説明

イオン移動度分光測定法の使用による分析物の検出

気相サンプル中の分析物を検出する方法及びシステムが提供される。分離領域中に過剰量のドーパントを有する分析物を検出するイオン移動度分光計が提供される。一実施形態では、ドーパントはドリフトガス又は拡散などによって分離領域に直接加えられ、それによって過剰ドーパントガスが供給され、過剰ドーパントはその後のクラスタ形成及び維持を支配する。分離領域中の過剰ドーパントは、IMSに導入される水蒸気などの不要物質に関連する妨害信号を最小化又は低減する。一態様では、本発明は、分析物検出のために感度及び信頼性を向上させたIMSシステム及び方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本出願は、2007年7月30日に出願された米国特許仮出願第60/952,669号明細書、2007年8月3日に出願された第60/953,879号明細書、及び2007年11月2日に出願された第60/984,804号明細書の優先権の利益を主張するものであり、それらの各々は参照によりその全体が本明細書の開示と矛盾しない範囲で本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002]気相分析物を検出するために感度及び安定性を向上した改善されたイオン移動度分光計(IMS)が提供される。特に、分析物検出を妨げる傾向がある水蒸気などの物質を除去する必要なしに高感度で正確な分析物検出をしやすくするために、高濃度ドーパントがIMSシステムに供給される。
【背景技術】
【0003】
[0003]分析物を検出するためのIMSの商業上の重要性が、麻薬の検出(米国特許第5,491,337号明細書)、爆発物の検出(米国特許第6,225,623号明細書)、汚染を示す物質の検出、化学物質の検出に関連した、及び一般に切迫した危険の早期警報を行うために有害ガスの放出をモニタする(米国特許第5,095,206号明細書)ための多数の特許に反映されている。汚染は、半導体、ハードディスクドライブ、フラットパネル表示装置、航空宇宙及び他のハイテク産業に及ぶ多くの産業において問題である。汚染により被る損傷は至る所にあり、それは生産プロセス、製品材料、機器表面に問題をもたらし、深刻な場合には人間の健康にさえ影響を与えることがある。したがって、汚染(又は麻薬、爆発物、若しくは他の害悪を示す分析物)が迅速に確実に特定され、その結果、深刻な損傷が生じる前に適切な是正ステップが取られることが不可欠である。
【0004】
[0004]IMSシステムは分析物の検出の際の有用性について認識されており、周囲環境の連続的な長期モニタリング用に容易に採用することができる。IMSシステムの一般的な構成は当技術分野ではよく知られており、そのようなシステムは注目する分析物をイオン化する手段と、電界の印加によってイオン移動度を測定する手段とを有する。分析物が異なるとイオン移動度が異なる可能性があるので、イオン化された分析物が印加された電界によって移動し、イオン検出器と相互作用する速度を決定することによってIMSシステムは注目する分析物をモニタ及び検出する。向上した感度を有し、誤検出読取りをしにくいIMSシステムを提供し、且つ、特に、分析物モニタリング及び検出を妨げることがある物質の存在に関連する問題を克服するための努力が継続している。IMSシステムの感度を向上させる様々な手段が開発されるにつれて、それに応じて、注目する分析物を検出するのに使用される信号をマスクすることがある変則ピークの発生、荷電粒子及びそれのクラスタなどによって機器選択性が影響される可能性があることが認識されている。問題は、分析物が検出されないことがある、計算された分析物濃度が正しくないことがある、又は誤検出が不要な作用の引き金となることがあることである。それとは関係なく、信頼性の低い検出に関連する問題は繰り返しの試験を必要とし、さらに分析物検出を遅らせる。妨害物質からの変則信号の発生を最小限にするための一技法には、IMSへのドーパントの導入が含まれる。
【0005】
[0005]十分な選択性を維持しながら感度を改善するために、米国特許第5,491,337号明細書には、IMS検出セルに導入される前にキャリアガスストリームに低濃度(数ppmの程度)のドーパント(ニコチンアミド気体)を加える(例えば、ドーパントはドリフト領域に直接加えられない)ことが提案されている。ドーパントは、電荷移動媒介物として働き、空気サンプルから得られた麻薬を検出するIMSで得られたスペクトルをクリーンアップし、それによってシステム感度を向上させるのに役立つ。そのシステムでは、ドーパントはイオン化チャンバで生成された大部分のイオンよりも高いプロトン親和力を示すように選択され、その結果、麻薬気体がない状態で単一ピークが生成される。ドーパント分子は好ましくは水素キャリアの塩基性と注目するアルカロイド分子の塩基性との間にある塩基性を有するように選択される。このようにして、平衡状態で非アルカロイドのバックグラウンドがない状態では、イオンスペクトルはドーパント種に関連したイオンピークだけを示す。麻薬気体がある状態では、ドーパント分子と麻薬分子との間の電荷移動が麻薬イオンの集団を生成し、それが検出される。しかし、そのシステムは、IMSセルへの導入前にキャリア及びサンプルガスストリームに低濃度で添加されるアンモニア(NH)又はニコチンアミドドーパントに限定される。
【0006】
[0006]米国特許第6,225,623号明細書には、爆発性化合物及び麻薬を検出するためにコロナ放電イオン源によって生成されたイオンでドープされるIMSが開示されている。分析物がシステムに導入される場合に妨害ピークの問題があることが分かっている。「清浄な」サンプル(分析物及び不純物のない)では、単一の反応物イオンピークが観察される。対照的に、分析物が供給されると、複数の重なり合うピークが反応物イオンピークの他にも検出される。これらの他のピークは反応物イオンピークをマスクし、IMS感度を低減し、並びにあり得る誤検出問題を引き起こす傾向がある。この妨害ピークの問題を克服するために、IMSに導入されたサンプル気体がイオン化され、それに続いて検出される方法を変更するために化学ドーピングが使用される。Proctor及びTodd、Alternative Reagent Ions for Plasma Chromatography、Anal.Chem.56:1794−97(1984)を参照されたい。そのようなドーパントシステムでは、ドーパントはコロナ放電イオン化処理のイオン化副産物(例えばコロナドーパントイオン)によって、又は再循環する化学ドーパント源によって得られる。報告によれば、ドーパントのそのような使用により、注目するサンプル(その場合の分析物はRDXである)に関連したイオンピークを大幅には損なうことなしにバックグラウンドの汚染が抑制される。しかし、そのIMSは化学ドーパントを導入するのに複雑な空気圧技術及び閉ループ経路を必要とする。さらに、分析物の検出は注目する表面を拭き取った拭き取りサンプルを導入することによるものであり、したがって、注目する分析物を十分に検出するのに高温動作を必要とする。約250℃の高温がシステム中の水蒸気を低減又は除去するためにさらに必要とされ、さもなければ水蒸気は妨害ピークを生成することになる。そのような高温システムでは設計制限が生じ、表面材料の選択がそのような高温に耐えることができる表面材料に制限される。
【0007】
[0007]高電場非対称波形イオン移動度分光測定法(FAIMS)として知られている異なるIMSシステムが米国特許第7,026,612号明細書に開示されている。そのようなシステムでは、印加される電界が高電圧状態と低電圧状態との間で切り替えられ、非対称電圧波形が生成される。多くのFAIMSデバイスは、窒素、酸素、又は除湿空気の精製流を含むキャリアガスを使用する(例えば、米国特許第5,420,424号明細書を参照)。キャリアガスはIMSセルへの水蒸気の通過を妨げるフィルタ又はメンブレンによって除湿することができる。米国特許第7,026,612号明細書は、IMSセルにサンプルを導入する前に、より詳細には混合物をイオン化する前にサンプルのドーパント混合と組み合わせてこれらのフィルタを使用することを開示している。そのシステムでは、混合物は容量で約1パーセント未満のドーパントガスを含み、キャリアガスそれ自体がドープされたキャリアガスとなる。ドーパントはIMSセルの分離領域に直接導入されず、ドリフトガスによってイオン化領域に輸送される。水除去フィルタのないシステムの実施形態では、キャリアガス及びサンプルは、感度及び/又は分離能力に悪影響を及ぼすことがある微量の水又は他の汚染を有していない。これから分かることは、そのようなシステムは依然として妨害イオン及びイオンクラスタが水蒸気誘起により生成される傾向にあることである。
【0008】
[0008]特異性を改善するためにドーパントを使用する他のIMSシステムは、米国特許第5,095,206号明細書、第5,032,721号明細書、第5,234,838号明細書、第5,095,206号明細書、及び第5,283,199号明細書に提供されている。米国特許第5,283,199号明細書は、二酸化塩素の検出を改善するために1つ又は複数のドーパント(例えばメチルアミン)を使用することを開示している。それらのシステムは、一般に、妨害物質を排除するためのメンブレン、又は水蒸気を最小限にする他の手段を必要とし、IMSセルに導入する前にガス分析物を含むキャリアガスにドーパントを導入する。そのようなメンブレンはシステムのコストを増大させ、メンブレンが注目する分析物を通過できるようにし続けながら十分な量の不要物質を確実に除去できるようにし続けるためにメンテナンスを必要とする。
【0009】
[0009]米国特許第6,495,824号明細書は、様々なイオン移動度をもつ付加物を形成するためにサンプルと反応することができる複数の反応物含有リザーバを有するIMSシステムを開示している。当技術分野で既知の他のIMSシステムと同様に、そのシステムもサンプルに反応物を導入するか、又はそれ自体キャリアストリームとなる。反応物は分離領域に直接加えられない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
