説明

イオン導電性膜からなる金属化された膜、その膜を使用した燃料電池、その燃料電池を使用する方法、その膜を使用する電極、及びその電極を被覆する方法

【課題】 固体ポリマー電解質またはその他のイオン導電性ポリマー表面上に金属、金属酸化物または金属合金を被覆するための新規方法を提供することである。
【解決手段】 薄い金属または金属酸化物のフィルムを備えたイオン導電性の膜を製造するための方法であって、減圧下、イオン導電性膜を低エネルギーの電子ビームに賦して、その膜表面を清浄とし、この清浄とした膜を、減圧下、析出されるその金属のイオンを含有する高エネルギービームに賦して、金属フィルムを形成することを含む方法。この方法によって得られる金属化された膜構造物およびそれを内蔵する燃料電池も、また、本発明の範囲に含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体ポリマー電解質またはその他のイオン導電性ポリマー表面上に金属、金属酸化物または金属合金を被覆するための新規方法に関する。本方法を使用して製造される物質は、電気化学的および膜基体用途において利点を得る。デユアル・イオン・ビーム・アシステッド・デポジション(dual ion- beam asisted deposition)[IBAD]を使用することによって、固体ポリマー電解質膜、例えば、NafionR(DuPont, Wilmington, Delaware)、テトラフルオロエチレンとスルホニルフルオライドビニルエーテルとのコポリマーおよびそれによって被覆されている膜ならびにそれを含有する電界槽上にこれら金属のばらつきのない薄いフィルムを系統的に製造することができる。
【背景技術】
【0002】
固体ポリマー電解質の使用は、電気化学の領域を著しく拡大した。電気化学的プロセスは、アノード、カソードおよびイオン性ポリマー電解質の使用を通してイオン性および電子性の電荷の移動に依存する。しかし、固体ポリマー電解質燃料電池の出現で、従来の液相は、典型的な電解条件下でイオン性電荷を移動するポリマー電解質によって構成される膜に取って変わられつつある。これら固体ポリマー電解質は、市販されているイオン導電性膜であることが多い。例えば、前述したNafion(カチオン交換膜)以外に、Asahi ChemicalおよびAsahi Glassは、パーフルオロ化されたカチオン交換膜を製造しており、それによれば、イオン交換基は、カルボン酸/スルホン酸またはカルボン酸である。これらの会社は、同様に、固定化されたスルホン酸基のみを有するカチオン交換膜を製造している。非パーフルオロ化イオン交換膜は、Raipore(Hauppauge, New York)およびその他の業者、例えば、Electrosynthesis Co., Inc. (Lancaster, New York)を介して入手できる。アニオン交換膜は、典型的には、高分子支持体上の第4級アミンを使用し、同様に、市販されている。その他の製造元および研究者は、不活性マトリックスの孔を固定化したイオノマーで満たし、有効なイオン導電性膜を製造している。[例えば、Fedkiw, P. S. and Nouel, K. M., Electrochemica Acta, (1977)参照]。
【0003】
Nafionは、典型的には、幾つかの燃料電池で使用されている。水素/空気(O2)燃料電池については、水素および酸素が、それぞれ、アノードおよびカソードに直接供給され、電気が発生される。これら“ガスブリージング(gas breathing)”電極を実現するためには、電極構造は、固体電極、ガス状の反応体および液体電解質の3相接触を許容するために高度に多孔質である必要がある。この電極類は、ガス拡散電極と称せられる。ガス状の水素燃料およびガス状の空気(O2)オキシダント以外に、その他の混合相システム、例えば、メタノール/空気(O2)燃料電池が使用される。ここで、液体メタノールは、アノードで酸化され、他方、酸素は、カソードで還元される。イオン導電性膜およびガス拡散電極のもう1つの利用としては、純粋なガス類の電気化学的発生[例えば、Fujita et al., Journal of Applied Electorochemistry, vol. 16, page 935 (1986)参照]、電気有機合成[例えば、Fedkiw et al., Journal of the Electrochemical Society, vol. 137, no. 5, page 1451 (1990)参照]、または、ガスセンサにおけるトランスジューサー[例えば、Mayo et al., Analytical Chimica Acta, vol. 310, Page139, (1995)参照]が挙げられる。
