説明

イオン液体内包物集合体及びその製造方法

【課題】優れたイオン伝導性を示すとともに、イオン液体を化学的ないし物理的に安定化し得るイオン伝導体を得る。
【解決手段】イオン液体16を、該イオン液体16の融点以上の温度で分散媒中に分散して第1のエマルジョンを調製する。次に、前記第1のエマルジョンから前記イオン液体16の固化物を粒子として得、さらに、前記粒子の表面に第1の被包材18を形成する。同様にして、イオン液体20から第2のエマルジョンを調製した後、前記第1のエマルジョンから前記イオン液体20の固化物を粒子として得、さらに、前記粒子の表面に第2の被包材22を形成する。そして、第1の被包材18の第1の高分子と、第2の被包材22の第2の高分子とを相互反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子からなる被包材にイオン液体を内包したイオン液体内包物集合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体は、例えば、プロトン(H+)やリチウムイオン(Li+)等の各種のイオンを伝導する特性を示す液体として知られている。さらに、その蒸気圧が測定下限値を下回るとともに、凝固温度が低い性質を併せ持つ。換言すれば、殆ど揮発せず、且つ寒冷地であっても固相に変化し難い。従って、広範囲の温度域にわたって優れたイオン伝導体となり得る。このため、イオン液体は、燃料電池、二次電池、キャパシタ、色素増感型太陽電池等の各種デバイスの好適な電解質となり得る。
【0003】
しかしながら、電解質が液体である場合、上記したデバイスが何らかの理由で破損したり、デバイスに振動が加わることでシール機能が劣化したりしたときに電解質が漏洩してしまうことが懸念される。
【0004】
この懸念を払拭するには、非特許文献1に記載されているように、イオン液体をゲル化してイオンゲルとすることが有効であるとも考えられる。この場合、イオン液体は、高分子が形成するネットワークの中に取り込まれることで該高分子と相溶化し、これにより弾力性を示す固相(すなわち、イオンゲル)となる。このような固相のイオンゲルを電解質として採用した場合、仮にデバイスが破損したとしても、電解質が固相であるために漏洩することが回避される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】シロウ・セキ(Shiro Seki)ら著、「ジャーナル・オブ・フィジックスケミカルビー(J. Phys. Chem. B)」 2005年発行 第109巻第9号 第3886頁〜第3892頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イオンゲルに含まれる高分子のネットワークは、イオン伝導性を示さない。従って、イオンゲル中の高分子が多くなるほど該イオンゲルのイオン伝導性が低下する。しかしながら、高分子を少なくすると、固相を保つことが困難となる。
【0007】
しかも、イオンゲルを得るためには、高分子として、イオン液体に溶解するものを選定しなければならないが、そのためにイオン液体の運動性が阻害され、その結果、イオン液体に比してイオン伝導性等の諸機能が低下するという不具合が顕在化している。
【0008】
また、前記高分子がなすネットワークにおける1つの網目のサイズは、イオン液体の分子のサイズに比して著しく大きい。このため、イオンゲルにおけるイオン液体の保持力はさほど大きくはない。従って、イオンゲルが、イオン液体と親和性の高い物質に接触した場合、イオン液体がイオンゲルから前記物質に移動する。すなわち、イオン液体がインゲルから流出してしまう。
【0009】
例えば、プロトン伝導性を示すイオンゲルを燃料電池の電解質とした場合、燃料電池では、発電反応によって電解質と電極との界面に水が生成する。一方、プロトン伝導性を示すイオン液体は概して親水性が大きく、このため、電解質に含まれるイオン液体が反応生成物である水に移動する可能性がある。水は燃料電池の外部に排出されるので、イオン液体が水に移動している場合、該イオン液体も同時に排出されることになる。従って、このような事態が生じると、プロトン伝導性が低下するという不具合を招く。
【0010】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、優れたイオン伝導性を示すとともに、イオン液体を良好に保持し得るイオン液体内包物集合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、第1の高分子からなる第1の被包材にイオン液体又はその固化物を内包した第1のイオン液体内包粒体と、第2の高分子からなる第2の被包材にイオン液体又はその固化物を内包した第2のイオン液体内包粒体とが集合して形成されるイオン液体内包物集合体であって、
互いに隣接する前記第1のイオン液体内包粒体の前記第1の被包材と、前記第2のイオン液体内包粒体の前記第2の被包材とが化学的に結合して反応生成物を形成していることを特徴とする。
【0012】
なお、被包材に内包されたものがイオン液体であるか、又はその固化物であるかは、イオン液体の融点や、イオン液体内包物集合体の使用温度に応じて変化する。例えば、室温ではイオン液体の固化物が内包されていたとしても、イオン液体内包粒物集合体が前記イオン液体の融点以上の環境下で使用されるとき、使用状況下で被包材に内包されているのはイオン液体である。また、融点が10℃付近であるイオン液体を内包している場合、室温であっても、液相のイオン液体が内包されることになる。
【0013】
このような構成においては、イオン液体又はその固化物が2つの被包材、ないしはこれらの被包材の反応生成物によって遮蔽される。従って、イオン液体内包物集合体が、イオン液体と親和性が高い物質に接触したときであっても、イオン液体内包粒体に含まれるイオン液体が前記物質に移動することが防止される。換言すれば、イオン液体が物理的又は化学的に安定となり、イオン液体内包粒体、ひいてはイオン液体内包物集合体に強力に保持される。
【0014】
すなわち、本発明によれば、イオン液体が流出ないし漏洩することが有効に防止される。このため、例えば、イオン液体内包物集合体を電解質とした場合、イオン液体の量が低減することに起因して該電解質のイオン伝導性が低下することを回避することができる。従って、燃料電池等の電気的特性を長時間にわたって維持することが容易である。
【0015】
しかも、このイオン液体内包物集合体は可塑性に富む。このため、デバイスの形状に応じて所望の形状とすることが可能である。
【0016】
