説明

イオン水を生成する方法及びイオン水生成装置

【課題】水の電気分解を利用してイオン水を生成する方法において、できるだけ手間をかけずに高純度のイオン水を生成する。
【解決手段】蒸留水に浸漬した電極対(2,3)間に放電場(B)が介在した電流経路を形成して電気分解を行い、且つ放電場(B)内にストリーマ放電が生起されるように電極対(2,3)に電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の電気分解を利用してイオン水を生成する方法、及び水の電気分解を利用してイオン水を生成するイオン水生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水の電気分解を利用してイオン水を生成するイオン水生成装置が知られている。そして、このイオン水生成装置の中には、特許文献1に示すように、飲用に適した高純度のイオン水を生成するものが開示されている。
【0003】
特許文献1のイオン水生成装置は、原水を透過水(蒸留水)及び濃縮水に分ける逆浸透膜を備えている。特許文献1では、まず、上記濃縮水を電気分解する。ここで、蒸留水ではなく濃縮水を電気分解するのは、該濃縮水には比較的多くの不純物が含まれており、電気分解のための電気が流れやすいからである。一般に、200μS/cm程度の水(例えば、水道水)であれば十分に電気分解が可能である。そして、この電気分解によって生成されたイオン水に不純物の少ない蒸留水を加える。これにより、飲用に適した高純度のイオン水を生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−218409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来のイオン水生成装置の場合、電気分解で生成したイオン水に蒸留水を加えなければならず、高純度のイオン水を生成するためのに手間がかかった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、水の電気分解を利用してイオン水を生成する方法において、できるだけ手間をかけずに高純度のイオン水を生成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、蒸留水に浸漬した電極対(2,3)間に放電場(B)が介在した電流経路を形成して電気分解を行い、且つ上記放電場(B)内にストリーマ放電が生起されるように上記電極対(2,3)に電圧を印加することを特徴としている。
【0008】
第1の発明では、上記電極対(2,3)に所定の直流電圧を印加すると、上記蒸留水で電気分解が起き、上記電極対(2,3)間に放電場(B)を含む電流経路が形成される。
【0009】
ここで、従来のイオン水の生成方法では、図4に示すように、電極対(2,3)間に形成される電流経路に放電場(B)は含まれない。尚、図4において、R1は電極表面の反応抵抗を示し、R2は水の電気抵抗を示している。そして、蒸留水(1μS/cm程度の水)の場合には、これらの抵抗(R1,R2)が非常に大きい。このことから、上記蒸留水で電気分解を起こすためには、上記電極対(2,3)間に非常に高い電圧を印加しなければならない。このとき、上記電極対(2,3)間には、多くの電流が流れる。このため、従来の方法で蒸留水を電気分解するのは、省電力の観点から好ましくない。
【0010】
一方、本発明では、図5に示すように、上記電極対(2,3)間に放電場(B)(例えば、気泡)を含んだ電流経路が形成される。尚、図5において、R1は電極表面の反応抵抗を示し、R2は水の電気抵抗を示し、R3は気泡の電気抵抗を示す。そして、この気泡が、上記電極対(2,3)間で水中を介した導電を阻止する抵抗として機能する。これにより、上記電極対(2,3)間に高い電圧を印加した場合に、上記電極対(2,3)間の漏れ電流が抑制され、電極対(2,3)間では、所望とする電位差が保たれることになる。すると、気泡内では、絶縁破壊に伴いストリーマ放電が生起する。
【0011】
又、このストリーマ放電では、気泡内を間欠的に電流が流れる。このため、本発明のイオン水の生成方法は、上述した従来のイオン水の生成方法に比べて、上記電極対(2,3)間を流れる電流の量が少ない。このように、本発明のイオン水の生成方法では、従来よりも低い電流で蒸留水を電気分解することができるようになる。
【0012】
第2の発明は、蒸留水が供給される電解槽(20)と、上記電解槽(20)内に位置する電極対(2,3)と該電極対(2,3)に電気的に接続された電源部(4)とを有する電極ユニット部(1)とを備え、上記電極ユニット部(1)は、上記電源部(4)から上記電極対(2,3)へ直流電圧を印加することにより、上記電解槽(20)の蒸留水に電気分解を起して上記電極対(2,3)間に放電場(B)が介在した電流経路を形成するとともに、上記放電場(B)内にストリーマ放電を生起させることを特徴としている。
