説明

イオン性化合物の製造方法

【課題】 製造コストを充分に低減するとともに、より低不純物化を実現することが可能であり、しかも熱に弱いものやH体が不安定なものであっても効率的に合成することができ、より多くの化合物の製造に適用可能なイオン性化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1);


(式中、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、S、As及びSeからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表す。M及びMは、同一又は異なって、有機連結基を表す。Qは、有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、同一又は異なって、0以上の整数である。)で表されるアニオンを有するイオン性化合物の製造方法であって、該イオン性化合物の製造方法は、イオン交換樹脂を用いる工程を含む製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性化合物の製造方法に関する。より詳しくは、イオン伝導性や不揮発性、難燃性、熱的安定性等に優れた性能を有するイオン性化合物を効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性化合物とは、カチオン及びアニオンにより構成される化合物よりなるものであり、イオン伝導性や不揮発性、難燃性、熱的安定性等に優れた性能を有することから、イオン伝導性材料を構成する物質として、合成溶媒や分離・抽出溶媒等の各種溶媒の他、電解質材料等として好適に用いられている。このようなイオン性化合物から構成されるイオン伝導性材料としては、例えば、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電及び放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイス用途に特に好適に適用されており、これらでは、一般に、一対の電極とその間を満たすイオン伝導体とから電池が構成されることとなる。従来のイオン伝導体としては、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン等の有機溶媒に、過塩素酸リチウム、LiPF、LiBF、ホウフッ化テトラエチルアンモニウム、フタル酸テトラメチルアンモニウム等の電解質を溶解した電解液が使用されており、電解質が溶解することによって、カチオンとアニオンとに解離して電解液中をイオン伝導することとなる。また、固体状態でイオン伝導することができる固体電解質もイオン伝導体として使用されている。
【0003】
このようなイオン性化合物において、その製造方法としては、一般に、Ag(銀)法、炭酸法、中和法等が知られている。Ag法とは、銀塩を合成反応に用いる方法であり、例えば、下記式(1)によりジシアノアミド銀(AgDCA)を得た後、下記式(2)における1−メチル−3−ブチルピロリジウムの臭化物(MBPyBr)とジシアノアミド銀(AgDCA)との反応により、目的とするイオン性物質である1−メチル−3−ブチルピロリジウムジシアノアミド(MBPyDCA)を得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【化1】

【0005】
しかしながら、このような製法では、中間体として使用する銀が高価であるため、製造コストを充分に低減するための工夫の余地があり、また、生成物に微量の銀が混入することがあり、例えば電気化学デバイス用途において、混入した銀が性能に影響を与える可能性がある等の点において改良の余地があった。
【0006】
また炭酸法とは、炭酸塩を合成反応に用いる方法であり、例えば、(a)N−アルキルイミダゾリン類を炭酸ジメチルによってメチル化し、炭酸メチルN−アルキル−N′−メチルイミダゾリニウムを製造する四級化反応工程、及び、(b)生成した炭酸メチル N−アルキル−N′−メチルイミダゾリニウムを有機酸と反応させるアニオン交換反応工程を含むN−アルキル−N′−メチルイミダゾリニウム有機酸塩の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この手法では、下記式(3)に示すように、例えば、炭酸メチル 1−エチル−3−メチルイミダゾリニウム(EMImMeCO)と、有機酸としてフタル酸とを用いることにより、目的とするN−アルキル−N′−メチルイミダゾリニウム有機酸塩を得ることとなる。
【0007】
【化2】

【0008】
しかしながら、この手法では、反応条件として高温、高圧が必要となるため、光熱費・設備費が高くなり、また、熱に弱い生成物や、ジシアノアミド(DCA)等のH体が不安定なアニオンの場合には合成が困難であることから、このようなものであっても簡便かつ効率的に合成することができ、しかも製造コストを充分に低減できるようにするための工夫の余地があった。
【0009】
更に中和法とは、中和反応を使用してイオン性化合物を製造する方法であり、例えば、イミダゾール化合物と臭化水素酸を反応させてイミダゾリウム臭化物(EMImBr)とした後、下記式(4)に示すように、臭化物イオンを水酸化物イオンに変換可能な強塩基性イオン交換樹脂中を通過させることによりイミダゾリウム水酸化物(EMImOH)を製造し、下記式(5)に示すように、このイミダゾリウム水酸化物と、硫酸水素ナトリウム(NaHSO)との中和反応を行うことで、特定構造のイオン性化合物(EMImNaSO)を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、カチオン部のハライドを水性溶媒に溶解させた後、陰イオン交換樹脂を通すことによりヒドロキシ化合物に変換し、これに特定のアミノ酸を添加することで、特定構造の有機イオン性液体を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。このように、中和法とは、イオン交換樹脂を用いて末端官能基をヒドロキシル基に交換した後、H体と中和することで生成物を得る方法であるが、このような中和法を用い、EMImカチオンを有し、テトラゾールアニオンやトリアゾールアニオンを有するイオン性液体を合成する方法もまた、開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0010】
【化3】

【0011】
これらの中和法では、イミダゾリウム水酸化物(EMImOH)と硫酸塩又はアミノ酸とを反応することで目的のイオン性化合物を得ており、この前段階の反応(EMImBrからEMImOHへの変換反応)にイオン交換樹脂が用いられている。したがって、これらの中和法においては、イオン交換樹脂塔の他に、更に反応釜が必要であるため製造コストが高くなる。また、OH体が不安定なカチオンでは合成が困難であり、更に炭酸法と同様に、H体が不安定なアニオンでは合成が困難である。しかも、この方法では、H体、OH体のどちらかが少しでも過剰になるとその原料が不純物となってしまい、これを生成物から除くことは高度な精製を必要とする。したがって、H体、OH体が不安定なものであっても簡便かつ効率的に合成することができ、しかも製造コストを充分に低減し、更に不純物量を充分に低減できるようにするための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2004−123652号公報(第11、12、20頁)
【特許文献2】特開平10−17554号公報(第2、4、5頁)
【特許文献3】特開2004−99452号公報(第10頁)
【特許文献4】特開2004−269414号公報(第4頁)
【非特許文献1】荻原航等、外2名、「アゾールイオンのみからなる新イオン性液体(Novel Ionic Liquid Composed of Only Azole Ions)、ケミストリーレターズ(Chemistry Letters)、社団法人日本化学会、2004年、第33巻、第8号、p.1022−1023
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、製造コストを充分に低減するとともに、より低不純物化を実現することが可能であり、アニオンを含む樹脂とカチオンとをイオン交換反応させることで合成するため、不安定な中間体を経ることなく合成でき、しかも高温、高圧を必要としないイオン性化合物の製造方法であって、熱に弱いものやH体、OH体が不安定であっても効率的に合成することができ、より多くの化合物の製造に適用可能なイオン性化合物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、イオン性化合物について種々検討したところ、塩の形態とすることで揮発性がなくなって安全に取り扱うことができるものとなり、溶融塩に電解質を溶解した液体状態や、固体状態の塩によるイオン伝導体が有用であることにまず着目し、このようなイオン性化合物が特定のアニオンを有するものであると、該イオン性化合物により構成されるイオン伝導性材料が、電気化学デバイスに用いる場合に優れたイオン伝導度を有し、しかも電極等への腐食性が抑制され、経時的に安定であることを見いだした。そして、このようなイオン性化合物の製造方法において、イオン交換樹脂を用いることとすると、従来のAg法や炭酸法、中和法に比較して反応工程数や製造コストを低減することが可能となり、熱安定性の低い生成物やH体、OH体が不安定な生成物であっても効率的かつ簡便に製造することができることを見いだし、また、イオン交換樹脂を固定相として使用できるため、大量合成に適していることを見いだした。更に、このような製造方法を採用することにより、副生成物の生成が抑制され、これに起因して不純物の混入が充分に防止されるとともに、粘度を充分に低減することが可能となり、電気化学デバイスを構成するイオン伝導性材料の構成材料として好適なものを製造できることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0014】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、S、As及びSeからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表す。M及びMは、同一又は異なって、有機連結基を表す。Qは、有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、同一又は異なって、0以上の整数である。)で表されるアニオンを有するイオン性化合物の製造方法であって、上記製造方法は、イオン交換樹脂を用いるイオン性化合物の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0017】
本発明の製造方法は、上記一般式(1)で表されるアニオンを有するイオン性化合物を製造する方法である。イオン性化合物とは、カチオンとアニオンにより構成される化合物よりなるものであるが、例えば、40℃において、一定体積をもち、かつ流動性を有する液体であることが好ましく、具体的には、40℃で500mPa・s以下の液体となるものであることが好ましい。より好ましくは、200mPa・s以下、更に好ましくは、100mPa・s以下の液体である。
【0018】
上記イオン性化合物の製造方法においては、イオン交換樹脂を用いることとなるが、これにより、従来の手法に比較して反応工程数や製造コストを低減することが可能となるとともに、熱安定性の低い生成物やH体、OH体が不安定な生成物であっても効率的かつ簡便に製造することができることとなる。また、低不純物化を実現することができ、特に電気化学デバイス用途に有用なイオン性化合物を得ることが可能となる。更に、イオン交換樹脂を固定相として利用できるため、大量合成に適しており、工業的生産工程に好適に適用できることとなる。また、イオン交換樹脂は再利用して使用できるため、製造コストを更に充分に低減することが可能となる。
【0019】
上記イオン交換樹脂としては特に限定されないが、通常使用されるアニオン交換樹脂やカチオン交換樹脂を用いることができ、中でも、アニオン交換樹脂を使用することが好適である。アニオン交換樹脂としては特に限定されず、例えば、アンバーライトIRA−400−OH(商品名、オルガノ社製)等が挙げられる。
上記イオン交換樹脂としてはまた、固体であることが好ましい。これにより、アニオン(又はカチオン)を有する化合物と反応させたイオン交換樹脂に、後述する工程(II)の反応に使用する量よりも過剰のアニオン(又はカチオン)が付着していた場合であっても、これらの未反応原料は、固体である該イオン交換樹脂に付着したままであり、生成物に混入することがほとんどないことから、生成物中の不純物含有量をより充分に低減することが可能となる。
以下では、イオン交換樹脂としてアニオン交換樹脂を用いた場合について主に説明する。
【0020】
上記製造方法としては、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物と、イオン交換樹脂とを反応させる工程(工程(I))を含んでなることが好適であり、これらの製造原料としては、それぞれ1種又は2種以上を使用することができる。なお、この工程(I)により、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物が得られることとなるが、該化合物は、イオン交換樹脂と、イオン性化合物を構成するアニオン(一般式(1)で表されるアニオン)とが結合した状態であることが好適である。すなわち、上記工程(I)は、イオン交換樹脂と、イオン性化合物を構成するアニオンとを結合させる工程であることが好ましく、このような工程を含む形態は、本発明の好適な形態の1つである。
ここで、「結合」とは、共有結合、イオン結合、配位結合、分子間による結合等、分子間の相互作用によって結びついている状態を意味し、好ましくはイオン結合や配位結合等の静電気力による結合である。
また上記工程(I)としては、イオン交換樹脂を固定相とすることが好適であり、これにより、大量合成に好適な製造方法とすることが可能となる。この場合、上記工程(I)としては、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物を、イオン交換樹脂を固定相としたカラムを通過させることにより該樹脂と接触させる工程であることが好適である。
【0021】
上記工程(I)で用いられる一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物としては、下記一般式(2);
【0022】
【化5】

