イオン注入シミュレーション方法及びイオン注入シミュレーション装置、半導体装置の製造方法、半導体装置の設計方法
【課題】ウェル近接効果の簡易なシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】基体上に形成された構造体に注入され、構造体の側面から基体に再注入される再注入ドーズを算出し、分布関数と再注入ドーズの再注入条件とから、基体に注入される不純物の濃度分布を算出するイオン注入のシミュレーションを行う。
【解決手段】基体上に形成された構造体に注入され、構造体の側面から基体に再注入される再注入ドーズを算出し、分布関数と再注入ドーズの再注入条件とから、基体に注入される不純物の濃度分布を算出するイオン注入のシミュレーションを行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、半導体装置のウェル近接効果によるイオン注入シミュレーション方法及びイオン注入シミュレーション装置、半導体装置の製造方法、半導体装置の設計方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程に用いられるイオン注入工程のシミュレーション方法として、解析モデルが用いられている。解析モデルでは、イオン注入による不純物濃度分布を、例えば、デュアル-ピアソンIV型関数等の分布関数を用いて近似する(例えば、非特許文献1参照)。
また、半導体製造工程において、ウェル形成工程では高エネルギ及び多量のイオンを要する。このため、イオン注入を防止するためのマスクレジストの厚さが大きくなる。ウェル形成時にマスクレジストに注入されたイオンは、レジスト中で散乱する。特に、イオンの横方向への散乱により、マスクレジストの側面からイオンが出現する可能性がある。このため、レジストで覆われていない基体の領域において、マスクレジストの側面からのイオンの出現により、意図しない不純物分布が形成される。これは、トランジスタの閾値等のデバイスを変動させる要因となっている。この現象はウェル近接効果と呼ばれている。
半導体装置の製造においては、上述のウェル近接効果によるデバイスの変動を緩和するためにデバイスの設計を最適化することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−177518号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Changhae Parka, Kevin M. Kleina and Al F. Tascha, “Efficient modeling parameter extraction for dual pearsonapproach to simulation of implanted impurity profiles in silicon”, Solid-State Electronics, Volume 33, Issue 6, June 1990, Pages 645-650
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体装置の製造においては、ウェル近接効果による影響を抑制することが望まれている。このため、イオン注入による不純物分布の簡易な計算方法が望まれている。
【0006】
本技術は、ウェル近接効果の簡易なイオン注入シミュレーション方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術のイオン注入シミュレーション方法は、基体と、基体上に形成された構造体とに注入され、構造体の側面から基体に再注入される再注入ドーズを算出し、分布関数と再注入ドーズの再注入条件とから、基体に注入される不純物の濃度分布を算出する。
【0008】
また、本技術のイオン注入シミュレーション装置は、分布関数及びパラメータを記憶する記憶部を備える。そして、記憶部に保持された分布関数とパラメータとを用いて、基体上に形成された構造体に注入された不純物が、構造体の側面から基体に再注入される不純物の基体中での濃度分布を計算する演算部を備える。
【0009】
また、本技術の半導体装置の製造方法では、半導体基体上に構造体のパターンを形成する工程と、構造体上から半導体基体上にイオン注入する工程とを有する。そして、イオン注入する工程において、構造体に注入され、構造体の側面から基体に再注入される再注入ドーズを算出して再注入条件を生成する。さらに、再注入ドーズの再注入条件と分布関数とから、基体に注入される不純物の濃度分布を算出する、イオン注入シミュレーションを行う。このように、イオン注入シミュレーションで生成された条件に基づき、半導体基体にイオン注入を行う。
【0010】
また、本技術の半導体装置の設計方法では、半導体基体上に形成された構造体に注入され、構造体の側面から基体に再注入される再注入ドーズを算出して再注入条件を生成する。そして、分布関数と再注入ドーズの再注入条件とから、基体に注入される不純物の濃度分布を算出するイオン注入シミュレーションにより、半導体基体の不純物の濃度分布を算出する。
【0011】
本技術のイオン注入シミュレーション方法及びイオン注入シミュレーション装置では、基体上に形成された構造体に注入された不純物の一部が、構造体から基体に再注入されるモデルについてシミュレーションを行う。そして、構造体から基体に再注入される再注入ドーズについて、分布関数を用いた解析モデルにより、基体中での不純物濃度分布をシミュレーションにより算出する。そして、このイオン注入シミュレーションで生成されたイオン注入条件に基づいて半導体装置の設計を行い、半導体装置を製造する。
【発明の効果】
【0012】
本技術によれば、解析モデルによる簡易な方法により、ウェル近接効果のシミュレーションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】A及びBは、モンテカルロ法によるイオン注入シミュレーションの結果を示す図である。
【図2】解析モデルによるイオン注入シミュレーションの結果を示す図である。
【図3】Aは、解析モデルによるイオン注入シミュレーションの結果を示す図である。Bは、解析モデルの注入角度分布を示す図である。Cは、解析モデルのエネルギ分布を示す図である。
【図4】イオン注入シミュレーションのフローチャートである。
【図5】A及びBは、再注入開始点を説明するための図である。
【図6】A及びBは、解析モデルによるイオン注入シミュレーションの結果を示す図である。
【図7】イオン注入シミュレーション装置の構成を示す図である。
【図8】Aは、イオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を示す図である。Bは、イオン注入シミュレーションによる再注入開始点を説明するための図である。
【図9】Aは、イオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を示す図である。Bは、イオン注入シミュレーションによる再注入開始点を説明するための図である。
【図10】Aは、イオン注入シミュレーションに適用する構造を示す図である。Bは、イオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を示す図である。Cは、イオン注入シミュレーションによる再注入開始点を説明するための図である。
【図11】Aは、イオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を示す図である。Bは、イオン注入シミュレーションによる再注入開始点を説明するための図である。
【図12】Aは、イオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を示す図である。Bは、イオン注入シミュレーションによる再注入開始点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本技術を実施するための最良の形態の例を説明するが、本技術は以下の例に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.イオン注入シミュレーション方法の概要
2.イオン注入シミュレーション方法の実施の形態
3.イオン注入シミュレーション装置の実施の形態
【0015】
〈1.イオン注入シミュレーション方法の概要〉
[モンテカルロ法を用いたイオン注入シミュレーション方法]
モンテカルロ法を用いたイオン注入シミュレーション方法では、基体、構造体等の注入される試料に入射するイオン種が、注入される試料内の原子と散乱して減速・停止するまで、イオン種の追跡計算を行う。
入射イオンの減速は、注入される試料(基体、構造体等)の原子と二体弾性衝突と、試料中の原子の電子によるエネルギ損失とによる。入射したイオンは、これらの過程を経ることで停止位置が決まる。モンテカルロ法では、入射イオンの初期値の設定や散乱過程の選択をランダムに設定して、何度も計算を繰り返すことにより算出されるイオン種の停止位置を不純物分布として表現する。
【0016】
図1にモンテカルロ法によるイオン注入シミュレーション結果を示す。図1Aは、基体11上にイオン注入を制限するための構造体、例えばレジスト12が形成された試料に対して、モンテカルロ法によるイオン注入シミュレーションを行った結果である。図1Aでは、基体11及びレジスト12中の不純物の濃度分布に等値線を用いて表す。また、図1Bは、レジスト12の側面付近に注入されたイオン種について、モンテカルロ法によるイオン注入シミュレーションを行った結果を示す図である。図1Aに示すように、基体11の中心付近には、均一な濃度分布13が形成されている。しかし、基体11中のレジスト12が形成された領域の付近に、基体11の中心付近に比べ、不均一な不純物分布14が形成されている。さらに、図1Bでは、レジスト12の側面付近に注入されたイオン種16が、レジスト12内で散乱してレジスト12の側面からレジスト12の領域外に移動した後、基体11へ注入されている。
【0017】
モンテカルロ法を用いたイオン注入シミュレーションでは、レジスト中でのイオン種16の散乱過程を計算するため、図1Bに示すようにウェル近接効果のシミュレーションを行うことが可能である。しかし、イオン種16の停止位置の計算を繰り返す必要があり、解析モデルの場合と比べ、計算に非常に長い時間を要する。
【0018】
[解析モデルを用いたイオン注入シミュレーション]
解析モデルによるイオン注入シミュレーション方法は、不純物の分布を注入エネルギ、ドーズ量等に合わせたパラメータを分布関数に代入し、基体の不純物分布を算出する。
半導体製造工程において、基体へのイオン注入をシミュレートする解析モデルでは、予め注入するイオン種と、注入される基体の材料毎のパラメータテーブルが用意される。このパラメータテーブルには、材料毎に規定されたエネルギ、ドーズ量、チルト角、ツイスト角、及びスルー膜厚等の各パラメータが用意されている。
そして、このパラメータテーブルで定義される範囲で、イオン種、基体、エネルギ、ドーズ量、チルト角、ツイスト角及びスルー膜厚等の条件に対応するパラメータセットを抽出してシミュレータに渡す。
【0019】
シミュレータは、渡されたパラメータセットを分布関数に代入し、対応する材料内部の適切な場所に不純物の濃度分布を計算する。この解析モデルは、1次元(深さ方向)の分布関数を用いたシミュレーションだけでなく、横方向の分布関数を用いた2次元、3次元のシミュレーションにも有効な手法である。
解析モデルにおいて用いられる分布関数は、例えば、ガウス分布関数、ハーフガウシアン型関数、ピアソンIV型関数、及びデュアル−ピアソンIV型関数等である。
【0020】
図2に解析モデルを用いたイオン注入シミュレーション方法による不純物分布を示す。図2は、基体11上にイオン注入を制限するための構造体、例えばレジスト12が形成された試料に対し、解析モデルを用いてイオン注入シミュレーションを行った結果である。 図2では、基体11及びレジスト12中の不純物の濃度分布を、等値線を用いて表している。
【0021】
この解析モデルによるシミュレーションでは、レジスト12等の基体11上に形成される構造体に注入される不純物のうち、横方向分布係数Lσなどでレジスト12領域の外側へ配置される不純物は無視されている。このため、レジスト12等の基体11上に形成される構造体の材料中で散乱して空間に放出され、再度基体11に注入されるウェル近接効果の再現はできていない。従って、上述の解析モデルでは、構造体中での散乱効果が再現されず、ウェル近接効果のシミュレーションは行われていない。
【0022】
[分布関数:ピアソン関数]
イオン注入シミュレーションの解析モデルにおいて用いられる分布関数の一例として、ピアソン関数について説明する。
確率分布関数であるピアソン関数は、分布のモーメントに関連した量を使って定義される。まず、深さ方向の分布を
【数1】
とする。
【0023】
また、分布のモーメントに関連する量である投影飛程Rp、分散σ、歪度γ、及び尖度βを以下のように定義し、基板表面から深さzの位置における不純物濃度プロファイルを表現する。
【0024】
【数2】
【0025】
上記式において、投影飛程Rpは不純物濃度プロファイルのピーク位置を示すパラメータである。分散σは投影飛程Rp近傍の不純物濃度プロファイルの広がりを示すパラメータである。歪度γは不純物濃度プロファイルの深さ方向の歪み具合(左右対称性)を示すパラメータである。尖度βは不純物濃度プロファイルの尖り具合(すそ引き具合)を示すパラメータである。
上記の各量を使ってピアソン関数は次の微分方程式により定義される。
【0026】
【数3】
【0027】
ここで理論的にRp、σ、γ、βを求める手段はない。このため、これらのパラメータは、二次イオン質量分析法等の測定データを用いて抽出する必要がある。
【0028】
デュアル−ピアソンIV型関数を用いたイオン注入計算では、上記のピアソン関数を2つ使って分布関数を作り、下記のように表すことができる。
【0029】
【数4】
【0030】
ここでP1,P2はそれぞれ規格化されたピアソン関数である。よってf(z)も規格化されていることになる。rは、0≦r≦1であり、ピアソン関数P1を加え合わせるときの重みを示す。
最初のピアソン関数P1は注入イオンと基板との間のランダムな散乱を表す分布に対応する。また、2番目のピアソン関数P2は基板の結晶性を表すチャネリング成分を表している。
これらをまとめるとデュアルピアソン関数は、P1(Rp1、σ1、γ1、β1)と、P2(Rp2、σ2、γ2、β2)と、双方の重みを表すrとの合計9個のパラメータで表すことができる。
【0031】
デュアル−ピアソンIV型関数を用いたイオン注入シミュレーションについては、上述の非特許文献1等にパラメータ抽出やシミュレーション方法が記載されている。例えば、デュアル−ピアソンIV型関数を用いた不純物分布をモデル化するための上記9個のパラメータを、2段階の抽出プロセスにより正確に抽出する方法が記載されている。また、モデル化のための各パラメータを抽出するために、測定データをデータベース(パラメータテーブル)に蓄積することが記載されている。
【0032】
上記ピアソン関数パラメータP1(Rp1、σ1、γ1、β1)、P2(Rp2、σ2、γ2、β2)は、注入材料ごとに注入エネルギと対応づけられて、データテーブルとしてデータベース等に蓄積される。イオン注入シミュレーション方法では、注入材料及び注入エネルギに応じた上記パラメータが、パラメータテーブルから読み出される。そして、読み出された各パラメータは上記式に代入され、不純物濃度分布が算出される。
【0033】
〈2.イオン注入シミュレーション方法の第1実施形態〉
[解析モデルを用いたイオン注入シミュレーション方法:注入再散乱モデル]
以下、イオン注入シミュレーション方法の実施の形態について説明する。
本実施の形態では、上述の解析モデルを用いて、ウェル近接効果のイオン注入シミュレーションを行う。本実施の形態のイオン注入シミュレーション方法は、図3Aに示すように、イオン注入される試料として半導体等からなる基体11と、イオン注入領域を制限する構造体としてレジスト12とに、イオン注入を行う場合に基づいて説明する。
【0034】
上述の従来の解析モデルでは、レジスト12に注入される不純物のうち、横方向分布係数Lσ等でレジスト12の領域外へ配置される不純物は無視されていた。しかし、レジスト12に注入された不純物の濃度分布13は、図3Aのように表現される。そして、この濃度分布13に等値線を引くと、レジスト12中での不純物の横方向拡散による高い濃度分布13が、レジスト12の側面まで連続して形成される。このレジスト12の側面から、レジスト12の外部に配置される不純物量を、基体11に再注入される不純物量としてモデル化する(注入再散乱モデル)。
つまり、レジストやポリシリコン等のイオン注入を制限する構造体に注入、配置される不純物分布のうち、横方向分布で側面のガスもしくは真空中に配置される不純物を合計し、この不純物量をウェル近接効果で基体に再注入されるドーズ量として扱う。この再注入されるドーズ量を、ウェル近接効果の不純物量としてモデル化する。
【0035】
ここで、注入再散乱モデルをモデル化するにあたり必要なデータは、レジストから外部に配置される不純物量、不純物が基体に再注入するときの注入角度分布、不純物が基体に再注入するときの注入エネルギ分布、及び、不純物の再注入開始点である。
【0036】
上述の従来の解析モデルの分布として無視されていた、再注入開始点からレジスト領域外に配置される不純物量を、再注入ドーズ量Dと設定する。
また、レジスト側面の再注入開始点から基体に再注入する不純物の注入角度分布は、分布関数f(θ)と設定する。注入角度分布関数f(θ)は図3Bに示すように、ガンマ分布や対数正規分布等として考える。
