポリオール溶液にメチルイソブチルケトンを加え、固形分が10質量%となるように調整した。前述のアクリルポリオール溶液の固形分100質量部に対して、カーボンブラック(HAF)15質量部、針状ルチル型酸化チタン微粒子35質量部、変性ジメチルシリコーンオイル0.1質量部、およびヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)とイソホロンジイソシアネート(IPDI)の各ブタノンオキシムブロック体の7:3の混合物、80.14質量部を入れ、混合溶液を調整した。このとき、ブロックHDIとブロックIPDIの混合物は、「NCO/OH=1.0」となるように添加した。
【0103】
450mLのガラス瓶に上記混合溶液210gと、分散メディアとしての平均粒径0.8mmのガラスビーズ200gとを混合し、ペイントシェーカー分散機を用いて24時間分散した。分散後、樹脂粒子として架橋タイプアクリル粒子(商品名:MR50G;綜研化学製)を5.44質量部(アクリルポリール100重量部に対して20重量部相当量)を添加した後、更に30分間分散して保護層形成用の塗料を得た。
【0104】
得られた保護層形成用の塗料を、帯電ローラNo.1を1回ディッピングし、常温で30分間風乾した。次いで温度90℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥し、更に温度160℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥して、帯電ローラNo.1の導電層の周面に保護層を形成した。
【0105】
なお、ディッピング塗布浸漬時間は9秒、ディッピング塗布引き上げ速度は、初期速度が20mm/s、最終速度が2mm/sになるように調節し、20mm/sから2mm/sの間は、時間に対して直線的に速度を変化させた。こうして得た帯電ローラを帯電ローラNo.48として、評価3〜評価4に供した。
【0106】
上記実施例1〜48の評価結果を表9−1及び表9−2に示す。
【0107】
【表12】

【0108】
【表13】

【0109】
(比較例1〜3)
帯電ローラNo.C−1〜C−3の作成、および評価;
塗工液No.42、43および44を用いた以外は、帯電ローラNo.1と同様にして帯電ローラNo.C−1〜C−3を作成し、評価2〜評価4に供した。
【0110】
(比較例4)
帯電ローラNo.C−4の作成、および評価;
ゴムローラ1の導電性弾性層上に、乾燥膜厚が5μmとなるように、塗工液No.45をディッピング塗布した。次いで、塗工液No.45の塗膜を温度120℃にて7秒間加熱して硬化させて、帯電ローラNo.C−4を作成した。この帯電ローラNo.C−4を評価2〜評価4に供した。
【0111】
比較例1〜4の結果を、表10に示す。
【0112】
【表14】

【0113】
4.現像ローラの作成;
(実施例49)
現像ローラNo.1の作成、および評価;
塗工液No.1を、ゴムローラNo.3の外周面上に1回ディッピング塗布し、常温(25℃)で30分間風乾し、次いで、温度80℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥し、更に、温度160℃に設定した熱風循環乾燥機にて3時間乾燥した。ディッピング塗布浸漬時間は9秒、ディッピング塗布引き上げ速度は、初期速度が20mm/s、最終速度が2mm/sになるように調節し、20mm/sから2mm/sの間は、時間に対して直線的に速度を変化させた。以上のようにして、シリコーンゴム層の外周に、イオン導電性樹脂含有層を有する現像ローラNo.1を作成した。この現像ローラNo.1を、評価3、および下記の評価5に供した。
【0114】
<評価5>
<画像評価>
L/L環境下に48時間放置し、当該環境に順化させた現像ローラを電子写真画像の形成に用いた。本評価に用いた電子写真装置は、レーザープリンター(商品名:LBP5400、キヤノン製)を、記録メディアの出力スピードを、150mm/secに改造したものを用いた。また、当該レーザープリンターの印字密度は、600dpiである。
【0115】
また、現像ローラと、感光ドラムとの当接圧力、および進入量は、現像ローラ上のトナー被覆量が0.35mg/cmとなるように調整した。さらに、現像ローラから古いトナーを掻き落とし、現像ローラに新しいトナーを供給する軟質ウレタンスポンジ製のトナー供給ローラを設けた。
【0116】
具体的な評価方法としては、まず、被評価対象物としての帯電ローラを、上記レーザープリンター用プロセスカートリッジに装着し、このプロセスカートリッジを上記レーザープリンターに装填した。そして、感光ドラムの回転方向と垂直方向とに幅2ドット、間隔50ドットの横線を描くような電子写真画像を、20000枚連続して出力した。引き続いて、感光ドラムの回転方向と垂直方向に幅1ドット、間隔2ドットの横線を描くような電子写真画像を1枚出力し、この電子写真画像を、目視で観察し、以下の基準に基づき評価した。
【0117】
A:画像濃度の変化がほとんどなく、現像ローラの回転周期に対応した画像不良が見られない。
B:画像濃度の変化がわずかに見られるが、現像ローラの回転周期に対応した画像不良が見られない。
C:画像濃度の変化が見られ、現像ローラの回転周期に対応した画像不良がかすかに認められる。
D:画像濃度の変化が大きく、現像ローラの回転周期に対応した画像不良が認められる。
【0118】
(実施例50)〜(実施例63)
現像ローラNo.2〜15の作成、および評価;
塗工液No.を表11に記載の塗工液に変更した以外は、現像ローラNo.1と同様に現像ローラNo.を作製し、評価した。
【0119】
実施例49〜63の結果を表11に示す。
【0120】
【表15】