なお、高分子からなる被包材はイオン伝導性を示さないものの、その厚みが僅かであるので、内包するイオン液体のイオン伝導性を妨げることが回避される。すなわち、イオン液体内包物集合体としたことに伴ってイオン伝導性が著しく低減されることはない。
【0017】
上記した第1の高分子及び第2の高分子の好適な例としては、反応性官能基を有するものが挙げられる。この場合、介在物は、第1の高分子と第2の高分子とが、前記反応性官能基同士を介する架橋反応を起こすことで生成する。
【0018】
第1のイオン液体内包粒体及び第2のイオン液体内包粒体の粒径は、1nm〜1mmの範囲内であることが好ましい。なお、粒径は、走査型電子顕微鏡で二次元平面として視認される粒体(概ね楕円形状か真円形状)の長径と短径の平均値として定義される。
【0019】
粒径が1nmよりも小さいと、イオン液体内包粒体中のイオン液体の分子数が十分でなくなるのでイオン伝導度が低下する傾向がある。また、1mmを超えると、可塑性が低下することがある。第1のイオン液体内包粒体及び第2のイオン液体内包粒体の一層好ましい粒径は、10nm〜100μmである。
【0020】
また、本発明は、イオン液体を、該イオン液体の融点以上の温度で第1分散媒中に分散して第1のエマルジョンを調製する工程と、
前記第1のエマルジョンを、前記イオン液体の融点よりも低温であり且つ前記第1分散媒の融点以上の温度として、前記イオン液体の固化物を第1粒子として得る工程と、
前記第1粒子を前記分散媒から分離した後、第2分散媒に添加し、前記イオン液体の融点よりも低温であり且つ前記第2分散媒の融点以上の温度で、第1の高分子からなる第1の被包材を前記第1粒子の表面に形成して、第1のイオン液体内包粒体を得る工程と、
イオン液体を、該イオン液体の融点以上の温度で第3分散媒中に分散して第2のエマルジョンを調製する工程と、
前記第2のエマルジョンを、前記イオン液体の融点よりも低温であり且つ前記第3分散媒の融点以上の温度として、前記イオン液体の固化物を第2粒子として得る工程と、
前記第2粒子を前記第3分散媒から分離した後、第4分散媒に添加し、前記イオン液体の融点よりも低温であり且つ前記第4分散媒の融点以上の温度で、第2の高分子からなる第2の被包材を前記第2粒子の表面に形成して、第2のイオン液体内包粒体を得る工程と、
前記第1のイオン液体内包粒体の前記第1の被包材をなす前記第1の高分子と、前記第2のイオン液体内包粒体の前記第2の被包材をなす前記第2の高分子とを、同一の溶媒中で反応させ、互いに隣接する前記第1のイオン液体内包粒体の前記第1の被包材と、前記第2のイオン液体内包粒体とを化学的に結合させるとともに、前記第1の高分子と前記第2の高分子の反応生成物を形成してイオン液体内包物集合体を得る工程と、
を有することを特徴とする。
【0021】
このような過程を経ることにより、上記したイオン液体内包粒体を容易に得ることができる。
【0022】
なお、第1の被包材、第2の被包材は、モノマーを重合することによって形成することができる。重合によって得られた高分子を、さらに架橋するようにしてもよい。又は、第1の被包材、第2の被包材を、高分子を架橋することによって形成することも可能である。
【0023】
第1分散媒、第3分散媒には、界面活性剤を添加するようにしてもよい。この界面活性剤の作用により、第1のエマルジョン、第2のエマルジョンの形成が促進されるとともに、形成された第1のエマルジョン、第2のエマルジョンが破壊されることが阻害される。従って、微細な第1のエマルジョン、第2のエマルジョン、ひいては微細なイオン液体の固化物を得ることが容易となる。結局、第1のイオン液体内包粒体、第2のイオン液体内包粒体を微細なものとして得ることができる。第1の被包材、第2の被包材を形成した後に残留した過剰の界面活性剤は、水等の溶媒で洗浄することによって除去するようにすればよい。
【0024】
第1のイオン液体内包粒体、第2のイオン液体内包粒体は、粒径が1nm〜1mmの範囲内であることが好ましい。粒径や第1の被包材、第2の被包材の厚みは、例えば、反応時間を適宜設定することで調節することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、イオン液体内包粒子を構成する被包材を、隣接するイオン液体内包粒体を構成する被包材と反応させるようにしている。イオン液体は、この反応生成物、ないしは前記被包材によって保護されるので、該イオン液体内包粒子のイオン液体を十分に保持することができる。このため、イオン液体内包物集合体が、イオン液体と親和性の高い物質に接触したときであっても、イオン液体が前記物質に移動することが防止される。
【0026】
従って、このイオン液体内包物集合体を、例えば、燃料電池の電解質に採用した場合、運転(電極反応)に伴って生成した水にイオン液体が同伴されて流出することが回避される。このため、イオン伝導性が低下することが回避されるので、長期間にわたって良好な発電特性を維持することができる。
【0027】
しかも、イオン液体内包粒子が微細であるので、該イオン液体内包粒子を含むイオン液体内包物集合体が可塑性に富む。このため、所望の形状とすることが容易である。すなわち、例えば、燃料電池の電解質を所望の形状のものとして得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係るイオン液体内包物集合体の模式的な断面図である。
【図2】図1のイオン液体内包物集合体を構成する第1のイオン液体内包粒子(又は第2のイオン液体内包粒子)の模式的な断面図である。
【図3】実施例1のイオン液体の凝固物の光学顕微鏡写真である。
【図4】実施例1の第1のイオン液体内包粒子の光学顕微鏡写真である。
【図5】図4の第1のイオン液体内包粒子を乾燥して得た乾燥物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図6】実施例1の第2のイオン液体内包粒子の光学顕微鏡写真である。
【図7】図6の第2のイオン液体内包粒子をエタノールに浸漬して得た浸漬物の光学顕微鏡写真である。
【図8】図7の第2のイオン液体内包粒子を乾燥して得た乾燥物のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るイオン液体内包物集合体及びその製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態に係るイオン液体内包物集合体10の模式的な断面図である。このイオン液体内包物集合体10は、第1のイオン液体内包粒体12と、第2のイオン液体内包粒体14とが凝集することで構成されている。なお、図1では、理解を容易にするべく、第1のイオン液体内包粒体12と第2のイオン液体内包粒体14を整列させて示しているが、実際の第1のイオン液体内包粒体12及び第2のイオン液体内包粒体14の配列はランダムである。