【0023】
(式中、Aは、水素原子、又は、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、遷移金属原子及び希土類金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表す。Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、S、As及びSeから選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M及びMは、それぞれ同一若しくは異なって、有機連結基を表す。Qは、有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、0以上の整数である。)で表される化合物であることが好ましい。
【0024】
上記一般式(2)で表される化合物において、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、S、As及びSeから選ばれる少なくとも1種の元素を表すが、C、N又はSが好ましい。より好ましくは、C又はNである。Qは、有機基を表すが、水素原子、ハロゲン原子、C(2p+1−q)、OC(2p+1−q)、SO(2p+1−q)、CO(2p+1−q)、SO5−r、NO(式中、1≦p≦6、0<q≦13、0<r≦5である)等が好ましい。より好ましくは、フッ素原子、塩素原子、C(2p+1−q)、SO(2p+1−q)である。Aは、水素原子、又は、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、遷移金属原子及び希土類金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表すが、Na、Ag、Li、Mg、K、Ca又はHgであることが好ましい。M及びMは、それぞれ同一若しくは異なって、有機連結基を表すが、それぞれ独立に、−S−、−O−、−SO−及び−CO−から選ばれる連結基であり、好ましくは、−SO−、−CO−である。また、aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、0以上の整数であるが、a、d及びeは、元素Xの価数によって決まることになり、例えば、XがSの場合、a=1、d=0、e=0となり、XがNの場合、(1)a=2、d=0、e=0、(2)a=1、d=1、e=0、又は、(3)a=1、d=0、e=1のいずれかとなる。また、b及びcは、0であることが好適である。
【0025】
上記工程(I)において、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物のモル数をaとし、イオン交換樹脂のモル数をbとすると、反応モル比(a/b)としては、100/1〜0.1/1であることが好適である。アニオンを有する化合物が0.1モル未満であると、イオン交換樹脂が過剰となり過ぎて効率的に生成物を得られないおそれがある。100モルを超えると、アニオンを有する化合物が過剰となり過ぎて更に収率の向上を期待することができないおそれがある。より好ましくは、30/1〜1/1である。
【0026】
上記工程(I)の反応条件としては、製造原料や他の反応条件等により適宜設定することができるが、反応温度としては、−20〜200℃が好ましく、0〜100℃がより好ましく、10〜60℃が更に好ましい。反応圧力としては、1×10〜1×10Paが好ましく、1×10〜1×10Paがより好ましく、1×10〜1×10Paが更に好ましい。反応時間としては、200時間以下が好ましく、48時間以下がより好ましく、24時間以下が更に好ましい。
【0027】
上記製造方法としてはまた、上記工程(I)で得られる一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物と、カチオンを有する化合物とを反応させる工程(工程(II))を含むことが好ましく、これにより、イオン性化合物における一般式(1)で表されるアニオンの構造をイオン性化合物に要求させる性能等に応じて適宜設定することが可能となる。カチオンとしては、オニウムカチオンであることが好適であり、この場合、本発明の製造方法により得られるイオン性化合物は、上記一般式(1)で表されるアニオンとオニウムカチオンとを有する形態となるが、このように上記イオン性化合物が、更に、オニウムカチオンを有する形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。ここで、オニウムカチオンとは、O、N、S、P等の非金属原子又は半金属原子のカチオンを有する有機基を意味する。
【0028】
上記工程(II)において、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物と、カチオンを有する化合物との反応工程としては、イオン交換樹脂の存在下で行うことが好適であるが、該反応としては、イオン交換反応や中和反応であることが好ましい。中でも、イオン交換反応であることが好適である。このように一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物と、カチオンを有する化合物とをイオン交換樹脂を用いてイオン交換反応させる工程を含んでなる形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。なお、イオン交換反応とは、2つ以上の反応物において、それらの構成要素であるカチオン又はアニオンを交換する過程を含む反応を意味し、中和反応とは、酸と塩基とがその性質を相互に打ち消し合う化学過程を含む反応を意味する。
【0029】
上記工程(II)における反応工程としては、上記工程(I)が、上述したようにイオン交換樹脂とイオン性化合物を構成するアニオンとを結合させる工程である場合には、イオン交換樹脂とアニオンとが結合した状態のものに、カチオンを有する化合物を反応させればよく、これにより、イオン性化合物が製造されることとなる。このように上記工程(I)においてイオン交換樹脂を目的生成物のアニオンと結合させることにより、短段階でかつ不純物量の少ないイオン性化合物を製造することが可能となる。一般に中和法では、前段階として、イオン交換樹脂を用いて、カチオンを有する化合物が持つ官能基をヒドロキシル基に交換する必要があり、その後、該カチオンを有する化合物を、アニオンを有する化合物と中和させることにより生成物を得ることとなる。なお、このような手法では、カチオンを樹脂に結合することはなく、カウンターアニオンであるBr等の官能基をヒドロキシル基に変換することとしている。一方、本発明の好適な製造方法では、イオン交換樹脂を目的生成物のアニオンと結合させることにより、このようなヒドロキシル基への交換工程を必須としなくてもよいため、反応工程数が低減され、製造コストが更に充分に低減されることとなる。また、アニオンが樹脂に結合しているため、水や有機溶媒での洗浄が可能である。そのため、残存する不純物(特に金属イオン等の正電荷を帯びた不純物や、電気的性質を帯びない物質)が充分に低減され、より不純物の少ない生成物を得ることが可能となる。すなわち、上記製造方法は、イオン交換樹脂と、イオン性化合物を構成するアニオンとを結合させる工程を含む形態であることが好適である。
【0030】
上記工程(II)としては、例えば、上記工程(I)においてイオン交換樹脂を固定相としたカラムを通過させることにより反応を行った場合には、該カラム管に、カチオンを有する化合物を通液することにより反応させる工程であることが好ましい。この場合、カチオンを有する化合物を通液する前に、カラム管をイオン交換水で充分に洗浄しておくことが好ましい。
なお、イオン交換樹脂としてカチオン交換樹脂を用いる場合には、カチオンを有する化合物をカチオン交換樹脂と結合させ、該カチオン交換樹脂と一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物とをイオン交換反応させることとしてもよい。すなわち、上記製造方法は、イオン交換樹脂と、イオン性化合物を構成するカチオンとを結合させる工程を含む形態であることが好適である。
【0031】
上記工程(II)において、オニウムカチオンを有する化合物としては、オニウムカチオンのハロゲン化物、炭酸化物、アルキル硫酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩等が好適である。より好ましくは、オニウムカチオンの臭化物である。
上記オニウムカチオンとしては、例えば、下記一般式(3);
【0032】
【化6】

【0033】
(式中、Lは、C、Si、N、P、S又はOを表す。Rは、同一又は異なって、有機基であり、互いに結合していてもよい。sは、3、4又は5の整数であり、元素Lの価数によって決まる。)で表されるオニウムカチオンが好適である。なお、本発明で得られるイオン性化合物としては、このようなオニウムカチオンを1種又は2種以上含んでいてもよい。
上記一般式(3)で表されるオニウムカチオンとしては、下記一般式;
【0034】
【化7】

