説明

イオン測定用オプトード及びそれを用いたイオン濃度の測定方法

【課題】水溶液中の、リチウムイオン等のイオンを簡便に高感度に測定することができ、耐久性に優れた、イオン測定用オプトード並びにそれを用いたイオン濃度の測定方法及び水処理薬剤の濃度管理方法を提供すること。
【解決手段】ボロンジピロメテン骨格に、測定すべきイオンと特異的に結合し、イオンと結合することによりボロンジピロメテン色素の光学特性を変化させる、イオン応答性基を結合すると共に、ボロンジピロメテン色素を共有結合により基材に結合させたものをオプトードとして用いることにより、水溶液中のイオンであっても簡便に高感度に測定することが可能であり、かつ、このオプトードは耐久性にも優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中に存在するイオン濃度を測定するためのオプトード及びそれを用いたイオン濃度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンは、工業分野ではボイラ水系、冷却水系等に添加する各種水処理薬剤のトレーサとして利用されており、薬剤濃度を正確に把握し適切な濃度管理を行うためには、トレーサとして混入されている溶液中のリチウムイオン濃度を正確に測定する必要がある。
【0003】
現在、溶液中のリチウムイオンを測定する方法として、イオン選択性電極や原子吸光光度法などが用いられている。イオン選択性電極は、様々なイオンの含まれた混合溶液中で、目的イオンに対して選択的に応答して電気化学的情報に変換し、その応答電位からイオン活量を導くセンサーである(特許文献1)。また、原子吸光光度法は、原子蒸気化させた金属原子に特有の波長の光を照射し、その吸収量から定量を行う方法である。
【0004】
イオン選択性電極は、高感度で精度の高い測定が可能だが、センサの寿命が短く高コストになることが難点である。原子吸光光度法は、測定に大がかりな装置が必要であり、また、試料水をサンプリングしてから測定結果を得るまでに長い時間がかかってしまうため、リアルタイムの測定には適さない。
【0005】
このような背景から、リチウムイオンを低コストで、しかも簡便に長期にリアルタイムの測定が可能な、リチウムイオン測定用センサが求められている。
【0006】
一方、高い光耐久性、高い蛍光量子収率、鋭い吸収スペクトルを持つ優れた蛍光色素として、ボロンジピロメテン骨格を有する色素が知られている(特許文献2)。特許文献2には、ボロンジピロメテン骨格に、測定すべきイオンと選択的に結合し、イオンと選択的に結合することにより色素の光学特性を変化させる基を結合させた色素をプローブとして用いることによりイオンを測定することも示唆されている(もっとも、リチウムイオンに選択的に応答する基は特許文献2には開示も示唆もされていない)。
【0007】
しかしながら、ボロンジピロメテン色素は、疎水性が高いため均一系での水溶液の測定は困難である。また、この分子は平面的な構造を持つために高濃度の場合に会合体を形成する。さらに、N原子のプロトネーションによって分子が両親媒性を帯びることによっても、ミセルのような会合体を形成する。一般的に、蛍光分子は会合体を形成すると、自己消光により蛍光強度が減少するため、高感度センサには不適である。そこで、この課題を解決してセンサとして実用化するため、従来は、ポリマ膜中に色素を分散させた方式のセンサ用膜デバイスが作成されてきた。しかし、膜デバイスは、色素が化学結合によって膜デバイスに固定化されていないため、色素の溶出が起こりやすかった。また、長時間保存すると、色素分子同士が会合して消光が起こっていた。これらの理由から、膜デバイスは、耐久性が悪く長期観測用センサとしての実用化は難しかった。
【0008】
【特許文献1】特開2004-4045号公報
【特許文献2】WO 2007/126052 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、水溶液中の、リチウムイオン等のイオンを簡便に高感度に測定することができ、耐久性に優れた、イオン測定用オプトード並びにそれを用いたイオン濃度の測定方法及び水処理薬剤の濃度管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意研究した結果、ボロンジピロメテン骨格に、測定すべきイオンと特異的に結合し、イオンと結合することによりボロンジピロメテン色素の光学特性を変化させる、イオン応答性基を結合すると共に、ボロンジピロメテン色素を共有結合により基材に結合させたものをオプトードとして用いることにより、水溶液中のイオンであっても簡便に高感度に測定することが可能であり、かつ、該オプトードは耐久性にも優れていることを見出し本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記一般式[I]で表される構造を有するイオン応答性色素を、共有結合によって基材に固定化したことを特徴とするイオン測定用オプトードを提供する。
【0012】
【化1】