【0004】
典型的には、これら電極/イオン導電性膜システムは、電極をイオン導電性膜に押し付けることによって構成される。米国特許No. 4,272,353; No. 3,134,697;およびNo. 4,364,813は、全て、導電性の膜に対して電極を保持する機械的方法を開示している。しかし、電極をポリマー膜電解質に密接するための機械的方法の有効性は、導電性膜が水和および温度の変化により寸法が変わりうることが多いので限界がある。膨潤または収縮は、機械的接触の度合いを変化させる。
【0005】
かくして、電極をポリマー膜電解質と接触させる好ましい方法としては、ポリマー基板の一方の側または両側上に薄い電極を直接析出させることが挙げられる。Nagei and Stuckiは、米国特許 4,326,930において、Nafion上に白金を電気化学的に析出するための方法を開示している。化学的方法を使用して、それによって、金属塩をポリマー膜内で還元するものもある[例えば、Fedkiw et al., Journal of the Electrochemical Society, vol. 139, no. 1, page 15 (1992)参照]。化学的方法および電気化学的方法のいずれにおいても、イオン導電性膜上に金属を沈殿させることが不可欠である。この沈殿は、イオン導電性ポリマー膜の性質、金属塩の形成により制御することが難しく、金属を沈殿させるために、特殊な方法が使用される。薄くて、多孔質で、均一な金属層の目的は、沈殿によっては満たされないことが多いので、実施者は、その他の析出法を見直しつつある。
【0006】
科学者および技術者は、超高真空(UHV)蒸発、化学的な蒸着(CVD)およびスパッター蒸着(スパッタリングとも称せられる)の特殊な被覆方法が、薄い金属電極面を生成させるためのより良好な方法を提供することができることを長年にわたって理解してきた。UHVによる精巧な表面処理は、清浄な基板を生じさせることより始まる。基板表面を析出前に確実に原子的に清浄とすることが接着のために極めて重要となりうる。金属源は、水冷銅炉床に入れて置かれる。この金属を抵抗性の渦電流電子ボンバードメントまたはレーザー加熱を通して気化する。得られる気化した金属は、基板に拡散し、凝縮して、フィルムを形成する。蒸発速度は、温度に指数的に依存し、かくして、正確な温度制御のための手段が必要とされる。
【0007】
これら制御上の問題を最小とする1つの方法は、なお気体の凝縮を可能とする温度に基板を加熱することである。UHVは、フィルムと、フィルム間の界面との両者に汚れを含まないことが極めて重要な時、例えば、エレクトロニクス工業において使用されることが多い。UHVは、電極表面の改良に適当であるものの、イオン導電性ポリマー基板上に薄い電極層を直接析出させるために、この技術を使用することは、析出の温度および原子的に清浄な基板についての制約により限界があるようである。
【0008】
化学的な蒸着法は、大気圧で生じ、典型的には、UHVまたはスパッタリングよりも低い温度を使用する。CVDにおいては、気体相の成分が不活性なキャリヤーガスで希釈されることが多い。キャリヤーおよび気体相は、高温表面で反応させられ、円形のマグネトロンによって発生させたイオンに賦される。基板標的は、イオン発生回路の一部ではないので、かくして、中性の気体のみが標的上に析出する。しかし、UHVおよびスパッタリングの凝縮と異なり、CVDについての表面反応は、化学的な反応と考えられる。例えば、タングステンを蒸着させるためには、800℃で水素をタングステンヘキサフルオライドと混合する。この時、タングステン金属は、拡散によって基板上に析出する。CVDは、イオン導電性ポリマー膜を被覆するための有望な方法を提供するものの、やはり、温度的な制約は、この技術を限られた用途のみとしている。
【0009】
最も一般的な金属析出法は、スパッタリングである。このプロセスは、試料を水冷支持体に取り付けることによって始まる。次に、試料は、真空に賦されるが、UHV技術における程高真空ではない。真空が一度達成されると、金属源は、金属が気化するまで加熱される。これら金属原子は、さらに、キャリヤーガスの正のイオンによって衝撃される。そこで、イオン化された金属原子が基板に拡散する。試料は、冷却されるので、得られる金属気体は、試料上に凝縮する。しかし、連続イオンボンバードメントは、基板上の析出金属を再蒸発させるために十分なエネルギーを付与する。
【0010】
