イオン移動度分析及びイオントラップ質量分析のための単一装置
単一組の複数の電極であり、イオンの試料に対してイオン移動度に基づく分析と質量分析(MS)とを共に実行するために、単一組の複数の電極に異なる電位が異なる時間に印加されるが、そこでは、荷電粒子ならびに原子、分子、粒子、亜原子粒子、及びイオンに由来する荷電粒子を閉じ込め、分離し、断片化し、かつ/又は分析するために、イオン移動度に基づく分析と質量分析とを、任意の順序で、任意の回数で、かつ分離された又は重畳された手順として実行することによってイオンが処理される。本発明は、外部円筒電極(14)と同軸配置された環状棒電極(12)として示された、質量分析とFAIMSとを共に実行できる単一装置(10)である。FAIMSを実行するために、典型的に環状棒電極(12)は定電位又はグラウンドに維持され、非対称FAIMS波形が外部円筒電極(14)に印加される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本文書は、2003年6月20日出願の米国特許仮出願第60/480052号に包含される主題のすべてに対する優先権を主張し、かつそのすべてを参照により組み込むものである。
【0002】
本発明は一般に、同じ装置において、荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、及びイオンに由来する荷電粒子との、イオン移動度及び質量対電荷比にしたがって、イオンを貯蔵し、分離し、かつ分析することに関する。さらに詳細には、本発明は、イオントラップ質量分析(ITMS)と、高電界非対称イオン移動度分析即ちFAIMS、微分移動度分析、直交流イオン移動度分析のようなイオン移動度分析とを単一の装置において、かついずれの順序においても実行可能にし、それによって両タイプの分離を実行して、イオンを同定するために少なくとも2つの固有に異なる化学特異的な識別情報(識別子)を入手できる単一の装置に関する。
【背景技術】
【0003】
イオン移動度及び質量対電荷比にしたがってイオンを閉じ込め、分離し、放出し、かつ分析するのは常に、イオン移動度分析と質量分析の作業を実行する2つの別個の装置において行われてきた。したがって、両手順を使用して試料を順次に分析することが望ましければ、イオンが一方の装置から他方の装置へ移動できるように何らかの様態で直列に連結される別体の装置を設けることが必要であった。
【0004】
このような装置の連続構成には、少なくとも幾つかの明らかな欠点が存在する。第1に、実行可能な作業が、装置を配置した特定の順番に限定されることである。第2に、2つの別個の装置が常に必要であり、それによってシステム全体の複雑さ、大きさ、及び費用を増大させることである。第3に、異なる作業を実行するためにイオンが一方の装置から他方の装置へ移動するとき、一般にそれらの一部が失われることである。
【0005】
本発明の利点を理解し、かつ如何にこれらの装置が単一の装置として組合せ可能であるかを理解するために、質量分析とイオン移動度分析の両方の最新技術を簡単に検討することが有益である。
【0006】
初めに質量分析について述べると、それはイオンを分析するための一般的な機器分析である。質量分析では、イオンが、磁界、電界、及び四重極のような様々な場におけるそれらの質量対電荷比にしたがって分離される。四重極型質量分析器の1つの種類がイオントラップである。イオンを分析するために、イオントラップ質量分析器の幾つかの変型が開発されてきた。これらの装置には、双曲線構成ばかりでなく、ポールトラップ、動的ペニングトラップ、及び動的キンダントラップが含まれる。これらのすべての装置では、イオンが振動電界によってトラップの中に回収されかつ保持される。振幅、振動数などの振動電界の特性の変化、直流電界の重畳、及び他の方法を使用して、イオンの質量対電荷比にしたがってイオンをトラップから検出器へ選択的に放出させることができる。
【0007】
留意されるのは、イオントラップ質量分析器の1つの特定の利点は、これらの装置が一般に他の種類の質量分析器ほど高い真空の中で動作する必要がないことである。実際に、イオントラップ質量分析器の性能は、存在する背景ガスからの衝突減衰効果によって高まり得る。イオントラップ質量分析器は、一般にミリトールの範囲内の圧力で最も適切に動作する。
【0008】
イオン分析に関係する他方の方法は、イオン移動度分析である。イオン移動度分析は、荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、及びイオンに由来する荷電粒子と、から作成されるイオンを分離するための機器分析化学技法として益々重要になりつつある。
【0009】
イオン移動度分析の基本原理は、電界に曝される気体中のイオンが、イオン移動度定数Kと電界強度Eの関数である速度で電界の向きの線に沿って移動するというものである。
従来的には、高電界非対称イオン移動度分析(FAIMS)は、イオンをそれらの低電界イオン移動度と高電界イオン移動度との組合せに基づいて分離するイオン移動度分析の一形態である。一定のガス速度では、イオン移動度係数の依存性は、次の式1によって定義される。即ち、
K(E)=K0[1+α(E)]
上式で、零電界ではK0=K(E)であり、α(E)は一定のガス速度では移動度係数がEに依存する理由である。
【0010】
非対称周期の電界E(t)が、ある一定条件を有する気体中のイオン混合物に印加されると、T=t1+t2である非対称波形が得られるが、前式でTは電界が変化する周期である。電界の効果は、この気体の中でイオンが周期Tで振動することである。t1及びt2の期間中のそれぞれのイオンの速度は、Emax(最大電界強度)及びEmin(最小電界強度)の振幅にそれぞれ依存し、かつα(E)の大きさに依存する。その結果として、イオンは、それらのα(E)値が異なるとき、電界の向きの線に沿って変位されることになる。
【0011】
FAIMSを論じる場合に、このタイプのイオン移動度分析を実行できる装置の幾つかの一般的な構成を検討することが有益である。2つの同心管又は2枚の板として画成される2つの電極を考えられたい。高電界が短時間印可され、次いで低電界がより長い持続時間の間印加されて、平均印加電界が平衡されている。FAIMSシステムの非線形性は一般に、管を通過して又は板の間を通過してドリフトしているイオンの異なる断面積によるものである。したがって、この方法は、低電界と較べた高電界におけるイオンの異なる移動度を利用する。
【0012】
前述のようにFAIMSを別の言い方で説明すると、イオンの分離は電界強度に対する移動度定数の非線形依存性に基づく。高電界値における移動度の変化は、イオンのサイズ、その緩衝ガスとの相互作用、及びイオンの構造的剛性を反映するように出現する。したがって、FAIMSでは、それらの低電界イオン移動度とそれらの高電界イオン移動度との組合せを使用してイオンを特徴付ける。
【0013】
単一の装置において、イオン移動度に基づく測定技法を質量分析と組み合わせる新規のシステムを提供し、それによって、これらの手順の両方を実行するのに必要な機器を組み合わせ、イオンを一方の装置から別の装置に輸送する工程を排除し、かつこれらの手順を任意の望ましい順序で、しかも任意の回数で実行可能にすることから得られる利点の活用は従来技術に対して優位に立つことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、イオン移動度に基づく測定と質量分析(MS)とを共に実行する能力を同じ装置において組み合わせるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1つの好ましい実施形態では、本発明は単一組の複数の電極であり、イオンの試料に対してイオン移動度に基づく分析と質量分析とを共に実行するために、単一組の複数の電極に異なる電位が異なる時間に印加されるが、そこでは、荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、及びイオンに由来する荷電粒子と、を閉じ込め、分離し、かつ分析するために、イオン移動度に基づく分析及び質量分析を、任意の順序で、任意の回数で、かつ分離された又は重畳された手順として実行することによってイオンが処理される。
【0016】
本発明の第1の態様では、様々な電極に印加され得る電位は、本システムがイオン移動度に基づく手順、MS手順、又は両手順の重畳作業を実行できるように変更可能である。
本発明の第2の態様では、イオン移動度に基づく手順もしくはMS手順のいずれかの間に、又はこれらの手順が相互に重畳されている手順の間に、イオン断片化の工程が挿入可能である。
【0017】
本発明の第3の態様では、本システムは、イオン移動度に基づく手順とMS手順との両方のために同じシステムを使用することによって、手持ち作業用に小型で持ち運び可能にすることができる。
【0018】
本発明の第4の態様では、本システムは直交流イオン移動度分析を可能にするように変更され得る。
本発明のこれらならびに他の目的、特徴、利点、及び別法による態様は、添付の図面と併せて採用された以下の詳細な説明を考慮することによって当業者には明白になろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ここで、本発明の様々な要素に参照符号が付けられ、さらに当業者が本発明を作製しかつ使用できるように本発明を論じる図面を参照する。以下の説明は、本発明の原理の例示に過ぎず、添付の特許請求の範囲を狭めるものと見なすべきではないことを理解されたい。
【0020】
本発明の利点のすべてを完全に開示するために説明を要する本発明の様々な実施形態が存在する。したがって、1つの好ましい実施形態が存在するのではなく、むしろ異なる利点を有する様々な実施形態が存在することを理解すべきである。それらが説明される順序によって最良の実施形態に関するものであるという想定が示唆されるものではない。
【0021】
