説明

イオン源電極のクリーニング装置

【課題】 イオン源の引出し電極系を構成する電極の広い領域に亘って高速で堆積物を除去することができるクリーニング装置を提供する。
【解決手段】 引出し電極系10の相対向する二つの電極11、12間にクリーニングガス48を供給して当該電極間のガス圧をグロー放電を発生させるガス圧に保つクリーニングガス源42等の手段と、両電極11、12間に直流電圧を印加してグロー放電80を発生させるグロー放電電源60とを備えている。かつ、所定時間内の電極11、12間の異常放電の発生回数Nを測定する異常放電測定器84と、それで測定した異常放電の発生回数Nを用いてグロー放電電源60の出力電流Ig を所定幅ずつ増減させる制御を行う電源制御器86とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオン源の引出し電極系を構成する複数の電極の内の相対向する二つの電極を、当該イオン源からイオンビームを引き出していない時にクリーニングするクリーニング装置に関する。なお、この明細書において、単にイオンと言う場合は、正イオンを指す。
【背景技術】
【0002】
イオン源からイオンビームを引き出す運転を続けると、その引出し電極系を構成する電極に堆積物が堆積(付着)する。それを放置しておくと、電極間の異常放電等の不具合を惹き起こす。
【0003】
そこで、イオン源電極をクリーニングする技術の一例として、イオン化ガスの代わりに希ガスをイオン源のプラズマ室内に供給して、当該希ガスのイオンビームを引き出し、かつガス流量と引出し電圧のいずれか一方または両方を調整することによってイオンビームのビーム径を調整し、それによって、イオンビームを電極表面に堆積した堆積物に衝突させて、堆積物をスパッタによって除去するクリーニング技術が従来から提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4374487号公報(段落0024−0028、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のクリーニング技術では、希ガスのイオンビームを電極表面の堆積物に衝突させることによって堆積物を除去するのであるが、イオン源のプラズマ室内に供給する希ガスのガス流量や、引出し電極系に印加する引出し電圧をどのように調整しても、堆積物が除去される領域は、電極の孔(イオン引出し孔)周辺に限定されるので、それ以外の領域に堆積した堆積物を除去することはできない。従って、堆積物を除去することのできる領域が狭い。
【0006】
また、イオン源のプラズマ室内のプラズマからイオンビームとして引き出され、各電極に照射されるイオンビーム電流の上限値は、原理上、そのイオン源の最大イオンビーム電流程度であるので、大きくてもせいぜい数百mA程度にしかできず、従って堆積物の高速除去は困難である。
【0007】
そこでこの発明は、イオン源の引出し電極系を構成する電極の広い領域に亘って高速で堆積物を除去することができるクリーニング装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るクリーニング装置は、イオン源の引出し電極系を構成する複数の電極の内の相対向する二つの電極を、当該イオン源からイオンビームを引き出していない時にクリーニングするクリーニング装置であって、
クリーニング時に、少なくとも前記相対向する二つの電極間にクリーニングガスを供給して、当該電極間のガス圧をグロー放電を発生させるガス圧に保つ放電雰囲気形成手段と、
クリーニング時に、前記相対向する二つの電極間に直流電圧を印加して当該電極間に前記クリーニングガスのグロー放電を発生させるグロー放電電源と、
クリーニング時の前記グロー放電電源の出力電流または出力電圧の大きさを測定して、前記相対向する二つの電極間における異常放電を検出すると共に、所定時間内の当該異常放電の発生回数を測定する異常放電測定手段と、
前記異常放電測定手段で測定した前記所定時間内の異常放電の発生回数を用いて前記グロー放電電源の出力電流を制御するものであって、(a)クリーニング開始時は前記グロー放電電源の出力電流を所定の初期値に制御し、(b)前記異常放電の発生回数が所定の第1下限値よりも小さいときは前記グロー放電電源の出力電流を、所定の到達目標値を上限として、所定の第1増加幅だけ増加させ、(c)前記異常放電の発生回数が所定の上限値よりも大きいときは前記グロー放電電源の出力電流を、前記初期値を下限として、所定の減少幅だけ減少させ、(d)前記異常放電の発生回数が前記第1下限値以上かつ前記上限値以下のときは前記グロー放電電源の出力電流を維持する制御を行う電源制御手段とを備えている、ことを特徴としている。
【0009】
このクリーニング装置によれば、クリーニング時に、引出し電極系を構成する相対向する二つの電極間にグロー放電を発生させることができる。このグロー放電によってクリーニングガスのプラズマが生成され、当該プラズマ中のイオンによるスパッタおよび当該プラズマ中の活性粒子との化学反応等によって、前記相対向する二つの電極表面に堆積している堆積物が除去される。即ち、両電極のクリーニングを行うことができる。
【0010】
しかも、前記異常放電測定手段および電源制御手段の働きによって、前記二つの電極間における異常放電の頻発を防止しつつ、大きな電流でグロー放電を発生させることができるので、両手段を設けていない場合に比べて、より安定してより強力なクリーニングを行うことができる。
【0011】
前記電源制御手段は、前記異常放電の発生回数が前記第1下限値より小さい第2下限値よりも小さいときに、前記グロー放電電源の出力電流を、前記到達目標値を上限として、かつ前記第1増加幅に優先させて、前記第1増加幅よりも大きい第2増加幅だけ増加させる制御を行う機能を更に有していても良い。
【0012】
