説明

イオン液体を用いる甲殻類の甲殻又は貝類の貝殻からのキチンの製造方法

【課題】単純な工程で甲殻類の甲殻又は貝類の貝殻から高純度のキチンを製造することができるキチンの製造方法を提供する。
【解決手段】キチン及び無機塩を含有する甲殻又は貝殻と式I:


[式中、
R1は、C1〜C4アルキルであり、
R2は、C1〜C4アルキル又はC2〜C4アルケニルであり、
Xは、ハロゲンである。]
で表されるイオン液体とを接触させてキチンを抽出するキチン抽出工程;及び
キチン抽出工程で得られたキチンを含有する抽出物とキレート剤とを接触させて、該抽出物から無機塩を除去する無機塩除去工程;
を含む、キチンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体を用いる甲殻類の甲殻又は貝類の貝殻からのキチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キチンは、N-アセチル-D-グルコサミンがβ-1,4-グリコシド結合により重合した構造を有する天然グルカンである。天然に存在するキチンの平均分子量は、105〜106程度と言われている。
【0003】
キチンの加水分解物であるN-アセチル-D-グルコサミンは、健康食品として市販されている。また、キチンの脱アセチル化物であるキトサンは、第一級アミノ基を有するカチオン性多糖であることから、アミノ基及び糖鎖骨格の水酸基を利用した機能性材料として、金属吸着剤等の様々な用途が提案されている(特許文献1)。このため、N-アセチル-D-グルコサミン及びキトサンの原料となるキチンの需要も高まっている。
【0004】
キチンは、節足動物の外皮、特に甲殻類の甲殻、軟体動物、特に貝類の貝殻、並びに真菌(カビ)及び担子菌(キノコ)の細胞壁の構成成分であり、セルロースに次いで豊富な天然物である。このため、キチンは専らこれらの生物材料から単離することによって製造されている。一方で、甲殻類の甲殻及び貝類の貝殻等は、漁業又は食品加工業の現場で大量に排出されるバイオマス廃棄物でもある。環境保護意識の高まりによって廃棄物の海洋投棄ができなくなった現在では、上記のようなバイオマス廃棄物の処理技術や有効利用技術の開発も急を要する課題となっている。
【0005】
甲殻類の甲殻及び貝類の貝殻には、約9〜17%のキチンが含まれている他、タンパク質及び炭酸カルシウム(CaCO3)等の無機塩が大量に含まれている。このため、甲殻類の甲殻又は貝類の貝殻からキチンを製造するためには、これらの夾雑物からキチンを精製・単離する必要がある。甲殻からキチンを製造する方法として、通常、甲殻を塩酸処理して無機塩を除去し、次いで水酸化ナトリウム水溶液でタンパク質を加水分解する方法が行われている(非特許文献1)。しかしながら、この方法は、工程が煩雑であり、且つ強酸及び強塩基を用いるためβ-1,4-グリコシド結合の加水分解及び脱アセチル化が進行するという問題が存在した。
【0006】
本発明者は、イオン液体の一種である臭化 1-アリル-3-メチルイミダゾリウム(AMIMBr)が、キチンに対し優れた溶解性を有することを見出した(非特許文献2)。イオン液体は、アニオンとカチオンとからなる常温で液体の塩であり、蒸気圧が極めて低い特徴を有する。特許文献2〜4は、ハロゲン化イミダゾリウムのイオン液体を含有する溶媒を用いて甲殻類の甲殻からキチンを製造する方法を記載する。非特許文献3は、イオン液体の1-エチル-3-メチルイミダゾリウム酢酸塩を用いて甲殻類の甲殻からキチンを製造する方法を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-255302号公報
【特許文献2】特開2008-248217号公報
【特許文献3】特開2009-179913号公報
【特許文献4】特開2010-104768号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】キチン、キトサン研究会、キチン、キトサンハンドブック、1995年, p. 1-30
【非特許文献2】Prasad, K.ら, Int. J. Biol. Macromol., 2009年, 第45巻, p。181-189
【非特許文献3】Qin, Y. ら,Green Chem., 2010年,第12巻,p. 968-971
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