本発明は、荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、及びイオンに由来する荷電粒子と、を包含する様々な粒子の閉込み、分離、及び分析を実行するものであることも理解すべきである。簡略にするために、これらの粒子のすべてが本文書を通してイオンと呼ばれる。
【0022】
最も単純に言えば、本発明は、質量分析(MS)手順及びイオン移動度に基づく分析手順を単一の装置で実行するために機器と回路とを組み合わせるものである。さらに詳細には、FAIMSは、イオン移動度に基づく分析手順のために使用されている。FAIMSとMSの両手順は、回路パスに簡単な変更を行い、それによって、以下に説明する単一装置内部の電極に印加される電位を変更することによって実行可能である。
【0023】
図1は、本発明の原理にしたがって作製される第1の実施形態を示す概要図である。本実施形態では、質量分析とFAIMSとを共に実行できる単一装置10が、外部円筒形電極14と同軸配置された環状棒電極12として示されている。
【0024】
FAIMSを実行するために、典型的にこの環状棒電極12は定電位又はグラウンド(接地)に維持されるのが典型であり、非対称FAIMS波形が外部円筒形電極14に印加される。定電位又はグラウンドが印加されている場合は常に、動的又は一定の共通モード電位が使用可能であることに留意するべきである。
【0025】
FAIMS手順の間に、すべてのイオンが内部環状棒電極12と外部円筒形電極14との間で往復振動する。それらの低電界イオン移動度とそれらの高電界イオン移動度との組合せによって特定されたイオンのみが、単一装置10の中に閉じ込められる。その他のすべてのイオンは、環状棒電極12及び外部円筒形電極14の方で失われる。
【0026】
望ましい電位がスイッチ16及び18によって電極12及び14に印加される。スイッチ16はグラウンドを内部環状棒電極12に印加しているところが示されており、スイッチ18はFAIMS波形を印加しているところが示されている。したがって、FAIMS構成において単一装置を動作させるように望ましい電位を印加することによって、イオンがイオン移動度にしたがって選択される。
【0027】
有利なことに、同じ単一装置10は、図2に示すように動作可能である。図2は、スイッチ16及び18がそれらの交互位置に移動されていることを示す。これらの新たな交互スイッチ位置では、振動する高周波電位が内部環状棒電極12に印加され、かつ外部円筒形電極14は定電位に維持されるが、それはこの場合にグラウンドにあるものとして示されている。この場合も動的共通モード電位が使用可能であることに留意される。この動作モードでは、単一装置10中のすべてのイオンが、最初に閉じ込められ、次いで、それらの質量対電荷比にしたがってトラップから順次に放出される。放出は、重畳直流電圧を変更することにより、又は印加された電位の振幅、周波数、もしくは他の態様を変更することにより、高周波電界を変化させることによって実現される。
【0028】
任意適切なイオン化の技法を使用して単一装置10内部でイオンを発生させるか、又は単一装置に引き渡すためにイオンを発生させ得ることが理解されるべきである。以下は一般的に使用されるイオン化の技法の幾つかの一覧である。即ち、電子衝撃、化学イオン化、高速イオン又は原子衝撃、電界脱離、レーザ脱離、プラズマ脱離、熱スプレー、電気スプレー、光イオン化、誘導結合プラズマ、及び他の任意のイオン化の方法である。この一覧は代表的なものとしてのみ考えられるべきであり、本発明の単一装置10で同様に使用可能な他の適切なイオン化法を排除しようとするものではない。例えば、イオンは、単一装置10に引き渡されるのではなく、装置自体の内部で生成され得る。
【0029】
単一装置10は、最初にFAIMSモードで動作され、それによって固有のイオン移動度にしたがってイオンを選択し、次いでITMSモードに切り換えられてイオンの質量を特定する。このような様態で単一装置20を動作させることによって、イオンを同定するために少なくとも2つの固有に異なる化学特異的な識別情報を入手することができる。
【0030】
ここで明白にすべきことは、単一装置10はその動作モードの融通性が大きいことである。例えば、単一装置10は、最初にITMSモードで動作し、次いでFAIMSモードで動作することが可能である。しかも、単一装置10は、任意の数のFAIMS及びITMS手順を任意所望の順番で実行するように動作させることもできる。したがって、本発明は、任意の順序のITMS及びFAIMS手順を実行することが可能であり、かつ任意の回数で実行することが可能である。
【0031】
本発明の別の利点は、ITMS及びFAIMSの動作モードのみが、単一装置10を使用して実行可能な唯一の手順ではないことである。したがって、図1及び図2に示した単一装置10の構成は、他の作業も実行可能である。さらには、単一装置10の構成は、変更可能でありかつ依然として望ましいFAIMS及びITMS手順が実行可能である一方で、他の異なる手順も実行可能である。
【0032】
FAIMS及びITMS手順に加え得る有用な手順の1つの実施形態は、イオン断片化の手順である。衝突誘起解離又は他の任意の手段を使用してイオン移動度で選択されたイオン又は質量で選択されたイオンを断片化することがしばしば望ましい。例えば、断片化は、幾つかを列挙してみると、粒子衝突;表面誘起断片化;可視、紫外、及び赤外法を含む光誘起断片化;電子ビーム;エネルギーイオンビーム;低エネルギー電子付着;ならびに電子抽出によって実行することができる。
【0033】
単一装置10又は他の構成を使用して可能であり、かつ当業者に知られている断片化を実行する任意の他の手段はすべて、本発明の範囲内に包含される実行可能な断片化法であると考えられるべきである。
【0034】
今や単一装置の構成は、図1及び図2に例示されているもの以外に他の形態も取り得ることが理解されているので、この単一装置は直交流イオン移動度の動作モードも含み得ることが理解されるはずである。
【0035】
FAIMS、ITMS、及び直交流イオン移動度分析が実施可能な単一装置は、直交流イオン移動度分析を可能にする特徴的構造を備えるために変更されねばならない。直交流イオン移動度分析器(CIMA)では、電界に対向するガス流の成分がチャンネル内部に確立される。イオンは、経路を通じて運ばれ、特定のイオン移動度のイオンが対向する電界及び流れ場によって閉じ込められ、かつ、イオンが経路の端部に到達するときに検出される。経路の端部にある検出器は、イオン移動度によって選択されたイオンの連続的な流れを捕捉する。様々なイオンが、電界の変更及び/又は流れ場の速度の変更によって選択される。
【0036】
他の動作モードを可能にするために、単一装置10に僅かな変更さえ行えばよいことを前に述べた。CIMAの場合では、望ましいガス流を生成できるようにするために、中心円筒形棒12を長さに沿って貫通部を有する中空円筒に置き換えることができる。
【0037】
直交流イオン移動度分析が実行可能なシステムの断面概要図として図3が提示されている。図3は、2つの同心金属円筒22、24の間の間隙即ち空間26によって形成されるドリフト領域(即ち、直交流領域)を示す。ここでは単一装置20が、封止される密閉容器即ち筐体28の中に収容されることになり、それによって、CIMAの動作モードで単一装置20を動作させるために要する適切な圧力及び一定のガス流を維持する。
【0038】
CIMAモードで動作する間、筐体28は最初に空気を除去し、次いで窒素ガスの中に浸けられる。内部及び外部円筒22、24は、これらの両方の円筒22、24が電極として機能するように少なくとも2つの電圧源(大地を電圧源と考えれば)(図示せず)に接続される。円筒22、24は異なる電位に設定され、それによって第1の円筒22と第2の円筒24との間に電位を発生させる。本発明によって教示されたCIMAに関する追加的な情報のために、本出願は、2004年4月9日に出願された米国特許非仮出願第10/821660号の主題のすべてを参照により組み込む。
【0039】
図3に示した実施形態の構成では、電位の望ましい範囲が概ね数百ボルトから数千ボルトまでに亘ることになる。しかし、円筒22、24の間に確立される如何なる大きさの電界に対しても、平衡効果を創出するに足る十分な強さを要する対向ガス流が存在することを銘記すべきである。しかしながら、本発明の望ましい性能に応じて、電位及び対向流体流を増減することが可能である。
【0040】
CIMAモードの重要な態様は、円筒22、24の間の直交流領域30内に確立される電界と共に、電界に対向する直交ガス流を生成することである。したがって、ガスの直交流の速度は、当業者に知られた任意適切な値に設定される。ガスの直交流は、ガスを第1の円筒22の中に流し、そのガスが穴32を通って外向きに直交流領域30内に誘導され、次いで第2の円筒24中の穴32を通って筐体28内の空間34の中に誘導されることによって生成されるものとして図3に示されている。ガスの直交流が線36によって表される。図3は、ベンチュリ・エア装置38がガスの直交流を第1の円筒22の中に誘導することを示す。排出口40も筐体28の中に示されている。本図は、試料入口42、検出器44、エンドキャップ46、及び円筒22、24間を貫通するイオンの経路48を示す。
【0041】
図4は、貯蔵リング状イオントラップ50の斜視図である。リング状イオントラップ50は、4つの同軸に位置合わせされた環状棒の一群から基本的に構成され、そこでは第1の環状棒52が、第2の環状棒54と共平面にかつその直径の内側に配置され、さらに第3の環状棒56が、第4の環状棒56と共平面にかつその直径の内側に配置される。第1の環状棒52及び第2の環状棒54は、第3の環状棒56及び第4の環状棒58に平行である。
【0042】
図5は、図4に示した貯蔵リング状イオントラップ50の概要図である。