また、レジスト側面の再注入開始点から基体に再注入する不純物のエネルギ分布は、分布関数g(E)と設定する。図3Cに示すように、エネルギ分布関数g(E)は、ガンマ分布や対数正規分布等として考える。
上記ドーズ量Dと、f(θ)及びg(E)の2つの分布関数とを用いて、レジスト側面の適切な領域(再注入開始点)から基体のレジストで覆われていない領域への注入を計算することにより、ウェル近接効果の原因となる不純物分布の計算を行う。
【0037】
[シミュレーションフロー]
図4に、上述の解析モデルを用いて、レジストから基体へ再注入される不純物を考慮して不純物の濃度分布を算出する注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションのフローチャートを示す。
【0038】
S10において、解析モデルを用いてイオン注入の不純物濃度分布を算出する。例えば、ピアソン関数を用いて、基体11及びレジスト12にイオン注入された不純物の濃度分布を演算する。この不純物分布の演算は、従来の解析モデルを用いて、基体11とレジスト12とにそれぞれ不純物分布のシミュレーションを行う。基体11とレジスト12の不純物分布の一例は、上述の図2に、不純物の濃度分布を等値線を用いて示す。
【0039】
S20において、再注入ドーズの再注入開始点を定義する。
レジスト12に注入される不純物のうち、横方向分布係数Lσ等でレジスト12の領域外へ配置される不純物について、この不純物が所定のエネルギ及び角度でレジスト12から射出される位置について定義する必要がある。この位置を再注入開始点を呼ぶ。
再注入開始点は、算出された不純物濃度分布から、構造体の領域外に濃度分布が形成される位置に定義する。また、シミュレーションを行うイオン注入領域の構造において、予めウェル近接効果が起こると考えられる場所に定義する。例えば、基体上に形成したレジストの側面や、基体中に形成したトレンチの側面等に、再注入開始点を定義する。
以下の処理は、ここで定義した再注入開始点毎に行う。そして、全ての再注入開始点において、再注入イオンの濃度を合計することでウェル近接効果を求めることができる。
再注入開始点の定義に、基体表面と位置高さを含め、高さの大きい再注入開始点から順番に、再注入ドーズの演算を行うことが好ましい。
【0040】
再注入開始点は、以下のように定義することができる。
図5Aに示すように、レジスト12中に配置される不純物濃度が最大となる位置15を算出する。そして、レジスト12側面において、レジスト12中に配置される不純物濃度が最大となる位置15と同じy座標19の位置を、再注入ドーズの再注入開始点17と定義する。この再注入開始点から、すべての再注入ドーズを注入する。この場合には、レジスト12の側面から領域外に配置される全ての不純物を、この再注入開始点からの再注入ドーズ量Dに換算する。
【0041】
また、再注入開始点は以下のように定義することもできる。
図5Bに示すように、レジスト12の外側へ一定濃度以上の不純物が配置される領域18について、濃度ごとにこの領域18をy軸19の方向で分割する。そして、分割された各領域18A〜18Gにおいて、レジスト12の側面の中心位置を再注入開始点17とする。図5Bに示す例では、領域18を7つに分け、それぞれの領域18A,18B,18C,18D,18E,18F,18Gにおいて、再注入開始点17A,17B,17C,17D,17E,17F,17Gを定義している。つまり、この場合には、再注入開始点17が、濃度に応じて分割された領域毎に定義されるため、複数の再注入開始点が定義される。
複数の再注入開始点が定義された場合に、各再注入開始点からの再注入ドーズは、濃度ごとに分割され各領域18A〜18Gの領域内の全ての再注入ドーズを合計した量となる。つまり、図5Bに示すy軸19に沿って短冊形に複数に分けられた領域18A〜18Gにおいて、レジスト12の側面から領域外に配置される全ての不純物を再注入ドーズ量Dに換算する。
【0042】
S30において、イオン注入によってレジスト12に分布した不純物のうち、レジスト12の側面から領域外に配置される不純物量を、再注入ドーズ量Dとして換算する。
解析モデルでレジスト12に注入される不純物のうち、横方向分布係数Lσなどでレジスト12領域外へ配置される不純物を、基体11に再注入される再注入ドーズとする。上述の解析モデルを用いてレジスト12中の不純物の横方向拡散量から算出し、再注入ドーズの合計量を、再注入ドーズ量Dに換算する。
【0043】
S40において、再注入ドーズの角度分布関数を定義する。また、S50において、再注入ドーズのエネルギ分布関数を定義する。角度分布関数及びエネルギ分布関数は、レジスト12の側面から基体11に注入する不純物のドーズの注入角度分布を分布関数f(θ)で定義し、同様にエネルギ分布を分布関数g(E)で定義する。そして、この分布関数f(θ)、g(E)を用いて、再注入ドーズの再注入角度、再注入エネルギを設定する。
再注入角度分布関数f(θ)、及び、再注入エネルギ分布関数g(E)に用いる分布関数には、対数正規分布関数やガンマ分布、ポアソン分布などを用いる。これらに対応したパラメータは、予め注入条件に対応したパラメータのデータベースを準備し、計算時にこのデータベースから抽出して用いる。
【0044】
S40における再注入ドーズの角度分布関数の定義方法について説明する。
S41において、再注入ドーズの角度分布関数、イオン注入条件、及びレジスト12材料等から対応するパラメータをデータベースにしたテーブルから抽出する。イオン注入条件は、例えば、イオン種、エネルギ、ドーズ量、チルト角及びツイスト角等である。
S42において、抽出したパラメータを再注入ドーズの角度分布関数に代入することにより、注入角度分布を表す分布関数f(θ)を定義する。例えば、角度分布関数は、上述の対数正規分布関数を用いる。そして、対数正規分布関数のパラメータを、注入イオン種、基体11の材料等の再注入条件に従って、予め蓄積されたパラメータテーブルから抽出する。
S43において、上述の分布関数f(θ)で定義された注入角度分布により、再注入ドーズ量Dを適切な領域に区分する。再注入ドーズ量Dを分布関数f(θ)で区分することにより、再注入ドーズ量Dを注入角度毎の再注入ドーズ量ΔD(θ)に分割する。
【0045】
S50における再注入ドーズのエネルギ分布関数の定義方法について説明する。
S51において、再注入ドーズのエネルギ分布関数、イオン注入条件、及びレジスト材料からなるパラメータをデータベースにしたテーブルから抽出する。イオン注入条件は、例えば、イオン種、エネルギ、ドーズ量、チルト角及びツイスト角等である。
S52において、抽出したパラメータを再注入ドーズのエネルギ分布関数に代入することにより、注入エネルギ分布を表す分布関数g(E)を定義する。例えば、エネルギ分布関数は、上述の対数正規分布関数を用いる。そして、対数正規分布関数のパラメータを、注入イオン種、基体材料等の再注入条件に従って、予め蓄積されたパラメータテーブルから抽出する。
S53において、上述の定義された注入エネルギ分布を用いて、注入角度毎の再注入ドーズ量ΔD(θ)を適切な領域に区分する。再注入ドーズ量ΔD(θ)を、エネルギ分布関数g(E)で分割することにより、再注入ドーズ量Dを注入角度毎及び再注入エネルギ毎の再注入ドーズ量ΔD(θ,E)に分割する。
【0046】
S60において、ΔD(θ,E)について注入角度θ、注入エネルギEの注入条件で、再注入開始点から基体への再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。この演算の解析モデルのパラメータは、従来の解析モデルに用いられているパラメータテーブルから抽出することができる。また、この不純物分布の演算は、図6Aに示すように、S10において従来の解析モデルにより演算された基体11及びレジスト12中の不純物の濃度分布13に、再注入ドーズによる不純物分布14を加算して表すことができる。また、図6Bに示すように、基体11中の再注入ドーズによる不純物分布14のみを表すこともできる。
【0047】
S70において、S20で定義した全ての再注入開始点においてS60の再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。例えば、図5Bに示すように、レジスト側面に複数の再注入開始点17A〜17Gが定義される。上述の処理は再注入開始点毎に行われるため、全ての再注入開始点で、再注入ドーズによる不純物分布の演算が完了したかを判定する。演算処理が行われていない再注入開始点がある場合には、S30に戻り、未処理の再注入開始点についての演算を行う。
全ての再注入開始点で、再注入ドーズによる不純物分布の演算を行った後、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを終了する。
以上の処理により、注入再拡散モデルのイオン注入シミュレーションにより、解析モデルを用いて不純物濃度分布及びウェル近接効果を求めることができる。
【0048】
さらに、上述のシミュレーション結果に基づいて、イオン注入を行うことにより、所望の特性を有する半導体装置を製造することができる。
まず、上述のイオン注入シミュレーションを用いて、半導体装置の設計を行う。上述シミュレーションによって、所定のイオン注入条件におけるウェル近接効果の影響を予め予測することができる。このため、半導体装置の設計において、イオン注入条件の最適化が可能となる。
そして、半導体装置の製造は、例えば、半導体基体に、イオン注入領域を制限するためのレジスト等の構造物を形成する。そして、この構造において、上述のイオン注入シミュレーションにより求められた条件に従ってイオン注入を行うことにより、半導体装置を製造することができる。
半導体装置の製造において、上述シミュレーションによって、半導体装置の設計でイオン注入条件が最適化されているため、ウェル近接効果の影響を予め考慮した設計に基づいて半導体装置を製造することができる。
【0049】
なお、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションでは、分布関数はあくまで数学的な関数であり、物理的には考慮する必要のない領域まで値が定義される。このため、分布関数のカットオフを行う。例えば、再注入の角度分布では注入角度θが90°以上の場合は基板へ再注入することが出来ず、考慮する必要がない。ここで、注入角度θは、再注入開始点と再注入開始点の鉛直方向の直線が基板と交わる点を結んだ直線がθ=0であり、レジストで覆われていない方向へ注入角度θを定義する。
【0050】
同様に、再注入エネルギ分布では、再注入されるエネルギが初期の注入エネルギよりも大きくなることはない。これは、再注入されるまでの過程で散乱によりイオンが持つ運動エネルギが減少しているためである。このため、初期エネルギよりも大きな範囲の再注入エネルギ分布を考慮する必要はない。
【0051】
さらに、S20で定義した再注入開始点においても、不純物濃度分布からカットオフを行ってもよい。定義した再注入開始点から領域外に配置される不純物量が、ウェル近接効果への影響を無視できる程度まで少ない場合には、この再注入開始点からの再注入ドーズについて、S30以降の処理を行わずにシミュレーションを行ってもよい。
【0052】
上述のように、初期の注入条件を元に適切なパラメータ範囲のカットオフができるデータベースを予め用意しておき、計算の実行中にカットオフ用のデータベースを参照することで、適切なカットオフ値を得ることができる。
また、分布関数の積分値は無限遠までの範囲で1に規格化されているが、上記のような理由でパラメータ範囲のカットオフが行われた場合には適切に規格化を行う必要がある。
【0053】
なお、上述の実施の形態では、分布関数として対数正規分布関数を用いたが、他にも例えばガウシアン型関数、ハーフガウシアン型関数等の関数系を利用することができる。
また、従来の解析モデルシミュレーションと同様に、多層膜モデルへ対応することができる。
また、上述のシミュレーション方法では、S30において再注入ドーズの角度分布関数を定義した後、S40において再注入ドーズのエネルギ分布関数を定義しているが、これらの順序は問わない。例えば、再注入ドーズのエネルギ分布関数を定義した後、再注入ドーズの角度分布関数を定義してもよい。
【0054】
[変形例:構造物側面が斜面の場合]
上述の第1実施形態では、レジスト等からなる構造物の側面が、基体に対して垂直の場合を例として示している。しかし、一般的には基体上に形成するレジスト等は、側面が基体面に対して垂直な面ではなく、斜めの面や曲面、及び、これらを組み合わせた面により形成される。
このように、斜めの面や曲面等により構造物の側面が構成されている場合にも、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
【0055】
図8に、レジスト12の側面が基体表面に対して斜めに形成されたときの、不純物の濃度分布、及び、再注入開始点を示す。図8Aは、レジスト12の側面に対して1つの再注入開始点を定義する場合を示している。図8Bは、レジスト12の側面に対して複数の再注入開始点を定義する場合を示している。
【0056】
図8Aに示すように、再注入開始点をレジスト12の側面に対して1つ定義する場合には、レジスト12中に配置される不純物濃度が最大となる位置15と同じy座標19上のレジスト12の側面位置を、再注入開始点17と定義する。
【0057】
また、レジスト12から領域外に配置される不純物は、分布関数を用いてレジスト12へ注入された濃度分布を算出することにより、求めることができる。図8Aでは、分布関数を用いて算出される不純物の濃度分布を、等値線を用いてレジスト12内、及び、レジスト12の領域外に示している。そして、レジスト12の領域外に配置されている濃度分布領域18内の全ての不純物を、注入開始点17からの再注入ドーズ量Dとして換算する。
【0058】
なお、図8Aでは、レジスト12の側面が基体11に対して斜めに形成されているため、上述の図5Aで示す場合に対して、レジスト12の領域外に配置されている濃度分布領域18の位置、及び、大きさが異なる。つまり、再注入開始点が定義される面の形状により、領域外に配置されている濃度分布領域18の形状が変化する。このため、領域外に配置される不純物量は、再注入開始点が定義される構造体の面の形状に影響を受ける。
【0059】
上述のように、構造体側面の形状により影響を受ける場合においても、分布関数を用いた解析モデルにより、構造体の領域外に配置される不純物分布を算出することにより、再注入ドーズ量Dの換算を行うことができる。
従って、再注入開始点を定義した後、解析モデルを用いて構造体の領域外に配置される不純物分布を算出し、算出した上記不純物分布を用いて再注入開始点17から基体11に再注入される再注入ドーズ量Dを換算することができる。
【0060】
さらに、上述の第1実施形態と同様に、再注入ドーズの角度分布関数の定義、及び、エネルギ分布関数の定義を行うことにより、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
【0061】
また、図8Bに示すように、複数の再注入開始点17A〜Gを定義する場合には、レジスト12の領域外に一定濃度以上の不純物が配置される領域18を、濃度毎にy座標19の方向に分割して領域18A〜Gとする。そして、この分割された領域18A〜Gにおいて、レジスト12の側面の中心位置を、再注入開始点17A〜Gに定義する。
【0062】
また、各再注入開始点17A〜Gにおける再注入ドーズ量Dは、以下のように求めることができる。
まず、解析モデルを用いて算出された不純物濃度分布から、レジスト12の領域内及び領域外における不純物の濃度分布を求める。図8Bでは、この不純物濃度分布を、等値線を用いて示している。そして、不純物濃度分布を領域18A〜Gに分割する。
そして、領域18A〜Gで分割された濃度分布内の不純物を、各領域18A〜Gの再注入開始点17A〜Gからの再注入ドーズ量Dに換算する。例えば、再注入開始点17Aが定義された領域18Aでは、分布関数からレジスト12内外に形成された濃度分布から、レジスト12の領域外に配置された領域18Aの範囲に含まれる全ての不純物を、再注入開始点17Aからの再注入ドーズ量Dに換算する。
そして、上述の第1実施形態と同様に、再注入ドーズの角度分布関数の定義、及び、エネルギ分布関数の定義を行うことにより、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
【0063】
上述のように、再注入開始点が定義される構造体の面の形状、及び、構造体の面に定義される再注入開始点の数が、任意の場合においても、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
なお、上記変形例では、レジスト12の側面が斜面の場合について説明したが、他にも曲面やこれらを組み合わせた複雑な面を持つ場合にも、適用することができる。上述のように、側面における再注入開始点の定義と、側面から領域外に配置される再注入ドーズ量Dの換算を行うことで、どのような面に対しても適用することができる。
【0064】
〈3.イオン注入シミュレーション方法の第2実施形態〉
[実施例:複数の構造体からの再注入モデル]
上述の実施形態では、図1の様に基体11上に1つの構造体が形成されている場合のイオン注入シミュレーションの実施形態を示したが、再注入が行われる構造体が複数存在する場合にも、上述のイオン注入シミュレーションを行うことができる。以下、上述の図4に示すフローに従って、第2実施形態のイオン注入シミュレーション方法を説明する。
【0065】
