説明

イオン性液体及びそれを使用する反応方法

アルキル化反応、ニトロ化反応、ベックマン転位反応等の触媒として有用で、空気と水に対して安定である新規な酸性イオン性液体を提供すると共に、それを使用した反応方法を提供する。
本発明は下記式(1)で表されるイオン性液体である。


(Xはハロゲン原子又はヒドロキシル基を示し、YはCFSO、BF、PF、CHCOO、CFCOO、(CFSO、(CFSO、F、Cl、Br、又はIを示し、nは2〜16の整数を示し、Rはメチル基、アリル基又はビニル基を示す。)
このイオン性液体はブレンステッド酸性又はルイス酸性を示すだけでなく、多くの有機溶媒に不溶な液体であるため、フリーデル・クラフツ反応、ニトロ化反応、ベックマン転位反応の触媒又は溶媒として有用であり、反応混合物からの分離、再使用も容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なイオン性液体及びそれを使用する反応方法又はその反応方法を使用する化合物の製造方法に関する。このイオン性液体を使用する反応には、アルキル化反応、ニトロ化反応及びベックマン転位反応がある。
【背景技術】
【0002】
近年、イオン性液体は、合成化学の分野で有望な溶媒として認知されつつあり、アルドール反応、ディールス・アルダー反応、クライゼン転位反応、ヘック反応、ベックマン反応、フリーデル・クラフト反応、バイルス・ヒルマン反応、ニトロ化反応、不斉合成反応等多くの化学反応に利用できる可能性が期待されている。
【0003】
イオン性液体は、アニオンと有機カチオンとからなる有機塩であり、百数十℃以下の融点を有し、蒸気圧がほとんどない、イオン性であるわりには粘性が低い、耐熱性であり液体温度範囲が広い、イオン導電性が高い、水不溶性とすることができる、酸性とすることができる、安定である等の特徴を有する新規な物質群であり、再利用が可能な溶剤として、触媒としてあるいは電解質として、従来の材料やシステムを根本的に改革する潜在的可能性を有しており、学術的に脚光を浴びており、産業界からも非常に期待されている(現代化学 2001年3月号 p56−62参照)。
【0004】
イオン性液体の最も重要な特徴は、カチオンとアニオンを注意深く選択することにより化学的及び物理的特性を精密に最適化することができるということであり、更には、異なる機能基によりカチオン、アニオン自身を改質できるということである。そして、イオン性液体については種々の化合物があることが知られているが、触媒と溶媒としての作用を有し、しかも反応系で分解せず、繰り返し使用可能なものが求められている。J.Am.Chem.Soc,2002年,124,p5962−5963では、一種のスルホン酸基で機能付与したブレンステッド酸性イオン性液体がエステル化やエーテル化反応触媒として適していることを報告している。
【0005】
しかしながら、1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウム−テトラフルオロボレート(BMImBF)や1−n−ブチル−3−メチルミミダゾリウム−ヘキサフルオロフォスフェート(BMImPF)のような良く知られたイオン性液体は、空気や水に対し安定であるが、一般的に中性であると見なされており、殆どの場合溶媒としてしか使用できない。クロロアルミネートイオン性液体は、酸性触媒としても働くが、空気や水に対して反応性を有するので、実用化の大きな障害となる。
【0006】
アルケンを使用した芳香族炭化水素のフリーデル・クラフツ・アルキレーション反応例についても、クロロアルミネートイオン性液体中で反応が進行するという報告がJ.Mol.Catal.A,2001年,171,p81−84等にある。また、Chem.Comnun.2000年,p1695−1696では、カチオン部分がn−Bu基とC−SOHがイミダゾールのN原子に結合した構造を有し、アニオン部分がCFSOであるイオン性液体(1a)と、カチオン部分がP(Ph)SOHであり、アニオン部分がp−CH−C−SOであるイオン性液体(2a)とを使用して、いくつかの反応を行っている。この反応はエステル化反応、アルコールの脱水二量化反応、ピナコール転位反応等であるが、イオン性液体(2a)が優れるとしている。
【0007】
フリーデル・クラフツ反応を利用した芳香族炭化水素のアルケンによるアルキル化反応は、化学工業において最も重要な反応の一つである。最も典型的な例としては、キシレンのスチレンによるアルキル化による1−フェニル−1−キシリルエタン(PXE)の製造がある。PXEは、感圧記録材料、可塑剤、熱媒、電気絶縁油などの溶剤として広く使用されている無色の合成油である。
【0008】
アルキルベンゼンとスチレン類のアルキル反応により得られる多環芳香族炭化水素は、相溶性、耐熱性、潤滑性、電気的性質に優れた特性を有し、可塑剤、高沸点溶剤、熱媒体、電気絶縁油、作動油、潤滑剤などの広い用途に適した合成油を与える。この合成油は、これらの用途に優れた性能を有し、好ましいものではあるが、原料となるスチレン類が極めて重合し易い特性を有するため、通常のアルキル化触媒を使用したのでは目的とするアルキルベンゼンは収率良く得られない。
【0009】
古くは、この反応は、硫酸の存在下において行われた。特開昭47−29351号公報は、触媒として70〜95%濃度の硫酸を使用し、かつ反応系中におけるスチレンの濃度を5重量%以下に、生成物の濃度を50重量%以下に保持し、30℃以下の温度で攪拌下にスチレンとキシレン又はトルエンを反応させる方法を提案している。この方法では、反応終了後の触媒除去の際、酸をNaOHで中和するために、NaSOが副生し、中和水洗の後処理に多大な費用をかける必要があるとともに、装置の腐食防止、廃水による環境汚染防止の必要がある。
【0010】
これらの問題点を克服するために、シリカ・アルミナやゼオライトなどの固体酸触媒を使用して、キシレンをスチレンでアルキル化してPXEを合成する方法が開発された。特開昭53−135959号公報は、側鎖アルキル基の炭素数1〜4のアルキルベンゼンをスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンの少なくとも1種のスチレン類でアルキル化する方法において、組成、細孔径及び比面積を制御したシリカ・アルミナ固体酸触媒層に、温度100〜200℃で液相にて、アルキルベンゼンとスチレン類を連続的に供給することによるアルキルベンゼンのアルキル化方法を提案している。この方法では、濃硫酸触媒法のような後処理問題はないが、スチレンのオリゴマー化生成物が触媒の活性点をブロックすることにより急速な触媒失活が生じるため、頻繁な触媒賦活操作が必要となる。
【0011】
Chem.Comnun.2000年,p1695−1696には、イオン性液体とスカンジウムトリフレートを触媒として使用して、芳香族化合物をアルキル化する方法が記載されている。ここで、イオン性液体としては、[emim][SbF]、[emim][BF]、[emim][OTf]や[bmim][PF]が使用されており、これらは分解してHF等の酸を発生する恐れがある。このことは、イオン性液体の再使用を困難とし、生成する酸による腐食が問題となる。更に、この反応においては、イオン性液体は触媒としてではなく、溶媒として機能しており、プロセス化に当たっては大量のイオン性液体が必要となる。なお、ここで、[emim]は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンを示し、[bmim]は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンを示す。
【0012】
フリーデル・クラフツ反応を利用した芳香族化合物のアルケンによるアルキル化反応は、化学工業において最も重要な反応の一つである。最も典型的な例としては、ベンゼンと炭素数2以上の脂肪族オレフィンを反応させて、エチルベンゼン、オクチルベンゼン等のアルキル化芳香族炭化水素の製造がある。これらのアルキル化芳香族炭化水素は、スチレン原料や界面活性剤原料として有用である。
【0013】
