イオン検出器及びこれを備えた四重極型質量分析計並びにファラデーカップ
【課題】ファラデーカップと二次電子増倍管を備えるイオン検出器において、小型化・低価格化を可能とする。
【解決手段】イオンビームが通過する開口部12を有する筐体11と、開口部12を通るイオンビームの飛行方向延長線上に位置するファラデーカップ20と、飛行方向延長線からそれた方向にイオンビームの入射部32を有する二次電子増倍管30とを備えるイオン検出器10であって、ファラデーカップ20は、飛行方向延長線上に位置する底板部21と、底板部21の周囲に設けられた側板部22a,22bと、側板部22a,22bに囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部23とを有し、側板部22a,22bは、入射部32に近い側から遠い側に向かって高さが連続的または段階的に増大し、仕切り板部23は、入射部32から遠い側板部22bの高さよりも低く、かつ入射部32に近い側板部22aの高さよりも高く形成されている。
【解決手段】イオンビームが通過する開口部12を有する筐体11と、開口部12を通るイオンビームの飛行方向延長線上に位置するファラデーカップ20と、飛行方向延長線からそれた方向にイオンビームの入射部32を有する二次電子増倍管30とを備えるイオン検出器10であって、ファラデーカップ20は、飛行方向延長線上に位置する底板部21と、底板部21の周囲に設けられた側板部22a,22bと、側板部22a,22bに囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部23とを有し、側板部22a,22bは、入射部32に近い側から遠い側に向かって高さが連続的または段階的に増大し、仕切り板部23は、入射部32から遠い側板部22bの高さよりも低く、かつ入射部32に近い側板部22aの高さよりも高く形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファラデーカップを備えるイオン検出器及びこれを備えた四重極型質量分析計並びにファラデーカップに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に質量分析計は、試料からイオンを発生させるイオン源と、イオン源で発生したイオンを質量電荷比(m/z)に従って分離する質量分離部と、イオンを検出するイオン検出器とを備えて構成されている。なかでも四重極型質量分析計は、質量分離部が四重極を構成するものであり、広く使用されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
四重極型質量分析計用の質量分離部は、4本の棒状電極が格子状に対称かつ平行に配置された形状をしており、対向に位置する棒状電極が同電位となるように配線されている。二対の棒状電極には、同じ大きさで正負が逆の直流電圧Uと位相が180°異なる交流電圧Vcosωtとが重畳した電圧が印加される(+U+Vcosωtおよび−U−Vcosωt)。UおよびVの大きさによって、イオン源から質量分離部に入射したイオンのうち、特定のm/zを持つイオンのみが質量分離部を通過して、イオン検出器に到達する。それ以外のイオンは、棒状電極に衝突するか、棒状電極より外側の空間に導かれる。
また、UとVの比を一定に保ちながら、それらの電圧の大きさを変化させることで、イオン検出器に到達するイオンの種類をそのm/zに応じて選別することができる。
【0004】
イオン検出器としては、ファラデーカップ(FC)や二次電子増倍管(SEM)が知られている(例えば特許文献4〜6、非特許文献1〜2参照)。ファラデーカップは、イオンが電極と衝突したときに発生する二次電子を測定系外に漏らさないようにカップ状に形成され、入射したイオンを電流として直接検出することができる。二次電子増倍管は、多段のダイノードを備え、初段のダイノードはイオンを電子に変換し、2段目以降は二次電子を増幅し、最終的に増幅された二次電子の量に基づいてイオンの量を測定するので、微弱なイオン流を高精度で検出可能である。このため、イオンの量が多い場合にはファラデーカップを使用し、イオンの量が少ない場合には二次電子増倍管を使用するように、ファラデーカップと二次電子増倍管とを切り替えて使用することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−209181号公報
【特許文献2】特開2008−186765号公報
【特許文献3】特開平8−7832号公報
【特許文献4】特開2001−351566号公報
【特許文献5】特開2006−221876号公報
【特許文献6】特開2000−65942号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】特許庁 標準技術集 質量分析技術(マススペクトロメトリー)、“1−5−2−1 ファラデーカップ”、[online]、インターネット<URL: http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/mass/1−5−2.pdf>
【非特許文献2】特許庁 標準技術集 質量分析技術(マススペクトロメトリー)、“1−5−3−1 多段ダイノード型二次電子増倍管”、[online]、インターネット<URL: http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/mass/1−5−3.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、半導体製造や液晶パネル製造等のスパッタ装置に付属して設置されるプロセス監視用のガス分析計として、質量分析計(特に四重極型質量分析計)を利用するため、質量分析器の小型化及び低価格化が求められている。従来、ファラデーカップは、非特許文献1に記載されているように、イオン流を受け入れる方向に開口するとともに、その前方側に二次電子抑制電極を置くことで二次電子をカップ内に抑えるようにしている。
【0008】
イオン検出器の小型化のため、カップから分離した二次電子抑制電極を置くことなくファラデーカップを使用した場合、プロセス圧力(全圧)が比較的高くなると(例えば0.1〜1.0Pa程度)、イオンが入射した際に発生する二次電子の影響でベースラインが上昇してしまい、各ガス分圧の検出限界レベルが悪くなる現象が発生する。二次電子の漏れ出しを防ぐためには、ファラデーカップの深さ(奥行き)を深くする手法もあるが、イオン検出器が大型化するという問題を生じる。また、二次電子抑制電極を設置するのは、コスト増の観点からも好ましくない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ファラデーカップと二次電子増倍管を備え、かつ小型化・低価格化が可能なイオン検出器及びこれを備えた四重極型質量分析計並びにファラデーカップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、イオンビームが通過する開口部を有する筐体と、前記開口部を通るイオンビームの飛行方向延長線上に位置するファラデーカップと、前記飛行方向延長線からそれた方向にイオンビームの入射部を有する二次電子増倍管とを備えるイオン検出器であって、前記ファラデーカップは、前記飛行方向延長線上に位置する底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有し、前記側板部は、前記二次電子増倍管の入射部に近い側から遠い側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記二次電子増倍管の入射部から遠い側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記二次電子増倍管の入射部に近い側における前記側板部の高さよりも高く形成されていることを特徴とするイオン検出器を提供する。
また、本発明は、本発明のイオン検出器を備えることを特徴とする四重極型質量分析計を提供する。
また、本発明は、底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有することを特徴とするファラデーカップを提供する。この場合、前記側板部は、一方の側から他方の側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記他方の側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記一方の側における前記側板部の高さよりも高く形成されているものとすることができる。なお、ファラデーカップの側板部がすべて同じ高さでも良い。
