説明

イオン性高分子

【課題】リチウムイオン二次電池用固体電解質の構成材料として、優れたイオン伝導性に寄与するイオン性高分子の提供。
【解決手段】脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位とスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有するイオン性高分子であって、該スルホンイミド基を有する繰り返し単位中のスルホンイミド基は、下記式(1):
−SON(M)SO ・・・(1)
{式中、Rは、フッ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、及びフルオロアルキル基から成る群から選ばれる基であり、そしてMは、プロトン又はリチウムイオンである。}で表されることを特徴とする前記イオン性高分子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用電解質又は燃料電池用電解質として有用なイオン性高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は小型で高容量であることから、携帯機器の充電池等に用いられているが、近年、環境負荷低減の要請により、電力貯蔵や電気自動車用電池への展開が期待されている。
【0003】
特に、近い将来に展開が期待されている電気自動車用途では、これまで以上に高い高容量化が求められている。高容量化を達成する最も効果的な方法として、金属リチウム負極の使用が検討されている。負極活物質として金属リチウムを用いると、高起電力が得られ、軽量で高容量に大きく寄与する。しかしながら、リチウムイオン二次電池には有機溶媒に電解質塩を溶解させた有機電解液が用いられているため、充放電によってリチウムデンドライトが析出、成長するという問題があり、これが正極に達すると内部短絡が起こる。
【0004】
金属リチウム負極の使用を可能にするためには、リチウムデンドライトの析出を物理的に抑制する必要があり、電解質の固体化に期待が集まっている。このため、有機電解液を全く含有していない全固体電解質に関して検討がなされており、一例としてPEO(ポリエチレンオキサイド)が挙げられる。しかしながら、PEOのような高分子固体電解質では、高分子鎖の運動性がイオン伝導を支配しているため、室温や低温でのイオン伝導性が極めて低く、室温以下では電池の出力がほとんど出ないという問題がある。
【0005】
一方、「電解質の固体化」と「高いイオン伝導性の発現」を両立させる技術として、イオン性高分子に非水溶媒を保持させた電解質の検討がなされている。
以下の特許文献1には、テトラフルオロエチレン(TFE)ユニットとパーフルオロスルホンイミドユニットとの共重合体及びその製造方法が開示されている。しかしながら、これらのパーフルオロ系ポリマーは非常に高価であること、金属リチウムに容易に還元されるTFEユニットを含有しているなどの欠点から実用的でない。
【0006】
特許文献2には、スルホンイミド基を有するモノマーのホモ重合体と非水溶媒からなる電解質が開示されている。これらのポリマーは脂肪族炭化水素を有する繰り返し単位を含有していないため、非水溶媒と混合した際に溶解するという欠点がある。かかる電解質を固体電解質として用いるためには、エラストマーによる共硬化を必要とし、その製造方法は非常に繁雑である。
【0007】
以下の特許文献3には、脂肪族炭化水素を有する繰り返し単位とスルホン酸基を含有する繰り返し単位からなる共重合体に水を含ませた燃料電池用高分子電解質が開示されている。この高分子電解質では、スルホン酸基が大量の水を保持し、保持した水により高いイオン伝導度を発現する。しかしながら、スルホン酸基は非水溶媒を容易に保持することができず、非水溶媒中でのイオンの解離度が低いという問題がある。そのため、非水溶媒を電解液として用いるリチウムイオン電池用電解質として用いるためには、イオン伝導度が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5463005号明細書
【特許文献2】特表2003−525957号公報
【特許文献3】特表平10−503788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、従来技術が有する上記問題に鑑み、リチウムイオン二次電池用固体電解質の構成材料として、優れたイオン伝導性に寄与するイオン性高分子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記した従来技術の高分子電解質に伴う問題を解決すべく、また前記した要求を満たすべく、イオン性高分子の分子構造について鋭意検討し実験を重ねた結果、非水溶媒により膨潤しにくい脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位とリチウムイオン又はプロトンを解離しうるスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有するイオン性高分子は、非水溶媒に溶解せず、高いイオン伝導性に寄与していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位とスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有するイオン性高分子であって、該スルホンイミド基を有する繰り返し単位中のスルホンイミド基は、下記式(1):
−SON(M)SO ・・・(1)
{式中、Rは、フッ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、及びフルオロアルキル基から成る群から選ばれる基であり、そしてMは、プロトン又はリチウムイオンである。}で表されることを特徴とする前記イオン性高分子。
【0012】
[2]前記脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位は、下記式(2):
【化1】

{式中、R、及びRは、水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。}で表される、前記[1]に記載のイオン性高分子。
【0013】
[3]前記スルホンイミド基を有する繰り返し単位は、下記式(3):
【化2】

{式中、R、及びMは、記式(1)において定義したものと同じであり、R〜Rは、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、及び炭素数1〜4のアルキル基から成る群から選ばれる基であり、Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、エーテル基を有する炭素数1〜4のフルオロアルキル基、及びエーテル基を有する炭素数1〜4のアルキル基から成る群から選ばれる基であり、そしてm、及びnは、0〜4の整数である。}で表される、前記[1]又は[2]に記載のイオン性高分子。
【0014】
[4]前記スルホンイミド基を有する繰り返し単位は、下記式(4):
【化3】