【0031】
直径に沿う断面を模式的に示した図2から諒解されるように、第1のイオン液体内包粒体12は、液相又は固相のイオン液体16が第1の高分子からなる第1の被包材18で被覆されて構成される微細な粒体、換言すれば、微粒子である。なお、この場合、第1のイオン液体内包粒体12は概ね球体に近似される。
【0032】
第1のイオン液体内包粒体12の好適な粒径(D1とD2の平均値)は、1nm〜1mmの範囲内である。1nmよりも小さいと、第1のイオン液体内包粒体12中のイオン液体の分子数が十分でなくなるのでイオン伝導度が低下する傾向がある。また、1mmを超えると、可塑性が低下するのでイオン液体内包物集合体10を所望の形状とすることが容易でなくなる。第1のイオン液体内包粒体12の一層好適な粒径は、10nm〜100μmである。
【0033】
イオン液体内包物集合体10を電解質として採用する場合、イオン液体16としては、目的とするイオンを伝導することが可能な物質を選定すればよい。例えば、燃料電池の電解質とする場合、プロトンを伝導可能な物質を選定するようにする。このようなイオン液体16の具体例としては、ジメチルエチルアミントリフルオロメタンスルホネート、ジエチルメチルアミンメタンスルホネート、ジエチルメチルアミンビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド、ジメチルエチルアミンビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメタンスルホネート等を挙げることができる。
【0034】
一方、第1の被包材18をなす第1の高分子としては、反応性官能基を有する重合性モノマーの重合体のゲルを例示することができる。重合性モノマーの好適な具体例としては、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル等の重合性ビニルモノマーが挙げられる。すなわち、下記に示すような高分子である。
【0035】
【化1】

【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

【0038】
第1の被包材18は、上記したような第1の高分子が、第1の被包材18を形成する際に使用した分散媒を吸収することによって形成された高分子ゲルからなる。なお、分散媒については後に詳述する。
【0039】
高分子ゲルは、架橋重合体のゲルであることが一層好ましい。この場合、第1の被包材18に適度な強度が発現して破損し難くなるとともに、イオン液体16が膨潤したときであっても変形することが防止されるからである。
【0040】
第1の被包材18の厚みTは、0.1nm〜100μmであることが好ましい。厚みTが0.1nm未満であると、第1の被包材18としての強度、すなわち、粒子としての強度を確保することが容易ではない。また、100μmを超えると、イオン伝導に対する抵抗が大きくなる。
【0041】
以上のようなイオン液体16及び第1の被包材18を有する第1のイオン液体内包粒体12の粒径は、走査型電子顕微鏡で二次元平面として視認される第1のイオン液体内包粒体12の長径と短径、すなわち、図2におけるD1とD2の平均値として示されるが、多くの場合で、D1とD2は略同等である。
【0042】
第1のイオン液体内包粒体12の好適な粒径(D1とD2の平均値)は、1nm〜1mmの範囲内である。1nmよりも小さいと、イオン液体16の分子数が十分でなくなり、イオン伝導度が低下する傾向がある。また、1mmを超えると、イオン液体内包物集合体10の可塑性が低下するので該イオン液体内包物集合体10を所望の形状とすることが容易でなくなる。第1のイオン液体内包粒体12の一層好適な粒径は、10nm〜100μmである。
【0043】
残余の第2のイオン液体内包粒体14も、第1のイオン液体内包粒体12と略同様に、概ね球体に近似される微細な粒体、すなわち、微粒子である。また、その粒径も第1のイオン液体内包粒体12と同様に、図2に示されるD1とD2の平均値として求められる。粒径の好適な範囲及びその理由も、上記した通りである。
【0044】
第2のイオン液体内包粒体14は、液相又は固相のイオン液体20が第2の高分子からなる第2の被包材22で被覆されて構成される。
【0045】
イオン液体内包物集合体10を燃料電池の電解質として採用する場合、上記したようなプロトンを伝導可能な物質をイオン液体20として選定すればよい。このイオン液体20は、第1のイオン液体内包粒体12に含まれるイオン液体16と同一の物質であってもよいし、別の物質であってもよい。
【0046】
一方、第2の被包材22をなす第2の高分子としては、前記第1の被包材18をなす前記第1の高分子と相互反応を起こすものが選定される。例えば、第1の高分子の反応性官能基と相互反応を起こす反応性官能基を有するものが好ましい。
【0047】
具体的には、第1の高分子の反応性官能基が−COOH、−SO3H、−OP(OH3)等の酸性基である場合、第2の高分子としては、−NH、−OH、−SH等のような塩基性基を有する物質が選定される。その反対に、第1の高分子の反応性官能基が塩基性基である場合、第2の高分子としては、酸性基を有する物質が選定される。
【0048】
また、第1の高分子の反応性官能基が−NHであるときには、第2の高分子としては、−NHとともに共有結合をなす−C(=O)−R、−C=C−R、又は−C(=O)NHを具備する物質が選定され、逆に、第1の高分子の反応性官能基が−C(=O)−R、−C=C−R、又は−C(=O)NHのいずれかであるときには、これらのいずれかとともに共有結合をなす−NHを具備する物質が選定される。
【0049】
第1の高分子と第2の高分子の組み合わせの一例として、ポリアクリル酸とポリエチレンイミンが挙げられる。
【0050】
第1の被包材18と第2の被包材22は、相互反応を起こす。これにより第1の被包材18と第2の被包材22が化学的に結合する。このため、隣接する第1のイオン液体内包粒体12と第2のイオン液体内包粒体14は、図1からも諒解されるように、化学的に結合した第1の被包材18と第2の被包材22を介して堅牢に接合している。
【0051】
また、相互反応に伴い、互いの界面に反応生成物が生成する。場合によっては、第1の被包材18と第2の被包材22の全体が前記反応生成物となり、イオン液体16、20の双方を囲繞することもある。なお、反応生成物の典型的な例は、架橋重合体である。
【0052】
