説明

イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物及びその合成方法

【課題】弾力性及び強靱性に優れたイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物及びその合成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、ウレタン結合によって鎖延長されたポリ乳酸に第四級アンモニウムイオンが導入されてアイオノマー化されている。このイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、アミノジオールを用いて乳酸を重合させ、第三級アミンが導入された両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程と、得られた両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物に鎖延長剤を加えて鎖延長反応を行い、ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程と、得られたウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物にハロゲン化アルキルを加え、第三級アミンを第四級アンモニウムイオンにすることでアイオノマー化し、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程とから合成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物及びその合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品は、耐久性、耐腐食性等の機械的性質と、成形性の容易さを兼ね備えていることから、日用品や産業資材等に至るまで多くの分野で用いられている。
【0003】
現在のプラスチック製品のほとんどは、枯渇が懸念されている原油を原料としていることから、代替原料の開発が望まれている。また、廃棄されるプラスチック製品が増大しており、自然に浄化されないプラスチックが大きな環境負荷になっているという問題もある。
【0004】
このような原料枯渇問題及び環境問題の高まりから、植物由来の原料から製造可能な生分解性プラスチックへの関心が高まっている。生分解性プラスチックの代表的なものとしては、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルが挙げられる。一方で、ポリ乳酸等は硬くて脆いという欠点がある。
【0005】
硬くて脆いという欠点を補い、弾力性と強靱性の高さを備える高分子化合物として、アイオノマーが知られている。アイオノマーは、イオン基による凝集力によって共重合体を凝集させた化合物である。そして、脂肪族ポリエステルとアイオノマーを組み合わせたものとして、以下の高分子化合物が開示されている。
【0006】
脂肪族ポリエステルやポリウレタンにイオン基が導入された高分子化合物がある(非特許文献1〜3)。
【0007】
また、カルボキシル基やアミノ基を含有するジオール存在下で、両末端水酸基化PCL(poly−ε−caprolactone)とジイソシアナートとを反応させて鎖延長させ、主鎖中にカルボキシル基やアミノ基がランダムに取り込まれたポリウレタンを合成し、このポリウレタンからアイオノマーを調整する方法が開示されている。(非特許文献4、5)
【0008】
また、特許文献1、2には、ポリ乳酸などの生分解性ポリマーとアイオノマーとのポリマーブレンドについて開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.W.Sherman,and R.F.Storey,Polym.Prep.(Am.Chem.Soc.,Div.Polym.Chem.)37,624(1996).
【非特許文献2】R.F.Storey,and J.W.Sherman,Polym.Prep.(Am.Chem.Soc.,Div.Polym.Chem.)39,602(1998).
【非特許文献3】B.Atthoff,F.Nederberg,J.Hilborn,and T.Bowden,Macromolecules 39,(11),3907−3913(2006).
【非特許文献4】S.Subramani,Y.−J.Park,I.−W.Cheong,and J.−H.Kim,Polym.Int.53,(8),1145−1152(2004).
【非特許文献5】Y.Zhu,J.Hu,K.−w.Yeung,K.−f.Choi,Y.Liu,and H.Liem,J.Appl.Polym.Sci.103,545-556(2007).
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−2773号公報
【特許文献2】特開2005−248160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1〜3のように、脂肪族ポリエステルや脂肪族ポリカーボネートの両末端にイオン基が導入されたポリマーについて、合成されたポリマーの分子量が20000以下と低く、分子量を大きくするとイオン基の導入量が相対的に小さくなるという問題がある。このため、弾性率の向上が期待できない。
【0012】
非特許文献4、5のように、両末端水酸基化ポリマーと、カルボキシル基やアミノ基を含有するジオールとによるジイソシアナートによる鎖延長では、イオン基を均一に分布させることが困難であるので、ポリマーが不均質になってしまい、機械的強度等が劣るという欠点がある。
【0013】
また、特許文献1、2におけるポリマーとアイオノマーとのブレンド体は、それぞれのポリマーブロックが散在する形態になり、更に不均質性が高くなるので、機械的強度等がより劣るという問題がある。また、ブレンドすることにより、生分解性ポリマーの分量が減少するので、生分解性ポリマーの利点を損なってしまう。
【0014】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、弾力性及び強靱性に優れたイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物及びその合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、
ウレタン結合によって鎖延長されたポリ乳酸に第四級アンモニウムイオンが導入されてアイオノマー化されていることを特徴とする。
【0016】
また、前記ポリ乳酸を90wt%以上含有していることが好ましい。
【0017】
また、前記第四級アンモニウムイオンを5〜10wt%含有していることが好ましい。
【0018】
本発明に係るイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成方法は、
アミノジオールを用いて乳酸を重合させ、第三級アミンが導入された両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程と、
