説明

イオン源試料プレート照射システム

【課題】試料プレートの試料を含む領域を、他の領域から容易に識別できるようにするための有効な手段を提供する。
【解決手段】イオン源(4)は、試料をイオン化するためのレーザと、レーザから間隔をあけて配置され、試料を受け入れるようになっている試料プレート(12)表面と、試料プレート表面に隣接し、試料プレート表面に照射される光ビーム(8)を、試料プレート表面との間にかすめ角(14)をなすように発生させる照射装置(6)とを備える。かすめ角14は、例えば、約0°〜約15°の範囲とすることが可能であるが、それより大きな角度とされても良い。照射装置としては、ハロゲンまたはLED灯を含む種々の光源が用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料プレート表面からイオンを発生させるイオン源、及びそれを含む分析システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、化学及び生物学的試料中の化合物の定性及び定量測定に用いられる分析方法である。試料中の検体をイオン化し、質量分析計によってその質量に基づいて分離し、検出して、質量スペクトルが生成される。質量スペクトルによって、その試料を構成している各種検体の質量に関する情報、場合によっては、量に関する情報が得られる。特定の実施態様では、質量分析法を利用して、試料中の検体の分子量または分子構造を求めることが可能である。質量分析法は迅速で、特異性で、高感度のため、質量分析装置は、生物学的検体の迅速な同定及び特性解明に広く用いられてきた。
【0003】
ここ数年の間に、マトリックス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)法が、試料のイオン化に役立つことが立証され、ゲノミクス及びプロテオミクスといった、さまざまな分野に幅広い用途を見出してきた。MALDI法を実施する場合、試料が、試料と共結晶化する有機マトリックスと結合され、さらに、MALDI試料プレートに付着させられる。MALDI試料プレートは、MALDIイオン源上に配置され、レーザ・ビームによって試料が気化される。試料の気化中に、検体イオンが生成される。マトリックスの存在によって、検体のイオン化が可能になり、他の方法の問題が解消されるものと考えられる。MALDI法は、大気圧(例えば、AP−MALDIの場合)、または、大気圧未満(例えば、真空内または中間圧)で実施可能である。
【0004】
MALDIイオン源は、MALDIイオン化検体を研究するため、例えば、質量分析計のような分析装置と一体化されることも多くある。そのような場合、多くは飛行時間型質量分析計(「TOF−MS」)が用いられるが、イオン・サイクロトロン共鳴質量分析計(例えば、フーリエ変換イオン・サイクロトロン共鳴質量分析計)、イオン・トラップ質量分析計(例えば、高周波四重極イオン・トラップ質量分析計)、または、ハイブリッド計器(例えば、四重極/飛行時間型質量分析計、Q−TOF)を含む、さまざまな他の質量分析計を利用することも可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MALDIを利用して試料をイオン化する場合、一般には、MALDI試料プレート上の領域を検分して、その領域に試料が付着したことを確かめ、MALDIレーザが実際に試料に衝撃を与えることになるか確認するのが望ましい。すなわち、試料の詳細な画像、とりわけ、検体の結晶領域を示す画像を生成するイメージング・システムが必要とされる。
【0006】
本発明の目的は、MALDI技術に関する上述の要求を満足させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、試料プレート、及び当該試料プレートの表面に接して、その表面との間にかすめ角をなす光ビームを生じるように構成された照射装置を含む、質量分析システムイオン源が得られる。イオン源には、例えば、CCDまたはCMOSカメラ等のような、領域を検分するための撮像装置を含むことも可能である。実施態様の1つでは、撮像装置は、例えば、ビデオ・モニタのようなディスプレイに接続することが可能である。イオン源を用いる方法及び質量分析システムも得られる。本発明は、さまざまな分析方法に用途を見出すことができる。例えば、本発明は、化学、環境、法医学、食品、薬剤、及び、生物学研究用途に使用され得る。
【0008】
即ち、本発明は、試料をイオン化するためのレーザと、レーザから間隔をあけて配置され、試料を受け入れるようになっている試料プレート表面と、試料プレート表面に隣接し、試料プレート表面に照射される光ビームを、試料プレート表面との間にかすめ角をなすように発生させる照射装置と、を備えることを特徴とするイオン源を提供する。
【0009】