イオン液体16、20は、第1の被包材18、第2の被包材22ないしは両被包材18、22の反応生成物で被覆されている。これら被包材18、22ないしはその反応生成物が、イオン液体16、20を保護する保護膜として機能する。すなわち、第1のイオン液体内包粒体12に含まれるイオン液体16、又は第2のイオン液体内包粒体14に含まれるイオン液体20に対して親和性が高い物質とイオン液体内包物集合体10が仮に接触したとしても、被包材18、22ないしはその反応生成物がブロック作用を営むため、イオン液体16、20が前記物質に移動することが阻止される。
【0053】
以上のように、第1のイオン液体内包粒体12を構成する第1の被包材18(第1の高分子)と、第2のイオン液体内包粒体14を構成する第2の被包材22(第2の高分子)とを相互反応させることで得られたイオン液体内包物集合体10においては、イオン液体を化学的ないし物理的に安定な状態に維持することが著しく容易である。このため、イオン液体内包物集合体10を燃料電池の電解質とした場合、イオン液体16、20が生成水に移動すること、ひいては生成水に同伴されて燃料電池の外部に排出されることを防止することができるので、燃料電池の発電性能を維持することができる。
【0054】
また、イオン液体内包物集合体10は可塑性に富むので、所望の形状とすることが可能である。従って、例えば、デバイスに応じた所望の形状の電解質を得ることができる。しかも、この場合、電解質を構成するイオン液体内包物集合体10が被包材18、22ないしはその反応生成物を有するので、破損が生じ難い。
【0055】
次に、上記したイオン液体内包物集合体10の製造方法につき説明する。イオン液体内包物集合体10は、先ず、第1のイオン液体内包粒体12と第2のイオン液体内包粒体14を個別に得、次に、第1のイオン液体内包粒体12の第1の被包材18(第1の高分子)と、第2のイオン液体内包粒体14の第2の被包材22(第2の高分子)とを相互反応させることで得ることができる。
【0056】
第1のイオン液体内包粒体12を得る方法につき具体的に説明すると、はじめに、第1のイオン液体内包粒体12を得るためのイオン液体16を第1分散媒に添加する。ここで、「分散媒」とは、イオン液体16(20)の添加後に静置した際、該イオン液体16(20)と互いに相分離を起こすものを指称する。以降においても同様である。
【0057】
イオン液体16が上記したような物質である場合、第1分散媒としては、n−ヘキサン、n−ドデカン、トルエン等の各種有機溶媒を選定すればよい。又は、水を用いてもよい。この場合、安価であり、且つハンドリングが容易である等の利点がある。
【0058】
なお、後述する理由から、第1分散媒に対して界面活性剤を予め添加しておくことが好ましい。第1分散媒が水である場合、界面活性剤の好適な例としては、非イオン活性剤であって且つHLBの値が12以上のものが挙げられる。一方、イオン液体16が親水性であり且つ第1分散媒が疎水性の有機溶媒である場合、HLBの値が6以下のものが好ましい。
【0059】
以上の第1分散媒に対してイオン液体16を添加した後、エマルジョンを形成するべく、イオン液体16を粒状に分散させる。このためには、マグネチックスターラ、撹拌翼、ホモジナイザ又は超音波分散装置等を用い、強制的な機械的撹拌を行えばよい。
【0060】
このような強制撹拌により、イオン液体16が第1分散媒中に粒状に分散する。その結果、第1のエマルジョンが形成される。なお、第1分散媒に界面活性剤が添加されている場合、第1のエマルジョンの形成が促進されるとともに、形成された第1のエマルジョンが破壊されることが阻害される。すなわち、第1のエマルジョンを微細形状に維持することが容易となる。
【0061】
次に、第1のエマルジョンを含んだ第1分散媒を冷却し、該第1分散媒の温度を、イオン液体16の融点よりも低温であり且つ第1分散媒の融点以上の温度とする。冷却に際しては、第1分散媒を収容した容器をオイルバスに浸漬する等すればよい。この冷却により、前記第1のエマルジョン(イオン液体16)が固化する。すなわち、粒状となったイオン液体16が、この状態で固化物、換言すれば、粒子となる。この粒子(固化物)を、例えば、精密濾過を行うこと等によって第1分散媒と分離する。
【0062】
次に、前記粒子の表面に第1の被包材18を形成する。ここで、第1の被包材18は、以下に説明する第1の手法、又は第2の手法によって形成することができる。
【0063】
第1の手法は、上記したようなモノマーを粒子の表面で重合させて第1の高分子を得るものである。なお、得られた第1の高分子をさらに架橋するようにしてもよい。
【0064】
この場合、モノマーを溶媒に溶解する。溶媒としては、モノマーを溶解することが可能であり、且つ粒状化したイオン液体16に比して融点が低いものを選定すればよい。具体的には、水や各種有機溶媒が挙げられる。又は、粒状化したイオン液体16とは別のイオン液体であって、モノマーを溶解することが可能であり、且つ粒状化したイオン液体16に比して融点が低いイオン液体であってもよい。
【0065】
この溶液には、さらに、モノマーの重合を促進するための重合開始剤又は架橋剤の少なくともいずれか一方を添加することもできる。
【0066】
イオン液体16及びモノマーが上記した物質である場合、重合開始剤の好適な例としては、ラウロイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジヒドロクロライド、過酸化ベンゾイル等、分解に伴ってラジカルを発生し得る物質が挙げられる。また、架橋剤の好適な例としては、N,N−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレンイミン、グルタルアルデヒド等、反応性官能基を複数個有するものが挙げられる。
【0067】
以上のような物質が添加されることで調製された溶液に対し、イオン液体16の固化物を添加する。この溶液を、上記したような機械的撹拌によって強制的に撹拌する。これにより、固化物が溶液中に分散する。
【0068】
次に、固化物が分散した溶液を、別途用意した第2分散媒に混合して、強制撹拌を行う。なお、この第2分散媒にも上記したような界面活性剤を添加しておくことが好ましい。
【0069】
この状態で放置すれば、粒子の表面でモノマーの重合が自発的に開始して進行する。又は、前記溶液と第2分散媒との混合溶液の温度が上昇しない程度に紫外線を照射することで重合を開始させるようにしてもよい。なお、混合溶液の温度が過度に高いと、第1のエマルジョンが破壊され易くなる傾向がある。従って、混合溶液を収容した容器をオイルバスに浸漬する等して冷却を行い、混合溶液の温度を40℃以下に保つことが好ましい。
【0070】
