説明

イオン性物質の絶対定量装置およびイオン性物質の絶対定量方法

【課題】測定対象が微量であっても、ピコモルオーダーの絶対定量が可能な絶対定量装置を提供する。
【解決手段】本発明の絶対定量装置10には、イオン性物質を含む水相を収容する水相収容部8が形成された水相収容層3と、有機相を保持する有機相保持部を含み、水相収容層と接触している有機相保持層4と水相用電極2と有機相用電極6と導電性高分子膜5と水相用電極2および有機相用電極6に連結された電源7とが備えられており、水相用電極2、水相収容層3、有機相保持層4、導電性高分子膜5および有機相用電極6は積層されており、水相収容層3の厚さが10μm以上80μm以下であり、電源7によって水相と有機相との界面に電位差を生じさせ、イオン性物質のうち陽イオンまたは陰イオンの水相から有機相への界面移動に伴うイオン移動電流からイオン性物質の物質量を絶対定量するようになっているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性物質の絶対定量装置およびイオン性物質の絶対定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
検量線を用いずに物質量を決定する定量法、すなわち絶対定量法は、あらゆる化学物質の分析法の根幹となっている。その基本となる測定法が、重量測定である。SI単位系に基づいて物質量を求める場合、純物質の重量からモル数を決定する。
【0003】
しかし、タンパク質やペプチドなどの微量生体試料では、高純度で重量測定が可能な量の標準試料を得ることができないため、物質量を決定することができない。また、タンパク質の反応性を利用した滴定法による定量も古くから用いられているが、ピコモル程度の微量タンパク質には適用できない。
【0004】
一方、重量測定を必要としない簡便で高感度な絶対定量法としては、電量測定、すなわちクーロメトリーがある。クーロメトリーは、Faradayの法則に基づいて物質の酸化還元によって生じる電流から直接、物質量を決定する方法である。同法は、検量線の不要な絶対定量法として広く用いられているが、測定対象が酸化還元するものに限られている。
【0005】
これに対して、物質の酸化還元の代わりに、イオン性物質の水相と有機相との間の電解抽出を利用して絶対定量を行う試みが、非常に数少ないもののいくつか報告されている(非特許文献1〜3)。非特許文献1〜3に記載の方法は、電源によって水相|有機相界面(「|」は界面を示す)に電位差を印加し、それによって生じるイオン性物質の界面移動を電流として測定するもので、従来のクーロメトリーのように物質が酸化還元する必要がない。したがって、難酸化還元性のイオン性物質の絶対定量に有効であると考えられている。
【0006】
より具体的には、非特許文献1,2では有機相に浸した多孔質のテフロン(登録商標)チューブとチューブ内に挿入された銀/塩化銀電極との間隙に水相を流入するセル(チューブ型)が提案されている。また、非特許文献3には、テフロンスペーサーに作成した流路に、水相を流すセル(スペーサー型)が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A. Yoshizumi, A. Uehara, K. Kasuno, Y. Kitatsuji, Z. Yoshida, S. Kihara, J. Electroanal. Chem., 581 (2005) 275
【非特許文献2】Grygolowicz-Pawlak, E.Bakker, E. Anal. Chem.,824 (2010) 537.
【非特許文献3】S. Sawada, M. Taguma, T. Kimoto, H. Hotta, T. Osakai, Anal. Chem. 74 (2002) 1177
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、水相と有機相との間の電解抽出を利用した絶対定量法を実現するためには、イオンの界面移動が拡散によってなされるため、イオン性物質を含む水相(試料水溶液)を薄層にて配置する必要がある。
【0009】
ところが、非特許文献1〜3のセルでは、水相の厚さが約100μmと比較的厚く、イオン性物質が拡散によって有機相に電解抽出されるまでに長時間を要する。
【0010】
水相の薄層化を実現するためには、非特許文献1〜3に以下の課題がある。非特許文献1,2のチューブ型セルでは、円筒状チューブの中心に銀/塩化銀電極を設置するが、この設置を正確に行うことが非常に困難である。よって、構造的にテフロンチューブと銀/塩化銀電極との間隙に位置する水相の厚さを一定にすることがそもそも困難である。一方、非特許文献3のスペーサー型セルでは、有機相側が「有機相−内部水溶液−固体電極」と多層構造になっているため、水相と有機相との界面位置の精確な制御が困難であり、水相を100μm以下に薄層化することができない。
【0011】
非特許文献1〜3のセルは上記の課題を有しており、試料溶液が数10〜数100μl、濃度が数10μmol dm−3以上の条件で初めて定量可能であるため、ピコモルオーダーの物質量を絶対定量することは不可能である。
【0012】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、測定対象が1μl程度の微量であっても、ピコモルオーダーの絶対定量が可能な絶対定量装置および絶対定量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の絶対定量装置は、上記課題を解決するために、イオン性物質の物質量の絶対定量に使用される絶対定量装置であって、水性溶媒にイオン性物質および水相用支持電解質を含む水相を収容する水相収容部が形成された水相収容層と、水性溶媒に溶解したイオン性物質が水性溶媒から移動可能な有機溶媒に有機相用支持電解質を含む有機相を保持する有機相保持部を含み、水相収容層と接触している有機相保持層と、上記水相収容層に導電する水相用電極と、上記有機相保持層に導電する有機相用電極と、上記有機相保持層と有機相用電極との間に配置された導電性高分子膜と、上記水相用電極および有機相用電極に連結された電源とが備えられており、上記水相用電極、水相収容層、有機相保持層、導電性高分子膜および有機相用電極は積層されており、上記水相収容層の厚さが、10μm以上、80μm以下であり、上記電源によって、有機相用電極と水相用電極との間に電位が印加されることにより、水相収容部に収容された水相と有機相との界面に電位差を生じさせ、上記イオン性物質のうち陽イオンまたは陰イオンの水相から有機相への界面移動に伴うイオン移動電流からイオン性物質の物質量を絶対定量するようになっていることを特徴としている。
【0014】
上記の発明によれば、有機相用電極が導電性高分子膜によって積層されていることにより、電極反応が生じても電極反応物によって有機相を汚染することがない。そのため、導電性高分子で被覆した固体電極を直接有機相へと挿入でき、水相収容層の厚さを10μm以上、80μm以下の範囲とすることができると共に、界面位置の制御が容易である。さらに、水相用電極、水相収容層、有機相保持層、導電性高分子膜および有機相用電極が積層された構造であることにより、絶対定量装置は薄層化または小型化に有効であると共に、組立てが非常に容易である。
【0015】
このように水相収容層に収容される水相の厚さが薄いため、拡散によって短時間でイオン性物質を界面移動させることができる。当該構造により電解抽出効率を高め、イオン性物質の物質量を絶対定量することが可能な絶対定量装置を提供することができる。
【0016】
また、本発明の絶対定量装置では、上記イオン性物質がペプチドまたはタンパク質であることが好ましい。
【0017】
ペプチドおよびタンパク質の試料は通常、微量であり、高純度で重量測定可能な量の標準試料を得ることができない。そのため、SI単位系に基づく定量値を決定することが不可能である。しかしながら、本発明の絶対定量装置では、標準試料を必要としないため、ペプチドまたはタンパク質の定量に適している。
【0018】
