説明

イオン熱化の方法および装置

レーザー脱離によって高真空状態においてトラップの外部で形成されるイオンの過剰な内部エネルギーを抑制するために、四重極イオントラップ内でガスをパルス化する方法が開示される。パルス化ガスを導入する場合、トラップが通常的に動作される圧力よりも大きい圧力が数msにわたって実現され得る。これらの高圧過渡現象下で、並進運動の冷却の過程が加速され、イオンは解離が起こる前に熱化衝突を行なう。制御されないフラグメンテーション(熱化)と増強感度の最小化が約1mTorrの閾値を超える圧力で観察される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計およびハイブリッド質量分析計で生成されるイオンの熱化に関する。特に、本発明は、四重極イオントラップ(QIT)に外部から注入される熱的に不安定な分子イオンの制御されないフラグメンテーションを抑制する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子イオンを分析するソフトレーザー脱離/イオン化法の開発は、生命科学における不可欠なツールとしての質量分析を確立してきた。特に、マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法は、常に進化しており、気相イオンが効率良く制御され観察され得る、より高い感度とより高い分解能のシステムを提供している。
【0003】
MALDI過程の固有のパルス化特性と、高質量測定に対する要求とは、飛行時間型質量分析(TOF MS)の開発を促進してきた。その後、四重極イオントラップがイオンを選択的に分離し解離するために使用されており、イオントラップはMS実験を実施し得るが、TOF MSのMSは実用的でない。したがって、QIT MSでは、質量分析に先立ってイオンを蓄えて処理することができる。
【0004】
TOF MSとQIT MSの両方において、イオン源から生成されるイオンは、過剰な内部エネルギー(振動エネルギーと回転エネルギーの形の)を有し得るため、イオンは準安定であり、検出前に分解し得る。複雑な混合物を分析して検出された種の各々に対する元の前駆イオンを識別することは困難であるか、または不可能でさえあるので、準安定分解は望ましくない。特に、TOF質量分析器に結合されたMALDIイオン源の場合、脱離物質の準安定分解はバックグラウンドノイズレベルの増加、感度の低下、および分解能の悪化を招くことが知られている。
【0005】
似てはいるが明らかに異なる現象において、QIT MSにおける真空MALDIイオン源からのイオンの外部注入は、イオントラップ内にイオンの制御されないフラグメンテーションをもたらすことが知られている。制御されないフラグメンテーションは、イオンがイオントラップ内の緩衝ガス種と衝突すると起こる場合がある。衝突自体は、既に励起されたイオンに過剰な内部エネルギーを与えてイオンを分解させることができる。
【0006】
緩衝ガスはイオンの運動エネルギーを低下させてイオンの捕集効率を向上することができるので、イオントラップ内には緩衝ガス(典型的には約10−5〜10−4mbar)が存在する。したがって、イオントラップはMS実験を実施することの利点を有するが、トラップへのイオンの外部注入はトラップ内部にイオンの制御されないフラグメンテーションをもたらすことが知られている。
【0007】
フラグメンテーションは、場合によっては、イオンの構造についてより多くの情報を発見する有用な過程となり得るが(例えば、双極子励起波形は、衝突による解離(CID)実験に利用されてイオンの運動エネルギーを増加させるので緩衝ガスとの衝突のエネルギーを増加させ得る)、制御されないフラグメンテーション(準安定フラグメンテーションの別名で知られる)は一般にMALDI法の欠点と考えられている。
【0008】
MALDIイオン源が捕集装置に結合されるときにTOFシステムおよび制御されないフラグメンテーションにおける準安定分解の問題に対処する1つの方法は、大気圧または「中間」圧力(典型的には、10−2mbar〜1mbar)でイオンを生成することであった。いわゆる大気圧MALDI(AP−MALDI)実験は、イオン源内で緩衝ガス分子との衝突(すなわち、イオン源内のイオンの内部(振動)エネルギーの並進運動エネルギーの冷却と緩和(冷却))の結果として、高速熱化に起因してフラグメンテーションを抑制することが示されている。
【0009】
本明細書において使用されるような「熱化」という用語は、好ましくはイオンの並進運動エネルギーを減らすことによるイオンの振動(内部)エネルギーの低下を意味し、「熱化する」とはそれ相応に理解されるべきである。したがって、熱化はイオンの運動エネルギーのみを減らすこととは異なるものであり、イオンの運動エネルギーのみを減らすことは本明細書では並進運動の冷却(translational cooling)または運動エネルギーの制動と呼ばれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
AP−MALDI実験の欠点の1つは、質量分析を行なうためにイオンが大気状態から高真空状態に移行されなければならないことである。イオンは、一連の細いオリフィスを通じてより低い圧力に維持された質量分析器、CIDセル、またはイオントラップに移送される必要がある。APまたは中間圧力領域から真空質量分析器領域に細いオリフィスを通じてイオンを移送する結果、かなりの数のイオンが失われる可能性があり、このことによって感度が低下する。
【0011】
AP−MALDIのさらに別の欠点は、付加物およびイオンクラスタが脱離/イオン化過程で生じ得ることである。これに対処するために、比較的高い温度で動作するイオン光学、移送毛細管、またはイオン源を使用したクラスタ分離法が開発されているが、それでも、付加物の形成は、1.3×10−1mbar(100mtorr)以上では頻繁に観察され、イオン源内の圧力が上昇するにつれて一層顕著になる。
【0012】
また、イオンをより速く熱化(すなわち、イオンの運動エネルギーと振動エネルギーが低減)するためにより高い圧力のイオンガイドに後で移動する中間圧力のイオン源も設計されている。例えば、ハイブリッドセグメント化イオントラップTOF質量分析計用にパルス化ガス法の一部として高圧(中間圧)イオン源が記載されている(米国特許第6,545,268号明細書および米国特許公開第2003/0141447号明細書)。この設計では、イオンは中間圧力で動作されるイオン源で熱化されて振動エネルギー緩和を促進する(すなわち、イオン内部エネルギーを減らす)。その後、イオンはイオントラップに移送され、そこで、緩衝ガスとの衝突でイオンの運動エネルギーが下がり、したがって捕集効率が向上する。
【0013】
また、ヘリウムガスもMALDIイオン源の中に注入されており、この場合、イオンは六重極イオンガイドに直接移送されて蓄積された後、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)セル(BaykutらによるRapid Commun Mass Spectrom,2000,14,1238)で質量分析される。レーザーターゲットの直近での衝突ガスは、広範な質量に依存する運動エネルギーの広がりを減らしてセル内の捕集効率を向上するのに必要な並進運動の冷却環境を実現するものと考えられる。
【0014】
これらの開発は制御されないフラグメンテーションの問題をある程度まで軽減してきたが、イオン生成は前述の欠点をもたらす高い(中間の)イオン源圧力で実現されている。
【0015】
さらに、本発明者らは、APおよび中間圧力MALDIに関連する欠点が高真空イオン源でイオンを発生することによって回避され得るとしてもイオントラップ内の制御されないフラグメンテーションは依然として重大な問題であることに注目している。実際に、制御されないフラグメンテーションは、未解決の問題であることが知られている(He L.らによるRapid Commun Mass Spectrom,11,1440−1448,(1997);Goeringer D.E.,McLuckey S.A.,Int J Mass Spectrom,177,163−174,(1998);Smirnov IらによるASMS Conf,1999,ThPC 060;Krutchinsky A.N.,Chait B.T.,J Am Soc Mass Spectrom,13,129−134,(2002))。
【課題を解決するための手段】
【0016】
知られている構成の欠点に対処するに際して、本発明者らは、高真空イオン源内のイオン生成と過渡的に高い(中間の)圧力環境にあるイオントラップ内のイオン熱化とを組み合わせることによって、イオン損失と付加物形成を最小にすると同時に制御されないフラグメンテーションが著しく抑制され得ることを見出した。特に、本発明者らは、イオントラップ(例えば、QIT)の中へのパルス化ガス注入は、イオン源内の高真空状態を維持すると同時に外部から注入された分子イオンの制御されないフラグメンテーションの著しい抑制または排除に有効であることを見出した。
【0017】
実際に、本発明者らは、ある圧力閾値があって、その圧力閾値以上では振動冷却(内部エネルギー緩和)がトラップ内の衝突によるエネルギー付与よりも有利に働くことを見出した。したがって、完全なイオン(intact ions)は失われずに質量分析され得る。さらに、本発明者らは、制御されたガスパルスを使用し、かつ各パルス間にイオントラップからガスを急速に排気することによって、この圧力閾値がイオントラップ内でイオン源や質量分析器の真空に悪影響を与えずに実現され得ることを見出した。イオン源における高真空状態は、イオントラップ内の高圧の持続時間を制御することによって実現され得る。
【0018】
特に、本発明者らは、イオントラップ内の高いガス圧の持続時間が、イオントラップ内の圧力が望ましい圧力閾値を超え得ると同時に、イオントラップ外部(例えば、イオン源内および/または検出器領域内)の圧力が高真空(典型的には10−5mbar以下)に保たれ得るように制御され得ることを見出した。
【0019】
QIT内の約10−3mbarを超える圧力が一般に回避されるならば、特定圧力閾値を超える制御されないフラグメンテーションの抑制は驚くほどである。特に、より重いイオンを捕集するためにイオントラップがより高い捕集電圧で動作されるとき、より高い圧力では絶縁破壊現象(放電)が起こる可能性が増すことが知られている。イオントラップが比較的高い圧力で正常に動作されないもう1つの理由は、イオンの平均自由行程(背景ガスとの連続衝突間の移動距離)が著しく減少し、したがって、トラップへのイオンの注入効率が流入イオンの散乱によって減少することである。さらに、共鳴法によって実現されるイオンの分離は、比較的低い圧力で行なわれなければならない。また、トラップへの外部注入とトラップからの放出はいずれも低圧環境を必要とする。
【0020】
本明細書で詳しく説明される提案は、一部分において、ガス分子が、例えば、イオントラップ内のイオンと衝突するとき競合するエネルギー移動過程があるという本発明者らによる実験観察に基づくものである。捕集過程の第1のステップ中は、トラップ内のイオンの半径方向および軸方向の偏位が大きく、衝突で得られる運動エネルギーがCID実験で得られる運動エネルギーに類似している。この場合、中性種とイオンとの間の並進運動から振動へのエネルギー移動が増強される。並進運動の冷却の過程は同時に進行し、捕集された種の振動振幅は徐々に減衰される。結果的に、イオンの断面積が増加して最終的に熱化衝突が起こり、振動から並進運動へのエネルギー移動を促進する。並進運動の冷却が完全でありかつ熱化衝突が起こる前の許容される時間窓は圧力に依存する。