モノマーの重合が進行すると、第1の高分子のネットワークが形成されるとともに、該ネットワーク中に第2分散媒が取り込まれる。その結果、第1の高分子に第2分散媒が吸収された高分子ゲルからなる第1の被包材18が生成する。これにより、イオン液体16の固化物が第1の被包材18に内包された粒状物(第1のイオン液体内包粒体12)が得られる。
【0071】
次に、第2の手法につき説明する。
【0072】
第2の手法は、高分子を粒子の表面で架橋させて架橋重合体を得るものである。このような高分子の好適な例としては、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニルが重合したもの等が挙げられる。
【0073】
この場合、高分子及び架橋剤を溶媒に溶解する。溶媒及び架橋剤の好適な例は、上記した通りである。
【0074】
このようにして調製された溶液に対し、イオン液体の固化物を添加する。この溶液を、上記したような機械的撹拌によって強制的に撹拌する。これにより、固化物が溶液中に分散する。
【0075】
次に、固化物が分散した溶液を、別途用意した第2分散媒に混合して混合溶液とするとともに、強制撹拌を行う。なお、この第2分散媒にも上記したような界面活性剤を添加しておくことが好ましい。
【0076】
この状態で放置すれば、粒子の表面で高分子の架橋が自発的に開始して進行する。なお、混合溶液の温度が過度に高いと、第1のエマルジョンが破壊され易くなる傾向がある。従って、混合溶液を収容した容器をオイルバスに浸漬する等して冷却を行い、混合溶液の温度を40℃以下に保つことが好ましい。
【0077】
高分子の架橋が進行すると、第1の高分子のネットワークが形成されるとともに、該ネットワーク中に第2分散媒が取り込まれる。その結果、架橋重合体に第2分散媒が吸収された高分子ゲル、すなわち、第1の被包材18が生成する。これにより、イオン液体16の固化物が第1の被包材18に内包された粒状物、すなわち、第1のイオン液体内包粒体12が得られる。
【0078】
このようにして得られた粒状物を室温で放置した場合、第1の被包材18に内包された固化物の融点が室温以下であれば、該固化物が溶融して液相となる。これにより、液相のイオン液体16が第1の被包材18に内包された第1のイオン液体内包粒体12となる。
【0079】
第1手法又は第2手法のいずれにおいても、得られた粒状物は、前記第1のエマルジョンを固化したものに第1の被包材18を形成することで得られたものであるので、微細である。すなわち、粒径が1nm〜1mmの微粒子となる。なお、粒径は、例えば、反応時間を適宜設定することで調節することができる。
【0080】
その一方で、第2のイオン液体内包粒体14を生成させる。このためには、上記に準拠した操作を行えばよい。
【0081】
すなわち、第2のイオン液体内包粒体14を得るためのイオン液体20を第3分散媒に添加する。この第3分散媒としては、上記同様にn−ヘキサン、n−ドデカン、トルエン等の各種有機溶媒や、水を選定すればよい。また、イオン液体20は、第1のイオン液体内包粒体12を得る際に用いたイオン液体16と同一物質であってもよいし、別の物質であってもよい。
【0082】
以降は上記に従って、第2のエマルジョンを形成する。さらに、第2のエマルジョンを固化して粒子(固化物)とし、この粒子を、例えば、精密濾過を行うこと等によって第3分散媒と分離する。
【0083】
次に、前記粒子の表面に第2の被包材22を形成する。
【0084】
上記した第1の手法を実施する場合には、第2の高分子となるモノマーを溶媒に溶解する。ここで、第1の高分子が、−COOH、−SO3H、−OP(OH3)等の酸性の反応性官能基を有する物質である場合、第2の高分子を得るためのモノマーとしては、−NH、−OH、−SH等のような塩基性基を有する物質を選定する。その反対に、第1の高分子の反応性官能基が塩基性基である場合、酸性基を有する物質を第2の高分子のモノマーとして選定する。
【0085】
また、第1の高分子が、−NHを有する物質である場合、第2の高分子としては、−NHとともに共有結合をなす−C(=O)−R、−C=C−R、又は−C(=O)NHを具備する物質を第2の高分子のモノマーとして選定する。その反対に、第1の高分子の反応性官能基が−C(=O)−R、−C=C−R、又は−C(=O)NHのいずれかであるときには、これらのいずれかとともに共有結合をなす−NHを具備する物質を第2の高分子のモノマーとしてとして選定する。
【0086】
溶媒としては、上記したようなモノマーを溶解することが可能であり、且つ粒状化したイオン液体20に比して融点が低いもの、具体的には、水や各種有機溶媒を用いればよい。勿論、粒状化したイオン液体20とは別のイオン液体であって、モノマーを溶解することが可能であり、且つ粒状化したイオン液体20に比して融点が低いイオン液体であってもよい。
【0087】
この溶液には、さらに、モノマーの重合を促進するための重合開始剤又は架橋剤の少なくともいずれか一方を添加することもできる。重合開始剤としては、上記同様にラウロイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジヒドロクロライド、過酸化ベンゾイル等を用いることができる。架橋剤も、上記と同様に、N,N−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレンイミン、グルタルアルデヒド等を用いればよい。
【0088】
以上のような物質が添加されることで調製された溶液に対し、イオン液体20の固化物を添加する。この溶液を、上記したような機械的撹拌によって強制的に撹拌する。これにより、固化物が溶液中に分散する。
【0089】
次に、固化物が分散した溶液を、別途用意した第4分散媒に混合して、強制撹拌を行う。なお、この第4分散媒にも上記したような界面活性剤を添加しておくことが好ましい。
【0090】
この状態で放置すれば、粒子の表面でモノマーの重合が自発的に開始して進行する。又は、前記溶液と第4分散媒との混合溶液の温度が上昇しない程度に紫外線を照射することで重合を開始させるようにしてもよい。なお、混合溶液の温度が過度に高いと、第2のエマルジョンが破壊され易くなる傾向がある。従って、混合溶液を収容した容器をオイルバスに浸漬する等して冷却を行い、混合溶液の温度を40℃以下に保つことが好ましい。
【0091】
モノマーの重合が進行すると、第2の高分子のネットワークが形成されるとともに、該ネットワーク中に第4分散媒が取り込まれる。その結果、第2の高分子に第4分散媒が吸収された高分子ゲルからなる第2の被包材22が生成する。これにより、イオン液体20の固化物が第2の被包材22に内包された粒状物(第2のイオン液体内包粒体14)が得られる。
【0092】
一方、第2の手法を実施する場合には、第2の高分子及び架橋剤を溶媒に溶解する。第2の高分子、溶媒及び架橋剤の好適な例は、上記した通りである。