フリーデル・クラフツ反応を利用した芳香族化合物のアルケンによるアルキル化反応は、通常鉱酸のようなプロトン酸、AlClやBFのようなルイス酸、ゼオライト等の固体酸触媒を使用して行われることが多い。しかしながら、固体酸触媒を使用する場合を除いては、廃酸等の廃棄物が多量に発生するという問題がある。一方、固体酸触媒を使用する方法では、反応収率や触媒寿命に問題があることが多く、特にアルケンの分子量が大きい場合には問題となる。
【0014】
また、特表平8−508754号公報は、芳香族炭化水素をイオン性液体の存在下にオレフィンと反応させてアルキル化するに当たり、イオン性液体としてa)式RMX3−n(Rはアルキル基、MはAl又はGa、Xはハロゲン、nは0〜2の化合物と、b)ヒドロカルビル置換イミダゾリウムハロゲン化物、ヒドロカルビル置換ピリジニウムハロゲン化物を使用する方法を提案しているが、具体的にはエチルベンゼンの製造を教えるにとどまる。
【0015】
特開平11−199525号公報では、Sc(OTf)のような希土類元素のトリフレート化合物を触媒として芳香族化合物をアルキル化する方法が記載されており、トリフレート化合物がフリーデル・クラフツ反応触媒として有効であることを教えている。特表2001−509134号公報では、塩化アルミニウムのようなルイス酸をイオン性液体に溶解させた触媒を使用して、芳香族化合物をアルキル化する方法が記載されている。ここで、イオン性液体としては、その塩基が第四アンモニウム塩、イミダゾリン塩、ピリジニウム塩、スルホニウム塩又はホスホニウム塩が例示されている。
【0016】
一方、ニトロベンゼンに代表されるニトロ化芳香族化合物は、硫酸のような触媒の存在下に、濃硝酸と芳香族化合物を反応させることにより得られる。しかし、このような反応では多量の廃酸が生成し、環境上の問題が生じる。触媒としては、硫酸の他にルイス酸である三フッ化ホウ素や固体酸触媒が知られているが、廃触媒の処理等に問題がある。
【0017】
再使用可能な触媒として、Chem.Comnun.1996年,p469−470には、無水酢酸とゼオライトを使用するニトロ化方法が記載されているが、無水酢酸の処理等に問題がある。また、Chem.Comnun.1997年,p613−614には、ランタニド(III)トリフレート触媒を使用するニトロ化方法が記載されているが、ジクロロメタン等の有害な溶媒を使用する必要がある。
【0018】
ところで、J.Org.Chem.2001年,66,p35−40には、イオン性液体として[emim][X](ここで、emimは1−エチル−3−メチルイミダゾリウムを示し、XはCFCOO、NO、AlxCly、BF、PF、OTfを示す)を使用して芳香族化合物をニトロ化する方法を開示しているが、触媒としてのルイス酸の使用を必要とする他、ニトロ化剤として硝酸エステル又は塩を使用している。
【0019】
次に、ベックマン転位反応は、ケトオキシム又はアルドオキシムを例えば硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、弗化水素、ポリ燐酸、五塩化燐及び類似物質のような強酸で処理することにより行なわれる。例えば、硫酸又は発煙硫酸を用いる場合、転位反応後に硫酸アミド複合体が得られ、その際所望のアミドは通常のアンモニアで反応混合物を中和することによって取り出すことができ、この工程において多量の硫酸アンモニウムが副生する。
【0020】
ベックマン転位反応を用いる工業的な応用例には、シクロヘキサノンオキシムのようなケトオキシムから蛛|カプロラクタムのようなラクタムを製造する方法がある。このε−カプロラクタム等のラクタム類はナイロンの原料であり工業的に重要な材料である。ε−カプロラクタムは発煙硫酸を用いるシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位反応により工業生産されており、多量の硫安が副生するため、硫安を副生しないプロセスの開発が望まれている。
【0021】
特開平09−3041号公報では、ε−カプロラクトン等を出発原料としアンモニア、水素、水蒸気の存在下で金属酸化物触媒を用いて気相反応することで、特開平09−241236号公報では、シクロヘキサノンオキシムを出発原料とし気相でβ型ゼオライトと接触させることで、特許第3254751号公報では、シクロヘキサノンオキシムを出発原料とし高シリカゼオライト触媒を用い気相でベックマン転位させることで、硫安が副生しないプロセスを提案しているが、高温での気相反応であることや固体酸触媒の再生にもエネルギーを要するため、より低温反応が可能でリサイクルが容易にできるプロセスの開発が望まれている。
【0022】
Tetrahedron lett.2001年、42、p403−405では、ケトオキシムのベックマン転位反応において、イオン性液体であるn−ブチルピリジニウム−テトラフルオロボレートとPClを触媒として用いることにより、定量的にε−カプロラクタムを合成できることが報告されている。しかしながら、水で後処理をする際にHClが副生すること、助触媒としてPClの添加を必要とすること、触媒系の再生が困難であることから、工業的観点から十分満足できるものとは言えない。
【0023】
J.Am.Chem.Soc、2002年、124、p5962−5963では、カチオン部分がn−Bu基とC−SOHがイミダゾールのN原子に結合した構造を有し、アニオン部分がCFSOであるイオン性液体等を使用して、エステル化反応やアルコールの脱水二量化反応等の酸触媒反応が記載されているが、これらのブレンステッド酸性イオン性液体ではケトオキシムのベックマン転位反応は進行しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、フリーデル・クラフツ反応の触媒等として有用な新規なイオン性液体を提供することを目的とする。他の目的は、イオン性液体を使用するフリーデル・クラフツ反応による芳香族化合物のアルキル化反応方法を提供することを目的とする。また、他の目的は、芳香族化合物のイオン性液体を使用したニトロ化反応方法を提供することを目的とする。更に、他の目的は、イオン性液体又はその担持物を使用したケトオキシム類のベックマン転位反応方法を提供することを目的とする。他の目的は、アルキル置換芳香族化合物、ニトロ置換芳香族化合物及びラクタム類の新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
発明者らは鋭意検討し、上記のようなブレンステッド酸性イオン性液体、更に塩化チオニルと反応させれば、空気、水に対して安定である一種のルイス酸性イオン性液体に転換することができるのではないかということを考えた。そして、上記のようなブレンステッド酸性イオン性液体及びこのようにして得られたルイス酸性イオン性液体は、空気と水に対する安定性と酸性であるという特徴を同時に有しているので、合成化学における酸性触媒として有望な触媒であることが期待された。
【0026】
そこで、発明者らはこのようにして得られたイオン性液体について、フリーデル・クラフツ・アルキレーション反応、ニトロ化反応及びベックマン転位反応の触媒として利用する検討を鋭意行ったところ、いずれも優れた反応性を有し、しかも再使用可能な触媒であることを見出し、本発明を完成した。
【0027】
例えば、スチレンを用いたキシレンのアルキル化の場合、固体酸触媒を用いる場合の反応温度である100〜200℃よりかなり低い70℃でも効果的に反応し、しかも再使用可能な触媒であることを見出した。そして、反応原料と生成物のどちらもイオン性液体とは不混和なので、反応は二液相系によって進行することになり、生成物は反応後容易に分離できるという利点がある。発明者らが知る限りにおいては、これが空気と水に安定なイオン性液体を触媒として用いた初めてのアルケンによる芳香族化合物フリーデル・クラフツ・アルキル化反応例である。しかしながら、このイオン性液体のみを触媒とする場合、オレフィン類の種類によっては反応が進行しない場合があることを見出し、これを改良するため更に種々検討したところ、このイオン性液体とトリフレート化合物を併用することが有効であることを見出した。
【0028】