【0013】
ここで、
R1及びR2のいずれか一方が、前記イオンと結合して前記色素の吸光特性及び/又は蛍光特性を変化させるイオン応答性基であり、
R1〜R7のうち、前記イオン応答性基以外のいずれか1つが、前記基材と共有結合する共有結合性基であり、
R1〜R7のうち、前記イオン応答性基及び前記共有結合性基以外のものは互いに独立して水素又はメチル基である。
【0014】
また、本発明は、上記本発明のイオン測定用オプトードを用いて溶液中のイオン濃度を測定する方法であって、該溶液と該オプトードとを接触させ、該オプトードの吸光度又は蛍光強度を測定することを含む、イオン濃度の測定方法を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、水処理薬剤と共にトレーサ物質としてのリチウムの水溶性塩を被処理水中に添加し、リチウムイオン濃度を上記本発明の方法で測定することにより、被処理水中に添加した前記水処理薬剤の濃度管理を行うことを特徴とする水処理薬剤の濃度管理方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水溶液中の、リチウムイオン等のイオンを簡便に高感度に測定することができる。本発明のオプトードは、ガラス基板等の基材上に色素が結合されたものであるので、持ち運びが自由であり、また、測定は吸光度や蛍光強度を測定することにより行うことができ、大掛かりな装置を必要としないので、イオン濃度を測定する現場にオプトードを持ち込んで簡便にイオン濃度を測定することができる。また、色素が基材に共有結合により結合されているので、経時的な色素の会合や離脱が起きず、耐久性に優れている。従って、水処理薬剤の濃度管理のように、イオン濃度を常時測定することが望まれる用途に好適に適用することができる。また、pHによる影響を受けにくく、この点からも水処理薬剤の濃度管理等に好適である。さらに、イオン応答性基として、特定のリチウムイオン応答性基を用いた場合には、他の金属イオンの存在下であっても選択的にリチウムイオンを測定可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
上記の通り、本発明のオプトードは、上記一般式[I]で表される構造を有するイオン応答性色素を、共有結合によって基材に固定化したものである。一般式[I]中、R1及びR2のいずれか一方が、前記イオンと結合して前記色素の吸光特性及び/又は蛍光特性を変化させるイオン応答性基であり、R1〜R7のうち、前記イオン応答性基以外のいずれか1つが、前記基材と共有結合する共有結合性基であり、R1〜R7のうち、前記イオン応答性基及び前記共有結合性基以外のものは互いに独立して水素又はメチル基である。
【0018】
測定すべきイオン濃度に対する感度の観点から、R1がイオン応答性基であることが好ましい。また、基材に共有結合してもできるだけ光学特性が影響を受けないようにする観点から、R3が共有結合性基であることが好ましい。また、R5及びR7がメチル基であり、R2、R4及びR6が水素である場合、合成時の収率が高くなるので好ましい。
【0019】
共有結合性基は、基材表面上の官能基と直接又は他の構造を介して間接的に結合することができる官能基を有する基である。共有結合性基は、特に限定されないが、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基若しくはハロゲン又はこれらの基を有するアルキル基若しくはアルコキシ基であることが好ましい。ここで、アルキル基及びアルコキシ基中のアルキル部分の炭素数は、特に限定されないが、1〜4であることが好ましい。これらのうち、特に下記式で示される2-ヒドロキシエトキシ基が好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
基材は、共有結合可能な官能基を表面に有する固体であれば特に限定されず、ガラスや各種プラスチックを好ましく用いることができる。基材上の官能基としてはOH基、アミノ基、カルボキシル基等が好ましい。これらのうち、OH基は、シランカップリング剤を介してイオン応答性色素と容易に共有結合可能であるので特に好ましい。ガラスは、シラノール基中にOH基が存在するので、基材として好適に用いることができる。シランカップリング剤自体は周知であり、種々のものが市販されており、市販のシランカップリング剤を好適に用いることができる。特に、共有結合性基が上記した2-ヒドロキシエトキシ基のような水酸基を有する基である場合には、3-(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネートを好ましく用いることができる。
【0022】
基材の形状は特に限定されず、板状、薄膜状、ファイバー状、粒子状等、種々の形状のものが利用可能である。また、多孔性の材料も、表面に多量のイオン応答性色素を結合できるので好ましく採用することができる。さらに、基材は、ナノファイバーやナノ粒子のように直径が1μm未満の小さなものであってもよい。このように小さなものであっても、イオン応答性色素の離脱や会合を効果的に防止できるので、基材として好ましく利用可能である。
【0023】
イオン応答性色素は、基材の表面に共有結合で結合可能な範囲内でできるだけ多量に結合させることが高感度を達成する上で好ましい。基材に共有結合していないイオン応答性色素は、十分な洗浄操作により洗い流すことができるので、まず、過剰量のイオン応答性色素を共有結合反応に供し、その後、基材を十分に洗浄することにより、共有結合可能な最大量を結合させることができる。
【0024】
イオン応答性基は、測定すべきイオンと結合することができ、かつ、測定すべきイオンと結合すると、上記イオン応答性色素の吸光特性及び/又は蛍光特性を変化させることができる基である。クラウンエーテルのように、イオンと配位結合する構造を含む基を好ましく採用することができる。どのようなクラウンエーテルがどのようなイオンと配位結合するかは周知であるので、測定すべきイオンに応じて適切なクラウンエーテル構造を選択することができる。すなわち、例えば、14−クラウン−4はリチウムイオン、15−クラウン−5はナトリウムイオン、18−クラウン−6はカリウムイオン、19−クラウン−6はアンモニウムイオン、21−クラウン−7はセシウムイオンと配位結合することが知られている。
【0025】
上記の通り、リチウムイオンは、工業分野ではボイラ水系、冷却水系等に添加する各種水処理薬剤のトレーサとして利用されており、薬剤濃度を正確に把握し適切な濃度管理を行うためには、トレーサとして混入されている溶液中のリチウムイオン濃度を正確に測定する必要がある。イオン応答性基として、リチウムイオン応答性基を有するものは、この用途に好適に利用することができ、好ましい。
【0026】
リチウムイオン応答性基としては、下記一般式[II]で表されるものが特に好ましい。
【0027】
【化3】