【0021】
本発明者らが実施した実験では、イオントラップ内のパルス化ガスの圧力が測定された後、振動から並進運動へのエネルギー移動を促進し(すなわち、緩和過程が内部エネルギー付与メカニズムよりも有利に働き)、それによってフラグメンテーションを抑制するように調整された。質量スペクトルに制御されないフラグメントを大幅に低減し、多くの場合はこれを排除することによって示されるように、並進運動の冷却の時間窓がイオンを効率よく熱化するのに十分短い下限圧力が確認されている。
【0022】
本発明者らによって実施された実験において、イオントラップ内の圧力は過渡的な高圧環境を提供するパルス化ガス注入によって制御された。イオントラップは、パルス化ガス注入の間、真空ポンプによって常に排気され、したがって、過渡的な高圧の存続期間が短かった(数ミリ秒の領域)。これらの実験を実施した際、本発明者らは、高速ガスパルスと真空排気の結果として、イオントラップ体積内のガス拡散、したがって、圧力が一様でないことを見出した。実際に、本発明者らは、標準的な「管状の」の圧力計(すなわち、管に密閉された圧力計)で示される圧力変動はQITの捕集体積内部の様々な位置における高速変動を反映し得ず、したがって、圧力測定は従来の方法では行なわれ得ないことに注目している。さらに、QIT内部に圧力計を適合させる可能性を制限する物理的制約がある。
【0023】
実際には、イオントラップ内部の圧力を確実に測定する上でのこうした困難があるため、制御されないフラグメンテーションへのパルス化ガス圧力の影響を検討することは事前に不可能とされていた。
【0024】
イオントラップ内の圧力測定を実施するために、これまで未公表の測定手順と装置が本発明者らによって採用された。これは、QIT内で正にイオン化されたガス種を発生するようにガスパルスの間にイオントラップの中に電子(典型的にはフィラメントを加熱することによって生成される)を導くことを必要とする。イオン化された種は、適切な電位に保たれたイオントラップの電極の1つによって集められ、得られた正の電流が測定されて圧力表示値に変換される。イオントラップを通じて電子を通過させることによって、捕集が実際に行なわれる領域の圧力を測定することが可能である。この構成の概略図が図3に示されており以下でさらに詳しく説明される。
【0025】
この測定法を使用して、本発明者らは、ガスパルスの持続時間とその他のパラメータを調整してイオントラップにおける幅のある過渡的な圧力最大値を生成している。その際、制御されないフラグメンテーションの程度が様々なピーク圧力と様々な圧力プロファイル対して評価された。
【0026】
意外にも、本発明者らは、約10−3mbarを超える圧力において、緩衝ガス原子(または分子)との衝突によるイオンの熱化(安定化)は非常に効率的であり、制御されないフラグメンテーションの問題は著しく軽減されていることを見出した。理論に頼るまでもなく、本発明者らは、この圧力閾値を下回れば、衝突の頻度がイオンの過剰な内部エネルギーを除去するほど高くないと考えている。したがって、並進運動の冷却の過程は時間が長引き、結果的に、イオンは熱化衝突が起こり得る前に解離する。約10−2mbar以上の圧力において、制御されないフラグメンテーションの抑制は実験結果によって証明されるように非常に効率的であり、以下でさらに提示されて説明される。
【0027】
また、本発明者らは、イオントラップ内のこの閾値圧力を超える圧力を提供することが望ましいが、イオン源内におけるイオンの形成は、前述の欠点を回避するために高真空状態で実施されることが好ましいことに注目している。これは、イオン化効率が圧力に依存する場合に特にMALDIイオン源のより高いイオン化効率および/またはより少ない付加物およびクラスタの形成につながるものと考えられる。
【0028】
しかし、イオントラップがイオン源および分析器/検出器領域に対して差動排気される容器内に設置されるとき、イオントラップ内部の高圧の期間は、イオントラップ外部、例えば、イオン源および検出器領域内の圧力に影響を与え得る。実際に、イオントラップ(差動排気されることが好ましい)の圧力が上昇すると、イオントラップからのガス漏れによってイオン源および検出器領域の圧力を上昇させ得る。質量分析計において、イオン源および検出器領域の圧力の一方または両方の圧力の上昇は、望ましいことではなく、流入イオンまたは流出イオンの著しい散乱をもたらす可能性があり、したがって、感度を低下させ、さらに高電圧が使用されるときに装置を損傷することもある。
【0029】
それにもかかわらず、本発明者らは、パルス化ガスイオントラップ特有の欠点に対処しており、トラップ内の高圧の持続時間を大幅に増加せずにイオントラップ内の最大圧力を増加する方法を見出した。したがって、イオントラップからのガス漏れの問題は軽減され得る。これは、トラップが静圧で動作されるとき、イオン源および検出器領域の中へのガス分子の漏れ量は連続的(時間非依存的)であり圧力に比例するのに対して、パルス化ガスの導入中は、ガス漏れ量はイオントラップ内の圧力と高圧の持続時間との両方に応じているという本発明者の理解に一部基づいている。したがって、漏れ量は、イオントラップ内のガスの滞留時間に関係する。
【0030】
本発明者らは、適切な差動排気される構成を備えることで(所望の最大圧力と高圧の持続時間を同時に実現するために)イオントラップ内のガスパルスを制御することによって、広範囲に及ぶ制御されないフラグメンテーションが起こる前にイオンの過剰な内部エネルギーを除去し、その間にイオン源を含むトラップ領域外側の高真空を維持することが可能であることを提案する。
【0031】
本発明者らは、イオントラップ内の圧力−時間プロファイルが短期間に高い最大圧力(10−3mbarを超える)を有するように、例えば、ガスパルスのトリガから(例えば、ガス入口弁を駆動する電子信号の最初から)30ms以内に最大圧力の25%に低下するように生成され得ることを提案する。これは、イオンの効率的な熱化を提供する一方で、例えば、イオン源および検出器領域の中へのガス漏れの影響を最小にするものである。
【0032】
したがって、第1の態様において、本発明は質量分析計におけるイオンを熱化する方法を提供し、この質量分析計はイオン源、イオントラップ、および検出器領域を有し、この方法は、
イオン源内の圧力を約10−4mbarより小さく維持しながらイオン源でイオンを生成するステップと、
10−3mbarを超えるピーク圧力を得るためにガスをパルス化してイオントラップの中に導入し、イオンをイオン源からイオントラップに外部注入するステップと、
検出器領域内の圧力を約10−4mbarより小さく維持しながらイオンをイオントラップから検出器領域内に放出するステップと
を含む。
【0033】
イオン源および検出器領域内の真空状態を維持しながらイオントラップ内に中間圧力過渡変動を提供することによって、制御されないフラグメンテーションが著しく抑制され得るとともに、質量分析計の感度が向上され得る。
【0034】
好ましい実施形態において、本発明者らは、比較的短い時間スケールで大量のガスをイオントラップに提供すると同時にガスを急速に除去するために比較的高速でイオントラップを排気することによって上記のことを実現している。特に、イオントラップからガスを急速に除去することによって、イオン源内の高真空を維持しながらフラグメンテーションの著しい抑制が実現され得る。こうして、高真空イオン源および/または高真空検出器領域の利点は維持され得る。
【0035】
好ましくは、イオントラップ外部(例えば、イオン源および検出器領域)の圧力は、イオンの熱化の間、約10−4mbarより小さく、より好ましくは約10−5mbarより小さく、最も好ましくは約10−6mbarより小さく保たれる。適切には、イオントラップ外部の圧力は、イオントラップ内の高圧の期間を通じて維持される。
【0036】
適切には、イオン生成中のイオン源内の圧力は、約10−5mbarより小さく、好ましくは約10−6mbarより小さく維持される。適切には、イオン放出中の検出器領域内の圧力は、約10−5mbarより小さく、好ましくは約10−6mbarより小さく維持される。
【0037】
好ましくは、熱化ガスパルスのピーク圧力は、約5×10−3mbarよりも大きく、より好ましくは約10−2mbarよりも大きい。これらのより高いピーク圧力は、より効率的な熱化を提供することが好ましい。適切には、熱化は、これらの圧力を用いてより短い期間で実現される。適切には、ピーク圧力は約0.13mbar(〜10mTorr)、より好ましくは10−1mbarを超えない。
【0038】
適切には、ガスパルスは、圧力が最大圧力よりもはるかに小さい値まで急速に低下するという意味では短期間の圧力をイオントラップ内に提供して、漏れを最小にするか、または好ましくは回避する。この圧力低下時間は、ガスパルスの発生を開始時刻としてイオントラップ内の圧力がピーク圧力の25%まで低下するのに要する時間と定義される。典型的には、ガスパルスの発生は、ガスパルスをトリガまたは発生する(すなわち、緩衝ガスをイオントラップの中に放出する)信号を発生することを含む。適切には、これは、緩衝ガスをイオントラップに供給する入口弁に印加される電子パルスである。好ましくは、圧力低下時間は、約40ms未満であり、より好ましくは約20ms未満であり、最も好ましくは約15ms未満である。約3×10−2mbar(20mTorr)以上のピーク圧力では、圧力低下時間が10ms以下であることが好ましい。より低いピーク圧力では、圧力低下時間は、より長く、約5×10−3を下回るピーク圧力、例えば、1.3×10−3mbar(1mTorr)では、例えば、20ms以下とされ得る。
【0039】
好ましくは、イオントラップ内の10−3mbarを超える圧力は、わずか40ms、より好ましくはわずか20ms維持される。
【0040】
好ましい実施形態において、ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅(イオントラップ内の圧力過渡変動の圧力−時間プロファイルの幅)は、わずか30msであり、好ましくはわずか20msであり、より好ましくはわずか15msである。
【0041】
好ましくは、ピーク圧力には、10ms未満で達し、より好ましくは5ms未満で達し、最も好ましくは3ms未満で達する。ピーク圧力に達するのに要する最小時間に特別な制限はないが、0.1msの値が典型的である。ピーク圧力に達するのに要する時間を定める始点は、緩衝ガスをイオントラップの中に放出させるトリガ信号の最初の部分である(圧力低下時間に関して前述されたように)。
【0042】
実施形態において、緩衝ガスパルスは高速電磁弁を使用して発生される。イオントラップ内の圧力が非常に高いときの時間窓を最小にするために、以下の複数のステップが取られる。すなわち、(i)イオントラップにガスを供給するガス入口管のコンダクタンスを最大(例えば、より短くより太い管)にし(こうして、ガスがシステムを通して拡散するときガスパルスの広がりが最小になり、したがって、圧力がきわめて急速に上昇され得る)、および/または(ii)差動真空排気速度とイオントラップからガスを除去するガス出口管のコンダクタンスを最大(より短くてより太い管)にする。こうして、高速の中間圧力過渡変動と装置の他の区画への最小ガス負荷とが実現され得る。この後、高速反復ガスパルス(連続するイオン化事象)の影響を受けない高真空状態でイオン化が実施され得る。これは以下でさらに詳しく説明される。