【0093】
このようにして調製された溶液に対し、イオン液体20の固化物を添加する。さらに、この溶液を、上記したような機械的撹拌によって強制的に撹拌する。これにより、固化物が溶液中に分散する。
【0094】
次に、固化物が分散した溶液を、別途用意した第4分散媒に混合して混合溶液とするとともに、強制撹拌を行う。この第4分散媒にも、上記したような界面活性剤を添加しておくことが好ましい。
【0095】
この状態で放置すれば、粒子の表面で高分子の架橋が自発的に開始して進行する。なお、混合溶液の温度が過度に高いと、第2のエマルジョンが破壊され易くなる傾向がある。従って、混合溶液を収容した容器をオイルバスに浸漬する等して冷却を行い、混合溶液の温度を40℃以下に保つことが好ましい。
【0096】
高分子の架橋が進行すると、第2の高分子のネットワークが形成されるとともに、該ネットワーク中に第4分散媒が取り込まれる。その結果、架橋重合体に第4分散媒が吸収された高分子ゲル、すなわち、第2の被包材22が生成する。これにより、イオン液体20の固化物が第2の被包材22に内包された粒状物、すなわち、第2のイオン液体内包粒体14が得られる。
【0097】
この第2のイオン液体内包粒体14も、粒径が1nm〜1mmの微粒子である。上記と同様に、粒径は、例えば、反応時間を適宜設定することで調節することができる。
【0098】
以上のようにして得た第1のイオン液体内包粒体12と、第2のイオン液体内包粒体14とを同一の溶媒中で混合する。すなわち、第1のイオン液体内包粒体12を得た混合溶液と、第2のイオン液体内包粒体14を得た混合溶液とを混合すればよい。勿論、各混合溶液から第1のイオン液体内包粒体12、第2のイオン液体内包粒体14をそれぞれ分離した後、これら第1のイオン液体内包粒体12及び第2のイオン液体内包粒体14を同一の溶媒に添加するようにしてもよい。
【0099】
この溶媒中で、第1の被包材18に含まれる第1の高分子と、第2の被包材22に含まれる第2の高分子とが相互反応を起こす。すなわち、例えば、反応性官能基同士を介する架橋反応が起こる。その結果、被包材18、22同士が化学的に結合するとともに、被包材18、22同士の界面に反応生成物が生成する。場合によっては、第1の被包材18の全てと第2の被包材22の全てが反応生成物となることもある。
【0100】
以上により、第1のイオン液体内包粒体12と、これに隣接する第2のイオン液体内包粒体14とが反応生成物を介して凝集した被覆されたイオン液体内包物集合体10が得られるに至る。
【0101】
このようにして得られたイオン液体内包物集合体10を室温で放置した場合、被包材18、22に内包された固化物の融点が室温以下であれば、該固化物が溶融して液相となる。これにより、液相のイオン液体16、20が被包材18、22の各々に内包されたイオン液体内包物集合体10となる。
【0102】
イオン液体16、20は蒸気圧が極めて低いため、イオン液体内包物集合体10を加熱又は減圧の少なくともいずれか一方を行うことにより、被包材18、22中の溶媒を除去することができる。これにより、イオン伝導性が一層向上するので好ましい。なお、被包材18、22中の溶媒の除去は、第1のイオン液体内包粒体12、第2のイオン液体内包粒体14の各々に対して、凝集前に予め行ってもよいし、凝集と同時に行ってもよい。
【実施例1】
【0103】
開閉栓付容器に貯留した10mlの脱イオン水に対し、非イオン性界面活性剤であるイゲパールDM−970(シグマ−アルドリッチ社製ポリオキシエチレンノニルフェノールの商品名、HLB=19)を0.5g溶解した。この溶液を分散媒とし、イオン液体であるジメチルエチルアミンビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドを1.0g添加した。
【0104】
次に、内容物を液体窒素によって凍結した後、開閉栓付容器内を真空ポンプにて減圧した。これを室温に戻すことにより、内容物を溶解した。この操作を3回繰り返すことにより、内容物及び開閉栓付容器内から酸素を除去した。さらに、開閉栓付容器内にArを充填した。
【0105】
次に、前記内容物を、前記開閉栓付容器に貯留したまま80℃まで加熱した。なお、ジメチルエチルアミンビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドの融点は78℃であるので、この際の加熱温度は、イオン液体の融点を上回っている。
【0106】
次に、前記内容物をマグネチックスターラで激しく撹拌することでジメチルエチルアミンビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドを分散させてエマルジョンとした。さらに、撹拌を続行しながら室温まで冷却し、これにより、ジメチルエチルアミンビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドを凝固させて粒状の凝固物とした。
【0107】
次に、精密濾過を行って凝固物と分散媒とを分離した。さらに、凝固物を脱イオン水で洗浄した。乾燥後の固化物の光学顕微鏡写真を図3に示す。この図3から、凝固物が粒状体であることが分かる。
【0108】
その一方で、別の開閉栓付容器に貯留した0.5mlの脱イオン水に対し、0.125g(1.7mmol)のアクリル酸、0.006g(0.04mmol)のN,N−メチレンビスアクリルアミド、0.006g(0.037mmol)の2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)を溶解した。これを「アクリル酸水溶液」と表記する。
【0109】
このアクリル酸水溶液を液体窒素によって凍結した後、開閉栓付容器内を真空ポンプにて減圧した。これを室温に戻すことにより、アクリル酸水溶液を溶解した。この操作を3回繰り返すことにより、アクリル酸水溶液及び開閉栓付容器内から酸素を除去した。さらに、開閉栓付容器内にArを充填した。
【0110】
さらに、また別の開閉栓付容器に貯留した10mlのn−ドデカンに対し、ニッコールデカグリム5−ISV(日光ケミカルズ社製の非イオン界面活性剤の商品名、HLB=3.5)を0.5g溶解したものを分散媒として調製した。これを「n−ドデカン分散媒」と表記する。
【0111】
このn−ドデカン分散媒を液体窒素によって凍結した後、開閉栓付容器内を真空ポンプにて減圧した。これを室温に戻すことにより、n−ドデカン分散媒を溶解した。この操作を3回繰り返すことにより、n−ドデカン分散媒及び開閉栓付容器内から酸素を除去した。さらに、開閉栓付容器内にArを充填した。
【0112】
以上により、アクリル酸が重合することを阻害する酸素を除去した。