【0028】
ここで、Xは下記式(1)〜(6)のいずれかで表される基である。
【0029】
【化4】

【0030】
ここで、R8〜R11は互いに独立して水素または炭素数1〜3のアルキル基である。
【0031】
【化5】

【0032】
なお、上記一般式[II]で表される構造を有するリチウムイオン応答性基は、本願発明者らにより創製された新規な構造であり、リチウムイオン応答性基として特に優れた効果を発揮するものである。すなわち、クラウンエーテルの基本骨格部分である14−クラウン−4自体は、リチウムイオンと配位結合することが公知であるが、クラウンエーテル中の2個の酸素原子をベンゼン環に直結させることにより、クラウンエーテル構造自体が堅固となり、リチウムイオンをより確実に、すなわち、高感度に捕捉することが可能となる。また、一般式[II]中のXは、リチウムイオン以外の他のイオンがクラウンエーテル部分に配位することを妨げる機能を発揮し、これによってリチウムイオンとの結合選択性が高くなる。一般式[II]中のXとしては、前記式(1)で表され、前記式(1)中のR8〜R11は全てメチル基であるものが、リチウムイオンとの結合選択性の観点から特に好ましい。
【0033】
本発明に用いられるイオン応答性色素の特に好ましいものとして、下記実施例で製造された、下記式(7)で表されるもの(KBL-02と命名)を挙げることができる。
【0034】
【化6】

【0035】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、例えば上記一般式[II]や式(1)〜(6)のように、基を表す化学式中では、先端に文字が記載されていない直線は、結合手を意味し、上記式(7)のように化合物を表す化学式中では、先端に文字が記載されていない直線はメチル基を意味する。
【0036】
例えば上記式(7)で示されるような、本発明のオプトードに用いられるイオン応答性色素は新規物質であるが、該色素を構成する各部分は公知の構造であるので、本発明のオプトードに用いられるイオン応答性色素は、有機合成化学の常識に従い合成可能であり、下記実施例にも上記式(7)のイオン応答性色素の合成方法が詳細に記載されている。また、イオン応答性色素の基材への共有結合自体は、例えばシランカップリング剤を用いるような周知の方法により行なうことができ、下記実施例にも具体的に記載されている。なお、上記の通り、イオン応答性色素は、基材の表面に共有結合で結合可能な範囲内でできるだけ多量に結合させることが好ましいので、まず、過剰量のイオン応答性色素を共有結合反応に供し、その後、基材を十分に洗浄することにより、共有結合可能な最大量を結合させることが好ましい。この場合の過剰量としては、基材の形状や多孔性か否か等に応じて適宜選択できるが、共有結合反応に供するイオン応答性色素溶液中のイオン応答性色素の濃度として例えば5g/L以上、より好ましくは10g/L以上の濃度を選択することができる。共有結合反応後は、超音波洗浄等により、共有結合しなかったイオン応答性色素を全て洗い流すことができるように、十分に洗浄することが好ましい。
【0037】
上記した本発明のオプトードは、対象となる、測定すべきイオンと反応して、その吸光特性及び/又は蛍光特性が変化するので、対象となるイオンを含む溶液と、本発明のオプトードとを接触させ、接触の前後で、又は経時的に吸光度特性又は蛍光特性を測定することにより、溶液中のイオンの濃度を測定することができる。なお、接触は、常温で行なうことができ、接触時間は、基材の形状にもよるが、通常、10秒間〜10分間程度である。
【0038】
多くの場合、吸光特性及び蛍光特性の変化は、対象となるイオンの濃度が増大した時に、イオン応答性色素の吸光度又は蛍光強度が増大する波長域と、吸光度又は蛍光強度が減少する波長域が生じる。このような場合、対象となるイオンの濃度が増大した時に、イオン応答性色素の吸光度又は蛍光強度が増大する波長と、減少する波長の2波長でそれぞれ吸光度又は蛍光強度を測定し、その比を求めることにより、より高感度に、より選択的に対象となるイオンを定量することができる。しかも、上記2波長の比に基づいてイオン濃度を測定する方法によれば、下記実施例に具体的に記載されるように、長期間に亘って正確な測定が可能になる。測定する2波長としては、対象となるイオンの濃度変化に応じて、吸光度又は蛍光強度が最も増大する波長と、最も減少する波長を選択することが好ましい。
【0039】
イオン濃度既知の標準溶液を複数調製し、各標準溶液について、上記の比を求め、イオン濃度(その対数でもよい)を横軸に、求めた比を縦軸にプロットすることにより、検量線を得ることができる。濃度未知の試料中のイオン濃度は、検量線作成時と同じ条件で吸光度又は蛍光強度の測定を行い、上記比を求め、求めた比を検量線に当てはめることにより測定することができる。
【0040】
上記の通り、本発明は、水処理薬剤と共にトレーサ物質としてのリチウムの水溶性塩を被処理水中に添加し、リチウムイオン濃度を上記本発明の方法で測定することにより、被処理水中に添加した前記水処理薬剤の濃度管理を行うことを特徴とする水処理薬剤の濃度管理方法をも提供するものである。この方法において、リチウムの測定として上記した本発明の方法を用いること以外は、通常行なわれている常法である。すなわち、水処理薬剤としては、例えばアクリル酸系、マレイン酸系、メタクリル酸系、スルホン酸系、イタコン酸系、または、イソブチレン系の各重合体やこれらの共重合体、燐酸系重合体、ホスホン酸、ホスフィン酸、あるいはこれらの水溶性塩などのスケール防止剤、例えば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾロン系化合物、過酸化水素、ヒドラジン、塩素系殺菌剤(次亜塩素酸ナトリウム等)、臭素系殺菌剤及びヨウ素系殺菌剤、さらにグルタルアルデヒド、フタルアルデヒド等のアルデヒド系化合物、ピリチオン系化合物、ジチオール系化合物、メチレンビスチオシアネート等のチオシアネート系化合物、ヨーネンポリマー、ビス型四級アンモニウム塩、ビス型四級アンモニウム塩以外の四級アンモニウム塩系化合物、四級ホスホニウム塩素化合物等のカチオン系化合物などのスライム防止剤、例えばベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール等のアゾール類、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系化合物、例えばニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のアミノカルボン酸系化合物、例えばグルコン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酒石酸、フィチン酸、琥珀酸、乳酸等の有機カルボン酸などを単独で、あるいは数種類を混合して製剤化した水処理薬剤等を例示することができ、また、トレーサとして用いられるリチウム塩としては、水酸化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム等の水溶性のリチウム化合物を挙げることができる。
【0041】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例1 オプトードの作製
1. イオン応答性色素KBL-02の合成
次のスキームにより、上記式(7)で表されるKBL-02を合成した。
【0043】
【化7】