また、本発明は、イオンビームが通過する開口部を有する筐体と、前記開口部を通るイオンビームの飛行方向延長線上に位置するファラデーカップと、前記飛行方向延長線からそれた方向にイオンビームの入射部を有する二次電子増倍管とを備えるイオン検出器に用いられるファラデーカップであって、前記ファラデーカップは、前記飛行方向延長線上に位置する底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有し、前記側板部は、前記二次電子増倍管の入射部に近い側から遠い側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記二次電子増倍管の入射部から遠い側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記二次電子増倍管の入射部に近い側における前記側板部の高さよりも高く形成されていることを特徴とするファラデーカップを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二次電子抑制電極を省略して、二次電子増倍管の入射部を筐体の開口部の近くに配置することができるとともに、仕切り板部により、二次電子の漏れ出しを効果的に抑制することができる。したがって、イオン検出器を小型化及び低価格化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のイオン検出器の一形態例を示す断面図である。
【図2】図1のイオン検出器に用いられるファラデーカップを示す斜視図である。
【図3】イオン検出器の改変例を示す断面図である。
【図4】イオン検出器の改変例を示す断面図である。
【図5】イオン検出器の改変例を示す断面図である。
【図6】ファラデーカップの改変例を示す断面図である。
【図7】ファラデーカップの改変例を示す断面図である。
【図8】ファラデーカップの改変例を示す断面図である。
【図9】イオン検出器の改変例を示す断面図である。
【図10】イオン検出器の改変例を示す断面図である。
【図11】四重極型質量分析計の一例を示す斜視図である。
【図12】比較例のイオン検出器を示す断面図である。
【図13】比較例のイオン検出器を用いて測定した質量スペクトルのグラフである。
【図14】実施例1のイオン検出器を用いて測定した質量スペクトルのグラフである。
【図15】比較例のイオン検出器を用いて測定した最小検出レベルのグラフである。
【図16】実施例1のイオン検出器を用いて測定した最小検出レベルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態例に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、本発明のイオン検出器の一形態例を示す断面図であり、図2は、本形態例のイオン検出器に用いられるファラデーカップを示す斜視図である。
【0014】
図1に示すイオン検出器10は、イオンビームが通過する開口部12を有する筐体と、開口部12を通るイオンビームの飛行方向(図1中、開口部12を通る実線の矢印で示す。)の延長線上に位置するファラデーカップ20と、飛行方向延長線からそれた方向(図1中、二点鎖線の矢印で示す。)にイオンビームの入射部32を有する二次電子増倍管30を備える。
【0015】
一般に、ファラデーカップ20は測定対象となるイオンの量が多い場合に使用され、二次電子増倍管30は測定対象となるイオンの量が少ない場合に使用される。開口部12を通過したイオンビームは、ファラデーカップ20又は二次電子増倍管30のいずれかに入射される。その切り替えは、イオンビームを二次電子増倍管30に入射させるときには、開口部12から入射部32へ向かう方向に電界を印加し、イオンビームをファラデーカップ20に入射させるときには、その電界の印加を停止することによって、行うことができる。
【0016】
図1に示すように、二次電子増倍管30は、多段のダイノード31a,31b,31c,・・・を備え、初段のダイノード31aはイオンを電子に変換し、2段目以降のダイノード31b,31c,・・・は二次電子を増幅し、二次電子増倍管30は、最終的に増幅された二次電子の量に基づいてイオンの量を測定する。入射部32は、初段のダイノード31aと2段目のダイノード31bとの間に設けられる。
【0017】
図1及び図2に示すように、ファラデーカップ20は、飛行方向延長線上に位置する底板部21と、底板部21の周囲に設けられた側板部22a,22b,22cと、これらの側板部22a,22b,22cに囲まれたカップ内部を複数の空間に区画する仕切り板部23を有する。本形態例の場合、底板部21は矩形状(詳しくは矩形の板状)であり、底板部21の辺ごとに4面の側板部が設けられている。
なお、ファラデーカップの底板部の形状は、矩形(正方形または長方形)や菱形等の四角形に限定されるものではなく、六角形や八角形等の多角形、円形、楕円形等とすることもできる。
【0018】
本形態例のファラデーカップ20の側板部22a,22b,22cは、二次電子増倍管30の入射部32に近い側の側板部22aから遠い側の側板部22bに向かって、高さが連続的または段階的に増大している。具体的には、入射部32に近い側の側板部22aは、入射部32から遠い側の側板部22bよりも高さが低くなっている。また、側板部22aと側板部22bとの間の側板部22cは、図2では高さが連続的に増大している。特に図示しないが、側板部22cを例えば階段状の形状として、側板部22cの高さが段階的に増大する構成とすることもできる。
【0019】
ファラデーカップ20の側板部の高さが二次電子増倍管30の入射部32に近い側から遠い側に向かって増大していることにより、図1に示すように、イオンビームを開口部12から入射部32まで、印加電界等によって曲げて飛行させるときに、ファラデーカップ20に衝突するおそれが抑制される。したがって、筐体11の開口部12からファラデーカップ20までの距離をより短くすることができる。
なお、本発明において、ファラデーカップの側板部の高さとは、底板部が側板部と垂直な平面(平板状)であれは、底板部からの高さとして良い。後述するように、底板部自体が側板部に対して傾斜している場合には、側板部と垂直な仮想の平面を基準として高さを定義しても良い。
【0020】
筐体11の開口部12からファラデーカップ20の底板部21までの距離が短ければ、筐体11内において、ファラデーカップ20の底板部21より後方(図1の下方)に、二次電子増倍管30を設定するスペースを確保し、さらには、筐体11をより小型化することができる。
そしてこの場合に、筐体11の内面とファラデーカップ20との間で、二次電子増倍管30の入射部32に向かうイオンビームの通過断面積を確保するため、ファラデーカップ20において、二次電子増倍管30の入射部32に近い側の側板部22aの高さを低くしているのである。
このため、本発明においてイオン検出器10に二次電子増倍管30を用いない場合は、ファラデーカップ20の側板部22a,22b,22cは、すべて同じ高さでも良い。
【0021】
しかしながら、このようにファラデーカップ20の入射部32に近い側の側板部22aの高さが低いと、ファラデーカップ20を用いてイオンを検出する場合に二次電子が測定系外に漏れ、イオンの検出が不正確になる。このため、本形態例においては、側板部22a,22b,22cに囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部23をファラデーカップ20に設けている。これにより、ファラデーカップ20の内部空間の各点から、ファラデーカップ20の底板部21、側板部22a,22b,22c又は仕切り板部23のいずれかの電極に到達するまでの距離が短くなり、ファラデーカップ20内で発生した二次電子をより確実に捕捉し、イオンの検出限界レベルの上昇を抑制することができる。
なお、本実施形態に係るイオン検出器10が、二次電子増倍管30を備えていない場合、即ちファラデーカップ20のみを備えている場合においても、同様にファラデーカップ20に当該仕切り板部23を設けることにより、ファラデーカップ20内で発生した二次電子の捕捉をより確実に行うことができる。
【0022】