また、本発明の絶対定量装置では、上記水相収容層と有機相保持層との接触面において、水相収容部が形成された面積と有機相保持部の面積との面積比が、9:10〜10:9であることが好ましい。
【0019】
上記のように各面積を設定することにより、水相収容部の水相と、有機相保持部の有機相との接触面積を同等に設定することができる。これにより、有機相にて濃縮された陽イオンを水相に拡散させ易くなる。
【0020】
また、本発明の絶対定量装置では、上記有機相保持部の厚さが10μm以上、80μm以下であることが好ましい。
【0021】
有機相保持部の厚さが薄層であることにより、有機相中に抽出(移動)したイオン性物質の陽イオンまたは陰イオンを水相へ拡散させ易くなる。よって、高精度での絶対定量が可能となる。
【0022】
また、本発明の絶対定量装置では、上記水相用電極に、水相が水相収容部へ流入する流路となる流入流路と、水相収容部から少なくとも水相が流出する流路となる流出流路とが形成されていることが好ましい。
【0023】
これにより、流入流路を通じて水相を水相収容部に供給できるため、水相収容層が水相用電極および有機相保持層と積層した状態にて水相の供給が可能である。このようなフロー系の絶対定量装置において、イオン移動が生じる電位に印加する電位を固定し、一定量の試料溶液をフロー系の絶対定量装置にインジェクトすることによって、イオン移動電流をピーク電流として記録することができる。この方法は、印加電位が固定されているので、キャパシタンス電流の影響を受けず、絶対定量の精度が向上する。また、流出流路を通じて定量後のイオン性物質を装置外に流出させることができるため、連続的な定量が可能である。
【0024】
また、本発明の絶対定量装置では、上記電源によって、有機相用電極と水相用電極との間に電位が印加されることにより水相収容部に収容された水相と有機相との界面に電位差を生じさせ、上記流入流路から供給されたイオン性物質のうち陽イオンまたは陰イオンを水相から有機相へ移動させることによって、イオン性物質を濃縮し、上記電源によって、有機相用電極と水相用電極との間に電位が印加されることにより、水相収容部に収容された水相と有機相との界面に電位差を生じさせ、有機相における陽イオンまたは陰イオンを水相へと界面移動させることによって生じるイオン移動電流からイオン性物質の物質量を絶対定量するようになっていることが好ましい。
【0025】
これにより、水相中のイオン性物質濃度が非常に低濃度であっても、陽イオンまたは陰イオンを有機相に移動させることによるイオン性物質の濃縮によりイオン性物質の濃度が高められるため、高感度での絶対定量が可能である。
【0026】
また、本発明の絶対定量装置では、上記イオン性物質が供給される液体クロマトグラフィーまたはキャピラリー電気泳動装置が上記流入流路に接続され、質量分析装置、吸光光度分析装置および蛍光光度分析装置からなる群から選ばれる1種の定性分析装置が上記流出流路に接続されていることが好ましい。
【0027】
これにより、イオン性物質が複数種類の混合物であったとしても、各イオン性物質を分離した後、連続して水相収容部に導入し、それぞれの物質の絶対定量を行い、定量後の水相を連続して他の測定装置にて分析し定性分析することが可能であり、混合物の各成分の絶対定量と定性分析とを複合して行うことが可能となる。
【0028】
また、本発明の絶対定量装置では、上記水性溶媒が親水性多孔質膜または親水性ゲルによって保持されていることが好ましい。
【0029】
電気泳動にて分離したイオン性物質は通常、親水性多孔質膜または親水性ゲルに含有された状態であるため、本構成によれば、このようなイオン性物質を絶対定量の定量対象とすることができる。
【0030】
また、本発明の絶対定量方法は、上記絶対定量装置を使用してイオン性物質の物質量を絶対定量する絶対定量方法であって、上記水相収容部に水相収容部の容積未満の水相を供給すると共に、上記有機相保持層に有機相を供給し、上記水相用電極、水相収容層、有機相保持層、導電性高分子膜および有機相用電極を積層し、上記電源によって、有機相用電極と水相用電極との間に電位を印加することにより、水相収容部に収容された水相と有機相との界面に電位差を生じさせ、イオン性物質のうち陽イオンまたは陰イオンの水相から有機相への界面移動に伴うイオン移動電流からイオン性物質の物質量を絶対定量する方法である。
【0031】
上記方法では、水相収容部に、水相収容部の容積未満の水相を供給しても、水相の体積減量に応じて電極面積も減少するため、単位面積当たりの電流密度は変わらず測定感度は減少しない。このため、少量の試料溶液の定量が可能である。少量の水相を高精度に供給する方法を用いれば、試料液量が50 nl程度でも測定可能であり、微量試料の絶対定量に有効である。
【0032】
また、本絶対定量方法では、上記水相収容部に供給する水相の体積は、水相収容部の容積に対する10%以上、90%以下であることが好ましい。
【0033】
上記範囲とすることにより、水相収容層と有機相保持層とが積層された後、水相を安定して水相収容部に収容することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の絶対定量装置は、以上のように、イオン性物質および水性溶媒を含む水相を収容する水相収容部が形成された水相収容層と、水性溶媒に溶解したイオン性物質が水性溶媒から移動可能な有機相を保持する有機相保持部を含み、水相収容層と接触している有機相保持層と、上記水相収容層に導電する水相用電極と、上記有機相保持層に導電する有機相用電極と、上記有機相保持層と有機相用電極との間に配置された導電性高分子膜と、上記水相用電極および有機相用電極に連結された電源とが備えられており、上記水相用電極、水相収容層、有機相保持層、導電性高分子膜および有機相用電極は積層されており、上記水相収容層の厚さが、10μm以上、80μm以下であり、上記電源によって、有機相用電極と水相用電極との間に電位が印加されることにより、水相収容部に収容された水相と有機相との界面に電位差を生じさせ、イオン性物質のうち陽イオンまたは陰イオンの水相から有機相への界面移動に伴うイオン移動電流からイオン性物質の物質量を絶対定量するようになっているものである。
【0035】
それゆえ、水相収容層に収容される水相の厚さが薄いため、拡散によって短時間でイオン性物質を界面移動させることができる。したがって、当該構造により電解抽出効率を高め、イオン性物質の物質量を絶対定量することが可能な絶対定量装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る絶対定量装置を示す分解斜視図である。
【図2】本発明に係る絶対定量装置を示す断面図である。
【図3】(a)は供給された水相を示す平面図であり、(b)は(a)の状態に対応する断面図である。
【図4】本発明に係る絶対定量装置の変形例を示す概略図である。
【図5】本発明に係る絶対定量装置の変形例を示す断面図である。
【図6】イオン性物質の濃縮過程を示す断面図である。
【図7】実施例1における電流/電圧特性の測定結果を示すボルタモグラムである。
【図8】実施例1における電流/時間特性の測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例1における電解抽出効率等を示すグラフである。
【図10】実施例2における電流/電圧特性の測定結果を示すボルタモグラムである。
【図11】実施例2における電流/時間特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔実施の形態1〕
<バッチ式絶対定量装置>
本発明の一実施形態について図1〜図6に基づいて説明すれば以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。まず、本発明に係るバッチ式の絶対定量装置の構成について説明する。
【0038】
図1は、本発明に係る絶対定量装置10を示す分解斜視図である。同図に示すように、絶対定量装置10は、PTFEホルダー(ポリテトラフルオロエチレンホルダー)1a、水相用電極2、水相収容層3、有機相保持層4、導電性高分子膜5、有機相用電極6、PTFEホルダー1bおよび電源7を備えている。また、図2は、図1の絶対定量装置10の各部材を積層し、組み立てた状態を示す断面図である。以下、各部材について説明する。
