説明

イオン注入装置

【課題】 従来の大型化、大電力化、エネルギーの可変性等の改良余地が残されている問題を解決したイオン注入装置を提供する。
【解決手段】 イオン源20と、このイオン源20からのイオンの低エネルギー入射が可能な第1のIH型線形加速器30と、この第1のIH型線形加速器30に直列的に接続される第2のIH型線形加速器40とを備え、イオン注入エネルギーを完璧に可変とするように構成した。
この場合、イオン源20として、大気圧型ターミナル22を具備したECRイオン源20を用い、第1及び第2のIH型線形加速器30、40としては、それぞれ、APF−IH(四重極収束系を含む)型線形加速器とするとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造用等に用いられ、イオン源とイオン加速装置とにより構成されるイオン注入装置に係り、特に、イオン注入エネルギーを完璧に可変とするとともに、更に、小型化、省電力化したイオン注入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先ず、従来のイオン注入装置について、図5を用いて説明する。
図5は、従来のイオン注入装置、及び、半導体製造装置等の照射装置の配置を示した平面図である。
【0003】
図5に示すように、従来のイオン注入装置100は、主要構成として、イオンを生成するイオン源110、イオン源110から供給されたイオンを、所望のエネルギーに加速する加速装置120より構成されている。
また、同図において、130は、半導体製造装置等の照射装置、140は粒子分析機である。
【0004】
次に、従来のイオン注入装置100の主要構成である、イオン源110及び加速装置120について、詳細に説明する。
先ず、従来のイオン注入装置100が用いているイオン源110について説明する。
イオン源とは、主として、中性原子から電子を剥ぎ取り、イオンを生成する装置であるが、従来装置100では、イオン源110として、PIG型イオン源、デュオプラズマイオン源、或いは、電子衝撃型イオン源等が用いられている。
【0005】
一方、従来装置100が用いている加速装置120には、静電型加速器、マルチセル型線形加速器等が使用されている。
なお、線形加速器については、特許文献1及び2を参照されたい。
また、粒子分析機140は、イオンの電荷、質量、エネルギーの違いにより、磁場又は電場中での曲がり方に違いがあるのを利用して、所望の価数のイオンを選択する装置である。
【0006】
ところで、従来のイオン注入装置において、加速装置に静電型加速器を用いている静電型イオン注入装置では、静電型加速器に印加する電圧が500kVを超えると、絶縁ガスを満たした高圧容器中に収納する必要があり、このため、イオン源の設置スペースが小さく、また、メンテナンスが容易ではないため、基礎研究用に使用されるのみで、実用化に問題があった。
【0007】
このため、現在では、負イオンを入射して、中間で電子を剥ぎ取って正イオンに転換して、2重に加速するようにしたタンデム型静電加速器を加速装置に用いたイオン注入装置が利用されているが、この場合、電流の弱い負イオンを入射すること、更に、荷電変換することでイオン電流が減ること、引加電圧を1MV以上にすると、大型化するという問題点があった。
【0008】
また、従来のイオン注入装置において、加速装置として、マルチセル型線形加速器を用いたものでは、1セルの加速空胴を多数取り付けることにより、注入イオンのエネルギーが可変であることが特徴であった。
しかし、1セルの電力効率が悪く、多数のセルがあるため、全体の制御系が複雑化し、また、大型化するという問題点があった。
【0009】
この問題を解決するために、発明者らは、特許文献3に開示される内容の発明を特許出願している。
特許文献3の発明の内容を簡単に説明すると、イオン源として、ECRイオン源を用い、かつ、イオン加速装置として、IH型線形加速器を用いるように構成すると、イオン注入装置の小型化、省電力化でき、エネルギーの変更にも容易に対応できる。
また、IH型線形加速器としては、APF収束及び補助的に四重極収束機能を備えたIH型線形加速器とすると、イオン注入装置を更に、小型化、省電力化することが可能となるというものである。
【0010】
【特許文献1】特開2002−329600
【特許文献2】特開2003−059699
【特許文献3】特願2003−310929
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献3に記載された、上記ECRイオン源と、イオン加速装置として単一のIH型線形加速器をを組み合わせたイオン注入装置では、大型化、大電力化、エネルギー可変の従来技術の解決に関しては、更に、改良の余地が残されていた。
【0012】
本発明は、上記従来の大型化、大電力化、エネルギーの可変性等の改良余地が残されている問題を解決したイオン注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のイオン注入装置は、請求項1に記載のものでは、イオン源と、このイオン源からのイオンの低エネルギー入射が可能な第1のIH型線形加速器と、この第1のIH型線形加速器に直列的に接続される第2のIH型線形加速器とを備え、イオン注入エネルギーを可変とするように構成した。
【0014】
請求項2に記載のイオン注入装置では、前記イオン源として、該イオン源から供給されたイオンを上記第1のIH型線形加速器入射に適したエネルギーにするために、イオンを加速する絶縁された大気圧型ターミナルを具備したECRイオン源を用い、上記第1及び第2のIH型線形加速器としては、それぞれ、APF−IH(四重極収束系を含む)型線形加速器とした構成とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明のイオン注入装置は、上述のように構成したために、以下のような優れた効果を有する。