また、ニトロ化反応についても、良好なニトロ化が行われ、そして、反応原料と生成物のどちらもイオン性液体とは不混和なので、反応は二液相系によって進行することになり、生成物は反応後容易に分離できるという利点がある。本発明者らが知る限りにおいては、これが空気と水に安定なイオン性液体を触媒として用いた初めて硝酸による芳香族化合物のニトロ化反応例である。更に、各種ケトオキシムのベックマン転位反応についても、良好な転移反応が進行しラクタム類が生成する。発明者が知る限りにおいては、これが空気と水に安定なイオン性液体を触媒として用いた助触媒を必要としない初めてのケトオキシム類のベックマン転位反応例である。
【0029】
本発明は、下記式(1)で表されるイオン性液体を提供する。
【化1】

(Xはハロゲン原子又はヒドロキシル基を示し、YはCFSO、BF、PF、CHCOO、CFCOO、(CFSO、(CFSO、F、Cl、Br、又はIを示し、nは2〜16の整数を示し、Rはメチル基、アリル基又はビニル基を示す)
本発明において、好ましいイオン性液体は、下記式(2)で表される。
【化2】

(Xはハロゲン原子又はヒドロキシル基を示し、nは3又は4の整数を示す)
【0030】
また、本発明は、このイオン性液体の存在下に、芳香族化合物をオレフィン類と反応させることを特徴とする芳香族化合物のアルキル化方法を提供する。
また、本発明は、このイオン性液体とM(OTf)
(Mは2価又は3価の金属原子を示し、TfはSOCFを示し、mは2又は3の整数を示す)
で表されるトリフレート化合物の存在下に、芳香族化合物をオレフィン類と反応させることを特徴とする芳香族化合物のアルキル化方法を提供する。
また、本発明は、このイオン性液体の存在下に、芳香族化合物をオレフィン類と反応させる工程を含むことを特徴とするアルキル置換芳香族化合物の製造方法を提供する。
また、本発明は、このイオン性液体及び
M(OTf)
(Mは2価又は3価の金属原子を示し、TfはSOCFを示し、mは2又は3の整数を示す)
で表されるトリフレート化合物の存在下に、芳香族化合物をオレフィン類と反応させる工程を含むことを特徴とするアルキル置換芳香族化合物の製造方法を提供する。
また、本発明は、このイオン性液体の存在下に、芳香族化合物と硝酸とを反応させることを特徴とする芳香族化合物のニトロ化方法を提供する。
また、本発明は、このイオン性液体の存在下に、芳香族化合物と硝酸とを反応させる工程を含むことを特徴とするニトロ置換芳香族化合物の製造方法であり、また、本発明は、この芳香族化合物と硝酸とを反応させる工程に引き続き、得られた反応混合物からイオン性液体を含む相と芳香族化合物を含む相とを相分離させる工程、芳香族化合物を含む相からニトロ置換芳香族化合物を回収する工程、及びイオン性液体を含む相を、必要に応じて硝酸濃度を調整した上で芳香族化合物と硝酸との反応に再使用する工程を有するニトロ置換芳香族化合物の製造方法を提供する。
また、本発明は、このイオン性液体の存在下に、オキシム類をベックマン転位させることを特徴とするベックマン転位反応方法を提供する。
更に、本発明は、このイオン性液体の存在下に、ケトオキシム類をベックマン転位させる工程を含むことを特徴とするラクタム類の製造方法であり、更にまた、本発明は、このケトオキシム類をベックマン転位させる工程に引き続き、反応混合物をCOによる超臨界抽出に付す工程、抽出液からはラクタム類を回収する工程、及び抽出されずに残ったイオン性液体を、ケトオキシム類のベックマン転位反応に再使用する工程を有するラクタム類の製造方法を提供する。
【0031】
以下に本発明のイオン性液体について説明する。
本発明のイオン性液体は、前記式(1)で表される。式(1)中、Xはハロゲン原子又はヒドロキシル基であるが、好ましくは塩素原子である。YはCFSO、BF、PF、CHCOO、CFCOO、(CFSO、(CFSO、F、Cl、Br、又はIであるが、好ましくはCFSO、PF、Clであり、より好ましくはCFSOである。nは2〜16の整数であるが、好ましくは3〜8の整数であり、より好ましくは3又は4の整数である。
【0032】
中でも好ましいイオン性液体としては、下記3a、4a、3b及び4bがあり、これらは前記式(2)において、n及びXが次のものである。
3a:n=3、X=OH
4a:n=4、X=OH
3b:n=3、X=Cl(融点:219.8K±1.3K)
4b:n=4、X=Cl(融点:211.8K±2.4K)
3a及び4aはブレンステッド酸としての性質を有し、3b及び4bはルイス酸としての性質を有する。
また、同様に好ましいイオン性液体としては、下記2A及び2Bがあり、これは前記式(1)において、Rがメチル基であり、かつ、n、X及びYが次のものである。尚、この2A及び2Bはルイス酸としての性質を有する。
2A:n=2、X=Cl、Y=Cl
2B:n=2、X=Cl、Y=PF
更に、同様に好ましいイオン性液体としては、下記3Cがあり、これは前記式(1)において、Rがアリル基であり、かつ、n、X及びYが次のものである。尚、この3Cはルイス酸としての性質を有する。
3C:n=3、X=Cl、Y=CFSO
【0033】
本発明のイオン性液体は、Chem.Comnun.2000年,p1695−1696等で公知の反応を応用することにより得ることができる。
例えば、まずN−メチルイミダゾールと、1,3−プロパンスルトン又は1,4−ブタンスルトンと反応させて、イミダゾール環構成Nに(CH)n−SOが結合した両イオン性化合物を合成する。なお、nは3又は4である。次に、この両イオン性化合物と等モルのCFSOHとを反応させて、イミダゾール環に(CH)n−SOHが結合したカチオンと、CFSOで表されるアニオンとからなる上記3a又は4aのイオン性液体とする。このイオン性液体と塩化チオニルを反応させることにより上記3b又は4bのイオン性液体を得る。なお、3a又は4aのイオン性液体は、3b又は4bのイオン性液体を加水分解することによっても得られるが、平衡反応となる。他のアニオンを有するイオン性液体も、アニオン源を変更して上記と同様の方法で得ることができる。
【0034】
また、イミダゾール環構成Nに結合する(CH)n−SOがn=2及び5〜16の場合については、例えばN−メチルイミダゾールとCl−(CH)n−SOClとを反応させることによって得ることができる。更には、上記においてN−メチルイミダゾールの代わりにN−アリルイミダゾールやN−ビニルイミダゾールを用いることによって、前記式(1)におけるRがアリル基やビニル基であるイオン性液体を得ることができる。
得られたイオン性液体は、NMR測定等により同定することができる。
【0035】
このイオン性液体は、空気と水に対して安定である酸性イオン性液体であり、一種の安定した機能を有するイオン性液体であり、用途としては、アルキル化反応触媒、ニトロ化反応触媒及びベックマン転位反応触媒又はこれらの反応溶媒に限定されるものではなく、その他の多くの反応触媒、反応溶媒等に利用することができる。
【0036】
次に、本発明のイオン性液体を使用した芳香族化合物のアルキル化反応方法及びアルキル置換芳香族化合物の製造方法について説明する。なお、アルキル化はアラルキル化を含む意味で使用される。本発明のアルキル化反応には、触媒としてイオン性液体を使用する方法と、イオン性液体と共にトリフレート化合物を使用する方法とがある。まず、前者の方法について説明する。
【0037】
触媒としてイオン性液体を使用するアルキル化反応方法において、アルキル化される芳香族化合物としては、ベンゼンやアルキルベンゼン等があるが、好ましくはメチル基を1又は2個有するメチルベンゼン類であり、より好ましくはキシレンである。
アルキル化剤となるオレフィン類としては、芳香族オレフィンを挙げることができるが、ビニルベンゼン又はアルキル置換ビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物であるのがよく、好ましくはスチレン又はメチル基を1又は2個有するメチルスチレン類であり、より好ましくはスチレンである。
【0038】
このアルキル化反応で生成する化合物は、[Ar−CH(CH)]−Ar’で表されるような多環化合物であり、反応する芳香族化合物と芳香族ビニル化合物等のオレフィン類とのモル比によって異なるが、芳香族化合物1個に1〜3個の芳香族ビニル化合物等のオレフィン類が置換した化合物であることがよく、これは置換数aの異なる化合物の混合物として得られることが多い。なお、上記式において、Arは芳香族ビニル化合物からビニル基を除いた芳香族基であり、Ar’は芳香族炭化水素からa個の水素を除いた芳香族基である。なお、芳香族ビニル化合物として、α−メチルスチレンを使用すれば、上記CH(CH)はC(CHとなるように、使用する原料によってこの式は変化することは容易に理解される。
