説明

イオン液体およびその製造方法、並びに同イオン液体を用いた蓄電装置

【課題】電気化学的に安定で、しかも有機化合物を溶解する能力に優れたイオン液体を提供する。
【解決手段】本発明のイオン液体は、アルキル基またはメトキシアルキル基(R)がN位に置換したオキサゾリジンカチオンと、ハロゲンを含むアニオン(X-)とから構成され、下記一般式(1)で表わされる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキサゾリジン系のイオン液体およびその製造方法、並びに同イオン液体を用いた蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体は、難燃性、イオン伝導性、不揮発性、高極性、溶解性などの種々の特性を併せ持ち、有機合成化学の分野では特殊反応媒体や難溶解物質の溶解剤としての利用がなされるとともに、例えばクラウンエーテルのような相間移動触媒などの特異的触媒としての利用がなされている。また、イオン液体は、キャパシタ、リチウムイオン電池などの二次電池の非水電解質材や、色素増感型太陽電池、電界効果トランジスタ、有機メモリ、有機アクチュエータなどの電子デバイス関連分野への利用が可能であり、近年、注目を集めている。
【0003】
イオン液体としては様々な化合物が知られている。その代表例としては、下記特許文献1に示されるイミダゾール系化合物が挙げられ、この化合物は、キャパシタや二次電池といった蓄電装置用の電解液としての利用に期待がもたれている。これまで、蓄電装置用の電解液としては、プロピレンカーボネート(PC)が用いられることが多かったが、このプロピレンカーボネートと上記イミダゾール系化合物とを比較すると、後者の方が、高耐熱性である(分解温度が高い)点、および非水系電解液を有する蓄電装置の電池容量アップに寄与する点で優れているといわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−515168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたイミダゾール系化合物は、五員環中に2つのN(窒素)を含み、不飽和な二重結合を有する骨格構造であるため、電気化学的にアタックを受け易い(電気化学的に安定でない)という欠点がある。このため、蓄電装置用の電解液として用いた場合に、蓄電装置の上限電圧を十分に高められないという問題がある。
【0006】
また、イミダゾール系化合物は、五員環中にCを除いてNしかないため、極性に乏しく、有機化合物を溶解するイオン液体としての能力がやや低いということも問題点として挙げられる。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、電気化学的に安定で、しかも有機化合物を溶解する能力に優れたイオン液体およびその製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、アルキル基またはメトキシアルキル基(R)がN位に置換したオキサゾリジンカチオンと、ハロゲンを含むアニオン(X-)とから構成される、下記一般式(1)で表わされるイオン液体である(請求項1)。
【0009】
【化1】

【0010】
本発明のイオン液体は、五員環中に二重結合が存在しないため、電気化学的なアタックに強く、より高い安定性を示す。また、五員環中にNだけでなくOが存在するため、極性が高く、有機化合物を溶解する能力に優れている。
【0011】
上記ハロゲンを含むアニオン(X-)の好適例としては、Br-,BF4-,PF6-,N(SO2CF32- のいずれかが挙げられる(請求項2)。
【0012】
また、本発明は、上記イオン液体を電解液として含む蓄電装置である(請求項3)。
【0013】
本発明によれば、電気化学的な安定性の高い上記イオン液体を蓄電装置用の電解液として用いることで、蓄電装置の上限電圧を高めることができ、その高容量化や、エネルギー密度の増大を図ることができる。また、上記イオン液体による有機化合物の溶解能力が高いため、リチウム塩等の塩を容易に溶かし込むことができ、あるいは溶かし込む塩の濃度を高めることができる。
【0014】