【0044】
【化8】

【0045】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0046】
【化9】

【0047】
2(607mg,5.36mmol)と2-(ベンジルオキシ)エタノール(1.67ml,11.8mmol)の混合物を80℃に加熱した。溶けたオイル状の混合物にメタンスルホン酸を加え、減圧下で4時間攪拌した。その後、反応系を室温に戻し、NaHCO3水溶液を加え、中和した。塩化メチレン−水系で3回、塩化メチレン−飽和NaCl水系で1回抽出し、Na2SO4で乾燥後、減圧濃縮した。これに酢酸エチル10ml、ヘキサン20mlを加えて再結晶した。吸引ろ過し、沈殿を減圧乾燥して、白色粉末状の目的化合物3(468mg,2.01mmol,収率37.4%)を得た。
【0048】
1H-NMR(300mHz,CDCl3)δ(ppm)=3.77-3.81(m,2H,Bn-O-CH2 -),
3.95(s,2H,Ph-CH2 -),4.10-4.13(m,2H,Bn-O-CH2-CH2 -),4.60(s,2H,-NH-CH2-),
5.06(s,1H,-CO-CH=),7.30-7.40(m,5H,-O-CH2-Ph)
【0049】
【化10】

【0050】
4mlジメチルスルホキシドに1(247mg,2.01mmol),3(468mg,2.01mmol),5ml 2M水酸化ナトリウム水溶液を加え、60℃に加熱し、17時間攪拌した。これに、過剰の水を加え、再結晶した。吸引ろ過し、沈殿を減圧乾燥して、黄色粉末状の目的化合物4(417mg,1.23mmol,収率61.4%)を得た。
【0051】
1H-NMR(300mHz,CDCl3)δ(ppm)=2.18(s,3H,-CH3),2.38(s,3H,-CH3),
3.85-3.89(m,2H,Bn-O-CH2 -),4.20-4.23(m,2H,Bn-O-CH2-CH2 -),
4.65(s,2H,Ph-CH2 -),5.08(s,1H,Ar-H),5.82(s,1H,-CO-CH=),6.41(s,1H,Ar-H),
7.29-7.39(m,5H,-O-CH2-Ph)

【0052】
【化11】

【0053】
Arを流した中で、30ml CH2Cl24(400mg,1.18mmol)を溶解させ、そこに、氷冷下でトリフルオロメタンスルホン酸無水物(0.199ml,1.18mmol)の10ml 塩化メチレン溶液を20分かけて滴下した。滴下終了後、2時間攪拌した。その後、炭酸水素ナトリウム水溶液を加え中和した。塩化メチレン−水系で3回、塩化メチレン−飽和NaCl水系で1回抽出し、Na2SO4で乾燥後、減圧濃縮した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液変化;ヘキサン:クロロホルム=1:1)で分離精製し、黄色粉末状の目的化合物5(175mg,0.372mmol,収率31.5%)を得た。
【0054】
1H-NMR(300mHz,CDCl3)δ(ppm)=2.23(s,3H,-CH3),2.33(s,3H,-CH3),
3.82-3.85(m,2H,Bn-O-CH2 -),4.17-4.20(m,2H,Bn-O-CH2-CH2 -),
4.63(s,2H,Ph-CH2 -),5.40(s,1H,Ar-H),5.89(s,1H,-CO-CH=),7.12(s,1H,Ar-H),
7.30-7.38(m,5H,-O-CH2-Ph)
【0055】
【化12】

【0056】
ピナコール (30.Og,0.25mol,1.00eq)を窒素気流下、THFに溶解させた。そこに、室温下で水素化ナトリウム(24.4g,1.02mol,4.08eq)のTHF溶液を徐々に加えた。充分に撹拌したあと、滴下ロートからアリルブロミド(122g,1.01mol,4.04eq)のTHF溶液を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応系を70℃ に昇温して17時間加熱還流撹拌した。その後、反応系を室温に戻し、メタノールを加えて過剰の水素化ナトリウムをつぶし、反応を終了させた。溶媒を減圧留去し、えられた残渣を酢酸エチルー水(塩酸でpH7に調整)系で3回分液抽出し、さらに酢酸エチル中に溶け込んだ水を除去するために酢酸エチル層を飽和塩化ナトリウム水溶液で1回分液抽出した。芒硝乾燥後、減圧濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液;ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で分離精製し、透明な黄色の液体である目的化合物6(43.7g,収率82.4%)を得た。
【0057】
TLC (Silica ge1 60 F254,ヘキサン:酢酸エチル=1:1) Rf=0.85
lHNMR(300MHz,CDC13)δ(ppm)=1.20(s,12H,-CH3), 3.98(d,4H,0,CH2 ),
5.04‐5.29(d,4H,=CH2),5,91(m,2H,‐CH=)
【0058】
【化13】