前記電源制御手段は、前記グロー放電電源の出力電流を前記第2増加幅だけ増加させる制御を行った結果、前記グロー放電電源の出力電流が前記到達目標値に到達したときに、クリーニングの終了を表すクリーニング終了信号を出力する機能を更に有していても良い。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、クリーニング時に、引出し電極系を構成する相対向する二つの電極間にグロー放電を発生させて、このグロー放電によって両電極のクリーニングを行うことができる。
【0014】
しかも、上記グロー放電は、電圧を印加している二つの電極間のほぼ全体に発生するので、グロー放電によるプラズマが発生している側の電極面のほぼ全体がプラズマに曝される。従って、イオン引出し孔の周辺に限定されることなく、両電極の広い領域に亘って堆積物を除去することができる。
【0015】
また、上記グロー放電の放電電流は、容易に、イオン源の最大イオンビーム電流よりも遥かに大きな値にすることができるので、従来のクリーニング技術よりも高速で堆積物を除去することができる。
【0016】
更に、異常放電測定手段および電源制御手段の働きによって、前記二つの電極間における異常放電の頻発を防止しつつ、大きな電流でグロー放電を発生させることができるので、両手段を設けていない場合に比べて、より安定してより強力なクリーニングを行うことができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、異常放電の発生回数が少ないときにはグロー放電電源の出力電流を大きな幅で増加させることができるので、異常放電の頻発を防止しつつ、グロー放電電源の出力電流をより速く到達目標値に到達させることができる。その結果、クリーニングを早く進めることができるので、クリーニング時間を短縮することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、クリーニング時間を計測するタイマー等に依らなくても、クリーニングの終了を判定することができる。しかも、異常放電の発生回数が少ないときにはグロー放電電源の出力電流が早く到達目標値に到達して早くクリーニング終了信号が出力されるので、この信号を用いることによって、電極の汚れが少なくて異常放電の発生回数が少ないときに、無駄なクリーニングを行うことなく早くクリーニングを終了させることができる。従って、クリーニングに要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係るクリーニング装置の一例を備えているイオン源装置の例を示す概略図であり、イオンビーム引き出し時の状態を示す。
【図2】この発明に係るクリーニング装置の一例を備えているイオン源装置の例を示す概略図であり、クリーニング時の状態を示す。
【図3】図2等に示す異常放電測定器および電源制御器の動作の一例を示すフローチャートである。
【図4】図2等に示す異常放電測定器および電源制御器の動作の他の例を示すフローチャートである。
【図5】図2等に示す異常放電測定器および電源制御器の動作の更に他の例を示すフローチャートである。
【図6】図3に示す制御を行ったときのグロー放電電源の出力電流の変化を測定した結果の一例を示す図である。
【図7】この発明に係るクリーニング装置の他の例を備えているイオン源装置の例を示す概略図であり、クリーニング時の状態を示す。
【図8】クリーニングガスの導入箇所の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明に係るクリーニング装置の一例を備えているイオン源装置の例を図1、図2に示す。図1はイオンビーム引き出し時の状態を示し、図2はクリーニング時の状態を示す。
【0021】
このイオン源装置を構成するイオン源2は、イオン化ガス38が導入され当該イオン化ガス38を電離させてプラズマ6を生成するプラズマ生成部4と、このプラズマ生成部4内のプラズマ6から電界の作用でイオンビーム20を引き出す引出し電極系10とを備えている。
【0022】
プラズマ生成部4は、この例では、プラズマ生成容器5内に設けられたフィラメント8から熱電子を放出させて、当該フィラメント8と陽極を兼ねるプラズマ生成容器5との間で放電(アーク放電)を生じさせて、イオン化ガス38を電離させてプラズマ6を生成するものである。フィラメント8にその加熱用のフィラメント電源50が接続されており、フィラメント8の一端とプラズマ生成容器5との間に前者を負極側にしてアーク放電発生用のアーク電源52が接続されている。
【0023】
但し、プラズマ生成部4は、このタイプに限られるものではない。フィラメント8の数も図示例のような一つに限られるものではない。例えば、フィラメント8を複数有していても良い。また、高周波放電によってイオン化ガス38を電離させてプラズマ6を生成するタイプ等でも良い。
【0024】
イオン化ガス38は、この例では、イオン化ガス源32から流量調節器34、バルブ36およびガス導入口7を経由してプラズマ生成容器5内に導入される。
【0025】
イオン化ガス38は、所望のドーパント、例えばホウ素(B)、リン(P)またはヒ素(As )を含むガスであり、例えば、フッ化ホウ素ガス(BF3 )、水素希釈ジボランガス(B26 /H2 )、水素希釈ホスフィンガス(PH3 /H2 )または水素希釈アルシンガス(AsH3 /H2 )等である。
【0026】
引出し電極系10は、この例では、イオンビーム引出し方向の最上流側(換言すれば最プラズマ側)から下流側に向けて配置された4枚の電極、即ち第1電極(これはプラズマ電極とも呼ばれる)11、第2電極(これは引出し電極とも呼ばれる)12、第3電極(これは抑制電極とも呼ばれる)13および第4電極(これは接地電極とも呼ばれる)14を有している。16は絶縁物であるが、その他の絶縁物の図示は省略している。電極は、4枚に限られるものではなく、2枚、3枚等でも良い。各電極11〜14は、イオン引出し孔15をそれぞれ有している。イオン引出し孔15は、例えば、複数の(多数の)孔でも良いし、1以上のスリットでも良い。