図6は、図4の貯蔵リング状イオントラップ50の断面図である。共通の回転軸60に対する4つの環状棒52、54、56、58の断面は、これらの4つの環状棒が点線62によって示した正方形のコーナーを形成することを示すことに留意されたい。これらの4つの環状棒は正方形のコーナーに限定されるものではなく、当業者に知られた任意適切な形状であり得ることに留意される。例えば、同じ直径ではない棒、又はテーパ付きの棒、又は断面図で見たときに菱形の形状を作成するようにずらした棒を考えられたい。
【0043】
図7は、図6に示した断面図の斜視図である。これらの棒に対する電位の印加は、本構成を所望通りに機能させるように様々な方式で実施可能である。例えば、2つの外側の棒54、58には正の電位が印加可能であり、他方で2つの内側の棒52、56には負の電位が印加可能である。
【0044】
それとは異なり、内側棒52及び外側棒54に正の電位が印加され、かつ内側棒56及び外側棒58に負の電位が印加されると、貯蔵リング状イオントラップ50は異なる様態で機能することになる。
【0045】
図8は、平面開放型の貯蔵リング状イオントラップ70の斜視図である。この構成が本発明の目的に見合った最良のモードであると考えられることに留意される。特に、少なくともFAIMS及びITMSの動作モードを実行するための単一装置のこのような特定の構成から作成される電位場の向きの線の様々な例示が挙げられている。
【0046】
図9は、図8の平面開放型の貯蔵リング状イオントラップ70の断面図である。
図10は、図9に示した平面開放型の貯蔵リング状イオントラップ70の断面斜視図である。
【0047】
図11は、典型的なFAIMS波形のグラフである。この波形は、短い高電界と、より長い低電界とを有することに留意されたい。
図12は、ITMSのための典型的な印加RF(高周波)電界のグラフである。この波形は平衡されていることに留意されたい。
【0048】
図13は、リング82及びエンドキャップ84を含む通常のイオントラップ80の斜視図である。
図14は、図13に示した従来のイオントラップ80の断面斜視図である。従来のイオントラップはリング82及びエンドキャップ84を含むことが分かる。この通常のイオントラップ80を使用してFAIMS及びITMSの動作モードを実行することもできる。
【0049】
図15は、RFが図8の平面開放型の貯蔵リング状イオントラップ70に印加されるときに存在する電位場の向きの線の例示である。これらの電位場の向きの線を見通すために、これらの電位場の向きの線が発出されている貯蔵リング状イオントラップ70の断面図が示されている。これは明らかに断面図の半分に過ぎない。
【0050】
図16は、FAIMSの高電界非対称波形が印加されるときに存在する電位場の向きの線の例示である。
図17は、FAIMSの低電界非対称波形が印加されるときに存在する電位場の向きの線の例示である。
【0051】
図18は、RF及び高電界非対称波形が相互に重畳されるときに存在する電位場の向きの線の例示である。
図19は、RF及び低電界非対称波形が相互に重畳されるときに存在する電位場の向きの線の例示である。
【0052】
本発明に応用できる有用な概念は、シミングの概念である。シミングとは、追加的な電極が、本発明の単一装置を形成している板、円筒、及び他の構造の端部に巧みに配置される過程である。追加的な電極は、電位場の向きの線を変更するために追加される。これらの追加的な電極に電位を印加することによって、これらの線を実質的に真っ直ぐにしたり、又はそれらを相互に実質的に平行にしたりすることができる。この作用は、電位場の向きの線がイオンに対して及ぼす影響のためにFAIMS及びITMSの動作モードにおける本発明の性能向上をもたらす。
【0053】
しかし、シミングの影響は電位場の向きの線を真っ直ぐにすることに限定されない。「理想的な」電界断面が真っ直ぐでもまた平行でもない線を有してもよい。したがって、シミングは、任意特定の応用例のために、たとえその応用例に弓状の電位場の向きの線が必要であっても、「理想的な」電界断面を創出するように実行可能である。
【0054】
具体的に説明されていない本発明の他の態様が存在する。例えば、本発明は、単一装置がFAIMS、ITMS、及び他の様々な動作を実行可能にすることを理解すべきである。これらの手順を実行するために、単一装置の環境の変更を要する場合がある。例えば、何らかのイオン移動度に基づく手順、断片化手順、及び質量分析手順を実行するために、圧力の変更を要する場合がある。これらの異なる手順を実行するために単一装置内部のガスの変更を要する場合もあるし、又は同じ手順の作業間でガスの変更を要する場合さえもある。重要なことは、本発明は、実行すべき特定の手順を最適化するために単一装置内部で圧力及び/又はガスを変更する態様を包含することである。
【0055】
本発明の別の態様は、典型的な回路基板上に配置された抵抗電極を使用することによってさえも単一装置を作製できることである。回路基板上に配置される抵抗材料のパッチを考えられたい。導電性材料のリングを形成するオーバーレイが抵抗パッチ上に配置される。次いで電位が導電性材料に印加され、かくして、別個の電極を使用することなく好ましい電位場断面を作成する機械的に簡素な方式を提供する。
【0056】
図20は、本発明の単一装置として同様に機能可能な四重極100が斜視図で示されている。しかし、四重極100の機能は、本文書で説明した他の装置とは異なることになる。具体的には、それは四重極内部からイオンを抽出することがより困難になり得る点で性能が異なることになる。しかし、エンドキャップ102の追加は、これらのエンドキャップばかりでなく、四重極100の棒104にもRF電界を印加できることを意味する。
【0057】
FAIMS波形、共通モード電位、及びRF電位を生成するのに別体の電源を必要としないことも述べておくべきである。このような構成は、スイッチに対する必要性も変更することになる。しかし、電位を電子的に追加又は分割するためのシステムを追加する必要が生じ得る。
【0058】
以上に説明した配置は本発明の原理の応用を例示するに過ぎないことを理解すべきである。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、数多くの変型及び別法による配置が当業者によって案出可能である。添付の特許請求の範囲は、このような変型及び配置を網羅しようとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の原理にしたがって動作する第1の実施形態を示す概要図であり、FAIMSモードで実行するように構成されている。
【図2】MSモードで実行するように変更されている第1の実施形態を示す概要図である。
【図3】FAIMS及びイオン移動度モードで動作すると共に、直交流移動度分析を実行できる装置を示す断面概要図である。
【図4】貯蔵リング状イオントラップを示す斜視図である。
【図5】図4に示した貯蔵リング状イオントラップを示す概要図である。
【図6】図4に示した貯蔵リング状イオントラップを示す断面図である。
【図7】図6に示した断面図を示す斜視図である。
【図8】平面開放型の貯蔵リング状イオントラップを示す図である。
【図9】図8の平面開放型の貯蔵リング状イオントラップを示す断面図である。
【図10】図9に示した断面図の斜視図である。
【図11】典型的なFAIMS波形を示すグラフである。
【図12】イオン移動度に基づく分析のための典型的なRF場を示すグラフである。
【図13】従来のイオントラップを示す斜視図である。
【図14】図13に示した従来のイオントラップを示す断面図である。
【図15】図8の平面開放型の貯蔵リング状イオントラップにRFが印加されるときに存在する電位場の向きの線を例示する図である。
【図16】FAIMSの高電界非対称波形が印加されるときに存在する電位場の向きの線を例示する図である。
【図17】FAIMSの低電界非対称波形が印加されるときに存在する電位場の向きの線を例示する図である。
【図18】RF及び高電界非対称波形の両方が相互に重畳されるときに存在する電位場の向きの線を例示する図である。
【図19】RF及び低電界非対称波形の両方が相互に重畳されるときに存在する電位場の向きの線を例示する図である。
【図20】本発明の単一装置として機能できる四重極を例示する図である。
【技術分野】
【0001】
本文書は、2003年6月20日出願の米国特許仮出願第60/480052号に包含される主題のすべてに対する優先権を主張し、かつそのすべてを参照により組み込むものである。
【0002】
本発明は一般に、同じ装置において、荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、及びイオンに由来する荷電粒子との、イオン移動度及び質量対電荷比にしたがって、イオンを貯蔵し、分離し、かつ分析することに関する。さらに詳細には、本発明は、イオントラップ質量分析(ITMS)と、高電界非対称イオン移動度分析即ちFAIMS、微分移動度分析、直交流イオン移動度分析のようなイオン移動度分析とを単一の装置において、かついずれの順序においても実行可能にし、それによって両タイプの分離を実行して、イオンを同定するために少なくとも2つの固有に異なる化学特異的な識別情報(識別子)を入手できる単一の装置に関する。
【背景技術】
【0003】
イオン移動度及び質量対電荷比にしたがってイオンを閉じ込め、分離し、放出し、かつ分析するのは常に、イオン移動度分析と質量分析の作業を実行する2つの別個の装置において行われてきた。したがって、両手順を使用して試料を順次に分析することが望ましければ、イオンが一方の装置から他方の装置へ移動できるように何らかの様態で直列に連結される別体の装置を設けることが必要であった。
【0004】
このような装置の連続構成には、少なくとも幾つかの明らかな欠点が存在する。第1に、実行可能な作業が、装置を配置した特定の順番に限定されることである。第2に、2つの別個の装置が常に必要であり、それによってシステム全体の複雑さ、大きさ、及び費用を増大させることである。第3に、異なる作業を実行するためにイオンが一方の装置から他方の装置へ移動するとき、一般にそれらの一部が失われることである。
