説明

イオン注入方法及びイオン注入装置

【課題】 単位面積当たりのイオン量が減少することなく、任意の浸透深さでイオンを注入できるイオン注入方法を提供する。
【解決手段】 真空中で保持された基板Sに対し、加速器16により加速することで所定の注入エネルギーに制御したイオンビームを照射し、X、Y方向に走査させて所定のイオンを注入する。その際、加速器での注入エネルギーを保持した状態で、イオンビームに対して基板Sを傾け、当該傾きに応じてイオンの浸透深さを変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中でシリコンウエハやガラスなどの基板に対しイオンビームを照射してイオン注入を行うイオン注入方法及びイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入装置は、加速することで所定の注入(イオン)エネルギーを持ったイオンを半導体ウェハなどの基板に照射し、基板に対し所定の浸透深さで所定のイオンを打ち込むためのものであり、例えば、半導体の製造工程においては、上記イオン注入装置が、P、As、In、Sbなどイオンをシリコンウェハに形成されたデバイス構造各部に適切な量で不純物導入するために用いられている。近年では、このイオン注入装置は、単結晶Si搭載ガラス基板「Silicon-on-Glass(SiOG)」技術を使用したフラットパネルディスプレにおいて、シリコンドナー部分を与えるドナー基板に対して水素やヘリウム等の不活性イオンを注入することにも利用されている(例えば、特許文献1)。この場合、浸透(注入)深さが上記ドナー基板から取り出されるドナー部分の厚さを決定することから、この種の用途においては、半導体製造工程で不純物導入する場合と比べて基板表面から比較的浅い領域に所定量のイオンを注入することが求められている。
【0003】
ここで、基板表面へのイオンの浸透深さは、注入エネルギーに依存する。このことから、イオン源から引き出したイオンを、加速管において最終的な加速エネルギー、つまり、注入エネルギーが得られるように加速するイオン注入装置において、例えば加速管での加速電圧を変調することで、イオンビームの径をブロード化し、注入エネルギーに幅を持たせてイオン注入の深さを任意に制御できるイオン注入方法が特許文献2で知られている。
【特許文献1】特表2005−539259号公報
【特許文献2】特開2006−351372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献2記載の方法では、イオンビームをブロード化しているため、加速管を通過して基板に到達する前に、加速されたイオンが、基板が収納されたチャンバ内の残留ガスと衝突して反応する量が増えることで、イオンの状態のまま基板に到達せず、基板に注入されるイオンの量が少なくなるという問題がある。このため、特許文献2記載の方法を、上述のSiOG技術においてシリコンドナー部分を与えるドナー基板に水素やヘリウム等の不活性イオンを注入することに適用すると、基板表面から任意の浅い位置に不活性イオンを注入できるが、イオン量が足りずに、場合によってはドナー基板が剥離できない。
【0005】
そこで、本発明の課題は、上記点に鑑み、単位面積当たりのイオン量が減少することなく、任意の浸透深さでイオンを注入できるようにした制御が簡単なイオン注入方法及びイオン注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のイオン注入方法は、真空中で保持された基板に対し、加速器により加速することで所定の注入エネルギーに制御したイオンビームを照射し、X、Y方向に走査させて所定のイオンを注入するイオン注入方法において、前記加速器での注入エネルギーを保持した状態で、イオンビームに対して基板を傾け、当該傾きに応じてイオンの浸透深さを変化させることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、イオンビームに対して基板が直角となる位置から基板を傾けると、この傾きに応じて、イオンが基板中を斜入射して注入される。その結果、注入エネルギーが同一であれば、イオンビームに対して基板が直角となる位置でイオン注入する場合と比較して、単位面積当たりのイオン量が殆ど減少することなく、基板表面からのイオンの浸透深さを浅くできる。また、イオンビームに対する基板の傾きを変化させるだけで、浸透深さが変えられるので、その制御も簡単である。
【0008】
このように本発明によれば、単位面積当たりのイオン量が殆ど減少することなく、イオンの浸透深さを浅くできるため、SiOG技術においてドナー基板に対して水素やヘリウム等の不活性イオンを注入することに最適である。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明のイオン注入装置は、所定の基板を保持する基板保持手段と、基板保持手段で保持された基板が収納されるチャンバ内を真空排気する真空排気手段と、真空中で当該基板に対しイオンビームを照射し、X、Y方向に走査するイオン照射手段とを備えたイオン注入装置において、前記基板保持手段は、イオンビームに対し基板を傾ける基板傾斜機構を有し、前記加速器での注入エネルギーを保持した状態で、当該基板傾斜機構を作動させてイオンビームに対して基板を傾け、当該傾きに応じてイオンの浸透深さを変化させるように構成したことを特徴とする。