【0035】
(式中、Rは、上記一般式(3)と同様である。)で表されるものがより好ましい。中でも、下記(a)〜(d)のオニウムカチオンが更に好ましい。
(a)下記一般式で表される10種類の複素環オニウムカチオン。
【0036】
【化8】

【0037】
(b)下記一般式で表される5種類の不飽和オニウムカチオン。
【0038】
【化9】

【0039】
(c)下記一般式で表される9種類の飽和環オニウムカチオン。
【0040】
【化10】

【0041】
上記一般式中、R〜R12は、同一又は異なって、有機基であり、互いに結合していてもよい。
(d)Rが、C〜Cのアルキル基である鎖状オニウムカチオン。
これらのオニウムカチオンの中でも、上記一般式(3)におけるLが窒素原子であるものが特に好ましい。最も好ましくは、下記一般式;
【0042】
【化11】

【0043】
(式中、R〜R12は、上述したとおりである。)で表される6種類のオニウムカチオンや、トリエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルプロピルアンモニウム、ジエチルメチルメトキシエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウム、トリメチルヘキシルアンモニウム等の鎖状オニウムカチオン等である。
上記R〜R12の有機基としては、水素原子、フッ素原子、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基、スルフィド基や、直鎖、分岐鎖又は環状で、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含んでもよい炭素数1〜18の炭化水素基、炭化フッ素基等であることが好適である。より好ましくは、水素原子、フッ素原子、シアノ基、スルホン基、炭素数1〜8の炭化水素基、炭化フッ素基である。
【0044】
上記工程(II)において、工程(I)で得られる一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物のモル数をcとし、カチオンを有する化合物のモル数をdとすると、反応モル比(c/d)としては、100/1〜0.1/1であることが好適である。アニオンを有する化合物が0.1未満であると、カチオンを有する化合物が過剰となり過ぎて効率的に生成物を得られないおそれがあり、また、カチオンを有する化合物としてハロゲン化物を用いた場合には、イオン性化合物中にハロゲンが侵入し、電極等を被毒させるおそれがある。100を超えると、アニオンを有する化合物が過剰となり過ぎて更に収率の向上を期待することができないおそれがある。より好ましくは、20/1〜0.5/1である。
【0045】
上記工程(II)の反応条件としては、製造原料や他の反応条件等により適宜設定することができるが、反応温度としては、−20〜200℃が好ましく、0〜100℃がより好ましく、10〜60℃が更に好ましい。反応圧力としては、1×10〜1×10Paが好ましく、1×10〜1×10Paがより好ましく、1×10〜1×10Paが更に好ましい。反応時間としては、200時間以下が好ましく、48時間以下がより好ましく、24時間以下が更に好ましい。
【0046】
本発明の製造方法の特に好適な形態に関し、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物と、イオン交換樹脂とを反応させる工程(工程(I))における化学反応式の一形態を下記式(6)に示し、該工程(I)で得られる一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物と、カチオンを有する化合物とを反応させる工程(工程(II))における化学反応式の一形態を下記式(7)に示す。
【0047】
【化12】

【0048】
以下では、本発明の製造方法により得られるイオン性化合物について更に説明する。
上記イオン性化合物としては、上記一般式(1)で表されるアニオンを有することとなるが、一般式(1)において、X、Q、M、M、a、b、c、d及びeは、上述した一般式(2)と同様である。
上記一般式(1)で表されるアニオンとしては、一般式(1)においてeが0である下記一般式(4)で表されるアニオンが好ましい。中でも、ジシアノアミドアニオン(DCA)、チオシアネートアニオン、トリシアノメチドアニオン(TCM)、シアノオキシアニオン(CYO)等が、フッ素を含まず、電極等の耐腐食性に優れるため好ましい。中でも、トリシアノメチドアニオン及びジシアノアミドアニオンがより好ましく、上記一般式(1)で表されるアニオンが、トリシアノメチドアニオン及び/又はジシアノアミドアニオンである形態は、本発明の好適な形態の1つである。また、下記一般式(5)や一般式(6)で表されるもの等も好ましいアニオンである。
【0049】
【化13】