【0027】
なお、引出し電極系10を構成する各電極11〜14間の間隔は、図示の都合上、広げて図示している。他の図においても同様である。
【0028】
プラズマ生成部4(より具体的にはそのプラズマ生成容器5)の前部は、真空排気装置30によってバルブ28を介して真空排気されるイオン源チャンバー22、23に取り付けられており、引出し電極系10はこのイオン源チャンバー22、23内に収納されている。イオン源チャンバー22と23との間は、加速電源58の出力電圧に相当する電圧を絶縁するために、絶縁物24によって絶縁されている。イオン源チャンバー23には、引出し電極系10および上記バルブ28よりも下流側の位置に、イオン源2の保守点検作業等に供するために、そこを仕切るバルブ(ゲートバルブ)26が設けられている。
【0029】
引出し電極系10の第1電極11は、この例では、上記アーク電源52の負極側に接続されている。プラズマ生成容器5と接地電位部との間に、前者を正極側にして、主としてイオンビーム20のエネルギーを決める加速電源58が接続されている。第2電極12とプラズマ生成容器5との間に、前者を負極側にしかつ後述する切換スイッチ71を介して、主としてプラズマ6からイオンを引き出すための引出し電源54が接続されている。第3電極13と接地電位部との間に、前者を負極側にしかつ後述する切換スイッチ72を介して、主として下流側からの逆流電子抑制のための抑制電源56が接続されている。第4電極14は接地されている。
【0030】
このイオン源装置は、イオン源2からイオンビーム20を引き出していない時に、引出し電極系10を構成する複数の電極11〜14の内の相対向する二つの電極(図1、図2の例では第1電極11および第2電極12)をクリーニングするクリーニング装置を備えており、イオン源2からのイオンビーム20の引き出しと、上記電極11、12のクリーニングとを切り換えて行うことができる。
【0031】
クリーニング装置は、クリーニング時に、少なくとも前記相対向する二つの電極11、12間にクリーニングガス48(図2参照)を供給して、当該電極11、12間のガス圧をグロー放電を発生させるガス圧に保つ放電雰囲気形成手段と、当該電極11、12間に直流電圧を印加して当該電極11、12間にクリーニングガス48のグロー放電80(直流グロー放電。図2参照)を発生させるグロー放電電源60とを備えている。
【0032】
まず、上記放電雰囲気形成手段について詳述すると、この実施形態では、クリーニングガス源42、流量調節器44およびバルブ46を有するクリーニングガス供給手段を設けて、この例では上記ガス導入口7を経由して、プラズマ生成容器5内にクリーニングガス48を供給することができるようにしている。このクリーニングガス48は、上記位置に設けられた真空排気装置30によって真空排気されることも手伝って、第1電極11等のイオン引出し孔15を通して引出し電極系10の各電極間に拡散して当該各電極間にも供給される。もちろん、上記電極11、12間にも供給される。
【0033】
クリーニングガス48には、グロー放電80を発生させたときに電極表面に堆積物を生成しにくいガスを用いるのが好ましい。例えば、クリーニングガス48は、水素ガス、アルゴン等の不活性ガス(希ガスとも言う)またはこれらの混合ガスである。不活性ガスは、Ar 以外のHe 、Ne 、Kr 、Xe でも良い。クリーニングガス48に水素ガスを用いると、電極表面から除去された堆積物は水素と結合して水素化合物を作る等して、真空排気装置30によって外部に排出されやすくなるという利点がある。
【0034】
クリーニング時に、真空排気装置30によって引出し電極系10を収納しているイオン源チャンバー22、23内をイオンビーム引き出し時よりも小さい排気速度で排気するのが好ましく、そのためにこの実施形態では、上記バルブ28に並列に、当該バルブ28よりも開口面積が小さくてコンダクタンスの小さいバルブ29を設けている。この真空排気装置30およびバルブ29によって、上記電極11、12間のガス圧を、グロー放電80を発生させるのに都合の良いガス圧に保つことができる。
【0035】
電極11、12間のガス圧は、大地電位部のイオン源チャンバー23に接続している真空計31によって測定することができる。即ち、クリーニング時は、バルブ28を閉じてコンダクタンスの小さいバルブ29を経由してイオン源チャンバー22、23内を排気するので、引出し電極系10を収納しているイオン源チャンバー22、23内はほぼ同一の圧力になり、従って上記真空計31によって引出し電極系10の各電極間のガス圧を測定することができる。
【0036】
具体的には、クリーニング時に、プラズマ生成容器5内に導入するクリーニングガス48の流量、真空排気装置30による排気速度等を調整して、第1電極11と第2電極12との間のガス圧を、イオンビーム引き出し時のガス圧(例えば1Pa未満)よりも高く保つ。より具体的には、クリーニングガス48のグロー放電80を発生させるのに都合の良いガス圧に保つ。例えば、1Pa〜1000Pa程度に保つ。
【0037】
なお、第1電極11と第2電極12との間のガス圧を上記ガス圧に保つためには、上記排気は必ずしも必要ではなく、例えば、バルブ26、28、29を閉じておいて、クリーニングガス48を一定量流した後に止めることによって、上記ガス圧を維持することもできる。もっとも、クリーニングによって発生した反応ガスを排出する観点からは、この実施形態のように上記排気を行う手段(真空排気装置30およびバルブ29を含む排気手段)を併用するのが好ましい。後述する他の実施形態においても同様である。
【0038】
次に、グロー放電電源60について説明すると、上記第1電極11と第2電極12との間に、イオンビーム引出し方向側の電極である第2電極12をマイナス側とする直流電圧を印加して、両電極11、12間にクリーニングガス48のグロー放電80を発生させる直流のグロー放電電源60を設けている。このグロー放電電源60の出力電圧は、例えば、数百V〜数kV、より具体的には100V〜1kV程度である。