{式中、R、及びMは、記式(1)において定義したものと同じであり、そしてR、及びnは、前記式(3)において定義したものと同じである。}で表される、前記[3]に記載のイオン性高分子。
【0015】
[5]前記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の含有率は、前記式(2)で表される脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位の1モル%以上100モル%以下である、前記[2]〜[4]のいずれかに記載のイオン性高分子。
【0016】
[6]前記イオン性高分子のイオン交換容量は、0.5ミリ当量/g以上3.0ミリ当量/g以下である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のイオン性高分子。
【0017】
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載のイオン性高分子と、非水溶媒又は水とを含有する高分子電解質。
【0018】
[8]以下のステップ:
(I)下記式(5):
【化4】

{式中、R、及びRは、水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。}で表される脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位と、下記式(6):
【化5】

{式中、R〜Rは、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、及び炭素数1〜4のアルキル基から成る群から選ばれる基であり、Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、エーテル基を有する炭素数1〜4のフルオロアルキル基、及びエーテル基を有する炭素数1〜4のアルキル基から成る群から選ばれる基であり、m、及びnは、0〜4の整数であり、そしてXはハロゲン原子である。}で表されるハロゲン化スルホニル基を有する繰り返し単位と、
からなる共重合体を、塩基性化合物存在下、下記式(7):
SONH ・・・(7)
{式中、Rは、フッ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、及びフルオロアルキル基から成る群から選ばれる基である。}で表されるスルホンアミド化合物と、接触させてスルホンイミド化する、及び
(II)得られたスルホンイミドを酸洗浄する、
を含む、式(3)中、Mがプロトンである、前記[3]に記載のイオン性高分子の製造方法。
【0019】
[9]前記[8]の方法により製造されたイオン性高分子をリチウム化合物と接触させるステップをさらに含む、式(3)中、Mがリチウムイオンである、前記[3]に記載のイオン性高分子の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のイオン性高分子は、非水溶媒又は水を含有させても固体状を維持することができることから、リチウム二次電池用又は燃料電池用高分子電解質用の、高イオン伝導性に寄与するイオン性高分子として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のイオン性高分子は、脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位と、スルホンイミド基を有する繰り返し単位とを、少なくとも含有する共重合体である。本発明においてイオン性高分子とは、高分子中にイオン的に解離しうるイオン構造、すなわちイオン性官能基を有する高分子をいう。本発明のイオン性高分子のイオン性官能基は、対イオンにプロトン又はリチウムイオンを有するスルホンイミド基である。
【0022】
本発明のイオン性高分子は、脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位と、スルホンイミド基を有する繰り返し単位とを、含有することを特徴とする。ここで、脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位は、炭素原子と水素原子のみから構成され、イオン性官能基を実質的に含有しない。したがって、非水溶媒及び/又は水により膨潤し難く、溶解しないという性質を有する。したがって、本発明のイオン性高分子は、非水溶媒及び/又は水を含有した後でも固体状を維持することができる。
【0023】
一方、上記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位は、非水溶媒及び/又は水との親和性が高く、保持しやすい性質を有している。非水溶媒及び/又は水が上記式(1)のスルホンイミド基近傍に局所的に存在するため、非水溶媒及び/又は水の含有量が少量でも、高いイオン伝導性を発現することができると考えられる。
【0024】
脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位以外では、フルオロアルキル基からなる繰り返し単位も非水溶媒及び/又は水により膨潤し難く、保持し難い性質を有する。しかしながら、脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位は、フルオロアルキル基からなる繰り返し単位と比較して、安価で、金属リチウム負極による還元により強いという特徴を有する。したがって、イオン性高分子非水溶媒及び/又は水に対する不溶性を担う繰り返し単位としては、脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位であることが好ましい。
【0025】
本発明において、脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位は、好ましくは、下記式(2):
【化6】

{式中、R、及びRは、水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。}で表される。
【0026】
上記式(2)で表される脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位のR、及びRにおいて、「炭素数1〜4の炭化水素のアルキル基」とは、飽和炭化水素であり、直鎖でも分岐していてもよい。R、及びRの具体的例としては、
−H −CH
−CHCH
−(CHCH
−CH(CH
−(CHCH
−CHCH(CH
−CH(CH)CHCH
−C(CH
が挙げられる。
【0027】
本発明のイオン性高分子は、上記式(2)で表される脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位を含有する。上記式(2)で表される脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位として、少なくとも1種類がイオン性高分子に含有される必要があるが、2種以上を組合せてイオン性高分子に含有させてもよい。2種以上をイオン性高分子に含有させる場合、例えば、エチレンユニット(R、R=H)とプロピレンユニット(R=H、R=CH)の両方を含有させることも可能である。脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位は、全て非水溶媒及び/又は水により膨潤し難く、非水溶媒を保持し難い性質を有し、2種以上を組合せても上記効果を保持することができる。
【0028】
イオン性高分子は、製造技術上の観点から、
【化7】

で表される脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位の内、1種又は2種以上を組み合わせて含有させることが好ましい。
【0029】
イオン性高分子は、より好ましくは、
【化8】