【0043】
好ましくは、イオントラップは、イオントラップの外部、例えば、イオン源および検出器領域など、質量分析計の他の部分に対して差動排気され得るように、トラップ容器内に設置される。例えば、トラップ容器は、圧力室またはマニフォールドを含み得る。好ましくは、トラップ容器は、ガスがガス入口システムからトラップに供給される際に通るガス入口ポート、ガスが真空システムの動作によってトラップを去る際に通るガス出口ポート、およびイオンがイオントラップに入る際に通るイオンオリフィスを有する。
【0044】
適切には、イオンがイオン源からイオントラップの中に注入される際に通るオリフィス(入口イオンオリフィス)と、イオンがトラップから検出器領域に放出される際に通るオリフィス(出口イオンオリフィス)の2つのイオンオリフィスがある。
【0045】
好ましくは、イオンがイオントラップに入る際に通るイオンオリフィスは円形である。好ましくは、オリフィスは、0.5〜3mの範囲の直径を有し、より好ましくは1〜2mmの直径を有する。適切には、イオンがトラップを出る際に通るイオンオリフィスは、入口イオンオリフィスに関して述べられた範囲と同じ範囲の直径を有する。典型的には、入口オリフィスと出口オリフィスは同じ直径を有する。
【0046】
適切には、イオントラップは真空システムに接続される(例えば、真空システムは、トラップ容器のガス出口ポートに接続される)。好ましくは、真空システムは、真空ポンプ(例えば、ターボ分子ポンプ)などの真空装置を含む。真空システムは、真空装置をイオントラップに接続する真空管路(例えば、管)を含むことが好ましい(例えば、真空管路は、トラップ容器のガス出口ポートに接続される)。
【0047】
好ましくは、イオントラップは、イオンの熱化の過程で真空システムとガス連通しており、すなわち、真空はイオンの熱化の過程でイオントラップに供給される。適切には、イオントラップは、イオンの生成、注入、および放出を通じて真空システムとガス連通している(すなわち、真空はイオントラップに適用される)。
【0048】
真空システムによって提供されイオントラップに適用される真空は、イオントラップからイオン源または検出器領域に有意なガス漏れがないようガスがイオントラップから十分に素早く除去されるように選択されることが好ましい。適切には、トラップ容器内部からイオンオリフィスを通る有意なガス漏れがない。有意なガス漏れがないということは、好ましくは、イオントラップの外部(特に、イオン源および検出器領域)の圧力が10−4mbarを超えず、より好ましくは10−5mbarを超えないということである。適切には、イオントラップの外部の圧力は、典型的に10−6mbarの基準圧力から2桁程度しか増加せず、より好ましくは1桁程度しか増加しないことを意味する。
【0049】
典型的に、真空装置は、10Ls−1以上、好ましくは10〜100Ls−1の排気速度を提供する。適切な排気速度は、トラップ容器の大きさおよび形状とトラップ容器の自由体積に応じて選択され得る。例えば、およそ15Ls−1の排気速度が約6×10−5の自由体積のトラップ容器に適してもよい。したがって、方法は、10Ls−1以上、好ましくは10〜100Ls−1の真空排気速度をイオントラップに適用するステップを含むことが好ましい。
【0050】
好ましくは、ガス出口ポートは、ガスがイオントラップから迅速に除去され得るように選択される。好ましくは、ガス出口ポートは、少なくとも5cm、より好ましくは少なくとも10cm、最も好ましくは少なくとも15cmの断面積を有する。ガス出口ポートは、任意の形状(例えば、長方形、円形など)であり得るが、長方形ポートが好ましい。長方形ポートの場合、ポートの辺の各々は長さが少なくとも20mmであり、より好ましくは少なくとも40mmであることが好ましい。適切には、辺の少なくとも1つ(少なくとも、1対の辺の各々)は、長さが少なくとも50mmであり、より好ましくは長さが少なくとも70mmである。円形ポートの場合、ガス出口ポートの直径は、40〜100mmの範囲にあり、より好ましくは50〜80mmの範囲にあり得る。
【0051】
好ましくは、ガス出口ポートに接続される真空管路は、40〜100mmの範囲の直径を有し、より好ましくは50〜80mmの直径を有する。適切には、真空管路は最大10cmの長さを有し、好ましくはわずか約5cmの長さを有する。
【0052】
適切には、真空管路の断面積はガス出口ポートから真空装置まで変化する(例えば、真空装置のガス出口ポートと正面の様々な寸法に適合させるために)。これは、管路が段階状変化であってもテーパー状変化であってもよい。実施形態において、真空管路は漏斗形を有する。これは、緩衝ガスがイオントラップから除去される効率を改善し得る。
【0053】
好ましくは、ガスパルスの持続時間は、イオントラップ内部で所望の圧力プロファイルを得るために制御される。所望の圧力プロファイルは、質量スペクトルで観察される制御されないフラグメンテーションの程度によって決定される。
【0054】
典型的に、イオントラップはガス入口システムに接続される(例えば、トラップ容器のガス入口ポートはガス入口システムに接続される)。適切には、ガス入口システムは、ガス源(例えば、ほぼ一定圧力に維持されることが好ましいガス容器)を含む。好ましくは、ガス入口システムは、ガス入口ポートをガス源に接続するガス入口管路(例えば、管)を含む。
【0055】
適切には、ガス入口システムは、ガス源からイオントラップへのガスの流れを制御するように作動するガス入口弁(例えば、ニードル弁またはポペット弁)を含む。好ましくは、弁の前面(すなわち、イオントラップに向けられた弁の正面)にある弁オリフィスの直径は、5〜300μmの範囲にあり、より好ましくは60〜150μmの範囲にある。
【0056】
好ましくは、ガス入口弁が開いている時間の長さは、イオントラップ内で所望の圧力プロファイルを得るように制御される。電動弁の場合、方法は、好ましくはガス入口弁に信号を1〜300μsの範囲の時間、より好ましくは10〜200μsの範囲の時間、最も好ましくは70〜130μsの範囲の時間、印加するステップを含む。適切には、これらの時間は、弁を作動させるために使用される電気的パルスの幅を指す。適切には、弁はポペットを含み、弁の作動はガス入口のガス流路からポペットを遠ざけることによって実現される。適切には、弁の駆動は電気信号を弁の電機子に印加することを含む。
【0057】
当然ながら、弁に印加される電気的パルスの持続時間は弁の特性に依存することになり、当業者はこの信号の持続時間を特定の弁に合うように調整し得ることになる。
【0058】
ガス入口弁の開放時間が長くなると、より高い圧力を提供し得るだけでなく、イオントラップからの漏れがあるためにイオン源および検出器領域内の圧力を上昇させる可能性が増す。
【0059】
好ましくは、ガス源内のガスの圧力は、0.1〜10barの範囲にあり、より好ましくは0.5〜5barの範囲にある。適切には、これはガス入口弁の背圧でもある。
【0060】
好ましくは、ガス入口ポートの直径は1mm〜15mmの範囲にあり、より好ましくは4〜10mmの範囲にある。適切には、ガス入口管路が存在する場合、ガス入口管路の直径は最大15mmであり、より好ましくは1〜10mmであり、最も好ましくは3〜6mmである。好ましくは、ガス管路の直径はガス入口ポートの直径と同じである。
【0061】
好ましくは、トラップ容器は、緩衝/熱化ガス入口ポートに加えて、第2のガス入口ポートを含む。適切には、第2のガス入口ポートは、イオントラップに第2のパルス化ガスを供給する第2のガス入口システムに接続される。適切には、第2のガスは、例えば、衝突による解離(CID)実験の一部として、イオントラップ内のイオンの解離を誘発するためのものである。したがって、方法は、捕集されたイオンを解離するために、イオンが熱化された後に第2のガスをイオントラップの中にパルス化して導入するステップをさらに含む。典型的に、第2のガスはイオンを熱化するために使用される第1の(緩衝)ガスと異なり、適切には比較的重いガス(例えば、アルゴン、クリプトン、またはキセノン)である。このように制御されたフラグメンテーションの実験(CID実験)はイオントラップ内で、例えば、熱化の後で実行され得る。
【0062】
好ましくは、トラップ容器は背景ガス入口ポートを含む。適切には、背景ガス入口はイオントラップに背景ガスを供給する背景ガス入口システムに接続される。適切には、背景ガスは、実験サイクル期間を通じてイオントラップに連続的に(パルスではなく)供給される。したがって、方法は、イオンの注入および熱化を通じて連続的にイオントラップに背景ガスを供給するステップを含み得る。背景ガスの一定の供給によって、イオントラップの性能は改善され得る。好ましくは、イオントラップ内の背景圧力は、約10−5mbar未満に維持される。適切には、背景ガスは熱化ガスと同じである。
【0063】
前述されたイオントラップ内の所望の圧力プロファイルは、以下から選択される1つまたは複数のパラメータを制御することによって実現され得ることが好ましい。すなわち、(1)イオントラップの大きさと構造(自由体積)(好ましい実施形態において、これはイオントラップが設置されるトラップ容器の大きさと構造とになる)、(2)ガス入口システムのコンダクタンス(例えば、ガス入口ポート、ガス入口管路、および弁オリフィスの1つまたは複数の寸法)、(3)ガス源内のガスの圧力、(4)ガス入口弁の開放持続時間(例えば、弁に印加される電気信号の持続時間)、(5)真空装置の真空排気速度、(6)ガス出口システムのコンダクタンス(例えば、ガス出口ポートと真空管路の寸法)、ならびに(7)イオンがトラップに出入りする際に通るイオンオリフィスの寸法である。
【0064】
好ましくは、方法は、イオントラップに複数の熱化ガスパルスを提供することを含む。イオンの多数の各集合(例えば、MALDI実験において一連のレーザーショットの各々の結果として生成されるイオン)を冷却したり、同じ集合のイオンを熱化(例えば、イオントラップに捕捉されている間に同じイオンを繰り返し熱化)したりするために、複数のパルスが使用され得る。さらに、同じ実験サイクルの一部として、複数のガスパルスの使用が可能であり、第2のパルスと後続のパルスは、例えば、MS実験で遭遇されるような分離および/または解離事象に続く、イオンの運動エネルギーを制動する並進運動の冷却用である。
【0065】
複数の熱化ガスパルスが使用される実施形態において、パルスの周波数は毎秒1〜100パルスの範囲にあることが好ましい。より好ましくは、毎秒10〜20パルスの範囲にある。
【0066】
適切には、パルスの周波数は、イオン生成の周波数、例えば、MALDIシステムにおけるレーザーショットの周波数と同じである。
【0067】
本発明の方法は、典型的に、実験サイクルの持続時間を短縮し、それに応じてより高いイオン生成速度(例えば、より高いレーザー点火速度)、したがって、より高い周波数の熱化ガスパルスが実現され得る。好ましくは、実験サイクル(イオン生成、捕集、熱化、および質量分析)は、150ms未満を要し、より好ましくは100ms未満を要し、最も好ましくは約50ms未満を要する。