【0039】
またこの例では、イオンビーム20の引き出しと、電極のクリーニングとを切り換えるために、スイッチ70〜73を設けている。切換スイッチ71は、第2電極12を、引出し電源54側と、抵抗器64を介してのグロー放電電源60側とに切り換える。切換スイッチ72は、第3電極13を、抑制電源56側と、抵抗器66を介しての接地側とに切り換える。スイッチ70、73は、プラズマ生成容器5、第1電極11等を接地電位にするためのものである。なお、スイッチ70、73を閉じる時は、当然、電源52、58の出力電圧を予め0にしておく。
【0040】
イオンビーム20を引き出す時の状態を図1に示す。この場合は、バルブ26は開いておく。そして、バルブ29を閉じかつバルブ28を開いておいて、真空排気装置30によってイオン源チャンバー22、23内を真空排気する。バルブ46を閉じかつバルブ36を開いておいて、プラズマ生成容器5内にイオン化ガス38を導入する。スイッチ70、73は開いておき、切換スイッチ71は引出し電源54側に、切換スイッチ72は抑制電源56側に切り換えておく。
【0041】
これによって、プラズマ生成部4(より具体的にはそのプラズマ生成容器5)内でイオン化ガス38を電離させてプラズマ6を生成し、当該プラズマ6から引出し電極系10によってイオンビーム20を引き出すことができる。
【0042】
電極のクリーニングを行う時の状態を図2に示す。この場合は、バルブ26は閉じておく。そして、バルブ28を閉じかつバルブ29を開いて、真空排気装置30によってイオン源チャンバー22、23内を小さい排気速度で排気する。また、バルブ36を閉じる代わりにバルブ46を開いて、プラズマ生成容器5内にイオン化ガス38の代わりにクリーニングガス48を導入する。これによって、前述したように、プラズマ生成容器5内に導入されたクリーニングガス48は少なくとも第1電極11と第2電極12との間に供給される。このとき、プラズマ生成容器5内に導入するクリーニングガス48の流量、真空排気装置30による排気速度等を調整して、第1電極11と第2電極12との間のガス圧を、前述したようにクリーニングガス48のグロー放電80を発生させるのに都合の良いガス圧に保つ。
【0043】
更に、切換スイッチ71をグロー放電電源60側(具体的には抵抗器64側)に切り換え、かつスイッチ70を閉じて、第1電極11と第2電極12との間に、後者をマイナス側にして、グロー放電電源60から直流電圧を印加して、両電極11、12間にクリーニングガス48のグロー放電80を発生させる。また、切換スイッチ72は抵抗器66側に切り換え、スイッチ73は閉じておく。
【0044】
上記第1電極11と第2電極12との間に発生させたグロー放電80によってクリーニングガス48のプラズマが生成され、当該プラズマ中のイオンによるスパッタおよび当該プラズマ中のラジカル等の活性粒子との化学反応等によって、両電極11、12表面に堆積している堆積物が除去される。即ち、両電極11、12のクリーニングを行うことができる。
【0045】
しかも、上記グロー放電80は、電圧を印加している第1電極11と第2電極12との間のほぼ全体に発生するので、グロー放電80によるプラズマが発生している側の電極面(即ち第1電極11の背面11bおよび第2電極12の正面12a)のほぼ全体がプラズマに曝される。従って、イオン引出し孔15の周辺に限定されることなく、両電極11、12の広い領域に亘って堆積物を除去することができる。
【0046】
また、上記グロー放電80の放電電流(即ちグロー放電時のグロー放電電源60の出力電流Ig 。以下同様)は、容易に、イオン源2の最大イオンビーム電流よりも遥かに大きな値にすることができるので、従来のクリーニング技術よりも高速で堆積物を除去することができる。
【0047】
これをより詳しく説明すると、グロー放電プラズマの密度が高いほど、当該プラズマ中のイオンおよび活性粒子の密度は高くなるので、堆積物の除去速度は速くなる。従って、プラズマ密度の指標であるグロー放電電流が大きいほど、堆積物の除去速度は速くなる。例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD)製造のためのイオンドーピング装置用のイオン源装置を用いた実験によると、前述した従来のクリーニング技術に相当する方法で第2電極12にイオンビームを衝突させた場合、その時のイオンビーム電流は200mA程度が限度であった。これに対して、本クリーニング装置による場合のグロー放電電流は、例えば2〜4A程度という大きな値を実現することができる。
【0048】
なお、電極11、12への堆積物の堆積量は、イオンビームが当たる側の面である正面12aの方が、それに対向する電極11の背面11bよりも遥かに多くなる。そこで、グロー放電80を発生させる電圧を、図2に示す例のように、イオンビーム引出し方向側の電極である第2電極12をマイナス側とする直流電圧にすると、グロー放電80によるプラズマ中のイオンは、マイナス側の電極すなわち第2電極12の正面12aに専ら入射して衝突するので、堆積物が多く堆積する当該正面12aの堆積物除去を優先して行うことができる。従って、クリーニングをより効率良く行うことができる。
【0049】
クリーニングガス48は、図1、図2に示す例のように供給すると、ガス導入口7をイオン化ガス38と兼用することができるという利点があるけれども、第1電極11と第2電極12との間にクリーニングガス48を供給するためには、例えば図8に示す例のように、イオン源チャンバー22(または23)の壁面からその内部にクリーニングガス48を導入しても良い。図7に示す例の場合も同様である。
【0050】