好ましくは、かすめ角は、約0°〜約10°の範囲内とされる。また、イオン源は、約約1.33×10−6パスカル〜約3.33×10パスカルの範囲内の圧力で動作するMALDIイオン源を含み得る。さらに、照射装置は、光源に接続された光ファイバの光導波路を含むことができる。また、イオン源は、さらに 試料プレート表面を検分するための撮像装置を備えることができる。この場合、撮像装置は、イオン源の外部にあるディスプレイに結合され得る。
【0010】
さらに、本発明は、試料をイオン化するためのレーザ、レーザから間隔をあけて配置され、試料を受け入れるようになっている試料プレート表面、及び試料プレート表面に隣接され、試料プレート表面との間にかすめ角をなすよう試料表面に照射される光ビームを発生する照射装置を具備するイオン源と、イオン輸送装置と、質量分析計と、を備えることを特徴とする質量分析システムを提供する。
【0011】
好ましくは、質量分析計は、四重極、3連四重極、三次元イオン・トラップ、線形イオン・トラップ、飛行時間(TOF)、磁場型、フーリエ変換イオン・サイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析計からなる群から選択される。
【0012】
さらに、本発明は、イオン源において試料プレート表面上のある領域の画像を生成する方法であって、試料プレート表面に照射されて、試料プレート表面との間にかすめ角をなす光ビームを領域に送り込み、試料プレート表面が照射されるようにすることによって、領域を照射する工程と、撮像装置を利用して、領域の画像を生成する工程と、を有することを特徴とする方法を提供する。
【0013】
加えて、本発明は、イオン源内に試料プレートを位置決めする方法であって、試料プレート表面に照射されて、試料プレート表面との間にかすめ角をなす光ビームを試料に送り込むことによって、試料を照射し、さらに、撮像装置を利用して、試料の画像を生成することによって、試料プレート表面に配置された試料の位置情報を得る工程と、位置情報を利用して、イオン源内における試料プレートの位置決めを行い、試料をイオン化できるようにする工程と、を有することを特徴とする方法を提供する。
【0014】
本明細書に説明されるように、本発明によれば、イオン源内の試料プレートを照射して、試料プレートの試料を含む領域を試料プレートの試料を含まない領域から容易に識別できるようにするための有効な手段が得られる。本方法を利用して、試料を含む試料プレート領域を識別することが可能である。従って、本発明を利用して、検体を含む試料を含んでいる試料領域を識別し、イオン化することが可能である。本発明は、とりわけ、少量の試料、検体濃度の低い及び/またはマトリックス濃度の低い試料、及び、テクスチャ加工試料プレートの表面に存在する試料の同定に用途を見出す。先行技術によるイオン源試料プレート照射装置では、これらの特徴を得ることはできない。
【0015】
本発明は、とりわけ、マトリックス支援イオン源(例えば、AP−MALDIまたは大気圧未満MALDIイオン源)に存在する試料プレートの照射に用途を見出す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施形態となるイオン源、それを含むシステム及びその動作方法について詳細に説明する。別段の規定のない限り、本明細書で用いられる全ての技術及び科学用語は、本発明の属する技術における通常の技術者によって一般に理解されているのと同じ内容を意味するが、以下では、いくつかの要素について、明確にし、論及し易くするため、定義を示すことにする。
【0017】
「利用」という用語は、本明細書において、通常用いられるように使用される。従って、ある目的を達成するためにある方法または組成物を用いること、例えば、役立てることを表わしている。例えば、プログラムを利用してファイルを作成する場合、プログラムを実行してファイルを作成するが、そのファイルは、通常、プログラムの出力である。他の1つの例では、ファイルを利用する場合、ファイルにアクセスして、読み取り、ファイルに記憶されている情報を用いて、目的が達成されることになる。
【0018】
「イオン源」は、質量分析システムにおける分析のためにイオンを生じさせる任意の装置である。典型的なイオン源には、電子衝撃(EI)及びマトリックス・ベース・イオン源、並びに、その他のイオン源が含まれる。イオン源は、任意の周囲圧力(例えば、約1.33×10−6パスカル〜約3.33×10パスカル)で動作させることが可能であるが、ここで、「周囲圧力」は、イオン源のエンクロージャ内における圧力である。イオン源内の周囲圧力は、高真空(例えば、約1.33×10−6パスカル〜約1.33×10−2パスカル)、または他の場合に、大気圧(約1.0×10パスカル、すなわち、約9.21×10パスカル〜約1.08×10パスカルの間)を含む1.33×10パスカル〜約3.33×10パスカルの範囲の任意の圧力とすることが可能である。換言すれば、イオン源は、大気圧、大気圧を超える圧力、または、大気圧未満の圧力で動作させることが可能である。