で表される共重合体ユニットである。尚、2種以上を組み合わせて含有させる場合、共重合体の構成は、ランダム構造、ブロック構造、マルチブロック構造、グラディエント構造いずれの構造であってもよい。
【0030】
本発明のイオン性高分子は、下記式(1):
−SON(M)SO ・・・(1)
{式中、Rは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基若しくはアルキル基であり、Mは、プロトン又はリチウムイオンである}で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位を含有することを特徴とする。式(1)で表されるスルホンイミド基近傍に非水溶媒又は水が局所的に存在する結果、高いイオン伝導性が発現できると考えられる。イオン性高分子中の式(1)で表されるスルホンイミド基の存在位置は特には限定されないが、効果的なイオン伝導性の観点から、式(1)で表されるスルホンイミド基はイオン性高分子の側鎖に存在することが好ましい。
【0031】
上記式(1)で表されるスルホンイミド基のRは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基若しくはアルキル基である。ここで、炭素数1〜8のフルオロアルキル基若しくはアルキル基とは、下記式(8):
−C2m+1−a ・・・(8)
{式中、mは、1〜8の整数であり、そしてaは、0〜17の整数である。}で表されるフッ素原子で置換されていてもよい飽和炭化水素基であり、直鎖でも分岐していてもよい。
【0032】
上記式(8)で表されるスルホンイミド基のRは、イオン伝導性の観点から、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基であることが好ましい。パーフルオロアルキル基の例としては、
−CF
−CFCF
−(CFCF
−CF(CF
−(CFCF
−CFCF(CF
−CF(CF)CFCF
−(CFCF
−(CFCF
−(CFCF
−(CFCF
などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。製造技術上の観点から、Rは、
−CF
−CFCF
−(CFCF
−CF(CF
−(CFCF
であることが、より好ましい。
【0033】
上記式(1)で表されるスルホンイミド基のMは、対イオンを表し、Mは、プロトン又はリチウムイオンである。Mがプロトンであれば、本発明のイオン性高分子はプロトン伝導体として機能し、燃料電池用電解質として用いることができ、一方、Mがリチウムイオンであれば、リチウムイオン伝導体として機能し、リチウムイオン電池用電解質として用いることができる。
【0034】
上記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の構造は特には限定されないが、ビニルスルホンイミドユニット、アリルスルホンイミドユニット、スチレンスルホンイミドユニットが好ましく挙げられる。上記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の構造として、より好ましくは、チレンスルホンイミドユニットを一例として挙げることができる。
【0035】
前記スチレンスルホンイミドユニットとしては、下記一般式(3):
【化9】

{式中、R、及びMは、記式(1)において定義したものと同じであり、R〜Rは、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、及び炭素数1〜4のアルキル基から成る群から選ばれる基であり、Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、エーテル基を有する炭素数1〜4のフルオロアルキル基、及びエーテル基を有する炭素数1〜4のアルキル基から成る群から選ばれる基であり、m、及びnは、0〜4の整数である。}で表される繰り返し単位であることが好ましく、下記一般式(4):
【化10】