図9に、本実施形態のイオン注入シミュレーション方法に適用するイオン注入領域の構造を示す。図9Aに、基体11上に、レジスト12A、12Bが形成された場合において、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションにより求められた、不純物の濃度分布の一例を示す。また、図9Bに、レジスト12A,Bに定義された複数の再注入開始点、及び、分布関数を用いて算出されるレジスト12A,B領域外に配置される濃度分布を、等値線を用いて示す。
【0066】
図9に示すように、基体11上に複数の構造物としてレジスト12A,Bが形成されている。この構造では、レジスト12Aの側面とレジスト12Bの側面とから基体11への再注入が考えられる。このため、レジスト12Aの側面と、レジスト12Bの側面とに、再注入開始点を定義する。
【0067】
まず、S10において、解析モデルを用いてイオン注入による不純物濃度分布を算出する。図9A,Bでは、不純物の濃度分布を等値線を用いて示している。
次に、S20において、算出された不純物濃度分布から、構造体の領域外に濃度分布が形成される位置に、再注入開始点を定義する。図9に示す構成では、レジスト12Aの側面と、レジスト12Bの側面に、それぞれ再注入開始点を定義する。ここでは、図9Bに示すように、上述の図5Bと同じ方法を用いてレジスト12Aの側面に、複数の再注入開始点17A〜17Lを定義する。また、レジスト12Bに対しても同様に、側面に複数の再注入開始点25A〜Lを定義する。
【0068】
再注入開始点の定義は、まず、図9Bに示すように、レジスト12A,12Bの領域外に一定濃度以上の不純物が配置される領域18,26を、濃度毎にy座標19の方向に分割して領域18A〜L、領域26A〜Lとする。そして、この分割された領域18A〜L、領域26A〜Lにおいて、レジスト12A,12Bの側面の中心位置を、再注入開始点17A〜L、再注入開始点25A〜Lに定義している。
【0069】
このとき、基体11面からの高さが同じ位置にレジスト12Aの側面の再注入開始点の位置と、レジスト12Bの側面の再注入開始点の位置とを定義することが好ましい。
例えば、レジスト12Aとレジスト12Bとを同じ材料、同じ厚さで形成した場合には、ウェル近接効果による基体11へ不純物分布が、レジスト12A,Bの中央で対称となる。再注入開始点の高さが、レジスト12Aとレジスト12Bとで異なると、それぞれの再注入開始点からの再注入ドーズの角度分布が、レジスト12Aとレジスト12Bでずれる。このため、本来対称となるはずの濃度分布が非対称になる。
このため、複数の構造体からの再注入ドーズを考慮する場合には、それぞれの構造体における再注入開始点を高さが同じ位置となるように定義することで、より均一な濃度分布を得ることができる。
【0070】
次に、S30において、各再注入開始点18A〜L,26A〜Lからの再注入ドーズ量Dの換算を行う。
まず、解析モデルを用いて算出された不純物濃度分布から、レジスト12A,Bの領域内及び領域外における不純物の濃度分布を求める。そして、レジスト12A,Bの領域外の不純物濃度分布を、領域18A〜L、及び、領域26A〜Lに分割する。
そして、領域18A〜L、及び、領域26A〜Lで分割された濃度分布内の不純物を、各領域18A〜L、及び、領域26A〜Lの再注入開始点17A〜G,25A〜Lからの再注入ドーズ量Dに換算する。
【0071】
例えば、再注入開始点17Aが定義された領域18Aでは、分布関数によりレジスト12内外に形成された濃度分布から、レジスト12の領域外に配置された領域18Aの範囲に含まれる全ての不純物を、再注入開始点17Aからの再注入ドーズ量Dに換算する。
【0072】
次に、S40において、再注入ドーズの角度分布関数の定義を行う。さらに、S50において、エネルギ分布関数の定義を行い、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求める。
そして、S60において、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)について、注入角度θ、注入エネルギEの条件で再注入開始点から、基体及への再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。
【0073】
さらに、一方のレジストの再注入開始点から、他方のレジストに再注入する再注入ドーズについても考慮する。従って、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)について、注入角度θ、注入エネルギEの条件で再注入開始点から、他方のレジストへの再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。
【0074】
再注入は、再注入開始点よりも高さが大きい位置には発生しない。このため、一方のレジストから他方のレジストへ再注入が行われる場合にも、再注入開始点よりも高い位置への再注入は行われない。このため、高さの大きい位置の再注入開始点から再注入ドーズの計算を行い、これより低い位置の再注入開始点から再注入ドーズの計算は、この高い位置の再注入開始点からの再注入ドーズを加えて行う。この方法により、レジストから基体への再注入ドーズのみならず、一方のレジストから他方のレジストへ再注入した後、さらに基体へ再注入される再注入ドーズを含めた濃度分布を算出することができる。
【0075】
このため、上述の再注入開始点からの再注入ドーズ量ΔD(θ,E)による不純物分布の演算は、最も高い位置の再注入開始点から始める。そして、これ以降の再注入開始点からの演算では、演算する再注入開始点よりも高い位置からの再注入ドーズ量を含めて再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求める。
この演算を、高い位置から低い位置の再注入開始点毎に、全ての再注入開始点で繰り返す。そして、全ての再注入開始点からの演算を完了することで、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
【0076】
さらに、上述のイオン注入シミュレーションに基づいて、半導体装置の設計を行うことができる。そして、この設計に従って、半導体装置を製造することができる。上述シミュレーションによって、ウェル近接効果の影響を予め予測し、半導体装置の設計及び製造工程におけるイオン注入の最適化が可能となる。
【0077】
なお、上述の説明では、構造体に対して複数の再注入開始点を定義する場合について説明したが、例えば上述の図5Aと同様に構造体に1つの再注入開始点を定義する場合にも適用することができる。
【0078】
〈4.イオン注入シミュレーション方法の第3実施形態〉
[実施例:基体に再注入開始点が定義される場合]
次に、第3実施形態のイオン注入シミュレーション方法について説明する。
上述の実施形態では、基体上に形成された構造物からの再注入について説明したが、図10に示すように、基体11に溝が形成されている場合にも、溝側面からの注入再散乱モデルを適用することが可能である。以下、上述の図4に示すフローに従って、第4実施形態のイオン注入シミュレーション方法を説明する。
【0079】
図10に、本実施形態のイオン注入シミュレーション方法に適用するイオン注入領域の構造を示す。図10Aに示すように、基体11には、トレンチ27が形成されている。そして、基体11上にレジスト12が形成されている。また、図10Bに、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションにより求められた、不純物の濃度分布の一例を等値線を用いて示している。また、図10Cに、この構造において定義される複数の再注入開始点の一例を示している。
【0080】
図10に示す構造では、レジスト12から基体11への再注入、及び、基体11のトレンチ27の側面から、基体11の異なる部分への再注入が考えられる。このため、レジスト12の側面と、トレンチ27の側面とに再注入開始点を定義する。
【0081】
まず、S10において、解析モデルを用いてイオン注入による不純物濃度分布を算出する。
そして、S20において、算出された不純物濃度分布から、構造体の領域外に濃度分布が形成される位置に、再注入開始点を定義する。図10に示す構成では、レジスト12の側面と、トレンチ27の側面27A,27Bに、それぞれ再注入開始点を定義する。ここでは、図10Cに示すように、上述の図5Bと同じ方法を用いてレジスト12の側面に、複数の再注入開始点17A〜17Jを定義する。また、トレンチ27に対しても同様に、側面27Aに複数の再注入開始点28A〜G、側面27Bに複数の再注入開始点29A〜Gを定義する。
このとき、トレンチ27内の再注入開始点28A〜G、及び、再注入開始点29A〜Gは、それぞれ同じ高さの位置に定義されていることが好ましい。
【0082】
次に、S30において、再注入開始点17A〜17J、再注入開始点28A〜G、及び、再注入開始点29A〜Gからの再注入ドーズ量Dの換算を行う。
再注入ドーズ量Dの換算は、上述の第1実施形態及び第2実施形態と同様に、解析モデルを用いて算出された不純物濃度分布から求める。不純物濃度分布において、レジスト12の領域外、又は、トレンチ27内で基体11の領域外に配置される不純物を、それぞれ再注入開始点を定義した領域ごとに、再注入ドーズ量Dに換算する。
【0083】
次に、S40において、再注入ドーズの角度分布関数の定義を行う。さらに、S50において、エネルギ分布関数の定義を行い、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求める。
そして、S60において、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)について、注入角度θ、注入エネルギEの条件で再注入開始点から、基体及への再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。
再注入ドーズ量ΔD(θ,E)による不純物分布の演算は、上述の第2実施形態と同様に、高い位置に定義された再注入開始点から順に行う。そして、全ての再注入開始点で上記演算を繰り返し、全ての再注入開始点からの演算を完了することで、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
【0084】
図10に示す構成では、トレンチ27内において、一方の側面27Aからの再注入ドーズが、トレンチ27の底面と、他方の側面27Bとに再注入される。このため、トレンチ27内では、高さの大きい位置の再注入開始点から再注入ドーズの計算を行い、この高い位置の再注入開始点からの再注入ドーズを加えて、これより低い位置の再注入開始点から再注入ドーズの計算を行う。
この方法により、レジストから基体への再注入ドーズに加えて、トレンチ内での再注入散乱モデルを含めた、不純物濃度分布を算出することができる。
【0085】
上述のイオン注入シミュレーション方法によれば、基体上の構造体からの再注入だけでなく、上述の第3実施形態のように、基体に形成されたトレンチ等の構造に依存する再注入する不純物に対しても適用することができる。
さらに、上述のイオン注入シミュレーションに基づいて、半導体装置の設計を行うことができる。そして、この設計に従って、半導体装置を製造することができる。上述シミュレーションによって、ウェル近接効果の影響を予め予測し、半導体装置の設計及び製造工程におけるイオン注入の最適化が可能となる。
【0086】
なお、本実施形態では、基体に1つのトレンチが形成されている場合を例に説明したが、イオン注入領域がより複雑な構造であっても、最適な再注入開始点の定義を行うことにより、上述のイオン注入シミュレーション方法の適用が可能である。また、上述の第3実施形態では、レジスト12の側面、及び、トレンチ27の側面に複数の再注入開始点を定義したが、例えば上述の図5Aと同様に、それぞれの側面に1つの再注入開始点を定義する場合にも適用することができる。
【0087】
〈5.イオン注入シミュレーション方法の第4実施形態〉
次に、イオン注入シミュレーション方法の第4実施形態について説明する。上述の第1〜第3実施形態では、イオン注入による不純物濃度分布を二次元領域で示す場合を例に説明している。第4実施形態では、三次元領域において、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションにより不純物濃度分布を求める場合について説明する。
【0088】
[3次元形状の場合:平面]
図11に、本実施形態のイオン注入シミュレーション方法に適用するイオン注入領域の構造を示す。図11Aは、基体11と、基体11上に形成されたレジスト31とから構成されているイオン注入領域において、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションにより求められた、不純物の濃度分布の一例を等値線を用いて示している。また、図11Bは、この構造において、レジスト31の側面31A〜Cに定義される複数の再注入開始点32A〜Cの一例を示している。
【0089】
図11に示す構造では、基体11のレジスト31からの露出面は、レジスト31の側面31A、側面31B、及び、側面31Cにより囲まれている。このため、この構成では、レジスト31の側面31A〜Cから基体への再注入が考えられる。また、側面31A〜Cからの再注入ドーズが、他の側面31A〜Cに再注入することが考えられる。以下、上述の図4に示すフローに従って、第4実施形態のイオン注入シミュレーション方法を説明する。なお、本実施形態の三次元形状のイオン注入シミュレーションであっても、上述の第1〜3実施形態の二次元形状のイオン注入シミュレーションと同様の解析モデルの分布関数を適用することができる。
【0090】
まず、S10において、解析モデルを用いてイオン注入による不純物濃度分布を算出する。
そして、S20において、算出された不純物濃度分布から、構造体の領域外に濃度分布が形成される位置に、再注入開始点を定義する。図11に示す構成では、レジスト31の側面31A,31B,31Cにそれぞれ、再注入開始点を定義する。ここでは、図11Bに示すように、レジスト31の側面31A,31B,31Cそれぞれに対して複数の再注入開始点32A〜Cを定義する。
【0091】
三次元領域での再注入開始点の定義方法について説明する。ここでは、一例として、側面31Aの、再注入開始点32Aを定義方法について説明する。
まず、図11Bに示すように、側面31Aを破線で示す領域にz軸方向で分割する。このようにz軸方向で分割することで、側面31Aをz軸方向に伸びる帯状の領域に分割する。そして、z軸方向で分割した領域毎に、レジスト31の領域外に一定濃度以上の不純物が配置される領域を、濃度毎にy軸方向に分割する。このように、側面31Aを、z軸方向及びy軸方向で分割した領域の中心位置を再注入開始点32Aに定義する。
このように、三次元領域では、再注入開始点が定義される面を、所定の面積で区切ることにより不純物濃度分布に領域を設定し、この領域内に再注入開始点を定義することができる。このように再注入開始点32Aを定義することにより、レジスト31の側面31Aに、縦横に配列された複数の再注入開始点32Aを定義することができる。
【0092】
側面31Aと同様の方法で、側面31B及び側面31Cにも再注入開始点32B、32Cを定義する。
まず、側面31Bを破線で示す領域にz軸方向で分割する。そして、z軸方向で分割した領域内を、さらに、濃度毎にx軸方向に分割する。このz軸方向とx軸方向で分割した領域の中心位置を再注入開始点32Bに定義する。
また、側面31Cを破線で示す領域にz軸方向で分割する。そして、z軸方向で分割した領域内を、さらに、濃度毎にy軸方向に分割する。このz軸方向とy軸方向で分割した領域の中心位置を再注入開始点32Cに定義する。
このように、側面31B及び側面31Cに縦横に配列された複数の再注入開始点32B,32Cを定義する。
【0093】
側面31A,31B,31Cにおいて、再注入開始点32A,32B,32Cは、それぞれ同じ高さ(z軸方向の位置)が同じであることが好ましい。つまり、z軸方向に分割された領域をx軸方向又はy軸方向で分割する際に、分割するx軸とy軸の高さを側面31A,31B,31Cで同じに設定する。これにより、不純物濃度分布の対称性や均一性を保つことができる。
【0094】
次に、S30において、再注入開始点32A,32B,32Cからの再注入ドーズ量Dの換算を行う。
再注入ドーズ量Dの換算は、上述の第1実施形態及び第2実施形態と同様に、解析モデルを用いて算出された不純物濃度分布から求める。不純物濃度分布から、レジスト31の領域外に配置される不純物を、それぞれ再注入開始点32A,32B,32Cを定義した領域ごとに、再注入ドーズ量Dに換算する。
【0095】
次に、S40において、再注入ドーズの角度分布関数の定義を行う。さらに、S50において、エネルギ分布関数の定義を行い、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求める。
そして、S60において、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)について、注入角度θ、注入エネルギEの条件で再注入開始点から、基体及への再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。
再注入ドーズ量ΔD(θ,E)による不純物分布の演算は、上述の第2実施形態と同様に、高い位置に定義された再注入開始点32A,32B,32Cから順に行う。そして、全ての再注入開始点で上記演算を繰り返し、全ての再注入開始点32A,32B,32Cからの演算を完了することで、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を求めることができる。
