イオン移動度計およびイオン移動度計測方法
【課題】軟X線を用いてベースガスイオンを生成し、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンを生成することによって、安全性が高く、装置の汚染、試料の分解、及びイオン化室の電界への影響などを抑制でき、試料分子を効率よくイオン化できるイオン移動度計およびイオン移動度計測方法を提供する。
【解決手段】イオン移動度計1は、試料分子をイオン化するイオン化装置2と、イオン化された試料分子の移動度を計測するドリフト室11とを備える。イオン化装置2は、ベースガスをイオン化するとともにベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を促すイオン化室20と、イオン化室20内へ軟X線を照射する軟X線管3とを有する。軟X線管3は、軟X線の照射量を増減可能に構成されている。
【解決手段】イオン移動度計1は、試料分子をイオン化するイオン化装置2と、イオン化された試料分子の移動度を計測するドリフト室11とを備える。イオン化装置2は、ベースガスをイオン化するとともにベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を促すイオン化室20と、イオン化室20内へ軟X線を照射する軟X線管3とを有する。軟X線管3は、軟X線の照射量を増減可能に構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン移動度計およびイオン移動度計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気圧環境下で用いられるイオン移動度計は、試料分子をイオン化するため、一般的に、例えば放射性同位元素から放射される放射線を利用したイオン化装置や、コロナ放電を利用したイオン化装置などを備えている。また、特許文献1には、軟X線を用いて試料分子をイオン化する装置が開示されている。
【特許文献1】特開2001−68053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、放射線を利用するイオン化装置は、安全性が低いため、使用条件の規制や厳しい管理条件が存在する。また、コロナ放電を利用するイオン化装置は、放電の際の電極欠損に伴う汚染やイオン化効率の劣化、或いは試料の分解といった問題を有する。しかも、針状の電極の電圧が高く筐体との電位差が大きい上に、その構造から局部的に強い電界が形成される為、イオン化室内に形成されたイオンの挙動がその電界に影響され、制御がし難い。また、イオン化できる領域が電極の先端付近に限られており、効率よく試料をイオン化することが難しい。
【0004】
なお、特許文献1には、ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応による試料分子イオンの生成に関しては記載されていない。
【0005】
本発明は、上記した問題点を鑑みてなされたものであり、軟X線を用いてベースガスイオンを生成し、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンを生成することによって、安全性が高く、装置の汚染、試料の分解などを抑制でき、試料分子を効率よくイオン化し、制御できるイオン移動度計およびイオン移動度計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、本発明によるイオン移動度計は、試料分子をイオン化するイオン化装置と、イオン化された試料分子の移動度を計測するドリフト室とを備え、イオン化装置が、ベースガスをイオン化するとともに該ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を促すイオン化室、ベースガス及び試料分子をイオン化室内に導入する一または複数の導入口、及び、イオン化された試料分子をドリフト室へ排出する排出口を有する本体部と、電子源、及び該電子源からの電子線を受けて軟X線を発生するターゲット部を含み、イオン化室内へ軟X線を照射する軟X線源とを有し、軟X線源が、軟X線の照射量を増減可能に構成されていることを特徴とする。
【0007】
上記したイオン移動度計では、イオン化装置において、次の動作が行われる。すなわち、導入口からイオン化室内に試料分子が導入され、同じ導入口または異なる導入口からベースガス(窒素ガス等)が導入される。ベースガスに軟X線が照射されるとベースガスがイオン化され、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応(プロトン転移、イオン付加、或いは電荷転移等)により、試料分子がイオン化される。こうして生成された試料分子イオンは、排出口からドリフト室へ排出される。
【0008】
上記したイオン移動度計では、上述したように軟X線を用いてベースガスイオンが生成され、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンが生成される。これにより、放射線を利用する場合と比較して安全性が高く、また、コロナ放電を利用する場合と比較して、装置の汚染、及び試料の分解などを好適に抑制でき、かつイオン化室内でのイオンの制御や反応を好適に行える為、試料分子を効率よくイオン化できるイオン移動度計を提供できる。
【0009】
また、上記したイオン移動度計では、軟X線源が、軟X線の照射量を増減可能に構成されている。ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を利用したイオン移動度計においては、ベースガスイオンが試料分子に対して過剰に生成されてしまうと、試料分子イオンに起因する出力信号波形が、ベースガスイオンに起因する出力信号波形に隠れてしまい、試料分子イオンの移動度を精度よく計測することが難しくなる。なお、この問題は、ベースガスイオンの移動度と試料分子イオンの移動度とが互いに近い場合に特に顕著となる。上記したイオン移動度計によれば、軟X線の照射量を増減することにより、イオン化されるべき試料分子の量とベースガスイオンの生成量とのバランスを容易に調整できるので、試料分子イオンに起因する出力信号波形を適切に取得し、試料分子イオンの移動度を精度よく計測することができる。
【0010】
また、イオン移動度計は、軟X線源において、電子源から出射される電子線量が可変であることを特徴としてもよい。或いは、イオン移動度計は、軟X線源において、電子源からターゲット部への電子線の加速電圧が可変であることを特徴としてもよい。これらのうち少なくとも一方によって、軟X線の照射量が増減可能な軟X線源を好適に構成できる。
【0011】
また、イオン移動度計は、イオン化装置が、イオン化された試料分子を通過させる開口を有し、排出口に設けられた第1の電極と、試料分子イオンを排出するための電界を第1の電極との間に形成する第2の電極とを有し、ターゲット部に設けられた電極と第2の電極とが互いに短絡されていることを特徴としてもよい。これにより、正の試料分子イオンを生成する際に、ターゲット電極の電位を第2の電極と同じ正電位(例えば、接地電位に対して+3kV)に設定できるので、このターゲット電極の電位の分だけ電子源の電位を高く(例えば、接地電位に対して−3kVないし−7kV)できる。従って、一般的に高圧となる軟X線源内の電位差を低く抑えることができ、軟X線源と近接する周辺部材との耐圧性能を向上できる。
【0012】
また、イオン移動度計は、イオン化装置が、イオン化された試料分子を通過させる開口を有し、排出口に設けられた第1の電極と、試料分子イオンを排出するための電界を第1の電極との間に形成する第2の電極と、ターゲット部に設けられた電極及び前記第2の電極の電位を制御する制御部とを有することを特徴としても良い。これにより、イオン化室内に所望の電界を形成することができる。また、さらに制御部は、ターゲット部に設けられた電極と第2の電極とを同電位に制御してもよく、これにより、正の試料分子イオンを生成する際に、ターゲット電極の電位を第2の電極と同じ正電位(例えば、接地電位に対して+3kV)に設定できるので、このターゲット電極の電位の分だけ電子源の電位を高く(例えば、接地電位に対して−3kVないし−7kV)できる。従って、一般的に高圧となる軟X線源内の電位差を低く抑えることができ、軟X線源と近接する周辺部材との耐圧性能を向上できる。
【0013】
また、イオン移動度計は、軟X線源及び第2の電極それぞれの表面を除くイオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴としてもよい。これにより、イオン化室内において軟X線の照射により二次電子が放出されることを効果的に抑制できるので、正の試料分子イオンを発生させる場合に、試料分子イオンの中性分子化(中和)を抑え、試料分子イオンのイオン密度を更に高めることができる。この場合、イオン移動度計は、第1の電極と第2の電極との間に中間電極を更に備え、中間電極のイオン化室側の端部が絶縁性部材に覆われていてもよい。これにより、第1の電極と第2の電極との間の電界をより効果的に形成できるとともに、中間電極からの二次電子の放出を効果的に抑制できる。また、第1の電極の開口の内面が、イオン化室の排出口の内面と連続しているか、或いは、排出口の中心軸を基準として排出口の内面よりも外側に位置してもよい。これにより、第1の電極からの二次電子の放出を効果的に抑制できる。
【0014】
また、イオン移動度計は、第1の電極と第2の電極との間に中間電極を更に備え、軟X線源、第2の電極、及びイオン化室の内面から突出している中間電極のイオン化室側の端部のそれぞれの表面を除くイオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴としてもよい。これにより、中間電極に軟X線が照射されて二次電子が多く放出されるので、負の試料分子イオンを発生させる場合にイオンの生成を助け、イオン密度を高めることができる。
【0015】
また、イオン移動度計は、イオン化室を気密に保つシール部材を更に備え、シール部材が、軟X線源の周囲に設けられ、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含むことを特徴としてもよい。或いは、シール部材が、X線源とイオン化室との間に設けられた金属または炭素系材料を含む環状部材であることを特徴としてもよい。これにより、例えば300℃前後といった高温環境下においても、シール部材からのガス放出が極めて少なく、シール部材の熱分解も生じないので、イオン化室の気密状態を好適に維持できる。
【0016】
また、イオン移動度計は、本体部を収容して高温に保持する保温容器を更に備え、電子源が保温容器の外部に位置することを特徴としてもよい。イオン移動度計においては、イオン化促進やクラスター化防止、或いは試料による汚染防止のため、イオン化室及びドリフト室を加熱する場合がある。このような場合、軟X線源の電子源を保温容器の外部に配置することにより、次の効果が得られる。例えば、電子源がフィラメントである場合には、フィラメントを保温容器の外部に配置することで熱による消耗や断線を抑制でき、軟X線源の寿命を長くできる。また、フィラメント以外の電子源を使用する場合においても、その動作に適した温度環境下に電子源を配置できる。
【0017】
また、イオン移動度計は、電子源が冷陰極を含むことを特徴としてもよい。これにより、電子源としてフィラメントを用いる場合と比較して電子源の温度上昇を低く抑えることができるので、イオン化室内の温度上昇を防ぎ、イオン化反応を安定して発生させることができる。また、イオン化室に続くドリフト室の温度上昇を抑え、計測精度を高めることができる。
【0018】
また、イオン移動度計は、軟X線源が、電子源から出射された電子線を偏向させる偏向部を更に含むことを特徴としてもよい。この偏向部を用いて電子線を走査することにより、ターゲット部において極めて短い時間幅の(時間的パルス状の)軟X線を生成できるので、時間的にパルス状となった試料分子イオンが容易に得られる。これにより、試料分子イオンを時間的パルス状に出射するためのゲートシャッタが不要になり、構造を簡素化できる。
【0019】
また、イオン移動度計は、本体部が、ベースガスをイオン化室内に導入する第1の導入口、及び試料分子をイオン化室内に導入する第2の導入口を有し、第2の導入口が、第1の導入口に対して排出口寄りに設けられていることを特徴としてもよい。第1の導入口から導入されたベースガスは、イオン化された後、排出口へ向けて移動する。このイオン移動度計では、第2の導入口が第1の導入口に対して排出口寄りに設けられているので、ベースガスを先にイオン化し、その下流で試料分子とベースガスイオンとを反応させることができ、試料分子をより効率よくイオン化できる。
【0020】
また、本発明によるイオン移動度計測方法は、イオン化室内に試料分子及びベースガスを導入し、ベースガスに軟X線を照射してベースガスイオンを生成し、ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンを生成し、試料分子イオンの移動度を計測する方法において、軟X線の強度を調整することにより、イオン化室内におけるベースガスイオンの生成量を試料分子イオンの生成量に近づけることを特徴とする。
【0021】