【0005】
本発明の利点を理解し、かつ如何にこれらの装置が単一の装置として組合せ可能であるかを理解するために、質量分析とイオン移動度分析の両方の最新技術を簡単に検討することが有益である。
【0006】
初めに質量分析について述べると、それはイオンを分析するための一般的な機器分析である。質量分析では、イオンが、磁界、電界、及び四重極のような様々な場におけるそれらの質量対電荷比にしたがって分離される。四重極型質量分析器の1つの種類がイオントラップである。イオンを分析するために、イオントラップ質量分析器の幾つかの変型が開発されてきた。これらの装置には、双曲線構成ばかりでなく、ポールトラップ、動的ペニングトラップ、及び動的キンダントラップが含まれる。これらのすべての装置では、イオンが振動電界によってトラップの中に回収されかつ保持される。振幅、振動数などの振動電界の特性の変化、直流電界の重畳、及び他の方法を使用して、イオンの質量対電荷比にしたがってイオンをトラップから検出器へ選択的に放出させることができる。
【0007】
留意されるのは、イオントラップ質量分析器の1つの特定の利点は、これらの装置が一般に他の種類の質量分析器ほど高い真空の中で動作する必要がないことである。実際に、イオントラップ質量分析器の性能は、存在する背景ガスからの衝突減衰効果によって高まり得る。イオントラップ質量分析器は、一般にミリトールの範囲内の圧力で最も適切に動作する。
【0008】
イオン分析に関係する他方の方法は、イオン移動度分析である。イオン移動度分析は、荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、及びイオンに由来する荷電粒子と、から作成されるイオンを分離するための機器分析化学技法として益々重要になりつつある。
【0009】
イオン移動度分析の基本原理は、電界に曝される気体中のイオンが、イオン移動度定数Kと電界強度Eの関数である速度で電界の向きの線に沿って移動するというものである。
従来的には、高電界非対称イオン移動度分析(FAIMS)は、イオンをそれらの低電界イオン移動度と高電界イオン移動度との組合せに基づいて分離するイオン移動度分析の一形態である。一定のガス速度では、イオン移動度係数の依存性は、次の式1によって定義される。即ち、
K(E)=K0[1+α(E)]
上式で、零電界ではK0=K(E)であり、α(E)は一定のガス速度では移動度係数がEに依存する理由である。
【0010】
非対称周期の電界E(t)が、ある一定条件を有する気体中のイオン混合物に印加されると、T=t1+t2である非対称波形が得られるが、前式でTは電界が変化する周期である。電界の効果は、この気体の中でイオンが周期Tで振動することである。t1及びt2の期間中のそれぞれのイオンの速度は、Emax(最大電界強度)及びEmin(最小電界強度)の振幅にそれぞれ依存し、かつα(E)の大きさに依存する。その結果として、イオンは、それらのα(E)値が異なるとき、電界の向きの線に沿って変位されることになる。
【0011】
FAIMSを論じる場合に、このタイプのイオン移動度分析を実行できる装置の幾つかの一般的な構成を検討することが有益である。2つの同心管又は2枚の板として画成される2つの電極を考えられたい。高電界が短時間印可され、次いで低電界がより長い持続時間の間印加されて、平均印加電界が平衡されている。FAIMSシステムの非線形性は一般に、管を通過して又は板の間を通過してドリフトしているイオンの異なる断面積によるものである。したがって、この方法は、低電界と較べた高電界におけるイオンの異なる移動度を利用する。
【0012】
前述のようにFAIMSを別の言い方で説明すると、イオンの分離は電界強度に対する移動度定数の非線形依存性に基づく。高電界値における移動度の変化は、イオンのサイズ、その緩衝ガスとの相互作用、及びイオンの構造的剛性を反映するように出現する。したがって、FAIMSでは、それらの低電界イオン移動度とそれらの高電界イオン移動度との組合せを使用してイオンを特徴付ける。
【0013】
単一の装置において、イオン移動度に基づく測定技法を質量分析と組み合わせる新規のシステムを提供し、それによって、これらの手順の両方を実行するのに必要な機器を組み合わせ、イオンを一方の装置から別の装置に輸送する工程を排除し、かつこれらの手順を任意の望ましい順序で、しかも任意の回数で実行可能にすることから得られる利点の活用は従来技術に対して優位に立つことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、イオン移動度に基づく測定と質量分析(MS)とを共に実行する能力を同じ装置において組み合わせるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1つの好ましい実施形態では、本発明は単一組の複数の電極であり、イオンの試料に対してイオン移動度に基づく分析と質量分析とを共に実行するために、単一組の複数の電極に異なる電位が異なる時間に印加されるが、そこでは、荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、及びイオンに由来する荷電粒子と、を閉じ込め、分離し、かつ分析するために、イオン移動度に基づく分析及び質量分析を、任意の順序で、任意の回数で、かつ分離された又は重畳された手順として実行することによってイオンが処理される。
【0016】
本発明の第1の態様では、様々な電極に印加され得る電位は、本システムがイオン移動度に基づく手順、MS手順、又は両手順の重畳作業を実行できるように変更可能である。
本発明の第2の態様では、イオン移動度に基づく手順もしくはMS手順のいずれかの間に、又はこれらの手順が相互に重畳されている手順の間に、イオン断片化の工程が挿入可能である。
【0017】
本発明の第3の態様では、本システムは、イオン移動度に基づく手順とMS手順との両方のために同じシステムを使用することによって、手持ち作業用に小型で持ち運び可能にすることができる。
【0018】
本発明の第4の態様では、本システムは直交流イオン移動度分析を可能にするように変更され得る。
本発明のこれらならびに他の目的、特徴、利点、及び別法による態様は、添付の図面と併せて採用された以下の詳細な説明を考慮することによって当業者には明白になろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ここで、本発明の様々な要素に参照符号が付けられ、さらに当業者が本発明を作製しかつ使用できるように本発明を論じる図面を参照する。以下の説明は、本発明の原理の例示に過ぎず、添付の特許請求の範囲を狭めるものと見なすべきではないことを理解されたい。
【0020】
本発明の利点のすべてを完全に開示するために説明を要する本発明の様々な実施形態が存在する。したがって、1つの好ましい実施形態が存在するのではなく、むしろ異なる利点を有する様々な実施形態が存在することを理解すべきである。それらが説明される順序によって最良の実施形態に関するものであるという想定が示唆されるものではない。
【0021】
本発明は、荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、及びイオンに由来する荷電粒子と、を包含する様々な粒子の閉込み、分離、及び分析を実行するものであることも理解すべきである。簡略にするために、これらの粒子のすべてが本文書を通してイオンと呼ばれる。
【0022】
最も単純に言えば、本発明は、質量分析(MS)手順及びイオン移動度に基づく分析手順を単一の装置で実行するために機器と回路とを組み合わせるものである。さらに詳細には、FAIMSは、イオン移動度に基づく分析手順のために使用されている。FAIMSとMSの両手順は、回路パスに簡単な変更を行い、それによって、以下に説明する単一装置内部の電極に印加される電位を変更することによって実行可能である。
【0023】
図1は、本発明の原理にしたがって作製される第1の実施形態を示す概要図である。本実施形態では、質量分析とFAIMSとを共に実行できる単一装置10が、外部円筒形電極14と同軸配置された環状棒電極12として示されている。
【0024】
FAIMSを実行するために、典型的にこの環状棒電極12は定電位又はグラウンド(接地)に維持されるのが典型であり、非対称FAIMS波形が外部円筒形電極14に印加される。定電位又はグラウンドが印加されている場合は常に、動的又は一定の共通モード電位が使用可能であることに留意するべきである。
【0025】
FAIMS手順の間に、すべてのイオンが内部環状棒電極12と外部円筒形電極14との間で往復振動する。それらの低電界イオン移動度とそれらの高電界イオン移動度との組合せによって特定されたイオンのみが、単一装置10の中に閉じ込められる。その他のすべてのイオンは、環状棒電極12及び外部円筒形電極14の方で失われる。
【0026】
望ましい電位がスイッチ16及び18によって電極12及び14に印加される。スイッチ16はグラウンドを内部環状棒電極12に印加しているところが示されており、スイッチ18はFAIMS波形を印加しているところが示されている。したがって、FAIMS構成において単一装置を動作させるように望ましい電位を印加することによって、イオンがイオン移動度にしたがって選択される。
【0027】
有利なことに、同じ単一装置10は、図2に示すように動作可能である。図2は、スイッチ16及び18がそれらの交互位置に移動されていることを示す。これらの新たな交互スイッチ位置では、振動する高周波電位が内部環状棒電極12に印加され、かつ外部円筒形電極14は定電位に維持されるが、それはこの場合にグラウンドにあるものとして示されている。この場合も動的共通モード電位が使用可能であることに留意される。この動作モードでは、単一装置10中のすべてのイオンが、最初に閉じ込められ、次いで、それらの質量対電荷比にしたがってトラップから順次に放出される。放出は、重畳直流電圧を変更することにより、又は印加された電位の振幅、周波数、もしくは他の態様を変更することにより、高周波電界を変化させることによって実現される。