【0096】
図11に示す構成では、レジスト31の一つの側面、例えば側面31Aからの再注入ドーズが、基体11だけでなく、レジスト31の他の側面31B,31Cから再注入することが考えられる。このため、レジスト31の高い位置に定義された再注入開始点32A,32B,32Cから、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)による不純物分布の演算を行う。そして、これより低い位置の再注入開始点32A,32B,32Cでは、高い位置の再注入開始点32A,32B,32Cからの再注入ドーズを加えて再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求め、不純物分布を演算する。
【0097】
[変形例:3次元形状の場合:曲面]
上述の実施形態では、レジスト側面が平面からなり、基体のイオン注入領域がこの平面に囲まれた状態を示したが、レジスト側面は曲面であっても、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを適用することができる。
【0098】
図12に、レジストの側面が曲面により形成されている場合のイオン注入シミュレーションに適用する、イオン注入領域の構造を示す。
図12Aは、基体11と基体11上に形成されたレジスト33とから構成されているイオン注入領域において、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションにより求められた、不純物の濃度分布の一例を等値線を用いて示している。また、図12Bは、この構造において、レジスト33の側面33Aに数定義される複数の再注入開始点34の一例を示している。
【0099】
図12に示す構造では、基体11のレジスト33からの露出面は、レジスト33の側面33Aにより囲まれている。このため、この構成では、レジスト33の側面33Aから基体への再注入が考えられる。また、側面33Aからの再注入ドーズが、再び、側面33Aの他の位置に再注入することが考えられる。
以下、上述の図4に示すフローに従って、第4実施形態のイオン注入シミュレーション方法を説明する。なお、本実施形態の変形例は、レジスト33の側面33Aへの再注入開始点の定義方法以外は、上述の第4実施形態と同様に行うことができる。
【0100】
まず、S10において、解析モデルを用いてイオン注入による不純物濃度分布を算出した後、S20において、算出された不純物濃度分布から、構造体の領域外に濃度分布が形成される位置に、再注入開始点を定義する。図12に示す構成では、レジスト33の側面33Aに再注入開始点34を定義する。再注入開始点34は、以下のように定義する。
まず、図12Bに示すように、レジスト33の側面33Aの全面を破線で示す領域にz軸方向で分割し、側面33Aをz軸方向に伸びる帯状の領域に分割する。そして、z軸方向で分割した領域毎に、レジスト33の領域外に一定濃度以上の不純物が配置される領域を、濃度毎にx−y平面と平行な方向に分割する。このように、側面33Aを、z軸方向及びx−y平面方向で分割した領域の中心位置を再注入開始点34に定義する。
このような方法により、レジスト33の側面33Aが曲面により形成されている場合においても、縦横に配列された複数の再注入開始点34を定義することができる。
【0101】
次に、S30において、再注入開始点34からの再注入ドーズ量Dの換算を行う。そして、S40において再注入ドーズの角度分布関数の定義を行い、S50においてエネルギ分布関数の定義を行い、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求める。
そして、S60において、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)について、注入角度θ、注入エネルギEの条件で再注入開始点から、基体及への再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。
再注入ドーズ量ΔD(θ,E)による不純物分布の演算は、上述の第2実施形態と同様に、高い位置に定義された再注入開始点から順に行う。そして、全ての再注入開始点34で上記演算を繰り返し、全ての再注入開始点34からの演算を完了することで、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を求めることができる。
【0102】
さらに、上述のイオン注入シミュレーションに基づいて、半導体装置の設計を行うことができる。そして、この設計に従って、半導体装置を製造することができる。上述シミュレーションによって、ウェル近接効果の影響を予め予測し、半導体装置の設計及び製造工程におけるイオン注入の最適化が可能となる。
【0103】
上述の第4実施形態及びこの変形例のイオン注入シミュレーション方法によれば、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを、三次元領域の構造にも適用することができる。本方法によれば、実際の半導体装置の設計で行われる三次元領域でのシミュレーションに、注入再散乱モデルによるシミュレーションを適用することができる。この結果、三次元シミュレーションにおいても、解析モデルを用いたシミュレーションにより、ウェル近接効果の影響を受けやすい微細構造での不純物濃度分布を求めることができる。
また、上述の実施形態では、三次元形状としてレジストからの再注入のみを考慮しているが、上述の第3実施形態のような基体にトレンチ等の構造が形成されている場合にも適用できる。
【0104】
なお、上述の第2〜第4実施形態では、再注入開始点を定義する構造物として、レジスト側面やトレンチ側面において再注入開始点を縦横に配列した場合を説明しているが、例えば、縦方向(高さ方向)に1つの再注入開始点を定義した場合にも適用することができる。この場合には、上述の図5Aに示す場合と同様に再注入開始点を定義することができる。さらに、再注入開始点を定義する構造物の側面は、基体面に対して垂直でもよく、斜面や曲面等の複数の面が組み合わさった形状でもよい。また、構造物の側面は、平面に限らず、曲面や平面と曲面とを組み合わせた形状とすることもできる。
また、上述の実施形態では、再注入開始点の定義方法について具体的に説明しているが、再注入開始点の定義方法は単数複数を問わず、イオン注入が行われる領域の構造や、イオン注入の条件に応じて、上述の方法に限られず最適な方法で定義することができる。
【0105】
〈3.イオン注入シミュレーション装置の実施の形態〉
次に、上述の注入再散乱モデルのシミュレーションを行うシミュレーション装置の実施の形態について説明する。図7に、本実施の形態のイオン注入シミュレーション装置20の構成を示す。
【0106】
イオン注入シミュレーション装置20は、入力された情報を保持する記憶部22と、記憶部22からの情報を読み込んで計算を行う演算部23とを備える。また、シミュレーションに必要なデータを入力する入力部21と、演算部23による結果の表示、及び、入力データの出力を行う出力部24とを備える。
【0107】
イオン注入シミュレーションを行う場合には、入力部21を介して直接、或いはイオン注入シミュレーション装置が認識可能なファイル状態で、注入条件を入力する。入力された注入条件は、メモリやHDD等から構成される記憶部22に保持される。
【0108】
記憶部22は、例えば、分布関数記憶部22Aと、パラメータテーブル記憶部22Bとからなる。
分布関数記憶部22Aは、イオン注入の解析モデルに用いる分布関数、例えば、ガウシアン型関数、ハーフガウシアン型関数、ピアソンIV型関数、及び、デュアルピアソン型関数等の情報を保持する。
パラメータテーブル記憶部22Bは、分布関数に応じた各種パラメータを保持する。例えば、エネルギ、ドーズ量、チルト角、ツイスト角及びスルー膜厚等の注入条件に応じて規定されたパラメータテーブルを保持する。
【0109】
演算部23は、記憶部22に保持された分布関数とパラメータとを用いて、基体とレジストにイオン注入された不純物の濃度分布を計算し、さらに、上述の注入再散乱モデルに基づき、レジストから基体に再注入される不純物の濃度分布を計算する。
例えば、パラメータテーブル記憶部22Bから、イオン注入時の注入角度分布の各条件に基づくパラメータを抽出する。そして、分布関数記憶部22Aから分布関数を読み出し、この分布関数にパラメータを代入して、基体やレジストに注入される不純物の濃度分布を計算する。そして、レジスト中の不純物の拡散によって、領域外に配置される不純物の再注入ドーズ量Dを算出する。
また、再注入ドーズに対して、パラメータテーブル記憶部22Bから各パラメータを読み出し、再注入ドーズの角度分布関数、エネルギ分布関数、及び、再注入開始点を定義する。そして、定義した分布関数から再注入ドーズの基体内での濃度分布を算出する。
【0110】
入力部21から入力された情報や、イオン注入シミュレーションによる結果は、出力部24により表示される。出力部24は、例えばディスプレイ装置やプリンタ装置等の出力装置からなる。
【0111】
上述のレジストにイオン注入された不純物のうち、レジストの領域外に配置される不純物が基体に再注入されると考える注入再散乱モデルを用いることにより、ウェル近接効果のイオン注入シミュレーションを解析モデルにより行うことができる。
一般に、解析モデルとモンテカルロ法とで同一注入条件のシミュレーションを行うと、10倍程度の計算時間差がある。上述の注入再散乱モデルを用いた解析モデルのシミュレーションでは、その時間差が大きく縮まることはない。このため、ウェル近接効果のシミュレーションを、従来よりも大幅に高速化することが可能である。
【0112】
なお、本開示は以下のような構成も取ることができる。
(1)基体と、前記基体上に形成された構造体とに注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される再注入ドーズを算出し、分布関数と前記再注入ドーズの再注入条件とから、前記基体に注入される不純物の濃度分布を算出する、イオン注入シミュレーション方法。
(2)前記基体及び前記構造体へのイオン注入条件から、前記基体又は前記構造体内での不純物の濃度分布を算出し、前記基体又は前記構造体内での不純物の横方向分布により領域外に配置される前記再注入ドーズから、前記基体に注入される再注入ドーズ量を算出する前記(1)に記載のイオン注入シミュレーション方法。
(3)前記側面に再注入開始点を定義し、前記再注入開始点から前記基体に再注入される再注入ドーズ量を算出する(2)に記載のイオン注入シミュレーション方法。
(4)分布関数を用いて前記再注入ドーズの再注入角度を設定し、前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割する工程を有する前記(2)又は(3)に記載のイオン注入シミュレーション方法。
(5)分布関数を用いて前記再注入ドーズの再注入エネルギを設定し、前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割する工程を有する前記(2)〜(4)のいずれかに記載のイオン注入シミュレーション方法。
(6)分布関数を用いて前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割した後、前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割する工程、又は、分布関数を用いて前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割した後、前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割する工程を有する前記(1)〜(5)のいずれかに記載のイオン注入シミュレーション方法。
(7)前記基体面と垂直な方向において、高い位置に定義された再注入開始点から順に、前記再注入ドーズを算出する(3)〜(6)のいずれかに記載のイオン注入シミュレーション方法。
(8)分布関数及びパラメータを記憶する記憶部と、前記記憶部に保持された前記分布関数と前記パラメータとを用いて、基体上に形成された構造体に注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される不純物の前記基体中での濃度分布を計算する演算部と、を備えるイオン注入シミュレーション装置。
(9)半導体基体上に構造体のパターンを形成する工程と、前記構造体上から前記半導体基体上にイオン注入する工程とを有する半導体装置の製造方法であって、前記イオン注入する工程において、上記(1)〜(7)のいずれかに記載のイオン注入シミュレーション方法によるシミュレーションを行い、前記イオン注入シミュレーションで生成された条件に基づき、前記半導体基体にイオン注入を行う半導体装置の製造方法。
(10)上記(1)〜(7)のいずれかに記載のイオン注入シミュレーション方法により、前記半導体基体の不純物の濃度分布を算出する半導体装置の設計方法。
【符号の説明】
【0113】
11 基体、12,31,33 レジスト、13,14 濃度分布、15 位置、16 イオン種、17,25,28,29,32,34 再注入開始点、18,26 領域、19 y座標、20 イオン注入シミュレーション装置、21 入力部、22 記憶部、22A 分布関数記憶部、22B パラメータテーブル記憶部、23 演算部、24 出力部、27 トレンチ、27A,27B,31A,31B,31C,33A 側面、
【技術分野】
【0001】
本技術は、半導体装置のウェル近接効果によるイオン注入シミュレーション方法及びイオン注入シミュレーション装置、半導体装置の製造方法、半導体装置の設計方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程に用いられるイオン注入工程のシミュレーション方法として、解析モデルが用いられている。解析モデルでは、イオン注入による不純物濃度分布を、例えば、デュアル-ピアソンIV型関数等の分布関数を用いて近似する(例えば、非特許文献1参照)。
また、半導体製造工程において、ウェル形成工程では高エネルギ及び多量のイオンを要する。このため、イオン注入を防止するためのマスクレジストの厚さが大きくなる。ウェル形成時にマスクレジストに注入されたイオンは、レジスト中で散乱する。特に、イオンの横方向への散乱により、マスクレジストの側面からイオンが出現する可能性がある。このため、レジストで覆われていない基体の領域において、マスクレジストの側面からのイオンの出現により、意図しない不純物分布が形成される。これは、トランジスタの閾値等のデバイスを変動させる要因となっている。この現象はウェル近接効果と呼ばれている。
半導体装置の製造においては、上述のウェル近接効果によるデバイスの変動を緩和するためにデバイスの設計を最適化することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−177518号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Changhae Parka, Kevin M. Kleina and Al F. Tascha, “Efficient modeling parameter extraction for dual pearsonapproach to simulation of implanted impurity profiles in silicon”, Solid-State Electronics, Volume 33, Issue 6, June 1990, Pages 645-650
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体装置の製造においては、ウェル近接効果による影響を抑制することが望まれている。このため、イオン注入による不純物分布の簡易な計算方法が望まれている。
【0006】
本技術は、ウェル近接効果の簡易なイオン注入シミュレーション方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術のイオン注入シミュレーション方法は、基体と、基体上に形成された構造体とに注入され、構造体の側面から基体に再注入される再注入ドーズを算出し、分布関数と再注入ドーズの再注入条件とから、基体に注入される不純物の濃度分布を算出する。
【0008】
また、本技術のイオン注入シミュレーション装置は、分布関数及びパラメータを記憶する記憶部を備える。そして、記憶部に保持された分布関数とパラメータとを用いて、基体上に形成された構造体に注入された不純物が、構造体の側面から基体に再注入される不純物の基体中での濃度分布を計算する演算部を備える。
【0009】
また、本技術の半導体装置の製造方法では、半導体基体上に構造体のパターンを形成する工程と、構造体上から半導体基体上にイオン注入する工程とを有する。そして、イオン注入する工程において、構造体に注入され、構造体の側面から基体に再注入される再注入ドーズを算出して再注入条件を生成する。さらに、再注入ドーズの再注入条件と分布関数とから、基体に注入される不純物の濃度分布を算出する、イオン注入シミュレーションを行う。このように、イオン注入シミュレーションで生成された条件に基づき、半導体基体にイオン注入を行う。
【0010】
また、本技術の半導体装置の設計方法では、半導体基体上に形成された構造体に注入され、構造体の側面から基体に再注入される再注入ドーズを算出して再注入条件を生成する。そして、分布関数と再注入ドーズの再注入条件とから、基体に注入される不純物の濃度分布を算出するイオン注入シミュレーションにより、半導体基体の不純物の濃度分布を算出する。