[0010]上述から、注目する分析物を確実に高感度で検出する能力に影響を及ぼす不要イオン及びそのクラスタの生成を避けるIMSシステムが当技術分野において必要であることは明らかである。そのようなシステムでは、水蒸気除去メンブレンの必要性が避けられ、それによって感度を維持しながらシステムの複雑さが低減される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[0011]本発明の一態様は高感度で分析物を検出するためのデバイス及び関連する方法を提供する。IMSシステム又はIMSセルの分離領域に高濃度のドーパントを導入することによって、高感度で高信頼性となり、速い応答時間を有するIMSシステムが提供される。それ自体ドリフトガスであるドーパントにより、分離領域におけるドーパント分布が均一であり、クラスタ形成及び/又は電荷移動を支配できることが保証される。代替として、ドーパントは拡散によって分離領域に導入され(例えばドリフトガスなしで)、イオン検出器でのなどの分離領域の局所部分に高濃度のドーパントが、及びシャッタグリッドに対応する分離領域の他方の端部により低い濃度が供給される。この態様は低レベルの分析物検出の間有用であり、対応して低レベルのドーパントを分析物に導入し、ターゲットイオンピークを増大するのに有益となり得る。しかし、分離領域のドーパントレベルを増大すると、改善された動作特性をもたらすいくつかの利点が提供される。例えば、分離領域の高いドーパントレベルは、比較的高い水蒸気レベルのある状態でさえ水に起因する妨害ピーク信号を抑制することによって分析物を正確に検出する能力をもたらす。ドリフト領域又は分離領域での高ドーパントは、クラスタ分解及び/又は望ましくない電荷移動反応に起因する信号劣化をしばしば被る従来システムと比較して、分離領域中の分析物に対応するクラスタを維持及び/又は安定化させる。したがって、分離領域中の高ドーパントはクラスタ形成を維持及び安定化させ、それによって測定スペクトルの総合的な感度及び信頼性を改善する。
【0012】
[0012]イオン化領域に導入される前又は導入と同時にガスサンプルに加えられるドーパントのように、ドーパントが単にイオン化又は反応領域中を循環するシステムでは、ドーパントの一部分だけがイオン化され、電界によって分離領域に導かれる。ごく一部分のイオン化ドーパントだけが分離領域に入ることの他に、さらに逆流ドリフトガス流による分離領域の連続的な浄化がある。したがって、分離領域の壁はドーパントと平衡状態に達しない。一般に、分離又はドリフト領域でのドーパントレベルは、一兆分率(ppt)以下の濃度の程度である。これらの条件下で、それらのIMSシステムは分離領域においてドーパントでクラスタ形成を推進することができず(実際にはドーパントが分離領域中にほとんどないか又はまったくないので)、したがって、電荷を消費するが有用な情報を提供しない、機器により検出される多数の付加ピークがある場合がある。従来のIMSシステムでは、水化学反応が特に正イオンモードでイオンクラスタ形成を支配する。したがって、従来のIMSシステムは、セル中の水及び関連する水クラスタ形成を低減するためにメンブレン及び高いセル温度(>150℃)を必要とする。水誘起クラスタ形成は、これらのシステムにおいて、分離領域から不要な水蒸気を除去しようとしてドリフトガスとして清浄乾燥空気(CDA)又は不活性ガスを導入することによってさらに最小化される。
【0013】
[0013]対照的に、用途に応じてppm以上のレベル(例えば、従来のIMSの分離領域のドーパンレベルと比べて約10倍以上)などの過剰量又は「高濃度」のドーパントなどのドーパントを分離領域に直接供給すると、感度及び安定性を向上しながら妨害が低減される。分離領域内でドーパントイオンクラスタ形成を最大化することによってドーパント化学反応がクラスタ形成を支配し、それによって、水蒸気がある状態でさえイオン移動度ピーク生成を推進するので、そのような改善が行われる。したがって、本発明の一態様はドーパントイオンクラスタ形成を最大化する。ドーパントイオンは、ドーパントモノマー、二量体、三量体、ドーパント−分析物付加物をいう。ドーパントイオンクラスタ形成を最大化すると、水イオンクラスタ形成が減少し、セルは水蒸気を除去することなく周囲空気を直接サンプリングすることが可能になる。分離領域中の高濃度ドーパントは、現在のIMSシステムでしばしば検出される変則ピークを一掃するのに特に有用である。そのような高濃度ドーパントシステムの最終成果は、IMSによって生成されるイオン移動度スペクトルから不要ピークを最小化及び除去さえも行うことである。分離領域中のドーパントレベルは、帯電したドーパント種及び中性ドーパント種のことをいう。一態様では、分離領域中のドーパント濃度は均一ではない。この態様の一実施形態では、過剰なドーパント濃度は、イオンコレクタ又は検出器を含む領域などの過剰ドーパントを有する分離領域の一部、及びシャッタグリッドに隣接する領域などの過剰ドーパントを随意に有していない他の領域を参照する。
【0014】
[0014]さらに、セルへの水蒸気の進入を妨げるためにメンブレンを有するIMSシステムは、IMSのイオン化領域中の分析物の量を著しく減少させる。典型的には、分析物の約1/3しかメンブレンを横切らない。その上、分析物はドリフトガスによって約2倍にさらに希釈される。メンブレンは分析物検出の有効な下限を減少させるだけでなく、さらに機器応答時間を増加させる。そのようなメンブレンはさらにシステムに不必要な費用を加え、それ自体、本明細書で説明されるIMSシステムが随意に避けている汚染の潜在的発生源となる。水蒸気ベースのピーク生成に関連する問題を最小化又は防止すると、メンブレンが不必要となり、それによって、システムの感度が向上するIMSシステムに役立つ。一態様では、サンプルガスはメンブレンなしのセルに直接流れ込み、それによってセルに供給される全分析物は最大になる。次に、イオン化領域における分析物を含むサンプルガスは、分離領域に導入されていたドーパントを含むドリフトガスによって約10%程度希釈することができる。希釈は、IMSシステムのダイナミックレンジを選択的に調整する手段を提供する。特定のダイナミックレンジが必要とされる用途では、サンプルの適切な希釈が行われる。ドーパント源からの拡散によるドーパント導入などのドリフトガスがない態様では、分析物を含むサンプルガスの希釈は避けられる。この態様では、サンプルガスの流れは、分離領域の第1の端部での(例えばシャッタ電極での)ドーパントの濃度に適合するように制御され、それによって分析計のダイナミックレンジ及び感度を選択的に調整することができる。同様に、ドーパントの拡散率又は流れは、シャッタ電極でのドーパントの濃度を変えるように調整することができる。
【0015】
[0015]一実施形態では、本発明は、IMSの分離領域が高濃度の化学ドーパントを有するIMSシステム及び分析物検出方法を提供する。一態様では、ドーパントが連続的に導入され、それによって、セルは連続的な高濃度ドーパントを有することが確実になる。
【0016】
[0016]IMSシステムには、例えば、気相サンプルをイオン化領域に導入するための入口、分離領域、及び分析物と比べて高濃度又は過剰なドーパントを分離領域に導入することができるドーパントの供給源が設けられる。電極シャッタが開いており、電界が印加されている場合、イオン化領域でイオン化されたドーパント及び分析物が分離領域に入ることができるという点で、イオン化領域及び分離領域は互いに流体連通であると言われる。同様に、ドリフトガスを有する態様では、ドリフトガスが分離領域からイオン化領域に流れることができる。イオン源は、イオン化領域で気相サンプル中の分析物及びドーパントをイオン化する手段を与える。分離領域と流体連通して配置された検出器は、イオンのクラスタ又は付加物を含むイオンをイオン移動度に基づいて収集及び検出することができる。この領域に高濃度又は過剰なドーパントを連続的に導入することによって、ドーパント及びドーパントイオンはクラスタ形成を支配し、それにより、検出器によって測定される検出ドリフト速度ピークに大きく影響を及ぼす。
【0017】
[0017]一実施形態では、IMSドリフトガスはそれ自体ドーパントである。一実施形態では、ドリフトガスはドーパントではなく、ドーパント及びドリフトガスは、分離領域にそれぞれが導入される前に、導入されると同時に、又は導入された後で混合される。端的な実施形態では、ドーパント及びドリフトガスは分離領域への導入の前に混合され、ドーパント入口ポートにおいて分離領域に導入され、それによってドリフトガス領域の全体にわたってドーパントの均一分布を促進する。代替として、ドリフトガスは分離領域にドーパントを導入するのに必要とされない。代わりに、ドーパントの原料は、供給源からドーパント入口ポートを通り、長手方向にイオン検出器からシャッタグリッドまで拡散することによって「受動的に」IMSシステムに入る。この実施形態では、拡散はフィックの法則を使用して記述することができ、ドーパントの流れはドーパントの濃度勾配に比例する(例えば、J=−Ddc/dx、ここで、Dはドーパントの拡散率又は拡散係数である)。したがって、ドーパントの流れ(したがって、シャッタ電極及びイオン検出器におけるドーパントの濃度)を制御するのに、(例えば、ドーパント源を分離領域に接続する管路を短縮及び/又は拡大すること、ドーパント透過モジュールの温度を調整することなどにより)システムに導入されるドーパントの量などの様々なパラメータが有効である。
【0018】
[0018]ドーパント入口ポートの特定の場所は分離領域の形状によって決定される。例えば、長手方向に位置合わせされた分離領域では、ドーパント入口はイオン化領域及びシャッタ電極から最も遠い分離領域の端部に、例えばイオン検出器になど配置することができる。そのような構成は、分離領域における印加電界と平行且つ反対であるドリフトガス及びドーパントの逆流を容易にする。したがって、ドリフト及びドーパントガス流の方向は電界中のイオン進行の方向と実質的に反対である。
【0019】
[0019]出口は、イオン化領域からの不要な又は過剰な材料(例えば、ドリフトガス、サンプル、非イオン化材料、キャリアガスなど)を除去するために本明細書で開示される分光計又はセルのいずれもそのイオン化領域に配置することができる。ドーパントが後続の測定で再使用されないという点で、この分光計は単一通過システムとなり得る。代替実施形態では、イオン化領域から排出されるドーパント及び/又はドリフトガスは、再使用のためにシステムに戻して再利用することができる。
【0020】
[0020]本明細書で概説されるシステムの1つの利点は、システムが約150℃未満の温度でなど、低温モードで随意に動作することである。最新技術のシステムは、一般に、水蒸気導入を最小化することによって不要信号の低減を容易にするために高温条件下で動作する。一実施形態では、動作温度は40℃と60℃との間である範囲から選択される。この実施形態では、動作温度はイオン化領域及び分離領域を含むセルの動作中の平均温度をいう。
【0021】
[0021]分光計は、潜在的な妨害物質を除去するためのメンブレンの有無にかかわらず動作することができる。例えば、メンブレンは、水蒸気を除去するための疎水性メンブレンとすることができる。代替として、メンブレンなしのシステムでは、気相サンプルに含まれる分析物は実質的にすべてイオン化領域に導入される。同様に、気相サンプル中の水蒸気は実質的にすべてイオン化領域に導入される可能性がある。これは、妨害問題のために妨害除去プロセス中に分析物をしばしば失う最新技術のIMSシステムと比較して改善となる。
【0022】