【0050】
上記イオン性化合物においては、本発明の作用効果を奏する限り、その他のアニオンを含有していてもよく、例えば、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオン(TFSI)、テトラフルオロホウ酸アニオン、酢酸や安息香酸等のモノカルボン酸、フタル酸、マレイン酸、コハク酸アニオン等のジカルボン酸アニオン、メチル硫酸、エチル硫酸等の硫酸エステルアニオン等を含有することができる。また、含フッ素無機イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ヘキサフルオロニオブ酸イオン、ヘキサフルオロタンタル酸イオン等の含フッ素無機イオン;フタル酸水素イオン、マレイン酸水素イオン、サリチル酸イオン、安息香酸イオン、アジピン酸イオン等のカルボン酸イオン;ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、パーフルオロブタンスルホン酸等のスルホン酸イオン;ホウ酸イオン、リン酸イオン等の無機オキソ酸イオン;ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドイオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、パーフルオロアルキルフルオロボレートイオン、パーフルオロアルキルフルオロホスフェートイオン、ボロジカテコレート、ボロジグリコレート、ボロジサリチレート、ボロテトラキス(トリフルオロアセテート)、ビス(オキサラト)ボレート等の四配位ホウ酸イオン等の1種又は2種以上を含有していてもよい。
【0051】
上記イオン性化合物におけるアニオンの存在量としては、イオン性化合物100質量%に対して、アニオンの由来となる化合物の含有量の下限が1質量%、上限が99.5質量%であることが好ましい。より好ましくは、下限が5質量%、上限が95質量%であり、更に好ましくは、下限が10質量%、上限が90質量%である。
【0052】
上記イオン性化合物としてはまた、カチオンを含有することとなるが、カチオンとしては特に限定されず、例えば、上述したオニウムカチオンであることが好適である。
上記一般式(1)で表されるアニオンと上述のようなオニウムカチオンとから構成される化合物は、常温で溶融した状態を安定に保つ常温溶融塩となり、このような溶融塩を含む本発明のイオン性化合物は、長期間に耐える電気化学デバイスのイオン伝導体の材料として好適なものとなる。なお、溶融塩とは、室温から80℃の温度範囲において液体状態を安定に保つことができるものである。
【0053】
上記イオン性化合物としてはまた、共役二重結合を有する窒素複素環カチオンを含んでなることが好ましい。共役二重結合を有する窒素複素環カチオンとしては、上記(a)の10種類の複素環オニウムカチオンや、上記(b)の5種類の不飽和オニウムカチオン等のうち、共役二重結合を有し、上記一般式(3)におけるLが窒素原子であるもの等が好適である。
上記イオン性化合物におけるカチオンの存在量としては、イオン性化合物中に存在するアニオン1molに対し、下限が0.5mol、上限が2.0molであることが好ましい。より好ましくは、下限が0.8mol、上限が1.2molである。
【0054】
上記イオン性化合物としてはまた、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含んでなることが好適である。この場合、本発明の製造方法で得られるイオン性化合物は、電解質を含有するものとなり、電気化学デバイスの電解液の材料として好適なものとなる。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好適であり、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好適である。より好ましくは、リチウム塩である。
【0055】
上記アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩としては、上記一般式(1)で表されるアニオンを必須とする化合物であってもよいし、それ以外の化合物であってもよい。
上記アニオンを必須とする化合物である場合には、上記一般式(1)で表されるアニオンのアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩であることが好ましく、リチウム塩であることがより好ましい。このようなリチウム塩としては、上述した好ましいアニオンのリチウム塩の他にも、LiC(CN)、LiSi(CN)、LiB(CN)、LiAl(CN)、LiP(CN)、LiP(CN)、LiAs(CN)、LiOCN、LiSCN等が好適である。
【0056】
上記アニオンを必須とする化合物以外の化合物である場合には、電解液中や高分子固体電解質中での解離定数が大きい電解質塩であることが好ましく、例えば、LiCFSO、NaCFSO、KCFSO等のトリフロロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiN(CFSO、LiN(CFCFSO等のパーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiPF、NaPF、KPF等のヘキサフロロリン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiClO、NaClO等の過塩素酸アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiBF、NaBF等のテトラフロロ硼酸塩;LiAsF、LiI、NaI、NaAsF、KI等のアルカリ金属塩が好適である。これらの中でも、溶解性やイオン伝導度の点から、LiPF、LiBF、LiAsF、パーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0057】
上記イオン性化合物としては、その他の電解質塩を含有していてもよく、例えば、過塩素酸テトラエチルアンモニウム等の過塩素酸の四級アンモニウム塩;(CNBF等のテトラフロロ硼酸の四級アンモニウム塩、(CNPF等の四級アンモニウム塩;(CHP・BF、(CP・BF等の四級ホスホニウム塩等が好適であり、溶解性やイオン伝導度の点から、四級アンモニウム塩が好適である。
上記電解質塩の存在量としては、イオン性化合物100質量%に対して、下限が0.1質量%、上限が50質量%であることが好適である。0.1質量%未満であると、イオンの絶対量が充分なものとはならず、イオン伝導度が小さくなるおそれがあり、50質量%を超えると、イオンの移動が大きく阻害されるおそれがある。より好ましい上限は30質量%である。
【0058】
上記イオン性化合物としてはまた、プロトンを含むことにより、水素電池を構成するイオン伝導体の材料として好適に用いることができるものとなる。本発明においては、解離してプロトンを発生することができる化合物を含むことにより、イオン性化合物中にプロトンが存在することとなる。
上記プロトンの存在量としては、イオン性化合物に対して、下限が0.01mol/L、上限が10mol/Lであることが好ましい。0.01mol/L未満であると、プロトンの絶対量が充分なものとはならず、プロトン伝導度が小さくなるおそれがあり、10mol/Lを超えると、プロトンの移動が大きく阻害されるおそれがある。より好ましい上限は5mol/Lである。
【0059】
上記イオン性化合物としてはまた、重合体を含むことにより、固体化して高分子固体電解質として好適に用いることができるものとなる。重合体としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のポリビニル系重合体;ポリオキシメチレン:ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル系重合体;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系重合体;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系重合体;ポリスチレン、ポリフォスファゼン類、ポリシロキサン、ポリシラン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート系重合体、アイオネン系重合体の1種又は2種以上が好適である。
上記重合体の存在量としては、イオン性化合物100重量部に対して、下限が0.1重量部、上限が5000重量部であることが好ましい。0.1重量部未満であると、固体化の効果を充分に得られないおそれがあり、5000重量部を超えると、イオン伝導度が充分とはならないおそれがある。より好ましくは、下限が1重量部、上限が1000重量部である。
【0060】
上記イオン性化合物としてはまた、有機溶媒を含むことにより、イオン伝導度がより向上することになる。有機溶媒としては、本発明の製造方法で得られるイオン性化合物における構成要素との相溶性が良好であって、誘電率が大きく、電解質塩の溶解性が高いうえに、沸点が60℃以上であり、電気化学的安定範囲が広い化合物が好適である。より好ましくは、含有水分量が低い有機溶媒(非水系溶媒)である。このような有機溶媒としては、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、ジオキサン等のエーテル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン、炭酸プロプレン、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のカルボン酸エステル類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル等のニトリル類;N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類:エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上が好適である。これらの中でも、炭酸エステル類、脂肪族エステル類、エーテル類がより好ましく、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類が更に好ましく、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類が最も好ましい。
【0061】
上記イオン性化合物としては更に、本発明の作用効果を奏する限り、上記以外の構成要素を1種又は2種以上含んでいてもよい。例えば、各種無機酸化物微粒子を含むことにより、複合電解質としても使用でき、これにより、強度、膜厚均一性が改善するばかりでなく、無機酸化物と上述した重合体間に微細な空孔が生じることになり、特に溶媒を添加した場合には空孔内にフリーの電解液が複合電解質内に分散することになり、強度改善効果を損ねることなく、逆にイオン伝導度、移動度を増加させることもできる。
上記無機酸化物微粒子としては、非電子伝導性、電気化学的に安定なものが好適であり、また、イオン伝導性を有するものがより好ましい。このような微粒子としては、α、β、γ−アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、チタン酸バリウム、酸化チタン、ハイドロタルサイト等のイオン伝導性又は非電導性セラミックス微粒子が好適である。
【0062】
上記無機酸化物微粒子の比表面積としては、高分子固体電解質中の電解質含有液の保有量を多くし、イオン伝導性や移動度を増加させるという点から、できるだけ大きいことが好ましく、例えば、BET法で5m/g以上であることが好適であり、50m/g以上がより好ましい。このような無機酸化物微粒子の結晶粒子径としては、上記イオン性化合物における他の構成要素と混合できるものであればよいが、例えば、大きさ(平均結晶粒径)としては、下限値が0.01μm、上限値が20μmであることが好ましい。より好ましい下限値は0.01μm、上限値は2μmである。
上記無機酸化物微粒子の形状としては、球形、卵形、立方体状、直方体状、円筒、棒状等の種々の形状を有するものを用いることができる。
上記無機酸化物微粒子の添加量としては、イオン性化合物100質量%に対して、上限値が50質量%であることが好ましい。50質量%を超えると、逆にイオン伝導性が充分とはならなかったり、成膜しづらくなったりするおそれがある。より好ましくは、30質量%である。また、下限値は0.1質量%であることが好適である。
また、その他、無水酢酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸等の酸無水物やその酸化合物、トリエチルアミン、メチルイミダゾール等の塩基性化合物を添加してもよい。添加量としては、イオン性化合物100質量%に対して、50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.01質量%以上、20質量%以下である。
【0063】
上記イオン性化合物にはまた、上述した塩や溶媒の他にも種々の添加剤を含有させてもよい。添加剤を加える目的は多岐にわたり、電気伝導率の向上、熱安定性の向上、水和や溶解による電極劣化の抑制、ガス発生の抑制、耐電圧の向上、濡れ性の改善等を挙げることができる。このような添加剤としては、例えば、p−ニトロフェノール、m−ニトロアセトフェノン、p−ニトロ安息香酸等のニトロ化合物、リン酸ジブチル、リン酸モノブチル、リン酸ジオクチル、オクチルホスホン酸モノオクチル、リン酸等のリン化合物、ホウ酸又はホウ酸と多価アルコール(エチレングリコール、グリセリン、マンニトール、ポリビニルアルコール等)や多糖類との錯化合物等のホウ素化合物、ニトロソ化合物、尿素化合物、ヒ素化合物、チタン化合物、ケイ酸化合物、アルミン酸化合物、硝酸及び亜硝酸化合物、2−ヒドロキシ−N−メチル安息香酸、ジ(トリ)ヒドロキシ安息香酸等の安息香酸類、グルコン酸、重クロム酸、ソルビン酸、ジカルボン酸、EDTA、フルオロカルボン酸、ピクリン酸、スベリン酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘテロポリ酸(タングステン酸、モリブデン酸)、ゲンチシン酸、ボロジゲンチシン酸、サリチル酸、N−アミノサリチル酸、ボロジプロトカクテ酸、ボロジピロカテコール、バモン酸、ボン酸、ボロジレゾルシル酸、レゾルシル酸、ボロジプロトカクエル酸、グルタル酸、ジチオカルバミン酸等の酸類、そのエステル、そのアミド及びその塩、シランカップリング剤、シリカ、アミノシリケート等のケイ素化合物、トリエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン化合物、L−アミノ酸類、ベンゾール、多価フェノール、8−オキシキノリン、ハイドロキノン、N−メチルピロカテコール、キノリン及びチオアニソール、チオクレゾール、チオ安息香酸等の硫黄化合物、ソルビトール、L−ヒスチジン等の1種又は2種以上を使用することができる。
上記添加剤の含有量は特に限定されないが、例えば、イオン性化合物100質量%に対して、下限が0.1質量%、上限が20質量%であることが好ましい。より好ましくは、下限が0.5質量%、上限が10質量%である。
【0064】
本発明の製造方法により得られるイオン性化合物としては、0℃におけるイオン伝導度が0.5mS/cm以上であることが好ましい。0.5mS/cm未満であると、本発明のイオン性化合物を用いてなるイオン伝導体が、優れたイオン伝導度を保って経時的に安定に機能することが充分にはできなくなるおそれがある。より好ましくは、2.0mS/cm以上である。
上記イオン伝導度の測定方法としては、SUS電極を用いたインピーダンスアナライザーHP4294A(商品名、東陽テクニカ社製)を用いて行う複素インピーダンス法により測定する方法が好適である。
【0065】
上記イオン性化合物の粘度としては、500mPa・s以下であることが好ましい。500mPa・sを超えると、イオン伝導度が充分に向上されたものとはならないおそれがある。より好ましくは、200mPa・s以下であり、更に好ましくは、100mPa・s以下である。
上記粘度の測定方法としては特に限定されないが、例えば、40℃において、TV−20形粘度計 コープレートタイプ(トキメック社製)を用いて測定する方法が好適である。
【0066】
本発明はまた、40℃の粘度が500mPa・s以下であるイオン性液体の製造方法であって、上記製造方法は、イオン交換樹脂と、イオン性液体を構成するアニオン又はカチオンとを結合させる工程を含むイオン性液体の製造方法でもある。
本発明は更に、下記一般式(7);
【0067】
【化14】

【0068】
(式中、Xは、ハロゲン原子、N、CN、C、S、B、O、Al、Si、P、As、Sb又はSeを表す。M3〜8は、同一又は異なって、有機連結基を表す。Y1〜3は、同一若しくは異なって、SO、SO、CO又はNOの官能基を表す。Q2〜4は、同一又は異なって、ClO、N、CN、SCN、N、NCS、NCO、SCF、S、SCH、窒素酸化物、硫黄酸化物、ハロゲン原子、アルキル基若しくは置換基を有するアルキル基、アリール基若しくは置換基を有するアリール基、又は、アミノ基若しくは置換基を有するアミノ基を表す。Q2〜4及びY1〜3は、互いに有機連結基を介して結合していてもよい。a〜l1は、同一又は異なって、0以上の整数である。)で表されるアニオン、及び/又は、下記一般式(8);
【0069】
【化15】

