説明

イオン発生装置

【課題】イオン発生装置から放出されるイオン種の持つ水クラスターの安定化を図ること。
【解決手段】本発明は、放電によりイオンを発生するイオン発生部と、該イオン発生部に高電圧を印加する高電圧印加部とを備えたイオン発生装置であって、前記イオン発生部の周囲に、高湿度下で周辺空気から水分を吸湿し、低湿度下で周辺空気へ水分を供給する調湿部材をさらに備えるイオン発生装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の浮遊微生物の除去若しくは不活化及び水分供給手段としてイオンを発生するイオン発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン発生装置に用いられるPCI(Plasma Cluster Ion)技術を始めとする大気プラズマ放電技術では、発生するイオン種のコアに大気中の水分子がクラスター化して付加されている(例えば、特許文献1(特許第3680121号公報)参照)。
【0003】
しかし、周辺の雰囲気の影響を受けてコアイオンに付加する水分子の数が増減するため、特に乾燥状態では水分子の少ない不安定なイオンが形成されてしまう。クラスター化した水分子の少ないイオンは、水分子の多いイオンに比べると、空間で存在できる時間(寿命)が短いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3680121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、イオン発生装置から放出されるイオン種の持つ水クラスターの安定化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、放電によりイオンを発生するイオン発生部と、該イオン発生部に高電圧を印加する高電圧印加部とを備えたイオン発生装置であって、
前記イオン発生部の周囲に、高湿度下で周辺空気から水分を吸湿し、低湿度下で周辺空気へ水分を供給する調湿部材をさらに備えるイオン発生装置である。
【0007】
前記イオン発生部は対向する複数の電極を含み、前記高電圧印加部により対向する前記電極間に電圧を印加することにより前記イオンを発生させることが好ましい。
【0008】
前記電極の少なくとも1つは針電極であり、前記調湿部材は前記針電極の周囲を取り囲むように配置されていることが好ましい。
【0009】
前記調湿部材は、シリカゲルまたは多孔質シリカであることが好ましい。また、前記調湿部材は、スポンジ等の吸湿性のある材料であることが好ましい。
【0010】
さらに、前記調湿部材に熱を加える発熱手段、または、前記調湿部材に振動を加える振動手段を備えることが好ましい。さらに、前記調湿部材に水分を補給する給水手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、大気中放電機構に、水分子を供給する物質(表面が多孔質で吸湿性のある物質。例えばシリカゲルや多孔質シリカ等)を配置することで、クラスターを構成する水分子の安定化を図ることができ、イオンを安定的に供給することができる。
【0012】
例えば、大気が乾燥している場合には、水分子供給による安定した水クラスターイオンを発生することができ、多湿雰囲気下では、含水限度まで放電が止まらないように放電安定性を高めることができる。
【0013】
また、乾燥または通常の湿度(40〜60%RH)においても、シリカゲルに吸湿された水分子がコロナ放電の電子等で励起されて飛び出し、水クラスターを形成できるようになるため、より寿命の長い、重いクラスターイオンを形成できる。すなわち、イオンを包むように形成される水クラスター分子の量が多いほど、イオンは安定化すると考えられるため、発生イオン種の安定化に効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)〜(c)は、例として含水シリカゲルにおける水分子の挙動を示す概略断面図である。
【図2】含水シリカゲルにおける水分子とシリカゲルの結合を説明するための概略図である。
【図3】含水シリカゲルにおける水分子とシリカゲルの結合状態の変化を説明するための概略図である。
【図4】本発明の実施の形態を示す概略斜視図である。