【0059】
化合物 6(5.58g,28.1mmol,1.00eq)のTHF溶液にBH3・THF錯体(35ml,35.Ommol,1.25eq)を滴下ロートから約2時間かけて滴下した後、室温で16時間撹拌した。その後、3Nの水酸化ナトリウム(12ml,36.Ommol,1.28eq)を一気に加えた。さらに、氷冷撹拌下30%過酸化水素水(12ml,159mmol,5.65eq)を滴下ロートから約30分かけて滴下した。2時間撹拌した後、溶媒を減圧留去し、えられた残渣をジエチルエーテルー水系で3回分液抽出し、さらにエーテル層を飽和塩化ナトリウム水溶液で1回分液抽出した。芒硝乾燥後、減圧濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルクロマトグラフイー(溶離液;ヘキサン:酢酸エチル=1:4)で分離精製し、透明で粘性の高い液体である目的化合物7(3.15g,収率47.8%)を得た。
【0060】
TLC (Silica ge1 60 F254,ヘキサン:酢酸エチル=1:4) Rf=0.35
1HNMR(270MHz,CDC13)δ (ppm)=1.17(s,12H,-CH3), 1,77(m,4H,-CH2-), 3,58(t,4H,0-CH2-), 3,64(s,2H,-OH),3,74(br,4H,-CH2-0)
【0061】
【化14】

【0062】
室温下でTHFに化合物7(1.78g,7.60mmol,1.00eq)を溶解し,そこにトリエチルアミン(4.62g,45.6mmol,6.00eq)加えた。続いて、反応系を0℃に下げてから、そこに少量のTHFに溶かしたメタンスルホン酸クロリド (2.11ml,27.4mmol,3.60eq)を3時間かけて滴下した。その後、反応系を0℃に保ちながら8時間撹拌した。撹幹終了後、溶媒を減圧留去し、えられた残渣を塩化メチレン‐水(塩酸でpH7に調整)系で3回分液抽出し、さらに、飽和塩化ナトリウム水溶液、純水の順で塩化メチレン層を分液抽出した。芒硝乾燥後、減圧濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルクロマトグラフィー (溶離液;ヘキサン:酢酸エチル=1:4)で分離精製し、白色の固体である目的化合物8(2,62g,収率88.3%)を得た。
【0063】
TLC(Silica ge1 60 F254,ヘキサン:酢酸エチル=1:4) Rf=0.55
1HNMR(270MHz,CDC13)δ(ppm)=1.14(s,12H,-CH3),1.94(m,4H,-CH2-),3.01(m,6H,-S-CH2), 3.50(t,4H,-0-CH2-),4,33(t,4H,-CH2-OMS)
【0064】
【化15】

【0065】
Arを流した中で、530ml THF、150ml DMFの混合溶媒にカテコール(1.09g,9.97mol)を溶解させ、そこに、水素化ホウ素ナトリウム(1.9g,47mmol)の40ml THF 溶液(水素化ナトリウムは、石油オイルと混ざった状態で市販されているため、反応系に加える前にヘキサンで洗浄した。)を徐々に加えた。その後、50℃に加熱し、3時間攪拌した。その後、8(3.90g,9.98mmol)の70ml THF溶液を3時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、70℃に加熱し、40時間攪拌した。その後、反応系を室温に戻し、メタノールを加えて過剰の水素化ナトリウムをつぶし、反応を終了させた。ろ過をし、沈殿はクロロホルムで洗った。ろ液を減圧濃縮し、えられた残渣を酢酸エチル−水系で3回、酢酸エチル−飽和NaCl水系で1回抽出し、Na2SO4で乾燥後、減圧濃縮した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液変化;ヘキサン:酢酸エチル=8:1→4:1→1:1)で分離精製し、透明なオイル状の目的化合物9(1.55g,5.02mmol,収率50.7%)を得た。
【0066】
1H-NMR(300mHz,CDCl3)δ(ppm)=1.20(s,12H,-CH3),1.99(m,4H,-CH2 -),
3.82(t,4H,-O-CH2,J=6.30Hz),4.08(t,4H,Ar-O-CH2,J=5.37Hz),6.94(m,4H,Ar-H)
【0067】
【化16】

【0068】
Arを流した中で、四塩化炭素に、9(981mg,3.18mmol)を溶解させ、5g シリカゲル 60(MERCK)、N-ブルモこはく酸イミド(NBS)(572mg,3.21mmol)を加え40℃に加熱し、1日攪拌した。その後、反応系を室温に戻し、ろ過し、沈殿は酢酸エチルで洗った。溶液を減圧濃縮し、得られた残渣を酢酸エチル−チオ硫酸ナトリウム水溶液系で1回抽出し、Na2SO4で乾燥後、減圧濃縮した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液変化;ヘキサン:クロロホルム=1:1→1:2、クロロホルム)で分離精製し、茶色のオイル状目的化合物10(964mg,2.49mmol,収率78.3%)を得た。
【0069】
1H-NMR(300mHz,CDCl3)δ(ppm)=1.19(s,12H,-CH3),1.92-2.02(m,4H,-CH2 -),
3.75-3.84(m,4H,-O-CH2 -),4.03-4.09(m,4H,Ar-O-CH2 -),
6.84(d,2H,Ar-H,J=8.7Hz),7.02-7.08(m,2H,Ar-H)
【0070】
【化17】