ボンバードメント、凝縮および基板よりの追加の蒸発のこのアニールプロセスは、結局、薄い金属性のフィルムを形成する。使用される圧力および基板温度は、フィルム形成の形態学的特徴を制御する。基板の実質的な加熱は、スパッターされたイオンが冷却し、蒸発エネルギーが基板に伝達されるにつれて生ずることが多い。基板の加熱は、高い放出エネルギーを有する金属(白金、タングステン、タンタル、レニウムおよびウラン)が使用される時、特に問題となる。過剰の加熱は、フィルムと基板との間の示差膨張を通してフィルムに歪みを生じさせる。このために、Nafion上の白金のスパッターされたフィルムは、安定ではない:2つの物質の熱容量の差が大きすぎる。
【0011】
にもかかわらず、電極の薄い層を構成する必要性により、研究者たちをして、アノードまたはカソードを被覆することにかりたててきた。スパッタリングは、直接イオン導電性ポリマー膜上ではなく、カーボン支持体上に金属の薄い層を析出させることによって、燃料電池タイプの電極を製造するために使用されてきた。Weber et alは、The Journal of the Electrochemical Society(vol 134, no. 6, page 1416, 1987)において、白金がカーボン複合電極上に精巧にスパッターされ、従来の製造法よりも良好ではないにしても、これら電極のアルカリ性(液体)燃料電池における性能がそれに匹敵するものであることを示している。性能はともかく、性能において甚だしく劣ることもなく、より少量の白金を使用可能とし、かくして、複合体のコストを低下させるという利点が存在する。
【0012】
イオン導電性ポリマー膜は、電解プロセスにおける選択的なセパレータとして使用されることが多い。例えば、Nafionは、ブライン電解に使用されるカチオン交換セパレータである。ブラインよりのナトリウムイオンは、セパレータを通って移動し、カソードで形成される水酸基と合わさる。クロライドイオンは、Nafionの固定されたスルホン酸基との電荷の反発により陽極液(anolyte)隔室に残留する。分離用の帯電した膜のその他の使用としては、電気透析および合成が挙げられる。これら用途の大部分については、1つの種をその他の種より排他的に輸送させることが望まれる。しかし、イオン交換セパレータは、常に、所望とおりには機能しない。例えば、前述したメタノール/酸素燃料電池は、イオン導電性セパレータを通して望ましくないメタノールを輸送するという欠点がある。プロトン以外に、セパレータは、メタノールが酸素還元側にクロスオーバー(cross over)することを許し、結局、カソードで寄生的に反応し、それによって、カソードの電位を低下させる。
【0013】
ある種の金属類、金属酸化物類または合金類の薄い塗膜は、選択的に、イオンを輸送することが知られている。例えば、パラジウム、タングステンオキシド、モリブデンオキシドまたはハイドロジェンウラニルホスフェート(HUO2PO4)の薄い層は、選択的に、プロトンを輸送することが示されている。これらまたはその他の金属類の薄い層がイオン導電性膜にしっかりと固定することができる場合、イオン輸送についての選択性が向上することが期待される。
【0014】
かくして、イオン導電性膜を薄い強靭な金属、金属酸化物または合金層で被覆することが可能である場合、電気化学用途および分離用途の両者における性能およびコスト的な利点が生ずる。個々の技術については、現在の金属析出技術(UHD、CVD、スパッタリング)は、それらの能力に限界があるものの、操作温度またはプロセス条件により、概して、イオン導電性膜に薄い金属フィルムを適用することができる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
その上に析出下金属の薄いフィルムを備えたイオン導電性膜を製造するための本発明の新規な方法は、減圧下、その膜を低エネルギーの電子ビームに賦して、膜表面を清浄とし、ついで、この清浄とした膜を、減圧下、金属イオンを含有する高エネルギービームに賦して、その膜上に電極膜構造として有効な薄い金属フィルムを形成することを含む。得られる金属化された膜構造物およびそれを内蔵する燃料電池も、また、新規で、本発明の一部である。
【0016】
金属膜電極は、例えば、米国特許No. 4,044,193に記載されているように、燃料電池に、または、米国特許No. 4,331,520に記載されている水素還元金属回収槽に、あるいは、米国特許No. 5,047,133に記載されているようなガス拡散電池に使用することができる。
【0017】
