説明

イオン性ポリマー及びその製造方法

【課題】イオンの染み出しが起こりにくく、高いイオン伝導性を有す新規なイオン性ポリマーを提供する。
【解決手段】下記式(1)


(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1〜8のアルキレン基、R3は炭素数1〜8のアルキル基、X-はアニオン成分を示す。)で表される繰り返し単位を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性ポリマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリーやリチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスに使用される電解質材料としては、これまで主に有機系溶剤に電解質を溶解させた電解液が用いられている。しかしながら、該電解液は発火や液漏れ等の可能性があるという問題がある。
この問題を防ぐため、高分子固体電解質やゲル電解質の開発が盛んに進められているが、これらの材料においても電解質やゲルの可塑剤等の染み出しを完全に防ぐことは難しく、実用化が困難であるという問題がある。
【0003】
一方、イオン液体は常温で液体状の溶融塩で、不揮発性、不燃性でイオン伝導性を示すことから、さまざまな電気化学デバイスへの応用が期待されている液体である。例えば、イオン液体をセパレータやフィルム等に含浸させる開発が進められているが、ブリード現象などにより材料としての利便性が著しく損なわれるという問題がある。
【0004】
これら上述した技術的背景より、イオン液体の電解質としての特性を保持したまま固形化すべく、種々の高分子材料にイオン液体を封入する試みがなされている(特許文献1及び2)。例えば、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を用いて、イオン液体を封入する試みがされているが、得られた形成体では、形成体の加工工程や使用中にイオン液体の溶出による劣化が避けられず、問題となっていた。
【0005】
また、他の固形化の手法として、例えば、イオン性モノマーを重合させて得られるイオン性ポリマーが開示されている(非特許文献1)。しかしながら、このイオン性ポリマーは、ガラス転移温度が高いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−70420号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J Polym Sci Part A: Polym Chem 2005,5477-5489
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、ガラス転移温度が低く、イオン性官能基をポリマー中に固定化することで、イオンの染み出しが起こりにくく、自立膜としてイオン伝導性を示す新規なイオン性ポリマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、イオン伝導性をもつポリマーについて鋭意検討したところ、イミダゾリニウムカチオン基を有する(メタ)アクリレートと他の特定の(メタ)アクリレートとを共重合体することにより、低いガラス転移温度を有し、イオンの染み出しが起こりにくく、高いイオン伝導性を有する新規なイオン性ポリマーが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、1)本発明は、下記式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜8のアルキレン基を示し、R3は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、X-はアニオン成分を示す。)
で表される繰り返し単位と、下記式(2)、(3)及び(4)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R4、R6及びR8〜R11は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示し、R5は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、R7は、炭素数2〜8のアルキレン基を示し、R12は、炭素数4〜25の三価の炭化水素基を示し、nは1以上の整数を示す。)
で表される繰り返し単位のうち少なくとも一つとを含むイオン性ポリマーを提供するものである。
【0015】
2)また、本発明は、上記1)記載のイオン性ポリマーを含有する成形体を提供するものである。
【0016】
3)また、本発明は、下記式(5)
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜8のアルキレン基を示し、R3は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、X-はアニオン成分を示す。)
で表されるモノマーと、下記式(6)、(7)及び(8)
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、R4、R6及びR8〜R11は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示し、R5は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、R7は、炭素数2〜8のアルキレン基を示し、R12は、炭素数4〜25の三価の炭化水素基を示し、nは1以上の整数を示す。)
で表されるモノマーのうち少なくとも一つとを重合させることを特徴とする上記1)記載のイオン性ポリマーの製造方法を提供するものである。
【0021】
4)下記式(9)
【0022】
【化5】