甲殻類の甲殻又は貝類の貝殻からキチンを製造する場合、塩酸及び水酸化ナトリウムを用いる方法は、工程が煩雑であり、且つ強酸及び強塩基を用いるためβ-1,4-グリコシド結合の加水分解及び脱アセチル化が進行するという問題が存在した。一方、本発明者が開発したイオン液体(非特許文献2及び特許文献2〜4)は、穏和な条件でキチンを溶解するため加水分解及び脱アセチル化の進行を抑制することができる。しかしながら、このイオン液体を用いる甲殻類の甲殻又は貝類の貝殻からのキチンの抽出では、甲殻及び貝殻に多量に含まれるCaCO3等の無機塩の混入が予想され、高純度のキチンを製造する方法は確立されていなかった。また、非特許文献3に記載の方法では、甲殻類の甲殻がエビ殻に限定されており、且つ使用されるイオン液体が非特許文献2及び特許文献2〜4に記載のハロゲン化イミダゾリウムと比較して特殊な化合物であるという問題が存在した。
【0010】
それ故、本発明は、単純な工程で甲殻類の甲殻又は貝類の貝殻から高純度のキチンを製造することができるキチンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、甲殻又は貝殻からイオン液体を用いてキチンを抽出した後、キレート剤で処理することにより、キチン抽出物中に含まれるCaCO3等の無機塩を効率的に除去して高純度のキチンを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) キチン及び無機塩を含有する甲殻又は貝殻と式I:
【化1】

[式中、
R1は、C1〜C4アルキルであり、
R2は、C1〜C4アルキル又はC2〜C4アルケニルであり、
Xは、ハロゲンである。]
で表されるイオン液体とを接触させてキチンを抽出するキチン抽出工程;及び
キチン抽出工程で得られたキチンを含有する抽出物とキレート剤とを接触させて、該抽出物から無機塩を除去する無機塩除去工程;
を含む、キチンの製造方法。
(2) キレート剤が、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸及びニトリロ三酢酸から選択される、前記(1)の方法。
(3) キチン抽出工程において、80〜120℃の範囲の温度で6〜48時間キチンを抽出する、前記(1)又は(2)の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、単純な工程で甲殻類の甲殻又は貝類の貝殻から高純度のキチンを製造することができるキチンの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の方法で得られたキチンのX線粉末回折(XRD)スペクトルを示す図である。A:試料1のXRDスペクトル;B:試料2のXRDスペクトル;C:市販のキチンのXRDスペクトル。
【図2】本発明の方法で得られたキチンの赤外吸収(IR)スペクトルを示す図である。A:試料2のIRスペクトル;B:市販のキチンのIRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、キチンの製造方法に関する。以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0016】
<1. キチン抽出工程>
本発明の方法は、キチン及び無機塩を含有する甲殻又は貝殻とイオン液体とを接触させてキチンを抽出するキチン抽出工程を含む。
【0017】
本明細書において、「甲殻類」は、甲殻を有する節足動物を意味し、「甲殻」は、甲羅状の外皮を意味する。また、本明細書において、「貝類」は、貝殻を有する軟体動物を意味し、「貝殻」は、動物体(軟体部)の周囲に形成された動物体を保護する甲羅状の器官を意味する。本工程において使用される甲殻は、エビ及びカニからなる群より選択される甲殻類の甲殻であることが好ましい。また、本工程において使用される貝殻は、ホタテガイの貝殻であることが好ましい。上記の甲殻及び貝殻は、キチン、タンパク質及び炭酸カルシウム(CaCO3)のような無機塩を主成分として含有する。それ故、上記の甲殻又は貝殻をキチン源として用いることにより、高収量でキチンを製造することが可能となる。
【0018】
本明細書において、「イオン液体」は、アニオンとカチオンとからなる常温で液体の塩を意味する。イオン液体は、蒸気圧が極めて低いため不揮発性であるという特徴を有する。本発明者は、特定のイオン液体が、セルロース及びキチンのような難溶性の多糖類を溶解させ得ることを見出した(特許文献2〜4、非特許文献2)。それ故、本工程において使用されるイオン液体は、式I:
【化2】

で表されるハロゲン化イミダゾリウムであることが好ましい。
【0019】