前記両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物に鎖延長剤を加えて鎖延長反応を行い、ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程と、
前記ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物にハロゲン化アルキルを加え、前記第三級アミンを第四級アンモニウムイオンにすることでアイオノマー化し、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0019】
また、乳酸としてL−ラクチドを用いて開環重合させることが好ましい。
【0020】
また、鎖延長剤として、ジイソシアナートを用いることが好ましい。
【0021】
また、脂肪族の前記ジイソシアナートを用いることが好ましい。
【0022】
また、前記ハロゲン化アルキルとして、ヨードメタンを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物では、イオン基として機能する第四級アンモニウムイオンがほぼ等間隔に位置しているので、優れた弾力性及び強靱性を備えている。
【0024】
また、本発明のイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成方法では、イオン基の導入量とポリマーの分子量をそれぞれ独自に制御することができることから、高分子量体の調整が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】合成例1において合成した両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物のH−NMRスペクトルである。
【図2】合成例2において合成したウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物のH−NMRスペクトルである。
【図3】実施例において合成したイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物のH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物について説明する。
【0027】
本実施の形態に係るイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、アミノジオールを開始剤として乳酸が重合されたポリ乳酸が、ウレタン結合により鎖延長され、更に、ハロゲン化アルキルによってアイオノマー化された組成物である。
【0028】
イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、アイオノマー化によって第四級アンモニウムイオンを有し、この第四級アンモニウムイオンがカチオン性イオン基として機能する。そして、ハロゲン化アルキルから生じた対イオンとの凝集作用により、複数の高分子量体を凝集させるので、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物はポリ乳酸樹脂に比べて弾性率の向上を成しえている。
【0029】
また、後述の合成方法で記すように、第四級アンモニウムイオンが高分子量体の主鎖中にほぼ等間隔に導入されている。これにより、均質性が高く、伸びや弾性率等の機械的性質に優れる。また、第四級アンモニウムイオンの含有量は、5〜10wt%であることが好ましい。
【0030】
また、この第四級アンモニウムイオンに対する対イオンとしては、塩素イオン(Cl)、臭素イオン(Br)、ヨウ素イオン(I)等のハロゲンイオンであることが好ましい。
【0031】
また、ポリ乳酸を90wt%以上含有していることが好ましい。ポリ乳酸は生分解性を有するため、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物のほとんどが微生物によって分解され得る。このため、環境に対する負担も小さい。また、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物のほとんどがトウモロコシやサトウキビ等、植物由来の原料を用いることができるので、枯渇が懸念される原油に代替するプラスチック材料として期待できる。また、第四級アンモニウムイオンが導入されていることから、抗菌作用を有することが期待できる。
【0032】
続いて、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成方法について説明する。
【0033】
(両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程)
まず、両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物を合成する。溶媒中にて、開始剤を用いて乳酸を重合させる。
【0034】
乳酸は、L−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド(L−lactide)を用いるとよい。L−ラクチドを用いることで、ポリ乳酸の重合が容易に行われる。
【0035】
開始剤として、アミノジオールを用いるとよい。アミノジオールとして、N−メチルジエタノールアミン(NMDA)、3−ジエチルアミノ−1,2−プロパンジオール(DEAPD)、N−(n−ブチル)ジエタノールアミン(BDEA)、N−(t−ブチル)ジエタノール−アミン(TBDEA)、N−フェニルジエタノールアミン(PDEA)等が挙げられる。
【0036】
触媒として、乳酸の重合を促進し得る触媒であれば特に限定されない。例えば、オクチル酸スズ(Sn(Oct))が挙げられる。
【0037】
適当な触媒存在下、L−ラクチドにアミノジオールを加えると、アミノジオールの両水酸基とL−ラクチドとでエステル結合が生じるとともに、L−ラクチドの開環重合が生じる。これにより、両末端に水酸基が結合した両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物が得られる。アミノジオールの両水酸基を基点に、それぞれポリ乳酸が重合されるので、ポリ乳酸の長さがほぼ同じになる。したがって、両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物のほぼ中央に第三級アミンが導入されることになる。また、L−ラクチドとアミノジオールの配合比率を調整することで、所望の分子量の両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物を合成することができる。
【0038】
以下に、L−ラクチドとNMDAを用いた両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物の合成例を化学式にて示す。なお、式中の−PLLA−は、ポリ−L−乳酸を示す。
【化1】