【0071】
Arを流した中で、15ml 1,4-ジオキサンに、11(90.2mg,0.233mmol)を溶解させ、ビス(ネオペンチルグリコラート)ジボロン(86.8mg,0.384mmol)、PdCl2(dppf)2・CH2Cl2(47.6mg,0.0333mmol)、KOAc(70mg,0.72mmol)を加え、脱気した。その後、90℃に加熱し、4時間攪拌した。その後、反応系を室温に戻し、セライトを通して吸引ろ過し、沈殿は酢酸エチルで洗った。ろ液を減圧濃縮した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液変化;ヘキサン:酢酸エチル=15:1→10:1→3:1)で分離精製し、粘性のある白色固体の目的化合物11(52.7mg,0.124mmol,収率53.8%)を得た。
【0072】
1H-NMR(300mHz,CDCl3)δ(ppm)=1.01(s,6H,-B-O-CH2-C(CH3)2),
19(s,12H,-OC(CH3)2),1.95-2.01(m,4H,-CH2-),3.74(s,4H,-B-O-CH2 -),
3.77-3.86(m,4H,-O-CH2 -),4.07-4.12(m,4H,Ar-O-CH2 -),
6.94(d,1H,Ar-H,J=8.1Hz),7.40-7.42(m,1H,Ar-H),7.42(s,1H,Ar-H)
【0073】
【化18】

【0074】
Arを流した中で、16ml トルエン、4ml エタノールの混合溶媒に11(132mg,314mmol)を溶解させ、Pd(PPh3)4(39.0mg,0.0338mg)を加え、脱気した。そこに、5(162mg,0.345mmol)、K2CO3(353ml,2.55mmol)を加え、脱気した。その後、4時間攪拌した。その後、反応系を室温に戻し、セライトを通して、吸引ろ過をし、沈殿は酢酸エチルで洗った。ろ液を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液変化;ヘキサン:クロロホルム=1:1)で分離精製し、光沢のある黒色フィルム状固体の目的化合物12(132mg,0.202mmol,収率65.3%)を得た。
【0075】
1H-NMR(300mHz,CDCl3)δ(ppm)=1.19-1.28(m,12H,-O-C(CH3)2-),
2.00-2.05(m,4H,-CH2 -),2.24(s,3H,-CH3),2.37(s,3H,-CH3),
3.78-3.82(m,2H,Bn-O-CH2 -),3.85-3.90(m,4H,-O-CH2 -)
4.11-4.19(m,4H,Ar-O-CH2 -),4.25(t,2H,Bn-O-CH2-CH2 -,J=4.7Hz),
4.66(s,2H,Ph-CH2 -),5.86(s,1H,Ar-H),6.01(s,1H,-CPh-CH=),
6.96(s,1H,Ar-H),7.00(d,1H,Ar-H,J=8.4Hz),7.30-7.40(m,5H,-O-CH2-Ph),
7.54-7.58(m,1H,Ar-H),7.63-7.64(m,1H,Ar-H)
【0076】
【化19】

【0077】
Arを流した中で、5ml トルエンに12(6.2mg,0.00961mmol)を溶解させ、そこに、0.5m Et3N(0.50ml,3.59mmol)、BF3・Et2O(0.50ml,3.95mmol)を加えた。その後、40℃に加熱し、1時間攪拌した。その後、反応系を室温に戻し、トルエン−0.1M Cs2CO3水溶液系で抽出し、MgSO4で乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液;クロロホルム)で分離精製した。その後、GPC(溶離液;クロロホルム)で精製し、ピンク色のフィルム状固体の目的化合物13(1.2mg,0.00173mmol,収率18.0%)を得た。
【0078】
1H-NMR(300mHz,CDCl3)δ(ppm)=1.20-1.21(m,12H,-O-C(CH3)2-),
1.98-2.04(m,4H,-CH2-),2.25(s,3H,-CH3),2.48(s,3H,-CH3),
3.78-3.82(m,2H,Bn-O-CH2 -),3.84-3.87(m,4H,-O-CH2 -),
4.14(t,4H,Ar-O-CH2,J=5.7Hz),4.27-4.30(m,2H,Bn-O-CH2-CH2 -),
4.66(s,2H,Ph-CH2 -),5.93(s,1H,Ar-H),6.04(s,1H, Ar-H ),
6.99(d,1H,Ar-H,J=8.4Hz),7.30-7.37(m,5H,-O-CH2-Ph),7.55-7.60(m,1H,Ar-H),
7.57-7.60(m,1H,Ar-H)
【0079】
【化20】