(1)請求項1に記載したように構成すると、静電型では500kV(キロボルト)以上は大気型ターミナルにできないのに対して、線形加速器長1mで、3MV(メガボルト)程度を発生することができるので、従来装置よりも、エネルギー可変性に優れ、小型の高エネルギーイオン注入装置とすることができる。
(2)また、IH型線形加速器を2台直列に接続しているために、低エネルギーのイオンを所望のエネルギーに加速でき、イオン注入エネルギーを完璧に可変とするとともに、更に、小型化、省電力化できる。
【0016】
(3)請求項2に記載したように構成すると、一層、小型の高エネルギーイオン注入装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のイオン注入装置の一実施の形態を図1乃至図4を用いて説明する。
図1は、本発明のイオン注入装置の配置を示す平面図である。
図2は、本発明のイオン注入装置に用いるIH線形加速器を説明するための一部裁断斜視図である。
図3は、AFP収束の原理を説明する側面図である。
図4は、本発明のイオン注入装置に用いるECRイオン源を説明するための側面図である。
【0018】
図1に示すように、本発明のイオン注入装置10は、主要構成としては、イオン源20と、このイオン源20から供給されたイオンを、低エネルギーで入射できる第1のIH型線形加速器30と、この第1のIH型線形加速器30に直列的に接続される第2のIH型線形加速器40とを備えている。
【0019】
また、本実施の形態では、イオン源20としては、大気圧型ターミナル22を具備したECRイオン源を用い、また、2台のIH型線形加速器30、40は、それぞれ、APF−IH型(四重極収束系を含む)線形加速器が用いられている。
【0020】
以下、IH型線形加速器、APF収束、ECRイオン源、大気圧型ターミナルについて、順次、補足説明を行う。
IH型線形加速器とは、Interdigital-Hモード型線形加速器の略で、このIH型線形加速器は、1960年から70年代半ばにかけて、旧ソ連、フランス、ドイツで研究され、70年末に、ドイツのミュンヘン工科大学が大形タンデム静電加速器の後段加速器として、高エネルギー領域(数MeVから)の加速に成功した。
【0021】
1980年代初めから半ばにかけて、日本の東京大学原子核研究所における基礎研究を基に、東京工業大学原子炉工学研究所に、2台の重イオン専用のIH型線形加速器が発明者らにより建設され、4重極電磁石による粒子収束機能を持った中エネルギー領域(陽子で240keV)からの加速に成功した。
【0022】
また、発明者らは、1998年にIH型線形加速器構造に低エネルギー領域での粒子収束に適した高周波四重極収束(RFQ)機能を組み込んだIHQ型線形加速器で22keVの陽子を加速することに成功した。
【0023】
更に、2001年に、発明者らによって、APF収束構造を組み込んだ、APF−IH型線形加速器で10keVからの陽子を加速することに成功した。
【0024】
次に、イオン源20から供給されたイオンを、低エネルギーで入射できる第1のIH型線形加速器30の構造及びイオンを加速する加速原理について、図2を用いて説明する。
なお、この第1のIH型線形加速器30に直列的に接続される第2のIH型線形加速器40については、当該第1のIH型線形加速器30と同等であるために、その説明は割愛するものとする。
【0025】
図2に、IH型線形加速器30の内部構造を示す。
IH型線形加速器30は、高周波加速器の一種で、主要構成は、空胴32内にリッジ34及びステム36を介して、複数のドリフトチューブ38が配置され、誘導電流により、このドリフトチューブ38間に発生する強力な電界を利用して、イオンを加速するものである。
【0026】
イオンが加速される高周波の位相の時に、イオンが丁度、ドリフトチューブ38の間隙に来るように、高周波と上手く同期させることによって、矢印方向にイオンを加速する。
なお、イオンは加速されるとその速さが増大するので、それに合わせて、図2に示すように、ドリフトチューブ38の長さもギャップ間隔も長くなるように工夫されている。
【0027】
このIH型線形加速器30の構造の特徴は他の線形加速器に比較して、その加速電力効率が数倍から十数倍良いということである。
即ち、同じエネルギーに加速するために必要な電力は数分の1から十数分の1でよいことになる。
【0028】
また、この特徴を利用すると、同じ電力で、数倍の加速電圧が発生し、数分の1の小型化が可能になることになる。
それに従い、投入電力も減じるために、省電力化が実現する。
10MeV以下のエネルギー領域では、このIH型線形加速器30が最も高い加速電力効率を持つことから、小型、省電力をを必要とする応用加速器にIH型線形加速器30が最適となる。
【0029】
次に、APF収束について補足説明を行う。
APFとは、Alternating Phase Focusの略で、線形加速器の加速位相(Phase)を正負と変化させることで、加速イオンの加速軸と、軸に直角な方向にイオンを収束して加速する方法である。
【0030】
1970年代に、アルバレ型加速器で、低エネルギー陽子の収束、加速方法として、米国ロスアラモス研究所で研究されたが、1980年代初めに、RFQ型線形加速器が実用化し、それ以後は研究が行われなくなっていた。
【0031】
小型、省電力型のIH線形加速器30の構造にAPF収束構造を付加することで、低エネルギーからの加速性を目的とした原理実証機が、2001年に、東京工業大学の発明者らにより、10keVからの陽子を加速することに成功した。