【0068】
本発明者らは、イオントラップ内の圧力プロファイルを観察することによってトラップにイオンを注入する最適時間の識見も得ている。本発明者らは、トラップ内の圧力に関してイオントラップの中にイオンが入るタイミングが熱化の効率に影響を与え得ることを見出した。
【0069】
実際に、最適感度(最大捕集効率)は、イオン注入(適切には、トラップ近傍へのイオン注入)がピーク(すなわち、最大)圧力と(実質的に)一致するときに実現され得る。
【0070】
したがって、方法は、トラップ内部の圧力が10−3mbarよりも大きいときイオンがイオントラップに到着するように、イオンの生成と熱化ガスのパルス化を連動(coordinating)または同期化するステップを含むことが好ましい。
【0071】
好ましくは、トラップ内部の圧力がピーク圧力の少なくとも80%、より好ましくはピーク圧力の少なくとも90%、最も好ましくはほぼピーク圧力であるときに、イオンはイオントラップに入る。好ましくは、イオントラップ内のガス圧力は、イオンがトラップに入るとき上昇している。
【0072】
イオンの到着時間がこのように連動されるときに実験的に観察される感度の改善は、トラップの入口イオンオリフィスでの熱化ガスによるイオンの散乱がほとんどまたは全くないことを示しており、これは、言い換えると、オリフィスからイオン源へのガスの漏れがほとんどまたは全くないことを示唆している。
【0073】
適切には、方法は、イオン注入に続いてトラップ内のイオンを捕集することを含む。
【0074】
好ましくは、トラップ電場の発生時に最初は不安定な軌道を有する半径方向および軸方向の偏位の大きいイオンの捕集効率を高めるために、イオンの並進運動の冷却も促進される。
【0075】
イオントラップ内のイオンの注入と熱化に続いて、イオントラップの実験サイクルの後段はより低い圧力で実行され得る。言い換えると、イオンが熱化された後、イオントラップ内部の高圧は維持される必要がない。したがって、方法は、好ましくは圧力が10−3mbarより小さく、より好ましくは約10−4mbarより小さく、最も好ましくは約10−5mbarより小さくなるように、イオントラップ内部の圧力を低下させるステップを含むことが好ましい。
【0076】
比較的低い圧力の後続の処理ステップを実行することによって、イオン運動の振動数はもはや衝突によって実質的に変えられることがないので、選択的分離法または共鳴放出法の過程で比較的高い分解能が実現可能である。また、後続のより低いイオントラップ圧力は、イオンの平均自由行程を増すことによってTOF質量分析計に対してイオン抽出を促進することが好ましい。したがって、イオンを検出器領域に放出するステップは、イオントラップ内の圧力が約10−4mbarより小さく、より好ましくは約10−5mbarより小さく、最も好ましくは約10−6mbarより小さい間に行なわれることが好ましい。好ましい実施形態において、イオントラップ内の圧力は、イオンの放出の過程で検出器領域の圧力とほぼ同じである。
【0077】
好ましくは、イオン源はサンプルからイオンを生成するレーザーを含む。適切には、検出器領域はTOF分析器を含む。
【0078】
適切には、イオン源および検出器領域は、当業者に知られているものから選択される。
【0079】
好ましい実施形態において、イオントラップはQIT(例えば、3D QITまたは線形QIT)である。ディジタルイオントラップ、フーリエ変換イオンサイクロトロン放射(FT−ICR)トラップ、または線形イオントラップなどの他のイオントラップも考えられる。
【0080】
好ましくは、TOF質量分析計はイオンリフレクトロンを含む。
【0081】
好ましくは、質量分析計は、真空MALDI QIT MSまたはMALDI QIT TOF MSである。
【0082】
好ましくは、質量分析計は真空MALDI質量分析計である。
【0083】
好ましくは、熱化ガスは、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、クリプトン、およびキセノンから選択される。比較的重いガス、特に、クリプトンとキセノンは、比較的重いイオンでの使用に特に適している。
【0084】
好ましくは、方法は、イオントラップから放出されるイオンを検出するステップを含む。好ましくは、方法は、質量情報を検出されたイオンに割り当てるステップを含む。
【0085】
適切には、方法は、共鳴放出法を使用してトラップ内のイオンを分析することを含む。代替的または追加的に、イオンはTOF MS分析システムの中に放出され得る。
【0086】
好ましい実施形態において、質量分析計またはハイブリッド質量分析計には、高真空(<10−4mbar、好ましくは<10−5mbar)状態でMALDIイオンを生成するパルス化イオン源(pulsed source)が備えられている。静電場または動電場を採用したレンズが、イオンをサンプルプレートからイオントラップ(例えば、QIT)の中に導く。イオンは、好ましくはガスとの衝突を起こすことなくレンズによって加速することが好ましい。イオンは、イオントラップに入り、RF捕集電場が印加される前に静電場または時間に依存する電場中で減速される。同時に、ガス入口弁から導入されるパルス化ガスはトラップ体積に入り、イオントラップ内の圧力は、高真空状態から10−3mbar(0.75mTorr)を超えて好ましくは約0.13mbar(100mTorr)より小さくまで、好ましくは1〜5ms以内で上昇される。イオントラップ領域は、分析器の他の区画への過剰なガス負荷を抑制するために差動排気される。相対的に、イオン発生からトラップの近傍に入るまでのイオンの飛行時間は、1〜100μsであることが好ましい。
【0087】
本発明の実施形態は、高真空イオン源と、熱的に不安定な分子イオンの急速な熱化が可能なはるかに高い圧力で動作されるイオントラップ(例えば、QIT)との利点を組み合わせる能力を提供する。高速の圧力過渡変動は、周囲環境へのガス負荷を排除し、所与の時点においてイオントラップ領域に存在するガス量を増加する。
【0088】
第2の態様において、本発明はイオントラップ内のイオンを熱化する方法を提供し、この方法は、
ガスをパルス化してイオントラップの中に導入し、イオントラップからガスを排気して10−3mbarを超えるピーク圧力を実現するステップと、
イオンをイオントラップの中に注入するステップであって、イオントラップ内の圧力はガスパルスの発生から約30ms以内にピーク圧力の約25%に戻る、イオンをイオントラップ内に注入するステップと
を含む。
【0089】
好ましくは、トラップ内の圧力は、約20ms以内、より好ましくは約15ms以内にピーク圧力の約25%に戻る。
【0090】
適切には、ガスパルスの発生は、緩衝/熱化ガスをイオントラップの中に放出するために提供されるトリガ信号の最初の部分である。
【0091】
好ましくは、ピーク圧力は、少なくとも約5×10−3mbarであり、より好ましくは少なくとも約10−2mbarである。
【0092】
本発明の他の態様に関して記述される任意の特徴および好ましい特徴は、単独または任意の組合せでこの態様にも適用され得る。
【0093】
第3の態様において、本発明はイオントラップ内のイオンを熱化する方法を提供し、この方法は、
ガスをパルス化してイオントラップの中に導入し、イオントラップからガスを排気して10−3mbarを超えるピーク圧力を実現するステップと、
イオンをイオントラップの中に注入するステップであって、ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅はわずか30msである、イオンをイオントラップの中に注入するステップと
を含む。
【0094】
本明細書で使用されるような「ガスパルスの幅」は、イオントラップ内のガスパルスの圧力−時間プロファイルの幅を意味する。
【0095】
好ましくは、ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅は、わずか20msであり、より好ましくはわずか15msである。
【0096】
本発明の他の態様に関して記述される任意の特徴および好ましい特徴は、単独または任意の組合せでこの態様にも適用され得る。
【0097】
第4の態様において、本発明はイオン源、イオントラップ、および検出器領域を有する質量分析計を構成する方法を提供し、この方法は、使用中にイオントラップ内部の圧力が一時的に10−3mbarを超え、その間にイオン源および検出器領域内で約10−4mbarより小さい圧力を維持するように、イオントラップの中に注入されるガスパルスの持続時間を選択するステップを含む。
【0098】
好ましくは、ガスパルスの持続時間を選択するステップは、パルス化ガス入口弁に印加される(例えば、ガス入口弁の電機子に印加される)電気的パルスの持続時間を選択することを含む。適切には、このステップは、10〜200μs、より好ましくは70〜130μs、例えば、約90μsの持続時間を選択することを含む。
【0099】
パルス化ガス弁に印加される電気的パルスの持続時間は、このパルス化ガス弁の開放時間を安定させることになり、言い換えると、トラップ入口オリフィスの中に放出されるガス量を安定させることになる。
【0100】
好ましくは、イオン源および検出器領域内における圧力は10−5mbarより小さく維持される。
【0101】
本発明の他の態様に関して記述される任意の特徴および好ましい特徴は、単独または任意の組合せでこの態様にも適用され得る。
【0102】
第5の態様において、本発明は、質量分析計におけるイオンを熱化する装置を提供し、この質量分析計はイオン源、イオントラップ、および検出器領域を有し、この装置は、トラップに入るイオンが10−3mbarを超える圧力を受け、その間にイオン源および検出器領域内で約10−4mbarより小さい圧力を維持するようにガスをパルス化してイオントラップの中に導入することによって、イオントラップ内で10−3mbarを超える圧力を使用中に発生するイオントラップ圧力制御手段を含む。
【0103】
好ましくは、イオントラップ圧力制御手段は、イオントラップが設置されるトラップ容器を含み、トラップ容器はガス入口ポート、ガス出口ポート、およびイオンがイオントラップに入る際に通る少なくとも1つのイオンオリフィスを含む。
【0104】
好ましくは、イオンが圧力室に入る際に通るイオンオリフィスの直径は、0.5〜3mmの範囲にあり、より好ましくは1〜2mmの範囲にある。適切には、トラップ容器は、イオンがイオントラップに入る際に通る入口オリフィスと、イオンがイオントラップを出る際に通る出口オリフィスとの2つのイオンオリフィスを含む。適切には、各イオンオリフィスの直径は、上記の範囲から独立に選択される。典型的には、イオンオリフィスは同じ直径を有する。
【0105】
好ましくは、ガス出口ポートは真空システムに接続される。好ましくは、真空システムは、真空ポンプ(例えば、ターボ分子ポンプ)などの真空装置を含む。ガス出口ポートは、真空装置をガス出口ポート、すなわち、イオントラップに接続する真空管路に接続されることが好ましい。
【0106】
好ましくは、ガス出口ポートと真空管路との寸法は、第1の態様に関して先に述べた通りである。同様に、真空装置の特徴は、第1の態様に関して先に述べた通りである。
【0107】