また、本発明は、イオン液体を製造する方法であって、N−メチルオキサゾリジンと、上記Rのアルキル基またはメトキシアルキル基を有するハロゲン化アルキルとを混合し、50℃以上100℃以下の温度条件下で反応させることにより、上記Rのアルキル基またはメトキシアルキル基がN位に置換したN−メチルオキサゾリジンカチオンと、ハロゲンアニオンとを有する塩化合物を得る工程と、上記塩化合物と、上記X- をカウンターアニオンとして含むアルカリ塩または酸試薬とを用いて室温下でアニオン交換反応を行う工程とを含むものである(請求項4)。
【0015】
ここで、上記50℃以上100℃以下という温度条件を設定したのは、50℃未満の場合には、反応速度が遅く、反応が完結するまでに長時間を要するため収率が低くなる傾向にある一方、100℃を超える場合には、原料もしくは生成物が一部分解するために純度が低下し、あるいは原料の沸点を超えて一部が反応系外に失われるために収率が低下するという理由からである。
【0016】
本発明の製造方法によれば、上記イオン液体を高純度、高収率で適正に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、電気化学的に安定で、しかも有機化合物を溶解する能力に優れたイオン液体およびその製造方法を提供することができる。
【0018】
また、上記イオン液体を蓄電装置用の電解液として用いることで、蓄電装置の性能を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例および比較例のイオン液体の基本物性を示す表である。
【図2】実施例および比較例のイオン液体を電解液として用いたコイン電池の評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<イオン液体>
まず、本発明の一実施形態にかかるイオン液体ついて説明する。本実施形態にかかるイオン液体は、下記一般式(1)で示されるカチオンとアニオン(X-)とから構成される。
【0021】
【化2】

【0022】
カチオンは、上記一般式(1)に示すように、オキサゾリジンを主構造とするものであり、そのN位の置換基(R)として、炭素数が5以上7以下のアルキル基;Cn2n+1(n=5〜7)、またはメチレン基の数が3以上4以下(炭素数が4以上5以下)のメトキシアルキル基;CH3O(CH2m(m=3〜4)を有している。
【0023】
アニオン(X-)は、ハロゲンを含むアニオンであり、その好適例としては、臭素アニオン(Br-),4フッ化ホウ素アニオン(BF4-),6フッ化リンアニオン(PF6-),トリフルオロメタンスルホニルアニオン(N(SO2CF32-)を挙げることができる。なお、以下では、トリフルオロメタンスルホニルアニオンの化学式;N(SO2CF32のことを、NTf2と省略表記する。
【0024】
本願発明者は、以上のような構造のイオン液体の特性として、電気化学的な安定性が高く、しかも有機化合物を溶解する能力に優れる、という性質を確認している。
【0025】
例えば、イオン液体として近年注目されているイミダゾール系化合物は、耐熱性に優れるなどの特性をもつが、五員環中に不飽和な二重結合が存在するため、電気化学的なアタックを受け易い(電気化学的に安定でない)という欠点がある。これに対し、本実施形態によるオキサゾリジン系のイオン液体は、上記一般式(1)に示したように、五員環中に二重結合が存在しないため、電気化学的なアタックに強く、より高い安定性を示すのである。
【0026】
また、イミダゾール系化合物は、五員環中にCを除いてNしかないため、極性に乏しく、有機化合物を溶解する能力がやや低かったが、本実施形態によるオキサゾリジン系のイオン液体は、五員環中にNだけでなくOが存在するため、極性が高く、有機化合物を溶解する能力がより高いという利点がある。
【0027】
このような性質を有した本実施形態のイオン液体は、例えば、キャパシタや二次電池といった蓄電装置用の電解液として好適に使用することができる。すなわち、電気化学的な安定性に優れる本実施形態のイオン液体を電解液として用いることで、蓄電装置の上限電圧を高めることができ、蓄電装置の性能をより向上させることができる。
【0028】
<実施例>
次に、上記実施形態にかかるイオン液体の具体例を、本発明の実施例として説明する。
【0029】
(i)イオン液体の製造
実施例としては、上記一般式(1)における置換基(R)およびアニオン(X-)が異なる15種類のイオン液体を製造した。その合成スキームを下記に示す。
【0030】
【化3】



【0031】