[0022]当技術分野で知られているように、キャリアガスを使用して気相分析物サンプルのイオン化領域への輸送を容易にすることができる。このシステムのさらなる特性は様々な入力の流量に関係する。例えば、分析物導入はサンプル流量によって記述することができ、ドーパント導入はドーパント流量によって記述することができる。特定のシステム構成に応じて、これらの流量はキャリアガス又はドリフトガスなどの他の材料の流れを含むことができる。各々の流量は他のものと比較して記述することができる。導入された気相分析物を過度に希釈しないことが望ましい実施形態では、サンプル流入量はドーパント流入量と比較して高く、例えば、75%を超える、90%を超える、又は約80%と95%との間とすることができる。システムにおいて過剰ドーパントが確実に継続されるように、ドーパント入口で導入されるドーパントの濃度は、ドーパント導入の相対的流量が減少したとき増加させることができる。分析物希釈が有益である状況では、ドーパント流入量はサンプル流入量とほぼ同等に又はそれよりも大きく、例えば、60%のドーパントドリフトガス流入量及び40%のサンプルガス流入量のようにすることができる。一実施形態では、ドーパント流入は連続的であり、20mL/分から1000mL/分までの間である範囲から選択される。流量は、例えば所望の分析物検出範囲を生成するように流入量を希釈することなどによって機器の感度又は検出範囲を設定するための調節手段として使用することができる。一態様では、本明細書で説明される分光計又は方法のいずれもパルス流であるサンプル流量を使用する。
【0023】
[0023]対流によりドーパントを輸送する「能動的な」流量を伴わず拡散のみによってドーパントがシステムに導入される実施形態では、以下で説明するように、他のパラメータがドーパント対分析物の相対量を記述するのに使用される。
【0024】
[0024]過剰ドーパント又は高濃度ドーパントを記述するためのいくつかの機能的特性がある。特定のドーパント量はIMSシステムの動作条件及び構成によって決まる。したがって、一実施形態では、ドーパント過剰量は分析物量によって決まる。一実施形態では、反応領域又はイオン化領域中のドーパント対分析物の比は1000:1と100:1との間にある。分離領域では、ドーパント対分析物の濃度は、ppmドーパント対ppt分析物の程度である(例えば、10の程度の比、又は10と1010との間以上の比)。一態様では、この比は分離領域において決定される。別の実施形態では、ドーパントの量は、分離領域又はイオン化領域中の水蒸気レベルなどの潜在的な妨害物質と同様に結び付いていることがある。ドーパント過剰は濃度規定変量の絶対量によって記述することができる。例えば、本発明のいくつかの態様では、ドリフト又は分離領域でのドーパント過剰は、0.5ppmから400ppmの間又は1ppmから350ppmの間である範囲から選択される濃度として規定される。一実施形態では、ドーパント濃度は、イオン化領域及び分離領域の両方の全体にわたって実質的に一定である。「過剰量」と見なされるのに必要とされるシステム中のドーパントの量の別の記述は、ドーパントが分離領域の壁と、特にドリフトガス領域を画定する壁と平衡状態となるように分光計領域に十分な量のドーパントを供給することに関係する。そのような平衡状態は、分離領域においてドーパントの分布へのいかなる壁面効果ももはや存在せず、その結果、ドーパントレベルがセルの時間非依存の定常状態濃度レベルに達している場合に生じる。一実施形態では、ドーパントの最小量は、最も高いドーパントレベルを必要とする変量によって決定される。過剰ドーパントを得るためのドーパント濃度の特定な値は、IMSからの測定出力スペクトルを観測することによって経験的に決定することができ、したがって、特定の分析物及び所望の機器感度だけでなく、抑制されることが望ましい妨害物質により生成されるピーク、及び所望の割合のピーク抑制にも依存する。
【0025】
[0025]一実施形態では、ドーパント濃度は、分離領域において、イオンコレクタ又は検出器に対応する分離領域の端部での最大濃度からイオン化領域に対応する分離端部での(例えばシャッタ電極での)最小濃度にわたる実質的な勾配を有する。この実施形態では、イオン化領域と分離領域との境界に分析物を含むガスサンプルを導入すると、シャッタ電極においてドーパントと分析物との良好な混合が行われる。
【0026】
[0026]一態様では、本発明は、高分子材料で製作されたドリフトガス領域又は分離領域を備えた分光計を提供する。そのような材料は、機器コストの低減、及び比較的高い動作温度を有する現在のIMSシステムでは利用できないことがある設計を容易にすることができる。
【0027】
[0027]一実施形態では、本発明は、少なくとも低pptの程度の分析物感度を有するIMSを可能にする。代替として、感度は、不要な水蒸気を除去するためにメンブレンを含む要素を有する現在のIMSに対する改善の観点から記述することができる。この態様では、感度は、現在のメンブレンベースのIMS分析計のメンブレンによる分析物の損失又は電荷を消費する妨害ピークの低減に起因して、少なくとも約2倍から3倍だけ向上することができる。
【0028】
[0028]別の実施形態では、過剰ドーパントの存在は、イオン化領域及び/又は分離領域内で相互作用を推進するドーパントの能力の観点から記述される。例えば、過剰ドーパントはドーパント−ドーパントクラスタ及びドーパント−分析物二量化クラスタを生成し、水蒸気、又は水蒸気のイオン化若しくは別の状況では過剰ドーパントではなく水蒸気と相互作用することになる材料を介して生成されたイオン生成物である妨害物質などの妨害物質からの検出可能なイオンクラスタの形成を防止する。
【0029】
[0029]過剰ドーパントをシステムに導入することができる限り、本明細書で説明されるデバイス及び方法はいかなる分析物/ドーパントシステムにも有用である。この態様では、分析物は、アンモニア及びアミンなどの塩基、ヒドラジン、(HCl、Cl、HF、F、Br、HBr、NO、SOなどの)酸、薬剤化合物及びその前駆体、工業用化学薬品、化学兵器薬剤、過酸化物、爆発徴候の化合物、麻薬徴候の化合物からなる群から選択され、ドーパントは、(HF、HCl、Cl、NO、SO、硫化カルボニルなどの酸ガスを検出するための)置換フェノール、DMMP(メチルホスホン酸ジメチル − CHPO(OCH)、サリチル酸メチル、2−ヒドロキシアセトフェノン、SO、2−クロロブタンからなる群から選択される。ドーパントは、検出されるべき分析物に応じて適切なドーパント/分析物相互作用を確実とするように選択される。有用なドーパント/分析物対のいくつかの例には、限定はしないが、DMMP/アンモニア、サリチル酸メチル/H、サリチル酸メチル/酸が含まれる。この組合せは、(分析物に応じて)電界の方向を切り替えることによって正イオンモード又は負イオンモードのいずれかで動作することができる。これは、さらには、適切にドーパントを選択するのに影響を及ぼす一要因となる。
【0030】
[0030]一実施形態では、このシステム及び方法のいずれも室内空気中に浮遊する分析物などの周囲空気中に浮遊する分析物を検出するためのものである。この態様では、気相サンプルは周囲空気を含む。代替として、分析物は表面(例えば衣類、荷物、肌)から拭き取り物に移動させることができ、その後本発明のIMSに導入される。
【0031】
[0031]別の実施形態では、本発明は、一般に、イオン化領域と、イオン化領域と流体連通している分離領域とを有するIMSセルである。気相サンプル中の分析物をイオン化領域に導入する手段及び過剰量のドーパントを分離領域に導入する手段がさらに設けられる。分離領域及びイオン化領域は互いに流体連通している。したがって、導入されたドーパントは、過剰ドーパントを分離領域の少なくとも一部に供給する。別の態様では、シャッタ電極の一部を含む部分などのイオン化領域の少なくとも一部は過剰ドーパントが継続的に供給される。
【0032】
[0032]ドーパントを導入する手段は、チャンバ内でドーパントとドリフトガスとを混合することと、ドーパント及びドリフトガスを分離チャンバに供給することとを含む。チャンバに導入されるドーパントの量は調整器によって制御することができ、ドーパントを生成するドーパント源は必要に応じ補充することができる。代替として、ドーパントはドーパント入口ポートで分離領域に導入することができる。随意に、追加のポートがドリフトガスを分離領域に導入し、その後、IMSセル内のドリフトガス流がIMSシステムの全体にわたってドーパントを分散させる。ドーパント源からのドーパントは、限定はしないが、ドーパントの化学リザーバ、透過管、蒸発ドーパント生成及び/又は温度誘導ドーパント生成を介した制御付加反応を含む当技術分野で既知の任意の手段によって制御可能に生成することができる。
【0033】
[0033]ドーパントを導入する別の手段は、供給源からチャンバまで受動的に拡散させるドーパント源(例えば、ドーパントの化学リザーバ、透過管、蒸発ドーパント発生器及び/又は温度誘導ドーパント発生器)によるものである。この態様では、ドリフトガスは必要とされない。例えば、ドーパント源は保持部に配置することができ、ドーパントは保持部と分離領域とを流体的に接続する管路によって分離領域に導入される。次に、分離領域に導入されたドーパントは、(ドーパントが導入される場所のごく近傍での、例えばイオン検出器での又はその近くでの)高濃度領域から(例えば、サンプルガスの導入がドーパント濃度を確実に低いままにするシャッタ電極の近くでの)低濃度領域まで拡散することができる。シャッタ電極の領域での空気サンプルの導入により、この領域はよく混合され、この領域への及びこの領域からの空気サンプルの流れがこの領域の低レベルのドーパントを維持することが保証される。
【0034】
[0034]気相サンプル中の分析物を導入する手段は、ガスサンプルをイオン化領域に直接引き込むためのポンプ又はファンを含む。代替として、キャリアガスを導入し、キャリアガスを伴うサンプルをイオン化領域に押し込む領域に、ポンプ又はファンがガスサンプルを引き込むことができる。当技術分野で知られているように、流量調節器、ディフューザ、コネクタ、バルブなどを含む関連する流れ制御デバイスが必要に応じて設けられる。
【0035】
[0035]IMSセルのイオン化領域は、イオン化領域において分析物及びドーパントのイオン化を引き起こし、それによって検出可能なイオンを生成するように配置されたイオン源を随意に含む。この態様では、イオン検出器は、イオン移動度に基づいて前記検出可能なイオンを検出するために分離領域に配置される。一般に、イオン移動度は、分離領域において時間の関数として検出されるピークの振幅から得られたスペクトルをモニタすることによって決定される。特定の分析物又は検出可能なイオンには特有のドリフト時間があるので、これらのスペクトルに基づいて分析物が検出され、濃度が決定される。本明細書で説明されるように、ドーパントは随意にドリフトガスをさらに含む。本明細書で開示されるIMSセルはいずれも、気相分析物を検知することができる当技術分野で知られているようなIMSに随意に組み込まれる。
【0036】