【0019】
「マトリックス・ベース・イオン源」という用語は、試料が、そのイオン化の前に、一般に有機マトリックスである、マトリックスと結合され、試料プレートに付着させられるイオン源を表わしている。マトリックス・ベース・イオン源は、イオン化を揮発性溶剤に頼らない。典型的なマトリックス・ベース・イオン源には、高速原子衝撃(FAB)イオン源及びマトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)イオン源が含まれる。「MALDI」という用語には、本明細書において用いられる限りにおいて、大気圧MALDI(AP−MALDI)、並びに、大気圧未満MALDI(例えば、真空または中間圧MALDI)が含まれる。従って、例えば、MALDIイオン源またはMALDI試料プレートといったMALDI装置への言及は、AP−MALDIに利用するのに適した、または、大気圧未満MALDI(例えば、真空または中間真空MALDI)法に利用するのに適した装置を示唆している。
【0020】
「イオン源試料プレート」または「イオン源に用いるように構成されたイオン源」は、質量分析システムのイオン源内における利用に適した試料プレートである。イオン源試料プレートは、例えば、円形、正方形、矩形、楕円形等といった任意の形状をとることが可能であり、例えば、任意の金属といった任意の材料から製作することが可能である。イオン源試料プレートの表面上にある試料は、イオン源によってイオン化される。
【0021】
「隣接する」という用語は、近いか、隣にあるか、または、近接することを表わしている。隣接する何かは、別のコンポーネントと接触している場合もあり、他のコンポーネントを包囲している場合もあり、他のコンポーネントから間隔をあけている場合もあり、あるいは、他のコンポーネントの一部を含んでいる場合もあり得る。
【0022】
「かすめ角」は、0°〜15°の角度である。
【0023】
本発明によれば、試料プレートと、試料プレートの表面に接して、試料プレート表面との間にかすめ角をなす光ビームを生じるように構成された照射源を含む、質量分析システムイオン源が得られる。イオン源には、例えば、CCDまたはCMOSカメラ等のような、領域を検分するための撮像装置を含むことも可能である。実施態様の1つでは、撮像装置は、例えば、ビデオ・モニタのようなディスプレイに接続することが可能である。イオン源を用いる方法及び質量分析システムも得られる。本発明は、さまざまな分析方法に用途を見出す。例えば、本発明は、化学、環境、法医学、食品、薬剤、及び、生物学研究用途に使い道を見出す。
【0024】
本明細書で列挙される方法は、論理的に可能な、列挙される事象の任意の順序、並びに、事象の列挙される順序で実施することが可能である。さらに、ある値域が規定されている場合、もちろん、その値域の上限と下限の間の全ての介在値、及び、任意の他の規定値域、または、その規定値域内における介在値は、本発明内に含まれる。
【0025】
引用事項は、ただ単に、本出願の提出日前にそれらが開示されているという理由で提示されているだけである。これを考慮すると、本発明には、先行発明を理由にこうした資料に先行する資格がないと解釈すべき点は全くない。
【0026】
単数形の品目への言及には、複数の同じ品目が存在する可能性が含まれる。すなわち、本明細書及び付属の請求項において用いられる限りにおいて、「ある……」、「1つの……」、「前記……」、「その……」といった単数形には、文脈において明確に別段の規定がない限り、複数の指示対象が含まれている。
【0027】
[試料プレート照射装置について]
上述のように、本発明によればイオン源が得られる。図1には、本発明によるイオン源の一般的な特徴が例示されている。図1を参照すると、イオン源4には、試料プレート12と照射装置6が含まれている。照射装置は、試料プレートの表面と接して、試料プレート表面との間にかすめ角をなす光ビームを生じるように構成されている。試料プレート表面の少なくとも一部は、照射装置によって照射される。従って、いくつかの実施態様では、照射装置は、試料プレートの表面に対してかすめ角14をなすように、試料プレート表面の領域10に入射する、縦軸8を備えた光ビームを生じるように構成されている。照射装置は、一般に、一方の側からその領域を照射する有向光を発生する。
【0028】
照射領域には、イオン化すべき付着試料を含むことが可能であるが、いくつかの実施態様では、照射領域に、イオン源に用いられるイオン化レーザの衝撃点を含む場合もある。照射領域は、付着試料の表面全体とすることも、あるいは、その任意の領域とすることも可能である。特定の実施態様では、照射領域は、少なくとも、付着試料のサイズ、または、付着試料より小さいサイズである。照射領域のサイズは、要求に応じて調整可能である。
【0029】