すなわち、実施例のイオン液体を合成するには、まず、N−メチルオキサゾリジン(1)を出発原料として用い、これとハロゲン化アルキル(RBr)とを混合して、70℃下で24時間撹拌する。ハロゲン化アルキルとしては、Cn2n+1(n=5〜7)で表されるアルキル基、またはCH3O(CH2m(m=3〜4)で表されるメトキシアルキル基のいずれか(R)と、ハロゲン(ここではBr)との化合物を用いた。このハロゲン化アルキル(RBr)を上記のようにN−メチルオキサゾリジン(1)と混合して撹拌することにより、上記アルキル基またはメトキシアルキル基(R)がN位に置換したN−メチルオキサゾリジンカチオンと、ハロゲンアニオン(Br-)とを有する各種塩化合物(2a〜2e)を得た。
【0032】
次いで、上記塩化合物(2a〜2e)と、目的とするカウンターアニオン(X-)を含む各種アルカリ塩または酸試薬(MX)とを用いて、室温下で24時間のアニオン交換反応を行い、これにより、各種オキサゾリジウム塩(3a〜3e,4a〜4e,5a〜5e)を合成した。なお、MXとしては、LiNTf2,HBF4,KPF6のいずれかを用いた。つまり、ここでのカウンターアニオン(X-)は、NTf2-,BF4-,PF6-のいずれかである。
【0033】
ここで、上記合成スキームのより詳細な手順を、実験項として示す。なお、各化合物の同定は、1H−NMR解析により行った。
【0034】
(ii)実験項
・臭化N-ペンチル-N-メチルオキサゾリジニウム (2a)
窒素雰囲気下、70 ℃で、N-メチル-1,3-オキサゾリジン (1) (8.0 g, 92 mmol) と1-ブロモペンタン (13.87 g, 92 mmol) とを混合して24時間加熱撹拌した。100 ℃で2時間真空乾燥を行ったのちに室温まで放冷した。得られた粗生成物を2-プロパノール-テトラヒドロフランから再結晶を行い、2aを淡黄色固体 (12.15 g, 56 %) として得た。
M.p.90-93 ℃; 1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ5.23 (2H, s), 4.52 (2H, t, J = 7.4 Hz), 4.04-4.22 (2H, m), 3.75-3.92 (2H, m), 3.47 (3H, s), 1.78-1.83 (2H, brm), 1.33-1.45 (4H, m), 0.93 (3H, t, J = 7.3 Hz).
・臭化N-ヘキシル-N-メチルオキサゾリジニウム (2b)
窒素雰囲気下、70 ℃で、N-メチル-1,3-オキサゾリジン (1) (10.0 g, 115 mmol) と1-ブロモヘキサン (18.95 g, 115 mmol) とを混合して24時間加熱撹拌した。100 ℃で2時間真空乾燥を行ったのちに室温まで放冷した。得られた粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:アセトニトリル) により精製を行った後に100 ℃で2時間真空乾燥を行い、2bを茶色液体 (19.58 g, 67 %) として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ5.22 (2H, s), 4.52 (2H, t, J = 7.4 Hz), 4.03-4.22 (2H, m), 3.74-3.90 (2H, m), 3.47 (3H, s), 1.71-1.86 (2H, brm), 1.26-1.45 (6H, m), 0.91 (3H, t, J = 7.3 Hz).
・臭化N-ヘプチル-N-メチルオキサゾリジニウム (2c)
2bと同じ方法によりN-メチル-1,3-オキサゾリジン (1) (10.0 g, 115 mmol) と1-ブロモヘプタン (20.56 g, 115 mmol) とを反応させ、2cを茶色液体 (21.35 g, 70 %) として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ5.23 (2H, s), 4.51 (2H, t, J = 7.4 Hz), 4.05-4.17 (2H, m), 3.78-3.86 (2H, m), 3.47 (3H, s), 1.73-1.86 (2H, brm), 1.21-1.45 (8H, m), 0.90 (3H, t, J = 7.0 Hz).