[0036]本発明の別の実施形態では、気相サンプル中の分析物を検出する方法が提供される。全体的に、互いに流体連通している分離領域とイオン化領域とを有するイオン移動度セルが提供される。分離領域は、イオン化領域に隣接する第1の端部(例えば、分離領域とイオン化領域との間の境界にあるシャッタ電極における)と、シャッタ電極と向かい合い、ある長手方向距離だけ第1の端部から隔てられているイオン検出器に対応する第2の端部とを有する。分析物はイオン化領域に導入され、高濃度のドーパントは少なくとも分離領域の第2の端部に、又は分離領域全体に導入される。分析物及びドーパントはイオン化手段の影響下にあり、検出可能なイオンを生成し、検出可能なイオンは分離領域を通過する。イオン(及びそれのあらゆるクラスタ)はイオン移動度に基づいて分離され、検出器で検出され、それによって分析物が検出される。一実施形態では、ドリフトガスはドーパントをイオン化領域に押し流し、それによって、分離領域及びイオン化領域の両方に高レベルのドーパントが確立される。一実施形態では、ドーパントは拡散のみによってイオン化領域又はシャッタ電極に導入される。
【0037】
[0037]本明細書で請求される方法及びデバイスは、限定はしないが、アミン、ヒドラジン、塩素、HCl、HF、F、Br、HBr、NO、SO、薬剤化合物及びその前駆体、工業用化学薬品、化学兵器薬剤、アンモニア、過酸化物、爆発徴候の化合物、麻薬徴候の化合物の1つ又は複数を含む広範囲の分析物を検出することができる。
【0038】
[0038]一実施形態では、ドリフトガスは分離領域に導入され、分離領域中のドーパントをイオン化領域に輸送する(例えば対流によって)。この実施形態の一態様では、ドリフトガス流により、分離領域において及び随意にイオン化領域でも同様にドーパントの実質的に均一な濃度が可能になる。一実施形態では、ドーパントは拡散によって分離領域に導入される。この態様では、ドーパントの濃度勾配が、分離領域において長手方向に沿って、高濃度を有するイオン検出器における第2の端部から低いドーパント濃度を有するイオン化領域境界(例えばシャッタ電極)における第1の端部まで確立される。随意に、1つ又は複数のパラメータが、IMSシステムの使用者によって、電極シャッタにおけるドーパントを電極シャッタにおける分析物及び/又は汚染物質に適合するように変更され、それによって調整可能なダイナミックレンジ及び感度を有するシステムが提供される。例えば、サンプルの量、ドーパントの流れ、又は両方を調整して、100:1から10000:1の間にあるシャッタ電極におけるドーパント対分析物の比を与えることができる。
【0039】
[0039]同様に、この方法及びデバイスは、限定はしないが、置換フェノール、DMMP、サリチル酸メチル、2−ヒドロキシアセトフェノン、SO、2−クロロブタンを含む広範囲のドーパントで使用することができる。一実施形態では、ドーパント対分析物の比は、特に分離領域の少なくとも一部において、過剰であり、例えば、100倍を超える、10倍を超える、10倍と1010倍との間の範囲から選択される、又は約10倍と10倍との間から選択された範囲を有する比である。システム内に存在するドーパントが過剰量よりも少ないのは、多数のピークがIMSシステムのイオン検出器によって検出される状態で識別することができる。そのような状況では、付加の妨害ピークが十分に低減されるまで必要に応じて分離領域へのドーパント導入が増やされる。本明細書で開示されるIMS及びIMSセルのいずれも、例えば室内空気中の分析物、分析物の気相サンプル、又は拭き取り試験方法で拭き取り物に移された分析物を含む分析物を検出するために使用される。検出されるべき分析物と、IMSが動作している環境とに応じて、ドリフトガス及び/又はキャリアガスは室内空気などのIMSを取り巻く環境から得られるガスを含むことができる。代替として、分析物及び/又はドーパントの輸送に適合する不活性ガス又は任意の他のガスが使用される。
【0040】
[0040]一態様では、過剰ドーパントは水蒸気生成のドリフト時間ピークの形成を防止する。本明細書で提供される方法のいずれも、ドーパントの供給源から分離領域への拡散、ドリフトガスの流れ、又は両方の組合せによって分離領域にドーパントを導入する。
【0041】
[0041]一実施形態では、本発明は、互いに流体連通している分離領域及びイオン化領域を有し、0.1ppmを超える量のドーパントを分離領域に導入するイオン移動度分光計を設けることによってイオン移動度分光計における妨害を抑制する方法である。妨害材料及び分析物を含むサンプルはイオン化領域に導入されイオン化されて、分析物イオンを生成する。分析物イオンは電界を印加することによって分離領域に導入され、その結果、分離領域に過剰に供給されたドーパントが分析物以外の化学種から生じる妨害を抑制する。
【0042】
[0042]一態様では、分離領域中の妨害イオンから過剰量に供給されたドーパントへの電荷移動が妨害イオンからの妨害を抑制する。本明細書で提供される方法のいずれも、水、酸、弱酸、又は強酸である妨害材料向けのものである。一態様では、この方法及びシステムのいずれも、0.5ppmと500ppmとの間である範囲から選択されるドーパント濃度で過剰ドーパントを分離領域に導入する。
【0043】
[0043]さらに、互いに流体連通している分離領域及びイオン化領域を有するイオン移動度分光計を設けることによって、イオン移動度分光測定法により分析物を選択的に検出する方法が本明細書で提供される。ドーパントは分離領域に導入され、0.1ppmを超える量のドーパントが供給される。分析物を含むサンプルはイオン化領域に導入され、イオン化されて分析物イオンを生成する。分離領域に分析物イオンを導入するために、電界が分離領域に確立される。分析物イオンは、分離領域と流体連通している検出器を用いてイオン移動度に基づいて検出される。分離領域に過剰に供給されたドーパントは分析物以外の化学種から生じる妨害を抑制する。一実施形態では、妨害は水から生じる。一実施形態では、ドーパントはメチルホスホン酸ジメチル又はサリチル酸メチルを含み、分離領域中の過剰ドーパント量は0.5ppmと500ppmとの間にある。
【0044】
[0044]いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、本発明の実施形態に関連する根本原理又は機構に関する見解又は理解についての説明が本明細書にある場合がある。あらゆる解釈又は仮説の最終的な妥当性と関係なく、それでもなお本発明の一実施形態は効果があり有用であることが認識されよう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ドリフトガスにドーパントを導入することにより分析物検出を改善したIMSセルの概略図である。
【図2】異なるサンプルガス入口及び排気構成を備えた図1に示されたものと類似のIMSセルの概略図である。
【図3】サンプルガスと共にイオン化領域で導入されたDMMPドーパント(約2ppmのDMMP)を有する(分離領域中の低pptドーパントに対応する)アンモニア分析計でのドリフト時間を示すグラフである。アンモニアはサンプルに含まれていない。3つの別個のピークが観察される。
【図4】50ppbのアンモニアを含むサンプルガスに対して、イオン化領域で導入されたDMMPドーパント(約2ppmのDMMP)を有する(分離領域中の低pptドーパントに対応する)図3のアンモニア分析計でのドリフト時間を示すグラフである。ラベルが付けられているように、IMSはイオン識別特性中に6つの別個のピーク、即ちNH(HO)、HO、DMMPモノマー、DMMPモノマー+NH、DMMP二量体、及びDMMP二量体+NHを検出している。
【図5】分離領域に過剰に導入されたDMMPドーパント(約1ppmのDMMP)を有するアンモニア分析計でのドリフト時間を示すグラフである。サンプルガスはアンモニアを含んでいない。図3で検出された3つのピークとは対照的に、単一のピークだけがドーパント二量体クラスタに対応して観察される。
【図6】分離領域に導入された25ppbのアンモニアガス及び約1ppmのDMMPを有する図5のアンモニア分析計でのドリフト時間を示すグラフである。図4で検出された6つのピークとは対照的に、2つのピークだけが注目する分析物の検出に使用された2つのピーク(例えばドーパント二量体ピーク及びドーパント二量体/分析物クラスタピーク)に対応して観察される。
【図7】それぞれ異なる濃度の水(0、6ppm、40ppm、250ppm、1800ppm)を有する5つの異なるサンプルについて、100ppmのサリチル酸メチル(MS)ドーパントを有するIMSシステムの検出スペクトルを示す図である。
【図8】MSドーパントが約350ppmであることを除いて図7と同様な図であるこれらのデータは、分離領域中のより高いドーパントレベルが水生成のピークを著しく抑制することを示している。
【図9】分離領域内に著しい濃度勾配を有するドーパントを生成するためにドリフトガスなしで拡散によりドーパントを導入することによって分析物検出を改善したIMSセルの概略図である。
【図10】5ppbのアンモニアに対する高感度アンモニア分析計からの検出スペクトルを示す図である。分析計はドリフトガスなしで動作されている。ドーパントは拡散によって分離領域に導入されている。
【図11】5ppbの加湿アンモニアによるスパンガス安定性を示す図である。IMS分析計は図9に示された構成で動作している。
【図12】500pptのプロットスケールでの5ppbのアンモニアスパンガスサンプルの測定安定性を示す図である(シグマ=17ppt)。
【図13】ゼロ安定性の1時間プロット(500pptプロットスケール、シグマ=3ppt)である。
【図14】ゼロ安定性の5時間プロット(50pptプロットスケール、シグマ=64ppt)である。
【図15】5ppbのアンモニアへのIMS分析計の応答、ゼロ空気への応答(3分の90%、10分の95%及び4分の90%、10分の95%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
[0060]図面を参照すると、同様の数字は同様の要素を示し、2つ以上の図に現れる同じ数字は同じ要素をいう。さらに、下文で以下の定義が適用される。
【0047】
[0061]「イオン」は、正電荷又は負電荷のいずれか一方を有する多重荷電又は単一荷電の原子、分子、巨大分子、並びに正電荷又は負電荷のいずれか一方を有する原子、分子、及び巨大分子の複合体、集合体、クラスタ、又は断片を全般的にいう。イオンは、本発明では、Ni63源などのイオン化手段から直接的又は間接的に生成される。
【0048】
[0062]「分析物イオン」又は「検出可能なイオン」は、印加電界下で移動度に基づいて分離することができ、サンプル中の分析物(複数可)の識別及び/又は濃度の特性評価を行うために本IMSの方法及びシステムで検出される気相サンプル中の注目する分析物(複数可)に由来するイオンをいう。分析物イオンは、本発明では、IMS分析計のイオン化領域で行われる1つ又は複数のプロセスを介して形成され、そのプロセスは、直接イオン化プロセスと、注目する分析物、ドーパント、ドーパントイオン、並びにキャリアガス(複数可)、ドリフトガス(複数可)、及び/又はドーパントガス(複数可)のイオン化から生成される反応物イオンに関係するイオン−分子反応及びイオン−イオン反応を含む。実施形態によっては、検出可能なイオンは分析物及び/又はそれのイオン並びにドーパント(複数可)及びそれのイオンに関係する結合反応(例えば付加物形成、クラスタ形成など)を介して形成される。一実施形態では、イオンは、負に帯電したドーパント−分析物複合体又は正に帯電したドーパント−分析物複合体などの帯電したドーパント−分析物複合体のことをいう。