【0113】
次に、室温にて、粒状体である前記凝固物、すなわち、イオン液体の微粒子の一部を前記アクリル酸水溶液に添加し、撹拌して該アクリル酸水溶液中に分散させた。
【0114】
次に、Ar雰囲気としたグローブボックス内において、前記n−ドデカン分散媒と、イオン液体の微粒子が分散した前記アクリル酸水溶液とを混合し、マグネチックスターラで激しく撹拌することで、n−ドデカン分散媒に微粒子を分散させた。
【0115】
次に、n−ドデカン分散媒を5℃に保ちながら、該n−ドデカン分散媒に対し、紫外線ランプから波長365nmの紫外線を照射してアクリル酸を重合させた。これにより、凝固物の表面にアクリル酸の部分架橋重合体からなる被包材が形成された生成物を得た。
【0116】
この生成物の断面の光学顕微鏡写真を図4に示す。図4から、微粒子が被包材で覆われていることが分かる。
【0117】
この生成物を25℃のエタノールに12時間浸漬した後、エタノールから分離して乾燥させた。乾燥物の電子顕微鏡(SEM)写真を図5に示す。この図5から、乾燥物が、直径方向略中心近傍の外表面が陥没するとともに中空の球体が圧潰されることでリング形状を呈していることが分かる。これは、被包材に内包されていた微粒子が溶解してイオン液体に戻り、さらに、このイオン液体の良溶媒であるエタノールに溶出したことと、アクリル酸の部分架橋重合体の高分子ネットワークが乾燥によって圧潰されたことが理由であると推察される。
【0118】
その一方で、分子量が約10000であるポリエチレンイミンを0.075g秤量し、0.5mlの脱イオン水に溶解した。これを「ポリエチレンイミン水溶液」と表記する。
【0119】
このポリエチレンイミン水溶液に対し、室温において、上述の操作で得たイオン液体の微粒子の一部を添加し、撹拌して該ポリエチレンイミン水溶液中に分散させた。
【0120】
次に、上記に準拠して調製したn−ドデカン分散媒とポリエチレンイミン水溶液とを混合し、室温にてマグネチックスターラで60分間激しく撹拌することで、該混合溶液中にエマルジョンを分散させた。
【0121】
この混合溶液を水冷しながら撹拌するとともに、撹拌の最中に1重量%グルタルアルデヒド水溶液を0.15g(0.015mmol)滴下した。その後、室温でさらに24時間撹拌した。その結果、イオン液体の表面が、ポリエチレンイミンの架橋体からなる被包材で被覆された生成物を得た。この生成物の断面の光学顕微鏡写真を図6に示す。この図6から、微粒子が被包材で覆われていることが明らかである。
【0122】
次に、この生成物を25℃のエタノールに12時間浸漬した。この浸漬物の光学顕微鏡による断面写真を図7に示す。この図7を参照して諒解されるように、被包材内部のイオン液体がエタノールに置換され、その結果、被包材が膨潤したと考えられる二相構造が観察された。
【0123】
さらに、生成物を25℃のエタノールに12時間浸漬した後、エタノールから分離して乾燥させた。乾燥物のSEM写真を図8に示す。
【0124】
この図8から分かるように、この乾燥物もまた、直径方向略中心近傍の外表面が陥没するとともに中空の球体が圧潰されることでリング形状を呈していた。この理由は、被包材に内包されていた微粒子が溶解してイオン液体に戻り、さらに、このイオン液体の良溶媒であるエタノールに溶出したため、及び、ポリエチレンイミンの高分子ネットワークが乾燥によって圧潰されためであると推察される。
【0125】
次に、イオン液体がアクリル酸の部分架橋重合体からなる被包材で被覆された粒状物を含む液と、イオン液体がポリエチレンイミンの架橋重合体からなる被包材で被覆された粒状物を含む液とを室温で混合し、撹拌した。その後、双方の液が均一に混合したことが確認された時点で撹拌を停止した。
【0126】
次に、混合溶液中の沈殿物を遠心分離によって分離し、n−ドデカンで洗浄した。さらに60℃で真空乾燥し、イオン液体内包物集合体の乾式粉末とした。
【0127】
この乾式粉末を用い、水素雰囲気下において、120℃で直流四端子法でプロトン伝導度を測定したところ、3.2×10-2S/cmであった。
【0128】
また、乾式粉末を蒸留水に浸漬して室温で12時間放置し、その後、遠心分離で蒸留水と分離して再度乾燥したところ、蒸留水に溶出することに伴う重量減少は0.8重量%であった。
【実施例2】
【0129】
アクリル酸、N,N−メチレンビスアクリルアミドの各溶解量を0.25g(3.5mmol)、0.012g(0.078mmol)に設定し、且つ重合剤として0.012g(0.073mmol)の2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライドを用いるとともに、ポリエチレンイミンの溶解量を0.15g(3.5mmol)、1重量%グルタルアルデヒド水溶液の添加量を0.3g(0.03mmol)としたことを除いては実施例1と同様にして、イオン液体内包物集合体の乾式粉末を得た。
【0130】
この乾式粉末を用い、水素雰囲気下において、120℃で直流四端子法でプロトン伝導度を測定したところ、2.5×10-2S/cmであった。また、乾式粉末を蒸留水に浸漬して室温で12時間放置し、その後、遠心分離で蒸留水と分離して再度乾燥したところ、蒸留水に溶出することに伴う重量減少は0.3重量%であった。
【実施例3】
【0131】
ポリエチレンイミンとして分子量が約1200のものを選定し、その溶解量を0.075gとした。また、1重量%グルタルアルデヒド水溶液の添加量を0.3g(0.03mmol)とした。それ以外は実施例1、2と同様にして、イオン液体内包物集合体の乾式粉末を得た。
【0132】
この乾式粉末を用い、水素雰囲気下において、120℃で直流四端子法でプロトン伝導度を測定したところ、2.5×10-2S/cmであった。また、乾式粉末を蒸留水に浸漬して室温で12時間放置し、その後、遠心分離で蒸留水と分離して再度乾燥したところ、蒸留水に溶出することに伴う重量減少は0.3重量%であった。
【実施例4】
【0133】
アクリル酸、N,N−メチレンビスアクリルアミド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライドの各溶解量を0.25g(3.5mmol)、0.012g(0.078mmol)、0.012g(0.073mmol)とし、分子量が約1200のポリエチレンイミンの溶解量を0.15g(3.5mmol)、1重量%グルタルアルデヒド水溶液の添加量を0.3g(0.03mmol)としたことを除いては実施例1〜3と同様にして、イオン液体内包物集合体の乾式粉末を得た。
【0134】