【0011】
本技術のイオン注入シミュレーション方法及びイオン注入シミュレーション装置では、基体上に形成された構造体に注入された不純物の一部が、構造体から基体に再注入されるモデルについてシミュレーションを行う。そして、構造体から基体に再注入される再注入ドーズについて、分布関数を用いた解析モデルにより、基体中での不純物濃度分布をシミュレーションにより算出する。そして、このイオン注入シミュレーションで生成されたイオン注入条件に基づいて半導体装置の設計を行い、半導体装置を製造する。
【発明の効果】
【0012】
本技術によれば、解析モデルによる簡易な方法により、ウェル近接効果のシミュレーションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】A及びBは、モンテカルロ法によるイオン注入シミュレーションの結果を示す図である。
【図2】解析モデルによるイオン注入シミュレーションの結果を示す図である。
【図3】Aは、解析モデルによるイオン注入シミュレーションの結果を示す図である。Bは、解析モデルの注入角度分布を示す図である。Cは、解析モデルのエネルギ分布を示す図である。
【図4】イオン注入シミュレーションのフローチャートである。
【図5】A及びBは、再注入開始点を説明するための図である。
【図6】A及びBは、解析モデルによるイオン注入シミュレーションの結果を示す図である。
【図7】イオン注入シミュレーション装置の構成を示す図である。
【図8】Aは、イオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を示す図である。Bは、イオン注入シミュレーションによる再注入開始点を説明するための図である。
【図9】Aは、イオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を示す図である。Bは、イオン注入シミュレーションによる再注入開始点を説明するための図である。
【図10】Aは、イオン注入シミュレーションに適用する構造を示す図である。Bは、イオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を示す図である。Cは、イオン注入シミュレーションによる再注入開始点を説明するための図である。
【図11】Aは、イオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を示す図である。Bは、イオン注入シミュレーションによる再注入開始点を説明するための図である。
【図12】Aは、イオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を示す図である。Bは、イオン注入シミュレーションによる再注入開始点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本技術を実施するための最良の形態の例を説明するが、本技術は以下の例に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.イオン注入シミュレーション方法の概要
2.イオン注入シミュレーション方法の実施の形態
3.イオン注入シミュレーション装置の実施の形態
【0015】
〈1.イオン注入シミュレーション方法の概要〉
[モンテカルロ法を用いたイオン注入シミュレーション方法]
モンテカルロ法を用いたイオン注入シミュレーション方法では、基体、構造体等の注入される試料に入射するイオン種が、注入される試料内の原子と散乱して減速・停止するまで、イオン種の追跡計算を行う。
入射イオンの減速は、注入される試料(基体、構造体等)の原子と二体弾性衝突と、試料中の原子の電子によるエネルギ損失とによる。入射したイオンは、これらの過程を経ることで停止位置が決まる。モンテカルロ法では、入射イオンの初期値の設定や散乱過程の選択をランダムに設定して、何度も計算を繰り返すことにより算出されるイオン種の停止位置を不純物分布として表現する。
【0016】
図1にモンテカルロ法によるイオン注入シミュレーション結果を示す。図1Aは、基体11上にイオン注入を制限するための構造体、例えばレジスト12が形成された試料に対して、モンテカルロ法によるイオン注入シミュレーションを行った結果である。図1Aでは、基体11及びレジスト12中の不純物の濃度分布に等値線を用いて表す。また、図1Bは、レジスト12の側面付近に注入されたイオン種について、モンテカルロ法によるイオン注入シミュレーションを行った結果を示す図である。図1Aに示すように、基体11の中心付近には、均一な濃度分布13が形成されている。しかし、基体11中のレジスト12が形成された領域の付近に、基体11の中心付近に比べ、不均一な不純物分布14が形成されている。さらに、図1Bでは、レジスト12の側面付近に注入されたイオン種16が、レジスト12内で散乱してレジスト12の側面からレジスト12の領域外に移動した後、基体11へ注入されている。
【0017】
モンテカルロ法を用いたイオン注入シミュレーションでは、レジスト中でのイオン種16の散乱過程を計算するため、図1Bに示すようにウェル近接効果のシミュレーションを行うことが可能である。しかし、イオン種16の停止位置の計算を繰り返す必要があり、解析モデルの場合と比べ、計算に非常に長い時間を要する。
【0018】
[解析モデルを用いたイオン注入シミュレーション]
解析モデルによるイオン注入シミュレーション方法は、不純物の分布を注入エネルギ、ドーズ量等に合わせたパラメータを分布関数に代入し、基体の不純物分布を算出する。
半導体製造工程において、基体へのイオン注入をシミュレートする解析モデルでは、予め注入するイオン種と、注入される基体の材料毎のパラメータテーブルが用意される。このパラメータテーブルには、材料毎に規定されたエネルギ、ドーズ量、チルト角、ツイスト角、及びスルー膜厚等の各パラメータが用意されている。
そして、このパラメータテーブルで定義される範囲で、イオン種、基体、エネルギ、ドーズ量、チルト角、ツイスト角及びスルー膜厚等の条件に対応するパラメータセットを抽出してシミュレータに渡す。
【0019】
シミュレータは、渡されたパラメータセットを分布関数に代入し、対応する材料内部の適切な場所に不純物の濃度分布を計算する。この解析モデルは、1次元(深さ方向)の分布関数を用いたシミュレーションだけでなく、横方向の分布関数を用いた2次元、3次元のシミュレーションにも有効な手法である。
解析モデルにおいて用いられる分布関数は、例えば、ガウス分布関数、ハーフガウシアン型関数、ピアソンIV型関数、及びデュアル−ピアソンIV型関数等である。
【0020】
図2に解析モデルを用いたイオン注入シミュレーション方法による不純物分布を示す。図2は、基体11上にイオン注入を制限するための構造体、例えばレジスト12が形成された試料に対し、解析モデルを用いてイオン注入シミュレーションを行った結果である。 図2では、基体11及びレジスト12中の不純物の濃度分布を、等値線を用いて表している。
【0021】
この解析モデルによるシミュレーションでは、レジスト12等の基体11上に形成される構造体に注入される不純物のうち、横方向分布係数Lσなどでレジスト12領域の外側へ配置される不純物は無視されている。このため、レジスト12等の基体11上に形成される構造体の材料中で散乱して空間に放出され、再度基体11に注入されるウェル近接効果の再現はできていない。従って、上述の解析モデルでは、構造体中での散乱効果が再現されず、ウェル近接効果のシミュレーションは行われていない。
【0022】
[分布関数:ピアソン関数]
イオン注入シミュレーションの解析モデルにおいて用いられる分布関数の一例として、ピアソン関数について説明する。
確率分布関数であるピアソン関数は、分布のモーメントに関連した量を使って定義される。まず、深さ方向の分布を
【数1】
とする。
【0023】
また、分布のモーメントに関連する量である投影飛程Rp、分散σ、歪度γ、及び尖度βを以下のように定義し、基板表面から深さzの位置における不純物濃度プロファイルを表現する。
【0024】
【数2】
【0025】
上記式において、投影飛程Rpは不純物濃度プロファイルのピーク位置を示すパラメータである。分散σは投影飛程Rp近傍の不純物濃度プロファイルの広がりを示すパラメータである。歪度γは不純物濃度プロファイルの深さ方向の歪み具合(左右対称性)を示すパラメータである。尖度βは不純物濃度プロファイルの尖り具合(すそ引き具合)を示すパラメータである。
上記の各量を使ってピアソン関数は次の微分方程式により定義される。
【0026】
【数3】
【0027】
ここで理論的にRp、σ、γ、βを求める手段はない。このため、これらのパラメータは、二次イオン質量分析法等の測定データを用いて抽出する必要がある。
【0028】
デュアル−ピアソンIV型関数を用いたイオン注入計算では、上記のピアソン関数を2つ使って分布関数を作り、下記のように表すことができる。
【0029】
【数4】
【0030】
ここでP1,P2はそれぞれ規格化されたピアソン関数である。よってf(z)も規格化されていることになる。rは、0≦r≦1であり、ピアソン関数P1を加え合わせるときの重みを示す。
最初のピアソン関数P1は注入イオンと基板との間のランダムな散乱を表す分布に対応する。また、2番目のピアソン関数P2は基板の結晶性を表すチャネリング成分を表している。
これらをまとめるとデュアルピアソン関数は、P1(Rp1、σ1、γ1、β1)と、P2(Rp2、σ2、γ2、β2)と、双方の重みを表すrとの合計9個のパラメータで表すことができる。
【0031】
デュアル−ピアソンIV型関数を用いたイオン注入シミュレーションについては、上述の非特許文献1等にパラメータ抽出やシミュレーション方法が記載されている。例えば、デュアル−ピアソンIV型関数を用いた不純物分布をモデル化するための上記9個のパラメータを、2段階の抽出プロセスにより正確に抽出する方法が記載されている。また、モデル化のための各パラメータを抽出するために、測定データをデータベース(パラメータテーブル)に蓄積することが記載されている。
【0032】
上記ピアソン関数パラメータP1(Rp1、σ1、γ1、β1)、P2(Rp2、σ2、γ2、β2)は、注入材料ごとに注入エネルギと対応づけられて、データテーブルとしてデータベース等に蓄積される。イオン注入シミュレーション方法では、注入材料及び注入エネルギに応じた上記パラメータが、パラメータテーブルから読み出される。そして、読み出された各パラメータは上記式に代入され、不純物濃度分布が算出される。
【0033】
〈2.イオン注入シミュレーション方法の第1実施形態〉
[解析モデルを用いたイオン注入シミュレーション方法:注入再散乱モデル]
以下、イオン注入シミュレーション方法の実施の形態について説明する。
本実施の形態では、上述の解析モデルを用いて、ウェル近接効果のイオン注入シミュレーションを行う。本実施の形態のイオン注入シミュレーション方法は、図3Aに示すように、イオン注入される試料として半導体等からなる基体11と、イオン注入領域を制限する構造体としてレジスト12とに、イオン注入を行う場合に基づいて説明する。
【0034】
上述の従来の解析モデルでは、レジスト12に注入される不純物のうち、横方向分布係数Lσ等でレジスト12の領域外へ配置される不純物は無視されていた。しかし、レジスト12に注入された不純物の濃度分布13は、図3Aのように表現される。そして、この濃度分布13に等値線を引くと、レジスト12中での不純物の横方向拡散による高い濃度分布13が、レジスト12の側面まで連続して形成される。このレジスト12の側面から、レジスト12の外部に配置される不純物量を、基体11に再注入される不純物量としてモデル化する(注入再散乱モデル)。
つまり、レジストやポリシリコン等のイオン注入を制限する構造体に注入、配置される不純物分布のうち、横方向分布で側面のガスもしくは真空中に配置される不純物を合計し、この不純物量をウェル近接効果で基体に再注入されるドーズ量として扱う。この再注入されるドーズ量を、ウェル近接効果の不純物量としてモデル化する。
【0035】
ここで、注入再散乱モデルをモデル化するにあたり必要なデータは、レジストから外部に配置される不純物量、不純物が基体に再注入するときの注入角度分布、不純物が基体に再注入するときの注入エネルギ分布、及び、不純物の再注入開始点である。
【0036】
上述の従来の解析モデルの分布として無視されていた、再注入開始点からレジスト領域外に配置される不純物量を、再注入ドーズ量Dと設定する。
また、レジスト側面の再注入開始点から基体に再注入する不純物の注入角度分布は、分布関数f(θ)と設定する。注入角度分布関数f(θ)は図3Bに示すように、ガンマ分布や対数正規分布等として考える。
また、レジスト側面の再注入開始点から基体に再注入する不純物のエネルギ分布は、分布関数g(E)と設定する。図3Cに示すように、エネルギ分布関数g(E)は、ガンマ分布や対数正規分布等として考える。
上記ドーズ量Dと、f(θ)及びg(E)の2つの分布関数とを用いて、レジスト側面の適切な領域(再注入開始点)から基体のレジストで覆われていない領域への注入を計算することにより、ウェル近接効果の原因となる不純物分布の計算を行う。
【0037】
[シミュレーションフロー]
図4に、上述の解析モデルを用いて、レジストから基体へ再注入される不純物を考慮して不純物の濃度分布を算出する注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションのフローチャートを示す。
【0038】
S10において、解析モデルを用いてイオン注入の不純物濃度分布を算出する。例えば、ピアソン関数を用いて、基体11及びレジスト12にイオン注入された不純物の濃度分布を演算する。この不純物分布の演算は、従来の解析モデルを用いて、基体11とレジスト12とにそれぞれ不純物分布のシミュレーションを行う。基体11とレジスト12の不純物分布の一例は、上述の図2に、不純物の濃度分布を等値線を用いて示す。
【0039】
S20において、再注入ドーズの再注入開始点を定義する。
レジスト12に注入される不純物のうち、横方向分布係数Lσ等でレジスト12の領域外へ配置される不純物について、この不純物が所定のエネルギ及び角度でレジスト12から射出される位置について定義する必要がある。この位置を再注入開始点を呼ぶ。
再注入開始点は、算出された不純物濃度分布から、構造体の領域外に濃度分布が形成される位置に定義する。また、シミュレーションを行うイオン注入領域の構造において、予めウェル近接効果が起こると考えられる場所に定義する。例えば、基体上に形成したレジストの側面や、基体中に形成したトレンチの側面等に、再注入開始点を定義する。
以下の処理は、ここで定義した再注入開始点毎に行う。そして、全ての再注入開始点において、再注入イオンの濃度を合計することでウェル近接効果を求めることができる。
再注入開始点の定義に、基体表面と位置高さを含め、高さの大きい再注入開始点から順番に、再注入ドーズの演算を行うことが好ましい。
【0040】
再注入開始点は、以下のように定義することができる。
図5Aに示すように、レジスト12中に配置される不純物濃度が最大となる位置15を算出する。そして、レジスト12側面において、レジスト12中に配置される不純物濃度が最大となる位置15と同じy座標19の位置を、再注入ドーズの再注入開始点17と定義する。この再注入開始点から、すべての再注入ドーズを注入する。この場合には、レジスト12の側面から領域外に配置される全ての不純物を、この再注入開始点からの再注入ドーズ量Dに換算する。
【0041】
また、再注入開始点は以下のように定義することもできる。
図5Bに示すように、レジスト12の外側へ一定濃度以上の不純物が配置される領域18について、濃度ごとにこの領域18をy軸19の方向で分割する。そして、分割された各領域18A〜18Gにおいて、レジスト12の側面の中心位置を再注入開始点17とする。図5Bに示す例では、領域18を7つに分け、それぞれの領域18A,18B,18C,18D,18E,18F,18Gにおいて、再注入開始点17A,17B,17C,17D,17E,17F,17Gを定義している。つまり、この場合には、再注入開始点17が、濃度に応じて分割された領域毎に定義されるため、複数の再注入開始点が定義される。
複数の再注入開始点が定義された場合に、各再注入開始点からの再注入ドーズは、濃度ごとに分割され各領域18A〜18Gの領域内の全ての再注入ドーズを合計した量となる。つまり、図5Bに示すy軸19に沿って短冊形に複数に分けられた領域18A〜18Gにおいて、レジスト12の側面から領域外に配置される全ての不純物を再注入ドーズ量Dに換算する。
【0042】
S30において、イオン注入によってレジスト12に分布した不純物のうち、レジスト12の側面から領域外に配置される不純物量を、再注入ドーズ量Dとして換算する。
解析モデルでレジスト12に注入される不純物のうち、横方向分布係数Lσなどでレジスト12領域外へ配置される不純物を、基体11に再注入される再注入ドーズとする。上述の解析モデルを用いてレジスト12中の不純物の横方向拡散量から算出し、再注入ドーズの合計量を、再注入ドーズ量Dに換算する。
【0043】
S40において、再注入ドーズの角度分布関数を定義する。また、S50において、再注入ドーズのエネルギ分布関数を定義する。角度分布関数及びエネルギ分布関数は、レジスト12の側面から基体11に注入する不純物のドーズの注入角度分布を分布関数f(θ)で定義し、同様にエネルギ分布を分布関数g(E)で定義する。そして、この分布関数f(θ)、g(E)を用いて、再注入ドーズの再注入角度、再注入エネルギを設定する。