【0049】
[0063]「ドーパント」は、IMSによって検出される不要ピークの形成を抑制するためにIMS分析計に加えられる化合物のことをいう。ドーパントはイオンの飛行時間を調整することができる可能性がある。本発明のドーパントは、分離領域における電荷移動の促進、及びクラスタが分離領域で移動するときのイオンクラスタの維持に有用となり得る。本明細書で開示されるIMSシステムは様々な化合物に関連するピークを明確に抑制するように調整することができる。例えば、分離領域における比較的低レベルの過剰ドーパントを使用して水生成ピークを抑制することができる。増加したドーパントレベルを使用して、例えば、NO生成ピークなどの弱酸を抑制することができる。さらに高いドーパントレベルはSO及び強酸(例えばHCl、HF)のピークを抑制することができる。ドーパントは、本発明の実施形態では、ガスサンプル中の分析物を検出し、識別し、特性評価を行うために本IMS分析計の感度及び選択性を高めるのに有用である。実施形態によっては、IMS分析計に加えられるドーパントは、例えば、分析計で生成される他のイオン(例えば、反応物イオン、ドーパントイオン、水蒸気などの不純物及びインターフェラントに由来するイオン)の飛行時間と異なるようにイオンの飛行時間を変えることによってイオンの組成及び/又は飛行時間を選択的に調整する。実施形態によっては、IMS分析計に選択的に加えられるドーパントは、例えば、分析物イオンの飛行時間と異なるように反応物イオンの飛行時間を変えることによって反応物イオンの組成及び/又は飛行時間を調整する。本発明のこの態様でドーパントを使用するのはIMSスペクトル及び検出条件の生成にとって有用であり、ドリフト領域で分離された検出可能なイオンに対応するピークが、反応物イオン、ドーパントイオン、水蒸気などの不純物及びインターフェラントに由来するイオンなどの分析計で生成される他のイオンに対応するピークと大きくは重ならない。いくつかの実施形態では、過剰なドーパントは妨害ピーク又は変則ピークの形成を防止する。ドーパントは検出されるべき分析物に応じて選択することができる。例えば、ドーパントは、例えばキャリアガスの塩基性と分析物の塩基性との間にある塩基性を有するように選択することができる。一般に、所与のタイプのイオン及びイオン分離システムへの特定のドーパントガスの効果を演繹的に予測することは難しく、その結果、所与のイオンに対するドーパントの選択には実験が必要であり、その実験は、機器の感度及び信頼性を最大にするように注目する所与の分析物に対するドーパントを当業者の能力範囲内で選択するものである。典型的なドーパントの例には、置換フェノール(HF、HCl、Cl、NO、SO、硫化カルボニルなどの酸ガスを検出するため)、サリチル酸メチル、2−ヒドロキシアセトフェノン、SO、2−クロロブタンが含まれる。
【0050】
[0064]「ドーパントイオン」は、IMSのイオン化領域に供給された1つ又は複数のドーパントのイオン化から生成されたイオンのことをいう。本明細書で使用されるとき、ドーパントイオンは、特に、帯電したドーパントのモノマー、二量体、クラスタ、及び複合体を含む。本明細書で使用されるとき、ドーパントは、特に、帯電したドーパントの断片、ドーパントの二量体、ドーパントの三量体、ドーパントのクラスタ、及びドーパントクラスタの断片を含む。実施形態によっては、ドーパントイオンはサリチル酸メチルなどのドーパントの負に帯電したモノマー、二量体、クラスタ、複合体、及び/又は断片をいう。本発明のドーパント及びドーパントイオンは気相サンプル中の分析物(複数可)と相互作用して、分析及び検出することができるイオンを生成し、それによりサンプル中の分析物(複数可)は検出、識別、及び特性評価が行われる。
【0051】
[0065]イオンは、他の材料とさらに反応する前駆イオン又は中イオンとすることができる。中イオンは、IMS分析計中でキャリアガス(複数可)及びドリフトガス(複数可)から形成されるイオンのことをいう。実施形態によっては、中イオンは、分析物、ドーパント、又は分析物とドーパントの両方のイオン化をもたらす電荷移動反応に関与し、それによってその後イオン検出器によって検出されるイオンを生成する。
【0052】
[0066]「流体連通」は、流体(例えばガス又は液体)がある要素から別の要素まで流れることができるような2つ以上の要素の構成のことをいう。要素は、管、セル、容器構造体、チャネル、バルブ、ポンプ、又はこれらの任意の組合せなどの1つ又は複数の付加要素を介して流体連通することができる。例えば、ドーパント、ドリフトガス、及びイオンの少なくとも一部が一方の領域から他方の領域に通過することができる場合、イオン化領域及び分離領域は流体連通であると言われる。いくつかの態様では、この流体連通は一方向的である(例えば、ドリフトガスは分離領域からイオン化領域に移動する)。
【0053】
[0067]「イオン移動度分光計」(IMS)は、当技術分野では、イオン移動度分離に基づいて広範囲の分析物を検出するのに使用されるイオン化システムのことをいうものと理解されたい。一般に検出される分析物は、アルカロイド、他の麻薬及び規制薬物、爆発物、限定はしないが化学処理及び精製、半導体、又は製薬の製造を含む製造プロセスに関連する汚染物質などの物質からの気体である。
【0054】
[0068]「分析物」は広義に使用され、例えば、排出、汚染、又はプロセス制御の測定などのために注目する任意の気相物質のIMSによる検出をいう。そのような測定により、環境アセスメント、作業者保護、及びプロセス制御モニタリングが行われ、分析物が所望の濃度範囲から外れるか又は処置可能レベルを超える場合に警告することができる。典型的なIMS分析物測定用途には、限定はしないが、石油化学製品、化学製品、精製、廃棄物焼却、発電、医薬製造、パルプ及び紙処理、農業、水及び廃水処理、並びに実験室試験が含まれる。したがって、分析物は一般に酸性ガス又は塩基性ガスとすることができ、より詳細には、例えば、アンモニア、塩化物、塩素、HF、HCl、SO、過酸化物、過酸化水素、臭化メチル、二酸化塩素、酢酸とすることができる。
【0055】
[0069]「キャリアガス」は、気相サンプル中の分析物を含む分析物をイオン化領域に輸送するのを支援するガスをいう。キャリアガスは、窒素などの純粋で不活性なガスから室内空気などのIMSを取り巻く環境から得られるガスの範囲とすることができる。気相サンプルは状況に応じてそれ自体室内空気キャリアガスである。
【0056】
[0070]「分離領域」は、イオンの有効サイズ(例えば衝突断面)に基づいてイオンを分離するIMSの区域をいう。一態様では、分離領域はドリフト管領域などの「ドリフト領域」を含み、そこではドリフトガスがイオンの電界誘導移動と反対の方向に流れる。
【0057】
[0071]「過剰」なドーパントは、クラスタ形成を支配又は促進し、及び/又は分離領域中のイオンと電荷移動を行うのに十分であるドーパントをシステムに供給することをいう。一般に、過剰ドーパントは、分離領域又はドリフト管領域におけるドーパントイオン及び非イオン化ドーパントの数として測定される。システムが「過剰ドーパント」を有すると見なされるのに必要とされる特定の量のドーパントはいくつかの要因によって決まる。1つの要因は、気相サンプルの組成、並びに、特に、インターフェラント(複数可)及び/又は分析物(複数可)の量及びタイプである。別の要因は、壁面効果(例えばドーパント/壁相互作用)などの分離領域の特性を含む。ドーパントは壁との定常状態平衡を迅速に得るために十分な量が加えられ、それによって、ドリフト領域には、ドーパント二量化及びドーパント−分析物クラスタのようなドーパント主体の化学反応の方に化学反応動力学を押し進めるのに役立つ高濃度のドーパントが確保される。この過剰により、迅速な機器応答時間が保証され、分析物検出に使用されるピークが最大化され、分析物検出には必要とされず、実際には分析物検出を妨害することがある不要ピークが最小化される。さらに、ドーパントレベルは、抑制されることが望ましいピークの原因である化学種を含めて、分離領域における注目する電荷移動反応に応じて変えられる。一般に、水を抑制するのにより少ないドーパントが必要とされ、ドーパントレベルが上昇する順に弱酸(例えばNO、NO)、SO、及び強酸が抑制される。したがって、IMSを選択的に調整して不要ピークを抑制するための注目するパラメータには、妨害物質及び/又はドーパントの電荷親和力、並びに分離領域におけるドーパントの濃度レベルが含まれる。
【0058】
[0072]ドーパントは、IMSシステムに、より詳細には分離領域に当技術分野で既知の任意の手段によって供給される。例えば、米国特許第5,491,337号明細書はドーパント分子のキャリアガスストリームへの添加を開示している。同様に、高濃度ドーパントを供給するために、ドーパント分子は分離領域に導入する前にドリフトガスストリームと直接混合することができる。「ドリフトガス」は、電界誘導イオン移動と反対の方向に流れるガスをいう。ドリフトガスはそれ自体ドーパント、例えば、窒素ガスなどの不活性ガス中に浮遊するドーパントとすることができる。ドリフトガスは、電界及び流れの平均的方向が互いの10%以内である場合に分離領域中の電界と「実質的に反対」である方向に流れていると言われる。
【0059】
[0073]「実質的に」は、イオン化領域に導入される気相サンプル中の分析物又は水蒸気のごく一部のこともいう。一実施形態では、「実質的にすべて」は、イオン化領域に導入されるサンプル中の分析物の少なくとも約50%、70%、90%、75%と95%との間、又は約100%のことをいう。メンブレンを有するIMSシステムは、典型的にはイオン化領域に気相分析物の約35%しか供給しないが、それはかなりの割合がメンブレンによって除外されるからである。同様に除外される水蒸気の量は疎水性メンブレンの特性によって決まる。
【0060】
[0074]局所ドーパント濃度が全領域にわたってその領域の平均ドーパント濃度よりも約10%、5%、又は1%未満しか変化しない場合、ドーパントはシステムにおいて「実質的に一定」である。
【0061】
[0075]「イオン源」は、イオン化領域に配置されたガス材料をイオン化することができる構成要素のことをいう。当技術分野で知られているように、この供給源は、Ni63などのβ粒子電離放射線の放射性線源、又はコロナ放電若しくはエレクトロスプレーなどの別のイオン生成手段とすることができる。
【0062】
[0076]「パルス流」は、周期的な方法でIMSシステムにサンプルを導入することをいう。例えば、分又は時間の程度のような任意の所望の周期を与えることができる。