・臭化N-メチル-N-(3-メトキシ)プロピルオキサゾリジニウム (2d)
2aと同じ方法によりN-メチル-1,3-オキサゾリジン (1) (8.0 g, 92 mmol) と1-ブロモ-3-メトキシプロパン (14.05 g, 92 mmol) とを反応させ、2d を茶色固体(13.62 g, 62 %) として得た。
M.p.78-80℃; 1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ5.28 (1H, d, J = 5.4 Hz), 5.20 (1H, d, J = 5.4 Hz), 4.46-4.56(2H, m), 4.08-4.14 (2H, m), 3.90-3.97 (2H, m), 3.54 (2H, t, J = 5.4 Hz), 3.50 (3H, s), 3.34 (3H, s), 2.10-2.20 (2H, m).
・臭化N-メチル-N-(4-メトキシ)ブチルオキサゾリジニウム (2e)
2bと同じ方法によりN-メチル-1,3-オキサゾリジン (1) (4.17 g, 48 mmol) と 1-ブロモ-4-メトキシブタン (8.0 g, 48 mmol) とを反応させ、2eを茶色液体 (10.66 g, 87 %) として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ5.25 (1H, d, J = 5.4 Hz), 5.22 (1H, d, J = 5.4 Hz), 4.49-4.55(2H, m), 4.04-4.21 (2H, m), 3.85-3.92 (2H, m), 3.52 (3H, s), 3.51 (2H, t, J = 5.4 Hz), 3.34 (3H, s), 1.87 -1.99 (2H, m), 1.66-1.76 (2H,m).
・N-ペンチル-N-メチルオキサゾリジニウム=ビス(トリフルオロスルホニル)イミド (3a)
臭化N-ペンチル-N-メチルオキサゾリジニウム (2a) (0.30 g, 1.3 mmol) とリチウム ビス(トリフルオロスルホニル)イミド (0.36 g, 1.3 mmol) とを水 (1.4 mL) に溶解させた。室温で24時間撹拌した後に、ジクロロメタン (3×3 mL) で抽出した。有機層を水 (1×3 mL) で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を留去した後に、粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー (溶出溶媒:アセトニトリル) により精製を行った。得られた生成物を100 ℃で2時間真空乾燥を行い、3aを茶色液体 (0.39 g, 70 %) として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.82 (2H, s), 4.40 (2H, t, J = 8.0 Hz), 3.61-3.80 (2H, m), 3.33-3.47 (2H, m), 3.21 (3H, s), 1.70-1.81 (2H, brm), 1.35-1.44 (4H, m), 0.93 (3H, t, J = 7.0 Hz).
・N-ヘキシル-N-メチルオキサゾリジニウム=ビス(トリフルオロスルホニル)イミド (3b)
臭化N-ヘキシル-N-メチルオキサゾリジニウム (2b) (0.30 g, 1.2 mmol) とリチウム ビス(トリフルオロスルホニル)イミド (0.34 g, 1.2 mmol) とを水 (1.4 mL) に溶解させた。3aと同じ方法により合成を行い、3bを無色液体 (0.28 g, 52 %) として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.83 (2H, s), 4.40 (2H, t, J = 8.0 Hz), 3.65-3.82 (2H, m), 3.40-3.47 (2H, m), 3.21 (3H, s), 1.70-1.80 (2H, brm), 1.32-1.40 (6H, m), 0.91 (3H, t, J = 6.9 Hz).
・N-ヘプチル-N-メチルオキサゾリジニウム=ビス(トリフルオロスルホニル)イミド (3c)
臭化N-ヘプチル-N-メチルオキサゾリジニウム (2c) (0.30 g, 1.1 mmol) とリチウム ビス(トリフルオロスルホニル)イミド (0.32 g, 1.1 mmol) とを水 (1.4 mL) に溶解させた。3aと同じ方法により合成を行い、3cを無色液体 (0.35 g, 67 %) として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.84 (2H, s), 4.41 (2H, t, J = 7.8 Hz), 3.67-3.85 (2H, m), 3.42-3.48 (2H, m), 3.21 (3H, s), 1.70-1.83 (2H, brm), 1.24-1.42 (6H, m), 0.90 (3H, t, J = 6.8 Hz).