【0039】
(ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程)
続いて、鎖延長剤を用いて、上記のように合成した両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物の鎖延長反応を行い、ウレタン変性ポリ乳酸を合成する。
【0040】
鎖延長剤として、ジイソシアナートを用いる。ジイソシアナートと両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物の両末端に位置する水酸基とでウレタン結合が生じ、鎖延長反応が進行してウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
【0041】
ジイソシアナートとしては、脂肪族系のジイソシアナートを用いるとよい。例えば、ヘキサメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート等を用いることができる。
【0042】
以下に、ヘキサメチレンジイソシアナート(OCN(CHNCO)を用いた場合の、ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成例を化学式にて示す。
【化2】

【0043】
(イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程)
続いて、前述のように合成したウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物とハロゲン化アルキルとを反応させてアイオノマー化を行い、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成する。ハロゲン化アルキルによって第三級アミンが第四級アンモニウムイオンになる。これにより、カチオン性アイオノマーであるイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成することができる。この第四級アンモニウムイオンがカチオン性イオン基として機能し、ハロゲン化アルキルから生じる対イオンとの凝集作用により、高分子量体が凝集して弾性率が向上することになる。
【0044】
ハロゲン化アルキルとして、ヨードメタン(CHI)を用いるとよい。
【0045】
以下に、ヨードメタンを用いてアイオノマー化を行った場合の、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成例を化学式にて示す。
【化3】

【0046】
イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、上述のほぼ中央に第三級アミンが導入された両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物から、鎖延長及びアイオノマー化を行うことで得られるので、第四級アンモニウムイオンが主鎖中にほぼ等間隔に位置することになる。このため、得られるイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物は優れた弾力性及び強靱性を備える。
【0047】
上述したイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成方法では、第四級アンモニウムイオンの導入量とポリマーの分子量をそれぞれ独自に制御することができ、高分子量体の調整が容易である。
【0048】
また、カチオン性アイオノマー調整では、アニオン性アイオノマーにおける保護・脱保護の工程が不要であるため、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成を簡便に行える利点がある。
【0049】
(合成例1 両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物の合成)
溶媒にL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド(以下、L−LA)、N−メチルジエタノールアミン(以下、NMDA)、及び、触媒を添加し、L−LAを開環重合して、両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物(以下、HO−PLLA−OH)を合成した。
【0050】
L−LAの添加量は1.04mol、NMDAの添加量はL−LAに対し1/40当量とした。溶媒にはトルエン(2ml)を用い、触媒にはオクチル酸スズ(L−LAに対し、1/1000当量)を用いた。
【0051】
反応温度を100℃とし、重合時間は5、10、24、48時間について、それぞれ行った。その重合結果を表1に示す。なお、HO−PLLA−OHの分子量(数平均分子量Mn、質量平均分子量Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー測定(GPC測定)により得た。
【表1】

【0052】
表1の結果から、24時間までは、重合時間を増加することによって、HO−PLLA−OHの分子量が大きくなること、また、収率が高くなることがわかる。また、全てのGPC曲線が単峰性であることを確認したことから、HO−PLLA−OHが選択的に得られていることを確認した。なお、重合時間が24時間と48時間ではほぼ変化がなく、上記の条件下では重合時間は24時間で十分であると考えられる。
【0053】
続いて、重合時間を24時間とし、L−LAとNMDAの添加比率[M]/[I]を20、80、160と変更して前記と同様に重合を行った。
【0054】
その重合結果を表2に示す。なお、表2中のsample3は、表1におけるsample3(重合時間24時間、L−LAとNMDAの添加比率[M]/[I]が40)である。
【表2】