【図5】含水シリカゲルを設置せずに大気放電した場合(比較例)の発生イオン種(負イオン)の質量分布図である。
【図6】含水シリカゲルを設置して大気放電した場合(実施例1)の発生イオン種(負イオン)の質量分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、イオン発生装置の一例について説明する。イオン発生装置は、放電によりイオンを放出するイオン発生部として電極(例えば、針電極と対抗電極)を備えている。電極間には、交流波形またはインパルス波形から成る電圧が印加される。
【0016】
電極間の印加電圧が正電圧の場合は、イオンが空気中の水分と結合し、主としてH+(H2O)mから成るプラスイオンを発生する。電極間の印加電圧が負電圧の場合は、イオンが空気中の水分と結合し、主としてO2-(H2O)nから成るマイナスイオンを発生する。ここで、m、nは任意の自然数である。H+(H2O)mおよびO2-(H2O)nは空気中の浮遊微生物や臭い成分の表面で凝集してこれらを取り囲む。これを「クラスター化する」という。
【0017】
そして、以下の式(1)〜(3)に示すように、衝突により活性種である[・OH](水酸基ラジカル)やH22(過酸化水素)を微生物等の表面上で凝集生成して、浮遊微生物や臭い成分を破壊する。

+(H2O)m+O2-(H2O)n→・OH+1/2O2+(m+n)H2O ・・・(1)
+(H2O)m+H+(H2O)m’+O2-(H2O)n+O2-(H2O)n’
→ 2・OH+O+(m+m'+n+n')H2O ・・・(2)
+(H2O)m+H+(H2O)m’+O2-(H2O)n+O2-(H2O)n’
→ H22+O2+(m+m'+n+n')H2O ・・・(3)

ここで、式(1)〜式(3)において、m、m’、n、n’は任意の自然数である。従って、プラスイオンおよびマイナスイオンを発生して吹出口から吐出することにより使用者の近傍の殺菌および臭い除去を行うことができる。
【0018】
本発明のイオン発生装置は、イオン発生部の周囲に調湿部材を配置することで、放出イオン種の持つ水クラスターの安定化が図られたイオン発生装置である。
【0019】
調湿部材とは、高湿度下で周辺空気から水分を吸湿し、低湿度下で周辺空気へ水分を供給する部材である。調湿部材としては、例えばシリカゲルが挙げられる。シリカゲルは、通常、吸湿剤として利用されているが、水を吸着した状態でも安定で、熱を加えると水を放出して乾燥し、再び吸湿剤として使える可逆性を持っているため、本発明で用いられる調湿部材として好適である。
【0020】
シリカゲルの他に、多孔質シリカ等の多孔質のシリコン系素材やスポンジを用いることもできる。例えばシリカゲルは、二酸化珪素(SiO2)に強塩基を反応させてできた珪酸ナトリウムに水を加えて加熱し(水ガラス)、さらに塩酸で処理すると珪酸(H2SiO3)ができるが、これを加熱して脱水することで作製できる。多孔質で表面には無数の穴があり、物理的に水分子を吸着できると共に、表面にある−Si−OH基(シラノール基)との水素結合、ファンデルワールス結合による化学吸着によって吸湿できる。
【0021】
調湿部材の表面は、多孔質であることが好ましい。調湿部材の表面積が大きくなるため、水分子を吸着、保持する能力が高くなり、調湿機能に優れるためである。
【0022】
調湿部材は、イオン発生装置に設置する前に、予め吸湿させて水を含んだ状態にしておくことが好ましい。使用開始時に周辺空気が乾燥状態であっても、予め含まれていた水により水クラスターが供給されるためである。
【0023】
大気中での放電では、発生したイオン種を放電部周辺の水分子が取り囲み安定した水クラスターイオンとなるが、周辺の水分子が少ない場合には十分な水クラスターが形成されず、生じたイオン種が他の大気成分と衝突して変化する。逆に、イオン種に付加する水分子を増加させると、イオン種の安定化を図ることができる。ただし、周辺の大気が90%RHを越えるような多湿な状態では、放電自体の安定性が損なわれるため、概ね90%RH前後を越えない湿度を保つ(常湿〜90%RH程度)ことが放電条件として好ましい。
【0024】
また、大気中放電機構等のイオン発生部の周囲に調湿部材を設置すると、プラズマ放電によるプラズマ励起種の影響や、熱励起によってもシリカゲル等の調湿部材から水分子が放出されるため、プラズマ発生イオンに水分子が供給される。