【0039】
アルキル化反応条件は目的生成物の種類等により変化するため一定ではないが、反応温度30〜100℃、反応時間0.2〜10hr程度がよい。また、芳香族化合物:オレフィン類のモル比は10:1〜1:2、好ましくは5:1〜1:1程度の範囲がよい。オレフィン類が過剰であると、芳香族ビニル化合物等のオレフィン類の単独重合体が生成しやすくなる。また、本発明のイオン性液体は触媒として作用するので、別途触媒を使用する必要はないが、所望であれば使用してもよい。イオン性液体の使用量は、反応原料である芳香族化合物とオレフィン類の合計量の0.5〜20倍(重量)、好ましくは1〜10倍程度がよい。なお、この反応では、上記イオン性液体3a、4a、3b及び4bのいずれも優れた触媒として作用するが、イオン性液体3a及び4aがより優れる作用を示すようである。
【0040】
次に、イオン性液体と共にトリフレート化合物を使用するアルキル化反応について説明する。好ましいイオン性液体としては、上記3a、4a、3b及び4bがあり、より好ましくは3b及び4bである。
【0041】
上記イオン性液体と共に使用するトリフレート化合物は、M(OTf)で表され、前記文献等で公知の化合物であり、従来アルキル化触媒又はフリーデル・クラフツ触媒として知られているものであれば、使用可能である。上記式において、Mは2又は3価の金属原子を示すが、好ましくは希土類金属であり、より好ましくはスカンジウムである。mは金属原子Mの原子価に対応する。TfはSOCFである。
【0042】
イオン性液体とトリフレート化合物の使用割合は、反応原料のオレフィン化合物の種類等によって異なるが、イオン性液体1モルに対し、トリフレート化合物0.1〜10モル、好ましくは0.2〜5モル程度の範囲がよい。
【0043】
この反応の原料として使用される芳香族化合物とオレフィン類について説明する。
原料として使用する芳香族化合物は、好ましくはベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、フルオレン又はこれらの置換体、特にこれらのアルキル置換体である。また、芳香族化合物はピリジン、キノリン等の複素環化合物又はその置換体であってもよい。より好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等のベンゼン又は炭素数1〜6の低級アルキルが1〜2個置換した低級アルキル置換ベンゼンである。
【0044】
アルキル化剤として使用するオレフィン類は、好ましくはエチレン、ブテン、オクテン、ドデセン等の炭素数2〜20の脂肪族オレフィンであるが、より好ましくは炭素数4〜15の脂肪族モノオレフィンである。また、オレフィン類はビニルベンゼン又はアルキル置換ビニルベンゼン等の芳香族オレフィンであってもよい。また、脂肪族環式オレフィン類であることも好ましい。
【0045】
このアルキル化反応で生成する化合物は、アルキル置換芳香族化合物であり、反応条件にもよるが主成分はモノアルキル置換芳香族化合物である。しかし、反応条件を調整することによりジアルキル置換芳香族炭化水素等のポリアルキル置換芳香族炭化水素又は芳香族化合物を得ることも可能である。モノアルキル置換芳香族化合物を目的とする場合は、芳香族化合物をオレフィン類に対して過剰に使用することがよい。
【0046】
このアルキル化反応条件は、目的生成物の種類等により変化するため一定ではないが、反応温度30〜100℃、反応時間0.2〜10hr程度がよい。また、芳香族化合物:オレフィン類のモル比は10:1〜1:2、好ましくは5:1〜1:1程度の範囲がよい。イオン性液体の使用量は、反応原料のオレフィン類に対して、その0.01〜1倍モル、好ましくは0.02〜0.2倍モル程度がよく、トリフレート化合物の使用量もほぼその範囲内がよい。
【0047】
次に、ニトロ化反応方法及びニトロ置換芳香族化合物の製造方法について説明する。
本発明で使用するイオン性液体は、前記式(1)、好ましくは式(2)で表される。Xは好ましくはヒドロキシル基であり、Yは好ましくはCFSO、PF、Clであり、より好ましくはCFSOであり、nは好ましくは3〜8であり、より好ましくは3又は4である。具体的には、上記3a及び4aがある。
【0048】
このイオン性液体は、ニトロ化反応の触媒及び溶媒として作用する。ニトロ化反応の原料は、芳香族化合物と硝酸である。ニトロ化反応の触媒又は溶媒としては、上記イオン性液体単独を使用することにより、その再使用が容易となる。しかし、必要により他の触媒又は溶媒を使用する場合もあり得る。
【0049】
ニトロ化反応の原料としての芳香族化合物としては、ニトロ化可能な位置の芳香族環構成炭素に置換可能な水素を有するものが使用される。好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン等の無置換の1〜3環の芳香族炭化水素、ビフェニル、ターフェニル、ジフェニルメタン等の2〜3環の芳香族炭化水素、ジフェニルケトン、ジフェニルスルホン、ジフェニルエーテル等の2〜3環の芳香族化合物、及びこれらに1〜4個のアルキル基、ハロゲン等が置換した置換芳香族化合物が挙げられる。より好ましくは、ベンゼン、モノアルキルベンゼン又はモノハロゲノベンゼンである。ここで、アルキル基としては、炭素数6以下の低級アルキルが好ましく挙げられる。
しかし、上記したように本発明はニトロ化反応に使用するイオン性液体に特徴があるものであるから、公知のニトロ化原料としての芳香族化合物に広く適用可能である。
【0050】
ニトロ化剤となる硝酸としては、50wt%以上の濃硝酸であることが好ましいが30wt%程度でも反応は進行する。取扱いの容易さ、反応性等の面からは35〜70wt%程度の硝酸であることが有利である。なお、ジニトロ化以上のポリニトロ化を目的とする場合は、より高濃度の硝酸を使用することが好ましいことは当然である。
【0051】
イオン性液体の使用量は、芳香族化合物に対して2〜30モル%、好ましくは4〜15モル%程度である。硝酸の使用量は、芳香族化合物に対して1〜5倍モル、好ましくは1〜3倍モル%程度である。
【0052】
ニトロ化反応条件は、反応原料により異なるが、ベンゼンやモノアルキルベンゼンをモノニトロ化する場合は、50〜120℃、好ましくは60〜100℃で芳香族化合物の沸点以下とすることが有利である。反応時間は、反応原料や反応温度等の条件により異なるが、1〜30hr、好ましくは2〜20hr程度が適当である。
なお、ジニトロ化以上のポリニトロ化を目的とする場合は、より高濃度の硝酸を使用し、より多量の硝酸を使用し、より高い反応温度又はより長い反応時間を採用することが好ましいことになる。
【0053】
反応初期は、硝酸を含むイオン性液体相と芳香族化合物相との2相が存在し、これを攪拌して反応を進行させる。反応が進行するとニトロ化芳香族化合物が生成して芳香族化合物相に存在すると共に、水が副生してイオン性液体相の硝酸濃度が低下する。反応終了後、攪拌を止めることにより、イオン性液体相と芳香族化合物相との2液層に分かれるので、層分離により両者を容易に分離することが可能である。なお、必要により層分離を容易にするための溶剤等を加えることも可能であるが、後処理の負荷が増える。
【0054】
層分離等によって分離された芳香族化合物相は、ニトロ置換芳香族化合物を含むのでこれを分離又は精製してニトロ置換芳香族化合物を回収する。原料芳香族化合物の反応率が100%未満のときは未反応の原料芳香族化合物が含まれるので、これは再使用することができる。原料芳香族化合物の反応率は、モノニトロ置換芳香族化合物を目的とする場合は、50〜95%程度とすることがよい。
【0055】
一方、分離されたイオン性液体相は、イオン性液体と濃度が低下した硝酸を含むが、イオン性液体の変性又は損失は殆どないので、これを再使用する。硝酸は濃度が低下したとしても、なお使用可能であれば、分離されたイオン性液体相をそのまま再使用することができる。硝酸濃度が一定値以下に低下した場合は、濃硝酸の追加、濃縮、再生等の処理を行う。
【0056】
次に、ベックマン転位反応について説明する。