適切には、ガス出口ポートと、ガス出口ポートを有する場合の真空管路とは、イオントラップからイオン源または検出器領域への有意なガスもれがないように、ガスがイオントラップから十分迅速に除去され得る寸法を有する。適切には、これは、約10−4mbarより小さく、より好ましくは約10−5mbarより小さい圧力がイオン源および検出器領域内において維持されることを意味する。適切には、イオンオリフィスを通るトラップ容器内部からの有意なガス漏れがない。
【0108】
適切には、ガス入口ポートはガス入口システムに接続される。ガス入口システムは、ガス源(例えば、ほぼ一定圧力に維持されることが好ましいガス容器)を含むことが好ましい。適切には、ガス入口ポートはガス入口管路に接続される。好ましくは、ガス入口管路は、ガス入口弁(例えば、ニードル弁またはパルス化ポペット弁)に結合されている。適切には、ガス入口弁は、ガス源からイオントラップへのガスの流れを制御するように作動する。
【0109】
好ましくはガス入口ポートの直径、ガス入口管路の直径、および弁オリフィスの直径は、第1の態様に関して先に述べた通りである。
【0110】
好ましくは、イオントラップ圧力制御手段は、イオン源および検出器領域内の圧力が10−4mbar、好ましくは10−5mbarを超えないようにガスパルスの持続時間を制御するパルスコントローラを含む。適切には、パルスコントローラはガス入口弁を操作する。
【0111】
適切には、イオン源および検出器領域内の圧力は、圧力計によって測定される。
【0112】
適切には、パルスコントローラはソフトウェアを含む。好ましくは、ユーザは、コントローラ(例えば、ソフトウェア)で適切なガスパルス持続時間を入力または選択することができる。
【0113】
好ましくは、装置は、使用中のイオン源に真空を適用するイオン源真空装置を含む。好ましくは、装置は、使用中の検出器領域に真空を適用する検出器領域真空装置を含む。
【0114】
本発明の他の態様に関して記述される任意の特徴および好ましい特徴は、単独または任意の組合せでこの態様にも適用され得る。
【0115】
第6の態様において、本発明は、第5の態様にしたがってイオントラップ圧力制御手段を有する質量分析計を提供する。好ましくは、質量分析計は、イオン源、イオントラップ、および検出器領域を含む。
【0116】
本発明の他の態様に関して記述される任意の特徴および好ましい特徴は、単独または任意の組合せでこの態様にも適用され得る。
【0117】
第7の態様において、本発明は、イオン源、イオントラップ、および検出器領域を有する質量分析計を変更する方法を提供し、方法は第5の態様にしたがってイオントラップ圧力制御手段を設定するステップを含む。
【0118】
本発明の他の態様に関して記述される任意の特徴および好ましい特徴は、単独または任意の組合せでこの態様にも適用され得る。
【0119】
本明細書に含まれる本発明の他の態様および任意の特徴は、特許請求の範囲で規定された通りである。
【0120】
先に記述された態様の各々は、他の態様の1つ、複数、またはすべてと組み合わせられてもよく、態様の各々の内部の特徴は他の態様の特徴と組み合わされてもよい。したがって、さらなる態様において、本発明は、以前の態様の1つ、複数、またはすべてを含む方法または装置を提供する。
【0121】
本発明の実施形態は、添付図面に関連して、単なる例として以下で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】イオン源、静電レンズ、および四重極イオントラップを有する質量分析計を概略的に示す。
【図2】差動排気されるQIT装置によって圧力、圧力計、およびガス出口の静的および動的制御が可能となるガス入口を有する、本発明の実施形態の概略図である。
【図3】QIT体積内部の動的圧力測定を実施するために電子銃を組み込んだ改良QIT装置の概略図である。
【図4】図2または図3の差動排気されるQITにヘリウムガスのパルス化ガスを導入する際に実験的に決定された動的圧力プロファイルの結果のグラフを示す。
【図5】図2のQIT装置を含む質量分析計の動作に関するタイミング図を示す。
【図6】図5に示されるタイミング図にしたがってMALDI QIT TOF MSの質量分析に関する事象のタイムシーケンスを示すフローチャート図を示す。
【図7A】MSに注入される7種類のペプチド混合物の多数のフラグメンテーションを示すスペクトル線を示し、イオントラップは約1.3×10−3mbar(1mTorr)でピークに達する圧力過渡変動を有する。
【図7B】MSに注入される、図7Aと同じ混合物の最小限のフラグメンテーションを示すスペクトル線を示し、イオントラップは約2.6×10−2mbar(20mTorr)でピークに達する圧力過渡変動を有する。
【図8】イオントラップ内のピーク圧力に対する注入時刻のフラグメンテーションの程度に及ぼす影響を示し、上側のスペクトルは圧力ピーク前に到着するイオンに対応し、下側のスペクトルは圧力ピーク後に到着するイオンに対応する。
【図9】本発明の方法および装置を用いて得られるような500amolのホスホリラーゼグリコーゲントリプシン消化物のスペクトル線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0123】
図1は、イオン源12を有するMALDI質量分析計10を示し、イオン源はレンズシステム14とイオントラップ16を含む。検出器領域(図示せず)はイオントラップの右にある。検出器領域はTOF分析器を含み得る。
【0124】
スクリーン電極13aは、弱電場を発生することによって分析物が置かれるサンプルプレート20の最上部における電場勾配を変更するために使用される。これは第2の電極13bに印加される高電圧からサンプルプレート20を保護する。レンズシステム14は、2つのアインツェルレンズ15aおよび15bを含む。第1のアインツェルレンズ15aは、サンプルプレートの最上部にイオンの焦点を合わせ、電極ミラー17においてイオンビームの焦点を再び合わせ、第2のレンズ15bは、電極ミラーからQIT 16のエンドキャップオリフィスの入口まで焦点を投影する。電極ミラー17は、分析物をイオン化するためにレーザービームをサンプルプレート20に導く。
【0125】
本発明の好ましい実施形態において、レーザー光源は、光吸収マトリクスとサンプルを担持するターゲット20の表面からイオンを生成するために使用される光パルスを提供する。マトリクスは「ホット(hot)」マトリクスまたは「コールド(cold)」マトリクスであってもよく、これらの用語は当業者に知られている。
【0126】
レーザーは、ターゲットから放出されるイオンの噴霧22を生成する。イオン源12とターゲット20は、高真空状態(10−4mbarより小さく、好ましくは10−5mbarより小さく)に維持される。イオンはイオントラップ16の方向に加速される。
【0127】
図1に示される実施形態と他の好ましい実施形態とにおいて、イオントラップはQITである。イオン22は、QITの導入エンドキャップオリフィス24を通じて導かれる。イオン源およびレンズシステム内の圧力は、実験サイクルを通じて高真空状態(10−4mbar(0.075mTorr)より小さく)に維持される。
【0128】
10−4mbarにおいて、室温における中性緩衝ガスの平均自由行程πは、約137cmである。0.1mbarにおいて、室温における中性緩衝ガスの平均自由行程πは0.137cmに減少する。
【0129】
このように、高真空源(すなわち、10−4mbarより小さく)で動作する本発明の実施形態は、イオン中性衝突の頻度が非常に低く、イオンを熱化し得ないイオン源環境を提供する。大気圧および中間圧力のイオン源に関する上記の欠点は、したがって、回避される。
【0130】
イオンは、例えば、質量スキャン(共鳴放出法)を採用するかまたはTOF質量分析器(図示せず)の中に放出されることによって、QITにおいて、蓄えられ、選択的に分離され、解離され、質量分析され得る。
【0131】
好ましい実施形態において、QITは、図2に示されるもののような差動排気されるトラップ容器に入れられる。ガスをトラップ容器の中に供給するために、3つのポート(パルス化ガス入口ポート32、第2のパルス化ガス入口ポート34、および連続ガス入口ポート36)が使用される。第4のポート38は圧力計をトラップに接続し、ガスはガス出口ポート40を通じてトラップから排気される。
【0132】
パルス弁32aおよび34aはそれぞれのパルス化ガス入口管32b、34bに設置され、50msごとにガス注入を供給するように動作される。他のパルス周波数も考えられる(例えば、50〜100msごと)。2つのガス入口32、34およびこれらに結合された弁32a、34aは、実験サイクルのそれぞれ別の時刻に動作する。実験サイクルの開始時に、熱化ガスが入口パルス弁32aと入口オリフィス32から供給される。熱化が行なわれて前駆イオンが分離されると(必要に応じて)、解離ガスが入口弁34aと入口オリフィス34から供給される。
【0133】
イオントラップの中に導入されるガスの量は、パルス化弁オリフィス寸法(例えば、50〜300μmの直径)と弁の背後の管内圧力(例えば、0.1〜10bar)など、ガス入口システムの特性によって制御される。この好ましい実施形態と他の好ましい実施形態において、弁オリフィス(弁の前面にあるオリフィス)は、100μmの直径を有し、弁の背後のガス圧力は3barであり、Parker Haniffin社製のガス弁が使用される。
【0134】
容器はガス出口ポート40に接続された70Ls−1のターボ分子ポンプ(図示せず)によって排気されるが、他の真空装置も使用され得る。ガス出口ポート40は、長方形で、寸法が23.5mm×70mmであり、真空管路49は、ガス出口ポート40をターボ分子ポンプに接続しており、53.5mmの長さを有する。直径の大きいガス出口ポート40と真空管路49は、ターボ分子ポンプとイオントラップとの間に高いガスコンダクタンスを提供し、トラップ内のガス圧力を急速に低下させることができる。
【0135】
イオンがイオン源12からイオントラップ16とイオントラップから検出器とをそれぞれ通過する際に経由するトラップ容器30の入口と出口のイオンオリフィス41aと41bは、いずれも1mmの直径を有するが、他の寸法も考えられる。
【0136】
ガスパルスは、パルス化ガス入口弁32aによって(電気駆動信号を弁32aに印加することによって)放出され、対応するパルス化ガス入口管路32bとガス入口ポート32とを経由してトラップ容器30の中に移送される。この特別なガス入口システム(ガス入口管路32bは、7cmの長さと10mmの直径を有する)を用いて行なわれる実験は、ガスが1ms以内にQIT体積に入り、イオントラップ内部の圧力が数桁(図3に示される圧力測定構成を用いて測定された)急速に上昇され得ることを示している。この実施形態において、ベース圧力は、10−6mbar(7.5×10−4mTorr)から2×10−2mbar(15mTorr)を超えるまで約1ms以内に上昇させられた。圧力は、弁駆動信号の初めから25ms以内にピーク高さの25%まで復帰した。
【0137】
ガスパルス後の最初の1msの経過後に、QIT内部の圧力が上昇すると、レーザー光パルスがターゲットの表面に堆積された物質を気化してイオン化する。レーザーパルスに続いて、イオンは、高真空状態に維持されたレンズシステムの中を飛行してQITに入る。イオン源からQITまでのイオンの飛行時間は、m/z比に応じて、典型的に、約5〜40μsの範囲にある。
【0138】