かすめ角14は、一般に、試料プレート表面からの光の散乱及び反射を最小限に抑えて、試料プレート表面上の任意の三次元構造から反射、回折、及び/または、散乱光を生じさせ、それによって、試料を含む領域と試料を含まない領域との間に際立ったコントラストをもたらすのに十分である。実施態様によっては、例えば、かすめ角14は、約0°〜約15°の範囲とすることが可能であり、実施態様によっては、約0°〜約5°または約5°〜約10°とすることが可能である。従って、実施態様によっては、試料プレート表面に対する有向光の入射角(すなわち、表面の衝撃点に垂直な線に対する、試料プレート表面への光の衝突角度)は、例えば、約75°〜約90°の範囲に拡大することもできるし、実施態様によっては、約85°〜約90°の範囲、または、約80°〜約85°とすることも可能である。実施態様によっては、光ビームの縦軸を試料プレート表面に対してほぼ平行(すなわち、それから15°以内)にすることも可能である。
【0030】
照射には、任意のタイプの光を用いることが可能である。たとえば、約600nm〜約2000nmの範囲内における任意の波長または波長範囲を用いることが可能である。例えば、光は、偏光でも、あるいは、非偏光でもかまわない。従って、本明細書において用いられる照射装置には、ハロゲンまたはLED灯を含む光源を含めて、多種多様な光源を利用することが可能である(例えば、明るい光のLED灯等)。必要というわけではないが、照射装置には、光を操作して、前記領域に向けることができるようにするため、ミラー、レンズ、及び、他の光学コンポーネントを含むことが可能である。例えば、照射光は、ミラーによって、かすめ角で試料プレートに向けることもできるし、あるいは、レンズを利用して、試料プレートに向けて集束させることも可能である。
【0031】
一般に、照射装置は、有向光を発生し、領域は、照射装置によって直接照射される(すなわち、領域は、イオン源の1つ以上の壁面から反射される光ではなく、入射光によって照射される)。これに関して、有向光は、例えば、円錐のエッジではなく、その中心が最も強い光錐であり、テーパ角度は、例えば、約0°〜30°の範囲といった、約0°〜45°の範囲内である。換言すれば、実施態様の1つにおいて、本明細書に解説の本発明で用いられる有向光は、光エネルギの95%が円錐の中心縦軸から15°以内に集まるようなエネルギ分布を有する円錐形状をなしている。実施態様の1つでは、有向光は、光ファイバによって光を導くことによって、発生させることが可能である。光ファイバの受光角内にある光だけを光ファイバに入射させ、全内反射によって光ファイバの中を伝導させることができるので、光ファイバを出射する光は、有向であり、一般に、受光角と同等の広がり角の円錐をなしている。有向光は、例えば、屈折素子または反射素子のような集束コンポーネント(例えば、レンズ)を利用して形成することも可能である。有向光は、光ファイバ及び集束コンポーネントを利用して形成することも可能である。有向光のテーパ角度は、約0°〜約10°、約10°〜約20°、約20°〜約30°、約30°〜約40°、または、約40°〜約45°の範囲である。換言すれば、本明細書において用いられる照射装置は、全方向に光を放射するものではない。
【0032】
追加光学素子を含む場合もあれば含まない場合もある利用される照射装置のタイプ、及び、照射すべき領域のサイズに従って、照射装置と照射される領域との間の最適距離が大幅に変動する可能性があるが、容易に決定することが可能である。いくつかの実施態様では、照射装置と照射される領域との間の距離は、例えば、約2cm〜約5cm、約5mm〜約2cm、または、約8mm〜約10mmといった、約5mm〜約10cmの範囲になる。
【0033】
照射すべき試料プレートは、任意の形状をなすことが可能であり、任意の材料から作製することが可能である。照射すべき試料プレートの表面は、金属(例えば、金またはステンレス鋼等)または窒化チタンのような金属窒化物を含む、任意の材料から作製することが可能である。表面は、研磨することもできるし、あるいは、凸凹にすることも可能である。試料プレートは、例えば、AP−MALDI試料プレートまたは大気圧未満(例えば、真空または中間真空)MALDIプレートのような、任意のタイプの試料プレートとすることが可能である。
【0034】
当該技術者には明らかなように、照射装置は、その表面の平面内における試料プレートの自由な移動を可能にするため、試料プレートに隣接するが、間隔をあけることが望ましい。従って、いくつかの実施態様では、照射装置と試料プレートとの間隔は、最低0.1mm(例えば、0.1mm〜約10mm、約0.2mm〜約2mm、または、約0.5mm〜約1mmの範囲内)とすることが可能である。
【0035】