・N-メチル-N-(3-メトキシ)プロピルオキサゾリジニウム=ビス(トリフルオロスルホニル)イミド (3d)
臭化N-メチル-N-(3-メトキシ)プロピルオキサゾリジニウム (2d) (4.0 g, 17 mmol) とリチウム ビス(トリフルオロスルホニル)イミド (4.78 g, 17 mmol) とを水 (10 mL) に溶解させた。3aと同じ方法により合成を行い、3dを無色液体 (6.07 g, 83 %) として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.85 (2H, s), 4.39-4.45(2H, m), 3.73-3.82 (2H, m), 3.59-3.66 (2H, m), 3.50 (2H, t, J = 5.4 Hz), 3.34 (3H, s), 3.20 (3H, s), 2.00-2.11 (2H, m).
・N-メチル-N-(4-メトキシ)ブチルオキサゾリジニウム=ビス(トリフルオロスルホニル)イミド (3e)
臭化N-メチル-N-(4-メトキシ)ブチルオキサゾリジニウム (2e) (8.0 g, 32 mmol) とリチウム ビス(トリフルオロスルホニル)イミド (9.04 g, 32 mmol) とを水 (20 mL) に溶解させた。3aと同じ方法により合成を行い、3eを無色液体 (11.29 g, 70 %) として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.82 (2H, s), 4.37-4.43(2H, m), 3.69-3.77 (2H, m), 3.49 (2H, m), 3.44 (2H, t, J = 5.4 Hz), 3.38 (3H, s), 3.20 (3H, s), 1.86-2.00 (2H, m), 1.63-1.72(2H, m).
・N-ペンチル-N-メチルオキサゾリジニウム=テトラフルオロボレート (4a)
臭化N-ペンチル-N-メチルオキサゾリジニウム (2a) (0.90 g, 3.8 mmol) と50 wt% テトラフルオロホウ酸水溶液 (0.66 g, 1.3 mmol) とを水 (3 mL) に溶解させた。室温で24時間撹拌した後に、酢酸エチル (3×5 mL) で抽出した。抽出した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後に、溶媒を留去した。得られた粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィー (溶出溶媒:アセトニトリル) により精製を行った。得られた生成物を100 ℃で2時間真空乾燥を行い、4aを黄色液体 (0.61 g, 66 %) として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.89 (2H, s), 4.41 (2H, t, J = 7.8 Hz), 3.70-3.83 (2H, m), 3.38-3.53 (2H, m), 3.24 (3H, s), 1.69-1.79 (2H, brm), 1.25-1.42 (4H, m), 0.90 (3H, t, J = 6.8 Hz).
・N-ヘキシル-N-メチルオキサゾリジニウム=テトラフルオロボレート (4b)
臭化N-ヘキシル-N-メチルオキサゾリジニウム (2b) (10.0 g, 39.7 mmol) と50 wt% テトラフルオロホウ酸水溶液 (7.25 g, 39.7 mmol) とを水 (20 mL) に溶解させた。4aと同じ方法により合成を行い、4bを黄色液体 (7.23 g, 70 %) として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.89 (2H, s), 4.41 (2H, t, J = 7.8 Hz), 3.70-3.83 (2H, m), 3.38-3.53 (2H, m), 3.24 (3H, s), 1.69-1.79 (2H, brm), 1.25-1.42 (6H, m), 0.90 (3H, t, J = 6.8 Hz).
・N-ヘプチル-N-メチルオキサゾリジニウム=テトラフルオロボレート(4c)
臭化N-ヘプチル-N-メチルオキサゾリジニウム (2c) (8.0 g, 30 mmol) と50 wt% テトラフルオロホウ酸水溶液 (5.27 g, 30.0 mmol) とを水 (20 mL) に溶解させた。4aと同じ方法により合成を行い、4cを黄色液体 (4.24 g, 52 %) として得た。
1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.89 (2H, s), 4.41 (2H, t, J = 7.8 Hz), 3.70-3.83 (2H, m), 3.38-3.53 (2H, m), 3.24 (3H, s), 1.69-1.79 (2H, brm), 1.25-1.42 (8H, m), 0.90 (3H, t, J = 6.8 Hz).