上記したイオン移動度計測方法では、軟X線を用いてベースガスイオンが生成され、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンが生成される。これにより、放射線を利用する場合と比較して安全性が高く、また、コロナ放電を利用する場合と比較して、装置の汚染、試料の分解、及びドリフト室等の電界への影響などを好適に抑制でき、試料分子を効率よくイオン化できるイオン移動度計測方法を提供できる。
【0022】
また、上記したイオン移動度計測方法では、軟X線の強度を調整することにより、イオン化室内におけるベースガスイオンの生成量を試料分子イオンの生成量に近づける。これにより、イオン化されるべき試料分子の量とベースガスイオンの生成量とのバランスを調整し、試料分子イオンに起因する出力信号波形を適切に取得し、試料分子イオンの移動度を精度よく計測することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるイオン移動度計およびイオン移動度計測方法によれば、軟X線を用いてベースガスイオンを生成し、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンを生成することによって、安全性が高く、装置の汚染、及び試料の分解などを抑制でき、かつイオン化室内でのイオンの制御や反応を好適に行える為、試料分子を効率よくイオン化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるイオン移動度計およびイオン移動度計測方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態として、イオン移動度計(IMS:Ion Mobility Spectrometer)1の構成を示す断面図である。なお、図1には、説明のためXYZ直交座標系が示されている。イオン移動度計1は、気体成分などの試料分子をイオン化した後、その試料分子イオンを電場のかかった気体中で飛行させ、その移動速度の違いにより試料分子イオンを計測するための装置である。
【0026】
図1を参照すると、本実施形態のイオン移動度計1は、イオン化装置2、保温容器8、及びドリフト管10を備える。イオン化装置2は、イオン化室20に導入された窒素等のベースガスに軟X線を照射してベースガスイオンを生成し、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応(プロトン転移、イオン付加、或いは電荷転移等)により試料分子イオンを生成する装置である。
【0027】
図2は、イオン化装置2の構成を示す断面図である。イオン化装置2は、イオン化室20を有する本体部21と、軟X線管3と、電極4及び5と、シール機構6とを備える。
【0028】
イオン化室20は、ベースガスをイオン化するとともにベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を促すための空間であり、ほぼ大気圧に保たれている。イオン化室20は、一端に開口21aを有し、他端に開口21bを有する筒状の本体部21内に形成されており、所定の軸方向(本実施形態ではX軸方向)に延びている。なお、本実施形態においては、本体部21として、YZ平面における外周断面形状が円形であり、内周断面形状が矩形や円形である筒状部材を用いている。本体部21は、電気絶縁性材料からなる。
【0029】
本体部21には、導入口22a,22b及び排出口23が更に形成されている。導入口22aは、本実施形態における第1の導入口であり、イオン化室20の内部にベースガスを導入するための開口である。また、導入口22bは、本実施形態における第2の導入口であり、イオン化室20の内部に試料分子を導入するための開口である。導入口22a及び22bは、所定の軸方向(X軸方向)に並んで形成されており、導入口22bが、導入口22aに対して排出口23寄りに設けられている。また、導入口22a及び22bの中心軸方向は、所定の軸方向(X軸方向)と交差する方向(本実施形態ではY軸方向)に設定されている。
【0030】
排出口23は、イオン化室20において生成された試料分子イオンを排出するための開口である。排出口23は、本体部21において、所定の軸方向(X軸方向)におけるイオン化室20の一端に形成されており、本実施形態では、開口21aが排出口23となっている。イオン化室20は、排出口23を通してドリフト室11(図1参照)と連通している。
【0031】
軟X線管3は、イオン化室20の内部へ軟X線を照射するための軟X線源であり、軟X線の照射量を増減可能に構成されている。本実施形態の軟X線管3は、本体部21においてイオン化室20の他端側の開口21bと連通する軟X線管挿入口24に取り付けられ、その軟X線出射軸線がイオン化室20の中心軸線Aと同軸となるように本体部21に固定されている。軟X線管3は、真空容器30、電子源31、及びターゲット部32を有する。
【0032】
真空容器30は、電子源31及びターゲット部32を収容するための容器である。本実施形態の真空容器30は、軟X線出射軸方向(X軸方向)を長手方向とする筒状を呈しており、気密に封止され内部を真空状態に保っている。
【0033】
電子源31は、熱電子や光電子といった電子を放出するための部分である。電子源31は、真空容器30の長手方向の一端側(イオン化室20から離れた側)に配置されている。本実施形態の電子源31は、フィラメント31aと、電子を収束し加速するための図示しない電極とを含んで構成される。なお、電子源31は、フィラメント31aに代えて例えば冷陰極等を備えても良い。
【0034】
また、軟X線管3は、次のような構成を有することによって、軟X線の照射量を増減可能となっている。例えば、電子源31から放出される電子線量が可変となっている。このような構成を実現するための例としては、例えば図3のように、フィラメント31a用の電源81を接続し、フィラメント31aに供給する電圧を可変したり、逆に電圧を固定し電流値を可変する事で電子線量を可変できる。また、軟X線管3では、電子源31から電子線が出射される際の加速電圧が可変となっている。このような構成を実現するための例としては、例えば図3のように、電源81に加え、フィラメント31aからの電子をターゲット部32に加速するための電源82を接続し、電源82の電圧を可変すれば良い。更に電圧の可変幅を広げたい場合は、図4に示すように、ブリーダ回路基板18に電圧を供給するための電源83を更に接続してもよい。
【0035】
ターゲット部32は、電子源31からの電子を受けて軟X線を発生するための部分である。ターゲット部32は、真空容器30の長手方向の他端側(イオン化室20に近い側)に配置されている。ターゲット部32は、電子の衝突により軟X線を放出するタングステン等からなるターゲット32aと、該ターゲット32aに電位を与えるターゲット電極32bとを含む。ターゲット電極32bは、ターゲット32aの外周を囲むフランジ状に形成されており、真空容器30の他端に封着されて固定されている。
【0036】
また、軟X線管3は、図示しない窓材を更に有する。この窓材は、ターゲット部32から放出された軟X線を透過して真空容器30の外部(すなわちイオン化室20の内部)へ出射するための部材である。窓材は、例えばアルミニウム、チタン、ベリリウム、シリコン、または窒化シリコン等の軟X線を透過する材料からなる。特に、窓材がシリコン及び窒化シリコンのうち少なくとも一方を含むことにより、通常の軟X線管と比較して更に小さなエネルギーSiの示性X線も多く放射できる。窓材には、窓用電極(ターゲット電極32bが兼ねてもよい)により所定の電位が与えられる。なお、窓用電極がターゲット電極32bとは別に設けられる場合には、窓用電極とターゲット電極32bとを短絡し、同電位とするとよい。
【0037】
電極4は、本実施形態における第1の電極である。電極4は、所定の軸方向(X軸方向)におけるイオン化室20の一端側に設けられている。電極4は、イオン化室20の排出口23(開口21a)を覆うように設けられており、イオン化された試料分子を通過させる開口41を有する。本実施形態の電極4は、網状(メッシュ状)に形成されたメッシュ部42を有しており、該メッシュ部42に形成された多数の隙間が、開口41を構成している。
【0038】
電極5は、本実施形態における第2の電極である。電極5は、所定の軸方向(X軸方向)におけるイオン化室20の他端側に設けられており、終端電極として機能する。電極5は、イオン化室20の開口21b(軟X線入射口)に設けられており、軟X線を通過させる開口51を有する。電極5は、電極4と協働して、試料分子イオンを排出するための電界をイオン化室20内に形成する。また、電極5は、軟X線管3のターゲット電極32bと接している。これにより、ターゲット電極32bと電極5とが互いに短絡し、同電位となっている。なお、電極5とターゲット電極32bとの短絡は、互いに直に接する以外にも、例えば導電性の配線やばね材などを介して実現されてもよい。
【0039】
また、本実施形態のイオン化装置2は、電極4及び5に加え、更に中間電極71〜73を有する。中間電極71〜73は、電極4と電極5との間に並んで配置されており、電極4及び5と協働してイオン化室20の内部に電界を形成する。そのため、電極4、71、72、73、5の順に電位が次第に高くなる(または次第に低くなる)ように、各電極に電位勾配が与えられる。例えば、図2では、電極4、71、72、73、及び5は、この順で分圧抵抗(図4参照)により電気的に接続されている。分圧抵抗は、ブリーダ回路基板18上に形成された薄膜状の抵抗体であり、リード端子を介して電極4、71〜73、及び5に電気的に接続される。これにより、イオン化室20の内部に上述したような電界が形成される。この電界により、試料分子イオンは排出口23へ向けて移動する。
【0040】
シール機構6は、軟X線管3の周囲に設けられ、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間を封止することにより、イオン化室20を気密に保つための機構である。シール機構6は、軟X線管3の周囲に設けられイオン化室20を気密に保つシール部材60を有する。シール部材60としては、例えばOリングやガスケットが用いられるが、イオン移動度計1を高温環境下で用いる場合を考慮し、耐熱性が高くガス放出が少ない例えばパーフロロ系のOリングを用いると尚良い。
【0041】
また、シール機構6は、本体部21に固定され、軟X線管挿入口24と連通しており、X軸の正側からシール部材60を支持する筒状の支持部材61と、支持部材61に内側から螺合してX軸方向に移動可能な筒状の移動部材62と、移動部材62及びシール部材60の間に配置され、X軸の負側からシール部材60に当接する環状部材63とを有する。このシール機構6においては、移動部材62を回転させてX軸正方向へ移動させることにより、支持部材61と環状部材63とによってシール部材60が軟X線管3の真空容器30に押し付けられる。これにより、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止される。
【0042】
再び図1を参照する。ドリフト管10の内部は空洞になっており、ドリフト室11を構成している。ドリフト室11は、所定の軸方向(X軸方向)に延びており、その一端側がイオン化室20に連通し、イオン化室20内でイオン化された試料分子がその長手方向に移動する領域である。ドリフト管10は、複数のリング状の電極12と、複数のリング状の電気絶縁体13とを含んでおり、電極12と電気絶縁体13とが交互に積層された構成となっている。即ち、隣り合う電極12の間に電気絶縁体13が配置され、電極12同士は電気絶縁体13により電気的に絶縁された状態にある。複数の電極12は、イオン化された試料分子を移動させるための電界をドリフト室11内に形成する。
【0043】
ドリフト管10の一端側には、ゲートシャッターとしてのゲート電極14が設けられている。ゲート電極14としては、例えばブラッドバリー−ニールセン・シャッター(Bradbury-Nielsen shutter)を用いることができる。ゲート電極14は、印加される電位が変化することにより試料分子イオンを通過させるものであり、一対の電極を含んでいる。そして、この一対の電極間の電位差が0になると、試料分子イオンの通過が許容される。また、当該電位差が0より大きい所定の値になると、試料分子イオンの通過が禁止される。従って、ゲート電極14にパルス状の信号を供給し、所定の時間、一対の電極間の電位差を0とすることにより、当該所定の時間だけ試料分子イオンがゲート電極14を通過することとなる。
【0044】
ドリフト管10の他端側には、導電性の基板15が設けられている。基板15には、試料分子イオンを収集するための集電極16と、ドリフトガスをドリフト室11内に導入するドリフトガス導入管17とが配置されている。
【0045】
ゲート電極14、複数の電極12、並びに集電極16には、イオン化装置2の電極4に続いて電位が次第に高くなる(または次第に低くなる)ように電位勾配が与えられる。図1では、ゲート電極14、複数の電極12、並びに集電極16は、ブリーダ回路基板18上の分圧抵抗により、この順で電気的に接続されている。これにより、イオン化室20からドリフト室11にわたって電界が形成される。この電界により、試料分子イオンは、イオン化室20からドリフト室11へ移動し、ドリフト室11内を集電極16へ向けて移動する。
【0046】
保温容器8は、イオン化室20及びドリフト室11を高温に保持するための容器である。保温容器8は、その壁材に断熱部材9を有し、イオン化装置2の本体部21、及びドリフト管10を収容している。軟X線管3は、保温容器8に設けられた開口部に挿通されており、電子源31は保温容器8の外部に位置している。保温容器8の内部には、図示しない熱源が設けられる。