【0023】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜8のアルキレン基を示し、R3は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、X-はジスルホニルアミノアニオンを示す。)
で表される化合物を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明のイオン性ポリマーは、低いガラス転移温度を有し、イオンの染み出しが起こりにくく、高いイオン伝導性を有し、さらにはイオン解離性部位と高い熱安定性を有する。従って、本発明のイオン性ポリマーは、キャパシタ、コンデンサ、電池等の固体電解質層、帯電防止剤等に用いられる成形体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】表1の実施例2の共重合により得られた共重合体の1H−NMRスペクトル(400MHz, アセトン−d6)を示す図である。
【図2】重合時間に対するモノマー消費率を示す図である。
【図3】得られた重合体の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】重合時間に対するモノマー消費率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のイオン性ポリマーにおいて、式(1)中、R1としては、メチル基が好ましい。
また、R2としては、炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が好ましく、好適な具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられ、メチレン基が特に好ましい。
【0027】
また、R3としては、炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられ、メチル基が特に好ましい。
【0028】
本発明のイオン性ポリマーにおいて、X-で示されるアニオン成分としては、負電荷を帯びていれば特に限定されないが、例えば、カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、ジスルホニルアミノアニオン、無機酸アニオン、ルイス酸アニオン等が挙げられ、ジスルホニルアミノアニオンが特に好ましい。
また、アニオン成分の具体例としては、Br-、AlCl4-、Al2Cl7-、NO3-、BF4-、PF6-、CH3COO-、CF3COO-、CF3SO3−、(CF3SO22-、(CF3SO23-、AsF6-、SbF6-、F(HF)n-、CF3CF2CF2CF2SO3-、(CF3CF2SO22-、CF3CF2CF2COO-等が挙げられ、融点が低く、耐熱性が高い点で、BF4-、PF6-、(CF3SO22-が好ましく、PF6-、(CF3SO22-(以下、TFSI-ともいう。)がより好ましく、(CF3SO22-が特に好ましい。
また、ジスルホニルアミノアニオンとしては、ジ(パーフルオロアルカンスルホニル)アミノアニオン、さらに、ジ(C1-6パーフルオロスルホニル)アミノアニオン、特に、ジ(トリフルオロメタンスルホニル)アミノアニオンが好ましい。
【0029】
また、式(2)〜(4)中、R4、R6及びR8〜R11としては、メチル基が好ましい。
また、R5としては、炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく、好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられ、メチル基が特に好ましい。
【0030】
また、R7としては、炭素数2〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が好ましく、好適な具体例としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられ、エチレン基が特に好ましい。
【0031】
12は、炭素数4〜25の三価の炭化水素基であるが、炭素数4〜25の三価のアルキル基が好ましい。さらに、R12としては、下記式(10)
下記式(10)
【0032】
【化6】

【0033】
(式中、R13〜R15は、独立して炭素数1〜8のアルキレン基を示し、R16は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
で表される基が好ましい。
【0034】
上記R13〜R15としては、炭素数1〜8の直鎖のアルキレン基が好ましく、好適な具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられるが、メチレン基が特に好ましい。
【0035】
上記R16としては、炭素数1〜8の直鎖のアルキル基が好ましく、好適な具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられるが、メチル基、エチル基が特に好ましい。
【0036】
また、式(3)中、nとしては、1〜200が好ましく、1〜20がより好ましい。
【0037】
前記式(1)で表される繰り返し単位、並びに前記式(2)〜(4)で表される繰り返し単位は、各々(1)1〜99モル%、(2)〜(4)99モル%〜1モル%含むことが好ましく、(1)20〜99モル%、(2)〜(4)80モル%〜1モル%含むことがより好ましく、(1)50モル%〜95モル%、(2)〜(4)5〜50モル%含むことが特に好ましい。
【0038】
本発明のイオン性ポリマーは、下記式に例示されるように、式(5)で表されるモノマーと、式(6)、(7)及び(8)で表されるモノマーのうち少なくとも一つとを重合させることにより得られる。
【0039】
【化7】

【0040】
(式中、R1〜R12、X-及びnは前記と同じ。)
【0041】
本発明の製造方法に用いられる式(5)で表されるモノマーは、以下の反応式(A)に従って製造できる。
【0042】
【化8】