【0039】
PTFEホルダー1a・1bは、水相用電極2〜有機相用電極6までの部材を挟み込み固定するものである。PTFEホルダー1a・1bは、耐薬品性の観点からポリテトラフルオロエチレンを用いているが、他のフィルム、基板などを使用してもよい。
【0040】
水相用電極2は、PTFEホルダー1aと水相収容層3との間に配置される。水相用電極2としては水相中の電極電位が固定され、電極反応物が電極表面に固定されるものという観点から銀/塩化銀板を用いているが、材質はこれに限定されるものではない。銀/塩化銀に代わる材質としては、酸化還元体で修飾された炭素電極、カーボンペースト、白金、金、銅、ガラス電極などを使用することも可能である。
【0041】
水相収容層3には水相収容部8が形成されており、水相収容部8は、イオン性物質および水性溶媒を含む水相を収容する空間である。水相収容部8では、イオン性物質の定量が行われる。水相収容層3は、テフロンフィルムで構成されているが、他の高分子フィルムを使用することもできる。また、水相収容部8が形成されていれば、水相収容層3は高分子フィルムでなくともかまわない。
【0042】
水相収容部8の形状は水相9を収容できればよく、特に限定されない。図1では水相収容部8は円柱形であるが、当該形状は一例であり、円柱形には限定されない。例えば、形状が楕円柱形、図4に示すような矩形の両短辺に半円が形成された柱状、立方体、直方体などの四角柱形状であってもよい。水相収容部8には測定者によって水相が供給(配置)された後、水相収容層3に有機相保持層4が積層される。すなわち、絶対定量装置10は、1回の定量毎にイオン性物質を入れ替えるバッチ式である。なお、水相を流入させる流入流路および水相を流出させる流出流路が水相収容層3に形成されていてもよい。本構成については実施の形態2において後述する。
【0043】
水相収容部8は水相収容層3を貫通して形成されており、水相収容層3に有機相保持層4が積層されると、水相は水相用電極2および有機相保持層4に接触することとなる。したがって、水相収容層3の厚さが水相の厚さとなる。イオン性物質の絶対定量を行うためには水相が薄層である必要があるため、水相収容層3の厚さは、10μm以上、80μm以下に設定されている。
【0044】
また、水相収容部8の容積を、50 nl以上、200 μl以下に設定することができ、水相収容部8の空間と有機相保持層4と接触する面積を、0.01cm以上、5cm以下とすることができる。この面積は水相および有機相間の界面となる。水相収容部8の上記容積および面積はバッチ式の絶対定量装置10に係る値であり、フロー式の場合、上記の範囲を超えてもかまわない。
【0045】
上記水相9は、水性溶媒にイオン性物質および水相用支持電解質を含むものである。上記水性溶媒としては、有機相と界面を形成するものであればよく、水、ポリエチレングリコール類、ホルムアミド類などを挙げることができる。また、上記水性溶媒が、親水性多孔質膜または親水性ゲルにて保持されていてもよい。親水性多孔質膜としては、セラミックフィルター、セルロース膜などが挙げられ、親水性ゲルとしてはアガロース、寒天、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。ペプチド、タンパク質などのイオン性物質は通常、電気泳動によって分離される。このような場合、イオン性物質は親水性多孔質膜または親水性ゲルに含有された状態であるため、この種のイオン性物質を絶対定量の対象とすることができる。
【0046】
イオン性物質は絶対定量装置10によって物質量(モル数)が定量される定量対象であり、水性溶媒に溶解または水和してイオン性を備えるものである。上記イオン性物質としては、水性溶媒に溶解または水和してイオン性を備えるものであればよく、電極と作用して酸化還元を生じる必要はない。このため、本発明の絶対定量装置10はクーロメトリーに比較してより多種の物質を定量対象とすることができる。
【0047】
イオン性物質としては、ボルタモグラムとして測定可能であればよく、特に限定されるものではない。多くのアルキル塩、ペプチド、タンパク質などが液液界面イオン移動ボルタモグラムの測定対象となり得ることが以下の参考文献1〜4に報告されており、これらが定量対象となり得る。
参考文献1:S. Sawada, T. Osakai, Phys. Chem. Chem. Phys. 1 (1999) 4819.
参考文献2:T. Osakai, T. Hirai, T. Wakamiya, S. Sawada, Phys. Chem. Chem. Phys. 8 (2006) 985
参考文献3:M. D. Scanlon, G. Herzog, D. W. M. Arrigan., Anal. Chem.,80 (2008) 5743.
参考文献4:G. Herzog, A. Roger, D. Sheehan, D. W. M. Arrigan., Anal. Chem.,82 (2010) 258.
具体的には、アルキルアンモニウム塩として、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムなどが、ペプチドとしては、ヘパリン、メリチン、オリゴぺプチドなどが、タンパク質としては、ヘモグロビン、リソザイム、チトクロムCなどを挙げることができる。
【0048】
検出できるイオン性物質の物質量は、特に限定されないが、水相中の物質量を1ピコモル以上、100ナノモル以下の範囲とすることができる。
【0049】
水相用支持電解質は、水相の導電性を向上させるものである。具体的には、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムなどを用いることができる。
【0050】
使用する水相用支持電解質の濃度は、10−3 mol dm−3 以上、0.1 mol dm−3 以下とすることができ、水相の導電率を1μS/cm以上、1S/cm以下の範囲とするように添加がなされる。
【0051】
有機相保持層4は、有機相を保持するものであり、積層された状態で水相収容層3と接触しているものである。有機相保持層4は、水性溶媒に溶解したイオン性物質が水性溶媒から移動可能な有機溶媒に有機相用支持電解質を含む有機相を保持する有機相保持部を含むものであり、絶対定量装置10では、有機相保持層4はその全体が有機相保持部となっている。しかしながら、絶対定量時、有機相保持部は少なくとも水相収容部に接触すればよく、有機相保持層4の全体が有機相保持部である必要はない。
【0052】
また、水相収容層3と有機相保持層4との接触面において、水相収容部8が形成された面積と有機相保持層4(有機相保持層4の全体が有機相保持部でない場合は、有機相保持部)の面積との面積比が、9:10〜10:9であることが好ましく、1:1であることが特に好ましい。
【0053】
上記のように各面積を設定することにより、水相収容部8の水相と、有機相保持層4(有機相保持部)の有機相との接触面積を同等(好ましくは同一)に設定することができる。これにより、イオン性物質の陽イオンまたは陰イオンを水相から有機相に、あるいは移動したイオンを有機相から水相に拡散させ易い。これに反して、例えば、上記水相収容部8が形成された面積と有機相保持層4(有機相保持部)との面積との面積比が、10:1であれば、水相の幅が有機相よりも大きく、水相の面積よりも界面の面積が非常に小さいため、水相のイオンが界面を通って効率的に拡散し難いという不都合が生じ得る。一方、上記水相収容部8が形成された面積と有機相保持層4(有機相保持部)の面積との面積比が、1:10であれば、有機相に拡散したイオンを水相に100%逆抽出し難く、イオンが拡散し過ぎるおそれがある。
【0054】
有機相に含まれる有機溶媒としては、水相と界面を形成するものであればよく、ジクロロエタン、トリクロロメタンなどの含塩素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、ニトロベンゼン、トルエンなどの芳香族系溶媒、ヘキサンなどのアルカン系溶媒が挙げられる。また、有機相用支持電解質としては、テトラアルキルアンモニウム・ハロゲン化テトラフェニルホウ酸塩などの疎水性塩などが挙げられる。また、有機溶媒と支持電解質としての機能を併せ持つものとして、非対称性アルキルアンモニウムハロゲン化テトラフェニルホウ酸塩などのイオン液体を用いてもよい。