【0047】
次に、本発明によるイオン移動度計測方法の一実施形態について、上記したイオン移動度計1の動作とともに説明する。
【0048】
図5は、本実施形態のイオン移動度計測方法に関するフローチャートである。まず、ステップS1として、電極4,5に所定の電圧を印加し、電極4と電極5との間に電位差を与える。これにより、所定の軸方向(X軸方向)に沿った電界がイオン化室20の内部に形成される。なお、このとき、イオン化室20の内部において正の試料分子イオンが生成される場合には、電極4の電位が電極5の電位よりも低く設定される。逆に、負の試料分子イオンが生成される場合には、電極4の電位が電極5の電位よりも高く設定される。
【0049】
続くステップS2として、導入口22aからイオン化室20の内部にベースガス(窒素ガス等)を導入し、導入口22bからイオン化室20の内部に試料分子を導入する。そして、ステップS3として、軟X線管3からベースガスに軟X線を照射し、ベースガスイオンを生成する。このベースガスイオンが上記電界に従ってX軸正方向へ移動すると、ベースガスイオンは導入口22bから導入された試料分子と混ざり合う。そして、ステップS4として、ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応(プロトン転移、イオン付加、或いは電荷転移等)や電子付加などにより、試料分子イオンを生成する。このときの反応は、真空紫外光(VUV)により試料分子が直接的にイオン化される光イオン化とは異なる。また、イオン化効率を高める目的で、イオン化され易いドーバントガスをベースガスに含ませてもよい。また、試料分子は、気体の他、ナノパーティクルやPM等の微粉末固体であってもよい。
【0050】
試料分子イオンは、電極4,5によって形成された電界によって加速され、排出口23に設けられた電極4のメッシュ部42の開口41を通過して、ドリフト室11へ向けて放出される。このとき、試料分子イオンと共に、ベースガスイオンの余剰分や残余ガス等もドリフト室11側へ向けて放出される。ベースガスイオンの余剰分や残余ガス等は導入口17より導入されるドリフトガスと衝突し、排出口11aより系外に排出される。この排出口11aはイオン化室20の所定の軸方向からみて内周上に90°間隔で形成されている。また、ガスの排気を保温容器8内へ行うのではなく、排出口11aを図示しないパイプに連結し、ガスを保温容器8外に放出してもよい。なお、排出口11aは複数形成に限らず、単一の排出口で形成されてもよく、その形状もパイプの連結等に好ましい丸孔形状でも良い。試料分子イオンをドリフト室11へ向けて放出する際の推進力としては、メッシュ部42前後の電界を利用してもよく、或いは、イオン化室20に供給される不活性ガスの流れを利用してもよい。また、排出口23は、本実施形態とは異なる位置及び角度で設けられても良い。なお、正イオンが生成される場合、イオン化により生じた電子は電極5に捕集される。
【0051】
続くステップS5として、イオン化室20から放出された試料分子イオンを、ゲート電極14にパルス状の電圧を印加して電位を変化させることで、ドリフト室11内に導入する。ドリフト室11に導入されたパルス状のイオン群は、ドリフトガス導入管17より導入されたドリフトガスの分子の影響を受けることで時間的遅れを持って移動し、ドリフト室11内に形成されたほぼ均一の電界に沿って集電極16に到達する。集電極16に到達したイオン群は、パルス状の電気信号として出力される。ステップS6では、この電気信号の信号波形を取得する。この信号波形は、ゲート電極14から集電極16までの到達時間(飛行時間)と、集電極16に到達したイオンの量との相関を表す。
【0052】
続くステップS7では、集電極16から得られた電気信号波形において、ベースガスイオンに基づく信号波形が、試料分子イオンに基づく信号波形を認識可能な程度に十分に小さいか否かを検討する。ここで、図6(a)〜(c)は、ベースガスイオン及び試料分子イオンに基づく各信号波形の典型例を示すグラフである。なお、図6(a)〜(c)において、縦軸は集電極16から得られる信号量(電圧など)を示しており、横軸は到達時間(飛行時間)を示している。また、図6(a)〜(c)において、グラフG1はベースガスイオンに基づく信号波形を示しており、グラフG2は試料分子イオンに基づく信号波形を示している。
【0053】
図6(a)〜(c)に示すように、各イオンに基づく信号波形は、空間電荷効果や拡散効果によって半値幅が拡がり、低電圧部で裾を引いたような形状を呈している。イオン化室20に導入された試料分子の量と比較してベースガスイオンが過剰に生成されてしまうと、図6(a)に示すように、ベースガスイオンの信号波形G1の裾部に試料分子イオンの信号波形G2が隠れてしまい、信号波形G2を認識することが困難となる。このような現象は、ベースガスイオン及び試料分子イオンそれぞれの移動度(すなわち到達時間)が互いに近い場合に特に顕著となる。
【0054】
従って、ベースガスイオンの信号波形が過大であるため試料分子イオンの信号波形を認識することが困難である場合には、ステップS8として、例えば電子源31の電子線量や加速電圧を調整することにより、軟X線の強度(照射量)を調整する。すなわち、軟X線管3からの軟X線の強度(照射量)を低下させることによってベースガスイオンの生成量を減少させる。これにより、ベースガスイオンによる空間電荷効果等が低減され、信号波形G1の半値幅が改善される。また、イオン化室20から放出されるベースガスイオンの余剰分も減少する。従って、図6(b)に示すように、試料分子イオンの信号波形G2を容易に識別できるようになる。但し、試料分子イオンの生成量も低下するので、信号波形に対する増幅率を大きくする必要がある。
【0055】
また、軟X線管3からの軟X線の強度(照射量)を更に低下させると、ベースガスイオンの生成量が更に減少し、殆どのベースガスイオンが試料分子と反応する。このため、ベースガスイオンは殆ど残らず、図6(c)に示すように、試料分子イオンの信号波形G2のみが明確に現れることとなる。但し、この場合においても、試料分子イオンの生成量が更に低下するので、信号波形に対する増幅率を更に大きくする必要がある。
【0056】
ステップS8では、上記のような軟X線強度の調整によって、イオン化室20におけるベースガスイオンの生成量を試料分子イオンの生成量に近づけることにより、イオン分子反応に供されるベースガスイオンの比率を高め、試料分子イオンの信号波形G2を明確化する。
【0057】
ステップS8において軟X線強度を調整した後、再びステップS2〜S6を繰り返す。そして、ステップS7において、ベースガスイオンに基づく信号波形が、試料分子イオンに基づく信号波形を認識可能な程度に十分に小さいと判定されると、続くステップS9では、集電極16から得られた電気信号波形に基づいて、ゲート電極14から集電極16までの到達時間(飛行時間)、集電極16に到達した試料分子イオンの量などの情報を取得する。そして、到達時間からイオン移動度を求め、試料分子を同定する。また、電気信号の応答波形の積分値もしくはピーク値から、試料分子を定量する。
【0058】
以上に説明した本実施形態のイオン移動度計1及びイオン移動度計測方法による効果について説明する。本実施形態のイオン移動度計1及びイオン移動度計測方法においては、軟X線を用いてベースガスイオンが生成され、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンが生成される。従って、放射性同位元素から放射される放射線やコロナ放電を利用した従来のイオン化装置に対し、次の利点を有する。すなわち、軟X線を利用してイオン化を行うことにより、放射性同位元素を利用する場合と比較して安全性が高く、管理者の設置や使用空間の限定等が必要なく扱いやすい。また、コロナ放電を利用する場合と比較して、装置の汚染、試料の分解、及びイオン化室内の電界への影響などを好適に抑制でき、試料分子を効率よくイオン化できる。
【0059】
また、コロナ放電を利用する方式では、放電用電極の電圧が極めて高いので、それによる電界がイオン化反応空間内に形成されてしまい、イオンの挙動がその電界に影響され、イオンの流れを制御することが難しい。なお、この電界による影響を防ぐため、ある程度隔離された別の空間においてコロナ放電によりベースガスイオンを生成し、このベースガスイオンをイオン化室へ送り込む方法もある。しかし、この場合、イオン化室においてベースガスイオンを速やかに拡散させなければ、イオン化室内で均一に且つ速やかに試料分子をイオン化することは難しく、イオン化効率も低下してしまう。
【0060】
これに対し、軟X線を用いる本実施形態のイオン移動度計1によれば、イオン化室20に形成される電界(イオンと電子とを分離するための電界)を低くでき、また、電界が形成されていなくとも動作できる。また、軟X線の放射範囲は広いので、広範囲にわたってベースガスを効率よく電離させることができる。従って、イオン化室20において速やかに均一な反応が可能となり、イオン化効率を向上できる。
【0061】
また、本実施形態のイオン移動度計1においては、軟X線管3が、軟X線の照射量を増減可能に構成されている。これにより、上記イオン移動度計測方法において説明したような軟X線強度の調整が可能となる。そして、本実施形態のイオン移動度計1及びイオン移動度計測方法によれば、軟X線の照射量を増減することにより、イオン化されるべき試料分子の量とベースガスイオンの生成量とのバランスを容易に調整できるので、図6(b)及び(c)に示したように、試料分子イオンに起因する出力信号波形G2を適切に取得し、試料分子イオンの移動度を精度よく計測することができる。
【0062】
また、本実施形態のように、ターゲット電極32bと電極5とは互いに短絡されていることが好ましい。これにより、正の試料分子イオンを生成する際に、ターゲット電極32bの電位を電極5と同じ正電位(例えば+3kV)に設定できるので、このターゲット電極32bの電位の分だけフィラメント31aの電位を高く(例えば、接地電位に対して−3kVないし−7kV)できる。これにより、一般的に高圧となる軟X線管3内の電位差を低く抑えることができ、軟X線管3と接する周辺部材との耐圧性能を向上できる。
【0063】
また、本実施形態のイオン移動度計1は保温容器8を備え、電子源31が保温容器8の外部に位置している。イオン移動度計においては、イオン化促進やクラスター化防止、或いは試料分子による汚染防止のため、イオン化室20及びドリフト室11の内部を加熱する場合がある。このような場合、本実施形態のように軟X線管3の電子源31を保温容器8の外部に配置することが好ましい。電子源31がフィラメントを含む場合には、フィラメントを保温容器8の外部に配置することで熱による消耗や断線を抑制でき、軟X線管3の寿命を長くできる。また、フィラメント以外の電子源を使用する場合においても、その動作に適した温度環境下に電子源を配置できる。
【0064】
また、本実施形態のように、イオン化装置2は、ベースガスを導入する導入口22aと、試料分子を導入する導入口22bとを有し、導入口22bが、導入口22aに対して排出口23寄りに設けられていることが好ましい。これにより、ベースガスを先にイオン化し、その下流で試料分子とベースガスイオンとを反応させることができるので、試料分子をより効率よくイオン化できる。
【0065】
(変形例)
次に、上記実施形態によるイオン移動度計1の様々な変形例について説明する。
【0066】
図7は、上記実施形態の第1変形例に係るイオン化装置2aの構成を示す断面図である。イオン化装置2aのシール機構6aは、上記実施形態のシール部材60(図2参照)に代えてシール部材64を有する。シール部材64は、軟X線管3の周囲に設けられイオン化室20を気密に保つための部材である。本変形例のシール部材64は、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含んで構成されており、軟X線管3の真空容器30に巻きつけられている。そして、シール部材64は、支持部材61と環状部材63とによって両側から締め付けられることにより、真空容器30に押し付けられる。これにより、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止される。
【0067】
図8は、上記実施形態の第2変形例に係るイオン化装置2bの構成の要部を示す断面図である。イオン化装置2bは、上記実施形態のシール機構6(図2参照)に代えてシール機構6bを備える。シール機構6bは、シール部材65を有する。本変形例のシール部材65は、図7に示したシール部材64と同様、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含んで構成されている。シール部材65は、軟X線管3の真空容器30と絶縁材の軟X線管挿入口24との隙間に配置されている。
【0068】
また、シール機構6bは、本体部21に固定され、軟X線管挿入口24と連通する筒状の部材66と、部材66に内側から螺合してX軸方向に移動可能な筒状の移動部材67と、シール部材65と部材67との間に配置された絶縁材のスペーサ68とを有する。シール部材65は、真空容器30のフランジ部分とスペーサ68とに挟まれており、スペーサ68によって締め付けられ、真空容器30に押し付けられる。これにより、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止される。
【0069】