{式中、R、及びMは、記式(1)において定義したものと同じであり、そしてR、及びnは、前記式(3)において定義したものと同じである。}で表される繰り返し単位であることがより好ましい。
【0036】
上記式(3)で表されるスルホンイミドユニットのR〜Rは、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1〜4のフルオロアルキル基若しくはアルキル基である。ここで、炭素数1〜4のフルオロアルキル基若しくはアルキル基とは、下記式(9):
−C2m+1−a ・・・(9)
{式中、mは、1〜4の整数であり、そしてaは、0〜9の整数である。}で表されるフッ素原子で置換されていてもよい飽和炭化水素基であり、直鎖でも分岐していてもよい。
【0037】
上記式(5)で表されるスルホンイミドユニットのR〜Rの例としては、製造技術上の観点から、
−H
−CH
−CHCH
−CH(CH
−C(CH
−F
−CF
−CFCF
−CF(CF
などが好ましく挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
上記式(3)又は式(4)で表されるスルホンイミドユニットのRは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基又はアルキル基、エーテル基を有する炭素数1〜4のフルオロアルキル基又はアルキル基である。ここで、炭素数1〜4のフルオロアルキル基又はアルキル基、は、下記式(10):
―C2m―a― ・・・(10)
{式中、mは、1〜4の整数であり、そしてaは、0〜8の整数である。}で表され、直鎖でも分岐していてもよい。
【0039】
上記式(3)又は式(4)で表されるスルホンイミドユニットのRおいて、上記エーテル基を有する炭素数1〜4のフルオロアルキル基又はアルキル基とは、下記式(11):
−OC2m−a− ・・・(11)
{式中、mは、1〜4の整数であり、そしてaは、0〜8の整数である。}で表され、直鎖でも分岐していてもよい。
【0040】
上記式(3)又は式(4)で表されるスルホンイミドユニットのRの例としては、製造技術上の観点及びイオン伝導性の観点から、
−CH
−CHCH
−CF
−CFCF
−OCHCH
−OCFCF
などが好ましく挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
イオン性高分子は、前記脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位、及び上記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位以外の構造を有する繰り返し単位を含有してもよい。特に、下記式(12):
−SOM ・・・(12)
{式中、Mは、プロトン又はリチウムイオンである。}で表されるスルホン酸基を有する繰り返し単位は、イオン性高分子の作製や精製上の制約から、イオン性高分子中に含有されてもよい。
【0042】
上記式(12)で表されるスルホン酸基を有する繰り返し単位の含有率は、上記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の60モル%以下であることが、イオン伝導性の観点から好ましく、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは40モル%以下である。
尚、上記式(12)で表されるスルホン酸基を有する繰り返し単位がイオン性高分子中に含有される場合、後述するイオン交換容量は、上記式(12)で表されるスルホン酸基に由来するイオン交換容量を含むものとなる。
【0043】
また、本発明のイオン性高分子には、前記脂肪族炭化水素を有する繰り返し単位、及び上記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位を含有していることが必要であり、上記式(12)で表されるスルホン酸基を有する繰り返し単位、及びそれ以外の構造を有する繰り返し単位を含有してもよい。特に、スチレン誘導体、アクリル誘導体、アクリルアミド誘導体、アクリロニトリルなどを必要に応じて含有させることができる。
【0044】
本発明のイオン性高分子は、そのイオン交換容量が0.5ミリ当量/g以上3.0ミリ当量/g以下であることが好ましい。該イオン交換容量が0.5ミリ当量/g以上であれば、十分なイオン伝導性を担保することができ、3.0ミリ当量/g以下であれば非水溶媒を含有させた際に良好な強度を担保することができる。イオン交換容量は、より好ましくは0.6ミリ当量/g以上2.0ミリ当量/g以下、さらに好ましくは、0.6ミリ当量/g以上1.8ミリ当量/g以下である。
【0045】
尚、本発明のイオン性高分子のイオン交換容量は、以下のようにして測定される。
対イオンがリチウムイオンであるイオン性高分子については、10質量%硫酸水溶液にイオン性高分子を浸漬し、イオン性高分子中のイオン交換基の対イオンをリチウムイオンからプロトンに変換する。プロトンを有するイオン性高分子を、25℃の飽和NaCl水溶液に浸漬し、その水溶液を十分な時間攪拌する。次いで、その飽和NaCl水溶液中のプロトンを、0.01N水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定する。中和後に得られたイオン交換基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっているイオン性高分子を、純水で濯ぎ、更に真空乾燥した後、秤量する。中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM(mmol)、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンであるイオン性高分子の質量をW(mg)とし、下記式:
EW =(W/M)−23+1 (対イオンがプロトンである場合)、又は
EW =(W/M)−23+7 (対イオンがリチウムイオンである場合)
により当量質量EW(g/当量)を求める。
【0046】
さらに、得られたEW値の逆数をとって1000倍することにより、イオン交換容量(ミリ当量/g)が算出される。このイオン交換容量は、イオン性高分子1g中に存在するイオン交換基数を調整することで上記数値範囲内に入るよう調整される。
【0047】
本発明のイオン性高分子は、前記脂肪族炭化水素をからなる繰り返し単位、及び上記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有する共重合体であるが、共重合体の構成は、ランダム構造、ブロック構造、マルチブロック構造、グラディエント構造いずれの構造であってもよい。
前記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の含有率は、前記式(2)で表される脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位の1モル%以上100モル%以下である。該含有率が1モル%以上であれば、十分なイオン伝導性を担保することができ、50モル%以下であれば十分な強度を担保できる。該含有率は、5モル%以上80モル%以下であることが好ましく、より好ましくは5モル%以上60モル%以下である。
【0048】
前記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の含有率は、H−NMRから、脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位に由来する任意のプロトンの積分値とスルホンイミド基を有する繰り返し単位に由来する任意のプロトンの積分値から算出することができる。