【0055】
使用する有機相用支持電解質の濃度は、10−3 mol dm−3 以上、0.1 mol dm−3 以下とすることができ、水相の導電率を1μS/cm以上、1S/cm以下の範囲とするように添加がなされる。
【0056】
有機相保持層4は、上記有機相を保持することができればよく、高分子膜、有機相と親和性のある多孔質の無機絶縁体材料などを使用することができる。
【0057】
高分子膜としては、テフロン、ポリエチレン、ポリプロプロピレン、ポリ塩化ビニルなどが挙げられ、多孔質の無機絶縁体材料としては、アルミナ、炭化ケイ素の多孔質膜などが挙げられる。有機相保持層4の厚さは限定されるものではないが、絶対定量装置10で有機相に移動したイオン性物質を水相に逆抽出する観点から薄い方が好ましい。具体的には、有機相保持層4の厚さを10μm以上、1000μm以下とすることができる。
【0058】
有機相用電極6は、PTFEホルダー1bと有機相保持層4との間に配置されるものであり、有機相用電極6と有機相保持層4との間に導電性高分子膜5が備えられている。例えば、非特許文献3では、有機相側に内部水溶液が用いられ多層構造になっているため、水相と有機相との界面位置の正確な制御が困難であり、水相や有機相を薄層化することができなかった。そこで本発明者らは検討を重ね、有機相と有機相用電極との間に導電性高分子膜を積層することを見出した。
【0059】
導電性高分子膜5は、有機溶媒に不溶であり、導電性を有するものであればよい。ここで、「有機溶媒に不溶」とは、導電性高分子膜を有機相の溶媒に浸漬前と、12時間、浸漬した後とで導電性高分子膜の重量比が98%以上であればよい。また、「導電性を有する」とは、導電性高分子膜の導電率が1 mS/cm以上であればよい。導電性の上限は問わないが、2000S/cm以下であれば十分である。
【0060】
有機溶媒に不溶であり、導電性を有すれば、導電性高分子膜5の厚さは特に限定されないが、対極として流す最大電気量、電極への接着性および高分子内での電子伝導性を考慮すると、概して10 nm 以上、100 μm以下の厚さとすることができる。なお、導電性高分子膜5は有機相用電極6に積層されているが、有機相用電極6が導電性高分子膜5に被覆された状態であってもよい。なお、導電性高分子膜を被覆した導電性電極の概念については、以下の参考文献5,6に報告されており、適宜参照することができる。
参考文献5:Y.Yoshida, S. Yamaguchi, K. Maeda, Anal. Sci., 26 (2010) 137
参考文献6:特開2004−045279号公報
絶対定量装置10では、有機相用電極6が導電性高分子膜5によって積層されていることにより、有機相用電極6の有機相内での電極電位が固定される。また、電極反応物が有機相に不溶な導電性高分子であるため、有機相を汚染しない。このため、有機相用電極6と導電性高分子膜5とを複合したものが対極と参照電極の両機能を発現する。この電極系においては、内部水溶液等の複雑な構成が不要であり、水相収容層3の厚さを10μm以上、80μm以下の範囲とすることができると共に、界面位置の制御が容易である。さらに、水相収容層3、有機相保持層4、導電性高分子膜5および有機相用電極6が積層された構造であることにより、絶対定量装置10は薄層化、すなわち、小型化されていると共に、組立てが非常に容易である。
【0061】
導電性高分子膜5の材質としては、ポリチオフェン類、ポリ(フェニレン)類、ポリ(フェニレンビニレン)類、ポリアニリン、ポリアセチレン類、ポリピロール類などが挙げられる。ポリチオフェン類としては、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)など、ポリ(フェニレン)類としては、ポリ(p−フェニレン)、ポリ(2,6−ナフタレン)、ポリ(9,10−アントラセン)など、ポリ(フェニレンビニレン)類として、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ(1,4−ナフタレンビニレン)など、ポリアセチレン類としては、ポリフェニルアセチレン、ポリクロロフェニルアセチレンなど、ポリピロール類としては、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(N−メチル−3−メチルピロール)、ポリ(N−メチル−3−ブロモピロール)、などを挙げることができる。導電性高分子膜の製造に関しては、特開2004−045279号公報を参照することができる。
【0062】
有機相用電極6としては、ITO(インジウムスズ酸化物)ガラス電極を用いているが、これに限定されるものではなく、表面が平らであり、導電性高分子と接着性が良いものであればよい。例えば、白金、銀、銅などの金属電極、炭素電極などの他の電極を使用することができる。
【0063】
電源7は、水相用電極2および有機相用電極6に連結されており、これらに導電することにより、水相と有機相との界面に電位差を印加するものである。電源7の設定を変更することにより、水相側の電位を高くすることも、有機相側の電位を高くすることの何れも可能である。上記電位差は任意であり、限定されるものではないが、水相と有機相との界面における電位差は、±3V以内であることが好ましい。
【0064】
絶対定量装置10では、水相用電極2、水相収容層3、有機相保持層4、導電性高分子膜5および有機相用電極6は積層された簡素な構造であるため、界面位置の制御が容易である。このため、水相収容層3の厚さ(水相の厚さ)を10μm以上、80μm以下という薄層にしても界面位置の制御に支障が生じない。水相の厚さが薄いことに起因して、拡散により短時間でイオン性物質を界面移動させることができる。また、当該構造により電解抽出効率を高めることができるため、絶対定量装置10によってイオン性物質の物質量を絶対定量することが可能である。
【0065】
<バッチ式絶対定量装置による絶対定量>
絶対定量装置10によって、イオン性物質の物質量を絶対定量する手法について説明する。まず、PTFEホルダー1a、水相用電極2および水相収容層3を積層し、水相収容部8に水相を設置可能な状態とする。
【0066】
次に、水相収容部8に水相を供給する。水相の配置は、マイクロピペット等の体積を正確に分取できる機器にて行うことが好ましい。また、水相の体積は、水相収容部8の容積以下とすることが可能であるが、水相収容部8の容積と同一とすることは望ましくない。水相の体積を同一にする場合、水相収容部8に同一体積の水相を供給することは困難である。その理由としては、同一体積の水相を供給するためには、水相収容部8よりも過剰量の水相を供給した後、水相を除去しながら導電性高分子膜5を積層する必要があり、必要量以上の水相を除去するおそれがあるからである。その結果、水相収容部8に残存した水相の体積に誤差が生じ、定量時の電解抽出効率、イオン性物質の物質量などに誤差が生じる要因となってしまう。
【0067】
そこで、本発明者らは水相収容部8への水相の供給方法を鋭意検討した結果、水相収容部8の容積と同一体積の水相を供給するのではなく、水相収容部8の容積未満の水相を供給することを見出した。図3(a)は、水相収容部8に水相9を供給した状態を示す平面図であり、図3(b)は図3(a)の状態から、水相収容層3と有機相保持層4とを積層した状態を示す断面図である。
【0068】
図3(a)では、水相収容部8は円柱状に形成された空間であり、水相収容層3に接触しないように、水相収容部8の中央部に水相9を配置している。一方、図3(b)では、水相収容層3と有機相保持層4とを積層している。水相9の体積は水相収容部8の容積未満であり、水相9は水相収容部8の中央部に配置されているので、水相収容層3と有機相保持層4とに挟まれた水相9はその周囲に移動することができる。したがって、水相収容層3の表面に溢れることがない。これにより、供給した水相9の全量が定量の対象となり、定量時の電解抽出効率、イオン性物質の物質量などに生じる誤差を低減させることができる。なお、水相9が挟まれて変形することを考慮して、水相収容部8の容積に対する水相9の体積を10%以上、90%以下に設定できる。上記範囲とすることにより、水相収容層3と有機相保持層4とが積層された後、水相9を安定して水相収容部8に収容することができる。