図9は、上記実施形態の第3変形例に係るイオン化装置2cの構成の要部を示す断面図である。イオン化装置2cは、上記実施形態のシール機構6(図2参照)に代えてシール機構6cを備える。シール機構6cは、シール部材69を有する。本変形例のシール部材69は、金属または炭素系材料を含む環状の部材、例えばポリイミドのような耐熱性高分子の表面に導電体を形成したり、もしくは内部にカーボンやCNT等を混合した材料からなる環状の部材であり、軟X線管3のターゲット電極32bのフランジ部分とイオン化室20の壁部との間に配置されている。
【0070】
また、シール機構6cは、上記したシール機構6b(図8参照)と同様に、部材66、移動部材67、及びスペーサ68を有する。そして、スペーサ68によって真空容器30のフランジ部分が押さえ付けられることにより、シール部材69が潰され、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止されるとともに、ターゲット電極32bと電極5とがシール部材69を介して短絡される。
【0071】
第1、第2変形例(図7、図8)に示したように、シール部材は、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含んで構成されてもよい。或いは、第3変形例(図9)に示したように、シール部材は、金属または炭素系材料を含む部材であってもよい。これらのいずれかによって、例えば300℃前後といった高温環境下においても、シール部材からのガス放出を極めて少なくでき、シール部材の熱分解も生じないので、イオン化室20の気密状態を好適に維持できる。また、軟X線管3も容易に交換可能となる。
【0072】
図10は、上記実施形態の第4変形例に係るイオン化装置2dの構成を示す断面図である。イオン化装置2dが備える軟X線管3aは、上記実施形態の電子源31に代えて、電子源34を有する。電子源34は、真空容器30の長手方向の一端側(イオン化室20から離れた側)に配置されており、冷陰極34aと、電子を収束し加速するための図示しない電極とを含んで構成される。
【0073】
このように、電子源として冷陰極34aを用いることにより、電子源としてフィラメント31a(図2参照)を用いる場合と比較して電子源の温度上昇を低く抑えることができるので、イオン化室20内部の温度上昇を防ぎ、イオン化反応を安定して発生させることができる。また、イオン化室20に続くドリフト室11(図1参照)の温度上昇を抑え、計測精度を高めることができる。
【0074】
図11は、上記実施形態の第5変形例に係るイオン化装置2eの構成を示す断面図である。イオン化装置2eが備える軟X線管3bは、上記実施形態の軟X線管3の構成に加え、更に偏向部35を有する。偏向部35は、電子源31から出射された電子を走査するための走査用電極であり、軟X線出射軸線Aに沿って真空容器30の内部に設けられる。ターゲット部32へ向けて出射される電子を偏向部35が走査することにより、ターゲット部32において極めて短い時間幅の(時間的パルス状の)軟X線が生成される。従って、イオン化室20において時間的パルス状の試料分子イオンが容易に得られる。これにより、試料分子イオンを時間的パルス状に出射するためのゲートシャッタ(図1に示したゲート電極14など)が不要になり、イオン移動度計の構造を簡素化できる。なお、電子源31に加速電圧をパルス状に印加することによっても、パルス状の軟X線を得ることができる。
【0075】
図12は、上記実施形態の第6変形例に係るイオン化装置2fの構成を示す断面図である。この変形例に係るイオン化装置2fは、軟X線管3及び電極5の表面を除くイオン化室20の内面が全て絶縁性部材からなっている。具体的には、イオン化装置2fは、中間電極75〜77を備えている。本変形例の中間電極75〜77は、そのイオン化室20側の端部75a〜77aが、絶縁性部材からなる本体部21によって完全に覆われている。
【0076】
また、イオン化装置2fは、第1の電極として電極4aを備える。電極4aは、イオン化室20の排出口23に設けられており、試料分子イオンを通過させる開口45を有する。開口45の内面(端面)は、排出口23の中心軸線(イオン化室20の中心軸線A)を基準として排出口23の内面(所定の軸方向(X軸方向)に沿ったイオン化室20の内面)よりも外側に位置している。すなわち、所定の軸方向(X軸方向)から見て開口45は排出口23よりも広く形成されており、排出口23の縁が開口45の内側に位置するようにそれぞれ配置されている。また、電極4aは、メッシュ部を有していない。このため、電極4aは、排出口23を全く覆っていない。
【0077】
この変形例のように、中間電極75〜77の端部75a〜77aが絶縁性部材(本体部21)に覆われ、開口45の内面が排出口23の内面よりも外側に位置することにより、中間電極75〜77や電極4aには軟X線が殆ど照射されないので、二次電子の発生を効果的に抑制できる。このように、軟X線管3及び電極5の表面を除くイオン化室20の内面を全て絶縁性部材とすれば、イオン化室20において軟X線の照射により二次電子が放出されることを効果的に抑制できるので、正の試料分子イオンを発生させる場合に、試料分子イオンの中性分子化(中和)を低減し、イオン密度を更に高めることができる。
【0078】
なお、電極4aの開口45は、その内面(端面)が排出口23の内面と連続していてもよい。具体的には、所定の軸方向(X軸方向)から見て開口45が排出口23と同じ形状に形成されており、互いの縁が重なるようにそれぞれ配置されていてもよい。このような構成によっても、二次電子の放出を効果的に抑制できる。
【0079】
本発明によるイオン移動度計及びイオン移動度計測方法は、上記した各実施形態及び変形例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態において、軟X線管3の軟X線出射軸方向はイオン化室20の所定の軸方向と一致しているが、図13のように軟X線源の軟X線出射軸方向はイオン化室の所定の軸方向に対して交差してもよい。また、軟X線出射軸方向がイオン化室20の所定の軸方向と交差した軟X線源と、軟X線出射軸方向がイオン化室の所定の軸方向に対して一致する軟X線源の両者を備えていてもよい。また、導入口22a,22bの中心軸方向についても同様に、所定の軸方向と交差する形態に限られるものではなく、所定の軸方向と一致してもよい。
【0080】
また、上記実施形態において、ベースガス及び試料分子はそれぞれ別の導入口22a,22bから導入されているが、ベースガス及び試料分子は図13のように一つの導入口から共に導入されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態として、イオン移動度計の構成を示す断面図である。
【図2】イオン移動度計が備えるイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図3】軟X線の照射量を増減可能とする構成の例を示す図である。
【図4】軟X線の照射量を増減可能とする構成の他の例を示す図である。
【図5】イオン移動度計測方法に関するフローチャートである。
【図6】(a)〜(c)ベースガスイオン及び試料分子イオンに基づく各信号波形の典型例を示すグラフである。
【図7】第1変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図8】第2変形例に係るイオン化装置の構成の要部を示す断面図である。
【図9】第3変形例に係るイオン化装置の構成の要部を示す断面図である。
【図10】第4変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図11】第5変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図12】第6変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図13】本発明の他の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1…イオン移動度計、2,2a〜2f…イオン化装置、3,3a,3b…軟X線管、4,5…電極、6,6a〜6c…シール機構、8…保温容器、9…断熱部材、10…ドリフト管、11…ドリフト室、12…電極、13…電気絶縁体、14…ゲート電極、15…基板、16…集電極、17…ドリフトガス導入管、18…ブリーダ回路基板、20…イオン化室、21…本体部、22a,22b…導入口、23…排出口、30…真空容器、31,34…電子源、32…ターゲット部、35…偏向部、60…シール部材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン移動度計およびイオン移動度計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気圧環境下で用いられるイオン移動度計は、試料分子をイオン化するため、一般的に、例えば放射性同位元素から放射される放射線を利用したイオン化装置や、コロナ放電を利用したイオン化装置などを備えている。また、特許文献1には、軟X線を用いて試料分子をイオン化する装置が開示されている。
【特許文献1】特開2001−68053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、放射線を利用するイオン化装置は、安全性が低いため、使用条件の規制や厳しい管理条件が存在する。また、コロナ放電を利用するイオン化装置は、放電の際の電極欠損に伴う汚染やイオン化効率の劣化、或いは試料の分解といった問題を有する。しかも、針状の電極の電圧が高く筐体との電位差が大きい上に、その構造から局部的に強い電界が形成される為、イオン化室内に形成されたイオンの挙動がその電界に影響され、制御がし難い。また、イオン化できる領域が電極の先端付近に限られており、効率よく試料をイオン化することが難しい。
【0004】
なお、特許文献1には、ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応による試料分子イオンの生成に関しては記載されていない。
【0005】
本発明は、上記した問題点を鑑みてなされたものであり、軟X線を用いてベースガスイオンを生成し、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンを生成することによって、安全性が高く、装置の汚染、試料の分解などを抑制でき、試料分子を効率よくイオン化し、制御できるイオン移動度計およびイオン移動度計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、本発明によるイオン移動度計は、試料分子をイオン化するイオン化装置と、イオン化された試料分子の移動度を計測するドリフト室とを備え、イオン化装置が、ベースガスをイオン化するとともに該ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を促すイオン化室、ベースガス及び試料分子をイオン化室内に導入する一または複数の導入口、及び、イオン化された試料分子をドリフト室へ排出する排出口を有する本体部と、電子源、及び該電子源からの電子線を受けて軟X線を発生するターゲット部を含み、イオン化室内へ軟X線を照射する軟X線源とを有し、軟X線源が、軟X線の照射量を増減可能に構成されていることを特徴とする。
【0007】
上記したイオン移動度計では、イオン化装置において、次の動作が行われる。すなわち、導入口からイオン化室内に試料分子が導入され、同じ導入口または異なる導入口からベースガス(窒素ガス等)が導入される。ベースガスに軟X線が照射されるとベースガスがイオン化され、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応(プロトン転移、イオン付加、或いは電荷転移等)により、試料分子がイオン化される。こうして生成された試料分子イオンは、排出口からドリフト室へ排出される。
【0008】
上記したイオン移動度計では、上述したように軟X線を用いてベースガスイオンが生成され、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンが生成される。これにより、放射線を利用する場合と比較して安全性が高く、また、コロナ放電を利用する場合と比較して、装置の汚染、及び試料の分解などを好適に抑制でき、かつイオン化室内でのイオンの制御や反応を好適に行える為、試料分子を効率よくイオン化できるイオン移動度計を提供できる。
【0009】
また、上記したイオン移動度計では、軟X線源が、軟X線の照射量を増減可能に構成されている。ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を利用したイオン移動度計においては、ベースガスイオンが試料分子に対して過剰に生成されてしまうと、試料分子イオンに起因する出力信号波形が、ベースガスイオンに起因する出力信号波形に隠れてしまい、試料分子イオンの移動度を精度よく計測することが難しくなる。なお、この問題は、ベースガスイオンの移動度と試料分子イオンの移動度とが互いに近い場合に特に顕著となる。上記したイオン移動度計によれば、軟X線の照射量を増減することにより、イオン化されるべき試料分子の量とベースガスイオンの生成量とのバランスを容易に調整できるので、試料分子イオンに起因する出力信号波形を適切に取得し、試料分子イオンの移動度を精度よく計測することができる。
【0010】