図2に例示のように、本発明のイオン源には、さらに、照射装置によって照射される領域の少なくとも一部を画像生成するための撮像装置を含むことが可能である。図2に例示のように、照射装置6によって、光8が領域10に向けて送られ、領域10によって反射、回折、及び/または、散乱する光(すなわち、領域10によって反射、回折、及び/または、散乱し、撮像装置に向かう光)24が、撮像装置22によって検出される。撮像装置は、任意のタイプのカメラとすることが可能であるが、ディジタル化出力を送り出すカメラ(すなわち、ディジタル・カメラ)を用いるのが最も容易である。いくつかの実施態様では、用いられるカメラは、電荷結合素子(CCD)または相補型金属酸化膜半導体(CMOS)カメラとすることが可能である。
【0036】
図2、及び図3に例示されるように、照射装置及び試料プレート表面に対する撮像装置の位置決めは、大幅に変動する可能性がある。撮像装置は、量子プロセスにより、試料プレート12の表面に対して角度26で、反射、回折、及び/または、散乱するか、または、吸収され、放出される光を検出するように位置決めすることが可能である。角度26は、照射領域の画像生成に適した任意の角度とすることが可能である。すなわち、特定の実施態様では、角度26は、角度14を超え、試料プレート表面に対して、例えば、約30°〜約60°、または、約40°〜約50°といった、約20°〜約90°の範囲内である。図3(a)及び(b)には、「z」方向から(すなわち、試料プレート表面の上方から。ここで、「x」及び「y」方向は、試料プレート表面に対して平行である)見た本装置の実施態様の1つが例示されている。図3(a)に例示のように、z方向から見ると、照射光8及び検出光24は、角度40をなす。角度40は、いずれかの方向(すなわち、時計廻りまたは反時計廻り)において0°〜180°の範囲内の任意の角度とすることが可能である。図3(b)に例示のように、照射光8及び検出光24は、同一平面上に位置する(すなわち、0°の角度をなす)ことが可能である。こうした実施態様の場合、照射装置6は、z方向において撮像装置22の下方に位置することも可能である。
【0037】
一般に、撮像装置は、照射装置からの有向光を回避して、プレートの試料を含む領域と試料を含まない領域とのコントラストを最大にする配置及び構成が施されている。いくつかの実施態様では、試料プレート表面に対して同じ側から照射領域の画像生成を行い、検分することが可能である。従って、いくつかの実施態様では、角度40は、いずれかの方向において、約0°、0°〜約5°、約5°〜約10°、約10°〜約20°、または、約20°〜約30°の範囲とすることが可能である。
【0038】
検出光24は、撮像装置22と照射領域8との間に存在することが可能な、任意の数のミラー、レンズ、または、他の光学コンポーネントを介して、撮像装置22に送ることが可能である。
【0039】
実施態様によっては、撮像装置は、照射領域からの光を受光し、撮像装置の光検出器(すなわち、光検出器またはピクセル・セルのアレイ)は、光の方向に対して垂直な位置につくようになっている。換言すれば、実施態様によっては、撮像装置に入射する光が、撮像装置に用いられている光検出器の表面に対して垂直な方向に進む場合がある。他の実施態様では、撮像装置に入射する光が、光検出器の表面に対して垂直ではない方向に進む場合もある。
【0040】
本発明のもう1つの実施態様では、図4に例示のように、撮像装置22によって、処理のために信号処理装置36に転送される、照射領域の画像を表わした信号(例えば、その画像を表わすアナログまたはディジタル信号)を生成することが可能である。信号処理装置は、コンピュータとすることが可能であり、信号は、コンピュータ・メモリ内にファイルとして記憶することが可能である。記憶ファイルは、画像解析ソフトウェアにとってアクセスが可能であり、こうしたソフトウェアは、画像解析のため、コンピュータによって実行することが可能である。実施態様の1つでは、信号処理装置36は、例えば、コンピュータ・モニタ等のようなモニタといった、ディスプレイである。
【0041】
本発明のもう1つの実施態様では、さらに、図4に例示のように、照射装置6を、光導波路34を介して光源32に接続することができる。一つの実施態様では、照射装置6に、そのもう一方の端部が適合する光源に接続された、光ファイバ導波路の発光端部(すなわち、光の出射端)を含むことが可能である。こうした光ファイバ照射装置は、その光放射端から直接領域10を照射することもできるし、あるいは、光路内に配置された1つ以上の光学コンポーネント(例えば、集束レンズまたはミラー等)を介して間接的に照射することも可能である。
【0042】
多くの実施態様では、照射装置6及び撮像装置22は、一般に、イオン源内にあるが、光源32及び信号処理装置36(一般に、試料を検分するためのディスプレイとして用いることが可能)は、イオン源の外部に設けることが可能である。
【0043】
上述の試料プレート照射装置は、イオン源試料プレートのある領域を画像生成するのが望ましい、さまざまなシステムにおいて用いることが可能である。
【0044】