本発明で使用するイオン性液体は、前記式(1)、好ましくは(2)で表される。式(1)中、Xは好ましくはハロゲン原子、より好ましくは塩素原子であり、nは好ましくは3又は4である。具体的な好ましいイオン性液体としては上記3b及び4bがある。
【0057】
本発明で使用するイオン性液体は、液体のままで使用することもできるが、イオン性液体を担持物に担持させて使用することができる。担持物に担持又は結合させる場合は、例えばTHF等の低沸点溶媒にイオン性液体を溶解させ、これに比表面積が比較的大きい担持物を浸漬することで得ることができる。この場合、必要により低沸点溶媒を除去する乾燥工程を設けることもできるが、転位反応に使用する溶媒ともなる場合はその必要は少ない。担持物に結合させる場合は、例えば、Tetrahedron Lett.26,3361(1985)に記載のように、担持物の表面をあらかじめ修飾しておき、イオン性液体と化学結合させる方法がある。なお、担持物としては固体酸性触媒等の酸性担持物や多孔質担持物があり、多孔質の固体であればいずれも使用可能である。比表面積としては10m/g以上であることが好ましい。具体的にはゼオライト、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、粘土鉱物(スメクタイトなど)、担持型ヘテロポリ酸触媒などが例示される。また、シリカ・アルミナなど固体酸触媒といわれている物や、固体塩基性触媒等も使用可能であり、固体酸触媒の場合は、イオン性液体の酸触媒効果の相乗効果も期待できる。これら固体の担持物にイオン性液体を坦持又は結合させた坦持触媒は生成物との分離が容易となるなどの利点を有する。イオン性液体の担持量は、1〜70wt%、好ましくは5〜30wt%の範囲がよい。
【0058】
原料として使用するオキシム類としては、飽和及び不飽和、置換又は非置換の炭素原子数2〜12の脂肪族ケトオキシム又はアルドオキシム又は環状ケトオキシムがあるが、好ましくは環状ケトオキシムである。オキシム類の例としては、アセトンオキシム、アセトアルドオキシム、ベンズアルドオキシム、プロパナールオキシム、ブタナールオキシム、ブタノンオキシム、ブテン−1−オンオキシム、シクロプロパノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、シクロドデカノンオキシム、シクロペンタノンオキシム、シクロドデセノンオキシム、2−フエニルシクロヘキサノンオキシム、シクロヘキセノンオキシム、2−メチル−2−ペンタノンオキシム等があるが、シクロヘキサノンオキシムが好ましい。
【0059】
本発明のベックマン転位反応では、原料のオキシムに対応する酸アミドが生成するが、環状ケトオキシムを使用した場合は、環状のラクタム類が生成する。特に、工業的に有用なラクタムはε−カプロラクタムである。
【0060】
ベックマン転位反応条件は使用するケトオキシム類や、目的生成物の種類等により変化するため一定ではないが、反応温度は0〜100℃、より好ましくは10〜80℃であり、更に好ましくは10〜50℃である。0℃未満の場合は、所望の転化率に時間を要する。また、100℃より高い温度ではイオン性液体又は担持物が反応に関与し生成物が複雑になる場合がある。反応時間は原料、反応温度によって異なり所望の転化率となるように設定することができる。通常は1min〜24hr程度がよい。ε−カプロラクタムを目的生成物とする場合は、反応温度は0〜50℃、反応時間は0.1〜10hr程度がよい。反応温度が高過ぎると、反応液が黒色となって副生物の生成が増える。
【0061】
イオン性液体の使用量は、他の条件により異なるが、通常オキシムに対して0.01〜20倍(重量)、好ましくは0.05〜10倍程度がよい。イオン性液体の使用量が、理論量である等モル量付近(0.5〜2倍モル)であっても、それより十分に少ない触媒量付近(0.05〜0.5倍モル)であっても、反応は良好に進行する。イオン性液体は、反応触媒として作用するが、イオン性液体を0.1倍モル量程度以上使用すれば、溶媒としても作用するので、格別の反応溶媒を必要としない。しかし、イオン性液体を固形の担持物として使用する場合やイオン性液体の使用量が少ないときで反応温度が低くて原料又は目的物又は両者を溶解しない場合は、反応溶媒を使用することが望ましい。この反応溶媒は、オキシム及び目的物の酸アミドを溶解する溶媒から選択される。かかる溶媒としてはベンゼン等が挙げられる他、超臨界COも使用可能である。超臨界COは、後記するように反応混合物の分離にも使用可能であるので、担持物を使用するとかの条件によっては有利なものとなる。
【0062】
この反応終了後は、反応混合物はイオン性液体を液体のまま使用した場合は目的物を溶解した溶液として回収される。なお、未反応原料や副生物を含む場合もある。そして、この反応混合物抽出等の操作により目的物である酸アミドを回収する。イオン性液体を担持又は化学結合させて使用した場合は、ろ過、蒸留等の操作により目的物である酸アミドを回収することもできる。
【0063】
望ましくは、目的物を溶解したイオン性液体は回収して再使用する。有利には、目的物を溶解したイオン性液体を、COを使用した超臨界抽出を行う。この場合、ε−カプロラクタムのような目的物が抽出され、イオン性液体は抽出されずに残る。しかし、目的物を溶解したイオン性液体が高粘度である場合が多いので、より有利にはCOと共に粘度を下げるための補助抽出溶剤を併用することである。かかる、補助抽出溶剤としては、水、エタノール、クロロホルム、四塩化炭素等の溶剤が例示されるが、クロロホルムが回収されたイオン性液体の活性を最も下げない点で好ましい。COを使用した超臨界抽出を行う場合、イオン性液体はそれ自体でもよいし、担持物であってもよい。抽出条件は、50℃、125MPaで3hr、CO使用量は25℃、0.1MPaで10〜100L、好ましくは24〜82L程度である。
かかる超臨界抽出操作を行うことにより目的物の回収と、イオン性液体の回収がなされ、イオン性液体の再使用が可能となる。
【0064】
シクロヘキサノンオキシムからε−カプロラクタムを合成する場合、シクロヘキサノンオキシム1モルに対し0.1〜2モルのイオン性液体を存在させて、10〜50℃で反応させてベックマン転位させて、98%以上を反応させることが望ましい。そして、このようにして得られた反応混合物を、COと共に粘度を下げるための補助抽出溶剤を併用して超臨界抽出してε−カプロラクタムを抽出し、抽出されずに残ったイオン性液体を再使用することが望ましい。再使用回数は、反応条件にもよるが副生物の生成を可及的に抑えれば、5回以上、好ましくは10回以上の再使用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0065】
1−メチルイミダゾールと1,4−ブタンスルトンを、1:1のモル比で攪拌しながら混合し、室温で24hr攪拌して反応させた。この際、100%の収率で白色結晶を得た。次いで、この白色結晶を粉砕したのち、エチルエーテルで数回洗浄し、洗浄された結晶とCFSOHとを1:1のモル比で混合し、60℃で24hr反応させて、式(2)においてn=4、X=OHであるイオン性液体4aを得た。次いで、このイオン性液体4aを還流状態(約80℃)で塩化チオニルを少しずつ加えて反応させて、式(2)においてn=4、X=Clであるイオン性液体4bを得た。
【0066】
イオン性液体4aからイオン性液体4bを得るより有利な方法を次に示す。
0.12molの塩化チオニルを50mlの二首フラスコに入れ、マゲネチックスタラーで攪拌しながら還流させた。還流条件下に、0.1molの上記イオン性液体4aをゆっくりと滴下し、攪拌を更に8hr継続した。反応終了後、未反応の塩化チオニルを蒸留によって除去し、粗製品となる液体を得た。この液体を冷却したのち、微量残存する塩化チオニルを除去するため、蒸留水で2回洗浄を行った。次いで、この製品を50℃で2hr、エバキュエートして、精製されたイオン性液体4bを得た。
【実施例2】
【0067】