【0043】
(式中、R1、R2、R3、X-は前記と同じ。Yはハロゲン原子を示す。)
【0044】
反応式(A)において、Yは、ハロゲン原子を示すが、臭素原子及び塩素原子が好ましく、臭素原子がより好ましい。
【0045】
化合物(11)と化合物(12)の反応は、触媒存在下/非存在下で行うことができるが、触媒存在下で行うのが好ましい。該触媒としては、塩基性触媒であれば良いが、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジンが好ましく、トリエチルアミン、ピリジンがより好ましい。触媒の添加量は、化合物(11)に対して1〜2等量が好ましく、1.1等量程度がより好ましい。
化合物(11)と化合物(12)の反応は、溶媒存在下/非存在下で行うことができるが、溶媒存在下で行うのが好ましい。該溶媒としては、無極性の有機溶媒が好適に用いられ、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエンがより好ましく、ジクロロメタンがさらに好ましい。溶媒の添加量は、化合物(11)に対して体積比で4〜10倍程度が好ましい。
【0046】
化合物(13)とイミダゾール化合物との反応は、溶媒存在下/非存在下で行うことができるが、溶媒非存在下で行うのが好ましい。反応の際には、重合禁止剤としてフェノール誘導体を用いることが好ましく、2,6−ジブチル−4−メチルフェノール、ジヒドロキノン、p−メトキシフェノールが好ましく、2,6−ジブチル−4−メチルフェノール、ジヒドロキノンがより好ましい。重合禁止剤の添加量は、化合物(13)に対して、0.1〜5モル%程度が好ましい。
【0047】
化合物(14)と、X-で表わされるアニオン成分とを反応させ、単離・精製することで、式(5)で表されるモノマーが得られる。この反応は、例えば水溶液中X-に相当する化合物を原則として等モル反応させることにより行われる。
【0048】
なお、上記反応式(A)で得られる式(5)で表されるモノマーのうち、下記式(9)
【0049】
【化9】

【0050】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜8のアルキレン基を示し、R3は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、X-はジスルホニルアミノアニオンを示す。)
で表される化合物は新規化合物である。
【0051】
また、本発明に用いるもう一方の原料である式(6)、(7)及び(8)で表されるモノマーは、公知の方法により得られる。
【0052】
本発明の製造方法(以下、本発明製造方法ともいう。)において、式(6)、(7)及び(8)で表されるモノマーの使用量は、式(5)で表されるモノマーに対して5モル%〜100モル%程度が好ましい。
【0053】
本発明製造方法においては、重合開始剤存在下で反応させるのが好ましい。該重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリルが挙げられ、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイルが好ましく、アゾビスイソブチロニトリルがより好ましい。重合開始剤の添加量は、式(5)で表されるモノマーと式(6)、(7)及び(8)で表されるモノマーの総量に対して0.1から5モル%程度が好ましい。
【0054】
本発明製造方法においては、溶媒存在下/非存在下で反応させることができるが、溶媒存在下で反応させるのが好ましい。該溶媒としては、反応物、及び生成物を溶解するものであれば特に限定されないが、イオン液体、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトンが好ましく、イオン液体、ジメチルホルムアミド、アセトンがより好ましく、ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう。)、イオン液体がさらに好ましい。溶媒の添加量は、式(5)で表されるモノマーと式(6)、(7)及び(8)で表されるモノマーの総量に対して0.5〜20倍程度が好ましい。
【0055】
上記溶媒のうち、イオン性ポリマーのイオン伝導性が向上する点で、イオン液体が好ましい。当該イオン液体は、カチオン成分とアニオン成分とから構成される室温で液体の溶融塩である。
当該カチオン成分としては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の金属イオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−n−へキシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン等が挙げられるが、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンが好ましい。
また、アニオン成分としては、Br-、AlCl4-、Al2Cl7-、NO3-、BF4-、PF6-、CH3COO-、CF3COO-、CF3SO3−、(CF3SO22-、(CF3SO23-、AsF6-、SbF6-、F(HF)n-、CF3CF2CF2CF2SO3-、(CF3CF2SO22-、CF3CF2CF2COO-等が挙げられるが、(CF3SO22-が好ましい。
すなわち、イオン液体としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルフォンイミド(以下、EMImTFSIともいう。)が好ましく、EMImTFSIが特に好ましい。
【0056】
また、本発明製造方法においては、重合開始剤の他に、触媒を用いてもよく、当該触媒としては、トリアルキルボラン、トリアルキルアルミニウム、ジアルキル亜鉛等が挙げられる。
【0057】
本発明製造方法においては、反応時間は、10分〜48時間が好ましく、30分〜24時間がより好ましく、30分〜3時間がさらに好ましい。反応温度は、60〜90℃が好ましく、70〜80℃がより好ましい。
【0058】
本発明において、目的のイオン性ポリマーは、再沈殿等の方法で単離・精製することができる。なお、上記製造方法により得られる本発明のイオン性ポリマーは新規化合物である。
【0059】
本発明のイオン性ポリマーの重量平均分子量としては、500〜100万が好ましく、1000〜50万がより好ましく、1000〜20万がさらに好ましい。また、Mw/Mnとしては、1〜10が好ましく、1〜5がより好ましい。
【0060】
本発明のイオン性ポリマーは、後記実施例に示すとおり、低いガラス転移温度を有し、イオンの染み出しが起こりにくく、高いイオン伝導性を有し、さらにはイオン解離性部位と高い熱安定性を有する。従って、当該イオン性ポリマーは、そのまま、或いはフィルム状に成形することにより、電解質フィルムとして、キャパシタ(リチウムイオンキャパシタ、電池二重層キャパシタ等)、コンデンサ、電池(リチウムイオン電池等)等の固体電解質層、帯電防止剤等の広範囲な用途に適応可能であり、また、その他の透明導電性膜としての代替技術として、例えばポリチオフェン、ITO(Indium Tin Oxide),IZO(Indium Zinc Oxide)等が用いられる箇所に汎用させる事も可能なフィルム等の成形体として使用することができ、また、当該成形体を製造するために使用することができる。
【0061】
また、当該成形体には、化学安定性向上のため、酸化防止剤等を配合してもよく、機械的強度と難燃性の増大のため、無機フィラーを配合してもよく、さらに、導電性の向上のため、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性物質を配合してもよい。当該成形体において、本発明のイオン性ポリマーの含有量は、特に限定されないが、30〜100%が好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0063】
合成例1 1−[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]3−メチル−イミダゾリウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、Met−IL−TFSIという。)の合成
【0064】
【化10】