ファラデーカップ20の材質は、例えばステンレス鋼(SUS等)の金属(導体)が挙げられる。側板部22a,22b,22cは、隣接するもの同士が互いに結合しているとともに、底板部21とも結合している。また、仕切り板部23は、隣接する側板部22cと結合しているとともに、底板部21とも結合している。これにより、ファラデーカップ20の底板部21、側板部22a,22b,22c及び仕切り板部23は、一体の電極を構成している。
【0023】
また、ファラデーカップ20は、いずれか一箇所(例えば底板部21)が電流計に接続されているほかは、電気的接続を有せず、特許文献6のように電圧が印加されてはいない。
【0024】
したがって、仕切り板部23によって内部が複数の空間に区画されたファラデーカップ20は、それぞれの内部空間を囲む部分がより幅狭のファラデーカップとして機能する。例えば図2に示す例では、側板部22aと仕切り板部23との間の部分が1つのファラデーカップとして機能し、側板部22bと仕切り板部23との間の部分がもう1つのファラデーカップとして機能し、これら複数のファラデーカップが並列接続されるので、入射したイオンにより生じる電流の合計値を検出することができる。
【0025】
本形態例の場合、仕切り板部23は、入射部32に近い側板部22aと入射部32から遠い側板部22bとの間の中央部に設けられている。仕切り板部23から側板部22aまでの間隔と仕切り板部23から側板部22bまでの間隔は、必ずしも等しくある必要はないが、仕切り板部23を1つのみ設ける場合にいずれかの側板部22a,22bまでの間隔が空きすぎると、間隔が広い側で二次電子の漏れ出しが増大するおそれがあるので、間隔を同程度とすることが好ましい。
【0026】
また、仕切り板部23は、二次電子増倍管30の入射部32から遠い側における側板部22bの高さよりも低く、かつ二次電子増倍管30の入射部32に近い側における側板部22aの高さよりも高く形成されている。
このように、ファラデーカップ20の側板部及び仕切り板部の高さが二次電子増倍管30の入射部32に近い側から遠い側に向かって増大していることにより、ファラデーカップ20のイオン捕集効率を上げるとともに、図1に示すように、イオンビームを開口部12から入射部32まで、印加電界等によって曲げて飛行させるときに、ファラデーカップ20に衝突するおそれが抑制される。
【0027】
なお、本発明において、ファラデーカップの仕切り板部の高さは、側板部の高さと同様に定義することができる。すなわち、底板部が側板部と垂直な平面(平板状)であれは、ファラデーカップの仕切り板部の高さを底板部からの高さとして定義することができる。また、後述するように、底板部自体が側板部に対して傾斜している場合、あるいは仕切り板部が底板部に対して傾斜している場合には、側板部と垂直な仮想の平面を基準として、仕切り板部の高さを定義しても良い。
【0028】
本発明のイオン検出器は、質量分析計や加速器等、正負のイオンを検出する機器に用いることができる。また、本発明のイオン検出器は、イオン以外の荷電粒子(電荷をもった素粒子等)を検出するために用いることもできる。
本発明のイオン検出器を利用可能な機器の具体例としては、四重極型質量分析計や、四重極型質量分析計を利用したガス分析計等が挙げられる。
【0029】
図11に四重極型質量分析計9の一例を示す。この四重極型質量分析計9は、イオン源5と、質量分離部7と、イオン検出部8を備える。
イオン源5は、電子源であるカソード電極1と、このカソード電極1に対して正の電位に制御されたアノード電極2と、アノード電極2の内部においてイオンが生成されるイオン化室3と、イオン化室3からイオンの一部を引き出す引き出し電極4を備える。
カソード電極1は、略円筒状のアノード電極2の円周面を略半周強程度囲うように線状に形成されている。アノード電極2は、グリッド状に形成されており、その内部はイオン化室3として構成されている。アノード電極2の質量分離部7側である一端の近傍には、引き出し電極4が配置されている。
【0030】
質量分離部7は、四本の棒状電極6が格子状に対称かつ平行に配置された形状をしており、対向して位置する棒状電極6が同電位、隣接して位置する棒状電極6が反対符号の同電位となるように配線されている。
イオン検出部8には、本発明のイオン検出器が設けられる。
【0031】
質量分析計9は、図示しない真空装置内に収容されており、真空装置内を図示しない真空ポンプなどにより排気し、質量分析計9が動作可能となる、所定(上限)圧力以下の低圧下にする。その後、電子源であるカソード電極1からアノード電極2に向けて電子を放出する。またカソード電極1及びアノード電極2をある一定の電位に設定すると、カソード電極1から放出された電子の一部は、アノード電極2に到達する前に気体分子と衝突し、気体をイオン化しイオンを生成する。
このようにしてイオン化室3内で生成されたイオンの一部は、引き出し電極4により質量分離部7に導入され、イオンの質量電荷比(m/z)によって分離され、目的のイオンがイオン検出部8に導入される。
イオン検出部8では、上述したイオン検出器100において、ファラデーカップ20又は二次電子増倍管30によりイオンが検出され、電流値に基づきイオンの量が求められる。このイオンの検出量は、イオン化室3に導入されたガスの分圧に比例して増減するので、イオン検出器100による検出量に基づき、ガス分圧を測定することができる。
【0032】
以上、本発明を好適な実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
図3のイオン検出器10Aは、仕切り板部23を複数(例えば3つ)有するファラデーカップ20Aを備える。図3の場合、3つの仕切り板部23によりファラデーカップ20Aが4つのファラデーカップを結合した構成となり、二次電子の漏れ出しによる感度の低下を抑制することができる。
仕切り板部23が複数ある場合、各仕切り板部23の高さは、二次電子増倍管30の入射部32に近い側から遠い側に向かって、連続的または段階的に増大させる。
【0033】
図4のイオン検出器10Bは、ファラデーカップ20Bの仕切り板部23の上端部に、該仕切り板部23と対向する側板部22a,22bに向かって屈曲した縁部24を有する。この縁部24は、仕切り板部23からカップの内部空間に向かって突出するので、二次電子の漏れ出しをより効率的に抑制することができる。ただし、仕切り板部23の突出高さ、及び縁部24の長さが大きいと、ファラデーカップ20に入射するイオンビームをも妨げるおそれがあるので、縁部24の仕切り板部23からの突出寸法は、適宜調整することが望ましい。
図4の例では、縁部24は、仕切り板部23の両側に断面T字型に形成されており、仕切り板部23の左右両側で発生した二次電子の漏れ出し抑制に有効である。
【0034】
図5のイオン検出器10Cは、ファラデーカップ20Cの仕切り板部23が底板部21から傾斜している。この仕切り板部23は、入射部32から遠い側の側板部22bに向かって傾斜しているので、二次電子の漏れ出しをより効率的に抑制することができる。ただし、傾斜角度が大きすぎると、ファラデーカップ20に入射するイオンビームをも妨げるおそれがあるので、縁部24の仕切り板部23からの傾斜角度は、適宜調整することが望ましい。
【0035】
本発明のファラデーカップは、側板部と仕切り板部との間の角度は特に限定されない。
図2に示すファラデーカップ20の場合、仕切り板部23は、入射部32に近い側の側板部22a及び入射部32から遠い側の側板部22bに対して平行である。
図6のファラデーカップ201は、仕切り板部23が、入射部32に近い側の側板部22a、入射部32から遠い側の側板部22b、及び底板部21に結合されるように形成されている。
また、図7のファラデーカップ202は、仕切り板部23が、底板部21の対角線に沿って形成されている。
【0036】
図8のファラデーカップ203は、底板部21が円形状で、側板部22が円筒状に形成され、側板部22の高さは、入射部32に近い側の位置22aで最も低く、入射部32から遠い側の位置22bで最も高くなっている。
このように底板部21が矩形状でなくても、図2に示すファラデーカップ20と同様の効果を奏する。
【0037】
図9のイオン検出器10Eは、ファラデーカップ20Eの底板部21が、仕切り板部23が形成された中央部に向かって深くなるように傾斜して形成されている。
また、図10のイオン検出器10Fは、ファラデーカップ20Fの底板部21が、仕切り板部23が形成された中央部に向かって浅くなるように傾斜して形成されている。