デユアル・イオン・ビーム・アシステッド・デポジション(Dual IBAD)は、上記金属析出技術の最良の特徴の幾つかを合わせ持つハイブリッド法である。減圧および温度制御の両者を使用すると、IBADは、蒸着を同時イオンビームボンバードメントと組み合わせる。蒸着は、その源の電子ビーム蒸発によって開始される。蒸発させる種と同時に、2つのイオンビームが基板上に収束する。比較的低エネルギーのイオン源が、最初に、基板上に集中する。典型的な低エネルギーイオンビームは、Ar+である。この第1のビームは、イオンスパッタリングによって表面を清浄とし、場合によっては、ユニークな原子スケールの組織を付与し、これに、塗膜が適用される。
【0018】
第2のより高エネルギービーム、例えば、O2+またはN2+および電子蒸発された種(例えば、白金、イリジウム、金、レニウム、ロジウム、タンタル、タングステン、銀、亜鉛、鉄、銅、ニッケル等)は、表面に向けられる。同時発生のイオンスティッチング(concurrent ion stitching)は、形成されるフィルムを強化し、フィルムと基板との間の接着を改良する。
【0019】
場合によっては、2つのエネルギービームのエネルギーは、同一であり、イオンキャリヤーは、単一ガスである。この変法は、単に、IBADと称される。デユアルIBADかIBADかの使用は、合金、金属または金属酸化物源標的および被覆されるポリマー基板の特性によって決定される。
【0020】
同時発生イオンビームの使用は、種々の物質についての多孔度、深さおよびイオン組成を高度に制御された接着フィルムを構成することを可能とする。例えば、IBADは、金属類、セラミックス、または、シリコンゴムおよびポリイミドのような絶縁性ポリマー上に、金属、金属酸化物、金属合金またはメタロイドフィルムを析出するために使用されてきた。析出パラメータを調整することによって、フィルムの多孔度は、制御することができ、高度に緻密、かつ、不透過性(例えば、薄い塗膜としてイオン選択性の膜を生ずる)より高度に多孔質(ガス拡散または燃料電池電極用の望ましい品質)の範囲である。また、種々の金属類、金属酸化物類、メタロイドまたは合金を原子レベルで基板上に構成および析出することができる。典型的な被覆時間は、1平方メートル当たり5分であり:本プロセスは、半連続ドラム供給に適合させることができ、それによって、大量の物質を一度に被覆することができる。
【0021】
一般的な被覆処理としてのIBADプロセスに対する1つの鍵は、その方法が広範な温度および圧力条件にわたって機能を果たす。IBADプロセスの本質的な特性は以下の通りである:それは、いずれの基板材料上でも使用することができる低温プロセスである。
【0022】
・それは、金属、ポリマー膜またはセラミック基板上への金属性またはセラミックフィルムの優れた接着を生ずる。
・多孔質または非多孔質構造を有する緻密な低応力の金属フィルムを形成することができる。
・フィルムの微細構造および化学的な組成にわたる優れた制御。
・縮尺可能で経済的なプロセス。
【0023】
IBAD条件は、被覆される基板の化学および標的金属のイオン化ならびにイオンビームガスに依存する。例えば、超高度純粋“ゼロ欠陥”析出が所望される場合、非常に高度の減圧、10―10〜10―12torr未満(0.0013595057×10―10〜0.0013595057×10―12kg/cm、ここで1トル=0.0013595057kg/cm)またはその周辺の次数の減圧が使用される。
【0024】
使用される温度は、基板および析出の化学に依存する。しかし、IBADについては、温度は、ポリマー基板の材料特性程大きく、プロセスに影響を及ぼさない。例えば、NafionRタイプのポリマー基板については、80〜160℃に等しいかそれ未満の範囲を使用することができるが、好ましくは、80℃未満である。Teflonタイプのポリマーを被覆する場合には、50〜250℃の温度範囲が許容可能であるが、いずれの場合にも、300℃以下である。ポリマー類のガラス転移点以下で操作することが好ましい。
【0025】
高出力イオンビームおよび低出力イオンビームのエネルギーは、使用されるガス、および、究極的には(高出力については)、機器に使用可能な出力によって決定される。典型的な低出力ビームの範囲は、100〜500eVであり、他方、高出力ビームの範囲は、500〜2,000eVである。
【0026】
IBAD法は、イオン導電性膜を被覆し、従来可能であったよりもはるかに大きいフィルム接着と界面制御とを有する電極および膜構造物を製造すのに利用されている。IBADによって製造される多孔質の電極膜構造物は、ガス拡散に主として用途を有し、燃料電池、電気合成、センサおよび電気化学的な分離分野において、即、実施を見いだしうる。しかし、薄くて、緻密で、不透過性のフィルムは、また、イオン導電性膜上に形成することができ、金属膜構造物は選択性の高いセパレータとしての使用を見いだしうる。例えば、メタノール/酸素燃料電池におけるメタノールのクロスオーバー(cross-over)およびカソードでの反応の問題は、イオン導電性膜上にタングステンオキシドの薄くて不透過性の層を析出させることによって軽減することができる。タングステンオキシドは、プロトンの通過を許すものの、メタノールをカソード反応より孤立させる。