【0025】
次に、図1を用いて、含水シリカゲルにおける水分子の挙動の一例について説明する。図1(a)に、予め水を含ませたシリカゲルブロックの概略図を示す。シリカゲルブロック(調湿部材)2の毛細穴20には、水分子1が物理的に含まれると共に化学吸着している。このような予め水を含ませたシリカゲルブロックを設置し、設置した周辺の空気が乾燥すると、まずシリカゲルブロック2の表面から物理吸着した水分子1が大気中に放出されて周辺空気の湿度が上昇する(図1(b)参照)。さらに時間が経過すると、表面の水分子が失われ内部に含まれる水分子が毛細管現象でブロック表面に送られる為に水分子の供給が続けられる(図1(c)参照)。さらに電極周囲局所領域での調湿を行うために吸湿材ブロックの外側は樹脂等の水分不浸透性の部材で覆う方が望ましい。
【0026】
なお、水分子1は、微細な穴に捕らえられている水分子、または、上記のように化学吸着している水分子(例えば、シリカゲルのシラノール基に水素結合している水分子。図2参照)である。化学吸着した水分子は、周囲が低湿度の状態でもシリカゲルブロックに保持される。
【0027】
このようにして、シリカゲル(調湿部材)から放出された水分子を使って、大気プラズマ放電で生じるイオンに水クラスターを供給することができる。
【0028】
さらに、放電で生じる電子やイオン種、ラジカル種がシリカゲル表面に到達し、シラノール基に弱く結合した水分子の結合を解くことによって、シリカゲルブロック等の調湿部材から水分子が大気中に放出される(図3参照)。プラズマからの衝撃によって放出された水分子が大気プラズマ放電部の近傍にあることで、乾燥空気中でも水クラスターを多く含むイオンを発生させることが出来る。
【0029】
一方、周辺空気の湿度が高い場合には、シリカゲルが放電部の空気中にある余分な水分子を吸着し、安定した水クラスター状イオンを形成できる。
【0030】
(実施形態1)
本発明の一実施形態を図4を参照して詳述する。図4において、針電極2および対抗電極4の間に電圧が印加されることにより、放電によるイオンの放出が行われる。シリカゲルで作成した筒状プレート(調湿部材)2は、針電極2の周囲を取り囲む(囲繞する)ように配置されている。調湿部材2(シリカゲル)は予め含水状態にしておく。
【0031】
針電極2に電圧を加えて放電することで、周辺の空気中および調湿部材2(シリカゲル)から発する水(H2O)分子を付加した水クラスターイオンが生じる。周辺空気が乾燥した状態でも、放電によって生じる電子等の励起によって調湿部材2から水分子が放出され、イオンへの水分子供給が行われる。
【0032】
調湿部材は、周辺空気が多湿な状態では、放電部の湿度を下げ、放電に支障がないように調整する機能も有している。
【0033】
(実施形態2)
本実施形態は、シリカゲルビーズに接するように電熱線などの発熱手段(若しくは、超音波振動子などの振動手段)が配置される点、および、シリカゲルへの給水手段を有する点で実施形態1と異なり、他は実施形態1と同様である。これにより、実施形態1よりも更に広い範囲の湿度環境に対して、プラズマクラスターイオンを構成する水分子数を安定的に制御できるようになる。
【0034】
例えば、周辺空気が多湿な状態においてシリカゲルが水分を吸着し過ぎた場合、放電部の湿度が高くなり放電自体の安定性が損なわれる恐れがあるが、シリカゲルに熱を与えてシリカゲルの再生を図ることで、湿度の高い環境下でもイオンを安定的に供給することができる。なお、放電針周辺に湿度を測定する湿度計を配置しておき、周辺湿度が低いときにかかる再生を実施することが好ましい。環境の変化に柔軟に対応することが目的であることから、本発明の調湿部材は、周囲が多湿の場合には吸湿して放電を助け、低湿の場合には含んだ水分子を放出してクラスターイオンを安定させる。一方、低湿条件に長時間曝された場合には調湿部材に含まれる水分も枯渇するため、多湿環境下に移動させるか、若しくは、給水機能を有する構造を持つことが望ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