また、イオン移動度計は、軟X線源において、電子源から出射される電子線量が可変であることを特徴としてもよい。或いは、イオン移動度計は、軟X線源において、電子源からターゲット部への電子線の加速電圧が可変であることを特徴としてもよい。これらのうち少なくとも一方によって、軟X線の照射量が増減可能な軟X線源を好適に構成できる。
【0011】
また、イオン移動度計は、イオン化装置が、イオン化された試料分子を通過させる開口を有し、排出口に設けられた第1の電極と、試料分子イオンを排出するための電界を第1の電極との間に形成する第2の電極とを有し、ターゲット部に設けられた電極と第2の電極とが互いに短絡されていることを特徴としてもよい。これにより、正の試料分子イオンを生成する際に、ターゲット電極の電位を第2の電極と同じ正電位(例えば、接地電位に対して+3kV)に設定できるので、このターゲット電極の電位の分だけ電子源の電位を高く(例えば、接地電位に対して−3kVないし−7kV)できる。従って、一般的に高圧となる軟X線源内の電位差を低く抑えることができ、軟X線源と近接する周辺部材との耐圧性能を向上できる。
【0012】
また、イオン移動度計は、イオン化装置が、イオン化された試料分子を通過させる開口を有し、排出口に設けられた第1の電極と、試料分子イオンを排出するための電界を第1の電極との間に形成する第2の電極と、ターゲット部に設けられた電極及び前記第2の電極の電位を制御する制御部とを有することを特徴としても良い。これにより、イオン化室内に所望の電界を形成することができる。また、さらに制御部は、ターゲット部に設けられた電極と第2の電極とを同電位に制御してもよく、これにより、正の試料分子イオンを生成する際に、ターゲット電極の電位を第2の電極と同じ正電位(例えば、接地電位に対して+3kV)に設定できるので、このターゲット電極の電位の分だけ電子源の電位を高く(例えば、接地電位に対して−3kVないし−7kV)できる。従って、一般的に高圧となる軟X線源内の電位差を低く抑えることができ、軟X線源と近接する周辺部材との耐圧性能を向上できる。
【0013】
また、イオン移動度計は、軟X線源及び第2の電極それぞれの表面を除くイオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴としてもよい。これにより、イオン化室内において軟X線の照射により二次電子が放出されることを効果的に抑制できるので、正の試料分子イオンを発生させる場合に、試料分子イオンの中性分子化(中和)を抑え、試料分子イオンのイオン密度を更に高めることができる。この場合、イオン移動度計は、第1の電極と第2の電極との間に中間電極を更に備え、中間電極のイオン化室側の端部が絶縁性部材に覆われていてもよい。これにより、第1の電極と第2の電極との間の電界をより効果的に形成できるとともに、中間電極からの二次電子の放出を効果的に抑制できる。また、第1の電極の開口の内面が、イオン化室の排出口の内面と連続しているか、或いは、排出口の中心軸を基準として排出口の内面よりも外側に位置してもよい。これにより、第1の電極からの二次電子の放出を効果的に抑制できる。
【0014】
また、イオン移動度計は、第1の電極と第2の電極との間に中間電極を更に備え、軟X線源、第2の電極、及びイオン化室の内面から突出している中間電極のイオン化室側の端部のそれぞれの表面を除くイオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴としてもよい。これにより、中間電極に軟X線が照射されて二次電子が多く放出されるので、負の試料分子イオンを発生させる場合にイオンの生成を助け、イオン密度を高めることができる。
【0015】
また、イオン移動度計は、イオン化室を気密に保つシール部材を更に備え、シール部材が、軟X線源の周囲に設けられ、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含むことを特徴としてもよい。或いは、シール部材が、X線源とイオン化室との間に設けられた金属または炭素系材料を含む環状部材であることを特徴としてもよい。これにより、例えば300℃前後といった高温環境下においても、シール部材からのガス放出が極めて少なく、シール部材の熱分解も生じないので、イオン化室の気密状態を好適に維持できる。
【0016】
また、イオン移動度計は、本体部を収容して高温に保持する保温容器を更に備え、電子源が保温容器の外部に位置することを特徴としてもよい。イオン移動度計においては、イオン化促進やクラスター化防止、或いは試料による汚染防止のため、イオン化室及びドリフト室を加熱する場合がある。このような場合、軟X線源の電子源を保温容器の外部に配置することにより、次の効果が得られる。例えば、電子源がフィラメントである場合には、フィラメントを保温容器の外部に配置することで熱による消耗や断線を抑制でき、軟X線源の寿命を長くできる。また、フィラメント以外の電子源を使用する場合においても、その動作に適した温度環境下に電子源を配置できる。
【0017】
また、イオン移動度計は、電子源が冷陰極を含むことを特徴としてもよい。これにより、電子源としてフィラメントを用いる場合と比較して電子源の温度上昇を低く抑えることができるので、イオン化室内の温度上昇を防ぎ、イオン化反応を安定して発生させることができる。また、イオン化室に続くドリフト室の温度上昇を抑え、計測精度を高めることができる。
【0018】
また、イオン移動度計は、軟X線源が、電子源から出射された電子線を偏向させる偏向部を更に含むことを特徴としてもよい。この偏向部を用いて電子線を走査することにより、ターゲット部において極めて短い時間幅の(時間的パルス状の)軟X線を生成できるので、時間的にパルス状となった試料分子イオンが容易に得られる。これにより、試料分子イオンを時間的パルス状に出射するためのゲートシャッタが不要になり、構造を簡素化できる。
【0019】
また、イオン移動度計は、本体部が、ベースガスをイオン化室内に導入する第1の導入口、及び試料分子をイオン化室内に導入する第2の導入口を有し、第2の導入口が、第1の導入口に対して排出口寄りに設けられていることを特徴としてもよい。第1の導入口から導入されたベースガスは、イオン化された後、排出口へ向けて移動する。このイオン移動度計では、第2の導入口が第1の導入口に対して排出口寄りに設けられているので、ベースガスを先にイオン化し、その下流で試料分子とベースガスイオンとを反応させることができ、試料分子をより効率よくイオン化できる。
【0020】
また、本発明によるイオン移動度計測方法は、イオン化室内に試料分子及びベースガスを導入し、ベースガスに軟X線を照射してベースガスイオンを生成し、ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンを生成し、試料分子イオンの移動度を計測する方法において、軟X線の強度を調整することにより、イオン化室内におけるベースガスイオンの生成量を試料分子イオンの生成量に近づけることを特徴とする。
【0021】
上記したイオン移動度計測方法では、軟X線を用いてベースガスイオンが生成され、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンが生成される。これにより、放射線を利用する場合と比較して安全性が高く、また、コロナ放電を利用する場合と比較して、装置の汚染、試料の分解、及びドリフト室等の電界への影響などを好適に抑制でき、試料分子を効率よくイオン化できるイオン移動度計測方法を提供できる。
【0022】
また、上記したイオン移動度計測方法では、軟X線の強度を調整することにより、イオン化室内におけるベースガスイオンの生成量を試料分子イオンの生成量に近づける。これにより、イオン化されるべき試料分子の量とベースガスイオンの生成量とのバランスを調整し、試料分子イオンに起因する出力信号波形を適切に取得し、試料分子イオンの移動度を精度よく計測することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるイオン移動度計およびイオン移動度計測方法によれば、軟X線を用いてベースガスイオンを生成し、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンを生成することによって、安全性が高く、装置の汚染、及び試料の分解などを抑制でき、かつイオン化室内でのイオンの制御や反応を好適に行える為、試料分子を効率よくイオン化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるイオン移動度計およびイオン移動度計測方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態として、イオン移動度計(IMS:Ion Mobility Spectrometer)1の構成を示す断面図である。なお、図1には、説明のためXYZ直交座標系が示されている。イオン移動度計1は、気体成分などの試料分子をイオン化した後、その試料分子イオンを電場のかかった気体中で飛行させ、その移動速度の違いにより試料分子イオンを計測するための装置である。
【0026】
図1を参照すると、本実施形態のイオン移動度計1は、イオン化装置2、保温容器8、及びドリフト管10を備える。イオン化装置2は、イオン化室20に導入された窒素等のベースガスに軟X線を照射してベースガスイオンを生成し、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応(プロトン転移、イオン付加、或いは電荷転移等)により試料分子イオンを生成する装置である。
【0027】
図2は、イオン化装置2の構成を示す断面図である。イオン化装置2は、イオン化室20を有する本体部21と、軟X線管3と、電極4及び5と、シール機構6とを備える。
【0028】
イオン化室20は、ベースガスをイオン化するとともにベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を促すための空間であり、ほぼ大気圧に保たれている。イオン化室20は、一端に開口21aを有し、他端に開口21bを有する筒状の本体部21内に形成されており、所定の軸方向(本実施形態ではX軸方向)に延びている。なお、本実施形態においては、本体部21として、YZ平面における外周断面形状が円形であり、内周断面形状が矩形や円形である筒状部材を用いている。本体部21は、電気絶縁性材料からなる。
【0029】
本体部21には、導入口22a,22b及び排出口23が更に形成されている。導入口22aは、本実施形態における第1の導入口であり、イオン化室20の内部にベースガスを導入するための開口である。また、導入口22bは、本実施形態における第2の導入口であり、イオン化室20の内部に試料分子を導入するための開口である。導入口22a及び22bは、所定の軸方向(X軸方向)に並んで形成されており、導入口22bが、導入口22aに対して排出口23寄りに設けられている。また、導入口22a及び22bの中心軸方向は、所定の軸方向(X軸方向)と交差する方向(本実施形態ではY軸方向)に設定されている。
【0030】
排出口23は、イオン化室20において生成された試料分子イオンを排出するための開口である。排出口23は、本体部21において、所定の軸方向(X軸方向)におけるイオン化室20の一端に形成されており、本実施形態では、開口21aが排出口23となっている。イオン化室20は、排出口23を通してドリフト室11(図1参照)と連通している。
【0031】
軟X線管3は、イオン化室20の内部へ軟X線を照射するための軟X線源であり、軟X線の照射量を増減可能に構成されている。本実施形態の軟X線管3は、本体部21においてイオン化室20の他端側の開口21bと連通する軟X線管挿入口24に取り付けられ、その軟X線出射軸線がイオン化室20の中心軸線Aと同軸となるように本体部21に固定されている。軟X線管3は、真空容器30、電子源31、及びターゲット部32を有する。
【0032】
真空容器30は、電子源31及びターゲット部32を収容するための容器である。本実施形態の真空容器30は、軟X線出射軸方向(X軸方向)を長手方向とする筒状を呈しており、気密に封止され内部を真空状態に保っている。
【0033】
電子源31は、熱電子や光電子といった電子を放出するための部分である。電子源31は、真空容器30の長手方向の一端側(イオン化室20から離れた側)に配置されている。本実施形態の電子源31は、フィラメント31aと、電子を収束し加速するための図示しない電極とを含んで構成される。なお、電子源31は、フィラメント31aに代えて例えば冷陰極等を備えても良い。
【0034】
また、軟X線管3は、次のような構成を有することによって、軟X線の照射量を増減可能となっている。例えば、電子源31から放出される電子線量が可変となっている。このような構成を実現するための例としては、例えば図3のように、フィラメント31a用の電源81を接続し、フィラメント31aに供給する電圧を可変したり、逆に電圧を固定し電流値を可変する事で電子線量を可変できる。また、軟X線管3では、電子源31から電子線が出射される際の加速電圧が可変となっている。このような構成を実現するための例としては、例えば図3のように、電源81に加え、フィラメント31aからの電子をターゲット部32に加速するための電源82を接続し、電源82の電圧を可変すれば良い。更に電圧の可変幅を広げたい場合は、図4に示すように、ブリーダ回路基板18に電圧を供給するための電源83を更に接続してもよい。
【0035】