【0028】
任意適切なイオン化の技法を使用して単一装置10内部でイオンを発生させるか、又は単一装置に引き渡すためにイオンを発生させ得ることが理解されるべきである。以下は一般的に使用されるイオン化の技法の幾つかの一覧である。即ち、電子衝撃、化学イオン化、高速イオン又は原子衝撃、電界脱離、レーザ脱離、プラズマ脱離、熱スプレー、電気スプレー、光イオン化、誘導結合プラズマ、及び他の任意のイオン化の方法である。この一覧は代表的なものとしてのみ考えられるべきであり、本発明の単一装置10で同様に使用可能な他の適切なイオン化法を排除しようとするものではない。例えば、イオンは、単一装置10に引き渡されるのではなく、装置自体の内部で生成され得る。
【0029】
単一装置10は、最初にFAIMSモードで動作され、それによって固有のイオン移動度にしたがってイオンを選択し、次いでITMSモードに切り換えられてイオンの質量を特定する。このような様態で単一装置20を動作させることによって、イオンを同定するために少なくとも2つの固有に異なる化学特異的な識別情報を入手することができる。
【0030】
ここで明白にすべきことは、単一装置10はその動作モードの融通性が大きいことである。例えば、単一装置10は、最初にITMSモードで動作し、次いでFAIMSモードで動作することが可能である。しかも、単一装置10は、任意の数のFAIMS及びITMS手順を任意所望の順番で実行するように動作させることもできる。したがって、本発明は、任意の順序のITMS及びFAIMS手順を実行することが可能であり、かつ任意の回数で実行することが可能である。
【0031】
本発明の別の利点は、ITMS及びFAIMSの動作モードのみが、単一装置10を使用して実行可能な唯一の手順ではないことである。したがって、図1及び図2に示した単一装置10の構成は、他の作業も実行可能である。さらには、単一装置10の構成は、変更可能でありかつ依然として望ましいFAIMS及びITMS手順が実行可能である一方で、他の異なる手順も実行可能である。
【0032】
FAIMS及びITMS手順に加え得る有用な手順の1つの実施形態は、イオン断片化の手順である。衝突誘起解離又は他の任意の手段を使用してイオン移動度で選択されたイオン又は質量で選択されたイオンを断片化することがしばしば望ましい。例えば、断片化は、幾つかを列挙してみると、粒子衝突;表面誘起断片化;可視、紫外、及び赤外法を含む光誘起断片化;電子ビーム;エネルギーイオンビーム;低エネルギー電子付着;ならびに電子抽出によって実行することができる。
【0033】
単一装置10又は他の構成を使用して可能であり、かつ当業者に知られている断片化を実行する任意の他の手段はすべて、本発明の範囲内に包含される実行可能な断片化法であると考えられるべきである。
【0034】
今や単一装置の構成は、図1及び図2に例示されているもの以外に他の形態も取り得ることが理解されているので、この単一装置は直交流イオン移動度の動作モードも含み得ることが理解されるはずである。
【0035】
FAIMS、ITMS、及び直交流イオン移動度分析が実施可能な単一装置は、直交流イオン移動度分析を可能にする特徴的構造を備えるために変更されねばならない。直交流イオン移動度分析器(CIMA)では、電界に対向するガス流の成分がチャンネル内部に確立される。イオンは、経路を通じて運ばれ、特定のイオン移動度のイオンが対向する電界及び流れ場によって閉じ込められ、かつ、イオンが経路の端部に到達するときに検出される。経路の端部にある検出器は、イオン移動度によって選択されたイオンの連続的な流れを捕捉する。様々なイオンが、電界の変更及び/又は流れ場の速度の変更によって選択される。
【0036】
他の動作モードを可能にするために、単一装置10に僅かな変更さえ行えばよいことを前に述べた。CIMAの場合では、望ましいガス流を生成できるようにするために、中心円筒形棒12を長さに沿って貫通部を有する中空円筒に置き換えることができる。
【0037】
直交流イオン移動度分析が実行可能なシステムの断面概要図として図3が提示されている。図3は、2つの同心金属円筒22、24の間の間隙即ち空間26によって形成されるドリフト領域(即ち、直交流領域)を示す。ここでは単一装置20が、封止される密閉容器即ち筐体28の中に収容されることになり、それによって、CIMAの動作モードで単一装置20を動作させるために要する適切な圧力及び一定のガス流を維持する。
【0038】
CIMAモードで動作する間、筐体28は最初に空気を除去し、次いで窒素ガスの中に浸けられる。内部及び外部円筒22、24は、これらの両方の円筒22、24が電極として機能するように少なくとも2つの電圧源(大地を電圧源と考えれば)(図示せず)に接続される。円筒22、24は異なる電位に設定され、それによって第1の円筒22と第2の円筒24との間に電位を発生させる。本発明によって教示されたCIMAに関する追加的な情報のために、本出願は、2004年4月9日に出願された米国特許非仮出願第10/821660号の主題のすべてを参照により組み込む。
【0039】
図3に示した実施形態の構成では、電位の望ましい範囲が概ね数百ボルトから数千ボルトまでに亘ることになる。しかし、円筒22、24の間に確立される如何なる大きさの電界に対しても、平衡効果を創出するに足る十分な強さを要する対向ガス流が存在することを銘記すべきである。しかしながら、本発明の望ましい性能に応じて、電位及び対向流体流を増減することが可能である。
【0040】
CIMAモードの重要な態様は、円筒22、24の間の直交流領域30内に確立される電界と共に、電界に対向する直交ガス流を生成することである。したがって、ガスの直交流の速度は、当業者に知られた任意適切な値に設定される。ガスの直交流は、ガスを第1の円筒22の中に流し、そのガスが穴32を通って外向きに直交流領域30内に誘導され、次いで第2の円筒24中の穴32を通って筐体28内の空間34の中に誘導されることによって生成されるものとして図3に示されている。ガスの直交流が線36によって表される。図3は、ベンチュリ・エア装置38がガスの直交流を第1の円筒22の中に誘導することを示す。排出口40も筐体28の中に示されている。本図は、試料入口42、検出器44、エンドキャップ46、及び円筒22、24間を貫通するイオンの経路48を示す。
【0041】
図4は、貯蔵リング状イオントラップ50の斜視図である。リング状イオントラップ50は、4つの同軸に位置合わせされた環状棒の一群から基本的に構成され、そこでは第1の環状棒52が、第2の環状棒54と共平面にかつその直径の内側に配置され、さらに第3の環状棒56が、第4の環状棒56と共平面にかつその直径の内側に配置される。第1の環状棒52及び第2の環状棒54は、第3の環状棒56及び第4の環状棒58に平行である。
【0042】
図5は、図4に示した貯蔵リング状イオントラップ50の概要図である。
図6は、図4の貯蔵リング状イオントラップ50の断面図である。共通の回転軸60に対する4つの環状棒52、54、56、58の断面は、これらの4つの環状棒が点線62によって示した正方形のコーナーを形成することを示すことに留意されたい。これらの4つの環状棒は正方形のコーナーに限定されるものではなく、当業者に知られた任意適切な形状であり得ることに留意される。例えば、同じ直径ではない棒、又はテーパ付きの棒、又は断面図で見たときに菱形の形状を作成するようにずらした棒を考えられたい。
【0043】
図7は、図6に示した断面図の斜視図である。これらの棒に対する電位の印加は、本構成を所望通りに機能させるように様々な方式で実施可能である。例えば、2つの外側の棒54、58には正の電位が印加可能であり、他方で2つの内側の棒52、56には負の電位が印加可能である。
【0044】
それとは異なり、内側棒52及び外側棒54に正の電位が印加され、かつ内側棒56及び外側棒58に負の電位が印加されると、貯蔵リング状イオントラップ50は異なる様態で機能することになる。
【0045】
図8は、平面開放型の貯蔵リング状イオントラップ70の斜視図である。この構成が本発明の目的に見合った最良のモードであると考えられることに留意される。特に、少なくともFAIMS及びITMSの動作モードを実行するための単一装置のこのような特定の構成から作成される電位場の向きの線の様々な例示が挙げられている。
【0046】
図9は、図8の平面開放型の貯蔵リング状イオントラップ70の断面図である。
図10は、図9に示した平面開放型の貯蔵リング状イオントラップ70の断面斜視図である。
【0047】
図11は、典型的なFAIMS波形のグラフである。この波形は、短い高電界と、より長い低電界とを有することに留意されたい。
図12は、ITMSのための典型的な印加RF(高周波)電界のグラフである。この波形は平衡されていることに留意されたい。
【0048】
図13は、リング82及びエンドキャップ84を含む通常のイオントラップ80の斜視図である。
図14は、図13に示した従来のイオントラップ80の断面斜視図である。従来のイオントラップはリング82及びエンドキャップ84を含むことが分かる。この通常のイオントラップ80を使用してFAIMS及びITMSの動作モードを実行することもできる。
【0049】
図15は、RFが図8の平面開放型の貯蔵リング状イオントラップ70に印加されるときに存在する電位場の向きの線の例示である。これらの電位場の向きの線を見通すために、これらの電位場の向きの線が発出されている貯蔵リング状イオントラップ70の断面図が示されている。これは明らかに断面図の半分に過ぎない。
【0050】
図16は、FAIMSの高電界非対称波形が印加されるときに存在する電位場の向きの線の例示である。
図17は、FAIMSの低電界非対称波形が印加されるときに存在する電位場の向きの線の例示である。
【0051】