【0065】
氷浴で冷却した2−ブロモエタノール(8.0mL,110mmol)と塩化メタクリロイル(9.8mL, 100mmol)のジクロロメタン(60mL)溶液に、トリエチルアミン(15mL,110mmol)のジクロロメタン(10mL)溶液を15分かけて滴下した。室温で12時間攪拌後、反応混合物をろ過し、得られたろ液を蒸留水(100mL)で3回洗浄した。ジクロロメタン層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を除去した。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル-ヘキサン(体積比1:4))で精製し、無色液体状の2−ブロモエチルメタクリレート(17g,89.0mmol)を収率89%で得た。
【0066】
【化11】

【0067】
2−ブロモエチルメタクリレート(2.96g,15.40mmol)と2,6−ジtert−ブチル−4−メチルフェノール(20mg)を1−メチルイミダゾールに溶解後、40℃で48時間攪拌した。得られた粗生成物をジエチルエーテルを用いて洗浄することで、白色固体状の1−[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]3−メチル−イミダゾリウムブロミド(以下、Met−IL−Brという)(3.96g,14.45mmol)を収率94%で得た。
【0068】
【化12】

【0069】
Met−IL−Br(3.96g,14.45mmol)の水溶液(4mL)にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI,4.40g,15.40mmol)の水溶液(4mL)を室温で加えた後、45℃で24時間攪拌した。生成物を酢酸エチル(20mL)で抽出後、有機層を水(15mL)で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を除去し、無色液体状のMet−IL−TFSI(5.28g,11.10mmol)を収率77%で得た。
Met−IL−TFSIの構造は、1H−NMR,13C−NMR,IR,元素分析により確認した。
【0070】
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ= 9.1 (s,1H), 7.6-7.9 (d, 2H), 5.6- 6.15 (d, 4H), 4.5-4.6 (t, 2H), 4.7-4.8 (t, 2H), 4.0 (3H, S), 1.8 (3H, S).
13C NMR (CDCl3): δ= 163.0, 148, 138, 124, 64, 49.62, 37.46, 19.41.
IR (KBr): 3160, 3123, 3000, 1722, 1637, 1577,1568, 1500, 1400, 1300, 1200, 1141, 1100, 950, 845, 815, 791, 742, 706, 653, 618, 571, 514, 483, 449, 423, cm-1
Elemental Analysis: Calcd for C12H15F6N3O6S2・0.5H2O: C, 29.75; H, 3.33; N, 8.67; S, 13.24; F, 23.53. Found: C, 29.43; H, 3.02; N, 8.80; S, 13.03; F, 24.29.
【0071】
実施例1〜4 Met−IL−TFSIとメチルメタクリレート(MMA)のジメチルホルムアミド(DMF)中での共重合
【0072】
【化13】