【0070】
(式中、X3〜6は、同一若しくは異なって、B、C、N、O、S、SO、SO、NO、P、Si、As又はAlを表し、その構造は、−X=、−X−、−X(Q)=、−X(Q)−、−X(Q)(Q)=、又は、−X(Q)(Q10)−、のいずれかである。ここで、mは、3〜6の整数である。Q5〜10は、同一若しくは異なって、ClO、N、CN、SCN、N、NCS、NCO、SCF、S、SCH、窒素酸化物、硫黄酸化物、ハロゲン原子、アルキル基若しくは置換基を有するアルキル基、アリール基若しくは置換基を有するアリール基、又は、アミノ基若しくは置換基を有するアミノ基を表す。また、Q5〜10は、互いに有機連結基を介して結合していてもよい。aは、1以上の整数である。)で表されるアニオンを有するイオン性液体の製造方法であって、上記製造方法は、イオン交換樹脂と、イオン性液体を構成するアニオン又はカチオンとを結合させる工程を含むイオン性液体の製造方法でもある。
【0071】
すなわち、本発明のイオン性液体の製造方法は、(a)40℃の粘度が500mPa・s以下であるイオン性液体、又は、(b)上記一般式(7)で表されるアニオン及び/又は上記一般式(8)で表されるアニオンを有するイオン性液体の製造方法である。なお、上記イオン性液体としては、(a)と(b)とを満たす形態であってもよく、このような形態は、本発明の好適な形態の1つである。ここで、イオン性液体とは、カチオンとアニオンとにより構成される化合物よりなるイオン性化合物のうち、液体形状のものを意味する。
このようなイオン性液体の製造方法としては、上述したイオン性化合物の製造方法と同様に、イオン交換樹脂と、イオン性液体を構成するアニオン又はカチオンとを結合させる工程を含むことが適当であるが、これにより、従来の手法に比べて反応工程数が低減され、製造コストが更に充分に低減されることとなる。その他の点についても、上述したイオン性化合物の製造方法と同様であることが好適である。また、得られるイオン性液体としては、上記(a)又は(b)を満たすものであればよく、上述したイオン性化合物と同様であることが好適である。
【0072】
上記(a)の形態のイオン性液体としては、40℃の粘度が500mPa・s以下であることが適当であるが、500mPa・sを超えると、イオン伝導度が充分に向上されたものとはならないおそれがある。より好ましくは、200mPa・s以下であり、更に好ましくは、100mPa・s以下である。
【0073】
上記(b)の形態のイオン性液体の好適な形態としては、上記一般式(7)(式中、Xは、F、Cl、Br、I、N、CN、C、S、B、O、Al、Si、P、As、Sb及びSeからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表す。M3〜8は、同一又は異なって、有機連結基を表す。Y1〜3は、同一若しくは異なって、O、SO、SO、CO又はNOを表す。Q2〜4は、同一若しくは異なって、ClO、NO、NO、NO、F、N、Cl、Br、I、CN、SCN、N、NCS、NCO、NO、C2n+1、C2n+1O、SCF、SC2n+1、C2n+1、C2n+1O、SCH、SC2n+1、アリール基、置換基を有するアリール基、NH、NR11H、又は、NR1112を表す。nは、1以上の整数である。R11及びR12は、同一又は異なって、Q2〜4と同一の条件を満たすものである。また、Q2〜4及びY1〜3は、互いに有機連結基を介して結合していてもよい。a〜lは、同一又は異なって、0以上の整数である。)で表されるアニオン、及び/又は、上記一般式(8)(式中、X3〜6は、同一又は異なって、B、C、N、O、S、SO、SO、NO、P、Si、As又はAlを表し、その構造は、−X=、−X−、−X(Q)=、−X(Q)−、−X(Q)(Q)=、又は、−X(Q)(Q10)−、のいずれかである。ここで、mは、3〜6の整数である。Q5〜10は、同一若しくは異なって、ClO、NO、NO、NO、F、N、Cl、Br、I、CN、SCN、N、NCS、NCO、NO、C2n+1、C2n+1O、SCF、SC2n+1、C2n+1、C2n+1O、SCH、SC2n+1、アリール基、置換基を有するアリール基、NH、NR11H、又は、NR1112を表す。nは、1以上の整数である。R11及びR12は、同一又は異なって、Q5〜10と同一の条件を満たすものである。また、Q5〜10は、互いに有機連結基を介して結合していてもよい。aは、1以上の整数である。)で表されるアニオンを有するイオン性液体であることが好適である。
【0074】
このような好適な形態のイオン性液体において、上記一般式(7)中のXとしては、F、Cl、Br、I、CN、C、N、B、Oが好ましく、より好ましくは、C、N、B、Oである。また、Q2〜4としては、ClO、NO、NO、NO、F、N、Cl、Br、I、CN、NO、C2n+1、C2n+1O、SCF、SC2n+1、C2n+1、C2n+1O、SCH、SC2n+1、アリール基、置換基を有するアリール基、NH、NR11H、NR1112が好ましい。更に好ましくは、ClO、NO、NO、NO、N、Cl、Br、I、CN、SCN、N、NCS、NCO、NO、C2n+1、C2n+1O、SCF、SC2n+1、C2n+1、C2n+1O、SCH、SC2n+1、アリール基又は置換基を有するアリール基である。
また上記一般式(8)中のX3〜6としては、その少なくとも1種の構造が、−X(Q)=、−X(Q)−、−X(Q)(Q)=、又は、−X(Q)(Q10)−、のいずれかであることが好適であり、また、B、C、N、O、S、SO、SO、NOであることが好ましい。また、Q5〜10としては、ClO、NO、NO、NO、F、N、Cl、Br、I、CN、N、NO、C2n+1、C2n+1O、SCF、SC2n+1、C2n+1、C2n+1O、SCH、SC2n+1、アリール基、置換基を有するアリール基、NH、NR11H、NR1112が好ましい。
【0075】
上記(b)の形態のイオン性液体の製造方法において、特に好適な形態としては、上記一般式(7)におけるQ2〜4が、同一若しくは異なって、ClO、NO、NO、NO、N、Cl、Br、I、CN、SCN、N、NCS、NCO、NO、C2n+1、C2n+1O、SCF、SC2n+1、C2n+1、C2n+1O、SCH、SC2n+1、アリール基又は置換基を有するアリール基であり、上記一般式(8)におけるX3〜6が、その少なくとも1種の構造が、−X(Q)=、−X(Q)−、−X(Q)(Q)=、又は、−X(Q)(Q10)−、のいずれかである形態である。
【0076】
本発明の製造方法で得られるイオン性化合物(イオン性液体をも含む)は、上述したような特性を発揮することができるため、様々な用途に好適に適用することが可能であり、中でも、イオン伝導性材料に用いることが好適である。すなわち、上記イオン性化合物を含んでなるイオン伝導性材料もまた、本発明の1つである。このようなイオン伝導性材料は、例えば、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電/放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスを構成するイオン伝導体の材料として特に好適なものであり、上記イオン伝導性材料を用いてなるリチウム二次電池、電解コンデンサ又は電気二重層キャパシタは、本発明の好適な実施形態である。なお、上記イオン性化合物としては、イオン伝導性材料として用いることが好ましいが、イオン伝導性材料以外の材料に用いることも可能である。
なお、イオン伝導性材料とは、電解液又は電解質用材料であって、電解液を構成する溶媒及び/又は電解質の材料(イオン伝導体用材料)として、また、固体電解質の材料(電解質用材料)として電気化学デバイスのイオン伝導体に好適に用いることができるものである。
【0077】
上記イオン伝導性材料を用いて電気化学デバイスを構成する場合、電気化学デバイスの好ましい形態としては、基本構成要素として、イオン伝導体、負極、正極、集電体、セパレータ及び容器を有するものである。
上記イオン伝導体としては、電解質と有機溶媒又は重合体との混合物が好適である。有機溶媒を用いれば、一般にこのイオン伝導体は電解液と呼ばれ、重合体を用いれば、高分子固体電解質と呼ばれるものとなる。高分子固体電解質には可塑剤として有機溶媒を含有するものも含まれる。本発明のイオン伝導性材料は、このようなイオン伝導体において、電解液における電解質や有機溶媒の代替として、また、高分子固体電解質として好適に適用することができ、本発明のイオン伝導性材料をイオン伝導体の材料として用いてなる電気化学デバイスでは、これらのうちの少なくとも1つが、本発明のイオン伝導性材料により構成されることになる。これらの中でも、電解液における有機溶媒の代替、又は、高分子固体電解質として用いることが好ましい。
【0078】
上記有機溶媒としては、本発明のイオン伝導性材料を溶解できる非プロトン性の溶媒であればよく、上述した有機溶媒と同様のものが好適である。ただし、2種類以上の混合溶媒にする場合、電解質がLiイオンを含むものである場合は、これらの有機溶媒のうち誘電率が20以上の非プロトン性溶媒と誘電率が10以下の非プロトン性溶媒からなる混合溶媒に溶解することにより電解液を調製することが好ましい。特にリチウム塩を用いる場合には、ジエチルエーテル、ジメチルカーボネート等の誘電率が10以下の非プロトン性溶媒に対する溶解度が低く単独では充分なイオン伝導度が得られず、また、逆に誘電率20以上の非プロトン性溶媒単独では溶解度は高いもののその粘度も高いため、イオンが移動しにくくなりやはり充分なイオン伝導度が得られないことになる。これらを混合すれば、適当な溶解度と移動度を確保することができ充分なイオン伝導度を得ることができる。
【0079】
上記電解質を溶解する重合体としては、上述した重合体1種又は2種以上を好適に用いることができる。これらの中でも、ポリエチレンオキシドを主鎖又は側鎖にもつ重合体又は共重合体、ポリビニリデンフロライドの単独重合体又は共重合体、メタクリル酸エステル重合体、ポリアクリロニトリルが好適である。これらの重合体に可塑剤を加える場合は、上記の非プロトン性有機溶媒を用いることができる。
【0080】
上記イオン伝導体中における電解質濃度としては、0.01mol/dm以上が好ましく、また、飽和濃度以下が好ましい。0.01mol/dm未満であると、イオン伝導度が低いため好ましくない。より好ましくは、0.1mol/dm以上、また、1.5mol/dm以下である。
【0081】
上記負極材料としては、リチウム電池の場合、リチウム金属やリチウムと他の金属との合金が好適である。また、リチウムイオン電池の場合、重合体、有機物、ピッチ等を焼成して得られたカーボンや天然黒鉛、金属酸化物等のインターカレーションと呼ばれる現象を利用した材料が好適である。電気二重層キャパシタの場合、活性炭、多孔質金属酸化物、多孔質金属、導電性重合体が好適である。
【0082】
上記正極材料としては、リチウム電池及びリチウムイオン電池の場合、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn等のリチウム含有酸化物;TiO、V、MoO等の酸化物;TiS、FeS等の硫化物;ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子が好適である。電気二重層キャパシタの場合、活性炭、多孔質金属酸化物、多孔質金属、導電性重合体が好適である。
【0083】
以下に、本発明のイオン伝導性材料を用いてなる(1)リチウム二次電池、(2)電解コンデンサ、及び、(3)電気二重層キャパシタについてより詳しく説明する。
(1)リチウム二次電池
リチウム二次電池は、正極、負極、正極と負極との間に介在するセパレータ及び本発明の電解液材料を用いてなるイオン伝導体を基本構成要素として構成されるものである。この場合、本発明のイオン伝導性材料には、電解質としてリチウム塩が含有されていることになる。このようなリチウム二次電池としては、水電解質以外のリチウム二次電池である非水電解質リチウム二次電池であることが好ましい。リチウム二次電池の一形態の断面模式図を図1に示す。このリチウム二次電池は、後述する負極活物質としてコークスを用い、正極活物質としてCoを含有する化合物を用いたものであるが、このようなリチウム二次電池おいて、充電時には、負極においてCLi→6C+Li+eの反応が起こり、負極表面で発生した電子(e)は、電解液中をイオン伝導して正極表面に移動し、正極表面では、CoO+Li+e→LiCoOの反応が起こり、負極から正極へ電流が流れることになる。放電時には、充電時の逆反応が起こり、正極から負極へ電流が流れることになる。このように、イオンによる化学反応により電気を蓄えたり、供給したりすることとなる。
【0084】
上記負極としては、負極活物質、負極用導電剤、負極用結着剤等を含む負極合剤を負極用集電体の表面に塗着して作製されるものであることが好ましい。負極合剤は、導電剤や結着剤の他にも各種添加剤を含有してもよい。