この乾式粉末を用い、水素雰囲気下において、120℃で直流四端子法でプロトン伝導度を測定したところ、1.5×10-2S/cmであった。また、乾式粉末を蒸留水に浸漬して室温で12時間放置し、その後、遠心分離で蒸留水と分離して再度乾燥したところ、蒸留水に溶出することに伴う重量減少は0.8重量%であった。
【実施例5】
【0135】
アクリル酸、N,N−メチレンビスアクリルアミド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライドの各溶解量を0.5g(7.0mmol)、0.024g(0.15mmol)、0.024g(0.15mmol)とし、分子量が約1200のポリエチレンイミンの溶解量を0.3g、1重量%グルタルアルデヒド水溶液の添加量を0.6g(0.06mmol)としたことを除いては実施例1〜4と同様にして、イオン液体内包物集合体の乾式粉末を得た。
【0136】
この乾式粉末を用い、水素雰囲気下において、120℃で直流四端子法でプロトン伝導度を測定したところ、4.6×10-3S/cmであった。また、乾式粉末を蒸留水に浸漬して室温で12時間放置し、その後、遠心分離で蒸留水と分離して再度乾燥したところ、蒸留水に溶出することに伴う重量減少は0.5重量%であった。
【比較例】
【0137】
比較のため、n−ドデカン分散媒に対して紫外線を照射しなかったこと、すなわち、アクリル酸を重合させなかったことを除いては実施例1に準拠し、n−ドデカン分散媒とアクリル酸水溶液との混合溶液にイオン液体の微粒子を分散させた。次に、該微粒子を遠心分離によって前記混合溶液から分離した後、n−ドデカンで洗浄し、さらに、60℃で真空乾燥して乾式粉末とした。この乾式粉末を蒸留水に浸漬して室温で12時間放置し、その後、遠心分離で蒸留水と分離して再度乾燥したところ、蒸留水に溶出することに伴う重量減少は53.3重量%であり、実施例1〜5に比して著しく大きかった。
【0138】
以上の結果から、介在物を含むイオン液体内包物集合体とすることにより、イオン液体と親和性が高い物質と接触した場合においても、イオン液体を十分に保持し得ること、換言すれば、イオン液体が流出し難くなることが明らかである。
【符号の説明】
【0139】
10…イオン液体内包物集合体 12…第1のイオン液体内包粒体
14…第2のイオン液体内包粒体 16、20…イオン液体
18…第1の被包材 22…第2の被包材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の高分子からなる第1の被包材にイオン液体又はその固化物を内包した第1のイオン液体内包粒体と、第2の高分子からなる第2の被包材にイオン液体又はその固化物を内包した第2のイオン液体内包粒体とが集合して形成されるイオン液体内包物集合体であって、
互いに隣接する前記第1のイオン液体内包粒体の前記第1の被包材と、前記第2のイオン液体内包粒体の前記第2の被包材とが化学的に結合して反応生成物を形成していることを特徴とするイオン液体内包物集合体。
【請求項2】
請求項1記載の集合体において、前記第1の高分子及び前記第2の高分子の双方が反応性官能基を有するものであり、前記反応生成物は、前記第1の高分子と前記第2の高分子とが、前記反応性官能基同士を介する架橋反応を起こすことで生成したものであることを特徴とするイオン液体内包物集合体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の集合体において、前記1のイオン液体内包粒体及び前記第2のイオン液体内包粒体の粒径が1nm〜1mmの範囲内であることを特徴とするイオン液体内包物集合体。
【請求項4】
イオン液体を、該イオン液体の融点以上の温度で第1分散媒中に分散して第1のエマルジョンを調製する工程と、
前記第1のエマルジョンを、前記イオン液体の融点よりも低温であり且つ前記第1分散媒の融点以上の温度として、前記イオン液体の固化物を第1粒子として得る工程と、
前記第1粒子を前記分散媒から分離した後、第2分散媒に添加し、前記イオン液体の融点よりも低温であり且つ前記第2分散媒の融点以上の温度で、第1の高分子からなる第1の被包材を前記第1粒子の表面に形成して、第1のイオン液体内包粒体を得る工程と、
イオン液体を、該イオン液体の融点以上の温度で第3分散媒中に分散して第2のエマルジョンを調製する工程と、
前記第2のエマルジョンを、前記イオン液体の融点よりも低温であり且つ前記第3分散媒の融点以上の温度として、前記イオン液体の固化物を第2粒子として得る工程と、
前記第2粒子を前記第3分散媒から分離した後、第4分散媒に添加し、前記イオン液体の融点よりも低温であり且つ前記第4分散媒の融点以上の温度で、第2の高分子からなる第2の被包材を前記第2粒子の表面に形成して、第2のイオン液体内包粒体を得る工程と、
前記第1のイオン液体内包粒体の前記第1の被包材をなす前記第1の高分子と、前記第2のイオン液体内包粒体の前記第2の被包材をなす前記第2の高分子とを、同一の溶媒中で反応させ、互いに隣接する前記第1のイオン液体内包粒体の前記第1の被包材と、前記第2のイオン液体内包粒体とを化学的に結合させるとともに、前記第1の高分子と前記第2の高分子の反応生成物を形成してイオン液体内包物集合体を得る工程と、
を有することを特徴とするイオン液体内包物集合体の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法において、前記第1の被包材又は前記第2の被包材の少なくともいずれか一方を、モノマーを重合することによって形成することを特徴とするイオン液体内包物集合体の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法において、前記モノマーを重合して得た高分子をさらに架橋することを特徴とするイオン液体内包物集合体の製造方法。
【請求項7】
請求項4記載の製造方法において、前記第1の被包材又は前記第2の被包材の少なくともいずれか一方を、高分子を架橋することによって形成することを特徴とするイオン液体内包物集合体の製造方法。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法において、前記第1のイオン液体内包粒体及び前記第2のイオン液体内包粒体を、粒径が1nm〜1mmの範囲内であるものとして得ることを特徴とするイオン液体内包物集合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−200634(P2012−200634A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65416(P2011−65416)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】