図18は、RF及び高電界非対称波形が相互に重畳されるときに存在する電位場の向きの線の例示である。
図19は、RF及び低電界非対称波形が相互に重畳されるときに存在する電位場の向きの線の例示である。
【0052】
本発明に応用できる有用な概念は、シミングの概念である。シミングとは、追加的な電極が、本発明の単一装置を形成している板、円筒、及び他の構造の端部に巧みに配置される過程である。追加的な電極は、電位場の向きの線を変更するために追加される。これらの追加的な電極に電位を印加することによって、これらの線を実質的に真っ直ぐにしたり、又はそれらを相互に実質的に平行にしたりすることができる。この作用は、電位場の向きの線がイオンに対して及ぼす影響のためにFAIMS及びITMSの動作モードにおける本発明の性能向上をもたらす。
【0053】
しかし、シミングの影響は電位場の向きの線を真っ直ぐにすることに限定されない。「理想的な」電界断面が真っ直ぐでもまた平行でもない線を有してもよい。したがって、シミングは、任意特定の応用例のために、たとえその応用例に弓状の電位場の向きの線が必要であっても、「理想的な」電界断面を創出するように実行可能である。
【0054】
具体的に説明されていない本発明の他の態様が存在する。例えば、本発明は、単一装置がFAIMS、ITMS、及び他の様々な動作を実行可能にすることを理解すべきである。これらの手順を実行するために、単一装置の環境の変更を要する場合がある。例えば、何らかのイオン移動度に基づく手順、断片化手順、及び質量分析手順を実行するために、圧力の変更を要する場合がある。これらの異なる手順を実行するために単一装置内部のガスの変更を要する場合もあるし、又は同じ手順の作業間でガスの変更を要する場合さえもある。重要なことは、本発明は、実行すべき特定の手順を最適化するために単一装置内部で圧力及び/又はガスを変更する態様を包含することである。
【0055】
本発明の別の態様は、典型的な回路基板上に配置された抵抗電極を使用することによってさえも単一装置を作製できることである。回路基板上に配置される抵抗材料のパッチを考えられたい。導電性材料のリングを形成するオーバーレイが抵抗パッチ上に配置される。次いで電位が導電性材料に印加され、かくして、別個の電極を使用することなく好ましい電位場断面を作成する機械的に簡素な方式を提供する。
【0056】
図20は、本発明の単一装置として同様に機能可能な四重極100が斜視図で示されている。しかし、四重極100の機能は、本文書で説明した他の装置とは異なることになる。具体的には、それは四重極内部からイオンを抽出することがより困難になり得る点で性能が異なることになる。しかし、エンドキャップ102の追加は、これらのエンドキャップばかりでなく、四重極100の棒104にもRF電界を印加できることを意味する。
【0057】
FAIMS波形、共通モード電位、及びRF電位を生成するのに別体の電源を必要としないことも述べておくべきである。このような構成は、スイッチに対する必要性も変更することになる。しかし、電位を電子的に追加又は分割するためのシステムを追加する必要が生じ得る。
【0058】
以上に説明した配置は本発明の原理の応用を例示するに過ぎないことを理解すべきである。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、数多くの変型及び別法による配置が当業者によって案出可能である。添付の特許請求の範囲は、このような変型及び配置を網羅しようとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の原理にしたがって動作する第1の実施形態を示す概要図であり、FAIMSモードで実行するように構成されている。
【図2】MSモードで実行するように変更されている第1の実施形態を示す概要図である。
【図3】FAIMS及びイオン移動度モードで動作すると共に、直交流移動度分析を実行できる装置を示す断面概要図である。
【図4】貯蔵リング状イオントラップを示す斜視図である。
【図5】図4に示した貯蔵リング状イオントラップを示す概要図である。
【図6】図4に示した貯蔵リング状イオントラップを示す断面図である。
【図7】図6に示した断面図を示す斜視図である。
【図8】平面開放型の貯蔵リング状イオントラップを示す図である。
【図9】図8の平面開放型の貯蔵リング状イオントラップを示す断面図である。
【図10】図9に示した断面図の斜視図である。
【図11】典型的なFAIMS波形を示すグラフである。
【図12】イオン移動度に基づく分析のための典型的なRF場を示すグラフである。
【図13】従来のイオントラップを示す斜視図である。
【図14】図13に示した従来のイオントラップを示す断面図である。
【図15】図8の平面開放型の貯蔵リング状イオントラップにRFが印加されるときに存在する電位場の向きの線を例示する図である。
【図16】FAIMSの高電界非対称波形が印加されるときに存在する電位場の向きの線を例示する図である。
【図17】FAIMSの低電界非対称波形が印加されるときに存在する電位場の向きの線を例示する図である。
【図18】RF及び高電界非対称波形の両方が相互に重畳されるときに存在する電位場の向きの線を例示する図である。
【図19】RF及び低電界非対称波形の両方が相互に重畳されるときに存在する電位場の向きの線を例示する図である。
【図20】本発明の単一装置として機能できる四重極を例示する図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、およびイオンに由来する荷電粒子と、のイオン移動度及び質量対電荷比にしたがって、イオンを分離するために単一装置を使用する方法であって、前記方法は、
1)単一装置中のイオン移動度に基づく質量分析のシステムを提供する工程であって、前記単一装置は少なくとも2つの電極から構成され、前記2つの電極間に電界を生成するようにされている、イオン移動度に基づく質量分析のシステムを提供する工程と、
2)前記イオンの、イオン移動度、電荷、サイズ、質量、及び断面積に基づいて、イオンを分離する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記方法は、前記単一装置中で、前記イオンをトラップする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、イオン移動度によって選択されたイオン又は質量対電荷比によって選択されたイオンを断片化する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、イオン移動度、質量対電荷比、又はそれらの任意の組合せにしたがって、分離された前記イオンを分析する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、
1)前記単一装置を使用してイオン移動度に基づく分析を実行する工程と、
2)前記単一装置を使用して質量分析を実行する工程とをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、
1)前記単一装置を使用して質量分析を実行する工程と、
2)前記単一装置を使用してイオン移動度に基づく分析を実行する工程と、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、イオン移動度に基づく分析及び質量分析の個別手順を、任意の順番で実行する工程をさらに含み、それによって前記イオンを処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、イオン移動度に基づく分析及び質量分析の前記手順を、任意の回数で実行する工程をさらに含むが、一度に1つの手順のみを実行し、それによって前記イオンを処理する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、移動度、質量対電荷比、又は移動度と質量対電荷比との任意の組合せにしたがって、選択されたイオンを断片化する工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、イオン移動度に基づく分析及び質量分析の前記手順を個別的にではなく同時の様態で実行する工程をさらに含み、それによって、前記手順が順次に実行されたとした場合とは異なる種類のイオンを選択する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、前記単一装置が直交流イオン移動度分析の手順も実行するように、前記単一装置を変更する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、イオン移動度に基づく分析、質量分析、及び直交流イオン移動度分析の個別手順を任意の順番で実行する工程をさらに含み、それによって前記イオンを処理する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、イオン移動度に基づく分析、質量分析、及び直交流イオン移動度分析の個別手順を任意の回数で実行する工程をさらに含み、それによって前記イオンを処理する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、
1)第1の電極及び第2の電極を提供する工程であって、前記第1の電極及び前記第2の電極は、これらの間に電界を生成するように配置される、第1の電極及び第2の電極を提供する工程と、
2)前記第1の電極に印加される電位を供給するための第1の手段を提供する工程と、
3)前記第2の電極に印加される電位を供給するための第2の手段を提供する工程とをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、及びイオンに由来する荷電粒子との、イオン移動度及び質量対電荷比にしたがって、イオンを分離するシステムであって、前記システムは、
第1の電極及び第2の電極であって、これらの間に電界を生成するように配置される、第1の電極及び第2の電極と、