イオン光学系(アインツェル型レンズ15a、15bなど)は、イオンビームが入口イオンオリフィス41aで収束するように配置される。こうして、トラップの中への移送を最大にするためにビームの断面積は最小化される。この好ましい実施形態と他の好ましい実施形態において、イオン源の形状は回転対称を有する。
【0139】
QITのエンドキャップ42に印加される適切な電圧によって確立される遅延電場は、RF捕集電場の電源が入れられる前にイオントラップに入るイオンを減速して停止させる。正イオン用の遅延電場は、正電圧を出口エンドキャップ42に印加するか、または負電圧を導入エンドキャップ44に印加することによって発生され得る。トラップへの到着時刻は質量に依存するので、レーザーショットに対するRF信号の開始時刻は捕集されるイオンの質量範囲を定める。
【0140】
好ましくは、近接した質量の間の到着時間差を減らすために、強電場がターゲットとイオントラップとの間のレンズに印加され、したがって、1回のイオン化事象で捕集され得る質量範囲を拡大する。熱化に使用されるパルス化ガスが除去された時点で、イオンは第2のガスをパルス化することによって選択的に分離され解離されて、最終的により低い圧力で質量分析される。
【0141】
QITを使用する質量分析実験を通じた熱化ガスのパルス化は、静的な背景圧力におけるこのような装置の従来の動作から著しく逸脱したものである。外部で形成されるイオンの捕集効率、貯蔵、分離、解離、および放出は、様々なガス種と同時に様々な圧力要件を示す。したがって、QIT内で実行される多数の機能を独立に最適化するようにガスをパルス化することによって高性能が実現され得る。
【0142】
QIT内のパルス化ガスの滞留時間は、これまで間接的な測定、例えば、時間分解捕集法またはCID効率実験によってのみ得られていた。
【0143】
しかし、イオンが蓄えられて処理される領域における圧力プロファイルを決定するためのこれまで公表されていない新たな実験方法が、開発されており、先に簡潔に説明された。図3を参照したさらなる詳細において、方法は、存在するガスをイオン化するQIT装置の圧力室54のオリフィス52と導入エンドキャップ56を通る連続電子ビームを収束することを含む。リング電極58に集められる正イオン電流の過渡変動は、高速オシロスコープによってモニターされ、ガスをパルス化して導入する過程で圧力プロファイルを決定するために使用される。
【0144】
この測定方法は、イオン電流が圧力に比例するので実現可能である。動的システムは、QITが定常状態条件で動作されるとき、差動排気される領域内の圧力を測定する電離真空計に対して較正される。電子ビームは、フィラメント60を加熱することによって発生される。電子電流は、出口エンドキャップでモニターされて、イオントラップ体積内のイオン化に利用できる電子数を決定する。ガスの入口と出口は、図2に関して説明された通りである。
【0145】
一連のヘリウムガス注入に関する動的圧力プロファイルの例が図4に示される。熱化ヘリウムガスは、ガス入口弁32aとガス入口ポート32を介してイオントラップに供給された。トラップ内のガスの滞留時間は、圧力が10−5mbar(7.5×10−3mTorr)より小さく維持される場合にイオン源における圧力計によって示されるように、分析器の周囲区画へのガス負荷を最小にするのに十分に短い。
【0146】
特に、図4に示される16mTorrの最大圧力プロファイル100などの比較的高いピーク圧力の場合、減圧時間は約10ms(圧力がピーク圧力の25%、すなわち、4mTorrまで低下するのに要する時間)である。より短くより狭い圧力プロファイル、例えば、8mTorr 102のピーク圧力では、減圧時間がより長くなる。この場合、圧力が2mTorr(ピーク圧力の25%)まで復帰する時間は約15msである。これは、圧力減衰時間がピーク圧力に依存することを示している。これは、脱ガス速度を考慮することによって説明されてもよく、脱ガス速度は低い圧力でより顕著になり、このような低い圧力では圧力全体が比較的緩やかに低下するようになるので、ピーク圧力の25%まで復帰する期間が長くなる。
【0147】
第2のパルス化ガス入口34は、熱化ガスの過渡的なピーク圧力の後でアルゴンを注入するために使用される。アルゴンパルスは、イオンが熱化された後の衝突に起因する解離実験の効率を高めるために使用される。両方のパルス化ガス(熱化ガスと解離(CID)に使用されるフラグメンテーションガス)は、注入されるイオンの捕集効率を改善して最終的にイオン雲を熱化衝突が起こり得るトラップの中心に閉じ込めるためのイオンの並進運動の冷却(運動エネルギーの制動)を促進し得る。
【0148】
連続ガス入口オリフィス36を通るガスの連続(すなわち、非パルス化)供給は、背景圧力を安定させるために使用され、背景圧力はシステムの性能を向上するために約10−5mbarに維持される。
【0149】
図5は、イオンが図2に示されるもののようなQIT装置から抽出されてTOFシステムによって質量分析される好ましい実施形態における完全な質量分光分析に関する事象のタイムシーケンスを示す。実験サイクルは、熱化ガスパケットを放出するために弁に印加される電気的パルスによってトリガされる。この例において、イオンは、圧力過渡変動がそのピークに達する前にQITの中に注入される。正パルスは、出口エンドキャップに印加されてQITに入るイオンを減速する。RF信号の開始時刻と対応する振幅は、捕集されて蓄えられ得る対象となる質量範囲を決定する。遅延電場は、最初の数μsの間RF信号と重なることもあり、重ならないこともある。
【0150】
この実施形態において、イオンはパルス化による動的な圧力状態でガスとの衝突によって熱化され得るものであり、冷却ガスの流れが連続的であってパルスされていなければイオン源および/または検出器領域内の圧力に影響を与えずに熱化が実現され得るとは考えられない。
【0151】
パルス化ガスがトラップから除去されると、イオンは2つのエンドキャップ42、44に印加される2つの電気的な同時パルスによって抽出される。単一イオン化事象の質量分析の全サイクルは、典型的に、15〜40msの範囲にあるはずである。典型的な実験サイクルのフローチャートが図6に示される。
【0152】
前述のように、過渡的なピーク圧力閾値は実験的に明らかにされており、この閾値を超えて制御されないフラグメンテーションは、最小化され、多くの場合排除される。この限界を超える圧力過渡変動は並進運動の冷却を十分な速度で行ってフラグメントに解離する前の分子イオンの内部エネルギーを十分に下げることができるものと推論され得る。
【0153】
図4を参照すると、フラグメンテーションの程度の減少が10−3mbar(0.75mTorr)を超える圧力で観察される。
【0154】
多くの実施形態において、熱化に使用され得る上限圧力閾値は、質量分析器の他の区画へのガス負荷が少なくなるように(例えば、イオン源および検出器領域への漏れが最小になるように)十分に短い時間で熱化ガスを排出するシステム能力によって制限される。差動排気される領域におけるガスの滞留時間は、QIT圧力容器の排気速度、背景圧力、および弁から注入されるガス量によって決定される。排気速度を上げると、所与の注入ガス量に対して実現され得る最大圧力が低下する。システムの排気速度を下げるとガスの滞留時間が長くなり、したがって、周囲環境へのガス負荷が増大する。10−3mbarを超える約1.33×10−1mbar(100mTorr)より小さい圧力は、広範なペプチドに対して制御されないフラグメンテーションを十分に最小化し、高電圧の採用による絶縁破壊現象、QIT体積からの導入および抽出の間のイオンの散乱、および実験における不可避の長いデューティサイクルをもたらすようなシステムの過負荷を生じないことが判明した。
【0155】
質量分析用として高真空状態で動作するパルス化イオン源、レンズシステム、QIT、およびTOFシステムを組み入れた好ましい実施形態において、圧力プロファイルのピークによって規定される有効な圧力範囲は、1.33×10−3mbar〜1.33×10−1mbar(1〜100mTorr)にあり、高圧はガスパルスの発生から約20ms以内にピーク圧力の25%まで低下する。
【0156】
この種の構成では、イオン源の中への有意な漏れのない効率的な熱化がイオントラップ内で行なわれ得る。計算は、295Kにおけるヘリウムガス用イオントラップエンドキャップの1mmイオンオリフィスのコンダクタンスが0.245Ls−1であることを示している。トラップ内の圧力が0.1mbarである場合、ガス処理量は0.0245mbar Ls−1である。オリフィスからイオン源ハウジングの中に流れる粒子数流量は、したがって、dN/dt=6.023×1017である。トラップ内が約10ms間に0.1mbarの一様な圧力にあると仮定すると、トラップから漏れる粒子の総数は約6.023×1015となり、自由体積が0.0033mである場合、イオン源内の緩衝ガスの分圧は約7.3×10−5mbarとなる。これらの計算は、トラップが約0.1mbarのピーク圧力で動作されており、0.1mbarを超える圧力の持続時間がおよそ10msである場合、イオン源内の圧力上昇は、有意でなく、高いイオン源圧力に関する前述の欠点をもたらすことにはならないことを示す。対照的に、トラップが0.1mbarの連続した高圧で動作される場合、イオン源内の圧力上昇は重要であり、中間/APイオン源の欠点が表面化する可能性がある。
【0157】
図7Aは、コールドマトリクス(DHB)、すなわち、低レベルの制御されないフラグメントを生成するマトリクスを使用したペプチド混合物のスペクトルを示す。図2の装置は質量スペクトルを取得するために使用され、その際、制御されないフラグメンテーションへの影響を示すために、イオントラップは、1×10−3mbar(0.75mTorr)より小さいパルス化ガスピーク圧力と1×10−3mbar(0.75mTorr)より大きいパルス化ガスピーク圧力とを用いて動作された。
【0158】
図7Aは、パルス化ガスを導入中のピーク圧力が1×10−3mbar(0.75mTorr)を超えなかったときに取得されたスペクトルを示す。図7Bは、イオントラップ内が約2.6×10−2mbar(20mTorr)にピークを持つ圧力過渡変動に対する制御されないフラグメンテーションの減少を実証する同じペプチド混合物を示す。スペクトル線は、m/z=757.39におけるブラジキニン、m/z=1046.54におけるアンジオテンシンII、m/z=1296.68におけるアンジオテンシンI、m/z=1533.85におけるPI 4R、m/z=1800.94におけるN−アセチルレニン、m/z=2093.08におけるACTH(I−17)、およびm/z=2465.19におけるACTH(18−39)に対応する。
【0159】
図8は、圧力過渡変動のピーク前後におけるイオン注入の影響を示す。ここでは、ホットマトリクス(CHCA)、すなわち、高レベルの制御されないフラグメンテーションを生成するマトリクスを用いた前述と同じペプチド混合物が使用されている。上側のスペクトルはピーク圧力前に到着するイオンのスペクトルで、下側のスペクトルはピーク圧力の約25%となる、ピーク圧力の約10ms後に到着する同じイオンのスペクトルである。
【0160】
ターゲット上のCHCAを含む500amolのホスホリラーゼグリコーゲントリプシン消化物負荷のMASCOTスコアは180を超えている。スペクトルは図9に示される。
【0161】