・N-ペンチル-N-メチルオキサゾリジニウム=ヘキサフルオロホスフェート (5a)
臭化N-ヘプチル-N-メチルオキサゾリジニウム (2a) (0.90 g, 3.8 mmol) とカリウム ヘキサフルオロホスフェート(0.66 g, 3.8 mmol) とを水 (3 mL) に溶解させた。室温で24時間撹拌した後に、ジクロロメタン (3×3 mL) で抽出した。有機層を水 (1×3 mL) で洗浄した後に、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を留去した後、ジクロロメタン-ヘキサンから再結晶を行うことにより、5aを淡黄色固体 (0.61 g, 66 %) として得た。
M.p.94-96 ℃; 1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.82 (2H, s), 4.42 (2H, t, J = 8.6 Hz), 3.70-3.77 (2H, m), 3.42-3.50 (2H, m), 3.21 (3H, s), 1.70-1.83 (2H, brm), 1.36-1.42 (4H, m), 0.92 (3H, t, J = 7.0 Hz).
・N-ヘキシル-N-メチルオキサゾリジニウム=ヘキサフルオロホスフェート (5b)
臭化N-ヘキシル-N-メチルオキサゾリジニウム (2b) (0.30 g, 1.2 mmol) とカリウム ヘキサフルオロホスフェート(0.22 g, 1.2 mmol) を水 (3 mL) に溶解させた。5aと同じ方法により合成を行い、5bを白色固体 (0.25 g, 67 %) として得た。
M.p.67-70 ℃; 1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.81 (2H, s), 4.41 (2H, t, J = 7.1 Hz), 3.69-3.80 (2H, m), 3.40-3.52 (2H, m), 3.20 (3H, s), 1.69-1.82 (2H, brm), 1.32-1.45 (6H, m), 0.91 (3H, t, J = 7.0 Hz).
・N-ヘプチル-N-メチルオキサゾリジニウム=ヘキサフルオロホスフェート (5c)
臭化N-ヘプチル-N-メチルオキサゾリジニウム (2c) (0.30 g, 1.1 mmol) とカリウム ヘキサフルオロホスフェート(0.21 g, 1.1 mmol) を水 (3 mL) に溶解させた。5aと同じ方法により合成を行い、5cを白色固体 (0.20 g, 54 %) として得た。
M.p.67-70 ℃; 1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.80 (2H, s), 4.39 (2H, t, J = 7.1 Hz), 3.69-3.80 (2H, m), 3.38-3.50 (2H, m), 3.20 (3H, s), 1.69-1.82 (2H, brm), 1.25-1.42 (8H, m), 0.90 (3H, t, J = 6.8 Hz).
・N-メチル-N-(3-メトキシ)プロピルオキサゾリジニウム=ヘキサフルオロホスフェート (5d)
臭化N-メチル-N-(3-メトキシ)プロピルオキサゾリジニウム (2d) (4.0 g, 17 mmol) とカリウム ヘキサフルオロホスフェート (3.01 g, 17 mmol) を水 (20 mL) に溶解させた。5aと同じ方法により合成を行い、5dを白色固体 (2.49 g, 49%) として得た。
M.p.45-47 ℃; 1H-NMR (270 MHz, CDCl3, TMS) δ4.85 (2H, s), 4.39-4.45(2H, m), 3.73-3.82 (2H, m), 3.59-3.66 (2H, m), 3.50 (2H, t, J = 5.4 Hz), 3.34 (3H, s), 3.20 (3H, s), 2.00-2.11 (2H, m).