第1電極11と第2電極12との間のガス圧をグロー放電80の発生に都合の良いものに調整するためには、図2に示す例のように、バルブ26、28を閉じ、バルブ29を経由して真空排気装置30によって小さい排気速度で排気するのが実際的で好ましいけれども、もちろん、これ以外の手段で第1電極11と第2電極12との間のガス圧を調整しても良い。
【0051】
第3電極13を切換スイッチ72を介して接地すると、グロー放電電源60から、第2電極12と第3電極13との間にも電圧が印加される。そこで、電極11、12間でグロー放電80を優先的に発生させるためには、図2に示す例のように、第3電極13を高抵抗値の抵抗器66を介して接地するのが好ましい。そのようにすると、仮に、第2電極12と第3電極13との間でプラズマが発生すると当該プラズマ中の、イオンよりも移動度の高い電子が第3電極13に多く入射して第3電極13が負に帯電する結果、第2電極12と第3電極13との間の電位差が下がるので、両電極12、13間でプラズマが発生するのを抑制することができる。
【0052】
クリーニング後は、図1に示した状態に戻すことによって、イオン源2からイオンビーム20を引き出すことができる。上記イオンビーム20を引き出す状態と電極のクリーニングを行う状態との切り換えは、例えば、運転員による作業によって行っても良いし、後述する制御装置90内の制御器88等を用いて行っても良い。
【0053】
次に、上記電極11、12間の異常放電を検出してグロー放電電源60の出力電流Ig を制御する手段について説明する。
【0054】
クリーニング時に発生させるグロー放電80の安定性は、電極11、12の汚れの影響を受け、汚れが著しい場合には電極11、12間に異常放電(具体的にはアーキング。以下同様)が頻発する。異常放電からグロー放電電源60を守るために、通常は、図1、図2等に示す例のように、グロー放電電源60に直列に抵抗器64を挿入して限流抵抗の働きをさせている。しかしこの抵抗器64の抵抗値を大きくすると、グロー放電80が点灯しにくくなる、抵抗器64での発熱量が大きくなり、効率が悪くなると共に抵抗器64の冷却が必要になる、抵抗器64の保護が必要になる等の不都合があるので、あまり大きな抵抗値にはできず、抵抗器64だけではグロー放電電源60の保護は十分ではない。そこで、アーキングから電源60を守るために、グロー放電電源60には、過電流を検出して過度のアーキング発生時には電源出力を一定期間カットし、連続してアーキングが生じないようにする機構が備わっている場合もある。
【0055】
ところが、クリーニング時間の短縮という観点からすると、アーキング発生時の電源出力のカット期間はクリーニングに寄与しない期間となるので、カット期間が長くなるのは好ましくない。そこで、なるべくアーキングが発生しないように抑えた出力電流Ig でクリーニングを進めなくてはならないが、クリーニング時のグロー放電電源60の出力電流Ig を小さくするとクリーニング作用が弱くなってしまう。クリーニング作用を強化するためにクリーニング時の出力電流Ig を大きくしようとすると、少しの汚れであってもアーキングが発生してしまい、安定してクリーニングを行うことができなくなる。これは、クリーニング時の出力電流Ig すなわちグロー放電80の放電電流を大きくすると、電極11、12間の電圧が上昇し、それによってアーキングが発生する可能性が高まるからである。
【0056】
そこでこのような課題を解決するために、このクリーニング装置は、クリーニング時のグロー放電電源60の出力電流Ig の大きさを測定して、上記電極11、12間における異常放電を検出すると共に、所定時間内の当該異常放電の発生回数Nを測定する異常放電測定器84(異常放電測定手段)と、当該異常放電測定器84で測定した所定時間内の異常放電の発生回数Nを用いてグロー放電電源60の出力電流Ig を制御する電源制御器86(電源制御手段)とを備えている。
【0057】
異常放電測定器84および電源制御器86は、この例では制御装置90内に組み込まれている。制御装置90は、この例では、その他の制御を行う制御器88も有している。但し、異常放電測定器84および電源制御器86を制御装置90内に組み込むことや、制御器88を有していることは、この発明に必須の事項ではない。
【0058】
クリーニング時のグロー放電電源60の出力電流Ig は、この例では、電流検出器82によって検出して異常放電測定器84に与えられる。但しこの電流検出器82を設ける代わりに、グロー放電電源60からその出力電流Ig を表す信号を取り出して、それを異常放電測定器84に与えるようにしても良い。
【0059】
電源制御器86は、グロー放電電源60に指令値Ic を与えて、グロー放電電源60の出力電流Ig が当該指令値Ic になるように制御する。具体的にはこの電源制御器86は、(a)クリーニング開始時はグロー放電電源60の出力電流Ig を所定の初期値に制御し、(b)異常放電測定器84で測定した異常放電の発生回数Nが所定の第1下限値よりも小さいときはグロー放電電源60の出力電流Ig を、所定の到達目標値を上限として、所定の第1増加幅だけ増加させ、(c)異常放電の発生回数Nが所定の上限値よりも大きいときはグロー放電電源60の出力電流Ig を、前記初期値を下限として、所定の減少幅だけ減少させ、(d)異常放電の発生回数Nが前記第1下限値以上かつ前記上限値以下のときはグロー放電電源60の出力電流Ig を維持する制御を行う。
【0060】
クリーニング時の異常放電測定器84および電源制御器86の動作の具体例を図3を参照して説明する。ステップ101〜106が異常放電測定器84における動作、ステップ100、108〜110が電源制御器86における動作である。
【0061】
クリーニング時には、まず、グロー放電電源60の出力電流Ig を所定の初期値Ii (図6も参照)に制御する(ステップ100)。それと共に、グロー放電電源60の出力電流Ig の測定も行う(ステップ101)。上記初期値Ii は、例えば0.2Aであるが、これに限られるものではない。