ターゲット部32は、電子源31からの電子を受けて軟X線を発生するための部分である。ターゲット部32は、真空容器30の長手方向の他端側(イオン化室20に近い側)に配置されている。ターゲット部32は、電子の衝突により軟X線を放出するタングステン等からなるターゲット32aと、該ターゲット32aに電位を与えるターゲット電極32bとを含む。ターゲット電極32bは、ターゲット32aの外周を囲むフランジ状に形成されており、真空容器30の他端に封着されて固定されている。
【0036】
また、軟X線管3は、図示しない窓材を更に有する。この窓材は、ターゲット部32から放出された軟X線を透過して真空容器30の外部(すなわちイオン化室20の内部)へ出射するための部材である。窓材は、例えばアルミニウム、チタン、ベリリウム、シリコン、または窒化シリコン等の軟X線を透過する材料からなる。特に、窓材がシリコン及び窒化シリコンのうち少なくとも一方を含むことにより、通常の軟X線管と比較して更に小さなエネルギーSiの示性X線も多く放射できる。窓材には、窓用電極(ターゲット電極32bが兼ねてもよい)により所定の電位が与えられる。なお、窓用電極がターゲット電極32bとは別に設けられる場合には、窓用電極とターゲット電極32bとを短絡し、同電位とするとよい。
【0037】
電極4は、本実施形態における第1の電極である。電極4は、所定の軸方向(X軸方向)におけるイオン化室20の一端側に設けられている。電極4は、イオン化室20の排出口23(開口21a)を覆うように設けられており、イオン化された試料分子を通過させる開口41を有する。本実施形態の電極4は、網状(メッシュ状)に形成されたメッシュ部42を有しており、該メッシュ部42に形成された多数の隙間が、開口41を構成している。
【0038】
電極5は、本実施形態における第2の電極である。電極5は、所定の軸方向(X軸方向)におけるイオン化室20の他端側に設けられており、終端電極として機能する。電極5は、イオン化室20の開口21b(軟X線入射口)に設けられており、軟X線を通過させる開口51を有する。電極5は、電極4と協働して、試料分子イオンを排出するための電界をイオン化室20内に形成する。また、電極5は、軟X線管3のターゲット電極32bと接している。これにより、ターゲット電極32bと電極5とが互いに短絡し、同電位となっている。なお、電極5とターゲット電極32bとの短絡は、互いに直に接する以外にも、例えば導電性の配線やばね材などを介して実現されてもよい。
【0039】
また、本実施形態のイオン化装置2は、電極4及び5に加え、更に中間電極71〜73を有する。中間電極71〜73は、電極4と電極5との間に並んで配置されており、電極4及び5と協働してイオン化室20の内部に電界を形成する。そのため、電極4、71、72、73、5の順に電位が次第に高くなる(または次第に低くなる)ように、各電極に電位勾配が与えられる。例えば、図2では、電極4、71、72、73、及び5は、この順で分圧抵抗(図4参照)により電気的に接続されている。分圧抵抗は、ブリーダ回路基板18上に形成された薄膜状の抵抗体であり、リード端子を介して電極4、71〜73、及び5に電気的に接続される。これにより、イオン化室20の内部に上述したような電界が形成される。この電界により、試料分子イオンは排出口23へ向けて移動する。
【0040】
シール機構6は、軟X線管3の周囲に設けられ、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間を封止することにより、イオン化室20を気密に保つための機構である。シール機構6は、軟X線管3の周囲に設けられイオン化室20を気密に保つシール部材60を有する。シール部材60としては、例えばOリングやガスケットが用いられるが、イオン移動度計1を高温環境下で用いる場合を考慮し、耐熱性が高くガス放出が少ない例えばパーフロロ系のOリングを用いると尚良い。
【0041】
また、シール機構6は、本体部21に固定され、軟X線管挿入口24と連通しており、X軸の正側からシール部材60を支持する筒状の支持部材61と、支持部材61に内側から螺合してX軸方向に移動可能な筒状の移動部材62と、移動部材62及びシール部材60の間に配置され、X軸の負側からシール部材60に当接する環状部材63とを有する。このシール機構6においては、移動部材62を回転させてX軸正方向へ移動させることにより、支持部材61と環状部材63とによってシール部材60が軟X線管3の真空容器30に押し付けられる。これにより、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止される。
【0042】
再び図1を参照する。ドリフト管10の内部は空洞になっており、ドリフト室11を構成している。ドリフト室11は、所定の軸方向(X軸方向)に延びており、その一端側がイオン化室20に連通し、イオン化室20内でイオン化された試料分子がその長手方向に移動する領域である。ドリフト管10は、複数のリング状の電極12と、複数のリング状の電気絶縁体13とを含んでおり、電極12と電気絶縁体13とが交互に積層された構成となっている。即ち、隣り合う電極12の間に電気絶縁体13が配置され、電極12同士は電気絶縁体13により電気的に絶縁された状態にある。複数の電極12は、イオン化された試料分子を移動させるための電界をドリフト室11内に形成する。
【0043】
ドリフト管10の一端側には、ゲートシャッターとしてのゲート電極14が設けられている。ゲート電極14としては、例えばブラッドバリー−ニールセン・シャッター(Bradbury-Nielsen shutter)を用いることができる。ゲート電極14は、印加される電位が変化することにより試料分子イオンを通過させるものであり、一対の電極を含んでいる。そして、この一対の電極間の電位差が0になると、試料分子イオンの通過が許容される。また、当該電位差が0より大きい所定の値になると、試料分子イオンの通過が禁止される。従って、ゲート電極14にパルス状の信号を供給し、所定の時間、一対の電極間の電位差を0とすることにより、当該所定の時間だけ試料分子イオンがゲート電極14を通過することとなる。
【0044】
ドリフト管10の他端側には、導電性の基板15が設けられている。基板15には、試料分子イオンを収集するための集電極16と、ドリフトガスをドリフト室11内に導入するドリフトガス導入管17とが配置されている。
【0045】
ゲート電極14、複数の電極12、並びに集電極16には、イオン化装置2の電極4に続いて電位が次第に高くなる(または次第に低くなる)ように電位勾配が与えられる。図1では、ゲート電極14、複数の電極12、並びに集電極16は、ブリーダ回路基板18上の分圧抵抗により、この順で電気的に接続されている。これにより、イオン化室20からドリフト室11にわたって電界が形成される。この電界により、試料分子イオンは、イオン化室20からドリフト室11へ移動し、ドリフト室11内を集電極16へ向けて移動する。
【0046】
保温容器8は、イオン化室20及びドリフト室11を高温に保持するための容器である。保温容器8は、その壁材に断熱部材9を有し、イオン化装置2の本体部21、及びドリフト管10を収容している。軟X線管3は、保温容器8に設けられた開口部に挿通されており、電子源31は保温容器8の外部に位置している。保温容器8の内部には、図示しない熱源が設けられる。
【0047】
次に、本発明によるイオン移動度計測方法の一実施形態について、上記したイオン移動度計1の動作とともに説明する。
【0048】
図5は、本実施形態のイオン移動度計測方法に関するフローチャートである。まず、ステップS1として、電極4,5に所定の電圧を印加し、電極4と電極5との間に電位差を与える。これにより、所定の軸方向(X軸方向)に沿った電界がイオン化室20の内部に形成される。なお、このとき、イオン化室20の内部において正の試料分子イオンが生成される場合には、電極4の電位が電極5の電位よりも低く設定される。逆に、負の試料分子イオンが生成される場合には、電極4の電位が電極5の電位よりも高く設定される。
【0049】
続くステップS2として、導入口22aからイオン化室20の内部にベースガス(窒素ガス等)を導入し、導入口22bからイオン化室20の内部に試料分子を導入する。そして、ステップS3として、軟X線管3からベースガスに軟X線を照射し、ベースガスイオンを生成する。このベースガスイオンが上記電界に従ってX軸正方向へ移動すると、ベースガスイオンは導入口22bから導入された試料分子と混ざり合う。そして、ステップS4として、ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応(プロトン転移、イオン付加、或いは電荷転移等)や電子付加などにより、試料分子イオンを生成する。このときの反応は、真空紫外光(VUV)により試料分子が直接的にイオン化される光イオン化とは異なる。また、イオン化効率を高める目的で、イオン化され易いドーバントガスをベースガスに含ませてもよい。また、試料分子は、気体の他、ナノパーティクルやPM等の微粉末固体であってもよい。
【0050】
試料分子イオンは、電極4,5によって形成された電界によって加速され、排出口23に設けられた電極4のメッシュ部42の開口41を通過して、ドリフト室11へ向けて放出される。このとき、試料分子イオンと共に、ベースガスイオンの余剰分や残余ガス等もドリフト室11側へ向けて放出される。ベースガスイオンの余剰分や残余ガス等は導入口17より導入されるドリフトガスと衝突し、排出口11aより系外に排出される。この排出口11aはイオン化室20の所定の軸方向からみて内周上に90°間隔で形成されている。また、ガスの排気を保温容器8内へ行うのではなく、排出口11aを図示しないパイプに連結し、ガスを保温容器8外に放出してもよい。なお、排出口11aは複数形成に限らず、単一の排出口で形成されてもよく、その形状もパイプの連結等に好ましい丸孔形状でも良い。試料分子イオンをドリフト室11へ向けて放出する際の推進力としては、メッシュ部42前後の電界を利用してもよく、或いは、イオン化室20に供給される不活性ガスの流れを利用してもよい。また、排出口23は、本実施形態とは異なる位置及び角度で設けられても良い。なお、正イオンが生成される場合、イオン化により生じた電子は電極5に捕集される。
【0051】
続くステップS5として、イオン化室20から放出された試料分子イオンを、ゲート電極14にパルス状の電圧を印加して電位を変化させることで、ドリフト室11内に導入する。ドリフト室11に導入されたパルス状のイオン群は、ドリフトガス導入管17より導入されたドリフトガスの分子の影響を受けることで時間的遅れを持って移動し、ドリフト室11内に形成されたほぼ均一の電界に沿って集電極16に到達する。集電極16に到達したイオン群は、パルス状の電気信号として出力される。ステップS6では、この電気信号の信号波形を取得する。この信号波形は、ゲート電極14から集電極16までの到達時間(飛行時間)と、集電極16に到達したイオンの量との相関を表す。
【0052】
続くステップS7では、集電極16から得られた電気信号波形において、ベースガスイオンに基づく信号波形が、試料分子イオンに基づく信号波形を認識可能な程度に十分に小さいか否かを検討する。ここで、図6(a)〜(c)は、ベースガスイオン及び試料分子イオンに基づく各信号波形の典型例を示すグラフである。なお、図6(a)〜(c)において、縦軸は集電極16から得られる信号量(電圧など)を示しており、横軸は到達時間(飛行時間)を示している。また、図6(a)〜(c)において、グラフG1はベースガスイオンに基づく信号波形を示しており、グラフG2は試料分子イオンに基づく信号波形を示している。
【0053】
図6(a)〜(c)に示すように、各イオンに基づく信号波形は、空間電荷効果や拡散効果によって半値幅が拡がり、低電圧部で裾を引いたような形状を呈している。イオン化室20に導入された試料分子の量と比較してベースガスイオンが過剰に生成されてしまうと、図6(a)に示すように、ベースガスイオンの信号波形G1の裾部に試料分子イオンの信号波形G2が隠れてしまい、信号波形G2を認識することが困難となる。このような現象は、ベースガスイオン及び試料分子イオンそれぞれの移動度(すなわち到達時間)が互いに近い場合に特に顕著となる。
【0054】
従って、ベースガスイオンの信号波形が過大であるため試料分子イオンの信号波形を認識することが困難である場合には、ステップS8として、例えば電子源31の電子線量や加速電圧を調整することにより、軟X線の強度(照射量)を調整する。すなわち、軟X線管3からの軟X線の強度(照射量)を低下させることによってベースガスイオンの生成量を減少させる。これにより、ベースガスイオンによる空間電荷効果等が低減され、信号波形G1の半値幅が改善される。また、イオン化室20から放出されるベースガスイオンの余剰分も減少する。従って、図6(b)に示すように、試料分子イオンの信号波形G2を容易に識別できるようになる。但し、試料分子イオンの生成量も低下するので、信号波形に対する増幅率を大きくする必要がある。
【0055】
また、軟X線管3からの軟X線の強度(照射量)を更に低下させると、ベースガスイオンの生成量が更に減少し、殆どのベースガスイオンが試料分子と反応する。このため、ベースガスイオンは殆ど残らず、図6(c)に示すように、試料分子イオンの信号波形G2のみが明確に現れることとなる。但し、この場合においても、試料分子イオンの生成量が更に低下するので、信号波形に対する増幅率を更に大きくする必要がある。
【0056】
ステップS8では、上記のような軟X線強度の調整によって、イオン化室20におけるベースガスイオンの生成量を試料分子イオンの生成量に近づけることにより、イオン分子反応に供されるベースガスイオンの比率を高め、試料分子イオンの信号波形G2を明確化する。