【0080】
7ml 酢酸エチル:エタノール=4:1に13を溶解させ、Pd,5%wt.on activated
carbon、トリフルオロ酢酸を加え、40℃に加熱し、水素下で18時間攪拌した。その後、反応系を室温に戻し、セライトを通して、吸引ろ過をし、沈殿は酢酸エチルで洗った。ろ液を減圧濃縮した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液変化;クロロホルム:酢酸エチル=2:3)で分離精製し、ピンク色のフィルム状固体の目的化合物14(1.4mg,0.00239mmol,収率24.0%)を得た。
【0081】
1H-NMR(300mHz,CDCl3)δ(ppm)=1.20-1.25(m,12H,-O-C(CH3)2-),
1.99-2.04(m,4H,-CH2 -),2.26(s,3H,-CH3),2.49(s,3H,-CH3),
3.78-3.87(m,4H,-O-CH2 -),4.03-4.05(m,2H,-CH2 OH),
4.15(t,4H,Ar-O-CH2,J=5.6Hz),4.22-4.25(m,2H,-CH2 -CH2-OH),
5.96(s,1H,Ar-H),6.05(s,1H, Ar-H ),7.00(d,1H,Ar-H,J=8.4Hz),
7.57-7.61(m,1H,Ar-H),7.61(s,1H,Ar-H)
【0082】
2.多孔質ガラス(基材)への固定化
【0083】
【化21】

【0084】
KBL-02を固定化する基板として、VYCOR(登録商標)Porous glass 7930(Corning Incorporated, Lighting & Materials, New York)を使用した。多孔質ガラス内部の表面積は250m2/g、微細孔の平均直径は、4×10-9m。厚さ1mm、13×30mmの大きさにガラスを切った。トリエトキシルプロピルイソシアネート(335mg,1.37mmol)を入れた20ml トルエン溶液を130℃に加熱還流した。そこに、ガラススライドを入れ、20分間ゆっくりと攪拌した。ガラススライドを取り出し、トルエンにつけて超音波で2回洗浄した。KBL-02(0.1mg)を入れた10mlトルエンにガラススライドを浸した。そこに、トリエチルアミン(1mg,0.003mmol)を入れた1ml トルエンを入れ、20時間室温で放置した。その後、トルエンで2回、酢酸エチルで3回、メタノールで3回、水で3回超音波洗浄をし、ピンク色のグラススライドを得た。これを超純水中に保存した。
【0085】
実施例2 リチウムイオン濃度の測定
1.測定機器
吸光測定装置には、Hitachi U-2001 double beam spectrophotometer (日立製作所製)、蛍光測定装置には、日立F-4500型分光蛍光光度計(日立製作所製)を用いた。測定には、1×1cmのプラスチックセルを用い、色素を結合したガラススライドをセルの対角線上に固定し測定した。
【0086】
2.リチウムイオンに対する応答性
実施例1で作製した、リチウムイオン応答性色素をガラススライド上に結合したオプトード(以下、「ガラスオプトード」)のリチウムイオン応答性を調べた。各種濃度のリチウムイオンを含む水溶液(塩化リチウム)を調製し、実施例1で作製したガラスオプトードを室温下で各水溶液と接触させ、約10分後、上記測定機器を用いて吸収スペクトル及び蛍光(発光)スペクトル(励起光波長525nm)を測定した。
【0087】
結果を図1及び図2に示す。図1に吸収スペクトル、図2に蛍光スペクトルを示す。図1に示されるように、吸光度は、リチウムイオンの濃度増加と共に波長511nmにおける吸光度が最も増加し、波長541nmにおける吸光度が最も減少した。同様に、蛍光強度は、リチウムイオンの濃度増加と共に波長543nmの蛍光強度が最も増加し、波長561nmにおける蛍光強度が最も減少した。
【0088】
そこで、これらの各2波長における吸光度又は蛍光強度の比をそれぞれ算出し、吸光度比(波長541nmにおける吸光度/波長511nmにおける吸光度)及び蛍光強度比(波長561nmの蛍光強度/波長543nmの蛍光強度)を求めた。リチウムイオンの常用対数を横軸に、吸光度比を縦軸にとった図を図3に、リチウムイオンの常用対数を横軸に、蛍光強度比を縦軸にとった図を図4にそれぞれ示す。
【0089】
図3に示されるように、吸光度比は、リチウムイオン濃度が10-3Mから10-1Mの間で概ね直線的に変化しており、この濃度範囲でリチウムイオン濃度が測定可能であることが明らかになった。また、図4に示されるように、蛍光強度比は、リチウムイオン濃度が10-4Mから10-1Mの間で概ね直線的に変化しており、この濃度範囲でリチウムイオン濃度が測定可能であることが明らかになった。
【0090】
3.光耐久性
励起光として用いる波長525nmの光(キセノンランプで150ワット)を、種々の時間照射し続けた後のガラスオプトードを用い、リチウムイオン濃度が0M(純水)、10-1M、10-2M、10-3Mの水溶液について、上記蛍光強度比(561nm/543nm)を測定した。照射時間を横軸、蛍光強度比を縦軸にとった図を図5に示す。
【0091】
図5に示されるように、光を照射し続けたガラスオプトードを用いて測定しても、蛍光強度比は変化せず、ガラスオプトードの光耐久性が優れていることが明らかになった。
【0092】
4.リチウムイオンに対する選択性
各種濃度のカルシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン又はナトリウムイオンを含む水溶液(塩化物塩)を調製し、上記と同様にして蛍光強度比を測定した。結果を図6に示す。なお、リチウムイオンについての測定結果も図6に併せて示す。
【0093】
図6に示されるように、蛍光強度比は、リチウムイオンについてのみ濃度依存的に変化したが、他の金属イオンでは、蛍光強度比はイオン濃度に拘らずほぼ一定であった。このことから、ガラスオプトードが、リチウムイオンに対して選択的に応答することが確認された。
【0094】
5.pH依存性
pHが4〜8の水を調製し、上記と同様にして蛍光強度比を測定した。結果を図7に示す。
【0095】
図7に示されるように、pHが変化しても蛍光強度比はほとんど一定であり、このガラスオプトードを用い、広範囲のpH下で測定が可能であることが明らかになった。
【0096】
6.各種イオンを含む水溶液中でのリチウムイオンに対する応答性
リチウムイオンと同濃度のナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンを含む水溶液を調製し、上記と同様にして蛍光強度比を測定した。リチウムイオン濃度の常用対数を横軸にとり、蛍光強度比を縦軸にとった図を図8に示す。
【0097】
図8に示すように、水溶液中に各種イオンが共存する場合であっても、リチウムイオンが単独で存在する場合とほぼ同様な結果が得られ、各種イオンが共存していてもリチウムイオンを選択的に測定可能であることが明らかになった。
【0098】
7.再現性
上記6と同じ実験を合計3回行なったところ、ほぼ完全に一致する結果が得られた。これにより、測定の再現性が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】実施例で作製した本発明のオプトードの吸光スペクトルを示す図である。
【図2】実施例で作製した本発明のオプトードの蛍光スペクトルを示す図である。
【図3】実施例で測定された、リチウムイオン濃度と、吸光度比(波長541nmにおける吸光度/波長511nmにおける吸光度)の関係を示す図である。
【図4】実施例で測定された、リチウムイオン濃度と、蛍光強度比(波長561nmの蛍光強度/波長543nmの蛍光強度)の関係を示す図である。
【図5】実施例で作製したオプトードに光を照射し続けた後、各種イオン濃度の水溶液について蛍光強度比を測定した際の、照射時間と蛍光強度比の関係を示す図である。
【図6】各種濃度のカルシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン又はナトリウムイオンを含む水溶液について、蛍光強度比を測定した際の各イオンの濃度と蛍光強度比の関係を示す図である。
【図7】各種pHの水について、蛍光強度比を測定した際のpHと蛍光強度比の関係を示す図である。
【図8】リチウムイオンと同濃度のナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンを含む水溶液について蛍光強度比を測定した際の、リチウムイオン濃度と蛍光強度比の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]で表される構造を有するイオン応答性色素を、共有結合によって基材に固定化したことを特徴とするイオン測定用オプトード。
【化1】