【0062】
次いで、異常放電測定器84内の、異常放電発生回数を数えるカウンタを0にして(ステップ102)、上記所定時間内を計るタイマーを始動する(ステップ103)。このタイマーで計る時間は、例えば5秒であるが、これに限られるものではない。
【0063】
次いで、測定した出力電流Ig がそのときのグロー放電電源60に対する指令値Ic の所定倍(この例では1.1倍)より大きいか否かを判定する(ステップ104)。大きいときは異常放電と判定し、上記カウンタの異常放電発生回数を1増加させる(ステップ105)。大きくないときはステップ106に進む。上記所定倍は、1.1倍に限られるものではなく、それ以外の値でも良い。
【0064】
ステップ106において、上記タイマーの時間(5秒)が経過したか否かを判定し、経過していなければステップ104に戻り、経過したならばステップ107に進む。
【0065】
上記ステップ101〜106によって、異常放電測定器84は、上記電極11、12間における異常放電を検出すると共に、所定時間(5秒)内の異常放電の発生回数Nを測定することができる。そしてそれを、以下に述べるようにグロー放電電源60の出力電流Ig の制御に用いる。異常放電の発生には不確定な要素が関係しているので、単に異常放電の発生の有無を判定するのではなく、上記のように所定時間内の異常放電の発生回数Nを判定することによって、異常放電発生の判定を慎重に行うことができる。
【0066】
ステップ107において、上記判定した異常放電の発生回数Nが第1下限値よりも小さいか否かを判定する。この第1下限値は、例えば5回であるが、これに限られるものではない。小さいときはステップ108に進んで、グロー放電電源60の出力電流Ig を所定の第1増加幅だけ増加させる。この第1増加幅は、例えば0.1Aであるが、これに限られるものではない。但し、グロー放電電源60の出力電流Ig は所定の到達目標値It (図6も参照)が上限であり、これを超えるような増加はさせない。到達目標値It は、例えばレシピの一部として、外部から電源制御器86に与えられる。到達目標値It は、例えば3.4Aであるが、これに限られるものではない。
【0067】
ステップ107における判定がNOであれば、即ち異常放電の発生回数Nが第1下限値より小さくなければ、ステップ109に進んで、異常放電の発生回数Nが所定の上限値よりも大きいか否かを判定する。この上限値は、例えば10回であるが、これに限られるものではない。大きいときはステップ110に進んで、グロー放電電源60の出力電流Ig を所定の減少幅だけ減少させる。この減少幅は、例えば上記第1増加幅と同じ0.1Aであるが、それと異なる値にしても良い。但し、グロー放電電源60の出力電流Ig は上記初期値Ii が下限であり、これを下回るような減少はさせない。
【0068】
ステップ109における判定がNOであれば、異常放電の発生回数Nは第1下限値以上かつ上限値以下(この例では5回以上10回以下)であり、その場合はグロー放電電源60の出力電流Ig を変更せずに、そのときの出力電流Ig を維持したままステップ101に戻り、以降は上記と同様の動作を、ステップ111においてクリーニングの終了が判定されるまで繰り返す。
【0069】
ステップ111におけるクリーニング終了判定は、例えば、タイマーによってクリーニング開始から所定時間(例えば20分)が経過したか否かによって判定する。このステップ111の判定を行うタイマーは、例えば電源制御器86内に設けておいても良いし、制御装置90内の他の箇所、例えば制御器88内に設けておいても良い。また、ステップ111において、クリーニング時間経過以外の方法でクリーニングの終了を判定しても良い。例えば運転員の判断で終了するようにしても良い。
【0070】
図3に示す制御を行ったときのグロー放電電源60の出力電流Ig の変化を測定した結果の一例を図6に示す。この例のクリーニング時間は20分(1200秒)とした。
【0071】
グロー放電電源60の出力電流Ig は初期値Ii (0.2A)から始めている。クリーニングの初期は電極が汚れているので、異常放電が頻発している(符号Aで示すように出力電流Ig がベース値からインパルス状に増大しているのが異常放電発生を表しており、それが頻発している)。
【0072】
クリーニング時間が経過するにつれて、クリーニングが進んで電極の汚れが減るので、異常放電の発生回数が減り、それに伴って出力電流Ig が徐々に上昇している(これは図3中のステップ107、108等の動作による)。
【0073】
しかし、出力電流Ig が増加し過ぎると異常放電の発生回数が増える場合があり、その結果、この例では図6中の時間t1 、t2 付近において出力電流Ig が一旦減少している(これは図3中のステップ109、110等の動作による)。
【0074】
その後は、上記と同様に、クリーニングが進んで電極の汚れが減るので、異常放電の発生回数が減り、それに伴って出力電流Ig は再び徐々に上昇している。
【0075】
そして、出力電流Ig はクリーニングの終わり近くで到達目標値It (3.4A)に到達し、その値が維持されている。この頃には異常放電の発生回数も減っている。そして、クリーニング開始から20分(1200秒)経過でクリーニングを終了した。
【0076】
なお、図6において、出力電流Ig が符号Bで示すようにインパルス状に0近くまで頻繁に減少しているのは、この実験に用いたグロー放電電源60は、前述したようにアーキングが頻発すると出力を一定期間(例えば100m秒)カットする保護回路を有しているからであり、上記電源制御器86の制御によるものではない。グロー放電電源60がこのような保護回路を有していることは、この発明に係るクリーニング装置に必須のものではない。また、グロー放電電源60がこのような保護回路を有していても、上記異常放電測定器84および電源制御器86を設けていない場合は、前述したように、グロー放電電源60内の保護回路による出力カットの頻度がこの図6の例よりも増大して出力カット期間が長くなる。