【0049】
本発明のイオン性高分子は、脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位とハロゲン化スルホニル基を有する繰り返し単位とからなる共重合体を用いて塩基性化合物存在下、スルホンアミド化合物と接触させた後、洗浄、必要に応じてリチウム化合物と接触させることで製造できるが、上記共重合体の製造方法を先ず最初に説明する。
【0050】
上記共重合体、すなわち、上記式(2)で表される脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位と上記式(6)で表されるハロゲン化スルホニルを有する繰り返し単位からなる共重合体は、スチレン系エラストマーと総称される共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体の共役ジエン部分を水素添加したブロック共重合体に、公知のスルホン化、クロルスルホン化、スルホンイミド化等の処理によりスルホンイミド基を導入して得ることができる。
ブロックの形態としては、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、ラジアルブロック共重合体、マルチブロック共重合体等が挙げられ、これらの中ではトリブロック共重合体が好ましく用いられる。
【0051】
尚、上記スチレン系エラストマーは、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とを、アニオン重合、カチオン重合、配位重合、ラジカル重合等の公知の方法によってブロック共重合したものが制限なく採用される。これら製造条件は、特に限定されるものではないが、リビングアニオン重合によって製造されたものが、好適に使用される。
上記スチレン系エラストマーの具体例としては、製造上の観点から、ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレントリブロック(SEPS)共重合体、ポリスチレン− ポリイソブチレン− ポリエチレントリブロック共重合体(SIBS)等が好ましく挙げられが、これらに限定されるものではない。
【0052】
次に上記の製造方法にて得られた脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位とハロゲン化スルホニル基を有する繰り返し単位とからなる共重合体を用いて本発明のイオン性高分子を得るための好適な製造方法について説明する。
スルホンイミド基の導入方法は、スルホンイミド基を導入可能な部位を有するプレポリマーを合成した後、該プレポリマーにある導入可能な部位にスルホンイミド基を導入する方法であっても、予めスルホンイミド基を有するモノマーを重合する方法であってもよい。中でも、作業効率の観点から、前者の方法がより好ましい。
【0053】
スルホンイミド基を導入可能な構造としては、芳香環に直接結合している水素原子を有しているか、スルホンイミドに変換可能な官能基を有している構造が挙げられる。芳香環に直接結合している水素原子を有している場合、スルホン化反応により、芳香環にスルホン酸基を導入後、スルホンイミド基へ変換することができる。スルホンイミド基に変換可能な官能基としては、特に制限はないが、例えば、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸などが挙げられる。
【0054】
前記スルホン化反応に用いるスルホン化剤としては濃硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、クロロスルホン酸などを用いることができるが、これらの酸に限定されるものではない。スルホン化反応は、スルホン化剤と前記プレポリマーが接すればよく、プレポリマーは粉末、膜などの固体状態であっても、溶媒に溶解させた溶液状態であってもよい。スルホン化の度合いはスルホン化剤の使用量、反応温度及び反応時間により、容易に制御できる。
【0055】
スルホン化反応は非溶媒で行うこともできるが、溶媒を使用してもよい。ここで、使用できる溶媒は、反応物質に対して不活性な溶媒であればよく、例えば、ペンタン、ヘキサン、トルエン、キシレンなどのなどの炭化水素溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素溶媒などを挙げることができる。尚、これらの溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0056】
上記のスルホン化反応を行なう場合の反応温度は−50〜100℃であることが好ましく、0〜50℃であることがより好ましい。反応時間は用いるイオン性高分子の種類や、反応温度、スルホン化剤、溶媒などの条件によって異なるが、生産効率の観点から0.1〜100時間であり、好ましくは1〜48時間である。
【0057】
スルホン酸基をスルホンイミド基に変換するためには、まず、下記式(13):
−SOX ・・・(13)
{式中、Xは、ハロゲン原子である。}で表されるハロゲン化スルホニル基に変換する必要がある。上記式(13)において、Xはハロゲン原子であるが、ハンドリング性や製造上の観点から、Xは、好ましくはフッ素、塩素、臭素、沃素であり、より好ましくはフッ素、塩素である。
【0058】
スルホン酸基からSOCl基に変換するハロゲン化剤としては、塩化チオニル、五塩化リン、オキシ塩化リンなどを用いることができるが、これらのハロゲン化剤に限定されるものではない。ハンドリング等の理由から塩化チオニルを用いることが好ましい。尚、これらのハロゲン化剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
上記前駆体高分子のスルホンイミド化の条件は特に制限されないが、一例としては、非プロトン性溶媒中で、塩基性化合物存在下、下記式(7):
SONH ・・・(7)
{式中、Rは、前記式(1)において定義したものと同じである。}で表されるスルホンアミド化合物と接触させて、下記式(14):
−SON(M’)SO ・・・(14)
{式中、M’は、4級アンモニウムイオン、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属であり、そしてRは、前記式(1)において定義したものと同じである。}で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位を有するイオン性高分子を得ることが好ましい。尚、上記スルホンイミド化の際、反応系中の残存水分の影響等により、得られたイオン性高分子が、上記式(12)で表されるスルホン酸単位を含有することとなる場合があるが、スルホン酸単位がイオン性高分子中に存在していてもよい。上記式(12)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位のモル含有率は、上記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の60モル%以下であることが、イオン伝導性の観点から好ましく、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは40モル%以下である。
【0060】