本明細書において、「アルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、「C1〜C4アルキル」は、少なくとも1個且つ多くても4個の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の炭化水素鎖を意味する。好適なアルキルは、限定するものではないが、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル及びtert-ブチルを挙げることが出来る。
【0020】
本明細書において、「アルケニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。好適なアルケニルは、限定するものではないが、例えばビニル、1-プロペニル、アリル、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-メチル-1-プロペニル及び2-メチル-1-プロペニルを挙げることが出来る。
【0021】
式Iで表される化合物において、R1は、C1〜C4アルキル及びC2〜C4アルケニルからなる群より選択されることが好ましく、C1〜C4アルキルであることがより好ましく、メチル又はエチルであることが特に好ましい。
【0022】
式Iで表される化合物において、R2は、C1〜C4アルキル及びC2〜C4アルケニルからなる群より選択されることが好ましく、C1〜C4アルキル又はアリルであることがより好ましく、アリルであることが特に好ましい。
【0023】
式Iで表される化合物において、Xはハロゲンを意味する。Xは、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群より選択されることが好ましく、臭素であることがより好ましい。
【0024】
式Iで表される化合物において、R1がC1〜C4アルキルであり、R2がC1〜C4アルキル又はC2〜C4アルケニルであり、Xがハロゲンであることが特に好ましい。
【0025】
特に好ましくは、式Iで表される化合物は、臭化 1-アリル-3-メチルイミダゾリウム (AMIMBr)、又は臭化 1-エチル-3-メチルイミダゾリウムである。
【0026】
本工程において、上記のイオン液体は、単独で用いてもよく、2以上のイオン液体を含有するイオン液体混合物の形態で用いてもよく、1又は複数のイオン液体と1又は複数の溶媒とを含有する溶媒混合物の形態で用いてもよい。いずれの形態であっても本工程の「イオン液体」に包含するものとする。ここで、溶媒混合物を形成し得る溶媒は、限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N,-ジメチルホルムアミド及び1-メチル-2-ピロリドンを挙げることができる。しかしながら、本工程において使用されるイオン液体は、単独の形態で用いることが好ましい。上記のイオン液体を用いることにより、甲殻及び貝殻に含まれるキチンを効率的に溶解させることが可能となる。
【0027】
本工程において、甲殻又は貝殻とイオン液体との重量比は、1:2〜1:100の範囲であることが好ましく、1:5〜1:20であることがより好ましい。上記の重量比で甲殻又は貝殻とイオン液体とを接触させることにより、抽出物から無機塩を除去することが可能となる。
【0028】
本工程において、キチンを抽出する温度は、80〜120℃の範囲であることが好ましく、80〜100℃の範囲であることがより好ましい。また、キチンを抽出する時間は、6〜48時間の範囲であることが好ましく、6〜24時間の範囲であることがより好ましい。
【0029】
上記の条件で本工程を実施することにより、甲殻又は貝殻から効率的にキチンを抽出することが可能となる。
【0030】
<2. 無機塩除去工程>
本発明の方法は、キチン抽出工程で得られたキチンを含有する抽出物とキレート剤とを接触させて、該抽出物から無機塩を除去する無機塩除去工程を含む。キチン抽出工程で得られる抽出物は、キチンだけでなく、甲殻及び貝殻に多量に含まれる無機塩も含有する。ここで、抽出物に含有され得る無機塩としては、炭酸カルシウム(CaCO3)のような金属イオン塩を挙げることができる。上記の無機塩は一般に不溶性であるため、遠心分離及び濾過のような通常の分離手段ではキチンと一緒に挙動し、容易に分離することはできない。また、強酸処理によって無機塩を可溶化させると、β-1,4-グリコシド結合の加水分解及び脱アセチル化が進行してキチンの収率低下を招く。
【0031】
本発明者は、キチン抽出工程で得られるキチンを含有する抽出物をキレート剤であるクエン酸水溶液に加えると、金属イオンがキレートされて錯体イオンの形態で可溶化するため、再沈殿するキチンと容易に分離できることを見出した。また、本発明者は、この方法で得られたキチンは、無機塩だけでなく、タンパク質の含有量も低いことを見出した。それ故、本工程を実施することにより、高純度のキチンを製造することが可能となる。