イオン性液体3a、4a、3b及び4bを使用した。比較のために良く知られているイオン性液体であるBMImBFとBMImPFも同時に検討した。実験では、イオン性液体とp−キシレン(30mmol)及びスチレンを、磁気攪拌子を備えた10mlの試験管に仕込み、70℃で1〜5hr反応させた。スチレンのイオン性液体に対するモル比を10とし、芳香族炭化水素のスチレンに対するモル比は、9:1〜3:1とした。反応終了後、上層の有機物層を分離し、FIDガスクロマトグラフィー(島津GC−14A、ULBON HR−52キャピラリーカラム25mm×0.32mm)により分析した。
【0068】
種々の反応条件下のスチレンによるp−キシレンのフリーデル・クラフツ・アルキル化反応の結果を表1に示す。これらの全てのケースにおいて、2つの主たる生成物、すなわち、モノスチレン化物とジスチレン化物が検出された。これらはどちらも工業的に望まれている物質である。p−キシレンとスチレンをルイス酸性イオン性液体である3b又は4bを使用して反応させた場合(実験番号1〜6)では、p−キシレンとスチレンの反応が良好に進行し、有効な触媒であることが分かる。しかし、側鎖が長いルイス酸性イオン性液体4bは、スチレン転化率に低下が見られる他、生成物分布にも明らかに影響を及ぼす。
一方、ブレンステッド酸性イオン性液体である3a又は4aで処理した場合(実験番号7〜15)も、70℃で5hr反応後に充分なスチレン化が達成された。これは、これらのイオン性液体分子に硫酸のような活性サイトが存在するためである。
良く知られている中性のイオン性液体中で反応させた場合(実験番号16〜17)は、これらのイオン性液体にはアルキル化反応に必要な酸性点を有していないので、当然ながら反応は全く観察されなかった。
反応結果を表1に示す。実験番号1〜6及び7〜15が実施例である。
【0069】
【表1】

【0070】
反応時間とp−キシレン対スチレンのモル比の二つは、スチレン転化率と反応物生成物の分配に影響を与える重要な因子である。アルキル化反応に及ぼす反応時間の影響については、殆どのp−キシレンとスチレンの反応は、2時間以内に完了していることがうかがえる。また、生成物分配率は、どの反応でも大きくは変化しない。p−キシレン/スチレンモル比の影響については、モル比が増すにつれ、スチレン転化率が少しずつ低下するが、モノスチレン体の選択率が大幅に増す。p−キシレンとスチレンの希釈溶液では、モノスチレン生成物とスチレン間の反応の機会が減るためであると考えられる。
【0071】
反応後、上層の生成物はデカンテーションによりイオン性液体と容易に分離することができる。そして、残ったイオン性液体は再利用することができる。例えば、同じ条件で5回使用した後でも、イオン性液体4aは、触媒性能を保持していた(実験番号15)。このことは、このイオン性液体が、スチレンによるp−キシレンのアルキル化反応において、再利用性を有していることを意味している。この再利用性は工業用触媒として本発明のイオン性液体の有利性を示している。
【実施例3】
【0072】
イオン性液体4aを触媒に使用して、芳香族炭化水素及びアルケンの種類を変えて、アルキル化反応を実施例1と同様にして行った。芳香族炭化水素及びアルケンの種類及び反応時間を表2にその結果と共に示す。その他の条件は、反応温度70℃、芳香族炭化水素30mmol、芳香族炭化水素/アルケン=3(モル比)、アルケン/イオン性液体=10(モル比)である。反応条件及び結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
本発明のイオン性液体は、スチレンによるベンゼンやトルエンのアルキル化についても効果的な触媒であることがうかがえる。同じ条件では、トルエンやp−キシレンよりベンゼンの方が比較的容易にスチリル化できることが推察できる。しかしながら、非常に興味を引くことに、酸性イオン性液体触媒4aをベンゼンとヘキセンやドデセンの様な長鎖アルケンとのアルキル化反応に適用しても、反応は起こらなかった。理由は不明であるが、反応は2相方向で進行するので、スチレンと長鎖アルケンの活性度が変化した理由として、イオン性液体中への長鎖アルケンの溶解度が減少したことに関係しているのではないかと考えている。
【実施例4】
【0075】
10mlの試験管に、5.2mmolのベンゼン、2.6mmolのオレフィン、イオン性液体(オレフィンの5mol%に相当する量)及びトリフレート化合物(オレフィンの5mol%に相当する量)を加えた。但し、実験番号24では、芳香族化合物としてベンゼンの代わりにp−キシレンを使用し、イオン性液体及びトリフレート化合物の使用量を、それぞれオレフィンの10%molに相当する量とした。なお、加える順番には制限はない。反応液を攪拌しながら70℃で反応させた。反応は炭化水素相(上層)とイオン性液体相(下層)の2相系で進行した。反応終了後、上層を分離して組成分析を行った。反応条件及び結果を表3に示す。
なお、表3におけるトリフレートの欄の金属元素記号は、その金属のトリフレート化合物であることを示す。
【0076】
【表3】

【実施例5】
【0077】
実施例4と同様な実験において、トリフレート化合物を、Scトリフレート、Yトリフレート、Laトリフレート又はZnトリフレートを使用した。
イオン性液体4bとの組合せ使用において、実験番号23と同様な条件で実験を行ったところ、Scトリフレートがアルキル化触媒として最も良好な結果を示し、Yトリフレートは約4%の収率を示し、Laトリフレート及びZnトリフレートは活性を示さなかった。しかし、オレフィンの種類や反応条件を変化させることにより活性を示すことが予想される。
そして、Scトリフレートはイオン性液体と併用することにより、芳香族化合物とオレフィン、特に長鎖オレフィン又はシクロオレフィンとの反応を良好進行させる触媒作用が優れている。
【実施例6】
【0078】
イオン性液体3a又は4aを使用して芳香族化合物のニトロ化を行った。原料の芳香族化合物としては、R−Ar(但し、Arはフェニル基を示し、RはH又は置換基を示す)で表されるベンゼン又はモノ置換ベンゼンを使用した。硝酸としては、62%硝酸を使用した。典型的には、芳香族化合物に対し5〜15モル%のイオン性液体を使用し、芳香族化合物20mmolと62%硝酸20〜60mmolを、マグネチックスタラー付きの50mlの丸底フラスコに入れた。この際、芳香族化合物相と、硝酸を含むイオン性液体相の2層に分離した。次に、温度を80℃にし、12〜22hr攪拌して反応を行った。反応中は、有機相は黄色となった。反応終了後は、分液漏斗で有機相を分離し、これについてFID検出器を備えたGC装置で分析した。
【0079】
反応条件及び反応結果を表4に示す。表4において、Rは前記R−ArのRを意味し、%はイオン性液体の使用量(モル%)を示し、芳香族化合物/硝酸はモル比を示し、転化率は芳香族化合物の転化率を示す。
【0080】
【表4】

【0081】
表4から、イオン性液体としては、3aより4aの方が、転化率が優れることが分かる。また、イオン性液体の使用量は、5%、10%、15%の順に転化率が優れることが分かる。芳香族化合物/硝酸のモル比は、1/3、1/2及び1/1の順に転化率が優れることが分かる。反応時間については、12hrより22hrの方が、転化率が優れることが分かる。芳香族化合物として置換芳香族化合物を使用した場合も、多くの場合同様な反応が起こり、オルソ体とパラ体が主成分として得られるが、置換基の種類によって転化率に差が生じることが分かる。
【実施例7】
【0082】
イオン性液体を再使用する実験を行った。第1回目の反応は実施例6の実験番号31と同様な条件で行った。反応終了後、硝酸を含むイオン性液体相を層分離した。分離されたイオン性液体の量は殆ど第1回目の反応で使用した量と同じであったが、硝酸濃度は低下していた。この全量をそのまま第2回目の反応に使用したが、この際の芳香族化合物/硝酸のモル比は、1/2に保持した。これを5回繰り返し、転化率の変化を測定した。
結果を表5に示す。
【0083】
【表5】

【0084】
表5から、分離されたイオン性液体相を処理することなくそのまま、第2回目以降のニトロ化反応のみならず、第5回まで又はそれ以降のニトロ化反応に繰り返し使用しても良好な転化率が得られることが分かるだけでなく、多少の反応条件の変更で実用上十分な転化率が得られることが予想される。これは、反応を繰り返す場合、廃棄物が大幅に低下し、触媒再生等の操作が大幅に低下することを示すものと言える。
【実施例8】
【0085】