【0073】
Met−IL−TFSI(150mg,0.32mmol)とメチルメタクリレート(MMA,0.034mL.0.32mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN,0.6mg,0.0032mmol)をジメチルホルムアミド(0.21mL)に溶解した([Met−IL−TFSI]/ [MMA]=1/1)。凍結脱気法により溶存酸素を除去した後、窒素下、70℃で30分間加熱した。反応混合物を大量のメタノールに注ぎ、析出した白色沈殿をろ別し、メタノールで洗浄した。室温で減圧下乾燥させることにより白色固体の共重合体を得た(121mg)。
実施例2〜4においてはMet−IL−TFSIとメチルメタクリレートとの共重合比を表1に示すようにしたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。表1の実施例2の共重合により得られた共重合体の1H−NMRスペクトル(400MHz, アセトン-d6)を図1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例5〜7 Met−IL−TFSIとMMAの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルフォンイミド(EMImTFSI)中での共重合
【0076】
【化14】

【0077】
Met−IL−TFSI(150mg,0.32mmol)とメチルメタクリレート(MMA,0.034 mL,0.32mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN,0.6 mg,0.0032mmol)を1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルフォンイミド(EMImTFSI,129mg)に溶解した([Met−IL−TFSI]/[MMA]=1/1)。凍結脱気法により溶存酸素を除去した後、窒素下、70℃で30分間加熱した。反応混合物を大量のメタノールに注ぎ、析出した白色沈殿をろ別し、メタノールで洗浄した。室温で減圧下乾燥させることにより白色固体の共重合体を得た(110mg)。
実施例6〜7においては表2に示すようにMet−IL−TFSIとメチルメタクリレートの比としたこと以外は実施例5と同様に行った。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表2の実施例7の共重合により得られた共重合体について、DSCおよびTGにより測定したガラス転移温度Tgおよび5%熱分解温度Td-5は、それぞれ75℃および345℃であった。
【0080】
参考例1 Met−IL−TFSIのDMF中での単独重合
【0081】
【化15】

【0082】
Met−IL−TFSI(250mg,0.53mmol)とアゾビスイソブチロニトリル(AIBN,1.6mg,0.010mmol)をDMF(0.35mL)に溶解した。凍結脱気法により溶存酸素を除去した後、窒素下、70℃で2時間加熱した。反応混合物を大量のメタノールに注ぎ、析出した白色沈殿をろ別し、メタノールで洗浄した。室温で減圧下乾燥させることにより白色固体のジメチルスルホキシド,ジメチルホルムアミド, アセトニトリルおよびアセトンに可溶な重合体を得た(210mg,84%)。重合時間に対するモノマー消費率を図2に示す。また、得られた重合体の1H−NMRスペクトル(400MHz,アセトン−d6)を図3に示す。
得られた共重合体について、DSCおよびTGによりガラス転移温度Tgおよび5%熱分解温度Td-5は、177℃および345℃であった。
【0083】
参考例2 Met−IL−TFSIの1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムビストリフルオロメタンスルフォンイミド(EMImTFSI)中での単独重合
【0084】
【化16】