再注入角度分布関数f(θ)、及び、再注入エネルギ分布関数g(E)に用いる分布関数には、対数正規分布関数やガンマ分布、ポアソン分布などを用いる。これらに対応したパラメータは、予め注入条件に対応したパラメータのデータベースを準備し、計算時にこのデータベースから抽出して用いる。
【0044】
S40における再注入ドーズの角度分布関数の定義方法について説明する。
S41において、再注入ドーズの角度分布関数、イオン注入条件、及びレジスト12材料等から対応するパラメータをデータベースにしたテーブルから抽出する。イオン注入条件は、例えば、イオン種、エネルギ、ドーズ量、チルト角及びツイスト角等である。
S42において、抽出したパラメータを再注入ドーズの角度分布関数に代入することにより、注入角度分布を表す分布関数f(θ)を定義する。例えば、角度分布関数は、上述の対数正規分布関数を用いる。そして、対数正規分布関数のパラメータを、注入イオン種、基体11の材料等の再注入条件に従って、予め蓄積されたパラメータテーブルから抽出する。
S43において、上述の分布関数f(θ)で定義された注入角度分布により、再注入ドーズ量Dを適切な領域に区分する。再注入ドーズ量Dを分布関数f(θ)で区分することにより、再注入ドーズ量Dを注入角度毎の再注入ドーズ量ΔD(θ)に分割する。
【0045】
S50における再注入ドーズのエネルギ分布関数の定義方法について説明する。
S51において、再注入ドーズのエネルギ分布関数、イオン注入条件、及びレジスト材料からなるパラメータをデータベースにしたテーブルから抽出する。イオン注入条件は、例えば、イオン種、エネルギ、ドーズ量、チルト角及びツイスト角等である。
S52において、抽出したパラメータを再注入ドーズのエネルギ分布関数に代入することにより、注入エネルギ分布を表す分布関数g(E)を定義する。例えば、エネルギ分布関数は、上述の対数正規分布関数を用いる。そして、対数正規分布関数のパラメータを、注入イオン種、基体材料等の再注入条件に従って、予め蓄積されたパラメータテーブルから抽出する。
S53において、上述の定義された注入エネルギ分布を用いて、注入角度毎の再注入ドーズ量ΔD(θ)を適切な領域に区分する。再注入ドーズ量ΔD(θ)を、エネルギ分布関数g(E)で分割することにより、再注入ドーズ量Dを注入角度毎及び再注入エネルギ毎の再注入ドーズ量ΔD(θ,E)に分割する。
【0046】
S60において、ΔD(θ,E)について注入角度θ、注入エネルギEの注入条件で、再注入開始点から基体への再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。この演算の解析モデルのパラメータは、従来の解析モデルに用いられているパラメータテーブルから抽出することができる。また、この不純物分布の演算は、図6Aに示すように、S10において従来の解析モデルにより演算された基体11及びレジスト12中の不純物の濃度分布13に、再注入ドーズによる不純物分布14を加算して表すことができる。また、図6Bに示すように、基体11中の再注入ドーズによる不純物分布14のみを表すこともできる。
【0047】
S70において、S20で定義した全ての再注入開始点においてS60の再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。例えば、図5Bに示すように、レジスト側面に複数の再注入開始点17A〜17Gが定義される。上述の処理は再注入開始点毎に行われるため、全ての再注入開始点で、再注入ドーズによる不純物分布の演算が完了したかを判定する。演算処理が行われていない再注入開始点がある場合には、S30に戻り、未処理の再注入開始点についての演算を行う。
全ての再注入開始点で、再注入ドーズによる不純物分布の演算を行った後、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを終了する。
以上の処理により、注入再拡散モデルのイオン注入シミュレーションにより、解析モデルを用いて不純物濃度分布及びウェル近接効果を求めることができる。
【0048】
さらに、上述のシミュレーション結果に基づいて、イオン注入を行うことにより、所望の特性を有する半導体装置を製造することができる。
まず、上述のイオン注入シミュレーションを用いて、半導体装置の設計を行う。上述シミュレーションによって、所定のイオン注入条件におけるウェル近接効果の影響を予め予測することができる。このため、半導体装置の設計において、イオン注入条件の最適化が可能となる。
そして、半導体装置の製造は、例えば、半導体基体に、イオン注入領域を制限するためのレジスト等の構造物を形成する。そして、この構造において、上述のイオン注入シミュレーションにより求められた条件に従ってイオン注入を行うことにより、半導体装置を製造することができる。
半導体装置の製造において、上述シミュレーションによって、半導体装置の設計でイオン注入条件が最適化されているため、ウェル近接効果の影響を予め考慮した設計に基づいて半導体装置を製造することができる。
【0049】
なお、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションでは、分布関数はあくまで数学的な関数であり、物理的には考慮する必要のない領域まで値が定義される。このため、分布関数のカットオフを行う。例えば、再注入の角度分布では注入角度θが90°以上の場合は基板へ再注入することが出来ず、考慮する必要がない。ここで、注入角度θは、再注入開始点と再注入開始点の鉛直方向の直線が基板と交わる点を結んだ直線がθ=0であり、レジストで覆われていない方向へ注入角度θを定義する。
【0050】
同様に、再注入エネルギ分布では、再注入されるエネルギが初期の注入エネルギよりも大きくなることはない。これは、再注入されるまでの過程で散乱によりイオンが持つ運動エネルギが減少しているためである。このため、初期エネルギよりも大きな範囲の再注入エネルギ分布を考慮する必要はない。
【0051】
さらに、S20で定義した再注入開始点においても、不純物濃度分布からカットオフを行ってもよい。定義した再注入開始点から領域外に配置される不純物量が、ウェル近接効果への影響を無視できる程度まで少ない場合には、この再注入開始点からの再注入ドーズについて、S30以降の処理を行わずにシミュレーションを行ってもよい。
【0052】
上述のように、初期の注入条件を元に適切なパラメータ範囲のカットオフができるデータベースを予め用意しておき、計算の実行中にカットオフ用のデータベースを参照することで、適切なカットオフ値を得ることができる。
また、分布関数の積分値は無限遠までの範囲で1に規格化されているが、上記のような理由でパラメータ範囲のカットオフが行われた場合には適切に規格化を行う必要がある。
【0053】
なお、上述の実施の形態では、分布関数として対数正規分布関数を用いたが、他にも例えばガウシアン型関数、ハーフガウシアン型関数等の関数系を利用することができる。
また、従来の解析モデルシミュレーションと同様に、多層膜モデルへ対応することができる。
また、上述のシミュレーション方法では、S30において再注入ドーズの角度分布関数を定義した後、S40において再注入ドーズのエネルギ分布関数を定義しているが、これらの順序は問わない。例えば、再注入ドーズのエネルギ分布関数を定義した後、再注入ドーズの角度分布関数を定義してもよい。
【0054】
[変形例:構造物側面が斜面の場合]
上述の第1実施形態では、レジスト等からなる構造物の側面が、基体に対して垂直の場合を例として示している。しかし、一般的には基体上に形成するレジスト等は、側面が基体面に対して垂直な面ではなく、斜めの面や曲面、及び、これらを組み合わせた面により形成される。
このように、斜めの面や曲面等により構造物の側面が構成されている場合にも、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
【0055】
図8に、レジスト12の側面が基体表面に対して斜めに形成されたときの、不純物の濃度分布、及び、再注入開始点を示す。図8Aは、レジスト12の側面に対して1つの再注入開始点を定義する場合を示している。図8Bは、レジスト12の側面に対して複数の再注入開始点を定義する場合を示している。
【0056】
図8Aに示すように、再注入開始点をレジスト12の側面に対して1つ定義する場合には、レジスト12中に配置される不純物濃度が最大となる位置15と同じy座標19上のレジスト12の側面位置を、再注入開始点17と定義する。
【0057】
また、レジスト12から領域外に配置される不純物は、分布関数を用いてレジスト12へ注入された濃度分布を算出することにより、求めることができる。図8Aでは、分布関数を用いて算出される不純物の濃度分布を、等値線を用いてレジスト12内、及び、レジスト12の領域外に示している。そして、レジスト12の領域外に配置されている濃度分布領域18内の全ての不純物を、注入開始点17からの再注入ドーズ量Dとして換算する。
【0058】
なお、図8Aでは、レジスト12の側面が基体11に対して斜めに形成されているため、上述の図5Aで示す場合に対して、レジスト12の領域外に配置されている濃度分布領域18の位置、及び、大きさが異なる。つまり、再注入開始点が定義される面の形状により、領域外に配置されている濃度分布領域18の形状が変化する。このため、領域外に配置される不純物量は、再注入開始点が定義される構造体の面の形状に影響を受ける。
【0059】
上述のように、構造体側面の形状により影響を受ける場合においても、分布関数を用いた解析モデルにより、構造体の領域外に配置される不純物分布を算出することにより、再注入ドーズ量Dの換算を行うことができる。
従って、再注入開始点を定義した後、解析モデルを用いて構造体の領域外に配置される不純物分布を算出し、算出した上記不純物分布を用いて再注入開始点17から基体11に再注入される再注入ドーズ量Dを換算することができる。
【0060】
さらに、上述の第1実施形態と同様に、再注入ドーズの角度分布関数の定義、及び、エネルギ分布関数の定義を行うことにより、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
【0061】
また、図8Bに示すように、複数の再注入開始点17A〜Gを定義する場合には、レジスト12の領域外に一定濃度以上の不純物が配置される領域18を、濃度毎にy座標19の方向に分割して領域18A〜Gとする。そして、この分割された領域18A〜Gにおいて、レジスト12の側面の中心位置を、再注入開始点17A〜Gに定義する。
【0062】
また、各再注入開始点17A〜Gにおける再注入ドーズ量Dは、以下のように求めることができる。
まず、解析モデルを用いて算出された不純物濃度分布から、レジスト12の領域内及び領域外における不純物の濃度分布を求める。図8Bでは、この不純物濃度分布を、等値線を用いて示している。そして、不純物濃度分布を領域18A〜Gに分割する。
そして、領域18A〜Gで分割された濃度分布内の不純物を、各領域18A〜Gの再注入開始点17A〜Gからの再注入ドーズ量Dに換算する。例えば、再注入開始点17Aが定義された領域18Aでは、分布関数からレジスト12内外に形成された濃度分布から、レジスト12の領域外に配置された領域18Aの範囲に含まれる全ての不純物を、再注入開始点17Aからの再注入ドーズ量Dに換算する。
そして、上述の第1実施形態と同様に、再注入ドーズの角度分布関数の定義、及び、エネルギ分布関数の定義を行うことにより、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
【0063】
上述のように、再注入開始点が定義される構造体の面の形状、及び、構造体の面に定義される再注入開始点の数が、任意の場合においても、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
なお、上記変形例では、レジスト12の側面が斜面の場合について説明したが、他にも曲面やこれらを組み合わせた複雑な面を持つ場合にも、適用することができる。上述のように、側面における再注入開始点の定義と、側面から領域外に配置される再注入ドーズ量Dの換算を行うことで、どのような面に対しても適用することができる。
【0064】
〈3.イオン注入シミュレーション方法の第2実施形態〉
[実施例:複数の構造体からの再注入モデル]
上述の実施形態では、図1の様に基体11上に1つの構造体が形成されている場合のイオン注入シミュレーションの実施形態を示したが、再注入が行われる構造体が複数存在する場合にも、上述のイオン注入シミュレーションを行うことができる。以下、上述の図4に示すフローに従って、第2実施形態のイオン注入シミュレーション方法を説明する。
【0065】
図9に、本実施形態のイオン注入シミュレーション方法に適用するイオン注入領域の構造を示す。図9Aに、基体11上に、レジスト12A、12Bが形成された場合において、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションにより求められた、不純物の濃度分布の一例を示す。また、図9Bに、レジスト12A,Bに定義された複数の再注入開始点、及び、分布関数を用いて算出されるレジスト12A,B領域外に配置される濃度分布を、等値線を用いて示す。
【0066】
図9に示すように、基体11上に複数の構造物としてレジスト12A,Bが形成されている。この構造では、レジスト12Aの側面とレジスト12Bの側面とから基体11への再注入が考えられる。このため、レジスト12Aの側面と、レジスト12Bの側面とに、再注入開始点を定義する。
【0067】
まず、S10において、解析モデルを用いてイオン注入による不純物濃度分布を算出する。図9A,Bでは、不純物の濃度分布を等値線を用いて示している。
次に、S20において、算出された不純物濃度分布から、構造体の領域外に濃度分布が形成される位置に、再注入開始点を定義する。図9に示す構成では、レジスト12Aの側面と、レジスト12Bの側面に、それぞれ再注入開始点を定義する。ここでは、図9Bに示すように、上述の図5Bと同じ方法を用いてレジスト12Aの側面に、複数の再注入開始点17A〜17Lを定義する。また、レジスト12Bに対しても同様に、側面に複数の再注入開始点25A〜Lを定義する。
【0068】
再注入開始点の定義は、まず、図9Bに示すように、レジスト12A,12Bの領域外に一定濃度以上の不純物が配置される領域18,26を、濃度毎にy座標19の方向に分割して領域18A〜L、領域26A〜Lとする。そして、この分割された領域18A〜L、領域26A〜Lにおいて、レジスト12A,12Bの側面の中心位置を、再注入開始点17A〜L、再注入開始点25A〜Lに定義している。
【0069】
このとき、基体11面からの高さが同じ位置にレジスト12Aの側面の再注入開始点の位置と、レジスト12Bの側面の再注入開始点の位置とを定義することが好ましい。
例えば、レジスト12Aとレジスト12Bとを同じ材料、同じ厚さで形成した場合には、ウェル近接効果による基体11へ不純物分布が、レジスト12A,Bの中央で対称となる。再注入開始点の高さが、レジスト12Aとレジスト12Bとで異なると、それぞれの再注入開始点からの再注入ドーズの角度分布が、レジスト12Aとレジスト12Bでずれる。このため、本来対称となるはずの濃度分布が非対称になる。
このため、複数の構造体からの再注入ドーズを考慮する場合には、それぞれの構造体における再注入開始点を高さが同じ位置となるように定義することで、より均一な濃度分布を得ることができる。
【0070】
次に、S30において、各再注入開始点18A〜L,26A〜Lからの再注入ドーズ量Dの換算を行う。
まず、解析モデルを用いて算出された不純物濃度分布から、レジスト12A,Bの領域内及び領域外における不純物の濃度分布を求める。そして、レジスト12A,Bの領域外の不純物濃度分布を、領域18A〜L、及び、領域26A〜Lに分割する。
そして、領域18A〜L、及び、領域26A〜Lで分割された濃度分布内の不純物を、各領域18A〜L、及び、領域26A〜Lの再注入開始点17A〜G,25A〜Lからの再注入ドーズ量Dに換算する。
【0071】
例えば、再注入開始点17Aが定義された領域18Aでは、分布関数によりレジスト12内外に形成された濃度分布から、レジスト12の領域外に配置された領域18Aの範囲に含まれる全ての不純物を、再注入開始点17Aからの再注入ドーズ量Dに換算する。
【0072】
次に、S40において、再注入ドーズの角度分布関数の定義を行う。さらに、S50において、エネルギ分布関数の定義を行い、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求める。
そして、S60において、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)について、注入角度θ、注入エネルギEの条件で再注入開始点から、基体及への再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。
【0073】
さらに、一方のレジストの再注入開始点から、他方のレジストに再注入する再注入ドーズについても考慮する。従って、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)について、注入角度θ、注入エネルギEの条件で再注入開始点から、他方のレジストへの再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。
【0074】