【0063】
[0077]「妨害を抑制すること」は、IMSシステムから出力されたスペクトルにより検出されるような妨害化合物によって生成されるピークをはっきりと減少させることをいう。この減少は、25%、50%、75%、又はそれを超える低減などのピークの振幅の低減として表すことができる。代替として、この抑制により分析物イオンクラスタで利用可能な電荷が分析物の検出に役立つようになるので、抑制は注目するピークの増加として、例えば注目するピークの25%、50%、又は75%以上の増加として表すことができる。同様に、抑制は注目するピークと妨害ピークとの間の比として表すことができる(図3〜8を参照)。
【0064】
[0078]分析物を「選択的に検出すること」は、IMSによって検出された妨害イオン(水などの)に関連したピークを低減すること、及び/又は注目する分析物から生じる検出ピークを増加させることなどによって、分析物の総合的な検出を改善するように分離領域に過剰なドーパントを供給することをいう。
【0065】
[0079]イオン移動度分光計(IMS)の一般的な構成は当技術分野で既知である(例えば米国特許第5,095,206号を参照)。IMSでは、気相イオン移動度は、ドリフト速度の差に基づいてイオンを分離するために電界を有する分離領域を使用して決定される。低い電界強度では、イオンのドリフト速度は印加された電界強度に比例する。一般に、イオンドリフト速度方向と反対の方向に流れるドリフトガスは、一定のイオン速度を比較的迅速に達成するのに役立つ。
【0066】
[0080]気相サンプル及びドーパントをIMSシステムに導入する一方策が図1に概略的に示される。図1に提示されているように、分析物を潜在的に含む気相サンプル10が入口30でイオン移動度セル20に導入される。随意に、気相サンプル内の不要汚染物質を除去するためにメンブレン15がセル20の上流(例えば入口30の上流)に配置される。一実施形態では、気相サンプルの輸送はキャリアガス12の流れによって推進される。キャリアガス12は、随意に、気相サンプルとは別の流動管路によって少なくとも部分的に導入される。気相サンプル10は、イオンを生成するためにイオン源60を有するイオン化領域70に導入される。イオンは、分離領域80内に配置された電極84により生成された静電界82によってイオン検出器110の方に押しやられる。シャッタ電極86は、イオン化領域70から分離領域80へのイオンの進入を容易にする。イオンは、イオン検出器110並びに関連データ取得及び処理ユニット120によって検出される。シャッタ86の選択的駆動により、イオン化領域70における選択的イオン増大が可能になる。一実施形態では、システムは、米国特許第4,950,893号明細書に概説されるように増大モードで実行されるが、シャッタグリッドの機能は逆にされている(例えば、シャッタは通常は開にバイアスされており、一時的に閉にバイアスされる)。一実施形態では、システムは、通常モード(例えば、シャッタは通常は閉にバイアスされており、一時的に開にバイアスされる)で実行される。
【0067】
[0081]ドーパント40はドーパント入口50でセル20に導入される。ドーパントは、それ自体、分離領域80において印加された電界82の下でのイオン移動の方向に対して矢印44で示された逆流方向に移動するドリフトガス42とすることができる。ドーパント入口は分離領域80にドーパントを直接導入できるように配置される。一般に、(矢印によって示されている)ドリフト流44は、リザーバ又はドーパント含有リザーバ及びドリフトガスの別個の供給源から分離領域内壁100を通るドーパント40及びドリフトガス42の流れによって生成され、分離領域80及びイオン化領域70を通過し、排気ポート90でセル20から除去される。ドーパント入口50、ガス入口30、及び排気出口90の相対位置は、任意の数の幾何学的配置、形状、及び相対的位置決めとすることができる。一実施形態では、ドリフト流44中のドリフト流は、電界82に沿ったイオンのドリフト速度の方向と反対の方向である。一態様では、分離領域80はドリフト管を含む。
【0068】
[0082]変更した相対的ポート位置をもつ別の例が図2に提示される。この例では、入口30及び排気90の場所が切り替えられている。図2は、分離領域に過剰な量のドーパントを付加しているので、サンプル中に潜在的な妨害物質が存在している状態でさえ高感度で高信頼性の分析物検出にメンブレン15を必要としないことを示している。図1、2に示された2つのシステムでは、ドーパント及びドリフトガスは、IMSセル20の一方の端部で一緒に導入されるように示されている。代替として、ドーパントは分離領域80に別個に加えられ、その後、ドリフトガスによってIMSセル20の全体にわたって分散及び輸送することができる。
【0069】
[0083]電源、シャッタグリッド、開口グリッド、流量調節器、ドリフトガス、キャリアガス、サンプルガスをセルに輸送するためのガス供給源及び流動管路、ディフューザ、サンプルチャンバ、スクラバ、透過管、イオン化チャンバ、グリッド電極、場規定電極、増幅器及びデータプロセッサなどの信号処理構成要素、及び/又は温度制御装置などの当技術分野で既知のイオン移動度分光計の機構が必要に応じて組み込まれる。コレクタ電極又はイオン検出器110の方にイオンを送る印加電界を周期的に印加して、イオン増大及びそれに続くドリフトガス領域へのイオンの押し流しを可能にすることができる。典型的な電界は数百V/cmの程度に及んでおり、例えば、約150〜180V/cmを含めて、大気圧でのIMSセル内のガスに対して約600V/cm以下である。
【0070】
[0084]図3〜6は様々なIMS分析計システムによって得られたスペクトルの例を提示する。図3、4の分析計はイオン化領域にドーパントを付加するように構成されているが、図5、6の分析計は分離領域にドーパントを加える。両方のシステムにおいて、ドーパントはDMMPであり、分析物はアンモニアである。
【0071】
[0085]次に、図3及び4を参照すると、潜在的な妨害ピークが、分析物がない状態(図3)及び50ppbのアンモニアがある状態(図4)でIMSシステムによって検出される。分析物の追加なしでさえ、図3は、(それぞれ左から右へ)水イオンピーク、DMMPモノマーピーク、及びDMMP二量体ピークに関連する3つのピークが観察されることを示している。汚染物質ピークの不要な検出が生じる問題は図4に示されており、分析物検出に使用されない多数のピークが検出されている。このシステムでは、ピークは(それぞれ左から右へ)アンモニアイオン、水イオン、DMMPモノマー、DMMPモノマー及びアンモニア、DMMP二量体、並びにDMMP二量体及びアンモニアである。このシステムでは、アンモニア検出は2つのピーク(DMMP二量体及びDMMP二量体+アンモニアピーク、例えば右端の2つのピーク)だけを使用し、アンモニア濃度を計算する。他の4つのピークは電荷を消費するが、そのIMSシステムでの分析物濃度の計算に関して少しも役に立たない。図3、4は、形成されてイオン検出器によって検出されたイオンのほとんど半分が分析物(例えばアンモニア)の検出で使用するのに役に立っていないことを示している。図3及び4はそれぞれ135mL/分のキャリアガス流量、500mL/分のサンプルガス流量、及び135mL/分のドリフトガス流量を有する。ドーパントは分離領域に直接加えられないので、分離領域中のドーパント濃度は低く、ppt以下の程度である。システムは50℃で大気圧で動作している。
【0072】
[0086]高濃度のドーパントを分離領域に導入するシステムから得られたデータが図5、6に提示される。それぞれ図5、6を図3、4と比較すると、ピークの総数が劇的に減少し、その結果、分析物なしのシステム(図5)では、単一のドーパント二量体ピークだけが観察されることに気づく。ドーパントモノマー及び水イオンピークは、分離領域中に過剰なドーパントが存在するために形成されない。同様に、分析物がシステムに導入される場合(25ppbのアンモニア、図6参照)、分離領域中に高濃度のドーパントが存在するので、水に関連するピークの形成が防止され、その結果、2つのピークだけ、即ちドーパント二量体及びドーパント二量体/分析物のものが残る。それらは検出に使用される2つのピークである。メンブレンが使用されていない場合さえ、水ピークはこれらの条件下で生じない。したがって、分離領域に過剰なドーパントを導入する構成は、限定はしないが水蒸気を含むシステムに導入される不要な汚染物質からの妨害を低減しながら感度及び安定性を改善した方法及びシステムを提供する。本明細書で開示される方法及びデバイスのいずれも、メンブレンは随意に使用されない。図5及び6では、キャリアガスはなく、サンプルガス及びドリフトガスの流量はそれぞれ460mL/分及び90mL/分である。分離領域中のドーパント濃度は約1ppmの程度であり、システムは50°で大気圧で動作している。
【0073】
[0087]図7及び8は、IMSによって検出される不要で潜在的な妨害ピークを抑制するために分離領域中のドーパント濃度を増大させることの利益を示す。例示のシステムでは、水誘起ピーク生成へのMSドーパントの効果が検討される。図7及び8に関連したシステム間の差は分離領域に導入されたドーパントの量(100ppm対350ppm)である。両方の実験について、スペクトルは、図7の0から1800ppm、及び図8の0から250ppmに及ぶ異なる水レベルに対して得られている。図7は、水ピークの場所がドーパントに関連するピークの左側にある(1800ppmと0ppmのスペクトルを比較する)ことを示す。分離領域のドーパント濃度を100ppmから約350ppmに増加すると、水関連のピークの著しい抑制がもたらされる(図8を参照し、250ppmの水に対する水ピークと図7のそれとを比較する)。同様にして、他の物質に関連する任意の1つ又は複数の妨害ピークを分離領域中のドーパント濃度を操作することによって抑制することができる。
【0074】
[0088]分離領域中でドーパント濃度勾配を使用するIMS:分離領域にドーパントの濃度勾配を導入すると、低レベルの分析物検出への利用が容易になる。この実施形態では、図9に概略的に示されるように、ドーパント40は拡散によって分離領域80のイオンコレクタ又は検出器110の端部に導入される。ドーパント40は、イオン検出器110の近くの端部に対応する分離領域80の第2の端部220に導入される。ドーパント40は、管路250によって分離領域の第2の端部220に導入されるホルダ240に配置される。管路250の長さ、形状、及びサイズは必要に応じて調整され(例えば、延ばされる/縮められる、広げられる/狭められる)、特定の場所で所望のドーパント濃度が、又は分離領域80で全体的なドーパント濃度勾配が提供される。ドーパントを第2の端部220にそのように導入すると、セル内のドーパントの濃度勾配が確立され、(矢印200により示されるように)分離領域80の長手方向に沿って拡散によるドーパントの流れがある。ドーパント源からIMSセルにドーパントを輸送するバルク空気流又はドリフトガスは必要とされない。空気サンプル10はシャッタグリッド86の近く又はそこに配置された入口30で導入され(例えば、数百ml/分の程度の体積流量)、セルの端部90でイオン化領域70から排出される。この構成では、ドーパント40は、ドーパント濃度がシャッタグリッド86に対応する分離領域80の第1の端部210及びIMSセルのイオン化領域70において非常に低くなるようなセル内での濃度勾配を有する。ドーパント濃度はイオンコレクタ110及び第2の端部220で最大値となる。大きい濃度勾配がIMSセルのドリフト管及び分離領域の端から端まで存在する。空気サンプル10の流れにより、分析物及びドーパントがシャッタグリッド86及び第1の端部210でよく混合され、分離領域の第1の端部210で低いドーパント濃度を維持することが確実になる。