上記塩基性化合物の具体例としては、LiCO、NaCO、KCO、CsCO、CaCO、BaCO等の炭酸塩、NaHCO、KHCO等の炭酸水素塩、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の3級アミン、ピリジン、イミダゾール等の複素環式アミンが挙げられる。これらに限定されるものではないが、塩基性化合物は、好ましくはジイソプロピルエチルアミン等の3級アミンである。
【0061】
上記のスルホンイミド化反応で使用する溶媒は、反応物質に対して不活性な溶媒であればよく、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられ、これらの溶媒は、単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。
【0062】
上記のスルホンイミド化反応を行なう場合の反応温度は、0〜200℃であることが好ましく、50〜150℃であることがより好ましい。生産効率の観点から、反応時間は、0.1時間〜100時間であることが好ましく、1時間〜48時間であることがより好ましい。
【0063】
得られた高分子は、必要に応じて水洗、温水洗浄、酸洗浄を行い、その後、水酸化リチ
ウム水溶液に浸漬し、スルホンイミドリチウム塩とすることで、上記式(1)と上記式(2)の繰り返し単位を含有するイオン性高分子を得ることができる。また、水洗、温水洗浄、酸洗浄の後に、塩基性反応液体中で加水分解処理を施すことにより、未反応のSOCl基をSOLi基に変えることができるため、本加水分解処理を行うことも好ましい。
【0064】
本発明のイオン性高分子は、少なくとも非水溶媒を保持させることによりリチウムイオン電池用高分子電解質として用いることができる。また、水を保持させることにより燃料電池用高分子電解質として用いることができる。「高分子電解質」は、いわゆる「ドライポリマー電解質」とは異なり、高分子中に非水溶媒及び/又は水を含有してもよく、また必要に応じて他のリチウム塩を含有してもよい。本明細書中、「高分子電解質」とは、高分子、非水溶媒、又はその他の必要な添加剤の複合体をいう。
【0065】
非水溶媒としては、非プロトン性溶媒が挙げられ、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非水溶媒の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等に代表される環状カーボネート類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等に代表されるラクトン類、スルホラン等に代表される環状スルホン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等に代表される環状エーテル類、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、等に代表される鎖状カーボネート類、アセトニトリル、プロピオニトリル等に代表されるニトリル類、ジメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリグライム、テトラグライム等に代表されるエーテル類、プロピオン酸メチルに代表される鎖状カルボン酸エステル類が挙げられる。
【0066】
上記非水溶媒は単独で又は2種以上を組み合わせて用いられるが、特にイオン伝導度の向上の観点から、非水溶媒としては環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、特に、環状カーボネート類を1種以上含むことがより好ましい。また、非水溶媒は、イオン伝導度の向上の観点から、2種以上の溶媒の混合溶媒であることが好ましい。この混合溶媒における非水溶媒としては、上記と同様のものを例示できる。
【0067】
本発明の高分子電解質は、後述するイオン性高分子以外にリチウム塩を含有することが好ましい。ここで、リチウム塩は通常の非水電解質として用いられているものであれば特に限定されず、いずれのものであってもよい。そのようなリチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCFなどが好ましく挙げられる。
【0068】
これらのリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。リチウム塩は、非水溶媒中の含有濃度として、好ましくは0.01〜3モル/リットル、より好ましくは0.1〜2モル/リットルの濃度で含有させることができる。
【実施例】
【0069】
以下の実施例等において用いた、各種物性の測定方法及び評価方法は以下のとおりのものであった。
(1)イオン交換容量
イオン性高分子のイオン交換容量を、以下の手法により測定した。
対イオンがリチウムイオンであるイオン性高分子については、10質量%硫酸水溶液にイオン性高分子を浸漬し、イオン性高分子中のイオン交換基の対イオンをリチウムイオンからプロトンに変換した。プロトンを有するイオン性高分子を25℃の飽和NaCl水溶液20mLに浸漬し、攪拌しながら30分間放置した。次いで、飽和水溶液中のプロトンを、フェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定した。中和後にろ過して得られたイオン交換基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっているイオン性高分子を、純水で濯ぎ、更に真空乾燥して秤量した。中和に要した水酸化ナトリウム量をM(mmol)、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンであるイオン性高分子の質量をW(mg)とし、下記式:
EW =(W/M)−23+1 (対イオンがプロトンである場合)
EW =(W/M)−23+7 (対イオンがリチウムイオンである場合)
により、イオン性高分子の当量質量EW(g/当量)を求めた。
更に、得られたEW値の逆数をとって1000倍することにより、イオン交換容量(ミリ当量/g)を算出した。
【0070】
(2)赤外分光分析(IR)
イオン性高分子の赤外分光分析は、Spectrum One(Perkin Elmer社製)を用いて、測定した。
【0071】
(3)膜厚(μm)
高分子電解質の膜厚を、アルゴングローブボックス中で、ミツトヨ社製デジマチックシックネスゲージ547−401を用いて測定した。
【0072】
(4)高分子電解質中のイオン性高分子の含有量(%)
高分子電解質中のイオン性高分子の含有量を、120℃で15時間乾燥後のイオン性高分子の重量と、当該イオン性高分子を用いて得られた高分子電解質の重量との比から求めた。
【0073】
(5)イオン伝導度(S/cm)
アルゴングローブボックス中で、Auを蒸着したステンレス鋼に高分子電解質を挟み込み、アルミラミネートフィルムで密閉することにより、Au/高分子電解質/Auの対称セルを作製した。ここで、Au電極は2cm角で電極面積は4cmであった。作製した対称セルは電気化学測定装置(Solartron社製、1280B)を用い、20kHz〜0.1Hzの周波数範囲で、25℃恒温雰囲気下、インピーダンス測定を行い、実測したの抵抗値R′(Ω)から、下記式:
σ= L/(R′×A)
{式中、σは、イオン伝導度(S/cm)であり、Lは、電極間距離(cm)であり、R′は、実測抵抗値(Ω)であり、そしてAは電極面積(cm)である。}によりイオン伝導度を算出した。尚、電極間距離として高分子電解質の厚みを用いた。
【0074】
[実施例1]イオン性高分子(下記式(15))の合成、及びイオン伝導度
【化11】