上記負極活物質としては、金属リチウム、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な材料等が好適である。上記リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な材料としては、金属リチウム;熱分解炭素;ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等のコークス;グラファイト;ガラス状炭素;フェノール樹脂、フラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化したものである有機高分子化合物焼成体;炭素繊維;活性炭素等の炭素材料;ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアセン等のポリマー;Li4/3Ti5/3、TiS等のリチウム含有遷移金属酸化物又は遷移金属硫化物;アルカリ金属と合金化するAl、Pb、Sn、Bi、Si等の金属;アルカリ金属を格子間に挿入することのできる、AlSb、MgSi、NiSi等の立方晶系の金属間化合物や、Li3−fN(G:遷移金属)等のリチウム窒素化合物等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出できる金属リチウムや炭素材料がより好ましい。
【0085】
上記負極用導電剤は、電子伝導性材料であればよく、鱗片状黒鉛等の天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック;炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維;フッ化カーボン、銅、ニッケル等の金属粉末;ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、人造黒鉛、アセチレンブラック、炭素繊維がより好ましい。負極用導電剤の使用量としては、負極活物質100重量部に対して、1〜50重量部が好ましく、より好ましくは、1〜30重量部である。また、負極活物質は電子伝導性を有するため、負極用導電剤を用いなくてもよい。
【0086】
上記負極用結着剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルピロリドン及びその共重合体等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、スチレンブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルピロリドン及びその共重合体がより好ましい。
【0087】
上記負極用集電体としては、電池の内部において化学変化を起こさない電子伝導体であればよく、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、炭素、導電性樹脂、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン等を付着又は被膜させたもの等が好適である。これらの中でも、銅や銅を含む合金がより好ましい。これらは1種又は2種以上を用いることができる。また、これらの負極用集電体の表面を酸化して用いることもできる。更に、集電体表面に凹凸を付けることが望ましい。負極用集電体の形状としては、フォイル、フィルム、シート、ネット、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体等が好適である。集電体の厚さとしては、1〜500μmが好適である。
【0088】
上記正極としては、正極活物質、正極用導電剤、正極用結着剤等を含む正極合剤を正極用集電体の表面に塗着して作製されるものであることが好ましい。正極合剤は、導電剤や結着剤の他にも各種添加剤を含有してもよい。
上記正極活物質としては、金属Li、LiCoO 、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1−y、LiCo1−y、LiNi1−y、LiMn、LiMn2−y;MnO、V、Cr(g及びhは、1以上の整数)等のリチウムを含まない酸化物等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
上記Jは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb及びBから選ばれた少なくとも1種の元素を表す。また、xは、0≦x≦1.2であり、yは、0≦y≦0.9であり、zは、2.0≦z≦2.3であり、xは、電池の充放電により増減することとなる。また、正極活物質としては、遷移金属カルコゲン化物、リチウムを含んでいてもよいバナジウム酸化物やニオブ酸化物、共役系ポリマーからなる有機導電性物質、シェブレル相化合物等を用いてもよい。正極活物質粒子の平均粒径としては、1〜30μmであることが好ましい。
【0089】
上記正極用導電剤としては、用いる正極活物質の充放電電位において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であればよく、上述した負極用導電剤と同様のもの;アルミニウム、銀等の金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー;酸化チタン等の導電性金属酸化物等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、人造黒鉛、アセチレンブラック、ニッケル粉末がより好ましい。正極用導電剤の使用量としては、正極活物質100重量部に対して、1〜50重量部が好ましく、より好ましくは、1〜30重量部である。カーボンブラックやグラファイトを用いる場合には、正極活物質100重量部に対して2〜15重量部とすることが好ましい。
【0090】
上記正極用結着剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよく、上述した負極用結着剤におけるスチレンブタジエンゴム以外のものや、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンがより好ましい。
【0091】
上記正極用集電体としては、用いる正極活物質の充放電電位において化学変化を起こさない電子伝導体であればよく、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン、炭素、導電性樹脂、アルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、チタン等を付着又は被膜させたもの等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金が好ましい。また、これらの正極用集電体の表面を酸化して用いることもできる。更に、集電体表面に凹凸を付けることが望ましい。正極用集電体の形状及び厚さとしては、上述した負極集電体と同様である。
【0092】
上記セパレータは、大きなイオン透過度と、所定の機械的強度を有する絶縁性の微多孔性薄膜であることが好ましく、一定温度以上で孔を閉塞し、抵抗をあげる機能を有するものであることが好ましい。材質としては、耐有機溶剤性と疎水性の点から、ポリエチレン、ポリプロピレン等ポリオレフィン系ポリマーの多孔性合成樹脂フィルム、ポリプロピレン、フッ素化ポリオレフィン等の有機材料からなる織布もしくは不織布、ガラス繊維、無機材料からなる織布もしくは不織布等が好適である。セパレータが有する細孔の孔径としては、電極から脱離した正極活物質や負極活物質、結着剤、導電剤が透過しない範囲であることが好ましく、0.01〜1μmであることが好ましい。セパレータの厚さとしては、5〜300μm、であることが好ましく、より好ましくは、10〜50μmである。また、空隙率としては、30〜80%であることが好ましい。
また、セパレータの表面は予めコロナ放電処理、プラズマ放電処理、その他界面活性剤を用いた湿式処理により、その疎水性が低減するように改質しておくことが好ましい。これによりセパレータの表面及び空孔内部の濡れ性が向上し、電池の内部抵抗の増加を極力抑制することが可能となる。
【0093】
上記リチウム二次電池としては、ポリマー材料に、電解液を保持させたゲルを正極合剤又は負極合剤に含ませたり、電解液を保持するポリマー材料からなる多孔性のセパレータを正極又は負極と一体化することで構成されるものであってもよい。上記ポリマー材料としては、電解液を保持できるものであればよく、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体等が好ましい。
上記リチウム二次電池の形状としては、コイン形、ボタン形、シート形、積層形、円筒形、偏平形、角形、電気自動車等に用いる大形等が挙げられる。
【0094】
(2)電解コンデンサ
電解コンデンサは、陽極箔、陰極箔、陽極箔と陰極箔との間に挟まれたセパレータである電解紙及びリード線より構成されるコンデンサ素子と、本発明のイオン伝導性材料を用いてなるイオン伝導体と、有底筒状の外装ケースと、外装ケースを密封する封口体とを基本構成要素として構成されているものである。コンデンサ素子の一形態の斜視図を図2(a)に示す。本発明における電解コンデンサは、コンデンサ素子に本発明のイオン伝導性材料を用いてなるイオン伝導体である電解液を含浸し、該コンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収納し、外装ケースの開口部に封口体を装着するとともに、外装ケースの端部に絞り加工を施して外装ケースを密封することにより得ることができるものである。このような電解コンデンサとしては、アルミ電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサが好適である。アルミ電解コンデンサの一形態の断面模式図を図2(b)に示す。
【0095】
上記陽極箔としては、純度99%以上のアルミニウム箔を酸性溶液中で化学的又は電気化学的にエッチングして拡面処理した後、ホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム又はアジピン酸アンモニウム等の水溶液中で化成処理を行い、その表面に陽極酸化皮膜層を形成したものを用いることができる。
上記陰極箔としては、表面の一部又は全部に、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル及び窒化ニオブから選ばれる1種以上の金属窒化物、及び/又は、チタン、ジルコニウム、タンタル及びニオブから選ばれる1種以上の金属より構成される皮膜を形成したアルミニウム箔を用いることができる。
上記皮膜の形成方法としては、蒸着法、メッキ法、塗布法等を挙げることができ、皮膜を形成する部分としては、陰極箔の全面に被覆してもよいし、必要に応じて陰極箔の一部、例えば陰極箔の一面のみに金属窒化物又は金属を被覆してもよい。
【0096】
上記リード線は、陽極箔及び陰極箔に接する接続部、丸棒部及び外部接続部より構成されるものであることが好適である。このリード線は、接続部においてそれぞれステッチや超音波溶接等の手段により陽極箔及び陰極箔に電気的に接続されている。また、リード線における接続部及び丸棒部は、高純度のアルミニウムよりなるものが好適であり、外部接続部は、はんだメッキを施した銅メッキ鉄鋼線よりなるものが好適である。また、陰極箔との接続部及び丸棒部の表面の一部又は全部に、ホウ酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液又はアジピン酸アンモニウム水溶液等による陽極酸化処理によって形成した酸化アルミニウム層を形成したり、Al、SiO、ZrO等より構成されるセラミックスコーティング層等の絶縁層を形成することができる。
【0097】
上記外装ケースは、アルミニウムより構成されるものであることが好適である。
上記封口体は、リード線をそれぞれ導出する貫通孔を備え、例えば、ブチルゴム等の弾性ゴムより構成されるものであることが好適であり、ブチルゴムとしては、例えば、イソブチレンとイソプレンとの共重合体からなる生ゴムに補強剤(カーボンブラック等)、増量剤(クレイ、タルク、炭酸カルシウム等)、加工助剤(ステアリン酸、酸化亜鉛等)、加硫剤等を添加して混練した後、圧延、成型したゴム弾性体を用いることができる。加硫剤としては、アルキルフェノールホルマリン樹脂;過酸化物(ジクミルペルオキシド、1,1−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン等);キノイド(p−キノンジオキシム、p,p′−ジベンゾイルキノンジオキシム等);イオウ等を用いることができる。なお、封口体の表面をテフロン(登録商標)等の樹脂でコーティングしたり、ベークライト等の板を貼り付けたりすると、溶媒蒸気の透過性が低減するので更に好ましい。