このように底板部21が平板状でなくても、図2に示すファラデーカップ20と同様の効果を奏する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
図1に示すように、ファラデーカップ20に仕切り板部23を設けた実施例に係るイオン検出器10と、図12に示すように、ファラデーカップ200に仕切り板部を設けていない比較例に係るイオン検出器100とを作製した。ファラデーカップ20の材質は、いずれもSUS(肉厚0.1mm)である。底板部21は、側板部22a,22bに対して垂直である。また、仕切り板部23は、底板部21に対して垂直であり、側板部22a,22bに対して平行である。
【0039】
実施例1に係るイオン検出器10の場合、入射部32に近い側の側板部22aの高さは1.5mm、入射部32から遠い側の側板部22bの高さは5.7mm、仕切り板部23の高さは3.0mmである。側板部22aから側板部22bまでの距離(側板部22a,22bの肉厚を含む。)は、5.0mmである。仕切り板部23の位置は、側板部22aと側板部22bとの間の中間の位置である。
実施例2は、仕切り板部23の高さを4.0mmとした他は、実施例1と同様である。
実施例3は、仕切り板部23の高さを5.0mmとした他は、実施例1と同様である。
【0040】
比較例に係るイオン検出器100の場合、入射部32に近い側の側板部22aの高さは1.5mm、入射部32から遠い側の側板部22bの高さは4.3mmである。側板部22aから側板部22bまでの距離(側板部22a,22bの肉厚を含む。)は、5.0mmである。
【0041】
実施例及び比較例のイオン検出器10,100をそれぞれ図11に示す四重極型質量分析計9に組み込み、ガス分圧を測定した。
アノード電極2には、形状が直径7.5mm、高さが12mmの円筒形状のもので、モリブデンのメッシュで構成したものを採用する。アノード電極2の電位は接地電位に対して+60V、カソード電極1の電位は接地電位に対して+20Vに設定し、カソード電極1とアノード電極2の間に流れる電子電流は、0.1mAで一定となるように調整している。
【0042】
図13は、比較例のイオン検出器100を備えた四重極型質量分析計9を用いて、低圧下(全圧8.4×10−6Pa)及び高圧下(全圧1.05Pa)のガスについて測定した質量スペクトルを示す。ここで、質量スペクトルは、横軸をm/z、縦軸をイオン電流値として表示したグラフである。
図13から、比較例のイオン検出器100を用いると、高圧下では低圧下よりイオン電流値のベースライン(ノイズ)が増大し、シグナルのS/N比が低下して、検出限界レベルが悪くなることが分かる。
【0043】
図14は、実施例1のイオン検出器10を備えた四重極型質量分析計9を用いて、低圧下(全圧3.63×10−6Pa)及び高圧下(全圧1.03Pa)のガスについて測定した質量スペクトルを示す。
図14から、実施例1のイオン検出器10を用いると、イオン電流値のベースライン(ノイズ)は、高圧下でも低圧下と同程度であり、同程度の検出限界レベルで測定可能であることが分かる。
【0044】
また、四重極型質量分析計9のイオン化室3内の圧力が0.4PaとなるようにArガスを導入した際の最小検出レベルの確認を実施した。
最小検出レベルは、質量スペクトルにおいて、ガス中に存在しない質量数であるm/z=10について求めた分圧を3分間続けて測定したときの最大値に対応する圧力値として定義する。
なお、全圧は、アルゴン(40Ar)に対応する質量数であるm/z=40について求めた分圧として測定し、3分間の測定中、一定であることを確認した。同様に、36Arに対応する質量数であるm/z=36についても計測し、この分圧の測定値も一定であることを確認した。
【0045】
図15は、比較例のイオン検出器を用いて測定した最小検出レベルを示す。また、図16は、実施例1のイオン検出器を用いて測定した最小検出レベルを示すグラフである。
比較例のイオン検出器を用いた場合の最小検出レベルは、図15に示すように、1.08×10−5Paであった。また、実施例のイオン検出器を用いた場合の最小検出レベルは、図16に示すように、2.60×10−6Paであった。
図16に示す測定例においては、測定スピードを500msec/amuとしている。
【0046】
表1は、比較例(仕切り板部;なし)と、実施例1(仕切り板部;高さ3mm)、実施例2(仕切り板部;高さ4mm)、実施例3(仕切り板部;高さ5mm)について、ファラデーカップの感度(FC感度)、二次電子増倍管の感度(SEM感度)、二次電子増倍管に印加する電圧(SEM電圧)、全圧0.4Paにおける最小検出分圧を比較したものである。表1のSEM感度及びSEM電圧は、定格感度1.00×10−4A/Paが得られるときの値を示す。
表1に示す測定例においては、測定スピードを500msec/amuとしている。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から、実施例1〜3は、いずれも比較例より最小検出分圧が低くなっている。このことから、仕切り板部の高さに関わらず、FCの中央部に仕切り板部を設けることにより、最小検出分圧を低減できたことが分かる。
定格感度が得られるときのSEM電圧は、実施例2(高さ4mm)及び実施例3(高さ5mm)のときには比較例よりも若干高いが、実施例1(高さ3mm)では比較例と同程度のSEM電圧で定格感度が得られた。SEM電圧は高ければ高いほど、イオン電流を増幅させなければならず、感度低下を招く。したがって、実施例1によれば、FCに仕切りを設けてもSEMに向かうイオンの流れを妨害することがなく、SEM感度の低下を招くことがないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、質量分析計や加速器等、荷電粒子(正負のイオンや電荷をもった素粒子等)を検出するために利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
9…四重極型質量分析計、10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,100…イオン検出器、11…筐体、12…開口部、20,20A,20B,20C,20D,20E,20F,200,201,202,203…ファラデーカップ、21…底板部、22a,22b,22c…側板部、23…仕切り板部、30…二次電子増倍管、31a,31b,31c…ダイノード、32…入射部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファラデーカップを備えるイオン検出器及びこれを備えた四重極型質量分析計並びにファラデーカップに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に質量分析計は、試料からイオンを発生させるイオン源と、イオン源で発生したイオンを質量電荷比(m/z)に従って分離する質量分離部と、イオンを検出するイオン検出器とを備えて構成されている。なかでも四重極型質量分析計は、質量分離部が四重極を構成するものであり、広く使用されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
四重極型質量分析計用の質量分離部は、4本の棒状電極が格子状に対称かつ平行に配置された形状をしており、対向に位置する棒状電極が同電位となるように配線されている。二対の棒状電極には、同じ大きさで正負が逆の直流電圧Uと位相が180°異なる交流電圧Vcosωtとが重畳した電圧が印加される(+U+Vcosωtおよび−U−Vcosωt)。UおよびVの大きさによって、イオン源から質量分離部に入射したイオンのうち、特定のm/zを持つイオンのみが質量分離部を通過して、イオン検出器に到達する。それ以外のイオンは、棒状電極に衝突するか、棒状電極より外側の空間に導かれる。
また、UとVの比を一定に保ちながら、それらの電圧の大きさを変化させることで、イオン検出器に到達するイオンの種類をそのm/zに応じて選別することができる。
【0004】