【0013】
第2の発明では、上記電極ユニット部(1)において、上記電極対(2,3)間に直流電圧が印加されると、上記電解槽(20)の水中に電気分解が起きる。そして、上記電極対(2,3)間に放電場(B)を含む電流経路が形成される。この放電場(B)は、上記電極対(2,3)間で水中を介した導電を阻止する抵抗として機能する。これにより、上記電極対(2,3)間に高い電圧を印加した場合に、上記電極対(2,3)間の漏れ電流が抑制され、電極対(2,3)間では、所望とする電位差が保たれることになる。すると、放電場(B)内では、絶縁破壊に伴いストリーマ放電が生起する。
【0014】
又、このストリーマ放電では、放電場(B)内を間欠的に電流が流れる。このため、比較的に低電流で蒸留水を分解することができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記電極対(2,3)間の蒸留水にストリーマ放電が生起する放電場(B)を含む電流経路を形成することができる。この放電場(B)内では、上記ストリーマ放電に伴って間欠的に電流が流れるため、従来の方法よりも低い電流で蒸留水を電気分解することができる。これにより、従来とは違い、濃縮水を電気分解した後に蒸留水を加える必要はなく、蒸留水を電気分解して高純度のイオン水を生成することができる。
【0016】
また、上記第2の発明によれば、上記電極対(2,3)間の蒸留水にストリーマ放電が生起する放電場(B)を含む電流経路を形成することができる。この放電場(B)内では、上記ストリーマ放電に伴って間欠的に電流が流れるため、比較的に低い電流で蒸留水を電気分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係るイオン水生成装置の概略図である。
【図2】本実施形態に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図3】本実施形態に係るイオン水生成装置の概略図であり、電極ユニット部が放電を開始して気泡が形成された状態を示すものである。
【図4】従来のイオン水の生成方法における電極対間の電気抵抗を示した図である。
【図5】本発明のイオン水の生成方法における電極対間の電気抵抗を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。この実施形態に係るイオン水の生成方法は、図1から図3に示すイオン水生成装置を参照して説明する。このイオン水生成装置(10)は、電解槽(20)と電極ユニット部(1)とを備えている。
【0019】
〈電解槽〉
上記電解槽(20)は、水を貯留する貯水室(21)を有している。上記貯水室(21)には、該貯水室(21)を酸性室(12)とアルカリ室(13)とに区画する絶縁性を有する樹脂製の隔壁(11)が設けられている。この隔壁(11)の下側には厚さ方向へ貫通する貫通孔(16)が形成されている。
【0020】
又、この電解槽(20)の上部に第1及び第2給水管(22a,22b)が接続されている。上記第1給水管(22a)は上記酸性室(12)に開口しており、この第1給水管(22a)を通じて上記酸性室(12)に蒸留水が供給される。上記第2給水管(22b)は上記アルカリ室(13)に開口しており、この第2給水管(22b)を通じて上記アルカリ室(13)に蒸留水が供給される。
【0021】
又、上記電解槽(20)の底部には、第1排水管(23)及び第2排水管(24)が接続されている。上記第1排水管(23)は上記酸性室(12)に開口しており、この第1排水管(23)を通じて上記酸性室(12)で生成された酸性水が外部へ排出される。上記第2排水管(24)は上記アルカリ室(13)に開口しており、この第2排水管(24)を通じて上記アルカリ室(13)で生成されたアルカリ水が外部へ排出される。
【0022】
〈電極ユニット部〉
上記電極ユニット部(1)は、電極対(2,3)と電源部(4)と絶縁ケーシング(5)とを備えている。
【0023】
−電極対−
上記電極対(2,3)は、水中でストリーマ放電を生起するためのものであり、放電電極(2)及び対向電極(3)とからなる。この放電電極(2)は、左右に扁平な板状に形成され、例えばステンレス、銅等の導電性の金属材料で構成されている。又、上記放電電極(2)は、上記貯水室(21)の左寄りに配置された絶縁ケーシング(5)の内部に収容されている。この絶縁ケーシング(5)の近傍に上記第1排水管(23)の開口部が位置している。この対向電極(3)は、例えばステンレス、真鍮等の導電性の金属材料で構成されている。又、この対向電極(3)は、上記貯水室(21)の右寄りに位置している。この対向電極(3)の近傍には、上記第2排水管(24)の開口部が位置している。