【0035】
(iii)各イオン液体の特性
上述した合成スキームにより得られる各種オキサゾリジウム塩(3a〜3e,4a〜4e,5a〜5e)のうち、NTf2-(=N(SO2CF32-)をアニオンとする5種類の塩、つまり、N−ペンチル−N−メチルオキサゾリジニウム=ビス(トリフルオロスルホニル)イミド(3a)、N−ヘキシル−N−メチルオキサゾリジニウム=ビス(トリフルオロスルホニル)イミド(3b)、N−ヘプチル−N−メチルオキサゾリジニウム=ビス(トリフルオロスルホニル)イミド(3c)、N−メチル−N−(3−メトキシ)プロピルオキサゾリジニウム=ビス(トリフルオロスルホニル)イミド(3d)、およびN−メチル−N−(4−メトキシ)ブチルオキサゾリジニウム=ビス(トリフルオロスルホニル)イミド(3e)を、それぞれ実施例1〜5のイオン液体として、これら各実施例に対し、還元分解電位、酸化分解電位、電位窓、および熱分解温度(Td)を測定する実験を行った。
【0036】
なお、還元(酸化)分解電位とは、ある化合物の還元(酸化)反応の際に発生する電位差(V)であり、その絶対値が大きいほど、化合物が還元(酸化)され難いということになる。電位窓とは、上記還元分解電位と酸化分解電位との差(絶対値の合計)である。熱分解温度(Td)とは、市販の熱重量/示差熱分析装置(TG/DTA)を用いて測定した熱分解の開始温度(℃)のことである。
【0037】
上記実施例1〜5と比較するための比較例には、従来からあるイオン液体として、イミダゾール系イオン液体(比較例1)、およびプロピレンカーボネート(比較例2)を用いた。なお、比較例1のイミダゾール系イオン液体の化合物名称は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムミダゾールテトラフルオロボレートであり、比較例2のプロピレンカーボネートの化合物名称は、プリピレンカーボネート/テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートである。
【0038】
上記各実施例および比較例を用いて還元分解電位、酸化分解電位、電位窓、および熱分解温度(Td)を測定した結果を図1に示す。なお、還元分解電位、および酸化分解電位の基準は、Ag/AgCl=0Vとしたものである。この図1に示すように、実施例1〜5のイオン液体は、そのいずれにおいても、還元分解電位および酸化分解電位の絶対値が、比較例1,2(イミダゾール系イオン液体およびプロピレンカーボネート)と比べて大きくなっており、結果として、電位窓の値にかなりの上昇が見られる。すなわち、実施例1〜5のイオン液体は、比較例1,2と比べて、酸化・還元され難く、電気化学的な安定性に優れていることが分かった。
【0039】
また、熱分解温度(Td)については、実施例1〜4の熱分解温度が、比較例1,2と比べていずれも高く、優れた耐熱性を示している。また、実施例5については、比較例1(イミダゾール系イオン液体)と比べた場合には、熱分解温度が若干低下しているが、比較例2(プロピレンカーボネート)と比べた場合には、熱分解温度が大幅に上昇しており、十分な耐熱性の向上が見られる。
【0040】
以上のように、実施例1〜5のイオン液体は、比較例1,2と比べて電気化学的な安定性に優れており、しかも、耐熱性についても十分な性能を有することが分かった。
【0041】
なお、図1の実験では、NTf2-をアニオンとする5種類のオキサゾリジウム塩(3a〜3e)を実施例1〜5として、還元分解電位、酸化分解電位、電位窓、および熱分解温度(Td)の測定を行ったが、BF4-,PF6-をアニオンとする他のオキサゾリジウム塩(4a〜4e,5a〜5e)についても、電気化学的な特徴は共通しており、図1と同様の結果が得られるものと考えられる。
【0042】
(iv)蓄電装置に使用した場合の特性
次に、実施例のイオン液体を、蓄電装置用の電解液として用いた場合に、その蓄電装置にどの程度の性能の向上が見られるかを確認する実験を行った。この実験では、蓄電装置として、型式:CR2032のコイン電池を用い、このコイン電池の電解液として、実施例2,3のイオン液体(3b,3c)を使用した。なお、CR2032のコイン電池における正極および負極は、ともに活性炭(クレハ製)である。