質量分析器の性能へのガスのパルス化の影響は2つある。第一に、並進運動の冷却の過程が狭い時間窓の中で終了され得る。第二に、熱化衝突が起こると、振動から並進運動へのエネルギー移動が促進され、真空状態で形成される内部励起イオンは安定化され得る。並進運動の冷却、ひいては振動冷却は、ともに、静的な背景圧力を採用したイオントラップの従来の動作と対照的に、ガスのパルス化によって得られる高圧において強化される。このように、イオンの内部エネルギーは、急速に低下されて正常なイオンを保護し、したがって、信号強度を増す。また、RF捕集信号の印加に続く半径方向および軸方向に大きい偏位を有する注入イオンの運動エネルギーの制動は、イオントラップ内部の過渡的な圧力作用の重要な側面である。どちらの影響も、静的な背景圧力環境を採用したイオントラップを用いる従来の動作で使用される圧力よりも高い圧力においてより顕著である。
【0162】
以上の好ましい実施形態は例として説明されており、さらに本発明の範囲内で多くの変更がなされ得ることは当業者に明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計においてイオンを熱化する方法であって、前記質量分析計がイオン源、イオントラップ、および検出器領域を有し、前記方法が、
イオン源内の圧力を約10−4mbarより小さく維持しながらイオン源内でイオンを生成するステップと、
10−3mbarを超えるピーク圧力を実現するためにガスをパルス化してイオントラップ内に導入し、イオン源からイオントラップの中に外部的にイオンを注入するステップと、
検出器領域内の圧力を約10−4mbarより小さく維持しながらイオントラップから検出器領域の中にイオンを放出するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
イオントラップ内の圧力がガスパルスの発生から約40ms以内にピーク圧力の25%まで低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ガスパルスがわずか40msの間にイオントラップ内に10−3mbarを超える圧力を生成する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅がわずか30msである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
イオントラップ内のイオンを熱化する方法であって、
ガスをパルス化してイオントラップの中に導入し、10−3mbarを超えるピーク圧力を得るためにガスをイオントラップから排気するステップと、
イオンをイオントラップの中に注入するステップであって、イオントラップ内の圧力がガスパルスの発生から約40ms以内にピーク圧力の約25%に戻る、イオンをイオントラップに注入するステップと
を含む、方法。
【請求項6】
イオントラップがイオン源および検出領域を含む質量分析計の一部であり、前記方法が、イオン源内の圧力を約10−4mbarより小さく維持しながらイオン源内でイオンを生成するステップと、検出領域内の圧力を約10−4mbarより小さく維持しながらイオンをイオントラップから検出領域の中に放出するステップとを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ガスパルスがわずか40msの間にイオントラップ内に10−3mbarを超える圧力を生成する、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅がわずか30msである、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
イオントラップ内のイオンを熱化する方法であって、
ガスをパルス化してイオントラップの中に導入し、10−3mbarを超えるピーク圧力を得るためにガスをイオントラップから排気するステップと、
イオンをイオントラップの中に注入するステップであって、ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅がわずか30msである、イオンをイオントラップの中に注入するステップと
を含む、方法。
【請求項10】
イオントラップがイオン源および検出領域を含む質量分析計の一部であり、前記方法が、イオン源内の圧力を約10−4mbarより小さく維持しながらイオン源内でイオンを生成するステップと、検出領域内の圧力を約10−4mbarより小さく維持しながらイオンをイオントラップから検出領域に中に放出するステップとを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
イオントラップ内の圧力がガスパルスの発生から約40ms以内にピーク圧力の25%まで低下する、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
ガスパルスがわずか40msの間にイオントラップ内に10−3mbarを超える圧力を生成する、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
イオン源、イオントラップ、および検出器領域を有する質量分析計を構成する方法であって、使用中にイオントラップ内部の圧力が一時的に10−3mbarを超え、その間にイオン源および検出器領域内において約10−4mbarより小さい圧力を維持するようにイオントラップの中に注入されるガスパルスの期間を選択するステップを含む、方法。
【請求項14】
イオントラップ内の圧力がガスパルスの発生から約40ms以内にピーク圧力の25%まで低下する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ガスパルスがわずか40msの間にイオントラップ内に10−3mbarを超える圧力を生成する、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅がわずか30msである、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅がわずか20msである、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ピーク圧力の25%におけるガスパルスの幅がわずか15msである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
イオントラップ内の圧力がガスパルスの発生から約20ms以内にピーク圧力の25%まで低下する、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
イオントラップ内の圧力がガスパルスの発生から約15ms以内にピーク圧力の25%まで低下する、請求項22に記載の方法。
【請求項21】
ガスパルスがわずか20msの間にイオントラップ内に10−3mbarを超える圧力を生成する、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
イオントラップ内でピーク圧力に達するのに要する時間がガスパルスの発生から10ms以内である、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ピーク圧力に達するのに要する時間がガスパルスの発生から5ms以内である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
イオントラップの外部の圧力がイオントラップ内部が高圧の期間中に約10−4mbarより小さく保たれる、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
イオントラップの外部の圧力が約10−5mbarより小さく保たれる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
イオントラップの外部の圧力が約10−6mbarより小さく保たれる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
イオントラップ内のガスのピーク圧力が5×10−3mbarを超える、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
イオントラップ内のガスのピーク圧力が10−2mbarを超える、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
イオントラップ内のイオンを捕集することを含む、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
イオントラップ内の圧力がイオンの熱化後に10−4mbar未満に低下される、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
イオントラップ内の圧力がイオンの熱化後に10−5mbar未満に低下される、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
イオンがイオントラップから検出器領域の中に放出され、イオントラップ内の圧力が検出器領域内の圧力と実質的に同じであるときイオントラップからイオンを放出するステップが起こるようにイオントラップ内の圧力が低下される、請求項1から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
イオントラップが差動排気されるイオントラップ容器内に設置され、トラップ容器が、ガスがガス入口システムからイオントラップに供給される際に通るガス入口ポート、ガスが真空システムの動作によってイオントラップから除去される際に通るガス出口ポート、およびイオンがイオントラップに入る際に通るイオンオリフィスを含む、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
トラップ容器が入口イオンオリフィスと出口イオンオリフィスを含み、イオンをイオントラップの中に注入するステップが入口イオンオリフィスを通じてイオンを注入することを含み、方法が、出口イオンオリフィスを通じてイオントラップからイオンを放出するステップを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ガス出口ポートが真空システムに接続され、真空がイオンの熱化中にイオントラップに適用される、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
真空システムが10〜100Ls−1の範囲の真空排気速度を提供する真空装置を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
ガス入口ポートがガス入口弁を含むガス入口システムに接続され、ガス入口弁の開放時間はイオントラップ内で所望の圧力プロファイルを得るように制御される、請求項33から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
駆動信号をガス入口弁に1〜300μsの範囲の時間印加するステップを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
駆動信号をガス入口弁に10〜200μsの範囲の時間印加するステップを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