【0077】
以上のように、電極11、12間の異常放電を検出してグロー放電電源60の出力電流Ig を制御する異常放電測定器84および電源制御器86を備えていることによって、二つの電極11、12間における異常放電の頻発を防止しつつ、クリーニング時のグロー放電電源60の出力電流Ig を大きくして、大きな電流でグロー放電80を発生させることができるので、異常放電測定器84および電源制御器86を設けていない場合に比べて、より安定してより強力なクリーニングを行うことができる。
【0078】
なお、相対向する二つの電極間(上記例では電極11、12間)に異常放電が発生するとグロー放電電源60の出力電圧が低下する現象も生じるので、上記例のようにグロー放電電源60の出力電流Ig の大きさによって異常放電を検出する代わりに、グロー放電電源60の出力電圧の大きさを測定することによって、具体的にはグロー放電電源60の出力電圧を測定して当該出力電圧が所定割合よりも低下したことを検出することによって、相対向する二つの電極間における異常放電を検出しても良い。具体的にはこの出力電圧低下の判定を、上記ステップ104において行うようにしても良い。後述する他の実施形態においても同様である。例えば、図4、図5中のステップ114において、上記出力電圧低下の判定を行うようにしても良い。
【0079】
次に、他の実施形態を、上記実施形態との相違点を主体に説明する。
【0080】
電源制御器86は、異常放電測定器84で測定した異常放電の発生回数Nが前記第1下限値より小さい第2下限値よりも小さいときに、グロー放電電源60の出力電流Ig を、前記到達目標値It を上限として、かつ前記第1増加幅に優先させて、前記第1増加幅よりも大きい第2増加幅だけ増加させる制御を行う機能を更に有していても良い。
【0081】
電源制御器86が上記機能を有している場合の異常放電測定器84および電源制御器86の動作の例を図4に示す。図3に示したステップに加えて、ステップ112〜118を有している。
【0082】
ステップ112〜116は、図3に示したステップ102〜106と同じ内容の処理であるので、その上記説明を参照するものとし、ここでは重複説明を省略する。また、ステップ112〜116を省略して、ステップ117を、図3に示したステップ106のYESの判断に(即ち所定時間内の異常放電の発生回数Nを測定した後に)続けても良い。これは、後述する図5においても同様である。
【0083】
ステップ117において、上記測定した異常放電発生回数Nが、上記第1下限値(例えば5回)より小さい第2下限値(例えば2回)よりも小さいか否かを判定する。小さいときはステップ118に進んで、グロー放電電源60の出力電流Ig を、上記第1増加幅(例えば0.2A)に優先させて、当該第1増加幅よりも大きい第2増加幅(例えば0.5A)だけ増加させる。即ち、図3中のステップ108においてもグロー放電電源60の出力電流Ig を第1増加幅だけ増加させようとするけれども、このステップ118の処理を優先させて、出力電流Ig を第2増加幅だけ増加させる。但しこの場合も、グロー放電電源60の出力電流Ig は所定の到達目標値It が上限であり、これを超えるような増加はさせない。
【0084】
ステップ117における判定がNOの場合はステップ111に進む。それ以降は図3に示した動作と同じである。
【0085】
この実施形態の場合は、異常放電の発生回数Nが少ないときにはグロー放電電源60の出力電流Ig を大きな幅で増加させることができるので、異常放電の頻発を防止しつつ、グロー放電電源60の出力電流Ig をより速く到達目標値に到達させることができる。その結果、クリーニングを早く進めることができるので、クリーニング時間を短縮することができる。例えば、イオン源2(具体的にはその引出し電極系10)を分解して清掃した直後等のように、電極11、12の汚れが少なくて綺麗な場合は、異常放電の発生回数が少ないので、グロー放電電源60の出力電流Ig を速く到達目標値に到達させることができる。
【0086】
なお、イオン源2を長時間使用したこと等によって電極11、12の汚れが進んでいる場合は、図4中の左側半分のルーチンで、即ち図3を参照して説明した動作でクリーニングが行われる。
【0087】
電源制御器86は、グロー放電電源60の出力電流Ig を上記第2増加幅だけ増加させる制御を行った結果、グロー放電電源60の出力電流Ig が到達目標値It に到達したときに、クリーニングの終了を表すクリーニング終了信号を出力する機能を更に有していても良い。
【0088】
電源制御器86が上記機能を有している場合の異常放電測定器84および電源制御器86の動作の例を図5に示す。図4に示したステップに加えて、ステップ119、120を有している。
【0089】
ステップ118においてグロー放電電源60の出力電流Ig を第2増加幅だけ増加させる(但し到達目標値It が上限)制御を行った後、当該出力電流Ig が到達目標値It に到達しているか否かを判定する(ステップ119)。到達していれば、クリーニングの終了を表すクリーニング終了信号を出力する(ステップ120)。このクリーニング終了信号を用いてクリーニングを終了させることができる。到達していなければ、ステップ111に進んで、図3、図4を参照して説明した動作でクリーニングが行われる。
【0090】
この実施形態の場合は、クリーニング時間を計測するタイマー等に依らなくても、クリーニングの終了を判定することができる。しかも、異常放電の発生回数が少ないときにはグロー放電電源60の出力電流Ig が早く到達目標値It に到達して早くクリーニング終了信号が出力されるので、この信号を用いることによって、電極の汚れが少なくて異常放電の発生回数が少ないときに、無駄なクリーニングを行うことなく早くクリーニングを終了させることができる。従って、クリーニングに要する時間を短縮することができる。