上記セパレータとしては、通常マニラ紙やクラフト紙等の紙が用いられるが、ガラス繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン等の不織布を用いることもできる。
【0098】
上記電解コンデンサとしてはまた、ハーメチックシール構造や樹脂ケースに密閉した構造(例えば、特開平8−148384号公報に記載)のものであってもよい。ゴム封止構造のアルミニウム電解コンデンサの場合、ある程度ゴムを通して気体が透過するため、高温環境下においてはコンデンサ内部から大気中へ溶媒が揮発し、また、高温高湿環境下においては大気中からコンデンサ内部へ水分が混入するおそれがあり、これらの過酷な環境の下では、コンデンサは静電容量の減少等の好ましくない特性変化を起こすおそれがある。一方、ハーメチックシール構造や樹脂ケースに密閉した構造のコンデンサにおいては、気体の透過量が極めて小さいため、このような過酷な環境下においても安定した特性を示すこととなる。
【0099】
(3)電気二重層キャパシタ
電気二重層キャパシタは、負極、正極及び本発明のイオン伝導性材料を用いてなるイオン伝導体を基本構成要素として構成されているものであり、好ましい形態としては、対向配置した正極及び負極からなる電極素子に、イオン伝導体である電解液を含ませたものである。このような電気二重層キャパシタの一形態の断面模式図及び電極表面の拡大模式図を図3に示す。
【0100】
上記正極及び負極は、分極性電極であり、電極活物質として活性炭繊維、活性炭粒子の成形体、活性炭粒子等の活性炭と、導電剤と、バインダー物質とから構成され、薄い塗布膜、シート状又は板状の成形体として使用することが好適である。このような構成を有する電気二重層キャパシタにおいては、図3の拡大図に示されるように、イオンの物理的な吸・脱着により分極性電極と電解液との界面に生成する電気二重層に電荷が蓄えられることとなる。
【0101】
上記活性炭としては、平均細孔径が2.5nm以下であるものが好ましい。この活性炭の平均細孔径は、窒素吸着によるBET法によって測定されることが好ましい。活性炭の比表面積としては、炭素質種による単位面積あたりの静電容量(F/m)、高比表面積化に伴う嵩密度の低下等により異なるが、窒素吸着によるBET法により求めた比表面積としては、500〜2500m/gが好ましく、1000〜2000m/gがより好ましい。
【0102】
上記活性炭の製造方法としては、植物系の木材、のこくず、ヤシ殻、パルプ廃液、化石燃料系の石炭、石油重質油、又は、それらを熱分解した石炭及び石油系ピッチ、石油コークス、カーボンアエロゲル、メソフェーズカーボン、タールピッチを紡糸した繊維、合成高分子、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、イオン交換樹脂、液晶高分子、プラスチック廃棄物、廃タイヤ等の原料を炭化した後、賦活して製造する賦活法を用いることが好ましい。
【0103】
上記賦活法としては、(1)炭化された原料を高温で水蒸気、炭酸ガス、酸素、その他の酸化ガス等と接触反応させるガス賦活法、(2)炭化された原料に、塩化亜鉛、リン酸、リン酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫化カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、炭酸カルシウム、ホウ酸、硝酸等を均等に含浸させて、不活性ガス雰囲気中で加熱し、薬品の脱水及び酸化反応により活性炭を得る薬品賦活法が挙げられ、いずれを用いてもよい。
【0104】
上記賦活法により得られた活性炭は、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガス雰囲気下で、好ましくは500〜2500℃、より好ましくは700〜1500℃で熱処理することが好ましく、不要な表面官能基を除去したり、炭素の結晶性を発達させて電子伝導性を増加させてもよい。活性炭の形状としては、破砕、造粒、顆粒、繊維、フェルト、織物、シート状等が挙げられる。粒状の場合においては、電極の嵩密度の向上、内部抵抗の低減という点で、平均粒子径は30μm以下であることが好ましい。
上記電極活物質としては、活性炭以外にも上述の高比表面積を有する炭素材料を用いてもよく、例えば、カーボンナノチューブやプラズマCVDにより作製したダイヤモンド等を用いてもよい。
【0105】
上記導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、酸化ルテニウム、酸化チタン、アルミニウム、ニッケル等の金属ファイバー等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、少量で効果的に導電性が向上する点で、アセチレンブラック及びケッチェンブラックがより好ましい。導電剤の配合量としては、活性炭の嵩密度等によっても異なるが、活性炭を100質量%とすると、5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0106】
上記バインダー物質としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシルメチルセルロース、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリイミド、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。バインダー物質の配合量としては、活性炭の種類と形状等によっても異なるが、活性炭を100質量%とすると、0.5〜30質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましい。
【0107】
上記正極及び負極の成形方法としては、(1)活性炭とアセチレンブラックの混合物に、ポリテトラフルオロエチレンを添加混合した後、プレス成形して得る方法、(2)活性炭とピッチ、タール、フェノール樹脂等のバインダー物質を混合、成型した後、不活性雰囲気下で熱処理して焼結体を得る方法、(3)活性炭とバインダー物質又は活性炭のみを焼結して電極とする方法等が好適である。炭素繊維布を賦活処理して得られる活性炭繊維布を用いる場合は、バインダー物質を使用せずにそのまま電極として使用してもよい。
【0108】
上記電気二重層キャパシタには、セパレータを分極性電極に挟み込む方法や、保持手段を用いることにより分極性電極を間隔を隔てて対向させる方法等により、分極性電極が接触や短絡することを防ぐことが好ましい。セパレータとしては、使用温度域において溶融塩等と化学反応を起こさない多孔性の薄膜を用いることが好適である。セパレータの材質としては、紙、ポリプロピレン、ポリエチレン、ガラス繊維等が好適である。
上記電気二重層キャパシタの形状としては、コイン型、巻回型、角型、アルミラミネート型等が挙げられ、いずれの形状としてもよい。
【0109】
本発明によるイオン伝導性材料を用いてなるリチウム二次電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスは、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の各種用途に好適に用いることができるものである。
【発明の効果】
【0110】
本発明のイオン性化合物の製造方法は、上述のような構成であるので、製造コストを充分に低減するとともに、より低不純物化を実現することが可能であり、また、熱に弱いものや、H体、OH体が不安定なものであっても効率的に合成することができ、更に、大量合成にも適した製造方法である。このような製造方法により得られるイオン性化合物は、イオン伝導性材料として、例えば、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電及び放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスに好適に適用することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0111】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0112】
実施例1
アンバーライトIRA−400−OH(商品名、オルガノ社製)(40ml)をカラム管に充填し、ここに、ジシアノアミドのナトリウム塩(NaDCA)5%水溶液(75ml)を1時間かけてゆっくりと通液した。NaDCAの通液を終了後、イオン交換水(200ml)を1時間かけてカラム管に通液し、カラム中の樹脂を洗浄した。洗浄後、カラム管に、エチルメチルイミダゾリウムブロマイド(EMImBr)(1.5g)の1%水溶液(150ml)を2時間かけてゆっくりと通液した。得られた液を集め、エバポレーターで濃縮し、生成物エチルメチルイミダゾリウムジシアノアミド(EMImDCA)を得た(収率91%)。このイオン性化合物を分析したところ、40℃粘度16Pa・s、塩素イオン濃度3ppmであった。
【0113】
実施例2
アンバーライトIRA−400−OH(商品名、オルガノ社製)(40ml)をカラム管に充填し、ここに、トリシアノメチドのナトリウム塩(NaTCM)5%水溶液(75ml)を1時間かけてゆっくりと通液した。NaTCMの通液を終了後、イオン交換水(200ml)を1時間かけてカラム管に通液し、カラム中の樹脂を洗浄した。洗浄後、カラム管に、エチルメチルイミダゾリウムブロマイド(EMImBr)(1.0g)の1%水溶液(150ml)を2時間かけてゆっくりと通液した。得られた液を集め、エバポレーターで濃縮し、生成物エチルメチルイミダゾリウムトリシアノメチド(EMImTCM)を得た(収率91%)。このイオン性化合物を分析したところ、40℃粘度16Pa・s、塩素イオン濃度3ppmであった。
【0114】
実施例3
アンバーライトIRA−400−OH(商品名、オルガノ社製)(40ml)をカラム管に充填し、ここに、4,5−ジシアノトリアゾレートのナトリウム塩(NaDCTA)5%水溶液(150ml)を1時間かけてゆっくりと通液した。NaDCTAの通液を終了後、イオン交換水(200ml)を1時間かけてカラム管に通液し、カラム中の樹脂を洗浄した。洗浄後、カラム管に、エチルメチルイミダゾリウムブロマイド(EMImBr)(1.5g)の1%水溶液(150ml)を2時間かけてゆっくりと通液した。得られた液を集め、エバポレーターで濃縮し、生成物エチルメチルイミダゾリウム(4,5−ジシアノトリアゾレート)(EMImDCTA)を得た(収率91%)。このイオン性化合物を分析したところ、塩素イオン濃度は3ppmであった。
【0115】
比較例1
AgNO18.6g(0.11mol(モル))をイオン交換水100mlに溶解し、ここにNaDCA10.2g(0.10mmol)を50mlのイオン交換水に溶解させたものを1時間かけて滴下した。2時間攪拌後、得られた白色固体(AgDCA)をろ別し、更に固体をイオン交換樹脂で繰り返し洗浄した後、得られた白色固体に200mlのイオン交換樹脂を加えスラリー状にした。このスラリー液に、EMImBr14.6g(0.07mol)をイオン交換水100mlに溶解させた溶液を1時間かけて滴下した。更に1時間攪拌した後、反応液をろ過して水溶液を濃縮し、生成物EMImDCA13.5g(収率97%)を得た。
【0116】
比較例2
EMImDCAを中和法(例えば、特開平10−17554号公報、特開2004−99452号公報等参照。)で合成するため、まずはH−DCAの合成を行った。
NaDCA0.11g(1.2mmol)、アンバーリスト15DRY(商品名、オルガノ社製)0.55g、水3mlをサンプル管で混合し、2時間室温で撹拌した。攪拌後、イオン交換樹脂をろ過し、溶液を濃縮すると、白色固体を得た。この白色固体は、水やエタノール、クロロホルム等の溶媒には溶解せず、また、EMImOH水溶液と反応させてもEMImDCAはほとんど得られなかった。
【0117】
実施例1及び比較例1で得られたEMImDCAについて、不純物量を比較した。結果を表1に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
上記表中、Na、Mg、Ca、Fe及びAgの濃度については、IPC(誘導結合プラズマ発光分光分析装置、商品名「SPS4000 Plasma spectrometer」、セイコー電子工業社製)にて測定した。また、Cl、Br及びNOの濃度については、I.C(イオンクロマト分析装置、商品名「Dxi−500」、ニホンダイオネスク社製)にて測定した。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】リチウム二次電池の一形態を示す断面模式図である。
【図2】(a)は、電解コンデンサの一形態を示す斜視図であり、(b)は、アルミ電解コンデンサの一形態を示す断面模式図である。
【図3】電気二重層キャパシタの一形態を示す断面模式図及び電極表面の拡大模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】