駆動信号をガス入口弁に70〜130μsの範囲の時間印加するステップを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
ガス入口システムがガス入口弁に0.1〜10barの範囲の圧力を提供するガス源を含む、請求項37から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
ガス源の圧力が0.5〜5barの範囲にある、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
イオントラップ内の所望の圧力プロファイルが(1)ガス源内のガスの圧力、(2)ガス入口弁の開放時間、および(3)真空装置の真空排気速度から選択される1つまたは複数のパラメータを制御することによって得られる、請求項41または42に記載の方法。
【請求項44】
イオントラップ内のイオンを熱化するためにイオントラップに複数のガスパルスを提供することを含む、請求項1から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
パルスの周波数が毎秒5〜100パルスの範囲にある、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
イオン解離実験の一部として、イオンが熱化された後に第2のガスをパルス化してイオントラップに導入するステップを含む、請求項1から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
イオン解離実験が衝突による解離(CID)実験である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
第2のガスが熱化ガスとは異なる、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
第2のガスがヘリウム、窒素、アルゴン、クリプトン、およびキセノンから選択される、請求項46から48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
イオンの注入および熱化を通して背景ガスをイオントラップに連続的に供給するステップを含む、請求項1から49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
イオントラップ内の背景圧力が約10−5mbar未満に維持される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
背景ガスが熱化ガスと同じである、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
イオントラップ内の圧力が10−3mbarを超えるときイオンがイオントラップに入るようにイオンの生成と熱化ガスパルスとを連動するステップを含む、請求項1から52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
イオントラップ内部の圧力がピーク圧力の少なくとも80%にあるときイオンがイオントラップに入る、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
イオントラップ内部の圧力がピーク圧力の少なくとも90%にあるときイオンがイオントラップに入る、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
イオントラップ内部の圧力が上昇しているときイオンがイオントラップに入る、請求項53から55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
イオントラップ内部の圧力が実質的にピーク圧力にあるときイオンがイオントラップに入る、請求項53に記載の方法。
【請求項58】
イオントラップがQITである、請求項1から57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
イオンがサンプルからイオンを生成するためのレーザーを含むイオン源において生成される、請求項1から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
イオンがイオントラップからTOF分析器を含む検出器領域の中に放出される、請求項1から59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
イオントラップがMALDI質量分析計である質量分析計の一部である、請求項1から60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
質量分析計がMALDI QIT MSまたはMALDI QIT TOF MSである、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
熱化ガスが水素、ヘリウム、ネオン、窒素、アルゴン、クリプトン、およびキセノンから選択される、請求項1から62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
イオントラップから放出されるイオンを検出するステップを含む、請求項1から63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
質量情報を検出されたイオンに割り当てるステップを含む、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
質量分析計内のイオンを熱化する装置であって、前記質量分析計がイオン源、イオントラップ、および検出器領域を有し、装置が、トラップに入るイオンが10−3mbarを超える圧力を受け、その間にイオン源および検出器領域内を約10−4mbar未満の圧力に維持するように、ガスをパルス化してイオントラップの中に導入することによって、イオントラップ内で10−3mbarを超える圧力を使用中に発生するイオントラップ圧力制御手段を含む、装置。
【請求項67】
イオントラップ圧力制御手段がイオントラップを設置可能なトラップ容器を含み、トラップ容器がガス入口ポート、ガス出口ポート、およびイオンがイオントラップに入る際に通る少なくとも1つのイオンオリフィスを含む、請求項66に記載の装置。
【請求項68】
イオンオリフィスの直径が0.5〜3mmの範囲にある、請求項67に記載の装置。
【請求項69】
イオンオリフィスの直径が1〜2mmの範囲にある、請求項68に記載の装置。
【請求項70】
トラップ容器が、イオンがイオントラップを出て検出器領域に向かう際に通る出口イオンオリフィスを含む、請求項67から69のいずれか一項に記載の装置。
【請求項71】
出口イオンオリフィスが請求項68または請求項69に記載の直径を有する、請求項70に記載の装置。
【請求項72】
ガス出力ポートが、使用中にイオントラップからイオン源または検出器領域に有意なガス漏れがないようにガスがイオントラップから十分に迅速に除去され得る寸法を有する、請求項71に記載の装置。
【請求項73】
ガス出口ポートの断面積が少なくとも5cmである、請求項72に記載の装置。
【請求項74】
ガス出口ポートの直径が50〜80mmの範囲にある、請求項72または73に記載の装置。
【請求項75】
ガス出口ポートが、ガス出口ポートを真空装置に接続する真空管路に接続される、請求項72から74のいずれか一項に記載の装置。
【請求項76】
真空管路が10cm以下の長さを有する、請求項75に記載の装置。
【請求項77】
真空管路が請求項74で規定される範囲にある直径を有する、請求項75または76に記載の装置。
【請求項78】
真空装置が10〜100Ls−1の排気速度を提供する、請求項75から77のいずれか一項に記載の装置。
【請求項79】
ガス入口ポートが、ガス入口弁に結合されたガス入口管路に接続され、ガス入口管路がガス入口ポートをガス入口システムに接続しており、イオントラップ内のピーク圧力が10−3mbarを超えイオン源および検出器領域内の圧力が10−4mbarを超えないように、ガス入口弁がガス入口システムからイオントラップへのガスの流れを制御するように作動する、請求項67から78のいずれか一項に記載の装置。
【請求項80】
ガス入口弁の前面にある弁オリフィスが5〜300μmの範囲にある直径を有する、請求項79に記載の装置。
【請求項81】
ガス入口ポートの直径が1〜15mmの範囲にある、請求項67から80のいずれか一項に記載の装置。
【請求項82】
ガス入口システムが0.1〜10barの圧力を有するガス源を含む、請求項79から81のいずれか一項に記載の装置。
【請求項83】
ガス源の圧力が0.5〜5barである、請求項82に記載の装置。
【請求項84】
イオントラップ圧力制御手段は、イオントラップ内のピーク圧力が10−3mbarを超えイオン源および検出器領域内の圧力が10−4mbarを超えないように、ガスパルスの持続時間を制御するパルスコントローラを含む、請求項66から83のいずれか一項に記載の装置。
【請求項85】
パルスコントローラは、ユーザが適切なガスパルス持続時間を入力し得るソフトウェアを含む、請求項84に記載の装置。
【請求項86】
イオントラップ圧力制御手段は、イオントラップ内部の圧力が10−3mbarを超えるときイオンがイオントラップに入るように、イオン生成とガスパルスを同期化する同期化手段を含む、請求項66から85のいずれか一項に記載の装置。
【請求項87】
イオントラップ内部の圧力がピーク圧力の少なくとも80%であるときイオンがイオントラップに入る、請求項86に記載の装置。
【請求項88】
イオントラップ内部の圧力がピーク圧力の少なくとも90%であるときイオンがイオントラップに入る、請求項87に記載の装置。
【請求項89】
イオントラップ内部の圧力が上昇しているときイオンがイオントラップに入る、請求項86から88のいずれか一項に記載の装置。
【請求項90】
イオントラップ内部の圧力が実質的にピーク圧力にあるときイオンがイオントラップに入る、請求項86に記載の装置。
【請求項91】
請求項66から90のいずれか一項に記載のイオントラップ圧力制御手段を有する、質量分析計。
【請求項92】
質量分析計が請求項58から62のいずれか一項において規定される通りである、請求項66または93のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項93】
イオン源、イオントラップ、および検出器領域を有する質量分析計を変更する方法であって、
請求項66から92のいずれか一項に記載のイオントラップ圧力制御手段を設定するステップを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−540320(P2009−540320A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514900(P2009−514900)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002214
【国際公開番号】WO2007/144627
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(501350833)クラトス・アナリテイカル・リミテツド (4)
【Fターム(参考)】