再注入は、再注入開始点よりも高さが大きい位置には発生しない。このため、一方のレジストから他方のレジストへ再注入が行われる場合にも、再注入開始点よりも高い位置への再注入は行われない。このため、高さの大きい位置の再注入開始点から再注入ドーズの計算を行い、これより低い位置の再注入開始点から再注入ドーズの計算は、この高い位置の再注入開始点からの再注入ドーズを加えて行う。この方法により、レジストから基体への再注入ドーズのみならず、一方のレジストから他方のレジストへ再注入した後、さらに基体へ再注入される再注入ドーズを含めた濃度分布を算出することができる。
【0075】
このため、上述の再注入開始点からの再注入ドーズ量ΔD(θ,E)による不純物分布の演算は、最も高い位置の再注入開始点から始める。そして、これ以降の再注入開始点からの演算では、演算する再注入開始点よりも高い位置からの再注入ドーズ量を含めて再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求める。
この演算を、高い位置から低い位置の再注入開始点毎に、全ての再注入開始点で繰り返す。そして、全ての再注入開始点からの演算を完了することで、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
【0076】
さらに、上述のイオン注入シミュレーションに基づいて、半導体装置の設計を行うことができる。そして、この設計に従って、半導体装置を製造することができる。上述シミュレーションによって、ウェル近接効果の影響を予め予測し、半導体装置の設計及び製造工程におけるイオン注入の最適化が可能となる。
【0077】
なお、上述の説明では、構造体に対して複数の再注入開始点を定義する場合について説明したが、例えば上述の図5Aと同様に構造体に1つの再注入開始点を定義する場合にも適用することができる。
【0078】
〈4.イオン注入シミュレーション方法の第3実施形態〉
[実施例:基体に再注入開始点が定義される場合]
次に、第3実施形態のイオン注入シミュレーション方法について説明する。
上述の実施形態では、基体上に形成された構造物からの再注入について説明したが、図10に示すように、基体11に溝が形成されている場合にも、溝側面からの注入再散乱モデルを適用することが可能である。以下、上述の図4に示すフローに従って、第4実施形態のイオン注入シミュレーション方法を説明する。
【0079】
図10に、本実施形態のイオン注入シミュレーション方法に適用するイオン注入領域の構造を示す。図10Aに示すように、基体11には、トレンチ27が形成されている。そして、基体11上にレジスト12が形成されている。また、図10Bに、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションにより求められた、不純物の濃度分布の一例を等値線を用いて示している。また、図10Cに、この構造において定義される複数の再注入開始点の一例を示している。
【0080】
図10に示す構造では、レジスト12から基体11への再注入、及び、基体11のトレンチ27の側面から、基体11の異なる部分への再注入が考えられる。このため、レジスト12の側面と、トレンチ27の側面とに再注入開始点を定義する。
【0081】
まず、S10において、解析モデルを用いてイオン注入による不純物濃度分布を算出する。
そして、S20において、算出された不純物濃度分布から、構造体の領域外に濃度分布が形成される位置に、再注入開始点を定義する。図10に示す構成では、レジスト12の側面と、トレンチ27の側面27A,27Bに、それぞれ再注入開始点を定義する。ここでは、図10Cに示すように、上述の図5Bと同じ方法を用いてレジスト12の側面に、複数の再注入開始点17A〜17Jを定義する。また、トレンチ27に対しても同様に、側面27Aに複数の再注入開始点28A〜G、側面27Bに複数の再注入開始点29A〜Gを定義する。
このとき、トレンチ27内の再注入開始点28A〜G、及び、再注入開始点29A〜Gは、それぞれ同じ高さの位置に定義されていることが好ましい。
【0082】
次に、S30において、再注入開始点17A〜17J、再注入開始点28A〜G、及び、再注入開始点29A〜Gからの再注入ドーズ量Dの換算を行う。
再注入ドーズ量Dの換算は、上述の第1実施形態及び第2実施形態と同様に、解析モデルを用いて算出された不純物濃度分布から求める。不純物濃度分布において、レジスト12の領域外、又は、トレンチ27内で基体11の領域外に配置される不純物を、それぞれ再注入開始点を定義した領域ごとに、再注入ドーズ量Dに換算する。
【0083】
次に、S40において、再注入ドーズの角度分布関数の定義を行う。さらに、S50において、エネルギ分布関数の定義を行い、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求める。
そして、S60において、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)について、注入角度θ、注入エネルギEの条件で再注入開始点から、基体及への再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。
再注入ドーズ量ΔD(θ,E)による不純物分布の演算は、上述の第2実施形態と同様に、高い位置に定義された再注入開始点から順に行う。そして、全ての再注入開始点で上記演算を繰り返し、全ての再注入開始点からの演算を完了することで、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを行うことができる。
【0084】
図10に示す構成では、トレンチ27内において、一方の側面27Aからの再注入ドーズが、トレンチ27の底面と、他方の側面27Bとに再注入される。このため、トレンチ27内では、高さの大きい位置の再注入開始点から再注入ドーズの計算を行い、この高い位置の再注入開始点からの再注入ドーズを加えて、これより低い位置の再注入開始点から再注入ドーズの計算を行う。
この方法により、レジストから基体への再注入ドーズに加えて、トレンチ内での再注入散乱モデルを含めた、不純物濃度分布を算出することができる。
【0085】
上述のイオン注入シミュレーション方法によれば、基体上の構造体からの再注入だけでなく、上述の第3実施形態のように、基体に形成されたトレンチ等の構造に依存する再注入する不純物に対しても適用することができる。
さらに、上述のイオン注入シミュレーションに基づいて、半導体装置の設計を行うことができる。そして、この設計に従って、半導体装置を製造することができる。上述シミュレーションによって、ウェル近接効果の影響を予め予測し、半導体装置の設計及び製造工程におけるイオン注入の最適化が可能となる。
【0086】
なお、本実施形態では、基体に1つのトレンチが形成されている場合を例に説明したが、イオン注入領域がより複雑な構造であっても、最適な再注入開始点の定義を行うことにより、上述のイオン注入シミュレーション方法の適用が可能である。また、上述の第3実施形態では、レジスト12の側面、及び、トレンチ27の側面に複数の再注入開始点を定義したが、例えば上述の図5Aと同様に、それぞれの側面に1つの再注入開始点を定義する場合にも適用することができる。
【0087】
〈5.イオン注入シミュレーション方法の第4実施形態〉
次に、イオン注入シミュレーション方法の第4実施形態について説明する。上述の第1〜第3実施形態では、イオン注入による不純物濃度分布を二次元領域で示す場合を例に説明している。第4実施形態では、三次元領域において、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションにより不純物濃度分布を求める場合について説明する。
【0088】
[3次元形状の場合:平面]
図11に、本実施形態のイオン注入シミュレーション方法に適用するイオン注入領域の構造を示す。図11Aは、基体11と、基体11上に形成されたレジスト31とから構成されているイオン注入領域において、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションにより求められた、不純物の濃度分布の一例を等値線を用いて示している。また、図11Bは、この構造において、レジスト31の側面31A〜Cに定義される複数の再注入開始点32A〜Cの一例を示している。
【0089】
図11に示す構造では、基体11のレジスト31からの露出面は、レジスト31の側面31A、側面31B、及び、側面31Cにより囲まれている。このため、この構成では、レジスト31の側面31A〜Cから基体への再注入が考えられる。また、側面31A〜Cからの再注入ドーズが、他の側面31A〜Cに再注入することが考えられる。以下、上述の図4に示すフローに従って、第4実施形態のイオン注入シミュレーション方法を説明する。なお、本実施形態の三次元形状のイオン注入シミュレーションであっても、上述の第1〜3実施形態の二次元形状のイオン注入シミュレーションと同様の解析モデルの分布関数を適用することができる。
【0090】
まず、S10において、解析モデルを用いてイオン注入による不純物濃度分布を算出する。
そして、S20において、算出された不純物濃度分布から、構造体の領域外に濃度分布が形成される位置に、再注入開始点を定義する。図11に示す構成では、レジスト31の側面31A,31B,31Cにそれぞれ、再注入開始点を定義する。ここでは、図11Bに示すように、レジスト31の側面31A,31B,31Cそれぞれに対して複数の再注入開始点32A〜Cを定義する。
【0091】
三次元領域での再注入開始点の定義方法について説明する。ここでは、一例として、側面31Aの、再注入開始点32Aを定義方法について説明する。
まず、図11Bに示すように、側面31Aを破線で示す領域にz軸方向で分割する。このようにz軸方向で分割することで、側面31Aをz軸方向に伸びる帯状の領域に分割する。そして、z軸方向で分割した領域毎に、レジスト31の領域外に一定濃度以上の不純物が配置される領域を、濃度毎にy軸方向に分割する。このように、側面31Aを、z軸方向及びy軸方向で分割した領域の中心位置を再注入開始点32Aに定義する。
このように、三次元領域では、再注入開始点が定義される面を、所定の面積で区切ることにより不純物濃度分布に領域を設定し、この領域内に再注入開始点を定義することができる。このように再注入開始点32Aを定義することにより、レジスト31の側面31Aに、縦横に配列された複数の再注入開始点32Aを定義することができる。
【0092】
側面31Aと同様の方法で、側面31B及び側面31Cにも再注入開始点32B、32Cを定義する。
まず、側面31Bを破線で示す領域にz軸方向で分割する。そして、z軸方向で分割した領域内を、さらに、濃度毎にx軸方向に分割する。このz軸方向とx軸方向で分割した領域の中心位置を再注入開始点32Bに定義する。
また、側面31Cを破線で示す領域にz軸方向で分割する。そして、z軸方向で分割した領域内を、さらに、濃度毎にy軸方向に分割する。このz軸方向とy軸方向で分割した領域の中心位置を再注入開始点32Cに定義する。
このように、側面31B及び側面31Cに縦横に配列された複数の再注入開始点32B,32Cを定義する。
【0093】
側面31A,31B,31Cにおいて、再注入開始点32A,32B,32Cは、それぞれ同じ高さ(z軸方向の位置)が同じであることが好ましい。つまり、z軸方向に分割された領域をx軸方向又はy軸方向で分割する際に、分割するx軸とy軸の高さを側面31A,31B,31Cで同じに設定する。これにより、不純物濃度分布の対称性や均一性を保つことができる。
【0094】
次に、S30において、再注入開始点32A,32B,32Cからの再注入ドーズ量Dの換算を行う。
再注入ドーズ量Dの換算は、上述の第1実施形態及び第2実施形態と同様に、解析モデルを用いて算出された不純物濃度分布から求める。不純物濃度分布から、レジスト31の領域外に配置される不純物を、それぞれ再注入開始点32A,32B,32Cを定義した領域ごとに、再注入ドーズ量Dに換算する。
【0095】
次に、S40において、再注入ドーズの角度分布関数の定義を行う。さらに、S50において、エネルギ分布関数の定義を行い、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求める。
そして、S60において、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)について、注入角度θ、注入エネルギEの条件で再注入開始点から、基体及への再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。
再注入ドーズ量ΔD(θ,E)による不純物分布の演算は、上述の第2実施形態と同様に、高い位置に定義された再注入開始点32A,32B,32Cから順に行う。そして、全ての再注入開始点で上記演算を繰り返し、全ての再注入開始点32A,32B,32Cからの演算を完了することで、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を求めることができる。
【0096】
図11に示す構成では、レジスト31の一つの側面、例えば側面31Aからの再注入ドーズが、基体11だけでなく、レジスト31の他の側面31B,31Cから再注入することが考えられる。このため、レジスト31の高い位置に定義された再注入開始点32A,32B,32Cから、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)による不純物分布の演算を行う。そして、これより低い位置の再注入開始点32A,32B,32Cでは、高い位置の再注入開始点32A,32B,32Cからの再注入ドーズを加えて再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求め、不純物分布を演算する。
【0097】
[変形例:3次元形状の場合:曲面]
上述の実施形態では、レジスト側面が平面からなり、基体のイオン注入領域がこの平面に囲まれた状態を示したが、レジスト側面は曲面であっても、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを適用することができる。
【0098】
図12に、レジストの側面が曲面により形成されている場合のイオン注入シミュレーションに適用する、イオン注入領域の構造を示す。
図12Aは、基体11と基体11上に形成されたレジスト33とから構成されているイオン注入領域において、上述の注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションにより求められた、不純物の濃度分布の一例を等値線を用いて示している。また、図12Bは、この構造において、レジスト33の側面33Aに数定義される複数の再注入開始点34の一例を示している。
【0099】
図12に示す構造では、基体11のレジスト33からの露出面は、レジスト33の側面33Aにより囲まれている。このため、この構成では、レジスト33の側面33Aから基体への再注入が考えられる。また、側面33Aからの再注入ドーズが、再び、側面33Aの他の位置に再注入することが考えられる。
以下、上述の図4に示すフローに従って、第4実施形態のイオン注入シミュレーション方法を説明する。なお、本実施形態の変形例は、レジスト33の側面33Aへの再注入開始点の定義方法以外は、上述の第4実施形態と同様に行うことができる。
【0100】
まず、S10において、解析モデルを用いてイオン注入による不純物濃度分布を算出した後、S20において、算出された不純物濃度分布から、構造体の領域外に濃度分布が形成される位置に、再注入開始点を定義する。図12に示す構成では、レジスト33の側面33Aに再注入開始点34を定義する。再注入開始点34は、以下のように定義する。
まず、図12Bに示すように、レジスト33の側面33Aの全面を破線で示す領域にz軸方向で分割し、側面33Aをz軸方向に伸びる帯状の領域に分割する。そして、z軸方向で分割した領域毎に、レジスト33の領域外に一定濃度以上の不純物が配置される領域を、濃度毎にx−y平面と平行な方向に分割する。このように、側面33Aを、z軸方向及びx−y平面方向で分割した領域の中心位置を再注入開始点34に定義する。
このような方法により、レジスト33の側面33Aが曲面により形成されている場合においても、縦横に配列された複数の再注入開始点34を定義することができる。
【0101】
次に、S30において、再注入開始点34からの再注入ドーズ量Dの換算を行う。そして、S40において再注入ドーズの角度分布関数の定義を行い、S50においてエネルギ分布関数の定義を行い、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)を求める。
そして、S60において、再注入ドーズ量ΔD(θ,E)について、注入角度θ、注入エネルギEの条件で再注入開始点から、基体及への再注入ドーズの注入による不純物分布の演算を行う。
再注入ドーズ量ΔD(θ,E)による不純物分布の演算は、上述の第2実施形態と同様に、高い位置に定義された再注入開始点から順に行う。そして、全ての再注入開始点34で上記演算を繰り返し、全ての再注入開始点34からの演算を完了することで、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションによる不純物濃度分布を求めることができる。
【0102】
さらに、上述のイオン注入シミュレーションに基づいて、半導体装置の設計を行うことができる。そして、この設計に従って、半導体装置を製造することができる。上述シミュレーションによって、ウェル近接効果の影響を予め予測し、半導体装置の設計及び製造工程におけるイオン注入の最適化が可能となる。
【0103】