【0032】
本工程において使用されるキレート剤は特に限定されず、Ca2+のような金属イオンをキレートし得る通常のキレート剤を使用することができる。具体的には、本工程において使用されるキレート剤は、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸又はニトリロ三酢酸であることが好ましく、クエン酸であることがより好ましい。クエン酸は、食品添加物としても慣用されている安価な化合物であり、甲殻及び貝殻に特に多く含まれるCa2+と選択的にキレート結合することから特に好ましい。
【0033】
本工程は、水又は水と水混和性溶媒との混合溶媒中で、キチン抽出工程で得られるキチンを含有する抽出物とキレート剤とを接触させることによって実施されることが好ましい。本工程において使用される水混和性溶媒は、メタノール、エタノール、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N,-ジメチルホルムアミド又は1-メチル-2-ピロリドンであることが好ましい。水と水混和性溶媒との混合比は、10:1〜1000:1の範囲であることが好ましく、100:1〜1000:1であることがより好ましい。本工程は、水中で、キチン抽出工程で得られるキチンを含有する抽出物とキレート剤とを接触させることによって実施されることが特に好ましい。水又は上記の混合溶媒中で抽出物とキレート剤とを接触させることにより、無機塩に由来する金属イオンを水又は混合溶媒中に可溶化させて、キチンと分離することが可能となる。
【0034】
本工程において、抽出物とキレート剤との重量比は、抽出物の総重量に基づく場合、1:1〜1:50の範囲であることが好ましく、1:5〜1:10であることがより好ましい。また、抽出物に含まれるキチンの重量に基づく場合、1:10〜1:500の範囲であることが好ましく、1:50〜1:100であることがより好ましい。上記の重量比でキチン抽出物とキレート剤とを接触させることにより、高純度のキチンを得ることが可能となる。
【0035】
本工程において、抽出物とキレート剤とを接触させる温度は、10〜50℃の範囲であることが好ましく、20〜30℃の範囲であることがより好ましい。また、抽出物とキレート剤とを接触させる時間は、1〜24時間の範囲であることが好ましく、3〜10時間の範囲であることがより好ましい。
【0036】
抽出物とキレート剤とを接触させることにより得られるキチンは、例えば濾過又は遠心分離のような慣用の手段によって反応混合物から分離し、所望により水を用いて洗浄することが出来る。
上記の条件で本工程を実施することにより、高純度のキチンを製造することが可能となる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0038】
<実施例1>
[キチンの直接抽出精製]
カニ殻として、肥料用に市販されている乾燥カニ殻(有限会社たまごや製)を用いた。カニ殻を水で煮沸処理した後、ふるいで選別して、約3〜5 mm角のカニ殻の小片を得た。2.0 gのカニ殻の小片を、20.0 gの臭化 1-アリル-3-メチルイミダゾリウム (AMIMBr)に加え、100℃で24時間加熱撹拌してキチンを抽出した。その後、得られた反応液を遠心分離して粗キチン(試料1-1)を含む上清を得た。この上清を、500 mlの1.5重量/体積%クエン酸水溶液に加えて、室温で3時間撹拌してキチンの再沈殿と無機塩の除去(脱灰)を行った。得られた沈殿物を濾別し、水で洗浄した後、乾燥させて、0.22 gのキチン(試料1-2)を得た(収率(重量比):約11%)。
【0039】
[キチンの同定]
得られた試料1-1及び1-2を、X線粉末回折(XRD)によって解析した。結果を図1に示す。
図1に示すように、試料1-1のXRDスペクトル(A)には、キチン由来の回折ピーク(スペクトルC)が僅かに観測されたものの、CaCO3に由来する2θ=30°以上の回折ピークがより強く観測された。このことから、AMIMBrによる抽出でカニ殻から粗キチンを得ることはできるが、この粗キチンにはカニ殻に多く含まれるCaCO3が多量に混入していることが明らかとなった。
【0040】
これに対し、クエン酸水溶液による脱灰後の試料1-2のXRDスペクトル(B)では、CaCO3に由来する2θ=30°以上の回折ピークが消失し、キチン由来の回折ピーク(スペクトルC)が強く観測された。このことから、試料1-1を含む上清にクエン酸水溶液を加えて脱灰すると、CaCO3のような無機塩が除去され、高純度のキチンを得られることが明らかとなった。