イオン性液体のTHF溶液に、担持物として触媒学会の参照触媒であるJRC−SIO−9を浸漬し、1hr浸漬した後、THF溶媒を除去、乾燥することでイオン性液体担持体を得た。JRC−SIO−9の組成と物性は次のとおりである。
SiO:99.9%、Al:2.3ppm、Ti:0.1ppm以下、Ca:0.5ppm、Fe:3.9ppm、Na:60ppm、Mg:0.1ppm。充填密度:0.49g/cm、細孔容積:0.654cm/g、平均細孔径:11.0nm、比表面積:336m/g。なお、イオン性液体の担持量は、20wt%である。
【0086】
イオン性液体3bと4b、及び上記のようにしてイオン性液体4bを担持物に担持させたイオン性液体の担持体4b2)を使用した。比較のために良く知られているイオン性液体であるBMImBFとBMImPFの他、前記ブレンステッド酸性イオン性液体4a及び3aも同時に検討した。実験では、イオン性液体とケトオキシムを、磁気攪拌子を備えた10mlの試験管に仕込み3min間攪拌し、20〜80℃で5min〜120min反応させた。ケトオキシムのイオン性液体に対するモル比を1〜5とした。
【0087】
また、反応終了後の反応混合物(粘性液体)を、COと補助抽出溶剤としてクロロホルムを使用してCOによる超臨界抽出に付した。抽出液からはε−カプロラクタムを回収し、抽出されずに残ったイオン性液体は、回収し、次の反応に再使用した。ε−カプロラクタムはほぼ完全(95%以上)に抽出された。回収したイオン性液体を再使用し、ケトオキシムのイオン性液体に対するモル比を1とし、40℃で60min反応させた。ケトオキシムの転化率、ラクタムの選択率は、FIDガスクロマトグラフィー(島津GC−14A、ULBON HR−52キャピラリーカラム25m×0.32mm)により分析した。超臨界抽出条件は、原料のオキシム類1gに対し、60℃、15MpaのCOを3時間流通させることにより行った。抽出に用いたCOは25℃、0.1Mpa条件下において約24〜82Lである。
【0088】
種々の反応条件下におけるケトオキシムのベックマン転位反応の結果を表6に示す。これらの全てのケースにおいて、ルイス酸性イオン性液体である3b又は4bを使用して反応させた場合(実験番号42〜47)では、反応が良好に進行し、99%以上の転化率を示し、選択率も99%前後であることが分かる。また、超臨界抽出して回収して再使用したイオン性液体4b1)を用いた場合(実験番号48)では、若干転化率が低下するものの、選択率は良好であり、イオン性液体の再使用が可能であることが分かる。なお、実験番号48の反応混合物を超臨界抽出して回収したイオン性液体4b1)を用いた場合の反応、その反応から回収したイオン性液体を用いた場合の反応と順次繰り返し再使用して同様な条件で反応を繰返したが、4回繰返して再使用しても、ほぼ実験番号48と同様な結果であった。更に、イオン性液体4bの担持物4b2)を使用した場合(実験番号49)では、反応が良好に進行し、99%以上の転化率を示すことが分かる。
【0089】
しかし、ブレンステッド酸性イオン性液体である3a及び4aを用いた場合や、良く知られているBMImBFとBMImPFの中性のイオン性液体を用いた場合(実験番号50〜53)では、ベックマン転位反応に必要な活性を有していないので、反応は全く観察されなかった。
反応条件及び反応結果を表6に示す。なお、表中、モル比はケトオキシム/イオン性液体モル比を示し、選択率はラクタム選択率を示す。また、CHOXはシクロヘキサノンオキシムを、TOXはテトラロンオキシムを示す。
【0090】
【表6】

【実施例9】
【0091】
鎖状オキシム5mmolを原料として、ルイス酸性イオン性液体4b 1mmol中、表7に示す条件で反応させたところ、表7に示す結果が得られた。
【0092】
【表7】

【0093】
一般式(1)で表されるイオン性液体又はその担持物は、各種ケトオキシム類のベックマン転位反応によるラクタム類合成反応ついても効果的な触媒であることがうかがえる。再使用したイオン性液体を用いた場合、転化率が若干減少する理由は不明であるが、不純物の混入によるものと考えられ、反応条件、イオン性液体の回収、精製条件を最適化することで転化率の低下防止や再利用回数の増加が可能であると考えられる。
【実施例10】
【0094】
1−メチルイミダゾールとCl−CHCH−SOClを2:1のモル比で攪拌しながら混合し、氷冷中で6時間反応させた。未反応の1−メチルイミダゾールをエチルエーテル抽出により除去し、さらにエチルエーテルで数回洗浄し、黒色の粘性液体を得た。この粘性液体をイオン性液体2Aと称する。尚、このイオン性液体2Aは上記式(1)におけるYに相当する成分がClである。
次に、得られた黒色粘性液体とHPFとを1:2のモル比で混合し、60℃で24時間反応させた。未反応のHPFとCl根とを水洗浄(10回程度)により除去した後、更に中性になるまでエチルエーテルで抽出した。得られた結晶を真空乾燥機で乾燥させた結果、室温で茶色のスラリー状の結晶が得られた。この結晶をイオン性液体2Bと称する。この結晶は室温では結晶であるが、110℃では液体であった。
【0095】
イオン性液体2Aとシクロヘキサノンオキシムとを、磁気攪拌子を備えた10mlの試験官に仕込み3分間攪拌し、110℃で5時間ベックマン転位反応を実施した。ここでシクロヘキサノンオキシムのイオン性液体に対するモル比は5とした。
反応終了後、反応混合物をエタノールに溶解し、FIDガスクロマトグラフィー(島津GC−14A、ULBON HR−52キャピラリーカラム25m×0.32mm)により分析したところ、シクロヘキサノンオキシムの反応率及びε−カプロラクタムへの選択率は以下の通りとなった。
反応率 20.1%
選択率 28.1%
【0096】
イオン性液体2Aに替えてイオン性液体2Bを用いた以外は上記と同様にして、ベックマン転位の反応を実施した。シクロヘキサノンオキシムの反応率及びε−カプロラクタムへの選択率は以下の通りとなった。
反応率 39.1%
選択率 9.2%
【実施例11】
【0097】
実施例1において、1−メチルイミダゾールの代わりに1−アリルイミダゾールを使用し、また、1,4−ブタンスルトンの代わりに1,3−プロパンスルトンを用いた以外は同様の方法で、イオン性液体3Cを得た。
他方、シリカゲル−60(70−230mesh;Merck社製)と3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)を使用して、Tetrahedron Lett.26,3361(1985)記載の方法でMPS修飾シリカゲルを得た。
具体的には、シリカゲル−60(4.8g)とMPS(21ml)とをピリジン及びトルエンの混合液(混合比は、ピリジン:トルエン=1:1)(20ml)に投入し、90℃で24時間反応させた。ろ過後、生成物をトルエンで洗浄し真空乾燥を行い、固体(1)を得た。得られた個体中のS含量は、1.01mmol/gであった。
アセトニトリルにイオン性液体3C(3.2g)、固体(1)(4.8g)、α,α’−アゾイソブチロニトリル(AIBN)(164mg)を添加し、還流条件下で30時間反応を行った。反応終了後、該固体をろ過し、メタノールで洗浄し、乾燥させた。得られた固体をイオン性液体固定化触媒(1)と称する。
【0098】
イオン性液体固定化触媒(1)(0.02g)とシクロヘキサノンオキシム(0.018g)とをトルエン(1.48g)中へ添加し、100℃で7時間反応させた。反応終了後、反応液をFIDガスクロマトグラフィー(島津GC−14A、ULBON HR−52キャピラリーカラム25m×0.32mm)により分析したところ、シクロヘキサノンオキシムの反応率及びε−カプロラクタムへの選択率は以下の通りとなった。
反応率 35.5%
選択率 73.9%
【0099】
別途、上記シリカゲル−60を用いる代わりに、ペレットシリカゲル(日揮化学社製:シリカ参照触媒 JRC−SIO−9)を使用する以外は上記と同様の方法でシリカゲルの固体(2)を得、イオン性液体3Cと固体(2)とからイオン性液体固定化触媒(2)を調製した。
イオン性液体固定化触媒(2)(0.92g)とシクロヘキサノンオキシム(0.10g)とをトルエン(1.48g)中へ添加し、110℃で7時間反応させた。反応終了後、反応液をFIDガスクロマトグラフィー(島津GC−14A、ULBON HR−52キャピラリーカラム25m×0.32mm)により分析したところ、シクロヘキサノンオキシムの反応率及びε−カプロラクタムへの選択率は以下の通りとなった。