シリカゲルビーズを詰めたボックス(メッシュシートからなる筒状ブロック)を、イオン発生部の放電針の周囲を囲むように配置した。次に、そのシリカゲルビーズに水を含ませ含水状態にする。周辺雰囲気を約20%RHの乾燥状態まで乾燥させ、その中でイオン発生部の針電極と対抗電極間に高電圧を印加して放電を行い、調湿条件(加湿)で発生したイオン種の質量分析をFinnigan Mat.製の三連四重極型質量分析装置TSQ7000を用いて行った。なお、比較例として、シリカゲルビーズを配置しない状態についても、同様に発生したイオン種の質量分析を行った。シリカゲルビーズを配置しない状態についての結果を図5に、シリカゲルビーズを配置した状態についての結果を図6に示す。
【0037】
また、電極近傍および周辺湿度の測定結果を表1に示す。なお、筒状ブロックは、円筒外半径が6mm、円筒内半径が2mm、高さ11mmのものを使用し、室温(24〜27℃)において測定を行った。表1において、A〜Eは、シリカゲルには予め12mLの水を含ませて試験を行った結果であり、Fは、シリカゲルを予め熱して乾燥させて試験を行った結果である。
【0038】
【表1】

【0039】
図5に示されるように、含水シリカゲルが無い場合、湿度20%RHでも水クラスターイオン(実験では負イオンの場合)が形成できるが、図5のスペクトルに示されるように、ピーク質量が300程度で水分子が少ないことが分かる。
【0040】
なお、図中のnは負イオンO2-(H2O)nのH2O分子数を示す。水分子の分子量は18であるため、スペクトルは18の間隔をあけて複数のピークが存在している。また、このスペクトルからO2-(H2O)nが確かに発生していることも確認できる。なお、マイナスイオンにはこれ以外に微量の硝酸イオンや亜硝酸イオンなど様々なイオンが存在するが、今回の実施例1で発生したマイナスイオンは、確かにO2-であることが分かる。
【0041】
一方、含水シリカゲルを設置した場合には、図6のスペクトルに示されるように、周辺湿度が20%RHでも多量の分子を含むクラスターイオンが生成できることが分かる。
【0042】
実験では、負イオンの場合のデータを示したが、正イオンについても同様の効果が得られる。正イオンはH+(H2O)mであり、含水シリカゲルを設置することでH+にクラスター化する水分子の量が増え、正イオンも増加する。
【0043】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0044】
1 水分子、2 調湿部材(シリカゲルブロック,筒状プレート)、20 毛細穴、3 針電極、4 対抗電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電によりイオンを発生するイオン発生部と、該イオン発生部に高電圧を印加する高電圧印加部とを備えたイオン発生装置であって、
前記イオン発生部の周囲に、高湿度下で周辺空気から水分を吸湿し、低湿度下で周辺空気へ水分を供給する調湿部材をさらに備えるイオン発生装置。
【請求項2】
前記イオン発生部は対向する複数の電極を含み、前記高電圧印加部により対向する前記電極間に電圧を印加することにより前記イオンを発生させる、請求項1に記載のイオン発生装置。
【請求項3】
前記電極の少なくとも1つは針電極であり、前記調湿部材は前記針電極の周囲を取り囲むように配置されている、請求項2に記載のイオン発生装置。
【請求項4】
前記調湿部材は、シリカゲルまたは多孔質シリカである、請求項1〜3のいずれかに記載のイオン発生装置。
【請求項5】
前記調湿部材は、スポンジ等の吸湿性のある材料である、請求項1〜3のいずれかに記載のイオン発生装置。
【請求項6】
さらに、前記調湿部材に熱を加える発熱手段、または、前記調湿部材に振動を加える振動手段を備える、請求項1〜5のいずれかに記載のイオン発生装置。
【請求項7】
さらに、前記調湿部材に水分を補給する給水手段を備える、請求項1〜6のいずれかに記載のイオン発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−105556(P2013−105556A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247210(P2011−247210)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】