【0075】
[0089]動作条件(例えば、分析物量、妨害材料のレベル)に応じて、空気サンプル10の流量は流量制御装置230によって調整される。この例では、流量制御装置230は、排気流90の矢印により示されるようにIMSの排気部に接続された真空源に対応する。排気流90はオリフィス又はニードル値を使用することによって制御される。したがって、分析物を含む空気サンプル流は、排気流量からドリフト流を引いたものに等しい。この例では、導入された空気サンプルストリーム中にオリフィス又はバルブを必要とせず、それによって、空気サンプルの組成の変化に関連する問題が避けられる。しかし、これに関連して、「調整可能な流量制御装置」は広義に使用され、流量制御装置が導入された空気サンプルの流量を制御することができるならば、限定はしないが、強制空気送風器、モーター、ポンプなどの正圧デバイス及び/又は真空源などの負圧デバイスを含めて、制御可能に流量に影響を与えるための当技術分野で知られている任意のデバイスを含む。「動作可能に接続された」は、流量制御装置の構成と、接続されたとき制御装置の機能が維持されるような本発明の空気サンプルの流入とをいう。動作可能に接続されたとは、流量制御装置の操作が空気サンプルの流入に伝えられる構成をいう。したがって、流量制御装置は空気サンプル流入の経路に直接に存在する必要がなく、その代わりに、随意に排気ポートに対応するような機能的に便利な場所に配置される。
【0076】
[0090]イオンシャッタの場所の分析物の濃度に対するドーパントの濃度がIMSシステムの応答性を決定する。ドーパントとターゲットとの間での電荷分配のために、ドーパント濃度がシャッタグリッドで低減される場合、ターゲットイオンピークは増加することになり、それにより高い分析物感度がもたらされる。しかし、ドーパント濃度がドリフト管(例えば分離領域)内で低減する場合、イオンクラスタはドリフト管をイオンコレクタの方に下って移動するにつれて分解し始め、それにより分析物感度は低下することになる。これは、より小さいターゲットイオンピーク及び多数のクラスタ断片のピークの形成をもたらす。ドーパント濃度をドリフト領域で高く保持すると、断片化が生じたときイオンクラスタの再構成が促進される。
【0077】
[0091]この実施形態では、大きく且つ安定したターゲットイオンピークを与えるために、分離領域80では高くシャッタ86の近くでは低いドーパント試薬濃度が維持される。さらに、空気サンプル流量がイオンシャッタにおけるドーパント試薬濃度に影響を与え、流量が高いほどイオンシャッタにおけるドーパント濃度が効果的に減少する。これにより、分析計のダイナミックレンジ(及び感度)は必要に応じてサンプル流量を変化させることによって調整することができる。複数濃度範囲分析計は、例えばIMS排気部に配置された様々な真空オリフィス間を切り替えるための1つ又は複数の電磁弁230を用いるようなサンプル流入量を変える当技術分野で既知の任意の手段によって提供される。
【0078】
[0092]イオンコレクタ110でのドーパント濃度は、拡散によりドーパントの勾配が減少する方向へのドーパントの流れに影響を与える1つ又は複数のパラメータを変えることによって制御することができる。そのようなパラメータの例には、限定はしないが、ドーパント透過モジュール温度と、ドーパント源を分離領域80に接続するオリフィス250の管内径及び管長さとが含まれる。一態様では、拡散及び質量輸送(例えば、ドリフトガスの塊としての流れによるなどの対流)の組合せがイオンコレクタでのドーパント濃度のさらなる制御を行う。
【0079】
[0093]図10〜14は高感度アンモニア分析計での実験結果を提示し、ここで、ドーパントはドリフトガスなしで拡散のみで導入されている。この態様では、清浄乾燥空気(CDA)又は圧力調整器は必要でない。サンプル流量は約228mL/分であり、そのスパンは5ppbのアンモニアで較正される。ドリフトガスのないそのような拡散導入型ドーパントシステムは横断方向に沿ったドーパント濃度勾配を与え、シャッタグリッドでのより低いレベルのドーパントと、同時にイオン検出器に向かって次第に高くなるドーパントレベルを維持することとにより、分離領域の端から端まで及びシャッタグリッドにおいて高いドーパントレベルを可能にするドリフトガスを備えたIMSシステムと比較して検出限界が約5倍改善される。これらのシステムは、CDAの要求、CDA汚染に関連する問題、及び圧力調整器に関する問題(例えば汚染、調整器間の変動、コストなど)を除去している。その上、拡散ベースのドーパント導入は装置及び方法をさらに簡単化し、それにより、ドリフトガスの必要性と、ファン、ポンプ、及び流量調節器などの付帯流量調整器並びに関連する所要電力の必要性とが避けられる。
【0080】
[参考文献及び変形形態の援用に関する記述]
[0094]本出願の全体にわたって引用されたすべての参考文献、例えば、発行特許若しくは登録特許又は等価物、特許出願公開を含む特許文献、及び非特許文献又は他の資料は、各参考文献が本出願の開示と少なくとも部分的に不一致ではない範囲において参照により個別に組み込まれたかのように、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる(例えば、部分的に不一致である参考文献は参考文献の部分的に不一致な部分を除いて参照により組み込まれる)。
【0081】
[0095]本明細書で説明又は例示された構成要素のすべての構成又は組合せは特に明記しない限り本発明を実施するために使用することができる。
【0082】
[0096]範囲、例えば温度範囲、時間範囲、又は組成若しくは濃度の範囲が本明細書に与えられている場合はいつも、与えられた範囲に含まれる中間範囲及び部分範囲並びにすべての個々の値は開示に含まれているものである。本明細書の記載に含まれている範囲又は部分範囲中のいかなる部分範囲又は個々の値も本明細書の特許請求の範囲から除外することができることが理解されよう。
【0083】
[0097]本明細書で言及した特許及び公開はすべて本発明が関係する当業者の技術レベルを示している。本明細書で引用した参考文献は、それらの公開日又は出願日の時点の最新技術を示すために参照により全体が本明細書に組み込まれ、従来技術である特定の実施形態を除外するために必要に応じてこの情報を本明細書で使用することが意図されている。
【0084】
[0098]本明細書で使用されるとき、「を備える、を含む(comprising)」は、「を含む(including)」、「を含む(containing)」又は「を特徴とする(characterized by)」と同義であり、包括的又は非限定的(open−ended)であり、付加的な記載のない要素又は方法ステップを除外しない。本明細書で使用されるとき、「からなる(consisting of)」は特許請求の範囲で明記されていないいかなる要素、ステップ、又は成分も排除する。本明細書で使用されるとき、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲の基本的及び新規な特徴に実質的に影響を与えない材料又はステップを排除しない。本明細書の各例において、「を備える、を含む」、「から本質的になる」、及び「からなる」という用語のいずれも他の2つの用語のいずれかと取り替えることができる。例示として本明細書で適切に説明された本発明は、本明細書で明確には開示されていない任意の1つ若しくは複数の要素又は1つ若しくは複数の制限がない状態で実施することができる。
【0085】
[0099]当業者は、出発材料、材料、試薬、合成法、精製法、分析法、検定法、及び明確に例証されたもの以外の方法を、不必要な実験に頼ることなしに本発明の実施で使用することができることを理解されよう。任意のそのような材料及び方法の既知技術の機能的等価物はすべて本発明に含まれるものである。使用された用語及び表現は限定のためではなく説明のための用語として使用されており、そのような用語及び表現の使用において、図示及び説明した形体又はその一部のいかなる等価物も排除するものではなく、様々な変形が請求した本発明の範囲内で可能であることが認識されよう。したがって、本発明が好ましい実施形態及びオプションの形体によって明確に開示されたが、本明細書に開示された概念の変形及び変更が当業者によって採用され得るものであり、そのような変形及び変更は、添付の特許請求の範囲によって規定されるような本発明の範囲内にあると見なされることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相サンプル中の分析物を検出するためのイオン移動度分光計であって、
a.イオン源を有するイオン化領域に前記分析物を含む前記気相サンプルを導入するための入口と、
b.前記イオン化領域と流体連通しているドーパントの供給源であり、前記イオン源が前記分析物及び前記ドーパントからイオンを生成する、ドーパントの供給源と、
c.イオン移動度に基づいて前記生成されたイオンを受け取り分離するために前記イオン化領域及び前記ドーパントの供給源と流体連通している分離領域と、
d.イオン移動度に基づいて前記イオンを受け取り検出するために前記分離領域と流体連通して配置された検出器と
を備える分光計において、
前記分離領域中の前記ドーパントが過剰であり、前記ドーパントが前記分離領域に連続的に導入され、もって前記分離領域の少なくとも一部に過剰ドーパントを供給する、分光計。
【請求項2】
前記ドーパントの供給源がドリフトガスをさらに含む、請求項1に記載の分光計。
【請求項3】
前記分離領域にドーパントを導入するためのドーパント入口ポートをさらに備える、請求項1に記載の分光計。
【請求項4】
前記ドーパント入口ポートが、前記分析物及び前記ドーパントから生成された前記イオンのイオン移動性方向と実質的に反対である方向にドーパントを導入するように配置される、請求項3に記載の分光計。
【請求項5】
水蒸気を除去するために又は前記イオン化領域に導入される前記分析物の量を低減するために、前記入口ポートに又は前記入口ポートの上流に配置されたメンブレンをさらに備える、請求項1に記載の分光計。
【請求項6】
メンブレンなしの分光計である、請求項1に記載の分光計。
【請求項7】
前記分析物のすべて又は実質的にすべてが前記イオン化領域に導入される、請求項1に記載の分光計。