【0043】
上記のようなコイン電池を用いて、その上限電圧(V)、初期放電容量(mAh/g)、エネルギー密度(Wh/kg)を測定した。上限電圧とは、電解液が分解し始める電圧のことであり、その測定は、コイン電池に加える電圧を徐々に高め、充電カーブの傾きが変わったときの電圧を特定することで行った。また、測定された上限電圧まで充電した後、初期放電容量を測定した。具体的には、1mAの定電流で上限電圧まで充電した後、1mAの定電流で0Vまで放電し、1サイクル目の放電容量を初期放電容量として測定した。エネルギー密度は、重量あたりに得られるエネルギーのことであり、1/2×(初期放電容量)×(上限電圧)2÷(コイン電池の重量)により得られる。なお、今回の実験で用いたCR2032のコイン電池の重量は、4gである。
【0044】
上記実験の測定結果を図2に示す。図2では、実施例2,3のイオン液体を電解液として用いたコイン電池に対し、上記上限電圧、初期放電容量、エネルギー密度の測定を行うとともに、比較例1,2(イミダゾール系イオン液体およびプロピレンカーボネート)のイオン液体を用いたコイン電池についても同様の測定を行った。
【0045】
図2によれば、コイン電池用の電解液として実施例2,3のイオン液体を用いた場合には、比較例1,2のイオン液体を用いた場合と比較して、上限電圧、放電容量、エネルギー密度の全ての値が上昇していることが分かる。特に、エネルギー密度については、現在の主流であるプロピレンカーボネート(比較例2)を用いた場合と比較して、約3.5倍のエネルギー密度が得られており、イミダゾール系イオン液体(比較例1)と比較しても、2倍以上のエネルギー密度が得られていることが分かる。
【0046】
すなわち、実施例2,3のイオン液体は、図1に示したように、比較例1,2のイオン液体と比べて電位窓の値がかなり大きく、電気化学的な安定性により優れているため、このような実施例2,3のイオン液体を電解液として用いることで、コイン電池の作動電圧(上限電圧)が上昇し、その結果、電池の高容量化、およびエネルギー密度の大幅な上昇が得られたものと考えられる。
【0047】
なお、図2では、実施例2,3のイオン液体(3b,3c)を電解液として用いたコイン電池に対し上限電圧、放電容量、エネルギー密度の測定を行ったが、図1の結果からすれば、他の実施例1,4,5のイオン液体(3a,3d,3e)を電解液として用いた場合にも、当然に、図2と同様の性能改善が得られるものと考えられ、さらに、これ以外の実施例にかかるオキサゾリジウム塩(4a〜4e,5a〜5e)を用いた場合にも、同様の結果が得られるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基またはメトキシアルキル基(R)がN位に置換したオキサゾリジンカチオンと、ハロゲンを含むアニオン(X-)とから構成される、下記一般式(1)で表わされるイオン液体。
【化1】

【請求項2】
上記ハロゲンを含むアニオン(X-)が、Br-,BF4-,PF6-,N(SO2CF32- のいずれかであることを特徴とする請求項1記載のイオン液体。
【請求項3】
請求項1または2記載のイオン液体を電解液として含む蓄電装置。
【請求項4】
請求項1記載のイオン液体を製造する方法であって、
N−メチルオキサゾリジンと、上記Rのアルキル基またはメトキシアルキル基を有するハロゲン化アルキルとを混合し、50℃以上100℃以下の温度条件下で反応させることにより、上記Rのアルキル基またはメトキシアルキル基がN位に置換したN−メチルオキサゾリジンカチオンと、ハロゲンアニオンとを有する塩化合物を得る工程と、
上記塩化合物と、上記X- をカウンターアニオンとして含むアルカリ塩または酸試薬とを用いて室温下でアニオン交換反応を行う工程とを含むことを特徴とするイオン液体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236161(P2011−236161A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109449(P2010−109449)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】