【0010】
この場合、前記真空排気手段は、ターボ分子ポンプを有するものであれば、基板に対して水素イオン等を注入する場合に、排気速度の低下などを防止できてよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1を参照して説明すれば、1は、本発明のイオン注入装置である。イオン注入装置1は、公知の構造の高電圧ターミナル11を有し、高電圧ターミナル11は、所定の印加電圧に対して十分な耐電圧を有する間隔を置いて遮蔽箱12内に収納されている。高電圧ターミナル11内には公知の構造のイオン源13が設けられ、このイオン源13は、真空配管14aを介して、多種類のイオンの中から必要なイオンを取出す質量分析マグネット15に接続されている。この質量分析マグネット15は、高電圧ターミナル11の外側まで延出する他の真空配管14bを介して、遮蔽箱13内に位置する加速管16に接続されている。
【0012】
高電圧を印加してイオンを加速し、必要な注入エネルギーを与える加速管16の他端は、遮蔽箱12の壁面を貫通して、X−Y走査チャンバ2に接続されている。X−Y走査チャンバ2には真空排気手段P1が接続されている。真空排気手段P1は、ターボ分子ポンプとその背圧側のロータリポンプから構成されている。また、X−Y走査チャンバ2内には、その上流側からイオンビームの整形を行う四極子レンズ21と、例えば高周波を印加してイオンビームをX、Y方向にそれぞれ走査する一対の偏向電極(スキャンプレート)22とが配設され、基板Sに対するイオンビームの照射を制御するイオン照射手段を構成する。X−Y走査チャンバ2の下流側にはイオン注入チャンバ3が接続されている。
【0013】
イオン注入チャンバ3は、X−Y走査チャンバ2からの延長線上に位置する第一部分3aと、当該第一部分3aから略直角に屈曲した方向に延びる第二部分3bとから構成され、上記同様、ターボ分子ポンプとその背圧側のロータリポンプから構成された真空排気手段P2が接続されている。また、イオン注入チャンバ3には、イオンビームが照射されるガラス基板などの矩形の基板Sを保持する基板保持手段4が設けられている。
【0014】
図2に示すように、基板保持手段4は、一面に静電チャック用の電極(図示せず)が形成された基台41を有し、当該一面が、電極に通電して基板Sを吸着保持できる基板保持部42を構成する。また、基台42側面中央には、図示しない駆動モータの回転軸5が、イオンビームに対し直交させて固定されている。この駆動モータは筐体6に収納されており、この筐体6にはナット部材61が形成されいる。そして、当該ナット部材61が、第二部分3bの長手方向略全長に亘って設けられた送りねじ7に螺合している。
【0015】
駆動モータ8を作動させて送りねじ7を回転させると、イオンビームが照射できる照射位置(図1では、実線で示した上昇位置)と、基板保持部42への基板Sの受け取り、受け渡しが行われる第2部分3bの他端たる基板搬出入位置(図1では、仮想線で示した下降位置)との間で基板保持手段4が移動自在となる。そして、下降位置では、基板保持部42を上側に位置させ、他方で、上昇位置では、基板保持部42で保持された基板Sがイオンビームに対し直角となるように回転軸5の回転角が制御される。送りねじ7や駆動モータ8はケース部材9に収納されており、イオン注入チャンバ3内の真空雰囲気に悪影響を及ぼさないようにしている。
【0016】
なお、基板保持部42への基板Sの受け取り、受け渡しを行うために、第2部分3bの端部に、ゲートバルブを介してロードロックチャンバ(図示せず)を連結し、搬送ロボットにより、下降位置にある基板保持手段4に対し真空雰囲気中で基板Sを受け取りまたは受け渡しができる構成を採用してもよい。また、基台41に、例えば抵抗加熱式のヒータを内蔵し、イオン注入のプロセスに応じて基板Sを所定温度に加熱して保持できる構成を作用してもよい。
【0017】
次に、上記イオン注入装置1を用いた本発明のイオン注入方法を説明する。基板Sが下降位置にある状態で基板保持手段4の基板保持部42に基板Sを位置決めして載置し、電極に通電して基板Sを吸着保持する。そして、駆動モータ8を作動させて送りねじ7を回転させて基板保持手段4を上昇位置まで移動させる。このとき、筐体6に収納した他の駆動モータを作動させて回転軸5を所定の回転角だけ回転し、基板保持部42で保持された基板Sをイオンビームに対し直角に位置させる。その後、各真空排気手段P1及びP2を作動させてX−Y走査チャンバ2及びイオン注入チャンバ3を所定の真空圧まで真空排気する。
【0018】