【0027】
本発明のもう1つの態様において、本方法は、IBAD処理前にその表面に適用されたイオノマーの層を有するガス拡散電極を被覆するために使用することができる。この別個のイオノマー層は、in situ膜と類似している。
【0028】
典型的には、これら液体イオノマー類は、溶液として得られ、熱的または化学的に処理することができて、薄いフィルムを形成する。例えば、Nafion溶液は、イソプロパノールおよびその他の溶剤の5(重量)%溶液として購入することができ、その際、ポリマーの当量は、1,100である。この溶液を未触媒化ELATTRに噴霧または塗装し、80℃に加熱すると、電極上に高分子層を形成する。ついで、イオン導電性ポリマー層上に金属類、合金類または金属酸化物類を被覆するために、IBADを使用することができる。このようにして形成された構造物は、同様に、標準イオン導電性膜に、なお、接続することができる。かくして、完全な電極対は、以下の層からなる:
ELAT/Nafion(溶液より)/IBAD金属/Nafion(膜)/IBAD金属/Nafion(溶液より)/ELAT
“IBAD金属”とは、金属、合金または金属酸化物の層のイオン・ビーム・アシステッド・デポジション(ion beam assisted deposition)を称す。
【0029】
イオン導電性膜上に金属、金属酸化物または合金界面を構成するための新しい方法として、多くの利点が明らかである。電極または膜を製造するためのコストは、析出プロセスの全てが自動化されるので、著しく少なくなることが期待される。IBADによって製造される構造物の処理量は、現在の労働力投入技術と同じくらい早いかまたはそれ以上に早いことが期待される。最後に、実際の製造プロセスを著しく変更することなく特定の用途の要求に金属イオン導電性構造物の表面および界面を適合させる能力は、慣用的に製造されている構造物の開発時間を短くすることが可能である。
【実施例】
【0030】
以下の実施例において、本発明を示すための幾つかの好ましい実施例を説明する。しかし、本発明をこれら特定の実施例に限定することを意図するものでないことを理解する必要がある。
【0031】
実施例 I
以下の実施例は、水素/空気(O2)燃料電池におけるIBAD製造されたガス拡散電極の使用を示す。Nafion 115(8“×8”)の試料をドラム上に置く前に、柔らかいティッシュでその表面を清浄に拭く以外は、前記試料を一般に受け入れられているように使用する。ドラムは、プロセス全体を通して、2.5rpmで回転させ、システムは、10―6torr(0.0013595057×10−6kg/cm)に排気した。金属源標的は、白金であり、アルゴンを両エネルギービームでイオン化した。ビームのエネルギーは、200〜1,000eVの間であった。白金源は、14KW供給電力の蒸発電ビームに対する標的であった。初期白金フィルムの進展を石英のクリスタロメーターによってモニターした。試料温度をモニターし、35〜65℃の範囲とした。このトライアルに対して、Nafionの一方の側は、白金で被覆された。4つの試料を製造したが、その際、平均フィルム厚さは、3,000、1,000、574および241オングストロームであった。574オングストロームおよび241オングストロームの白金フィルムを有するアセンブリは、ガス拡散電極として作動するのに十分な程多孔質であると判定された。
【0032】
水素/空気(O2)燃料電池試験スタンドは、16cm2の露出電極面積を有する1つのアノード/カソード対からなった。適当なハードウエアは、酸素または空気(O2)をカソードに4バールで供給し、他方、水素は、アノードに3.5バールで供給した。この試験において、空気は、酸素源を提供し、電池温度は、70℃に維持した。0〜10KA/m2の範囲の電流負荷を電池に加え、得られる定常状態の電圧を記録した。
【0033】
評価は、3つの電極構成を試験することからなった。対照として、イオン導電性膜(Nafion 115)に対して圧力適合した2つの標準市販ガス拡散電極で電池を組み立てた。この構成におけるアノードおよびカソードとしてELATTM白金ガス拡散電極(E-TEK, Inc., Natick, MA)を使用した。第2の構成は、Nafion膜およびELATアノードを1個の白金−Nafionアセンブリと交換し、その際、白金層は241オングストロームであった。最後の構成は、白金層が574オングストロームである以外は、同様のアノードアセンブリからなった。これら全ての構成において、金属被覆膜またはELATに、文献に時により引用されているような、さらなるNafionペイントは、適用しなかった。これら構成の全てについて、空気(O2)は、カソードに供給した。