イオン検出器としては、ファラデーカップ(FC)や二次電子増倍管(SEM)が知られている(例えば特許文献4〜6、非特許文献1〜2参照)。ファラデーカップは、イオンが電極と衝突したときに発生する二次電子を測定系外に漏らさないようにカップ状に形成され、入射したイオンを電流として直接検出することができる。二次電子増倍管は、多段のダイノードを備え、初段のダイノードはイオンを電子に変換し、2段目以降は二次電子を増幅し、最終的に増幅された二次電子の量に基づいてイオンの量を測定するので、微弱なイオン流を高精度で検出可能である。このため、イオンの量が多い場合にはファラデーカップを使用し、イオンの量が少ない場合には二次電子増倍管を使用するように、ファラデーカップと二次電子増倍管とを切り替えて使用することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−209181号公報
【特許文献2】特開2008−186765号公報
【特許文献3】特開平8−7832号公報
【特許文献4】特開2001−351566号公報
【特許文献5】特開2006−221876号公報
【特許文献6】特開2000−65942号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】特許庁 標準技術集 質量分析技術(マススペクトロメトリー)、“1−5−2−1 ファラデーカップ”、[online]、インターネット<URL: http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/mass/1−5−2.pdf>
【非特許文献2】特許庁 標準技術集 質量分析技術(マススペクトロメトリー)、“1−5−3−1 多段ダイノード型二次電子増倍管”、[online]、インターネット<URL: http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/mass/1−5−3.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、半導体製造や液晶パネル製造等のスパッタ装置に付属して設置されるプロセス監視用のガス分析計として、質量分析計(特に四重極型質量分析計)を利用するため、質量分析器の小型化及び低価格化が求められている。従来、ファラデーカップは、非特許文献1に記載されているように、イオン流を受け入れる方向に開口するとともに、その前方側に二次電子抑制電極を置くことで二次電子をカップ内に抑えるようにしている。
【0008】
イオン検出器の小型化のため、カップから分離した二次電子抑制電極を置くことなくファラデーカップを使用した場合、プロセス圧力(全圧)が比較的高くなると(例えば0.1〜1.0Pa程度)、イオンが入射した際に発生する二次電子の影響でベースラインが上昇してしまい、各ガス分圧の検出限界レベルが悪くなる現象が発生する。二次電子の漏れ出しを防ぐためには、ファラデーカップの深さ(奥行き)を深くする手法もあるが、イオン検出器が大型化するという問題を生じる。また、二次電子抑制電極を設置するのは、コスト増の観点からも好ましくない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ファラデーカップと二次電子増倍管を備え、かつ小型化・低価格化が可能なイオン検出器及びこれを備えた四重極型質量分析計並びにファラデーカップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、イオンビームが通過する開口部を有する筐体と、前記開口部を通るイオンビームの飛行方向延長線上に位置するファラデーカップと、前記飛行方向延長線からそれた方向にイオンビームの入射部を有する二次電子増倍管とを備えるイオン検出器であって、前記ファラデーカップは、前記飛行方向延長線上に位置する底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有し、前記側板部は、前記二次電子増倍管の入射部に近い側から遠い側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記二次電子増倍管の入射部から遠い側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記二次電子増倍管の入射部に近い側における前記側板部の高さよりも高く形成されていることを特徴とするイオン検出器を提供する。
また、本発明は、本発明のイオン検出器を備えることを特徴とする四重極型質量分析計を提供する。
また、本発明は、底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有することを特徴とするファラデーカップを提供する。この場合、前記側板部は、一方の側から他方の側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記他方の側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記一方の側における前記側板部の高さよりも高く形成されているものとすることができる。なお、ファラデーカップの側板部がすべて同じ高さでも良い。
また、本発明は、イオンビームが通過する開口部を有する筐体と、前記開口部を通るイオンビームの飛行方向延長線上に位置するファラデーカップと、前記飛行方向延長線からそれた方向にイオンビームの入射部を有する二次電子増倍管とを備えるイオン検出器に用いられるファラデーカップであって、前記ファラデーカップは、前記飛行方向延長線上に位置する底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有し、前記側板部は、前記二次電子増倍管の入射部に近い側から遠い側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記二次電子増倍管の入射部から遠い側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記二次電子増倍管の入射部に近い側における前記側板部の高さよりも高く形成されていることを特徴とするファラデーカップを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二次電子抑制電極を省略して、二次電子増倍管の入射部を筐体の開口部の近くに配置することができるとともに、仕切り板部により、二次電子の漏れ出しを効果的に抑制することができる。したがって、イオン検出器を小型化及び低価格化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のイオン検出器の一形態例を示す断面図である。
【図2】図1のイオン検出器に用いられるファラデーカップを示す斜視図である。
【図3】イオン検出器の改変例を示す断面図である。
【図4】イオン検出器の改変例を示す断面図である。
【図5】イオン検出器の改変例を示す断面図である。
【図6】ファラデーカップの改変例を示す断面図である。
【図7】ファラデーカップの改変例を示す断面図である。
【図8】ファラデーカップの改変例を示す断面図である。
【図9】イオン検出器の改変例を示す断面図である。
【図10】イオン検出器の改変例を示す断面図である。
【図11】四重極型質量分析計の一例を示す斜視図である。
【図12】比較例のイオン検出器を示す断面図である。
【図13】比較例のイオン検出器を用いて測定した質量スペクトルのグラフである。
【図14】実施例1のイオン検出器を用いて測定した質量スペクトルのグラフである。
【図15】比較例のイオン検出器を用いて測定した最小検出レベルのグラフである。
【図16】実施例1のイオン検出器を用いて測定した最小検出レベルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態例に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、本発明のイオン検出器の一形態例を示す断面図であり、図2は、本形態例のイオン検出器に用いられるファラデーカップを示す斜視図である。
【0014】
図1に示すイオン検出器10は、イオンビームが通過する開口部12を有する筐体と、開口部12を通るイオンビームの飛行方向(図1中、開口部12を通る実線の矢印で示す。)の延長線上に位置するファラデーカップ20と、飛行方向延長線からそれた方向(図1中、二点鎖線の矢印で示す。)にイオンビームの入射部32を有する二次電子増倍管30を備える。
【0015】
一般に、ファラデーカップ20は測定対象となるイオンの量が多い場合に使用され、二次電子増倍管30は測定対象となるイオンの量が少ない場合に使用される。開口部12を通過したイオンビームは、ファラデーカップ20又は二次電子増倍管30のいずれかに入射される。その切り替えは、イオンビームを二次電子増倍管30に入射させるときには、開口部12から入射部32へ向かう方向に電界を印加し、イオンビームをファラデーカップ20に入射させるときには、その電界の印加を停止することによって、行うことができる。