実施態様の1つでは、上述の試料プレート照射装置を用いて、試料を含む領域と試料を含まない領域を容易に識別することが可能な、試料プレート表面のある領域の画像が生成される。生成される画像は、いくつかの方法で用いることが可能である。例えば、画像を解析し、試料プレート上における試料の形状、寸法、及び、位置を表わす試料パラメータを求めることが可能である(手動で、または、ソフトウェアを利用して)。ある試料プレートに関する試料パラメータは、メモリ内のファイルに記憶しておき、イオン源がその試料プレート上の試料を含む領域にレーザを向けるのに利用することが可能である。こうした方法の概要については、あらゆる目的に適うように、そっくりそのまま本明細書において援用されている、2003年5月2日に提出され、米国特許公報第20040217278号として公開された、同時係属の米国特許出願第10/429,234号においてさらに詳細な記載がある。
【0045】
従って、実施態様の1つでは、本発明によって、試料プレート表面のある領域を照射する方法が得られる。この方法には、一般に、試料プレート表面に対してかすめ角をなすように、その領域に光を向けることによって、その領域を照射することが必要とされる。実施態様によっては、この方法には、さらに、撮像装置を利用して、その領域の画像を生成することが必要とされる場合もある。他の実施態様では、この方法に、さらに、コンピュータ可読媒体に画像を記憶すること、及び/または、画像を解析して、試料パラメータ・ファイルを作成することが必要になる場合もある。試料パラメータ・ファイルは、イオン源が試料プレートの試料を含む領域にレーザを向けるために用いることが可能である。
【0046】
もう1つの実施態様では、上述の試料プレート照射装置を用いて、イオン源に存在する試料プレートの画像が生成される。従って、本発明によれば、上述のように、試料プレート表面に対してかすめ角をなすように、試料プレートのある領域に光を向けるように構成された、照明装置を含むイオン源が得られる。この実施態様の場合、照明システムを用いて、試料プレートのある領域の画像を生成し、例えば、モニタのようなディスプレイにその画像を示すことが可能である。実施態様によっては、イオン源のレーザ衝撃点(すなわち、試料プレート表面におけるイオン源のイオン化レーザの衝撃点)をディスプレイに示すことが可能なものもある。従って、試料プレートにおけるイオン化レーザの衝撃点に関して、試料プレートの試料を含む領域の位置を検分することが可能であり、それに応じて試料プレートの位置を調整することにより(例えば、手動で)、放射時に、レーザが試料を含む領域に確実に衝突するようにすることが可能になる。
【0047】
この実施態様の場合、試料プレートのある領域の画像生成は、照射領域内にある試料のイオン化前、イオン化中、または、イオン化後に実施することが可能である。さらに、試料プレートの画像生成中に、試料プレート表面の平面内(すなわち、x−y平面内)において、試料プレートを移動させて、オペレータが試料を含む領域を識別し、過度に努力しなくても、それらの領域にイオン化レーザを向けることができるようにすることが可能である。
【0048】
図5には、本発明による典型的なイオン源の一般的な特徴が例示されている。図5を参照すると、典型的なイオン源4には、試料プレート表面に対してかすめ角をなすように、試料プレート12の領域10に光8を送るための照射装置6が含まれている。イオン源4には、領域10から反射する光24を受光するための撮像装置22も含まれている。この典型的なイオン源の場合、光24は、撮像装置22による検出前に、ミラー50から反射される。イオン源4には、領域10内にあるレーザ衝撃点58に向けられたイオン化レーザ56も含まれている。イオン源4には、イオン化源4からのイオンを輸送するため、レーザ衝撃点58の上方に位置するイオン出口毛細管も含まれている。図5に示す実施態様の場合、照射装置6は、光ファイバの光導波路38を介して外部光源32に接続された光ファイバ照射装置である。撮像装置22は、ケーブル38を介して外部ディスプレイ36に接続されている。試料を含む領域52は、モニタ36上に画像生成することが可能である。
【0049】
やはり、上述のイオン源は、制限するわけではないが、AP−MALDIイオン源または大気圧未満(例えば、真空または中間真空)MALDIイオン源を含む、任意のタイプのイオン源とすることが可能である。
【0050】
上記に鑑みて、本発明によれば、試料プレート上の試料をイオン化する方法も得られる。一般に、この方法には、試料プレート表面に対してかすめ角をなすように試料に光を送り込むことによって試料を照射し、試料をイオン化することが必要とされる。イオンが生じると、イオンはイオン源を出て、質量分析計に向かって進行し、そこで、解析される。
【0051】
[質量分析システムについて]