【0091】
なお、上記第3電極13は、第2電極12よりも下流側にあるので、イオンビーム引き出しに伴う第3電極13への堆積物の堆積量は第2電極12への堆積量よりも少ないけれども、前述した相対向する二つの電極を第2電極12および第3電極13として、上記と同様の手段によって、両電極12、13間にグロー放電80を発生させて両電極12、13のクリーニングを行うようにしても良い。
【0092】
その場合の例を図7に示す。図2に示した例との相違点を主体に説明すると、上記グロー放電電源60および抵抗器64を切換スイッチ72側に接続して、クリーニング時は切換スイッチ72をグロー放電電源60側(具体的には抵抗器64側)に切り換える。また、第2電極12を接地電位にするスイッチ74を設けておいて、クリーニング時はそれを閉じる。このとき、当然、引出し電源54の出力電圧は予め0にしておく。
【0093】
クリーニング時は、図2の実施形態の場合と同様にして、少なくとも両電極12、13間にクリーニングガス48を供給して、両電極12、13間のガス圧をグロー放電80を発生させるガス圧に保つようにする。
【0094】
グロー放電電源60の出力電流Ig の測定、制御等は、図2の実施形態の場合と同様に、異常放電測定器84および電源制御器86によって行う。これらの動作は前述したものと同様である。
【0095】
この図7の実施形態の場合は、両電極12、13のクリーニングに関して、図2の実施形態の場合の作用効果と同様の作用効果を奏することができる。グロー放電電源60から、イオンビーム引出し方向の第3電極13をマイナス側にして直流電圧を印加することの効果も、前述したとおりである。
【0096】
第4電極14への堆積物の堆積量は通常は少ないので、第4電極14をクリーニングする必要性はあまり高くないけれども、必要に応じて、前述した相対向する二つの電極を第3電極13および第4電極14として、上記と同様の手段によって、両電極13、14間にグロー放電80を発生させて両電極13、14のクリーニングを行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0097】
2 イオン源
10 引出し電極系
11 第1電極
12 第2電極
13 第3電極
14 第4電極
20 イオンビーム
30 真空排気装置
42 クリーニングガス源
48 クリーニングガス
60 グロー放電電源
80 グロー放電
84 異常放電測定器
86 電源制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源の引出し電極系を構成する複数の電極の内の相対向する二つの電極を、当該イオン源からイオンビームを引き出していない時にクリーニングするクリーニング装置であって、
クリーニング時に、少なくとも前記相対向する二つの電極間にクリーニングガスを供給して、当該電極間のガス圧をグロー放電を発生させるガス圧に保つ放電雰囲気形成手段と、
クリーニング時に、前記相対向する二つの電極間に直流電圧を印加して当該電極間に前記クリーニングガスのグロー放電を発生させるグロー放電電源と、
クリーニング時の前記グロー放電電源の出力電流または出力電圧の大きさを測定して、前記相対向する二つの電極間における異常放電を検出すると共に、所定時間内の当該異常放電の発生回数を測定する異常放電測定手段と、
前記異常放電測定手段で測定した前記所定時間内の異常放電の発生回数を用いて前記グロー放電電源の出力電流を制御するものであって、(a)クリーニング開始時は前記グロー放電電源の出力電流を所定の初期値に制御し、(b)前記異常放電の発生回数が所定の第1下限値よりも小さいときは前記グロー放電電源の出力電流を、所定の到達目標値を上限として、所定の第1増加幅だけ増加させ、(c)前記異常放電の発生回数が所定の上限値よりも大きいときは前記グロー放電電源の出力電流を、前記初期値を下限として、所定の減少幅だけ減少させ、(d)前記異常放電の発生回数が前記第1下限値以上かつ前記上限値以下のときは前記グロー放電電源の出力電流を維持する制御を行う電源制御手段とを備えている、ことを特徴とするイオン源電極のクリーニング装置。
【請求項2】
前記電源制御手段は、前記異常放電の発生回数が前記第1下限値より小さい第2下限値よりも小さいときに、前記グロー放電電源の出力電流を、前記到達目標値を上限として、かつ前記第1増加幅に優先させて、前記第1増加幅よりも大きい第2増加幅だけ増加させる制御を行う機能を更に有している請求項1記載のイオン源電極のクリーニング装置。
【請求項3】
前記電源制御手段は、前記グロー放電電源の出力電流を前記第2増加幅だけ増加させる制御を行った結果、前記グロー放電電源の出力電流が前記到達目標値に到達したときに、クリーニングの終了を表すクリーニング終了信号を出力する機能を更に有している請求項2記載のイオン源電極のクリーニング装置。
【請求項4】
前記引出し電極系は、イオンビーム引き出し方向の最上流側から下流側に向けて配置された第1電極および第2電極を少なくとも有しており、
前記相対向する二つの電極は、当該第1電極および第2電極である請求項1、2または3記載のイオン源電極のクリーニング装置。
【請求項5】
前記引出し電極系は、イオンビーム引き出し方向の最上流側から下流側に向けて配置された第1電極、第2電極および第3電極を少なくとも有しており、
前記相対向する二つの電極は、当該第2電極および第3電極である請求項1、2または3記載のイオン源電極のクリーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−98143(P2013−98143A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243067(P2011−243067)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】