【0016】
図1に示すように、二次電子増倍管30は、多段のダイノード31a,31b,31c,・・・を備え、初段のダイノード31aはイオンを電子に変換し、2段目以降のダイノード31b,31c,・・・は二次電子を増幅し、二次電子増倍管30は、最終的に増幅された二次電子の量に基づいてイオンの量を測定する。入射部32は、初段のダイノード31aと2段目のダイノード31bとの間に設けられる。
【0017】
図1及び図2に示すように、ファラデーカップ20は、飛行方向延長線上に位置する底板部21と、底板部21の周囲に設けられた側板部22a,22b,22cと、これらの側板部22a,22b,22cに囲まれたカップ内部を複数の空間に区画する仕切り板部23を有する。本形態例の場合、底板部21は矩形状(詳しくは矩形の板状)であり、底板部21の辺ごとに4面の側板部が設けられている。
なお、ファラデーカップの底板部の形状は、矩形(正方形または長方形)や菱形等の四角形に限定されるものではなく、六角形や八角形等の多角形、円形、楕円形等とすることもできる。
【0018】
本形態例のファラデーカップ20の側板部22a,22b,22cは、二次電子増倍管30の入射部32に近い側の側板部22aから遠い側の側板部22bに向かって、高さが連続的または段階的に増大している。具体的には、入射部32に近い側の側板部22aは、入射部32から遠い側の側板部22bよりも高さが低くなっている。また、側板部22aと側板部22bとの間の側板部22cは、図2では高さが連続的に増大している。特に図示しないが、側板部22cを例えば階段状の形状として、側板部22cの高さが段階的に増大する構成とすることもできる。
【0019】
ファラデーカップ20の側板部の高さが二次電子増倍管30の入射部32に近い側から遠い側に向かって増大していることにより、図1に示すように、イオンビームを開口部12から入射部32まで、印加電界等によって曲げて飛行させるときに、ファラデーカップ20に衝突するおそれが抑制される。したがって、筐体11の開口部12からファラデーカップ20までの距離をより短くすることができる。
なお、本発明において、ファラデーカップの側板部の高さとは、底板部が側板部と垂直な平面(平板状)であれは、底板部からの高さとして良い。後述するように、底板部自体が側板部に対して傾斜している場合には、側板部と垂直な仮想の平面を基準として高さを定義しても良い。
【0020】
筐体11の開口部12からファラデーカップ20の底板部21までの距離が短ければ、筐体11内において、ファラデーカップ20の底板部21より後方(図1の下方)に、二次電子増倍管30を設定するスペースを確保し、さらには、筐体11をより小型化することができる。
そしてこの場合に、筐体11の内面とファラデーカップ20との間で、二次電子増倍管30の入射部32に向かうイオンビームの通過断面積を確保するため、ファラデーカップ20において、二次電子増倍管30の入射部32に近い側の側板部22aの高さを低くしているのである。
このため、本発明においてイオン検出器10に二次電子増倍管30を用いない場合は、ファラデーカップ20の側板部22a,22b,22cは、すべて同じ高さでも良い。
【0021】
しかしながら、このようにファラデーカップ20の入射部32に近い側の側板部22aの高さが低いと、ファラデーカップ20を用いてイオンを検出する場合に二次電子が測定系外に漏れ、イオンの検出が不正確になる。このため、本形態例においては、側板部22a,22b,22cに囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部23をファラデーカップ20に設けている。これにより、ファラデーカップ20の内部空間の各点から、ファラデーカップ20の底板部21、側板部22a,22b,22c又は仕切り板部23のいずれかの電極に到達するまでの距離が短くなり、ファラデーカップ20内で発生した二次電子をより確実に捕捉し、イオンの検出限界レベルの上昇を抑制することができる。
なお、本実施形態に係るイオン検出器10が、二次電子増倍管30を備えていない場合、即ちファラデーカップ20のみを備えている場合においても、同様にファラデーカップ20に当該仕切り板部23を設けることにより、ファラデーカップ20内で発生した二次電子の捕捉をより確実に行うことができる。
【0022】
ファラデーカップ20の材質は、例えばステンレス鋼(SUS等)の金属(導体)が挙げられる。側板部22a,22b,22cは、隣接するもの同士が互いに結合しているとともに、底板部21とも結合している。また、仕切り板部23は、隣接する側板部22cと結合しているとともに、底板部21とも結合している。これにより、ファラデーカップ20の底板部21、側板部22a,22b,22c及び仕切り板部23は、一体の電極を構成している。
【0023】
また、ファラデーカップ20は、いずれか一箇所(例えば底板部21)が電流計に接続されているほかは、電気的接続を有せず、特許文献6のように電圧が印加されてはいない。
【0024】
したがって、仕切り板部23によって内部が複数の空間に区画されたファラデーカップ20は、それぞれの内部空間を囲む部分がより幅狭のファラデーカップとして機能する。例えば図2に示す例では、側板部22aと仕切り板部23との間の部分が1つのファラデーカップとして機能し、側板部22bと仕切り板部23との間の部分がもう1つのファラデーカップとして機能し、これら複数のファラデーカップが並列接続されるので、入射したイオンにより生じる電流の合計値を検出することができる。
【0025】
本形態例の場合、仕切り板部23は、入射部32に近い側板部22aと入射部32から遠い側板部22bとの間の中央部に設けられている。仕切り板部23から側板部22aまでの間隔と仕切り板部23から側板部22bまでの間隔は、必ずしも等しくある必要はないが、仕切り板部23を1つのみ設ける場合にいずれかの側板部22a,22bまでの間隔が空きすぎると、間隔が広い側で二次電子の漏れ出しが増大するおそれがあるので、間隔を同程度とすることが好ましい。
【0026】
また、仕切り板部23は、二次電子増倍管30の入射部32から遠い側における側板部22bの高さよりも低く、かつ二次電子増倍管30の入射部32に近い側における側板部22aの高さよりも高く形成されている。
このように、ファラデーカップ20の側板部及び仕切り板部の高さが二次電子増倍管30の入射部32に近い側から遠い側に向かって増大していることにより、ファラデーカップ20のイオン捕集効率を上げるとともに、図1に示すように、イオンビームを開口部12から入射部32まで、印加電界等によって曲げて飛行させるときに、ファラデーカップ20に衝突するおそれが抑制される。
【0027】
なお、本発明において、ファラデーカップの仕切り板部の高さは、側板部の高さと同様に定義することができる。すなわち、底板部が側板部と垂直な平面(平板状)であれは、ファラデーカップの仕切り板部の高さを底板部からの高さとして定義することができる。また、後述するように、底板部自体が側板部に対して傾斜している場合、あるいは仕切り板部が底板部に対して傾斜している場合には、側板部と垂直な仮想の平面を基準として、仕切り板部の高さを定義しても良い。
【0028】
本発明のイオン検出器は、質量分析計や加速器等、正負のイオンを検出する機器に用いることができる。また、本発明のイオン検出器は、イオン以外の荷電粒子(電荷をもった素粒子等)を検出するために用いることもできる。
本発明のイオン検出器を利用可能な機器の具体例としては、四重極型質量分析計や、四重極型質量分析計を利用したガス分析計等が挙げられる。
【0029】
図11に四重極型質量分析計9の一例を示す。この四重極型質量分析計9は、イオン源5と、質量分離部7と、イオン検出部8を備える。
イオン源5は、電子源であるカソード電極1と、このカソード電極1に対して正の電位に制御されたアノード電極2と、アノード電極2の内部においてイオンが生成されるイオン化室3と、イオン化室3からイオンの一部を引き出す引き出し電極4を備える。
カソード電極1は、略円筒状のアノード電極2の円周面を略半周強程度囲うように線状に形成されている。アノード電極2は、グリッド状に形成されており、その内部はイオン化室3として構成されている。アノード電極2の質量分離部7側である一端の近傍には、引き出し電極4が配置されている。