本発明によれば、上述のイオン源を含む質量分析システムも得られる。イオン源を含む質量分析システムは、一般に、当該技術において周知のところであり、本明細書において詳述する必要はない。一般論として、質量分析システム60には、1つ以上の中間室でつながれた、イオン源4とイオン検出器を含む質量分析器84が含まれている。図6には、MALDIイオン源を含む本発明の典型的な質量分析システムが示されている。当該技術において一般的なように、イオン源及び質量分析器は、イオン出口オリフィスを介してイオン源4を励起した後、イオンが輸送される少なくとも1つの中間室80によって分離されている。システムの要件に応じて、用いられる真空段を増減することも可能である。
【0052】
質量分析器及び検出器84には、例えば、当該技術において既知の、四重極、3連四重極、三次元イオン・トラップ、線形イオン・トラップ、飛行時間(TOF)、磁場型、フーリエ変換イオン・サイクロトロン共鳴(FTICR)、オービトラップ、または、他の質量電荷分析器を含むことが可能である。
【0053】
使用時、MALDIイオン源4が大気圧に保たれる場合、中間室80は、周囲圧力より約2桁低い圧力に保たれ、質量分析器84は、中間室よりも約2〜4桁低い圧力に保たれる。イオンは、そのイオン収集毛細管を介してイオン源4を出ると、イオン源4と中間室80の間の圧力差に起因するガス流によって、吹き流され、通常はスキマを介して、真空室80に送り込まれる。イオンは、中間室80(及び、存在する可能性のある、イオン・ガイド82、イオン・ビーム整形または集束レンズ)を通過して、質量分析器84に入り込む。質量分析器84は、イオンのm/z比を決定し、従って、試料中における検体の分子量を求めるのに役立つ。イオン・ガイド82は、当該技術において既知の、多極イオン・ガイド、分割多極イオン・ガイド、順次ディスクRFイオン・ガイド、イオン・ファンネル、または、他のイオン・ガイドとすることが可能である。イオン・ガイド82は、連続して、1つ以上の真空ポンプ段内にまで延びることもできるし、あるいは、単一真空段内に始端及び終端が来るようにすることも可能である。
【0054】
本発明は、試料の質量分析法に用途を見出すが、ここで、試料は、試料プレート表面に付着し、結晶化した任意の材料、または、材料の混合物とすることが可能である。試料には、一般に、問題となる1つ以上の成分を含むことが可能である。試料は、食材、環境物質、制限するわけではないが、血漿、血清、髄液、精液、リンパ液、皮膚、気道、腸管、及び、尿生殖路の外側切片、涙液、唾液、乳、血球、腫瘍、臓器を含む、被検体(例えば、植物または動物被検体)から分離された組織または液のような生体試料、及び、体外細胞培養成分(それらに制限する意図ではないが、細胞培養基内における細胞の成長から生じるところのならし培地、ウイルス感染していると推定される細胞、組換え細胞、及び、細胞成分を含む)、または、それらの任意の生化学画分からといった、さまざまな試料源から取り出すことが可能である。
【0055】
[キットについて]
イオン源の改装キットも得られる。こうしたキットには、上述の照射装置及び撮像装置を含む装置の構成のうちの任意のものが含まれる。キットには、イオン源に装置を組み込むための指示書を含むことも可能である。
【0056】
この方法を実施するための指示書は、一般に、適合する記録媒体に記録される。例えば、指示書は、紙またはプラスチック等のような被印刷物に印刷することが可能である。従って、指示書は、添付文書としてキット内に存在する場合もあれば、キットまたはそのコンポーネントの容器の表示(すなわち、パッケージングまたはサブパッケージングに関連した)に含まれる場合もある。他の実施態様では、指示書が、例えば、CD−ROM、ディスケット等のような適合するコンピュータ可読記憶媒体に納められた電子記憶データ・ファイルとして存在する。さらに他の実施態様では、キット内に実際の指示書は存在しないが、例えば、インターネットを介して、遠隔情報源から指示書を得るための手段が設けられている。この実施態様の一例が、指示書を見ることが可能な、及び/または、指示書をダウンロードすることが可能なウェブ・アドレスを含むキットである。指示書の場合と同様、指示書を得るためのこの手段も、適合する被印刷物に記録されている。
【0057】
以上の論述から明らかなように、本発明によれば、試料プレートを照射して、試料を含む領域を、試料を含まない他の領域から容易に識別できるようにするための重要な手段が得られる。従って、本発明は、質量分析測定技術に大いに寄与することになる。
【0058】
本明細書に引用された全ての刊行物及び特許は、個々の刊行物または特許が具体的に且つ個別に参考のため援用されるように指示されていたかのように、本明細書において参照されるよう援用されている。どの刊行物の引用も、その開示が提出日以前であるという理由によるものであり、本発明に、先行発明を理由にこうした刊行物に先行する資格がないことを認めるものと解釈すべきではない。