【0055】
L−LAとNMDAの添加比率[M]/[I]の値が増加するに従い、得られたHO−PLLA−OHの分子量が増加していることがわかる。したがって、L−LAとNMDAの添加比率を変化させることで、HO−PLLA−OHの分子量を制御することができる。
【0056】
sample5で得られたHO−PLLA−OHのH−NMRスペクトルを測定した。その結果を図1に示す。
【0057】
2.3ppm付近及び2.7ppm付近にNMDAのピークが観測され、また、4.4ppm付近に水酸基のα−メチンプロトン由来のピークが観測された。この結果から、ポリマー鎖の中央にアミンが導入されたHO−PLLA−OHを合成できていることを確認した。
【0058】
(合成例2 ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成)
鎖延長剤としてヘキサメチレンジイソシアナート(以下、HMDI)を用いて、HO−PLLA−OHの鎖延長反応を行い、ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成した。ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成は、まず、HO−PLLA−OHを合成した後、生成物を単離精製することなく、引き続きHMDIを更に添加することで行った。
【0059】
HO−PLLA−OHの合成条件は、以下のようにした。L−LAの添加量は1.04mol、NMDAの添加量は、L−LAに対し1/40当量とした。溶媒にはトルエン(2ml)を用い、触媒にはオクチル酸スズ(L−LAに対し、1/1000当量)を用いた。また、反応温度は100℃、重合時間は24時間とした。
【0060】
その後、HMDIを添加してウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成した。なお、合成例1では、収率が90%を超えており、H−NMRスペクトルからNMDAの存在が確認できることから、添加したNMDAが全て反応したと考えられるので、添加するHMDIの添加量は、NMDAの1.2倍当量とし、全てのHO−PLLA−OHが鎖延長反応に寄与するよう過剰に添加した。また、反応温度は60℃とし、HMDI添加後の反応時間を1,5,10,24時間と変化させて、ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成を行った。
【0061】
その結果を表3に示す。
【表3】

【0062】
GPC測定を行い、生成物が高分子量体であることを確認した。なお、理論的には5本程度のプレポリマーが結合すると考えられたが、得られたウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の分子量から本合成例で鎖延長した鎖数は約3,4本程度であると考えられる。鎖延長反応の進行が停止してしまったのは、鎖延長剤を添加すると粘性が増し、攪拌子が適切に回らず、系が均一にならなかったことが原因の一つと考えられる。
【0063】
続いて、L−LAとNMDAの添加比率[M]/[I]を変化させてHO−PLLA−OHを合成した後、ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成を行った。
【0064】
HO−PLLA−OHの合成は、反応時間24時間、乳酸の環状二量体とNMDAの添加比率[M]/[I]値を20,40,60として、それぞれ行った。そして、ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成は、合成時間を5時間とした以外は、前記と同様の条件で行った。
【0065】
その結果を表4に示す。
【表4】

【0066】
合成例1と同様に[M]/[I]値の増加に伴って、合成したウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の分子量が増加していることがわかる。
【0067】
また、sample12のウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物のH−NMRスペクトル測定を行った。その結果を図2に示す。
【0068】
1.3〜1.5ppm及び3.2ppm付近にHMDI由来のピークが観測され、HMDIによる鎖延長反応が進行したことを確認できる。また、4.4ppm付近に図1で現れていたHO−PLLA−OHのメチンプロトンピークが観測されなかったことから、ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の両末端がHMDIでキャップされていると考えられる。
【0069】
(実施例 イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成)
合成したウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物をアイオノマー化し、フィルム状のイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0070】
まず、ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成した。ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、合成例2と同様の手法で合成し、合成条件は以下の通りである。
【0071】
HO−PLLA−OHの合成条件を、以下に記す。L−LAの添加量は0.5molとし、溶媒にはトルエン(30ml)を用い、触媒にはオクチル酸スズ(乳酸の環状二量体に対し、1/1000当量)を用いた。また、反応温度は100℃、重合時間は24時間とした。NMDAは、L−LAに対し1/20、1/40、1/80、1/120当量とした。また、ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成条件は、HMDIをNMDAの1.2倍当量として行った。
【0072】
その結果を表5に示す。
【表5】