前記第1の電極に印加される電位を供給する第1の手段と、
前記第2の電極に印加される電位を供給する第2の手段と、から構成されるシステム。
【請求項16】
前記システムは検出器をさらに含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記第1の電極及び前記第2の電極は、少なくとも2つの同心円筒、少なくとも2つの同心球体、複数の積層板、少なくとも2枚の実質的に平行な板、少なくとも2枚の実質的に平行ではない板、複数の直線棒、複数の弓形棒、複数の抵抗電極、複数の弓形電極、及び同心円筒内部の中心棒から構成される電極の群から選択される、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記電極は、4つの同軸に位置合わせされた環状棒の群から構成されており、第1の環状棒が第2の環状棒と共平面にかつ前記第2の環状棒の直径の内側に配置されており、第3の環状棒が第4の環状棒と共平面にかつ前記第4の環状棒の直径の内側に配置されており、前記第1及び第2の環状棒は前記第3及び第4の環状棒に平行とされており、さらに共通の回転軸に対する前記4つの環状棒の断面は、前記4つの環状棒が4辺構造のコーナーを形成することを示す、請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
前記少なくとも2つの同心円筒は、第1の円筒及び第2の円筒からさらに構成される、請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
前記検出器は、前記第1の円筒と前記第2の円筒との第1の端部に配置される、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記検出器は、ファラデー検出器、電子増倍管、マルチチャネル板、質量分析器、イオン移動度分析器、アレイ検出器、画像電流検出器、前記電極それ自体、電荷結合検出器、光子生成検出器、及びイオン/光子変換装置から構成される検出器の群から選択される、請求項16に記載のシステム。
【請求項22】
前記システムはイオン源からさらに構成され、前記イオン源は、そこにイオンを引き渡すための入口に隣接して配置される、請求項16に記載のシステム。
【請求項23】
前記システムはイオンを分析する手段からさらに構成され、前記分析する手段は、前記システムが特定のイオン移動度の少なくとも1つの種類のイオンを選択することのみを可能とする能力を備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項24】
前記システムはイオンを分析する手段からさらに構成され、前記分析する手段は、前記システムが特定の質量対電荷比の少なくとも1つの種類のイオンを選択することのみを可能とする能力を備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項25】
前記システムはイオンを測定する手段からさらに構成され、前記測定する手段は、イオン移動度のある範囲を走査する能力を備える、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記システムはイオンを測定する手段からさらに構成され、前記測定する手段は、イオンの質量対電荷比のある範囲を走査する能力を備える、請求項24に記載のシステム。
【請求項27】
前記電位を供給する第1の手段は、高電界非対称波形を生成する手段をさらに備え、前記電位を供給する第2の手段は、イオン移動度に基づく分析器として動作するときに、異なる電位を生成する手段を備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項28】
前記波形は連続的に又は段階的に変更可能であり、それによって対象となる特定のイオンをいずれも選択する、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記電位を供給する第1の手段は、定電位を生成する手段をさらに備え、前記電位を供給する第2の手段は、質量分析器として動作するときに、対称波形を生成する手段を備える、請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
前記波形は連続的に又は段階的に変更可能であり、それによって対象となる特定のイオンをいずれも選択する、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記イオン移動度に基づく手順を実行するため、かつ前記質量分析器の手順を実行するために、前記システムは前記電位を同時に生成する手段をさらに備える、請求項29に記載のシステム。
【請求項32】
前記システムは、前記システム内部のガスを交換するための手段をさらに備え、前記システム内部のガスは、実行すべき手順のために最適化される、請求項15に記載のシステム。
【請求項33】
前記システムは、当該システムからガスを除去する手段をさらに備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項34】
前記システムは、当該システムにガスを追加する手段をさらに備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項35】
前記システムは、当該システム内部の圧力を動的に変化させる手段をさらに備え、それによって実行すべき前記手順のために前記システム内部の圧力を最適化する、請求項15に記載のシステム。
【請求項36】
前記システムは、第3の電極及び第4の電極をさらに備えており、前記第1、第2、第3、及び第4の電極は、直線的な四重極を形成するように配置される、請求項15に記載のシステム。
【請求項37】
前記第1の円筒と前記第2の円筒との第2の端部に別の検出器が配置される、請求項20に記載のシステム。
【請求項38】
前記システムは、基板上に配置された抵抗パッチからさらに構成されており、前記第1の電極及び前記第2の電極は、前記抵抗パッチの上に配置されており、それによってポテンシャル場の勾配を形成する、請求項15に記載のシステム。
【請求項39】
単一装置においてイオン移動度に基づく質量分析手順を実行するためのシステムであって、前記システムは、
第1の電極及び第2の電極であって、これらの間に電界を生成するように配置される、第1の電極及び第2の電極と、
前記第1の電極に対して、動的共通モード電位を印加するための第1の電源と、
前記システムをイオン移動度に基づく分析動作モードで動作させるときに、前記第2の電極に対して、非対称波形を印加するための第2の電源と、から構成されるシステム。
【請求項40】
前記システムは、
前記第1の電極に対して、振動するRF電位を印加するための第3の電源と、
動的共通モード電位を印加するための第4の電源と、からさらに構成される、請求項39に記載のシステム。
【請求項1】
荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、およびイオンに由来する荷電粒子と、のイオン移動度及び質量対電荷比にしたがって、イオンを分離するために単一装置を使用する方法であって、前記方法は、
1)単一装置中のイオン移動度に基づく質量分析のシステムを提供する工程であって、前記単一装置は少なくとも2つの電極から構成され、前記2つの電極間に電界を生成するようにされている、イオン移動度に基づく質量分析のシステムを提供する工程と、
2)前記イオンの、イオン移動度、電荷、サイズ、質量、及び断面積に基づいて、イオンを分離する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記方法は、前記単一装置中で、前記イオンをトラップする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、イオン移動度によって選択されたイオン又は質量対電荷比によって選択されたイオンを断片化する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、イオン移動度、質量対電荷比、又はそれらの任意の組合せにしたがって、分離された前記イオンを分析する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、
1)前記単一装置を使用してイオン移動度に基づく分析を実行する工程と、
2)前記単一装置を使用して質量分析を実行する工程とをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、
1)前記単一装置を使用して質量分析を実行する工程と、
2)前記単一装置を使用してイオン移動度に基づく分析を実行する工程と、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、イオン移動度に基づく分析及び質量分析の個別手順を、任意の順番で実行する工程をさらに含み、それによって前記イオンを処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、イオン移動度に基づく分析及び質量分析の前記手順を、任意の回数で実行する工程をさらに含むが、一度に1つの手順のみを実行し、それによって前記イオンを処理する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、移動度、質量対電荷比、又は移動度と質量対電荷比との任意の組合せにしたがって、選択されたイオンを断片化する工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、イオン移動度に基づく分析及び質量分析の前記手順を個別的にではなく同時の様態で実行する工程をさらに含み、それによって、前記手順が順次に実行されたとした場合とは異なる種類のイオンを選択する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、前記単一装置が直交流イオン移動度分析の手順も実行するように、前記単一装置を変更する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、イオン移動度に基づく分析、質量分析、及び直交流イオン移動度分析の個別手順を任意の順番で実行する工程をさらに含み、それによって前記イオンを処理する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、イオン移動度に基づく分析、質量分析、及び直交流イオン移動度分析の個別手順を任意の回数で実行する工程をさらに含み、それによって前記イオンを処理する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、