【0069】
さらに、図3(b)のように、水相収容層3と有機相保持層4とに挟まれる水相9の体積が必要であるので、図3(a)にて供給する水相9の高さを水相収容層3の厚さ以上とする必要がある。水相収容部8の厚さは水相収容層3と同一の10μm以上、80μm以下であるため、概して、水相9の体積の下限を50 nl以上とすれば、水相9の高さを水相収容層3の厚さ以上とすることができる。また、水相9の体積の上限は、水相収容部8の容積によるが、概して200μlに設定できる。
【0070】
水相収容部8に水相を供給した後、水相収容層3に有機相保持層4および導電性高分子膜5で被覆した有機相用電極6を積層し、水相用電極2および有機相用電極6に電源7を連結する(既に連結されている場合は連結不要である)。電源7によってイオン性物質のうち陽イオンまたは陰イオンの界面移動が生じる界面電位差(イオン性物質の電荷と疎水性に依存)となるように電位を印加すると、水相に存在している陽イオンまたは陰イオンが拡散によって有機相に移動することとなる。印加する電位はイオン性物質、水性溶媒および有機溶媒の種類によって適宜変更されるが、概して−1.5 V以上、1.5 V以下とすることができる。
【0071】
陽イオンまたは陰イオンの界面移動は、有機相用電極よりも水相用電極の電位が高くなるように電位を印加すると水相の陽イオンを有機相に移動させることができる。一方、水相用電極よりも有機相用電極の電位が高くなるように電位を印加すると水相の陰イオンを有機相に移動させることができる。いずれの手法であっても、陽イオンまたは陰イオンの界面移動に伴うイオン移動電流からイオン性物質の絶対定量が可能であり、絶対定量装置10では電源7による電位差の印加を切り替えることにより、両手法を実施することができる。
【0072】
絶対定量装置10では水相は薄層であるため、拡散によりイオン性物質の陽イオンまたは陰イオンが界面を通り、有機相に移動する。電源には電流測定機器(図示しない)が備えられており、陽イオンまたは陰イオンの移動に伴うイオン移動電流を測定し、測定時間にて電流を積分することにより、クーロン数を算出することができ、このクーロン数からイオン性物質の物質量(モル数)が算出できるのである。なお、イオン移動電流が0μAに近づき、変化がなくなった状態になれば、陽イオンまたは陰イオンの移動が終了したものと判断できる。
【0073】
イオン性物質の物質量の算出方法は以下のように行う。すなわち、測定したイオン移動電流を積分することにより得たクーロン数 Q、物質1分子当たりの電荷 n、ファラデー定数 F から、以下の式1に基づきイオン性物質の物質量を定量する。
【0074】
イオン性物質の物質量=Q/nF・・・(式1)
本発明の絶対定量装置10によれば、水相の厚さが薄層であり、拡散によって短時間でイオン性物質を界面移動させることができる。陽イオンまたは陰イオンの移動は、通常30秒程度であり、従来の電解セルでは120秒程度であったことに比較すると、定量時間が1/4程度に短縮されている。また、定量感度は、水相と有機相が接している界面の単位面積当たりのイオン移動電流で決定されるので、界面面積を小さくすることでイオン性物質が非常に少量であっても定量が可能である。実験的には20ピコモルのイオン性物質が定量可能であることを確認しているが、精度よく少量の試料溶液を分取することができれば、理論的には1ピコモルの定量も可能である。定量の上限値は、特に限定されず、100ナノモルであっても定量可能である。
【0075】
拡散によるイオン性物質の移動が効率良くなされることと、水相の供給量をより正確なものとできることから、電解抽出効率((イオン性物質量(実測値)/イオン性物質量(理論値))×100)を約100%とすることができる。上記電解抽出効率は100%であることが理想であるが、20ピコモル以上の範囲において、少なくとも電解抽出効率の平均値が90%以上であることが望ましい。
【0076】
さらに、本発明の絶対定量装置10では、定量過程で内標準物質や検量線が不要である。また、イオン性物質は分子内に電荷を有していれば、測定対象となり得るため、汎用性の高い定量方法となっている。その上、本装置ではイオン性物質が微量であっても定量することができる。このため、他の定量方法で定量が困難なタンパク質、ペプチドなどの微量生体試料が定量対象として特に適している。
【0077】
なお、従来の定量法では、以下のデメリットがある。例えば、抗原‐抗体反応を利用した方法では、市販されているキットの製造会社およびロットによって抗体の反応性が異なり、定量値は非常に大きな誤差を含んでいる。また、色素の吸着や、UV吸収に基づく定量法では、タンパク質の種類によって色素の吸着性およびタンパク質分子に存在するUV吸収部位の数の違いにより、モル数を定量することはできない。質量分析の1種である内標準法では、定量対象物質と内標準物質とのイオン化率が等しいとの仮定の元に定量がなされており、実際のイオン化率との差異が定量値に誤差を生じさせる原因となり得る。
【0078】
〔実施の形態2〕
<フロー式絶対定量装置>
次に、フロー式の絶対定量装置10aについて説明する。図4は、絶対定量装置10aを示す概略図である。なお、説明の便宜上、実施の形態1で用いた部材と同一の機能を有する部材には同一の部材番号を付記し、その説明を省略する。絶対定量装置10aには、水相用電極2に流入流路13および流出流路14が形成されており、この点でバッチ式の絶対定量装置10と大きく異なっている。フロー式の場合、流入流路13を通じて水相収容部8に水相を供給できるため、水相収容層3が水相用電極2および有機相保持層16と積層した状態にて水相の供給が可能である。また、流出流路14を通じて定量後のイオン性物質を装置外に流出させることができるため、連続的な定量が可能である。
【0079】
絶対定量装置10aは、PTFEホルダー1a、水相用電極2、水相収容層3、有機相保持部15、有機相保持層16、導電性高分子膜5、有機相用電極6、PTFEホルダー1bおよび電源7を備えている。絶対定量装置10aでは、導電性高分子膜5と有機相保持部15とが積層される構成となっており、有機相用電極6上に、有機相保持層16のみ(有機相保持部15は有機相保持層16に設置されていない)を密着させることにより、有機相用電極6上に導電性高分子膜5を形成する領域が確保される。この領域に導電性高分子膜5を電析させることにより、有機相用電極6上に導電性高分子膜5を好適に密着させることができ、導電性高分子膜5と有機相用電極6との間から有機相が漏れ出さない構成とできる。有機相保持部15は導電性高分子膜5に積層される。
【0080】
絶対定量装置10aはさらに、移動相収容部18、ポンプ19、注入部20、分離部21、定性部22およびサンプル回収部23を備えている。移動相収容部18には、イオン性物質の移動相となる水性溶媒および水相用支持電解質が収容されている。水性溶媒および水相用電解質はポンプ19を介して、注入部20に供給される。また、試料溶液17は、イオン性物質が水性溶媒に溶解または水和したものであり、注入部20には、試料溶液17も供給される構成となっている。注入部20は分離部21と連結しており、移動相または試料溶液17のそれぞれが注入部20から分離部21に供給される。注入部20は、例えば、公知のオートサンプラーによって形成することができる。
【0081】
分離部21は流入流路13に接続されている。分離部21として具体的には、液体クロマトグラフィーまたはキャピラリー電気泳動装置を挙げることができる。分離部21によれば、水相中のイオン性物質を分離することができるため、イオン性物質が複数種類の混合物であったとしても、各イオン性物質を分離した後、連続して水相収容部8に導入し、それぞれの物質の絶対定量を行うことができる。
【0082】