反応率 69.1%
選択率 48.2%
【産業上の利用可能性】
【0100】
空気と水に対して安定である本発明の酸性イオン性液体は、一種の安定した機能を有するイオン性液体であり、酸性触媒を使用する反応の触媒又は溶媒として有用である。この酸性イオン性液体を使用したアルキル化反応、ニトロ化反応、ベックマン転位反応によれば、比較的穏やかな条件で反応可能であり、分離も容易で、再利用可能な触媒となる。本発明によれば、工業的に有用なアルキル置換芳香族化合物、ニトロ置換芳香族化合物及びε−カプロラクタム等を高収率、高選択率で得ることができる。また、触媒となるイオン性液体はルイス酸であり、その再使用が可能であるため、廃棄物の発生が抑制され、装置の腐食等の問題が軽減される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるイオン性液体。
【化1】

(Xはハロゲン原子又はヒドロキシル基を示し、YはCFSO、BF、PF、CHCOO、CFCOO、(CFSO、(CFSO、F、Cl、Br、又はIを示し、nは2〜16の整数を示し、Rはメチル基、アリル基又はビニル基を示す。)
【請求項2】
Rがメチル基である請求項1に記載のイオン性液体。
【請求項3】
がCFSOである請求項1又は2に記載のイオン性液体。
【請求項4】
nが3又は4である請求項1〜3のいずれかに記載のイオン性液体。
【請求項5】
Xが塩素原子である請求項1〜4のいずれかに記載のイオン性液体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のイオン性液体の存在下に、芳香族化合物をオレフィン類と反応させることを特徴とする芳香族化合物のアルキル化方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のイオン性液体及び
M(OTf)
(Mは2価又は3価の金属原子を示し、TfはSOCFを示し、mは2又は3の整数を示す)
で表されるトリフレート化合物の存在下に、芳香族化合物をオレフィン類と反応させることを特徴とする芳香族化合物のアルキル化方法。
【請求項8】
MがScであり、mが3である請求項7に記載の芳香族化合物のアルキル化方法。
【請求項9】
オレフィン類が、芳香族オレフィン類である請求項6〜8のいずれかに記載の芳香族化合物のアルキル化方法。
【請求項10】
芳香族オレフィン類が、芳香族ビニル化合物である請求項9に記載の芳香族化合物のアルキル化方法。
【請求項11】
芳香族ビニル化合物が、スチレン又はメチル基を1又は2個有するメチルスチレン類である請求項10に記載の芳香族化合物のアルキル化方法。
【請求項12】
オレフィン類が、脂肪族オレフィン類である請求項6〜8のいずれかに記載の芳香族化合物のアルキル化方法。
【請求項13】
芳香族化合物が、メチル基を1又は2個有するメチルベンゼン類である請求項6〜12のいずれかに記載の芳香族化合物のアルキル化方法。
【請求項14】
請求項1〜5のいずれかに記載のイオン性液体の存在下に、芳香族化合物をオレフィン類と反応させる工程を含むことを特徴とするアルキル置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれかに記載のイオン性液体及び
M(OTf)
(Mは2価又は3価の金属原子を示し、TfはSOCFを示し、mは2又は3の整数を示す)
で表されるトリフレート化合物の存在下に、芳香族化合物をオレフィン類と反応させる工程を含むことを特徴とするアルキル置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項16】
芳香族化合物がメチル基を1又は2個有するメチルベンゼン類であり、オレフィン類がスチレン又はメチル基を1又は2個有するメチルスチレン類である請求項14又は15に記載のアルキル置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜5のいずれかに記載のイオン性液体の存在下に、芳香族化合物と硝酸とを反応させることを特徴とする芳香族化合物のニトロ化方法。
【請求項18】
芳香族化合物が、ベンゼン、モノアルキルベンゼン又はモノハロゲノベンゼンである請求項17に記載の芳香族化合物のニトロ化方法。
【請求項19】
イオン性液体以外の触媒の不存在下に、反応を行う請求項17又は18に記載の芳香族化合物のニトロ化方法。
【請求項20】
請求項1〜5のいずれかに記載のイオン性液体の存在下に、芳香族化合物と硝酸とを反応させる工程を含むことを特徴とするニトロ置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項21】
芳香族化合物が、ベンゼン、モノアルキルベンゼン又はモノハロゲノベンゼンであり、ニトロ置換芳香族化合物がこれらのモノニトロ化合物である請求項20に記載のニトロ置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項22】
イオン性液体以外の触媒の不存在下に、反応を行う請求項20又は21に記載のニトロ置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項23】
芳香族化合物と硝酸とを反応させる工程に引き続き、得られた反応混合物からイオン性液体を含む相と芳香族化合物を含む相とを相分離させる工程、芳香族化合物を含む相からニトロ置換芳香族化合物を回収する工程、及びイオン性液体を含む相を、必要に応じて硝酸濃度を調整した上で芳香族化合物と硝酸との反応に再使用する工程を有する請求項20〜22のいずれかに記載のニトロ置換芳香族化合物の製造方法。
【請求項24】
請求項1〜5のいずれかに記載のイオン性液体の存在下に、オキシム類をベックマン転位させることを特徴とするベックマン転位反応方法。
【請求項25】
イオン性液体が担持物に担持又は結合させて用いられる請求項24に記載のベックマン転位反応方法。
【請求項26】
オキシム類がケトオキシム類である請求項24又は25に記載のベックマン転位反応方法。
【請求項27】
ケトオキシム類がシクロヘキサノンオキシムである請求項26に記載のベックマン転位反応方法。
【請求項28】
請求項1〜5のいずれかに記載のイオン性液体の存在下に、ケトオキシム類をベックマン転位させる工程を含むことを特徴とするラクタム類の製造方法。
【請求項29】
イオン性液体が、担持物に担持又は結合させて用いられる請求項28に記載のラクタム類の製造方法。
【請求項30】
ケトオキシム類がシクロヘキサノンオキシムであり、ラクタム類がε−カプロラクタムである請求項28又は29に記載のラクタム類の製造方法。
【請求項31】
イオン性液体を、シクロヘキサノンオキシム1モルに対して0.05〜2モル使用する請求項28〜30のいずれかに記載のラクタム類の製造方法。
【請求項32】
イオン性液体を、シクロヘキサノンオキシム1モルに対して0.1〜2モル使用する請求項31に記載のラクタム類の製造方法。
【請求項33】
ケトオキシム類をベックマン転位させる工程を10〜80℃の温度範囲で行う請求項28〜31のいずれかに記載のラクタム類の製造方法。
【請求項34】
ケトオキシム類をベックマン転位させる工程に引き続き、反応混合物をCOによる超臨界抽出に付す工程、抽出液からはラクタム類を回収する工程、及び抽出されずに残ったイオン性液体を、ケトオキシム類のベックマン転位反応に再使用する工程を有する請求項28〜33のいずれかに記載のラクタム類の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/028446
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514045(P2005−514045)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013467
【国際出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(503340645)
【Fターム(参考)】