このAPF収束原理が低エネルギーから可能であることが世界で始めて実証されたことになる。
【0032】
図3を用いて、APF収束の原理について説明する。
図3において、Bはビーム、Fは電気力線である。
また、Lはドリフトチューブ38間の加速電圧曲線で、ピークPより左側が加速位相φが、φ<0を、右側がφ>0を表している。
【0033】
図3(1)に示すように、ビームBが、加速位相φ<0のタイミングでドリフトチューブ38間に差し掛かると、電気力線Fの矢印に示すように、軸方向に収束され、径方向に発散させられる。
【0034】
一方、図3(2)に示すように、ビームBが、加速位相φ>0のタイミングでドリフトチューブ38間に差し掛かると、電気力線Fの矢印に示すように、軸方向に発散され、径方向に収束させられる。
【0035】
このように、APF収束を用いると、加速位相φとのタイミングを図れば、横方向収束が不要になり、上述したように、IH型線形加速器30の小型化、前段加速が不要になって、電力効率が格段に向上するという利点を有している。
【0036】
次に、ECRイオン源について、図4を用いて、補足説明を行う。
ECRイオン源は、1960年代に、フランスのグルノーブル研究所のジェラー氏により発明された、電子サイクロトロン共鳴により高温電子を発生させて、中性元素を多価イオン化するイオン源である。
【0037】
図4に示すように、ECRイオン源20は、プラズマチェンバー22の外周にソレノイドコイル24を配置して、このソレノイドコイル24により、軸方向に2つのミラー磁場と半径方向に多極磁場を生成して、高温電子閉じ込めを行い、高周波電力を供給して、高強度の多価イオンを発生できる特徴がある。
現在、数多くの大型サイクロトロンのイオン源として利用され始めている。
【0038】
このECRイオン源20の特徴は、供給する高周波電力の周波数に対応して、ECR磁場中において、供給される高周波電場とのサイクロトロン共鳴により加速される高温(高エネルギー)の電子が生成することである。
この高エネルギーの電子が、イオンや原子と衝突して、これらのイオンや原子中の電子を徐々に剥がして行き、多価イオンを生成する。
【0039】
次に、大気圧型ターミナル22について、図1を用いて説明する。
大気圧型ターミナル22とは、イオン源20から供給されたイオンを第1のIH型線形加速器30入射に適したエネルギーにするために、イオンを加速する絶縁された高電圧ターミナルである。
【0040】
一般に、20kVから500kVまで印加することができ、図示は省略するが、イオン源20を運転する諸電源、冷却装置を搭載している。
そのため、通常は、イオン源、その他の冷却液体と輸送、高圧への電力輸送のための大型絶縁トランスが必要であり、大型化する可能性がある。
【0041】
しかし、その点、本実施の形態に用いる永久磁石型ECRイオン源20では、必要電力が少ないために小型化が可能である。
従って、一層、小型の高エネルギーイオン注入装置10とすることができる。
【0042】
上述したように、本発明のイオン注入装置10は、IH型線形加速器30、40を2台直列に接続しているために、低エネルギーのイオンを所望のエネルギーに加速でき、イオン注入エネルギーを完璧に可変とするとともに、更に、小型化、省電力化できる。
【0043】
また、イオン注入装置10のイオン源20として、大気圧型ターミナル22を具備したECRイオン源20を用い、初段加速された多価イオン(これは既存の中エネルギーイオン注入装置で代替できる)を低エネルギーから、2台の直列に並べられたIH型線形加速器30、40で加速し、一層小型の入射装置で、超高エネルギーの重イオンを発生し、照射装置により半導体の製造が行える。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のイオン注入装置の配置を示す平面図である。
【図2】本発明のイオン注入装置に用いるIH線形加速器を説明するための一部裁断斜視図である。
【図3】AFP収束の原理を説明する側面図である。
【図4】本発明のイオン注入装置に用いるECRイオン源を説明するための側面図である。
【図5】従来のイオン注入装置、及び、半導体製造装置等の照射装置の配置を示した平面図である。
【符号の説明】
【0045】
10:イオン注入装置
20:イオン源
22:大気圧型ターミナル
30:第1のIH型線形加速器
40:第2のIH型線形加速器
130:照射装置
140:粒子分析機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源と、
このイオン源からのイオンの低エネルギー入射が可能な第1のIH型線形加速器と、
この第1のIH型線形加速器に直列的に接続される第2のIH型線形加速器とを備え、
イオン注入エネルギーを可変とするようにしたことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記イオン源として、該イオン源から供給されたイオンを上記第1のIH型線形加速器入射に適したエネルギーにするために、イオンを加速する絶縁された大気圧型ターミナルを具備したECRイオン源を用い、
上記第1及び第2のIH型線形加速器としては、それぞれ、APF−IH(四重極収束系を含む)型線形加速器としたことを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−12574(P2006−12574A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187384(P2004−187384)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】