流入流路13および流出流路14は、水相用電極2およびPTFEホルダー1a間において、耐水性のパイプ(図示しない)によって形成されている。
【0083】
定性部22は、流出流路14の下流に備えられており、流出流路14に接続されている。定性部22は、絶対定量後のイオン性物質を定性分析する定性分析装置であり、質量分析装置、吸光光度分析装置および蛍光光度分析装置からなる群から選ばれるものである。
この好ましい実施形態によれば、試料溶液中での混合物の各成分の絶対定量および定性分析を複合して行うことが可能となる。定性部22にて定性分析されたサンプルはサンプル回収部23にて回収される。
【0084】
移動相収容部18からポンプ19を介した移動相の供給、試料溶液17の注入部20への供給、注入部20から分離部21への水相の供給、電源7による水相用電極2および有機相用電極6への電位の印加、定性部22に関する操作は、各部材に連結された制御装置(図示しない)によって行われる。制御装置はさらに外部表示装置(ディスプレイ)および入力装置(キーボードなど)連結されており、公知の制御装置を用いることができる。
【0085】
なお、絶対定量装置10aは、制御部を備えない構成とすることもできる。たとえば、試料溶液17〜分離部21までを手動によるシリンジ等に変更し、測定者の手動により水相を水相収容部8に供給する構成が挙げられる。また、電源7の電位印加を手動で行うことができる。当該構成の場合、定量作業を手動で行う必要が生じるものの、絶対定量装置の構成を簡略化できるという利点がある。
【0086】
<フロー式絶対定量装置による絶対定量>
絶対定量装置10aによって、イオン性物質の物質量を絶対定量する手法について説明する。絶対定量装置10aはバッチ式の絶対定量装置10とは異なり、図5のように各層が積層された状態にてイオン性物質(試料溶液17)を注入部20から供給する構造となっている。なお、積層の際、有機相保持部15を、有機相支持電解質を含む有機溶媒が保持された状態としておく。
【0087】
まず、支持電解質を含む水性溶媒(ここでは純水)を移動相として移動相収容部18に収容し、移動相収容部18からポンプ19にて注入部20に送液する。さらに、注入部20から分離部21を通じて、移動相を水相収容部8に送液する。
【0088】
次に、電源7により、水相用電極2および有機相用電極6を介して、水相9および有機相(有機相保持部15)との界面での電位差を、イオン性物質のうち陽イオンまたは陰イオンの界面移動が生じる電位差に設定する。この電位差は、移動するイオンによって異なる。具体的には、テトラエチルアンモニウムイオンの場合、0.2V以上であれば界面移動反応が生じる。ただし、0.5V以上になると支持電解質の界面移動が同時に生じるため、絶対定量に最適な電位領域は、0.2V以上、0.5V未満である。
【0089】
移動するイオンが陽イオンの場合、有機相用電極6よりも水相用電極2の電位が高くなるように電位を印加することにより、有機相よりも水相9の電位が高くなる。これにより、陽イオンを水相9から有機相へと移動させることができる。一方、移動するイオンが陰イオンの場合、水相用電極2よりも有機相用電極6の電位が高くなるように電位を印加することにより、水相9よりも有機相の電位が高くなる。これにより、陰イオンを水相9から有機相へと移動させることができる。
【0090】
界面に電位を生じさせた後、試料溶液17を注入部20に送液して、注入部20のオートサンプラー構造により、精確な体積の試料溶液17が分離部21に注入される。試料溶液17中のイオン性物質は分離部21によって各種類ごとに分離され、流入流路13を通り、水相収容部8に移動される。
【0091】
水相収容部8のイオン性物質のうち陽イオンまたは陰イオンは、界面電位差によって水相9から有機相に移動し、陽イオンまたは陰イオンの界面移動に伴うイオン移動電流からイオン性物質の物質量を検出する。具体的には、イオン移動電流のピークを検出し、上記ピークを積分することによってクーロン数を算出し、このクーロン数からイオン性物質の物質量(モル数)を算出することができる。本発明では、陽イオンまたは陰イオンのイオン移動電流からイオン性物質の物質量を絶対定量でき、界面移動するイオンは陽イオンまたは陰イオンのどちらであってもかまわない。
【0092】
水相収容部8内に収容されていた水相中のイオン性物質を定量した後、電源7により有機相から水相9へイオンが逆抽出される電位に切り替えることによって、有機相から水相へイオンを移動させる。具体的には、移動するイオンが陽イオンの場合、水相用電極2よりも有機相用電極6の電位が高くなるように電位を印加することにより、水相9よりも有機相の電位が高くなる。これにより、陽イオンを有機相から水相9へと移動させることができる。一方、移動するイオンが陰イオンの場合、有機相用電極6よりも水相用電極2の電位が高くなるように電位を印加することにより、有機相よりも水相9の方の電位が高くなる。これにより、陰イオンを有機相から水相9へと移動させることができる。
【0093】
その後、注入部20から移動相を流入流路13へ供給することにより、イオン性物質が水相収容部8から流出流路14へと移動される。さらに、分離部21によって分離された他のイオン性物質が水相収容部8へ供給され、連続してイオン性物質の絶対定量を行うことができる。
【0094】
さらに、絶対定量装置10aによれば、非常に低濃度(例えば、1μmol dm−3未満)のイオン性物質を有機相にて濃縮した後に絶対定量することもできる。この点で、イオン性物質を連続して供給できないバッチ式の絶対定量装置とは大きく異なっている。図6は、イオン性物質の濃縮過程を示す断面図である。図6では、陽イオンが界面移動する場合を例に説明するが、陰イオンの場合、電位差を変更する以外は陽イオンと同様のプロセスで界面移動する。
【0095】
まず、図6(a)に示すように、水相収容部8に供給されたイオン性物質(陽イオン9aおよび陰イオン(陰イオンは図示を省略している。))のうち陽イオン9aは、界面の電位差により水相収容部8(水相)から有機相保持部15(有機相)へと移動する(有機相用電極6よりも水相用電極2の電位が高くなるように電位を印加する)。
【0096】
次に、図6(b)のように、さらにイオン性物質(陽イオン9a)を水相収容部8に供給し、陽イオン9aを有機相保持部15へ移動させることによって、陽イオン9aを有機相に留めることができ、図6(c)のように、イオン性物質を有機相にて濃縮することができる。最後に図6(d)のように、濃縮した陽イオン9aを、電源7によって、イオンが有機相から水相に逆抽出する電位に変更する(水相用電極2よりも有機相用電極6の電位が高くなるように電位を印加する)ことにより、水相収容部8に収容された水相と有機相との界面に電位差が生じ、有機相から水相へ陽イオンが移動する。
【0097】
当該手法によれば、水相中のイオン性物質濃度が非常に低濃度であっても、濃縮によりイオン性物質の濃度が高められるため、高感度での絶対定量が可能である。このように、有機相において陽イオンを濃縮する場合、水相収容層3と有機相保持層16の接触面において、水相収容部8が形成された面積と有機相保持部15の面積との面積比が、9:10〜10:9であることが好ましく、1:1であることが特に好ましい。
【0098】
上記のように各面積を設定することにより、水相収容部8の水相と、有機相保持部15の有機相との接触面積を同等(好ましくは同一)に設定することができる。これにより、有機相にて濃縮されたイオンを水相に拡散させ易い。
【0099】
また、イオン性物質の濃縮を行う場合、上記有機相保持部15の厚さが10μm以上、80μm以下であることが好ましい。有機相保持部15の厚さが上記のように薄層であることにより、有機相中のイオン性物質のイオンを水相へ拡散させ易い。よって、高精度での絶対定量が可能となる。
【0100】
なお、有機相へのイオンの移動によりイオン性物質を濃縮する手法は、水銀電極を用いたストリッピングボルタンメトリーの手法を参考にして行うことが可能であり、以下の参考文献7〜12を適宜参照することができる。
参考文献7:H. Katano, M. Senda, Anal. Sci., 14 (1998) 63.