【0085】
Met−IL−TFSI(250mg,0.53mmol)とアゾビスイソブチロニトリル(AIBN,1.6mg,0.010mmol)を1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムビストリフルオロメタンスルフォンイミド(EMImTFSI,206mg)に溶解した。凍結脱気法により溶存酸素を除去した後、窒素下、70℃で2時間加熱した。反応混合物を大量のメタノールに注ぎ、析出した白色沈殿をろ別し、メタノールで洗浄した。室温で減圧下乾燥させることにより白色固体のジメチルスルホキシド,ジメチルホルムアミド, アセトニトリルおよびアセトンに可溶な重合体を得た(205mg,82%)。重合時間に対するモノマー消費率を図4に示す。
また、得られた重合体の1H−NMRスペクトル(400MHz, アセトン−d6)はジメチルホルムアミド中で重合して得られた重合体と同様のスペクトルを示した。
得られた共重合体について、DSCおよびTGによりガラス転移温度Tgおよび5%熱分解温度Td-5は、175℃および370℃であった。
【0086】
試験例1 イオン伝導度及びイオン抽出
Met-ILを含有する導電性樹脂のサンプルを5つ作成し、各サンプルの導電度を測定した。メチルメタクリレート(MMA)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、トリメチロールプロパン(TMPTMA)は、和光純薬工業から購入し、それぞれ水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、水素化カルシウム上から蒸留した。そして、4,4'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)は、和光純薬工業から購入し、メタノールから再結晶して精製した。
【0087】
1)フィルム調整用の型枠の作成
表面にポリテトラフルオロエチレンテープ(PTFE) (Permacel P422)を貼り付けた2枚のスライドガラスに18 mm x 55 mmの切り込みを入れた凹型のPTFEシート(厚み0.5mm)をスペーサーとして挟みフィルム調製用のPTFEの型を作成した。
【0088】
2)Met-IL/EGDMAフィルムの製造(実施例8)
Met-IL (998 mg, 2.66 mmol)、EGDMA(351 mg, 1.77 mmol)、AIBN (azobisisobutyronitrile, azobisisobutylonitrile )(10.2 mg, 0.062mmol)を混合し、PTFE製の型枠に流し込み、2Lのガラス容器に入れ容器内を窒素置換し、容器全体を70℃で4時間加熱し、Met-IL/EGDMAのフィルムサンプルを合成した。
【0089】
3)Met-IL/EGDMA/EMImTFSI(50)フィルムの製造(実施例9)
Met-IL (998 mg, 2.66 mmol)、EGDMA(351 mg, 1.77 mmol)、EMImTFSI(1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルフォンイミド)(1278 mg, 3.27 mmol)、AIBN (10.2 mg, 0.062 mmol)を混合し、PTFE製の型枠に流し込み、2Lのガラス容器に入れ容器内を窒素置換し、容器全体を70℃で4時間加熱し、Met-IL/EGDMA/EMImTFSI(50)のフィルムサンプルを合成した。
【0090】
4)Met-IL/TMPTMA/EMImTFSI(50)フィルムの製造(実施例10)
Met-IL (998 mg, 2.66 mmol)、TMPTMA(535 mg,1.77 mmol)、EMImTFSI(1546 mg, 3.95 mmol)、AIBN (13 mg, 0.080 mmol)を混合し、PTFE製の型枠に流し込み、2Lのガラス容器に入れ容器内を窒素置換し、容器全体を70℃で4時間加熱し、Met-ILTMPTMA/EMImTFSI(50)のフィルムサンプルを合成した。
【0091】
5)MMA/EGDMAフィルムの製造(比較例1)
MMA(600 mg, 6.00 mmol)、EGDMA(792 mg, 4.00 mmol)、AIBN (79 mg, 0.48 mmol) を混合し、PTFE製の型枠に流し込み、2Lのガラス容器に入れ容器内を窒素置換し、容器全体を70℃で4時間加熱し、MMA/EGDMAのフィルムサンプルを合成した。
【0092】
6)MMA/EGDMA/EMImTFSI(50)フィルムの製造(比較例2)
MMA(2144 mg, 21.4 mmol)、EGDMA(2830 mg, 14.3 mmol)、EMImTFSI(4974 mg, 12.7 mmol)、AIBN (82 mg, 0.50 mmol) を混合し、PTFE製の型枠に流し込み、2Lのガラス容器に入れ容器内を窒素置換し、容器全体を70℃で4時間加熱し、MMA/EGDMA/EMImTFSI(50)のフィルムサンプルを合成した
【0093】
7)フィルムのイオン伝導度の測定
フィルムサンプルの小片(15 mm x 10 mm x 0.5 mm)を切り出し、交流4端子法によりインピーダンスを測定し、その絶対値からイオン伝導度を求めた(HIOKI 3532-80 Chemical impedance meter, 9140 4端子プローブ, 電圧:50 mV, 測定周波数:4 Hz〜100 KHz)。
【0094】
8)イオンの抽出実験
イオン液体含有フィルムの小片(約15 mm x 7 mm)を切り出し、重量を測定後(60〜70 mg)、50 mLスクリューキャップ付きサンプル管に入れアセトン(40 mL)を加えよく振り混ぜた後室温で静置し時間経過とともに、電導率計(METTLER TOLEDO S30)を用いてサンプル管内の溶液の電導度を測定した。同一溶媒中における濃度既知のイオン液体溶液 (0.050 mmol/L 〜 2.0 mmol/L)のイオン電導度から作成した検量線を用いて、フィルムからのイオン液体の抽出量を測定した。尚、イオン液体の抽出量は、48時間通電させた条件下で測定を行っており、アセトン洗浄を行っていないフィルムの検量線を元に、アセトン洗浄後のサンプルの導電性を比較してイオン液体の溶出量を測定した。実験結果を表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
実施例8の結果からわかるように、イオン性ポリマーMet-ILを2官能アクリルEGDMAと共重合させることにより導電性が得られ、アセトン洗浄後のイオン液体の溶け出しは無かったため、導電性を長時間保持する事が出来る事が確認された。
【0097】
実施例9の結果からわかるように、イオン性ポリマーMet-ILを2官能アクリルEGDMAと共重合させ、イオン液体EMImTESIを含浸させることにより高い導電性が得られる事がわかった。アセトン洗浄後のイオン液体の溶け出しの確認から、溶出を抑制できる事がわかった。
【0098】
実施例10の結果からわかるように、イオン性ポリマーMet-ILを3官能アクリルTMPTMAと共重合させ、イオン液体EMImTESIを含浸させることにより高い導電性が得られる事がわかった。アセトン洗浄後のイオン液体の溶け出しの確認から、溶出を抑制できる事がわかった。
【0099】
比較例1の結果からわかるように、1官能のアクリルMMAと2官能のアクリルEGDMAを共重合させた結果、導電性が得られないことが確認された。
【0100】
比較例2の結果からわかるように、1官能のアクリルMMAと2官能のアクリルEGDMAを共重合させたポリマーに、イオン液体EMImTESIを含浸させることにより高い導電性が得られる事がわかった。しかし、アセトン洗浄後のイオン液体の溶け出しの確認をしたところ、15分で100%の溶け出しが確認されたため、導電性ポリマーとしての機能を維持する事が困難である事が確認された。
【0101】
以上の結果から、本発明のイオン性ポリマーを用いる事で、一定時間導電性を保持する事が可能なフィルム形成体を得ることが出来た。
【0102】
本発明の成形体フィルムは、例えば、リチウムイオンキャパシタ、電池二重層キャパシタ、コンデンサ、リチウムイオン電池等の固体電解質層等に適用することが可能であり、その他の透明導電性膜としての代替技術として、例えばポリチオフェン、ITO(International Trade Organization),IZO(Idemitsu Indium Zinc Oxid)等が用いられる箇所に使用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜8のアルキレン基を示し、R3は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、X-はアニオン成分を示す。)
で表される繰り返し単位と、下記式(2)、(3)及び(4)
【化2】