【0073】
上記のように合成したウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物それぞれ0.3gを溶媒THF(5ml)に溶解し、これにハロゲン化アルキルとしてヨードメタン(1.0ml)を添加し、室温で10時間攪拌した。その後、減圧乾燥し、クロロホルム4mlを加えて5cmシャーレに移し、3日間室温で自然乾燥させた後、更に1日減圧乾燥を行うことで、フィルム状のイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0074】
sample15のウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を用いて得たイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物のH−NMRスペクトルを図3に示す。図2において2.0ppm−3.0ppmに存在していた開始剤(NMDA)由来のプロトンピークが、図3では低磁場側にシフトしていることが確認できる。また、全てのsampleにおいて、同様のプロトンピークの低磁場側へのシフトを確認した。
【0075】
この結果から、得られたイオン性ポリウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物では、アミノ基含有PEUとヨードメタンとの反応によって、第三級アミンが第四級アンモニウムイオンになっていること、すなわちアイオノマー化していることを確認した。
【0076】
また、それぞれのフィルム状のイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物について、引っ張り試験により機械的性質を測定した。その結果を表6に示す。なお、機械的性質は、RTC−1210Aを用いて測定した。
【表6】

【0077】
また、結晶性の変化を確認するために、DSC測定を行った。その結果を表7に示す。
【表7】

【0078】
また、参考例1として、上記実施例にて合成したウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物(sample15,16,17,18)をアイオノマー化することなく、フィルム状に形成し、引っ張り試験により機械的性質を測定した。その結果を表8に示す。
【表8】

【0079】
また、参考例2として、HO−PLLA−OHの機械的性質、及び、DSC測定結果を表9に示す。なお、表9に示すデータは、「Synthesis of multiblock poly(L−lactide)−co−poly(_−caprolactone)from hydroxy−telechelic prepolymers prepared by using neodymium tetrahydroborate」Yuushou Nakayama,Shuji Okuda,Hajime Yasuda,Takeshi Shiono;Reactive&Functional Polymers,Vol.67(2007)p.798−806からの引用である。
【表9】

【0080】
表7における、アイオノマー化したイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を用いて得られたフィルムは、表9におけるHO−PLLA−OHに比較し、分子量が増大するにつれて破断点伸び及び弾性率が大幅に向上していることがわかる。また、表8に示す、アイオノマー化されていないウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、非常に柔軟なフィルムであったため、最大点伸び、破断点伸びは高いものの、弾性率はさほど向上していないことがわかる。ウレタン変性ポリウレタン樹脂組成物をアイオノマー化し、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物にすることによって、弾性率を大幅に向上させることができている。
【0081】
また、熱的性質については、分子量が増大するにつれてHO−PLLA−OHとほぼ同様の性質を備えることがうかがえる。このように、HO−PLLA−OHと同様の熱的性質を備えつつ、弾性率の優れたイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸本来の生分解性を有し、また、熱的性質を損なわずに優れた弾力性を備えている。したがって、原油等の代替材料として、日用品や産業資材等、各種プラスチック製品の製造に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン結合によって鎖延長されたポリ乳酸に第四級アンモニウムイオンが導入されてアイオノマー化されていることを特徴とするイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリ乳酸を90wt%以上含有していることを特徴とする請求項1に記載のイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
前記第四級アンモニウムイオンを5〜10wt%含有していることを特徴とする請求項1に記載のイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
アミノジオールを用いて乳酸を重合させ、第三級アミンが導入された両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程と、
前記両末端水酸基化ポリ乳酸樹脂組成物に鎖延長剤を加えて鎖延長反応を行い、ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程と、
前記ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物にハロゲン化アルキルを加え、前記第三級アミンを第四級アンモニウムイオンにすることでアイオノマー化し、イオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物を合成する工程と、
を含むことを特徴とするイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成方法。
【請求項5】
乳酸としてL−ラクチドを用いて開環重合させることを特徴とする請求項4に記載のイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成方法。
【請求項6】
鎖延長剤として、ジイソシアナートを用いることを特徴とする請求項4に記載のイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成方法。
【請求項7】
脂肪族の前記ジイソシアナートを用いることを特徴とする請求項6に記載のイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成方法。
【請求項8】
前記ハロゲン化アルキルとして、ヨードメタンを用いることを特徴とする請求項4に記載のイオン性ウレタン変性ポリ乳酸樹脂組成物の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−1529(P2011−1529A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148065(P2009−148065)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本化学会第89春季年会 2009年、社団法人 日本化学会、平成21年 3月27日−30日
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】