【0034】
比較実施例
本比較実施例は、イオン交換膜、例えば、Nafionを被覆するために典型的なスパッタリング法を使用する時に形成される構造物間の差を示す。Nafion 115(8“×8”)の試料をドラム上に置く前に、柔らかいティッシュでその表面を清浄に拭く以外は、前記試料を一般に受け入れられているように使用した。スパッタリングチャンバ適用した減圧に試料を賦し、白金の標的を高エネルギーで蒸発させ、気化した白金をNafion上に凝縮させた。スパッタリングを一度中止して、ほぼ200オングストロームのフィルムを形成した。かくして製造したNafionの試料を、実施例1に前述した構成の燃料電池のアノードおよびカソードとして試験した。
【0035】
得られた金属フィルムをNafion膜にしっかりと接着し、水にさらす際にさえ、金属フィルムを無傷のままに保った。しかし、図1に示したように、このような構造物の電気化学的性能は、標準以下であった。図1は、また、標準電極およびIBAD製造した電極と同軸上にスパッターされた白金アノードの結果をプロットしてある。スパッターされた金属フィルムより得られる電流および電圧がIBADまたは標準電極よりはるかに低いことが容易に明らかであろう。これは、スパッタリングプロセスが望ましくない形態学的特徴を有する金属フィルム析出物をもたらす示す。
【0036】
図面の説明
図1:4つの燃料電池トライアルについての電流−電位プロット。
【0037】
1個の電池を水素(3.5バール)および空気(O2)(4バール)で試験し、他方、温度は、70℃に維持する。全ての場合に、Nafion 115を使用する。カソード−アノード対は、ELAT−ELAT、ELAT−241Å IBAD白金、ELAT−574Å IBAD白金または200Åスパッターされた白金からなった。全ての実験電極をアノードとして試験し、他方、カソードも同一材料である。
【0038】
本比較実施例は、IBADで製造したガス拡散電極が、現在市販されているアセンブリと同様に機能を果たしうることを示す。ELATは、カーボン布基体支持体であり、その上に、カーボンおよび親水性の防水層が両側に適用され、その際に、白金触媒は、同様に、手によって適用した。対照的に、IBAD電極は、最小の労力で製造され、示したように、少ない白金を使用することによって適用された白金のはるかに多い利用を使用する。さらに、本発明の金属−膜電極は、はるかに改良された電池電圧を有する。
【0039】
実施例 II
本実施例は、高度に選択的なエパレータとしてのIBAD改良イオン導電性膜の使用を示す。直接メタノール燃料電池(DMFC)のメタノールクロスオーバーの問題は、薄くて、緻密で、不透過性のフィルムがイオン交換膜上に生ずる場合に軽減され、それによって、プロトンが構造物を通って選択的に輸送される。かくして、このようなアセンブリは、アノードでメタノール酸化、得られたプロトンの構造物を介する移動およびカソードでの酸素の還元を許し、それによって、プロトンは、水を形成するために、酸素還元生産と再度組合わされる。
【0040】
タングステンオキシドは、公知の選択的プロトン導体である。しかし、イオン導電性膜上にこの酸化物の薄くて、かつ、不透過性のフィルムを形成するための前述の公知の方法は、DMFCまたはその他の用途におけるその使用を不可能とした。
【0041】
タングステントリオキシドの薄いフィルムは、8”×8”片のNafion上に形成した。前述の実施例におけるように、Nafionは、単にティッシュで拭いた後、ドラム上に取り付けた。ドラムは、プロセス全体を通じて2〜5rpmで回転させた。試料チャンバは、10―6torr(0.0013595057×10−6kg/cm)まで排気し、金属源は、電子等級(electronic grade)のWO3であった。イオン析出における補助のために単一ビームを使用した(すなわち、“IBAD”)。アルゴンがイオンビームに対するイオンキャリヤーであり、析出ビームのためのエネルギーは、ほぼ100〜1,000eVであった。タングステンオキシド源は、14KW供給電力の蒸発電子ビームで気化させた。この供給を使用し、金属源は、3〜10A/sの被覆速度で蒸発させた。金属酸化物フィルムの形成は、石英クリストロメータによってモニターし、試料温度は、全時間において100℃以下であった。目的は選択的なバリヤーを形成することであったので、イオン導電性膜の1つの側のみを被覆した。2つの厚さ:0.45ミクロン(4,500Å)および1.05ミクロン(10,500Å)を製造した。