【0057】
ステップS8において軟X線強度を調整した後、再びステップS2〜S6を繰り返す。そして、ステップS7において、ベースガスイオンに基づく信号波形が、試料分子イオンに基づく信号波形を認識可能な程度に十分に小さいと判定されると、続くステップS9では、集電極16から得られた電気信号波形に基づいて、ゲート電極14から集電極16までの到達時間(飛行時間)、集電極16に到達した試料分子イオンの量などの情報を取得する。そして、到達時間からイオン移動度を求め、試料分子を同定する。また、電気信号の応答波形の積分値もしくはピーク値から、試料分子を定量する。
【0058】
以上に説明した本実施形態のイオン移動度計1及びイオン移動度計測方法による効果について説明する。本実施形態のイオン移動度計1及びイオン移動度計測方法においては、軟X線を用いてベースガスイオンが生成され、このベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンが生成される。従って、放射性同位元素から放射される放射線やコロナ放電を利用した従来のイオン化装置に対し、次の利点を有する。すなわち、軟X線を利用してイオン化を行うことにより、放射性同位元素を利用する場合と比較して安全性が高く、管理者の設置や使用空間の限定等が必要なく扱いやすい。また、コロナ放電を利用する場合と比較して、装置の汚染、試料の分解、及びイオン化室内の電界への影響などを好適に抑制でき、試料分子を効率よくイオン化できる。
【0059】
また、コロナ放電を利用する方式では、放電用電極の電圧が極めて高いので、それによる電界がイオン化反応空間内に形成されてしまい、イオンの挙動がその電界に影響され、イオンの流れを制御することが難しい。なお、この電界による影響を防ぐため、ある程度隔離された別の空間においてコロナ放電によりベースガスイオンを生成し、このベースガスイオンをイオン化室へ送り込む方法もある。しかし、この場合、イオン化室においてベースガスイオンを速やかに拡散させなければ、イオン化室内で均一に且つ速やかに試料分子をイオン化することは難しく、イオン化効率も低下してしまう。
【0060】
これに対し、軟X線を用いる本実施形態のイオン移動度計1によれば、イオン化室20に形成される電界(イオンと電子とを分離するための電界)を低くでき、また、電界が形成されていなくとも動作できる。また、軟X線の放射範囲は広いので、広範囲にわたってベースガスを効率よく電離させることができる。従って、イオン化室20において速やかに均一な反応が可能となり、イオン化効率を向上できる。
【0061】
また、本実施形態のイオン移動度計1においては、軟X線管3が、軟X線の照射量を増減可能に構成されている。これにより、上記イオン移動度計測方法において説明したような軟X線強度の調整が可能となる。そして、本実施形態のイオン移動度計1及びイオン移動度計測方法によれば、軟X線の照射量を増減することにより、イオン化されるべき試料分子の量とベースガスイオンの生成量とのバランスを容易に調整できるので、図6(b)及び(c)に示したように、試料分子イオンに起因する出力信号波形G2を適切に取得し、試料分子イオンの移動度を精度よく計測することができる。
【0062】
また、本実施形態のように、ターゲット電極32bと電極5とは互いに短絡されていることが好ましい。これにより、正の試料分子イオンを生成する際に、ターゲット電極32bの電位を電極5と同じ正電位(例えば+3kV)に設定できるので、このターゲット電極32bの電位の分だけフィラメント31aの電位を高く(例えば、接地電位に対して−3kVないし−7kV)できる。これにより、一般的に高圧となる軟X線管3内の電位差を低く抑えることができ、軟X線管3と接する周辺部材との耐圧性能を向上できる。
【0063】
また、本実施形態のイオン移動度計1は保温容器8を備え、電子源31が保温容器8の外部に位置している。イオン移動度計においては、イオン化促進やクラスター化防止、或いは試料分子による汚染防止のため、イオン化室20及びドリフト室11の内部を加熱する場合がある。このような場合、本実施形態のように軟X線管3の電子源31を保温容器8の外部に配置することが好ましい。電子源31がフィラメントを含む場合には、フィラメントを保温容器8の外部に配置することで熱による消耗や断線を抑制でき、軟X線管3の寿命を長くできる。また、フィラメント以外の電子源を使用する場合においても、その動作に適した温度環境下に電子源を配置できる。
【0064】
また、本実施形態のように、イオン化装置2は、ベースガスを導入する導入口22aと、試料分子を導入する導入口22bとを有し、導入口22bが、導入口22aに対して排出口23寄りに設けられていることが好ましい。これにより、ベースガスを先にイオン化し、その下流で試料分子とベースガスイオンとを反応させることができるので、試料分子をより効率よくイオン化できる。
【0065】
(変形例)
次に、上記実施形態によるイオン移動度計1の様々な変形例について説明する。
【0066】
図7は、上記実施形態の第1変形例に係るイオン化装置2aの構成を示す断面図である。イオン化装置2aのシール機構6aは、上記実施形態のシール部材60(図2参照)に代えてシール部材64を有する。シール部材64は、軟X線管3の周囲に設けられイオン化室20を気密に保つための部材である。本変形例のシール部材64は、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含んで構成されており、軟X線管3の真空容器30に巻きつけられている。そして、シール部材64は、支持部材61と環状部材63とによって両側から締め付けられることにより、真空容器30に押し付けられる。これにより、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止される。
【0067】
図8は、上記実施形態の第2変形例に係るイオン化装置2bの構成の要部を示す断面図である。イオン化装置2bは、上記実施形態のシール機構6(図2参照)に代えてシール機構6bを備える。シール機構6bは、シール部材65を有する。本変形例のシール部材65は、図7に示したシール部材64と同様、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含んで構成されている。シール部材65は、軟X線管3の真空容器30と絶縁材の軟X線管挿入口24との隙間に配置されている。
【0068】
また、シール機構6bは、本体部21に固定され、軟X線管挿入口24と連通する筒状の部材66と、部材66に内側から螺合してX軸方向に移動可能な筒状の移動部材67と、シール部材65と部材67との間に配置された絶縁材のスペーサ68とを有する。シール部材65は、真空容器30のフランジ部分とスペーサ68とに挟まれており、スペーサ68によって締め付けられ、真空容器30に押し付けられる。これにより、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止される。
【0069】
図9は、上記実施形態の第3変形例に係るイオン化装置2cの構成の要部を示す断面図である。イオン化装置2cは、上記実施形態のシール機構6(図2参照)に代えてシール機構6cを備える。シール機構6cは、シール部材69を有する。本変形例のシール部材69は、金属または炭素系材料を含む環状の部材、例えばポリイミドのような耐熱性高分子の表面に導電体を形成したり、もしくは内部にカーボンやCNT等を混合した材料からなる環状の部材であり、軟X線管3のターゲット電極32bのフランジ部分とイオン化室20の壁部との間に配置されている。
【0070】
また、シール機構6cは、上記したシール機構6b(図8参照)と同様に、部材66、移動部材67、及びスペーサ68を有する。そして、スペーサ68によって真空容器30のフランジ部分が押さえ付けられることにより、シール部材69が潰され、軟X線管挿入口24と軟X線管3との隙間が封止されるとともに、ターゲット電極32bと電極5とがシール部材69を介して短絡される。
【0071】
第1、第2変形例(図7、図8)に示したように、シール部材は、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含んで構成されてもよい。或いは、第3変形例(図9)に示したように、シール部材は、金属または炭素系材料を含む部材であってもよい。これらのいずれかによって、例えば300℃前後といった高温環境下においても、シール部材からのガス放出を極めて少なくでき、シール部材の熱分解も生じないので、イオン化室20の気密状態を好適に維持できる。また、軟X線管3も容易に交換可能となる。
【0072】
図10は、上記実施形態の第4変形例に係るイオン化装置2dの構成を示す断面図である。イオン化装置2dが備える軟X線管3aは、上記実施形態の電子源31に代えて、電子源34を有する。電子源34は、真空容器30の長手方向の一端側(イオン化室20から離れた側)に配置されており、冷陰極34aと、電子を収束し加速するための図示しない電極とを含んで構成される。
【0073】
このように、電子源として冷陰極34aを用いることにより、電子源としてフィラメント31a(図2参照)を用いる場合と比較して電子源の温度上昇を低く抑えることができるので、イオン化室20内部の温度上昇を防ぎ、イオン化反応を安定して発生させることができる。また、イオン化室20に続くドリフト室11(図1参照)の温度上昇を抑え、計測精度を高めることができる。
【0074】
図11は、上記実施形態の第5変形例に係るイオン化装置2eの構成を示す断面図である。イオン化装置2eが備える軟X線管3bは、上記実施形態の軟X線管3の構成に加え、更に偏向部35を有する。偏向部35は、電子源31から出射された電子を走査するための走査用電極であり、軟X線出射軸線Aに沿って真空容器30の内部に設けられる。ターゲット部32へ向けて出射される電子を偏向部35が走査することにより、ターゲット部32において極めて短い時間幅の(時間的パルス状の)軟X線が生成される。従って、イオン化室20において時間的パルス状の試料分子イオンが容易に得られる。これにより、試料分子イオンを時間的パルス状に出射するためのゲートシャッタ(図1に示したゲート電極14など)が不要になり、イオン移動度計の構造を簡素化できる。なお、電子源31に加速電圧をパルス状に印加することによっても、パルス状の軟X線を得ることができる。
【0075】
図12は、上記実施形態の第6変形例に係るイオン化装置2fの構成を示す断面図である。この変形例に係るイオン化装置2fは、軟X線管3及び電極5の表面を除くイオン化室20の内面が全て絶縁性部材からなっている。具体的には、イオン化装置2fは、中間電極75〜77を備えている。本変形例の中間電極75〜77は、そのイオン化室20側の端部75a〜77aが、絶縁性部材からなる本体部21によって完全に覆われている。
【0076】
また、イオン化装置2fは、第1の電極として電極4aを備える。電極4aは、イオン化室20の排出口23に設けられており、試料分子イオンを通過させる開口45を有する。開口45の内面(端面)は、排出口23の中心軸線(イオン化室20の中心軸線A)を基準として排出口23の内面(所定の軸方向(X軸方向)に沿ったイオン化室20の内面)よりも外側に位置している。すなわち、所定の軸方向(X軸方向)から見て開口45は排出口23よりも広く形成されており、排出口23の縁が開口45の内側に位置するようにそれぞれ配置されている。また、電極4aは、メッシュ部を有していない。このため、電極4aは、排出口23を全く覆っていない。
【0077】
この変形例のように、中間電極75〜77の端部75a〜77aが絶縁性部材(本体部21)に覆われ、開口45の内面が排出口23の内面よりも外側に位置することにより、中間電極75〜77や電極4aには軟X線が殆ど照射されないので、二次電子の発生を効果的に抑制できる。このように、軟X線管3及び電極5の表面を除くイオン化室20の内面を全て絶縁性部材とすれば、イオン化室20において軟X線の照射により二次電子が放出されることを効果的に抑制できるので、正の試料分子イオンを発生させる場合に、試料分子イオンの中性分子化(中和)を低減し、イオン密度を更に高めることができる。
【0078】
なお、電極4aの開口45は、その内面(端面)が排出口23の内面と連続していてもよい。具体的には、所定の軸方向(X軸方向)から見て開口45が排出口23と同じ形状に形成されており、互いの縁が重なるようにそれぞれ配置されていてもよい。このような構成によっても、二次電子の放出を効果的に抑制できる。
【0079】
本発明によるイオン移動度計及びイオン移動度計測方法は、上記した各実施形態及び変形例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態において、軟X線管3の軟X線出射軸方向はイオン化室20の所定の軸方向と一致しているが、図13のように軟X線源の軟X線出射軸方向はイオン化室の所定の軸方向に対して交差してもよい。また、軟X線出射軸方向がイオン化室20の所定の軸方向と交差した軟X線源と、軟X線出射軸方向がイオン化室の所定の軸方向に対して一致する軟X線源の両者を備えていてもよい。また、導入口22a,22bの中心軸方向についても同様に、所定の軸方向と交差する形態に限られるものではなく、所定の軸方向と一致してもよい。
【0080】