【請求項8】
前記気相サンプルが水蒸気を含み、前記水蒸気が実質的にすべて前記イオン化領域に導入される、請求項7に記載の分光計。
【請求項9】
a.前記イオン化領域への前記気相サンプル導入がサンプル流量を有し、
b.前記分離領域への前記ドーパント導入がドーパント流量を有し、
前記サンプル流量が前記ドーパント流量の0.1倍から10倍の間である範囲から選択される、請求項1に記載の分光計。
【請求項10】
前記ドーパント流入が連続的であり、20mL/分から1000mL/分までの間である範囲から選択される、請求項9に記載の分光計。
【請求項11】
前記ドーパント過剰があるドーパント量を有し、前記分離領域中の前記量が前記分離領域中の前記分析物量の10倍から10倍の間の範囲から選択される、請求項1に記載の分光計。
【請求項12】
前記分離領域中の前記ドーパント過剰が0.1ppmから500ppmの間の範囲から選択された濃度である、請求項11に記載の分光計。
【請求項13】
前記ドーパント量が、前記イオン化領域及び前記分離領域の全体にわたって実質的に一定である、請求項11に記載の分光計。
【請求項14】
前記ドーパント量が前記分離領域において長手方向に沿って変わり、前記分離領域と前記イオン化領域との間の境界に対応する分離領域の第1の端部でドーパントが最低量である、請求項11に記載の分光計。
【請求項15】
前記過剰ドーパントが、ドーパント−ドーパントクラスタ及びドーパント−分析物二量化クラスタを生成し、妨害物質からの検出可能なイオンクラスタの形成を防止する、請求項1に記載の分光計。
【請求項16】
a.前記分析物が、アミン、ヒドラジン、塩素、HCl、HF、F、Br、HBr、NO、SO、薬剤化合物、化学兵器薬剤、アンモニア、過酸化物、爆発徴候の化合物、及び麻薬徴候の化合物からなる群から選択され、
b.前記ドーパントが、置換フェノール、メチルホスホン酸ジメチル、サリチル酸メチル、2−ヒドロキシアセトフェノン、SO、2−クロロブタンからなる群から選択される、請求項1に記載の分光計。
【請求項17】
前記分析物及びドーパントが、
a.アンモニア及びメチルホスホン酸ジメチル、
b.H及びサリチル酸メチル、
c.酸及びサリチル酸メチル
からなる群から選択される、請求項16に記載の分光計。
【請求項18】
前記ドーパントがドーパントの前記供給源から前記分離領域までの前記ドーパントの拡散によって前記分離領域に導入され、前記分光計が、
a.前記分離領域の第1の端部におけるシャッタグリッドと、
b.前記分離領域の第2の端部におけるイオンコレクタと
をさらに備え、
前記ドーパントが、長手方向に沿って、前記第2の端部で最大量のドーパントを、及び前記第1の端部で最小量をもつ濃度勾配を有する、請求項1に記載の分光計。
【請求項19】
前記イオンコレクタにおける前記ドーパント濃度が前記シャッタグリッドにおける前記ドーパント濃度よりも少なくとも10倍大きい、請求項18に記載の分光計。
【請求項20】
前記シャッタグリッドにおける前記ドーパント濃度を50ppbから500ppmの間である範囲から選択される値に調整するために、使用者選択の流量で前記分析物を含む気相サンプルを導入するための前記入口に動作可能に接続された調整可能な流量制御装置をさらに備える、請求項18に記載の分光計。
【請求項21】
a.イオン化領域と、
b.前記イオン化領域と流体連通している分離領域と、
c.気相サンプル中の分析物を前記イオン化領域に導入する手段と、
d.過剰量のドーパントを前記分離領域に導入する手段と
を備えるイオン移動度分光計セル。
【請求項22】
a.前記気相サンプルを導入する手段が、前記イオン化領域に隣接して配置されたイオン化入口に前記気相サンプル中の分析物を輸送するキャリアガスを含み、
b.前記ドーパントを導入する手段が、前記分離領域に隣接して配置された分離入口に前記ドーパントを輸送するドリフトガスを含む、請求項21に記載のセル。
【請求項23】
前記ドーパントを導入する手段が、
a.ドーパントの供給源を保持するための保持部と、
b.前記保持部と前記分離領域との間に流体連通を設けるために前記分離領域に前記保持部を接続する管路と、
c.前記保持部に配置されたドーパントの供給源であり、ドーパントが前記保持部から前記分離領域までの拡散によって前記分離領域に導入される、ドーパントの供給源と
を備える、請求項21に記載のセル。
【請求項24】
気相サンプル中の分析物を検出する方法であって、
a.分離領域及びイオン化領域を有するイオン移動度セルを設けるステップであり、前記領域が互いに流体連通しており、前記分離領域が、前記イオン化領域に隣接する第1の端部と、前記第1の端部からある長手方向の距離だけ隔てられているイオン検出器に対応する第2の端部とを有する、ステップと、
b.気相サンプル中の前記分析物を前記イオン化領域に導入するステップと、
c.高濃度のドーパントを少なくとも前記分離領域の第2の端部に導入するステップと、
d.前記イオン化領域中の前記分析物及び前記ドーパントをイオン化し、それによって検出可能なイオンを生成するステップと、
e.前記検出可能なイオンに前記分離領域を通過させるステップであり、前記検出可能なイオンがイオン移動度に基づいて分離される、ステップと、
f.前記分離領域と流体連通している検出器を用いて、イオン移動度に基づいて分離された前記検出可能なイオンを検出し、それによって前記分析物を検出するステップと
を含む方法。
【請求項25】
前記分析物が、アミン、ヒドラジン、塩素、HCl、HF、F、Br、HBr、NO、SO、薬剤化合物、化学兵器薬剤、アンモニア、過酸化物、爆発徴候の化合物、及び麻薬徴候の化合物からなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ドーパントが、置換フェノール、メチルホスホン酸ジメチル、サリチル酸メチル、2−ヒドロキシアセトフェノン、SO、及び2−クロロブタンからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記分離領域における前記ドーパントを前記イオン化領域に輸送するために前記分離領域にドリフトガスを導入するステップをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記ドーパントを拡散によって前記分離領域に導入し、それによって、前記分離領域の長手方向に沿って、前記分離領域において前記分離領域の第1の端部で最小のドーパント濃度をもつドーパント濃度勾配を確立するステップをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記分離領域の第1の端部で100:1と10000:1との間であるドーパント対分析物比を設けるように前記イオン化領域に導入されるサンプルの量を調整するステップをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記イオン化領域におけるドーパント対分析物比が100倍から10000倍の間である範囲から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
分析物を検出する方法であって、
a.i.イオン源を有するイオン化領域に前記分析物を含む気相サンプルを導入するための入口と、
ii.前記イオン化領域と流体連通しているドーパントの供給源であり、前記イオン源が前記分析物及び前記ドーパントからイオンを生成する、ドーパントの供給源と、
iii.イオン移動度に基づいて前記生成されたイオンを受け取り分離するために前記イオン化領域及び前記ドーパントの供給源と流体連通している分離領域と、
iv.イオン移動度に基づいて前記イオンを受け取り検出するために前記分離領域と流体連通して配置された検出器であり、前記分離領域中の前記ドーパントが過剰であり、前記ドーパントが前記分離領域に連続的に導入され、それによって前記分離領域の少なくとも一部に過剰ドーパントを供給する、検出器と
を備えるイオン移動度分光計を設けるステップと、
b.気相サンプル中の分析物を前記イオン化領域に導入するステップと、
c.前記ドーパントの供給源から前記分離領域に過剰なドーパントを導入するステップと、
d.前記イオン化領域において前記気相サンプル中の分析物及び前記ドーパントをイオン化して検出可能なイオンを生成するステップと、
e.前記分離領域に前記検出可能なイオンを導入するステップと、
f.イオン移動度に基づいて前記検出可能なイオン及びそのあらゆるクラスタを分離するステップと、
g.ドリフト時間ピークを測定することによって前記イオン移動度を検出し、それによって前記分析物を検出するステップと
を含む、方法。
【請求項32】
イオン移動度分光計における妨害を抑制する方法であって、
a.互いに流体連通している分離領域及びイオン化領域を有するイオン移動度分光計を設けるステップと、
b.前記分離領域にドーパントを導入するステップであり、前記ドーパントが0.1ppmを超える量で供給される、ステップと、
c.妨害材料及び分析物を含むサンプルを前記イオン化領域に導入するステップと、
d.前記サンプルをイオン化し、それによって分析物イオンを生成するステップと、
e.電界を印加することによって前記分離領域に前記分析物イオンを導入するステップと
を含む方法において、
前記分離領域に過剰に供給された前記ドーパントが前記分析物以外の化学種から生じる妨害を抑制する、方法。
【請求項33】
イオン移動度分光測定法によって分析物を選択的に検出する方法であって、
a.互いに流体連通している分離領域及びイオン化領域を有するイオン移動度分光計を設けるステップと、
b.前記分離領域にドーパントを導入するステップであり、前記ドーパントが0.1ppmを超える量で供給される、ステップと、
c.分析物を含むサンプルを前記イオン化領域に導入するステップと、
d.前記サンプルをイオン化し、それによって分析物イオンを生成するステップと、
e.前記分離領域において電界を確立し、前記分離領域に前記分析物イオンを導入するステップと、
f.前記分離領域と流体連通している検出器を用いて、イオン移動度に基づいて分離された前記分析物イオンを検出するステップと
を含む方法において、
前記分離領域に過剰に供給された前記ドーパントが前記分析物以外の化学種から生じる妨害を抑制する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−535345(P2010−535345A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520145(P2010−520145)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/071535
【国際公開番号】WO2009/018305
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(506061299)パーティクル・メージャーリング・システムズ・インコーポレーテッド (8)
【Fターム(参考)】