1)第1の電極及び第2の電極を提供する工程であって、前記第1の電極及び前記第2の電極は、これらの間に電界を生成するように配置される、第1の電極及び第2の電極を提供する工程と、
2)前記第1の電極に印加される電位を供給するための第1の手段を提供する工程と、
3)前記第2の電極に印加される電位を供給するための第2の手段を提供する工程とをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
荷電粒子と、原子、分子、粒子、亜原子粒子、及びイオンに由来する荷電粒子との、イオン移動度及び質量対電荷比にしたがって、イオンを分離するシステムであって、前記システムは、
第1の電極及び第2の電極であって、これらの間に電界を生成するように配置される、第1の電極及び第2の電極と、
前記第1の電極に印加される電位を供給する第1の手段と、
前記第2の電極に印加される電位を供給する第2の手段と、から構成されるシステム。
【請求項16】
前記システムは検出器をさらに含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記第1の電極及び前記第2の電極は、少なくとも2つの同心円筒、少なくとも2つの同心球体、複数の積層板、少なくとも2枚の実質的に平行な板、少なくとも2枚の実質的に平行ではない板、複数の直線棒、複数の弓形棒、複数の抵抗電極、複数の弓形電極、及び同心円筒内部の中心棒から構成される電極の群から選択される、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記電極は、4つの同軸に位置合わせされた環状棒の群から構成されており、第1の環状棒が第2の環状棒と共平面にかつ前記第2の環状棒の直径の内側に配置されており、第3の環状棒が第4の環状棒と共平面にかつ前記第4の環状棒の直径の内側に配置されており、前記第1及び第2の環状棒は前記第3及び第4の環状棒に平行とされており、さらに共通の回転軸に対する前記4つの環状棒の断面は、前記4つの環状棒が4辺構造のコーナーを形成することを示す、請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
前記少なくとも2つの同心円筒は、第1の円筒及び第2の円筒からさらに構成される、請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
前記検出器は、前記第1の円筒と前記第2の円筒との第1の端部に配置される、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記検出器は、ファラデー検出器、電子増倍管、マルチチャネル板、質量分析器、イオン移動度分析器、アレイ検出器、画像電流検出器、前記電極それ自体、電荷結合検出器、光子生成検出器、及びイオン/光子変換装置から構成される検出器の群から選択される、請求項16に記載のシステム。
【請求項22】
前記システムはイオン源からさらに構成され、前記イオン源は、そこにイオンを引き渡すための入口に隣接して配置される、請求項16に記載のシステム。
【請求項23】
前記システムはイオンを分析する手段からさらに構成され、前記分析する手段は、前記システムが特定のイオン移動度の少なくとも1つの種類のイオンを選択することのみを可能とする能力を備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項24】
前記システムはイオンを分析する手段からさらに構成され、前記分析する手段は、前記システムが特定の質量対電荷比の少なくとも1つの種類のイオンを選択することのみを可能とする能力を備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項25】
前記システムはイオンを測定する手段からさらに構成され、前記測定する手段は、イオン移動度のある範囲を走査する能力を備える、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記システムはイオンを測定する手段からさらに構成され、前記測定する手段は、イオンの質量対電荷比のある範囲を走査する能力を備える、請求項24に記載のシステム。
【請求項27】
前記電位を供給する第1の手段は、高電界非対称波形を生成する手段をさらに備え、前記電位を供給する第2の手段は、イオン移動度に基づく分析器として動作するときに、異なる電位を生成する手段を備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項28】
前記波形は連続的に又は段階的に変更可能であり、それによって対象となる特定のイオンをいずれも選択する、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記電位を供給する第1の手段は、定電位を生成する手段をさらに備え、前記電位を供給する第2の手段は、質量分析器として動作するときに、対称波形を生成する手段を備える、請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
前記波形は連続的に又は段階的に変更可能であり、それによって対象となる特定のイオンをいずれも選択する、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記イオン移動度に基づく手順を実行するため、かつ前記質量分析器の手順を実行するために、前記システムは前記電位を同時に生成する手段をさらに備える、請求項29に記載のシステム。
【請求項32】
前記システムは、前記システム内部のガスを交換するための手段をさらに備え、前記システム内部のガスは、実行すべき手順のために最適化される、請求項15に記載のシステム。
【請求項33】
前記システムは、当該システムからガスを除去する手段をさらに備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項34】
前記システムは、当該システムにガスを追加する手段をさらに備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項35】
前記システムは、当該システム内部の圧力を動的に変化させる手段をさらに備え、それによって実行すべき前記手順のために前記システム内部の圧力を最適化する、請求項15に記載のシステム。
【請求項36】
前記システムは、第3の電極及び第4の電極をさらに備えており、前記第1、第2、第3、及び第4の電極は、直線的な四重極を形成するように配置される、請求項15に記載のシステム。
【請求項37】
前記第1の円筒と前記第2の円筒との第2の端部に別の検出器が配置される、請求項20に記載のシステム。
【請求項38】
前記システムは、基板上に配置された抵抗パッチからさらに構成されており、前記第1の電極及び前記第2の電極は、前記抵抗パッチの上に配置されており、それによってポテンシャル場の勾配を形成する、請求項15に記載のシステム。
【請求項39】
単一装置においてイオン移動度に基づく質量分析手順を実行するためのシステムであって、前記システムは、
第1の電極及び第2の電極であって、これらの間に電界を生成するように配置される、第1の電極及び第2の電極と、
前記第1の電極に対して、動的共通モード電位を印加するための第1の電源と、
前記システムをイオン移動度に基づく分析動作モードで動作させるときに、前記第2の電極に対して、非対称波形を印加するための第2の電源と、から構成されるシステム。
【請求項40】
前記システムは、
前記第1の電極に対して、振動するRF電位を印加するための第3の電源と、
動的共通モード電位を印加するための第4の電源と、からさらに構成される、請求項39に記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2007−524964(P2007−524964A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517564(P2006−517564)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/020073
【国際公開番号】WO2004/114347
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(592087647)ブリガム・ヤング・ユニバーシティ (34)
【氏名又は名称原語表記】BRIGHAM YOUNG UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/020073
【国際公開番号】WO2004/114347
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(592087647)ブリガム・ヤング・ユニバーシティ (34)
【氏名又は名称原語表記】BRIGHAM YOUNG UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
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