(式中、Xは、B、C、N、O、Al、Si、P、S、As及びSeからなる群より選択される少なくとも1種の元素を表す。M及びMは、同一又は異なって、有機連結基を表す。Qは、有機基を表す。aは、1以上の整数であり、b、c、d及びeは、同一又は異なって、0以上の整数である。)で表されるアニオンを有するイオン性化合物の製造方法であって、
該製造方法は、イオン交換樹脂を用いることを特徴とするイオン性化合物の製造方法。
【請求項2】
前記イオン性化合物は、更に、オニウムカチオンを有することを特徴とする請求項1に記載のイオン性化合物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるアニオンは、トリシアノメチドアニオン及び/又はジシアノアミドアニオンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン性化合物の製造方法。
【請求項4】
前記製造方法は、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物と、カチオンを有する化合物とをイオン交換樹脂を用いてイオン交換反応させる工程を含んでなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のイオン性化合物の製造方法。
【請求項5】
40℃の粘度が500mPa・s以下であるイオン性液体の製造方法であって、
該製造方法は、イオン交換樹脂と、イオン性液体を構成するアニオン又はカチオンとを結合させる工程を含むことを特徴とするイオン性液体の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(7);
【化2】

(式中、Xは、ハロゲン原子、N、CN、C、S、B、O、Al、Si、P、As、Sb又はSeを表す。M3〜8は、同一又は異なって、有機連結基を表す。Y1〜3は、同一若しくは異なって、SO、SO、CO又はNOの官能基を表す。Q2〜4は、同一又は異なって、ClO、N、CN、SCN、N、NCS、NCO、SCF、S、SCH、窒素酸化物、硫黄酸化物、ハロゲン原子、アルキル基若しくは置換基を有するアルキル基、アリール基若しくは置換基を有するアリール基、又は、アミノ基若しくは置換基を有するアミノ基を表す。Q2〜4及びY1〜3は、互いに有機連結基を介して結合していてもよい。a〜l1は、同一又は異なって、0以上の整数である。)で表されるアニオン、及び/又は、下記一般式(8);
【化3】

(式中、X3〜6は、同一若しくは異なって、B、C、N、O、S、SO、SO、NO、P、Si、As又はAlを表し、その構造は、−X=、−X−、−X(Q)=、−X(Q)−、−X(Q)(Q)=、又は、−X(Q)(Q10)−、のいずれかである。ここで、mは、3〜6の整数である。Q5〜10は、同一若しくは異なって、ClO、N、CN、SCN、N、NCS、NCO、SCF、S、SCH、窒素酸化物、硫黄酸化物、ハロゲン原子、アルキル基若しくは置換基を有するアルキル基、アリール基若しくは置換基を有するアリール基、又は、アミノ基若しくは置換基を有するアミノ基を表す。また、Q5〜10は、互いに有機連結基を介して結合していてもよい。aは、1以上の整数である。)で表されるアニオンを有するイオン性液体の製造方法であって、
該製造方法は、イオン交換樹脂と、イオン性液体を構成するアニオン又はカチオンとを結合させる工程を含むことを特徴とするイオン性液体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−199646(P2006−199646A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14449(P2005−14449)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】