【0075】
(スルホン酸基を有するイオン性高分子膜の作製)
下記式(16):
【化12】

で表されるポリスチレンスルホン酸-block-ポリ(エチレン-ran-ブチレン)-block-ポリスチレンスルホン酸高分子の5%溶液(スチレン含有率29重量%、Aldrich社製、商品番号448885)を、高分子の含有量が9重量%になるようにエバポレーターで濃縮した。得られた溶液をシャーレに入れ、真空乾燥で溶媒を除去し、さらに80℃で1時間真空乾燥し、その後シャーレから剥がすことにより、膜厚135μmの高分子膜を作製した。得られたイオン性高分子のイオン交換容量は1.62ミリ当量/gであった。イオン交換容量の結果より、[脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位]:[スチレンからなる繰り返し単位]:[スルホン酸基を有する繰り返し単位]=6.5:0.5:1のmol比で存在していることが分かった。
【0076】
(SOCl基を有するイオン性高分子膜の合成)
上記で得られた高分子膜8gを、塩化チオニル140gを溶解させたN,N−ジメチルホルムアミド溶液400mL中に室温で20時間浸漬し、スルホン酸基をSOCl基に変換した。反応終了後、得られた高分子膜を洗浄液が中性になるまで水洗した後、さらにエタノールで洗浄し、60℃で20時間、真空乾燥した。褐色の高分子膜が得られ、を測定したところ、1173cm−1、1377cm−1にSOCl基のピークを確認した。
【0077】
(スルホンイミド基(SONHSOCF)を有するイオン性高分子(式(15))の膜合成)
得られたSOCl基を有する高分子膜を、CFSONHを1.0mol/kg、(i−Pr)EtNを1.5mol/kg溶解させたジエチレングリコールジメチルエーテル溶液600g中に浸漬し、130℃で20時間スルホンイミド化反応を行った。次いで、得られた高分子を水洗し、10重量%硫酸水溶液で洗浄し、その後、15重量%水酸化カリウム水溶液に90℃で2時間浸漬し、残存SOCl基の加水分解を行った。得られた高分子膜を水洗、酸洗浄、水洗した後、120℃で20時間真空乾燥して、対イオンがプロトンである膜厚135μmのイオン性高分子膜を得た。IRを測定したところ、SOCl基のピークの消失と、1321cm−1にスルホンイミド基のピークを確認した。また、副反応により少量のスルホン酸基が存在していることも確認された。解析の結果、SOCl基からスルホンイミド基への変換率は89%であることが分かった。得られたイオン性高分子膜のイオン交換容量は1.35ミリ当量/gであった。イオン交換容量及びIR解析の結果より、[脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位]:[スチレンからなる繰り返し単位]:[スルホン酸基を有する繰り返し単位]:[スルホンイミド基を有する繰り返し単位]=6.5:0.5:0.1:1のmol比で存在していることが分かった。
【0078】
(イオン性高分子(15)のイオン伝導度測定)
真空乾燥したイオン性高分子を、4cm角に切り出し、純水に室温で24間浸漬しイオン性高分子中に水を含有させた。その後、イオン性高分子を取り出し、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した水を拭き取り、除去することで膜厚は250μmの高分子電解質を得た。相対湿度50%において、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は25重量%であり、イオン伝導度は、2.1×10−2S/cmであった。
【0079】
[実施例2]イオン性高分子(下記式(17))の合成とイオン伝導性
【化13】

(スルホンイミド基(SONLiSOCF)を有するイオン性高分子膜の合成)
実施例1で得られた上記式(15)で表される高分子を、1N水酸化リチウム水溶液に浸漬して、対イオンがリチウムイオンであるイオン性高分子膜を得た。得られたイオン性高分子膜のイオン交換容量を測定したところ、イオン交換容量は、1.34ミリ当量/gであった。また、得られたイオン性高分子を120℃で15時間真空乾燥し、膜厚を測定したところ、膜厚は135μmであった。
【0080】
(イオン性高分子膜(上記式(17))のイオン伝導性)
上記真空乾燥したイオン性高分子を、アルゴングローブボックス中で4cm角に切り出し、LiN(SOCFを1mol/kg含有するジエチレングリコールジメチルエーテル溶液中に室温で24間浸漬しイオン性高分子中に溶液を含有させた。その後、イオン性高分子を取り出し、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した溶液を拭き取り、除去することで高分子電解質を得た。得られた高分子電解質の膜厚は160μmであり、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は51重量%であり、イオン伝導度は、1.4×10−4S/cmであった。
【0081】
[比較例1]イオン性高分子(下記式(18))の合成とイオン伝導度
【化14】