【0024】
−電源部−
上記電源部(4)は、上記電極対(2,3)に所定の直流電圧を印加する直流電源で構成されている。即ち、電源部(4)は、電極対(2,3)に対して瞬時的に高電圧を繰り返し印加するようなパルス電源ではなく、電極対(2,3)に対して常に数キロボルトの直流電圧を印加する直流電源である。この電源部(4)の正極側に上記放電電極(2)が接続され、負極側に上記対向電極(3)が接続されている。又、上記電源部(4)の負極側はアースと接続されている。
【0025】
−絶縁ケーシング−
上記絶縁ケーシング(5)は、例えばセラミックス等の絶縁材料で構成されている。絶縁ケーシング(5)は、一面(右面)が開放された容器状のケース本体(6)と、該ケース本体(6)の右側方の開放部を閉塞する板状の蓋部(7)とを有している。
【0026】
ケース本体(6)は、断面矩形状の筒壁部(6a)と、該筒壁部(6a)の左側開口部を閉塞する左側壁部(6b)とを有している。放電電極(2)は、左側壁部(6b)の内面に取り付けられている。絶縁ケーシング(5)では、蓋部(7)と左側壁部(6b)との間の左右方向の距離が、放電電極(2)の厚さよりも長くなっている。つまり、放電電極(2)と蓋部(7)との間には、所定の間隔が確保されている。これにより、絶縁ケーシング(5)の内部では、放電電極(2)とケース本体(6)と蓋部(7)との間に空間(S)が形成される。
【0027】
図1及び図2に示すように、絶縁ケーシング(5)の蓋部(7)には、該蓋部(7)を厚さ方向に貫通する1つの開口部(8)が形成されている。この開口部(8)により、放電電極(2)と対向電極(3)との間で電界の形成が許容されている。蓋部(7)の開口部(8)の内径は、0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。以上のような開口部(8)は、電極対(2,3)の間の電流経路の電流密度を上昇させる電流密度集中部を構成する。
【0028】
以上のように、絶縁ケーシング(5)は、電極対(2,3)のうちの一方の電極(放電電極(2))のみを内部に収容し、且つ電流密度集中部としての開口部(8)を有する絶縁部材を構成している。加えて、絶縁ケーシング(5)の開口部(8)内では、電流経路の電流密度が上昇することで、水がジュール熱によって気化して気泡(B)が形成される。つまり、絶縁ケーシング(5)の開口部(8)は、該開口部(8)に気相部としての気泡(B)を形成する気相形成部として機能する。そして、この気泡(B)の内部が放電場となり、この放電場でストリーマ放電が行われる。
【0029】
−運転動作−
次に、実施形態のイオン水生成装置(10)の運転動作について説明する。
【0030】
実施形態のイオン水生成装置(10)では、上記給水管(22)を通じて、上記電解槽(20)の貯水室(21)へ蒸留水が供給される。この蒸留水が所定量に達し、上記絶縁ケーシング(5)の内の空間(S)が浸水した状態(図1を参照)になると、上記電極ユニット部(1)が作動する。この作動により、上記電源部(4)から電極対(2,3)へ所定の直流電圧(例えば1kV)が印加され、上記樹脂製の隔壁(11)における貫通孔(16)を通じて上記電極対(2,3)の間に電界が形成される。
【0031】
又、上述したように、上記放電電極(2)の周囲は、絶縁ケーシング(5)で覆われている。このため、電極対(2,3)の間での漏れ電流が抑制されとともに、上記絶縁ケーシング(5)における開口部(8)内の電流経路の電流密度が上昇した状態となる。
【0032】
上記絶縁ケーシング(5)における開口部(8)内の電流密度が上昇すると、この開口部(8)内のジュール熱が大きくなる。その結果、絶縁ケーシング(5)では、開口部(8)の近傍において、水の気化が促進されて気泡(B)が形成される。この気泡(B)は、図3に示すように、開口部(8)のほぼ全域を覆う状態となり、対向電極(3)に導通する負極側の蒸留水と、正極側の放電電極(2)との間に気泡(B)が介在する。従って、この状態では、気泡(B)が、放電電極(2)と対向電極(3)との間での蒸留水を介した導電を阻止する抵抗として機能する。これにより、放電電極(2)と対向電極(3)との間の漏れ電流が抑制され、電極対(2,3)間では、所望とする電位差が保たれることになる。すると、気泡(B)内では、絶縁破壊に伴いストリーマ放電が発生する。
【0033】