参考文献8:H. J. Lee, C. Breriet, H. Girault, 14 (1998) 71.
参考文献9:M. Senda, H. Katano, Y. Kubota, Collect. Czech. Chem. Commun. 66 (2001) 445.
参考文献10:J. Guo, S. Amemiya, Anal. Chem., 78, (2006) 6893.
参考文献11:Y. Kim, S. Amemiya, Anal. Chem., 80 (2008) 6056.
参考文献12:Y. Kim, P. J. Rodgers, R. Ishimatsu and S. Amemiya, Anal. Chem. 81 (2009) 7262.
以上説明したように、本発明の絶対定量装置によれば、微量のイオン性物質が定量対象であっても、ピコモルオーダーの絶対定量が可能であり、本発明が非常に優れたものであることがわかる。
【0101】
以上のように、フロー式の絶対定量装置10aによれば、(1)異なるイオン性物質を水相収容部8に供給することにより、連続して絶対定量が可能である。(2)また、有機相へのイオン移動により、イオン性物質を濃縮させることも可能である。(3)さらに、分離部、定性部といった他の装置との複合化、(4)測定後の目的物質の回収も可能である。
【0102】
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0103】
本発明について、実施例および図2,7〜11に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例における電流/電圧特性(ボルタモグラム)、電流/時間特性および電解抽出効率は次のようにして評価した。なお、実施例での絶対定量には図2の絶対定量装置10を使用した。
【0104】
〔電流/電圧特性(ボルタモグラム)〕
電源7としてポテンショスタット/ガルバノスタットPGSTAT12(Autolab社)を使用し、水相用電極2と有機相用電極6との間に電位差を印加し、電位差を毎秒 5 mVの速度で印加電位を正負に変化させ、それと同時に両電極間に流れる電流を、電源7を使用して電流/電圧の関係として記録した。
【0105】
〔電流/時間特性〕
電源7として設置したポテンショスタット/ガルバノスタットPGSTAT12(Autolab社)を使用して、有機相用電極に対する水相用電極の電位を0.4Vに固定し、電位印加によって流れた電流を電流/時間曲線として記録した。
【0106】
〔物質量の測定〕
有機相用電極に対する水相用電極の電位として0.4Vを印加し、その時に測定した電流/時間曲線を積分することによってイオン移動電流として流れた電荷のクーロン数を見積もった。測定対象であるイオン性物質が水相に存在するときのクーロン数から存在しないときのクーロン数を差し引き、それによって得られたクーロン数Qを用いて(式1)から見積もった。
【0107】
〔電解抽出効率〕
測定対象であるイオン性物質、テトラエチルアンモニウム(TEA)の塩化物塩の純度を、硝酸銀により滴定によって確認し、試料溶液中にあるTEAの濃度を決定した。TEAの濃度と体積からTEA 物質量の理論値(sampleの物質量)を求めた。一方、この理論値を横軸とし、実際に定量したTEAの物質量(測定した物質量)を縦軸にプロットした。また、以下の式2に基づき電解抽出効率を算出した。
【0108】
(TEA物質量(実測値)/TEA物質量(理論値))×100…(式2)
〔実施例1〕
図2の絶対定量装置10を用いて、テトラエチルアンモニウムクロリドの絶対定量を行った。移動相としては、支持電解質として0.01 mol dm−3 NaCl を含む水溶液を、有機溶媒としてはジクロロエタンを使用した。支持電解質として、水相には、0.01 mol dm−3 NaCl を、有機相には、10−3 mol dm−3 ビス(トリフェニルフォスフォラニリデン)アンモニウム・テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレートを添加した。また、絶対定量装置10を構成する各部材(括弧内は部材の厚さ)としては、PTFEホルダー1a、1bとしてテフロン板(5 mm)、水相用電極2として銀/塩化銀電極(500 μm)、水相収容層3としてテフロンフィルム(50μm)、有機相保持層4としてテフロン多孔質膜(50 μm)、導電性高分子膜5としてポリエチレンジオキシチオフェン膜(最大酸化還元電気容量 8mC)、有機相用電極6としてITO(インジウムスズ酸化物)電極(1 mm)、電源7としてポテンショスタット/ガルバノスタットPGSTAT12(Autolab社)を用いた。
【0109】
まず、PTFEホルダー1a、水相用電極2および水相収容層3を積層した。水相収容層3には、直径0.6cmの円柱状の水相収容部8が形成されている。テトラエチルアンモニウムクロリドは上記〔電解抽出効率〕における銀滴定にて「Sampleの物質量」(理論値)を定量したものを使用した。
【0110】
2×10−5 mol dm−3 のテトラエチルアンモニウムクロリドと支持電解質を含む水溶液をマイクロピペットにて 1 μl 精確に分取し、水相収容部8の中央部に配置した。その上から、有機相保持層4、導電性高分子膜5、有機相用電極6およびPTFEホルダー1bを積層した。これにより、テトラエチルアンモニウムクロリド水溶液が50μmの厚さとなった。その後、水相9に対して電流/電圧特性(ボルタモグラム)の測定を行った。図7に、そのボルタモグラムの測定結果を示す。
【0111】
図7における正の電流ピークは、テトラエチルアンモニウムイオン(TEA)が水相から有機相へ抽出(移動)されていることを示しており、負の電流ピークは、TEAが有機相から水相へ逆抽出されていることを示している。これにより、TEAが問題なく両相間を移動していることが確認できた。
【0112】
次に、図7の結果から、TEAが水相から有機相へ移動する電位、すなわち0.4Vを界面に印加して、TEAの界面移動に伴うイオン移動電流の時間経過を測定した。図8に電流/時間特性の測定結果を示す。図8に示すように、イオン移動電流は時間と共に減衰し、TEAの界面移動が約30秒程度で達成されることが分かった。従来提案されていた電解セルでは120秒程度であったことと比較すると、1/4程度に電解時間が短縮されている。
【0113】
さらに、図8における電流量から電解抽出効率を測定した。図9は、電解抽出効率等を示すグラフである。図9における横軸のSampleの物質量は、テトラエチルアンモニウムクロリド水溶液の濃度と体積とから見積もった理論物質量であり、縦軸の測定した物質量は電流から見積もった物質量である。縦軸の測定した物質量は、横軸のSampleの物質量と非常に良く一致しており、絶対定量装置10が検量線を必要とすることなく、絶対定量に使用できることが示されている。
【0114】
また、図9にはTEAが有機相へ移動した割合である電解抽出効率も示した。物質量が20ピコモル以上であれば、94.5±8.5%の範囲で理論値と一致していることが分かる。本発明に係る絶対定量装置10によれば、高い電解抽出効率を発揮することができ、絶対定量装置10を用いてピコモルオーダーの物質量を絶対定量できることが実証された。
【0115】
〔実施例2〕