【0059】
本発明については、その特定の実施態様に関連して解説されてきたが、当該技術者には当然明らかなように、本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく、さまざまな変更を施し、同等物に置き換えることが可能である。さらに、多くの修正を施して、特定の状況、材料、合成物、プロセス、プロセスの1つまたは複数の工程を、本発明の目的、精神、及び、範囲に適応させることも可能である。こうした全ての修正は、特許請求の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施態様の概要を例示した図である。
【図2】本発明の第2の実施態様の概要を例示した図である。
【図3】(a)は、本発明の第3の実施態様の概要を例示した図であり、(b)は、本発明の第4の実施態様の概要を例示した図である。
【図4】本発明の第5の実施態様の概要を例示した図である。
【図5】本発明の第6の実施態様の概要を例示した図である。
【図6】本発明の典型的な質量分析システムの概要を例示した図である。
【符号の説明】
【0061】
4 イオン源
6 照射装置
8 照射光
10 領域
12 試料プレート
14 かすめ角
22 撮像装置
24 光


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をイオン化するためのレーザと、
該レーザから間隔をあけて配置され、前記試料を受け入れるようになっている試料プレート表面と、
該試料プレート表面に隣接し、該試料プレート表面に照射される光ビームを前記試料プレート表面との間にかすめ角をなすように発生させる照射装置と、を備えることを特徴とするイオン源。
【請求項2】
前記かすめ角は、約0°〜約15°の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
約1.33×10−6パスカル〜約3.33×10パスカルの範囲内の圧力で動作するMALDIイオン源を含むことを特徴とする、請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
前記照射装置は、光源に接続された光ファイバの光導波路を含むことを特徴とする、請求項1に記載のイオン源。
【請求項5】
前記試料プレート表面を検分するための撮像装置をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のイオン源。
【請求項6】
前記撮像装置は、前記イオン源の外部にあるディスプレイに結合されることを特徴とする、請求項5に記載のイオン源。
【請求項7】
試料をイオン化するためのレーザ、該レーザから間隔をあけて配置され、試料を受け入れるようになっている試料プレート表面、及び該試料プレート表面に隣接し、前記試料プレート表面との間にかすめ角をなすよう前記試料表面に照射される光ビームを発生する照射装置を具備するイオン源と、
イオン輸送装置と、
質量分析計と、を備えることを特徴とする質量分析システム。
【請求項8】
前記質量分析計は、四重極、3連四重極、三次元イオン・トラップ、線形イオン・トラップ、飛行時間(TOF)、磁場型、フーリエ変換イオン・サイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析計からなる群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の質量分析システム。
【請求項9】
イオン源において試料プレート表面上の特定の領域の画像を生成する方法であって、
前記試料プレート表面に照射されて、前記試料プレート表面との間にかすめ角をなす光ビームを前記領域に送り込み、前記試料プレート表面が照射されるようにすることによって、前記領域を照射する工程と、
撮像装置を利用して、前記領域の画像を生成する工程と、を有することを特徴とする方法。
【請求項10】
イオン源内に試料プレートを位置決めする方法であって、
前記試料プレート表面に照射されて、前記試料プレート表面との間にかすめ角をなす光ビームを試料に送り込むことによって、前記試料を照射し、さらに、撮像装置を利用して、前記試料の画像を生成することによって、前記試料プレート表面に配置された前記試料の位置情報を得る工程と、
前記位置情報を利用して、前記イオン源内における前記試料プレートの位置決めを行い、前記試料をイオン化できるようにする工程と、を有することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−344597(P2006−344597A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150885(P2006−150885)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】