【0121】
5.電解質膜の作成、および評価;
(実施例64)
以下の方法で燃料電池用の電解質膜を作製した。図5に本発明に係る燃料電池の概略構成図を示す。図5中で、51がイオン導電性樹脂膜、52が触媒シート、53が電極である。前記表1−1〜表1−3に示した主剤、硬化剤およびイオン導電剤を、表12に示した組み合わせ、および配合量にて、表12に併せて示した量の溶剤に混合し、大気中、室温(25℃)で十分に撹拌し、塗工液No.46を得た。
【0122】
【表16】

【0123】
塗工液No.46をガラス基板上で溶液キャスト法により製膜し、厚さ80μmのイオン導電性樹脂膜を得た。
【0124】
得られたイオン導電性樹脂膜のイオン伝導度は、電極間に交流を印加して抵抗部分を測定する交流インピーダンス法を用いて行い、コール・コールプロットの実数インピーダンス切片から計算して求めた。測定は温度50℃で行った。イオン導電性樹脂膜のイオン伝導度を、相対湿度50%、60%、70%、80%の各雰囲気で測定した。その結果を表13に示す。
【0125】
【表17】

【0126】
6.燃料電池セルの作成、及び評価;
(実施例65)
上記実施例64で作成したイオン導電性樹脂膜からなる膜−電極接合体、および燃料電池セルの作製方法の一例を以下に示す。
【0127】
触媒粉末(商品名:HiSPEC1000、ジョンソン&マッセイ社製)、電解質溶液(商品名:Nafion溶液、デュポン社製)を用意した。
まず、触媒粉末と電解質溶液との混合分散液を作製し、ドクターブレード法を用いてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のシート上に、触媒シート52を作製した。
次に、この触媒シートをデカール法によって、実施例64に係るイオン導電性樹脂膜51上にホットプレス転写し、膜−電極接合体を作製した。
さらに、その膜−電極接合体をカーボンクロスの電極53(E−TEK社製)で挟持した後、集電体で挟んで締結し、燃料電池を作製した。
【0128】
作製した燃料電池を用いて、アノード側に水素ガスを注入速度300ml/minで、カソード側には空気を供給し、セル出口圧力を大気圧、相対湿度をアノード、カソードともに50%、セル温度を50℃とした。一定電流密度300mA/cm2で電圧測定を行うと25秒後に所定の出力が得られ、そのセル電位は580mVであった。
【符号の説明】
【0129】
11 導電性の軸芯体
12 第1の導電層
13 第2の導電層
14 保護層
41 帯電ローラ
42 円柱形金属
43a 軸受け
43b 軸受け
44 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の軸芯体および導電層を有する電子写真用導電性部材であって、
該導電層は、イオン導電性樹脂とイオンキャリアとを含有し、
該イオン導電性樹脂は、
下記式(1)、(2)、(3)および(4)で示される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造と、
下記式(5)で示される構造と、を有することを特徴とする電子写真用導電性部材:
【化1】

(式(1)〜式(5)中、R、R、RおよびRは2価の有機基であり、X、X、XおよびXは各々独立にスルホン酸基または第四級アンモニウム塩基を示す。lは1以上、23以下の整数を示す。)。
【請求項2】
前記イオン導電性樹脂が下記式(6)で示される構造を有する請求項1に記載の電子写真用導電性部材。
【化2】

(上記式(6)中、Rは2価の有機基であり、Xはスルホン酸基または第四級アンモニウム塩基を示す。mは1以上、18以下の整数、nは1以上、23以下の整数を示す。)。
【請求項3】
前記式(6)のRがメチレン基、Xがスルホン酸基である請求項1または2に記載の電子写真用導電性部材。
【請求項4】
前記イオン導電性樹脂が、ポリアルキレングリコールビス2−アミノエチルエーテルとポリエチレングリコールジグリシジルエーテルとを重合して得られる樹脂を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子写真用導電性部材。
【請求項5】
前記イオン導電性樹脂が、ポリアルキレングリコールビス2−アミノエチルエーテルと、エチレングリコールジグリシジルエーテルとを重合して得られる樹脂を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子写真用導電性部材。
【請求項6】
帯電部材および現像部材を備え、該帯電部材及び該現像部材のいずれか、または両方が、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真用導電性部材であることを特徴とする電子写真装置。
【請求項7】
電子写真感光体と、
帯電部材および現像部材から選ばれる何れか一方または両方とを備え、
該帯電部材及び該現像部材のいずれか、または両方が、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真用導電性部材であり、かつ、
電子写真装置の本体に着脱可能に構成されていることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項8】
下記式(1)、(2)、(3)および(4)で示される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造と、
下記式(5)で示される構造と、を有することを特徴とするイオン導電性樹脂:
【化3】

(式(1)〜式(5)中、R、R、RおよびRは2価の有機基であり、X、X、XおよびXは各々独立にスルホン酸基または第四級アンモニウム塩基を示す。lは1以上、23以下の整数を示す。)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−215840(P2012−215840A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−36566(P2012−36566)
【出願日】平成24年2月22日(2012.2.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】