図2の絶対定量装置10を用いて、タンパク質の絶対定量を行った。用いたタンパク質は、Lys-Leu-Val-Phe-Pheのアミノ酸配列を有するアミロイドβタンパク質である。電解効率を見積もるため、タンパク質試料として含有量が決定済みの合成タンパク質を用いた。同タンパク質は、中性のpH水溶液で1価陽イオンとして存在する。各相の溶媒、支持電解質、絶対定量装置10を構成する各部材については、実施例1と同様である。
【0116】
10−4 mol dm−3 のタンパク質と支持電解質を含む水溶液をマイクロピペットにて1μlに分取し、実施例1と同様に測定を行った。図10にそのボルタモグラムを示す。図10における正の電流ピークは、タンパク質が水相から有機相へ抽出(移動)されていることを示している。なお、実施例1で観察されたように、タンパク質が有機相から水相へ逆抽出される負の電流ピークは観察されなかった。これは、有機相中にてPTFE多孔質膜に強く吸着し、逆抽出されなかったと考えられる。
【0117】
図10の結果から、タンパク質が水相から有機相へ移動する電位、すなわち0.6 Vを界面に印加し、タンパク質の界面移動に伴うイオン移動電流の時間経過を測定した(図11)。図11において、タンパク質が存在しない時の電流量を差し引いて、タンパク質の界面移動電荷量を見積もり、タンパク質の物質量に変換したところ、タンパク質試料から見積もった理論値が0.10 nmolであるのに対し、測定値は0.13 nmolであった。誤差としては大きいが、タンパク質の物質量測定が可能であることが示唆されている。実際のタンパク質量と比較して約30%大きな値が得られた原因としては、測定したタンパク質が親水性であったため、バックグラウンド電流と重なっている電位領域で電解したことが挙げられる。支持電解質の種類を変更する、あるいは支持電解質濃度をさらに低濃度にすることによって、バックグラウンド電流とタンパク質の移動電流の分離が可能であるため、より精度の高い測定が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明に係る絶対定量装置は、イオン性物質の物質量の測定装置として利用可能であり、様々な分野で応用可能である。
【符号の説明】
【0119】
1a・1b PTFEホルダー
2 水相用電極
3 水相収容層
4 有機相保持層
5 導電性高分子膜
6 有機相用電極
7 電源
8 水相収容部
9 水相
9a 陽イオン
10・10a 絶対定量装置
13 流入流路
14 流出流路
15 有機相保持部
16 有機相保持層
17 試料溶液
18 移動相収容部
19 ポンプ
20 供給部
21 分離部
22 定性部
23 サンプル回収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性物質の物質量の絶対定量に使用される絶対定量装置であって、
水性溶媒にイオン性物質および水相用支持電解質を含む水相を収容する水相収容部が形成された水相収容層と、
水性溶媒に溶解したイオン性物質が水性溶媒から移動可能な有機溶媒に有機相用支持電解質を含む有機相を保持する有機相保持部を含み、水相収容層と接触している有機相保持層と、
上記水相収容層に導電する水相用電極と、
上記有機相保持層に導電する有機相用電極と、
上記有機相保持層と有機相用電極との間に配置された導電性高分子膜と、
上記水相用電極および有機相用電極に連結された電源とが備えられており、
上記水相用電極、水相収容層、有機相保持層、導電性高分子膜および有機相用電極は積層されており、上記水相収容層の厚さが、10μm以上、80μm以下であり、
上記電源によって、有機相用電極と水相用電極との間に電位が印加されることにより、水相収容部に収容された水相と有機相との界面に電位差を生じさせ、上記イオン性物質のうち陽イオンまたは陰イオンの水相から有機相への界面移動に伴うイオン移動電流からイオン性物質の物質量を絶対定量するようになっていることを特徴とする絶対定量装置。
【請求項2】
上記イオン性物質がペプチドまたはタンパク質であることを特徴とする請求項1に記載の絶対定量装置。
【請求項3】
上記水相収容層と有機相保持層との接触面において、水相収容部が形成された面積と有機相保持部の面積との面積比が、9:10〜10:9であることを特徴とする請求項1または2に記載の絶対定量装置。
【請求項4】
上記有機相保持部の厚さが10μm以上、80μm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の絶対定量装置。
【請求項5】
上記水相用電極に、水相が水相収容部へ流入する流路となる流入流路と、水相収容部から少なくとも水相が流出する流路となる流出流路とが形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の絶対定量装置。
【請求項6】
上記電源によって、有機相用電極と水相用電極との間に電位が印加されることにより水相収容部に収容された水相と有機相との界面に電位差を生じさせ、上記流入流路から供給されたイオン性物質のうち陽イオンまたは陰イオンを水相から有機相へ移動させることによって、イオン性物質を濃縮し、
上記電源によって、有機相用電極と水相用電極との間に電位が印加されることにより、水相収容部に収容された水相と有機相との界面に電位差を生じさせ、有機相における陽イオンまたは陰イオンを水相へと界面移動させることによって生じるイオン移動電流からイオン性物質の物質量を絶対定量するようになっていることを特徴とする請求項5に記載の絶対定量装置。
【請求項7】
上記イオン性物質が供給される液体クロマトグラフィーまたはキャピラリー電気泳動装置が上記流入流路に接続され、
質量分析装置、吸光光度分析装置および蛍光光度分析装置からなる群から選ばれる1種の定性分析装置が上記流出流路に接続されていることを特徴とする請求項5または6に記載の絶対定量装置。
【請求項8】
上記水性溶媒が親水性多孔質膜または親水性ゲルによって保持されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の絶対定量装置。
【請求項9】
請求項1〜4の何れか1項に記載の絶対定量装置を使用してイオン性物質の物質量を絶対定量する絶対定量方法であって、
上記水相収容部に水相収容部の容積未満の水相を供給すると共に、
上記有機相保持層に有機相を供給し、
上記水相用電極、水相収容層、有機相保持層、導電性高分子膜および有機相用電極を積層し、
上記電源によって、上記電源によって、有機相用電極と水相用電極との間に電位を印加することにより、水相収容部に収容された水相と有機相との界面に電位差を生じさせ、イオン性物質のうち陽イオンまたは陰イオンの水相から有機相への界面移動に伴うイオン移動電流からイオン性物質の物質量を絶対定量することを特徴とする絶対定量方法。
【請求項10】
上記水相収容部に供給する水相の体積は、水相収容部の容積に対する10%以上、90%以下であることを特徴とする請求項9に記載の絶対定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−122883(P2012−122883A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274705(P2010−274705)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度採択、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「タンパク質の新規電気化学定量法の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】