【0030】
質量分離部7は、四本の棒状電極6が格子状に対称かつ平行に配置された形状をしており、対向して位置する棒状電極6が同電位、隣接して位置する棒状電極6が反対符号の同電位となるように配線されている。
イオン検出部8には、本発明のイオン検出器が設けられる。
【0031】
質量分析計9は、図示しない真空装置内に収容されており、真空装置内を図示しない真空ポンプなどにより排気し、質量分析計9が動作可能となる、所定(上限)圧力以下の低圧下にする。その後、電子源であるカソード電極1からアノード電極2に向けて電子を放出する。またカソード電極1及びアノード電極2をある一定の電位に設定すると、カソード電極1から放出された電子の一部は、アノード電極2に到達する前に気体分子と衝突し、気体をイオン化しイオンを生成する。
このようにしてイオン化室3内で生成されたイオンの一部は、引き出し電極4により質量分離部7に導入され、イオンの質量電荷比(m/z)によって分離され、目的のイオンがイオン検出部8に導入される。
イオン検出部8では、上述したイオン検出器100において、ファラデーカップ20又は二次電子増倍管30によりイオンが検出され、電流値に基づきイオンの量が求められる。このイオンの検出量は、イオン化室3に導入されたガスの分圧に比例して増減するので、イオン検出器100による検出量に基づき、ガス分圧を測定することができる。
【0032】
以上、本発明を好適な実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
図3のイオン検出器10Aは、仕切り板部23を複数(例えば3つ)有するファラデーカップ20Aを備える。図3の場合、3つの仕切り板部23によりファラデーカップ20Aが4つのファラデーカップを結合した構成となり、二次電子の漏れ出しによる感度の低下を抑制することができる。
仕切り板部23が複数ある場合、各仕切り板部23の高さは、二次電子増倍管30の入射部32に近い側から遠い側に向かって、連続的または段階的に増大させる。
【0033】
図4のイオン検出器10Bは、ファラデーカップ20Bの仕切り板部23の上端部に、該仕切り板部23と対向する側板部22a,22bに向かって屈曲した縁部24を有する。この縁部24は、仕切り板部23からカップの内部空間に向かって突出するので、二次電子の漏れ出しをより効率的に抑制することができる。ただし、仕切り板部23の突出高さ、及び縁部24の長さが大きいと、ファラデーカップ20に入射するイオンビームをも妨げるおそれがあるので、縁部24の仕切り板部23からの突出寸法は、適宜調整することが望ましい。
図4の例では、縁部24は、仕切り板部23の両側に断面T字型に形成されており、仕切り板部23の左右両側で発生した二次電子の漏れ出し抑制に有効である。
【0034】
図5のイオン検出器10Cは、ファラデーカップ20Cの仕切り板部23が底板部21から傾斜している。この仕切り板部23は、入射部32から遠い側の側板部22bに向かって傾斜しているので、二次電子の漏れ出しをより効率的に抑制することができる。ただし、傾斜角度が大きすぎると、ファラデーカップ20に入射するイオンビームをも妨げるおそれがあるので、縁部24の仕切り板部23からの傾斜角度は、適宜調整することが望ましい。
【0035】
本発明のファラデーカップは、側板部と仕切り板部との間の角度は特に限定されない。
図2に示すファラデーカップ20の場合、仕切り板部23は、入射部32に近い側の側板部22a及び入射部32から遠い側の側板部22bに対して平行である。
図6のファラデーカップ201は、仕切り板部23が、入射部32に近い側の側板部22a、入射部32から遠い側の側板部22b、及び底板部21に結合されるように形成されている。
また、図7のファラデーカップ202は、仕切り板部23が、底板部21の対角線に沿って形成されている。
【0036】
図8のファラデーカップ203は、底板部21が円形状で、側板部22が円筒状に形成され、側板部22の高さは、入射部32に近い側の位置22aで最も低く、入射部32から遠い側の位置22bで最も高くなっている。
このように底板部21が矩形状でなくても、図2に示すファラデーカップ20と同様の効果を奏する。
【0037】
図9のイオン検出器10Eは、ファラデーカップ20Eの底板部21が、仕切り板部23が形成された中央部に向かって深くなるように傾斜して形成されている。
また、図10のイオン検出器10Fは、ファラデーカップ20Fの底板部21が、仕切り板部23が形成された中央部に向かって浅くなるように傾斜して形成されている。
このように底板部21が平板状でなくても、図2に示すファラデーカップ20と同様の効果を奏する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
図1に示すように、ファラデーカップ20に仕切り板部23を設けた実施例に係るイオン検出器10と、図12に示すように、ファラデーカップ200に仕切り板部を設けていない比較例に係るイオン検出器100とを作製した。ファラデーカップ20の材質は、いずれもSUS(肉厚0.1mm)である。底板部21は、側板部22a,22bに対して垂直である。また、仕切り板部23は、底板部21に対して垂直であり、側板部22a,22bに対して平行である。
【0039】
実施例1に係るイオン検出器10の場合、入射部32に近い側の側板部22aの高さは1.5mm、入射部32から遠い側の側板部22bの高さは5.7mm、仕切り板部23の高さは3.0mmである。側板部22aから側板部22bまでの距離(側板部22a,22bの肉厚を含む。)は、5.0mmである。仕切り板部23の位置は、側板部22aと側板部22bとの間の中間の位置である。
実施例2は、仕切り板部23の高さを4.0mmとした他は、実施例1と同様である。
実施例3は、仕切り板部23の高さを5.0mmとした他は、実施例1と同様である。
【0040】
比較例に係るイオン検出器100の場合、入射部32に近い側の側板部22aの高さは1.5mm、入射部32から遠い側の側板部22bの高さは4.3mmである。側板部22aから側板部22bまでの距離(側板部22a,22bの肉厚を含む。)は、5.0mmである。
【0041】
実施例及び比較例のイオン検出器10,100をそれぞれ図11に示す四重極型質量分析計9に組み込み、ガス分圧を測定した。
アノード電極2には、形状が直径7.5mm、高さが12mmの円筒形状のもので、モリブデンのメッシュで構成したものを採用する。アノード電極2の電位は接地電位に対して+60V、カソード電極1の電位は接地電位に対して+20Vに設定し、カソード電極1とアノード電極2の間に流れる電子電流は、0.1mAで一定となるように調整している。
【0042】
図13は、比較例のイオン検出器100を備えた四重極型質量分析計9を用いて、低圧下(全圧8.4×10−6Pa)及び高圧下(全圧1.05Pa)のガスについて測定した質量スペクトルを示す。ここで、質量スペクトルは、横軸をm/z、縦軸をイオン電流値として表示したグラフである。
図13から、比較例のイオン検出器100を用いると、高圧下では低圧下よりイオン電流値のベースライン(ノイズ)が増大し、シグナルのS/N比が低下して、検出限界レベルが悪くなることが分かる。
【0043】
図14は、実施例1のイオン検出器10を備えた四重極型質量分析計9を用いて、低圧下(全圧3.63×10−6Pa)及び高圧下(全圧1.03Pa)のガスについて測定した質量スペクトルを示す。
図14から、実施例1のイオン検出器10を用いると、イオン電流値のベースライン(ノイズ)は、高圧下でも低圧下と同程度であり、同程度の検出限界レベルで測定可能であることが分かる。
【0044】
また、四重極型質量分析計9のイオン化室3内の圧力が0.4PaとなるようにArガスを導入した際の最小検出レベルの確認を実施した。
最小検出レベルは、質量スペクトルにおいて、ガス中に存在しない質量数であるm/z=10について求めた分圧を3分間続けて測定したときの最大値に対応する圧力値として定義する。
なお、全圧は、アルゴン(40Ar)に対応する質量数であるm/z=40について求めた分圧として測定し、3分間の測定中、一定であることを確認した。同様に、36Arに対応する質量数であるm/z=36についても計測し、この分圧の測定値も一定であることを確認した。
【0045】
図15は、比較例のイオン検出器を用いて測定した最小検出レベルを示す。また、図16は、実施例1のイオン検出器を用いて測定した最小検出レベルを示すグラフである。