(スルホン酸リチウム基(SOLi)を有するイオン性高分子膜の合成)
実施例1で得た上記式(16)で表される高分子膜を1N水酸化リチウム水溶液に浸漬して対イオンがリチウムイオンであるイオン性高分子を得た。得られたイオン性高分子のイオン交換容量を測定したところ、イオン交換容量は、1.60ミリ当量/gであった。得られたイオン性高分子を120℃で15時間真空乾燥し、膜厚を測定したところ、膜厚は135μmであった。
【0082】
(イオン性高分子(上記式(18))のイオン伝導度)
真空乾燥したイオン性高分子をアルゴングローブボックス中で4cm角に切り出し、LiN(SOCFを1mol/kg含有するジエチレングリコールジメチルエーテル溶液中に室温で24時間浸漬しイオン性高分子中に溶液を含有させた。その後、イオン性高分子を取り出し、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した溶液を拭き取り、除去することで高分子電解質を得た。得られた高分子電解質の膜厚は137μmであり、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は91重量%であり、本イオン性高分子は、上記溶液をほとんど保持できないことが分かる。イオン伝導度は、1.5×10−6S/cmと低かった。
【0083】
[比較例2]ポリスチレンスルホンイミドリチウムの合成とイオン伝導度
(ポリスチレンスルホニルクロライドの合成)
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(Aldrich社製、分子量100万、商品番号434574)10gにN,N−ジメチルホルムアミド(80mL)を加え、0℃に冷却した。この溶液に塩化チオニル(29.5g)を滴下した後、室温で4時間攪拌し、スルホン酸ナトリウム基をSOCl基に変換した。反応終了後、得られた高分子を洗浄液が中性になるまで水洗した後、さらにエタノールで洗浄し、60℃で20時間真空乾燥した。白色の固体が得られ、IRを測定したところ、1171cm−1、1374cm−1にSOCl基のピークを確認した。
【0084】
(ポリスチレンスルホンイミドリチウムの合成)
得られた高分子5gを、CFSONH18gと(i−Pr)EtN24gを溶解させたジエチレングリコールジメチルエーテル溶液60g中に入れ、130℃で20時間攪拌した。ジエチレングリコールジメチルエーテル溶液を除去した後、得られた高分子を10重量%硫酸水溶液中で攪拌することにより均一な溶液を得た。得られた溶液をヘキサンに徐々に注いで、白色の沈殿物を得た。次いで、1N水酸化リチウム水溶液中で2時間攪拌し、得られた溶液をヘキサンに徐々に注ぐことにより、ポリスチレンスルホンイミドリチウムを得た。得られた高分子を、120℃で20時間真空乾燥した後、IRを測定したところ、SOCl基のピークの消失と、1327cm−1にスルホンイミド基のピークを確認した。また、副反応により少量のスルホン酸基が存在していることも確認された。
真空乾燥したイオン性高分子を、LiN(SOCFを1mol/kg含有するプロピレンカーボネート溶液中に浸漬したところ、固体形状を維持できず溶解した。これは、非水溶媒により溶解しない脂肪族炭化水素を有する繰り返し単位を有していないためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位とスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有するイオン性高分子であって、該スルホンイミド基を有する繰り返し単位中のスルホンイミド基は、下記式(1):
−SON(M)SO ・・・(1)
{式中、Rは、フッ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、及びフルオロアルキル基から成る群から選ばれる基であり、そしてMは、プロトン又はリチウムイオンである。}で表されることを特徴とする前記イオン性高分子。
【請求項2】
前記脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位は、下記式(2):
【化1】

{式中、R、及びRは、水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。}で表される、請求項1に記載のイオン性高分子。
【請求項3】
前記スルホンイミド基を有する繰り返し単位は、下記式(3):
【化2】

{式中、R、及びMは、記式(1)において定義したものと同じであり、R〜Rは、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、及び炭素数1〜4のアルキル基から成る群から選ばれる基であり、Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、エーテル基を有する炭素数1〜4のフルオロアルキル基、及びエーテル基を有する炭素数1〜4のアルキル基から成る群から選ばれる基であり、そしてm、及びnは、0〜4の整数である。}で表される、請求項1又は2に記載のイオン性高分子。
【請求項4】
前記スルホンイミド基を有する繰り返し単位は、下記式(4):
【化3】

{式中、R、及びMは、記式(1)において定義したものと同じであり、そしてR、及びnは、前記式(3)において定義したものと同じである。}で表される、請求項3に記載のイオン性高分子。
【請求項5】
前記式(1)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の含有率は、前記式(2)で表される脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位の1モル%以上100モル%以下である、請求項2〜4のいずれか1項に記載のイオン性高分子。
【請求項6】
前記イオン性高分子のイオン交換容量は、0.5ミリ当量/g以上3.0ミリ当量/g以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のイオン性高分子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のイオン性高分子と、非水溶媒又は水とを含有する高分子電解質。
【請求項8】
以下のステップ:
(I)下記式(5):
【化4】

{式中、R、及びRは、水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。}で表される脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位と、下記式(6):
【化5】

{式中、R〜Rは、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、及び炭素数1〜4のアルキル基から成る群から選ばれる基であり、Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルキル基、エーテル基を有する炭素数1〜4のフルオロアルキル基、及びエーテル基を有する炭素数1〜4のアルキル基から成る群から選ばれる基であり、m、及びnは、0〜4の整数であり、そしてXはハロゲン原子である。}で表されるハロゲン化スルホニル基を有する繰り返し単位と、
からなる共重合体を、塩基性化合物存在下、下記式(7):
SONH ・・・(7)
{式中、Rは、フッ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、及びフルオロアルキル基から成る群から選ばれる基である。}で表されるスルホンアミド化合物と、接触させてスルホンイミド化する、及び
(II)得られたスルホンイミドを酸洗浄する、
を含む、式(3)中、Mがプロトンである、請求項3に記載のイオン性高分子の製造方法。
【請求項9】
請求項8の方法により製造されたイオン性高分子をリチウム化合物と接触させるステップをさらに含む、式(3)中、Mがリチウムイオンである、請求項3に記載のイオン性高分子の製造方法。

【公開番号】特開2012−107219(P2012−107219A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230748(P2011−230748)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】