上述の第4実施形態及びこの変形例のイオン注入シミュレーション方法によれば、注入再散乱モデルのイオン注入シミュレーションを、三次元領域の構造にも適用することができる。本方法によれば、実際の半導体装置の設計で行われる三次元領域でのシミュレーションに、注入再散乱モデルによるシミュレーションを適用することができる。この結果、三次元シミュレーションにおいても、解析モデルを用いたシミュレーションにより、ウェル近接効果の影響を受けやすい微細構造での不純物濃度分布を求めることができる。
また、上述の実施形態では、三次元形状としてレジストからの再注入のみを考慮しているが、上述の第3実施形態のような基体にトレンチ等の構造が形成されている場合にも適用できる。
【0104】
なお、上述の第2〜第4実施形態では、再注入開始点を定義する構造物として、レジスト側面やトレンチ側面において再注入開始点を縦横に配列した場合を説明しているが、例えば、縦方向(高さ方向)に1つの再注入開始点を定義した場合にも適用することができる。この場合には、上述の図5Aに示す場合と同様に再注入開始点を定義することができる。さらに、再注入開始点を定義する構造物の側面は、基体面に対して垂直でもよく、斜面や曲面等の複数の面が組み合わさった形状でもよい。また、構造物の側面は、平面に限らず、曲面や平面と曲面とを組み合わせた形状とすることもできる。
また、上述の実施形態では、再注入開始点の定義方法について具体的に説明しているが、再注入開始点の定義方法は単数複数を問わず、イオン注入が行われる領域の構造や、イオン注入の条件に応じて、上述の方法に限られず最適な方法で定義することができる。
【0105】
〈3.イオン注入シミュレーション装置の実施の形態〉
次に、上述の注入再散乱モデルのシミュレーションを行うシミュレーション装置の実施の形態について説明する。図7に、本実施の形態のイオン注入シミュレーション装置20の構成を示す。
【0106】
イオン注入シミュレーション装置20は、入力された情報を保持する記憶部22と、記憶部22からの情報を読み込んで計算を行う演算部23とを備える。また、シミュレーションに必要なデータを入力する入力部21と、演算部23による結果の表示、及び、入力データの出力を行う出力部24とを備える。
【0107】
イオン注入シミュレーションを行う場合には、入力部21を介して直接、或いはイオン注入シミュレーション装置が認識可能なファイル状態で、注入条件を入力する。入力された注入条件は、メモリやHDD等から構成される記憶部22に保持される。
【0108】
記憶部22は、例えば、分布関数記憶部22Aと、パラメータテーブル記憶部22Bとからなる。
分布関数記憶部22Aは、イオン注入の解析モデルに用いる分布関数、例えば、ガウシアン型関数、ハーフガウシアン型関数、ピアソンIV型関数、及び、デュアルピアソン型関数等の情報を保持する。
パラメータテーブル記憶部22Bは、分布関数に応じた各種パラメータを保持する。例えば、エネルギ、ドーズ量、チルト角、ツイスト角及びスルー膜厚等の注入条件に応じて規定されたパラメータテーブルを保持する。
【0109】
演算部23は、記憶部22に保持された分布関数とパラメータとを用いて、基体とレジストにイオン注入された不純物の濃度分布を計算し、さらに、上述の注入再散乱モデルに基づき、レジストから基体に再注入される不純物の濃度分布を計算する。
例えば、パラメータテーブル記憶部22Bから、イオン注入時の注入角度分布の各条件に基づくパラメータを抽出する。そして、分布関数記憶部22Aから分布関数を読み出し、この分布関数にパラメータを代入して、基体やレジストに注入される不純物の濃度分布を計算する。そして、レジスト中の不純物の拡散によって、領域外に配置される不純物の再注入ドーズ量Dを算出する。
また、再注入ドーズに対して、パラメータテーブル記憶部22Bから各パラメータを読み出し、再注入ドーズの角度分布関数、エネルギ分布関数、及び、再注入開始点を定義する。そして、定義した分布関数から再注入ドーズの基体内での濃度分布を算出する。
【0110】
入力部21から入力された情報や、イオン注入シミュレーションによる結果は、出力部24により表示される。出力部24は、例えばディスプレイ装置やプリンタ装置等の出力装置からなる。
【0111】
上述のレジストにイオン注入された不純物のうち、レジストの領域外に配置される不純物が基体に再注入されると考える注入再散乱モデルを用いることにより、ウェル近接効果のイオン注入シミュレーションを解析モデルにより行うことができる。
一般に、解析モデルとモンテカルロ法とで同一注入条件のシミュレーションを行うと、10倍程度の計算時間差がある。上述の注入再散乱モデルを用いた解析モデルのシミュレーションでは、その時間差が大きく縮まることはない。このため、ウェル近接効果のシミュレーションを、従来よりも大幅に高速化することが可能である。
【0112】
なお、本開示は以下のような構成も取ることができる。
(1)基体と、前記基体上に形成された構造体とに注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される再注入ドーズを算出し、分布関数と前記再注入ドーズの再注入条件とから、前記基体に注入される不純物の濃度分布を算出する、イオン注入シミュレーション方法。
(2)前記基体及び前記構造体へのイオン注入条件から、前記基体又は前記構造体内での不純物の濃度分布を算出し、前記基体又は前記構造体内での不純物の横方向分布により領域外に配置される前記再注入ドーズから、前記基体に注入される再注入ドーズ量を算出する前記(1)に記載のイオン注入シミュレーション方法。
(3)前記側面に再注入開始点を定義し、前記再注入開始点から前記基体に再注入される再注入ドーズ量を算出する(2)に記載のイオン注入シミュレーション方法。
(4)分布関数を用いて前記再注入ドーズの再注入角度を設定し、前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割する工程を有する前記(2)又は(3)に記載のイオン注入シミュレーション方法。
(5)分布関数を用いて前記再注入ドーズの再注入エネルギを設定し、前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割する工程を有する前記(2)〜(4)のいずれかに記載のイオン注入シミュレーション方法。
(6)分布関数を用いて前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割した後、前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割する工程、又は、分布関数を用いて前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割した後、前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割する工程を有する前記(1)〜(5)のいずれかに記載のイオン注入シミュレーション方法。
(7)前記基体面と垂直な方向において、高い位置に定義された再注入開始点から順に、前記再注入ドーズを算出する(3)〜(6)のいずれかに記載のイオン注入シミュレーション方法。
(8)分布関数及びパラメータを記憶する記憶部と、前記記憶部に保持された前記分布関数と前記パラメータとを用いて、基体上に形成された構造体に注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される不純物の前記基体中での濃度分布を計算する演算部と、を備えるイオン注入シミュレーション装置。
(9)半導体基体上に構造体のパターンを形成する工程と、前記構造体上から前記半導体基体上にイオン注入する工程とを有する半導体装置の製造方法であって、前記イオン注入する工程において、上記(1)〜(7)のいずれかに記載のイオン注入シミュレーション方法によるシミュレーションを行い、前記イオン注入シミュレーションで生成された条件に基づき、前記半導体基体にイオン注入を行う半導体装置の製造方法。
(10)上記(1)〜(7)のいずれかに記載のイオン注入シミュレーション方法により、前記半導体基体の不純物の濃度分布を算出する半導体装置の設計方法。
【符号の説明】
【0113】
11 基体、12,31,33 レジスト、13,14 濃度分布、15 位置、16 イオン種、17,25,28,29,32,34 再注入開始点、18,26 領域、19 y座標、20 イオン注入シミュレーション装置、21 入力部、22 記憶部、22A 分布関数記憶部、22B パラメータテーブル記憶部、23 演算部、24 出力部、27 トレンチ、27A,27B,31A,31B,31C,33A 側面、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体上に形成された構造体とに注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される再注入ドーズを算出し、
分布関数と前記再注入ドーズの再注入条件とから、前記基体に注入される不純物の濃度分布を算出する、
イオン注入シミュレーション方法。
【請求項2】
前記基体及び前記構造体へのイオン注入条件から、前記基体又は前記構造体内での不純物の濃度分布を算出し、前記基体又は前記構造体内での不純物の横方向分布により領域外に配置される前記再注入ドーズから、前記基体に注入される再注入ドーズ量を算出する請求項1に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項3】
前記側面に再注入開始点を定義し、前記再注入開始点から前記基体に再注入される再注入ドーズ量を算出する請求項2に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項4】
分布関数を用いて前記再注入ドーズの再注入角度を設定し、前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割する工程を有する請求項2に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項5】
分布関数を用いて前記再注入ドーズの再注入エネルギを設定し、前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割する工程を有する請求項2に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項6】
分布関数を用いて前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割した後、前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割する工程、又は、分布関数を用いて前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割した後、前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割する工程を有する請求項2に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項7】
前記基体面と垂直な方向において、高い位置に定義された再注入開始点から順に、前記再注入ドーズを算出する請求項3に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項8】
分布関数及びパラメータを記憶する記憶部と、
前記記憶部に保持された前記分布関数と前記パラメータとを用いて、基体上に形成された構造体に注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される不純物の前記基体中での濃度分布を計算する演算部と、を備える
イオン注入シミュレーション装置。
【請求項9】
半導体基体上に構造体のパターンを形成する工程と、前記構造体上から前記半導体基体上にイオン注入する工程とを有する半導体装置の製造方法であって、
前記イオン注入する工程において、
前記構造体に注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される再注入ドーズを算出して再注入条件を生成し、
前記再注入ドーズの再注入条件と分布関数とから、前記基体に注入される不純物の濃度分布を算出する、イオン注入シミュレーションを行い、
前記イオン注入シミュレーションで生成された条件に基づき、前記半導体基体にイオン注入を行う
半導体装置の製造方法。
【請求項10】
半導体基体上に形成された構造体に注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される再注入ドーズを算出して再注入条件を生成し、
分布関数と前記再注入ドーズの再注入条件とから、前記基体に注入される不純物の濃度分布を算出するイオン注入シミュレーションにより、前記半導体基体の不純物の濃度分布を算出する
半導体装置の設計方法。
【請求項1】
基体と、前記基体上に形成された構造体とに注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される再注入ドーズを算出し、
分布関数と前記再注入ドーズの再注入条件とから、前記基体に注入される不純物の濃度分布を算出する、
イオン注入シミュレーション方法。
【請求項2】
前記基体及び前記構造体へのイオン注入条件から、前記基体又は前記構造体内での不純物の濃度分布を算出し、前記基体又は前記構造体内での不純物の横方向分布により領域外に配置される前記再注入ドーズから、前記基体に注入される再注入ドーズ量を算出する請求項1に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項3】
前記側面に再注入開始点を定義し、前記再注入開始点から前記基体に再注入される再注入ドーズ量を算出する請求項2に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項4】
分布関数を用いて前記再注入ドーズの再注入角度を設定し、前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割する工程を有する請求項2に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項5】
分布関数を用いて前記再注入ドーズの再注入エネルギを設定し、前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割する工程を有する請求項2に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項6】
分布関数を用いて前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割した後、前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割する工程、又は、分布関数を用いて前記再注入ドーズ量を再注入エネルギごとに分割した後、前記再注入ドーズ量を再注入角度ごとに分割する工程を有する請求項2に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項7】
前記基体面と垂直な方向において、高い位置に定義された再注入開始点から順に、前記再注入ドーズを算出する請求項3に記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項8】
分布関数及びパラメータを記憶する記憶部と、
前記記憶部に保持された前記分布関数と前記パラメータとを用いて、基体上に形成された構造体に注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される不純物の前記基体中での濃度分布を計算する演算部と、を備える
イオン注入シミュレーション装置。
【請求項9】
半導体基体上に構造体のパターンを形成する工程と、前記構造体上から前記半導体基体上にイオン注入する工程とを有する半導体装置の製造方法であって、
前記イオン注入する工程において、
前記構造体に注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される再注入ドーズを算出して再注入条件を生成し、
前記再注入ドーズの再注入条件と分布関数とから、前記基体に注入される不純物の濃度分布を算出する、イオン注入シミュレーションを行い、
前記イオン注入シミュレーションで生成された条件に基づき、前記半導体基体にイオン注入を行う
半導体装置の製造方法。
【請求項10】
半導体基体上に形成された構造体に注入され、前記構造体の側面から前記基体に再注入される再注入ドーズを算出して再注入条件を生成し、
分布関数と前記再注入ドーズの再注入条件とから、前記基体に注入される不純物の濃度分布を算出するイオン注入シミュレーションにより、前記半導体基体の不純物の濃度分布を算出する
半導体装置の設計方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図1】
【図5】
【図8】
【図11】
【図12】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図1】
【図5】
【図8】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−209536(P2012−209536A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−286252(P2011−286252)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
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