比較例のイオン検出器を用いた場合の最小検出レベルは、図15に示すように、1.08×10−5Paであった。また、実施例のイオン検出器を用いた場合の最小検出レベルは、図16に示すように、2.60×10−6Paであった。
図16に示す測定例においては、測定スピードを500msec/amuとしている。
【0046】
表1は、比較例(仕切り板部;なし)と、実施例1(仕切り板部;高さ3mm)、実施例2(仕切り板部;高さ4mm)、実施例3(仕切り板部;高さ5mm)について、ファラデーカップの感度(FC感度)、二次電子増倍管の感度(SEM感度)、二次電子増倍管に印加する電圧(SEM電圧)、全圧0.4Paにおける最小検出分圧を比較したものである。表1のSEM感度及びSEM電圧は、定格感度1.00×10−4A/Paが得られるときの値を示す。
表1に示す測定例においては、測定スピードを500msec/amuとしている。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から、実施例1〜3は、いずれも比較例より最小検出分圧が低くなっている。このことから、仕切り板部の高さに関わらず、FCの中央部に仕切り板部を設けることにより、最小検出分圧を低減できたことが分かる。
定格感度が得られるときのSEM電圧は、実施例2(高さ4mm)及び実施例3(高さ5mm)のときには比較例よりも若干高いが、実施例1(高さ3mm)では比較例と同程度のSEM電圧で定格感度が得られた。SEM電圧は高ければ高いほど、イオン電流を増幅させなければならず、感度低下を招く。したがって、実施例1によれば、FCに仕切りを設けてもSEMに向かうイオンの流れを妨害することがなく、SEM感度の低下を招くことがないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、質量分析計や加速器等、荷電粒子(正負のイオンや電荷をもった素粒子等)を検出するために利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
9…四重極型質量分析計、10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,100…イオン検出器、11…筐体、12…開口部、20,20A,20B,20C,20D,20E,20F,200,201,202,203…ファラデーカップ、21…底板部、22a,22b,22c…側板部、23…仕切り板部、30…二次電子増倍管、31a,31b,31c…ダイノード、32…入射部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームが通過する開口部を有する筐体と、前記開口部を通るイオンビームの飛行方向延長線上に位置するファラデーカップと、前記飛行方向延長線からそれた方向にイオンビームの入射部を有する二次電子増倍管とを備えるイオン検出器であって、
前記ファラデーカップは、前記飛行方向延長線上に位置する底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有し、前記側板部は、前記二次電子増倍管の入射部に近い側から遠い側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記二次電子増倍管の入射部から遠い側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記二次電子増倍管の入射部に近い側における前記側板部の高さよりも高く形成されていることを特徴とするイオン検出器。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン検出器を備えることを特徴とする四重極型質量分析計。
【請求項3】
底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有することを特徴とするファラデーカップ。
【請求項4】
前記側板部は、一方の側から他方の側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記他方の側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記一方の側における前記側板部の高さよりも高く形成されていることを特徴とするファラデーカップ。
【請求項5】
イオンビームが通過する開口部を有する筐体と、前記開口部を通るイオンビームの飛行方向延長線上に位置するファラデーカップと、前記飛行方向延長線からそれた方向にイオンビームの入射部を有する二次電子増倍管とを備えるイオン検出器に用いられるファラデーカップであって、
前記ファラデーカップは、前記飛行方向延長線上に位置する底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有し、前記側板部は、前記二次電子増倍管の入射部に近い側から遠い側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記二次電子増倍管の入射部から遠い側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記二次電子増倍管の入射部に近い側における前記側板部の高さよりも高く形成されていることを特徴とするファラデーカップ。
【請求項1】
イオンビームが通過する開口部を有する筐体と、前記開口部を通るイオンビームの飛行方向延長線上に位置するファラデーカップと、前記飛行方向延長線からそれた方向にイオンビームの入射部を有する二次電子増倍管とを備えるイオン検出器であって、
前記ファラデーカップは、前記飛行方向延長線上に位置する底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有し、前記側板部は、前記二次電子増倍管の入射部に近い側から遠い側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記二次電子増倍管の入射部から遠い側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記二次電子増倍管の入射部に近い側における前記側板部の高さよりも高く形成されていることを特徴とするイオン検出器。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン検出器を備えることを特徴とする四重極型質量分析計。
【請求項3】
底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有することを特徴とするファラデーカップ。
【請求項4】
前記側板部は、一方の側から他方の側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記他方の側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記一方の側における前記側板部の高さよりも高く形成されていることを特徴とするファラデーカップ。
【請求項5】
イオンビームが通過する開口部を有する筐体と、前記開口部を通るイオンビームの飛行方向延長線上に位置するファラデーカップと、前記飛行方向延長線からそれた方向にイオンビームの入射部を有する二次電子増倍管とを備えるイオン検出器に用いられるファラデーカップであって、
前記ファラデーカップは、前記飛行方向延長線上に位置する底板部と、前記底板部の周囲に設けられた側板部と、前記側板部に囲まれた内部を複数の空間に区画する仕切り板部とを有し、前記側板部は、前記二次電子増倍管の入射部に近い側から遠い側に向かって、高さが連続的または段階的に増大し、前記仕切り板部は、前記二次電子増倍管の入射部から遠い側における前記側板部の高さよりも低く、かつ前記二次電子増倍管の入射部に近い側における前記側板部の高さよりも高く形成されていることを特徴とするファラデーカップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−177120(P2010−177120A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20265(P2009−20265)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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