次いで、真空状態のイオン源13に、図示しないガス源からイオン注入処理に応じて適宜選択されるプロセスガスと、図示しない電源から所定の電力とを供給し、イオン源13中でプラズマを生成し、イオン源13から高電圧ターミナル11の電位までイオンを加速する。次いで、イオン源13からのイオンを、真空配管14aを介して質量分離マグネット15に入射し、この内部で発生している磁場とイオンの持つ速度によるローレンツ力によってイオンの軌道を曲げる。この場合、質量分離マグネット15への入力電流を適宜調節すれば、所望のイオンが導き出すことができ、下流側の加速管16へと導入できる。
【0019】
次いで、加速管16内に導入されたイオンを、高電圧ターミナル11に印加される電圧によって高電圧とイオンの値数との積のエネルギーを持ってグランド電位まで加速し、X−Y走査チャンバ2に導入する。X−Y走査チャンバ2に導入されたイオンは、四極子レンズ21によってイオンビームに整形されて所定の軌跡にのせられ、一対の偏向電極22に所定の周波数の電圧を印加することで、イオン注入チャンバ3の第1部分3aの一端に位置する基板S表面にイオンビームが一様に照射されてイオンが注入される。
【0020】
ここで、基板Sへのイオンの浸透深さを浅くする場合には、上記加速管16での最終的な加速エネルギー(イオン電流値を)一定に保持したまま、筐体6内の駆動モータを作動させて回転軸5を回転させ、当該回転軸5を支点として基板Sを傾ける(図3(b)参照)。これにより、イオンが基板S中を斜入射する。その結果、イオンビームに対して基板Sが直角となる位置でイオン注入する場合の注入深さD1と比較して(図3(a)参照)、単位面積当たりのイオン量が殆ど減少することなく、基板S表面からのイオンの浸透深さD2が、基板Sの傾きに応じて距離D3だけ浅くできる(図3(b)参照)。この場合、本実施の形態においては、基板保持手段4と回転軸5とが基板Sを傾ける基板傾斜機構を構成する。
【0021】
次いで、基板Sに対するイオンビームの入射角が一定となるように、送りねじ7の駆動モータ8を作動させて基板保持手段4を昇降させると共に、回転軸5の回転角を調節しつつ、イオンビームをX、Y方向にそれぞれ走査することで、基板S表面全体に亘ってイオン注入が行われる。このように本実施の形態では、加速管16での注入エネルギーを一定に保持しつつ、基板保持手段4の回動する回転軸5の回転角を制御してイオンビームに対する基板Sの傾きを調節するだけで、浸透深さが変えられるので、その制御も簡単である。
【0022】
従って、単位面積当たりのイオン量が殆ど減少することなく、イオンの浸透深さを浅くできるため、SiOG技術においてドナー基板に対して水素やヘリウム等の不活性イオンを注入することに最適である。
【0023】
また、X−Y走査チャンバ2及びイオン注入チャンバ3を所定の真空圧まで真空排気する真空排気手段として、ターボ分子ポンプを主とするものを用いることで、水素やヘリウム等の不活性イオンを注入するときでも、排気速度の低下が防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のイオン注入装置を模式的に説明する断面図。
【図2】基板保持手段を説明する一部分解斜視図。
【図3】基板へのイオンの浸透深さの変化を説明する図。
【符号の説明】
【0025】
1 イオン注入装置
2 X−Y走査チャンバ
3 イオン注入チャンバ
4 基板保持手段
41 基台
42 基板保持部
5 回転軸
7 送りねじ
8 駆動モータ
P1、P2 真空排気手段
S 基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中で保持された基板に対し、加速器により加速することで所定の注入エネルギーに制御したイオンビームを照射し、X、Y方向に走査させて所定のイオンを注入するイオン注入方法において、
前記加速器での注入エネルギーを保持した状態で、イオンビームに対して基板を傾け、当該傾きに応じてイオンの浸透深さを変化させることを特徴とするイオン注入方法。
【請求項2】
所定の基板を保持する基板保持手段と、基板保持手段で保持された基板が収納されるチャンバ内を真空排気する真空排気手段と、真空中で当該基板に対しイオンビームを照射し、X、Y方向に走査するイオン照射手段とを備えたイオン注入装置において、
前記基板保持手段は、イオンビームに対し基板を傾ける基板傾斜機構を有し、前記加速器での注入エネルギーを保持した状態で、当該基板傾斜機構を作動させてイオンビームに対して基板を傾け、当該傾きに応じてイオンの浸透深さを変化させるように構成したことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項3】
前記真空排気手段は、ターボ分子ポンプを有することを特徴とする請求項2記載のイオン注入装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−70886(P2009−70886A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235140(P2007−235140)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】