以上のようにして、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、上記対向電極(3)の近傍では、次式(1)に示すような反応が行われる。この反応により、水素イオン(H)が消費されて減少する。この結果、水素イオン指数(PH)が増加し、アルカリ水が生成される。このアルカリ水は、上記電解槽(20)の第2排水管(24)を通じて外部へ排出される。
【0034】
4HO+4e → 2H+4OH(1)
一方、上記気泡(B)における気液界面の近傍では、次式(2)に示すような反応が行われる。この反応により、水酸化イオン(OH)が減少して水素イオン(H)が増加する。この結果、水素イオン指数が減少し、酸性水が生成される。この酸性水は、上記電解槽(20)の第1排水管(23)を通じて外部へ排出される。
【0035】
2HO → O+4H+4e(2)
又、上記気泡(B)における気液界面の近傍では、水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素等が生成される。水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素は、ストリーマ放電に伴う熱によって貯水室(21)内を対流する。尚、上記酸性室(12)で発生した水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素等は、上記樹脂製の隔壁(11)における貫通孔(16)を通じて、上記酸性室(12)から上記アルカリ室(13)へ拡散する。また、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、このストリーマ放電に伴ってこの気泡(B)でイオン風を生成し易くなる。よって、貯水室(21)内では、このイオン風を利用して、活性種や過酸化水素の拡散効果を更に向上できる。
【0036】
以上のようにして、上記放電電極(2)の近傍で酸性水が生成され、上記対向電極の近傍でアルカリ水が生成される。又、上記放電電極(2)の近傍から拡散した水酸ラジカル等の活性種は、酸性水又はアルカリ水に含まれる被処理成分(例えばアンモニア等)を酸化分解して酸性水又はアルカリ水の浄化に利用される。
【0037】
また、上記放電電極(2)の近傍から拡散した過酸化水素は、酸性水又はアルカリ水の殺菌に利用される。これにより、本実施形態のイオン水生成装置(10)では、上記貯水室(21)内の清浄度が保たれる。
【0038】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、上記電極対(2,3)間の蒸留水にストリーマ放電が生起する放電場(B)を含む電流経路を形成することができる。この放電場(B)内では、上記ストリーマ放電に伴って間欠的に電流が流れるため、従来の方法よりも低い電流で蒸留水を電気分解することができる。これにより、従来とは違い、濃縮水を電気分解した後に蒸留水を加える必要はなく、蒸留水を電気分解して高純度のイオン水を生成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上説明したように、本発明は、水の電気分解を利用してイオン水を生成する方法、及び水の電気分解を利用してイオン水を生成するイオン水生成装置について有用である。
【符号の説明】
【0040】
1 電極ユニット部
2 放電電極
3 対向電極
4 電源部
5 絶縁ケーシング
10 イオン水生成装置
11 隔壁
12 酸性室
13 アルカリ室
20 電解槽
21 貯水室
22a 第1給水管
22b 第2給水管
23 第1排水管
24 第2排水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留水に浸漬した電極対(2,3)間に放電場(B)が介在した電流経路を形成して電気分解を行い、且つ上記放電場(B)内にストリーマ放電が生起されるように上記電極対(2,3)に電圧を印加することを特徴とするイオン水の生成方法。
【請求項2】
蒸留水が供給される電解槽(20)と、
上記電解槽(20)内に位置する電極対(2,3)と該電極対(2,3)に電気的に接続された電源部(4)とを有する電極ユニット部(1)とを備え、
上記電極ユニット部(1)は、上記電源部(4)から上記電極対(2,3)へ直流電圧を印加することにより、上記電解槽(20)の蒸留水に電気分解を起して上記電極対(2,3)間に放電場(B)が介在した電流経路を形成するとともに、上記放電場(B)内にストリーマ放電を生起させることを特徴とするイオン水生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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