【0041】
[脱アセチル化度の決定]
得られた試料1-2を、赤外吸収分光法(IR)によって解析した。結果を図2に示す。
図2に示すように、試料1-2のIRスペクトル(A)は、市販キチンのIRスペクトル(B)と同様のスペクトルパターンを示し、試料1-2が高純度キチンであることが確認された。
【0042】
ここで、見矢らの方法(見矢勝、岩本令吉、太田浩二、美馬精一、高分子論文集、1985年、第42巻、p. 181-189)にしたがい、キチンの脱アセチル化度を算出した。図2のスペクトルAにおいて、アミドのN-H変角に由来する1554 cm-1の吸収ピークと、アミン又はアミドのC-N伸縮に由来する897 cm-1の吸収ピークとのピーク面積比から、試料1-2のキチンの脱アセチル化度を5%未満と決定した。
【0043】
[タンパク質含有量の決定]
得られた試料1-2のタンパク質含有量を、Lowryらの方法(Lowry, O.H.ら、J. Biol. Chem., 1951年, 第193巻, p. 265-275)にしたがって決定した。1.0 gの試料1-2に200 mlの5重量/体積%水酸化ナトリウム水溶液を加え、95℃で2.5時間撹拌した。その後、遠心分離して上清を得た。1.0 mlの上清に、5 mlの試薬A(2%NaCOを含有する0.10 N NaOH水溶液と0.5% CuSO4・5H2Oを含有する1%酒石酸ナトリウム水溶液との45:5混合液)を加え、10分間静置した。次いで、0.5 mlの1Nフォーリン試薬を加え、30分間静置した後、750 nmの吸光度を測定した。得られた吸光度を検量線に当てはめ、タンパク質含有量を決定した。その結果、試料1-2のタンパク質含有量はその総重量に対して0.1重量%未満であることが明らかとなった。
【0044】
[重量平均分子量の決定]
Martinらの方法(Martin, P.ら、Carbohydr. Polym., 2002年, 第50巻, p. 363-370)にしたがい、粘度法により重量平均分子量を決定した。0.002 g, 0.004 g及び0.006 gの試料1-2をそれぞれ10 mlの5重量%ジメチルアセトアミド(DMAc)/LiCl溶液に溶解させ、室温で6時間撹拌した後、粘度を測定した。得られた粘度をMark-Houwink-桜田の式に適用し、重量平均分子量を算出した。その結果、重量平均分子量Mwを、3.0×105と決定した。
【0045】
<実施例2>
実施例1のキチンの直接抽出精製手順において、AMIMBrを加えてキチンを抽出する時間を変化させた他は上記と同様の条件で、カニ殻からキチンを抽出精製した。得られたキチンの脱アセチル化度及び重量平均分子量Mwを、実施例1と同様の方法で決定した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、抽出時間を長くするにしたがってキチンの収率は向上したが、脱アセチル化度及び重量平均分子量は同一又は略同一の値を示した。また、試料2-1〜2-5のキチンの脱アセチル化度及び重量平均分子量は、比較例の市販キチンの値と良く一致した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の方法により、単純な工程で甲殻類の甲殻又は貝類の貝殻から高純度のキチンを製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチン及び無機塩を含有する甲殻又は貝殻と式I:
【化1】

[式中、
R1は、C1〜C4アルキルであり、
R2は、C1〜C4アルキル又はC2〜C4アルケニルであり、
Xは、ハロゲンである。]
で表されるイオン液体とを接触させてキチンを抽出するキチン抽出工程;及び
キチン抽出工程で得られたキチンを含有する抽出物とキレート剤とを接触させて、該抽出物から無機塩を除去する無機塩除去工程;
を含む、キチンの製造方法。
【請求項2】
キレート剤が、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸及びニトリロ三酢酸から選択される、請求項1の方法。
【請求項3】
キチン抽出工程において、80〜100℃の範囲の温度で6〜24時間キチンを抽出する、請求項1又は2の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−219260(P2012−219260A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90169(P2011−90169)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】