【0042】
改良したNafionを試験する前に、膜電極アセンブリ(MEA)を構成した。タングステンオキシドフィルムを有する側と非改良の側とに白金または白金―ルテニウムオキシド電極を張りつけるためにLos Alamasの“デカルコマニア(decal)”法を使用した。この方法のさらなる詳細は、Proton Conducting Membrane Fuel Cell I,S.Gottesfeld et al,The Electrochemical Society,Pennington,NJ,Oct.95,p.252に記載されている。
【0043】
ここで、主要なアセンブリ工程を記載する。触媒粉末をNafionイオノマー(5重量%溶液,当量=1,100)のアルコール性溶液に分散させることによってアノードおよびカソードインキを製造した。アノードインキ触媒は、白金−ルテニウムオキシドより製造し、他方、カソードは、白金ブラックであった。インキを5cm2のTeflonブランクに塗り、オーブン乾燥させた。この実施例において、タングステンオキシドフィルムは、膜側であり、究極的には、アノードとして機能を果たす。温度125℃を維持しつつ、Nafionのカソード(未被覆)側に対して、Teflonブランクを圧力2,000psi(0.0703069616×2,000kg/cm、ここで、1psi=0.0703069616kg/cm)でプレスした。白金−ルテニウムオキシドからなるアノードインキをカーボン布ガス拡散媒体(E-TEK Inc., Natick, MAよりのELATTM)上に塗り、ついで、このカーボンブランクをタングステンオキシドに125℃および200psi(0.0703069616×200kg/cm)で2分間プレスした。得られた電極は、アノード金属負荷2〜3mg/cm2を含有し、他方、カソードは、金属負荷2〜3mg/cm2の白金ブランクを含有していた。
【0044】
5cm2の活性電極面積からなる単一電池を組み立て、試験装置内に置いた。電池についてのベースラインデータを調整し得るために、標準水素/空気および水素/酸素ガス混合物を供給した。次に、1MのMeOH溶液を電池に2ml/分で供給し、他方、酸素は、システムを80℃に保持しつつ、400ml/分および60psi(0.0703069616×60kg/cm)でカソードに供給した。カソード出口を赤外分光光度計で二酸化炭素についてモニターすると、メタノールクロスオーバーを定量することができた。ついで、CO2の量を使用して、メタノールフラックス値を計算し、ついで、これを用いて、有効メタノールクロスオーバー電流を計算した。メタノールクロスオーバー電流は、膜を介するメタノールのカソードへの望ましくない輸送による電池電流の損失であった。大きな値のmA/cm2は、電池の性能が劣ることを示す。分極曲線を求める以外に、電池は、高周波数AC−インピーダンス実験に賦し、その際、膜の有効抵抗を測定した。0.45ミクロンのタングステンオキシドについての結果を、以下、表1にまとめて示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の試験は、タングステンオキシド改良Nafionを使用することによって、メタノールの輸送がほぼ31%減少したことを示す。さらに、正しく重要なことであるが、Nafionの導電率は、減少しなかった。亜酸化物がイオン的に、かつ、電子的に導電性であると考えられるので、タングステンオキシドの機能的な性質は保存された。この実施例は、選択的なバリヤーを生ずるために、IBADを使用することができることを示す。この場合、望ましくないメタノール輸送を抑制しつつ、プロトン輸送は、維持された。
【0047】
現在の実施例および従来技術の実施例は、イオン・アシステッド・デポジションの鍵となる理念を示すものの、これらは、例としての役割を果たすもので、その適用をIBADのみに限定することを意図するものではない。ある種の状況においては、デユアルIBADが適用可能である。同様に、2種以上の別個の金属または金属酸化物標的の使用も可能であり、イオン導電性膜上に、直接、2つまたは3つのバルブもしくは白金族;金属合金、例えば、Pt:Ru、Pt:Sn、Pt:Mo、Pt:Rh、Pt:Ir、Pt:Pd、Rh:Mo、Pt:Co:Cr、Pt:Co:Ni等の形成を可能とする。
【0048】
本発明の精神および範囲より逸脱することなく、本発明の方法および生成物の種々の変更をなすことができ、本発明は、特許請求の範囲に記載した範囲としてのみ限定されることを理解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】燃料電池トライアルの電流−電位プロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの金属、金属合金、金属酸化物又は混合金属酸化物の薄いフィルムを備えたイオン導電性膜からなる金属化された膜であって、