(式中、R4、R6及びR8〜R11は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示し、R5は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、R7は、炭素数2〜8のアルキレン基を示し、R12は、炭素数4〜25の三価の炭化水素基を示し、nは1以上の整数を示す。)
で表される繰り返し単位のうち少なくとも一つとを含むイオン性ポリマー。
【請求項2】
前記化学式(1)のアニオン成分X-が、ジスルホニルアミノアニオンである請求項1に記載のイオン性ポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のイオン性ポリマーを含有する成形体。
【請求項4】
電解質フィルムである請求項3に記載の成形体。
【請求項5】
下記式(5)
【化3】

(式中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜8のアルキレン基を示し、R3は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、X-はアニオン成分を示す。)
で表されるモノマーと、下記式(6)、(7)及び(8)
【化4】

(式中、R4、R6及びR8〜R11は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示し、R5は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、R7は、炭素数2〜8のアルキレン基を示し、R12は炭素数4〜25の三価の炭化水素基を示し、nは1以上の整数を示す。)
で表されるモノマーのうち少なくとも一つとを重合させることを特徴とする請求項1又は2記載のイオン性ポリマーの製造方法。
【請求項6】
下記式(9)
【化5】

(式中、R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2は、炭素数1〜8のアルキレン基を示し、R3は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、X-はジスルホニルアミノアニオンを示す。)
で表される化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−287012(P2009−287012A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93909(P2009−93909)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】