また、上記実施形態において、ベースガス及び試料分子はそれぞれ別の導入口22a,22bから導入されているが、ベースガス及び試料分子は図13のように一つの導入口から共に導入されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態として、イオン移動度計の構成を示す断面図である。
【図2】イオン移動度計が備えるイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図3】軟X線の照射量を増減可能とする構成の例を示す図である。
【図4】軟X線の照射量を増減可能とする構成の他の例を示す図である。
【図5】イオン移動度計測方法に関するフローチャートである。
【図6】(a)〜(c)ベースガスイオン及び試料分子イオンに基づく各信号波形の典型例を示すグラフである。
【図7】第1変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図8】第2変形例に係るイオン化装置の構成の要部を示す断面図である。
【図9】第3変形例に係るイオン化装置の構成の要部を示す断面図である。
【図10】第4変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図11】第5変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図12】第6変形例に係るイオン化装置の構成を示す断面図である。
【図13】本発明の他の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1…イオン移動度計、2,2a〜2f…イオン化装置、3,3a,3b…軟X線管、4,5…電極、6,6a〜6c…シール機構、8…保温容器、9…断熱部材、10…ドリフト管、11…ドリフト室、12…電極、13…電気絶縁体、14…ゲート電極、15…基板、16…集電極、17…ドリフトガス導入管、18…ブリーダ回路基板、20…イオン化室、21…本体部、22a,22b…導入口、23…排出口、30…真空容器、31,34…電子源、32…ターゲット部、35…偏向部、60…シール部材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料分子をイオン化するイオン化装置と、
イオン化された前記試料分子の移動度を計測するドリフト室と
を備え、
前記イオン化装置が、
ベースガスをイオン化するとともに該ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を促すイオン化室、前記ベースガス及び前記試料分子を前記イオン化室内に導入する一または複数の導入口、及び、イオン化された前記試料分子を前記ドリフト室へ排出する排出口を有する本体部と、
電子源、及び該電子源からの電子線を受けて軟X線を発生するターゲット部を含み、前記イオン化室内へ前記軟X線を照射する軟X線源と
を有し、
前記軟X線源が、前記軟X線の照射量を増減可能に構成されていることを特徴とする、イオン移動度計。
【請求項2】
前記軟X線源において、前記電子源から出射される電子線量が可変であることを特徴とする、請求項1に記載のイオン移動度計。
【請求項3】
前記軟X線源において、前記電子源から前記ターゲット部への電子線の加速電圧が可変であることを特徴とする、請求項1または2に記載のイオン移動度計。
【請求項4】
前記イオン化装置が、
イオン化された前記試料分子を通過させる開口を有し、前記排出口に設けられた第1の電極と、
前記試料分子イオンを排出するための電界を前記第1の電極との間に形成する第2の電極と
を有し、
前記ターゲット部に設けられた電極と前記第2の電極とが互いに短絡されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項5】
前記イオン化装置が、
イオン化された前記試料分子を通過させる開口を有し、前記排出口に設けられた第1の電極と、
前記試料分子イオンを排出するための電界を前記第1の電極との間に形成する第2の電極と、
前記ターゲット部に設けられた電極及び前記第2の電極の電位を制御する制御部と
を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項6】
前記制御部は、前記ターゲット部に設けられた電極と前記第2の電極とを同電位に制御することを特徴とする、請求項5に記載のイオン移動度計。
【請求項7】
前記軟X線源及び前記第2の電極それぞれの表面を除く前記イオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項8】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に中間電極を更に備え、
前記中間電極の前記イオン化室側の端部が前記絶縁性部材に覆われていることを特徴とする、請求項7に記載のイオン移動度計。
【請求項9】
前記第1の電極の前記開口の内面が、前記イオン化室の前記排出口の内面と連続しているか、或いは、前記排出口の中心軸を基準として前記排出口の内面よりも外側に位置していることを特徴とする、請求項7または8に記載のイオン移動度計。
【請求項10】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に中間電極を更に備え、前記軟X線源、前記第2の電極、及び前記イオン化室の内面から突出している前記中間電極の前記イオン化室側の端部のそれぞれの表面を除く前記イオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項11】
前記イオン化室を気密に保つシール部材を更に備え、
前記シール部材が、前記軟X線源の周囲に設けられ、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項12】
前記イオン化室を気密に保つシール部材を更に備え、
前記シール部材が、前記X線源と前記イオン化室との間に設けられた金属または炭素系材料を含む環状部材であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項13】
前記本体部を収容して高温に保持する保温容器を更に備え、
前記電子源が前記保温容器の外部に位置することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項14】
前記電子源が冷陰極を含むことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項15】
前記軟X線源が、前記電子源から出射された前記電子線を偏向させる偏向部を更に含むことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項16】
前記本体部が、前記ベースガスを前記イオン化室内に導入する第1の導入口、及び前記試料分子を前記イオン化室内に導入する第2の導入口を有し、
前記第2の導入口が、前記第1の導入口に対して前記排出口寄りに設けられていることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項17】
イオン化室内に試料分子及びベースガスを導入し、前記ベースガスに軟X線を照射してベースガスイオンを生成し、前記ベースガスイオンと前記試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンを生成し、前記試料分子イオンの移動度を計測する方法において、
前記軟X線の強度を調整することにより、前記イオン化室内における前記ベースガスイオンの生成量を前記試料分子イオンの生成量に近づけることを特徴とする、イオン移動度計測方法。
【請求項1】
試料分子をイオン化するイオン化装置と、
イオン化された前記試料分子の移動度を計測するドリフト室と
を備え、
前記イオン化装置が、
ベースガスをイオン化するとともに該ベースガスイオンと試料分子とのイオン分子反応を促すイオン化室、前記ベースガス及び前記試料分子を前記イオン化室内に導入する一または複数の導入口、及び、イオン化された前記試料分子を前記ドリフト室へ排出する排出口を有する本体部と、
電子源、及び該電子源からの電子線を受けて軟X線を発生するターゲット部を含み、前記イオン化室内へ前記軟X線を照射する軟X線源と
を有し、
前記軟X線源が、前記軟X線の照射量を増減可能に構成されていることを特徴とする、イオン移動度計。
【請求項2】
前記軟X線源において、前記電子源から出射される電子線量が可変であることを特徴とする、請求項1に記載のイオン移動度計。
【請求項3】
前記軟X線源において、前記電子源から前記ターゲット部への電子線の加速電圧が可変であることを特徴とする、請求項1または2に記載のイオン移動度計。
【請求項4】
前記イオン化装置が、
イオン化された前記試料分子を通過させる開口を有し、前記排出口に設けられた第1の電極と、
前記試料分子イオンを排出するための電界を前記第1の電極との間に形成する第2の電極と
を有し、
前記ターゲット部に設けられた電極と前記第2の電極とが互いに短絡されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項5】
前記イオン化装置が、
イオン化された前記試料分子を通過させる開口を有し、前記排出口に設けられた第1の電極と、
前記試料分子イオンを排出するための電界を前記第1の電極との間に形成する第2の電極と、
前記ターゲット部に設けられた電極及び前記第2の電極の電位を制御する制御部と
を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項6】
前記制御部は、前記ターゲット部に設けられた電極と前記第2の電極とを同電位に制御することを特徴とする、請求項5に記載のイオン移動度計。
【請求項7】
前記軟X線源及び前記第2の電極それぞれの表面を除く前記イオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項8】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に中間電極を更に備え、
前記中間電極の前記イオン化室側の端部が前記絶縁性部材に覆われていることを特徴とする、請求項7に記載のイオン移動度計。
【請求項9】
前記第1の電極の前記開口の内面が、前記イオン化室の前記排出口の内面と連続しているか、或いは、前記排出口の中心軸を基準として前記排出口の内面よりも外側に位置していることを特徴とする、請求項7または8に記載のイオン移動度計。
【請求項10】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に中間電極を更に備え、前記軟X線源、前記第2の電極、及び前記イオン化室の内面から突出している前記中間電極の前記イオン化室側の端部のそれぞれの表面を除く前記イオン化室の内面が絶縁性部材からなることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載のイオン化装置。
【請求項11】
前記イオン化室を気密に保つシール部材を更に備え、
前記シール部材が、前記軟X線源の周囲に設けられ、ガラス繊維及びセラミック繊維のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項12】
前記イオン化室を気密に保つシール部材を更に備え、
前記シール部材が、前記X線源と前記イオン化室との間に設けられた金属または炭素系材料を含む環状部材であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項13】
前記本体部を収容して高温に保持する保温容器を更に備え、
前記電子源が前記保温容器の外部に位置することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項14】
前記電子源が冷陰極を含むことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項15】
前記軟X線源が、前記電子源から出射された前記電子線を偏向させる偏向部を更に含むことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項16】
前記本体部が、前記ベースガスを前記イオン化室内に導入する第1の導入口、及び前記試料分子を前記イオン化室内に導入する第2の導入口を有し、
前記第2の導入口が、前記第1の導入口に対して前記排出口寄りに設けられていることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載のイオン移動度計。
【請求項17】
イオン化室内に試料分子及びベースガスを導入し、前記ベースガスに軟X線を照射してベースガスイオンを生成し、前記ベースガスイオンと前記試料分子とのイオン分子反応により試料分子イオンを生成し、前記試料分子イオンの移動度を計測する方法において、
前記軟X線の強度を調整することにより、前記イオン化室内における前記ベースガスイオンの生成量を前記試料分子イオンの生成量に近づけることを特徴とする、イオン移動度計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−77980(P2008−77980A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256181(P2006−256181)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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