減圧下、イオン導電性膜を100〜500eVの低エネルギーの電子ビームに賦して、その膜表面を清浄とし、この清浄とした膜を、減圧下、析出されるその金属のイオンを含有する500〜2,000eVの高エネルギービームに賦して、前記フィルムを形成することにより得られた、金属化された前記膜。
【請求項2】
前記フィルムが高度に多孔質である、請求項1に記載の金属化された膜。
【請求項3】
前記フィルムが高度に緻密で、かつ、不透過性である、請求項1に記載の金属化された膜。
【請求項4】
金属又は金属酸化物が白金族金属である、請求項1に記載の金属化された膜。
【請求項5】
金属が白金である、請求項3に記載の膜。
【請求項6】
金属酸化物がタングステンオキシドである、請求項3に記載の膜。
【請求項7】
白金又はタングステンオキシドフィルムの薄いフィルムを備えたイオン電導性膜からなる金属化された膜であって、
減圧下、イオン導電性膜を100〜500eVの低エネルギーの電子ビームに賦して、その膜表面を清浄とし、この清浄とした膜を、減圧下、析出されるその金属のイオンを含有する500〜2,000eVの高エネルギービームに賦して、前記フィルムを形成することにより得られた、前記膜。
【請求項8】
白金又はタングステンオキシドフィルムが高度に多孔質である、請求項7に記載の金属化された膜。
【請求項9】
白金又はタングステンオキシドフィルムが高度に緻密で、かつ、不透過性である、請求項7に記載の金属化された膜。
【請求項10】
イオン導電性膜によって仕切られたアノード及びカソードを有する燃料電池において、請求項1〜6のいずれかに記載の膜が使用されることを特徴とする、前記電池。
【請求項11】
膜が白金金属のフィルムを備えている、請求項10に記載の燃料電池。
【請求項12】
膜がタングステンオキシドのフィルムを備えている、請求項10に記載の燃料電池。
【請求項13】
少なくとも1つの金属、金属合金、金属酸化物又は混合金属酸化物の薄いフィルムを備えた請求項1の膜によって仕切られたアノード及びカソードを有する燃料電池を使用することにより、そのアノードでメタノールを酸化し、そのカソードで酸素を還元する方法において、前記フィルムがメタノール輸送に対して不透過性である前記方法。
【請求項14】
前記フィルムがタングステンオキシドフィルムである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの金属、金属合金、金属酸化物又は混合金属酸化物の薄いフィルムをイオン導電性膜上に設けることにより製造される、金属化された膜を有する燃料電池用電極であって、減圧下、前記イオン導電性膜を100〜500eVの低エネルギーの電子ビームに賦して、その膜表面を清浄とし、この清浄とした膜を、減圧下、析出されるその金属のイオンを含有する500〜2,000eVの高エネルギービームに賦して、前記フィルムを形成することを特徴とする、前記電極。
【請求項16】
少なくとも1つの金属、金属合金、金属酸化物又は混合金属酸化物の薄いフィルとともに、電極表面上に設けられたイオノマー層を有する、ガス拡散電極を被覆する方法において、
前記方法が、減圧下、そのイオノマー被覆電極を100〜500eVの低エネルギーの電子ビームに賦して、そのイオノマー被覆表面を清浄とし、この清浄としたイオノマー被覆表面を、減圧下、析出されるその金属のイオンを含有する500〜2,000eVの高エネルギービームに賦して、前記フィルムを形成することを特徴とする、前記方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−303464(P2008−303464A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166155(P2008−166155)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【分割の表示】特願平10−6909の分割
【原出願日】平成10年1月16日(1998.1.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(501339562)デ・ノラ・エレットロディ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (1)
【住所又は居所原語表記】Via dei Canzi 1,20134 Milan,Italy
【Fターム(参考)】