ここで、
R1及びR2のいずれか一方が、前記イオンと結合して前記色素の吸光特性及び/又は蛍光特性を変化させるイオン応答性基であり、
R1〜R7のうち、前記イオン応答性基以外のいずれか1つが、前記基材と共有結合する共有結合性基であり、
R1〜R7のうち、前記イオン応答性基及び前記共有結合性基以外のものは互いに独立して水素又はメチル基である。
【請求項2】
前記一般式[I]中、R1が前記イオン応答性基であり、R3が前記共有結合性基である請求項1記載のオプトード。
【請求項3】
前記一般式[I]中、R5及びR7がメチル基であり、R2、R4及びR6が水素である請求項2記載のオプトード。
【請求項4】
前記共有結合性基が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基若しくはハロゲン又はこれらの基を有するアルキル基若しくはアルコキシ基である請求項1〜3のいずれか1項に記載のオプトード。
【請求項5】
前記共有結合性基が、下記の構造を有する請求項4記載のオプトード。
【化2】

【請求項6】
前記基材が表面にOH基を有する物質であり、該OH基と前記共有結合性基とをシランカップリング剤により結合させた請求項1〜5のいずれか1項に記載のオプトード。
【請求項7】
前記シランカップリング剤が3-(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネートである請求項6記載のオプトード。
【請求項8】
前記基材がガラス又はプラスチックである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のオプトード。
【請求項9】
前記イオン応答性基が、リチウムイオン応答性基である請求項1〜8のいずれか1項に記載のオプトード。
【請求項10】
前記リチウムイオン応答性基が下記一般式[II]で表される構造を有する請求項9記載のオプトード。
【化3】

ここで、Xは下記式(1)〜(6)のいずれかで表される基である。
【化4】

ここで、R8〜R11は互いに独立して水素または炭素数1〜3のアルキル基である。
【化5】

【請求項11】
前記一般式[II]中のXが前記式(1)で表され、前記式(1)中のR8〜R11は全てメチル基である請求項10記載のオプトード。
【請求項12】
前記イオン応答性色素が、下記式(7)で表される請求項1〜11のいずれか1項に記載のオプトード。
【化6】

【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のイオン測定用オプトードを用いて溶液中のイオン濃度を測定する方法であって、該溶液と該オプトードとを接触させ、該オプトードの吸光度又は蛍光強度を測定することを含む、イオン濃度の測定方法。
【請求項14】
対象となるイオンの濃度が増大した時に、イオン応答性色素の吸光度が増大する波長と、吸光度が減少する波長の2波長で吸光度を測定し、その比を求めることにより当該イオンの濃度を測定する請求項13記載の方法。
【請求項15】
対象となるイオンの濃度が増大した時に、イオン応答性色素の蛍光強度が増大する波長と、蛍光強度が減少する波長の2波長で蛍光強度を測定し、その比を求めることにより当該イオンの濃度を測定する請求項13記載の方法。
【請求項16】
水処理薬剤と共にトレーサ物質としてのリチウムの水溶性塩を被処理水中に添加し、リチウムイオン濃度を請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法で測定することにより、被処理水中に添加した前記水処理薬剤の濃度管理を行うことを特徴とする水処理薬剤の濃度管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−54242(P2010−54242A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217172(P2008−217172)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000101042)アクアス株式会社 (66)
【Fターム(参考)】